特許第6366188号(P6366188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6366188筋萎縮性側索硬化症および/または前頭側頭葉変性症のモデルマウス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366188
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】筋萎縮性側索硬化症および/または前頭側頭葉変性症のモデルマウス
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20180723BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20180723BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20180723BHJP
【FI】
   A01K67/027ZNA
   C12N15/63 Z
   !C07K14/47
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-518720(P2014-518720)
(86)(22)【出願日】2013年5月30日
(86)【国際出願番号】JP2013065029
(87)【国際公開番号】WO2013180214
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2016年5月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-124947(P2012-124947)
(32)【優先日】2012年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-168001(P2012-168001)
(32)【優先日】2012年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岡野 栄之
(72)【発明者】
【氏名】岡野 ジェイムス 洋尚
(72)【発明者】
【氏名】宮内 央子
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 今野 卓哉,他,ALS10(遺伝性ALS-TDP)の臨床と病理,Clinical Neuroscience,2011年 9月 1日,Vol. 29 No. 9,p. 1019-1021
【文献】 漆谷 真,ALS免疫療法の展望,臨床神経学,2009年,49巻11号,p. 818-820
【文献】 山中 宏二,ALSにおけるグリア関連病態,臨床神経,2011年,51巻11号,p. 1192-1194
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンがトレオニンに置換された変異タンパク質、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンがシステインに置換された変異タンパク質の発現が、内在性TDP−43遺伝子プロモーターによって制御されている、筋萎縮性側索硬化症の非ヒトモデル脊椎動物。
【請求項2】
内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンがトレオニンに置換された変異タンパク質、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンがシステインに置換された変異タンパク質の発現が、内在性TDP−43遺伝子プロモーターによって制御されている、前頭側頭葉変性症の非ヒトモデル脊椎動物。
【請求項3】
内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、外来性DNAによって、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンがトレオニンに置換した変異、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンがシステインに置換した変異を有する、請求項1または2に記載の非ヒトモデル脊椎動物。
【請求項4】
ヒトTDP−43遺伝子のノックインマウスである、請求項1〜のいずれか1項に記載の非ヒトモデル脊椎動物。
【請求項5】
筋萎縮性側索硬化症モデル動物を作製する方法であって、
脊椎動物(ただし、ヒトを除く)の内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンがトレオニンに置換された変異タンパク質、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンがシステインに置換された変異タンパク質の発現が、内在性TDP−43遺伝子プロモーターによって制御されるように、前記脊椎動物に変異を起こさせる工程を含む方法。
【請求項6】
前記脊椎動物の内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、外来性DNAを用いて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンをトレオニンに置換する工程、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンをシステインに置換する工程、によって、前記脊椎動物に変異を起こさせることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記脊椎動物の内在性TDP−43遺伝子又はその一部を、外来性ヒトTDP−43遺伝子又はその一部と置換することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前頭側頭葉変性症モデルマウスを作製する方法であって、
