特許第6366140号(P6366140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366140
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】金属微粒子含有構造体
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/16 20060101AFI20180723BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180723BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20180723BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20180723BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20180723BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   H01B5/16
   B22F1/00 K
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   H01B5/14 Z
   H01B13/00 503Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-550106(P2014-550106)
(86)(22)【出願日】2013年11月5日
(86)【国際出願番号】JP2013080368
(87)【国際公開番号】WO2014084026
(87)【国際公開日】20140605
【審査請求日】2015年6月22日
【審判番号】不服2017-3667(P2017-3667/J1)
【審判請求日】2017年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-260642(P2012-260642)
(32)【優先日】2012年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年度第1回材料フォーラム「光分子工学」分科会平成24年11月7日開催
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度 独立行政法人科学技術振興機構「光電変換ナノパーツの創製と新事業化展開/事業名:研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A−STEP)本格研究開発ステージ(起業挑戦タイプ)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】伊東 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】竹田 直弘
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 ▲辻▼ 弘輔
【審判官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−166145(JP,A)
【文献】 特開2006−37001(JP,A)
【文献】 特開平6−63400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
H01B 1/00 - 1/16
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが1nm〜50nm、主平面の長径が10nm〜5000nmのプレート状金属微粒子と、親油性の粘土系層間化合物とにより構成される複合体を含む構造体であって、
前記複合体は、プレート状金属微粒子及び親油性の粘土系層間化合物を、親油性の粘土系層間化合物/プレート状金属微粒子で表される重量比0.05〜20で含むとともに、前記プレート状金属微粒子が、前記親油性の粘土系層間化合物により覆われている、前記構造体。
【請求項2】
前記プレート状金属微粒子が、金、銀、銅、プラチナ、パラジウム及びロジウムからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記金属微粒子が、少なくとも銀を含むものである請求項1又は2に記載の構造体。
【請求項4】
親油性の粘土系層間化合物が、親油性のモンモリロナイト鉱物群又は雲母群鉱物に属するものである請求項1〜のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項5】
