特許第6366322号(P6366322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366322
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】シリンジ用ガスケット
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20180723BHJP
   A61M 5/24 20060101ALI20180723BHJP
   C08J 7/18 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   A61M5/315
   A61M5/24
   C08J7/18CEW
【請求項の数】33
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2014-64138(P2014-64138)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-181910(P2015-181910A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年2月2日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】皆川 康久
(72)【発明者】
【氏名】田原 尚洋
(72)【発明者】
【氏名】八尾 英治
【審査官】 今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−154644(JP,A)
【文献】 特開2001−104480(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/165525(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/00−9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された不活性フィルム表面にポリマー鎖が形成されているシリンジ用ガスケットの製造方法であって、
記不活性フィルム表面に重合開始点を形成する工程1と、前記重合開始点を起点にしてモノマーをラジカル重合させ、前記不活性フィルム表面にポリマー鎖を成長させる工程2とを含むシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項2】
前記工程1は、前記不活性フィルム表面に光重合開始剤を吸着させて重合開始点を形成させるもの、又は前記不活性フィルム表面に光重合開始剤を吸着させて更に300〜400nmのLED光を照射し、前記表面上の光重合開始剤から重合開始点を形成させるものである請求項1記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項3】
積層された不活性フィルム表面にポリマー鎖が形成されているシリンジ用ガスケットの製造方法であって、
重合開始剤の存在下でモノマーをラジカル重合させ、前記不活性フィルム表面にポリマー鎖を成長させる工程Iを含むシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項4】
前記不活性フィルムは、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、変性テトラフルオロエチレン重合体、変性テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、クロロフルオロエチレン重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、及び/又はオレフィン系樹脂からなるものである請求項1〜3のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項5】
前記ラジカル重合は、300〜400nmのLED光を照射する光ラジカル重合である請求項1〜4のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項6】
前記光重合開始剤は、ベンゾフェノン系化合物及び/又はチオキサントン系化合物である請求項2又は3記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項7】
不活性ガス雰囲気下又は真空脱気条件下で重合させる請求項1〜6のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項8】
前記モノマーは、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アルカリ金属塩、アクリル酸アミン塩、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アルカリ金属塩、メタクリル酸アミン塩、アクリロニトリル、アクリルアミド、メトキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メトキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド、ヒドロキシメタクリルアミド、メトキシエチルアクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、メトキシメチルメタクリレート、及びヒドロキシエチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜7のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項9】
前記モノマーは、フッ素含有モノマーである請求項1〜7のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項10】
前記フッ素含有モノマーは、フルオロ基含有モノマーである請求項9記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項11】
前記フルオロ基含有モノマーは、フルオロアルキル基含有モノマーである請求項10記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項12】
前記フルオロアルキル基含有モノマーは、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12−heneicosafluorododecyl acrylate(HC=CHCOCHCH(CFCF)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−Heptadecafluorodecyl acrylate(HC=CHCOCHCH(CFCF)、3−(perfluorobutyl)−2−hydroxypropyl acrylate(F(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)、3−perfluorohexyl−2−hydroxypropyl acrylate(F(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)、3−(perfluoro−3−methylbutyl)−2−hydroxypropyl acrylate((CFCF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)、及び3−(perfluoro−5−methylhexyl)−2−hydroxypropyl acrylate((CFCF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)からなる群より選択される少なくとも1種である請求項11記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項13】
前記フッ素含有モノマーは、フルオロアルキル基、フルオロアルキルエーテル基及び/又はジメチルシロキサン基を有するアクリレート又はメタクリレートである請求項9記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項14】
前記フッ素含有モノマーは、(A)下記式(7)で表される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物に、(B)(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸を付加反応させることにより得られる含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物である請求項9記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【化1】
(Rf11はフルオロアルキル構造又はフルオロポリエーテル構造を含む分子量100〜40,000の一価又は二価の基である。Q11は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価の、シロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基であり、環状構造をなしていてもよく、Q12は炭素数1〜20の二価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい。R11〜R13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、これらの基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されていても良く、R11とR12が結合してこれらが結合している炭素原子と共に一つの環をなしていても良い。Rf11が一価のときにはa’は1であり、かつaは1〜6の整数であり、Rf11が二価のときにはaは1であり、かつa’は2である。bは1〜20の整数である。)
【請求項15】
前記式(7)において、Rf11は、下記式;
−C2iO−
(iは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)
で表される繰り返し単位を1〜500個含む請求項14記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項16】
前記式(7)において、Q11は、下記式で表される請求項14又は15記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【化2】
(式中のa、bは前記と同一である。a個及びb個の各ユニットの並びはランダムであり、a個及びb個の各ユニットの破線で示される結合手は、Rf11又は下記式で示される基と結合する。)
【化3】
(Q12、R11〜R13は式(7)で定義した通りである。)
【請求項17】
前記式(7)において、Rf11は、下記式(8)で表される請求項14〜16のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【化4】
