(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明に係る作業車両のジャッキ装置は、軌陸車、高所作業車、移動式クレーン車等の作業車両に設けられる。また、ジャッキの本数は、一般的には2本または4本であるが、2本以上であれば特に限定されない。以下では、4本のジャッキを備える軌陸車を例に説明するが、他の作業車両においても同様の構成で同様の効果を奏することができる。
【0010】
なお、本明細書において、「ジャッキ」とは、例えば油圧シリンダで構成されたジャッキ装置の本体部分を意味する。また、「ジャッキ装置」とは、ジャッキとその周辺機器、例えばジャッキの接地状態を検知する接地検知器や、ジャッキの動作を制御する制御装置を含む意味である。
【0011】
(軌陸車)
まず、軌陸車Xの構成について説明する。
図6および
図7に示すように、軌陸車Xは軌道Rと道路Gの両方を走行できる作業車両である。図中、符号10はシャシフレームであり、このシャシフレーム10には走行用の駆動源(エンジン)や運転室等が設けられている。また、シャシフレーム10の前後左右には、それぞれ道路G走行用のタイヤ11が設けられている。シャシフレーム10上にはサブフレーム10sが設けられており、そのサブフレーム10sには、各タイヤ11の後方位置に軌道R走行用の鉄輪12が設けられている。サブフレーム10s上には、旋回台13を介して伸縮式のブーム14が起伏自在に設けられており、ブーム14の先端部には作業台15が旋回自在に取り付けられている。
【0012】
各鉄輪12は鉄輪張出格納装置16を介してサブフレーム10sに設けられている。鉄輪張出格納装置16は、サブフレーム10sに揺動自在に枢支された揺動アームと、揺動アームを揺動させる油圧シリンダとからなる。揺動アームの先端側に油圧モータによって回転駆動される鉄輪12が取り付けられている。上記揺動アームは、油圧シリンダの伸縮動作によって揺動され、鉄輪12を下方へ張り出した張出位置(
図6における実線)と、鉄輪12をサブフレーム10s側に格納した格納位置(
図6における二点鎖線)とで選択的に切り換えられる。
【0013】
軌陸車Xが軌道Rを走行する場合には、鉄輪張出格納装置16により鉄輪12を下方へ張り出して、鉄輪12を軌道Rに接地させタイヤ11を浮上させる。一方、軌陸車Xが道路Gを走行する場合には、鉄輪12を鉄輪張出格納装置16によって引き上げてサブフレーム10s側に格納し、タイヤ11を道路Gに接地させる。
【0014】
サブフレーム10sの前後左右には、鉄輪12の近傍にジャッキ21〜24が設けられている。本実施形態の軌陸車Xには4本のジャッキ21〜24が備えられており、それぞれ右前ジャッキ21、左前ジャッキ22、右後ジャッキ23、左後ジャッキ24と称される。本実施形態では、ジャッキ21〜24は油圧シリンダで構成されている。これらのジャッキ21〜24を張り出すことで、軌陸車Xの重量を支え、作業中の安定性を確保することができる。
【0015】
(油圧回路)
つぎに、ジャッキ21〜24を動作させるための油圧回路Cを説明する。
図8において、符号21〜24はジャッキであり、符号25〜28は各ジャッキ21〜24に対応して設けられたスライドシリンダである。スライドシリンダ25〜28の伸縮動作により、ジャッキ21〜24を車体に対して水平方向に張り出し、格納することができる。
【0016】
また、符号40はアウトリガ操作用バルブユニットである。アウトリガ操作用バルブユニット40には、ジャッキ21〜24とスライドシリンダ25〜28の各組に対応して設けられ、作動油の供給先としてジャッキ21〜24またはスライドシリンダ25〜28を選択するための4個の電磁切換弁41〜44と、ジャッキ21〜24およびスライドシリンダ25〜28に共通に接続され、これらの伸縮動作の切り換えを行うための電磁切換弁45とが備えられている。アウトリガ操作用バルブユニット40のPポートには、油圧ポンプ46からの作動油が供給されており、Tポートから排出された作動油は作動油タンク47に戻される。なお、Pポートと油圧ポンプ46との間、およびTポートと作動油タンク47との間には、他の油圧機器が設けられてもよい。
