【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に特に限定されるものではない。
【0034】
以下の実施例で使用したコンポスト原料及びコンポスト混合原料は下記の通りである。
【0035】
(1)コンポスト原料
コンポスト原料として、食堂、コンビニエンスストア及び食品加工工場から集めた食品廃棄物を用いた。本実施例で用いたコンポスト原料(食品廃棄物)の窒素の元素分析値は54.1%、炭素の元素分析値は3.07%であり、C/N比は17.6であった。
【0036】
(2)コンポスト混合原料
上述したコンポスト原料である食品廃棄物とおがくずを、乾燥重量で10:9の割合となるように混合した。10m
3容量の亜臨界水処理機を用いて、食品廃棄物とおがくずの混合物2トンを180℃、30分の条件で亜臨界水処理した。亜臨界水処理された食品廃棄物とおがくずの混合物に、コンポスト種菌を乾燥重量比で5%となるように添加し、コンポスト混合材料とした。コンポスト化開始時には、消石灰を添加してコンポスト混合原料のpHを5に調整した。同様にコンポスト化開始時には、蒸留水を加えてコンポスト混合原料の含水率を60%に調製した。
【0037】
また、以下の実施例で行ったコンポスト試料のpH、フラン化合物の濃度、含水率及び微生物の解析並びにコンポスト化における炭酸ガス発生速度の測定は以下のように行った。
【0038】
(1)pH
採取したコンポスト試料に蒸留水を重量比で1:9となるように添加し、ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製品、製品名;エースホモジナイザー)で均一な懸濁液にした。懸濁液のpHをpHメータ(株式会社堀場製作所製品、製品名:pHメータD−51)で測定した。
【0039】
(2)フラン化合物の濃度
コンポスト原料として用いた食品廃棄物の亜臨界水処理により、フラン化合物が生成した。高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いてフラン化合物である5−HMF及びフルフラールの濃度を測定した。HPLCの検出器は日本分光株式会社製品、型番;UV−2075を用い、カラムは昭和電工株式会社製品、型番;Sugar SH−1011を用いた。HPLCの液体サンプルは、上述したpH測定の際に作成した試料の懸濁液を0.20μmの親水性PTFEフィルターでろ過して調整した。HPLCの移動相としては脱気した5mMの硫酸水溶液を用い、流速は1.0mL/minとした。カラムの温度は50℃に維持した。
【0040】
(3)含水率
採取したコンポスト試料の重量を測定した後、定温乾燥機(ヤマト科学株式会社製品、製品名;DS600)で24時間、105℃で乾燥させ、コンポスト試料の乾燥状態の重量を測定した。乾燥後の減少重量を乾燥前の重量で除した値を含水率とした。
【0041】
(4)微生物の解析
コンポスト種菌及びコンポスト試料中の常温性糸状菌、常温性細菌及び好熱性細菌の濃度は希釈平板法で求めた。常温性糸状菌の測定にはPD寒天培地(栄研化学株式会社製品)を用い、培養温度30℃、培養期間3日間とした。なお、常温性細菌の増殖を抑制するために、1mLのクロラムフェニコール溶液(クロラムフェニコール100mgをエタノール1mLに溶解)を1LのPD寒天培地に加えた。常温性細菌と好熱性細菌の計数には、TS寒天培地(トリプチケースペプトン17g/L、ファイトンペプトン3g/L、塩化ナトリウム5g/L、K
2HPO
4 2.5g/L、グルコース2.5g/L、寒天20g/L、pH7.3)を用い、培養温度は常温性細菌が30℃、好熱性細菌が60℃、培養期間は3日間とした。なお、常温性細菌を計測するときには、糸状菌の増殖を抑制するため、100μLのアンホテリシンB溶液(アンホテリシンB25mgをジメチルスルホキシド1mLに溶解)を1LのTS寒天培地に加えた。
【0042】
(5)炭酸ガス発生速度
有機物が分解されると炭酸ガスが生成することから、コンポスト化に伴って生成した炭酸ガス量を測定し、有機物の分解の指標とした。装置から排出されたガスを、硫酸水溶液を充填したアンモニアトラップを通過させてアンモニアを除いた後、赤外線ガス分析装置(型式;RI−555、理研計器株式会社製品)に導き、ガス中に含まれる炭酸ガス量を測定した。有機物の分解速度は、単位時間及び単位コンポスト混合原料乾燥重量あたりの炭酸ガスの排出量(発生量)のモル数で定義された炭酸ガス発生速度(mol/h/g−ds)として計算した(Nakasaki et al.,Waste Manage. Res.,Vol.16,p.484〜489)。