親油性の粘土系層間化合物が、親油性のスメクタイト、親油性のサポナイト又は親油性のヘクトライトである請求項1〜のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項6】
親油性の粘土系層間化合物が合成品である請求項に記載の構造体。
【請求項7】
膜状である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項8】
プレート状金属微粒子と親油性の粘土系層間化合物とを、親油性の粘土系層間化合物/プレート状金属微粒子で表される重量比0.05〜20で含む複合体により構成される膜状構造体の製造方法であって、以下の工程1〜3を含む、前記方法、
工程1:厚さが1nm〜50nm、主平面の長径が10nm〜5000nmのプレート状金属微粒子と親油性の粘土系層間化合物とにより構成され、前記プレート状金属微粒子が、前記親油性の粘土系層間化合物により覆われている前記複合体を含有する分散液を調製する工程、
工程2:該分散液を支持体に塗工して塗工膜を得る工程、
工程3:該塗工膜から液体分散媒を除去する工程。
【請求項9】
前記工程1において、分散液中に樹脂を含有させることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記樹脂が、ポリオール、ポリカルボン酸、ポリスルホン酸、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルブチラール、ポリシロキサン、ポリビニルピロリドン及びポリカチオン化合物からなる群から選択される少なくとも一種である請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子と特定の親油性モンモリロナイト鉱物群もしくは雲母群鉱物から成る構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在までに、微細な金属粒子の特徴を生かした金属微粒子含有組成物が種々提案されている。例えば、特許文献1には、スメクタイトに代表される流動性マトリックス中にて貴金属微粒子を凝集させて凝集状態を安定化させた複合体を得ることが、記載されている。
【0003】
ここで、スメクタイト等のモンモリロナイト鉱物群(粘土系層状化合物)は、その表面及び層間が親水的であるため、水やジメチルスルホアミド等の高極性溶媒との親和性を示すが、トルエンやケトン系溶剤等の低極性溶媒には親和性を示さないという性質を備えている。したがって、スメクタイト等のモンモリロナイト鉱物群は、低極性物質と親和性のある層状化合物−金属粒子複合体を作製することが困難であった。一方で、低極性物質と親和性のある層状化合物−金属粒子複合体は、(1)揮発性に優れているため作業効率が良い、(2)有機太陽電池の光電変換効率を向上させることができるといった産業上の有用性を有していた。
【0004】
本発明者は、有機イオンのインターカレーションにより、低極性物質との親和性に優れる層状化合物−金属粒子複合体を製造する方法の発明を完成していた(特許文献2)。しかし、前記の方法には、(1)金属コロイド(金属粒子または表面の少なくとも一部がクエン酸等の分散剤で覆われた金属粒子)以外の金属粒子(金属プレート微粒子等)を用いること、(2)分散安定性をさらに向上させ、実用的なものにすること、といった課題が存在していた。
【0005】
【特許文献1】特開2006−184247号公報
【特許文献2】特開2012−166145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金属プレート微粒子と、親油性粘土系層間化合物を含む構造体であって、分散安定性に優れ、実用上の安定性を有する構造体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、金属プレート微粒子の分散安定剤について研究を重ねた結果、金属微粒子を、特定の粘土系層間化合物と特定の混合比で混合することにより、分散安定性に優れ、実用上の安定性を有する構造体が得られることを見出し、本発明に至った。金属微粒子の形状は、球、立方体、直方体、八面体等の多面体、星形、プレート、ロッド、ワイヤー及びプリズム等が挙げられるが、特に、プレート状単独、又は球状、立方体、直方体、八面体等の多面体とプレート状との混合系で、その比率をコントロールすることにより、本発明の構造体は、種々の性質を示すことを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、金属微粒子と親油性の粘土系層間化合物とを、重量比0.01〜50で含む構造体である。前記金属微粒子としては、例えば、金、銀、銅、プラチナ、パラジウム及びロジウムからなる群から選ばれる少なくとも一つである。また、本発明において、前記金属微粒子の少なくとも一部の形状はプレート状であり、該プレート状金属微粒子は、その厚さが1nm〜50nmであり、その主平面の長径が10nm〜5000nmである。さらに、前記プレート状金属微粒子のアスペクト比は、少なくとも3であり、好ましくは3以上である。ここで、前記金属微粒子としては、少なくとも銀を含むものが挙げられる。