【0017】
(ジャッキ装置)
図1に示すように、本実施形態に係るジャッキ装置Aは、上記ジャッキ21〜24の他、それらジャッキ21〜24の動作を制御する制御装置50を備えている。制御装置50は、CPUやメモリ、入出力装置等により構成された公知のコンピュータである。制御装置50は上記油圧回路Cに接続されており、制御信号を出力して電磁切換弁41〜45の切り換え、油圧ポンプ46の吐出量や回転数の変更を行うことで、ジャッキ21〜24の動作を制御する。
【0018】
制御装置50には、入力装置としてスイッチやボタン等が接続されている。また、入力装置として遠隔操作端末と通信可能としてもよい。このような入力装置で特定の操作をすることで、ジャッキ21〜24の自動張り出しを行うよう構成されている。
【0019】
また、ジャッキ装置Aには、各ジャッキ21〜24の接地状態(ジャッキ下端のフロートが地面に接触した状態)を検知する接地検知器31〜34が設けられている。接地検知器31〜34の検知結果は制御装置50に入力されている。
【0020】
接地検知器31〜34の構成は特に限定されないが、例えば、ジャッキ21〜24のサブフレーム10s側への取り付け部分にジャッキ伸長方向へのガタをもたせ、ジャッキ21〜24が接地した後さらに伸長して上記取り付け部分がガタの範囲内で上昇変位することをリミットスイッチで検知するよう構成される。また、ジャッキ21〜24のキャップ側油室(伸長動作側の油室)に接続された油路に圧力センサを設け、測定された圧力の上昇により接地状態を検知するよう構成してもよい。
【0021】
軌陸車Xは、軌道R上における作業中でも、道路G上における作業中でも、ともにジャッキ21〜24によって車体を浮上させ支持する。ここで、軌道R上における作業中に鉄輪12をレールrから完全に浮かせると、ジャッキ21〜24の格納時に鉄輪12がレールrに戻らなくなる可能性がある。軌道Rの道床にはバラストが敷いてあり、この道床が傾斜している場合もある。ジャッキ21〜24を道床に接地させて作業を行うと、作業中の振動により車体全体が横ズレし、作業終了後にジャッキ21〜24を格納する際に、鉄輪12の位置とレールrの位置との間にズレが生じるためである。
【0022】
そこで、
図9に示すように、軌道R上における作業中には、鉄輪12をレールrから離間させつつ、その地切り高さh(レールrの頭頂部と鉄輪12の踏面との間の距離)を鉄輪12のフランジ12fの高さよりも低くして、フランジ12fがレールrに掛かった状態とする。このような状態とすることで、作業中の振動による車体の横ズレが制限され、鉄輪12の位置とレールrの位置との間にズレが生じなくなる。その結果、作業終了後にジャッキ21〜24を格納する際に、確実に鉄輪12をレールrに接地させることができる。
【0023】
上記のように鉄輪12の地切り高さhを調整するには、ジャッキ21〜24の接地から伸長動作の停止までの間に遅延時間を設け、その遅延時間を調整することで実現できる。
【0024】
しかし、ジャッキ21〜24が接地する道床のバラストの状況や道床の傾斜により、各ジャッキ21〜24の接地のタイミングは異なる。また、各ジャッキ21〜24の伸長開始時の伸縮状況も異なる場合があるため、これによっても各ジャッキ21〜24の接地のタイミングが異なる。そのため、全てのジャッキ21〜24の伸長動作を同時に停止させると、各鉄輪12の地切り高さhにバラつきが生じる。各鉄輪12の地切り高さhを均一にするには、各ジャッキ21〜24の停止のタイミングをそれぞれ判断する必要がある。各ジャッキ21〜24の接地のタイミングが異なる場合には、停止のタイミングも異なることとなる。そうすると、いずれか一のジャッキ21〜24が接地してから全てのジャッキ21〜24が停止するまでの期間では、ジャッキ21〜24の作動本数が徐々に減少することになる。
