特許第6366408号(P6366408)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366408
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】水素濃度検出素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/406 20060101AFI20180723BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   G01N27/406
   G01N27/416 371G
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-156879(P2014-156879)
(22)【出願日】2014年7月31日
(65)【公開番号】特開2016-33496(P2016-33496A)
(43)【公開日】2016年3月10日
【審査請求日】2017年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】509215776
【氏名又は名称】株式会社富士技研
(73)【特許権者】
【識別番号】000155986
【氏名又は名称】株式会社鈴木商館
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 誠章
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 譲
(72)【発明者】
【氏名】湯川 宏
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−274857(JP,A)
【文献】 特開平06−267556(JP,A)
【文献】 特開2003−270200(JP,A)
【文献】 特開2007−047124(JP,A)
【文献】 特開2006−073377(JP,A)
【文献】 特開2000−275209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃以下の液体状の試料における水素濃度を検出可能な水素濃度検出素子であって、
水素透過性金属からなり試料と接触する試料極と、
所定の水素濃度に保たれた標準極と、
上記試料極及び上記標準極に接触した状態で上記試料極及び上記標準極の間に介在する水素イオン伝導体とを備え
上記水素イオン伝導体は、溶融塩電解質を除く、水素イオン伝導性を有する電解質からなり、
上記試料極は、パラジウム又はパラジウム合金からなり、該試料極を保持する保持層の表面に形成されており、上記試料極の厚さが1μm以下であり、
上記保持層は、複数の流通孔を備えた多孔質膜を有している、
ことを特徴とする水素濃度検出素子。
【請求項2】
上記水素イオン伝導体は、固体電解質からなることを特徴とする請求項1に記載の水素濃度検出素子。
【請求項3】
上記保持層は、水素イオンの伝導性を有する固体電解質からなる電解質膜を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素濃度検出素子。
【請求項4】
上記標準極は、パラジウム又はパラジウム合金からなり、水素供給手段によって所定の水素分圧に保たれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素濃度検出素子。
【請求項5】
上記水素供給手段は、所定量の水素を固溶させた水素化物又は水素吸蔵合金からなることを特徴とする請求項4に記載の水素濃度検出素子。
【請求項6】
水素透過性金属からなり試料と接触する試料極と、
所定の水素濃度に保たれた標準極と、
上記試料極及び上記標準極に接触した状態で上記試料極及び上記標準極の間に介在する水素イオン伝導体と、を備え、
上記水素イオン伝導体は、溶融塩電解質を除く、水素イオン伝導性を有する電解質からなり、
上記試料極と上記標準極との間に電圧を印加電流を流すことにより、上記試料極の水素を水素イオンとして離脱させる手段を設けた、ことを特徴とする水素濃度検出素子。
【請求項7】
記試料極と上記標準極との間に印加される電圧は、0.4V以上0.75V以下の範囲にあることを特徴とする請求項6に記載の水素濃度検出素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料中に含まれる溶存水素の濃度を検出するための水素濃度検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康増進法の一つとして、水素水が注目されている。水素水は、水に水素を溶存させたものであり、飲用することにより、体内の活性酸素を還元除去する作用等の種々の効果が期待されている。その一方で、溶存した水素は、自然に、空気中へと容易に放出されるため、水に水素が溶存した状態を維持するには特別な管理が必要となる。また、水素は無味無臭の気体であるため、水素水に溶存する水素濃度を味覚や視覚によって判定することが難しい。そのため、水素水に溶存する水素濃度の判定には、水素センサ等が用いられる。
【0003】
水素濃度を検出する水素センサとしては、例えば、特許文献1に示されたものがある。
