(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ペダルブラケットは、前記係合部による係合が外れた前記リンク部材と接して当該ペダルブラケットに対する回動を規制し、かつリンク部材と摺動可能な回動規制部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車のブレーキペダル装置。
前記ブレーキペダルは、前記係合部による係合が外れた前記リンク部材がブレーキペダルに対して所定量回動した際に当該リンク部材と接して回動を規制する回動規制部を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動車のブレーキペダル装置。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車が前面衝突すると、車体前部が車体後方側に向かって大きく変形し、ブレーキペダルも車体前部に対して相対的に後方に回動する。このとき、運転者がブレーキペダルを踏んでいると、大きな力が下肢に作用し、身体に損傷を負わせるおそれがあるため、安全性向上を目的に各種開発が行われている。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、車体に固定されるペダルブラケットに設けられる回転中心軸を中心に回動自在に軸支されたブレーキペダルと、前記ブレーキペダルと連結部で回動可能に連結されたリンク部材と、を有し、前記リンク部材は、マスターシリンダに連結されるマスターシリンダ連結部と、車両の前面衝突により車体の一部と衝突する衝突部と、前記ブレーキペダルに対して係合し、前記衝突部への車体の一部の衝突により車体前方へ係合が外れる係合部と、を備え、前記連結部は、前記回転中心軸とマスターシリンダ連結部の間に位置することを特徴とするブレーキペダル装置が開示されている。
【0004】
このように構成されたブレーキペダル装置によれば、ブレーキペダルと連結部で回動可能に連結されたリンク部材が、車体の一部との衝突により車体前方へ係合が外れる係合部を有しているため、係合が外れることで、リンク部材が前方へ移動する。そして、連結部が、ブレーキペダルの回転中心軸とリンク部材のマスターシリンダ連結部の間に位置しているため、連結部が前方に移動すると、ブレーキペダルが回転中心軸を中心として前方側へ回動する。このように、衝突により生じる力を利用してブレーキペダル下部を車体前方側に回動させることができ、身体に損傷を負わせることを好適に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係るブレーキペダル装置を示す概略側面図である。
【
図2】第1実施形態に係るブレーキペダル装置を示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係るブレーキペダル装置を示す分解斜視図である。
【
図4】第1実施形態に係るブレーキペダル装置を示す部分透過側面図である。
【
図5】第1実施形態に係るブレーキペダル装置の前面衝突直前の状態を示す概略側面図である。
【
図6】第1実施形態に係るブレーキペダル装置の前面衝突時の状態を示す要部拡大側面図であり、(A)はリンク部材の係合が解除される前、(B)はリンク部材の係合が解除された際を示す。
【
図7】前面衝突時にリンク部材の係合が解除された際のブレーキペダル装置を示す概略側面図である。
【
図8】リンク部材の係合が解除された後にブレーキペダルを踏み込む際のブレーキペダル装置を示す概略側面図である。
【
図9】リンク部材の係合が解除された後のブレーキペダル装置を示す上面図である。
【
図10】第2実施形態に係るブレーキペダル装置を示す概略側面図である。
【
図11】前面衝突時にリンク部材の係合が解除された際の第2実施形態に係るブレーキペダル装置を示す概略側面図である。
【
図12】リンク部材の係合が解除された後にブレーキペダルを踏み込む際の第2実施形態に係るブレーキペダル装置を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
<第1実施形態>
本発明の第1の実施形態に係るブレーキペダル装置1は、
図1〜3に示すように、乗用車の車室RとエンジンルームEとを仕切るダッシュパネルの下部を構成するダッシュロアパネル2にペダルブラケット3を介して取り付けられている。
【0014】
ペダルブラケット3は、基端部がボルト105及びナット(不図示)によりダッシュロアパネル2に取り付けられている。ペダルブラケット3は、基端部から後方へ向って略平行に形成される一対の両側プレート31と、両側プレート31の上端縁相互間に形成される天井プレート32とを有している。天井プレート32には、開口部33が形成されている。ペダルブラケット3の両側プレート31には、ボルト34が挿通され、反対面からナット35が螺合して回転中心軸Xが形成される。
