【文献】
Annual Review 腎臓 2006, p.200-204, 2006.1.25発行, 御手洗哲也他編集, 株式会社中外医学社発行
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の過活動膀胱の予防又は改善剤、頻尿の予防又は改善剤(以下、これらをまとめて「本発明の予防・改善剤」ともいう)、及びATP放出抑制剤は、ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナから選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分とする。
本発明で用いるウンシュウミカン(
Citrus unshiu)は、ミカン科(
Rutaceae)ミカン属(
Citrus)の植物で、食用に供される他、その果皮は生薬としても利用されている。
本発明で用いるフジマメ(
Dolichos lablab、又は
Lablab purpureus)は、マメ科(
Fabaceae)フジマメ属(
Lablab)の植物で、その種子は食用や飼料に用いられる。
本発明で用いるイヌナズナ(
Draba nemorosa、又は
Draba nemorosa L. var.
hebecarpa Ledebour)は、アブラナ科(
Brassicaceae)イヌナズナ属(
Draba)の植物で、その種子は生薬テイレキシとしても知られている。
【0011】
本発明で用いる抽出物は、上記植物の全木、全草、又は任意の部位(根、根茎、幹、枝、茎、葉、樹皮、樹液、樹脂、花、果実、種子、果皮、莢、芽、花穂、心材等)から抽出することが可能である。また、各部位を複数組み合わせて用いてもよい。また、これらの植物を基原植物として得られた生薬を抽出原料として用いてもよい。
なかでも、ウンシュウミカン抽出物を得るには、当該植物の果皮を用いることが好ましい。また、フジマメ抽出物を得るには、当該植物の種子を用いることが好ましい。また、イヌナズナ抽出物を得るには、当該植物の種子を用いることが好ましい。
上記の植物は生のままで抽出に用いてもよく、抽出効率を高めるために、乾燥、細断、粉砕等の処理を施したものを用いることも好ましい。
【0012】
ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナから抽出物を得る方法については特に限定はなく、上記植物を通常の方法で抽出することにより抽出物を得ることができる。具体的には、上記植物を乾燥させた乾燥物、その粉砕物等を圧搾抽出することにより得られる搾汁、水蒸気蒸留物、各種抽出溶剤による粗抽出物、粗抽出物を分配又はカラムクロマトなどの各種クロマトグラフィーなどで精製して得られた抽出物画分などを本発明における抽出物として用いることができる。必要により、これらに更に脱臭、脱色等の処理を施してもよい。
これらの抽出物、水蒸気蒸留物、圧搾物等は、1種単独で、或いは2種以上組み合わせで用いることができる。
【0013】
抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。抽出溶剤の例としては、水;アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール);アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル;ポリエチレングリコール等のポリエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;ピリジン;超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられる。上記溶剤の2種以上を組み合わせた混合物を、抽出溶剤として用いることができる。なかでも、水、アルコール、及び当該アルコールの水溶液から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、水又はエタノール水溶液を用いることがより好ましく、水を用いることがさらに好ましい。
【0014】
抽出条件については特に制限はなく、使用する溶剤に応じた通常の条件を適用できる。例えば、水を用いて抽出する場合、下記条件により浸漬、煎出、浸出、還流抽出、超臨界抽出、超音波抽出又はマイクロ波抽出するのが好ましい。溶剤は、植物1質量部に対して、1質量部以上用いることが好ましく、10質量部以下用いることが好ましい。抽出温度は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、70℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。抽出時間は、数時間以上が好ましく、12時間以上がより好ましく、数週間以下が好ましく、2日間以下がより好ましい。抽出効率を上げる為、併せて攪拌を行ったり、溶剤中でホモジナイズ処理を行ってもよい。また、水蒸気蒸留によって前記抽出物を得ることもできる。
【0015】
上記溶剤で抽出して得られた抽出物はそのまま使用してもよいが、さらに適当な分離手段、例えばゲル濾過、クロマトグラフィー、精密蒸留、活性炭処理等により活性の高い画分を分画して用いることもできる。本発明で用いる植物抽出物は、このようにして得られた各種抽出物、その希釈液、その濃縮液、その精製物又はそれらの乾燥末を包含するものである。
【0016】
本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤には、ウンシュウミカン、フジマメ、イヌナズナの植物抽出物を単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0017】