特許文献1に示された水素センサは、測定極、参照極、及び水素イオン伝導体を備えている。この水素センサは、測定極と参照極との間における電位差によって生じる起電力を利用して、水素濃度を検出するものである。水素イオン伝導体は、水酸化物イオン伝導性を備えた溶融塩電解質からなり、測定極及び参照極に接触するよう両者の間に介在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4124536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の水素センサは、200℃以上の被測定物質における水素濃度を検出しようとするものである。この水素センサには、水素イオン伝導体として溶融塩電解質が用いられている。溶融塩電解質としては、融点が170℃程度のものが想定されており、融点以上の温度域において、優れたイオン伝導性を発揮する。しかし、融点以下の温度域においては、イオン伝導性が著しく低下する。そのため、飲料水等の100℃以下の測定対象物における水素濃度の検出時には、水素濃度の検出精度の低下や検出時間の増大が生じる。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、試料における水素の濃度を速やかに検出することができる水素濃度検出素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、100℃以下の液体状の試料における水素濃度を検出可能な水素濃度検出素子であって、
水素透過性金属からなり試料と接触する試料極と、
所定の水素濃度に保たれた標準極と、
上記試料極及び上記標準極に接触した状態で上記試料極及び上記標準極の間に介在する水素イオン伝導体とを備え
上記水素イオン伝導体は、溶融塩電解質を除く、水素イオン伝導性を有する電解質からなり、
上記試料極は、パラジウム又はパラジウム合金からなり、該試料極を保持する保持層の表面に形成されており、上記試料極の厚さが1μm以下であり、
上記保持層は、複数の流通孔を備えた多孔質膜を有している、
ことを特徴とする水素濃度検出素子にある。
本発明の第2の態様は、水素透過性金属からなり試料と接触する試料極と、
所定の水素濃度に保たれた標準極と、
上記試料極及び上記標準極に接触した状態で上記試料極及び上記標準極の間に介在する水素イオン伝導体と、を備え、
上記水素イオン伝導体は、溶融塩電解質を除く、水素イオン伝導性を有する電解質からなり、
上記試料極と上記標準極との間に電圧を印加し電流を流すことにより、上記試料極の水素を水素イオンとして離脱させる手段を設けた、ことを特徴とする水素濃度検出素子にある。
【発明の効果】
【0008】
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
上記第1の態様の水素濃度検出素子によれば、100℃以下の液体状の試料における水素の濃度を速やかに検出することができる。
上記第2の態様の水素濃度検出素子によれば、上記試料極内の水素を速やかに離脱することができ、これにより、上記水素濃度検出素子によって水素濃度を検出した後、次回の水素濃度を検出するまでの間隔を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1における、水素濃度検出素子を示す説明図。
図2】実施例1における、大気圧下での起電力と試料極の水素濃度との関係を示すグラフ。
図3】実施例1における、水素濃度検出素子の構成の一例を示す説明図。
図4】確認試験における、水素濃度検出素子の一態様を示す説明図。
図5】確認試験における、水素濃度検出素子の他の態様を示す説明図。
図6】確認試験における、試料極の厚さが100nmに設定された水素濃度検出素子の起電力と検出時間との関係を示すグラフ。
図7】確認試験における、試料極の厚さが400nmに設定された水素濃度検出素子の起電力と検出時間との関係を示すグラフ。
図8】確認試験における、試料極の厚さが5μmに設定された水素濃度検出素子の起電力と検出時間との関係を示すグラフ。
図9】確認試験における、試料極の厚さが25μmに設定された水素濃度検出素子の起電力と検出時間との関係を示すグラフ。
図10】実施例2における、水素濃度検出素子を示す説明図。
図11】実施例3における、水素濃度検出素子を示す説明図。
図12】実施例3における、標準極の水素分圧と温度との関係を示すグラフ。
図13】実施例4における、水素濃度検出素子を示す説明図。
図14】実施例5における、水素濃度検出素子を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記水素濃度検出素子においては、上記水素イオン伝導体は、溶融塩電解質を除く水素イオン伝導性を有する電解質からなる。そのため、上記水素濃度検出素子によれば、100℃以下の試料であっても、水素濃度を、速やかに検出することができる。
すなわち、溶融塩電解質は、塩を加熱し溶融させたものであり、融点以上の温度において優れたイオン伝導性を有しているが、その一方で融点以下ではイオン伝導性が低下する。そのため、100℃以下の低温の試料における水素濃度を検出する際には、溶融電解質のイオン伝導性が低下した温度領域となり、水素濃度の検出時間が増大する。
上記水素濃度検出素子においては、上述のような特性を有する溶融塩電解質を除く、水素イオン伝導性を備えた電解質を上記水素イオン伝導体として用いている。該水素イオン伝導体を用いることで、100℃以下の低温でも優れたイオン伝導性を発揮し、100℃以下の上記試料の測定の場合においても、試料の水素濃度を速やかに検出することが可能となる。
上記水素濃度検出素子においては、試料極および標準極に水素透過性金属を用いている。該水素透過性金属を用いることで、水素のみに反応して高い精度で水素濃度を検出することが可能となる。