脊椎動物(ただし、ヒトを除く)の内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンがトレオニンに置換された変異タンパク質、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンがシステインに置換された変異タンパク質の発現が、内在性TDP−43遺伝子プロモーターによって制御されるように、前記脊椎動物に変異を起こさせる工程を含む方法。
【請求項9】
前記脊椎動物の内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、外来性DNAを用いて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンをトレオニンに置換する工程、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンをシステインに置換する工程、によって、前記脊椎動物に変異を起こさせることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記脊椎動物の内在性TDP−43遺伝子又はその一部を、外来性ヒトTDP−43遺伝子又はその一部と置換することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋萎縮性側索硬化症および/または前頭側頭葉変性症のモデルマウスに関する。
【背景技術】
【0002】
TAR DNA-binding protein 43kD (TDP−43)は、不均一核内リボ核酸タンパク質(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein; hnRNP)の一種であり、mRNAや他のhnRNPと結合し、mRNAの安定化、hnRNAの選択的スプライシング、転写調節などに関与する。最近、TDP−43が、前頭側頭葉変性症(FTLD)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の変性部位に出現するユビキチン陽性封入体の構成因子であることが明らかになった(M.Neumann et al. 2006 vol.314 p.130-133)。その後、家族性ALSの病因遺伝子として、多数のTDP−43突然変異が同定された(J.Sreedharan et al. 2008 vol.319 p.1668-1672;E.Lee wt al. 2012 vol.13 p.38-50)。
【0003】
そこで、ヒトで同定された変異を模して、変異型TDP−43トランスジェニックマウスや変異型TDP−43(Q343R)ノックインマウス等が、TDP−43を利用したALSのモデルマウスとして、作製された(科学研究費2009年度研究実績報告書「筋萎縮性側索硬化症とTDP−43:その病理像の全貌と分子病態機序の解明」(研究課題番号20240037、代表者:高橋均))。しかしながら、FTLDやALSと同様な神経症状は出現せず、神経細胞死に至る原因になるような細胞内異常封入体も検出されなかった。この結果より、変異型TDP−43による神経症状の発症のためには、変異に加え、他の要因が必要であると考えられていた(科学研究費2009年度研究実績報告書「筋萎縮性側索硬化症とTDP−43:その病理像の全貌と分子病態機序の解明」(研究課題番号20240037、代表者:高橋均))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ヒト筋萎縮性側索硬化症および/またはヒト前頭側頭葉変性症と同様な症状を有するモデルマウスを作製することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施態様は、内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンがトレオニンに置換された変異タンパク質(配列番号2)、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンがシステインに置換された変異タンパク質(配列番号3)の発現が、内在性TDP−43遺伝子プロモーターによって制御されている脊椎動物(ただし、ヒトを除く)である。当該脊椎動物は、内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、外来性DNAによって、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンがトレオニンに置換した変異、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンがシステインに置換した変異を有してもよい。当該脊椎動物は、筋萎縮性側索硬化症モデル動物または前頭側頭葉変性症のモデル動物であってもよく、ヒトTDP−43遺伝子のノックインマウスであってもよい。
【0006】
