(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関(9)に設けられ、柱状の中心電極(1)と、該中心電極の側面を覆う筒状の誘電体(2)と、該誘電体を収容保持する筒状のハウジング(3)と、該ハウジングの先端に延設され前記内燃機関の燃焼室に臨む環状の接地電極(30)とを有する点火プラグ(6、6a〜6e)と、
前記中心電極と前記接地電極との間に所定の周波数と所定の尖頭値を有する交流電圧を印加する交流電源(7、7f、7g)と、を具備し、
前記交流電源からの交流電圧の印加により、前記誘電体で覆われた前記中心電極と前記接地電極との間に高周波電界を作用させて、ストリーマ放電を発生させて上記内燃機関に設けた燃焼室(90)内に導入した混合気の点火を行う点火装置であって、
前記点火プラグが、
前記誘電体の先端にその一部が前記接地電極から前記燃焼室の内側に突出する誘電体放電部(20)と、
前記接地電極と前記誘電体放電部との間に環溝状に区画した放電空間(4)とを具備し、
前記交流電源からの交流電圧の印加により、前記放電空間内に前記誘電体放電部の表面を這うように形成される沿面ストリーマ放電を発生させるものであり、
前記誘電体放電部が前記接地電極から突出する誘電体放電部突出長さ(L20)は、前記誘電体放電部の肉厚(T20)より長く設定されていることを特徴とする点火装置(8、8a〜8g)
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1を参照して本発明の第1の実施形態における点火装置8の概要について説明する。
本発明の点火装置8は、内燃機関9のエンジンヘッド91に先端が燃焼室90内に露出するように設けた点火プラグ6と、点火プラグ6に所定の周波数の交流電圧を印加する交流電源7によって構成されている。
内燃機関9は、いわゆるレシプロエンジンであり、エンジンヘッド91と図略のシリンダとのシリンダ内を昇降可能に収容したピストン92とによって燃焼室90を区画し、燃焼室90内に導入した混合気の燃焼膨張力によりピストン92を押し下げ動力を発生する。
【0025】
点火装置8は、内燃機関9の運転状況に応じて、交流電源7から印加する交流電圧の周波数f、印加時間T
IG、尖頭値V
PPのいずれか又はこれらを組み合わせて切り換えることにより、沿面ストリーマ放電と沿面アーク放電との切換が可能となっている。
本発明の要部である点火プラグ6は、柱状に伸びる中心電極1と、中心電極1の外周を覆う筒状の誘電体2と、誘電体2を収容保持する筒状のハウジング3と、ハウジング3に延設した環状の接地電極30と、接地電極30と誘電体2との間に区画した環溝状の放電空間4と、誘電体2とハウジング3との気密を保持する封止部材5とによって構成されている。
【0026】
中心電極1は、鉄、ニッケルや、これらの合金等の、耐熱性、導電性に優れた金属材料からなり柱状に形成されている。
中心電極1は、中心電極放電部10、中心電極連結部11、中心電極中軸部12、中心電極端子部13によって構成されている。
中心電極放電部10には、銅等の高導電性材料を組み合わせて用いても良い。
なお、本実施例においては、製造が容易となるように、中心電極放電部10、中心電極連結部11、中心電極中軸部12、中心電極端子部13を別体で構成しているが、これに限定するものではない。
また、中心電極連結部11に雑音防止抵抗を持たせるなどしても良い。
【0027】
中心電極連結部11は、銅等の導電性材料を、ガラス中に分散させた導電性接着剤を用いて中心電極放電部10と中心電極中軸部12との電気的な接続を図ると共に、誘電体2と中心電極1との気密性を確保している。
中心電極放電部10の先端は、誘電体2の先端側から露出している。
中心電極端子部13は、誘電体2の基端側から露出して設けられている。
なお、中心電極放電部10が誘電体2の先端から露出する部分にイリジウムや白金等の貴金属耐熱部材を用いても良い。
【0028】
誘電体2は、アルミナ、ジルコニア等の高耐熱性の絶縁セラミック材料を用いて、筒状に形成されている。
誘電体2は、中心電極1の外周を覆い、中心電極1とハウジング3及び接地電極30との電気絶縁性を確保している。
誘電体2の基端側からは、中心電極端子部23が露出し、交流電源7に接続されている。