【0009】
さらに、親油性の粘土系層間化合物は、親油性のモンモリロナイト鉱物群又は雲母群鉱物に属するものである。好ましい態様において、親油性の粘土系層間化合物は、親油性のスメクタイト、親油性のサポナイト又は親油性のヘクトライトであるが、親油性の粘土系層間化合物として合成品を用いることもできる。そして、本発明の構造体は膜状であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明は、金属微粒子と親油性の粘土系層間化合物とを、重量比0.01〜50で含む構造体の製造方法であって、以下の工程1〜3を含む、前記方法である。
工程1:金属微粒子と粘土系層間化合物と液体分散媒とを、金属微粒子と親油性の粘土系層間化合物との重量比が0.01〜50となるように含有する分散液を調製する工程。
工程2:該分散液を支持体に塗工して塗工膜を得る工程。
工程3:該塗工膜から液体分散媒を除去する工程。
前記工程1において、分散液中に樹脂を含有させることが好ましい。前記樹脂としては、例えばポリオール、ポリカルボン酸、ポリスルホン酸、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルブチラール、ポリシロキサン、ポリビニルピロリドン及びポリカチオン化合物からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0011】
さらに、本発明は、平均粒径が1nm〜300nmの球状を含む多面体金属微粒子、および厚さが1nm〜50nm、該微粒子の主平面の長径が10nm〜5000nmで、そのアスペクト比が3以上であるプレート状金属微粒子と親油性の粘土系層間化合物類を含む構造体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属微粒子の分散安定性をできるだけ保ちつつ、実用上の強度を有する構造体を得ることができる。さらに、本発明によれば、プラズモン効果を高めて光を吸収しやすくした実用上の強度を有する構造体、可視光線の透明性を高めた実用上の強度を有する構造体、および、物質透過性を高めた実用上の強度を有する構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第一態様に係る構造体の走査型電子顕微鏡観察写真である。
図2】本発明の第三態様に係る構造体の走査型電子顕微鏡観察写真である。
図3】本発明の第四態様に係る構造体の走査型電子顕微鏡観察写真である。
図4】実施例2で作製したプレート状銀ナノ粒子A水分散液(乾固物)の走査型電子顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0015】
本発明の第一の態様は、金属微粒子と親油性の粘土系層間化合物とを、重量比0.01〜50で含む構造体である。
【0016】
本発明の構造体の第二の態様は、金属微粒子が、金、銀、銅、プラチナ、パラジウム及びロジウムからなる群から選ばれる少なくとも一つから成る。
【0017】
本発明の構造体の第三の態様は、金属微粒子の形状が、プレート状であり、そのプレート状金属微粒子の厚さが1nm〜50nmで、主平面の長径が10nm〜5000nmで、そのアスペクト比が3以上である。また、本発明の構造体の別の態様は、プレート状の金属微粒子を単独で含むか、あるいは、平均粒径が1nm〜300nmの球状を含む多面体金属微粒子とプレート条金属微粒子との混合物であり、球状を含む多面体微粒子との重量比はプレート状金属微粒子に対して10以下である。
【0018】
本発明の構造体の第四の態様は、粘土系層間化合物が親油性粘土系層間化合物である。本発明の構造体の別の態様は、金属微粒子の形状が、プレート状であり、そのプレート状の厚さが1nm〜50nmで、該主平面の長径が10nm〜5000nmで、そのアスペクト比が3以上であり、プレート状単独、又はその平均粒径が1nm〜300nmの球状を含む多面体金属微粒子との混合物と親油性の粘土系層間化合物を含むものである。親油性の粘土系層間化合物は、1種類のみでも、複数の種類の粘土系層間化合物を組み合わせても良い。
【0019】