本発明のさらなる一実施態様は、前頭側頭葉変性症モデル動物または筋萎縮性側索硬化症モデル動物を作製する方法であって、脊椎動物(ただし、ヒトを除く)の内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンがトレオニンに置換された変異タンパク質、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンがシステインに置換された変異タンパク質の発現が、内在性TDP−43遺伝子プロモーターによって制御されるように、前記脊椎動物に変異を起こさせる工程を含む。当該方法において、前記脊椎動物の内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、外来性DNAを用いて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンをトレオニンに置換する工程、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンをシステインに置換する工程、によって、前記脊椎動物に変異を起こさせてもよい。また、当該方法において、前記脊椎動物の内在性TDP−43遺伝子又はその一部を、外来性ヒトTDP−43遺伝子又はその一部と置換してもよい。
【0007】
==関連文献とのクロスリファレンス==
本出願は、2012年5月31日付で出願した日本国特許出願2012−124947、及び2012年7月30日付で出願した日本国特許出願2012−168001に基づく優先権を主張するものであり、当該基礎出願を引用することにより、本明細書に含めるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明による一実施例において、変異型TDP−43(G348C)を一過的にHeLa細胞に発現させたときに生じる異常封入体の様々な観察像である。
図2】本発明による一実施例において、変異型TDP−43(G348C)を一過的にHeLa細胞に発現させたときに生じるアポトーシス観察像を時系列に示したものである。
図3】本発明による一実施例において、変異型TDP−43(G348C)を一過的にラット脳神経細胞に発現させたときに生じる異常封入体の観察像である。白く光っているのが、Venusによる蛍光シグナルである。そして、中央にある神経細胞の細胞質に異常封入体が観察される。
図4】本発明による一実施例における、変異型TDP−43ノックインベクターの構成(Targeting vector)、ノックイン前の内在性TDP−43遺伝子の構成(Tardbp genome)、及びノックイン後の内在性TDP−43遺伝子の構成を示す。
図5】本発明による一実施例において、野生型マウス及び変異型TDP−43ノックインマウスの中枢神経における野性型または変異型TDP−43の発現を示したデータである。なお、<G>は変異型TDP−43(G348C)ノックインマウス、<A>は変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスを示す。
図6】本発明による一実施例において、野生型マウス及び変異型TDP−43ノックインマウスの体重を生後14ヶ月に至るまで測定し、その平均体重の推移を示したグラフである。
図7】本発明による一実施例において、変異型TDP−43ノックインマウスの上位運動ニューロンの障害による行動異常を示した図である。
図8】本発明による一実施例において、変異型TDP−43ノックインマウスの行動異常(四肢反射と振戦)を5段階評価し、野生型マウスの評価と共に、各個体別に、時間経過を追って作製した図である。なお、<G>は変異型TDP−43(G348C)ノックインマウス、<A>は変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスを示す。
図9】本発明による一実施例において、時間経過を追って変異型TDP−43ノックインマウスの行動異常(振戦、握力および四肢反射)を評価し、各個体別にその評価を、野生型マウスの評価と共に示した図である。なお、<G>は変異型TDP−43(G348C)ノックインマウス、<A>は変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスを示す。xは死亡したため、測定できなかったことを示す。
図10】本発明による一実施例において、生後4カ月の変異型TDP−43(G348C)ノックインマウスの筋電図を測定した結果において、MUP(Moter unit potential)の時間延長が見られた筋電図(A)、異常筋電図(B)、MUPが正常時間内に終了した筋電図(C)を示す図である。
図11】本発明による一実施例において、生後5ヶ月の変異ノックインマウスの脳の組織切片で、Venusからの蛍光像を蛍光顕微鏡で観察した写真である。矢印は封入体からの蛍光シグナルを示す。
図12】本発明による一実施例において、ホームケージ活動性試験におけるノックインマウス(■)および野生型マウス(●)の水平方向への行動量の推移を示す図である。
図13】本発明による一実施例において、オープンフィールド試験における、ノックインマウス(右バー)および野生型マウス(左バー)の壁側に滞在する時間と中心範囲に滞在する時間を示す図である。
図14】本発明による一実施例において、新奇物体認識試験における、ノックインマウス(右バー)および野生型マウス(左バー)の新奇物の近くに滞在する時間を示す図である。
図15】本発明による一実施例において、3チャンバー試験における、ノックインマウス(右バー)および野生型マウス(左バー)の、他のマウスがいる部屋に滞在した時間(stranger-near)と、他のマウスがいない部屋に滞在した時間(empty-near)を示す図である。