誘電体2の内周表面が中心電極1の外周表面と接する位置には、中心電極1の表面との間でストリーマ放電が起こらないよう、図略の金属膜を形成し、誘電体2の外周表面と中心電極1の内周表面とが弾性的に当接して密着状態となっている。
【0029】
誘電体2は、誘電体放電部(細径部)20と、誘電体径変部21と、誘電体胴部(中径部)22と、誘電体係止部(大径部)23と、誘電体頭部(コルゲート部)24とによって構成されている。
誘電体放電部20は、誘電体胴部22よりも細径の筒状に形成され、燃焼室90に露出している。
【0030】
また、誘電体放電部20の一部が接地電極30から燃焼室90内に突出している。
誘電体胴部22の基端側には、径大となり、鍔状に張り出した誘電体拡径部23が形成され、公知の封止部材5を介してハウジング3によって加締め固定されている。
誘電体係止部23の基端側には、ハウジング3から露出する誘電体頭部24が形成されている。
誘電体頭部24の一部にコルゲート部を設けて沿面距離を長くして、中心電極端子部13とハウジング3との間での沿面放電の発生を防止するようにしても良い。
接地電極30の内周面と誘電体放電部20の内周面と誘電体径変部21の内周面とで環状の放電空間4が区画されている。放電空間4は燃焼室90に連通している。
なお、放電空間4の容積は10mm
3以下とするのが望ましい。 放電空間4の容積が大きくなると、沿面ストリーマ放電で発生した荷電粒子が燃焼室90内に放出されず、放電空間4内にとどまり、着火性向上に寄与しないおそれがある。
【0031】
放電空間4の底面は、金属製のハウジング3の一部を誘電体放電部20に向かって張り出させるのではなく、誘電体径変部21の内周面によって構成されるのが望ましい。
なお、本発明においては、誘電体放電部20が接地電極30から燃焼室90内に突出する誘電体放電部突出長さL
20は、誘電体放電部20の肉厚T
20よりは長く(具体的には、1mm以上)、10mm以下とするのが望ましい。
また、中心電極放電部10の先端から、上死点におけるピストン92の頂面までの距離H
20は、少なくとも、中心電極放電部10の先端から接地電極30までの直線距離よりも十分長くするのが望ましい(具体的には、10mm以上)。
【0032】
ハウジング3は、鉄、ニッケル、これらの合金、ステンレス等の公知の耐熱性金属材料が用いられ、筒状に形成されている。
本実施形態におけるハウジング3は、接地電極30と、側面電極部31と、ネジ部32と、ハウジング径変部33と、ハウジング胴部34と、加締め部35と、六角部36とによって構成されている。
ハウジング3は、誘電体2に保持された中心電極1の先端を燃焼室90の所定位置に保持するとともに、ハウジング3の先端に延設した環状の接地電極30をエンジンヘッド91に接地状態としている。
【0033】
接地電極30は、ハウジング3の先端において内燃機関9の燃焼室90に臨むように設けられ、環状に形成されている。
接地電極30は、一定の間隙を隔てて誘電体放電部20の外周表面を取り囲んでいる。
接地電極30の基端側に延設して筒状の側面電極31が形成されている。
【0034】
側面電極31の内側には、誘電体胴部22が収容されている。
側面電極31の外周には、点火プラグ6を内燃機関9のエンジンヘッド91に螺旋締め固定するためのネジ部32が形成されている。
側面電極31の基端側に延設して、筒状のハウジング胴部34が形成され、内側に誘電体2の拡径部23を収容している。
側面電極31とハウジング胴部34との間には、先端側に向かって縮径するハウジング径変部33が設けられ、誘電体拡径部23の先端側面が係止されている。
【0035】
誘電体拡径部23が、封止部材5を介して、ハウジング径変部33と加締め部35とによって挟持されている。
さらに、タルク等の粉末充填部材51や金属製パッキン等のシール部材50、52等からなる公知の封止部材5を介して、加締め部35によって、誘電体拡径部23に軸力を作用させ、誘電体2を気密に保持している。
ハウジング胴部34の外周には、ネジ部32をエンジンヘッド91に螺結するための六角部36が形成されている。
【0036】
交流電源7は、公知の正弦波発振器と昇圧トランスとを組み合わせたものを用いることができる。
