特許第6366095号(P6366095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6366095磁気記録媒体用スパッタリングターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366095
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体用スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20180723BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20180723BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20180723BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20180723BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C22C5/04
   C22C1/05 A
   G11B5/851
   G11B5/65
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-154252(P2014-154252)
(22)【出願日】2014年7月29日
(65)【公開番号】特開2016-30857(P2016-30857A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2017年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】久保木 孔之
(72)【発明者】
【氏名】丸子 智弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 伸
(72)【発明者】
【氏名】日向 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 研
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/105648(WO,A1)
【文献】 特開2003−313659(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/125469(WO,A1)
【文献】 特開2006−161082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 − 14/58
C22C 1/05
C22C 5/04
G11B 5/65
G11B 5/851
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeとPtとを含有する磁性合金に少なくともIr又はIrとPdとの両方を該磁性合金に固溶する金属として含有し、更にカーボン、及び、酸化物として金属酸化物若しくは酸化ケイ素のいずれか一方又は両方を含有する焼結体であり、
前記磁性合金が、
Ptを35〜45at.%、Irを4〜10at.%含有し、残部をFe及び不可避的不純物とするか、又は
Ptを35〜45at.%、IrとPdとの両方を合計で4〜10at.%含有し、残部をFe及び不可避的不純物とする組成を有し、
前記焼結体の相対密度が90%以上であることを特徴とする磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
更にAg、Au及びCuのうち少なくともいずれか1種類を前記磁性合金に固溶する金属として含有し、
前記磁性合金が、Fe、Pt及びIr、又はFe、Pt、Ir及びPdを合計で85〜95at.%含有し、かつ、Ag、Au及びCuのうち少なくともいずれか1種類を合計で5〜15at.%含有する組成を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記金属酸化物が、酸化クロム、酸化タンタル及び酸化チタンのうち少なくともいずれか一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記焼結体が、放電プラズマ焼結法で形成されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記焼結体が、1050〜1300℃の焼結終了温度の条件の下で形成されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度磁気記録媒体における記録層用材に関し、特に垂直磁気記録媒体に適用される磁気記録膜を形成するためのスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の急激な情報量増加によって、2020年には全世界で保存されるデータ量が80億Tバイトにまで達すると予想されている。これらの大容量データの記録媒体としては、記録ビット単価が安価であるHDDが多く用いられている。コスト及び環境の影響を考慮するとHDDの台数を大幅に増やさず、保存する情報量を増やす必要がある。このためには、HDDに搭載される一枚のメディアあたりの記録密度増加が重要となってくる。
【0003】
記録密度向上の技術として、磁気記録媒体に近接場光を照射して、表面を局所的に加熱し記録層の保磁力を低下させて書き込みを行う熱アシスト記録方式が注目されている。この熱アシスト方式を用いた場合、記録層の保磁力が数十kOeでも、現状ヘッドの記録磁界によって書き込みを行うことができる。このため、熱アシスト磁気記録方式では、記録層に10J/m(10erg/cc)台の高い磁気異方性(Ku)を有する材料を使用することが可能となり、熱安定性を維持したまま、記録層結晶粒径を6nm以下まで微細化することができる。このような高いKuが得られる材料としてはL1型の規則構造を有するFePt又はCoPtが知られており、バルクでのKu値が高い(約7×10erg/cc)FePtの研究が盛んに行われている。
