【実施例】
【0023】
以下において、LATP被覆層を形成するための塗工液を「LATPコート液」という。また、粉体の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積基準の累積50%粒子径D
50を意味する。
【0024】
《実施例1》
〔正極活物質原料粉Aの作成〕
容量1リットルのガラス製ビーカーを用いた反応槽に、純水200gと、硝酸アンモニウム90gを入れ、50℃、700rpmで撹拌して硝酸アンモニウムを溶解させた。原料液として、純水126gに硝酸コバルト六水和物355gを溶解させた液を用意した。反応槽中に上記原料液を1.3g/minで添加した。その間、槽内のpHが11になるように濃度48%の苛性ソーダ水溶液を添加した。撹拌は、原料添加中は700rpmで継続し、槽内温度は50℃をキープした。原料を添加し終わると、そのまま30分間、温度と撹拌をキープし、その後、30℃まで冷却した。槽内に得られたスラリーを濾過、水洗し、120℃で6時間乾燥させ、水酸化コバルト粉体を得た。この水酸化コバルト粉体と、水酸化リチウム一水和物を、Co:Liモル比が1:1.03となるように混合したのち、この混合物を酸素雰囲気900℃で2時間焼成し、平均粒子径5.1μm、BET比表面積0.23m
2/gのコバルト酸リチウム(LiCoO
2)の粉体を得た。この粉体を「正極活物質原料粉A」と呼ぶ。
BET比表面積は、ユアサイオニクス株式会社製の4ソーブUSを用いて、BET一点法により求めた(以下の各例において同じ)。
【0025】
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水1.2g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.028gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水0.25gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)0.019gと、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)0.14gを添加した。更にその溶液に、アルミニウム箔0.0028g、濃度28質量%のアンモニア水1.0g、純水8.7gをそれぞれ添加し、完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
【0026】
〔LATPの被覆〕
1リットルのガラス製ビーカーに、イソプロピルアルコール100gと、前記正極活物質原料粉Aを30g投入し、撹拌機を用いて撹拌した。温度は40℃に設定し、原料粉が沈殿しないように600rpmで撹拌を維持した。雰囲気中の炭酸ガスの吸収を防ぐ目的で、撹拌は窒素ガス雰囲気中で行った。この撹拌中の液に前記LATPコート液を120分間かけて連続的に添加した。添加終了後、更に40℃で600rpmの撹拌を継続し、反応を進行させた。反応終了後、得られたスラリーを加圧濾過器に投入し、固液分離を行った。固形分として得られた粉体を、脱炭酸空気中で1時間かけて乾燥した。得られた乾燥粉体を空気中600℃で3時間焼成し、LATPで粒子表面が被覆された正極活物質粉体を得た。
【0027】
〔正極活物質〕
得られた正極活物質粉体について、上述(3)式に従ってLATP被覆層の平均厚さを求めた結果、10nmであった。
上述(A)に従う手法で、XPSの分析結果に基づく「活物質成分検出率R」を求めた結果、R=10%であった。なお、XPS装置は、アルバック・ファイ社製PHI5800 ESCA SYSTEMを使用し、測定条件は、分析エリア:φ800μm、X線源:Al管球、X線源出力:150W、分析角度:45°、スペクトル種:Co、Ti、Al、P、Ni、Mnとも2p軌道とした。バックグラウンド処理はshirley法を用いた。
正極活物質粉体を硝酸等で溶解し、ICPにて化学分析を行った結果、投入した原料のAl、Ti、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
【0028】
〔全固体リチウムイオン二次電池の作製〕
[1]硫化物系固体電解質
P
2S
5(アルドリッチ社製)0.927gと、Li
2S(アルドリッチ社製)0.573gを、ジルコニアボールφ10mmとともに、遊星ボールミル(フリッチュ社製、P−7)にて、アルゴンガス雰囲気中350rpmで35時間撹拌混合して、淡い黄色の硫化物系固体電解質の粉体を得た。
[2]負極
インジウム箔(φ8mm、厚さ0.1mm)にリチウム箔(φ6mm、厚さ0.1mm)を圧接し、インジウム中にリチウムを拡散させることにより負極を得た。
[3]正極合材
正極活物質粉体60mgと、上記硫化物系固体電解質39mg、導電剤(ケッチャンブラック、ライオンEJ300J)1mgを混合して得た混合物から7mgを分取し、成形荷重10kNでプレス成形して、φ8mm×厚さ0.1mmの成形体からなる正極合材を得た。
[4]電池の組み立て