交流電源7は、所定の周波数と所定の尖頭値電圧を有する交流電圧を発生し、誘電体2によって絶縁された中心電極1と接地電極30との間に高周波電界を作用させて、接地電極30及び側面電極31の表面から中心電極放電部10の先端に向かって誘電体2の表面を這うように伸びる沿面ストリーマ放電を発生させ、一定の条件下では、交流アーク放電に移行させることができる。
第1の実施形態における交流電源7は、発生する交流電圧及び交番周波数を一定の条件とし、放電空間のインピーダンス変化によって、沿面ストリーマ放電から交流アーク放電への移行が決定される構成となっている。
【0037】
図2A、
図2B、
図2Cを参照して、
図1の点火装置8の作動について説明する。
交流電源7から、1MHz以下の周波数で、尖頭値(ピークピーク電圧とも称する。)V
PPが25kVの交流電圧V2を発生させ、沿面放電プラグ6に印加したときの波形を
図2Aに示す。
図2Aに示すように、点火信号IGtの立ち上がりに同期して交流電源7からの交流電圧の印加が開始され、尖頭値V
PPが10kVを超えた当たりから、
図2Bに示すように、放電空間4内において、側面電極31及び接地電極30の表面から、誘電体放電部20の表面に向かって伸びるように沿面ストリーマ放電が発生し、沿面ストリーマ放電の周辺には、荷電粒子が生成される。
このとき、側面電極31及び接地電極30と誘電体放電部20を介して対向する中心電極放電部10の側面との間に形成された電界によって、誘電体放電部20の表面に電荷が集まるため発生したストリーマ放電は、誘電体放電部20の表面を這うように進展する。
【0038】
誘電体放電部20の表面を這うように進展した沿面ストリーマ放電の一部が中心電極放電部10の先端に到達すると
図2Cに示すように、接地電極30の内周縁と中心電極放電部10の先端側面との間に沿面アーク放電(交流アーク放電とも称する。)が形成される。
図2Aに示すように、ストリーマ放電の期間は高電圧が必要とされるが、数サイクル後に放電経路が形成され沿面アーク放電に移行した後は、低い印加電圧でも放電が維持できる。
本実施例のように正弦波発振器とトランスを組み合わせた交流電源を用いた場合、交流電源に外部から条件変更の制御を加えなくとも、インピーダンスの変化により印加電圧は自動的に減少する。
【0039】
図2Bに示した沿面ストリーマ放電によって発生した荷電粒子は、燃焼室90内の混合気の反応性を高め、
図2Cに示すように、接地電極30と中心電極放電部10との間に極めて長い沿面アーク放電が形成されるために、混合気に容易に着火することができる。
また、本発明の点火装置8では、交流電源7から交流電圧を印加している間は沿面アーク放電を発生し続けることができるため、従来に比べて遙かに長い期間、混合気に着火エネルギを与えることができ、超希薄な混合気への着火や、燃焼室90内に強い筒内気流が発生していても確実に点火を実現することができる。
【0040】
図3A、
図3Bを参照して、燃焼室90内に強い筒内気流が生じている場合における本発明の効果について説明する。
沿面アーク放電が筒内気流によって引き延ばされると、
図3Bに示すように放電距離が長くなる。
このとき、
図3Aに示すように、筒内気流TMBによって放電距離が引き伸ばされて沿面アーク放電発生時の放電電圧が徐々に上昇し、一定の電圧(例えば、尖頭値V
PPで25kV)を超えると沿面アーク放電の維持が困難となるおそれがある。
しかし、一旦沿面アーク放電が途切れても、交流電源7から交流電圧が印加されている限り直ちに沿面ストリーマ放電が開始され、再度、沿面アーク放電に移行する、
放電距離の引き伸ばしによって放電電圧が上昇しても一定の電圧範囲(例えば、尖頭値V
PPで25kV以下)であれば、沿面アーク放電は途切れることなく維持される。
本実施形態における交流電源7を用いた場合には、二次電圧V2の変化を検出せずとも、放電空間のインピーダンスの変化によって自動的に一定の放電電圧が維持される。
【0041】
図4を参照して、本発明の効果を説明する。また、
図15に示す従来の点火装置8zを用いた場合を比較例として示す。
従来の火花点火プラグ6zに、―30kVの直流電圧を印加して、中心電極1zと接地電極30zとの間に気中アーク放電を発生させて、混合気の点火を行った場合には、
図4中に比較例として示すように、希薄限界空燃比は23であった。
一方、
図1の点火装置8を用いて、交流電源7から、周波数400MHzを下回る周波数で尖頭値V