【0004】
FePtはL1型の規則相のみではなくA1型と呼ばれる不規則相も存在する。媒体作製で一般的に用いられているスパッタリング法などの気相急冷法では、高温相である不規則相が形成されやすいことが知られており、規則化を進めるには500℃以上の加熱プロセスが必要である。規則化温度を低減する施策として、FePtに、第3元素を添加する方式が開示されている(例えば、非特許文献1、2を参照。)。非特許文献1には、第3元素として、Cu,Ag,Auが記載されている。また、非特許文献2には、第3元素として、Cuが記載されている。一方で、第3元素を添加せずに規則化温度を低減する試みが報告されている(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1では、MgO単結晶基板上にFePt膜を形成し、かつPt組成が48at.%〜81at.%の範囲で形成することによって、300℃の作製温度で1.8×10erg/cc、2.7×10erg/ccのように高いKuが得られると報告されている。
【0005】
また、記録密度の向上においては、記録媒体は、磁性結晶粒間が磁気的に分離されたグラニュラー構造をしていることが必要である。このため、グラニュラー構造を得るために、様々な添加物が検討されている。グラニュラー構造を得るための添加物としてC又はSiOが検討されている(例えば、非特許文献3を参照。)。FePt−C系ターゲットの作製法としては、各種合金粉をアトマイズ法で作製し混合する手法が開示されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0006】
FePtからなる合金又はFePt合金に添加成分を含有させた合金の焼結体からなるスパッタリングターゲットに関し、Pt含有量を20〜70原子%とし、焼結ターゲット中のガス成分量を低減させることで、PtFe合金膜の規則化に必要なアニール温度を低下させる技術が開示されている(例えば、特許文献3を参照。)。また、スパッタリングターゲット中のガス成分量を低減させる技術としては、Ptを30〜60at.%含有するPtFe系合金からなるスパッタリングターゲット用の鋳造インゴットを形成する際、二回溶解する技術が開示されている(例えば、特許文献4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−311925号公報
【特許文献2】特開2012−178210号公報
【特許文献3】特開2003−313659号公報
【特許文献4】特開2006−161082号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Appl.Phys.92,p.6104‐6109(2002)
【非特許文献2】Appl.Phys.Letters 102,132406(2013)
【非特許文献3】日本磁気学会、第177回研究会資料、p.31−37(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1、2のように、Cu,Ag,Auなどの第3元素を添加する方式は、規則化温度の低減に関しては有効であるが、非特許文献2に記載されているようにKuの低下を招く。また、特許文献1では、第3元素添加を行わないため、低い規則化温度で高いKuが維持できるが、高価な単結晶基板を用いるとともに、Pt含有量が48at.%以上必要であるため、Pt使用量を減らす効果は少なく、コストという観点で問題がある。また、非特許文献3では、C又はSiOのいずれか一方をそれぞれFePtに添加することによってFePtの規則度が低下することが報告されている。また、非特許文献3には、CはSiOよりもFePtのc軸配向性を低下させやすいが、FePtの規則度を低下させにくいことが報告されている。さらに、非特許文献3では、SiOはCよりもFePtの規則度を低下させやすいが、FePtのc軸配向性を高める作用があることが報告されている。このように、グラニュラー構造を得るための添加材料に関しては、材料により一長一短である。
【0010】
ターゲット作製法に関しては、グラニュラー構造を得るための添加剤がカーボンのみであり、かつ、合金成分となる金属種同士の融点差が小さい場合(例えばPt(融点1768℃)とFe(融点1538℃)との合金のように融点差が1000℃未満である場合、)、アトマイズ粉を使用するのは有効である。しかし、アトマイズ装置の噴射温度の上限は2000℃程度であることが一般的であり、合金成分として融点が1800℃を超える金属元素を添加する場合は、アトマイズ粉の作製が困難となる。また、アトマイズ粉を用いてターゲットを作製すると、ターゲットの酸素含有量の低減効果が期待される。しかし、ターゲットに酸化物を添加する場合、酸化物由来の酸素によって、アトマイズ粉による酸素低減効果が弱まる。同時にアトマイズ粉は球体であるため、拡散しづらく相対密度の高いターゲットの作製が困難となる。また、合金成分となる金属種同士の融点が大きい場合(例えば融点差が1000℃以上である場合)は、アトマイズ粉の作製時に低融点側の合金が先に蒸発するため組成ずれが起きる場合がある。さらに、アトマイズ粉は球体であるため、拡散しづらく相対密度の高いターゲットの作製が困難となる。
【0011】
特許文献3は、焼結ターゲットのガス成分量を低下させるために、焼結用の金属粉末としてガス成分量が少ない粉末を使用したり、焼結時に脱ガス処理を行ったりする必要がある。また、特許文献4は、二回溶解する必要がある。このため、いずれの技術も生産性及びコストの観点で問題がある。
