特許第6366110号(P6366110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 岡山大学の特許一覧

<>
  • 特許6366110-組成物及びその製造方法 図000018
  • 特許6366110-組成物及びその製造方法 図000019
  • 特許6366110-組成物及びその製造方法 図000020
  • 特許6366110-組成物及びその製造方法 図000021
  • 特許6366110-組成物及びその製造方法 図000022
  • 特許6366110-組成物及びその製造方法 図000023
  • 特許6366110-組成物及びその製造方法 図000024
  • 特許6366110-組成物及びその製造方法 図000025
  • 特許6366110-組成物及びその製造方法 図000026
  • 特許6366110-組成物及びその製造方法 図000027
  • 特許6366110-組成物及びその製造方法 図000028
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366110
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/40 20060101AFI20180723BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20180723BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20180723BHJP
   A61K 6/00 20060101ALI20180723BHJP
   A61L 24/00 20060101ALI20180723BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20180723BHJP
   A61C 13/01 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C08F220/40
   C08F2/44 C
   C08F220/18
   A61K6/00 D
   A61L24/00
   A61L27/00
   A61C13/01
【請求項の数】12
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-539179(P2015-539179)
(86)(22)【出願日】2014年9月22日
(86)【国際出願番号】JP2014075000
(87)【国際公開番号】WO2015046100
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2017年7月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-197510(P2013-197510)
(32)【優先日】2013年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-60281(P2014-60281)
(32)【優先日】2014年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラムフィージビリティスタディステージ探索タイプに係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100113181
【弁理士】
【氏名又は名称】中務 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180600
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】田仲 持郎
【審査官】 前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/077944(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/090078(WO,A1)
【文献】 特開2006−199622(JP,A)
【文献】 特開2000−254152(JP,A)
【文献】 特開平07−076611(JP,A)
【文献】 特開平08−127908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00−19/44
C08F6/00−301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(A)、単量体(B)及び重合開始剤(C)を含有する組成物であって;
単量体(B)100質量部に対して重合体(A)100〜280質量部を含有し、
重合体(A)が、メチルメタクリレート単位を70質量%以上含有し、
単量体(B)として、下記式(1)
【化1】
[式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R及びRのうち、少なくとも1つが水素原子である。]
で表される化合物(b1)及びメチルメタクリレート(b2)から選択される少なくとも1種の化合物70〜99.5質量%と、下記式(2)
【化2】
で表される1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
単量体(B)として、化合物(b1)70〜99.5質量%と1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有する請求項に記載の組成物。
【請求項3】
単量体(B)として、メチルメタクリレート(b2)70〜99.5質量%と1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有する請求項に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の組成物からなる医療用組成物。
【請求項5】
請求項に記載の医療用組成物からなる歯科用組成物。
【請求項6】
請求項に記載の歯科用組成物からなる歯科用接着剤。
【請求項7】
請求項に記載の医療用組成物からなる骨セメント。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の組成物を硬化させてなる成形品。
【請求項9】
請求項に記載の歯科用組成物を硬化させてなる義歯床又はマウスピース。
【請求項10】
重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを、重合開始剤(C)の存在下で混合して増粘させることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項11】
重合体(A)が予め重合開始剤(C)を含有している請求項10に記載の組成物の製造方法。
【請求項12】
メチルメタクリレート単位を70質量%以上含有する重合体(A)の粉剤と、
下記式(1)
【化3】
[式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R及びRのうち、少なくとも1つが水素原子である。]
で表される化合物(b1)及びメチルメタクリレート(b2)から選択される少なくとも1種の化合物70〜99.5質量%と、下記式(2)
【化4】
で表される1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有する単量体(B)の液剤、とからなり、前記粉剤又は前記液剤の少なくとも一方が重合開始剤(C)を含有する、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチルメタクリレート単位を含有する重合体、複数種の単量体及び重合開始剤を含有する組成物及びその製造方法に関する。また、このような組成物からなる医療用組成物、特に歯科用組成物に関する。さらに、前記組成物を硬化させてなる成形品及び前記組成物を製造するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
重合体、単量体及び重合開始剤を含有する組成物は成形品の材料等として用いられている。このような組成物は、通常、重合体の粉剤と単量体の液剤を混合して製造される。そして、成形品の製造方法としては、通常、重合体の粉剤と単量体の液剤を混合して、混合物が餅状になるまで待ってから賦形し、その後重合させて硬化させることによって目的の形状のものを得る方法が用いられている。このような製造方法を用いれば、組成物の製造やその後の賦形が簡便な操作で可能である。これまで、このような組成物として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)の粉剤とメチルメタクリレート(MMA)の液剤とを混合して得られるものが知られており、当該組成物は、医療分野等において使用されている。例えば、当該組成物は、歯科分野において、義歯床材、マウスピース材等の材料として使用されているほか、整形外科の分野において、骨セメント材等として使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート及び重合開始剤を含有する組成物を重合させた硬化物は、高硬度かつ高強度ではあるものの、靭性が不十分となる場合があった。したがって、用途によっては使用中の応力や衝撃によって破損するおそれがあり、その改善が求められていた。また、前記硬化物を湿った状態で長期間使用した場合、成形品が吸水することにより機械的性質が低下する場合があった。なかでも、義歯床やマウスピースは、コーヒーやお茶などにより着色することや、長期間使用することにより悪臭を発することがあり、吸水率の低下が求められていた。
【0004】