PP25kV(ピーク値V
P12.5kV)の交流電圧を印加して、沿面ストリーマ放電を維持した場合には、
図4中に実施例1として示すように、希薄限界空燃比は24であった。
実施例2として示すように、
図1の点火装置8を用いて、交流電源7から、周波数400MHz以上、1MHz以下、尖頭値V
PP25kV(ピーク値V
P12.5kV)の交流電圧を印加し、交流アーク放電を発生させて点火を行った場合には、
図4中に実施例2として示すように希薄限界空燃比は28であった。
本発明の点火装置8を用いることにより、従来の点火装置よりも希薄な混合気の着火が可能であることが確認された。
【0042】
図5A、
図5Bを参照して、本発明の点火装置の制御方法について説明する。
内燃機関9の回転速度と負荷とによって、希薄燃焼領域と、ストイキ燃焼領域とに分けた燃焼制御を実施する場合に、
図5Aに示すように、希薄燃焼領域においては、難着火性となるため、沿面ストリーマ放電を前駆として、沿面アーク放電への移行を実施し、ストイキ燃焼領域では、易着火性となるため、沿面ストリーマ放電のみを発生させる。
希薄燃焼領域においては、燃焼室90内に導入した混合気が希薄であっても、中心電極放電部10の先端と接地電極30の内周縁との間に発生させた極めて長い沿面アーク放電を、長期間(例えば、1ms)に亘って作用させることが可能であるので安定した着火が実現できる。
ストイキ燃焼領域では、放電空間4内において発生させた荷電粒子を燃焼室90内に導入した混合気と反応させて体積着火を実施する。
沿面ストリーマ放電から沿面アーク放電への移行を確実にするためには、交流電源7から印加される交流電圧の周波数fは400kHz以上、1MHz以下とするのが望ましく、尖頭値V
PPは、25kV以上、50kV以下とするのが望ましい。
【0043】
また、
図5Bに示すように、交流電圧の周波数fを1MHzを超える周波数とするか、400kHzを下回る周波数とすることで、沿面ストリーマ放電を維持することもでき、周波数fを400kHz以上、1MHz以下とすることで、意図的に沿面ストリーマ放電を沿面アーク放電に移行させることもできる。
本実施形態においては、内燃機関の運転状態に応じて、沿面アーク放電を実施するか、沿面ストリーマ放電を実施するかの条件を設定してしまえば、放電開始後は、インピーダンスの変化によって、自然に一定の尖頭値V
PPに維持されるので、放電中に放電電圧や放電周期を切り換えるための制御手段を設けなくても良い。
また、スイッチングによって沿面ストリーマ放電を沿面アーク放電に移行させないようにすることも可能である。
本発明者等の鋭意試験により、
(1)交流電圧の尖頭値V
PPを5kV以上とすることで、吹き消えを防止できること、(2)尖頭値V
PPを25kV以上とし、周波数fを400kHz以上、1MHz以下とすることで、交流アーク放電への移行を意図的に安定して行うことができること、
(3)尖頭値V
PPを5kV以上、25kVよりも低くすることで、周波数によらず、沿面ストリーマ放電を維持することができること、
(4)尖頭値V
PPを25kV以上で固定しても、交番周波数fを400kHzより低く、又は、1MHzよりも高くすることで、沿面ストリーマ放電を維持できることが判明した。
このことから、
図5Aに示した運転条件に対して、任意に沿面ストリーマ放電と交流アーク放電とを切り換えることで、安定した着火と耐久性の向上との両立を図ることが可能となる。
以下、より具体的な交流電源7の制御方法に係る、本発明の第2、第3の実施形態における点火装置8a、8bについて説明する。
【0044】
図6A、
図6Bを参照して、本発明の第2の実施形態における点火装置8aについて説明する。なお、以下の実施形態において、前記実施形態と同じ構成については、同じ符号を付し、それぞれの実施形態の特徴的な部分については、アルファベットの枝番を付したので、前期実施形態と共通する部分の説明を省略し、それぞれの実施形態における特徴を中心に説明する。
【0045】
本実施形態においては、交流電源7aを、被制御部70aと制御部71aとによって構成し、制御部71aによって、交流電源7aから供給する交流電圧の周波数f(Hz)、及び/又は、尖頭値V
PP(kV)を運転状況に応じて切換可能としている。