(Rf’11は二価の分子量300〜30,000のパーフルオロポリエーテル基であり、途中分岐を含んでいても良い。Q13は二価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造又は不飽和結合を有する基であってもよい。Q11はQ13又はフッ素原子である。Tは、下記式(9)
【化5】
(R11〜R13、Q12、a、bは式(7)で定義した通りであり、Q14は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価のシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基である。)
で表される連結基であり、vは0〜5の整数であり、なおかつQ11がフッ素原子のときv=0である。)
【請求項18】
前記フッ素含有モノマーは、下記式で示される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物及び下記式で示される含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物の混合物である請求項14〜17のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【化6】
(式中、b’+b’は2〜6.5であり、Rf’12は下記の基である。)
【化7】
(式中、nは2〜100である。)
【請求項19】
前記フッ素含有モノマーは、下記式;
(Rf2121SiO)(R21SiO)
(式中、R21は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rf21はフッ素原子を含有する有機基であり、Rは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、hはh≧2である。)
で表される環状シロキサンからなり、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物である請求項9記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項20】
前記RのSi原子への結合部位が、Si−O−C結合である請求項19記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項21】
前記Rf21が、C2t+1(CH−(tは1〜8の整数、uは2〜10の整数である。)で示される基又はパーフルオロポリエーテル置換アルキル基である請求項19又は20記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項22】
前記フッ素含有モノマーは、赤外線吸収スペクトルの1045cm−1付近と1180cm−1付近に強い吸収ピークを持ち、806cm−1付近と1720cm−1付近に吸収ピークを持ち、1532cm−1付近に弱い吸収ピークを持ち、3350cm−1付近にブロードな弱い吸収ピークを持つ請求項9〜21のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項23】
前記フッ素含有モノマーは、Chloroform−d溶液での13C NMRスペクトルにおいて、化学シフトが13.01、14.63、23.04、40.13、50.65、63.54、68.97、73.76、76.74、77.06、77.38、113.21、114.11、116.96、117.72、118.47、128.06、131.38、156.46、166.02ppm付近にシグナルを持つ請求項9〜22のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項24】
前記フッ素含有モノマーは、Chloroform−d溶液でのH NMRスペクトルにおいて、化学シフトが3.40、3.41、3.49、3.60、5.26、5.58、6.12、6.14、6.40、6.42、6.46ppm付近にシグナルを持つ請求項9〜23のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項25】
前記モノマーは、フッ素含有ウレタン(メタ)アクリレートモノマーである請求項1〜7のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項26】
前記フッ素含有ウレタン(メタ)アクリレートモノマーが下記式(10)で表される請求項25記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【化8】
(式(10)中、Xは、同一又は異なって、ウレタン(メタ)アクリレート基を表す。p、qは、同一又は異なって、1以上の整数を表す。)
【請求項27】
前記フッ素含有(メタ)アクリレートモノマーが、多官能(メタ)アクリレート基を有する請求項26記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項28】
前記フッ素含有(メタ)アクリレートモノマーが、2〜4官能(メタ)アクリレート基を有する請求項26記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項29】
前記モノマーは、側鎖にカルボキシベタイン基、スルホキシベタイン基又はホスホベタイン基を含む双性イオン性モノマーである請求項1〜7のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項30】
前記モノマーは、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン、及び2−(メタ)アクリロイルオキシエチルスルホベタインからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜7のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項31】
前記モノマー(液体)又はそれらの溶液が重合禁止剤を含むもので、該重合禁止剤の存在下で重合させる請求項1〜30のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項32】
前記重合禁止剤が4−メチルフェノールである請求項31記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【請求項33】
前記ポリマー鎖の長さは、10〜50000nmである請求項1〜32のいずれかに記載のシリンジ用ガスケットの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンジ用ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
シール状態を維持しながら摺動する部分、例えば、注射器のプランジャーに一体化されてプランジャーとシリンジのシールを行うガスケットには、シール性を重視し、ゴム等の弾性体が使用されているが、摺動性に若干問題がある(特許文献1参照)。そのため、摺動面にシリコーンオイルなどの摺動性改良剤を塗布しているが、最近上市されているバイオ製剤にシリコーンオイルが悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。一方、摺動性改良剤を塗布していないガスケットは摺動性に劣るため、投与の際にプランジャーを円滑に押せずに脈動し、注入量が不正確になる、患者に苦痛を与えるなどの問題が生じる。
【0003】
また、このようなシリンジ用ガスケットには、架橋用の各種添加剤が添加された架橋ゴムが一般的に使用されており、該添加剤またはその熱分解物は、ごく少量ではあるが薬液と接触することで薬液中へと移行することがある。そのため、移行した添加剤等が薬液の効果および安定性に悪影響を与えるという問題もある。
【0004】
このように、シリンジ用ガスケットには、シール性及び摺動性の相反する性能、更には耐薬品性も確保することが要求され、種々の検討がなされている。例えば、自己潤滑性を有するPTFEフィルムを被覆する技術が提案されているが(特許文献2参照)、PTFEフィルムを被覆した製品を、摺動などが繰り返され耐久性が要求される用途に適用することについて、信頼性の不安もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−298220号公報
【特許文献2】特開2010−142573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、シール性、摺動性、摺動の繰り返しに対する耐久性、耐薬品性等の性能に優れたシリンジ用ガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、積層された不活性フィルム表面にポリマー鎖が形成されているシリンジ用ガスケットに関する。
【0008】
前記不活性フィルムは、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、変性テトラフルオロエチレン重合体、変性テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、クロロフルオロエチレン重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、及び/又はオレフィン系樹脂からなるものであることが好ましい。
【0009】
前記ポリマー鎖は、前記不活性フィルム表面に重合開始点を形成する工程1と、前記重合開始点を起点にしてモノマーをラジカル重合させ、前記不活性フィルム表面にポリマー鎖を成長させる工程2とを含む表面改質方法により形成されるものであることが好ましい。
【0010】
前記工程1は、前記不活性フィルム表面に光重合開始剤を吸着させ、又は更に300〜400nmのLED光を照射し、前記表面上の光重合開始剤から重合開始点を形成させるものであることが好ましい。
【0011】
前記ポリマー鎖は、光重合開始剤の存在下でモノマーをラジカル重合させ、前記不活性フィルム表面にポリマー鎖を成長させる工程Iを含む形成方法により形成されるものであることが好ましい。
【0012】
前記ラジカル重合は、300〜400nmのLED光を照射する光ラジカル重合であることが好ましい。
前記光重合開始剤は、ベンゾフェノン系化合物及び/又はチオキサントン系化合物であることが好ましい。
不活性ガス雰囲気下又は真空脱気条件下で重合させることが好ましい。
【0013】
前記モノマーは、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アルカリ金属塩、アクリル酸アミン塩、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アルカリ金属塩、メタクリル酸アミン塩、アクリロニトリル、アクリルアミド、メトキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メトキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド、ヒドロキシメタクリルアミド、メトキシエチルアクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、メトキシメチルメタクリレート、及びヒドロキシエチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
