(54)【発明の名称】有機ELパネル用透光性基板、有機ELパネル用透光性基板の屈折率異方性の制御方法、有機ELパネル用透光性基板の製造方法、有機ELパネル、有機EL装置
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、例を挙げて詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。また、図面においては、説明の便宜上、各部の構造は適宜簡略化して示す場合があり、各部の寸法比等は、実際とは異なり、模式的に示す場合がある。
【0018】
[実施形態1]
本発明の第1の有機ELパネル用透光性基板は、前述のとおり、樹脂により形成され、基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性であることを特徴とする。本発明の第2の有機ELパネル用透光性基板は、前述のとおり、樹脂により形成され、基板の面内方向および厚さ方向の少なくとも一方に屈折率異方性を有し、有機ELパネルに用いた場合に、前記有機ELパネル全体が、その面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性となることを特徴とする。また、本発明の第3の有機ELパネル用透光性基板は、前述のとおり、前記本発明の有機ELパネル用透光性基板の製造方法により製造されることを特徴とする。すなわち、本発明の第3の有機ELパネル用透光性基板は、前記本発明の有機ELパネル用透光性基板の屈折率異方性の制御方法により、面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が制御されている。
【0019】
一般的に、有機EL素子は、自発光デバイスであり複屈折性、旋光性を利用していないため、発光デバイスそのものの視野角は広い。このため、有機EL素子においては、位相差フィルム等を用いて視野角を拡大する必要があまりない。また、有機ELパネル用透光性基板に、屈折率異方性の小さいガラス基板を用いている限り、視野角による色ズレは小さい。このため、樹脂製の透光性基板を用いた有機ELパネルおよび有機EL装置においても、透光性基板の複屈折性には、あまり注意が払われていなかった。
【0020】
本発明者は、透光性基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性を制御することに着目した。例えば、基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(屈折率異方性が実質的に存在しない)透光性基板を用いれば、基板の面内方向位相差および厚さ方向位相差が低減される。これにより、例えば、視野角、波長等に依存した色ズレ・色つきの問題を解決できる。
【0021】
図1の断面図に、本発明の有機ELパネル用透光性基板を用いた本発明の有機ELパネルの構造の一例を、模式的に示す。図示のとおり、この有機ELパネル100では、本発明の有機ELパネル用透光性基板(以下、単に「透光性基板」ということがある。)101の片面に、ITO(酸化インジウムスズ、Indium Tin Oxide)製の陽極(透明電極)102、正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106、電子注入層107、および陰極108が、前記順序で積層されている。陰極108の一端は、突出して正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106、および電子注入層107の一側面に接するとともに、陽極102に接さず隔てられるようにして、透光性基板101の前記片面に接している。正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106、および電子注入層107の側方は、シール部110で囲まれている。陰極108の前記一端(図において右側の端)と、その反対側における陽極102の一端(図において左側の端)は、シール部110と透光性基板101とに挟まれた状態で、シール部110の外側に突出している。その突出した部分において、陰極108および陽極102を、外部の電源等(図示せず)に接続可能である。シール部110の上面(透光性基板101と反対側の面)には、正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106、および電子注入層107を囲み、かつ透光性基板101と対向するように、封止フィルム(対向フィルム)109が貼付されている。これにより、正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106、および電子注入層107は、透光性基板101、封止フィルム109およびシール部110に囲まれて封止されている。
【0022】
図1の有機ELパネルでは、透光性基板101および陰極102が透明(透光性)であるため、それらの側(同図において下側)から、発光層105による発光を取り出すことができる。
【0023】
図1の有機ELパネル100は、例えば、以下のようにして製造できる。すなわち、まず、本発明の有機ELパネル用透光性基板101を準備する。この透光性基板101は、例えば、フレキシブル透明基板(フィルム基板)であっても良い。つぎに、次に、スパッタ法またはCVD(Chemical Vapor Deposition、化学蒸着)法等により、透明導電性材料(透光性電極材料)により透明導電膜を形成(成膜)し、これを、陽極(透明電極)102とする。前記透明導電性材料(透光性電極材料)としては、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化スズ等を用いることができる。
【0024】
つぎに、陽極102上に正孔注入層103を形成(成膜)する。正孔注入層は、例えば、陽極である透明電極(透光性電極)層から有機層へ注入される正孔に対する注入障壁の高さを下げる。また、正孔注入層は、例えば、陽極と正孔輸送層とのエネルギーレベルの相違を緩和し、陽極から注入される正孔が正孔輸送層へ容易に注入される働きをする。正孔注入層を形成する正孔注入層材料としては、例えば、銅フタロシアニンやスターバースト型芳香族アミン等のアリールアミン誘導体等が挙げられる。または、これら正孔注入性有機材料に五酸化バナジウム、三酸化モリブデン等の無機物、F4−TCNQ等の有機物を化学ドーピングして、さらに注入障壁を下げ、駆動電圧を低下させても良い。
【0025】
さらに、正孔注入層103上に正孔輸送層104を形成(成膜)する。正孔輸送層は、発光層への正孔の移動率を高めるため、適度なイオン化ポテンシャルを有し、同時に、発光層から電子の漏洩を阻止する電子親和力を有する正孔輸送層材料で形成することが好ましい。正孔輸送層を形成する正孔輸送層材料として、例えば、ビス(ジ(p−トリル)アミノフェニル)−1,1−シクロヘキサン、TPD、N,N’−ジフェニル−N−N−ビス(1−ナフチル)−1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(α−NPD)等のトリフェニルジアミン類、スターバースト型芳香族アミン等を用いることができる。
【0026】
さらに、正孔輸送層104上に発光層105を形成(成膜)する。発光層は、電極から注入された電子と正孔を再結合させ、蛍光、燐光を発光させる層である。発光層を形成する発光材料としては、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq
3)、ビスジフェニルビニルビフェニル(BDPVBi)、1,3−ビス(p−t−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾールイル)フェニル(OXD−7)、N,N'−ビス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(BPPC)、1,4ビス(N−p−トリル−N−4−(4−メチルスチリル)フェニルアミノ)ナフタレン等の低分子化合物、ポリフェニレンビニレン系ポリマー等の高分子化合物を用いることができる。
【0027】
また、発光材料として、ホストとドーパントの二成分系からなり、ホスト分子で生成した励起状態のエネルギーがドーパント分子へ移動してドーパント分子が発光するものを用いることができる。二成分系の発光材料として、例えば、上記発光材料、電子輸送性材料、正孔輸送性材料を用いることができる。具体的には、例えば、ホストのAlq
3等のキノリノール金属錯体に、ドーパントの4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、2,3−キナクリドン等のキナクリドン誘導体や、3−(2'−ベンゾチアゾール)−7−ジエチルアミノクマリン等のクマリン誘導体をドープしたもの、ホストの電子輸送性材料のビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリン)−4−フェニルフェノール−アルミニウム錯体に、ドーパントのペリレン等の縮合多環芳香族をドープしたもの、あるいはホストの正孔輸送性材料の4,4'−ビス(m−トリルフェニルアミノ)ビフェニル(TPD)にドーパントのルブレン等をドープしたもの、ホストの4,4’−ビスカルバゾリルビフェニル(CBP)、4,4’−ビス(9−カルバゾリル)−2,2’−ジメチルビフェニル(CDBP)等のカルバゾール化合物にドーパントの白金錯体やトリス−(2フェリニルピリジン)イリジウム錯体(Ir(ppy)
3)、(ビス(4,6−ジ−フルオロフェニル)−ピリジネート−N,C2’)ピコリネートイリジウム錯体(FIr(pic))、(ビス(2−(2’−ベンゾ(4,5−α)チエニル)ピリジネート−N,C2’)(アセチルアセトネート)イリジウム錯体(Btp
2Ir(acac))、Ir(pic)
3、Bt
2Ir(acac)等のイリジウム錯体をドープしたもの等を用いることができる。
【0028】
これらの発光材料は、例えば、有機EL装置の目的とする発光色によって選択することができる。具体的には、緑色発光の場合はAlq
3、ドーパントにキナクドリンやクマリン、Ir(ppy)
3等、青色発光の場合はDPVBi、ドーパントにペリレンやジスチリルアリーレン誘導体、FIr(pic)等、緑〜青緑色発光の場合はOXD−7等、赤〜オレンジ色発光の場合は、ドーパントにDCM、DCJTB、Ir(pic)
3等、黄色発光の場合は、ドーパントにルブレン、Bt2Ir(acac)等を用いることができる。また、白色発光を得るために、発光材料としてホストにAlq
3等、ゲストにDCM(橙色)等を組み合わせて使用することができる。
【0029】
白色発光の発光層としては、赤色、緑色、青色を発光する発光材料をそれぞれ含有する三層積層構造、或いは、青色と黄色等、補色を発光する発光材料をそれぞれ含有する二層積層構造としたり、これら各色の発光材料を多元共蒸着等で形成することによりこれらの発光材料が混在する一層構造とすることもできる。更に、上記三層や二層の積層構造における各色層を構成する発光材料を、順次、赤色、青色、緑色等の微細な画素を平面的に配列した発光層とすることもできる。
【0030】
さらに、発光層105上に電子輸送層106を形成(成膜)する。電子輸送層は、発光層への電子の移動率を高めるため、適度なイオン化ポテンシャルを有し、同時に、発光層から正孔が漏洩するのを阻止できる電子親和力を有する電子輸送層材料で形成することが好ましい。電子輸送層を形成する電子輸送層材料として、例えば、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(Bu−PBD)、OXD−7等のオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、キノリノール系の金属錯体等の有機物質や、これらの有機材料にリチウム等アルカリ金属のような電子供与性物質を化学ドーピングしたものを用いることができる。
【0031】
また、
