特許第6366109号(P6366109)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6366109リチウムイオン二次電池及びその充電方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366109
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池及びその充電方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20180723BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20180723BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180723BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20180723BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20180723BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180723BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20180723BHJP
【FI】
   H01M10/058
   H01M10/0567
   H01M10/052
   H01M4/587
   H01M4/62 Z
   H01M4/36 C
   H01M4/36 D
   H01M4/133
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-505407(P2015-505407)
(86)(22)【出願日】2014年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2014055349
(87)【国際公開番号】WO2014141930
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年2月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-51873(P2013-51873)
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】310010081
【氏名又は名称】NECエナジーデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 浩雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/061999(WO,A1)
【文献】 特開2004−273424(JP,A)
【文献】 特開2006−260864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極活物質として炭素を含む負極活物質層を備える負極と、電解液と、前記正極、前記負極及び前記電解液を内包する外装材と、を少なくとも備え、前記負極活物質層はカルボキシルメチルセルロースを含み、前記電解液は所定の電圧で分解され得る添加剤を含むリチウムイオン二次電池の充電方法であって、
一定電流値で充電を行う定電流充電と該定電流充電に引き続いて一定電圧で充電を行う定電圧充電とからなる仮充電と、前記仮充電の後に前記外装材の内部からガスを抜くガス抜きと、前記ガス抜きの後に前記リチウムイオン二次電池を充電する本充電と、を備え、
前記定電圧充電における前記一定電圧がセル当たり3.3V以上であり、
前記負極活物質の比表面積が1.6m2/g以上であり、
前記負極活物質の表面が、前記負極活物質100質量部に対して0.2〜7重量部の非晶質炭素によって被覆され、
前記負極活物質層の表面での析出物の存在する部位の面積が、前記本充電の終了時において、前記負極活物質層の表面の面積に対して0.5%以下である、充電方法。
【請求項2】
前記仮充電における前記負極活物質の質量当たりの充電容量が、17mAh/g以上である、請求項1に記載の充電方法。
【請求項3】
前記負極活物質層は、単体炭素を95.5質量%以上含む、請求項1または2に記載の充電方法。
【請求項4】
リチウムイオン二次電池の製造方法であって、該リチウムイオン二次電池の生産工程中において請求項1乃至のいずれか1項に記載の充電方法を実施するリチウムイオン二次電池の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池及びその充電方法に関し、特に、負極活物質層において負極活物質を分散させるバインダに水系バインダを用いるリチウムイオン二次電池に適した充電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
