特許第6366051号(P6366051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366051
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ヒドラジン合成方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/04 20060101AFI20180723BHJP
   C12N 9/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C12P1/04 ZZNA
   C12N9/00
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-237127(P2013-237127)
(22)【出願日】2013年11月15日
(65)【公開番号】特開2014-207879(P2014-207879A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2016年11月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-60782(P2013-60782)
(32)【優先日】2013年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年9月11日〜13日 パシフィコ横浜で開催された日本生化学会主催の「第86回日本生化学会大会」においてポスターをもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年9月11日〜13日 パシフィコ横浜で開催された日本生化学会主催の「第86回日本生化学会大会」においてポスターをもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年9月11日〜13日 パシフィコ横浜で開催された日本生化学会主催の「第86回日本生化学会大会」において9月12日に行ったシンポジウムにて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】594158150
【氏名又は名称】学校法人君が淵学園
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(73)【特許権者】
【識別番号】513071090
【氏名又は名称】藤井 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(73)【特許権者】
【識別番号】513071104
【氏名又は名称】平 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】平 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大久保 寛幹
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/025792(WO,A1)
【文献】 FEMS Microbiol. Lett. (2010) Vol.313, pp.61-67
【文献】 Appl. Environ. Microbiol. (2007) Vol.73, No.4, pp.1065-1072
【文献】 FEMS Microbiol. Rev. (2013) Vol.37, pp.428-461 (Published online 21 January 2013)
【文献】 Nature (2011) Vol.479, pp.127-130
【文献】 藤井隆夫ら,「anammox菌の生成するヒドラジン合成酵素」,日本生物工学会大会要旨集,2011年,1Ep15
【文献】 J. Biosci. Bioeng. (2008) Vol.105, No.3, pp.243-248
【文献】 Environ. Microbiol. (2013) Vol.15, No.5, pp.1275-1289
【文献】 Appl. Environ. Microbiol. (2012) Vol.78, pp.752-758
【文献】 Nature (2006) Vol.440, pp.790-794
【文献】 FEBS Lett. (2012) Vol.586, pp.1658-1663
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00
C12N 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された酵素触媒を用いて、アンモニウム塩からなる基質(A)と、ヒドロキシルアミン、硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも一つの基質(B)とからヒドラジンを合成し回収するヒドラジン合成方法であって、
酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質が、下記(イ)または(ロ)の少なくとも一つのタンパク質であり、
当該酵素触媒が、下記タンパク質(1a)、タンパク質(1b)およびタンパク質(1c)のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I)と、
下記タンパク質(2a)およびタンパク質(2b)とのヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II)を用いることを特徴とするヒドラジン合成方法。
(イ)タンパク質(1a)は配列番号1、タンパク質(1b)は配列番号2、タンパク質(1c)は配列番号3、タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ロ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(I)、(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク
【請求項2】
前記酵素触媒が、上記(イ)または(ロ)の少なくとも一つの酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質をコードする遺伝子から発現したタンパク質によってなる組み換えヒドラジン合成酵素(I)と組み換えヒドラジン合成酵素(II)である請求項1記載のヒドラジン合成方法。
【請求項3】
酵素触媒を用いて、アンモニウム塩からなる基質(A)と、ヒドロキシルアミン、硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも一つの基質である基質(B)とからヒドラジンを合成し回収するヒドラジン合成方法であって、
当該酵素触媒として、Anammox菌由来のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I´)と、
Anammox菌由来のヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II´)とを用いるものであり、
前記酵素(I´)および、前記酵素(II´)が、前記Anammox菌の細胞を破砕後、遠心分離し、その上澄みを塩析後、遠心分離し、得られる上澄みを疎水カラムクロマトグラフィーにより精製したものであり、
前記酵素(I´)および(II´)が、前記疎水カラムクロマトグラフィーにより精製したとき、波長280nmにおける吸光度と、波長408nmにおける吸光度とをモニタリングすることで確認されるヘムタンパク質の、第一のピークの画分と、第二のピークの画分とから得られる酵素であり、
前記酵素(I´)をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子質量が、91.5〜96.5kDa、40.5〜45.5kDa、34.5〜39.5kDaであり、前記酵素(II´)をトリシン−ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子質量が、11〜17kDa、8〜14kDaであり、
酵素(I´)が、還元型としたとき、c型ヘムタンパク質に特徴的なα帯、β帯およびソーレ帯に吸光極大を有し、かつ、
酵素(II´)が、吸光スペクトルにおける波長419nmのピークがジチオナイトの添加前後にみられる難還元性であることを特徴とするヒドラジン合成方法。
【請求項4】
緩衝液として、pH7.0〜8.0の、トリス塩酸緩衝液リン酸緩衝液、またはMOPS緩衝液を用いてヒドラジンの合成を行う請求項1〜のいずれか1項に記載のヒドラジン合成方法。
【請求項5】
前記基質(B)が、ヒドロキシルアミンである請求項1〜のいずれか1項に記載のヒドラジン合成方法。
【請求項6】
前記ヒドラジン合成方法が、還元剤存在下にて行われることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のヒドラジン合成方法。
【請求項7】
酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質が、下記(イ)または(ロ)の少なくとも一つのタンパク質であり、
当該酵素触媒が、下記タンパク質(1a)、タンパク質(1b)およびタンパク質(1c)のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I)と、
下記タンパク質(2a)およびタンパク質(2b)とのヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II)とである酵素触媒を含有するヒドラジン合成用酵素組成物。
(イ)タンパク質(1a)は配列番号1、タンパク質(1b)は配列番号2、タンパク質(1c)は配列番号3、タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ロ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(I)、(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質
【請求項8】
酵素触媒として、Anammox菌由来のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I´)と、
Anammox菌由来のヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II´)とを含有し、
前記酵素(I´)をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子質量が、91.5〜96.5kDa、40.5〜45.5kDa、34.5〜39.5kDaであり、前記酵素(II´)をトリシン−ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子質量が、11〜17kDa、8〜14kDaであり、
