特許第6366178号(P6366178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハイモ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6366178-セルロースナノファイバーの製造方法 図000002
  • 特許6366178-セルロースナノファイバーの製造方法 図000003
  • 特許6366178-セルロースナノファイバーの製造方法 図000004
  • 特許6366178-セルロースナノファイバーの製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366178
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/04 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   C08B15/04
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-154692(P2014-154692)
(22)【出願日】2014年7月30日
(65)【公開番号】特開2016-30809(P2016-30809A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2017年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142148
【氏名又は名称】ハイモ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本多 剛
(72)【発明者】
【氏名】臨 護
【審査官】 齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/116826(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/132903(WO,A1)
【文献】 特開2008−001728(JP,A)
【文献】 特開2010−235679(JP,A)
【文献】 特開2011−184475(JP,A)
【文献】 特開2011−140738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
D01F
D06M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系原料を酸化剤のみを用い、酸化剤として過酸化水素で酸化処理した後、機械的処理を加えることによるセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記過酸化水素の添加率が、セルロース系原料の乾燥固形分に対し10〜300質量%であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記機械的処理として超音波処理またはミキサー処理を加えることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースナノファイバーを製造する方法として、リグニンやヘミセルロースを除去した植物繊維パルプ、木材パルプをリファイナーで処理して細胞壁を横方向に数回切断した後、二軸混練機で混練処理して強固な二次壁を解繊する方法が存在するが、この方法では、繊維の幅が10nm〜5μm程度のセルロース繊維の混合物が得られ、繊維幅が均一に揃ったセルロースナノファイバーを得ることはできない。
また、高圧ホモジナイザーやマイクロフリュイダイザーといった方法も存在する(非特許文献1及び2)が、解繊を進めるためには、何回も処理を繰り返す必要があること等欠点がある。
セルロース系原料を2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、TEMPOと称する)と次亜塩素酸ナトリウムとの共存下で処理すると、セルロースのミクロフィブリルの表面にカルボキシル基が導入され、このカルボキシル基を導入したセルロース系原料を水中にてミキサー等で処理するとセルロースナノファイバー水分散液が得られることが知られている(非特許文献3、特許文献1および2)。
しかし、TEMPOが非常に高価であるため製造コストが高いという問題があった。また、この方法で製造された酸化セルロースおよびこの酸化セルロースを解繊して得られるセルロースナノファイバーにはN−オキシル化合物が残留するという問題がある。
【0003】
【特許文献1】特開2008−001728号
【特許文献2】特開2010−235679号
【非特許文献1】Enzymatic Hydrolysis Combined with Mechanical Shearing and High−Pressure Homogenization for Nanoscale Cellulose Fibrils and Strong Gels:Biomacromolecules,2007,8(6),1934−1941
【非特許文献2】Cellulose Fibrils for Polymer Reinforcement:ADVANCED ENGINIEERING MATERIALS 2004,6,No.9,755−761
【非特許文献3】Saito,T.,et al.,Cellulose Commun.,14(2),62(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化学物質等の不純物が少なく、簡単で安価な方法でセルロースナノファイバーを製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは検討の結果、セルロース系原料を酸化剤で酸化処理した後に、更に超音波処理、ミキサー処理等の機械的処理を行うことにより安価で、不純物の少ないセルロースナノファイバーが得られることを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、セルロース系原料を酸化剤のみを用い酸化処理し、その後超音波処理、ミキサー処理などの機械的処理を行うことでセルロースナノファイバーを製造することができる。不純物が少なく、また安価かつ簡単にセルロースナノファイバーを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に本発明について説明する。本発明で用いるセルロース系原料は特に限定されるものではなく、各種木材由来のクラフトあるいはサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末状セルロースや酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末を使用できる。このうち、漂白済みクラフトパルプまたは漂白済みサルファイトパルプを使用することが好ましい。
【0008】