負極活物質として炭素材料を用い、正極活物質にリチウム含有複合酸化物を用い、電解液として非プロトン性溶媒に電解質を添加したものを用いるリチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を実現できることから、携帯電話、ノートパソコン用などの電源として注目されている。電解液に添加される電解質は支持塩とも呼ばれる。リチウムイオン二次電池の負極は、グラファイト、非定形炭素などの単体炭素の粉末を負極活物質とし、これをバインダに分散させた上で有機溶媒を添加してスラリーとし、このスラリーを例えば金属板からなる集電体に塗布して有機溶媒を蒸発除去することによって形成される。従来は、バインダとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが用いられている。
【0003】
ところで、リチウムイオン二次電池では、その組み立て後、初回充電を行うと、電解液中がガスが発生するとともに、SEI(Solid Electrolyte Interphase)膜と称されるリチウムイオン伝導性の保護皮膜が負極表面に形成される。セル内にガスが残っていると特性低下につながり、また、ガスの発生が均一な保護皮膜の形成に支障をきたす可能性もある。安定した保護皮膜が形成されていないと、充放電を繰り返した際に、電池容量が大きく低下する。
【0004】
特開平11−111339号公報(特許文献1)には、リチウムイオン二次電池の初回充電時に、電池内を加圧状態に保つことによりガスの発生を抑制しながら皮膜を形成し、充電終止電圧まで充電した後に、加圧状態を取り除き、常圧もしくは減圧状態で電池容器内を封口することが開示されている。特開2000−277144号公報(特許文献2)には、アルミニウムラミネート袋内に電池要素を入れ、非水電解液を含有させた後、袋開口部を封口し、所定の電池電圧を発生するまで充電して、初期のガス発生を済ませ、次に必要電気量だけ充電処理し、この充電状態のまま高温環境に所要時間保存して発電要素からガス発生させ、高温環境下で袋の一部を開封して内部にたまったガスを排出し、ついで袋を再度封口することが記載されている。
【0005】
また、リチウムイオン二次電池の初回充電では、まず仮充電を行ってセル内でガスを発生させる仮充電段階を実施し、その後、セルの外装材を開口してガスを外部に排出するガス抜き段階を実施し、再びセルの外装材を封口し、その後、規定の満充電電圧まで充電する本充電段階を実施することが広く行われている。
【0006】
リチウムイオン二次電池においては、過電圧や過充電は厳に避けなければならないことと、充電容量が大きくなるにつれて端子電圧が上昇することから、その充電方法として、定電流定電圧充電を用いることが一般的である。定電圧定電流充電では、まず、セルの端子電圧を監視しながら所定の電流値での定電流充電を行い、端子電圧が設定電圧に達したら、その後はその設定電圧での定電圧充電を行う、というものである。仮充電段階、ガス抜き段階、及び本充電段階を実行して初回充電を行う場合においても、仮充電段階や本充電段階の各々について、定電圧定電流充電を行うことが一般的である。
【0007】
特開2002−203609号公報(特許文献3)には、負極表面の保護皮膜に関し、定電流充電を行ってそののちに定電圧充電を行うことにより、非水電解質の非水溶媒に分解反応を生じさせて負極の表面に保護皮膜を形成する工程と、負極にリチウムを吸蔵させるための充電を行う工程とを設けることが開示されている。
【0008】
リチウムイオン二次電池において負極表面及び正極表面に形成される安定した保護皮膜を形成するために、所定の電圧で分解され得る添加剤を非プロトン性電解液に加え、初回充電時に添加剤の分解反応によって保護皮膜を形成することが提案されている。特開2006−351332号公報(特許文献4)には、鎖状ジスルホン酸エステルを電解液に加えた上で、30〜60℃の温度範囲で充電を行うことが示されている。特開2011−054408号公報(特許文献5)には、フッ素化環状カーボネートを添加剤として含む電解液を用いるリチウムイオン二次電池において、設定電圧を3.8〜4.1Vとする定電流定電圧充電を行った後、ガス抜きを行うことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−111339号公報
【特許文献2】特開2000−277144号公報
【特許文献3】特開2002−203609号公報
【特許文献4】特開2006−351332号公報
【特許文献5】特開2011−054408号公報
【特許文献6】WO2011/061999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献1〜5では、リチウムイオン二次電池の初回充電における充電条件の検討がなされている。しかしながら、これらの検討は、負極活物質層におけるバインダとしてPVDF等を用いた場合に限られている。バインダとしてのPVDFは、強度や化学的安定性などの電極に必要な特性を満たす一方、スラリーを調整する際に、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶剤を使用する必要がある。近年、環境適合性や有機溶媒暴露回避を目的として、水系バインダと呼ばれるバインダがリチウムイオン二次電極の負極に適用されるようになってきた。水系バインダとは、例えば、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)などであり、負極活物質である炭素粉末とともに水に分散させることでスラリーとなり、このスラリーを負極集電体上に塗布・乾燥させることによって負極活物質層を形成するもののことである。水系バインダは、負極活物質とともに水に分散させてスラリーを形成することによって特徴づけられるものであるが、実際には、スラリーの粘度調整のために、増粘剤を併用することが必要である。増粘剤としては、一般に、水溶性高分子であるカルボキシルメチルセルロース(CMC;carboxymethyl cellulose)が使用される。したがって、水系バインダを用いた負極活物質層は、CMCの存在によって実質的に特定されるものである。