前述のように、過活動膀胱患者では膀胱伸展時のATP放出量が増大していること、ラットの膀胱にATPを投与すると、排尿筋過活動が誘発され排尿間隔が短縮すること、が報告されている。さらに、ATP受容体(P2X3)のアンタゴニストをラット静脈内へ投与すると、排尿間隔が延長されるとの報告もなされている(J. Chin. Med. Assoc.,2007年,第70巻,p.439-444)。これらの報告から、過活動膀胱患者に見られる膀胱伸展時のATP放出量の増大を抑制することで、過活動膀胱及びその症状である頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁を予防・改善し得ると考えられる。
後記実施例でも示すように、ウンシュウミカン抽出物、フジマメ抽出物、及びイヌナズナ抽出物は、膀胱の伸展刺激による膀胱上皮細胞からのATP放出を抑制する作用を有する。そのため、これら抽出物は、膀胱上皮細胞からのATPの放出を抑制し、過活動膀胱及びその症状である頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁を予防・改善するために使用することができる。
上記使用は、治療的使用(即ち医療行為)であっても非治療的使用(非医療的な行為)であってもよい。また、上記使用の対象は、ヒト、非ヒト動物、又はそれらに由来する検体であり得る。なお、前記「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処理行為を含まない概念である。
【0018】
ウンシュウミカン、フジマメ又はイヌナズナの植物抽出物を有効成分とする過活動膀胱又は頻尿の予防・改善剤、及びATP放出抑制剤は、上記使用の具体的態様の1つであり、治療的用途(医療用途)、非治療用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。具体的には、医薬品、医薬部外品等としての使用することができる他、各種の飲食品、飼料、ペットフード等に有効成分としてこれらの剤を配合することもできる。
本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤は、液状、固形状、乳液状、ペースト状、ゲル状、パウダー状(粉末状)、顆粒状、ペレット状、スティック状等、ヒトや動物に適用されうる各種剤型をとることができる。
また、本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤は、有効成分である上記植物抽出物のみからなるものであってもよいし、効果に影響を与えない範囲で他の成分を含有するものであってもよい。
【0019】
本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤を医薬品、医薬部外品に適用する場合、上記植物抽出物を有効量含有させ、必要により添加剤を配合して各種剤形に調製することができる。例えば、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、腸溶剤、トローチ剤、ドリンク剤等の経口医薬として、又は、注射剤、坐剤、経皮吸収剤、外用剤等といった非経口医薬として調製することができる。これらの形態のうち、好ましい形態は経口医薬である。
種々の剤型に調製するには、添加剤を用いて常法に従って製造すればよい。添加剤は、通常用いられているものを使用することができる。添加剤の例としては、薬学的に許容される賦形剤(ソルビトール、グルコース、乳糖、デキストリン、澱粉等の糖類、炭酸カルシウム等の無機物、結晶セルロース、蒸留水、ゴマ油、とうもろこし油、オリーブ油、菜種油等)、液体担体(蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール等のアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、油性担体(各種の動植物油、白色ワセリン、パラフィン、ロウ類等)、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、崩壊剤、滑沢剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、矯臭剤、細菌抑制剤等が挙げられる。
【0020】
本発明の予防・改善剤、ATP放出抑制剤を飲食品、飼料、ペットフード等に適用する場合、食用又は飲料用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して提供することができる。さらに、前記飲食品は、一般飲食品の他、過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品、栄養機能食品又は特定保健用食品等の機能性飲食品の形態とすることができる。
飲食品の例としては、パン、麺類等に代表される小麦粉加工食品、お粥、炊き込みご飯等の米加工食品、ビスケット、ケーキ、ゼリー、チョコレート、せんべい、アイスクリーム等の菓子類、豆腐、その加工食品等の大豆加工食品、清涼飲料、果汁飲料、乳飲料、炭酸飲料等の飲料類、ヨーグルト、チーズ、バター、牛乳等の乳製品、醤油、ソース、味噌、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、ハム、ベーコン、ソーセージ等の蓄肉、蓄肉加工食品、はんぺん、ちくわ、魚の缶詰等の水産加工食品、調理油ならびにフライ用油等が挙げられる。また、錠剤(タブレット)、カプセル等の錠剤食、濃厚流動食、自然流動食、半消化態栄養食、成分栄養食、ドリンク栄養食等の経口経腸栄養食品、機能性食品等の形態としてもよい。
飼料としては、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。
【0021】
これらの飲食品は、本発明の予防・改善剤又はATP放出抑制剤を含有し、これに食品原料、例えば、甘味剤、着色剤、抗酸化剤、ビタミン類、香料、ミネラル等の添加剤、タンパク質、脂質、糖質、炭水化物、食物繊維等を適宜組み合わせて、常法に従って調製することができる。