【0015】
ボルト34には、回転中心軸Xを中心に前後方向に回動可能にブレーキペダル6が連結される。ブレーキペダル6の上端部位には筒状の係合筒部61(軸部材)が形成され、この係合筒部61をボルト34が挿通している。ここにおいて、「前後方向」とは、車両の長手方向における前方と後方をいう。
【0016】
ブレーキペダル6の上端から所定長下方位置には、筒状の連結筒部62が形成されており、この連結筒部62に、ブッシュ101を介してリンク部材4の連結軸部41が挿通されている。ブレーキペダル6の連結筒部62に挿通されたリンク部材4の連結軸部41には、さらにブッシュ102、ワッシャ103を介してボルト104が螺合している。このように連結軸部41と連結筒部62により構成される連結部5によって、ブレーキペダル6とリンク部材4が回動可能に連結される。
【0017】
係合筒部61の外周面には、リターンスプリング7の螺旋部が嵌り、リターンスプリング7の一端がペダルブラケット3の天井プレート32に接し、リターンスプリング7の他端が連結筒部62に接する。これにより、ブレーキペダル6がリターンスプリング7によって後方に付勢され、踏み込んでいないときには、ブレーキペダル6はストッパ(不図示)により
図1に示す位置(通常位置)に保持されている。
【0018】
リンク部材4の連結軸部41から所定長上方位置には、ブレーキペダル6の係合筒部61の外周面に係合するフック状の係合部42が形成されている。係合部42は、
図4に示すように、リンク部材4の後方側の側縁に形成されており、係合筒部61に対して前方側から係合される。このとき、フック状の係合部42は、連結筒部62(連結部5)から係合筒部61(回転中心軸X)へ延びる延長線Yよりも後方側まで延びて、係合筒部61に引っ掛かるように係合される。したがって、係合部42が係合筒部61に一端係合すると、リンク部材4に強い力が作用しない限り、係合が外れることはない。
【0019】
なお、係合部42は、係合筒部61の上方側の外周面に引っ掛かるように形成されているが、係合筒部61の下方側の外周面に引っ掛かるように形成されてもよい。また、係合部42のブレーキペダル6に対して係合する位置は、かならずしも回転中心軸Xに設けられる軸部材(係合筒部61)でなくてもよい。すなわち、リンク部材4に強い力が作用して係合が外れるまでの間は、リンク部材4がブレーキペダル6と一体的に動作し、かつ、リンク部材4に強い力が作用する場合に、リンク部材4がブレーキペダル6に対して前方側へ離脱可能であれば、ブレーキペダル6のどの部位に係合してもよい。
【0020】
リンク部材4の連結軸部41のプッシュロッド8側に所定長さ離間した位置には、プッシュロッド8の一端が取り付けられるマスターシリンダ連結部44が形成され、プッシュロッド8の他端は、マスターシリンダ9と連結されている(
図1参照)。リンク部材4とブレーキペダル6は、係合部42による係合が外れない限りは、回転中心軸Xを中心に前後方向に一体的に回動するため、ブレーキペダル6の下端部に固着されているペダルパッド63を踏み込むと、マスターシリンダ連結部44によってプッシュロッド8が前方へ押し込まれ、この力がマスターシリンダ9によって増幅されて制動部分に伝達される。
【0021】
リンク部材4の上端部には、天井プレート32の開口部33を通って上方へ突出する衝突部43が形成されている。衝突部43は、前方側の縁が滑らかに形成されている。天井プレート32の開口部33は、衝突部43が前後方向へ移動できるよう、前後方向へ長尺に形成されており、前方側に、衝突部43が前方へ移動した際に衝突部43の滑らかな縁が摺動可能に接する回動規制部36が形成されている。
【0022】
ブレーキペダル装置1の上部近傍には、ステアリングメンバ11が設けられている(
図1参照)。ステアリングメンバ11は、車体を補強する部分であり、管状体をしている。
【0023】
本実施形態では、ステアリングメンバ11に衝突用インパクトブラケット12を取付けている。
【0024】
衝突用インパクトブラケット12は、ステアリングメンバ11に基端が固着され、一対の側板13間に衝突板15が配置されたものである。衝突板15は、基端部が側板13に固着され、中央部で下方に向って折り曲げられ、略垂直な当り面15aが形成されている。
【0025】
リンク部材4の衝突部43は、衝突板15の当り面15aに向かって突出され、リンク部材4の衝突部43と当り面15aとの間に、衝突変位距離aが存在するようにセットされている。通常の乗用車では、前面衝突によりエンジンなどが後方に移動する距離が、200mm〜300mmである点を考慮し、この衝突変位距離aも、200mm〜300mm程度に設定することが好ましい。ただし、衝突変位距離aは、車両によって変更されるべきもので、上記のみに限定されるものではない。