【0025】
図8に示すように、全てのジャッキ21〜24は共通の油圧ポンプ46から供給される作動油で動作する。そのため、作動油の供給量が一定である場合、ジャッキ21〜24の作動本数によって単位時間当たりの伸長量(伸長速度)が異なる。例えば、4本のジャッキ21〜24が作動している場合には、その4本のジャッキ21〜24に作動油が分散されて供給されるため、単位時間当たりの伸長量が短くなる(伸長速度が遅くなる)。一方、3本のジャッキ21〜23が停止し、残り1本のジャッキ24が作動している場合には、その1本のジャッキ24に全ての作動油が供給されるため、単位時間当たりの伸長量が長くなる(伸長速度が速くなる)。
【0026】
以上のように、ジャッキ21〜24の作動本数によって、単位時間当たりの伸長量(伸長速度)が異なることから、全てのジャッキ21〜24の遅延時間を同一とすると、各ジャッキ21〜24の接地後の伸長量にバラつきがでることになり、ひいては各鉄輪12の地切り高さhにバラつきがでることになる。
【0027】
鉄輪12のフランジ12fの一般的な高さは約20〜30mmであり、鉄輪12の地切り高さhも約20〜30mm以内に制御することが求められる。このように、目標とする地切り高さhが低いことから、その制御には精度が求められ、上記に説明したような地切り高さhのバラつきを抑える必要がある。
【0028】
本実施形態では、ジャッキ21〜24の作動本数によって遅延時間を変化させることで、上記地切り高さhのバラつきを抑えるところに特徴を有する。以下、3つのパターンに分けてその詳細を説明する。
【0029】
(基本パターン)
まず、基本パターンを説明する。
制御装置50は、入力装置の特定の操作により、ジャッキ21〜24の自動張り出しを開始する。すなわち、全てのジャッキ21〜24の伸長動作を開始する。
【0030】
そして、制御装置50は、以下のタイミングで各ジャッキ21〜24の伸長動作を停止させる。すなわち、接地検知器31〜34により接地状態が検知されたジャッキ21〜24の伸長動作を、接地状態の検知からジャッキ21〜24の作動本数に対応する遅延時間が経過した時に停止させる。換言すれば、ジャッキ21〜24の伸長動作を、その接地から所定の遅延時間が経過した時に停止させるのであるが、その遅延時間をジャッキ21〜24の作動本数によって変化させるのである。
【0031】
「遅延時間」は、ジャッキ21〜24の作動本数ごとに、その遅延時間におけるジャッキ21〜24の伸長量が略同一となるように設定されている。また、その伸長量が目標伸長量(本実施形態では地切り高さh)と略同一となるように設定される。ジャッキ21〜24への作動油の供給量が一定である場合、ジャッキ21〜24の作動本数が多いほど伸長速度が遅く、作動本数が少ないほど伸長速度が速くなる。そのため、ジャッキ21〜24の作動本数が多いほど遅延時間を長く設定し、作動本数が少ないほど遅延時間を短く設定する。
【0032】
ジャッキ21〜24の作動本数が4本の場合のジャッキ21〜24の作動速度をS
4、3本の場合の作動速度をS
3、2本の場合の作動速度をS
2、1本の場合の作動速度をS
1とすると、ジャッキ21〜24への作動油の供給量が一定である場合、理想的にはS
4:S
3:S
2:S
1=1/4:1/3:1/2:1の関係が成り立つ。
【0033】
そのため、ジャッキ21〜24の作動本数が4本の場合の遅延時間をT
4、3本の場合の遅延時間をT
3、2本の場合の遅延時間をT
2、1本の場合の遅延時間をT
1とすると、理想的には、T
4:T
3:T
2:T