【0043】
[実施例1]
1.亜臨界水処理されたコンポスト混合原料のコンポスト化
本実施例では、コンポスト種菌として、市販の2種類のコンポスト(熟成堆肥、袋入り)を用いた。これら2種類のコンポスト(コンポストA及びコンポストB)中に含まれる微生物の解析結果を表1に示す。表1より、コンポストA及びコンポストBには高濃度の微生物が含まれているだけでなく、様々な種類の微生物が含まれることがわかった。なお、一般的にコンポストは、生産ロットが異なる場合はもちろん、生産ロットが同じ場合であっても袋ごとに微生物叢が異なる。そのため、本実施例及び以下実施例におけるコンポストA及びコンポストBは、それぞれ、同一の袋から取り出したものを使用した。
【0044】
【表1】
【0045】
コンポスト化にあたっては、研究室規模のコンポスト化装置(円筒形、直径300mm×深さ400mm)を用いた。コンポスト混合原料を収容する装置本体をポリ塩化ビニルで形成し、発泡スチロールからなる断熱材に埋設させた。また、断熱材と装置本体との間には、装置内温度を調節するためにリボンヒータを配置した。本実施例では、上述したコンポストA又はコンポストBをコンポスト種菌として含むコンポスト混合原料3000gをそれぞれ装置に投入し、コンポスト化を行った。コンポスト化期間は10日間とした。コンポスト化が進むにつれて、微生物による有機物分解にともなって代謝熱が発生し、装置内の温度が上昇したため、本実施例では装置内温度を次のように制御した。コンポスト化開始から3日間は30℃とした。3日間経過後、リボンヒータを加熱して昇温速度2.5℃/hで装置内温度を60℃まで上昇させた。残りの7日間は微生物による発熱と通気流量の調整により、60℃に制御した。なお、好気条件を維持するために、装置底部から最小通気量である45L/hで通気した。コンポスト化後半において、通気流量が最小通気量45L/hであるにもかかわらず装置内温度が60℃を下回った場合には、リボンヒータで加熱して60℃を維持させた。
【0046】
コンポスト化過程における均一な有機物分解のために、コンポスト化期間中は1日に1度、装置内部のコンポスト混合原料を混合攪拌する切り返しの操作をおこなった。切り返し時には、コンポストが乾き過ぎないように、適宜蒸留水を添加した。切り返し時には、物理化学的及び生物学的な分析のために装置からコンポスト試料を約15gずつ採取した。また、コンポスト化開始3日後には、消石灰を用いてコンポスト混合原料のpHを7〜8付近に調整した。その後は必要に応じて消石灰を加えることで、pHを微生物にとって好ましい弱アルカリ性の8付近に調整した。
【0047】
装置から回収したコンポスト試料を用いてpH、含水率、フラン化合物である5−HMF及びフルフラールの濃度を測定した。また、コンポスト化に伴って生成した炭酸ガス量を測定し、単位時間あたりの炭酸ガス発生速度を求めた。これらの結果を
図1に示す。横軸はコンポスト化開始後のコンポスト化期間(日)を示している。Run AはコンポストAを種菌としたコンポスト混合原料に関する結果を示しており、Run Bは、コンポストBを種菌としたコンポスト混合原料に関する結果を示している。
【0048】
図1に示す炭酸ガス発生速度をみると、Run Aではコンポスト化開始3日後に小さなピークを示し、そのあと一旦減少するが、4日目以降は上昇しその後は高い値を保っている。このことより、Run A、すなわち、コンポストAを種菌として用いた試験区ではコンポスト化初期段階で活発な有機物分解が始まっていることが示された。一方、コンポストBを種菌として用いたRun Bでは、炭酸ガス発生が遅れ、コンポスト化後半以外では炭酸ガス発生速度がきわめて低い値となっている。これらの結果から、亜臨界水処理された食品廃棄物をコンポスト化するにあたっては、有機物分解は接種した種菌に強く依存することがわかった。また、
