特許第6366107号(P6366107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366107
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】圧縮ガスの充填方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 5/06 20060101AFI20180723BHJP
   F17C 13/02 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   F17C5/06
   F17C13/02 301Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-147010(P2015-147010)
(22)【出願日】2015年7月24日
(65)【公開番号】特開2017-26084(P2017-26084A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2017年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231235
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】上森 一範
(72)【発明者】
【氏名】山田 敬弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 昭人
【審査官】 家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−204786(JP,A)
【文献】 特開2003−207596(JP,A)
【文献】 特開2011−236930(JP,A)
【文献】 特開2001−235097(JP,A)
【文献】 米国特許第01921531(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C1/00−13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の高圧ガス容器を一つのロットとし、同一のロット内の前記高圧ガス容器内に圧縮ガスを同時に充填する圧縮ガスの充填方法であって、
同一のロット内の前記高圧ガス容器に設けられた容器弁と、ガス供給源から前記圧縮ガスを供給する充填配管とをそれぞれ接続する充填準備工程と、
前記容器弁をそれぞれ開状態として、同一のロット内の前記高圧ガス容器への前記圧縮ガスの充填を開始する充填開始工程と、
同一のロット内の前記高圧ガス容器内の圧力が規定の圧力値に達した際に、前記容器弁をそれぞれ閉状態として、前記圧縮ガスの充填を終了する充填終了工程と、
同一のロット内の全ての前記高圧ガス容器に対し、前記高圧ガス容器及び前記容器弁と前記充填配管とを有する接続体の両方の熱画像を取得する熱画像取得工程と、
前記熱画像に基づいて、同一のロット内の全ての前記高圧ガス容器への充填状態を判定する判定工程と、を備えていることを特徴とする、圧縮ガスの充填方法。
【請求項2】
前記熱画像取得工程が、前記充填開始工程後から前記充填終了工程前の間、及び前記充填終了工程後のうち、どちらか一方または両方で行われることを特徴とする、請求項1に記載の圧縮ガスの充填方法。
【請求項3】
前記熱画像取得工程が、同一ロット内の全ての前記高圧ガス容器及び全ての高圧ガス容器の前記接続体の温度を取得できるように、前記熱画像を撮影することを特徴とする、請求項1又は2に記載の圧縮ガスの充填方法。
【請求項4】
前記熱画像取得工程と前記判定工程とが、前記充填開始工程後から前記充填終了工程前の間に行われ、
前記判定工程により、「充填状態に問題がある」と判定された前記高圧ガス容器を確認した場合、前記充填終了工程前に、当該「充填状態に問題がある」と判定された高圧ガス容器から問題の原因を排除し、前記圧縮ガスの充填状態を正常にする工程を備えていることを特徴とする、請求項2又は3に記載の圧縮ガスの充填方法。
【請求項5】
同一ロット内の前記高圧ガス容器の材質が2種類以上あることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の圧縮ガスの充填方法。
【請求項6】
前記判定工程が、前記圧縮ガスを充填中の前記高圧ガス容器の前記熱画像と、前記圧縮ガスの充填が行われない前記高圧ガス容器の前記熱画像と、を比較して行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の圧縮ガスの充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮ガスの充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧ガス容器は、比較的少量のガスを輸送する場合や消費する場合によく用いられている。一般的に、高圧ガス容器は、使用後に再び圧縮ガスを充填することにより、再利用される。また、高圧ガス容器に圧縮ガスを充填する際は、複数の高圧ガス容器に同時に充填するのが、一般的である。