図1には示していないが、発光層内で発光に寄与しないで通過する正孔をブロックし、発光層内での再結合確率を高めるために、前記発光層と前記電子輸送層との間に、正孔ブロック層を設けてもよい。正孔ブロック層は、2,9‐ジメチル‐4,7‐ジフェニル‐1,10‐フェナントロリン(BCP)、トリフェニルジアミン誘導体、トリアゾール誘導体等を用いることができる。
【0032】
さらに、電子輸送層106上に電子注入層107を形成(成膜)してもよい。電子注入層は、例えば、陰極である電極層の形成に用いられるアルミニウム等金属材料の仕事関数と、電子輸送層の電子親和力(LUMO準位)のエネルギー差が大きいことに起因して、電極層から電子輸送層への電子の注入が困難になるのを緩和するために設けられる。電子注入層を形成する電子注入層材料としては、リチウムやセシウム等のアルカリ金属、若しくは、カルシウム等のアルカリ土類金属のフッ化物や酸化物、又は、マグネシウム銀やリチウムアルミニウム合金等から選択される仕事関数の小さい物質を用いることができる。
【0033】
前記電極層間(陽極102と陰極108との間)に設けられる有機層の厚さは、例えば、各層を1〜500nm、合計100〜1000nmを挙げることができる。
【0034】
なお、前記有機層の形成材料(感光性着色組成物)は、例えば、有機溶媒に溶解させて塗布しても良い。前記有機溶媒は、特に限定されないが、シクロヘキサノン、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PEGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PEGME)、エチル−3−エトキシプロピオネート(EEP)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(MEC)、メトキシプロピルアセテート、酢酸−エチル、酢酸n−ブチル、3−メトキシブチルアセテート等が挙げられ、1種類のみ用いても複数種類併用しても良い。
【0035】
さらに、陰極108を形成(製膜)する。
図1では、陽極102および基板101が透明(透光性)で、そちら側から発光を取り出すことができる。したがって、陰極108は、透明(透光性)でなくても良い。陰極は、例えば、アルミニウム、銀等の金属薄膜の遮光性の陰極として形成することが、有機層の発光を陽極(透光性電極)層側へ反射し、発光面からの放出光量の減少を抑制できることから、好ましい。なお、電極層(陽極および陰極)の厚さは、配線抵抗による電圧降下を考慮すると厚い方が好ましく、例えば、50〜300nmとすることができる。また、陰極を前記透明導電性材料(透光性電極材料)で形成してもよい。この場合、非発光時に透明となる有機EL素子を作製することができる。また、電極層の一端に配線部材との接続部を形成するため、例えば
図1に示したように、一端を延長して設けることが好ましい。
【0036】
さらに、シール部110および封止フィルム109を設け、前述のとおり、有機層を封止する。このようにして、
図1に示す有機ELパネルを製造することができる。
【0037】
なお、
図1の構造は例示であり、本発明の有機ELパネルは、同図により何ら限定されない。例えば、本発明の有機ELパネルの構造および材質は、透光性基板として前記本発明の有機ELパネル用透光性基板を用いること以外は、一般的な有機ELパネルの構造および材質と同じまたはそれに準じても良い。有機ELパネルの製造方法も特に限定されず、透光性基板として前記本発明の有機ELパネル用透光性基板を用いること以外は、一般的な有機ELパネルの構造と同じまたはそれに準じても良い。例えば、陽極である透明電極(透光性電極)層上に設けられる有機層は、
図1では、正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106、および電子注入層107であるが、これに限定されない。前記有機層は、例えば、有機エレクトロルミネッセンス物質を含む発光層、発光層を挟持するように正孔輸送層、電子輸送層、さらにこれらを挟持する正孔注入層、電子注入層等、また、正孔や電子をブロックし発光効率を高めるキャリアブロック層等の複数の層で構成してもよい。また、例えば、前記有機層の製膜方法は、特に限定されず、真空蒸着法、塗布法等、どのような方法でも良い。
【0038】
また、
図1では、片面(同図において下側)から発光を取り出す構造であるが、本発明の有機ELパネルは、これに限定されず、両面から光を取り出すことができる、両面発光型の構造でも良い。両面発光型の有機ELパネルの場合、例えば、陰極(
図1では陰極108)にも、透明電極(例えばITO等)を用いることが好ましい。また、この場合、例えば、前記本発明の有機ELパネル用透光性基板を両面に用いることが好ましい。具体的には、例えば、陰極側の封止フィルム(
図1では、封止フィルム109)にも前記本発明の有機ELパネル用透光性基板を用いることが好ましい。
【0039】
また、陰極に透明電極を用いることで、発光した光の陰極反射が無くなる。これにより、有機ELパネル内で反射もしくは導波した光、または膜厚干渉等による光の配向の波長依存が小さくなるため、より色ずれをなくすことができる。また、例えば、陰極側の封止フィルムに前記本発明の有機ELパネル用透光性基板を用いることによっても、同様の効果が得られる。
【0040】
さらに、本発明の有機EL装置も特に限定されず、例えば、前記本発明の有機ELパネル用透光性基板または前記本発明の有機ELパネルを含むこと以外は、一般的な有機EL装置と同じまたはそれに準じても良い。
【0041】
図2(a)に、本発明の第1の有機ELパネル用透光性基板を光が透過した際の様子を模式的に例示する。図示のとおり、この有機ELパネル用透光性基板201は、透光性の樹脂フィルム202からなる。透光性基板201(樹脂フィルム202)は、ポリマー(樹脂)分子203および204から形成され、透光性基板201全体として、面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が実質的に存在しない)。なお、ポリマー分子203および204は特に限定されず、例えば、後述の各実施形態のように、正の複屈折性を有するポリマー分子および負の複屈折性を有するポリマー分子であっても良い。
【0042】
同図の透光性基板201において、正面方向(基板平面に垂直な方向)からの入射光205は、透光性基板201を透過し、透過光205aとなる。また、斜め方向(基板平面に垂直な方向に対し傾斜した方向)からの入射光206および207は、それぞれ、透光性基板201を透過し、透過光206aおよび207aとなる。図示のとおり、透過光205a、206aおよび207aには、入射光の角度および出射光の角度(すなわち視野角)に依存した色調の変化(色ズレ・色つき)がない。これは、基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(屈折率異方性が実質的に存在しない)ためである。
【0043】
また、
図2(b)に示す屈折率楕円体213は、正面透過光205aの屈折率楕円体である。
図2(c)に示す屈折率楕円体223は、斜め透過光206aまたは207aの屈折率楕円体である。図示のとおり、基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(屈折率異方性が実質的に存在しない)ため、正面透過光および斜め透過光の屈折率楕円体は、いずれも円形に近い。なお、正面透過光205aの屈折率楕円体213は、
図2(b)に示すように、屈折率楕円体211と屈折率楕円体212の合成でも良い。また、斜め透過光206aまたは207aの屈折率楕円体223は、
図2(c)に示すように、屈折率楕円体221と屈折率楕円体222の合成でも良い。ただし、これら屈折率楕円体の合成は例示であって、本発明を何ら限定しない。
【0044】
なお、
図11の断面図に、屈折率異方性を有する有機ELパネル用透光性基板の一例を模式的に示す。図示のとおり、この有機ELパネル用透光性基板1101は、樹脂フィルム1102からなる。樹脂フィルム1102は、樹脂1103から形成されている。この透光性基板(樹脂フィルム)1102は、屈折率異方性を有する。なお、同図において、見やすさのために、樹脂フィルム1102についてはハッチングを省略している。他の断面図においても同様である。また、
図12に、
図11の有機ELパネル用透光性基板1101を光が透過した際の様子を模式的に例示する。図示のとおり、正面方向(基板平面に垂直な方向)からの入射光1205は、透光性基板1101を透過し、透過光1205aとなる。また、斜め方向(基板平面に垂直な方向に対し傾斜した方向)からの入射光1206および1207は、それぞれ、透光性基板1101を透過し、透過光1206aおよび1207aとなる。図示のとおり、正面透過光205aは、斜め透過光206aおよび207aに対し、入射光の角度および出射光の角度(すなわち視野角)に依存した色調の変化(色ズレ・色つき)がある。これは、透光性基板1101に屈折率異方性が存在するためである。正面透過光205aの屈折率楕円体を模式的に例示すると、例えば、
図12(b)の屈折率楕円体1211のようになる。透過光1206aおよび1207aの屈折率楕円体を模式的に例示すると、例えば、
図12(c)の屈折率楕円体1221のようになる。
【0045】
本発明の有機ELパネル用透光性基板は、例えば、
図2で説明したように、基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が実質的に存在しない)透光性基板(前記本発明の第1の有機ELパネル用透光性基板)であっても良い。または、本発明の有機ELパネル用透光性基板は、基板の面内方向および厚さ方向の少なくとも一方に屈折率異方性を有する透光性基板(前記本発明の第2の有機ELパネル用透光性基板)であっても良い。これにより、有機ELパネルに種々の複屈折性を有する部材を用いたまたは複屈折を有する特性が生じた場合においても、それらの複屈折性を、本発明の透光性基板の複屈折性でキャンセルする(すなわち、有機ELパネル全体において、基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が実質的に存在しないようにする)ことが可能となる。さらに、本発明の有機ELパネル用透光性基板は、これらに限定されず、例えば、前記本発明の有機ELパネル用透光性基板の屈折率異方性の制御方法により、面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性を自在に制御した透光性基板(前記本発明の第3の有機ELパネル用透光性基板)であっても良い。これによれば、例えば、有機ELパネル用透光性基板の位相差や膜厚による干渉を利用して光の配向を制御することにより、色味の異なった光を出射させることも可能となる。
【0046】
なお、本発明の有機ELパネル用透光性基板において、「基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が実質的に存在しない)」は、例えば、下記条件(A)〜(E)の少なくとも一つを満たすことをいう。また、有機ELパネルについて「面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が実質的に存在しない)」は、例えば、後述の条件(A’)〜(E’)の少なくとも一つを満たすことをいう。
【0047】
[条件(A)]
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向に垂直な方向から入射する波長550nmの光に対し、下記式(I)で表される面内方向位相差Ripが、30nm以下であり、かつ、下記式(II)で表される厚さ方向位相差Rthが80nm以下である。
Rip=(nx−ny)・d ・・・(I)
Rth={(nx+ny)/2−nz}・d ・・・(II)
前記式(I)および(II)において、nx、nyおよびnzは、それぞれ前記有機ELパネル用透光性基板におけるX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示す。前記X軸方向とは、前記有機ELパネル用透光性基板の面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸方向は、前記面内において前記X軸方向に対して垂直な軸方向であり、Z軸方向は、前記X軸およびY軸に垂直な厚さ方向を示す。