【0022】
本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤における前記植物抽出物の配合量は、その使用形態により異なるが、医薬品、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤の場合は、固形分濃度(固形分換算)として0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、100質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。あるいは、0.001〜100質量%が好ましく、0.01〜95質量%がより好ましい。飲食品やペットフード等に配合する場合は、固形分濃度として0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。あるいは、0.001〜50質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。
【0023】
本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤の投与又は摂取量は、個体の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って適宜選択、決定できる。例えば、成人(60kg)の1日の投与又は摂取量としては、前記植物抽出物が固形分換算で、0.001g以上であることが好ましく、また、250g以下であることが好ましい。また、0.001g〜250gがより好ましい。また、本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤は、1日1回〜数回に分け、又は任意の期間及び間隔で摂取・投与され得る。
【0024】
上記医薬品、医薬部外品又は食品の摂取又は投与対象として特に限定されないが、過活動膀胱、及びその主な症状である頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁等の予防、改善、治療を目的とするヒトやヒト以外の哺乳動物が好ましい。なお、摂取又は投与対象には、過活動膀胱の症状が認められるヒトやヒト以外の哺乳動物、及びそのおそれがあるヒトやヒト以外の哺乳動物、その疾患・症状の予防を期待するヒトやヒト以外の哺乳動物も含まれる。
【0025】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の予防又は改善剤、ATP放出抑制剤、製造方法、方法及び使用を開示する。
【0026】
<1>ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分とする、過活動膀胱の予防又は改善剤。
【0027】
<2>ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分とする、頻尿の予防又は改善剤。
<3>ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分とする、尿意切迫感の予防又は改善剤。
<4>ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分とする、切迫性尿失禁の予防又は改善剤。
【0028】
<5>過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善がATP放出抑制によるものである、<1>〜<4>のいずれか1項記載の予防又は改善剤。
<6>前記抽出物の含有量が固形分換算で0.001質量%以上であり、0.01質量%以上が好ましく、100質量%以下であり、95質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい、<1>〜<5>のいずれか1項記載の予防又は改善剤。
<7> 前記抽出物が、前記植物を水で抽出して得られる抽出物である、<1>〜<6>のいずれか1項に記載の予防又は改善剤。
<8> 前記抽出物が、ウンシュウミカンの果皮、フジマメの種子、及びイヌナズナの種子抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、<1>〜<7>のいずれか1項に記載の予防又は改善剤。
【0029】
<9>ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分とする、ATP放出抑制剤。
【0030】
<10>前記抽出物の含有量が固形分換算で0.001質量%以上であり、0.01質量%以上が好ましく、100質量%以下であり、95質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい、<9>項記載のATP放出抑制剤。
<11> 前記抽出物が、前記植物を水で抽出して得られる抽出物である、<9>又は<10>項記載のATP放出抑制剤。
<12> 前記抽出物が、ウンシュウミカンの果皮、フジマメの種子、及びイヌナズナの種子抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、<9>〜<11>のいずれか1項に記載のATP放出抑制剤。
【0031】
<13> ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を、過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善剤として使用する方法。
<14> 過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善剤としての、ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物の使用。