1=4:3:2:1の関係が成り立つように遅延時間を設定することで、その遅延時間におけるジャッキ21〜24の伸長量が同一となる。ただし、実際には、制御機器や油圧回路のタイムラグにより上記理想的な値からは外れる場合が多い。そのため、各遅延時間T
4、T
3、T
2、T
1は、実験値等から求めることが好ましい。
【0034】
図2に示すように、基本パターンは、各ジャッキ21〜24の接地から停止までの期間が重ならずに順に生じるパターンである。
図2に示す例では、制御装置50は以下のように制御を行う。
【0035】
まず、制御装置50は、全てのジャッキ21〜24を伸長動作させる。
右前接地検知器31により右前ジャッキ21の接地状態が検知されると、右前ジャッキ21の伸長動作を、その接地状態の検知から遅延時間T
4が経過した時に停止させる。遅延時間T
4はジャッキ21〜24の作動本数(4本)に対応する遅延時間である。ここで、ジャッキ21〜24の作動本数は、対象のジャッキ21の接地から停止までの期間における作動本数で判断される。
【0036】
つぎに、左前接地検知器32により左前ジャッキ22の接地状態が検知されると、左前ジャッキ22の伸長動作を、その接地状態の検知からジャッキ21〜24の作動本数(3本)に対応する遅延時間T
3が経過した時に停止させる。
【0037】
つぎに、右後接地検知器33により右後ジャッキ23の接地状態が検知されると、右後ジャッキ23の伸長動作を、その接地状態の検知からジャッキ21〜24の作動本数(2本)に対応する遅延時間T
2が経過した時に停止させる。
【0038】
最後に、左後接地検知器34により左後ジャッキ24の接地状態が検知されると、左後ジャッキ24の伸長動作を、その接地状態の検知からジャッキ21〜24の作動本数(1本)に対応する遅延時間T
1が経過した時に停止させる。
【0039】
なお、ジャッキ21〜24の接地の順番が異なる場合でも、上記と同様の制御が行われる。
【0040】
以上のように、ジャッキ21〜24の接地から停止までの遅延時間をジャッキ21〜24の作動本数により変化させ、しかも、ジャッキ21〜24の作動本数ごとに伸長量が略同一となるように遅延時間が設定されているので、全てのジャッキ21〜24の接地からの伸長量を略同一にすることができる。そのため、鉄輪12の地切り高さhを略均一にすることができ、安定性の高い支持状態を得ることができる。
【0041】
(同時接地パターン)
つぎに、同時接地パターンを説明する。
図3に示すように、同時接地パターンは、複数のジャッキ21〜24が同時に接地するパターンである。
図3に示す例は、右前ジャッキ21と左前ジャッキ22が同時に接地する場合である。この場合、制御装置50は以下のように制御を行う。
【0042】
まず、制御装置50は、全てのジャッキ21〜24を伸長動作させる。
右前接地検知器31により右前ジャッキ21の接地状態が検知されると同時に、左前接地検知器32により左前ジャッキ22の接地状態が検知される。そうすると、右前ジャッキ21および左前ジャッキ22の両方の伸長動作を、それらの接地状態の検知から遅延時間T
4が経過した時に停止させる。遅延時間T
4はジャッキ21〜24の作動本数(4本)に対応する遅延時間である。ここで、ジャッキ21〜24の作動本数は、対象のジャッキ21、22の接地から停止までの期間における作動本数で判断される。このように、右前ジャッキ21も左前ジャッキ22も、同じ遅延時間T
4とするのである。その後の右後ジャッキ23および左後ジャッキ24の制御は、基本パターンと同様である。
【0043】
なお、同時に接地した2本のジャッキ21、22の接地から停止までの期間における作動本数が3本である場合(1本のジャッキ23が停止した後にジャッキ21、22が接地した場合)は、遅延時間をT
3とする。また、作動本数が2本である場合(2本のジャッキ23、24が停止した後にジャッキ21、22が接地した場合)は、遅延時間をT
2とする。
【0044】