前記モノマーは、フッ素含有モノマーであることが好ましい。
前記フッ素含有モノマーは、フルオロ基含有モノマーであることが好ましい。
前記フルオロ基含有モノマーは、フルオロアルキル基含有モノマーであることが好ましい。
【0015】
前記フルオロアルキル基含有モノマーは、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12−heneicosafluorododecyl acrylate(HC=CHCOCHCH(CFCF)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−Heptadecafluorodecyl acrylate(HC=CHCOCHCH(CFCF)、3−(perfluorobutyl)−2−hydroxypropyl acrylate(F(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)、3−perfluorohexyl−2−hydroxypropyl acrylate(F(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)、3−(perfluoro−3−methylbutyl)−2−hydroxypropyl acrylate((CFCF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)、及び3−(perfluoro−5−methylhexyl)−2−hydroxypropyl acrylate((CFCF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
前記フッ素含有モノマーは、フルオロアルキル基、フルオロアルキルエーテル基及び/又はジメチルシロキサン基を有するアクリレート又はメタクリレートであることが好ましい。
【0017】
前記フッ素含有モノマーは、(A)下記式(7)で表される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物に、(B)(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸を付加反応させることにより得られる含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物であることが好ましい。
【化1】
(Rf11はフルオロアルキル構造又はフルオロポリエーテル構造を含む分子量100〜40,000の一価又は二価の基である。Q11は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価の、シロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基であり、環状構造をなしていてもよく、Q12は炭素数1〜20の二価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい。R11〜R13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、これらの基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されていても良く、R11とR12が結合してこれらが結合している炭素原子と共に一つの環をなしていても良い。Rf11が一価のときにはa’は1であり、かつaは1〜6の整数であり、Rf11が二価のときにはaは1であり、かつa’は2である。bは1〜20の整数である。)
【0018】
前記式(7)において、Rf11は、下記式;
−C2iO−
(iは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)
で表される繰り返し単位を1〜500個含むことが好ましい。
【0019】
前記式(7)において、Q11は、下記式で表されることが好ましい。
【化2】
(式中のa、bは前記と同一である。a個及びb個の各ユニットの並びはランダムであり、a個及びb個の各ユニットの破線で示される結合手は、Rf11又は下記式で示される基と結合する。)
【化3】
(Q12、R11〜R13は式(7)で定義した通りである。)
【0020】
前記式(7)において、Rf11は、下記式(8)で表されることが好ましい。
【化4】
(Rf’11は二価の分子量300〜30,000のパーフルオロポリエーテル基であり、途中分岐を含んでいても良い。Q13は二価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造又は不飽和結合を有する基であってもよい。Q11はQ13又はフッ素原子である。Tは、下記式(9)
【化5】
(R11〜R13、Q12、a、bは式(7)で定義した通りであり、Q14は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価のシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基である。)
で表される連結基であり、vは0〜5の整数であり、なおかつQ11がフッ素原子のときv=0である。)
【0021】
前記フッ素含有モノマーは、下記式で示される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物及び下記式で示される含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物の混合物であることが好ましい。
【化6】
(式中、b’+b’は2〜6.5であり、Rf’12は下記の基である。)
【化7】
(式中、nは2〜100である。)
【0022】
前記フッ素含有モノマーは、下記式;
(Rf2121SiO)(R21SiO)
(式中、R21は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rf21はフッ素原子を含有する有機基であり、Rは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、hはh≧2である。)
で表される環状シロキサンからなり、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。
【0023】
前記RのSi原子への結合部位が、Si−O−C結合であることが好ましい。
【0024】
前記Rf21が、C2t+1(CH−(tは1〜8の整数、uは2〜10の整数である。)で示される基又はパーフルオロポリエーテル置換アルキル基であることが好ましい。
【0025】
前記フッ素含有モノマーは、赤外線吸収スペクトルの1045cm−1付近と1180cm−1付近に強い吸収ピークを持ち、806cm−1付近と1720cm−1付近に吸収ピークを持ち、1532cm−1付近に弱い吸収ピークを持ち、3350cm−1付近にブロードな弱い吸収ピークを持つことが好ましい。
【0026】
前記フッ素含有モノマーは、Chloroform−d溶液での13C NMRスペクトルにおいて、化学シフトが13.01、14.63、23.04、40.13、50.65、63.54、68.97、73.76、76.74、77.06、77.38、113.21、114.11、116.96、117.72、118.47、128.06、131.38、156.46、166.02ppm付近にシグナルを持つことが好ましい。
【0027】
前記フッ素含有モノマーは、Chloroform−d溶液でのH NMRスペクトルにおいて、化学シフトが3.40、3.41、3.49、3.60、5.26、5.58、6.12、6.14、6.40、6.42、6.46ppm付近にシグナルを持つことが好ましい。
【0028】
前記モノマーは、フッ素含有ウレタン(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0029】
前記フッ素含有ウレタン(メタ)アクリレートモノマーが下記式(10)で表されることが好ましい。
【化8】
(式(10)中、Xは、同一又は異なって、ウレタン(メタ)アクリレート基を表す。p、qは、同一又は異なって、1以上の整数を表す。)
【0030】
前記フッ素含有(メタ)アクリレートモノマーが、多官能(メタ)アクリレート基を有することが好ましい。
前記フッ素含有(メタ)アクリレートモノマーが、2〜4官能(メタ)アクリレート基を有することが好ましい。
【0031】
前記モノマーは、側鎖にカルボキシベタイン基、スルホキシベタイン基又はホスホベタイン基を含む双性イオン性モノマーであることが好ましい。
【0032】
前記モノマーは、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン、及び2−(メタ)アクリロイルオキシエチルスルホベタインからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0033】
前記モノマー(液体)又はそれらの溶液が重合禁止剤を含むもので、該重合禁止剤の存在下で重合させることが好ましい。
【0034】
前記重合禁止剤が4−メチルフェノールであることが好ましい。
【0035】
前記ポリマー鎖の長さは、10〜50000nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、積層された不活性フィルム表面にポリマー鎖が形成されているシリンジ用ガスケットであるので、シール性、摺動性、摺動の繰り返しに対する耐久性、耐薬品性等の性能に優れたシリンジ用ガスケットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明のシリンジ用ガスケットにおけるポリマー鎖を形成する基材ガスケットを示す断面模式図の一例である。
図2】実施例5で用いられるフルオロ基含有モノマー液(信越化学工業社製:KY−1203)の赤外線吸収スペクトルである。
図3】実施例5で用いられるフルオロ基含有モノマー液(信越化学工業社製:KY−1203)の13C−NMRスペクトルである。
図4】実施例5で用いられるフルオロ基含有モノマー液(信越化学工業社製:KY−1203)のH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明のシリンジ用ガスケットは、積層された不活性フィルム表面にポリマー鎖が形成されているもの、すなわち、基材となる各種ゴム等の表面にフッ素フィルム等の不活性フィルムを積層し、更に積層した該不活性フィルムの表面にポリマー鎖を形成したものである。
【0039】
不活性フィルムが積層された各種ゴム等のフィルム表面上にポリマー鎖を形成することで、良好な耐薬品性が確保されると同時に、ポリマー鎖により、摺動性、シール性を改善できる。
【0040】
以下、本発明の実施形態の一例を説明する。
【0041】