<15> 過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善のための、ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物の非医薬的(非治療的)な使用。
<16> 過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善剤の製造のための、ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物の使用。
<17> 過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善のために用いる、ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物。
<18> ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を投与することを含む、過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善方法。
【0032】
<19>ATPの放出を抑制することで過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁を予防又は改善する、<13>〜<18>項のいずれか記載の抽出物、使用又は方法。
<20>前記予防又は改善剤中の、前記抽出物の含有量が固形分換算で0.001質量%以上であり、0.01質量%以上が好ましく、100質量%以下であり、95質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい、<13>〜<19>項のいずれか記載の抽出物、使用又は方法。
<21> 前記抽出物が、前記植物を水で抽出して得られる抽出物である、<13>〜<20>項のいずれか記載の抽出物、使用又は方法。
<22> 前記抽出物が、ウンシュウミカンの果皮、フジマメの種子、及びイヌナズナの種子抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、<13>〜<21>項のいずれか記載の抽出物、使用又は方法。
<23>前記抽出物を食品又は飲料の形態で適用する、<13>〜<22>項のいずれか記載の抽出物、使用又は方法。
【0033】
<24> ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を、ATP放出抑制剤として使用する方法。
<25> ATP放出抑制剤としての、ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物の使用。
<26> ATP放出の抑制のための、ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物の非医薬的(非治療的)な使用。
<27> ATP放出抑制剤の製造のための、ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物の使用。
<28> ATP放出抑制のために用いる、ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物。
<29> ウンシュウミカン、フジマメ及びイヌナズナからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を投与することを含む、ATP放出の抑制方法。
【0034】
<30>前記ATP放出抑制剤中の、前記抽出物の含有量が固形分換算で0.001質量%以上であり、0.01質量%以上が好ましく、100質量%以下であり、95質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい、<24>〜<29>項のいずれか記載の抽出物、使用又は方法。
<31> 前記抽出物が、前記植物を水で抽出して得られる抽出物である、<24>〜<30>項のいずれか記載の抽出物、使用又は方法。
<32> 前記抽出物が、ウンシュウミカンの果皮、フジマメの種子、及びイヌナズナの種子抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、<24>〜<31>項のいずれか記載の抽出物、使用又は方法。
<33>前記抽出物を食品又は飲料の形態で適用する、<24>〜<32>項のいずれか記載の抽出物、使用又は方法。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
製造例1 ウンシュウミカン抽出物の調整
ウンシュウミカン(
Citrus unshiu)の乾燥果皮(生薬名チンピ、新和物産より入手)40gにイオン交換水400mlを加え、70℃、5時間振とう抽出した。抽出終了後、ろ過にて残渣の分離を行い、ウンシュウミカン抽出液を得た。これに、1/9体積量の99.5%エタノールを加え、濃度10%エタノール水溶液に調製し、ウンシュウミカン抽出物とした。本抽出物の蒸発残分は3.53%であった。
【0037】
製造例2 フジマメ抽出物の調整
フジマメ(
Dolichos lablab)の種子(生薬名:ヘンズ、新和物産より入手)40gにイオン交換水400mlを加え、70℃、6時間振とう抽出した。抽出終了後、ろ過にて残渣の分離を行い、抽出液を得た。これに、1/9体積量の99.5%エタノールを加え、濃度10%エタノール水溶液に調製し、フジマメ抽出物とした。本抽出物の蒸発残分は1.05%であった。
【0038】
製造例3 イヌナズナ抽出物の調整
イヌナズナ(
Draba nemorosa L. var.
hebecarpa Ledebour)の種子(生薬名テイレキシ、新和物産より入手)40gにイオン交換水400mlを加え、70℃、5時間振とう抽出した。抽出終了後、ろ過にて残渣の分離を行い、抽出液を得た。これに、1/9体積量の99.5%エタノールを加え、濃度10%エタノール水溶液に調製し、イヌナズナ抽出物とした。本抽出物の蒸発残分は1.11%であった。