酵素(I´)が、還元型としたとき、c型ヘムタンパク質に特徴的なα帯、β帯およびソーレ帯に吸光極大を有し、かつ、
酵素(II´)が、吸光スペクトルにおける波長419nmのピークがジチオナイトの添加前後にみられる難還元性である酵素触媒を含有するヒドラジン合成用酵素組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素触媒を用いたヒドラジンの合成方法に関するものである。より詳しくは、当該酵素触媒としてはAnammox菌に由来し、酵素触媒反応によりヒドラジンを得ることができるヒドラジンの合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒドラジンは、ロケット燃料、燃料電池等に使用される有用な化学物質であり、従来から、アンモニアと次亜塩素酸ソーダを加熱し、高温下で化学合成することにより製造されているが、この方法は、エネルギーの多量投入を必要とし、より温和な条件でヒドラジンを合成する方法の開発が望まれていた。
【0003】
高温下での化学合成によらないヒドラジンの合成に関連する方法として、微生物や酵素触媒を用いる方法が考えられる。近年、嫌気性アンモニア酸化菌(Anammox菌)が、嫌気的な条件で、アンモニアを脱窒することが注目されている。一般的に、微生物等により有機窒素(Org−N)やアンモニアを、無機物である窒素に生体内で窒素循環する過程は、アンモニアを亜硝酸や硝酸に好気性の条件下で変換させる硝化反応と、その亜硝酸や硝酸を窒素ガスに嫌気性の条件下で変換させる脱窒反応のプロセスを経ていると考えられていた。この窒素循環は、好気性の条件と嫌気性の条件の場が必要なものであった。しかし、前述のAnammox菌は、嫌気性の条件下のみでもアンモニアを窒素に変換する嫌気性アンモニア酸化反応を行うことが知られている。この嫌気性アンモニア酸化反応においては、中間体としてヒドラジンが合成されていると考えられている(図1参照)。
【0004】
例えば、非特許文献1には、Anammox Kuenenia stuttgartiensis(Candidatus Kuenenia stuttgartiensis)の細胞に外部からアンモニウム塩と亜硝酸塩(安定同位体の15Nからなる15NO2-)、およびヒドラジン(2824)を加えたところ、2924の生成が認められたことが記載されている。すなわち、Anammox菌はその脱窒工程でヒドラジン合成を行っており、in vivoでアンモニウム塩と亜硝酸塩の窒素原子がカップリングし、ヒドラジンが合成されることが確認されている。そして、Anammox菌が有するタンパク質を解明し、特定の酵素にヒドラジン合成酵素(HZS)と命名されている。しかし、HZSの名称は上述の反応における推定機能から命名されたものであって、この酵素のみによってヒドラジン合成を触媒することができることは証明されていない。
【0005】
さらに、Anammox Kuenenia stuttgartiensisの前記HZSと電子受容体のCytochrome cを用いて、アンモニウム塩と一酸化窒素(NO)から中間体のヒドラジンを経由し、窒素ガスが生成されたことが記載されている。しかし、これらの研究において、中間体と推定されるヒドラジン自体の濃度上昇は確認されておらず、微生物や酵素を用いてヒドラジンを製造する方法は知られていなかった。
【0006】
非特許文献2には、Anammox菌から見出されたタンパク質NaxLSの配列等が特定されているが、その具体的な用途については記載されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Molecular mechanism of anaerobic ammonium oxidation, BoranKartal etal, Nature 479,127-130(2011)
【非特許文献2】A heterodimeric cytochrome c complex with a very low redoxpotential from ananaerobic ammonium-oxidizing enrichment culture, S.Ukita etal, FEMS Microbiol Lett313,61-67(2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のヒドラジンの合成方法は、高温による加熱等の処理を必要とする化学合成方法等によるものであった。一方、微生物によるヒドラジン合成の可能性について前記非特許文献1にみられるように研究されてきたが、ヒドラジンを効率よく合成していることが確認されているものはなかった。また、上記非特許文献1で中間体のヒドラジンから窒素ガスが生成されたとしても、窒素ガス生成から求まるヒドラジンの合成速度(HZSの分子活性)は非常に小さい値と推定されていた。かかる状況下、本発明は、特定の酵素触媒を用いて、ヒドラジンを合成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 酵素触媒を用いて、アンモニウム塩からなる基質(A)と、ヒドロキシルアミン、硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも一つの基質(B)とからヒドラジンを合成するヒドラジン合成方法であって、
酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質が、下記(イ)、(ロ)または(ハ)の少なくとも一つのタンパク質であり、
当該酵素触媒が、下記タンパク質(1a)、タンパク質(1b)およびタンパク質(1c)のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I)と、
下記タンパク質(2a)およびタンパク質(2b)とのヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II)を用いるヒドラジン合成方法。
(イ)タンパク質(1a)は配列番号1、タンパク質(1b)は配列番号2、タンパク質(1c)は配列番号3、タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ロ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(I)、(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質
(ハ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質の配列番号との同一性が55%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質
<2> 前記酵素触媒が、上記(イ)、(ロ)または(ハ)の少なくとも一つの酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質をコードする遺伝子から発現したタンパク質によってなる組み換えヒドラジン合成酵素(I)と組み換えヒドラジン合成酵素(II)である前記<1>記載のヒドラジン合成方法。
<3> 酵素触媒を用いて、アンモニウム塩からなる基質(A)と、ヒドロキシルアミン、硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも一つの基質である基質(B)とからヒドラジンを合成するヒドラジン合成方法であって、
当該酵素触媒として、Anammox菌由来のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I´)と、
Anammox菌由来のヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II´)とを用いるヒドラジン合成方法。
<4> 前記酵素(I´)をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子質量が、91.5〜96.5kDa、40.5〜45.5kDa、34.5〜39.5kDaであり、前記酵素(II´)をトリシン−ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子質量が、11〜17kDa、8〜14kDaである前記<3>記載のヒドラジン合成方法。
<5> 酵素(I´)、(II´)が、前記Anammox菌の細胞を破砕後、遠心分離し、その上澄みを塩析後、遠心分離し、得られる上澄みを疎水カラムクロマトグラフィーにより精製したものである前記<3>または<4>に記載のヒドラジン合成方法。
<6> 前記酵素(I´)および(II´)が、前記疎水カラムクロマトグラフィーにより精製したとき、波長280nmにおける吸光度と、波長408nmにおける吸光度とをモニタリングすることで確認されるヘムタンパク質の、第一のピーク周辺の画分と、第二のピーク周辺の画分とから得られる酵素である前記<5>記載のヒドラジン合成方法。
<7> 酵素(II´)が、難還元性であり、かつ、酵素(I´)が、還元型としたとき、c型ヘムタンパク質に特徴的なα帯、β帯およびソーレ帯に吸光極大を有するものである前記<3>〜<6>のいずれかに記載のヒドラジン合成方法。
<8> 緩衝液としてトリス塩酸緩衝液あるいはリン酸緩衝液あるいはMOPS緩衝液(pH7.0〜8.0)を用いてヒドラジンの合成を行う前記<1>〜<7>のいずれかに記載のヒドラジン合成方法。
<9> 前記基質(B)が、ヒドロキシルアミンである前記<1>〜<8>のいずれかに記載のヒドラジン合成方法。
<10> 前記ヒドラジン合成方法が、還元剤存在下にて行われることを特徴とする前記<1>〜<9>のいずれかに記載のヒドラジン合成方法。
<11> サブユニットのタンパク質が、下記(イ´)、(ロ´)または(ハ´)の少なくとも一つのタンパク質であり、下記タンパク質(2a)および下記タンパク質(2b)とのヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成用のヒドラジン合成酵素(II)。
(イ´)タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ロ´)上記(イ´)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質
(ハ´)上記(イ´)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質の配列番号との同一性が55%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質