図16】本発明による一実施例において、8方向放射状迷路試験における、ノックインマウス(■)および野生型マウス(●)の、8本のアーム全ての餌を食べ終えるまでの時間、既に餌を食べたアームに浸入してしまった回数(作業記憶エラー)、およびアームへの総浸入回数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、M. R. Green & J. Sambrook (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (4th edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2012); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0010】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0011】
==筋萎縮性側索硬化症および/または前頭側頭葉変性症のモデル動物の作製方法==
筋萎縮性側索硬化症および/または前頭側頭葉変性症と同様な症状を有するモデル動物を作製する方法には、脊椎動物の内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンがトレオニンに置換された変異タンパク質、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンがシステインに置換された変異タンパク質の発現が、内在性TDP−43遺伝子プロモーターによって制御されるように、前記脊椎動物に変異を起こさせる工程を含む。
【0012】
TDP−43遺伝子は、ヒト(Gene ID: 23435)、マウス(Gene ID: 230908)、キイロショウジョウバエ(Gene ID: 37781)などで同定されている遺伝子であって、脊椎動物には広く存在する。従って、用いる脊椎動物は、特に限定されないが、ヒト以外の霊長類、またはげっ歯類であることが好ましく、マーモセット、マウスまたはラットであることが特に好ましい。その脊椎動物の内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルでは、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸がアラニンであるか、配列番号1の348番目に対応するアミノ酸がグリシンである。なお、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸は、その脊椎動物においては、必ずしも382番目である必要はなく、配列番号1の382番目に対応すれば、つまり、配列番号1の382番目周辺のアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列の中で、配列番号1の382番目に相当するアミノ酸であれば良い。これは、配列番号1の348番目に対応するアミノ酸についても同様である。
【0013】
筋萎縮性側索硬化症および/または前頭側頭葉変性症のモデル動物を作製するには、例えば、forward geneticsを利用し、脊椎動物に変異源を与え、多数の変異体の中から、このアラニンまたはグリシンを、それぞれトレオニンまたはシステインに変異した個体を選択しても良いが、reverse geneticsを利用し、外来性DNAを用いて、このアラニンまたはグリシンを、それぞれトレオニンまたはシステインに置換してもよい。なお、アミノ酸を置換する場合、変異タンパク質の発現が、内在性TDP−43遺伝子プロモーターによって制御され、その変異タンパク質の効果が生じる限り、他に外来DNAの挿入等があっても良い。以下にアミノ酸の置換方法の一例を示すが、置換方法は、この例に限定されるものではない。
【0014】
まず、公知のin vitro mutagenesis法を用いて、単離されたTDP−43遺伝子またはcDNAにおいて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンをトレオニンに置換するか、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンをシステインに置換する。必要であれば、タグをコードするDNAをin frameで結合させ、変異TDP−43との融合タンパクが発現するようにする。あるいは、変異TDP−43遺伝子またはcDNAとタグをコードする遺伝子との間に、IRES配列(internal ribosomal entry site;リボソーム内部進入部位)を挿入し、2つのタンパク質が別々に発現するようにしてもよい。
【0015】
ここで、TDP−43遺伝子またはcDNAの由来は特に限定されないが、脊椎動物TDP−43遺伝子またはcDNAであることが好ましく、ヒトTDP−43遺伝子またはcDNAであることがより好ましい。また、タグは特に限定されず、Hisタグ、Mycタグなどのオリゴペプチド、GFP、EGFPなどの蛍光タンパク質、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼなどの酵素などが例示できる。融合タンパク質にする場合は、オリゴペプチドまたは蛍光タンパク質が、IRES配列を用いる場合は、蛍光タンパク質または酵素タンパク質が好ましい。
【0016】