【0026】
このように衝突部43の先端と当り面15aとの間に衝突変位距離aを設けると、ある程度の変位が生じる衝突が発生しないかぎり本実施形態の装置が作動することはない。
【0027】
衝突部43の高さや係合部42の形状は、係合部42を離脱させるために必要な衝撃力を決定する要素となるため、車両に応じて適宜変更されることが好ましい。なお、本実施形態に係るブレーキペダル装置1によれば、連結部5が、マスターシリンダ連結部44に対してプッシュロッド8の延長線上に位置するため、マスターシリンダ9からプッシュロッドに作用する圧縮荷重が、リンク部材4の係合を外す方向に作用することを軽減することができる。このため、必ずしも、フック状の係合部42は、連結筒部62(連結部5)から係合筒部61(回転中心軸X)へ延びる延長線Yよりも後方側まで延びる必要はない。
【0028】
次に、第1実施形態に係るブレーキペダル装置1の作用を説明する。
【0029】
衝突前の通常時は、ブレーキペダル装置1は、
図1に示すように、衝突部43の先端部と当り面15aとの間には、衝突変位距離aが存在している。また、連結部5は、マスターシリンダ連結部44に対して、プッシュロッド8の延長線上に位置している。なお、ここでいう、マスターシリンダ連結部44に対して、プッシュロッド8の延長線上とは、本発明に係る作用を奏する範囲内で、完全な延長線上ではなく多少の誤差は含まれるものとする。
【0030】
この状態で、
図5に示すように前面衝突が生じると、ペダルブラケット3などが後方に移動し、これに伴って衝突部43の先端部が衝突用インパクトブラケット12に近づく。
【0031】
衝突部43の先端部が衝突変位距離aを越えて移動したとすると、
図6(A)に示すように、衝突部43の先端部が衝突板15の当り面15aに当接する。この後、
図6(B)に示すように、衝突部43に作用する衝突力によって、係合部42が係合筒部61から前方側へ離脱し、図面における反時計方向に回動する。このとき、リンク部材4はブレーキペダル6と連結部5において回動可能に連結された状態となっており、この状態で、リンク部材4が反時計方向に回転すると、連結部5は、マスターシリンダ連結部44を支点として前方へ移動することになる。
【0032】
連結部5が前方へ移動すると、ブレーキペダル6は、回転中心軸Xを支点として時計回りに回動し、
図7に示すように、ペダルパッド63が前方へ移動するため、ブレーキペダル6の後方への変位が生じない。これにより、前面衝突時のブレーキペダル6による下肢の損傷を抑制できる。
【0033】
また、前方側へ移動した衝突部43は、
図8,9に示すように、前方側の滑らかな縁部が、天井プレート32の開口部33に形成される回動規制部36に当接する。この状態で、ペダルパッド63を前方へ踏み込むと、ブレーキペダル6は回転中心軸Xを支点として回動し、連結部5が前方へ移動する。連結部5が前方へ移動すると、リンク部材4の全体が前方へ移動しようとするが、リンク部材4の衝突部43が回動規制部36に当接しているため、縁部が滑らかに形成された衝突部43が回動規制部36に沿って上方に摺動し、マスターシリンダ連結部44が前方へ移動する。これにより、プッシュロッド8が前方へ押し込まれるため、前面衝突後であってもブレーキング作用を問題なく行うことができる。
【0034】
以上説明したように、第1実施形態に係るブレーキペダル装置1は、車体に固定されるペダルブラケット3に設けられる回転中心軸Xを中心に回動自在に軸支されたブレーキペダル6と、ブレーキペダル6と連結部5で回動可能に連結されたリンク部材4と、を有し、リンク部材4は、マスターシリンダ9にプッシュロッド8を介して連結されるマスターシリンダ連結部44と、車両の前面衝突により車体の一部と衝突する衝突部43と、ブレーキペダル6に対して係合し、衝突部43への車体の一部の衝突により車体前方へ係合が外れる係合部42と、を備え、連結部5は、マスターシリンダ連結部44に対してプッシュロッド8の延長線上に位置する。この構成によれば、ブレーキペダル6と連結部5で回動可能に連結されたリンク部材4が、車体の一部との衝突により車体前方へ係合が外れる係合部42を有しているため、係合が外れることで、リンク部材4が前方へ移動する。そしてリンク部材4の前方への移動に伴って連結部5が前方に移動することによって、ブレーキペダル6が回転中心軸Xを中心として前方側へ回動する。したがって、衝突により生じる力を利用してブレーキペダル下部を車体前方側に回動させることができる。また、衝突前の通常時において、連結部5が、マスターシリンダ連結部44に対してプッシュロッド8の延長線上に位置するため、マスターシリンダ9からプッシュロッド8に作用する圧縮荷重が、リンク部材4の係合を外す方向に作用することを軽減することができる。したがって、リンク部材4が外れることを好適に防止することができる。したがって、衝突により生じる力を利用してブレーキペダル下部を車体前方側に回動させると共に、通常状態においてリンク部材4が外れることを好適に防止することのできる自動車のブレーキペダル装置1を提供することができる。
