【実施例】
【0048】
以降、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0049】
(
参考例1)
まず、73mol%(Fe
50Pt
40Pd
10)−25mol%C−2mol%SiO
2の組成の磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを次の通り作製した。ここで、Fe
50Pt
40Pd
10についてFe、Pt及びPdは磁性合金を構成する元素を示し、各元素の右に付した下付き文字(数字)はat.%を示す。以降、合金は、同様のルールで表記される。また、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成において、磁性合金のmol%は、100からCのmol%と酸化物のmol%とを減じた値であり、表1に示した。以降、磁性合金の「mol%」の記載を省略する。まず、所望の組成となるように、Fe、Pt、Pd、C及びSiO
2それぞれの粉末の質量を測定した。次に粉末の予備混合を15min以上行った。この予備混合粉とφ10mmのZrO
2ボールとを遊星ボールミル用ポッドに充填し、Arガス封入を行った。その後200rpmで3hr混合を行った。次に放電プラズマ焼結用カーボンダイスに混合粉を充填し、プレプレスを行った。次に、真空チャンバ内に設置し、真空チャンバ内が15Paとなるように真空脱気を行った。真空脱気後、初期加圧力を30MPa(1次加圧工程)、電流値は900℃/hrのスピードで昇温するように調整した。その後、60MPaの加圧力で2次加圧を行い(2次加圧工程)、1150℃で焼結終了とした。焼結体を所望のサイズと厚さに加工し、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットとした。
【0050】
次に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に取り付け、磁気特性及び結晶性の評価を行うための試料として、基板温度500℃に関して以下の層構成による評価試料を作製した。
【0051】
ガラス基板上に、スパッタリング法によって、Ni
60Ta
40からなる厚さ20nmの密着層を0.6Paの圧力で形成した。次に、スパッタリング法によって、Cr
80Mn
20からなる厚さ20nmの配向制御層を0.6Paの圧力で形成した。次に、スパッタリング法によって、MgOからなる厚さ5nmの下地層を3Paの圧力で形成した。その後ヒータで加熱を行った。次に基板温度が500℃になるまで待機した後、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法によって、(Fe
50Pt
40Pd
10)−25mol%C−2mol%SiO
2記録層10nmを6Paの圧力で形成し、引続きカーボンからなる保護層を、スパッタリング法によって膜厚7nmの膜厚で形成し、基板温度500℃による評価試料とした(
参考例1a)。
【0052】
記録層を形成する前の待機時間を調整して、基板温度を300℃にした以外は
参考例1aと同様に、評価試料を作製した(
参考例1b)。
【0053】
(実施例2)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe
55Pt
40Ir
5)−25mol%C−2mol%SiO
2とし、焼結終了温度を1250℃とした以外は、
参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、
参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(実施例2a)又は300℃による評価試料(実施例2b)を作製した。
【0054】
(実施例3)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe
49.5Pt
36Ir
4.5Ag
10)−25mol%C−2mol%SiO
2とし、焼結終了温度を1200℃とした以外は、
参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、
参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(実施例3a)又は300℃による評価試料(実施例3b)を作製した。
【0055】
(実施例4)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe
49.5Pt
36Ir
4.5Ag
10)−23mol%C−2mol%Cr
2O
3とし、焼結終了温度を1200℃とした以外は、
参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、
参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(実施例4a)又は300℃による評価試料(実施例4b)を作製した。
【0056】
(実施例5)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe
49.5Pt
36Ir
4.5Ag
10)−23mol%C−1mol%Ta
2O
5とし、焼結終了温度を1200℃とした以外は、
参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、
参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(実施例5a)又は300℃による評価試料(実施例5b)を作製した。
【0057】
(
参考例6)
焼結終了温度を1100℃とした以外は、
参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、
参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(
参考例6a)又は300℃による評価試料(
参考例6b)を作製した。
【0058】
(比較例1)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe
50Pt
50)−25mol%C−2mol%SiO
2とした以外は、
参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、
参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(比較例1a)又は300℃による評価試料(比較例1b)を作製した。
【0059】
(比較例2)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe
60Pt
40)−25mol%C−2mol%SiO
2とした以外は、
参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、
参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(比較例2a)又は300℃による評価試料(比較例2b)を作製した。
【0060】
(比較例3)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの記録層ターゲット組成を(Fe
55Pt
30Ir
15)−25mol%C−2mol%SiO
2とし、焼結終了温度を1280℃とした以外は、
参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、