以下クラフトパルプを例にとり説明するが、本発明はクラフトパルプに限定されるものではない。クラフトパルプは、叩解機等で処理しておくのが好ましい。クラフトパルプに水を添加しスラリーとする。乾燥固形分は低すぎると処理効率が低下し、高すぎると固形化し、酸化剤を均一に分布させるのが困難となる。このため乾燥固形分は1質量%から30質量%が好ましい。
【0009】
ここに酸化剤を添加し、撹拌等により均一に分散させる。使用する酸化剤として、過酸化水素、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過有機酸、過硫酸塩から選択される一つである。この中で、過酸化水素を使用すると酸化剤に由来する不純物がないセルロースナノファイバーが得られるため、過酸化水素が好適である。酸化剤の添加率はクラフトパルプ乾燥固形分に対し、10〜300質量%の範囲であり、30〜300質量%が好ましい。酸化剤の添加率が10質量%より少ないと酸化が不十分であり、300質量%より多くなると酸化反応が進み、水溶性成分が多量に発生する。その後加温し保持すると反応が促進されるため好ましい。酸化反応の温度は50〜100℃が好ましい。50℃以下の場合には酸化反応に長時間を要する。60〜90℃が更に好ましい。酸化反応の時間は温度に依存するが、通常1〜20時間である。
【0010】
酸化反応時、硫酸鉄、硫酸銅等の酸化触媒を添加してもよい。これにより酸化反応を加速することができる。
【0011】
酸化反応終了後、固液分離により酸化処理パルプを取り出す。次に酸化処理パルプを水に懸濁させる。パルプ濃度は高すぎると得られるセルロースナノファイバー分散液の粘度が高くなりすぎるため、5質量%以下が好ましい。酸化処理パルプ懸濁液に超音波照射、またはミキサー処理、ホモジナイザー処理、ビーター処理、レファイナー処理、グラインダー処理等の機械的処理を施すことにより、透明状のセルロースナノファイバー分散液を製造することができる。この機械的処理は、セルロースを微細にすることができるならば、任意な力を作用させることができ、選択する機械的処理により適宜に調節する。機械的処理を施す前に系内のpHを弱アルカリ性にするのが好ましい。好ましいpHは8〜12である。これはパルプ上のカルボキシル基の静電反発によりパルプの解繊が促進されるためと考えられる。
【0012】
本発明におけるセルロースナノファイバーの繊維幅は4nm〜500nm、長さ0.5μm〜数μm程度の範囲である。
【0013】
本発明で得られたセルロースナノファイバーは、製紙用添加剤、粘度調節剤、透明紙、ガスバリア紙、樹脂高機能化剤等に使用可能である。
【実施例】
【0014】
以下に実施例により更に詳細に本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
(原料パルプ)
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を叩解機で叩解したもの(叩解度300mL)を用いた。パルプ濃度は1.9質量%であった。
【0016】
(実施例1)
1.9質量%パルプ液200.8gを吸引濾過(ADVANTEC、No.5A濾紙使用)により脱水した。得られた含水パルプの質量は45.8gであった。ここに35質量%過酸化水素水8.09gを加えかきまぜた。フラスコ内で80℃の温度で10時間保持した。その後吸引濾過し含水固形物8.8gを回収した。含水固形物0.5gを脱塩水25gに懸濁させ、水酸化ナトリウムを用いてpH10とした後、超音波処理を施した。超音波処理は、Hielsher Ultrasound Technology社製UP200Sを用いてアンプリテュード100%の条件で実施した。途中pHが低下するため、水酸化ナトリウムを加えpH10とした。合計で30分間超音波処理し、半透明の粘ちょうな分散液を得た。凍結乾燥後のSEM (走査型電子顕微鏡、HITACHI Miniscope TM−1000使用)により観察したものを図1に示す。繊維幅が数十nmのセルロースナノファイバーが確認された。
【0017】
(実施例2)
実施例1で得られた含水固形物2.5gに水を加え150gとした。ここに水酸化ナトリウムを加えpHを11とした。これをミキサー処理した。ミキサー処理はSILVERSON社製ハイシアミキサーL5M−Aを用いて10000rpmで60分の条件で実施した。半透明状の粘ちょうな分散液が得られた。凍結乾燥後のSEM(走査型電子顕微鏡、HITACHI Miniscope TM−1000使用)により観察したものを図2に示す。繊維幅が数十nmのセルロースナノファイバーが確認された。
【0018】
(実施例3)
1.9質量%パルプ液201.3gを吸引濾過(ADVANTEC、No.5A濾紙使用)により脱水した。得られた含水パルプの質量は42.1gであった。ここに35質量%過酸化水素水4.07gを加えかきまぜた。フラスコ内で80℃の温度で8時間保持した。その後吸引濾過し含水固形物18.8gを回収した。含水固形物1.1gを脱塩水30gに懸濁させ、水酸化ナトリウムを用いてpH10とした後、超音波処理を施した。超音波処理は、実施例1と同様の条件で実施した。途中pHが低下するため、水酸化ナトリウムを加えpH10とした。合計で30分間超音波処理し、半透明の粘ちょうな分散液を得た。凍結乾燥後のSEM(走査型電子顕微鏡、HITACHI Miniscope TM−1000使用)により観察したものを図3に示す。繊維幅が数十nmのセルロースナノファイバーが確認された。
【0019】
(実施例4)
1.9質量%パルプ液100.0gを吸引濾過(ADVANTEC、No.5A濾紙使用)により脱水した。得られた含水パルプの質量は42.9gであった。ここに過硫酸アンモニウム2.17gを脱塩水14gに溶解したものを加えかきまぜた。フラスコ内で90℃の温度で4時間保持した。その後吸引濾過し含水固形物9.8gを回収した。含水固形物0.36gを脱塩水25gに懸濁させ、水酸化ナトリウムを用いてpH11とした後、超音波処理を施した。超音波処理は、実施例1と同様の条件で実施した。途中pHが低下するため、水酸化ナトリウムを加えpH10とした。合計で20分間超音波処理し、半透明の粘ちょうな分散液を得た。凍結乾燥後のSEM(走査型電子顕微鏡、HITACHI Miniscope TM−1000使用)により観察したものを図4に示す。繊維幅が数十nmのセルロースナノファイバーが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1で製造されたセルロースナノファイバーの走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍、一目盛1μm)
図2】実施例2で製造されたセルロースナノファイバーの走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍、一目盛1μm)
図3】実施例3で製造されたセルロースナノファイバーの走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍、一目盛1μm)
図4】実施例4で製造されたセルロースナノファイバーの走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍、一目盛1μm)
図1
図2
図3
図4