また、前記式(I)および(II)において、dは、前記有機ELパネル用透光性基板の厚さ(nm)を表す。
【0048】
前記条件(A)において、面内方向位相差Ripは、より好ましくは20nm以下であり、さらに好ましくは18nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下であり、特に好ましくは5nm以下である。面内方向位相差Ripの下限値は、特に限定されないが、例えば1nm以上である。面内方向位相差Ripは、理想的には0nmである。前記条件(A)において、厚さ方向位相差Rthは、より好ましくは60nm以下であり、さらに好ましくは40nm以下であり、特に好ましくは20nm以下である。厚さ方向位相差Rthの下限値は、特に限定されないが、例えば2nm以上である。厚さ方向位相差Rthは、理想的には0nmである。
【0049】
前記条件(A)において、面内方向位相差Δndおよび厚さ方向位相差Rthの測定方法および測定装置は、特に限定されないが、例えば、王子計測機器株式会社のKOBRA(商品名)、光弾性変調器を使用したHINDS Instruments社のExicor(商品名)等の測定機器を用いて測定することができる。または、分光エリプソメーターにより前記式(I)および(II)におけるnx、nyおよびnzを測定し、その測定値と前記有機ELパネル用透光性基板の厚さdとから、面内方向位相差Ripおよび厚さ方向位相差Rthを算出することもできる。
【0050】
[条件(B)]
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向とのなす角が45度の方向から入射する波長550nmの光に対し、前記式(II)で表されるRthを前記式(I)で表されるRipで除した数値(Rth/Rip)が5.0以下である。
【0051】
前記Rth/Ripの数値(RthとRipの比)が小さい(1に近い)ほど、色ズレ、色付きが小さくなる傾向があり、好ましい。前記Rth/Ripの数値は、より好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下である。前記Rth/Ripの下限値は、特に限定されないが、例えば1.0以上である。
【0052】
[条件(C)]
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向に垂直な方向から入射する光に対し、
波長380〜780nmの範囲において、前記式(I)で表される面内位相差Ripが、波長550nmにおけるRipに対し95〜110%(比が0.95〜1.10)の範囲であり、かつ、
波長380〜780nmの範囲において、前記式(II)で表される厚さ方向位相差Rthが、波長550nmにおけるRthに対し90〜115%(比が0.90〜1.15)の範囲である。
【0053】
前記条件(C)において、波長380〜780nmの範囲における面内位相差Ripの波長分散は、波長550nmにおけるRipに対し、より好ましくは95〜110%の範囲であり、さらに好ましくは98〜105%の範囲であり、特に好ましくは99〜103%の範囲である。
前記条件(C)において、波長380〜780nmの範囲における厚さ方向位相差Rthの波長分散は、波長550nmにおけるRthに対し、より好ましくは90〜115%の範囲であり、さらに好ましくは95〜110%の範囲であり、特に好ましくは98〜105%の範囲である。
【0054】
前記条件(C)において、面内方向位相差Δndおよび厚さ方向位相差Rthの測定方法および測定装置は、特に限定されないが、例えば、王子計測機器株式会社のKOBRA(商品名)を用いて測定することができる。
【0055】
[条件(D)]
同一の測定波長において、
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向とのなす角が2〜90度(より好ましくは、0〜90度)の範囲における輝度が、前記なす角が90度での輝度に対し、85〜110%の範囲内であり、かつ、
前記なす角が2〜90度(より好ましくは、0〜90度)の範囲における色度変化Δu’v’が、0〜0.02の範囲であり、
ただし、前記測定波長は、波長380〜780nmの範囲内の波長である。
【0056】
前記条件(D)において、前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向とのなす角が2〜90度(より好ましくは、0〜90度)の範囲における輝度は、前記面とのなす角が90度の場合の輝度に対して、より好ましくは85〜110%の範囲であり、さらに好ましくは90〜105%の範囲であり、特に好ましくは98〜100%の範囲である。色度変化はΔu’v’で、より好ましくは0〜0.020の範囲であり、さらに好ましくは0〜0.015の範囲であり、特に好ましくは0〜0.010%の範囲である。前記条件(D)における輝度色度および色度変化の測定方法および測定装置は、特に限定されないが、例えば、ELDIM社のEZコントラスト(商品名)を用いて測定することができる。なお、前記条件(D)は、輝度色度の視野角依存性が実質的にない(ないか、または少ない)ことを表す。輝度色度の視野角依存性については、定性的には、例えば、2枚の直交した偏光子の間に試料を挟んで測定・観察を行うクロスニコル法によって測定することもできる。
【0057】
[条件(E)]
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向とのなす角が2〜90度(より好ましくは、0〜90度)の範囲において、
前記なす角が同一である場合に、波長380〜780nmの範囲における前記RipおよびRthが、波長550nmにおける前記RipおよびRthに対し90〜120%の範囲である。
【0058】
前記条件(E)において、前記面内方向とのなす角が90度の方向(即ち基板に対して正面方向)および0度の方向に向かって測定した位相差RipおよびRthが、波長380〜780nmの範囲において、波長550nmの場合のRipおよびRthに対し、90〜115%の範囲であることがより好ましく、95〜110%の範囲であることがさらに好ましく、98〜105%の範囲であることが特に好ましい。前記条件(E)における位相差RipおよびRthの測定方法および測定装置は、特に限定されないが、例えば、王子計測機器製KOBRA(商品名)等を用いて測定することができる。なお、前記条件(E)は、輝度色度の波長依存性が実質的にない(ないか、または少ない)ことを表す。輝度色度の波長依存性については、定性的には、例えば、2枚の直交した偏光子の間に試料を挟んで測定・観察を行うクロスニコル法によって測定することもできる。
【0059】
本発明の有機ELパネルにおいて、前記有機ELパネルが、面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が実質的に存在しない)ことが好ましく、下記条件(A’)〜(E’)の少なくとも一つを満たすことがより好ましい。下記条件(A’)〜(E’)において、測定方法は、例えば、前記条件(A)〜(E)と同様で良い。
【0060】
[条件(A’)]
前記有機ELパネルの面内方向に垂直な方向から入射する波長550nmの光に対し、下記式(I’)で表される面内方向位相差Rip’が、30nm以下であり、かつ、下記式(II’)で表される厚さ方向位相差Rth’が80nm以下である。
Rip’=(nx’−ny’)・d’ ・・・(I’)
Rth’={(nx’+ny’)/2−nz’}・d’ ・・・(II’)
前記式(I’)および(II’)において、nx’、ny’およびnz’は、それぞれ前記有機ELパネルにおけるX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示す。前記X軸方向とは、前記有機ELパネルの面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸方向は、前記面内において前記X軸方向に対して垂直な軸方向であり、Z軸方向は、前記X軸およびY軸に垂直な厚さ方向を示す。
また、前記式(I’)および(II’)において、d’は、前記有機ELパネルの厚さ(nm)を表す。
【0061】
前記条件(A’)において、面内方向位相差Rip’は、より好ましくは20nm以下であり、さらに好ましくは18nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下であり、特に好ましくは5nm以下である。面内方向位相差Rip’の下限値は、特に限定されないが、例えば1nm以上である。面内方向位相差Δnd’は、理想的には0nmである。前記条件(A’)において、厚さ方向位相差Rth’は、より好ましくは60nm以下であり、さらに好ましくは40nm以下であり、特に好ましくは20nm以下である。厚さ方向位相差Rth’の下限値は、特に限定されないが、例えば2nm以上である。厚さ方向位相差Rth’は、理想的には0nmである。
【0062】
[条件(B’)]
前記有機ELパネルの面内方向とのなす角が45度の方向から入射する波長550nmの光に対し、前記式(II’)で表されるRth’を前記式(I’)で表されるRip’で除した数値(Rth’/Rip’)が5.0以下である。
【0063】
前記Rth’/Rip’の数値(Rth’とRip’の比)が小さい(1に近い)ほど、色ズレ、色付きが小さくなる傾向があり、好ましい。前記Rth’/Rip’の数値は、より好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下である。前記Rth’/Rip’の下限値は、特に限定されないが、例えば1.0以上である。
【0064】
[条件(C’)]
前記有機ELパネルの面内方向に垂直な方向から入射する光に対し、
波長380〜780nmの範囲において、前記式(I’)で表される面内位相差Rip’が、波長550nmにおけるRip’に対し95〜110%(比が0.95〜1.10)の範囲であり、かつ、
波長380〜780nmの範囲において、前記式(II’)で表される厚さ方向位相差Rthが、波長550nmにおけるRth’に対し90〜115%(比が0.90〜1.15)の範囲である。
【0065】
前記条件(C’)において、波長380〜780nmの範囲における面内位相差Ripの波長分散は、波長550nmにおけるRipに対し、より好ましくは95〜110%の範囲であり、さらに好ましくは98〜105%の範囲であり、特に好ましくは99〜103%の範囲である。前記条件(B’)において、波長380〜780nmの範囲における厚さ方向位相差Rthの波長分散は、波長550nmにおけるRthに対し、より好ましくは90〜115%の範囲であり、さらに好ましくは95〜110%の範囲であり、特に好ましくは98〜105%の範囲である。
【0066】
[条件(D’)]
同一の測定波長において、
前記有機ELパネルの面内方向とのなす角が2〜90度(より好ましくは、0〜90度)の範囲における輝度が、前記なす角が90度での輝度に対し、85〜110%の範囲内であり、かつ、
前記なす角が2〜90度(より好ましくは、0〜90度)の範囲における色度変化Δu’v’が、0〜0.02の範囲であり、
ただし、前記測定波長は、波長380〜780nmの範囲内の波長である。
【0067】
前記条件(D’)において、前記面内方向とのなす角が2〜90度(より好ましくは、0〜90度)の範囲における輝度は、前記面内方向とのなす角が90度の場合の輝度に対して、より好ましくは85〜110%の範囲であり、さらに好ましくは90〜105%の範囲であり、特に好ましくは98〜100%の範囲である。色度変化はΔu’v’で、より好ましくは0〜0.020の範囲であり、さらに好ましくは0〜0.015の範囲であり、特に好ましくは0〜0.010%の範囲である。
【0068】
[条件(E’)]
