(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6366084
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】分別装置および分別方法、並びに異物除去装置
(51)【国際特許分類】
B03C 7/02 20060101AFI20180723BHJP
B03C 7/06 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
B03C7/02 B
B03C7/06
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-22445(P2017-22445)
(22)【出願日】2017年2月9日
【審査請求日】2017年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】517044498
【氏名又は名称】土田 哲大
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】土田 哲大
【審査官】
田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0292303(US,A1)
【文献】
特開平05−277949(JP,A)
【文献】
米国特許第03930815(US,A)
【文献】
特開平07−112142(JP,A)
【文献】
特開2005−296751(JP,A)
【文献】
特開2000−093835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03C 3/00−11/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の回転体の表面上の互いに離間した位置に配置された第1電極および第2電極からなる電極層を有する静電ドラムと、
前記第1電極と前記第2電極とに電圧を印加することで、前記静電ドラムの表面に静電場を発生させるための電源回路と、
前記静電場が発生した前記静電ドラム上に分別対象物を供給する供給装置と、
前記分別対象物のうち前記静電場が発生した電極層上に静電吸着しにくい弱吸着物であり、前記静電ドラムに静電吸着されず、その表面から滑り落ちる弱吸着物を回収する弱吸着物回収手段と、
前記分別対象物のうち前記静電場が発生した電極層上に静電吸着しやすい強吸着物であり、前記静電ドラムに静電吸着されたまま前記静電ドラムとともに回転する強吸着物を回収する強吸着物回収手段と
を含む分別装置。
【請求項2】
前記電極層上に絶縁層を有する請求項1記載の分別装置。
【請求項3】
前記強吸着物回収手段は、前記静電ドラムに静電吸着された強吸着物を掻き落とす分離手段を有する請求項1または2に記載の分別装置。
【請求項4】
前記電源回路は、前記円筒状の回転体の内部に設けられた昇圧回路を有するものである請求項1から3のいずれか1項に記載の分別装置。
【請求項5】
前記第1電極および前記第2電極は櫛状であり、一方の櫛歯が他方の櫛歯間に入り込む関係に配置されたものである請求項1から4のいずれか1項に記載の分別装置。
【請求項6】
円筒状の回転体の表面上に互いに離間した位置に配置された第1電極および第2電極からなる電極層を有する静電ドラムの前記第1電極と前記第2電極とに電圧を印加することで、前記静電ドラムの表面に静電場を発生させ、前記静電場が発生した前記静電ドラム上に分別対象物を供給して、前記分別対象物のうち前記静電場が発生した電極層上に静電吸着しにくい弱吸着物であり、前記静電ドラムに静電吸着されず、その表面から滑り落ちる弱吸着物を回収するとともに、前記分別対象物のうち前記静電場が発生した電極層上に静電吸着しやすい強吸着物であり、前記静電ドラムに静電吸着されたまま前記静電ドラムとともに回転する強吸着物を回収する分別方法。
【請求項7】
円筒状の回転体の表面上の互いに離間した位置に配置された第1電極および第2電極からなる電極層を有する静電ドラムと、
前記第1電極と前記第2電極とに電圧を印加することで、前記静電ドラムの表面に静電場を発生させるための電源回路と、
前記静電場が発生した前記静電ドラム上にプラスチックを含む廃棄物を供給する供給装置と、
前記廃棄物のうち前記静電場が発生した電極層上に静電吸着しやすい強吸着物であり、前記静電ドラムに静電吸着されたまま前記静電ドラムとともに回転する強吸着物を回収する強吸着物回収手段と