本発明における粘土系層間化合物とは、モンモリロナイト鉱物群と雲母鉱物群である。モンモリロナイト鉱物群は、次の一般式(X,Y)2〜310(OH)・mHO・(W1/3)〔ただし、X=Al,Fe(III),Mn(III),Cn(III)、Y=Mg,Fe(II),Mn(II),Ni,Zn,Li,Z=Si,Al、W=K,Na,Caであり、HOは層間水、mは整数を表す。〕で表される粘土鉱物である。ここで、XとYの組合せと置換数の違いにより、モンモリロナイト、マグネシアンモンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、鉄マグネシアンモンモリロナイト、バイデライト、アルミニアンバイデライト、ノントロナイト、アルミニアンノントロナイト、サポナイト、アルミニアンサポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト等の多くの種類が天然物として存在するが、これら天然物の他に上記式中のOH基がフッ素等のハロゲンで置換された合成品等も市販されており、いずれも使用することができる。
【0020】
雲母鉱物群は、ナトリウムシリシックマイカ、ナトリウムテニオライト、リチウムテニオライト等である。とくに粘土系層間化合物とC〜C20アルキル4級アンモニュームカチオンとから合成できる親油性の粘土系層間化合物が本発明に有用である。例えばコープケミカル株式会社製のルーセンタイトSAN,ルーセンタイトSAN316,ルーセンタイトSTN,ルーセンタイトSEN及びルーセンタイトSPN(いずれも商品名)などのスメクタイト、クニミネ工業株式会社製のサポナイト(例えば有機化サポナイト)、ベントナイト、Rockwood社のヘクトライト(例えば合成ヘクトライトの有機化物)などが挙げられる。
【0021】
本発明で用いられる球状を含む多面体金属微粒子、及びプレート状金属微粒子の平均粒径は、動的光散乱法、シアーズ法、又はレーザー回析散乱法等で測定される。プレート状金属微粒子のアスペクト比は走査型電子顕微鏡を用いて観察された画像から求められる。
【0022】
本発明の第一態様を以下に説明する。
【0023】
本発明の第一の態様は、金属微粒子と親油性の合成スメクタイトとの重量比(親油性合成スメクタイトの重量/金属微粒子の重量)が0.01〜50を満たす構造体である。本発明の構造体は、プレート状金属微粒子、及び球状を含む多面体金属微粒子の表面がスメクタイトにより覆われて形成された集合体を取ることができる。これにより、分散安定性に優れ、また経時安定性にも優れた構造体を得ることができる。
【0024】
本発明の第一の態様に係る構造体の微視的な走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。構造体内では、プレート状金属微粒子はスメクタイトで囲まれて存在しているが、ほかのプレート状金属微粒子とほとんど凝集することはなく存在している。前記状態ではプレート状金属微粒子の表面プラズモン効果により、構造体は特殊な光学特性を示し、光吸収効果を発現する。ただし、求める光学特性によっては、プレート状金属微粒子が2〜5枚程度、該主平面同士で会合・凝集した方がより好ましい場合もあり、本発明の構造体に作製時にプレート状金属微粒子の凝集状態を厳密に制御することが重要である。
【0025】
本発明の第一の態様では、金属微粒子と親油性の合成スメクタイトの重量比(親油性合成スメクタイトの重量/金属微粒子の重量)が0.01〜50を満たす。その重量比が0.01未満では、分散安定性が不十分であり、経時安定性に劣る。また、50以上では、プレート状金属微粒子等の表面を覆うスメクタイトが、多く過ぎて、表面プラズモン効果が低下する。特に、プレート状金属微粒子の諸光学特性を効果的に発現させる場合には、0.05〜20であることが好ましい。
【0026】
金属微粒子は、プレート状単独、あるいは、球状を含む多面体とプレート状との混合物である。プレート状金属微粒子は、厚さが1nm〜50nm、形状は星形、三角形、多角形、略多角形等の主平面を有するものであり、該主平面の長径が10nm〜5000nmで、そのアスペクト比が3以上である。原子間力やファンデルワールス力などプレート間の相互作用力の観点から、プレート状金属微粒子の長径は30nm〜1500nmが好ましい。
本発明におけるアスペクト比は、主平面の長辺を厚みで割った値である。ここで、プレート形状の主平面は、最も広い面積を有し、かつ対面となっている二つの面を指し、厚みとは、それら二つの主平面に挟まれた辺長を指す。また、主平面が星形や多角形というのは、主平面を法線方向に投影した形状を指す。主平面の長辺とは、主平面のコーナー(頂点)からコーナー(頂点)で、最も長い部分である。
【0027】
本発明の第二態様を以下に説明する。
【0028】