【0012】
本発明の目的は、従来よりもPt含有量が低く、高い密度を有し、高いKu及び高い規則度を有する記録膜を作製することができる磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは前述のような問題を解決するために鋭意検討した結果、FePtをベースとする記録層の組成にPtと置換してIr又はIrとPdとの両方を添加することでPt含有量を減らし、グラニュラー材としてC、及び、酸化物として金属酸化物若しくは酸化ケイ素のいずれか一方又は両方を含有することで、高い密度を有し、高いKu及び規則度を有する記録膜を作製することができるスパッタリングターゲットを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットは、FeとPtとを含有する磁性合金に少なくともIr又はIrとPdとの両方を該磁性合金に固溶する金属として含有し、更にカーボン、及び、酸化物として金属酸化物若しくは酸化ケイ素のいずれか一方又は両方を含有する焼結体であり、前記磁性合金が、Ptを35〜45at.%、Irを4〜10at.%含有し、残部をFe及び不可避的不純物とするか、又はPtを35〜45at.%、IrとPdとの両方を合計で4〜10at.%含有し、残部をFe及び不可避的不純物とする組成を有し、前記焼結体の相対密度が90%以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットは、更にAg、Au及びCuのうち少なくともいずれか1種類を前記磁性合金に固溶する金属として含有し、前記磁性合金が、Fe、Pt及びIr、又はFe、Pt、Ir及びPdを合計で85〜95at.%含有し、かつ、Ag、Au及びCuのうち少なくともいずれか1種類を合計で5〜15at.%含有する組成を有することが好ましい。高いKu及び高い規則度を両立させることができる。
【0015】
本発明に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットでは、前記金属酸化物が、Cr、Ta及びTiOのうち少なくともいずれか一種であることが好ましい。グラニュラー構造をより確実に形成することができる。
【0016】
本発明に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットでは、前記焼結体が、放電プラズマ焼結法で形成されてなることが好ましい。相対密度をより高めることができる。また、生産性を向上し、コストを低減することができる。
【0017】
本発明に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットでは、前記焼結体が、1050〜1300℃の焼結終了温度の条件の下で形成されてなることが好ましい。相対密度をより高めることができる。また、成膜時のパーティクル発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、従来よりもPt含有量が低く、高い密度を有し、高いKu及び高い規則度を有する記録膜を作製することができる磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0020】
本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットは、FeとPtとを含有する磁性合金に少なくともIr若しくはPdのいずれか一方又は両方を磁性合金に固溶する金属として含有し、更にカーボン、及び、酸化物として金属酸化物若しくは酸化ケイ素のいずれか一方又は両方を含有する焼結体であり、前記磁性合金が、Ptを35〜45at.%(原子%、atomic%)、Ir若しくはPdのいずれか一方又は両方を合計で4〜10at.%含有し、残部をFe及び不可避的不純物とする組成を有し、焼結体の相対密度が90%以上である。
【0021】
磁性合金は、Feと、Ptと、Ir若しくはPdのいずれか一方又は両方とを含有する固溶体である。Ir及びPdは、いずれもFeとPtとを含有する磁性合金の組成においてPtの一部に代えて添加され、Ptの含有量を低減させる役割をもつ。Ir及びPdは、Ptサイトに置換されていると推測される。また、Ir及びPdは、いずれも垂直磁気異方性を維持する役割をもつ。本実施形態では、Feと、Ptと、Ir若しくはPdのいずれか一方又は両方との含有量を、それぞれ特定の範囲とすることで、スパッタリングターゲットを用いた成膜した薄膜において、L1規則構造を形成することができる。
【0022】
磁性合金は、Ptを35〜45at.%含有する。より好ましくは、Ptを36〜40at.%含有する。Ptの含有量が35at.%未満では、コスト低減の観点では好ましいが、スパッタリングターゲットを用いた成膜した薄膜において、L1規則構造の形成が困難となる。Ptの含有量が45at.%を超えると、規則化という観点では望ましいが、高価なPtが多く含まれる組成であり、コストという観点で望ましくない。
【0023】
磁性合金は、Ir及びPdを合計で4〜10at.%含有する。より好ましくは、Ir及びPdを合計で4.5〜10at.%含有する。Ir及びPdの合計含有量が5at.%未満では、高Ku値の維持という観点では望ましいが、Ptの含有量を低減させる量が少なく、コスト低減効果が小さい。Ir及びPdの合計含有量が10at.%を超えると、スパッタリングターゲットを用いた成膜した薄膜において、L1規則構造の形成が困難となり、Kuが劣化する。
【0024】