本実施形態における制御部71aでは、エンジン回転数NE(rpm)とエンジン負荷TQ(Nm)とに対する目標空燃比を予め設定したマップを用意し、エンジン回転数NE、エンジン水温TW、クランク角CA、燃焼室圧力PSYL、アクセル開度THL等の一般的に内燃機関の運転状況を検出するための各種センサSENからの運転状況パラメータINFに基づいて、目標空燃比T
AFを取得する。
制御部71aにおいて、
図6Bに示すような制御フローにしたがって、被制御部70aから点火プラグ6に印加される交流電圧の交番周波数f、電圧尖頭値VPPが決定される。
【0046】
図6Bに示す、制御フローについて説明する。
ステップS100の目標空燃比取得行程では、要求されるエンジンの回転数及び負荷から、予め用意されたマップに基づいて目標空燃比T
AFが取得される。
次いで、ステップS110の放電方法決定行程では、目標空燃比T
AFと所定の目標空燃比閾値Thとの比較が行われる。
ステップS110において、目標空燃比T
AFが所定の閾値Th以下の場合、即ち、ストイキ領域又はリッチ領域においては、判定Yesとなり、ステップS120に進み、所定の閾値Thを上回る場合、即ちリーン領域においては、判定Noとなり、ステップS130に進む。
ステップS120の沿面ストリーマ放電実施行程では、沿面ストリーマ放電を実施するための交流電圧尖頭値V
PP、交番周波数fが設定される。
具体的には、尖頭値V
PPを5kV以上、25kVよりも低くするか、尖頭値V
PPを25kV以上の一定値に固定し、交番周波数fを400kHzより低く、又は、1MHzよりも高くする。
ステップS130の交流アーク放電実施行程では、尖頭値V
PPを25kV以上とし、周波数fを400kHz以上、1MHz以下とすることで、交流アーク放電への移行を行う。
なお、交流電源7aから点火プラグ6への交流電圧の印加は、内燃機関の運転状況に応じて図略のエンジン制御装置(ECU)から発信された点火信号IGtに従って、
図2A等に示したように、点火信号IGtがオンとなっている間継続される。
点火信号IGtがオフとなると放電を終了し、ステップS100に戻り、次の点火時期にステップS100〜S130のループを繰り返す。
【0047】
図7A、
図7Bを参照して本発明の第3の実施形態における点火装置8bについて説明する。
本実施形態においては、内燃機関9の燃焼排気流路73に公知の空燃比センサ72bを設け、燃焼排気74中に含まれるガス成分から実際の空燃比A/Fを検出し、その結果を空燃比出力V
AFとして、制御部71bに入力し、実際に検出された空燃比を閾値判定して、被制御部70bから点火プラグ6への交流電圧の印加条件(交番周波数f及び/又は尖頭値V
PP)が決定される。
本実施形態では、予め設定した目標空燃比T
AFではなく、実際に検出された空燃比A/Fから、沿面ストリーマ放電と交流アーク放電との切換が行われる。
【0048】
本実施形態における制御方法では、ステップS200の空燃比出力取得行程では、A/Fセンサ72bによって検出された空燃比出力V
AFが取得される。
次いで、ステップS210の放電方法決定行程では、空燃比出力V
AFと所定の空燃比出力閾値V
Thとの比較が行われる。
ステップS210において、実際の空燃比出力V
AFが所定の閾値V
Th以下の場合、即ち、ストイキ領域又はリッチ領域においては、判定Yesとなり、ステップS220に進み、所定の閾値V
Thを上回る場合、即ちリーン領域においては、判定Noとなり、ステップS230に進む。
ステップS220の沿面ストリーマ放電実施行程では、沿面ストリーマ放電を実施するための交流電圧尖頭値V
PP、交番周波数fが設定される。
具体的には、尖頭値V
PPを5kV以上、25kVよりも低くするか、尖頭値V
PPを25kV以上の一定値に固定し、交番周波数fを400kHzより低く、又は、1MHzよりも高くする。
ステップS230の交流アーク放電実施行程では、尖頭値V
PPを25kV以上とし、周波数fを400kHz以上、1MHz以下とすることで、交流アーク放電への移行を行う。
点火信号IGtがオフとなると放電を終了し、ステップS200に戻り、次の点火時期にステップS200〜S230のループを繰り返す。
実際の空燃比を基準とすることで、より正確に点火条件を設定することが可能となる。
【0049】