【0003】
ところで、高圧ガス容器に圧縮ガスを充填する際、何らかの原因により正常に圧縮ガスが充填されないことがある。このような異常な充填状態の高圧ガス容器の出荷を防ぐため、圧縮ガスの充填状態を判定する必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、高圧ガス容器の表面温度を測定することにより、圧縮ガスの充填状態を判定する圧縮ガスの充填方法が開示されている。特許文献1に開示の圧縮ガスの充填方法では、温度センサーを用いて高圧ガス容器の表面温度を1本ずつ測定し、温度を比較することで、他の高圧ガス容器と比較して低い場合に、その高圧ガス容器への充填状態が異常であったと判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−204786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された圧縮ガスの充填方法では、一本一本の容器表面を温度測定することから、ロット内の全容器の圧縮ガスの充填状態を判定し終えるまでに長時間がかかるという問題があった。そのため、同一ロット内に「充填状態に問題がある」高圧ガス容器が存在した場合に、この高圧ガス容器を別のロットに移動させる必要が生じ、ロット間での移動が高圧ガス容器の充填情報の管理ミスの原因となっていた。さらに、圧縮ガスの充填後に充填状態を判定する場合、ロット内の全容器の圧縮ガスの充填状態を判定し終えるまでに時間がかかることで容器表面の温度が低下し、判定の信頼性が低下する懸念があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、圧縮ガスの充填状態の問題の有無をごく短時間で判定可能な工程を有する圧縮ガスの充填方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、
複数の高圧ガス容器を一つのロットとし、同一のロット内の前記高圧ガス容器内に圧縮ガスを同時に充填する圧縮ガスの充填方法であって、
同一のロット内の前記高圧ガス容器に設けられた容器弁と、ガス供給源から前記圧縮ガスを供給する充填配管とをそれぞれ接続する充填準備工程と、
前記容器弁をそれぞれ開状態として、同一のロット内の前記高圧ガス容器への前記圧縮ガスの充填を開始する充填開始工程と、
同一のロット内の前記高圧ガス容器内の圧力が規定の圧力値に達した際に、前記容器弁をそれぞれ閉状態として、前記圧縮ガスの充填を終了する充填終了工程と、
同一のロット内の全ての前記高圧ガス容器に対し、前記高圧ガス容器及び前記容器弁と前記充填配管とを有する接続体の両方の熱画像を取得する熱画像取得工程と、
前記熱画像に基づいて、同一のロット内の全ての前記高圧ガス容器への充填状態を判定する判定工程と、を備えていることを特徴とする、圧縮ガスの充填方法である。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、
前記熱画像取得工程が、前記充填開始工程後から前記充填終了工程前の間、及び前記充填終了工程後のうち、どちらか一方または両方で行われることを特徴とする、請求項1に記載の圧縮ガスの充填方法である。
【0010】
また、請求項3に係る発明は、
前記熱画像取得工程が、同一ロット内の全ての前記高圧ガス容器及び全ての高圧ガス容器の前記接続体の温度を取得できるように、前記熱画像を撮影することを特徴とする、請求項1又は2に記載の圧縮ガスの充填方法である。
【0011】
また、請求項4に係る発明は、
前記熱画像取得工程と前記判定工程とが、前記充填開始工程後から前記充填終了工程前の間に行われ、
前記判定工程により、「充填状態に問題がある」と判定された前記高圧ガス容器を確認した場合、前記充填終了工程前に、当該「充填状態に問題がある」と判定された高圧ガス容器から問題の原因を排除し、前記圧縮ガスの充填状態を正常にする工程を備えていることを特徴とする、請求項2又は3に記載の圧縮ガスの充填方法である。
【0012】
また、請求項5に係る発明は、
同一ロット内の前記高圧ガス容器の材質が2種類以上あることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の圧縮ガスの充填方法である。
【0013】
また、請求項6に係る発明は、