を含む異物除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分別対象物を誘電効果の大小により静電吸着しにくいプラスチックなどの弱吸着物と静電吸着しやすい木片やゴムなどの強吸着物とに分別する分別装置および分別方法、並びに、ASRなどのプラスチックを含む廃棄物からプラスチック以外の異物を除去する異物除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では2005年に自動車リサイクル法が施行され、自動車メーカーが引取・再資源化することが義務付けされた。現在、使用済み自動車からエアバッグ類、フロン類、ドアやエンジンなどの再利用可能な部品を取り外し、破砕(シュレッディング)して有用金属が回収されている。また、この処理の最後に残るものは自動車破砕残渣(ASR:Automobile Shredder Residue)と呼ばれている。
【0003】
ASRの内容物は各処理業者によっても異なり、例えば、プラスチックが79.51%、木くずが8.20%、ゴムが4.92%、その他が7.38%のようになっている。これらから有価物となりうるプラスチックを回収することで、廃棄物の量を削減でき、逼迫する最終処分場への持ち込み量を減らすことが可能である。また、石油を原料としているプラスチックを素材として再利用することは、CO
2排出量の削減にも貢献する。さらに、このプラスチックを素材として再利用することは、油化や熱回収などの他のリサイクル技術に比べて、より効率的なリサイクルであるとされている。
【0004】
しかしながら、プラスチックを素材として再利用するためには、不純物が非常に少ない状態にすることが重要である。特に、木くずやゴムといった不要なものが多く混ざっているASRをプラスチック素材として再利用するためには、プラスチック以外の異物(夾雑物)を除去することが必要となる。
【0005】
従来、廃棄物を分別回収する装置としては、静電選別機と呼ばれる選別装置が一般的である。静電選別機は、ワークに余剰な電荷を帯びさせ、その電荷の極性による反発や吸着現象を元に分別回収するものである。従来、実用化されている主な静電選別機は、粒子の帯電方法により、静電・コロナ放電併用式および摩擦帯電式の2つに分類される(非特許文献1参照。)。
【0006】
静電・コロナ放電併用式の装置としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。静電・コロナ放電併用式の装置は、鋳造後の鋳物の型に含まれる金属粉などを回収する工程で用いられており、電極から接地電極に向け電荷をかけることで導電性の良い金属などは反発するが、導電性のない鋳物の砂などは反発しないことを利用して分離する。
【0007】
また、摩擦帯電式はプラスチック種類の分別に用いられており、2種類のプラスチックを摩擦帯電させることで、負極に帯電する樹脂(例えば、PS(ポリスチレン)樹脂)と正極に帯電する樹脂(例えばABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂)とが、電圧のかかった電極間で分離することを利用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−317345号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】大和田 秀二,電気的選別,資源と素材,社団法人資源・素材学会,1997年,第113巻,第12号,ページp.920−923
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、ASRからプラスチックを再利用するためには、木くずやゴムなどの夾雑物を除去することが必要となるが、ASRはその成分のほとんどが不導体であるため、帯電の差が生じず、静電・コロナ放電併用式の装置でプラスチックのみを分離選別することは難しい。一方、摩擦帯電式では、帯電させることができても、静電気による吸着が機能するサイズに小さくしておく必要がある。さらに、帯電したものが空気中の水分により中和されないために、試料自体を十分に乾燥させるとともに、装置の雰囲気全体も乾燥する必要がある。
【0011】