本発明のシリンジ用ガスケットは、前記構成を有するものであれば特に限定されず、例えば、接液部及び摺動部に不活性フィルムが積層され、かつ該不活性フィルム表面の一部又は全部(摺動部に積層されている不活性フィルム表面等)にポリマー鎖が形成されているガスケット等が挙げられる。このようなシリンジ用ガスケットは、接液部及び摺動部に不活性フィルムが積層された基材ガスケットに対し、当該不活性フィルム表面にポリマー鎖を形成する製法、等により、製造される。
【0042】
基材ガスケットは特に限定されず、例えば、摺動部や接液部等に不活性フィルムが積層された公知の形状・構造のものを使用できる。
【0043】
図1に、基材ガスケットの一例の断面模式図を示す。
図1において、基材ガスケット1は、シリンジ内で薬液に接触し、摺動時にシリンジ内壁に接触しない接液部2と、摺動時にシリンジ内壁と接触する摺動部3と、プランジャーロッドが嵌合される嵌合穴4とを有する。
【0044】
接液部2及び摺動部3に不活性フィルム5が積層されており、図1では凸部を有する接液部2の一例が示されている。不活性フィルム5をこのように配置し、更に該不活性フィルム5の摺動部3や接液部2の表面にポリマー鎖(図示せず)を形成することにより、ガスケット1の耐薬品性を向上するとともに、シール性、摺動性を両立できる。
【0045】
不活性フィルム5が積層された基材ガスケット1の構成材料としては、加硫成形ゴム又は成形後の熱可塑性エラストマーが用いられ、上記加硫ゴム、上記熱可塑性エラストマーとしては、二重結合に隣接する炭素原子(アリル位の炭素原子)を有するものが好適に使用される。
【0046】
ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、脱タンパク天然ゴムなどのジエン系ゴム、及びイソプレンユニットを不飽和度として数パーセント含むブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどが挙げられる。ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムの場合、加硫ゴムからの抽出物が少なくなる点から、トリアジンによる架橋ゴムが好ましい。この場合、受酸剤を含んでもよく、好適な受酸剤としては、ハイドロタルサイト、炭酸マグネシウムが挙げられる。
【0047】
他のゴムの場合は、硫黄加硫が好ましい。その場合、硫黄加硫で一般に使用されている加硫促進剤、酸化亜鉛、フィラー、シランカップリング剤などの配合剤を添加してもよい。フィラーとしては、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどを好適に使用できる。
【0048】
なお、ゴムの加硫条件は適宜設定すれば良く、ゴムの加硫温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上、更に好ましくは175℃以上である。
【0049】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、可塑性成分(ハードセグメント)の集まりが架橋点の役割を果たすことにより常温でゴム弾性を有する高分子化合物(スチレン−ブタジエンスチレン共重合体などの熱可塑性エラストマー(TPE)など);熱可塑性成分及びゴム成分が混合され架橋剤によって動的架橋が行われたゴム弾性を有する高分子化合物(スチレン系ブロック共重合体又はオレフィン系樹脂と、架橋されたゴム成分とを含むポリマーアロイなどの熱可塑性エラストマー(TPV)など)が挙げられる。
【0050】
また、他の好適な熱可塑性エラストマーとして、ナイロン、ポリエステル、ウレタン、ポリプロピレン、及びそれらの動的架橋熱可塑性エラストマーが挙げられる。動的架橋熱可塑性エラストマーの場合、ハロゲン化ブチルゴムを熱可塑性エラストマー中で動的架橋したものが好ましい。この場合の熱可塑性エラストマーは、ナイロン、ウレタン、ポリプロピレン、SIBS(スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体)などが好ましい。
【0051】
不活性フィルム5としては、特に限定されないが、テトラフルオロエチレン重合体(PTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、変性テトラフルオロエチレン重合体、変性テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、クロロフルオロエチレン重合体(PCTFE)等のフッ素樹脂;オレフィン系樹脂、等が好ましい。また、良好な耐薬品性が得られるという点から、PTFE、ETFE、PCTFE、オレフィン系樹脂がより好ましく、PTFEが特に好ましい。
【0052】
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、塩素化ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、塩素化ポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィンの共重合体等が挙げられ、ポリエチレン(特に超高分子量ポリエチレン(UHMWPE))が好ましい。なお、オレフィン系樹脂は、フッ素を含んでいてもよい。
【0053】
不活性フィルム5の厚みは基材ガスケット1の形状やサイズに合わせて適宜調整すればよいが、50〜200μmであることが好ましい。
【0054】
不活性フィルム5は、ゴム等との接着性を高める処理を行うことが好ましい。接着性を高める処理としては、化学処理法、フィルムの表面を粗面化する処理や、これらを組み合わせたものが挙げられ、具体例としては、ナトリウム処理、グロー放電処理、大気圧下又は真空下でのプラズマ処理(放電処理)、エキシマレーザー処理(放電処理)、イオンビーム処理が挙げられる。
【0055】
本発明のシリンジ用ガスケットは、例えば、前記基材ガスケットにおける不活性フィルム表面に重合開始点を形成する工程1と、前記重合開始点を起点にしてモノマーをラジカル重合させ、前記不活性フィルム表面にポリマー鎖を成長させる工程2とを含む表面改質方法により、不活性フィルム表面にポリマー鎖を形成できる。
【0056】
工程1では、基材ガスケットの不活性フィルム表面に重合開始点が形成される。例えば、前記工程1は、前記不活性フィルムの表面に光重合開始剤を吸着させて重合開始点を形成すること、前記不活性フィルムの表面に光重合開始剤を吸着させて更に300〜400nmのLED光を照射し、該表面上の光重合開始剤から重合開始点を形成させること、等により実施できる。
【0057】
光重合開始剤としては、例えば、カルボニル化合物、テトラエチルチウラムジスルフィドなどの有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられ、なかでも、カルボニル化合物が好ましい。
【0058】
光重合開始剤としてのカルボニル化合物としては、ベンゾフェノン及びその誘導体(ベンゾフェノン系化合物)が好ましく、例えば、下記式で表されるベンゾフェノン系化合物を好適に使用できる。
【化9】
(式において、R〜R及びR1′〜R5′は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、水酸基、1〜3級アミノ基、メルカプト基、又は酸素原子、窒素原子、硫黄原子を含んでもよい炭化水素基を表し、隣り合う任意の2つが互いに連結し、それらが結合している炭素原子と共に環構造を形成してもよい。)
【0059】
ベンゾフェノン系化合物の具体例としては、ベンゾフェノン、キサントン、9−フルオレノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4′−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4′−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどが挙げられる。なかでも、良好にポリマーブラシが得られるという点から、ベンゾフェノン、キサントン、9−フルオレノンが特に好ましい。
ベンゾフェノン系化合物として、フルオロベンゾフェノン系化合物も好適に使用でき、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾフェノン、デカフルオロベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0060】
光重合開始剤としては、重合速度が速い点、及びゴムなどに吸着及び/又は反応し易い点から、チオキサントン系化合物も好適に使用可能である。例えば、下記式で表される化合物を好適に使用できる。
【化10】
(式において、R〜R及びR6′〜R9′は、同一若しくは異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、環状アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基を表す。)
【0061】
上記式で示されるチオキサントン系化合物としては、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,3−ジエチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−シクロヘキシルチオキサントン、4−シクロヘキシルチオキサントン、2−ビニルチオキサントン、2,4−ジビニルチオキサントン、2,4−ジフェニルチオキサントン、2−ブテニル−4−フェニルチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、2−p−オクチルオキシフェニル−4−エチルチオキサントンなどが挙げられる。なかでも、R〜R及びR6′〜R9′のうちの1〜2個、特に2個がアルキル基により置換されているものが好ましく、2,4−Diethylthioxanthone(2,4−ジエチルチオキサントン)がより好ましい。
【0062】
ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物などの光重合開始剤の不活性フィルム表面への吸着方法としては、例えば、ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物については、不活性フィルムの改質する表面部位を、ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物を有機溶媒に溶解させて得られた溶液で処理することで表面に吸着させ、必要に応じて有機溶媒を乾燥により蒸発させることにより、重合開始点が形成される。表面処理方法としては、該ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物溶液を摺動部や接液部の表面に接触させることが可能であれば特に限定されず、例えば、該ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物溶液の塗布、吹き付け、該溶液中への浸漬などが好適である。更に、一部の表面にのみ表面改質が必要なときには、必要な一部の表面にのみ光重合開始剤を吸着させればよく、この場合には、例えば、該溶液の塗布、該溶液の吹き付けなどが好適である。前記溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、THFなどを使用できるが、基材ガスケットを膨潤させない点、乾燥・蒸発が早い点でアセトンが好ましい。