磁性合金の固溶状態及び組成は、例えば、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP‐AES Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)もしくは、蛍光X線分析法(XRF X‐Ray Fluorescence analysis)を用いた元素分析で確認できる。測定手法は、ターゲットに含有する元素および濃度に応じて最適な手法が選択される。
【0025】
本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットは、更にAg、Au及びCuのうち少なくともいずれか1種類を磁性合金に固溶する金属として含有し、磁性合金が、Feと、Ptと、Ir若しくはPdのいずれか一方又は両方とを合計で85〜95at.%含有し、かつ、Ag、Au及びCuのうち少なくともいずれか1種類を合計で5〜15at.%含有する組成を有することが好ましい。Ag、Au及びCuを添加することによって規則化温度を低減させることができる。Ag、Au又はCuが規則化温度を低減させる理由は定かではないが、Ag、Au及びCuはいずれも融点が1000℃前後であるため、これらの金属元素を添加することで相転移温度が適度に低下し、その結果、規則化温度が低減すると推測される。また、CuはFeに固溶するため、CuがFeサイトに置換されて磁性合金の自由エネルギーが大きくなり、その結果、規則度温度が低減することも推測される。Ag、Au及びCuの合計含有量が5at.%未満では、規則化温度の低減効果が得られない場合がある。Ag、Au及びCuの合計含有量が15at.%を超えると、規則化温度の低減効果は大きいが、Ku値が低減する場合がある。Ag、Au及びCuは、全量が磁性合金に固溶していることが好ましい。Ag、Au及びCuの合含有量が5〜15at.%であることで、Ag、Au又はCuが結晶粒界に析出することなく、安定して固溶される。
【0026】
磁性合金は、Ptと、Ir若しくはPdのいずれか一方又は両方と、必要に応じて配合されるAg、Au及びCuのうち少なくともいずれか1種類とを、前記した所定の含有量で含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する。ここで、不可避的不純物とは、原料に含まれる元素又は製造工程において不可避的に混入する元素であり、例えばP、S、N、O、Cd、Znである。磁性合金中の不可避的不純物の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であればよく特に限定されないが、0.05at.%以下であることが好ましく、0.01at.%以下であることがより好ましい。また、本実施形態では、本発明の効果を損なわない範囲において、Fe、Pt、Ir、Pd、Ag、Au及びCu以外のその他の元素を磁性合金に添加してもよい。その他の元素は、例えば、B、Si又はRuである。
【0027】
磁性合金の組合せは、例えば、Fe−Pt−Ir、Fe−Pt−Pd、Fe−Pt−Ir−Pd、Fe−Pt−Ir−Ag、Fe−Pt−Pd−Ag、Fe−Pt−Ir−Pd−Ag、Fe−Pt−Ir−Au、Fe−Pt−Pd−Au、Fe−Pt−Ir−Pd−Au、Fe−Pt−Ir−Cu、Fe−Pt−Pd−Cu、Fe−Pt−Ir−Pd−Cu、Fe−Pt−Ir−Ag−Au、Fe−Pt−Pd−Ag−Au、Fe−Pt−Ir−Pd−Ag−Au、Fe−Pt−Ir−Ag−Cu、Fe−Pt−Pd−Ag−Cu、Fe−Pt−Ir−Pd−Ag−Cu、Fe−Pt−Ir−Au−Cu、Fe−Pt−Pd−Au−Cu、Fe−Pt−Ir−Pd−Au−Cu、Fe−Pt−Ir−Ag−Au−Cu、Fe−Pt−Pd−Ag−Au−Cu、Fe−Pt−Ir−Pd−Ag−Au−Cuである。なお、これらの組合せはあくまでも一例であって本発明はこれらに限定されない。
【0028】
カーボン及び酸化物は、スパッタリングターゲットを用いた成膜した薄膜において、磁性合金からなる粒子の周囲に存在し、磁性合金からなる粒子間を磁気的に分離する役割をもつ。カーボン又は酸化物のいずれか一方だけの添加では、規則度及びその他の特性(例えば、c軸配向性、分離性)の両立が困難である。ここで、分離性とは、グラニュラー構造において磁性合金からなる粒子間を磁気的に分離する性質をいう。本実施形態ではカーボン及び酸化物の両方を添加することで、カーボン及び酸化物の相互作用によって、規則度及びその他の特性のバランスを改善することができる。カーボン及び酸化物の両方を添加することで規則度及びその他の特性のバランスを改善できる理由は、定かではないが、相分離の駆動力の最適化による作用とカーボン及び酸化物が共存することでFePt粒子内への酸化物固溶が抑制された作用とであると推測される。
【0029】
カーボンは、スパッタリングターゲット内でカーボン粒子として存在しているか、又はFeと合金を形成していてもよい。本実施形態では、カーボン粒子として存在していることが好ましく、カーボン粒子が磁性合金からなる粒子の周囲に存在していることがより好ましい。カーボンの含有量は、20〜50mol%であることが好ましく、25〜45mol%であることがより好ましい。
【0030】