3本のジャッキ21〜24が同時に接地した場合や、4本のジャッキ21〜24が同時に接地した場合も同様の制御が行われる。同時に接地した3本のジャッキ21〜23の接地から停止までの期間における作動本数が4本である場合は、その3本のジャッキ21〜23の遅延時間をT
4とする。作動本数が3本である場合(1本のジャッキ24が停止した後に、3本のジャッキ21〜23が接地した場合)は、その3本のジャッキ21〜23の遅延時間をT
3とする。4本のジャッキ21〜24が同時に接地した場合は、作動本数が4本であるので、遅延時間をT
4とする。
【0045】
このように、複数のジャッキ21〜24が同時に接地した場合でも、ジャッキ21〜24の作動本数により遅延時間を変更する点で基本パターンと変わるところはない。同時に接地した複数のジャッキ21〜24を、同じ遅延時間が経過した後に停止させるのである。
【0046】
(重畳パターン)
つぎに、重畳パターンを説明する。
図4に示すように、重畳パターンは、ジャッキ21〜24が接地してから停止するまでの期間にジャッキ21〜24の作動本数が変化するパターンである。
図4に示す例は、左前ジャッキ22が接地してから停止するまでの間に右前ジャッキ21が停止する場合である。この場合、制御装置50は以下のように制御を行う。
【0047】
まず、制御装置50は、全てのジャッキ21〜24を伸長動作させる。
右前接地検知器31により右前ジャッキ21の接地状態が検知されると、右前ジャッキ21の伸長動作を、その接地状態の検知からジャッキ21〜24の作動本数(4本)に対応する遅延時間T
4が経過した時に停止させる。
【0048】
右前ジャッキ21の伸長動作が停止する前に、左前接地検知器32により左前ジャッキ22の接地状態が検知されたとする。そうすると、左前ジャッキ22が接地してから停止するまでの期間(左前ジャッキ22が目標伸長量hまで伸長するのに要する期間)の途中で右前ジャッキ21の伸長動作が停止することとなる。すなわち、左前ジャッキ22が接地してから停止するまでの期間Tは、作動本数が4本の期間t
4と、3本の期間t
3とからなる。
【0049】
ジャッキ21〜24の作動本数が4本の場合の目標伸長量hに対する単位時間当たりの伸長量の割合(伸長割合)をR
4、作動本数が3本の場合の伸長割合をR
3とする。伸長割合R
4、R
3は、例えば10%や20%等の値である。この場合、t
4およびt
3が下記数1を満たせば、左前ジャッキ22の伸長量が目標伸長量hと等しくなる。このうち、t
4は、対象のジャッキ22が接地してから作動本数が3本に減るまでの時間として決められる。したがって、数1よりt
3を求めることができる。
【数1】
【0050】
数2に示すように、左前ジャッキ22の遅延時間Tを、t
4とt
3の積算時間とすれば、左前ジャッキ22を目標伸長量hまで伸長させることができる。
【数2】
【0051】
上記では、対象のジャッキ22が接地してから停止するまでの期間において、作動本数が4本から3本に変化する場合を説明した。しかし、作動本数や、作動本数が変化するタイミング、変化の回数には、種々のパターンがある。これらのパターンを含めて一般化すれば、以下のとおりである。
【0052】
N本のジャッキを備える作業車両において、ジャッキの作動本数nに対応するジャッキの目標伸長量hに対する単位時間当たりの伸長割合をR
n(n=1、・・・、N)とする。また、対象のジャッキが接地してから停止するまでの期間において、ジャッキの作動本数nの状態での経過時間をt
n(n=1、・・・、N)とする。この場合、下記数3を満たせば、対象のジャッキの伸長量が目標伸長量hと等しくなる。
【数3】
【0053】
そして、数4で示すように、対象のジャッキの遅延時間Tを、経過時間t
nの積算時間とすれば、対象のジャッキを目標伸長量hまで伸長させることができる。
【数4】
【0054】
なお、特許請求の範囲に記載の「前記ジャッキの作動本数に対応する前記ジャッキの目標伸長量に対する単位時間当たりの伸長割合」はR