<12> ヒドラジン合成用の酵素が、Anammox菌由来のヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II´)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の酵素を用いることで、高温の加熱等の処理を必要とせず、in vitroでヒドラジンを合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】自然界の生物地球科学的窒素循環の概要を示す図である。
図2】本発明のヒドラジン合成酵素(I´)、(II´)をゲル濾過クロマトグラフィーで分画するときの吸光度のモニタリング例である。
図3】本発明のヒドラジン合成酵素(I´)、(II´)をゲル濾過クロマトグラフィーで分画するときの吸光度のモニタリング例である。
図4】本発明のヒドラジン合成酵素(II´)(NaxLS)の立体構造模式図である。
図5】本発明のヒドラジン合成酵素(I´)およびその還元型のヘムタンパク質を含有する精製液の吸光スペクトルである。
図6】本発明のヒドラジン合成酵素(II´)およびその還元型のヘムタンパク質を含有する精製液の吸光スペクトルである。
図7】本発明のヒドラジン合成酵素(I´)をSDS-PAGEにより分子質量測定したときの測定結果例である。
図8】本発明のヒドラジン合成酵素(II´)をSDS-PAGEにより分子質量測定したときの測定結果例である。
図9】本発明のヒドラジン合成方法により、ヒドラジンが合成されていることを確認するためのTOF−MS試験を行ったときの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。尚、本発明において、「〜」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
【0014】
本発明は、酵素触媒を用いて、アンモニウム塩からなる基質(A)と、ヒドロキシルアミン、硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも一つの基質(B)とからヒドラジンを合成するヒドラジン合成方法であって、
酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質が、下記(イ)、(ロ)または(ハ)の少なくとも一つのタンパク質であり、
当該酵素触媒が、下記タンパク質(1a)、下記タンパク質(1b)および下記タンパク質(1c)のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I)と、
下記タンパク質(2a)および下記タンパク質(2b)とのヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II)を用いることを特徴とするヒドラジン合成方法;
(イ)タンパク質(1a)は配列番号1、タンパク質(1b)は配列番号2、タンパク質(1c)は配列番号3、タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質;(ロ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(I)、(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質;(ハ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質の配列番号との同一性が55%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質に係るものである。この合成方法により、ヒドラジンを酵素触媒作用で生合成することができる。
【0015】
また、本発明は、酵素触媒を用いて、アンモニウム塩からなる基質(A)と、ヒドロキシルアミン、硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも一つの基質(B)とからヒドラジンを合成するヒドラジン合成方法であって、当該酵素触媒として、Anammox菌由来のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I´)と、Anammox菌由来のヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II´)とを用いることを特徴とするヒドラジン合成方法に係るものである。
【0016】
すなわち、本発明は、基質(A)と基質(B)とからヒドラジンを合成する方法である。以下、各基質について説明する。基質(A)としては、アンモニウム塩を用いる。ここで、アンモニウム塩とは、アンモニアと酸との結合によって生じる塩であって、具体的には塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。本発明の合成方法は、一般的に水溶液中で行われるため、水溶液中でアンモニウムイオンとして解離しやすく、溶解したときにpHが極端に変化しにくいものが好ましく用いられる。また、水溶液中等で有機窒素が微生物等により分解されアンモニウムイオンとして存在しているアンモニウムイオンを基質として用いてもよく、アンモニウムイオンを含めて本発明の基質(A)であるアンモニウム塩と呼ぶ。
【0017】
本発明の基質(B)としては、ヒドロキシルアミン、硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも一つの基質を用いることができる。基質(B)として選択されるこれらの物質は、Anammox菌の生成する酵素によって硝酸イオンを還元することで生成される物質であって、特にAnammox菌が脱窒する工程に関連性が高い物質である。これらのなかでも、ヒドロキシルアミンを用いることで、本発明のヒドラジン合成酵素(I)または(I´)、およびヒドラジン合成酵素(II)または(II´)の酵素によって効率よくヒドラジンを合成することができるため好ましい。その他の、硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化窒素を用いる場合、他の化学的方法や酵素触媒作用等によって、ヒドロキシルアミンに転換する工程を設けることが好ましい。なお、このヒドロキシルアミンに転換する工程は、ヒドラジンを合成する反応と同一の場(一般的には水溶液中)で行っても良い。酵素触媒作用によってヒドロキシルアミンに転換する酵素としては、例えば、ヒドロキシルアミン酸化還元酵素(HAO)、亜硝酸還元酵素(NIR)等が挙げられる。
【0018】
前述したように、本発明においては、基質(B)として、ヒドロキシルアミンを用いることが好ましい。本発明者らは、ヒドロキシルアミンを用いることで、ヒドラジン合成酵素(I)または(I´)、およびヒドラジン合成酵素(II)または(II´)によって効率的に製造することができることを見出した。
【0019】
また、本発明においては、還元剤存在下にて、ヒドラジンの合成を行うことが好ましい。すなわち、本発明のヒドラジン合成反応を行う反応の場に還元剤を存在させた状態で行うことが好ましい。より具体的には、本発明は主に基質、酵素等を混合させた液中で行われるが、この液に還元剤を混合することで、還元剤存在下の状態とすることができる。この還元剤を反応の場に混合した状態でヒドラジン合成することで、より高い効率でヒドラジンを合成することができる。
【0020】
この還元剤としては、ヒドラジン合成を阻害するものでなければよく、公知の無機系、有機系いずれの還元剤も用いることができる。具体的な還元剤としては、亜ジチオン酸ナトリウム(ジチオナイト)や、チオグリコール酸又はその塩、グリセリンモノチオグリコレート、2−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトエチルアミン、チオ乳酸、チオグリセリン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム、ヒドロキノン、ベンジルビオロゲンまたはメチルビオロゲン等を用いることができ、いずれか単独、または適宜組み合わせて用いてもよい。還元剤は、ヒドラジン合成の場となる水溶液に分散するように水溶性のものを用いることが好ましい。また、比較的低い標準酸化還元電位を有する還元剤であることが好ましく、標準酸化還元電位が−300mV以下、−750mV以上の還元剤が特に好ましい。好ましく用いられる還元剤としては、有機系で水溶性であり、標準酸化還元電位が前述の範囲のものが好ましく、具体的にはジチオナイトが好ましい還元剤としてあげられる。還元剤の添加量は、その標準酸化還元電位や、ヒドラジン合成反応に用いる基質や酵素に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒドラジン合成の反応の場となる溶液中(使用時濃度)に、0.1〜100mmol/L程度とすることができる。還元剤の濃度が低い場合、ヒドラジン合成活性が向上しにくい場合がある。還元剤としてジチオナイトを用いる場合、その使用時濃度の下限は1mmol/L以上が好ましく、3mmol/L以上がより好ましい。またその使用時濃度の上限は50mmol/L以下が好ましく、15mmol/L以下がより好ましい。
【0021】
基質(B)は、前述のように、Anammox菌の生成する酵素によって亜硝酸イオンを還元することで生成される物質であって、特にAnammox菌が脱窒する工程に関連性が高い物質である。ここで、この基質(B)は、基質(A)であるアンモニウム塩と、本願発明のヒドラジン合成酵素との存在下でヒドラジンとなるものであるが、ヒドラジンの窒素原子の酸化数−2に対して、一酸化窒素の窒素原子の酸化数は+2であることから還元を補助することが有効に機能するものと考えられる。また、本発明において見出されたヒドラジン合成に用いられるタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II)および(II´)は、難還元性を有するが、前述した還元剤によって僅かに還元され、還元型の酵素(II)や(II´)がヒドラジン合成酵素(I)や(I´)の低い標準酸化還元電位を持つ補欠分子族のヘムに電子をわたす事ができ、(I)や(I´)がより有効に機能するものと考えられる。よって、酸化数がヒドラジンの窒素原子の酸化数に近いヒドロキシルアミンを基質として用いる場合でもヒドラジン合成効率が向上するものと考えられる。
【0022】
本発明の合成方法は、酵素触媒として、ヒドラジン合成酵素(I)または(I´)と、ヒドラジン合成酵素(II)または(II´)とを併せて用いることを特徴とする。
本発明に用いるヒドラジン合成酵素(I´)と、ヒドラジン合成酵素(II´)とはAnammox菌より得ることができ、ヒドラジン合成酵素(I´)はヘテロ3量体ヘムタンパク質の酵素であり、ヒドラジン合成酵素(II´)はヘテロ2量体ヘムタンパク質の酵素である。