そこで、本発明においては、多種の不導体を含む分別対象物であっても誘電効果の大小により静電吸着しにくいプラスチックなどの弱吸着物と静電吸着しやすい木片やゴムなどの強吸着物とに分別する分別装置および分別方法、並びに、多種の不導体を含むASRなどのプラスチックを含む廃棄物からプラスチック以外の異物(夾雑物)を除去する異物除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の分別装置は、胴体の表面上の互いに離間した位置に配置された第1電極および第2電極からなる電極層と、第1電極と第2電極とに電圧を印加することで、電極層上に静電場を発生させるための電源回路と、静電場が発生した電極層上に分別対象物を供給する供給装置と、分別対象物のうち静電場が発生した電極層上に静電吸着しにくい弱吸着物を回収する弱吸着物回収手段と、分別対象物のうち静電場が発生した電極層上に静電吸着しやすい強吸着物を回収する強吸着物回収手段とを含むものである。
【0013】
本発明の分別装置によれば、胴体の表面上に互いに離間した位置に配置された第1電極および第2電極からなる電極層の第1電極と第2電極とに電圧が印加されることで、絶縁層上に静電場が発生する。この静電場が発生した電極層上に分別対象物を供給すると、分別対象物のうち静電吸着しにくいプラスチックなどの弱吸着物は弱吸着物回収手段により回収され、分別対象物のうち静電吸着しやすい強吸着物であるプラスチック以外の夾雑物は強吸着物回収手段により回収される。
【0014】
また、本発明の異物除去装置は、胴体の表面上の互いに離間した位置に配置された第1電極および第2電極からなる電極層と、第1電極と第2電極とに電圧を印加することで、電極層上に静電場を発生させるための電源回路と、静電場が発生した電極層上にプラスチックを含む廃棄物を供給する供給装置と、廃棄物のうち静電場が発生した電極層上に静電吸着しやすい強吸着物を回収する強吸着物回収手段とを含むものである。
【0015】
本発明の異物除去装置によれば、胴体の表面上に互いに離間した位置に配置された第1電極および第2電極からなる電極層の第1電極と第2電極とに電圧が印加されることで、絶縁層上に静電場が発生し、この静電場が発生した電極層上にプラスチックを含む廃棄物を供給すると、静電吸着しにくいプラスチック以外の木片やゴムなどの夾雑物が吸着され、強吸着物回収手段により回収される。
【0016】
ここで、電極層上には絶縁層を有することが望ましい。電極層上に絶縁層を有さない場合、第1電極と第2電極との間の近いところだけで静電場が発生し、誘電効果が小さくなり、静電吸着力が弱いが、電極層上に絶縁層を有することで、絶縁層上に広く静電場が発生し、誘電効果が大きくなり、静電吸着力が向上する。
【0017】
また、胴体は、回転体であることが望ましい。これにより、回転体上にプラスチックを含む分別対象物を供給することで、分別対象物のうち静電場が発生した電極層上に静電吸着しやすい強吸着物であるプラスチック以外の夾雑物は回転体上に保持されて回転体とともに回転し、強吸着物回収手段により回収される。また、分別対象物のうち静電場が発生した電極層上に静電吸着しにくい弱吸着物は、回転体上に保持されないため、回転体とともに回転せずに落下し、弱吸着物回収手段により回収される。
【0018】
また、電源回路は、胴体の内部に設けられた昇圧回路を有するものであることが望ましい。これにより、ドラム内部の昇圧回路により発生させた高圧電力をドラム表面の電極に供給するため、外部の高圧電源は不要となる。
【0019】
また、第1電極および第2電極は櫛状であり、一方の櫛歯が他方の櫛歯間に入り込む関係に配置されたものであることが望ましい。これにより、静電場を高密度で発生させることができ、静電吸着力を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
(1)胴体の表面上に互いに離間した位置に配置された第1電極および第2電極からなる電極層の第1電極と第2電極とに電圧を印加することで、電極層上に静電場を発生させ、この静電場が発生した電極層上に分別対象物を供給して、分別対象物のうち静電場が発生した電極層上に静電吸着しにくい弱吸着物を回収するとともに、分別対象物のうち静電場が発生した電極層上に静電吸着しやすい強吸着物を回収する構成により、分別対象物が多種の不導体を含むものであっても誘電効果の大小により静電吸着しにくいプラスチックなどの弱吸着物と静電吸着しやすい木片やゴムなどの強吸着物とに分別することが可能となる。
【0021】