【0011】
PVDFが面的な接着をする一方で、水系バインダは、点的な接着挙動を示すため、PVDFと比較して一般にバインダ量が少なくなる。また発明者らは負極活物質としての炭素として、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法などによって測定される比表面積がより大きなものを使用することで電極強度が高まることを経験的に見出している。負極活物質の比表面積が大きければ、あるいは、バインダ量が少なければ、負極活物質と電解液との反応面積も増大して反応速度の大きくなり、その分、低い電圧及び小さな積算電流量(すなわち容量)でSEI皮膜(保護皮膜)が形成されると予想される。したがって、水系バインダの使用により、仮充電時の電圧値及び電流値をより小さくできる、と期待されていた。
【0012】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、水系バインダを用いる負極活物質層を有するリチウムイオン二次電池では、初回充電の充電条件として、バインダとしてPVDFを用いる負極活物質層を有するリチウムイオン二次電池の場合と同じかそれよりも低電流・低電圧側の条件を使用した場合には、十分な電池性能が得られなかった。例えば、負極活物質層の表面に、負極での電極反応を阻害する析出物が発生することが認められた。この析出物は、XPS(X線光電子分光分析)での解析結果によると、リチウムとイオウを含んでおり、このことから、スルホニル基を有する添加剤と負極にインターカレーションされたリチウムとの反応によって生成されたものであることが推測される。また、充電と放電とのサイクルを繰り返したのちの電池容量の低下が大きいことも認められた。これは、負極の電極反応を阻害する析出物の生成によってもたらされたものであることが予想され、さらに、SEI皮膜(保護皮膜)の形成が不十分であることも示唆している。したがって、水系バインダを負極活物質層に用いるリチウムイオン二次電池について、初回充電の充電条件について再検討を行う必要がある。
【0013】
また、バインダとしてPVDFを用いるか水系バインダを用いるかによって上述したような差異が生じたことからすると、負極活物質に用いる炭素の性状についてもバインダの種類に応じて最適なものが異なる可能性があるが、そのような検討は今まで行われていない。
【0014】
本発明の目的は、上述した課題を解決し、水系バインダを負極活物質層に用いたリチウムイオン二次イオン電池の初回充電に適した充電方法を提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、水系バインダを負極活物質層に用いるとともに、適切な充電方法によって初回充電がなされたたリチウムイオン二次イオン電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の観点によれば、リチウムイオン二次電池の充電方法は、正極と、負極活物質として炭素を含む負極活物質層を備える負極と、電解液と、正極、負極及び電解液を内包する外装材と、を少なくとも備え、負極活物質層はカルボキシルメチルセルロースを含み、電解液は所定の電圧で分解され得る添加剤を含むリチウムイオン二次電池の充電方法であって、一定電流値で充電を行う定電流充電と該定電流充電に引き続いて一定電圧で充電を行う定電圧充電とからなる仮充電段階と、仮充電段階の後に外装材の内部からガスを抜くガス抜き段階と、ガス抜き段階の後にリチウムイオン二次電池を充電する本充電段階と、を備え、定電圧充電における一定電圧がセル当たり3.3V以上である。
【0017】
本発明の第2の観点によれば、リチウムイオン二次電池の充電方法は、正極と、負極活物質として炭素を含む負極活物質層を備える負極と、電解液と、正極、負極及び電解液を内包する外装材と、を少なくとも備え、負極活物質層はカルボキシルメチルセルロースを含み、電解液は所定の電圧で分解され得る添加剤を含むリチウムイオン二次電池の充電方法であって、一定電流値で充電を行う定電流充電と該定電流充電に引き続いて一定電圧で充電を行う定電圧充電とからなる仮充電段階と、仮充電段階の後に外装材の内部からガスを抜くガス抜き段階と、ガス抜き段階の後にリチウムイオン二次電池を充電する本充電段階と、を含み、仮充電段階における負極活物質の質量当たりの充電容量が、17mAh/g以上である。
【0018】
本発明の第3の観点によれば、リチウムイオン電池は、そのリチウムイオン二次電池の生産工程中において上述の充電方法により充電されている。
【0019】
本発明の第4の観点によれば、リチウムイオン二次電池は、正極と、負極活物質として炭素を含む負極活物質層を備える負極と、電解液と、正極、負極及び電解液を内包する外装材と、を少なくとも備え、負極活物質層はカルボキシルメチルセルロースを含み、電解液は所定の電圧で分解され得る添加剤を含むリチウムイオン二次電池であって、満充電状態とされた後における、負極活物質層の表面での析出物の存在する部位の面積が、負極活物質層の表面の面積に対して0.5%以下である。