一方、ヒドラジン合成酵素(I)とヒドラジン合成酵素(II)とは、Anammox菌より得られるものと同一の塩基配列、または一定の同一性等の要件を満たすように製造されたタンパク質から得ることができる酵素である。
【0023】
[ヒドラジン合成酵素(I)または(I´)(HZS)]
ヒドラジン合成酵素(I)または(I´)は、ヒドラジン合成酵素と推定される酵素(HZS)として知られていて、前述の非特許文献1等にも開示されていたものである。本発明においては、酵素触媒の一つとして、このヒドラジン合成酵素(I)または(I´)を用いることを特徴とする。
【0024】
[ヒドラジン合成酵素(II)または(II´)(NaxLS)]
ヒドラジン合成酵素(II)または(II´)は、Anammox菌のタンパク質として、前述の非特許文献2等にも開示されていたが、その機能、用途が不明だったものである。本発明においては、酵素触媒の一つとして、このヒドラジン合成酵素(II)または(II´)を用いることを特徴とする。
このヒドラジン合成酵素(II)または(II´)は、ヘテロ2量体ヘムタンパク質の酵素であって、各タンパク質のユニットは、NaxL、NaxSとして知られているものである。なお、ヘテロ2量体ヘムタンパク質全体をNaxLSと呼ぶ場合もある。
【0025】
本発明では、特に、ヒドラジン合成酵素(I)(または(I´))と、ヒドラジン合成酵素(II)(または(II´)とを組み合わせて、特定の基質を用いて酵素触媒反応をすることでヒドラジンが合成され、合成されたヒドラジンは単に中間体として存在するのみでなく、水溶液中でその濃度が上昇することから、生産方法として利用できる。
【0026】
ここで、本発明は、酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質が、下記(イ)、(ロ)または(ハ)の少なくとも一つのタンパク質であり、かつ、当該酵素触媒が、下記タンパク質(1a)、下記タンパク質(1b)および下記タンパク質(1c)のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I)と、下記タンパク質(2a)および下記タンパク質(2b)とのヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II)を用いることを特徴とするヒドラジン合成方法である。ここで、(イ)タンパク質(1a)は配列番号1、タンパク質(1b)は配列番号2、タンパク質(1c)は配列番号3、タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質;(ロ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(I)、(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質;(ハ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質の配列番号との同一性が55%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0027】
すなわち、例えば、タンパク質(1a)は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、または、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(I)、(II)の構成によってヒドロキシルアミンヒドラジン合成活性を有するタンパク質、または、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質に対して、同一性が55%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質の少なくともいずれか一つであり、(ロ)と(ハ)とを同時に満足することもできるし、(ハ)において同一性が100%のときはまさに(イ)も同時に満足するものである。タンパク質(1a)はこのように配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と、(ロ)、(ハ)のように配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と所定の関係を有するタンパク質を包括的に表現した概念であり、他の、タンパク質(1b)、(1c)、(2a)、(2b)もそれぞれ対応する配列番号からなるタンパク質および、それと所定の関係を有するタンパク質を包括する概念として、それぞれ表現されたものである。
【0028】
本発明の酵素触媒は、複数のサブユニットのタンパク質からなる。すなわち、ヒドラジン合成酵素(I)は3量体ヘムタンパク質であり、3つのサブユニットのタンパク質からなり、ヒドラジン合成酵素(II)は2量体ヘムタンパク質であり、2つのサブユニットのタンパク質からなる。
【0029】
本発明に用いるヒドラジン合成酵素(I)と、ヒドラジン合成酵素(II)とは、以下の要件(イ)を満足するサブユニットのタンパク質から構成される酵素とすることができる。すなわち、(イ)タンパク質(1a)は配列番号1、タンパク質(1b)は配列番号2、タンパク質(1c)は配列番号3、タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0030】
配列番号1で表されるタンパク質、配列番号2で表されるタンパク質および配列番号3で表されるタンパク質は、後述するAnammox bacterium strain KSU−1(以下、「Anammox KSU−1」と略記する。)由来のヒドラジン合成酵素(I´)からアミノ酸配列を特定したものである。配列番号4で表されるタンパク質、配列番号5で表されるタンパク質は、後述するAnammox KSU−1由来のヒドラジン合成酵素(II´)からアミノ酸配列を特定したものである。
【0031】
配列番号1、2、4、5で表されるアミノ酸配列のタンパク質は、それぞれc型ヘム結合モチーフを有しており、これらのアミノ酸配列のタンパク質にヘム結合してなるヒドラジン合成酵素(I)、(II)は、いずれも酵素として機能するときは、ヘムタンパク質からなる酵素である。
【0032】
さらに、本発明のヒドラジン合成酵素(I)、(II)は、「(ロ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(I)、(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質」または、「(ハ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質の配列番号との同一性が55%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質」のように、それぞれの3量体ヘムタンパク質や、2量体ヘムタンパク質としたときヒドラジン合成の酵素活性を有するものとしても達成することができる。前述のように、配列番号1、2、3、4、5とで表されるタンパク質はAnammox KSU−1株から特定したヒドラジン合成酵素の配列であるが、他のAnammox菌も、同様に各々のヒドラジン合成酵素を有しており、また、生体由来に限定されることなく同様のアミノ酸配列を有するタンパク質としても達成することができる。特に、欠失、置換もしくは付加される場合、本タンパク質のヘムとの結合性に影響を与える配列は同一であることが好ましく、その他の部分で欠失、置換、付加が許容される。より具体的には、公知の、他の菌株由来のヒドラジン合成酵素と推定されてきたタンパク質配列や、本発明により開示されるヒドラジン合成酵素(II)および(II´)に相当するタンパク質配列とを比較し、その共通性が低いところについては、欠失、置換、付加が許容される傾向がある。
【0033】
また、上記(ハ)において、配列番号1、2、3、4および5で表されるタンパク質との同一性(Identitiy)は、それぞれ対応する配列番号のタンパク質と55%以上であり、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。配列番号1〜5で表されるタンパク質は、前述したようにAnammox KSU−1から特定されたアミノ酸配列であり、他の菌株であるAnammox Kuenenia stuttgartiensisのタンパク質から特定されたアミノ酸配列との同一性が84〜59%(サブユニットにより異なる)である。また、これらのアミノ酸配列は、アミノ酸数として126〜810と比較的長く、これらとの同一性が30%以上であるタンパク質は、Anammox菌由来でヒドラジン合成酵素と推定されてきたタンパク質しか発見されていない特徴的なアミノ酸配列である。一般的に、この程度の配列長があるタンパク質の場合、同一性が40%以上であれば、同様の機能を奏することが期待される。なお、本発明においてアミノ酸配列の同一性を求めるアルゴリズムとしては、この分野で汎用されているアルゴリズムの一つであるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)を用いた。
【0034】
より具体的には、Anammox Kuenenia stuttgartiensis由来のタンパク質である配列番号6、7、8で表されるタンパク質と、配列番号1、2、3との同一性はそれぞれ、82%、84%、79%である。また、配列番号6、7、8で表されるタンパク質も、Anammox Kuenenia stuttgartiensis内で脱窒反応における中間体のヒドラジンを合成するヒドラジン合成酵素であり、本発明のヘテロ3量体ヘムタンパク質の酵素として、ヒドラジン合成酵素(I)として使用することができる。
【0035】
また、Anammox Kuenenia stuttgartiensis由来のタンパク質として、配列番号9、10が挙げられ、これらのタンパク質と、配列番号4、5との同一性はそれぞれ、75%、59%である。また、配列番号9、10で表されるタンパク質も、ヘテロ2量体ヘムタンパク質の酵素として、ヒドラジン合成酵素(II)として使用することができる。
【0036】
また、酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質は、下記(イ)、(ロ)または(ハ)の少なくとも一つの条件を満たせばよいが、(ロ)の要件と(ハ)の要件を同時に満たし、上記(イ)において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつそれぞれのタンパク質の配列番号との同一性が55%以上であるアミノ酸配列からなるヒドラジン合成酵素(I)、(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質とするものであることが好ましい。