こうして作成したノックイン用DNAを、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞に導入し、ノックイン用DNAが内在性TDP−43遺伝子と置換された細胞を選択する。得られた細胞では、内在性TDP−43遺伝子の一方のアレルにおいて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンがトレオニンに置換された変異タンパク質、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンがシステインに置換された変異タンパク質の発現が、内在性TDP−43遺伝子プロモーターによって制御される。
【0017】
その後、得られた細胞を用いてキメラ動物を作製し、多能性幹細胞が生殖系列に入ったキメラ動物から、変異TDP−43遺伝子がノックインされた子孫を得ることができる。あるいは、ノックイン用DNAを、受精卵に注入し、内在性TDP−43遺伝子と置換された個体を選択し、選ばれた個体を成体まで育てることで、ノックイン動物を作製することもできる。これらのノックイン動物は、変異TDP−43遺伝子のヘテロ接合であるが、導入した変異は優性変異であるので、これらのヘテロ接合体を、筋萎縮性側索硬化症および/または前頭側頭葉変性症のモデル動物として用いることができる。ヘテロ接合体の雌雄を交配させることによって、ホモ接合体も得ることができる。
【0018】
==筋萎縮性側索硬化症および/または前頭側頭葉変性症のモデル動物==
上述した方法によって作製された脊椎動物は、内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンがトレオニンに置換された変異タンパク質、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンがシステインに置換された変異タンパク質の発現が、内在性TDP−43遺伝子プロモーターによって制御されている。この変異脊椎動物は、内在性TDP−43遺伝子の少なくとも一方のアレルにおいて、外来性DNAによって、配列番号1の382番目に対応するアミノ酸のアラニンがトレオニンに置換した変異、または配列番号1の348番目に対応するアミノ酸のグリシンがシステインに置換した変異を有する脊椎動物であってもよい。なお、変異脊椎動物は、変異タンパク質の発現が、内在性TDP−43遺伝子プロモーターによって制御され、その変異タンパク質の効果が生じる限り、他に外来DNAの挿入等があっても良い。
【0019】
これらの変異は優性変異であるので、変異脊椎動物は、内在性TDP−43遺伝子の一方のアレルにおいて置換が生じたヘテロ接合でもよいが、両方のアレルにおいて置換が生じたホモ接合でもよい。
【0020】
なお、内在性TDP−43遺伝子は、外来性ヒトTDP−43遺伝子と置換されていることが好ましい。
【0021】
この変異脊椎動物は、生後、振戦(ふるえ)や四肢異常反射のような、異常な神経症状を呈する。また、握力が低下し、ものを掴む動作が困難になる。脊髄や脳の中枢神経細胞では、TDP−43の細胞内異常封入体が生じる。このように、この脊椎動物には、筋萎縮性側索硬化症特有の症状が現れるため、筋萎縮性側索硬化症モデル動物として有用である。
【0022】
一方、ヒトFTLD病理所見においても、脳内でTDP−43の細胞内異常封入体が観察されており、この病理学的要素が前頭葉と側頭葉における神経細胞の脱落・減少と、MRIなどの画像診断による脳(前頭葉・側頭葉)の委縮に繋がると考えられている。このように、この脊椎動物には、TDP−43の細胞内異常封入体蓄積という、前頭側頭葉変性症特有の症状が現われ、脳細胞の変性が始まっていることを示しているため、前頭側頭葉変性症モデル動物として有用である。
【実施例】
【0023】
(1)ベクター構築
TDP−43cDNA(Human cDNA clone, FCC-101, TOYOBO Co.,LTD.)(配列番号9)をpBluescriptSK(+)プラスミドベクターのHindIII及びBamHI部位に挿入したプラスミドを用い、下記プライマーを用い、in vitro mutagenesis法(Nuc. Acids Res. 2000 vol.28 E78)によって変異型TDP−43cDNA(G298S、A315T、G348C、N352S、A382T)を作製した。
G298Sプライマー: attgtttcccaaactagctccaccccc(配列番号4)
A315Tプライマー: attaatgctgaacgtaccaaagttc(配列番号5)
G348Cプライマー: attacccgatgggcatgactggttc (配列番号6)
N352Sプライマー: ttggttttggttactacccgattggcc(配列番号7)
A382Tプライマー: tccccaaccaattgttgcaccagaatt(配列番号8)
次に、Venus/pcDNA3 (VenusがpcDNA3ベクターのBamHIとEcoRI部位に挿入されているプラスミド)のHindIII及びKpnI部位へ、同じ酵素で切断した変異型TDP−43cDNAを挿入した。このようにして、変異型TDP−43に蛍光蛋白質Venusを融合させた発現ベクターを作製した。
【0024】
(2)封入体形成
HeLa細胞に、変異型TDP−43発現ベクターをLipofectamin2000を用いてリポフェクションし、24時間後に共焦点蛍光顕微鏡でVenusの蛍光を観察したところ、細胞質にVenusを含む封入体を持つ細胞の頻度は、変異型TDP−43(G348C)及び変異型TDP−43(A382T)が最も高く、一方、野生型TDP−43の強制発現では封入体は少数しか見られなかった。そこで、変異型TDP−43ノックインマウスを作製するのに、これらの変異型を用いた。なお、以下のいずれの実験でも、変異型TDP−43(G348C)及び変異型TDP−43(A382T)について、同様の実験結果が得られたが、本明細書では、一例として、変異型TDP−43(G348C)で得られた結果を記載する。