【0020】
上述した充電方法を採用することで、リチウムイオン二次電池のセル内で発生し得るガスの大部分が仮充電段階で発生し終えることとなり、本充電段階でのガス成分による充電不均一性を抑制して、負極における電極反応を阻害する析出物の生成を抑制することができ、充放電の繰り返しを経ても電池容量の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1(a)及び図1(b)は、充電容量と電極電位との関係を示すグラフである。
図2図2は、本発明の例示実施形態の充電方法が適用されるリチウムイオン二次電池の一例の構成を示す模式断面図である。
図3図3は、表面に析出物が発生した負極を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の例示実施形態について説明する。
【0023】
本発明者らは種々の検討を重ねた結果、負極活物質層として水系バインダを用いるリチウムイオン二次電池の製造において、初回充電の方法を一定条件で行ったときに、特に、仮充電段階での設定電圧を3.3V以上とするか、あるいは仮充電段階での負極活物質あたりの充電容量を17mAh/g以上とすることにより、負極の電極反応を阻害する析出物の負極活物質層上での生成を抑制でき、また、充放電の繰り返しを行っても電池容量の低下の少ないリチウムイオン二次電池が得られることを見出した。
【0024】
さらに本発明者らの検討によれば、水系バインダを用いる場合には、負極活物質層中の負極活物質の割合が大きい場合、また、負極活物質に用いられる単体炭素として比表面積が大きいものを使用する場合において、仮充電電圧の影響はより顕著に現れることが明らかとなった。
【0025】
これらの現象の要因としては未だ明らかではないものの、下記のように推察される。保護皮膜が未だ形成されていない、または形成されつつある仮充電段階において、負極活物質層の表面では添加剤や電解質の分解が進行するが、上述のような活物質比率や比表面積の特徴を持つ負極の場合、表面に露出した活物質表面が相対的に大きいため、従来の予想通り分解反応がより速やかに進行する。この際、添加剤や電解質が還元分解すると、負極活物質に既に含まれていたリチウムの消費が起こると考えられる。添加剤としては、電解質よりも分解電圧が低いものが選択されるので、添加剤をXで表すこととすると、添加剤Xの分解反応は、
X+LiC6 → X-+Li++C6
と表される。すなわち、添加剤の還元分解により、負極からリチウムが脱離することになる。単極電位として正極の電極電位及び負極の電極電位を考えると、リチウムの脱離によって、正極の電極電位は変化しないものの、負極の電極電位は上昇する。
【0026】
図1(a)及び図1(b)は、いずれも、リチウムイオン二次電池における、充電容量と正極及び負極の電極電位との関係を示したグラフである。この時のセル電圧は、図中の矢印で示したように、正極と負極の電極電位の差分に相当する。添加剤の還元分解等が起こらないとすると、正極及び負極の電極電位は、理論値として、充電容量に対して図1(a)に示すように変化する。正極と負極との電極電位の差がセル電圧となる。これに対して、添加剤の還元分解などのために負極からリチウムが離脱すると、負極だけ、図1(b)の実線で示すように、電極電位が高い側にシフトする。そのため、析出物を発生させず安定したSEI皮膜を形成するために所望の負極電位を達成するために、より大きなセル電圧が必要となる。水系バインダを用いたリチウムイオン二次電池では、PVDFをバインダとして使用する場合に比べ、仮充電段階において添加剤や電解液の還元分解が起こりやすいので、仮充電段階での設定電圧をより高くする必要が生じるものと考えられる。
【0027】
図2は、本発明の一例示実施形態の充電方法が適用されるリチウムイオン二次電池の一例を示している。このリチウムイオン二次電池1では、セパレータ30を介して正極シート10と負極シート20とが積層された積層構造を有する電池要素3が、フィルム状の外装材5によって封口されている。正極シート10において、アルミニウム箔等からなる正極集電体11上には正極活物質層13が形成されている。また、正極シート10よりも面積が大きな負極シート20において、銅箔等からなる負極集電体21上には負極活物質層23が形成されている。
【0028】
正極引出端子19及び負極引出端子29は、それぞれ外装材5の封口部7において熱融着等が行われて外部へ取り出されており、内部に電解液を注液した後に、減圧した状態で封口されている。減圧による内外の圧力差によって外装材5は、正極シート10と負極シート20とを積層した電池要素3を押圧している。
【0029】
本例示実施形態において、正極活物質層13に含まれる正極活物質には、リチウム含有遷移金属酸化物であるコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム及びマンガン酸リチウムを使用することができる。
【0030】
コバルト酸リチウムとしては、金属Liを対極として用いて充放電特性を求めたときに4V付近にプラトーを有する一般的なLiCoO2を用いることができる。また、熱安定性を向上させたり、引き抜きLi量が多くなった場合にも結晶構造が不安定にならないようにMg、Al、Zrなどを表面に修飾したり、これらの元素をCoサイトにドープ、置換させたりしたものを用いることができる。
【0031】