前記有機ELパネルの面内方向とのなす角が2〜90度(より好ましくは、0〜90度)の範囲において、
前記なす角が同一である場合に、波長380〜780nmの範囲における輝度/視感度(輝度を視感度で除した数値)が、波長550nmにおける前記輝度/視感度に対し85〜110%の範囲である。
【0069】
前記条件(E’)において、前記なす角が同一である場合に、波長380〜780nmの範囲における輝度/視感度(輝度を視感度で除した数値)が、波長380〜780nmの範囲において、波長550nmの場合における前記輝度/視感度に対し、より好ましくは90〜115%の範囲であり、さらに好ましくは95〜110%の範囲であり、特に好ましくは98〜105%の範囲である。
【0070】
図8のグラフに、本発明の有機ELパネル用透光性基板を用いた有機ELパネルの色度変化の一例を示す。同図において、縦軸は、色度変化(Δu’v’)を表し、横軸は、透光性基板に対する色度測定時の角度(視野角)を表す。前記「透光性基板に対する色度測定時の角度(視野角)」は、前記有機ELパネル用透光性基板の正面法線方向(すなわち、前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向に垂直な方向)を0度とし、前記正面法線方向からのなす角である。また、同図において、「0°」「45°」「90°」「135°」は、それぞれ、前記有機ELパネル用透光性基板の正面を0度とし、その正面からのなす角が0度、45度、90度、135度の視野から観察した場合の色度変化を表す曲線である。また、
図9のグラフに、屈折率異方性を有する(屈折率異方性が制御されていない)有機ELパネル用透光性基板(例えば
図11および12)を用いた有機ELパネルの色度変化の一例を示す。同図において、縦軸、横軸、および曲線「0°」「45°」「90°」「135°」の意味は、それぞれ、
図8と同様である。
図9に示す通り、屈折率異方性を有する透光性基板を用いた有機ELパネルは、45度、135度方向から見た場合光モレがあり、その波長依存性から色度も変化している。一方、本発明の透光性基板を用いると、基板内の屈折率異方性をなくすことができるため、有機ELパネルのどの視野からみても色ズレ・カラーシフトを抑えることができている。さらに、
図10(a)に、本発明の有機ELパネル用透光性基板を用いた有機ELパネルを斜め視野から見た場合の表示の例を、模式的に示す。
図10(b)に、屈折率異方性を有する(屈折率異方性が制御されていない)有機ELパネル用透光性基板を用いた有機ELパネルを斜め視野から見た場合の表示の例を、模式的に示す。図示のとおり、
図10(a)(本発明)の有機ELパネル1001では、表示箇所による色ズレ・カラーシフト等に基づく表示ムラがない。一方、
図10(b)における、屈折率異方性を有する(屈折率異方性が制御されていない)有機ELパネル用透光性基板1002では、表示箇所による色ズレ・カラーシフト等に基づく表示ムラがある。
【0071】
なお、本発明の有機ELパネル用透光性基板の厚さは、特に限定されない。例えば、本発明の有機ELパネル用透光性基板は、折り曲げ可能(可撓性)なフレキシブル透光性基板(フレキシブルフィルム)であっても良いが、折り曲げできない(不撓性)程度の大きい厚みを持った透光性基板であっても良い。本発明の有機ELパネル用透光性基板が可撓性の場合、その厚さは、例えば20〜300μm、好ましくは30〜150μm、より好ましくは50〜100μmである。不撓性の場合、その厚さは、例えば300〜10000μm、好ましくは500〜5000μm、より好ましくは700〜3000μmである。可撓性(薄型)の透光性基板の場合、有機ELパネルの厚さを低減できる利点がある。一方、不撓性の透光性基板の場合、強度に優れ、かつ、ガラス製の透光性基板と比較して、割れにくくかつ軽量であるため、取扱い易さに優れる利点がある。また、不撓性の透光性基板であっても、強度に優れ割れにくいために、ガラス製の透光性基板と比較すると薄型化しやすい利点がある。不撓性の透光性基板は、例えば、割れにくく安全で、かつ軽量であることにより、乗り物、運輸機器等(例えば、車、飛行機等)の照明用に適する。また、不撓性の透光性基板は、割れにくく安全で軽量であることに加えて、薄型化可能であることにより、例えば、住居等の照明用に適する。ただし、これらの用途は例示であり、本発明を何ら限定しない。
【0072】
不撓性の(厚さが大きい)透光性基板の場合、厚さが大きいために、形成材料である樹脂に由来する位相差および部分偏光(振動方向の分布)が大きくなる。このため、基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(屈折率異方性が実質的に存在しない)本発明を用いることが特に重要である。基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性であるように制御する方法は、特に限定されないが、例えば、後述の各実施形態に記載の方法等でも良い。
【0073】
また、本発明の有機ELパネル用透光性基板は、シート状、フィルム状、板状等の平面形状のまま用いても良いが、三次元形状等の任意の形状に加工して用いても良い。特に、曲げ加工して用いる場合、曲げ部分の歪みに由来する位相差、部分偏光等が発生しやすくなる。このため、基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(屈折率異方性が実質的に存在しない)本発明を用いることが特に重要である。基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性であるように制御する方法は、前述のとおり、後述の各実施形態に記載の方法等でも良い。
【0074】
[実施形態2]
つぎに、本発明の別の実施形態について説明する。
【0075】
図3の断面図に、本実施形態の有機ELパネル用透光性基板の構造の例を模式的に示す。図示のとおり、この有機ELパネル用透光性基板301は、樹脂フィルム311および321が積層されて形成された、二層構造の積層体である。樹脂フィルム311は、正の複屈折性ポリマーフィルム312からなる。正の複屈折性ポリマーフィルム312は、正の複屈折性ポリマー313から形成されている。樹脂フィルム321は、負の複屈折性ポリマーフィルム322からなる。負の複屈折性ポリマーフィルム322は、負の複屈折性ポリマー323から形成されている。これら以外は、本実施形態の有機ELパネル用透光性基板は、実施形態1の有機ELパネル用透光性基板と同様でも良い。また、本実施形態の有機ELパネル用透光性基板を用いた有機ELパネルおよび有機EL装置についても、例えば、実施形態1の有機ELパネル用透光性基板に代えて本実施形態の有機ELパネル用透光性基板を用いること以外は、実施形態1と同様でも良い。また、311および321は、便宜上「樹脂フィルム」として説明したが、フィルム(薄膜)に限定されず、例えば、曲がらない(不撓性)程度に厚みの大きい板状であっても良い。後述の各実施形態においても、同様である。
【0076】
本実施形態の有機ELパネル用透光性基板301は、前述のとおり、正の複屈折性ポリマーフィルム312および負の複屈折性ポリマーフィルム322が積層されて形成されている。これにより、正の複屈折性ポリマー313および負の複屈折性ポリマー323がそれぞれ有する分極率異方性および屈折率異方性を、透光性基板301全体として、キャンセルすることができる。すなわち、透光性基板全体として、複屈折性が消去および光学補償されている。これにより、例えば、透光性基板起因による色の視野角依存および波長依存をなくす、または軽減することができる。
【0077】
複屈折性(分極率異方性および屈折率異方性)のキャンセル(消去および光学補償)は、例えば、
図2(b)および(c)のように行われる。すなわち、
図2(b)に示すように、正面透過光205aの屈折率楕円体213は、正の複屈折性ポリマーフィルム312を透過した光の屈折率楕円体211と、負の複屈折性ポリマーフィルム322を透過した光の屈折率楕円体212とが合成された結果、円形に近づく。また、
図2(c)に示すように、斜め透過光206aまたは207aの屈折率楕円体223は、正の複屈折性ポリマーフィルム312を透過した光の屈折率楕円体221と、負の複屈折性ポリマーフィルム322を透過した光の屈折率楕円体222とが合成された結果、円形に近づく。ただし、
図2(b)および(c)は例示であって、本実施形態の有機ELパネル用透光性基板および本発明を何ら限定しない。
【0078】
一般に、有機ELパネル用透光性基板を樹脂により形成する場合、前記樹脂のポリマー鎖を構成するモノマーユニットには、ある程度の分極率異方性(この分極率が屈折率を規定する)が存在する。このモノマーを重合したポリマー鎖にも分極率異方性が存在する。重合したポリマー鎖をみると、分極率が大きい方向は屈折率も大きくなる。このため、ポリマー鎖に平行な偏光と垂直な偏光で屈折率に違いが出ることで屈折率異方性を示すようになる。このような屈折率異方性は、主に分子構造に由来している。
【0079】
フレキシブル樹脂基板、透明高分子フィルムに用いるバインダー(例えば熱可塑性樹脂)およびそのモノマーとしては、分子分極率異方性が負または正どちらか一方の材料を使い、複屈折性に関しては検討されていなかった。例えば、高分子フィルムを形成する樹脂として用いられているポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリスチレン、エポキシ、フェノキシ、メタクリル酸とスチレンの共重合体等は、負の複屈折性を有する材料である。モノマーとしては、負の複屈折性を有する材料の代表例として、アリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等多価アクリルを用いることが用いられてきた。
【0080】
本発明者は、負の複屈折性を示すポリマー(負の複屈折性ポリマー)および正の複屈折性を示すポリマー(正の複屈折性ポリマー)の両方を用いることで、基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性を制御することを見出した。例えば、前記負の複屈折性ポリマーおよび前記正の複屈折性ポリマーが有する複屈折性(屈折率異方性)等を互いにキャンセルする(有機ELパネル用透光性基板全体において、面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が実質的に存在せず光学等方性であるようにする)ことができる。
【0081】
本実施形態による有機ELパネル用透光性基板の形成材料およびその製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下のとおりとすることができる。
【0082】
有機ELパネル用透光性基板の形成材料は、例えば、揮発成分(有機溶媒)と不揮発性成分を含んでいても良い。前記不揮発成分を有機溶媒に溶解し、キャスティング法・溶液流延製膜法等を用いて前記透光性基板を作製することができる。前記不揮発成分は、例えば、熱可塑性樹脂(バインダー)またはそのモノマーを主成分とし、必要に応じて可塑剤、重合触媒、安定剤等を含んでいても良い。透光性基板を構成するこれらの不揮発成分は、少なくとも負の複屈折性を示す部分と正の複屈折性を示す部分を含み、下記の各構成成分の中から必要に応じて選択することができる。揮発成分は、例えば、下記有機溶媒の中から1種または複数種類選択することができる。
【0083】
(1)熱可塑性樹脂溶液(バインダー)
前記バインダーは、負の複屈折性ポリマーおよび正の複屈折性ポリマーを含む。前記負の複屈折ポリマーは、特に限定されないが、そのモノマーとして、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ブチルシクロヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ブチルシクロヘキシル等のエチレン系不飽和カルボン酸エステル類、および、スチレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。また、前記正の複屈折性ポリマーは、特に限定されないが、そのモノマーとして、例えば、メタクリル酸ジフルオロエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロエチル、メタクリル酸パーフルオロエチル、メタクリル酸トリヒドロパーフルオロプロピル、メタクリル酸ジクロロロエチル、メタクリル酸トリクロロエチル、メタクリル酸テトラクロロエチル、メタクリル酸ベンジル等のエチレン系不飽和カルボン酸エステル類、および、塩化ビニル等が挙げられる。