図1に示すように、コンポスト混合原料のpHは、Run Aではコンポスト化開始3日後に7〜8に調整したが、その後はpHを調整しなくても、コンポスト化期間中、ほぼ弱アルカリ性を示した。これは有機物の分解、特にタンパク質の分解によってアンモニアが生じたためと考えられた。一方、Run BではpHを弱アルカリ性に保つために、消石灰を毎日、切り返しの度に添加しなければならなかった。これはRun Bでは活発な有機物分解がおこらなかったことを示している。さらに、亜臨界水処理により生成したフラン化合物、すなわち、5−HMFとフルフラールの濃度については、Run AではRun Bに比べて顕著な減少がみられた。このように、コンポストAを種菌としたRun Aでは、Run Bに比べて速やかで活発な有機物分解と亜臨界水処理により生成したフラン化合物の減少が示された。
【0049】
なお、比較試験として亜臨界水処理を行わずに、同じ食品廃棄物からなるコンポスト原料に直接コンポストAまたはコンポストBを種菌として添加し、実施例1と同様の方法でコンポスト化を行った際には、いずれの種菌を用いた場合にも直ちに有機物分解が始まった。また、この場合には、コンポスト原料からはフラン化合物は検出されなかった。
【0050】
これらの結果により、食品廃棄物の亜臨界水処理によりフラン化合物が生成すること、生成したフラン化合物はバイオエタノールの生成等に関わる発酵微生物の活性を阻害するのと同様、コンポスト化に関わる微生物の活性も阻害すること、及び、コンポストAを種菌としたRun Aのコンポスト試料には高いフラン化合物分解能を有する微生物が含まれていることが示唆された。
【0051】
そこで、装置から24時間毎に回収したコンポスト試料中の微生物の解析をおこなった。試料中に含まれる常温性糸状菌(Fungi)、常温性細菌(MB)及び好熱性細菌(TB)の微生物濃度の解析結果を
図2に示す。横軸はコンポスト化期間(日)、縦軸はコンポスト単位乾燥重量あたりの微生物濃度(CFU/g-ds)の対数を示している。各記号のエラーバーは95%信頼区間を表す。Run AはコンポストAを種菌としたコンポスト混合原料に関する結果を示しており、Run Bは、コンポストBを種菌としたコンポスト混合原料に関する結果を示している。
【0052】
図2に示すように、Run Aについては、常温性糸状菌(Fungi)が2日目〜3日目に急激に増加した。この常温性糸状菌の増加のタイミングは、
図1に示すフラン化合物の急激な減少のタイミングとよく一致している。また、常温性糸状菌は4日目以降は減少したが、これは、コンポスト化開始3日間経過後に反応系の温度を60℃に上昇させたことにより生存できなくなったものと考えられる。一方、Run Bではコンポスト化過程を通して常温性糸状菌の増殖は観察されなかった。本コンポスト化の条件で主体的な有機物分解の役割を担う常温性細菌(MB)及び好熱性細菌(TB)については、Run Aでは装置内の温度が60℃に達すると好熱性細菌(TB)が急激に増殖し、最終的には10
8CFU/g−dsもの高濃度に達した。また、Run Aでは高温条件でも常温性細菌(MB)がわずかに増加した。これは、増殖温度範囲が広い常温性細菌が存在したために高温条件下でも増殖できたか、あるいは通気口周辺等の温度が比較的低い場所で常温性細菌が生存したためと考えられた。Run Bでは好熱性細菌の増殖開始がRun Aよりも著しく遅れ、それを反映して炭酸ガス発生速度も8日目付近まで増加しなかった。なお、Run Bでは常温性細菌は再び増殖することはなかった。
【0053】
これらの結果より、Run Aのコンポスト試料に含まれる常温性糸状菌がフラン化合物を分解すること、フラン化合物の減少によって有機物分解を担う好熱性細菌の増殖環境が整えられ、コンポスト化が促進されることが示唆された。そこで以下実施例2において、Run Aのコンポスト試料からフラン分解能を有する糸状菌の単離を試みた。
【0054】
[実施例2]
2.フラン化合物分解微生物の単離