【0063】
また、不活性フィルムにベンゾフェノン系化合物溶液、チオキサントン系化合物溶液による表面処理を施して光重合開始剤を吸着させた後、更に光を照射して不活性フィルムの表面に化学結合させることが好ましい。例えば、波長300〜450nm(好ましくは300〜400nm、より好ましくは350〜400nm)の紫外線を照射して、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物溶液を表面に固定化できる。
【0064】
なかでも、不活性フィルムの表面を光重合開始剤で処理することで該光重合開始剤を表面に吸着させ、次いで、処理後の表面に300〜400nmのLED光を照射することにより、重合開始点を形成することが好ましく、特に、不活性フィルムの表面にベンゾフェノン系化合物溶液、チオキサントン系化合物溶液などによる表面処理を施して光重合開始剤を吸着させた後、更に処理後の表面に300〜400nmのLED光を照射することで、吸着させた光重合開始剤を表面に化学結合させることが好ましい。ここで、LED光の波長は、355〜380nmが好適である。
【0065】
工程2では、工程1で形成された重合開始点を起点にしてモノマーをラジカル重合させ、前記不活性フィルムの表面にポリマー鎖を成長させることが行われる。
【0066】
モノマーとしては特に限定されず、不活性フィルム表面上に重合させ、ポリマー鎖の形成が可能な単量体なら使用可能である。モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸アミン塩、(メタ)アクリロニトリルが挙げられ、更に分子内にC−N結合を持つモノマーなども挙げられる。分子内にC−N結合を持つモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド;N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド等);N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等);ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド;ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド誘導体(N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等);環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体((メタ)アクリロイルモルホリン等)などが挙げられる。なかでも、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アルカリ金属塩、アクリル酸アミン塩、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アルカリ金属塩、メタクリル酸アミン塩、アクリロニトリル、アクリルアミド、メトキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メトキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド、ヒドロキシメタクリルアミド、メトキシエチルアクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、メトキシメチルメタクリレート、及びヒドロキシエチルメタクリレートが好ましく、アクリルアミド、アクリル酸がより好ましい。
【0067】
モノマーとして、フッ素含有モノマーも使用できる。これにより、フッ素含有モノマーによる諸性能を付与したフッ素含有ポリマー鎖を作製できる。フッ素含有モノマーとしては、フルオロ基含有モノマー等が挙げられる。また、該フルオロ基含有モノマーとしては、フルオロアルキル基含有モノマー等が挙げられる。
【0068】
フルオロアルキル基含有モノマーは、ビニル基などの1個のラジカル重合性基及び少なくとも1個のフルオロアルキル基を有する化合物であれば特に制限なく、使用可能である。ここで、フルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換された基であり、炭素数7〜30のフルオロアルキル基が更に好ましく、末端にパーフルオロアルキル基を有する炭素数7〜30のフルオロアルキル基が特に好ましい。
【0069】
フルオロアルキル基含有モノマーは、モノマー中のフッ素原子量の割合が、モノマーの分子量に対して45質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
【0070】
フルオロアルキル基含有モノマーとしては、A−B(Aはラジカル重合性基、Bはフルオロアルキル基を示す。)で表される化合物を好適に使用できる。例えば、下記式(1)で示される。
【化11】
(式中、Raは、水素原子、メチル基、エチル基又はプロピル基を表す。Aは、−O−、−NH−を表す。Bは、置換基を有してもよいアルキレン基又はポリオキシアルキレン基を表し、存在しなくてもよい。Cは、ケトン基を表し、存在しなくてもよい。Rfは、置換基を有してもよいフルオロアルキル基を表す。)
【0071】
Bで示されるアルキレン基の炭素数は1〜15が好ましく、ポリオキシアルキレン基は(RO)で示されるもので、Rの炭素数は1〜10、重合度wは1〜150が好ましく、該アルキレン基及び該ポリオキシアルキレン基は置換基を有するものであってもよい。更に、Rfは末端にパーフルオロアルキル基を有する炭素数2〜40のフルオロアルキル基が好ましく、置換基を有するものであってもよい。B及びRfにおける置換基としては特に限定されず、水酸基などが挙げられる。
【0072】
上記フルオロアルキル基含有モノマーとしては、重合が容易なことから、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【化12】
(式中、R21は水素原子、メチル基、エチル基又はプロピル基、R22は炭素数1〜4のアルキレン基、Rfは末端にパーフルオロアルキル基を有する炭素数7〜30のフルオロアルキル基を示す。)
【0073】
21は水素原子又はメチル基が好ましく、R22は炭素数1〜3のアルキレン基が好ましい。また、Rfは末端にパーフルオロアルキル基を有する炭素数7〜20のフルオロアルキル基が好ましい。
【0074】
上記式(2)で表される好適な化合物としては、下記式(2−1)〜(2−3)で表される(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。
【化13】
(式中、R23は水素原子又はメチル基、kは7、8、9、10、11又は12を示す。)
【0075】
フルオロアルキル基含有モノマーの具体例としては、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12−heneicosafluorododecyl acrylate(HC=CHCOCHCH(CFCF)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−Heptadecafluorodecyl acrylate(HC=CHCOCHCH(CFCF)、HC=CHCOCH(CFCF、HC=CHCOCH(CFCF、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12−heneicosafluorododecyl methacrylate、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−Heptadecafluorodecyl methacrylate、3−(perfluorobutyl)−2−hydroxypropyl acrylate(F(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)、3−perfluorohexyl−2−hydroxypropyl acrylate(F(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)、3−(perfluoro−3−methylbutyl)−2−hydroxypropyl acrylate((CFCF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)、3−(perfluoro−5−methylhexyl)−2−hydroxypropyl acrylate((CFCF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)などが挙げられる。なかでも、表面自由エネルギーが低くなる、即ち摺動性が良好である点から、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12−heneicosafluorododecyl acrylate(HC=CHCOCHCH(CFCF)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−Heptadecafluorodecyl acrylate(HC=CHCOCHCH(CFCF)、3−(perfluorobutyl)−2−hydroxypropyl acrylate(F(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)、3−perfluorohexyl−2−hydroxypropyl acrylate(F(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)、3−(perfluoro−3−methylbutyl)−2−hydroxypropyl acrylate((CFCF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)、3−(perfluoro−5−methylhexyl)−2−hydroxypropyl acrylate((CFCF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH)が好ましい。これらは単独又は2種以上を併用できる。
【0076】
フルオロアルキル基含有モノマーとしてフルオロアルキル基を側鎖に持つビニルモノマーが使用可能であり、なかでも、側鎖の末端にフルオロアルキル基、二重結合側に近い部位にオキシアルキレン基を有するモノマーが好ましい。具体的には、下記式(3)で表されるモノマーを好適に使用できる。
【化14】
(式(3)中、R31は、水素、メチル基、エチル基又はプロピル基を表す。R32は、−O−、−NH−を表す。R41は、メチレン基、エチレン基又はプロピレン基を表す。R51は、ケトン基を表し、存在しなくてもよい。w1は、1〜100の整数を表す。zは、1〜6の整数を表す。)
【0077】
また、フルオロアルキル基含有モノマーとしては、下記式(4)、(5)、(6)で表されるモノマーも好適である。
【化15】
(式(4)中、R31は、水素、メチル基、エチル基又はプロピル基を表す。w2は、4〜10の整数を表す。zは、1〜6の整数を表す。)