ニッケル酸リチウムとしては、金属Liを対極として用いて充放電特性を求めたときに4V付近にプラトーを有するとともに、熱安定性及びサイクル特性を良好なものとするために、Niサイトを一部Coで置換したLiNi1-xCox2(0.1≦x≦0.3)や、さらにAlをドープしたLiNi1-x-yCoxAly2(0.1≦x≦0.3、0.02≦y≦0.1)を用いることができる。
【0032】
マンガン酸リチウムとしては、金属Liを対極として用いて充放電特性を求めたときに4V付近にプラトーを有するLi1+xMn2-x-yy4-z(0.03≦x≦0.16、0≦y≦0.1、−0.1≦z≦0.1、M=Mg、Al、Ti、Co及びNiから選ばれる1種以上)を用いることができる。マンガン酸リチウムの粒子形状は塊状、球状、板状、その他、特に限定されるものではない。粒径及び比表面積も、正極活物質層膜厚、正極活物質層の電極密度、バインダ種などを考慮して適宜選択することができる。しかしながら、エネルギー密度を高く保つために、集電体金属箔を除去した部分の正極活物質層電極密度が2.8g/cm3以上となるような粒子形状、粒度分布、平均粒径、比表面積、真密度を選択することが望ましい。また、正極活物質、バインダ、導電性付与剤などにより構成される正極合剤のうち、正極活物質が占める質量比率が80%以上となるような粒子形状、粒度分布、平均粒径、比表面積、真密度を選択することが望ましい。Li1+xMn2-x-yy4-z(0.03≦x≦0.16、0≦y≦0.1、−0.1≦z≦0.1、M=Mg、Al、Ti、Co及びNiから選ばれる1種以上の金属)の合成方法としては、例えば、WO2011/061999号公報(特許文献6)に記載されているものを用いることができる。
【0033】
マンガン酸リチウムとニッケル酸リチウムとの質量比率が、90:10〜50:50となる範囲で混合した正極活物質を、バインダ種、アセチレンブラックやカーボンなどの導電性付与剤と混合し正極合剤とする。バインダには、通常用いられている樹脂系結着剤を用いることができ、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用いることができる。この正極合剤をスラリーとし、集電体金属箔に公知の方法で塗布し、乾燥することで正極を作製する。正極集電体金属箔としてはアルミニウム箔が好ましい。
【0034】
前記の材料の他、Li(NixCoyMnz)O2などと表される3元系材料(0<x、y、z<0.9)や、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウムなどの公知の材料を、1種または2種以上混合して正極活物質として用いてよい。
【0035】
本例示実施形態において、負極活物質には、例えば表面に非晶質炭素を被覆させた黒鉛を用いる。この黒鉛を、レート特性、出力特性、低温放電特性、パルス放電特性、エネルギー密度、軽量、小型などの電池として重視する特性に応じて適宜選択した水系バインダ種と増粘剤と混合し負極合剤とする。水系バインダには、例えば、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)が用いられる。増粘剤にはカルボキシルメチルセルロース(CMC)が用いられる。負極合剤を水に分散させてスラリーとし、負極集電体金属箔に公知の方法で塗布し、乾燥することで負極を作製する。負極集電体金属箔としては銅箔が好ましい。
【0036】
セパレータには、ポリプロピレン、もしくはポリプロピレン、ポリエチレン及びポリプロピレンの三層構造の多孔質プラスッチクフィルムを使用することが好ましい。セパレータの厚さは特に限定されるものではないが、レート特性、電池のエネルギー密度、機械的強度を考慮して、10μm〜30μmであることが好ましい。
【0037】
非プロトン性電解液の溶媒としては、通常用いられる溶媒を用いることができ、例えばカーボネート類、エーテル類、ケトン類等を用いることができる。好ましくは、高誘電率溶媒としてのエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(GBL)等から選ばれる少なくとも1種類と、低粘度溶媒としてのジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エステル類等から選ばれる少なくとも1種類との混合液を用いる。混合液としては、EC+DEC、EC+EMC、EC+DMC、PC+DEC、PC+EMC、PC+DMC、PC+EC+DECなどが好ましい。また非プロトン性電解液の溶媒には、所定の電圧で分解され得る添加剤が添加される。添加剤としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、プロパンスルトン及びジエチルスルホンやその他公知の添加剤等、所定の電圧で分解され得るという条件を満たすものであれば、その1種または2種以上の混合物を任意に使用することができるが、スルホニル基を少なくとも2個有するスルホン酸エステルが好ましく用いられる。
【0038】
負極活物質は黒鉛であるので、スルホニル基を少なくとも2個有するスルホン酸エステルを添加剤として用いる場合には、非プロトン性電解液を構成する溶媒におけるPCの混合比率は、この添加剤が初回の充電時にPCよりも先に還元されて負極上に緻密な被膜(SEI)を形成した後に、PC自身の還元分解反応が起こらない程度の低比率であることが望ましい。また、溶媒の純度が低い場合や含有水分量が多い場合には、電位窓が高電位側に広い溶媒種の混合比率を高めることが好ましい。