酸化物は、スパッタリングターゲット内で酸化物粒子として存在していることが好ましく、酸化物粒子が磁性合金からなる粒子の周囲に存在していることがより好ましい。酸化物は、金属酸化物又は酸化ケイ素である。本実施形態では、酸化物として酸化ケイ素を含有することがより好ましい。グラニュラー構造をより確実に形成することができる。また、本実施形態では、酸化物として金属酸化物を含有することが好ましい。金属酸化物は酸化クロム、酸化タンタル及び酸化チタンのうち少なくともいずれか一種であることが好ましい。グラニュラー構造をより確実に形成することができる。酸化物は、1種だけを用いるか、又は2種以上を併用してもよい。酸化クロムは、例えばCrである。酸化タンタルは、例えばTaである。酸化チタンは、例えばTiOである。また、酸化物では、酸素の一部がCによって還元されて、酸化物の結晶構造が酸素欠損を有していてもよい。酸化物の酸素の一部がCによって還元されることで、スパッタリングターゲットの酸素含有量が低減し、その結果、より高密度なスパッタリングターゲットを得ることができる。酸化物の含有量は、1〜18mol%であることが好ましく、2〜16mol%であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットは、カーボンを20〜50mol%、酸化物を1〜18mol%含有し、残部を磁性合金とする組成を有することが好ましく、カーボンを25〜45mol%、酸化物を2〜16mol%含有し、残部を磁性合金とする組成を有することがより好ましい。また、Cの含有量に対する酸化物の含有量(酸化物の含有量/Cの含有量)は、モル比で0.02〜0.2であることが好ましく、0.04〜0.15であることがより好ましい。この範囲とすることで、規則度及びその他の特性のバランスを改善する効果をより高めることができる。
【0032】
焼結体の相対密度は90%以上である。より好ましくは98%以上である。相対密度が90%未満では、成膜時にパーティクルが多く発生する。相対密度は、焼結体の密度の実測値を理論値で除した後に100を乗じて、百分率で表した値である。焼結体の密度の実測値は、例えばアルキメデス法により測定した比重とすることができる。
【0033】
ターゲット作製法は大別して溶解法及び焼結法が挙げられる。溶解法は高純度の材料を作製するのに非常に有効であるが、本実施形態のように融点が異なる金属及び酸化物を含む場合には均一に溶解することが困難になる。このため、多元素合金の作製には焼結法を用いることが望ましい。
【0034】
本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの製造方法の一例について、説明する。まず、焼結原料となる粉末を混合して混合粉を得る混合工程を行う。次いで、混合粉を加圧して一塊にするペレタイズ工程及び焼結原料の混合粉を焼結する焼結工程を行う。最後に、焼結工程で得られた焼結体を、所望のサイズに加工してスパッタリングターゲットを得る加工工程を行う。
【0035】
(混合工程)
焼結の原料となる粉末は、特に限定されず、作製する組成によって市販の金属粉、酸化物粉及びカーボン粉を用いることができる。カーボン粉は、例えばグラファイト粉又はカーボンブラック粉である。また、ガスアトマイズ法によって作製した合金粉末を用いてもよい。粉末の粒度は用いる材料又は合金の組合せによって最適化される事項であるが、例えばレーザー回折散乱法で求めた平均粒子径が5〜100μmの範囲の粉末を用いることが好ましい。より好ましくは5〜50μmの範囲の粉末を用いる。粉末の混合法は、特に限定されず、遊星ボールミル、ボールミル、V型混合機などの一般的な混合法のいずれかを用いることができる。
【0036】
(ペレタイズ工程)
ペレタイズ工程では、混合粉に加えてバインダーを添加してもよい。
【0037】
(焼結工程)
焼結体の作製方法は、例えばホットプレス(HP)、放電プラズマ焼結法(SPS)、熱間等方加圧焼結(HIP)である。これらの焼結法では、加圧下で焼結されるため、焼結工程に先立って行うペレタイズ工程を省略してもよい。焼結法に関しては、一長一短があるが、生産性及びコストという観点では短時間で焼結を完了させることができる放電プラズマ焼結法(SPS)を用いることが好ましい。焼結体が放電プラズマ焼結法で形成されてなることで、相対密度を、例えば90%以上とすることができる。
【0038】
放電プラズマ焼結法では、焼結原料の混合粉をカーボンダイスなどの放電プラズマ焼結用ダイスに充填し、上下方向から加圧しながら、混合粉及びダイスにパルス直流電流を印加し、生成する放電プラズマによる発熱を利用して焼結を行う。電流は、所望の昇温スピードに応じて適宜制御される。昇温スピードは、800〜1050℃/hrであることが好ましく、900〜1050℃/hrであることがより好ましい。焼結工程は、真空中で行われることが好ましい。ここで、真空とは圧力が標準大気圧よりも低い状態をいい、例えば15Pa以下である。
【0039】
本実施形態では、焼結法が放電プラズマ焼結法である場合、上下方向から圧力を加えながら加熱する1次加圧工程と、1次加圧工程後に、1次加圧工程の加圧力よりも高い加圧力で加圧しながら加熱する2次加圧工程とを行うことが好ましい。1次加圧工程及び2次加圧工程を行うことで、より緻密な焼結体を得ることができる。焼結時の圧力は必要となるターゲットサイズ及び合金組成によって最適化され、特に限定されないが、1次加圧工程での加圧力は10〜40MPaであることが好ましく、20〜35MPaであることがより好ましい。2次加圧での加圧力は、1次加圧の加圧力を超え80MPa以下であることが好ましく、50〜75MPaであることがより好ましい。
【0040】
本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットでは、焼結体が、1050〜1300℃の焼結終了温度の条件の下で形成されてなることが好ましい。焼結終了温度は1100〜1300℃であることがより好ましい。本明細書において、焼結終了温度とは、電流をOFFした温度をいい、例えば電流をOFFした時のダイス温度の実測値である。焼結終了温度が1050℃未満では、相対密度が低くなって(例えば90%未満)、成膜時のパーティクル発生要因となる場合がある。また、焼結終了温度が1300℃を超えると、磁性合金がAg、Au又はCuなどの比較的低融点の金属種を含有する場合では、焼結中に溶解してしまう場合がある。