実施例1において、コンポストAを種菌としたコンポスト混合原料のコンポスト化を行った際に、コンポスト化開始3日後に現れた糸状菌の単離を行った。コンポスト化開始3日後に採取したコンポスト試料について、PD寒天培地(栄研化学株式会社製品)を用い、培養温度30℃、培養期間3日間で培養した。なお、常温性細菌の増殖を抑制するために、1mLのクロラムフェニコール溶液(クロラムフェニコール100mgをエタノール1mLに溶解)を1LのPD寒天培地に加えた。培養後のPD寒天培地上には、主に若草色のコロニーが形成されていた。これらのコロニーを回収し、5−HMFが8.09mg/g−ds、フルフラールが0.48mg/g−ds含まれ、pHが5.8に調整されたPD液体培地にそれぞれ接種した。培養にともなうフラン化合物の濃度変化をHPLCで測定し、フラン化合物の分解能が最も高かった微生物を選択した。この微生物を「FA13」と名付けた。FA13株について26S rRNA系統解析を行ったところ、新規なペシロマイセス(Paecilomyces)属の微生物であることがわかった。この「FA13」は、特許微生物寄託センターにNITE P−01942として寄託された。
【0055】
[実施例3]
3.単離したフラン化合物分解微生物の固体培養
実施例2で単離したFA13株のフラン化合物分解能を確認するため、コンポスト種菌を添加していないコンポスト混合原料にガンマ線を10kGy/hで3時間照射して滅菌したものにFA13株を接種して固体培養を行った。周囲の環境からの雑菌の汚染を抑止して、再現性のあるデータを得ることができるようにするため、培養装置は次のような構成とした。パイレックス(登録商標)ガラス製の円筒(直径45mm×深さ100mm)をリアクタとして用い、円筒の上部と下部には、通気のためのガラス管を挿入したシリコンゴム栓を取り付けた。通気する空気は、最初に孔径0.45μmのメンブレンフィルタを通過させた後、NaOH水溶液を含んだ炭酸ガストラップに導き、リアクタに導入する前にバブラーを通過させて水蒸気で飽和させた。通気速度はリアクタ内部を好気条件に維持するために十分な5.5mL/minを維持した。温度はインキュベータの中で3日間30℃に維持した。ここでは結果を示していないが、対照試験として、FA13株の接種を行わずに上述と同様の条件で培養する試験も行った。培養期間中、リアクタから固体試料を採取し、試料中のFA13株の濃度(CFU/g-ds)、pH及びフラン化合物の濃度を測定した。結果を
図3に示す。横軸は培養期間(日)を示している。
【0056】
図3に示すように、培養期間中のpHは略一定であり、pH5に維持された。また、FA13株の濃度は培養期間の経過とともに増加し、最終的には10
8CFU/g−dsに達した。他方、フラン化合物である5−HMFとフルフラールの濃度は培養期間の経過にともなって減少し、特にFA13株が急激に増加した培養開始1日〜2日後に大きく減少した。これらの結果より、FA13株がコンポスト混合原料中のフラン化合物を分解したことがわかった。なお、本実施例における培養開始時点の5−HMFとフルフラールの濃度は、実施例1におけるコンポスト化開始時点の5−HMFとフルフラールの濃度と比べるとやや低い値となっているが(
図1参照)、これは亜臨界水処理されたコンポスト原料をガンマ線照射によって滅菌する過程で、フラン化合物の一部が分解されたためと考えられる。
【0057】
[実施例4]
4.フラン化合物分解微生物(FA13)を接種したコンポスト化
実施例1のコンポストBをコンポスト種菌として用いたコンポスト混合原料を準備した。このコンポスト混合原料について、実施例2で単離したFA13株を接種した試験区(Run I)とFA13株の接種を行わない対照区(Run II)のコンポスト化を行った。コンポスト化期間は10日間とした。Run IにおけるFA13株の接種濃度は、コンポスト混合原料の乾燥重量当たり、10
5CFU/g−dsとした。いずれの試験も、その開始時には、コンポスト混合原料のpHは5.0に調整し、蒸留水を加えることでコンポスト混合原料の含水率を50%とした。また、コンポスト化開始3日後には、消石灰を用いてコンポスト混合原料のpHを7〜8付近に調整した。
【0058】
コンポスト化には実施例3で用いたリアクタを使用し、通気方法も実施例3と同様とした。コンポスト混合原料をリアクタに入れ、リアクタ本体を温度制御のためにインキュベータ中に設置した。コンポスト化の温度は最初の3日間は30℃、その後、昇温速度2.5℃/hで60℃まで上昇させ、残りの7日間は60℃に維持した。リアクタからの排出ガスは5Lのポリビニルフルオライド製テドラーバッグ(近江オドエアーサービス株式会社)に回収した。テドラーバッグは24時間ごとに交換して、収集されたガスの体積を測定するとともに、炭酸ガス濃度を北川式ガス検知管(光明理化学工業株式会社)で定量し、24時間毎の炭酸ガス発生量を計算した。コンポスト化過程における有機物の均一な分解のために、コンポスト化期間中は24時間毎に滅菌されたスパチュラでコンポスト混合原料を混合攪拌する切り返しを行った。切り返し後、コンポスト試料を採取し、pH及びフラン化合物の濃度の測定、並びにコンポスト試料中に含まれる微生物の解析を行った。これらの結果を