【0084】
(2)有機溶媒
前記有機溶媒は、特に限定されないが、シクロヘキサノン、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PEGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PEGME)、エチル−3−エトキシプロピオネート(EEP)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(MEC)、メトキシプロピルアセテート、酢酸−エチル、酢酸n−ブチル、3−メトキシブチルアセテート等が挙げられ、1種類のみ用いても複数種類併用しても良い。
【0085】
前記モノマーは、重合させて負の複屈折性ポリマーまたは正の複屈折性ポリマーとした後に前記有機溶媒に溶かし、それぞれ、負の複屈折性を示すポリマーフィルムと、正の複屈折性を示すポリマーフィルムとを形成しても良い。また、モノマーの状態で前記有機溶媒に溶かし、フィルム状に形成した後に、前記モノマーを重合させ、負の複屈折性ポリマーまたは正の複屈折性ポリマーとしても良い。負の複屈折性を示すポリマーフィルムは、例えば、ポリメタクリル酸メチルを主成分とする透明高分子フィルムを用いても良い。また、正の複屈折性を示すポリマーフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする透明高分子フィルムを用いても良い。これら負の複屈折性を示すポリマーフィルムと、正の複屈折性を示すポリマーフィルムとを貼り合わせ、本実施形態の有機ELパネル用透光性基板とする。前記負の複屈折性を示すポリマーフィルムと、前記正の複屈折性を示すポリマーフィルムとは、例えば、以下のようにして製造できる。
【0086】
(溶液のフィルム化)
前記バインダーまたはモノマーの溶液を、光学フィルムを製造する方法の1つであるキャスティング法・溶液流延法(溶液流延製膜法)を用いてフレキシブルフィルムとする。溶液流延法は、樹脂を溶媒に溶解し、必要に応じて、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の各種の添加剤を加えて樹脂溶液(ドープ)を調製する。調製した樹脂溶液をダイスから吐出し、走行や回動する無端ベルトやドラム等の移動する支持体の上に流延させる。形成された流延膜(ウェブ)を支持体上である程度まで乾燥させた後、支持体から剥離し、剥離した樹脂フィルムを各種の搬送手段で搬送しつつ、乾燥装置等を通過させることにより、光学フィルムを製造する。以下、各工程を説明する。
【0087】
(1)溶解工程
溶解は、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、常圧で行う方法、高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができる。特に、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。溶解後のドープに添加剤を加えて溶解および分散した後、濾過、脱泡して次工程に送る。
【0088】
(2)流延工程
前記ドープを、送液ポンプを通して加圧ダイスに送液し、無端の金属ベルト(例えばステンレスベルト)、または回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に流延する。前記ドープは、例えば、加圧ダイスリットから流延しても良い。製膜速度を上げるために、前記加圧ダイスを金属支持体上に複数基設け、ドープ量を分割して重層してもよい。また、複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることもできる。
【0089】
(3)溶媒蒸発工程
この工程は、ウェブ(流延用支持体上にドープを流延し、形成されたドープ膜)を流延用支持体上で加熱し、溶媒を蒸発させフィルム形状を作製する工程である。前記溶媒を蒸発させる方法としては、ウェブ側から風を吹かせる方法または支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等がある。これらの中で、裏面液体伝熱方法(輻射熱により表裏から伝熱する方法)を用いると、乾燥効率が良く好ましい。また、前記各方法を組み合わせてもよい。
【0090】
(4)剥離工程
金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する。剥離したウェブは、次工程に送る。
【0091】
(5)乾燥工程
剥離後の前記ウェブを乾燥する。前記乾燥の方法および用いる装置は、特に限定されない。例えば、乾燥装置内に複数配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置、または、クリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター延伸装置を用いて、前記乾燥を行うことができる。乾燥方法としては、前記ウェブの両面に熱風を吹き付けても良いが、例えば、前記ウェブに赤外線を当てて加熱・乾燥させても良い。乾燥時間および乾燥温度は、特に限定されない。例えば、熱収縮や応力蓄積等の緩和等、フィルムの膜質の向上、平面性向上、表面粗さ低減等のため、最適な乾燥時間を選択することができる。
【0092】
(6)加熱処理工程
前記乾燥工程で残留溶媒を1〜50質量%に調整した状態のフィルムを、ガラス転移温度+20〜100℃で加熱処理する。加熱時間としては、生産効率も勘案し60分以下程度とすることが好ましい。この加熱処理工程では、前記残留溶媒の除去も同時に行う。本工程終了後のフィルムの残留溶媒量を、1.0W/%未満とすることが好ましい。
【0093】
なお、例えば、負の複屈折性を示すポリマーフィルムと、正の複屈折性を示すポリマーフィルムとの厚さの比率を変えることにより、透光性基板の複屈折性を制御することができる。これを利用して、前記負の複屈折性モノマーおよび前記正の複屈折性モノマーの複屈折性を、互いにキャンセルすることが可能となる。さらに、負の複屈折性を示すポリマーフィルムと、正の複屈折性を示すポリマーフィルムとの厚さの比率を変えることにより、RGB各波長に最適な樹脂の複屈折性を制御することができる。これにより、面内位相差の波長分散性を低下させ、斜め視野においても可視光全波長に沿って光を出射させることができ、色ズレ、色づきを簡便に防止できる。これらにより、有機ELパネル用透光性基板の屈折率異方性をなくすことができるため、どの視野からみても色ズレ、色づきを抑えることができる。
【0094】
また、
図2では、二層のポリマーフィルムを積層させて透光性基板を形成する例を示した。しかし、本発明は、これに限定されず、例えば、透光性を妨げない限り、三層以上を積層させた有機ELパネル用透光性基板でも良い。例えば、位相差の異なる数種類のフィルムを用い、積層順序を含めて最適配置を選択することが好ましい。これにより、使用する有機ELパネルに最適な屈折率異方性の補正、または部分偏光の補正が可能な有機ELパネル用透光性基板を提供することができる。
【0095】
[実施形態3]
つぎに、本発明のさらに別の実施形態について説明する。
【0096】
図4の断面図に、本実施形態の有機ELパネル用透光性基板の構造の例を模式的に示す。図示のとおり、この有機ELパネル用透光性基板401は、樹脂フィルム402からなる。樹脂フィルム402(有機ELパネル用透光性基板401)は、負の複屈折性を示すポリマー404と、複屈折性を示すポリマー403とが混合(ブレンド)されて形成されている。これにより、例えば、有機ELパネル用透光性基板401内で屈折率異方性がキャンセルされ、巨視的にみれば有機ELパネル用透光性基板401全体の複屈折が生じなくなる。これにより、例えば、どの視野からみても色ズレ、カラーシフト(色つき)を抑えることができる。
【0097】
また、負の複屈折性を示すポリマー404と、正の複屈折性を示すポリマー403とのブレンド比率を変えることにより、透光性基板401の複屈折性を制御することができる。例えば、透光性基板401の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(屈折率異方性が実質的に存在しない)ようにしても良い。または、透光性基板401が、面内方向および厚さ方向の少なくとも一方に屈折率異方性を有するように制御しても良い。これにより、例えば、有機ELパネルに種々の複屈折性を有する部材を用いたまたは複屈折を有する特性が生じた場合においても、それらの複屈折性をキャンセルする(有機ELパネル全体において、面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が実質的に存在せず光学等方性であるように制御する)ことが可能となる。さらに、前記ポリマーの比率を適時変えることによりRGB各波長に最適な樹脂の複屈折性を制御することができる。これにより、面内位相差の波長分散性を低下させ、斜め視野においても可視光全波長に沿って光を出射させることができ、色づきを簡便に防止できる。
【0098】
本実施形態の有機ELパネル用透光性基板は、負の複屈折性ポリマーおよび正の複屈折性ポリマー(バインダー)を混合して製造する以外は、前記実施形態2と同様にして製造することができる。バインダー(熱可塑性樹脂)のモノマーとしては、例えば、エチレン系不飽和カルボン酸エステル類、芳香族ビニル化合物等を用いることができる。モノマーが重合してポリマーとなった場合、屈折率異方性を示すことが多いので、例えば、透光性基板形成後の各色層に複屈折性を示さないよう、バインダー成分、モノマー成分合計で複屈折性を相殺できるように配分することが好ましい。前記モノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸パーフルオロエチル、メタクリル酸ジクロロロエチル、メタクリル酸トリクロロエチル、メタクリル酸ベンジル等が挙げられ、または、前記実施形態2と同様でも良く、1種類でも複数種類併用しても良い。負の複屈折ポリマーとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等が挙げられ、または、前記実施形態2と同様でも良い。正の複屈折ポリマーとしては、例えば、L−ポリ乳酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体、ポリエチレン酸化物、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレン酸化物等が挙げられ、または、前記実施形態2と同様でも良く、1種類でも複数種類併用しても良い。
【0099】
なお、本実施形態の(負の複屈折性ポリマーおよび正の複屈折性ポリマーを混合した)有機ELパネル用透光性基板を製造する場合の、成分およびその使用量比の一例を下記に示す。下記各バインダーを混合(ブレンド)するときは、例えば、ポリメタクリル酸メチルとL−ポリ乳酸の重量比が80:20〜90:10のとき、透光性基板の複屈折をキャンセルすることができる。
バインダー:バインダー樹脂分 一部エステル化していないポリメタクリル酸メチルとL−ポリ乳酸のブレンド 20〜60重量%
モノマー メタクリル酸メチル 5〜20重量%
溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート30〜75重量%
【0100】
本実施形態の有機ELパネルおよび有機EL装置も、特に限定されず、例えば、本発明の有機ELパネル用透光性基板を用いること以外は前記実施形態1または2と同様でも良い。