【0025】
図1には、HeLa細胞において、変異型TDP−43で観察された様々な封入体を示す。(A)〜(C)は、細胞質に生じた封入体で、比較的小さく拡散しているもの(A)、中くらいで塊になっているもの(B)、比較的大きな塊になっているもの(C)の一例である。(D)は、核に生じた封入体である。
【0026】
次に、明視野と蛍光の顕微鏡ライブイメージングにより、HeLa細胞の細胞死を検出した。すなわち、図2で示すように、時間とともに変異型TDP−43が核から細胞質に漏出し、封入体を形成するとともに、細胞の形態がつぶれていった。そして、明視野で観察された細胞死の時期と同時に、変異型TDP−43の発現を示す蛍光も薄れていった。これは、細胞内異常封入体形成が、細胞死の原因であることを示している。
【0027】
次に、ラット脳神経細胞を用いて、同様に変異型TDP−43の影響を観察した。まず、妊娠19日目のWistar Ratを麻酔後に頸椎脱臼し、開腹して取り出した胎児から脳を採取し、実体顕微鏡下において海馬を切り出した。採取した海馬を、酵素(Papain及びDnaseI)を含有したPBSに37℃で10分間浸漬し、ガラスピペットにより海馬組織の細胞を分散させた。直径35mmのイメージング用デッシュに海馬から採取した細胞を培養した。ここで培地は2%FBS/MEMにN2及びB27を添加したものを用いた。培養4日目に、変異型TDP−43発現ベクターをリン酸カルシウム法によりラット海馬培養細胞へトランスフェクトしたところ、図3に示すように、やはり、細胞内に異常封入体の形成が観察された。
【0028】
(3)変異型TDP−43ノックインマウスの作製
まず、pBluescriptベクターのXhoI HindIIIの間にNeoカセットが挿入されたベクターをApaI及びXhoIで切断し、変異型TDP−43の発現ベクターから、ApaI及びXhoIで切り出した変異型TDP-Venus-polyAを挿入し、TDP43-Venus-polyA-Neoカセット/pBstSKを作製した。
【0029】
このベクターを鋳型とし、PCRで増幅したDNA断片と、野生型TDP−43遺伝子が挿入されたBAC(bacterial artificial chromosome)ベクターとを大腸菌へエレクトロポレーション法により導入して、相同組み換えを誘発させることにより、ノックインベクターを完成させた。
【0030】
このベクターをES細胞にエレクトロポレーションにて導入し、G418で選択して得たクローンから、相同組換えを起こしたES細胞をスクリーニングして、変異型TDP−43タンパク質の最初のメチオニンからHindIIIまでが内在性TDP−43遺伝子のエクソン2に置換されたクローンを選択した。図4に、ノックインベクターの構成、ノックイン前の内在性TDP−43遺伝子の構成、及びノックイン後の内在性TDP−43遺伝子の構成を示す。
【0031】
このES細胞を用いて、キメラマウスを作製し、生殖系列キメラマウスを選択して、その子孫から変異型TDP−43ノックインマウスを得た。
【0032】
この変異型TDP−43ノックインマウスにおいて、ノックインした変異型TDP−43の発現を調べるため、ウエスタンブロットを行った。すなわち、生後4ヶ月の野生型マウスおよび変異型TDP−43ノックインマウスの脳を摘出し、粗抽出液を調製して、SDS−PAGEによってタンパク質を分離した。PVDFメンブレンにトランスファーした後で、抗TARDBPポリクローナル抗体(Proteintech社製、型番:12892−1−AP)を用いて、変異型TDP−43のシグナルを得た。その結果を図5に示す。
【0033】
野生型マウスでは、野性型TDP−43を示すシグナルが検出され、変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスでは、野性型TDP−43および変異型TDP−43の発現を示すシグナルが検出された。ここで、野生型マウスの野生型TDP−43の発現量と、変異型マウスの野生型TDP−43および変異型TDP−43の合計発現量とがほぼ同程度だった。なお、変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスでは、これらのシグナルの他に、分子量の小さいシグナルも弱く検出されたが、一般に、変異タンパク質は分解されやすいと考えられており、この余分なシグナルは変異型TDP−43(A382T)が部分的に分解されたものと考えられる。
【0034】
このように、変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスでは、ノックインした変異遺伝子が、野生型マウスと同様な制御を受けていることが確認された。
【0035】
(4)変異型TDP−43ノックインマウスの体重計測
野生型マウス(雄7匹、雌9匹)、変異型TDP−43(G348C)ノックインマウス(雄6匹、雌3匹)、変異型TDP−43(A382T)ノックインマウス(雄4匹、雌5匹)について、生後すぐから、生後14ヶ月に至るまで、体重を測定し、その平均体重を算出し、その平均体重の推移をグラフ化した(図6)。
図6で示すように、両方のノックインマウスは、野生型に比べて体重の増加が遅く、14ヶ月後でも、野生型マウスより、有意に体重が軽かった。
【0036】
(5)変異型TDP−43ノックインマウスの行動解析