本発明の構造体の第二の態様は、金属微粒子として、金、銀、銅、プラチナ、パラジウム、ロジウムの少なくとも一つを含むが、金、銀、銅の何れかの単一組成、あるいは、これらの少なくとも一つを含む合金であることが好ましく、銀を単一で含むことが特に好ましい。
【0029】
本発明の第三態様を以下に説明する。
【0030】
本発明の第三の態様は、金属プレート微粒子単独、又はその平均粒径が1nm〜300nmの球状を含む多面体金属微粒子と厚さが1nm〜50nm、該金属微粒子の主平面の長径が10nm〜5000nmで、そのアスペクト比が3以上のプレート状金属微粒子とから成り、該金属微粒子の重量比はプレート状金属微粒子に対して10以下である構造体である。球状を含む多面体金属微粒子の混在は、極力少ない方が、好ましい場合もあるが、製造工程上、またはプレートの破砕などから、ある程度は必然的である。本発明においては、求める光学的特性(例えば、光散乱特性等)によっては、球状を含む多面体金属微粒子とプレート状金属微粒子とが混在する方が、より好ましい場合もあり、前記重量比率を制御することが重要である。
【0031】
本発明の第三の態様に係る構造体の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。図2は、球状の金属微粒子がプレート状金属微粒子に付着した状態を示しており、、ともにスメクタイトによって覆われている。
【0032】
本発明の第四の態様を以下に説明する。
【0033】
本発明の第四の態様は、スメクタイト類が親油性の合成スメクタイトである構造体である。本発明の第四の態様に係る構造体の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。親油性の合成スメクタイトは、溶媒中に微分散、または分子状に溶解して、金属微粒子等を覆うことができる。これにより、金属微粒子等が容易に溶媒中に分散し、本発明の構造体を塗布することやその膜の形成が容易になる。
【0034】
本発明の構造体は、金属微粒子の表面が親油性の粘土系層間化合物によって覆われている複合体によって構成されている。本発明の構造体の別の態様は、前記複合体中で金属微粒子が会合または凝集した形態を取ることもできる。本発明の構造体の別の態様として、前記複合体で金属微粒子が積層化した層状の形態を取ることもできる。本発明の構造体の別の態様として、用途に応じて、前記複合体を混合物、集合物または組成物として用いることもできる。
【0035】
本発明の構造体の形状は、膜状、繊維状、粒子状などの形状をとることができるが、発現しうる光学特性、物質透過性、導電性などを有効に利用する観点から、膜状であることが好ましい。この場合、膜の可撓性を保つ観点から、構造体の厚みは10μm以下であることが好ましい。
【0036】
本発明の構造体の製造方法について、膜状の形態をとる構造体を例にとり、以下に説明する。本発明の構造体は、液体分散媒を利用することにより効率的に製造することができる(工程1〜工程3)。
工程1:金属微粒子と親油性粘土系層間化合物と液体分散媒とを、金属微粒子と親油性の粘土系層間化合物との重量比が0.01〜50となるように含有する分散液を調製する工程。
工程2:該分散液を支持体に塗工して塗工膜を得る工程。
工程3:該塗工膜から液体分散媒を除去する工程。
【0037】
本発明で用いる分散液は、典型的には、例えば下記[1]〜[4]のいずれかの方法により調製することができるが、分散液の調製方法はこれらの方法に限定されるものではない。
[1] 用いる金属微粒子および親油性粘土系層間化合物を全て同時に共通の液体分散媒中に添加し、分散させる方法。
[2] 金属微粒子を液体分散媒中に分散させて金属微粒子分散液を調製し、別途、親油性粘土系層間化合物を液体分散媒中に分散させて親油性粘土系層間化合物を調製し、次いでそれぞれの分散液を混合する方法。
[3] 金属微粒子を液体分散媒中に分散させて金属微粒子分散液を調製し、次いで親油性粘土系層間化合物を添加し、分散させる方法。
[4] 液体分散媒中で金属微粒子を形成させて金属微粒子を含有する金属微粒子分散液を調製し、別途親油性粘土系層間化合物を含有する親油性粘土系層間化合物分散液を調製し、という手順でそれぞれの分散液を調製し、ついで全ての分散液を混合する方法。
【0038】
より均一な分散を達成するために、分散液は超音波分散、超高圧分散等の強分散手段を適用し、分散液中において、金属微粒子を均一に分散させることができる。また、分散液の調製に使用する親油性粘土系層間化合物、金属微粒子はコロイド状態であることが好ましい。
【0039】
本発明の液体分散媒は、金属微粒子等を分散させる機能を有するものであればよく、水や有機溶剤を用いることができる。また、金属微粒子は、上記溶媒への分散性を改良するため、微粒子に表面処理を施してもよいし、分散媒電解質や分散助剤を添加しても良い。