【0041】
(加工工程)
加工工程において、焼結体の加工法は、特に限定されず、例えば、切削加工、研削加工、放電加工、レーザー加工、ウォータージェット加工、研磨加工などの一般的な機械加工である。
【0042】
本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットは、300〜500℃に加熱した基板上に、スパッタリング法によって薄膜を形成することに用いられることが好ましい。基板の温度は、300〜480℃であることがより好ましく、300〜400℃であることが特に好ましい。スパッタリング法による成膜時の基板の温度が300〜500℃であってもL1構造を有する規則化された薄膜を形成することができる。本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、基板温度が300〜500℃で成膜した薄膜は、Kuが1.00×10erg/cc以上であることが好ましく、1.50×10erg/cc以上であることがより好ましい。
【0043】
本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法によって成膜されてなる薄膜は、L1構造を有する磁性合金からなる粒子が、カーボン及び酸化物として金属酸化物若しくは酸化ケイ素のいずれか一方又は両方で囲まれたグラニュラー構造を有する。
【0044】
本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法によって成膜されてなる薄膜は、磁化容易軸が垂直方向である。
【0045】
本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法によって成膜されてなる薄膜は、高い規則度を有する。規則度(規則化の度合い)は、XRD(X−ray diffraction)を用いout of planeを測定し、L1相の規則線(001)積分強度と基本線(002)積分強度との比(以降、(001)/(002)強度比ということもある。)を指標とすることができる。本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、基板温度が300〜500℃で成膜した薄膜は、(001)/(002)強度比が1.400以上であることが好ましく、1.450以上であることがより好ましい。
【0046】
本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法によって成膜されてなる薄膜は、高いc軸配向性を有する。c軸配向性は、XRD(X−ray diffraction)を用いout of planeを測定し、FePt(111)積分強度で判断した。本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、基板温度が300〜500℃で成膜した薄膜は、FePt(111)積分強度が0である(検出されない)ことが好ましい。
【0047】
本実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法によって成膜されてなる薄膜は、磁気記録媒体の記録層に好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以降、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0049】
参考例1)
まず、73mol%(Fe50Pt40Pd10)−25mol%C−2mol%SiOの組成の磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを次の通り作製した。ここで、Fe50Pt40Pd10についてFe、Pt及びPdは磁性合金を構成する元素を示し、各元素の右に付した下付き文字(数字)はat.%を示す。以降、合金は、同様のルールで表記される。また、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成において、磁性合金のmol%は、100からCのmol%と酸化物のmol%とを減じた値であり、表1に示した。以降、磁性合金の「mol%」の記載を省略する。まず、所望の組成となるように、Fe、Pt、Pd、C及びSiOそれぞれの粉末の質量を測定した。次に粉末の予備混合を15min以上行った。この予備混合粉とφ10mmのZrOボールとを遊星ボールミル用ポッドに充填し、Arガス封入を行った。その後200rpmで3hr混合を行った。次に放電プラズマ焼結用カーボンダイスに混合粉を充填し、プレプレスを行った。次に、真空チャンバ内に設置し、真空チャンバ内が15Paとなるように真空脱気を行った。真空脱気後、初期加圧力を30MPa(1次加圧工程)、電流値は900℃/hrのスピードで昇温するように調整した。その後、60MPaの加圧力で2次加圧を行い(2次加圧工程)、1150℃で焼結終了とした。焼結体を所望のサイズと厚さに加工し、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットとした。
【0050】
次に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に取り付け、磁気特性及び結晶性の評価を行うための試料として、基板温度500℃に関して以下の層構成による評価試料を作製した。
【0051】