図1に、全固体リチウムイオン二次電池の組み立て方法を表す断面図を模式的に示す。内径φ10mm、高さ12mmのポリエチレン製円筒1の内部に、ステンレス鋼からなる正極集電体2、前記正極合材3、および60mgの前記硫化物系固体電解質4を入れ、36kNの荷重を付与して加圧成形体を得た。この成形体の上に前記負極5、およびステンレス鋼からなる負極集電体6をセットして、20kNの荷重を付与して加圧成形し、3層構造のセルを有する全固体リチウムイオン二次電池を作製した。得られた電池の正極層、電解質層、および負極層の厚さは、それぞれ約100μm、500μmおよび100μmである。正極側の電極面積は0.5cm
2(φ8mm)である。なお、
図1は、セルの直径に対し、厚さ(図の縦方向長さ)を極めて誇張して描いてある。
【0029】
〔電池評価〕
作製した電池について、以下の放電容量A、Bを調べ、変化率を求めた。
[1]放電容量A
電流密度0.1mA/cm
2で3.8Vまで定電流充電した後、電流密度が0.001mA/cm
2となるまで3.8Vで定電圧充電を行った。その後、3.8Vから2.0Vまで(Li電位基準で4.4Vから2.6Vまで)0.1mA/cm
2で放電を行い、放電容量の測定を行った。そして、正極活物質の単位質量あたりの放電容量を「放電容量A」とした。放電容量Aの値が大きい電池ほど、エネルギー密度の大きい電池であると評価される。
[2]放電容量B
放電容量Aの測定後、電流密度0.3A/cm
2で3.8Vまで定電流充電した後、電流密度が0.003mA/cm
2となるまで3.8Vで定電圧充電を行った。その後、3.8Vから2.0Vまで(Li電位基準で4.4Vから2.6Vまで)0.3mA/cm
2で放電を行い、放電容量の測定を行った。そして、正極活物質の単位質量あたりの放電容量を「放電容量B」とした。
[3]変化率
下記(4)式により、変化率(%)を求めた。
変化率(%)=(放電容量A−放電容量B)/放電容量A×100 …(4)
この変化率が小さいほど、低電流と高電流で充放電した際の電池容量変化が少ないため、当該正極活物質を使用した電池の設計が容易となる。すなわち、変化率が低いものほど、正極活物質の遷移金属と固体電解質の硫黄の反応が抑制され、優れた性能を有する正極を備えていると判断できる。
以上の結果を表1中に示す(以下の各例において同じ)。
【0030】
《実施例2》
正極活物質原料粉として、以下のようにして作成した「正極活物質原料粉B」を使用したこと、並びにLATPコート液の作成および被覆を以下のようにして行って正極活物質粉体を用意したことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
【0031】
〔正極活物質原料粉Bの作成〕
容量1リットルのガラス製ビーカーを用いた反応槽に、純水200gと、硝酸アンモニウム90gを入れ、50℃、700rpmで撹拌して硝酸アンモニウムを溶解させた。原料液として、純水486gに硝酸ニッケル六水和物87.1g、硝酸コバルト六水和物87.3g、硝酸マンガン六水和物86.2を溶解させた液を用意した。反応槽中に上記原料液を6.4g/minで添加した。その間、槽内のpHが11になるように濃度48%の苛性ソーダ水溶液を添加した。撹拌は、原料添加中は400rpmで継続し、槽内温度は50℃をキープした。原料を添加し終わると、そのまま30分間、温度と撹拌をキープし、その後、30℃まで冷却した。槽内に得られたスラリーを濾過、水洗し、120℃で6時間乾燥させ、水酸化物の粉体を得た。この水酸化粉体と、水酸化リチウム一水和物を、Ni+Mn+Co:Liモル比が1:1.03となるように混合したのち、この混合物を酸素雰囲気880℃で2時間焼成し、平均粒子径7.2μm、BET比表面積1.0m
2/gのニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)の粉体を得た。この粉体を「正極活物質原料粉B」と呼ぶ。
【0032】
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水1.1g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.025gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水0.22gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)0.017gと、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)0.12gを添加した。更にその溶液に、アルミニウム箔0.0025g、濃度28質量%のアンモニア水0.9g、純水7.6gをそれぞれ添加し、完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
【0033】
〔LATPの被覆〕
1リットルのガラス製ビーカーに、イソプロピルアルコール100gと、前記正極活物質原料粉Bを20gを投入し、撹拌機を用いて撹拌した。温度は40℃に設定し、原料粉が沈殿しないように600rpmで撹拌を維持した。雰囲気中の炭酸ガスの吸収を防ぐ目的で、撹拌は窒素ガス雰囲気中で行った。この撹拌中の液に前記LATPコート液を120分間かけて連続的に添加した。添加終了後、更に40℃で600rpmの撹拌を継続し、反応を進行させた。反応終了後、得られたスラリーを加圧濾過器に投入し、固液分離を行った。固形分として得られた粉体を、脱炭酸空気中で1時間かけて乾燥した。得られた乾燥粉体を空気中500℃で3時間焼成し、LATPで粒子表面が被覆された正極活物質粉体を得た。