特許文献1には、不飽和二重結合を持つ重合性モノマーと、ポリアルキル(メタ)アクリレートと、重合触媒とが混合されてなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも一部が前記重合性モノマー中に溶解していることを特徴とする義歯床用樹脂材料が記載されている。これにより、予めペースト状となっていて操作が簡略化できるとともに、弾性エネルギーが大きく適度な硬さと粘り強さとを有した硬化体が得られるとされている。実施例には、重合性モノマーとして、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート及びエチレングリコールジメタクリレートを用いた例が記載されているが、その強度は不十分なものであった。
【0005】
特許文献2には、ポリアルキル(メタ)アクリレートの粉剤と、炭素数が6以上のビニルエステル単量体の液剤とを、重合開始剤の存在下で混合して増粘させてから賦形し、その後重合反応を進行させて硬化させる、成形品の製造方法が記載されている。しかしながら、液剤としてビニルエステル単量体を用いたのでは、得られる成形品の弾性率が低くなり、高弾性率が要求される用途に用いるには不十分な場合があった。
【0006】
特許文献3には、ポリメチルメタクリレートの粉剤と、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートの液剤とを重合開始剤の存在下で混合して増粘させてから賦形し、その後重合反応を進行させて硬化させる、成形品の製造方法が記載されている。しかしながら、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートは、ポリメチルメタクリレートの粉剤を膨潤させる速度が遅く、混合操作に24時間あるいはそれ以上の時間を要するので、操作性が不十分であった。また、用途によっては、強度、弾性率、靭性のバランスが不十分となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−254152号公報
【特許文献2】WO2006/077944号
【特許文献3】WO2011/090078号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高強度かつ高弾性率でありながら靭性に優れ、しかも低吸水率である成形品を得ることができる組成物を提供することを目的とするものである。また、そのような樹脂組成物を簡便に調製することができる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、重合体(A)、単量体(B)及び重合開始剤(C)を含有する組成物であって;
単量体(B)100質量部に対して重合体(A)100〜280質量部を含有し、
重合体(A)が、メチルメタクリレート単位を70質量%以上含有し、
単量体(B)として、下記式(1)
【化1】
[式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R及びRのうち、少なくとも1つが水素原子である。]
で表される化合物(b1)及びメチルメタクリレート(b2)から選択される少なくとも1種の化合物70〜99.5質量%と、下記式(2)
【化2】
で表される1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有することを特徴とする組成物を提供することによって解決される。
【0011】
単量体(B)として、化合物(b1)70〜99.5質量%と1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有する前記組成物が好適な実施態様である。また、単量体(B)として、メチルメタクリレート(b2)70〜99.5質量%と1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有する前記組成物も、好適な実施態様である。
【0012】
前記組成物からなる医療用組成物が本発明の好適な実施態様であり、当該医療用組成物からなる歯科用組成物、特に歯科用接着剤がより好適な実施態様である。具体的には、前記医療用組成物からなる骨セメントが好適な実施態様である。また、前記組成物を硬化させてなる成形品も本発明の好適な実施態様である。具体的には、前記歯科用組成物を硬化させてなる義歯床又はマウスピースが、好適な実施態様である。
【0013】
また上記課題は、重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを、重合開始剤(C)の存在下で混合して増粘させることを特徴とする前記組成物の製造方法を提供することによっても解決される。このとき、重合体(A)が予め重合開始剤(C)を含有していることが好適である。
【0014】
さらに上記課題は、メチルメタクリレート単位を70質量%以上含有する重合体(A)の粉剤と、
下記式(1)
【化3】
[式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R及びRのうち、少なくとも1つが水素原子である。]
で表される化合物(b1)及びメチルメタクリレート(b2)から選択される少なくとも1種の化合物70〜99.5質量%と、下記式(2)
【化4】
で表される1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有する単量体(B)の液剤、とからなり、前記粉剤又は前記液剤の少なくとも一方が重合開始剤(C)を含有するキットを提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の組成物は、簡便に調製できる。また、本発明の組成物を硬化させてなる成形品は、高強度かつ高弾性率でありながら靭性に優れ、しかも低吸水率である。したがって、当該組成物は、義歯床又はマウスピースなどの製造に好適に用いられるとともに、歯科用接着剤や骨セメントとしても好適に用いられる。さらに、本発明のキットによれば、前記組成物を簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例21における成形品の薄切片の顕微鏡画像である。
図2】実施例1〜6及び比較例2において、横軸に1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率(質量%)を、縦軸に得られた試験片の曲げ弾性係数(GPa)をプロットしたグラフである。
図3】実施例1〜6及び比較例2において、横軸に1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率(質量%)を、縦軸に得られた試験片の曲げ強さ(MPa)をプロットしたグラフである。
図4】実施例1〜6及び比較例2において、横軸に1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率(質量%)を、縦軸に得られた試験片の最大撓み量(mm)をプロットしたグラフである。
図5】実施例1〜6及び比較例2において、横軸に1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率(質量%)を、縦軸に得られた試験片の破断エネルギー(KJ/m)をプロットしたグラフである。
図6】実施例1〜7及び比較例1、2において、横軸に1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率(質量%)を、縦軸に得られた試験片の見掛け飽和吸水率(質量%)をプロットしたグラフである。
図7】実施例11〜20及び比較例3において、横軸に1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率(質量%)を、縦軸に得られた試験片の曲げ弾性係数(GPa)をプロットしたグラフである。
図8】実施例11〜20及び比較例3において、横軸に1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率(質量%)を、縦軸に得られた試験片の曲げ強さ(MPa)をプロットしたグラフである。
図9】実施例11〜20及び比較例3において、横軸に1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率(質量%)を、縦軸に得られた試験片の最大撓み量(mm)をプロットしたグラフである。
図10】実施例11〜20及び比較例3において、横軸に1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率(質量%)を、縦軸に得られた試験片の破断エネルギー(KJ/m)をプロットしたグラフである。
図11】実施例11〜20及び比較例3において、横軸に1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率(質量%)を、縦軸に得られた試験片の見掛け飽和吸水率(質量%)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の組成物は、重合体(A)、単量体(B)及び重合開始剤(C)を含有する組成物であって;
単量体(B)100質量部に対して重合体(A)100〜280質量部を含有し、
重合体(A)が、メチルメタクリレート単位を70質量%以上含有し、
単量体(B)が、下記式(1)
【化5】
[式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R及びRのうち、少なくとも1つが水素原子である。]
で表される化合物(b1)及びメチルメタクリレート(b2)から選択される少なくとも1種の化合物70〜99.5質量%と、下記式(2)
【化6】
で表される1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有することを特徴とする組成物である。
【0018】