野生型マウスと変異型TDP−43ノックインマウスに対し、ケージ中のマウスの行動を観察すると、野生型マウスは、ケージの網を掴みながら自由にケージ内を動きまわるが、変異型TDP−43ノックインマウスは、両方とも、握力が低下しており、ケージの網を掴んでも、自分自身の体重を支えきれないことから、ケージ内での動きが緩慢になっていた。なお、この異常は、下位運動ニューロンの障害によると考えられる。
【0037】
次に、マウスの尾を持って、下にぶらさげると、正常マウスは、下肢を広げて突っ張るようにして、体全体のバランスを保とうとするが、異常マウスは、両方とも、下肢を縮めてしまって、体のバランスを保つことができない(図7)。この異常は、16匹の野生型マウスでは観察されなかったが、変異マウスでは、生後6ヶ月位から出現し始め、変異型TDP−43(G348C)ノックインマウスで10匹中6匹、変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスで9匹中6匹に持続的に生じた。なお、この異常は、上位運動ニューロンの障害によると考えられる。
【0038】
さらに、マウスが、1−2分間ケージ内を自由に移動するところを観察し、振戦が生じるかどうか調べたところ、16匹の野生型マウスでは観察されなかったが、変異マウスでは、変異型TDP−43(G348C)ノックインマウスで10匹中8匹、変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスで9匹中7匹に持続的に生じた。
【0039】
これらの行動異常を定量化するため、四肢反射と振戦を点数化して6ヶ月齢から10ヶ月齢まで毎週、5段階評価(0〜4:異常反射や振戦がみられる肢の本数をそのまま点数とした)を行った。そして、各個体別に、時間経過を追って、評価を図にした(図8)。図8からは、変異マウスの振戦が、生後6ヶ月から10ヶ月までの間に、徐々に悪化していることがわかる。また、四肢反射は、生後6ヶ月後において、多くの変異マウスで、すでに異常が観察された。
【0040】
さらに、観察期間を延長し、変異型TDP−43(G348C)ノックインマウスおよび変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスの振戦、握力および四肢反射について、生後33週から78週まで15週ごとに評価を行った。振戦については、振戦が見られる場合は「0」、見られない場合は「1」とした。握力については、4本の肢でケージの網にぶら下がることができる場合は「0」、4本の肢でケージの網にぶら下がることができるがすぐに落下してしまう場合は「1」、2本の前肢でケージの網を握ることはできるが4本の肢でケージの網にぶら下がることが出来ない場合は「2」、肢でケージの網を握ることができない場合は「3」とした。四肢反射については異常反射や振戦がみられる肢の本数をそのまま点数とした。そして、各個体別に、時間経過を追って、振戦、握力、および四肢反射について評価を図に表した(図9)。
【0041】
図9に示されるように、ALSを示唆する運動機能障害である、振戦、握力の低下および異常反射のうち少なくとも2つの症状が、生後33週から78週までの間に、全てのマウスにおいて現れた。
【0042】
このように、変異マウスは、ALSに類似した異常を有するため、ALSモデル動物として有用である。
【0043】
(6)変異型TDP−43ノックインマウスの筋電図測定
生後4カ月の変異型TDP−43(G348C)ノックインマウスにおいて、筋電図を測定し、その結果を図10に示した。
変異ノックインマウスでは、motor unit potential(MUP)が基線に戻るまでの時間が異常に延長したり(図10A)、下位運動神経の障害で起こるfibrilation potentialと見られる微弱な異常波形が出現したり(図10B)した。なお、比較のため、MUPが正常時間内に終了した時の筋電図を図10Cに示した。
このように、変異型TDP−43(G348C)ノックインマウスでは、運動神経障害が、筋電図波形にも現れた。
(7)変異型TDP−43ノックインマウスの脳細胞の解析
生後5ヶ月の変異型TDP−43ノックインマウスを4%ホルムアルデヒド溶液で還流固定後、脳を採取し、再度、4%ホルムアルデヒド溶液で1晩固定後、Sucroseに置換した。その後、リトラトームで厚さ30マイクロメートルの凍結切片を作製した。
この切片において、Venusからの蛍光像を蛍光顕微鏡で観察したところ、図11に示すように、変異型TDP−43は、核に局在する他に、細胞質に封入体を形成した。
このように、変異型TDP−43ノックインマウスは、ヒトALSと同様の症状を示すALSモデル動物およびヒトFTLDと同様の症状を示すFTLDモデル動物として有用である。
【0044】
(8)変異型TDP−43ノックインマウスの高次脳機能解析
以下のように、生後5ヶ月から9ヶ月の変異型TDP−43のノックインマウスの高次脳機能解析を行った。
【0045】
==ホームケージ活動性試験==
まず、変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスを用いてホームケージ活動性試験を行い、このマウスの環境への適応性を評価した。
【0046】
12匹の変異型TDP−43(A382T)ノックインマウス、および、11匹の野性型マウスの、ホームゲージに戻した直後から360分経過するまでの水平方向の行動量を、行動解析装置(有限会社メルクエスト製、SCANET)を用いて調べた。装置内の赤外線をマウスが遮る回数(カウント数)を、30分毎に集計した。結果を図12に示す(■変異型マウス;●野生型マウス)。
【0047】