【0039】
非プロトン性電解液に含まれる支持塩としては、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、Li(CF3SO2)N、Li(C25SO22Nなどから選ばれる少なくとも1種類を用いることができるが、LiPF6を用いることが好ましい。支持塩の濃度は、0.8〜1.5mol/Lが好ましく、0.9〜1.2mol/Lがより好ましい。
【0040】
非プロトン性電解液に添加剤として含まれるスルホニル基を少なくとも2個有するスルホン酸エステルとしては、式(1)で示される環式スルホン酸エステルまたは式(2)で示される鎖状スルホン酸エステルが好ましい。
【0041】
【化1】
【0042】
式(1)中、Qは酸素原子、メチレン基または単結合、A1は置換もしくは無置換の炭素数1〜5のアルキレン基、カルボニル基、スルフィニル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜6のフルオロアルキレン基、エーテル結合を介してアルキレン単位またはフルオロアルキレン単位が結合した炭素数2〜6の2価の基を示し、A2は置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のフルオロアルキレン基、または酸素原子を示している。
【0043】
【化2】
【0044】
式(2)中、R1及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜5のアルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜5のフルオロアルキル基、炭素数1〜5のポリフルオロアルキル基、−SO21(X1は置換もしくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基)、−SY1(Y1は置換もしくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基)、−COZ(Zは水素原子、または置換もしくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基)、及びハロゲン原子、から選ばれる原子または基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜5のアルコキシ基、置換もしくは無置換のフェノキシ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜5のフルオロアルキル基、炭素数1〜5のポリフルオロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基、炭素数1〜5のポリフルオロアルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、−NX23(X2及びX3は、それぞれ独立して、水素原子、または置換もしくは無置換の炭素数1〜5アルキル基)、及び−NY2CONY34(Y2〜Y4は、それぞれ独立して、水素原子、または置換もしくは無置換の炭素数1〜5アルキル基)、から選ばれる原子または基を示している。
【0045】
式(1)で示される環式スルホン酸エステルの代表例を表1に、式(2)で示される鎖状スルホン酸エステルの代表例を表2に具体的に例示するが、本例示実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
正極シートと負極シートを、セパレータを介して積層または巻回し、ラミネートフィルムからなる外装材内に電解液注液部分を残して封入する。ラミネートフィルムとしては、アルミニウムラミネートフィルムが好ましい。電解液注液部分から非プロトン性電解液を注液し、ラミネートフィルムを真空封止する。これにより、仮充電前リチウムイオン二次電池を作製する。
【0049】
作製した仮充電前リチウムイオン二次電池に対しては、定電流定電圧充電によって、仮充電を行う。定電流定電圧充電では、定電圧充電での設定電圧を3.3V以上とする。あるいは、仮充電段階における負極活物質の質量当たりの充電容量が、17mAh/g以上であるようにする。仮充電における設定電圧が3.3V未満、あるいは負極活物質の質量当たりの充電容量17mAh/g未満であると、仮充電終了時に未反応の添加剤が多く残存し、また負極活物質層上にSEI皮膜が形成されていない部分が発生するため、本充電で添加剤が反応することによりガスが発生し負極活物質層上に析出物が発生し、サイクル特性が低下することととなる。
【0050】
仮充電で発生する可能性のあるガスを放出するために、仮充電後リチウムイオン二次電池のラミネートフィルムを開封する必要がある。その後、ラミネートフィルムを再度真空封止する。次いで本充電を行って、リチウムイオン二次電池が完成する。本充電の条件は、要求される二次電池の設計により異なる。一例として、0.25Cの電流値で、設計電圧まで8時間の定電流定電圧充電を行うことができる。
【実施例】
【0051】
実施例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。
【0052】