(2)胴体の表面上の互いに離間した位置に配置された第1電極および第2電極からなる電極層と、第1電極と第2電極とに電圧を印加することで、電極層上に静電場を発生させるための電源回路と、静電場が発生した電極層上にプラスチックを含む廃棄物を供給する供給装置と、廃棄物のうち静電場が発生した電極層上に静電吸着しやすい強吸着物を回収する強吸着物回収手段とを含む異物除去装置によれば、多種種の不導体を含むASRなどのプラスチックを含む廃棄物からプラスチック以外の異物(夾雑物)を除去してプラスチックを分別回収することが可能となる。
【0022】
(3)電極層上に絶縁層を有することにより、誘電効果が大きくなり、静電吸着力が向上するため、より効率良く強吸着物を吸着することが可能となる。
【0023】
(4)胴体が回転体であることにより、回転体上の分別対象物を供給することで、連続的に弱吸着物と強吸着物とを分別回収することが可能となる。
【0024】
(5)電源回路が胴体の内部に設けられた昇圧回路を有するものであることにより、外部の高圧電源は不要となるため、取り扱いが容易となる。
【0025】
(6)第1電極および第2電極が櫛状であり、一方の櫛歯が他方の櫛歯間に入り込む関係に配置されたものであることにより、静電場を高密度で発生させることができ、静電吸着力を向上させ、より効率良く強吸着物を吸着することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施の形態における分別装置の概略構成図である。
【
図2】
図1の静電ドラムの一部切欠き斜視図である。
【
図3B】
図2の電極の別の実施形態を示す配置構成図である。
【
図3C】
図2の電極のさらに別の実施形態を示す配置構成図である。
【
図4A】静電ドラムの表面に発生する静電場と木片(強吸着物)およびプラスチック(弱吸着物)の分極の様子を示す説明図である。
【
図4B】絶縁層を省略した静電ドラムの表面に発生する静電場と木片(強吸着物)およびプラスチック(弱吸着物)の分極の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は本発明の実施の形態における異物除去装置の概略構成図、
図2は
図1の静電ドラムの一部切欠き斜視図、
図3Aは
図2の電極の配置構成図である。
【0028】
図1に示すように、本発明の実施の形態における分別装置としての異物除去装置1は、表面に静電場を発生させる静電ドラム2と、静電場を発生させた静電ドラム2上に分別対象物Pを供給する供給装置としての振動フィーダー3と、分別対象物Pのうち静電場が発生した静電ドラム2上に静電吸着しにくい弱吸着物P1を回収する弱吸着物回収手段としての弱吸着物回収容器4と、分別対象物Pのうち静電場が発生した静電ドラム2上に静電吸着しやすい強吸着物P2を回収する強吸着物回収手段としての強吸着物回収容器5およびスクレーパー6とを有する。
【0029】
静電ドラム2は、
図2に示すように、胴体としての円筒状の回転体であるドラム20の表面上に電極層21と絶縁層22とを設けたものである。電極層21は、互いに離間した位置に配置される第1電極としての正電極21Aと第2電極としての負電極21Bとから構成される。正電極21Aおよび負電極21Bは、
図3Aに示すように櫛状であり、一方の櫛歯が他方の櫛歯間に入り込む関係に配置されている。正電極21Aおよび負電極21Bは、金属箔や導電性塗料等により形成することが可能である。絶縁層22は、電極層21の全体を覆うように、電極層21上に配置されている。
【0030】
なお、正電極21Aおよび負電極21Bの櫛状については、
図3Bに示すように、2方向でそれぞれ一方の櫛歯が他方の櫛歯に入り込む関係に配置されたものとしたり、
図3Cに示すように、櫛歯が斜め方向に入り込む関係に配置されたものとしたり、櫛歯を波状としたりすることも可能である。
【0031】
また、静電ドラム2の内部には、電源回路としての昇圧回路7が設けられている。昇圧回路7は、正電極21Aおよび負電極21Bに対してそれぞれ±1000V〜±10000V、好ましくは±1000V〜±5000V、より好ましくは±1500V〜±4000V、さらに好ましくは±2000V〜±3000Vの正電圧および負電圧を印加することで、絶縁層22の表面に静電場Eを発生させるものである。なお、昇圧回路7への電力供給は、蓄電池や乾電池等を用いることが可能である。あるいは、スリップリングなどを介して外部から電力供給する構成とすることも可能である。
【0032】
振動フィーダー3は、分別対象物Pを振動により搬送して静電ドラム2の絶縁層22上に供給するものである。本実施形態における分別対象物PはASRである。ASRは、プラスチック、木くずやゴム等を含む廃棄物であり、処理業者によりサイズは異なるが、おおよそ10〜100mm程度の破砕品である。