前記判定工程が、前記圧縮ガスを充填中の前記高圧ガス容器の前記熱画像と、前記圧縮ガスの充填が行われない前記高圧ガス容器の前記熱画像と、を比較して行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の圧縮ガスの充填方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の圧縮ガスの充填方法は、同一のロット内の全ての前記高圧ガス容器に対し、高圧ガス容器及び前記容器弁と前記充填配管とを有する接続体のうち、いずれか一方又は両方の熱画像を取得する熱画像取得工程と、熱画像に基づいて同一のロット内の全ての高圧ガス容器への充填状態を、ごく短時間で判定できる判定工程とを備えている。したがって、圧縮ガスの充填状態の問題の有無を、短時間で判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明を適用した一実施形態である圧縮ガスの充填方法に用いる充填設備を示す斜視図である。
図2】本発明を適用した一実施形態である圧縮ガスの充填方法に用いることができる高圧ガス容器の上部を示す側面図である。
図3】本発明を適用した一実施形態である圧縮ガスの充填方法における工程を示すフローチャートである。
図4図1の撮影場所Bから同一ロット内の高圧ガス容器を撮影した熱画像である。
図5図1の撮影場所Cから同一ロット内の高圧ガス容器を撮影した熱画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態である圧縮ガスの充填方法について、それに用いる充填設備及び高圧ガス容器とともに、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0017】
<充填設備>
先ず、本発明の一実施形態である圧縮ガスの充填方法に用いることが可能な充填設備及び高圧ガス容器について説明する。図1は充填設備1を示す斜視図である。また、図2は高圧ガス容器2の上部を拡大した側面図である。
【0018】
図1に示すように、充填設備1は、複数の使用済み高圧ガス容器2と、充填配管3と、ガス供給源(図示略)と、を備えて概略構成されている。なお、制御用コンピュータとプログラマブルロジックコントローラ(PLC)とを含む制御部(図示略)を備えることもできる。充填設備1では、載置スペースA内に複数の高圧ガス容器2が載置されている。充填設備1は、載置スペースAに載置された複数の高圧ガス容器2を一つのロットとし、同一のロット内の高圧ガス容器2内に圧縮ガスを同時に充填するための設備である。
本実施形態では、同一ロットの本数は16本としたが、これに限定されない。
【0019】
また、図2に示すように、高圧ガス容器2は、容器本体4と、容器弁5とを備え、容器弁5は、ガス充填口6を有して概略構成されている。高圧ガス容器2は、圧縮ガスを保管するための容器である。
【0020】
充填配管3は、一端がガス供給源(図示略)に接続されており、他端がガス充填口6に接続されている。また、充填配管3と容器弁5のガス充填口6とを、接続継手10を介して接続されることにより、接続体7を形成する。充填配管3により、高圧ガス容器2にガス供給源内の圧縮ガスを供給可能とされている。
【0021】
充填配管3の材質としては、各高圧ガス容器2に接続する各充填配管3の材質は同一ロット内で全て同じであることが好ましい。これにより、同一ロット内の容器本体4の材質が2種類以上ある場合であっても、接続体7の表面温度を比較することで、充填状態の問題の有無を判定することができる。
【0022】
図1に示すように、充填配管3には、バルブ8が設けられている。同一ロット内の複数のバルブ8の開閉を、手動で制御することで、各高圧ガス容器2への圧縮ガスの供給を制御可能とされている。
【0023】
載置スペースAは、高圧ガス容器2を載置するためのスペースである。載置スペースAは、架台9により囲まれている。チェーン等を用いて高圧ガス容器2を架台9に固定することにより、高圧ガス容器2の転倒を防止することもできる。
また、架台9は移動可能であってもよい。この場合、使用済みの高圧ガス容器2を別の場所で搭載し、架台9ごと載置スペースAに移動させることができる。
【0024】
図2に示す容器本体4としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、内容積が50L以下のもの等が挙げられる。また、容器本体4の材質としては、具体的には、例えば、マンガン鋼、アルミニウム合金等の金属や、繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられる。
【0025】