【0039】
実施例1 ATP放出抑制試験
[膀胱上皮細胞]
ヒト膀胱上皮癌細胞であるHT−1376(ATCC社より入手)を使用した。細胞情報を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
[培地]
Earle’s(Invitrogen社製)に、10%FCS(ウシ胎仔血清)、ピルビン酸ナトリウム(0.055g/500mL)、L−グルタミン(0.146g/500mL)を添加したものを使用した。
【0042】
1.低浸透圧刺激によるATP放出
96wellプレートに、4.0×10
4cells/wellとなるようにHT−1376を播種し、上記培地で37℃、5%CO
2条件下で、24時間培養した。培地を吸引除去して、等浸透圧液(組成を表2に示す)で細胞を2回洗浄した。製造例1〜3で調製した各抽出物を下記表3に示す濃度となるよう添加した等浸透圧液を、75μL/well加えて、37℃、5%CO
2環境下で60分インキュベートした。その後、製造例1〜3で調製した各抽出物を下記表3に示す濃度となるよう添加した低浸透圧液(組成を表2に示す)を75μL/well添加し、37℃、5%CO
2環境下で60分インキュベートした。低浸透圧刺激により培地中に放出されたATP量を測定するため、細胞培養液50μLをサンプルとして回収した。
また、等浸透圧液及び低浸透圧液に植物抽出物を添加しない以外は上記と同様にして細胞培養を行い、回収した培養液をコントロールサンプルとした。
【0043】
【表2】
【0044】
2.ATP放出量の測定
回収したサンプル溶液中のATP濃度を、ATP Bioluminescent Assay Kit(SIGMA社製)を用いてルシフェリン・ルシフェラーゼ法により測定した。サンプル溶液と、ATP Bioluminescent Assay Kit中のATP Assay Mix solutionとを等量で混合し、撹拌後にホタルルシフェラーゼ活性を1秒間測定してATP量を測定した。同様に、コントロールサンプル中のATP量を測定した。
ルシフェリン・ルシフェラーゼ法によるATP濃度の測定では、サンプル溶液中に含まれている植物抽出物にクエンチング効果がある場合、ATP濃度が実際より低く測定されてしまう。そこで、下記式(A)により、測定したサンプル中のATP量をATP添加回収率で補正した値を、ATP放出率とした。なお、ATP添加回収率とは、既知ATP量を含有する溶媒に植物抽出物を添加した場合の、該溶媒中における既知ATP量の測定可能割合をいい、式(A)におけるATP添加回収率は、溶媒対照(植物抽出物添加なし)のATP量に対する相対値とした。
式(A)
ATP放出率=植物抽出物添加サンプル中のATP量/{(ATP添加回収率)×(コントロールサンプル中のATP量)}
結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示すように、植物抽出物を添加しないコントロールサンプルでは、等浸透圧から低浸透圧へと浸透圧を変化させて膀胱上皮細胞を伸展させると、ATPの放出が亢進した。一方、ウンシュウミカン、フジマメ、又はイヌナズナ抽出物を添加したサンプルでは、浸透圧を同じように変化させてもATP放出が抑制された。さらに、この放出抑制は濃度依存的な傾向が見られた。
これらの結果から、ウンシュウミカン、フジマメ、及びイヌナズナ抽出物は、膀胱上皮細胞の伸展時に亢進するATP放出を抑制する作用を有することが確認された。
【0047】
実施例2 ウンシュウミカン抽出物の経口投与による過活動膀胱モデルラットへの影響
試験に用いるラットとして、SHR(38〜44週齢、雌、日本SLC社より入手)を使用した。対照群には、コントロール食(5%コーン油、20%カゼイン、66.5%ポテトスターチ、4%セルロース、1%ビタミン(商品名:ビタミン混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス社より入手))、3.5%ミネラル(商品名:ミネラル混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス社より入手))を、処理群には、ウンシュウミカン食(5%コーン油、20%カゼイン、66%ポテトスターチ、4%セルロース、1%ビタミン、3.5%ミネラル、0.5%ウンシュウミカン抽出物)をそれぞれ2週間与え、3週目に下記試験に供した。なお、ウンシュウミカン抽出物は製造例1で製造したウンシュウミカン抽出物を使用した。
【0048】
前記ラットをペントバルビタール麻酔後、カテーテルの先端を膀胱に挿入し、他方の先端は皮下を通して頭頂部の体外に導き栓をした。その2日後に、ラットをボールマンケージに保定し、頭頂部のカテーテルに三方活栓を介してシリンジポンプを接続し、0.9%塩化ナトリウム水溶液を流速5mL/hにて膀胱に持続注入した。同時に三方活栓に接続した圧トランスデューサーにより膀胱内圧、ボールマンケージ下の電子天秤により尿を回収して1回あたりの排尿量を測定した。
試験溶液流速5mL/hの持続注入開始から1200秒以上経過後、2400秒間のデータについて、排尿間隔、排尿1回あたりの排尿量(1回排尿量)、及び排尿時の膀胱の最大収縮圧(排尿時最大収縮圧)を算出した。その結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表4の結果から明らかなように、ウンシュウミカン抽出物を摂取した処理群は、コントロール食を摂取した対照群と比較して、1回あたりの排尿量が増加し、排尿間隔も延長した。一方、排尿時の膀胱の最大収縮圧については、群間に差が認められなかった。
以上の結果は、ウンシュウミカン抽出物が排尿時の膀胱の収縮圧に影響を与えることなく、過活動膀胱モデルラットの頻尿を改善したことを示しており、ウンシュウミカン抽出物が過活動膀胱の予防及び改善に有効であることが明らかとなった。