【0101】
[実施形態4]
つぎに、本発明のさらに別の実施形態について説明する。
【0102】
図5の断面図に、本実施形態の有機ELパネル用透光性基板の構造の例を模式的に示す。図示のとおり、この有機ELパネル用透光性基板501は、樹脂フィルム502からなる。樹脂フィルム502(有機ELパネル用透光性基板501)は、負の複屈折性を示すポリマー504と、複屈折性を示すポリマー503とがランダム共重合されて形成されている。このように共重合することで、例えば、ひとつのポリマー鎖単位で分極率異方性をキャンセルすることができる。これにより、例えば、有機ELパネル用透光性基板501内で屈折率異方性がキャンセルされ、巨視的にみれば有機ELパネル用透光性基板501全体の複屈折が生じなくなる。これにより、例えば、どの視野からみても色ズレ、カラーシフト(色つき)を抑えることができる。または、有機ELパネル用透光性基板501が有する屈折率異方性により、有機ELパネル全体の複屈折性をキャンセルする(有機ELパネル全体において、面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が実質的に存在しせず光学等方性であるように制御する)ようにしても良い。例えば、前記各実施形態と同様、負の複屈折性ポリマーと正の複屈折性ポリマーとの使用量比(質量比等)を制御することにより、有機ELパネル用透光性基板の複屈折率性を制御することも可能である。
【0103】
本実施形態の有機ELパネル用透光性基板の製造方法は、特に限定されない。例えば、負の複屈折性ポリマーと正の複屈折性ポリマーとをランダム共重合させること以外は、前記各実施形態と同様にして製造することもできる。例えば、モノマーをランダム共重合させて、負の複屈折性ポリマーと正の複屈折性ポリマーとのランダム共重合体とした後に、前記ランダム共重合体をバインダーとして、透光性基板の形状に成形しても良い。また、前記モノマーの溶液を透光性基板の形状に成形した後に、ランダム共重合させても良い。または、前記バインダーおよび前記モノマーの両方を用いても良い。前記ランダム共重合体のモノマーとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸プロピル等が挙げられ、または、前記各実施形態と同様のモノマーでも良く、1種類でも複数種類併用しても良い。負の複屈折モノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アタクリル酸ヘキシル等が挙げられ、または、前記各実施形態と同様のモノマーでも良く、1種類でも複数種類併用しても良い。正の複屈折モノマーとしては、例えば、メタクリル酸ジフルオロエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロエチル、メタクリル酸パーフルオロエチル、メタクリル酸トリヒドロパーフルオロプロピル、メタクリル酸ジクロロロエチル、メタクリル酸トリクロロエチル、メタクリル酸テトラクロロエチル、メタクリル酸ベンジル等が挙げられ、または、前記各実施形態と同様のモノマーでも良く、1種類でも複数種類併用しても良い。
【0104】
なお、本実施形態の(負の複屈折性ポリマーおよび正の複屈折性ポリマーをランダム共重合させた)有機ELパネル用透光性基板を製造する場合の、成分およびその使用量比の一例を下記に示す。例えば、下記メタクリル酸メチルとメタクリル酸パーフルオロエチルの重量比が、80:20〜85:15のとき、透光性基板の複屈折をキャンセルすることができる。
バインダー: バインダー樹脂分 PMMA 20〜60重量%
モノマー:メタクリル酸メチル、メタクリル酸パーフルオロエチル 5〜20重量%
溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート30〜70重量%。
【0105】
本実施形態の有機ELパネルおよび有機EL装置も、特に限定されず、例えば、本発明の有機ELパネル用透光性基板を用いること以外は前記各実施形態と同様でも良い。
【0106】
[実施形態5]
つぎに、本発明のさらに別の実施形態について説明する。
【0107】
図6の断面図に、本実施形態の有機ELパネル用透光性基板の構造の例を模式的に示す。図示のとおり、この有機ELパネル用透光性基板601は、樹脂フィルム602からなる。樹脂フィルム602(有機ELパネル用透光性基板601)は、負の複屈折性を示すポリマー604と、複屈折性を示すポリマー603とがブロック共重合されて形成されている。このように共重合することで、例えば、ひとつのポリマー鎖単位で分極率異方性をキャンセルすることができる。これにより、例えば、有機ELパネル用透光性基板601内で屈折率異方性がキャンセルされ、巨視的にみれば有機ELパネル用透光性基板601全体の複屈折が生じなくなる。これにより、例えば、どの視野からみても色ズレ、カラーシフト(色つき)を抑えることができる。または、有機ELパネル用透光性基板601が有する屈折率異方性により、有機ELパネル全体の複屈折性をキャンセルする(有機ELパネル全体において、面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が実質的に存在せず光学等方性であるように制御する)ようにしても良い。例えば、前記各実施形態と同様、負の複屈折性ポリマーと正の複屈折性ポリマーとの使用量比(質量比等)を制御することにより、有機ELパネル用透光性基板の複屈折率性を制御することも可能である。
【0108】
本実施形態の有機ELパネル用透光性基板の製造方法は、特に限定されない。例えば、負の複屈折性ポリマーと正の複屈折性ポリマーとをブロック共重合させること以外は、前記各実施形態と同様にして製造することもできる。例えば、モノマーをブロック共重合させて、負の複屈折性ポリマーと正の複屈折性ポリマーとのブロック共重合体とした後に、前記ブロック共重合体をバインダーとして、透光性基板の形状に成形しても良い。また、前記モノマーの溶液を透光性基板の形状に成形した後に、ブロック共重合させても良い。または、前記バインダーおよび前記モノマーの両方を用いても良い。例えば、一方が負の複屈折を示すブロックと一方が正の複屈折を示すブロックからなる、アルカリ可溶性ブロック共重合体を用いても良い。さらには、どちらか一方のブロックが、少なくともカルボキシル基、ヒドロキシル基等の酸性基を一部有していても良い。モノマーも重合してポリマーとなった場合、屈折率異方性を示すことが多い。したがって、例えば、透光性基板形成後の各色層に複屈折性を示さないよう、バインダー成分、モノマー成分合計で複屈折性を相殺できるように配分することが好ましい。前記モノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸パーフルオロエチル、メタクリル酸ジクロロロエチル、メタクリル酸トリクロロエチル、メタクリル酸ベンジル等が挙げられ、または、前記各実施形態と同様のモノマーでも良く、1種類でも複数種類併用しても良い。前記負の複屈折を有するブロックのモノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ブチルシクロヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ブチルシクロヘキシル等のエチレン系不飽和カルボン酸エステル類やスチレン等芳香族ビニル化合物が挙げられ、1種類でも複数種類併用しても良い。前記正の複屈折を有するブロックのモノマーとしては、メタクリル酸ジフルオロエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロエチル、メタクリル酸パーフルオロエチル、メタクリル酸トリヒドロパーフルオロプロピル、メタクリル酸ジクロロロエチル、メタクリル酸トリクロロエチル、メタクリル酸テトラクロロエチル、メタクリル酸ベンジル等のエチレン系不飽和カルボン酸エステル類や塩化ビニル等が挙げられ、1種類でも複数種類併用しても良い。
【0109】
前記正または負の複屈折性を有するブロックへの酸性基の導入は、例えば、エチレン系不飽和カルボン酸等、酸性基を有するモノマーと共重合可能な、前記酸性基を持たない正または負の複屈折性を有するモノマーとの共重合体により行うことができる。エチレン系不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸を挙げることができる。
【0110】
ブロック共重合体を得る重合法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、マクロモノマーを利用する方法、精密重合が可能なリビング重合法、あるいは異なるブロックを官能基反応で結合する方法等である。ポリメタクリル酸メチル等のマクロモノマーを利用すると簡便なラジカル重合法で意図するブロック共重合体を得ることができる。
【0111】
なお、本実施形態の(負の複屈折性ポリマーおよび正の複屈折性ポリマーをブロック共重合させた)有機ELパネル用透光性基板を製造する場合の、成分およびその使用量比の一例を下記に示す。例えば、下記メタクリル酸メチルとメタクリル酸パーフルオロエチルの重量比が、80:20〜85:15のとき、複屈折をキャンセルすることができる。また、バインダーとしてブロック共重合体を用いた場合、酸性基を有するモノマーの共重合量は、バインダー作製に用いた全モノマーに対して、5〜50%が好ましい。
バインダー:負の複屈折を有するポリメタクリル酸メチルと正の複屈折を有するメタクリル酸パーフルオロエチルに一部メタクリル酸を導入したブロック共重合体 20〜60重量%
モノマー:メタクリル酸メチル 5〜10重量%
溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート30〜70重量%
【0112】
本実施形態の有機ELパネルおよび有機EL装置も、特に限定されず、例えば、本発明の有機ELパネル用透光性基板を用いること以外は前記各実施形態と同様でも良い。
【0113】
[実施形態6]
つぎに、本発明のさらに別の実施形態について説明する。
【0114】
図7の断面図に、本実施形態の有機ELパネル用透光性基板の構造の例を模式的に示す。図示のとおり、この有機ELパネル用透光性基板701は、樹脂フィルム702からなる。樹脂フィルム702(有機ELパネル用透光性基板701)は、負の複屈折性を示すポリマー704と、複屈折性を示すポリマー703とがグラフト共重合されて形成されている。このように共重合することで、例えば、ひとつのポリマー鎖単位で分極率異方性をキャンセルすることができる。これにより、例えば、有機ELパネル用透光性基板701内で屈折率異方性がキャンセルされ、巨視的にみれば有機ELパネル用透光性基板701全体の複屈折が生じなくなる。これにより、例えば、どの視野からみても色ズレ、カラーシフト(色つき)を抑えることができる。または、有機ELパネル用透光性基板701が有する屈折率異方性により、有機ELパネル全体の複屈折性をキャンセルする(有機ELパネル全体において、面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が実質的に存在せず光学等方性であるように制御する)ようにしても良い。例えば、前記各実施形態と同様、負の複屈折性ポリマーと正の複屈折性ポリマーとの使用量比(質量比等)を制御することにより、有機ELパネル用透光性基板の複屈折率性を制御することも可能である。
【0115】