【0078】
【化16】
(式(5)中、R31は、水素、メチル基、エチル基又はプロピル基を表す。w3及びw4は、各々独立に1〜6の整数を表す。zは、1〜6の整数を表す。)
【0079】
【化17】
(式(6)中、R31は、水素、メチル基、エチル基又はプロピル基を表す。w3及びw4は、各々独立に1〜6の整数を表す。zは、1〜6の整数を表す。αは、0〜2の整数を表す。)
【0080】
(R41O)w1、(CHw2などの分子運動性の高い構造を、重合後の主鎖になるCH=CR31と、(CFCFのフルオロアクリル基の間に置くことにより、(CFCF基やCF基が乾燥状態では表面に偏在しやすくなり、摺動性が向上するという点で好ましい。また、OH基、COOH基、C=O基、NH基などの水素結合可能な構造を、重合後の主鎖になるCH=CR31と、(CFCFのフルオロアクリル基の間に置くことにより、側鎖が拘束されて(CFCF基やCF基が乾燥状態でも表面に固定又は偏在しやすくなり、摺動性が向上するという点も好ましい。
【0081】
フルオロ基含有モノマーの他の具体例として、下記式で示される[1H,1H−perfluoro(2,5−dimethyl−3,6−dioxanonanoyl)]acrylate、[1H,1H−perfluoro(2,5−dimethyl−3,6−dioxanonanoyl)]methacrylate、pentafluorobenzyl acrylate、pentafluorobenzyl methacrylate、2,3,5,6−tetrafluorophenyl methacrylateも好ましい。
【化18】
【0082】
フッ素含有モノマーとしては、含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物、環状シロキサンなどが挙げられ、摺動性などの性能を付与できる。
【0083】
フッ素含有モノマーとしては、含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物等が挙げられ、例えば、フルオロアルキル基、フルオロアルキルエーテル基及び/又はジメチルシロキサン基を有するアクリレート又はメタクリレートを好適に使用できる。
【0084】
フッ素含有モノマーとしては、例えば、(A)下記式(7)で表される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物に、(B)(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸を付加反応させることにより得られる含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物を好適に使用できる。
【化19】
(Rf11はフルオロアルキル構造又はフルオロポリエーテル構造を含む分子量100〜40,000の一価又は二価の基である。Q11は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価の、シロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基であり、環状構造をなしていてもよく、Q12は炭素数1〜20の二価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合(−O−)又はエステル結合(−COO−)を含んでいてもよい。R11〜R13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、これらの基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されていても良く、R11とR12が結合してこれらが結合している炭素原子と共に一つの環をなしていても良い。Rf11が一価のときにはa’は1であり、かつaは1〜6の整数であり、Rf11が二価のときにはaは1であり、かつa’は2である。bは1〜20の整数である。)
【0085】
含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)について、式(7)のQ11としては、具体的には以下に示される構造のものなどが挙げられる。
【化20】
【0086】
なお、式中のa、bは前記と同一で、共に1〜4の整数が好ましく、また、a+bは3〜5の整数が好ましい。a個及びb個の各ユニットの並びはランダムであり、a個及びb個の各ユニットの破線で示される結合手は、Rf11又は下記式で示される基と結合する。
【化21】
(式中、Q12、R11〜R13は上記の通りである。)
【0087】
式(7)において、Q12の二価の炭化水素基の炭素数は2〜15が好ましく、Q12の具体的な構造としては、−CHCH−、−CHCH(CH)−、−CHCHCHOCH−などが挙げられる。
【0088】
11〜R13の一価炭化水素基の炭素数は1〜8が好ましく、R11〜R13の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0089】
このようなR11〜R13とQ12の組み合わせからなる前記式で示される基としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【化22】
【0090】
式(7)において、Rf11の分子量は500〜20,000が好ましい。また、Rf11は−C2iO−(iは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)で表される繰り返し単位を1〜500個、好ましくは2〜400個、より好ましくは4〜200個含むものが好適である。なお、本発明において、分子量は、H−NMR及び19F−NMRに基づく末端構造と主鎖構造との比率から算出される数平均分子量である。
【0091】
式(7)のRf11としては、下記式(8)で表される基が挙げられる。
【化23】
(Rf’11は二価の分子量300〜30,000のパーフルオロポリエーテル基であり、途中分岐を含んでいても良い。Q13は二価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造又は不飽和結合を有する基であってもよい。Q11はQ13又はフッ素原子である。Tは、下記式(9)
【化24】
(R11〜R13、Q12、a、bは式(7)で定義した通りであり、Q14は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価のシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基である。)
で表される連結基であり、vは0〜5の整数であり、なおかつQ11がフッ素原子のときv=0である。)
【0092】
式(8)において、Rf’11の分子量は500〜20,000が好ましく、Rf’11の具体例としては、下記式で表される二価のパーフルオロポリエーテル基などが挙げられる。
【化25】
(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF基、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜200、好ましくは0〜100の整数、但し、m+nは2〜200、好ましくは3〜150の整数である。sは0〜6の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【化26】
(式中、jは1〜3の整数、kは1〜200、好ましくは1〜60の整数である。)
【0093】
式(8)のQ13としては、下記のものが例示される。なお、式中、Phはフェニル基を示す。
【化27】
【0094】
式(7)において、Rf11が一価の場合、aは1〜3の整数が好ましい。bは1〜6の整数が好ましい。また、a+bは3〜6の整数が好ましい。
【0095】
式(7)におけるRf11の具体例としては、以下で示される基などが挙げられる。
【化28】
(式中、m、n、r、sは上述した通りである。)
【0096】
含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)の具体例としては、以下の化合物などを例示できる。
【0097】
【化29】
(式中、j、m、nは上記と同じである。b’は1〜8の整数である。)
なお、これらの含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0098】
(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸(B)としては、アクリル酸、メタクリル酸が好適であるが、2−クロロアクリル酸、2−(トリフルオロメチル)アクリル酸、2,3,3−トリフルオロアクリル酸等のように一部の水素原子が塩素、フッ素等のハロゲン原子でハロゲン化されているものを用いることもできる。また、必要に応じてこれらのカルボン酸がアリル基、シリル基等で保護されたものを用いることもできる。なお、これらの不飽和モノカルボン酸は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0099】
本発明における含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物は、含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)のエポキシ基と(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸(B)のカルボキシル基とを公知の方法で反応させて得られ、具体的には、以下に示す化合物などが挙げられる。
【0100】
【化30】
(式中、j、m、n、b’は上記と同じである。)
【0101】
本発明では、フッ素含有モノマーとして、前記具体例などの含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物及び前記具体例などの含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物の混合物を好適に使用でき、特に下記式で示される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物及び含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物の混合物が好ましい。これにより、本発明の効果が充分に得られる。
【化31】
(式中、b’+b’は2〜6.5であり、Rf’12は下記の基である。)
【化32】
(式中、nは2〜100である。)
【0102】
前記フッ素含有モノマーとしては、下記式;
(Rf2121SiO)(R21SiO)
(式中、R21は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rf21はフッ素原子を含有する有機基であり、Rは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、hはh≧2である。)
で表される環状シロキサンからなり、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物も挙げられる。