重合体(A)はメチルメタクリレート単位を70質量%以上含有する重合体である。メチルメタクリレート単位を70質量%以上含有することで、高強度及び高弾性率を有する成形品を得ることができる。したがって、このような成形品は、所定の強度や弾性率が求められる、義歯床用材料やマウスピース用材料などとして好適に用いられる。また、メチルメタクリレート単位を70質量%以上含有する重合体(A)は、ハロゲン原子を含む重合体や芳香環を含む重合体に比べて生体適合性が高い。さらに、重合体(A)は比較的ガラス転移温度の高い非晶性の重合体であり、懸濁重合などによって本発明の実施に好適な粒径の粉剤を容易に得ることが可能である。重合体(A)は、メチルメタクリレートの単独重合体であってもよいし、メチルメタクリレートとその他の単量体との共重合体であっても構わない。重合体(A)のメチルメタクリレート単位の含有率は、80質量%以上が好適であり、90質量%以上がより好適であり、95質量%以上がさらに好適である。メチルメタクリレート単位が70質量%未満の場合には、得られる成形品の強度や弾性率が低下する。
【0019】
重合体(A)が共重合体である場合にメチルメタクリレートと共重合させる単量体は、メチルメタクリレートと共重合可能な単量体であれば特に制限されない。例えば、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート又はt−ブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;エチレン、プロピレンなどのオレフィン;酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニル;無水マレイン酸;アクリロニトリル;スチレン;塩化ビニルなどが挙げられる。これらの単量体は1種類でも使用可能であるし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。重合性の観点からは、アルキル(メタ)アクリレートが好適である。そして、重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤を用いて組成物を製造する場合における、重合体(A)の膨潤のし易さの観点からは、エチルメタクリレートが好適である。これらの単量体の含有率は、30質量%以下であり、20質量%以下が好適であり、10質量%以下がより好適であり、5質量%以下がさらに好適である。
【0020】
重合体(A)の分子量は特に制限されないが、通常5,000〜2,000,000の重量平均分子量を有するものが使用される。分子量が5,000より低い場合には、得られる成形品の強度が不十分になるおそれがある。分子量は200,000以上がより好適であり、300,000以上がさらに好適である。重合体(A)の分子量は1,500,000以下がより好適であり、1,000,000以下がさらに好適である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0021】
本発明の組成物が含有する単量体(B)は、上記式(1)で表される化合物(b1)及びメチルメタクリレート(b2)から選択される少なくとも1種の化合物70〜99.5質量%と、上記式(2)で表される1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有するものである。ここで、単量体(B)が、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)を含むことが本発明の最大の特徴である。1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)を含むことにより、得られる成形品の靭性が大きく向上する。このとき、弾性率や強度はそれほど大きく低下しないので、高強度かつ高弾性率でありながら靭性に優れた成形品を得ることができる。また、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)を含むことにより、得られる成形品の吸水率が低下する。さらに、上記式(1)で表される化合物(b1)、メチルメタクリレート(b2)及び1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)のいずれも、ハロゲン元素や芳香環を含まないので、本発明の組成物は生体適合性が高いと考えられる。
【0022】
単量体(B)中の主成分である上記式(1)で表される化合物(b1)も、メチルメタクリレート(b2)も、いずれも重合体(A)の粒子を迅速に膨潤させて組成物を得ることができるので、生産性が良好である。そして当該組成物を硬化させて得られる成形物は、いずれも高強度かつ高弾性率である。
【0023】
単量体(B)中の主成分として用いられる化合物(b1)の構造は、下記式(1)で表されるとおりである。
【0024】
【化7】
【0025】
上記式(1)で表される化合物(b1)は、エチレン性二重結合を有する重合性基を2つ有する架橋性の単量体である。化合物(b1)中の2つの重合性基はエステル結合によって連結されていて、重合性基間の距離が近い。また、化合物(b1)は、メタクリロイル基(式(1)中、Rがメチル基であり、Rが水素原子である場合)、アクリロイル基(式(1)中、R及びRが水素原子である場合)又はクロトノイル基(式(1)中、Rが水素原子であり、Rがメチル基である場合)と、カルボン酸ビニルエステル基とを有する。これらの置換基はいずれも重合体(A)を膨潤させる機能を有するため、化合物(b1)は重合体(A)の粉剤を短時間で膨潤させることができる。ここで、化合物(b1)における、メタクリロイル基、アクリロイル基又はクロトノイル基中のカルボニル基と、カルボン酸ビニルエステル基中のカルボニル基は同一である。
【0026】
化合物(b1)としては、上記式(1)中のRがメチル基であり、Rが水素原子であるもの、又は、式(1)中のR及びRが水素原子であるものが好適である。生体適合性、並びに、得られる成形品の強度及び破断エネルギーが優れる観点からは、化合物(b1)は、式(1)中のRがメチル基であり、Rが水素原子であるものがより好適である。
【0027】
本発明の組成物において、単量体(B)が含有する1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の構造は、下記式(2)で表されるとおりである。
【0028】
【化8】
【0029】
上記式(2)で表される1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)は、エチレン性二重結合を有する重合性基を2つ有する架橋性の単量体である。1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)中の2つの重合性基は炭素原子1個を介して連結されているので、重合性基間の距離が非常に近い。また、当該炭素原子に水酸基が結合して沸点が上昇しているので、組成物を製造する際の揮発が少なく、作業環境の面からも好ましい。さらに、エチレン性二重結合からのアリル位に水酸基を有しているので、2つのエチレン性二重結合の反応性が高い。
【0030】
単量体(B)は、上記式(1)で表される化合物(b1)及びメチルメタクリレート(b2)から選択される少なくとも1種の化合物70〜99.5質量%と、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有する。化合物(b1)及びメチルメタクリレート(b2)から選択される少なくとも1種の化合物の含有率が70質量%未満の場合には、弾性率と強度が不十分となる。当該化合物の含有率は、好適には85質量%以上であり、より好適には92質量%以上である。一方、化合物(b1)及びメチルメタクリレート(b2)から選択される少なくとも1種の化合物の含有率が99.5質量%を超える場合には、靭性の改善効果及び含水率の低下効果が不十分となる。当該化合物の含有率は、好適には99質量%以下であり、より好適には98質量%以下である。また、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率が0.5質量%未満の場合には、靭性の改善効果及び含水率の低下効果が不十分となる。1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率は、好適には1質量%以上であり、より好適には2質量%以上である。一方、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率が30質量%を超える場合には、弾性率と強度が不十分となる。1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率は、好適には15質量%以下であり、より好適には8質量%以下である。
【0031】
本発明の単量体(B)を使用することによって、高強度、高弾性率であり、しかも靭性に優れた成形体が得られる。このときのメカニズムについての詳細は明らかになっていないが、次のようなことが推測される。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、重合体(A)の分子鎖の間に単量体(B)が入り込んだ後に、単量体(B)が重合されることによって、重合体(A)の分子鎖と、単量体(B)中の複数種の単量体から構成される重合体とが相互に絡み合った、いわゆる「セミ相互侵入網目構造」を形成していると推定される。このとき、重合後の架橋点間の距離が非常に短い1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)を用いることで、得られる成形品に優れた靭性が与えられるものと考えられる。
【0033】