ガラス基板上に、スパッタリング法によって、Ni60Ta40からなる厚さ20nmの密着層を0.6Paの圧力で形成した。次に、スパッタリング法によって、Cr80Mn20からなる厚さ20nmの配向制御層を0.6Paの圧力で形成した。次に、スパッタリング法によって、MgOからなる厚さ5nmの下地層を3Paの圧力で形成した。その後ヒータで加熱を行った。次に基板温度が500℃になるまで待機した後、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法によって、(Fe50Pt40Pd10)−25mol%C−2mol%SiO記録層10nmを6Paの圧力で形成し、引続きカーボンからなる保護層を、スパッタリング法によって膜厚7nmの膜厚で形成し、基板温度500℃による評価試料とした(参考例1a)。
【0052】
記録層を形成する前の待機時間を調整して、基板温度を300℃にした以外は参考例1aと同様に、評価試料を作製した(参考例1b)。
【0053】
(実施例2)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe55Pt40Ir)−25mol%C−2mol%SiOとし、焼結終了温度を1250℃とした以外は、参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(実施例2a)又は300℃による評価試料(実施例2b)を作製した。
【0054】
(実施例3)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe49.5Pt36Ir4.5Ag10)−25mol%C−2mol%SiOとし、焼結終了温度を1200℃とした以外は、参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(実施例3a)又は300℃による評価試料(実施例3b)を作製した。
【0055】
(実施例4)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe49.5Pt36Ir4.5Ag10)−23mol%C−2mol%Crとし、焼結終了温度を1200℃とした以外は、参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(実施例4a)又は300℃による評価試料(実施例4b)を作製した。
【0056】
(実施例5)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe49.5Pt36Ir4.5Ag10)−23mol%C−1mol%Taとし、焼結終了温度を1200℃とした以外は、参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(実施例5a)又は300℃による評価試料(実施例5b)を作製した。
【0057】
参考例6)
焼結終了温度を1100℃とした以外は、参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(参考例6a)又は300℃による評価試料(参考例6b)を作製した。
【0058】
(比較例1)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe50Pt50)−25mol%C−2mol%SiOとした以外は、参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(比較例1a)又は300℃による評価試料(比較例1b)を作製した。
【0059】
(比較例2)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe60Pt40)−25mol%C−2mol%SiOとした以外は、参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(比較例2a)又は300℃による評価試料(比較例2b)を作製した。
【0060】
(比較例3)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの記録層ターゲット組成を(Fe55Pt30Ir15)−25mol%C−2mol%SiOとし、焼結終了温度を1280℃とした以外は、参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(比較例3a)又は300℃による評価試料(比較例3b)を作製した。
【0061】
(比較例4)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe41.25Pt30Ir3.75Cu25)−25mol%C−2mol%SiOとし、焼結終了温度を1050℃とした以外は、参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(比較例4a)又は300℃による評価試料(比較例4b)を作製した。
【0062】
(比較例5)
磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの組成を(Fe50Pt40Pd10)−40mol%Cとし、焼結終了温度を1150℃とした以外は、参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(比較例5a)又は300℃による評価試料(比較例5b)を作製した。
【0063】
(比較例6)
焼結終了温度を950℃とした以外は、参考例1と同様に磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを作製した。得られた磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、参考例1と同様に、基板温度500℃による評価試料(比較例6a)又は300℃による評価試料(比較例6b)を作製した。
【0064】
(相対密度)