【0037】
ヒドラジン合成酵素(I)、(II)に示すタンパク質の製造方法について特に制限はなく、生体由来のもの、遺伝子組み換え法によりE.Coli等の微生物に産生させたもののいずれも使用できる。
【0038】
上記ヒドラジン合成酵素(I)の上記(イ)、(ロ)または(ハ)のタンパク質(1a)、(1b)、(1c)、(2a)、(2b)をコードする遺伝子から発現したタンパク質によってなる組み換えヒドラジン合成酵素(I)とヒドラジン合成酵素(II)とを用いることができる。各タンパク質をコードする遺伝子の例として、配列番号11〜15があげられる。この配列番号11〜15、前述のAnammox KSU−1株から抽出したヒドラジン合成酵素の合成に関する遺伝子として特定されたものである。配列番号11〜15で示すDNAの塩基配列は、それぞれコードする遺伝子のcomplementの配列である。配列番号11がタンパク質(1a)の一つである配列番号1に、配列番号12がタンパク質(1b)の一つである配列番号2に、配列番号13がタンパク質(1c)の一つである配列番号3に、配列番号14がタンパク質(2a)の一つである配列番号4に、配列番号15がタンパク質(2b)の一つである配列番号5に対応する。
【0039】
なお、本発明の配列番号1〜5および11〜15で表される、Anammox KSU−1株のアミノ酸および遺伝子の配列は、核酸データベースにBAFH01000004の番号で、登録されている。配列番号1および11は「GAB63748 KSU1D_439 (ZP 10100867)」、配列番号2および12は「GAB63749 KSU1d_440 (ZP 10100868)」、配列番号3および13は「GAB63750 KSU1D_441 (ZP 10100869)」、配列番号4および14は、「GAB63547 KSU1d_238 (ZP 10100666)」、そして配列番号5および15は「GAB63548 KSU1d_239 (ZP 10100667)」として登録されている。
【0040】
また、本発明は、酵素触媒として、Anammox菌由来のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I´)と、Anammox菌由来のヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II´)とを用いる態様でも達成することができる。
【0041】
本発明のヒドラジン合成酵素(I´)および(II´)は、Anammox菌から得ることができるAnammox菌由来の酵素である。ここでAnammox菌とは、嫌気性アンモニア酸化反応(anaerobc ammonium oxidation)を行う菌の総称である。Anammox菌は単離培養されておらず、一般的には集積培養したAnammox汚泥を不織布に付着させて、連続培養したものから、Anammox菌が優先的に培養されているAnammox菌優先汚泥として得ることができる。Anammox菌としては、例えば、Candidatus Kuenenia stuttgartiensis(本明細書中では、通称である「Anammox Kuenenia stuttgartiensis」と記載することがある。)、Candidatus Jettenia asiatica、Candidatus Anammoxoglobus propionicus、Candidatus Brocadia anammoxidansが挙げられる。
【0042】
また、海水中に存在するAnammox菌として、Candidatus Scalindua brodae、Candidatus Scalindua sorokinii、Candidatus Scalindua wagneriが挙げられる。
【0043】
さらに、本発明者らが有するAnammox菌の株であるAnammox bacterium strain KSU−1(「Anammox KSU−1」と略記することがある。)、Anammox bacterium strain BRW−1(「Anammox Asahi BRW−1」と略記することがある。)等が挙げられる。
【0044】
これらの中でも、Candidatus Kuenenia stuttgartiensis、Candidatus Jettenia asiatica、Candidatus Anammoxoglobus propionicus、Candidatus Brocadia anammoxidans、Anammox bacterium strain KSU−1、Anammox bacterium strain BRW−1由来のヒドラジン合成酵素は、海水中に存在するCandidatus Scalindua brodae、等と異なり、塩化ナトリウム濃度が低い水溶液中で反応しやすいヒドラジン合成酵素を有していると考えられるため好ましく用いられる。より好ましくは、Anammox KSU−1、Anammox Asahi BRW−1由来のヒドラジン合成酵素を用いることができる。なお、Anammox KSU−1、Anammox Asahi BRW−1は、後述するように学校法人君ヶ淵学園崇城大学生物生命学部内にて馴養されており入手することができる。
また、これらの単独の菌由来の酵素として用いても良いし、組み合わせて用いてもよい。ヒドラジン合成酵素(I´)とヒドラジン合成酵素(II´)とは、それぞれの酵素同士の補完関係が高くなるため、同一の菌由来の酵素を用いた方がよい。
【0045】
本発明のヒドラジン合成酵素は、Anammox菌由来のタンパク質であって、ヒドラジン合成活性を有する。
【0046】
本発明のヒドラジン合成酵素(I´)はc型ヘム結合モチーフが存在し、c型ヘムタンパク質である。また、ヒドラジン合成酵素(II´)にもc型ヘム結合モチーフが存在し、c型ヘムタンパク質である。
【0047】
酵素(I´)をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(「SDS−PAGE」)により測定した分子質量は、91.5〜96.5kDa(代表値は94kDa)のタンパク質と、40.5〜45.5kDa(代表値は43kDa)のタンパク質と、34.5〜39.5kDa(代表値は37kDa)のタンパク質のヘテロ3量体である。酵素(II´)のトリシン−ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(Tricine SDS−PAGE)により測定した分子質量は、11〜17kDa(代表値は14kDa)のタンパク質と、8〜14kDa(代表値は11kDa)のタンパク質のヘテロ2量体である。酵素(I´)の分子質量の測定は、当業者が通常行うSDS−PAGEにより測定することができる。一方、見かけの分子質量が小さい酵素(II´)の分子質量の測定は、当業者が通常行う、陰極側電極液にトリシンを用いるトリシン SDS−PAGE(Tricine SDS−PAGE)により行うことができる。酵素(I´)、(II´)の各タンパク質の分子質量は、酵素の由来となるAnammox菌の種や属、株、またタンパク質のアミノ酸配列等によって幅があるが、概ね、上記範囲のヘテロ3量体またはヘテロ2量体として、各々の分子質量が求まる。なお、酵素(II´)のサブユニットを構成するタンパク質の分子質量は、Tricine SDS−PAGEにより測定したとき、分子量マーカーとの位置関係で値が変わることがあるが、それぞれサブユニットのタンパク質の分子質量差は、約3kDaであり、ヘテロ2量体として確認することができる。
【0048】
また、本発明のヒドラジン合成酵素を構成する各タンパク質の分子質量を、それぞれの遺伝子配列からわかる、アミノ酸配列から求めた値を表1に示す。このように、酵素の由来となる種や属、株によって分子質量は変化するし、また、アミノ酸の欠失、置換、付加さらには、同一性の程度によっても変化する。なお、前述のように、本発明のヒドラジン合成酵素を構成するタンパク質は、ヘムタンパク質のため、アミノ酸配列から求められる分子質量に、ヘムの分子質量を追加したものがそのヘムタンパク質としての分子質量となる。本発明において、このアミノ酸配列からなる分子質量は、好ましくは、酵素(I)および酵素(I´)を構成するタンパク質のサブユニットは、ヘムの分子質量を併せて、89.6〜93.6kDa、37.5〜41.5kDa、39.2〜43.2kDaであり、酵素(II)および酵素(II´)を構成するタンパク質のサブユニットは14.8〜16.8kDa、13.3〜15.3kDaである。
【0049】
【表1】
※表1において、Candidatus Kuenenia stuttgartiensisを“Kuenenia”と略記する。
【0050】
本発明のヒドラジン合成酵素(I´)、(II´)はAnammox菌から得ることができるタンパク質であるが、後述するような精製方法で得るとき、精製過程に疎水カラムクロマトグラフィーを用いた場合、いずれの画分に含まれるタンパク質であるかを確認することが重要となる。図2に示すように、それぞれの画分中にタンパク質が含まれるかを確認する方法としては、前記酵素(I´)および(II´)が、前記疎水カラムクロマトグラフィーにより精製したとき、波長280nmにおける吸光度と、波長408nmをモニタリングすることで確認されるヘムタンパク質の、第一のピーク周辺の画分と、第二のピーク周辺の画分とから得られる酵素であることで確認する方法がある。タンパク質を含むことを確認するときによく用いられる波長280nmにおける吸光度(Abs280)と、本発明の酵素(I´)、(II´)とがヘムタンパク質であることからヘムの有無を観察することに適した波長408nmにおける吸光度(Abs408)をモニタリングすることで確認するものである。このとき、後述するような疎水カラムクロマトグラフィーを用いて精製するときは、Abs280とAbs408が併せて高くなり始める変異点付近の第一のピーク周辺の画分(図2中、iiで示す)に酵素(II´)は多く含まれ、Abs280とAbs408とが併せて特徴的なピークを示す第二ピーク付近の画分(図2中、iで示す)に酵素(I´)は多く含まれる。よって、Anammox菌由来のタンパク質を、疎水カラムクロマトグラフィーを用いて精製するときは、Abs280とAbs408が高くなり始める変異点(または図3中、iiに示すように明確なピークと観察される)付近を第一のピーク、第一のピークの次にAbs280とAbs408とがともに特徴的なピークを示す付近を第二のピークとして、酵素(II´)、酵素(I´)を得ることができる。
【0051】