【0103】
多官能(メタ)アクリレート化合物において、Rf21としては、C2t+1(CH−(式中、tは1〜8の整数、uは2〜10の整数である。)で示される基又はパーフルオロポリエーテル置換アルキル基が挙げられ、具体的には、CF−、C−、C−、C17−、C17−、CC(CF−、COC(CF)FCFOCFCF−、COC(CF)FCFOC(CF)FC−、CFCFCFOC(CF)FCFOC(CF)FCONHC−等が例示できる。
【0104】
の具体例としては、CH=CHCOO−、CH=C(CH)COO−、CH=CHCOOC−、CH=C(CH)COOC−、CH=CHCOOCO−、CH=C(CH)COOCO−等が挙げられる。更にRは、Si原子への結合がSi−O−C結合であることが好ましい。hについては、3≦h≦5が好ましい。
【0105】
多官能(メタ)アクリレート化合物は、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上、好ましくはF原子を3〜17個及びSi原子を3〜8個含有するものである。
【0106】
前記多官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、以下に示す化合物などが例示される。
【化33】
【0107】
また本発明では、フッ素含有モノマーとして、赤外線吸収スペクトルの1045cm−1付近、1180cm−1付近、806cm−1付近、1720cm−1付近、1532cm−1付近、3350cm−1付近に吸収ピークを持つものを使用することが好ましく、特に1045cm−1付近と1180cm−1付近に強い吸収ピークを持ち、806cm−1付近と1720cm−1付近に吸収ピークを持ち、1532cm−1付近に弱い吸収ピークを持ち、3350cm−1付近にブロードな弱い吸収ピークを持つものが好適である。この場合、摺動性などの性能に優れたフッ素含有ポリマー鎖を形成できる。
【0108】
更にフッ素含有モノマーは、Chloroform−d(重クロロホルム)溶液での13C NMRスペクトルにおいて、化学シフト値として13.01、14.63、23.04、40.13、50.65、63.54、68.97、73.76、76.74、77.06、77.38、113.21、114.11、116.96、117.72、118.47、128.06、131.38、156.46、166.02ppm付近にシグナルを持つものが好ましい。
【0109】
また、フッ素含有モノマーは、Chloroform−d(重クロロホルム)溶液でのH NMRスペクトルにおいて、化学シフト値として3.40、3.41、3.49、3.60、5.26、5.58、6.12、6.14、6.40、6.42、6.46ppm付近にシグナルを持つものが好ましい。
【0110】
フッ素含有モノマーとしては、フッ素含有ウレタン(メタ)アクリレートモノマーも挙げられる。フッ素含有ウレタン(メタ)アクリレートモノマーは、分子内にウレタン結合と(メタ)アクリレート構造を有するフッ素含有モノマーであれば特に制限なく使用可能である。該モノマー中の(メタ)アクリレート基数については、摺動性などの観点から、多官能の(メタ)アクリレート基を有する化合物が好ましく、なかでも、2〜4官能の(メタ)アクリレート基を有する化合物が好ましい。
【0111】
フッ素含有ウレタン(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、フッ素含有ポリオール、ジイソシアネート、及び水酸基、カルボキシル基又はアミン基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られる化合物等が挙げられ、ジイソシアネートのイソシアネート基を、ポリオールの水酸基、及び水酸基、カルボキシル基又はアミン基含有(メタ)アクリレートの水酸基と、それぞれ公知の方法で反応させることで調製される。
【0112】
ここで用いるフッ素含有ポリオールとしては、公知の多官能ポリオール(2〜4官能等)等を使用でき、具体的には、下記式で表されるパーフルオロポリエーテルが挙げられる。
Z−CF−〔(OCFCF−(OCF〕−O−CF−Z
(式中、Zは、同一又は異なって、−CH(OCHCHOH(kは0〜10、好ましくは1〜7である。)を示す。m、nは、同一又は異なって、1以上の整数を表す(好ましくは、mは1〜40、nは1〜70))
【0113】
ジイソシアネートとしては特に限定されず、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(H12−MDI)、シクロヘキシル−1,4−ジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)またはその異性体、トルエン2,4−ジイソシアネート(TDI)またはその異性体、キシリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、p−フェニレン−ジイソシアネート等、公知の化合物が挙げられる。水酸基、カルボキシル基又はアミン基含有(メタ)アクリレートとしても特に限定されず、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸等、公知の化合物が挙げられる。
【0114】
フッ素含有ウレタン(メタ)アクリレートモノマーの構造としては、下記式(10)で表されるフルオロアルキルエーテル基を有するモノマー等、が挙げられる。
【化34】
(式(10)中、Xは、同一又は異なって、ウレタン(メタ)アクリレート基を表す。p、qは、同一又は異なって、1以上の整数を表す。)
【0115】
Xで示されるウレタン(メタ)アクリレート基は、ウレタン結合と(メタ)アクリレート構造を有する基であれば特に限定されず、摺動性等の点から適宜選定すれば良い。pは1〜40が好ましく、qは1〜70が好ましい。
【0116】
また、フッ素含有ウレタン(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、以下の化合物等が挙げられる。
【0117】
【化35】
(式中、Yは、下記式(a)で示される繰り返し構造単位1及び下記式(b)で示される繰り返し構造単位2の少なくとも一方を表す。該繰り返し構造単位1の繰り返し数r及び該繰り返し構造単位2の繰り返し数sは、それぞれ独立に、0≦r≦50、0≦s≦50であり、かつr+s≧1である。)
【化36】
【0118】
なお、前記式において、繰り返し構造単位1、2の両方を有する場合、これらは、ブロック共重合体構造、ランダム共重合体構造のいずれでもよい。また、式(a)、(b)で示されるパーフルオロポリエーテル(PFPE)構造の数平均分子量は、好ましくは100〜20,000、より好ましくは380〜20,000である。
【0119】
また、モノマーとして、カルボキシベタイン、スルホベタイン、ホスホベタインなどの双性イオン性モノマー(双生イオン性基含有化合物:永久陽電荷の中心及び陰電荷の中心を有する化合物)も使用できる。優れた摺動性、耐久性が得られ、かつ良好なシール性も維持できる点から、双性イオン性モノマーとして、下記式(11)で示される化合物を使用でき、なかでも、下記式(12)で表される化合物が好適である。
【化37】
(式中、R11は−H又は−CH、Xは−O−又はNH−、mは1以上の整数、Yは双性イオン性基を表す。)
【0120】
式(11)において、R11は−CH、Xは−O−、mは1〜10が好ましい。Yで表される双性イオン性基において、カチオンとしては、テトラアルキルアンモニウムなどの第四級アンモニウム、アニオンとしては、カルボン酸、スルホン酸、ホスフェートなどが挙げられる。
【化38】
(式中、R11は−H又は−CH、p及びqは1以上の整数、Y及びYは反対の電荷を有するイオン性官能基を表す。)
【0121】
式(12)において、pは2以上の整数が好ましく、2〜10の整数がより好ましい。qは1〜10の整数が好ましく、2〜4の整数がより好ましい。また、好ましいR11は前記と同様である。Y及びYは、前記カチオン、アニオンと同様である。
【0122】
前記双性イオン性モノマーの好適な代表例としては、下記式(12−1)〜(12−4)で表される化合物が挙げられる。
【化39】
(式中、R11は水素原子又はメチル基、p及びqは1〜10の整数を示す。)
【0123】
【化40】
(式中、R11は水素原子又はメチル基、p及びqは1〜10の整数を示す。)
【0124】
【化41】
(式中、R11は水素原子又はメチル基、R12は炭素数1〜6の炭化水素基、p及びqは1〜10の整数を示す。)
【0125】
【化42】
(式中、R11は水素原子又はメチル基、R13、R14及びR15は、同一若しくは異なって炭素数1又は2の炭化水素基、p及びqは1〜10の整数を示す。)
【0126】
上記式(12−1)で表される化合物としては、ジメチル(3−スルホプロピル)(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムベタインなど、式(12−2)で表される化合物としては、ジメチル(2−カルボキシエチル)(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムベタインなど、式(12−3)で表される化合物としては、ジメチル(3−メトキシホスホプロピル)(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムベタインなど、式(12−4)で表される化合物としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなどが挙げられる。また、双性イオン性モノマーとしては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルスルホベタインなども挙げられる。なかでも、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが好ましい。
【0127】
工程2のモノマーのラジカル重合の方法としては、ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物などが吸着した摺動部や接液部に積層された不活性フィルムの表面に、モノマー含有液を塗工(噴霧)し、又は、該不活性フィルムをモノマー含有液に浸漬し、UV光を照射することでそれぞれのラジカル重合(光ラジカル重合)が進行し、該不活性フィルム表面に対して、ポリマー鎖を成長させることができる。更に前記塗工後に、表面に透明なガラス・PET・ポリカーボネートなどで覆い、その上から紫外線などの光を照射することでそれぞれのラジカル重合(光ラジカル重合)を進行させ、不活性フィルム表面に対して、ポリマーを成長させることもできる。
【0128】
塗工(噴霧)溶媒、塗工(噴霧)方法、浸漬方法、照射条件などは、従来公知の材料及び方法を適用できる。なお、ラジカル重合性モノマーの溶液としては、水溶液又は使用する光重合開始剤(ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物など)を溶解しない有機溶媒に溶解させた溶液が使用される。また、ラジカル重合性モノマー含有液として、4−メチルフェノールなどの公知の重合禁止剤を含むものも使用できる。
【0129】