実施例及び比較例で作製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットに関してアルキメデス法により、比重を測定し理論値を除することで相対密度を求めた。ターゲットの密度の理論値は、次の方法で算出する。まず、ターゲットを構成する成分のat.%をwt.%(質量%)に換算する。ここで、ターゲットを構成する成分のat.%は、成分が磁性合金の各金属成分である場合は、磁性合金中の各金属成分のat.%に、ターゲット中の磁性合金のmol%を乗じた値であり、成分が酸化物又はCである場合は、ターゲット中の酸化物又はCのmol%の値である。次いで、得られたwt.%から体積を次のように求める。得られた各成分のwt.%を各成分の比重で除して各成分の体積を求める。最後に、100を各成分の体積の合計で除することで、ターゲットの密度の理論値が求められる。この方法で算出した密度の理論値を、ターゲットの密度の理論値とみなす。
【0065】
(磁気特性及び結晶性)
磁気特性及び結晶性を評価するために作製した評価試料に関して、記録層の磁気特性及び結晶性の評価を行った。記録層は、磁気特性測定装置(MPMS3(Magnetic Property Measurement System3)、Quantum Design社製)を用いて垂直方向及び面内方向のMHループを測定し、Ku(異方性エネルギー)を評価した。規則化の度合いは、XRD(X−ray diffraction)を用いout of planeを測定し、L1相の規則線(001)積分強度と基本線(002)積分強度との比((001)/(002)強度比)を指標とした。また、c軸配向性は、XRDを用いout of planeを測定しFePt(111)積分強度を指標とした。相対密度、磁気特性、(001)/(002)強度比及びFePt(111)積分強度の測定結果は、表1にまとめた。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示す通り、Pt濃度が40at.%であり、かつ、第3元素としてIr又はPdを最適な範囲で添加した参考例1及び実施例2と、Pt濃度が50at.%であり、かつ、第3元素を添加していない比較例1と比較すると、参考例1及び実施例は、基板温度500℃による評価試料では、Ku値及び(001)/(002)強度比が比較例1よりも劣っているが、基板温度300℃による評価試料では、比較例1と同等又は同等以上の特性が得られていた。
【0068】
Pt濃度が36at.%であり、かつ、第3元素としてIr、及び第4元素としてAgをそれぞれ最適な範囲で添加した実施例3と、比較例1とを比較すると、実施例3は、基板温度500℃による評価試料では、Ku値及び(001)/(002)強度比が比較例1よりも劣っているが、基板温度300℃による評価試料では、比較例1と同等以上の特性が得られていた。
【0069】
実施例4、5は実施例3に対して添加する酸化物の種類を変化させた例である。実施例4、5とも実施例3と同等のKuと(001)/(002)強度比であった。特に、実施例4に示す(Fe49.5Pt36Ir4.5Ag10)−23mol%C−2mol%Crの組成は、Pt濃度が40at.%以下であっても高いKu値及び(001)/(002)強度比を示していた。
【0070】
参考例6は参考例1に対して焼結終了温度を1150℃から1100℃に下げた例である。参考例6は、90%以上であり、Ku値及び(001)/(002)強度比に関しては参考例1と同等であった。また、参考例1は参考例6よりも相対密度が高く、焼結終了温度を1150℃以上とすることで、相対密度をより高くすることができることが確認できた。
【0071】
比較例1は、Pt含有量が50at.%であり、コストの面で好ましくない。
【0072】
比較例2は、比較例1に対してPt濃度を40at.%にした例である。表1に示すとおり、Pt濃度が同じ40at.%である参考例1又は実施例2と比較すると、参考例1は磁化容易軸が垂直方向であるのに対して、比較例2は、磁化容易軸が面内方向となっていた。この結果から、Pd又はIrは垂直磁気異方性を維持する効果があると考えられる。
【0073】
比較例3は、実施例2に対してIr濃度を5at.%から15at.%に増加させた例である。比較例3は、Ku値が大幅に低下していた。これは、Ptと比較してIrの方がFeの磁気モーメントを弱めるため、Ms(飽和磁化)が低下しKuも低下したと考えられる。
【0074】
比較例4は実施例2に対して第4元素を過剰に添加した例である。比較例4は、Ku値が実施例2よりも劣化していた。これは比較例3と同じくMsの低下によるものと考えられる。
【0075】
比較例5は参考例1に対してSiOを添加していない例である。比較例5は、FePt(111)ピークが確認されており、c軸配向が劣化していた。この結果から、SiOの添加はc軸配向性の改善効果があると考えられる。
【0076】
比較例6は参考例1に対して焼結終了温度を低くした例である。比較例6は、相対密度が参考例1より低く、90%より低くなっていた。その結果、パーティクルの観点で望ましくないと考えられる。
【0077】
各実施例のスパッタリングターゲットは、基板温度が300℃であっても、規則性が高い薄膜を形成できることが確認できた。
【0078】
本発明は、FePtに、Ir若しくはPdのいずれか一方又は両方、及び必要に応じてAg、Au及びCuのうち少なくともいずれか1種類を最適な組成で添加し、グラニュラー材としてC及びSiO、Cr、Ta、TiOなどの酸化物を添加したスパッタリングターゲットを、例えば放電プラズマ焼結法によって形成することで、Ku値の劣化を抑え、Pt量を低減した安価なターゲットを作製することができる。したがって、本発明は、今後益々高記録密度の要請が考えられる垂直磁気記録に適用できる点で有望である。