正極活物質粉体を硝酸等で溶解し、ICPにて化学分析を行った結果、投入した原料のAl、Ti、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
【0034】
《実施例3》
以下のようにして作成したLATPコート液を用いて、LATP被覆層の厚さを増大させたことを除き、実施例2と同様の実験を行った。
【0035】
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水2.7g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.062gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水0.55gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)0.041gと、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)0.30gを添加した。更にその溶液に、アルミニウム箔0.0061g、濃度28質量%のアンモニア水2.3g、純水19.0gをそれぞれ添加し、完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
上記LATPコート液を実施例2と同様の方法で被覆して得た正極活物質粉体をICPで分析した結果、投入した原料のAl、Ti、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
【0036】
《実施例4》
以下のようにして作成したLATPコート液を用いて、LATP被覆層の厚さを増大させたことを除き、実施例2と同様の実験を行った。
【0037】
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水5.3g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.12gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水1.1gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)0.083gと、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)0.60gを添加した。更にその溶液に、アルミニウム箔0.012g、濃度28質量%のアンモニア水4.5g、純水38.0gをそれぞれ添加し、完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
上記LATPコート液を実施例2と同様の方法で被覆して得た正極活物質粉体をICPで分析した結果、投入した原料のAl、Ti、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
【0038】
《実施例5》
以下のようにして作成したLATPコート液を用いて、LATP被覆層の厚さを増大させたことを除き、実施例2と同様の実験を行った。
【0039】
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水10.7g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.25gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水2.0gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)0.17gと、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)1.2gを添加した。更にその溶液に、アルミニウム箔0.025g、濃度28質量%のアンモニア水9.0g、純水76.0gをそれぞれ添加し、完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
上記LATPコート液を実施例2と同様の方法で被覆して得た正極活物質粉体をICPで分析した結果、投入した原料のAl、Ti、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
【0040】
《
参考例》
以下のようにして作成したAlを含有しないLATPコート液を用いて、LATP被覆層の厚さを増大させたことを除き、実施例2と同様の実験を行った。
【0041】