負極活物質として非晶質炭素被覆黒鉛を使用してリチウムイオン二次電池を組み立て、仮充電段階、ガス抜き段階及び本充電段階からなる初回充電を行い、その後、充放電を繰り返すことによってリチウムイオン二次電池の性能を評価した。このとき、非晶質炭素被覆黒鉛の仕様や負極活物質層におけるバインダ量を変化させた複数のリチウムイオン二次電池を作成し、また、初回充電における仮充電段階での充電条件を変化させることにより、複数の試料すなわちリチウムイオン二次電池についての性能の評価を行った。非晶質炭素被覆黒鉛の仕様として比表面積及び被覆率を用いた。
【0053】
[リチウムイオン二次電池の作製]
正極活物質としてのマンガン酸リチウムとニッケル酸リチウムとの混合物と、導電性付与剤とを乾式混合し、これをバインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を溶解させたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の中に均一に分散させて、スラリーを作製した。正極活物質を構成する混合物での配合比は、マンガン酸リチウム:ニッケル酸リチウム=75:25(質量%)とした。このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム金属箔上に塗布後、NMPを蒸発させることにより正極活物質層を形成し、正極シートを作製した。正極活物質層中の固形分比率は、質量比率(%)で、マンガン酸リチウム:ニッケル酸リチウム:導電性付与剤:PVDF=68:23:5:4とした。その正極シートから、正極活物質層が形成されている部分である幅70mm、長さ130mmの部分と、スラリーが塗布されずにアルミニウム金属箔の表面が露出している領域である幅10mm、長さ25mmの部分とを、これらの部分が分離しないように打ち抜いた。
【0054】
負極活物質としての非晶質炭素被覆黒鉛を、導電助剤であるアセチレンブラック、増粘剤であるカルボキシルメチルセルロース(CMC)、及び、バインダであるスチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)とともに水中に均一に分散させてスラリーを作製し、そのスラリーを厚さ10μmの銅箔上に塗布後、水を蒸発させることにより負極活物質層を形成し、負極シートを作製した。ここで使用したバインダは、水系バインダと呼ばれるものである。使用した非晶質炭素被覆黒鉛の比表面積及び非晶質被覆率は、試料ごとに異なり、後述の表3に示す通りである。表3において、比表面積はBET法によって得られる値であり、非晶質被覆率は、黒鉛表面における非晶質炭素の質量比率を示すものである。非晶質炭素の質量比率は、大気中において非晶質炭素の方が黒鉛よりも低温で酸化して二酸化炭素となることを利用して、例えば、大気中、温度650℃での減量率を熱天秤(TG)で測定することによって求めることができる。表3において試料20,21の非晶質被覆率が0であるが、これは、試料20,21では非晶質によって被覆されていない黒鉛を使用したことを示している。
【0055】
負極活物質層中の固形分比率は、質量比率で、黒鉛:アセチレンブラック:増粘剤:バインダ=96.5:1:1:1.5とした。表3におけるバインダ量は、増粘剤とバインダとの質量比率の和を示しているので、この負極活物質層は、表3においてバインダ量が2.5%である試料に対応する。バインダ量を2.5%から変化させるときは、アセチレンブラックと増粘剤の各々の質量比率(百分率)は変化させずに、SBRの質量比率を変化させ、これに対応するように黒鉛の質量比率を変化させればよい。
【0056】
このようにして作製した負極シートから、負極活物質層が形成されている部分である幅74mm、長さ134mmの部分と、スラリーが塗布されずに銅箔の表面が露出している領域である幅10mm、長さ25mmの部分とを、これらの部分が分離しないように打ち抜いた。
【0057】
上記のようにして作製した負極シート14枚及び正極シート13枚を、厚さ25μmのポリプロピレン製の多孔質膜セパレータを介して積み重ね、電池要素である積層体を作製した。その際、正極シート及び負極シートそれぞれの金属箔露出部分は同一極同士で同一側となるように積層体を作製した。この積層体の正極シートに対しアルミニウム製の外部電流取り出し用タブを超音波溶接し、負極シートにはニッケル製の外部電流取り出し用タブを超音波溶接した。得られた積層体を内包するように、積層体の形状に合わせてエンボス形成したラミネートフィルムと、平面のラミネートフィルムとを、電解液注液部分を残して熱融着した。これらのラミネートフィルムによって外装材が構成される。
【0058】
非プロトン性電解液として、1mol/LのLiPF6を支持塩とし、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比率でEC:DEC=30:70となるように混合した混合液を溶媒とする電解液を調製した。この電解液には、スルホニル基を少なくとも2個有する環式スルホン酸エステルとして、下記(3)式に示す化合物を、電解液に対し1.6wt%となるように添加剤として混合した。電解液注液部分からこの電解液を注液し、ラミネートフィルムを真空封止した。これによりリチウムイオン二次電池を組み立てた。この状態ではリチウムイオン二次電池には初回充電が行われていないので、これを仮充電前リチウムイオン二次電池と呼ぶ。
【0059】
【化3】
【0060】
式(3)に示す添加剤は、非プロトン性電解液中において、所定の電圧で分解され得るものである。