本発明のヒドラジン合成酵素(II´)は、難還元性のヘムタンパク質であることを確認することができる。ヒドラジン合成酵素(II´)が難還元性であることを確認する方法としては、ヒドラジン合成酵素(II´)の精製液中にジチオナイトを添加したときの吸光スペクトルから確認することができ、具体的には酸化型のヒドラジン合成酵素(II´)の精製液の吸光スペクトルを観察したとき波長約419nmにみられる特徴的なピークがジチオナイト添加後もほとんど変化しないことから確認する方法がある(図6のスペクトル参照)。これは、前述の非特許文献2においても記載されており、ヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II´)(非特許文献においてはNaxLS)のそれぞれのサブユニットであるタンパク質のヘムがタンパク質内でヒスチジンとシステイン側鎖によって6配位した立体構造を有していることと併せて詳述されている(図4参照)。
【0052】
本発明のヒドラジン合成酵素(I´)は、還元型でα帯、β帯およびソーレ帯に吸光極大を有する(ピークが現れる)ことを確認することができる。すなわち、図5に示すスペクトル図のように、酸化型の酵素(I´)は408nmにあったピークが、ジチオナイトにより還元した還元型では419nmにピークがシフトし、さらに波長523nm付近(α帯)および波長553nm(β帯)にピークが現れることから確認することができる。
【0053】
[酵素を得る方法]
生体由来の方法で、本発明のヒドラジン合成酵素(I´)、(II´)を得る場合、嫌気性アンモニア酸化菌(Anammox菌)より得ることができる。例えば、嫌気性アンモニア酸化菌を培養(馴養)した汚泥を原料とし、細胞膜を破壊、遠心分離、塩析処理、液体クロマトグラフィーによる分画等の処理を行うことで精製された嫌気性アンモニア酸化菌のタンパク質からヒドラジン合成酵素(I´)およびヒドラジン合成酵素(II´)をそれぞれ得ることができる。
【0054】
本発明のヒドラジン合成酵素を精製する具体的な方法を以下に詳述する。
Anammox菌を含む汚泥(以下、「Anammox汚泥」と略記する。)の馴養は、集積培養したAnammox汚泥を不織布等に付着させて連続培養する等の方法で馴養されている。具体的には、亜硝酸とアンモニアを主成分とする脱気した無機培地を連続的に供給するリアクター内で選択的に培養することができる。例えば、Anammox KSU−1株の場合、馴養が進むとリアクター内が赤色になる。Anammox菌は、前述のように、単独で培養することができていない菌だが、このような方法で馴養することでAnammox菌優占の汚泥を得ることができる。
【0055】
Anammox汚泥内のAnammox菌の細胞の破壊は、例えば、超音波処理や乳鉢によりすりつぶすことで行うことができる。具体的には、Anammox汚泥に無細胞抽出液調製用緩衝液を加え、超音波処理し汚泥をほぼ均一なペースト状とし、その後、乳鉢ですりつぶし、さらに超音波処理することで、細胞を破壊したものとすることができる。
【0056】
細胞を破壊した後、遠心分離することで、Anammox菌由来のタンパク質を含む細胞抽出液の上澄み(無細胞抽出液)とすることで、本発明に用いるタンパク質と細胞残渣等とをより効率的に分離することができる。
【0057】
さらに、上記無細胞抽出液を、硫酸アンモニウム等で塩析処理し、撹拌後、遠心分離することで、不純物を沈殿させることで除去し、さらに、目的とするヒドラジン合成酵素(I´)やヒドラジン合成酵素(II´)といったタンパク質の濃度が高い上澄み(高タンパク質抽出液)を得ることができる。
【0058】
この高タンパク質抽出液を、疎水カラムクロマトグラフィー等により分画することで、精製されたヒドラジン合成酵素(I´)やヒドラジン合成酵素(II´)をそれぞれ得ることができる。それぞれのタンパク質が含まれる画分かを確認するためには、ヘムの吸光度(Abs408)と、タンパク質の吸光度(Abs280)とをそれぞれモニタリングすることで確認することができ、十分に条件を確立したのちは、単純に分画のナンバーで管理することもできる。
【0059】
さらに、疎水カラムクロマトグラフィーにより分画された画分を、さらに遠心濾過器で濃縮や、ゲル濾過クロマトグラフィーにより精製することでより高濃度に精製されたヒドラジン合成酵素(I´)、ヒドラジン合成酵素(II´)とすることができる。
【0060】
精製条件にもよるが、疎水カラムクロマトグラフィーやゲル濾過クロマトグラフィー等によって精製されたタンパク質の各画分に、ヒドラジン合成酵素(I´)、ヒドラジン合成酵素(II´)が含まれるか否かは、簡易的には前述したような波長419nmにおける吸光度を測定することや、ヘムタンパク質であることからAbs280やAbs408を測定することにより確認できる。
【0061】
より正確に確認する方法としては、SDS−PAGEにより観察したとき、ヒドラジン合成酵素(II´)は、前述したようにTricine SDS−PAGEで、代表値として14kDa、11kDaの位置にバンドがみられる。なお、このことからも、当該酵素はヘテロ2量体ヘムタンパク質であることが確認できる。一方、ヒドラジン合成酵素(I´)は代表値として94kDa、43kDa、37kDaにバンドが確認される。なお、このことからも、当該酵素ヘテロ3量体ヘムタンパク質であることが確認できる。
【0062】
本発明のヒドラジン合成酵素(II)および(II´)は、機能未知のアミノ酸配列のみが特定されたタンパク質であった。本発明においては、これらのタンパク質の未知の特性を見出したものである。また、これらの酵素は単独でも一定のヒドラジン合成活性を有する。すなわち、本発明は、「サブユニットのタンパク質が、下記(イ´)、(ロ´)または(ハ´)の少なくとも一つのタンパク質であり、下記タンパク質(2a)および下記タンパク質(2b)とのヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成用のヒドラジン合成酵素(II)。(イ´)タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質;(ロ´)上記(イ´)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質;(ハ´)上記(イ´)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質の配列番号との同一性が55%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質」としても達成することができる。また、本発明は、Anammox菌由来のヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成用のヒドラジン合成酵素(II´)としても達成することができる。
【0063】
[酵素反応の条件]
本発明は、前述の特定の酵素触媒を用いて、基質(A)と基質(B)とからヒドラジンを合成するヒドラジン合成方法である。本合成方法は、一般的に基質と酵素とを水溶液中に溶存させた状態で行うことができる。
【0064】
本発明の合成方法を行う際、基質は、水溶液中に溶存させた状態で用いることが一般的であり、水溶液中で基質(A)であるアンモニウムイオン(NH4+)と、基質(B)から必要に応じて転換等されて得られるヒドロキシルアミン(NH2O)として溶存している。
【0065】
水溶液中における、これらの基質の濃度は、反応が進行する濃度であれば問わないが、たとえば、アンモニウムイオンとして50〜500μmol/L、ヒドロキシルアミンとして50〜1000μmol/L程度である。濃度が低すぎる場合、反応が進行しにくく、ヒドラジンの合成活性が低下する。一方、濃度は一定の濃度より高すぎても反応速度の向上に資さないことがある。
【0066】
また、本発明のヒドラジン合成方法においては、当該反応を行う例えば水溶液中等に、ヒドラジン合成酵素(I)または(I´)と、ヒドラジン合成酵素(II)または(II´)とが存在(溶存)する状態で行われる。これらの酵素の濃度は、反応溶液中でそれぞれ0.1〜5μmol/L、1〜50μmol/Lであることが好ましい。酵素濃度が低すぎる場合、十分な合成速度を得ることができず、また、濃度が高すぎても合成速度は速くならないことがある。
【0067】
本発明の方法を行う溶液のpHは、反応が進行すればよいが、本発明の酵素が好適に反応する至適pHとして、6〜9が好ましく、より好ましくは、6.5〜8.5程度の中性付近であることが好ましい。
【0068】
本発明の方法を行う温度は、タンパク質の変性等が生じず、酵素反応が進行すれば何度でもよいが、20℃〜50℃で行うことが好ましく、より好ましくは25℃〜40℃である。
【0069】
pHを安定させて、本発明の反応を安定して進行させるために、酵素反応を阻害しないような緩衝液を用いることができる。緩衝液としては、MOPS緩衝液(MOPS buffer)、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液等が好適に使用される。
【0070】
[評価方法]ヒドラジンの検出
本発明により製造されるヒドラジンは、公知のヒドラジン検出方法により検出することができる。例えば、実施例に後述する、ヒドラジンとDMBAとがジアゾカップリング反応し、その生成物が波長470nmに特徴的な吸光度を示すことを利用した光学的手法による検出法などがあげられる。
【0071】
本発明の酵素反応によるヒドラジン合成方法を水溶液中で行った場合、水溶液中の製造されたヒドラジンを蒸留、ヒドラジン類の包接錯体を用いた分離方法(特開平1−192711号公報参照)等によって濃縮することで純度が高いヒドラジンを得ることができる。
【0072】
本発明の製造方法により得られたヒドラジンは、燃料の推進薬等や、燃料電池(水素の代替物質、あるいは水素の貯蔵物質)、プラスチック成型時の発泡剤、エアバッグ起爆剤、脱酸素剤、防食剤等としても使用することができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[評価項目]
24濃度の測定操作、SDS−PAGE、トリシン SDS−PAGEの評価方法を、以下に示す。
【0075】
1.N24濃度の測定操作(生成したN24の測定)
<ヒドラジン濃度定量試薬>
・4% ジメチルアミノベンズアルデヒド溶液(DMBA溶液)
p−Dimethylaminobenzaldehyde(和光純薬社製)0.4gを、99%エタノール10mLに溶解させ4重量%濃度のDMBA溶液とした。
・1mol/L炭酸ナトリウム溶液
炭酸ナトリウム(株式会社同仁化学研究所製)を、純水に溶解させ濃度が1mol/Lとなるように調整した。
・酵素反応停止薬
濃度20%(w/v)トリクロロ酢酸(和光純薬社製)と、2mmol/L EDTA・2Na(株式会社同仁化学研究所製)の混合溶液を酵素反応停止薬として用いた。
<操作方法>
(1)反応終了溶液300μLに、トリクロロ酢酸200μLを加えることでタンパク質を変性させ反応を止めた。その後、遠心分離(14000rpm,10min,4℃)し変性したタンパク質の除去を行った。