本発明の樹脂組成物においては、組成物全体が均一ではなく、重合体(A)の粒子に由来する不均一構造を有することが好ましい。本発明の樹脂組成物の好適な製造方法では、重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを、重合開始剤(C)の存在下で混合して増粘させる。このとき、重合体(A)の粒子は完全に溶解することなく残存し、粒子中心部では単量体(B)の含有率が少なく、粒子間では単量体(B)の含有率が多いという不均質構造が形成される。このような不均質な構造を有する組成物を硬化させることで、高強度、高弾性率であり、しかも靭性に優れた成形体が得られると考えられる。
【0034】
本発明の組成物において、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)を含有する単量体(B)を用いることにより、得られる成形品の吸水性が低下する。このメカニズムついては明らかになっていないが、次のようなことが推測される。
【0035】
本発明の組成物を重合して成形品を作製した場合、得られる成形品中には、化合物(b1)又はメチルメタクリレート(b2)と、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)とからなる網目状の架橋構造体が形成されると考えられる。当該架橋構造体は、重合体(A)の分子鎖と相互に絡まり合っていると考えられ、当該架橋構造体と重合体(A)とが、「セミ相互侵入網目構造」を形成していると推定される。ここで、上述のとおり、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)は重合性基間の距離が非常に近いため、前記架橋構造体は、架橋点間の距離が近いものとなると考えられる。そのため、成形品中の重合体(A)粒子の表面付近が部分的に極めて剛直なものとなり、吸水膨潤が抑制され、成形品の吸水率が低下するものと考えられる。このように、水酸基を有する単量体を配合することで吸水率を低下させられることは、本発明者らが検討して初めて明らかになったことであり、まさに驚きである。生体親和性の低い芳香族基やフッ素原子等を導入することなく吸水率を低下させられることのメリットは非常に大きい。一方で、前述のように、「セミ相互侵入網目構造」を形成することにより、強度及び弾性率に優れるうえに、靭性にも優れた成形品となるものと考えられる。
【0036】
吸水率の高い成形品を湿った状態で長期間使用した場合、成形品が着色したり、悪臭が発生したりする場合があった。さらに、成形品が吸水することにより、機械的性質が低下する場合もあった。なかでも、義歯床やマウスピースは、コーヒーやお茶などにより着色することや、長期間使用することにより悪臭を発することがあり、吸水率が高いことが大きな問題となっていた。したがって、本発明の樹脂組成物において1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)を用いることで、吸水率を大きく低減できることの意義は大きい。
【0037】
本発明の樹脂組成物の好適な実施態様では、単量体(B)が、上記式(1)で表される化合物(b1)70〜99.5質量%と1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有する。このとき、化合物(b1)の含有率は、好適には85質量%以上であり、より好適には92質量%以上である。一方、化合物(b1)の含有率は、好適には99質量%以下であり、より好適には98質量%以下である。また、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率は、好適には1質量%以上であり、より好適には2質量%以上である。一方、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率は、好適には15質量%以下であり、より好適には8質量%以下である。
【0038】
このとき、吸水率の低減を主眼に据えるのであれば、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率を大きくした方が好ましい場合がある。具体的には、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率を3質量%以上とすることが好ましい。このとき、化合物(b1)の含有率は97質量%以下とすることが好ましい。
【0039】
ここで、単量体(B)中の主成分として上記式(1)で表される化合物(b1)を用いた場合には、メチルメタクリレート(b2)を用いた場合よりも、得られる成形品の吸水率を低下させることができる。化合物(b1)は重合性基間の距離が近い架橋性単量体であり、後の実施例にも示すように、単量体(B)として化合物(b1)のみを用いた場合でも、メチルメタクリレートを液剤の主成分とする義歯床用組成物の市販品(株式会社ジーシー製「アクロン」)よりも10%以上見かけ飽和吸水率を低下させることができた。
【0040】
化合物(b1)は比較的親水性の化合物であるが、より疎水性のメチルメタクリレート(b2)を用いたときよりも、得られる成形品の吸水率が低下することは驚きである。しかも、化合物(b1)に加えて、分子内に水酸基を有する1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)を用いることによってその吸水率をさらに低下させることができる。
【0041】
本発明の樹脂組成物の他の好適な実施態様では、単量体(B)が、メチルメタクリレート(b2)70〜99.5質量%と1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有する。このとき、メチルメタクリレート(b2)の含有率は、好適には85質量%以上であり、より好適には92質量%以上である。一方、メチルメタクリレート(b2)の含有率は、好適には99質量%以下であり、より好適には98質量%以下である。また、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率は、好適には1質量%以上であり、より好適には2質量%以上である。一方、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率は、好適には15質量%以下であり、より好適には8質量%以下である。
【0042】
このとき、高弾性率や高強度とすることを主眼に据えるのであれば、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率を小さくした方が好ましい場合がある。具体的には、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)の含有率を5質量%以下とすることが好ましい。このとき、メチルメタクリレート(b2)の含有率は95質量%以上とすることが好ましい。
【0043】
重合体(A)とメチルメタクリレート(b2)を含む組成物は、義歯床用組成物、歯科用接着剤あるいは骨セメントなどとして、現在最も広く用いられている組成物である。メチルメタクリレート(b2)は重合体(A)の粉剤を、短時間で膨潤させることができて操作性が良好である。また、当該組成物を硬化させて得られる成形品は高強度かつ高弾性率である。しかしながら、用途によっては靭性が不足する場合があり、このような場合に、比較的少量の1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)を加えることで、靭性を大きく改善できることの意義は大きい。また、比較的少量の1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)を加えるだけで吸水率を大きく低下させることもでき、実用上、極めて有用である。
【0044】
単量体(B)は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、式(1)で表される化合物(b1)、メチルメタクリレート(b2)及び1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)以外の単量体を含有してもよい。このときの単量体としては、(b1)、(b2)及び(b3)と共重合可能なものであれば特に制限されない。例えば、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、4−メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物(4−META)、4−アクリロキシエチルトリメティック酸(4−AET)、4−メタクリロキシエチルトリメリティック酸(4−MET)、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルヒドロジェンホスフェート(Phenyl−P)などの単官能(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、2−[10−(メタクリロイルオキシ)デシル]マロン酸(MAC−10)、10−メタクリロイルオキシデシルジヒドロジェンホスフェート(MDP)などの多官能(メタ)アクリレート;酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニル;無水マレイン酸;アクリロニトリル;オレフィンなどが挙げられる。単量体(B)中の、(b1)、(b2)及び(b3)以外の単量体の含有率は、通常20質量%以下であり、10質量%以下が好適であり、5質量%以下がより好適であり、2質量%以下がさらに好適である。
【0045】
重合開始剤(C)は、単量体(B)を重合させることのできるものであれば特に限定されず、ラジカル重合開始剤や光重合開始剤などが使用される。ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物や有機アゾ化合物が好適に使用される。これらのラジカル重合開始剤は加熱することによってラジカルを発生させるものであっても構わないし、アミンなどの還元剤などと混合することによって常温でラジカルを発生させるものであっても構わない。また、光重合開始剤を使用する場合には増感剤と還元剤の組み合わせなどが採用される。