参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(比較例3a)又は300℃による評価試料(比較例3b)を作製した。
【0061】
(比較例4)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe
41.25Pt
30Ir
3.75Cu
25)−25mol%C−2mol%SiO
2とし、焼結終了温度を1050℃とした以外は、
参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、
参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(比較例4a)又は300℃による評価試料(比較例4b)を作製した。
【0062】
(比較例5)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe
50Pt
40Pd
10)−40mol%Cとし、焼結終了温度を1150℃とした以外は、
参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、
参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(比較例5a)又は300℃による評価試料(比較例5b)を作製した。
【0063】
(比較例6)
焼結終了温度を950℃とした以外は、
参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、
参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(比較例6a)又は300℃による評価試料(比較例6b)を作製した。
【0064】
(相対密度)
実施例及び比較例で作製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットに関してアルキメデス法により、比重を測定し理論値を除することで相対密度を求めた。ターゲットの密度の理論値は、次の方法で算出する。まず、ターゲットを構成する成分のat.%をwt.%(質量%)に換算する。ここで、ターゲットを構成する成分のat.%は、成分が磁性合金の各金属成分である場合は、磁性合金中の各金属成分のat.%に、ターゲット中の磁性合金のmol%を乗じた値であり、成分が酸化物又はCである場合は、ターゲット中の酸化物又はCのmol%の値である。次いで、得られたwt.%から体積を次のように求める。得られた各成分のwt.%を各成分の比重で除して各成分の体積を求める。最後に、100を各成分の体積の合計で除することで、ターゲットの密度の理論値が求められる。この方法で算出した密度の理論値を、ターゲットの密度の理論値とみなす。
【0065】
(磁気特性及び結晶性)
磁気特性及び結晶性を評価するために作製した評価試料に関して、記録層の磁気特性及び結晶性の評価を行った。記録層は、磁気特性測定装置(MPMS3(Magnetic Property Measurement System3)、Quantum Design社製)を用いて垂直方向及び面内方向のMHループを測定し、Ku(異方性エネルギー)を評価した。規則化の度合いは、XRD(X−ray diffraction)を用いout of planeを測定し、L1
0相の規則線(001)積分強度と基本線(002)積分強度との比((001)/(002)強度比)を指標とした。また、c軸配向性は、XRDを用いout of planeを測定しFePt(111)積分強度を指標とした。相対密度、磁気特性、(001)/(002)強度比及びFePt(111)積分強度の測定結果は、表1にまとめた。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示す通り、Pt濃度が40at.%であり、かつ、第3元素としてIr又はPdを最適な範囲で添加した
参考例1及び実施例2と、Pt濃度が50at.%であり、かつ、第3元素を添加していない比較例1と比較すると、
参考例1及び実施例
2は、基板温度500℃による評価試料では、Ku値及び(001)/(002)強度比が比較例1よりも劣っているが、基板温度300℃による評価試料では、比較例1と同等又は同等以上の特性が得られていた。
【0068】
Pt濃度が36at.%であり、かつ、第3元素としてIr、及び第4元素としてAgをそれぞれ最適な範囲で添加した実施例3と、比較例1とを比較すると、実施例3は、基板温度500℃による評価試料では、Ku値及び(001)/(002)強度比が比較例1よりも劣っているが、基板温度300℃による評価試料では、比較例1と同等以上の特性が得られていた。
【0069】
実施例4、5は実施例3に対して添加する酸化物の種類を変化させた例である。実施例4、5とも実施例3と同等のKuと(001)/(002)強度比であった。特に、実施例4に示す(Fe
49.5Pt
36Ir
4.5Ag
10)−23mol%C−2mol%Cr
2O
3の組成は、Pt濃度が40at.%以下であっても高いKu値及び(001)/(002)強度比を示していた。
【0070】
参考例6は
参考例1に対して焼結終了温度を1150℃から1100℃に下げた例である。
参考例6は、90%以上であり、Ku値及び(001)/(002)強度比に関しては
参考例1と同等であった。また、
参考例1は
参考例6よりも相対密度が高く、焼結終了温度を1150℃以上とすることで、相対密度をより高くすることができることが確認できた。
【0071】
比較例1は、Pt含有量が50at.%であり、コストの面で好ましくない。
【0072】
比較例2は、比較例1に対してPt濃度を40at.%にした例である。表1に示すとおり、Pt濃度が同じ40at.%である
参考例1又は実施例2と比較すると、
参考例1は磁化容易軸が垂直方向であるのに対して、比較例2は、磁化容易軸が面内方向となっていた。この結果から、Pd又はIrは垂直磁気異方性を維持する効果があると考えられる。
【0073】
比較例3は、実施例2に対してIr濃度を5at.%から15at.%に増加させた例である。比較例3は、Ku値が大幅に低下していた。これは、Ptと比較してIrの方がFeの磁気モーメントを弱めるため、Ms(飽和磁化)が低下しKuも低下したと考えられる。
【0074】
比較例4は実施例2に対して第4元素を過剰に添加した例である。比較例4は、Ku値が実施例2よりも劣化していた。これは比較例3と同じくMsの低下によるものと考えられる。
【0075】
比較例5は
参考例1に対してSiO
2を添加していない例である。比較例5は、FePt(111)ピークが確認されており、c軸配向が劣化していた。この結果から、SiO
2の添加はc軸配向性の改善効果があると考えられる。
【0076】
比較例6は
参考例1に対して焼結終了温度を低くした例である。比較例6は、相対密度が
参考例1より低く、90%より低くなっていた。その結果、パーティクルの観点で望ましくないと考えられる。
【0077】
各実施例のスパッタリングターゲットは、基板温度が300℃であっても、規則性が高い薄膜を形成できることが確認できた。
【0078】
本発明は、FePtに、Ir若しくはPdのいずれか一方又は両方、及び必要に応じてAg、Au及びCuのうち少なくともいずれか1種類を最適な組成で添加し、グラニュラー材としてC及びSiO
2、Cr
2O
3、Ta
2O
5、TiO
2などの酸化物を添加したスパッタリングターゲットを、例えば放電プラズマ焼結法によって形成することで、Ku値の劣化を抑え、Pt量を低減した安価なターゲットを作製することができる。したがって、本発明は、今後益々高記録密度の要請が考えられる垂直磁気記録に適用できる点で有望である。