(2)(1)の上清から200μL取り、別のエッペンに移した。
(3)(2)に4%DMBA溶液1mLを加えて混和した。(DMBAを反応溶液中に添加することでN24とジアゾカップリング反応し、カップリング生成物の吸光度A470(波長470nmにおける吸光度)を測定することで、N24濃度を得ることができる。)
(4)常温で20minインキュベートし、A470を測定した。
【0076】
2.SDS−PAGE
ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により、見かけの分子質量が大きい酵素(I)の分子質量を測定した。
【0077】
3.Tricine SDS−PAGE
見かけの分子質量が小さい酵素(II)の分子質量の測定は、トリシン−ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により行った。
【0078】
[菌株的事項]
「Anammox Asahi BRW」(以下、単に「BRW」と略記することがある。)
Anammox菌である、Anammox Asahi BRWは、学校法人君ヶ淵学園崇城大学生物生命学部内にて馴養しており、このAnammox汚泥(BRW汚泥)を調製して用いた。
「Anammox KSU−1」(以下、単に「KSU−1」と略記することがある。)
なお、Anammox菌である、Anammox KSU−1は、学校法人君ヶ淵学園崇城大学生物生命学部内にて馴養しており、このAnammox汚泥(KSU−1汚泥)を調製して用いた。
【0079】
[ヒドラジン合成酵素(I´)、(II´)の精製]
BRW株とKSU−1株のヒドラジン合成酵素(I´)、(II´)の精製方法を以下に示す。
「使用試薬・機器」
<Anammox汚泥>
・BRW汚泥
・KSU−1汚泥
【0080】
<疎水性カラムクロマトグラフィー>
・TOYOPEAL Butyl−650M
【0081】
<ゲルろ過カラムクロマトグラフィー>
・Superdex 200pg
・Superdex 75pg
【0082】
<精製用バッファー>
・Cell−free extract 調製バッファー
100 mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、20%(w/v)グリセリンと、1mmol/LPMSFと、1mmol/L EDTAとを混合して調製した。
・TOYOPEAL Butyl 平衡化バッファー
50mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、10%(w/v)グリセリンと、40%飽和硫酸アンモニウムとを混合して調製した。
・TOYOPEAL Butyl 流出バッファー
50mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、10%(w/v)グリセリンとを混合して調製した。
・ゲルろ過バッファー
20mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、200mmol/L NaClとを混合して調製した。
【0083】
<超音波処理>
Astrason ULTRASONIC PROCESSOR
【0084】
<濃縮>
Centrifugal Filter YM−50
【0085】
<吸光度測定>
分光光度計 MPS−2400(SHIMADZU製)
【0086】
<遠心分離>
遠心分離機 Avanti HP−25(BECKMAN製)
【0087】
「実施例1」
精製工程1[無細胞抽出液(cell free extract)の調製]
Anammox汚泥としてBRW汚泥をビーカーに入れCell−free extract調製バッファーを加え、Anammox菌の細胞膜を超音波により破壊した。さらに、乳鉢を用いてすり潰し、超音波処理を行って細胞膜を破壊した。その後、細胞膜を破壊したAnammox汚泥を遠心分離(4℃、12000rpm、60min、JA14)し、無細胞抽出液(cell free extract:遠心分離後の上澄み)を得た。
【0088】
精製工程2[硫酸アンモニウムによる塩析]
前記無細胞抽出液に硫酸アンモニウムを添加し塩析を行った。無細胞抽出液と混合後の、硫酸アンモニウム濃度が40%飽和溶液となるように加え、添加後、30分スターラーで攪拌した。攪拌後、遠心分離(4℃、12000rpm、30 min、JA14)を行い、その上澄みを用いて、次の段階である疎水カラムクロマトグラフィーによる精製を行った。
【0089】
精製工程3[疎水カラムクロマトグラフィーによる精製]
オープンカラムに洗浄済TOYOPEARL Butyl−650Mを詰め、50mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、40%飽和硫酸アンモニウムと、10%グリセリンで平衡化した。このカラムを用いてcell−free extractを精製した。洗浄は50mmol/L Tris−HCl (pH 8.0)と、20%グリセリンと、40%飽和硫酸アンモニウムを用いた。50mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、40%飽和硫酸アンモニウムと50mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、10%グリセリンを用いてリニアグラジエント溶出を行った。各画分のスペクトルを分光光度計で測定しながらモニタリングを行った。
【0090】
(精製液の特性:疎水カラムクロマトグラフィー)
硫酸アンモニウム上澄みを疎水カラムクロマトグラフィーによりグラジエントし、各画分のスペクトルを測り、ヘムの吸光度(A408)とタンパク質の吸光度(A280)とのグラフの結果を図2に示す。
【0091】
図2に示すように、BRW汚泥を疎水カラムクロマトグラフィーで分画したとき、Fraction No.52、55、64、72にメジャーなピークが現れた。これらのピークのスペクトルをそれぞれ測った。
【0092】
疎水カラムクロマトグラフィーによるピーク(fraction No.52、55、64、72)のスペクトルを測ったところ、図2中のNo.52(「ii」と矢印で示す)の第一のピークスペクトルがヒドラジン合成酵素(II´)に、図2中のNo.64(「i」と矢印で示す)の第二のピークのスペクトルがヒドラジン合成酵素(I´)に相当する。
【0093】
精製工程4[ゲルろ過カラムクロマトグラフィーによる精製(1)]
それぞれのピークとその周辺(No.51〜55、No.63〜66)を別々にゲル濾過カラムクロマトグラフィー(流速1ml/min)にかけ、溶出したヒドラジン合成酵素(II´)とヒドラジン合成酵素(I´)のピークを別々に集め、これらをCentrifugal Filter YM−50を用いて濃縮した。
【0094】
精製工程5[ゲルろ過カラムクロマトグラフィーによる精製(2)]
精製工程4後、さらに、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより精製を行った。そして、A419(波長419nmにおける吸光度)が高いところを貯留し、再びCentrifugal Filter YM−50を用いて濃縮した。
これにより、ヒドラジン合成酵素(I´)の精製液(I´−1)と、ヒドラジン合成酵素(II´)の精製液(II´−1)を得た。
【0095】
「実施例2」
実施例1において、Anammox汚泥として、BRW汚泥の代わりにKSU−1汚泥を用いた以外は、前記精製工程1〜5に準じてKSU−1のヒドラジン合成酵素(I´)の精製液(I´−2)と、ヒドラジン合成酵素(II´)の精製液(II´−2)とを得た。なお、実施例2においては、前記精製工程3の工程を実施例1よりも遅い流速(低速で精製)としたため、この精製によって得られる画分のピークは、図3に示すものとなった。このため、精製工程4、5の画分は、第一のピークに相当しヒドラジン合成酵素(II´)を含有する画分(図3中「ii」で示す。)はNo.185〜194、第二のピークに相当しヒドラジン合成酵素(I´)を含有する画分はNo.251〜271(図3中「i」で示す。)、として精製工程を行った。
【0096】
[ヒドラジン合成酵素(I´)の性質]
<分光学的性質>
酸化型(図5中に実線で示す。)で408nmにあったピークが、還元型(図5中に点線で示す。)で419nmにピークがシフトした。また、還元型でα帯が523nm、β帯が553nmにそれぞれピークが出現した。
【0097】
<SDS−PAGEから分かる性質>
精製液(I´−1)、(I´−2)について、SDS−PAGEによる分子質量の測定を行ったところ、KSU−1およびBRW由来の精製液両方に、94kDa、43kDa、37kDaにバンドが出現し、ヘテロ3量体であることが確認された。(図7に測定結果を示す。)
【0098】
[ヒドラジン合成酵素(II´)の性質]
<分光学的性質>
前述の精製液(II´−1)の酸化型と、ジチオナイトにより還元させた還元型のスペクトルを測定した。結果を図6にしめす。酸化型(図6中に実線で示す。)の状態で、ソーレ吸収帯は420nmにあり、本発明においてヒドラジン合成酵素(II´)であるNaxLSに特徴的な350nm付近のピークが出現した。還元剤としてジチオナイトを添加した時(図6中に点線で示す。)に550nm付近で、ヘムタンパク質の還元型特有のα、β帯のピークが出現しなかった。このことは難還元性を示し、NaxLSの特徴的な現象であった。
【0099】
<Tricine SDS−PAGEにより分かる性質>
精製液(II´−1)、(II´−2)について、Tricine SDS−PAGEによる分子質量の測定を行ったところ、KSU−1およびBRW由来の精製液両方に、14kDaと11kDaの位置にバンドが見られた。(図8に測定結果を示す。)
【0100】
<精製液中の酵素濃度の測定>
精製液中のタンパク質濃度は、Pierce BCA Protein Assay Kit (Thermo scientific社製)で重量濃度として測定し、その値を酵素のアミノ酸配列から求まる分子質量で割り、酵素のモル濃度を算出した。
【0101】
[ヒドラジン合成酵素の活性測定試験]
<酵素を含有する精製液>
・精製液(I´−1)
実施例2より得られるBRW由来の酵素含有精製液(96.2μmol/L)
・精製液(II´−1)
実施例2より得られるBRW由来の酵素含有精製液(432μmol/L)
・精製液(I´−2)
実施例1より得られるKSU−1由来の酵素含有精製液(106μmol/L)
・精製液(II´−2)
実施例1より得られるKSU−1由来の酵素含有精製液(600μmol/L)
【0102】
<基質>
・100mmol/L ヒドロキシルアミン溶液
・100mmol/L 塩化アンモニウム溶液
【0103】
<溶液系の調製>
・1mol/Lグルコース