【0046】
加熱することによってラジカルを発生させる重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、m−トリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ[(o−ベンゾイル)ベンゾイルパーオキシ]ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート又はt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどが例示される。
【0047】
過酸化物と還元剤を組み合わせた、常温でラジカルを発生させるものとしては、過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキシド、m−トリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ[(o−ベンゾイル)ベンゾイルパーオキシ]ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート又はt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどが例示され、還元剤としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン,N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−i−プロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−プロピルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−i−プロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−プロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−i−プロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−プロピルアニリン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチル又は4−ジメチルアミノ安息香酸(2−メタクリロイルオキシ)エチル等の芳香族第3級アミンやトリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n-ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、p−トリルジエタノールアミン、(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート等の脂肪族第3級アミンやベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、トルエンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸ナトリウム、トルエンスルフィン酸カリウム、トルエンスルフィン酸カルシウム、トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−i−プロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムなどのスルフィン酸またはその塩などが例示される。
【0048】
また、光重合開始剤の場合の増感剤と還元剤としては、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(2−メトキシエチル)ケタール、4,4’−ジメチルベンジル−ジメチルケタール、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ニトロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロ−7−トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン−10,10−ジオキシド、チオキサントン−10−オキサイド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド,2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド,2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド,2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド,ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート,2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド,3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン,3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン,2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン又は2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンなどの増感剤や4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ビス{(メタ)アクリロイルオキシエチル}−N−メチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノベンゾフェノンなどの3級アミンやジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド類や2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸などのチオール基を有する化合物やベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、トルエンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸ナトリウム、トルエンスルフィン酸カリウム、トルエンスルフィン酸カルシウム、トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−i−プロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムなどのスルフィン酸またはその塩などの還元剤が例示される。
【0049】
本発明の組成物は、単量体(B)100質量部に対して重合体(A)100〜280質量部を含有する。重合体(A)の含有率が280質量部を超える場合には、本発明の組成物を、重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを用いて調製する場合に、重合体(A)の粉剤が十分膨潤しないおそれがある。粉剤が十分膨潤しない場合、得られる成形品の機械的性質が低下するおそれがある。重合体(A)の含有率は、270質量部以下であることがより好適である。一方、重合体(A)の含有率が100質量部未満である場合には、得られる成形品の機械的性質が低下するおそれや重合収縮率が高くなるおそれがある。重合体(A)の含有率は、180質量部以上であることがより好適であり、200質量部以上であることがさらに好適である。重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを用いて成形品を作製する場合における、得られる成形品の機械的性質の観点からは、重合体(A)の含有率は、重合体(A)が十分膨潤する範囲内において、多いほうが好ましい。
【0050】
重合開始剤(C)の含有率は、単量体(B)100質量部に対して通常0.01〜10質量部である。重合開始剤(C)の含有率が、単量体(B)100質量部に対して0.01質量部未満の場合には、重合反応を促進する効果が十分でなくなるおそれがある。好適には0.1質量部以上である。一方、重合開始剤(C)の含有率が、単量体(B)100質量部に対して10質量部を超える場合には、重合反応を促進する効果が頭打ちになるとともに、重合開始剤(C)に由来する溶出成分が増加するおそれもある。好適には5質量部以下である。
【0051】
本発明の組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、重合体(A)、単量体(B)及び重合開始剤(C)以外の成分を含有しても構わない。例えば、フィラー、着色料、抗菌剤、香料などを用途に応じて配合することができる。本発明の組成物中の前記フィラーの含有率は、40質量%以下が好適であり、20質量%以下がより好適である。フィラーを含有することにより、得られる成形品の強度及び弾性率がより向上する。得られる成形品の吸水性をより低くできる観点からは、無機フィラーがより好適である。一方、重合体(A)、単量体(B)、重合開始剤(C)およびフィラー以外の成分の含有率は、20質量%未満であることが好適であり、10質量%以下がより好適である。
【0052】