【0040】
上記工程1において金属プレート微粒子類及びスメクタイトをコロイド状に分散させる場合には、必要に応じてpH調製を行うことや、電解質、特にクエン酸、またはその類似の有機酸、及び分散剤を添加することができる。また、均一に分散させるために、必要に応じてスターラーによる撹拌、超音波分散、超高圧分散(超高圧ホモジナイザー)等の手法を適用しても良い。スメクタイト分散液の濃度は特に限定されないが、金属プレート微粒子類の溶液内での安定性を保つために、1〜50重量%であることが望ましい。
【0041】
また、本発明においては、分散液中に樹脂を含有させることができる。樹脂としては、例えばポリオール、ポリカルボン酸、ポリスルホン酸、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルブチラール、ポリシロキサン、ポリビニルピロリドン及びポリカチオン化合物からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられ、これらを単独で、又は適宜組み合わせて使用することができる。
【0042】
上記工程2において、該分散液を支持体上に塗工する方法としては特に限定されず、例えば、グラビアコーチィング、リバースコーチィング、ロールコーチィング、スプレーコーチィング、ダイコーチィング、バーコーチィングなどの公知の方法で塗布することができる。
【0043】
上記工程3において、該塗工膜から液体分散媒を除去する工程では、除去時の圧力や温度は使用するスメクタイト、金属プレート微粒子類および液体分散媒により適宜に選択できる。例えば、液体分散媒が水であれば、常圧下、25℃〜60℃で液体分散媒の除去が可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本件を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形も含まれている。
(実施例1)
【0045】
使用した主な材料は以下のとおりである。
【0046】
[銀ナノ粒子水分散液]
銀ナノ粒子水分散液として大日本塗料社製の試作品を使用した。この分散液は、プレート状粒子と球状を含む多面体粒子とを含有する混合系銀ナノ粒子の水分散液である。プレート状粒子の該主平面の平均長径は500nm〜800nm、該厚みは10nm〜20nmである。球状粒子の該平均粒径は150nmである。分散液の銀含有率は0.006重量%である。
【0047】
[親油性粘土系層間化合物の作製]
クニミネ工業社製合成サポナイト(商品名:SA)1グラムを60mlの純水に微粒子分散させて分散液を作製した。あらかじめ50℃に加熱しておいた60mlの純水にベンジルオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド1グラムを溶解させた溶液を、前記サポナイトを含む微粒子分散液に50℃で加熱撹拌しながら加え、混合後に1時間槓子撹拌を続けた。その後、溶液を一夜放置して室温に戻したところ、白色沈殿が析出したので濾取して回収し、100mlの純水及び冷メタノールの順で洗浄し、乾燥させた。
【0048】
[銀ナノ粒子−親油性粘土複合体の作製]
前記の親油性合成粘土の1重量%トルエン分散液を作製し、粘稠な液体11mlを採取してジクロロベンゼン:クロロホルム=1:3(vol/vol)の混合溶媒9mlで希釈した後、前記銀ナノ粒子水分散液100mlを加えてよく振り、抽出操作を施して放置したところ、上から水相、青緑相、黄土色相の3層に分離した。分離した層の中から黄土色相を回収し、これに多量の水とエタノールとの混合溶媒を加えたところベージュ色の沈殿を得たので、この沈殿物を回収した。この沈殿物を濾取して多量のエタノールで洗浄後に乾燥した。この回収物質をDMSO−水の混合溶媒に分散させて得た分散液から成膜し、薄膜を得た。この薄膜の走査型電子顕微鏡写真には、多量の微細な親油性合成粘土中に包埋したプレート状銀ナノ粒子が認められた。
【0049】
実施例1の評価は次の方法で実施した。
【0050】
上述の銀ナノ粒子−親油性粘土複合体を用いて、次項で説明する塗布用分散液を調製し、シリコンフォトダイオード(浜松ホトニクス社製S2386−8K)の受光面上に直接塗布、成膜(乾燥)後、光照射により生じた光電流をポテンショ/ガルバノスタット(Ivium Technologies社製COMPACTSTAT)で測定した。該複合体分散液の塗布による光電流の増大を確認するため、同一の前記シリコンフォトダイオードにおいて、複合体塗布前と塗布後の光電流の比(複合体塗布後の光電流/複合体塗布前の光電流)を求めた。また、シリコンフォトダイオードに照射した光は、日本分光社製HM−25Q型ハイパーモノライトの波長カウンターを0nmにセットし、その光源であるXeランプが発する光そのものを使用した。