一般的に、容器本体4の材質は、内容積等により異なっている。例えば、容器本体4の内容積が3.4〜50Lの場合はマンガン鋼やアルミニウム合金等の金属が一般的である。また、容器本体4の内容積が0.4〜10Lの場合はFRPが一般的である。マンガン鋼やアルミニウム合金等の金属は、熱伝導性が高いため、容器内へのガスの充填や容器外へのガスの放出による容器内の温度変化が容器表面に表れやすく、本実施形態で高圧ガス容器2の温度を比較するには、より好ましい。
【0026】
容器弁5は、容器本体4の上端に設けられている。容器弁5により、容器本体4に充填されたガスの供給又は停止を制御可能とされている。
【0027】
容器弁5はガス充填口6を有している。ガス充填口6は、充填配管3と接続継手10を介して接続可能とされている。ガス供給源(図示略)から、充填配管3及び容器弁5を介して、容器本体4に圧縮ガスを充填可能とされている。
【0028】
<圧縮ガスの充填方法>
次に、上述した充填設備1を用いた、本発明の一実施形態である圧縮ガスの充填方法について詳細に説明する。
【0029】
図3に示すように、本実施形態の圧縮ガスの充填方法は、充填準備工程S1と、充填開始工程S2と、第1の熱画像取得工程S3と、第1の判定工程S4と、異常除去工程S5と、分析工程S6と、充填終了工程S7と、第2の熱画像取得工程S8と、第2の判定工程S9と、後処理工程S10と、を備え、この順番で実行される。以下、各工程について詳細に説明する。
【0030】
本実施形態の圧縮ガスの充填方法は、複数の高圧ガス容器2を一つのロットとし、同一のロット内の高圧ガス容器2内に圧縮ガスを同時に充填する方法である。
【0031】
(充填準備工程S1)
充填準備工程S1は、同一のロット内の高圧ガス容器2に設けられた容器弁5と、ガス供給源(図示略)から圧縮ガスを供給する充填配管3とをそれぞれ接続する工程である。充填準備工程S1では、具体的には、先ず、使用済みの高圧ガス容器2を回収し、空瓶置き場にて保管する。
【0032】
次に、空瓶置き場に保管した高圧ガス容器2内の残ガスを、容器弁5を開くことにより容器外へ放出する。その際、容器内を真空引きして容器内を洗浄してもよい。また、容器内へのガスの加圧と放出とを繰り返すパージを行ってもよい。残ガスの放出後、容器弁5を閉じる。
【0033】
次に、残ガスを放出した高圧ガス容器2を架台9に搭載し、載置スペースAに運ぶ。その後、充填配管3を、接続継手10を介して容器弁5のガス充填口6に接続する。
【0034】
次に、これから充填する同一ロット内の全ての高圧ガス容器2の容器番号を、バーコードリーダー(図示略)等を用いて読み取り、容器管理用コンピュータ(図示略)に転送し、これを充填データとして入力する。ここで、バーコードリーダー等を用いる代わりに、手書きにより容器番号を取得し、容器管理用コンピュータに手入力してもよい。
【0035】
(充填開始工程S2)
充填開始工程S2は、同一ロット内の高圧ガス容器2の容器弁5、および充填配管3上のバルブ8をそれぞれ開状態として、同一のロット内の高圧ガス容器2への圧縮ガスの充填を開始する工程である。充填開始工程S2では、具体的には、先ず、同一ロット内の充填を行う高圧ガス容器2について、充填配管3が接続された容器弁5、および充填配管3上のバルブ8を開く。
【0036】
次に、充填ガス、充填圧力、分析項目等を制御用コンピュータに入力し、圧縮ガスの充填を開始する。なお、圧縮ガスの充填はプログラマブルロジックコントローラ(PLC)を用いた自動充填を行うこともできる。
【0037】
(第1の熱画像取得工程S3)
第1の熱画像取得工程S3は、高圧ガス容器2の熱画像を取得する工程である。第1の熱画像取得工程S3は、圧縮ガスの充填を開始した直後に行われる。第1の熱画像取得工程S3では、具体的には、赤外線サーモグラフィ等を用いて、充填中の同一ロット内の高圧ガス容器2の熱画像を撮影する。熱画像により温度を把握することができる。
【0038】
図1中、撮影場所A及び撮影場所Bでは、同一ロット内の複数の高圧ガス容器2を側面から撮影することができる。一方、撮影場所Cでは、同一ロット内の複数の高圧ガス容器2を上方から撮影することができる。図4は、撮影場所Bから同一ロット内の高圧ガス容器2を撮影した熱画像である。また、図5は、撮影場所Cから同一ロット内の高圧ガス容器2を撮影した熱画像である。
図4,5の熱画像は、画面内の温度範囲を、右端の色で表示している。実際の熱画像はカラーである。
【0039】
図4,5中、白っぽく表示されている部分は温度が高いことを示す。圧縮ガスを正常に充填されている高圧ガス容器2では、圧縮ガスが充填されることにより容器内が加圧され、容器内の温度が上昇するに伴い容器表面の温度も上昇する。そのため、例えば、図4中の高圧ガス容器「A」は容器表面の温度が他の高圧ガス容器に比べて低いことを示しており、「充填状態に問題がある」ことがわかる。このとき、それぞれの表面温度の差は約1度であったが、小さな温度差であっても、色の違いで瞬時に温度の違いを確認できた。