図8A、
図8B、
図8Cを参照して、本発明の効果について説明する。
図8Aに示すように、交流電源7a又は交流電源7bから、400kHz以上1MHz以下の一定の周波数fで、所定の交流電圧尖頭値V
PP(例えば、25kV以上)の交流電圧が点火プラグ6に印加されると、速やかに、沿面ストリーマ放電が開始され、二次電圧V2は徐々に上昇し、V
PPが25kVを超えると、交流アーク放電に移行することが確認された。
交流アーク放電移行後は、放電空間4のインピーダンスが低くなり、尖頭値V
PPが、ほぼ一定の範囲に維持される。
図8Bに示すように、交流電圧尖頭値V
PPを5kV以上、25kVよりも低く抑制した場合には、交流アーク放電に移行せず、沿面ストリーマ放電を維持することができることが確認された。
一方、
図8Cに示すように、交流電圧尖頭値V
PPを25kV以上で固定した場合であっても、交番周波数が400kHzを下回るように設定した場合、交流アーク放電には移行せず、沿面ストリーマ放電が維持できることが確認された。
【0050】
図9A、
図9Bを参照して本発明の第4の実施形態における点火装置8cについて説明する。なお、以下の実施形態は、前記第1〜第3のいずれと組み合わせて適用することが可能である。
本実施形態においては、接地電極30cの一部を軸方向に向かって突出させた接地電極突出部300cを設けた点が前記実施形態と相違する。
【0051】
本実施形態においては、前記実施形態と同様、交流電源7から所定の周波数と、所定の先頭値V
PPを有す交流電圧を印加すると、放電空間4a内の複数箇所に、沿面ストリーマ放電が発生し、放電空間4c内に荷電粒子が発生する。
沿面ストリーマ放電が数サイクル発生した後は、沿面アーク放電に移行する。
このとき、本発明では、接地電極突出部300に電荷集中が起こるので、接地電極30aの他の部分に優先して接地電極突出部300cと中心電極放電部10の先端との間に沿面アーク放電が発生する。
【0052】
したがって、本実施形態における点火装置8cでは、前記実施形態と同様の効果に加え、沿面アーク放電の発生位置を意図的に設定することができるので、燃焼室90内を流れる筒内気流の方向に合わせた位置に沿面アーク放電を発生させることも可能となる。
これによって、燃焼室90内の特定の位置における混合気の燃料濃度を高くし、混合気全体として、希薄となるように燃料噴射が制御された場合に、燃料濃度を高くした特定の位置に沿面放電アークを発生させ、安定した着火を実現することもできる。
【0053】
図10A、
図10Bを参照して本発明の第5の実施形態における点火装置8dについて説明する。
本実施形態においては、接地電極突出部300dを誘電体20の周囲を円筒状に囲むように設けている。
本実施形態においては、初期の沿面ストリーマ放電は接地電極30及び側面電極31と誘電体放電部20との間に区画した放電空間4内で発生し、誘電体放電部20の表面を這うように沿面ストリーマ放電が進展し、中心電極方向放電部20の先端に到達する沿面アーク放電が発生する。
【0054】
このとき、接地電極突出部300dが誘電体放電部20の周囲を全周に亘って取り囲んでいるので、接地電極突出部300dの任意の位置から伸びる沿面ストリーマ放電の内、最初に中心電極放電部10の先端に到達した沿面ストリーマ放電が沿面アーク放電に移行する。
本実施形態においても、接地電極突出部300dの内周縁から中心電極放電部0の先端が誘電体放電部20の先端から露出した部分の側面に至るまでの長い沿面アーク放電が発生し、安定した着火を実現できる。
【0055】
図11を参照して、本発明の第6の実施形態における点火装置8eについて説明する。
本実施形態においては、接地電極突出部300eを接地電極30eの先端から内側に向かって突出するように形成してある。
本実施形態においても、第4の実施形態のように、接地電極30eの一部のみを突出させても良いし、第5の実施形態のように、接地電極30eを全周に亘って突出させても良い。
このような構成とすることにより、第4の実施形態と同様の効果に加え、放電空間4eと燃焼室90との境界位置において接地電極突出部300eが内周方向に向かって突出しているので、筒内気流に淀み部を形成し、沿面ストリーマ放電又は沿面アーク放電により体積着火が生じたときに、火炎核が吹き飛ばされるのを防止され、放電空間4eと燃焼室90との境界位置に留めて、混合気への火炎伝播を促進することもできる。