【0051】
[シリコンフォトダイオード塗布用の銀ナノ粒子−親油性粘土複合体分散液の作製]
γ‐ブチロラクトン:IPA=1:1(vol/vol)混合溶媒中に、前記回収の銀ナノ粒子−親油性粘土複合体の沈殿物(粉末状)を微粒子分散させた分散液(まず、IPAで分散させ、次にγ−ブチロラクトンを加えて30分ほど超音波分散した)を用いて、前記シリコンフォトダイオードの受光面上に直接塗布し、成膜(乾燥)した。続いて、前記手法によりシリコンフォトダイオードの光電流を測定したところ、塗布前と比較して4%程度の光電流の増大が認められた。
(比較例1)
【0052】
[銀ナノ粒子−親水性粘土複合体の作製]
実施例1に示した銀ナノ粒子−親油性粘土複合体の作製において、親油性合成粘土の代わりに、4級アンモニウムで置換されていない親水性の合成サポナイト(クニミネ工業社製合成サポナイト、商品名:SA)をそのまま用いて1重量%の水分散液を作製した。作製した分散液から11mlを採取して、実施例1に記載の銀ナノ粒子水分散液100mlを加え、さらに、ジクロロベンゼン:クロロホルム=1:3(vol/vol)の混合溶媒9mlを加えた。その後、溶液をよく振り、抽出操作を施して放置したところ、上から灰黒色の水相、無色透明の有機相の2層に分離した。分離層の中から灰黒色相をとり、多量のエタノールを加えて生じた沈殿物を濾取した。濾過後の沈殿物は多量のエタノールで洗浄した後に乾燥した。
【0053】
次に実施例1のシリコンフォトダイオード塗布用の銀ナノ粒子−親油性粘土複合体分散液の作製と同様な手法にて、γ‐ブチロラクトン:IPA=1:1(vol/vol)混合溶媒に前記回収の銀ナノ粒子−親水性粘土複合体の沈殿物(粉末状)を微粒子分散させたところ、灰黒色の分散液が得られたが、放置すると直ちに黒色沈殿が生じ、塗料としての分散安定性が極めて貧弱であることが判明した。
【0054】
また、実施例1と同様に、この分散液を前記フォトダイオードの受光面上に直接塗布し乾燥させたが、凝集物が散見されて均一な皮膜を形成し得なかった。続いて、実施例1と同様の評価方法で、シリコンフォトダイオードの光電流を測定したところ、塗布前の70%程度の光電流しか得られず、実施例1とは対照的に光電流の増大効果は全く認められなかった。
(実施例2)
【0055】
[プレート状銀ナノ粒子水分散液の作製]
下記の手順により、プレート状銀ナノ粒子水分散液を作製した(銀含有率:0.001重量%)。全ての試薬は、和光純薬工業社製の特級グレードを用いた。
(i)超純水24ml中に、撹拌しながら150mMクエン酸三ナトリウム水溶液250μl、50mM硝酸銀水溶液50μl、30%過酸化水素水60μlを順次加える。
(ii)さらに激しく撹拌しながら、氷温で調製した100mMテトラヒドロほう酸ナトリウム水溶液125μlを加える。
(iii)テトラヒドロほう酸ナトリウム水溶液を加えた後、少なくとも30分激しく撹拌を続ける。さらに、5日以上静置し、銀ナノプレート核aの水分散液を得る。
(iv)超純水18ml中に、撹拌しながら前記銀ナノプレート核aの水分散液1250μl、20mMアスコルビン酸水溶液65μlを順次加える。
(v)さらに激しく撹拌しながら、0.5mM硝酸銀水溶液4750μlを1000μl/minの流速で加える。
(vi)前記硝酸銀水溶液の添加終了後、すぐに150mMクエン酸三ナトリウム水溶液1000μlを加え、撹拌速度を落とす。4時間撹拌し続けた後、銀ナノプレート核bの水分散液を得る。
(vii)超純水18ml中に、撹拌しながら前記銀ナノプレート核bの水分散液1250μl、20mMアスコルビン酸水溶液78μlを順次加える。
(viii)さらに激しく撹拌しながら、0.5mM硝酸銀水溶液5700μlを1000μl/minの流速で加える。
(ix)前記硝酸銀水溶液の添加終了後、撹拌速度を落とし、4時間撹拌し続けた後、プレート状銀ナノ粒子の水分散液を得る。
最終的に得られた銀ナノプレート水分散液を乾固させた後、日立社製SU8000型走査型電子顕微鏡により観察した。その結果、該銀ナノプレートの主平面の形状は、三角形、もしくは六角形であり、該主平面の長径が500nm以上、該厚みが10〜20nmで、球状銀ナノ粒子の混在は確認できなかった(図4参照)。
【0056】
[プレート状銀ナノ粒子−親油性粘土複合体の作製]