・酸素消費剤
溶液中の濃度が10μmol/Lグルコースオキシダーゼと、150μmol/Lカタラーゼである混合溶液となるように調整した。グルコースとともに添加することで、溶液内の酸素を消費し嫌気状態で反応を行う。
・50mmol/L MOPS(pH7.4)
MOPS buffer(株式会社同仁化学研究所製)
【0104】
「実施例3、比較例1〜3」
[ヒドラジン合成反応]
<反応液組成>
pH緩衝液として、ヒドラジン定量法に影響のないMOPS bufferを使用した。基質にはヒドロキシルアミン塩酸塩、塩化アンモニウムを使用した。ヒドラジン合成酵素として、前記精製液(I´−1)と精製液(II´−1)の2種類の酵素精製液を使用した。表2に、試験に用いた溶液の組成を示し、調整方法を後述する。
【0105】
【表2】
【0106】
<反応手順>
(1) あらかじめ、MOPS buffer(50mmol/L、pH7.4)をバイアルビンに入れ、30分以上アルゴンガスを吹き込み脱気した。
(2) 表2に従いエッペンに脱気したMOPS buffer(50mmol/L、pH7.4)を900μL、酸素消費剤(グルコースオキシダーゼ10μmol/L、カタラーゼ150μmol/L)を10μL、精製液(II´−2)(432μmol/L)、精製液(I´−1)(96.2μmol/L)をそれぞれ10μL入れた。
なお、ブランクとして精製液(II´−1)を抜いたもの、精製液(I´−1)を抜いたもの、精製液(I´−1)(II´−1)の両方を抜いたものをそれぞれ作成し、反応溶液の合計が1000μLとなるようにミリQ水を添加した。
(3) 100mmol/LのNH2OH溶液、NH4Cl溶液を10μLずつエッペンのフタ裏に乗せた。
(4) 溶液内を嫌気状態にする為にグルコースをそれぞれに50μL添加した。
(5) エッペンのフタを閉め、3min後に転倒混和し35℃、1時間反応させた。
(1)〜(5)によって、得られた反応後の反応液を反応終了液とした。
(6) 反応終了後、N24濃度の測定を行った。
【0107】
[ヒドラジン精製濃度]
ヒドラジン合成反応の試験結果である、ヒドラジン生成量を表3に示す。
【0108】
【表3】

合成反応の結果より、ヒドラジン合成酵素(II´)もヒドラジン合成酵素(I´)も添加していない比較例3においては、ヒドラジンは全く合成されなかった。また、ヒドラジン合成酵素(I´)だけである比較例1においてもヒドラジンは全く生成されなかった。ヒドラジン合成酵素(II´)のみを酵素として添加した比較例2では、わずかに合成されたが、比較例3と大差がなく、測定値のバラツキの範囲であった。ヒドラジン合成酵素(I´)とヒドラジン合成酵素(II´)の両方を添加した反応液では、他の反応液とは違い、明らかにヒドラジンを生成していた。
1時間で16μmol/Lのヒドラジンを生成したことから、その活性値は(ヒドラジン生成量)/(酵素(I´)濃度)・反応時間=16.0/0.962・1=16.6/hourより、16.6/60min=0.28/minとなった。
【0109】
「実施例4」
前述の実施例3において、精製液(I´−1)の代わりに精製液(I´−2)、精製液(II´−1)の代わりに精製液(II´−2)を用いた以外は同様の操作によって、KSU−1株由来の酵素による実験を行い、実施例4とした。
KSU−1株を用いた試験結果では、その活性値は0.71/minであった。
【0110】
「実施例5〜7」
[NH2OH濃度依存性]
基質であるヒドロキシルアミン(NH2OH)の濃度を変化させることで、ヒドラジンの生成量に変化が現れるかを実験した。実験は、実施例3に準じて行い、ヒドロキシルアミンンの濃度のみ、表4に示す濃度となるように調整した。
【0111】
【表4】
【0112】
<ヒドロキシルアミン濃度の変化によるヒドラジン生成量の変化>
ヒドロキシルアミン添加量1000μmol/Lの場合は、ヒドラジン生成量16μmol/Lであった。ヒドロキシルアミンの添加量を半分にした実施例5の500μmol/Lでは、2.5倍である28μmol/Lが生成した。ヒドロキシルアミン添加量を1/5にした実施例6の200μmol/Lでは約4倍の43μmol/Lのヒドラジンが生成した。ヒドロキシルアミン添加量を1/10にした実施例7の100μmol/Lでは約3倍の31μmol/Lのヒドラジンが生成した。最も多くのヒドラジンを生成したのはヒドロキシルアミンを200μmol/L添加した時(実施例6)で、43μmol/Lの場合で、(ヒドラジン生成量)/{(HZS濃度)・反応時間)=43.0/0.962・1=44.7/hour、よって44.7/60min=0.74/minとなった。
前述の通りKSU−1株のデータは0.71/minであるため、基質濃度を調整することで同程度の活性値が得られることを確認した。
【0113】
[ヒドラジン合成酵素の活性測定試験(還元剤添加系)]
本発明のヒドラジン合成法において、さらに還元剤を混合することで、還元剤存在下でヒドラジン合成活性を向上させた試験方法およびその結果を以下に示す。
【0114】
<酵素を含有する精製液>
・精製液(I´−3)
実施例2より得られる精製液(I´−2)を、ミリQ水(超純水)で希釈したKSU−1由来の酵素含有精製液(95μmol/L)
・精製液(II´−3)
本発明のタンパク質(2a)、(2b)である、通称“NaxLS”に対応する遺伝子(配列番号14、15)を繋いだプラスミド、およびc型ヘムタンパク質成熟遺伝子群を繋いだ別のプラスミドにより大腸菌(E. coli BL21(DE3)株)をHanahan法によって調整したコンピテントセルを同時形質転換し、NaxLSを合成する遺伝子組み換え大腸菌を作成した。この遺伝子組み換え大腸菌より、精製液(II´−2)を得る方法に準じて、NaxLSにあたる酵素の、酵素含有精製液(濃度1.32mmol/L)を得た。この酵素含有精製液を、精製液(II´−3)として用いた。
【0115】
<基質>
・2mmol/L NO飽和水溶液
アルゴンガスを通気して脱気した後のミリQ水を用いて、濃度1mol/Lとなるように水酸化ナトリウム(和光純薬株式会社製)を溶解させることで調製した水溶液中に、NOガスを通気することで、NOガス飽和水溶液を調整した。この飽和水溶液中のNO濃度は、約2mmol/Lである。
【0116】
<還元剤>
・100mmol/L ジチオナイト溶液
亜ジチオン酸ナトリウム(“ジチオナイト”と略記:和光純薬工業株式会社製)を、ミリQ水にて希釈し、ジチオナイト濃度が100mmol/Lのジチオナイト溶液を調製した。これを、還元剤として使用した。
【0117】
「実施例8〜11」
[ヒドラジン合成反応]
<反応液組成>
pH緩衝液として、ヒドラジン定量法に影響のないMOPS bufferを使用した。基質にはNO(飽和水溶液に調整して使用)、塩化アンモニウムを使用した。ヒドラジン合成酵素として、前記精製液(I´−3)と精製液(II´−3)の2種類の酵素精製液を使用した。さらに、還元剤としてジチオナイト溶液を用いたときのヒドラジン合成量を評価した。以下の表5に、実施例8〜11試験に用いたヒドラジン合成反応液の組成を示す。
【0118】
<反応手順>
(1) あらかじめ、MOPS buffer(50mmol/L、pH7.4)をバイアルビンに入れ、30分以上アルゴンガスを吹き込み脱気した。
(2) 以下、表5に従い各試薬、溶液等を混合した。まず、エッペンに脱気したMOPS buffer(50mmol/L、pH7.4)、酸素消費剤(グルコースオキシダーゼ10μmol/L、カタラーゼ150μmol/L)、精製液(II´−3)、精製液(I´−3)、ジチオナイト溶液をそれぞれ添加した。
(3) NO飽和溶液、NH4Cl溶液をそれぞれエッペンのフタ裏に乗せた。
(4) 溶液内を嫌気状態にする為にグルコース溶液を添加した。
(5) エッペンのフタを閉め、転倒混和し35℃にて、10分間反応させた。
(1)〜(5)によって、得られた反応後の反応液を反応終了液とした。
【0119】
【表5】
【0120】
[基質としてNOを用いたときのヒドラジン濃度測定]
ヒドラジン合成反応後、反応液中のNOを還元除去するために、液中のジチオナイト濃度が25mmol/Lとなるように、100mmol/Lジチオナイト溶液と、ミリQ水を用いて希釈した。これは、ヒドラジン濃度測定にあたり、NOが吸光度測定を阻害する恐れがあるためである。このNO除去後に、実施例8〜11の各液中のヒドラジン濃度を測定した結果を表6に示す。
【0121】
【表6】
【0122】
表中の、酵素(I´)のヒドラジン合成分子活性は、前述の実施例3〜7と同様に、(ヒドラジン生成量)/{(HZS濃度)・反応時間)}の式より求めたものである。これらに示すように、基質(B)としてNOを用いて、かつ還元剤を用いた実施例8〜11は非常に優れたヒドラジン合成活性を示した。
【0123】
[ヒドラジン合成の確認試験]
ヒドラジンが、本発明の酵素を用いた合成方法により得られていることを確認するために、同位体標識された塩化アンモニウムを用いて、以下の合成試験を行った。
【0124】
「実施例12」 基質(B)として、同位体標識された塩化アンモニウム(15NH4Cl)を用いた以外は、実施例11に準じて、ヒドラジン合成反応を行った。
反応後に、ジチオナイト溶液を混合してNOを還元除去し、トリクロロ酢酸を加えて混合し、遠心分離(15000rpm,4℃、10min)することで、同位体標識された塩化アンモニウムを用いたヒドラジン合成反応液の上澄みを得た。
この上澄み200μLに対して、1mLの1%DMBAを添加し、20分間発色反応させた。発色反応後、発色反応液と当量のCHCA溶液を混合し、TOF−MS用プレート上にて乾燥させ、MALDI TOF−MSを用いて質量分析を行った。MALDI TOF−MSにて質量分析を行う際、ヒドラジンはDMBAとの化合物として検出される。このDMBAとの化合物は、同位体標識された塩化アンモニウムが利用されヒドラジンが合成された場合、2924-DMBA化合物の296MWとして表れる。一方、同位体標識されていない通常のヒドラジンを用いた2824-DMBA化合物は、295MWとして表れる。
【0125】
質量分析を行った結果を図9に示す。なお、ブランクとして和光純薬株式会社製のヒドラジン2824用いた。2824のm/zと比較すると、本発明の酵素にあたるHZS酵素とNaxLS酵素を用いて合成したヒドラジンは、296MWの比率が増えていた。このことから、同位体標識された塩化アンモニウムを原料とした2924であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、酵素触媒を用いたヒドラジンの合成方法に関する。本発明の酵素触媒による合成によることで、従来の高温処理等を行う必要がないため、新規なヒドラジン合成方法として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]