【0033】
ASRのうち誘電率が低く分極しにくいプラスチックは、静電場Eが発生した静電ドラム2上に静電吸着しにくい弱吸着物であり、誘電率が高く分極しやすい木くずやゴム等の夾雑物は、静電場Eが発生した静電ドラム2上に静電吸着しやすい強吸着物である。表1は物質ごとの比誘電率(出典:比誘電率表,山本電機インスツルメント株式会社,インターネット<URL:http://www.yei-jp.com/technology/hiyudenritu/hiyudenritu.html>)を、リサイクルしやすいもの、リサイクルしにくいもの、および、夾雑物に分けて抜粋したものである。
【0035】
静電ドラム2の絶縁層22の表面には正電極21Aおよび負電極21Bに数千ボルトの電圧が印加されることによって静電場Eが発生しており、ASRのうち誘電率が高く分極しやすい木くずやゴム等の夾雑物(強吸着物P2)は静電誘導あるいは誘電分極し、グラジエント力などにより静電ドラム2に静電吸着される。正電極21Aおよび負電極21Bに対して印可する正電圧および負電圧は、分別対象物Pの大きさに応じて調整する。すなわち、大きな電圧を掛けて大きな範囲で静電場Eを発生させると、強吸着物P2の全体で誘電効果が起きるため、大きな強吸着物P2でも吸着できるようになる。
【0036】
スクレーパー6は、静電ドラム2に静電吸着された木くずやゴム等(強吸着物P2)を掻き落とすものである。強吸着物回収容器5は、このスクレーパー6により静電ドラム2から掻き落とされた強吸着物P2を受けて回収するものである。なお、スクレーパー6に代えてブラシ等の他の分離手段により静電ドラム2上の強吸着物P2を分離する構成とすることも可能である。
【0037】
一方、ASRのうち分極しにくいプラスチックは静電ドラム2に静電吸着されず、静電ドラム2の絶縁層22の表面を滑り落ちる。弱吸着物回収容器4は、この静電ドラム2に静電吸着されずに滑り落ちたプラスチック(弱吸着物P1)を受けて回収するものである。
【0038】
ここで、
図4Aおよび
図4Bを参照して静電吸着原理について説明する。
図4Aは静電ドラム2の表面に発生する静電場と木片(強吸着物)およびプラスチック(弱吸着物)の分極の様子を示す説明図である。
【0039】
図4Aに示すように、木片のような誘電率の高いもの(強吸着物P2)は、静電場Eの中でよく分極するため電荷の向きが揃いやすい。一方、誘電率の低いプラスチックなど(弱吸着物P1)は、静電場Eの中で分極しづらいため、電荷の向きが揃いにくい。そのため、電極に対して電荷の極性が揃いやすい木片のような誘電率の高いもの(強吸着物P2)はより強い吸着力を得ることができ、静電ドラム2に吸着されたまま回転するが、分極しづらいプラスチックのような誘電率の低いもの(弱吸着物P1)は静電ドラム2に吸着されず、その表面から滑り落ちる。
【0040】
なお、本実施形態における異物除去装置1は、電極層21上に絶縁層22を設けたものであるが、
図4Bに示すように絶縁層22を省略することも可能である。この場合、正電極21Aと負電極21Bとの間の近いところだけで静電場が発生し、誘電効果が小さくなるため、静電吸着力が弱くなるが、原理的には木片のような誘電率が高いもの(強吸着物P2)とプラスチックのような誘電率が低いもの(弱吸着物P1)とを分別することが可能である。
【0041】
上記構成の異物除去装置1によれば、静電ドラム2の表面上に互いに離間した位置に配置された正電極21Aおよび負電極21Bに対してそれぞれ正と負の電荷が供給されることで、電極層21上に配置された絶縁層22の表面に静電場が発生し、静電ドラム2上に振動フィーダー3からASRが供給されると、ASRのうち静電吸着しない弱吸着物P1であるプラスチックは静電ドラム2の絶縁層22上を滑り落ち、弱吸着物回収容器4により回収される。なお、弱吸着物回収容器4に代えて、ベルトコンベアや空気搬送装置などの弱吸着物回収装置を設置することも可能である。
【0042】
一方、ASRのうち静電吸着する強吸着物P2であるプラスチック以外の木くずやゴム等の夾雑物は静電ドラム2に静電吸着されて絶縁層22上に保持され、静電ドラム2とともに回転する。そして、スクレーパー6により静電ドラム2から掻き落とされ、強吸着物回収容器5により回収される。なお、一部の強吸着物P2は、スクレーパー6により掻き落とされる前に静電ドラム2の表面から剥がれ落ち、強吸着物回収容器5に回収されるものもある。このように、本実施形態における異物除去装置1によれば、分別対象物Pが多種の不導体を含むASRであっても夾雑物を除去してプラスチックを分別回収することが可能である。