【0035】
また、係合部42は、回転中心軸Xに配置される係合筒部61の外周面に部分的に係合するフック形状で形成される。このため、回転中心軸Xに配置される係合筒部61を利用して係合部42を係合できるため、係合部42を係合させるための構造を別途設ける必要がなく、構造をより簡素化し、軽量化を図ることができる。
【0036】
また、係合部42は、連結部5から回転中心軸Xへ延びる延長線よりも後方側まで延びる。このため、係合部42が係合筒部61に一端係合すると、リンク部材4に強い力が作用しない限り、係合が外れることはない。
【0037】
また、ペダルブラケット3は、係合部42による係合が外れたリンク部材4と接してペダルブラケット3に対する回動を規制し、かつリンク部材4と摺動可能な回動規制部36を有する。このため、係合が外れたリンク部材4をペダルブラケット3の回動規制部36に当接させた状態で、ブレーキペダル6を踏み込むことで、リンク部材4の回動を規制しつつ摺動させて、マスターシリンダ9を押し込んでブレーキング操作を行うことができる。したがって、前面衝突後もブレーキング操作を行うことができ、安全性を向上させることができる。
【0038】
<第2実施形態>
本発明の第2の実施形態に係るブレーキペダル装置10は、
図10に示すように、ブレーキペダル6に回動規制部64が設けられる点で、天井プレート32の開口部33に回動規制部36が形成された第1実施形態と異なる。なお、回動規制部64以外の他の構成については、第1実施形態と同様であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0039】
ブレーキペダル6には、連結筒部62から下方側へ所定長さ離れた位置に、
図10に示すように、車両前方に向かって下向きに傾斜する板状の回動規制部64が設けられている。回動規制部64は、ブレーキペダル6に対して溶接やボルト等により固定されるか、またはブレーキペダル6に一体的に成形されてもよい。
【0040】
次に、第2実施形態に係るブレーキペダル装置10の作用を説明する。なお、衝突時に、係合部42が離脱されてペダルパッド63が前方へ移動する動作については、第1実施形態と同様であるため説明は省略する。
【0041】
衝突部43が前方へ移動して係合部42が離脱すると、
図11に示すように、ペダルパッド63が前方へ移動しつつ、リンク部材4は連結部5を中心としてブレーキペダル6と相対的に回動する。この回動が所定角度に達すると、リンク部材4の連結軸部41が形成される部位の近傍が、ブレーキペダル6に設けられる回動規制部64と当接し、リンク部材4のブレーキペダル6に対するこれ以上の回動が規制される。この状態で、ペダルパッド63を前方へ踏み込むと、
図12に示すように、ブレーキペダル6は回転中心軸Xを支点として回転し、連結部5がリンク部材4を前方へ押圧するようにして、マスターシリンダ連結部44が前方へ移動する。これにより、プッシュロッド8が前方へ押し込まれるため、前面衝突時であってもブレーキング作用を問題なく行うことができる。
【0042】
以上説明したように、第2実施形態に係るブレーキペダル装置10において、ブレーキペダル6は、係合部42による係合が外れたリンク部材4がブレーキペダル6に対して所定量回動した際にリンク部材4と接して回動を規制する回動規制部64を有する。このため、係合が外れたリンク部材4をブレーキペダル6の回動規制部64に当接させた状態で、ブレーキペダル6を踏み込むことでリンク部材4の回動を規制しつつ、マスターシリンダ9を押し込んでブレーキング操作を行うことができる。したがって、前面衝突後もブレーキング操作を行うことができ、安全性を向上させることができる。
【0043】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、上述した実施形態は、乗用車のブレーキペダルレバーについて説明したが、本発明は、これのみに限定されるものではなく、種々の車両に同様に実施可能である。
【0044】
また、前面衝突時に衝突部43に衝突する部材は、衝突用インパクトブラケット12でなくてもよく、前面衝突時に衝突部43に対して相対的に変位する部位であれば、車両のいずれの部位であってもよい。
【0045】
また、本実施形態では、リンク部材4とブレーキペダル6は、連結部5および回転中心軸Xにおいて、クリアランスを有して互いに回転可能に枢着するように連結されるが、衝突部43への衝突力によってリンク部材4とブレーキペダル6が相対的に回転可能であれば、圧入等によってクリアランスなしに連結されてもよい。このようにすれば、リンク部材4とブレーキペダル6のガタを防止できる。