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水5.4g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.15gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水1.1gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)0.064gと、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)0.61gを添加した。その後。完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
上記LATPコート液を実施例2と同様の方法で被覆して得た正極活物質粉体をICPで分析した結果、投入した原料のAl、Ti、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
【0042】
《実施例7》
正極活物質原料粉として、以下のようにして作成した「正極活物質原料粉C」を使用したこと、並びにLATPコート液の作成および被覆を以下のようにして行って正極活物質粉体を用意したことを除き、実施例2と同様の実験を行った。
【0043】
〔正極活物質原料粉Cの作成〕
容量1リットルのガラス製ビーカーを用いた反応槽に、純水200gと、硝酸アンモニウム90gを入れ、50℃、700rpmで撹拌して硝酸アンモニウムを溶解させた。原料液として、純水126gに硝酸ニッケル六水和物308.9g、硝酸コバルト六水和物35.5g、硝酸アルミニウム九水和物13.7gを溶解させた液を用意した。反応槽中に上記原料液を1.3g/minで添加した。その間、槽内のpHが10になるように濃度48%の苛性ソーダ水溶液を添加した。撹拌は、原料添加中は700rpmで継続し、槽内温度は50℃をキープした。原料を添加し終わると、そのまま30分間、温度と撹拌をキープし、その後、30℃まで冷却した。槽内に得られたスラリーを濾過、水洗し、120℃で6時間乾燥させ、水酸化物の粉体を得た。この水酸化粉体と、水酸化リチウム一水和物を、Ni+Co+Al:Liモル比が1:1.03となるように混合したのち、この混合物を酸素雰囲気800℃で2時間焼成し、平均粒子径7.0μm、BET比表面積2.2m
2/gのニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム(LiNi
0.87Co
0.10Al
0.03O
2)の粉体を得た。この粉体を「正極活物質原料粉C」と呼ぶ。
【0044】
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水11.8g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.27gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水2.4gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)0.18gと、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)1.3gを添加した。更にその溶液に、アルミニウム箔0.027g、濃度28質量%のアンモニア水10.0g、純水83.6gをそれぞれ添加し、完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
【0045】
〔LATPの被覆〕
1リットルのガラス製ビーカーに、イソプロピルアルコール100gと、前記正極活物質原料粉Cを20gを投入し、撹拌機を用いて撹拌した。温度は40℃に設定し、原料粉が沈殿しないように600rpmで撹拌を維持した。雰囲気中の炭酸ガスの吸収を防ぐ目的で、撹拌は窒素ガス雰囲気中で行った。この撹拌中の液に前記LATPコート液を120分間かけて連続的に添加した。添加終了後、更に40℃で600rpmの撹拌を継続し、反応を進行させた。反応終了後、得られたスラリーを加圧濾過器に投入し、固液分離を行った。固形分として得られた粉体を、脱炭酸空気中で1時間かけて乾燥した。得られた乾燥粉体を空気中300℃で3時間焼成し、LATPで粒子表面が被覆された正極活物質粉体を得た。
上記LATPコート液を実施例2と同様の方法で被覆して得た正極活物質粉体をICPで分析した結果、投入した原料のTi、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
【0046】
《比較例1》
正極活物質粉体として、LATP被覆を施す前の「正極活物質原料粉A」を用いたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
《比較例2》
正極活物質粉体として、LATP被覆を施す前の「正極活物質原料粉B」を用いたことを除き、実施例2と同様の実験を行った。
《比較例3》
正極活物質粉体として、LATP被覆を施す前の「正極活物質原料粉C」を用いたことを除き、実施例7と同様の実験を行った。
【0047】
【表1】
【0048】
表1からわかるように、上述の手法でLATP被覆層を形成した正極活物質粉体を用いた各実施例の全固体リチウムイオン二次電池では、当該被覆層を持たない正極活物質粉体を用いた比較例のものより、放電容量の変化率が顕著に減少した。