【0061】
(充電条件)
作製した仮充電前リチウムイオン二次電池に対し、25℃±4℃の環境下で0.1Cの電流値でセル当たりの端子電圧が設定電圧になるまで定電流充電を行い、その後、設定電圧に保持する定電圧充電を行う定電流定電圧充電によって、1時間、仮充電を行った。試料ごとに使用した設定電圧が表3において充電電圧の欄に示されている。仮充電ののち、ラミネートフィルムをいったん開封して電池内部に貯まっているガスを除去し、再度、ラミネートフィルムを真空封止を行った。真空封止後、本充電として、0.2Cで4.2Vまで10時間、定電流定電圧充電を行った。その後、38℃の恒温槽中にて1週間エージングした後、25±4℃の環境下で0.2Cの電流値にて3.0Vまで定電流放電した。これによりリチウムイオン二次電池を作製した。
【0062】
このようなリチウムイオン二次電池は各試料ごとに3個作製した。
【0063】
(評価)
作製したリチウムイオン二次電池について、仮充電容量、析出物面積比、サイクル試験後の容量維持率、及び、剥離強度によって評価を行った。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
仮充電容量は、仮充電段階において、単位質量の負極活物質あたりどれだけの容量の充電がなされたかを示している。
【0066】
析出物面積比は、負極での電極反応を阻害し得る析出物が存在する部位が負極活物質層の表面で占める割合を示しており、負極表面を観察することによって得られたものである。このような析出物は、例えば白色あるいは黄色を呈しており、これに対して負極活物質層そのものは負極活物質である炭素に由来して黒色を呈することから、負極表面を撮影した画像に対する画像処理を行うことによって、析出物面積比を求めることができた。負極表面の観察は、試料ごとにリチウムイオン二次電池1個について、不活性ガス雰囲気下でパッケージを開封し、上述の負極シートを取り出して写真撮影することによって行った。
【0067】
サイクル試験は、各試料ごとに2個のリチウムイオン2次電池に対し、40℃の環境下で、1Cの電流値での4.2Vまでの2.5時間の定電流定電圧充電と、1Cの電流値にて3.0Vまで定電流放電とを繰り返すサイクルを500サイクル実行した。そして、10サイクル目の放電容量で500サイクル目の放電容量を除算することによって、容量維持率を算出した。
【0068】
剥離強度については、試料ごとに、負極シート作製と同様の工程によって、片面のみに負極活物質層を塗布・乾燥させたものを1枚作成し、剥離試験に供することによって、評価を行った。剥離試験では、JIS−K6854−2に準じた形態で180°剥離を行った。そして剥離強度が一定値以下のものを「低い」と判定した。
【0069】
容量残存率が78%以上であり、負極における剥離強度が確保できているものを良品とした。表3において、良品に対しては「判定」の欄に「〇」が記載され、そうでないものに対しては「×」が記載されている。
【0070】
表3から分かるように、良品となるためには、仮充電段階におけるセル当たりの設定電圧、すなわち表3における充電電圧を3.3V以上とするか、あるいは、仮充電段階での負極活物質あたりの充電容量を17mAh/g以上とすることが必要である。PVDF系バインダを用いた場合には、仮充電段階における設定電圧が3.5Vを超えると充放電サイクルを繰り返した場合に負極で発生したガスが存在したまま負極へのリチウムイオンのインターカレーションが進行し、そのため、充放電を繰り返したのちの容量維持率が低下することが知られている。これに対し、水系バインダを用いる場合には、表3から分かるように、3.5Vを超える設定電圧としても、容量維持率が低下することはない。
【0071】
表3からは、負極活物質のBET法による比表面積が1.6m2/g以上であることが好ましく、負極活物質層でのバインダ量が4.0質量%未満であること、言い換えれば、負極活物質層には単体炭素が95.5質量%以上含まれることが好ましいことも分かる。ここでいう単体炭素は、非晶質被覆黒鉛及びアセチレンブラックである。また表3からは、非晶質被覆黒鉛における非晶質被覆率が0.2〜7%の範囲にあることが好ましいことも分かる。
【0072】
負極活物質層上に存在して負極での電極反応を阻害し得る析出物について、表3からは、4Vといった極端に高い電圧の場合を除いて、仮充電段階での設定電圧が低いと析出物が多くなる、という傾向が見て取れる。そして、十分な電池特性を得るためには、析出物面積比として0.5%以下であることが好ましいことが分かる。図3は、表3に示す試料2のリチウムイオン二次電池の負極活物質層上に見出された析出物を示している。
【0073】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0074】
この出願は、2013年3月14日に出願された日本国特許出願:特願2013−051873を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てを参照によりここに取り込む。
【符号の説明】
【0075】
1 リチウムイオン二次電池
3 電池要素
5 外装材
7 封口部
10 正極シート
11 正極集電体
13 正極活物質層
19 正極引出端子
20 負極シート
21 負極集電体
23 負極活物質層
29 負極引出端子
30 セパレータ
図1
図2
図3