図4及び
図5に示す。横軸はコンポスト化期間(日)を示している。
【0059】
図4では、Run I(FA13株接種あり)、Run II(FA13株接種なし)のコンポスト化における、温度と炭酸ガス発生速度、pH、フラン化合物の濃度の経時変化を示している。FA13株を接種したRun Iについての結果をみると、フラン化合物は迅速に分解され、炭酸ガス発生速度はコンポスト化の初期段階から大きくなり、pHは消石灰を添加して調整しなくても弱アルカリ性を示した。他方、FA13株を接種しなかったRun IIについての結果をみると、フラン化合物の濃度については、時間の経過と共にゆるやかな濃度の低下はみられたが、Run Iのような迅速な分解はみられなかった。また、炭酸ガス発生速度はRun Iに比べて極めて小さく、pHについては毎日消石灰を加えてpHを調整したため、pHの値はジグザグに変化した。このように、FA13株を接種したRun Iと接種しないRun IIの間で明らかな違いが観察された。以上の結果、FA13株の接種は亜臨界水処理によって生じた阻害物質、つまりフラン化合物の分解とコンポスト化の促進に効果的であることが確かめられた。
【0060】
図5では、Run IとRun IIのコンポスト試料中の経時的な微生物の濃度の変化を示している。横軸はコンポスト化期間(日)、縦軸はコンポスト単位乾燥重量あたりの微生物濃度(CFU/g-ds)の対数を示している。FA13株を接種したRun IではFA13がコンポスト化の初期段階で増加し、10
7CFU/g−dsの高濃度に達した。なお、本実施例のRun Iでは、常温性糸状菌の中でもFA13が圧倒的に優勢であることが寒天培地上のコロニーの観察から確認されたため、常温性糸状菌濃度をFA13濃度として示した。FA13株のコロニーは若草色をしており、きわめて特徴的であるため、寒天培地上での識別が可能である。FA13は反応系の温度が60℃に上昇すると減少したが、代わりに好熱性細菌(TB)は10
8CFU/g−dsをこえる非常に高い濃度にまで増殖した。また、常温性細菌(MB)はコンポスト化期間全般を通して一定値に保たれたことから、この常温性細菌は芽胞として存在することで、高い熱耐性を獲得していた可能性が考えられた。他方、FA13を接種しなかったRun IIではFA13やその他の常温性糸状菌は観測されなかった。また、常温性細菌と好熱性細菌は温度が60℃に上昇する4日後まで一定濃度に保たれていたが、4日以降は両方の細菌が減少してしまっていた。
【0061】
このように、単離された新規なFA13株を亜臨界水処理されたコンポスト混合原料に接種することにより、亜臨界水処理によって生じたフラン化合物がすみやかに分解され、コンポスト化を促進させる微生物が活発に増殖した結果、迅速なコンポスト化が可能となったことが示された。一般的に、単離した微生物をコンポスト等に接種しても、接種する前からそこに存在していた微生物との競合が困難であるため、接種された菌による効果は得られ難いとされている。しかしながら、亜臨界水処理されたコンポスト混合原料中には、他の微生物の活動を阻害するような物質、すなわち、亜臨界水処理によって生じたフラン化合物が含まれていた。それゆえ、他の微生物はフラン化合物が存在するうちは増殖することができない。他方、FA13株はフラン化合物の存在下でも活発に増殖することができ、フラン化合物を分解できるという特徴がある。それゆえ、FA13株はフラン化合物が存在するうちは他の微生物と競合することがなく、コンポスト混合原料中で他の微生物に打ち勝って増殖し優勢となった結果、フラン化合物を有効に分解するという効果を示すことができたものと考えられた。
【0062】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含まれるものである。