このように熱画像を撮影することにより、瞬時に複数の高圧ガス容器2の温度を測定することができ、これにより、充填状態の問題の有無を判定することができる。
【0040】
高圧ガス容器2を側面から撮影した熱画像(図4)では、複数の高圧ガス容器2の表面を撮影することができるが、手前の容器の陰に隠れた容器を撮影することができない。一方、高圧ガス容器2を上方から撮影した熱画像(図5)では、手前の高圧ガス容器に隠れた高圧ガス容器「B」も撮影することができる。このように、熱画像の撮影は、高圧ガス容器2の上方から行う等により、全ての高圧ガス容器2が写るように撮影するのが好ましい。しかしながら、撮影場所は特に限定されるものではなく、上方からの撮影が困難な場合は、複数の位置から同時に撮影することにより行ってもよい。
【0041】
(第1の判定工程S4)
第1の判定工程S4は、第1の熱画像取得工程S3で撮影した熱画像に基づいて、同一ロット内の全ての高圧ガス容器2の充填状態を判定する工程である。具体的には、熱画像により測定した全ての高圧ガス容器2の容器本体4の表面温度に基づいて、同一ロット内の高圧ガス容器2の中で、他の高圧ガス容器に比べて温度が低い高圧ガス容器を探す。他の高圧ガス容器に比べて表面温度が低い高圧ガス容器が存在した場合、この高圧ガス容器を「充填状態に問題がある」と判定する。
【0042】
(異常除去工程S5)
異常除去工程S5は、第1の判定工程S4により、「充填状態に問題がある」と判定された高圧ガス容器を確認した場合に、充填終了工程S7前に、この「充填状態に問題がある」と判定された高圧ガス容器から問題の原因を排除し、正常な圧縮ガスの充填に復帰させる工程である。よって、第1の判定工程S4において「充填状態に問題がある」と判定された高圧ガス容器がなかった場合は、異常除去工程S5は省略される。
【0043】
例えば、高圧ガス容器2の容器弁5が十分に開いていない場合に、充填状態に問題が生じる。この場合、第1の判定工程S4において、「充填状態に問題がある」高圧ガス容器の表面温度が他の高圧ガス容器の表面温度に比べて低いため、熱画像により「問題がある」高圧ガス容器を、ごく短時間で確認することができる。問題を確認後、容器弁5を全開にする等の対策を素早く施すことで、充填状態を正常にする。
【0044】
ここで、従来の高圧ガスの充填方法では、温度データの取得および判定に時間がかかり過ぎ、問題を確認したときには、問題のない高圧ガス容器との圧力差はかなり高圧となり、対策を施して同一ロットの充填に復帰させるには、容器間のガスの移動が急速となり危険であった。そのため、問題が確認された容器は、バルブ8を閉じることでそのロットでの充填を停止し、他のロットへ移動させていた。
【0045】
しかしながら、第1の熱画像取得工程S3および第1の判定工程S4が、ごく短時間で可能となり、問題のない高圧ガス容器との圧力差はそれほど高圧にはならない。これにより、「充填状態に問題がある」と判定された高圧ガス容器も、安全に同一ロットの充填に復帰させることができ、充填終了工程S7において同一ロット内の他の高圧ガス容器と同様に圧縮ガスの充填を終了することができ、問題がある高圧ガス容器を他のロットに移動させる必要がなくなる。
【0046】
しかしながら、容器弁5の開度以外の原因により充填状態に問題が生じた場合など短時間で対応できない場合は、問題がある高圧ガス容器を、他のロットに移動させても、もちろんよい。
【0047】
(分析工程S6)
分析工程S6では、充填開始工程S2において制御用コンピュータに入力した分析項目に基づいて分析を行う。分析項目は、適宜選択することができるが、具体的には、例えば、充填したガスの濃度や露点等である。
【0048】
(充填終了工程S7)
充填終了工程S7は、同一のロット内の高圧ガス容器2内の圧力が規定の圧力値に達した際に、圧縮ガスの充填を終了し、容器弁5をそれぞれ閉状態にする工程である。充填終了工程S7では、具体的には、先ず、分析工程S6が終了した後であって、高圧ガス容器2内の圧力及び温度が充填終了の条件に達したときに、充填を終了する。充填終了後、すぐに高圧ガス容器2の容器弁5を閉じる。
【0049】
(第2の熱画像取得工程S8)
第2の熱画像取得工程S8は、充填終了工程S7の直後の高圧ガス容器2の熱画像を取得する工程である。第2の熱画像取得工程S8では、第1の熱画像取得工程S3と同様の方法により、充填直後の同一ロット内の高圧ガス容器2の熱画像を撮影する。
【0050】
(第2の判定工程S9)
第2の判定工程S9は、第2の熱画像取得工程S8で撮影した熱画像に基づいて、同一ロット内の全ての高圧ガス容器2の充填状態を判定する工程である。第2の判定工程S9では、第1の判定工程S4と同様の方法により、高圧ガス容器2の充填状態について問題の有無を判定する。