本発明の組成物の好適な製造方法は、重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを、重合開始剤(C)の存在下で混合して増粘させる方法である。粉剤と液剤とを混合した後、混合物は、ペースト状から餅状を経て、ゴム状へと、すなわち、粘性体から弾性体へと物理的に性状が変化する。ここで、餅状とは、粘性と流動性とを併せ持った状態である。餅状の組成物は、操作性が良いため、賦形する作業等を簡便に行える。重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを混合した場合、2〜5分程度で餅状になる。このような短時間で餅状になることにより、組成物の調製や賦形が短時間で行えるので、メリットが大きい。粉剤と液剤とを混合する際には、組成物内部への気泡の混入を防止したい場合には、液剤中に粉剤を散布するか、粉剤中に液剤を浸み込ませるかした後、撹拌せずに静置して増粘させるのが好ましい。しかしながら、増粘速度を向上させたり、全体を均質にしたりするためには、撹拌することが好ましい。
【0053】
重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを混合すると、粉剤を構成する重合体(A)の粒子中に単量体(B)が徐々に含浸することにより当該粒子が膨潤する。組成物が餅状になったときには、単量体(B)が含浸した前記粒子は、成形時の応力によって容易に変形する程に軟化している。このとき、表面近傍に多量の単量体(B)が含浸することで前記粒子が膨潤していると考えられる。このようにして重合体(A)の粒子が単量体(B)により膨潤していると考えられる。
【0054】
一方、重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを混合すると、重合体(A)の粉剤の隙間が単量体(B)の液剤で埋められる。組成物が餅状になったときには、前記単量体(B)中に重合体(A)の一部が溶解していると考えられる。
【0055】
重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを混合して得られる餅状の組成物は、上述のように、単量体(B)が含浸して膨潤した重合体(A)の粒子と、当該粒子間の隙間を埋める形で存在する、重合体(A)が溶解した単量体(B)の溶液からなる。
【0056】
このような餅状の組成物を重合させた場合には、重合体(A)の粒子の表面近傍に由来する部分において、重合体(A)の粒子に含浸した単量体(B)中の、(b1)又は(b2)と、(b3)とが共重合することにより、上述したセミ相互侵入網目構造が形成されているものと推定される。これにより、強度及び弾性率に優れるうえに靭性にも優れ、しかも低吸水率の成形品が得られるものと考えられる。得られる成形品の機械的性質の観点からは、単量体(B)の液剤の量が、重合体(A)の粉剤を十分膨潤することができる範囲内において、少ないほうが好ましい。得られる成形品における、重合体(A)の粒子に由来する部分の比率が多くなることにより、機械的性質がさらに向上する。
【0057】
また、単量体(B)が、上記式(1)で表される化合物(b1)又はメチルメタクリレート(b2)と、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)とを含有するとき、餅状の組成物を重合させた場合には、重合体(A)の粒子の表面近傍に由来する部分において、重合体(A)の粒子に含浸した単量体(B)中の化合物(b1)又はメチルメタクリレート(b2)と、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)とが架橋することにより、極めて架橋密度の高いセミ相互侵入網目構造が形成されているものと推定される。これにより、成形品が剛直になり、吸水膨潤が抑制され、成形品の吸水率が低下するものと考えられる。また、化合物(b1)又はメチルメタクリレート(b2)と、1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)とからなる極めて密度の高い架橋構造体が重合体(A)の粒子の表面近傍に由来する部分において形成されることにより、重合体(A)の粒子の中心付近に由来する部分への水の侵入が抑制されるものと考えられ、このことも吸水性の低下に寄与していると考えられる。
【0058】
重合体(A)の粉剤の平均粒径は、特に制限されないが、2〜200μmであることが好適である。平均粒径が2μmより小さい場合には、重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを混合する際に、粉剤が均一に分散しないおそれがある。平均粒径は10μm以上がより好適であり、20μm以上がさらに好適である。また、重合体(A)の平均粒径が200μmより大きい場合には、粉剤の膨潤速度が遅くなりすぎるおそれがある。平均粒径は150μm以下がより好適であり、100μm以下がさらに好適である。
【0059】
重合開始剤(C)を混合する方法は特に制限されない。重合開始剤(C)を予め重合体(A)の粉剤又は単量体(B)の液剤の少なくとも一方に含有させておいてもよいし、組成物の調製時に混合してもよい。重合開始剤(C)を重合体(A)の粉剤又は単量体(B)の液剤の少なくとも一方に予め含有させておくことが、操作を簡便にできて好ましい。
【0060】
重合体(A)が予め重合開始剤(C)を含有していることが好ましい。すなわち、粉剤を構成する重合体(A)の粒子が重合開始剤(C)を含有していることが好ましい。このような場合には、懸濁重合などによって重合体(A)を製造するときに加えられた重合開始剤をそのまま使用することができる。また、重合開始剤(C)が複数種類の化合物を混合してラジカルを発生させるものである場合には、その一方を重合体(A)に、他方を単量体(B)に、予め含有させておくこともできる。
【0061】
重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを混合することによって、重合体(A)の中に単量体(B)が浸透し、重合体(A)が膨潤して徐々に粘度が上昇して餅状に至る。このようにして増粘させた後に賦形して成形品を製造することが好ましい。賦形する際の組成物は、十分に粘度が上昇していながらも流動性を保った餅状であることが好ましい。賦形は、型に充填したり、押し付けることによって、あるいは、手で形を整えたりすることなどにより行われる。
【0062】
重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを、重合開始剤(C)の存在下で混合した後、組成物が餅状を維持する時間は、特に制限されないが、組成物を賦形したりする作業に必要な時間は維持されることが好ましい。液剤として、本発明の単量体(B)を用いた場合には、作業するのに十分な時間、組成物が餅状を維持する。
【0063】
本発明の組成物を、賦形した後、重合反応を行うことで、硬化した成形品が得られる。室温で重合反応が進行するような重合開始剤(C)を使用する場合には、混合しただけでも増粘と同時に重合反応が進行するが、熱や光を用いて重合反応を進行させる場合には、熱や光で処理するまでは実質的に重合反応は進行しない場合が多い。加熱することや、光照射することによって、賦形した後で重合反応を進行させることができるが、作業性を考慮すれば加熱する方法が好適である。例えば、温水に浸漬するだけでも簡単に重合反応を進行させることができる。重合する際に温度などの重合条件や重合時間などの調整により重合度を変えることによって、組成物の硬さを上昇させることもできるから、用途に応じて、所望の硬さを有する成形品を容易に得ることができる。
【0064】
重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを、重合開始剤(C)の存在下で混合して得られる、餅状になった組成物は、単量体(B)が含浸して膨潤した重合体(A)の粒子と、当該粒子間の隙間を埋める形で存在する、重合体(A)が溶解した単量体(B)の溶液からなる。このような餅状の組成物を重合した場合には、重合体(A)の粉末を構成する粒子は、重合した後も概ねその形状を維持する。このような重合体(A)の粒子に由来する粒子形状の部分の隙間は、単量体(B)が重合により硬化したものにより埋められる。このように、重合して得られる成形品が、重合体(A)の粒子に由来する粒子形状の部分とその隙間を埋める単量体(B)に由来する部分からなることが好適である。これにより、強度、弾性率及び靭性がさらに向上する。成形品における、重合体(A)の粒子に由来する部分の粒子形状は、球に近い形状であってもよいし、歪んだ形状であっても構わない。成形時の圧力により、重合体(A)の粒子に由来する部分の形状が歪む場合がある。
【0065】
このとき、成形品における、重合体(A)の粒子に由来する部分の比率ができるだけ大きいことが好ましい。そうすることにより、「セミ相互侵入網目構造」が形成されていると推定される重合体(A)の粒子に由来する部分同士が接近した構造をとることができる。これにより成形品の強度、弾性率及び靭性がさらに向上する。重合体(A)の粒子に由来する部分と単量体(B)の液剤に由来する部分からなる成形品の構造は、成形品を薄くスライスして得られる薄切片を光学顕微鏡により観察することなどにより確認することができる。
【0066】
前述のとおり、重合体(A)及び単量体(B)は安全性が高いと考えられる。また、上述した、重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤を用いる本発明の組成物の製造方法によれば、容易に組成物を作製できるうえに、得られた組成物を用いて成形品を作製することも容易である。したがって、本発明の組成物は、医療用組成物として好適に用いられる。当該医療用組成物の好適な実施態様は骨セメントである。
【0067】