図12のグラフからわかるように、変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスは、ホームケージへ戻してから240分経過するまで、野生型と比較して行動量が有意に多く(p値=0.0083)、その後は、両方のマウスの行動量には有意差が見られなかった。このように、変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスは、野性型マウスと比較して、環境に適応するのが遅い。
【0048】
==オープンフィールド試験==
次に、オープンフィールド試験を行い、変異型TDP−43ノックインマウスの新規環境に対する不安耐性を評価した。
【0049】
マウスを50cm×50cmのフィールドに置き、壁側に滞在する時間と、フィールドの中心範囲(18cm×18cm)に滞在する時間を計測した。試験には、11匹の変異型TDP−43(G348C)ノックインマウス、および、11匹の野性型マウスを用いた。結果を図13に示す(左バー 野生型マウス;右バー 変異型マウス)。
【0050】
図13のグラフからわかるように、変異型TDP−43(G348C)ノックインマウスは、野性型よりも、中心範囲に滞在する時間が有意に長かった。このように、変異型TDP−43(G348C)ノックインマウスは、新規環境において、不安の程度が低く、不安を感じにくい傾向がある。変異型TDP−43(A382T)ノックインマウスについてもオープンフィールド試験を行ったところ、同様の傾向であった。
【0051】
==新奇物体認識試験==
次に、新奇物体認識試験を行い、変異型TDP−43ノックインマウスの新奇物に対する不安耐性についての評価を行った。
【0052】
新奇物としての物体を設置した装置内にマウスを入れ、その物体の近くに滞在する時間を計測した。試験には、11匹の変異型TDP−43(G348C)ノックインマウス、12匹の変異型TDP−43(A348T)ノックインマウス、および、11匹の野性型マウスを用いた。結果を図14に示す(左バー 野生型マウス;右バー 変異型マウス)。
【0053】
図14のグラフからわかるように、変異型TDP−43(G348C)ノックインマウスは、野性型マウスと比較して新奇物の近くに滞在する時間が有意に長かった(p値=0.1921)。また、変異型TDP−43(A348T)ノックインマウスも、野性型マウスと比較して新奇物の近くに滞在する時間が有意に長かった(p値=0.1728)。このように、変異型TDP−43(G348C)ノックインマウスおよび変異型TDP−43(A348T)ノックインマウスのいずれも、野性型と比較して、新奇物に対して不安の程度が低く不安を感じにくい。
【0054】
==3チャンバー試験==
次に、3チャンバー試験を行い、変異型TDP−43ノックインマウスの社会性を評価をした。
【0055】
3部屋に自由に出入りできる環境にしたケージを用意し、この3部屋のうち1部屋に、被験体とは今まで同居したことのないマウスを入れた。そして、この装置に入れた被験体がその部屋に滞在する時間(stranger-near)および別の部屋に滞在する時間(empty-near)を測定した。試験には被験体として、11匹の変異型TDP−43(G348C)ノックインマウス、11匹の変異型TDP−43(A348T)ノックインマウス、および、11〜12匹の野性型マウスを用いた。結果を図15に示す(左バー 野生型マウス;右バー 変異型マウス)。
【0056】
図15のグラフからわかるように、変異型TDP−43(G348C)ノックインマウスが、他のマウスのいる部屋に滞在する時間は、野性型マウスの滞在時間と比較して有意に短かった(p値=0.0198)。変異型TDP−43(A348T)ノックインマウスについても同様の評価を行ったところ、今まで同居したことのないマウスのいる部屋に滞在する時間は、野性型マウスと比較して短い傾向であった。このことから、変異型TDP−43ノックインマウスの社会性は野生型マウスと比較して低い傾向であることがわかった。
【0057】
==8方向放射状迷路試験==
次に、8方向放射状迷路試験を行い、変異型TDP−43ノックインマウスの空間記憶を評価した。
【0058】
放射状に伸びた8本のアームを有する装置を用意し、各アームの先端に餌を配置し、マウスを装置内に入れた。そして、8本のアーム全ての餌を食べ終えるまでの時間、既に餌を食べ終えたアームに浸入した回数(作業記憶エラー回数)、およびアームへの総浸入回数を測定した。この試験は14日間、繰り返し行なった。試験には、11匹の変異型TDP−43(G348C)ノックインマウス、および、11匹の野性型マウスを用いた。結果を図16に示す(■変異型マウス;●野生型マウス)。
【0059】
図16のグラフからわかるように、変異型TDP−43(G348C)ノックインマウスは、野性型マウスと比較して、作業記憶エラーが多かった(p値=0.0039)。また、野性型マウスより8本のアーム全ての餌を食べ終えるまでの時間は短いが(P値=0.0027)、アームへの総浸入回数が多く(p値=0.0077)、過活動であった。
【0060】
このように、生後5ヶ月以降の変異型TDP−43ノックインマウスには、ヒトFTLDを反映していると考えられる高次機能障害がみられ、FTLDモデル動物として有用であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によって、ヒト筋萎縮性側索硬化症および/またはヒト前頭側頭葉変性症と同様な症状を有するモデルマウスを作製することができるようになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]