【0051】
第2の判定工程S9により充填状態について問題の有無を判定することで、「充填状態に問題があった」高圧ガス容器の出荷を防ぐことができる。
【0052】
(後処理工程S10)
後処理工程S10では、先ず、容器弁5のガス充填口6に接続された充填配管3内の残ガスを放出する。その後、充填配管3を容器弁5から外す。圧縮ガスが充填された高圧ガス容器2は出荷まで保管される。
以上の工程により、本実施形態の圧縮ガスの充填方法が完了となる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の圧縮ガスの充填方法によれば、高圧ガス容器2の熱画像を取得する熱画像取得工程S3,S8と、熱画像に基づいて同一のロット内の全ての高圧ガス容器2への充填状態を、ごく短時間で判定できる判定工程S4,S9とを備えているため、圧縮ガスの充填状態の問題の有無を短時間で判定することができる。
【0054】
具体的には、例えば、47Lマンガン鋼製の高圧ガス容器16本に圧縮ガスを14.7MPaまで充填する場合、放射温度計を用いて1本ずつ表面温度を測定し、充填問題の有無を判定するのに、1本当たり約10秒かかり、合計で約170秒かかっていた。しかしながら、本実施形態の方法によれば、熱画像を上方から1枚撮影するだけなので、瞬時に判定することができる。
【0055】
また、本実施形態の圧縮ガスの充填方法によれば、第1の熱画像取得工程S3と第1の判定工程S4とが、充填開始工程S2後から充填終了工程S7前の間に行われ、第1の判定工程S4により、「充填状態に問題がある」と判定された高圧ガス容器を確認した場合、当該「充填状態に問題がある」と判定された高圧ガス容器から問題の原因を排除し、圧縮ガスの充填状態を正常にする異常除去工程S5を備えているため、「充填状態に問題がある」と判定された高圧ガス容器も、充填終了工程S7において同一ロット内の他の高圧ガス容器と同様に圧縮ガスの充填を終了することができ、問題がある高圧ガス容器を他のロットに移動させる必要がなくなる。
【0056】
また、本実施形態の圧縮ガスの充填方法によれば、第1の熱画像取得工程S3と第1の判定工程S4とが、充填終了工程S7後に行われるため、「充填状態に問題があった」高圧ガス容器の出荷を防ぐことができる。
【0057】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。上述した圧縮ガスの充填方法では、第1の判定工程S4及び第2の判定工程S9において、高圧ガス容器2の容器本体4の表面温度に基づいて、充填状態の問題の有無を判定する例について説明したがこの形態に限定されない。例えば、容器弁5と充填配管3とを有する接続体7に基づいて判定してもよいし、容器本体4及び接続体7の両方に基づいて判定してもよい。これにより、同一ロット内の容器本体4の材質が2種類以上ある場合や、充填開始時の容器の表面温度にばらつきがある場合でも、接続体7は同一ロット内で全て同じ状態であるため、接続体7の表面温度を比較することで、充填状態の問題の有無を判定することができる。
【0058】
また、上述した圧縮ガスの充填方法では、同一ロット内の高圧ガス容器2同士の表面温度を比較することにより、充填状態の問題の有無を判定する例について説明したが、この形態に限定されない。例えば、圧縮ガスを充填中の高圧ガス容器2と、圧縮ガスの充填が行われない高圧ガス容器2とを同じ熱画像に撮影し、表面温度を比較することにより判定してもよい。
【0059】
また、上述した圧縮ガスの充填方法では、第1の熱画像取得工程S3及び第2の熱画像取得工程S8において、熱画像を撮影する例について説明したが、この形態に限定されない。例えば、熱画像を常時連続的に撮影しながらモニタリングし、充填状態の問題の有無を判定してもよい。
【0060】
また、上述した圧縮ガスの充填方法では、充填開始工程S2の直後に第1の熱画像取得工程S3及び第1の判定工程S4を連続して行い、充填終了工程S7の直後に第2の熱画像取得工程S8及び第2の判定工程S9を連続して行う例について説明したが、この形態に限定されない。例えば、第1の熱画像取得工程S3及び第1の判定工程S4、又は、第2の熱画像取得工程S8及び第2の判定工程S9のうち、どちらか一方を省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の圧縮ガスの充填方法は、高圧ガス容器に圧縮ガスを充填する方法等に利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0062】
1…充填設備
2…高圧ガス容器
3…充填配管
4…容器本体
5…容器弁
6…ガス充填口
7…接続体
8…バルブ
9…架台
10…接続継手
A…載置スペース
図1
図2
図3
図4
図5