実施例1に記載の親油性合成粘土の1重量%ジクロロベンゼン分散液を作製した。そして、作製した分散液から0.1mlを採取して、ジクロロベンゼンで2mlに希釈した後、前記の銀ナノプレート水分散液100mlを加えてよく振り、抽出操作を施して放置したところ、ごく淡い水色に着色した有機相を得た。淡い水色を呈していた水相は、放置している間に完全に無色となったことから、水相のプレート状銀ナノ粒子は親油性合成粘土と複合化することで、その殆が有機相に移行し、濃縮されたと考えられる。濃縮倍率は計算上100ml/2ml=50倍に達する。
【0057】
次に、この有機相液に0.005重量%になるようにポリビニルブチラール樹脂を添加して、塗料原液とした。続いて、該原液に等量のエタノールを加え、アルカリ洗浄を施したガラス基板上に塗布し、ドライヤーで加熱乾固を行った。その結果、殆ど無色透明な干渉縞を有する皮膜が形成され、アルコールを接触させても密着状態が保たれることを確認した。また、その皮膜の表面抵抗を測定したところ、常温常圧下で10Ω/□程度の数値を示し、ガラス基板だけの時に比べ6桁以上の著しい導電性上昇の効果が認められた。
(比較例2)
【0058】
[プレート状銀ナノ粒子−親水性粘土複合体の作製]
比較例1記載の親水性合成サポナイトの1重量%水分散液を作製した。作製した分散液から0.1mlを採取して、実施例2に記載の銀ナノプレート水分散液100mlを加え、さらにジクロロベンゼン2ml添加した後によく振り、抽出操作を施して放置したところ、実施例2とは異なり、無色透明な有機相を得た。淡い水色を呈していた水相は、放置している間、そのままの性状を維持した。このことから、水相のプレート状銀ナノ粒子は、そのほとんどが水相に留まったと考えられる。
【0059】
次に、この水相液に0.005重量%になるようにポリビニルアルコール樹脂を添加して、塗料原液とした。続いて、該原液に等量のエタノールを加え、アルカリ洗浄を施したガラス基板上に塗布し、ドライヤーで加熱乾固を行った。その結果、凝集体が散りばめられた不均一な皮膜が形成された。この乾燥皮膜にアルコールを接触させると簡単に基板から剥離するようなものであった。また、その皮膜の表面抵抗を測定したところ、常温常圧下で1010Ω/□程度であり、実施例2とは比較にならないほど大きな抵抗率であった。
(実施例3)
【0060】
[天然物由来の親油性粘土系層間化合物の作製]
天然モンモリロナイト(クニミネ工業製商品名:クニピアF)1グラムを60mlの純水に微粒子分散して分散液を作製した。あらかじめ50℃に加熱しておいた60mlの純水にトリメチルオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド0.5グラムを溶解させた溶液を、前記天然モンモリロナイトを含む微粒子分散液に50℃で加熱撹拌しながら加えた。溶液を混合した後に1時間槓子撹拌を続け、一夜放置して室温に戻したところ、淡黄色沈殿が析出した。析出した沈殿物を濾取して回収し、回収物を100mlの純水及び冷メタノールの順で洗浄し、乾燥させた。
【0061】
[プレート状銀ナノ粒子−天然物由来親油性粘土複合体の作製]
前記の天然物由来親油性合成粘土の1重量%ジクロロベンゼン分散液を作製した。作製した分散液から0.1mlを採取してジクロロベンゼンで2mlに希釈した後、実施例2に記載の銀ナノプレート水分散液100mlを加えてよく振り、抽出操作を施して放置したところ、ごく淡い水色に着色した有機相を得た。淡い水色を呈していた水相は、放置している間に完全に無色となったことから、水相のプレート状銀ナノ粒子は天然物由来親油性クレイと複合化することで、その殆が有機相に移行し、濃縮されたと考えられる。濃縮倍率は計算上100ml/2ml=50倍に達する。
【0062】
次に、この有機相液に0.005重量%になるようにポリビニルブチラール樹脂を添加して、塗料原液とした。続いて、該原液に等量のエタノールを加え、アルカリ洗浄を施したガラス基板上に塗布し、ドライヤーで加熱乾固を行った。その結果、殆ど無色透明な干渉縞を有する皮膜が形成され、アルコールを接触させても密着状態が保たれることを確認した。また、その皮膜の表面抵抗を測定したところ、常温常圧化で実施例2と同等レベルの10Ω/□程度の数値を示し、ガラス基板だけの時に比べ6桁以上の著しい導電性上昇の効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の構造体は、フイルム状支持体に形成されるか、あるいはフイルム状に形成された場合、帯電防止フイルム、導電フイルム、透明導電性フイルム、反射防止フイルム、電子ペーパー用透明電極、抗菌フイルム、触媒担体フイルム、光散乱コーティングフィルム、マザーペースト、プラズモニック集電フィルムなどに、または半導体などに塗布されて、フレキシブル太陽電池、エレクトロルミネッセンスなどの光電変換素子、光キャパシタ、光蓄電池などに応用が可能である。
図1
図2
図3
図4