本発明では、モノマー含有液の塗布後又はモノマー若しくはその溶液への浸漬後、光照射することでモノマーのラジカル重合が進行するが、主に紫外光に発光波長をもつ高圧水銀灯、メタルハライドランプ、LEDランプなどのUV照射光源を好適に利用できる。照射光量は、重合時間や反応の進行の均一性を考慮して適宜設定すればよい。また、反応容器内や反応筒内における酸素などの活性ガスによる重合阻害を防ぐために、光照射時又は光照射前において、反応容器内、反応筒内や反応液中の酸素を除くことが好ましい。そのため、反応容器内、反応筒内や反応液中に窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを導入して酸素などの活性ガスを反応系外に排出し、反応系内を不活性ガス雰囲気に置換すること、反応容器内を真空引きし、酸素を脱気すること、などが適宜行われている。更に、酸素などの反応阻害を防ぐために、UV照射光源をガラスやプラスチックなどの反応容器と反応液や基材ガスケットの間に空気層(酸素含有量が15%以上)が入らない位置に設置する、などの工夫も適宜行われる。
【0130】
紫外線の波長は、300〜400nmである。これにより、摺動部や接液部に積層された不活性フィルムの表面に良好にポリマー鎖を形成できる。光源としては高圧水銀ランプや、365nmの中心波長を持つLED、375nmの中心波長を持つLEDなどを使用することが出来る。355〜380nmのLED光を照射することがより好ましい。特に、ベンゾフェノンの励起波長366nmに近い365nmの中心波長を持つLEDなどが効率の点から好ましい。波長が300nm未満では、基材ガスケットや不活性フィルムの分子を切断させて、ダメージを与える可能性があるため、300nm以上の光が好ましく、基材ガスケットや不活性フィルムのダメージが非常に少ないという観点から、355nm以上の光が更に好ましい。一方、400nmを超える光では、光重合開始剤が活性されにくく、重合反応が進みにくいため、400nm以下の光が好ましい。なお、LED光は波長が狭く、中心波長以外の波長が出ない点で好適であるが、水銀ランプ等でもフィルターを用いて、300nm未満の光をカットすれば、LED光と同様の効果を得ることも可能である。
【0131】
また、本発明のシリンジ用ガスケットは、前記基材ガスケットの摺動部や接液部に積層された不活性フィルムに対し、光重合開始剤の存在下でモノマーをラジカル重合させ、該不活性フィルムの表面にポリマー鎖を成長させる工程Iを含む形成方法により、摺動部や接液部に積層された不活性フィルム表面にポリマー鎖を形成することもできる。具体的には、光重合開始剤を開始剤としてUV光を照射してモノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を作製することで、不活性フィルム表面にポリマー層が形成されたシリンジ用ガスケットを製造できる。工程Iで使用される改質対象物、光重合開始剤、モノマーとしては、前記と同様のものを使用できる。
【0132】
例えば、工程Iは、摺動部や接液部に積層された不活性フィルムの表面に光重合開始剤及びモノマーを接触させた後、300〜400nmのLED光を照射することで、該光重合開始剤から重合開始点を生じさせるとともに、該重合開始点を起点としてモノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を成長させることにより実施できる。
【0133】
工程Iのモノマーのラジカル重合の方法としては、不活性フィルムの表面に、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などの光重合開始剤を含むモノマー含有液を塗工(噴霧)し、又は、不活性フィルムを光重合開始剤を含むモノマー含有液に浸漬し、紫外線などの光を照射することでラジカル重合(光ラジカル重合)が進行し、該不活性フィルム表面に対して、ポリマー鎖を成長させることができる。更に、前述の透明なガラス・PET・ポリカーボネートなどで覆い、その上から紫外線などの光を照射する方法なども採用できる。なお、塗工(噴霧)溶媒、塗工(噴霧)方法、浸漬方法、照射条件などは、前述と同様の材料及び方法を適用できる。
【0134】
工程2、工程Iで形成されるポリマー鎖の長さは、好ましくは10〜50000nm、より好ましくは100〜50000nmである。10nm未満であると、良好な摺動性が得られない傾向がある。50000nmを超えると、摺動性の更なる向上が期待できず、高価なモノマーを使用するために原料コストが上昇する傾向があり、また、表面処理による表面模様が肉眼で見えるようになり、美観を損ねたり、シール性が低下する傾向がある。
【0135】
工程2、工程Iでは、2種以上のモノマーを同時にラジカル重合させてもよい。更に、摺動部や接液部に積層された不活性フィルムの表面に複数のポリマー鎖を成長させてもよい。本発明では、ポリマー鎖間を架橋してもよい。この場合、ポリマー鎖間には、イオン架橋、酸素原子を有する親水性基による架橋、ヨウ素などのハロゲン基による架橋が形成されてもよい。
【0136】
上述のポリマー形成方法を適用することで、ポリマー鎖で改質された不活性フィルム表面を少なくとも一部に有するシリンジ用ガスケットを製造できる。改質は、不活性フィルム表面の少なくとも一部に施されていればよく、基材ガスケットの表面全体に施されていてもよいが、摺動性等の点から、摺動部における不活性フィルム表面が施されていることが好ましい。
【実施例】
【0137】
(実施例1)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)に架橋剤としてトリアジンを混合した未加硫ゴムシートと厚み100μmの不活性フィルム(PTFEフィルム)とを貼り合わせて、真空プレスで175℃、10分間加硫接着しながら成形し、図1に示す形状の基材ガスケットを得た。得られた基材ガスケットを洗浄し、乾燥させた後、ベンゾフェノンの3wt%アセトン溶液に浸漬して、不活性フィルム表面にベンゾフェノンを吸着させ、乾燥させた。
乾燥した基材ガスケットをアクリルアミドの水溶液(1.25M、8.9gのアクリルアミドを100mlの水に溶解)の入ったガラス反応容器に浸漬し、365nmの波長を持つLED−UV光を90分間照射してラジカル重合を行って、不活性フィルム表面にポリマー鎖を成長させ、目的のシリンジ用ガスケットを得た。
【0138】
(実施例2)
アクリルアミド水溶液に代えて、アクリルアミド/アクリル酸混合水溶液(1.25M、アクリルアミド:アクリル酸=90:10)を使用し、重合(照射)時間を60分間にした以外は、実施例1と同様にして目的のシリンジ用ガスケットを得た。
【0139】
(実施例3)
アクリルアミド水溶液に代えて、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−Heptadecafluorodecyl acrylateを使用し、重合(照射)時間を300分間にした以外は、実施例1と同様にして目的のシリンジ用ガスケットを得た。
【0140】
(実施例4)
アクリルアミド水溶液に代えて、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン水溶液(2.5M)を使用し、重合(照射)時間を120分間にした以外は、実施例1と同様にして目的のシリンジ用ガスケットを得た。
【0141】
(実施例5)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)に架橋剤としてトリアジンを混合した未加硫ゴムシートと厚み100μmの不活性フィルム(PTFEフィルム)とを貼り合わせて、真空プレスで175℃、10分間加硫接着しながら成形し、図1に示す形状の基材ガスケットを得た。得られた基材ガスケットを洗浄し、乾燥させた後、ベンゾフェノンの3wt%アセトン溶液に浸漬して、不活性フィルム表面にベンゾフェノンを吸着させ、乾燥させた。
乾燥した基材ガスケットの不活性フィルム表面に、フルオロ基含有モノマー液(信越化学工業社製:KY−1203、下記式で示される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物及び含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物の混合物)を塗布し、365nmの波長を持つLED−UV光を15分間照射してラジカル重合を行って、不活性フィルム表面にポリマー鎖を成長させ、目的のシリンジ用ガスケットを得た。
【化43】
(式中、b’+b’は2〜6.5であり、Rf’12は下記の基である。)
【化44】
(式中、nは2〜100である。)
【0142】
(比較例1)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)をトリアジンで架橋した加硫ゴムガスケット(175℃で10分加硫)そのものを用いた。
【0143】
(比較例2)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)に架橋剤としてトリアジンを混合した未加硫ゴムシートと厚み100μmの不活性フィルム(PTFEフィルム)とを貼り合わせて、真空プレスで175℃、10分間加硫接着しながら成形し、図1に示す形状のシリンジ用ガスケットを得た。
【0144】
実施例、比較例で作製したシリンジ用ガスケットを以下の方法で評価した。
(ポリマー鎖の長さ)
ガスケットの表面に形成されたポリマー鎖の長さは、ポリマー鎖が形成された改質ゴム断面を、SEMを使用し、加速電圧15kV、1000倍で測定した。撮影されたポリマー層の厚みをポリマー鎖の長さとした。
【0145】
(摩擦抵抗力)
ガスケットの表面の摩擦抵抗力を測定するために、実施例、比較例で作製したシリンジ用ガスケットを注射器のCOP樹脂シリンジにセットし、引張試験機を用いて押し込んでいき、そのときの摩擦抵抗力を測定した(押し込み速度:100mm/min)。比較例1の摩擦抵抗力を100として、下記式を用い、各実施例について摩擦抵抗指数で示した。指数が小さい方が、摩擦抵抗力が低いことを示す。
(摩擦抵抗指数)=各実施例の摩擦抵抗力/比較例1の摩擦抵抗力×100
【0146】
【表1】
【0147】
表1より、実施例のガスケットは、比較例1に比べて、摩擦抵抗力が大きく下がり、良好な摺動性が得られることが明らかとなった。比較例2と比べても、摺動部が表面改質されているため、摺動性が改善されていた。また、表面のみ改質したものであるため、シール性は、比較例1と同等であった。溶出物試験では、比較例1は、接液部のゴムが液に露出しているので、溶出量は多かったが、実施例では、接液部は不活性フィルムで覆われているため、溶出量は非常に少なかった。更に、摺動の繰り返しに対する耐久性試験では、不活性フィルムのみで覆われている比較例2よりも、実施例の方が摺動の繰り返しに対する耐久性が向上した。
【0148】
従って、注射器のガスケットに使用した場合、充分なシール性とともに摩擦力が軽減され、注射器による処置を容易にかつ正確に行うことができる。また、接液部のゴムに含まれる各種添加剤が、接液によって薬液へ溶出する量も少なく、薬液の効果および安定性に悪影響を与えることはない。
【符号の説明】
【0149】
1 基材ガスケット
2 接液部
3 摺動部
4 嵌合穴
5 不活性フィルム
図1
図2
図3
図4