本実施形態の有機ELパネル用透光性基板の製造方法は、特に限定されない。例えば、負の複屈折性ポリマーと正の複屈折性ポリマーとをグラフト共重合させること以外は、前記各実施形態と同様にして製造することもできる。例えば、モノマーをグラフト共重合させて、負の複屈折性ポリマーと正の複屈折性ポリマーとのグラフト共重合体とした後に、前記グラフト共重合体をバインダーとして、透光性基板の形状に成形しても良い。また、前記モノマーの溶液を透光性基板の形状に成形した後に、グラフト共重合させても良い。または、前記バインダーおよび前記モノマーの両方を用いても良い。バインダーとしてグラフト共重合体を用いる場合、例えば、一方が負の複屈折を示す幹部または枝部と、一方が正の複屈折を示す枝部または幹部とからなる、アルカリ可溶性グラフト共重合体を用いても良い。また、例えば、どちらか一方の幹部または枝部が、少なくともカルボキシル基、ヒドロキシル基等の酸性基を一部有していても良い。モノマーも重合してポリマーとなった場合、屈折率異方性を示すことが多い。したがって、例えば、透光性基板形成後の各色層に複屈折性を示さないよう、バインダー成分、モノマー成分合計で複屈折性を相殺できるように配分することが好ましい。前記モノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸パーフルオロエチル、メタクリル酸ジクロロロエチル、メタクリル酸トリクロロエチル、メタクリル酸ベンジル等が挙げられ、または、前記各実施形態と同様のモノマーでも良く、1種類でも複数種類併用しても良い。前記負の複屈折を有する幹部または枝部のモノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ブチルシクロヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ブチルシクロヘキシル等のエチレン系不飽和カルボン酸エステル類やスチレン等芳香族ビニル化合物が挙げられ、1種類でも複数種類併用しても良い。前記正の複屈折を有する枝部または幹部のモノマーとしては、例えば、メタクリル酸ジフルオロエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロエチル、メタクリル酸パーフルオロエチル、メタクリル酸トリヒドロパーフルオロプロピル、メタクリル酸ジクロロロエチル、メタクリル酸トリクロロエチル、メタクリル酸テトラクロロエチル、メタクリル酸ベンジル等のエチレン系不飽和カルボン酸エステル類や塩化ビニル等が挙げられ、1種類でも複数種類併用しても良い。
【0116】
前記正または負の複屈折性を有するブロックへの酸性基の導入は、例えば、エチレン系不飽和カルボン酸等、酸性基を有するモノマーと共重合可能な、前記酸性基を持たない正または負の複屈折性を有するモノマーとの共重合体により行うことができる。エチレン系不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸を挙げることができる。
【0117】
グラフト共重合体を得る重合法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、マクロモノマーを利用する方法、精密重合が可能なリビング重合法、あるいは異なるブロックを官能基反応で結合する方法等である。マクロモノマーを利用すると簡便なラジカル重合法で意図するグラフト共重合体を得ることができる。
【0118】
また、グラフトポリマーは、嵩高い非晶質構造(高次構造)をとりやすく、配向複屈折性は発現しにくい。したがって、負の複屈折を示すポリマー同士、または正の複屈折を示すポリマー同士を用いてグラフト重合を行ってもよい。これにより、例えば、透光性基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(屈折率異方性が実質的に存在しない)ようにすることも可能である。
【0119】
なお、本実施形態の(負の複屈折性ポリマーおよび正の複屈折性ポリマーをグラフト共重合させた)有機ELパネル用透光性基板を製造する場合の、成分およびその使用量比の一例を下記に示す。例えば、下記アクリル酸エチル+メタクリル酸メチルとメタクリル酸パーフルオロエチルの重量比が、80:20〜85:15のとき、複屈折をキャンセルすることができる。また、バインダーとしてグラフト共重合体を用いた場合、酸性基を有するモノマーの共重合量は、バインダー作製に用いた全モノマーに対して、5〜50%が好ましい。
バインダー:ポリアクリル酸エチルを幹部に、メタクリル酸パーフルオロエチルを枝部に用いたグラフト共重合体 20〜60重量%
モノマー:メタクリル酸メチル 5〜20重量%
溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート30〜70重量%。
【0120】
本実施形態の有機ELパネルおよび有機EL装置も、特に限定されず、例えば、本発明の有機ELパネル用透光性基板を用いること以外は前記各実施形態と同様でも良い。
【実施例】
【0121】
実施形態2〜6の各方法で、基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性である(基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が実質的に存在しない)有機ELパネル用透光性基板を製造した。さらに、それを用いて、有機ELパネルを製造した。前記有機ELパネルは、正孔注入材料にCu−Pc(銅フタロシアニン)を用いた。正孔輸送材料には、α−NPD(N,N’−ジフェニル−N−N−ビス(1−ナフチル)−1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン)を用いた。発光材料としてCBP(4,4’−ビスカルバゾリルビフェニル)に、Ir(ppy)
3(トリス−(2フェリニルピリジン)イリジウム錯体)、Btp
2Ir(acac)(ビス(2−(2’−ベンゾ(4,5−α)チエニル)ピリジネート−N,C2’)(アセチルアセトネート)イリジウム錯体)をドーピング、さらにCBPに、FIr(pic) ((ビス(4,6−ジ−フルオロフェニル)−ピリジネート−N,C2’)ピコリネートイリジウム錯体)をドーピングしたものを用いた。正孔ブロック層の材料としては、BCP(2,9‐ジメチル−4,7‐ジフェニル−1,10‐フェナントロリン)を用いた。電子輸送層の材料としては、Alq
3を用いた。電子注入材料には、LiFを用いた。陰極には、Alを用いた。陽極には、ITOを用いた。これらの有機ELパネルの色度変化を測定したところ、
図9に示すように、有機ELパネルのどの視野からみても色ズレ・カラーシフトを抑えることができた。
【0122】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。例えば、前記各実施形態においては、主に、負の複屈折性ポリマーおよび正の複屈折ポリマーの両方を用いる場合について説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、負の複屈折性ポリマーまたは正の複屈折ポリマーの一方のみを用いて、本発明の有機ELパネル用透光性基板を製造しても良い。この場合、例えば、複数の複屈折ポリマーフィルムを、面内方向(x方向およびy方向)において、異なった軸方向に延伸する等で配向を変えたものを重ね合わせる、または、複数の複屈折ポリマーフィルムを、反転させて重ね合わせる角度を調整しても良い。これにより、例えば、負の複屈折性ポリマーおよび正の複屈折ポリマーの両方を用いる場合と同様に屈折率異方性を制御することが可能である。また、有機ELパネルには、発光位置、膜厚、陰極における反射等により、膜厚干渉等による光の配向の波長依存が存在する場合がある。これに対し、前述のように、本発明の有機ELパネル用透光性基板に屈折率異方性を持たせることで、前記光の配向の波長依存をキャンセルし、色ズレ・色つきを防止または軽減することもできる。
【0123】
本発明の有機ELパネル用透光性基板は、例えば、有機EL照明パネル用、または有機ディスプレイパネル用に用いることができる。すなわち、本発明の有機ELパネルは、例えば、有機EL照明パネルまたは有機ELディスプレイパネルであっても良い。また、本発明の有機EL装置は、例えば、有機EL照明装置または有機ELディスプレイ等であっても良い。本発明の有機ELパネルおよび有機EL装置の用途としては、例えば、液晶ディスプレイ等のバックライト等が挙げられる。また、本発明の有機パネルおよび有機EL装置は、例えば、インテリア、エクステリア、車載用途等に用いることができる。ただし、本発明はこれに限定されず、広範な用途に適用可能であり、例えば、一般的な有機ELパネルおよび有機EL装置と同様の任意の用途に用いることができる。
【0124】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載しうるが、以下には限定されない。
【0125】
(付記1)
樹脂により形成され、基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性であることを特徴とする有機ELパネル用透光性基板。
【0126】
(付記2)
下記条件(A)〜(E)の少なくとも一つを満たすことを特徴とする付記1記載の有機ELパネル用透光性基板。
[条件(A)]
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向に垂直な方向から入射する波長550nmの光に対し、下記式(I)で表される面内方向位相差Ripが、30nm以下であり、かつ、下記式(II)で表される厚さ方向位相差Rthが80nm以下である。
Rip=(nx−ny)・d ・・・(I)
Rth={(nx+ny)/2−nz}・d ・・・(II)
前記式(I)および(II)において、nx、nyおよびnzは、それぞれ前記有機ELパネル用透光性基板におけるX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示す。前記X軸方向とは、前記有機ELパネル用透光性基板の面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸方向は、前記面内において前記X軸方向に対して垂直な軸方向であり、Z軸方向は、前記X軸およびY軸に垂直な厚さ方向を示す。
また、前記式(I)および(II)において、dは、前記有機ELパネル用透光性基板の厚さ(nm)を表す。
[条件(B)]
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向とのなす角が45度の方向から入射する波長550nmの光に対し、前記式(II)で表されるRthを前記式(I)で表されるRipで除した数値(Rth/Rip)が5.0以下である。
[条件(C)]
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向に垂直な方向から入射する光に対し、
波長380〜780nmの範囲において、前記式(I)で表される面内位相差Ripが、波長550nmにおけるRipに対し95〜110%(比が0.95〜1.10)の範囲であり、かつ、
波長380〜780nmの範囲において、前記式(II)で表される厚さ方向位相差Rthが、波長550nmにおけるRthに対し90〜115%(比が0.90〜1.15)の範囲である。
[条件(D)]
同一の測定波長において、
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向とのなす角が2〜90度の範囲における輝度が、前記なす角が90度での輝度に対し、85〜110%の範囲内であり、かつ、
前記なす角が2〜90度の範囲における色度変化Δu’v’が、0〜0.02の範囲であり、
ただし、前記測定波長は、波長380〜780nmの範囲内の波長である。
[条件(E)]
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向とのなす角が2〜90度の範囲において、
前記なす角が同一である場合に、波長380〜780nmの範囲における前記RipおよびRthが、波長550nmにおける前記RipおよびRthに対し90〜120%の範囲である。
【0127】
(付記3)
樹脂により形成され、
基板の面内方向および厚さ方向の少なくとも一方に屈折率異方性を有し、
有機ELパネルに用いた場合に、前記有機ELパネル全体が、その面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性となることを特徴とする有機ELパネル用透光性基板。
【0128】
(付記4)