前記医療用組成物は、歯科用組成物として好適に用いられる。具体的には、歯科用接着剤として好適に用いることができる。歯科用接着剤は、エナメル質や象牙質などの歯質と、歯科用金属、歯科用レジン、歯科用陶材などとを接着させるものである。線膨脹係数や弾性率の大きく異なる材料を接着し、接着後は繰り返しの荷重を受けるために、優れた靭性を有することが望まれるし、口腔内で使用されるので低吸水率であることも望まれるので、本発明の組成物が好適に用いられる。また、当該歯科用組成物を硬化させてなる義歯床又はマウスピースが好適な実施態様である。通常、義歯の作製は、患者の口腔内の印象を採取して石膏模型を作製した後、石膏模型上でワックスを用いて義歯床部を形成し、これに人工歯を配列して作製したロウ義歯を埋没材を用いてフラスコ内に埋没してロウ義歯の型を取った後、熱湯等でワックスを流して義歯床部分の空洞を埋没材中に形成させる。この空洞に餅状の組成物を填入して重合、硬化させた後、埋没材から取り出して、最終段階の形態修正や研磨が施されて完成する。また、マウスピースの作製方法は、人口歯を配列する点を除けば、義歯の作製方法とほぼ同じである。本発明の組成物を用いて作製した義歯床やマウスピースは、高い強度及び高い弾性率を有するうえに、優れた靭性をも有することから、肉厚が薄くても十分な強度を有し、しかも、咬合圧や衝撃等による破損を抑制することができる。得られる成形品の吸水率が低いため、コーヒー等による義歯床やマウスピースの着色や悪臭の発生が起きにくいうえに、機械的性質も低下しにくい。
【0068】
メチルメタクリレート単位を70質量%以上含有する重合体(A)の粉剤と、
下記式(1)
【0069】
【化9】
【0070】
[式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R及びRのうち、少なくとも1つが水素原子である。]
で表される化合物(b1)及びメチルメタクリレート(b2)から選択される少なくとも1種の化合物70〜99.5質量%と、下記式(2)
【0071】
【化10】
【0072】
で表される1,4−ペンタジエン−3−オール(b3)0.5〜30質量%とを含有する単量体(B)の液剤、とからなり、前記粉剤又は前記液剤の少なくとも一方が重合開始剤(C)を含有するキットも本発明の好適な実施態様である。
【0073】
このようなキットは、該粉剤及び該液剤の2成分を混合するのみの容易な操作で組成物を調製することができる。キットの用途は特に限定されるものではないが、医療用キットが好適であり、中でも骨セメント用キットが好適な実施態様である。また、歯科用キットも好適であり、中でも、歯科用接着剤キット、義歯床用キット又はマウスピース用キットが好適な実施態様である。このようなキットを用いて、粉剤又は液剤に重合開始剤(C)を含有させる方法としては、組成物の製造方法のところで説明した方法を採用できる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。実施例における試験片の作製や測定は、23℃、湿度50%の実験室にて実施した。本実施例で用いた単量体は以下のとおりである。
【0075】
[単量体]
(b1)メタクリル酸ビニル(VMA)
[上記式(1)で表される単量体であり、Rがメチル基であり、Rが水素原子である。]
25℃における比重:0.933g/ml
(b2)メチルメタクリレート(MMA)
25℃における比重:0.936g/ml
(b3)1,4−ペンタジエン−3−オール(14PD3OH)
[上記式(2)で表される単量体である。]
25℃における比重:0.865g/ml
【0076】
実施例1
懸濁重合によって製造された、ポリメチルメタクリレートの粉剤(根上工業株式会社製「ハイパールD−100M」:重量平均分子量500,000、平均粒径約50〜80μm、ベンゾイルパーオキサイド0.5〜1.0質量%含有)4gと、メタクリル酸ビニル(以下、VMAと略記することがある)1.98ml(1.85g)及び1,4−ペンタジエン−3−オール(以下、14PD3OHと略記することがある)0.02ml(0.02g)を混合した液剤とを混和し静置した。粉液比は、2.0g/mlとした。単量体(B)中の1,4−ペンタジエン−3−オールの含有率は0.92質量%であった。また、単量体(B)100質量部に対して重合体(A)を215質量部配合した。約3分後に、餅状態となった混和物を、2mm×2mm×25mmの試験片が成形できるテフロン(登録商標)型に填入してクランプし、恒温チャンバー(エスペック社製「ST−101B1」)内にて65℃で60min、続いて100℃で90min加熱して重合を進行させた。自然放冷後、テフロン(登録商標)型から取り出した試験片を空気中に一日放置した後、三点曲げ試験及び吸水性試験に供した。
【0077】
三点曲げ試験には、万能試験機(インストロン5544)を用いた。支点間距離:20mm、クロスヘッドスピード:0.5mm/minに設定し、曲げ弾性係数、曲げ強さ、最大撓み量および破断エネルギーをそれぞれ測定した。各測定につき5点の試料を測定した。破断しない場合には約10mm撓んだところで試験を停止した。4種の曲げ特性測定の結果を表1及び図2〜5に示す。
【0078】
吸水性試験は、試験片を37℃の水に180日間浸漬し、吸水率の上昇が認められなくなった時の、当該試験片の見掛け飽和吸水率を測定することにより行った。ここで、見掛け飽和吸水率(質量%)は、水への浸漬後の試験片の質量の増加を、浸漬前の試験片の質量で割った数字に100をかけたものである。このときの結果を図6に示す。
【0079】
実施例2〜7、比較例1
VMAと14PD3OHの使用量を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして試験片の作製及び評価(三点曲げ試験及び吸水性試験)を行った。その結果を表1及び図2〜6に示す。実施例7と比較例1については、吸水性試験のみを行った。
・実施例2
VMA:1.96ml(1.83g)、14PD3OH:0.04ml(0.04g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:1.86質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:215質量部
・実施例3
VMA:1.94ml(1.81g)、14PD3OH:0.06ml(0.05g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:2.79質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:215質量部
・実施例4
VMA:1.92ml(1.79g)、14PD3OH:0.08ml(0.07g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:3.72質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:215質量部
・実施例5
VMA:1.90ml(1.77g)、14PD3OH:0.10ml(0.09g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:4.66質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:215質量部
・実施例6
VMA:1.80ml(1.68g)、14PD3OH:0.20ml(0.17g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:9.34質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:216質量部
・実施例7
VMA:1.60ml(1.49g)、14PD3OH:0.40ml(0.35g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:18.80質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:218質量部
・比較例1
VMA:1.00ml(0.93g)、14PD3OH:1.00ml(0.87g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:48.11質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:223質量部
【0080】
比較例2
単量体(B)として、VMA:2.00ml(1.87g)のみを用いた以外は実施例1と同様にして試験片の作製及び評価(三点曲げ試験及び吸水性試験)を行った。その結果を表1及び図2〜6に示す。
【0081】
実施例8
実施例1と同じポリメチルメタクリレートの粉剤4gと、メタクリル酸メチル(以下、MMAと略記することがある)1.98ml(1.85g)及び1,4−ペンタジエン−3−オール0.02ml(0.02g)を混合した液剤とを混和し静置した。約5分後に、餅状態となった混和物を用い、実施例1と同様に成形して試験片を得て、三点曲げ試験に供した。その結果を表1に示す。
【0082】
実施例9及び10
MMAと14PD3OHの使用量を以下のように変更したこと以外は、実施例8と同様にして試験片の作製及び評価(三点曲げ試験)を行った。その結果を表1に示す。
・実施例9
MMA:1.96ml(1.84g)、14PD3OH:0.04ml(0.04g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:1.85質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:214質量部
・実施例10
MMA:1.90ml(1.78g)、14PD3OH:0.10ml(0.09g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:4.64質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:215質量部
【0083】
実施例11