【0043】
また、表1に示したように、ASRに含まれるプラスチックのうち、ポリアセタール樹脂やポリウレタン等のリサイクルしにくいプラスチックについても、ポリエチレン、ポリプロピレンやポリスチレン等のリサイクルしやすいプラスチックと比較して誘電率が低いため、静電ドラム2の表面に発生させる静電場Eを調整することで、リサイクルしにくいプラスチックについては静電ドラム2に吸着させて、リサイクルしやすいプラスチックと分別回収することも可能である。なお、正電極21Aと負電極21Bとの間隔が狭く、電圧が高いほど電界強度の勾配が大きくなり、正電極21Aおよび負電極21Bの幅が狭いほど電界密度は増加するため、これらを調整することにより、静電場Eを調整することが可能である。
【0044】
また、本実施形態における異物除去装置1では、静電ドラム2内部の昇圧回路7により発生させた高圧電力をその表面の正電極21Aおよび負電極21Bに供給するため、外部の高圧電源は不要である。また、従来の静電・コロナ放電併用式の装置のようなコロナ電極も不要であり、ドラムに導体を設置したり、アースに接続したりすることも不要である。
【0045】
また、従来の静電・コロナ放電併用式の装置では電極が一点しかないため、その周辺でしか強力な吸着力は存在せず、ドラムはアースに接続されているため、帯電吸着したものでも徐々に電荷が奪われていく。一方、本実施形態における異物除去装置1では、静電ドラム2はアースに接続されておらず、静電ドラム2の表面全体に静電場Eを発生させることで、静電ドラム2の全周に渡り、高い吸着力を維持することが可能となっており、分別能力の向上が期待できる。
【実施例】
【0046】
異物除去装置1によるプラスチックの分別回収実験を行った。処理したASRは12mmメッシュの破砕機で粉砕したものであり、長辺20mm以下、短辺5mm程度、厚さ2mm程度のサイズである。
【0047】
異物除去装置1は、塩ビ管によりドラム20を形成し、このドラム20にアルミ箔を切り出すことにより正電極21Aおよび負電極21Bを形成したものである。ドラム20の内部には昇圧回路7と乾電池を設置し、ドラム20の2箇所に設けた孔を通じて正電極21Aおよび負電極21Bに接続した。この正電極21Aおよび負電極21Bの上から絶縁テープを巻き付けることにより絶縁層22を形成した。なお、正電極21Aおよび負電極21Bにはそれぞれ±2500V程度の電圧が印加されている。
【0048】
図5は実験結果を示している。
図5に示すように、ASR(投入プラ)1544gを異物除去装置1により処理したところ、弱吸着物回収容器4により回収された弱吸着物P1(製品プラ)は1364gであり、夾雑物であるゴムは21%、木片はほぼ100%除去できており、プラスチックの割合は97%であった。一方、強吸着物回収容器5に回収された強吸着物P2(除去物)は59gであり、木くず等の異物を多く除去できている。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、ASRなどの廃棄物からプラスチックを分別回収するための分別装置および分別方法として有用であり、特に、多種の不導体を含むASRなどの廃棄物であっても夾雑物を除去してプラスチックを分別回収することが可能な分別装置および分別方法として好適である。
【符号の説明】
【0050】
1 異物除去装置
2 静電ドラム
3 振動フィーダー
4 弱吸着物回収容器
5 強吸着物回収容器
6 スクレーパー
7 昇圧回路
20 ドラム
21 電極層
21A 正電極
21B 負電極
22 絶縁層
【要約】
【課題】多種の不導体を含む分別対象物であっても誘電効果の大小により静電吸着しにくいプラスチックなどの弱吸着物と静電吸着しやすい木片やゴムなどの強吸着物とに分別する。
【解決手段】ドラム20の表面上の互いに離間した位置に配置された正電極および負電極からなる電極層21と、電極層21上に配置された絶縁層22と、正電極と負電極とに電圧を印加することで、絶縁層22の表面に静電場Eを発生させる電源回路と、静電場Eが発生した絶縁層22上にプラスチックを含む分別対象物Pを供給する振動フィーダー3と、分別対象物Pのうち静電場Eが発生した絶縁層22上に静電吸着しにくい弱吸着物P1を回収する弱吸着物回収容器4と、分別対象物Pのうち静電場Eが発生した絶縁層22上に静電吸着しやすい強吸着物P2を回収する強吸着物回収容器5とを含む。
【選択図】
図1