nに相当し、「該作動本数の状態での経過時間」はt
nに相当し、「前記ジャッキの作動本数に対応する前記ジャッキの目標伸長量に対する単位時間当たりの伸長割合に、該作動本数の状態での経過時間を乗算したもの」はR
n×t
nに相当する。さらに、特許請求の範囲に記載の「前記ジャッキの作動本数に対応する前記ジャッキの目標伸長量に対する単位時間当たりの伸長割合に、該作動本数の状態での経過時間を乗算したものを、該作動本数ごとに積算した値」は数3の右辺に相当し、「前記目標伸長量と略等しくなる場合」は数3を満たす場合に相当する。そして、特許請求の範囲に記載の「該作動本数ごとの経過時間の積算時間」は数4の右辺に相当する。
【0055】
このように、遅延時間が目標伸長量と伸長割合とから求められるので、ジャッキが接地してから停止するまでの間にジャッキの作動本数が変化しても、全てのジャッキの接地からの伸長量を略同一にすることができる。
【0056】
(制御方法)
上記では、現象面から3つのパターンに分けて制御方法を説明した。上記のパターンを実現できれば、その具体的な制御方法は特に限定されないが、例えば、以下の制御方法を採用することにより、全てのパターンに対応することができる。
【0057】
予め、制御装置50のメモリに、ジャッキの作動本数nごとに、ジャッキの目標伸長量hに対する単位時間当たりの伸長割合R
nを記憶しておく。ここで、単位時間を制御装置50の制御周期T
cとし、作動本数nの場合にジャッキが目標伸長量hまで伸長するのに要する時間をT
nとすると、伸長割合R
nは下記数5で表される。なお、制御周期T
cは、T
nに対して十分に小さいものとする。
【数5】
【0058】
ジャッキの作動本数nが多いほどジャッキの伸長速度は遅くなり、T
nが長くなるため、伸長割合R
nは小さくなる。逆に、ジャッキの作動本数nが少ないほどジャッキの伸長速度は速くなり、T
nが短くなるため、伸長割合R
nは大きくなる。なお、伸長割合R
nは実験値等から求めることが好ましい。
【0059】
制御装置50は、入力装置の特定の操作により、ジャッキの自動張り出しを開始する。すなわち、全てのジャッキの伸長動作を開始する。つづいて、制御装置50は、ジャッキのそれぞれに対して平行して、
図5に示すフローチャートに従って処理を行う。
【0060】
まず、制御装置50は、現在伸長割合Rに0を代入して初期化する(ステップS1)。ここで、現在伸長割合Rはジャッキの目標伸長量hに対する現在の伸長割合(0〜100%)を意味する。つぎに、対象のジャッキに対応する接地検知器により接地状態が検知されるまで待つ(ステップS2)。すなわち、対象のジャッキが接地するまで待つ。
【0061】
対象のジャッキの接地状態が検知されると、下記のステップS3からステップS5のループを開始する。
【0062】
制御装置50は、メモリから現在のジャッキの作動本数nを取得する(ステップS3)。なお、メモリには、予め作動本数nの初期値としてジャッキの総数Nが記憶されている。したがって、いずれのジャッキも停止していない場合には、作動本数nとしてジャッキの総数Nが取得されることになる。
【0063】
つぎに、制御装置50は、メモリからジャッキの作動本数nに対応する伸長割合R
nを取得し、それを現在伸長割合Rに加算する(ステップS4)。そして、加算結果である現在伸長割合Rが1(=100%)以上となったか否かを判断し(ステップS5)、超えていない場合には再びステップS3に戻る。
【0064】
上記ステップS3からステップS5までの処理を、制御装置50の制御周期(単位時間)ごとに繰り返し行う。メモリに記憶された作動本数nは、平行している他のジャッキの処理でも共通して参照される。そのため、平行しているいずれかの処理において、後述のステップS7で作動本数nの書き換えが行われた場合には、他の処理においても作動本数nが変更される。