前記樹脂が、負の複屈折性を示すポリマーおよび正の複屈折性を示すポリマーを含む付記1から3のいずれかに記載の有機ELパネル用透光性基板。
【0129】
(付記5)
負の複屈折性を示すポリマーフィルムと、正の複屈折性を示すポリマーフィルムとが積層されて形成された付記4記載の有機ELパネル用透光性基板。
【0130】
(付記6)
負の複屈折性を示すポリマーと、正の複屈折性を示すポリマーとが混合されて形成された付記4または5記載の有機ELパネル用透光性基板。
【0131】
(付記7)
負の複屈折性を示すポリマーと、正の複屈折性を示すポリマーとがランダム共重合されて形成された付記4から6のいずれかに記載の有機ELパネル用透光性基板。
【0132】
(付記8)
負の複屈折性を示すポリマーと、正の複屈折性を示すポリマーとがブロック共重合されて形成された付記4から7のいずれかに記載の有機ELパネル用透光性基板。
【0133】
(付記9)
負の複屈折性を示すポリマーと、正の複屈折性を示すポリマーとがグラフト共重合されて形成された付記4から8のいずれかに記載の有機ELパネル用透光性基板。
【0134】
(付記10)
フレキシブル透光性基板であることを特徴とする付記1から9のいずれかに記載の有機ELパネル用透光性基板。
【0135】
(付記11)
有機EL照明パネル用透光性基板であることを特徴とする付記1から10のいずれかに記載の有機ELパネル用透光性基板。
【0136】
(付記12)
有機ELディスプレイパネル用透光性基板であることを特徴とする付記1から10のいずれかに記載の有機ELパネル用透光性基板。
【0137】
(付記13)
樹脂により形成された有機ELパネル用透光性基板における前記樹脂の屈折率異方性を制御することにより、前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性を制御することを特徴とする、前記有機ELパネル用透光性基板の屈折率異方性の制御方法。
【0138】
(付記14)
前記有機ELパネル用透光性基板が、前記基板の面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性となるように制御することを特徴とする付記13記載の方法。
【0139】
(付記15)
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性が、下記条件(A)〜(E)の少なくとも一つを満たすように制御することを特徴とする付記14記載の方法。
[条件(A)]
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向に垂直な方向から入射する波長550nmの光に対し、下記式(I)で表される面内方向位相差Ripが、30nm以下であり、かつ、下記式(II)で表される厚さ方向位相差Rthが80nm以下である。
Rip=(nx−ny)・d ・・・(I)
Rth={(nx+ny)/2−nz}・d ・・・(II)
前記式(I)および(II)において、nx、nyおよびnzは、それぞれ前記有機ELパネル用透光性基板におけるX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示す。前記X軸方向とは、前記有機ELパネル用透光性基板の面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸方向は、前記面内において前記X軸方向に対して垂直な軸方向であり、Z軸方向は、前記X軸およびY軸に垂直な厚さ方向を示す。
また、前記式(I)および(II)において、dは、前記有機ELパネル用透光性基板の厚さ(nm)を表す。
[条件(B)]
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向とのなす角が45度の方向から入射する波長550nmの光に対し、前記式(II)で表されるRthを前記式(I)で表されるRipで除した数値(Rth/Rip)が5.0以下である。
[条件(C)]
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向に垂直な方向から入射する光に対し、
波長380〜780nmの範囲において、前記式(I)で表される面内位相差Ripが、波長550nmにおけるRipに対し95〜110%(比が0.95〜1.10)の範囲であり、かつ、
波長380〜780nmの範囲において、前記式(II)で表される厚さ方向位相差Rthが、波長550nmにおけるRthに対し90〜115%(比が0.90〜1.15)の範囲である。
[条件(D)]
同一の測定波長において、
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向とのなす角が2〜90度の範囲における輝度が、前記なす角が90度での輝度に対し、85〜110%の範囲内であり、かつ、
前記なす角が2〜90度の範囲における色度変化Δu’v’が、0〜0.02の範囲であり、
ただし、前記測定波長は、波長380〜780nmの範囲内の波長である。
[条件(E)]
前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向とのなす角が2〜90度の範囲において、
前記なす角が同一である場合に、波長380〜780nmの範囲における前記RipおよびRthが、波長550nmにおける前記RipおよびRthに対し90〜120%の範囲である。
【0140】
(付記16)
前記樹脂として、負の複屈折性を示すポリマーおよび正の複屈折性を示すポリマーを用いることにより、前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性を制御することを特徴とする付記13から15のいずれかに記載の方法。
【0141】
(付記17)
負の複屈折性を示すポリマーフィルムと、正の複屈折性を示すポリマーフィルムとを積層させることにより、前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性を制御することを特徴とする付記16記載の方法。
【0142】
(付記18)
負の複屈折性を示すポリマーと、正の複屈折性を示すポリマーとを混合することにより、前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性を制御することを特徴とする付記16または17記載の方法。
【0143】
(付記19)
負の複屈折性を示すポリマーと、正の複屈折性を示すポリマーとをランダム共重合させることにより、前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性を制御することを特徴とする付記16から18のいずれかに記載の方法。
【0144】
(付記20)
負の複屈折性を示すポリマーと、正の複屈折性を示すポリマーとをブロック共重合させることにより、前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性を制御することを特徴とする付記16から19のいずれかに記載の方法。
【0145】
(付記21)
負の複屈折性を示すポリマーと、正の複屈折性を示すポリマーとをグラフト共重合させることにより、前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性を制御することを特徴とする付記16から20のいずれかに記載の方法。
【0146】
(付記22)
付記13から21のいずれかに記載の方法により、前記有機ELパネル用透光性基板の面内方向の屈折率異方性および厚さ方向の屈折率異方性を制御することを特徴とする有機ELパネル用透光性基板の製造方法。
【0147】
(付記23)
付記22記載の製造方法により製造されることを特徴とする有機ELパネル用透光性基板。
【0148】
(付記24)
有機EL照明パネル用であることを特徴とする付記23記載の有機ELパネル用透光性基板。
【0149】
(付記25)
有機ELディスプレイパネル用であることを特徴とする付記23記載の有機ELパネル用透光性基板。
【0150】
(付記26)
付記1から12および23から25のいずれかに記載の有機ELパネル用透光性基板を含むことを特徴とする有機ELパネル。
【0151】
(付記27)
前記有機ELパネルの面内方向および厚さ方向において、実質的に光学等方性であることを特徴とする付記26記載の有機ELパネル。
【0152】
(付記28)
下記条件(A’)〜(E’)の少なくとも一つを満たすことを特徴とする付記27記載の有機ELパネル。
[条件(A’)]
前記有機ELパネルの面内方向に垂直な方向から入射する波長550nmの光に対し、下記式(I’)で表される面内方向位相差Rip’が、30nm以下であり、かつ、下記式(II’)で表される厚さ方向位相差Rth’が80nm以下である。
Rip’=(nx’−ny’)・d’ ・・・(I’)
Rth’={(nx’+ny’)/2−nz’}・d’ ・・・(II’)
前記式(I’)および(II’)において、nx’、ny’およびnz’は、それぞれ前記有機ELパネルにおけるX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示す。前記X軸方向とは、前記有機ELパネルの面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸方向は、前記面内において前記X軸方向に対して垂直な軸方向であり、Z軸方向は、前記X軸およびY軸に垂直な厚さ方向を示す。
また、前記式(I’)および(II’)において、d’は、前記有機ELパネルの厚さ(nm)を表す。
[条件(B’)]
前記有機ELパネルの面内方向とのなす角が45度の方向から入射する波長550nmの光に対し、前記式(II’)で表されるRth’を前記式(I’)で表されるRip’で除した数値(Rth’/Rip’)が5.0以下である。
[条件(C’)]
前記有機ELパネルの面内方向に垂直な方向から入射する光に対し、
波長380〜780nmの範囲において、前記式(I’)で表される面内位相差Rip’が、波長550nmにおけるRip’に対し95〜110%(比が0.95〜1.10)の範囲であり、かつ、
波長380〜780nmの範囲において、前記式(II’)で表される厚さ方向位相差Rthが、波長550nmにおけるRth’に対し90〜115%(比が0.90〜1.15)の範囲である。
[条件(D’)]
同一の測定波長において、
前記有機ELパネルの面内方向とのなす角が2〜90度の範囲における輝度が、前記なす角が90度での輝度に対し、85〜110%の範囲内であり、かつ、
前記なす角が2〜90度の範囲における色度変化Δu’v’が、0〜0.02の範囲であり、
ただし、前記測定波長は、波長380〜780nmの範囲内の波長である。
[条件(E’)]
前記有機ELパネルの面内方向とのなす角が2〜90度の範囲において、
前記なす角が同一である場合に、波長380〜780nmの範囲における輝度/視感度(輝度を視感度で除した数値)が、波長550nmにおける前記輝度/視感度に対し85〜110%の範囲である。
【0153】
(付記29)
付記11または24記載の有機EL照明パネル用透光性基板を含む有機EL照明パネルであることを特徴とする付記26から28のいずれかに記載の有機ELパネル。
【0154】
(付記30)
付記12または25記載の有機ELディスプレイパネル用透光性基板を含む有機ELディスプレイパネルであることを特徴とする付記26から28のいずれかに記載の有機ELパネル。
【0155】
(付記31)
付記1から12および23から25のいずれかに記載の有機ELパネル用透光性基板または付記26から30のいずれかに記載の有機ELパネルを含むことを特徴とする有機EL装置。
【0156】
(付記32)
付記11もしくは24記載の有機EL照明パネル用透光性基板または付記29記載の有機EL照明パネルを含む、有機EL照明装置であることを特徴とする付記31記載の有機EL装置。
【0157】
(付記33)
付記12もしくは25記載の有機ELディスプレイパネル用透光性基板または付記30記載の有機ELディスプレイパネルを含む、有機ELディスプレイであることを特徴とする付記31記載の有機EL装置。