【0056】
図12を参照して、本発明の第7の実施形態における点火装置8fについて説明する。
本実施形態においては、側面電極31fの内周面を先端に向かって経大となるように拡径した傾斜面301に形成し、接地電極30fが先細りとなっている。
このような構成とすることにより、接地電極30fの先端に電界集中し易くなり、接地電極突出部300cと同様の効果を発揮する。
加えて、放電空間4fが先端に向かって拡径するように形成されているので、放電空間4f内に発生した荷電粒子が燃焼室90内に放出され易くなっている。
このため、反応性の高くなった荷電粒子によって火炎成長が促され、より一相着火性が安定する。
【0057】
図13を参照して、本発明の第8の実施形態における点火装置8gについて説明する。
本実施形態にでは、
図9Aの点火装置8gの接地電極突出部300gをイリジウムや白金等の耐熱性貴金属を用いて形成したのに加え、中心電極放電部10が誘電体放電部20の先端から露出する位置にイリジウムや白金等の耐熱性貴金属からなる環状又は柱状の放電チップ100を形成してある。
このような構成とすることにより、前期実施形態と同様の効果に加え、沿面アーク放電による電極の消耗が抑制され、さらに耐久性が向上する。
また、中心電極放電部10gをニッケル合金等高耐熱材料で構成し、その内側に、熱伝導性、電気伝導性向上を図るべく銅封入部101を設けても良い。
本発明においては、それぞれ効果の異なる点火装置8、8a〜8gについて、内燃機関9の燃焼特性の違いに応じて適宜使い分けることも可能である。
【0058】
ここで、
図14を参照して、従来の点火装置8zと本発明の点火装置8との相違点並びに従来の点火装置8zの問題点について説明する。
点火装置8zは、公知の火花放電プラグ6zと直流電源の電源を昇圧して印加する公知の直流高電圧電源7zとによって構成されている。
【0059】
中心電極1zの先端には、耐熱性貴金属からなる中心電極放電部100zが設けられ、一定の放電ギャップ4zを隔てて接地電極放電部300zに対向している。中心電極放電部100z及び接地電極放電部300zには、イリジウム等の高耐熱貴金属が用いられている。
従来の点火装置8zでは、高い二次電圧が印加され、印加電圧V2が中心電極放電部100zと接地電極放電部300zとの間の絶縁耐圧(例えば、−30kV)を超えると、電極間に気中アーク放電が生じ、燃焼室90内に導入された混合気の着火が行われる。
このとき、強い筒内気流によって、気中アーク放電が引きのばされ、放電電圧が高くなる。
【0060】
しかし、従来の点火装置8zでは、気中アーク放電を開始させるために、12〜14Vの電源電圧を点火コイルによって20〜50kVの極めて高い二次電圧を昇圧している。
このため、一旦放電を開始し、放電電圧が低下した後に、気中アーク放電が引き延ばされて、要求電圧が高くなったときに、再度、高い放電電圧を印加するのが困難であり、吹き消えによる失火を防止するためには、吹き消えを検出する手段や補助電源等を設けて、吹き消えが検出された場合に補助電源から再度高エネルギを投入する必要がある。
また、従来の点火プラグ6zでは、接地電極30zと接地電極放電部300zとは、L字型に伸びる接地電極腕部301を介して連結されている。
【0061】
このため、中心電極放電部100zと接地電極放電部300zとの間で生成された火炎核が成長する過程で接地電極腕部301に接触すると熱エネルギが奪われる消炎作用を生じるためエネルギの無駄を生じる。
さらに、従来の点火装置8zに生じる気中アーク放電は、本発明の点火装置8に生じる沿面アーク放電に比べて遙かに短く、筒内気流によって吹き消され易い。
なお、従来の点火プラグ6zにも、本発明の点火プラグ6に設けた放電空間4と類似するガスポケットが形成されているが、熱価の調整に用いられるもので、中心電極1zの先端に対向する位置に接地電極放電部300zが設けられているため、ガスポケットは放電空間としては作用しない。
但し、点火終了後に燃焼室90内の圧力が低下したときに、中心電極1zと側面電極31zとの間に蓄えられた電荷が絶縁碍子2zの表面からコロナ放電として放出されることがあり、電磁波ノイズ発生等を起こす要因ともなっている。