実施例1と同じポリメチルメタクリレートの粉剤4gと、メタクリル酸メチル1.98ml(1.85g)及び1,4−ペンタジエン−3−オール0.02ml(0.02g)を混合した液剤とを混和し静置した。単量体(B)中の液剤中の1,4−ペンタジエン−3−オールの含有率は0.92質量%であった。このとき、単量体(B)100質量部に対して重合体(A)を214質量部配合した。約5分後に、餅状態となった混和物を用い、実施例1と同様に成形して試験片を得て、三点曲げ試験及び吸水性試験に供した。吸水試験に際しては、試験期間を90日とした。以上の結果を表2に示す。
【0084】
実施例12〜20
MMAと14PD3OHの使用量を以下のように変更したこと以外は、実施例11と同様にして試験片の作製及び評価(三点曲げ試験及び吸水性試験)を行った。その結果を表2に示す。
・実施例12
MMA:1.96ml(1.83g)、14PD3OH:0.04ml(0.03g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:1.85質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:214質量部
・実施例13
MMA:1.94ml(1.82g)、14PD3OH:0.06ml(0.05g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:2.78質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:214質量部
・実施例14
MMA:1.92ml(1.80g)、14PD3OH:0.08ml(0.07g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:3.71質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:214質量部
・実施例15
MMA:1.90ml(1.78g)、14PD3OH:0.10ml(0.09g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:4.64質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:214質量部
・実施例16
MMA:1.88ml(1.76g)、14PD3OH:0.12ml(0.10g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:5.57質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:215質量部
・実施例17
MMA:1.86ml(1.74g)、14PD3OH:0.14ml(0.12g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:6.50質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:215質量部
・実施例18
MMA:1.84ml(1.72g)、14PD3OH:0.16ml(0.14g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:7.44質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:215質量部
・実施例19
MMA:1.82ml(1.70g)、14PD3OH:0.18ml(0.16g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:8.37質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:215質量部
・実施例20
MMA:1.80ml(1.68g)、14PD3OH:0.20ml(0.17g)
単量体(B)中の液剤中の14PD3OHの含有率:9.31質量%
単量体(B)100質量部に対する重合体(A)の量:215質量部
【0085】
比較例3
単量体(B)として、MMA:2.00ml(1.87g)のみを用いた以外は実施例11と同様にして試験片の作製及び評価(三点曲げ試験及び吸水性試験)を行った。その結果を表2に示す。
【0086】
比較例4
市販のアクリル系義歯床用レジンである「アクロン」(株式会社ジーシー製)を用いて、その取扱説明書に指示された方法により2mm×2mm×25mmの大きさの試験片を作製した後、三点曲げ試験及び吸水性試験を行った。その結果を表1〜2及び図2〜11に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
図2〜5は、単量体(B)中の主成分がVMAである場合において、実施例1〜6及び比較例2において作製した試験片について、横軸に14PD3OHの含有率を、縦軸に曲げ弾性係数(図2)、曲げ強さ(図3)、最大撓み量(図4)及び破断エネルギー(図5)を、それぞれプロットしたグラフである。これらのグラフからわかるように、14PD3OHの含有率が増加するに従って、曲げ弾性係数及び曲げ強さは低下するが、その低下はあまり大きくない。一方、14PD3OHの含有率が増加するに従って、最大撓み量及び破断エネルギーは顕著に増加する。わずか1質量%加えるだけで、市販品の2倍以上の値を示すことがわかる。
【0090】
図6は、単量体(B)中の主成分がVMAである場合において、実施例1〜7及び比較例1、2において作製した試験片について、横軸に14PD3OHの含有率を、縦軸に見掛け飽和吸水率(質量%)をプロットしたグラフである。単量体(B)中の全量がVMAである比較例2においても、単量体の主成分をMMAとする市販義歯床用レジン「アクロン」よりも10質量%以上見掛け飽和吸水率が低下することがわかる。そして、VMAに対して14PD3OHを配合すると大きく見掛け飽和吸水率が低下することがわかる。約10質量%程度の14PD3OHを含有するところで最小になり、それ以上の含有率では見掛け飽和吸水率が増加する。
【0091】
図7〜10は、単量体(B)中の主成分がMMAである場合において、実施例11〜20及び比較例3において作製した試験片について、横軸に14PD3OHの含有率を、縦軸に曲げ弾性係数(図7)、曲げ強さ(図8)、最大撓み量(図9)及び破断エネルギー(図10)を、それぞれプロットしたグラフである。これらのグラフからわかるように、14PD3OHの含有率が3質量%までは、曲げ弾性係数はMMA単独の時と同程度以上であり、実施例12(MMA2.78質量%)では有意に上昇した。14PD3OHの含有率が3質量%までは、曲げ強さはMMA単独の時とほとんど変わらない。3質量%を超えて配合すると曲げ弾性係数及び曲げ強さは徐々に低下するが、5質量%くらいまでは比較的高い値を維持することができる。一方、14PD3OHの含有率が増加するに従って、最大撓み量及び破断エネルギーは顕著に増加する。わずか1質量%加えるだけで大幅に増加し、2質量%を超えると破断しない試料が含まれるようになり、4質量%を超えるともはや破断しない。
【0092】
図11は、単量体(B)中の主成分がMMAである場合において、実施例11〜20及び比較例3において作製した試験片について、横軸に14PD3OHの含有率を、縦軸に見掛け飽和吸水率(質量%)をプロットしたグラフである。単量体(B)中の全量がMMAである比較例3は、単量体の主成分をMMAとする市販義歯床用レジン「アクロン」と同程度の見掛け飽和吸水率を有する。そして、MMAに対して約1質量%の14PD3OHを配合するだけで見掛け飽和吸水率が大きく低下し、「アクロン」から24%減少する。実施例11〜20において、水中に浸漬したときに見掛け飽和吸水率に達するまでに要する時間は、単量体(B)中の全量がMMAである比較例3よりも短く、2週間でほぼ一定値になった。すなわち、本発明の成形品は、吸水速度が速いにもかかわらず飽和吸水率は低いという興味深い現象が観察された。なお、実施例20(MMA9.31質量%)では、水中浸漬時間が長くなると重量が減少しており、未反応の単量体が溶出していることが示唆された。この現象は、実施例17〜19(MMA6.50〜8.37質量%)でもある程度観察された。したがって、用途によっては単量体の溶出を考慮する必要があると考えられる。
【0093】
実施例21
本発明の組成物を重合させた成形品の組織構造を観察した。粉剤としてポリメチルメタクリレート粒子中に顔料(ダークピンク)を含む粉剤[株式会社ジーシー製「アクロン」の粉剤(該当規格:JIS T6501「義歯床用アクリル系レジン(第一種)」)]を用いたこと以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。試験片を2mm×2mm×10mmに切断し、ミクロトーム用シリコン包埋板に入れてエポキシ樹脂(エポフィックス冷間埋込樹脂、ストルアス社製)で包埋し、24時間かけて硬化させた。エポキシ樹脂に包埋された試験片はミクロトーム(ULTRACUT E、Leica社製)を用いて硝子ナイフ(45°)で切削し、厚さ約5μmの薄切片を得た。薄切片試料は光学顕微鏡(オリンパス株式会社製、「BX51」)を用いて透過光にて200倍(対物レンズ20倍、接眼レンズ10倍)の条件下で観察し、接眼レンズに取り付けたデジタルカメラ(Canon PowerShot S95)で薄切片を撮影した。薄切片の顕微鏡画像を図1に示す。
【0094】
図1において、複数の黒い円が見られる。当該円が黒いのは、ポリメチルメタクリレートに含有されている顔料によるものであり、これにより、当該円がポリメチルメタクリレートの粒子に由来する部分であることが分かる。一方、当該円の隙間の部分は白く、光が透過している。したがって、当該部分は顔料を含まない液剤(VMAと14PD3OHの混合物)に由来する部分であることが分かる。
【0095】
図1において、黒いポリメチルメタクリレートの粒子に由来する部分同士がほぼ接する状態となり、液剤(VMAと14PD3OHの混合物)に由来する光が透過した部分の面積が非常に小さくなっていた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11