【0065】
対象のジャッキの接地以降は、制御周期ごとにジャッキの作動本数nに対応する伸長割合R
nを積算することになる。この間、ジャッキの作動本数nが変化すれば、積算する伸長割合R
nも変化することになる。そのため、対象のジャッキが接地してから停止するまでの期間に、ジャッキの作動本数が変化しても、現在伸長割合Rを現実に則した値にすることができる。
【0066】
ステップS5において、積算結果である現在伸長割合Rが1以上となった場合、対象のジャッキの伸長量が目標伸長量hに達したこととなる。そこで、制御装置50は、対象のジャッキの伸縮動作を停止させる(ステップS6)。そして、メモリに記憶されているジャッキの作動本数nを1減算して、実際のジャッキの作動本数とメモリに記憶されている作動本数nとを一致させる(ステップS7)。
【0067】
以上の処理を、全てのジャッキのそれぞれに対して平行して実行することで、全てのパターンに対応しつつ各ジャッキの伸長量を目標伸長量hとすることができる。
【0068】
以上の制御方法によれば、単位時間ごとにジャッキの作動本数を確認しつつジャッキの停止を判断するので、複雑な演算を要することなく、ジャッキの停止のタイミングを決定することができる。
【0069】
(作動油供給量制御)
上記の制御に加えて、ジャッキへの作動油の供給量を制御するように構成してもよい。例えば、接地検知器によりいずれか一のジャッキの接地状態が検知された時に、ジャッキへの作動油の供給量を低減してもよい。
【0070】
このように作動油の供給量を制御することで、全てのジャッキを伸長させる間は、作動油の供給量を多くしてジャッキを高速で伸長させることができ、ジャッキアップにかかる時間を短くできる。また、いずれか一のジャッキが接地した後は、作動油の供給量を少なくすることでジャッキを低速で伸長させることができる。そうすると、ジャッキの停止のタイミングを正確に判断することができ、ジャッキの接地からの伸長量を精度よく制御することができる。
【0071】
作動油の供給量の低減方法は特に限定されないが、油圧ポンプ46の回転数を落とす方法や、油圧ポンプ46として可変吐出量形油圧ポンプを採用して吐出量を低減する方法、流量制御弁を用いる方法のほか、電磁切換弁45を作動油の流れを許容する位置と停止する位置とで繰り返し切り換えることで、ジャッキへの作動油の供給量を実質的に低減する方法を採用してもよい。
【0072】
また、ジャッキへの作動油の供給量を、ジャッキの作動本数が減る時に低減してもよい。「ジャッキの作動本数が減る時」には、「ジャッキの作動本数が減るたび」のほか、「ジャッキの作動本数が所定の本数に減った時」も含まれる。
【0073】
作動油の供給量が一定である場合、ジャッキの作動本数が少なくなるほど、伸長速度が速くなる。しかし、上記のように制御することで、ジャッキの作動本数が少なくなってもジャッキを低速で伸長させることができ、ジャッキの接地からの伸長量を精度よく制御することができる。
【0074】
(遅延時間調整)
制御装置50に設けられた入力装置を操作する等により、前記遅延時間を調整可能としてもよい。ジャッキが目標伸長量hまで伸長するのに要する時間は、機体の個体差や、気温(特に、作動油温度)によって異なる。遅延時間を調整可能とすることで、個体差を吸収することができ、気温の変化にも対応できる。
【0075】
さらに、作動油の温度を検出する油温検出器を設け、油温検出器による測定結果を基に遅延時間を自動で変更するようにしてもよい。例えば、予め、複数の温度帯に対応する遅延時間を記憶しておき、油温検出器の測定結果から対応する遅延時間を選択するよう構成すればよい。このような構成とすれば、使用者が意識することなく、気温の影響を考慮した最適な遅延時間とすることができる。
【0076】
なお、遅延時間の調整は、遅延時間を直接調整するほか、前記伸長割合を調整するなど、間接的に調整してもよい。