また、上記水素濃度検出素子において、上記水素イオン伝導体としては、例えば、希硫酸、リン酸水溶液、希硝酸、水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液等の水素イオン伝導性の電解質を用いることができる。これらの水素イオン伝導体はポリアクリル酸ナトリウム等の高吸水性高分子ポリマー等に吸収させてゲル状にしても良い。特に、上記水素イオン伝導体は、水素イオン伝導性の固体電解質からなることが好ましい。この水素イオン伝導性の固体電解質としては、例えば、スルホン酸基、リン酸基、炭酸基、カルボキシル基、パーフルオロ三級アルコール基、スルホン酸アミド基等を含むものを用いることが好ましい。具体的には、ナフィオン(登録商標)、パーフルオロスルホン酸ポリマー、パーフルオロカルボン酸ポリマー等の水素イオン伝導性の固体電解質を用いることができる。この場合には、万が一、上記水素濃度検出素子が損傷しても、上記水素濃度検出素子の外部に上記水素イオン伝導体の電解質が漏出するのを防止することができる。
【0015】
また、上記試料極は、パラジウム又はパラジウム合金からなることが好ましい。この場合には、水素を選択的に透過させることのできるパラジウム又はパラジウム合金を上記試料極に用いることにより、酸性度等の試料溶液の環境に左右されずに、水素濃度の検出精度を向上することができる。パラジウム合金としては、具体的には、Pd−Au(パラジウム−金)、Pd−Ag(パラジウム−銀)、Pd−Pt(パラジウム−白金)、Pd−Cu(パラジウム−銅)等を用いることができる。また、上記パラジウムまたはパラジウム合金には、添加元素として、3族元素、4族元素、5族元素、鉄族元素、白金族元素を微量添加しても良い。添加元素としては、具体的には、Y(イットリウム)、Ho(ホルミウム)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Ni(ニッケル)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、Ru(ルテニウム)等を用いることができる。
【0016】
また、上記試料極の厚さは、10μm以下であることが好ましい。この場合には、上記試料極における上記試料の水素濃度への応答性を向上することができる。したがって、上記水素濃度検出素子によって、より速やかに水素濃度を検出することができる。
【0017】
また、上記試料極は、該試料極を保持する保持層の表面に形成されており、上記試料極の厚さは1μm以下であることが好ましい。この場合には、上記試料極における上記試料の水素濃度への応答性をより向上することができる。したがって、上記水素濃度検出素子によって、さらに速やかに水素濃度を検出することができる。
上記試料極の厚さは、500nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。上記試料極の厚さを薄くすることにより、上記試料の水素濃度への応答性をさらに向上することができる。また、試料極の厚さが100nm以下の場合には、試料極内の水素の離脱を極めて速やかに行うことができる。これにより、上記試料極における水素の離脱を促進するための手段を、上記水素濃度検出素子から省略することができる。
また、上記保持層によって、上記試料極の厚さが薄くなることで低下する上記試料極の強度を補強することができる。これにより、上記試料極の損傷を防止することができる。この場合、上記保持層の表面に上記試料極を直接成膜してもよい。上記保持層表面への上記試料極の成膜方法として、スパッタ法、メッキ法、蒸着法等を用いることができるがこれに限られるものではない。
【0018】
また、上記保持層は、複数の流通孔を備えた多孔質膜を有していることが好ましい。この場合には、上記保持層によって上記試料極を補強しながら、上記流通孔に上記試料又は電解質を流通させ、上記試料極と接触させることができる。上記多孔質膜としては、例えば、多孔質セラミックス、不織布、限外ろ過膜(UF膜)、逆浸透膜(RO膜)、ポリエチレン等の高分子多孔質膜等を用いることができる。
【0019】
また、上記保持層は、水素イオンの伝導性を有する固体電解質からなる電解質膜を有していることが好ましい。この場合には、上記電解質膜が接着剤の役割を果たし、上記試料極を上記保持層に容易に保持させることができる。
【0020】
また、上記標準極は、パラジウム又はパラジウム合金からなり、水素供給手段によって所定の水素分圧に保たれていることが好ましい。この場合には、上記標準極を所定の水素分圧と平衡を保ち、上記標準極における水素分圧(ポテンシャル)を容易に把握することができる。これにより、水素濃度の検出精度を向上することができる。
パラジウム合金としては、具体的には、Pd−Au(パラジウム−金)、Pd−Ag(パラジウム−銀)、Pd−Pt(パラジウム−白金)、Pd−Cu(パラジウム−銅)等を用いることができる。また、上記パラジウムまたはパラジウム合金には、添加元素として、3族元素、4族元素、5族元素、鉄族元素、白金族元素を微量添加しても良い。添加元素としては、具体的には、Y(イットリウム)、Ho(ホルミウム)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Ni(ニッケル)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、Ru(ルテニウム)等を用いることができる。
【0021】
また、上記水素供給手段は、所定量の水素を固溶させた水素化物又は水素吸蔵合金からなることが好ましい。この場合には、上記水素供給手段の構造を簡略化し、上記水素濃度検出素子を小型化することができる。水素化物または水素吸蔵合金としては、具体的にはパラジウム、PdH(水素化パラジウム)、ZrH(二水素化ジルコニウム)、NbH(水素化ニオブ)、TiH(二水素化チタン)、LaNi水素吸蔵合金、TiFe水素吸蔵合金、CaNi水素吸蔵合金、MgNi水素吸蔵合金、ZrMn水素吸蔵合金等を用いることができる。
【0022】
また、上記試料極は、上記試料極と標準極との間に電圧を印加するための電源装置と電気的に接続されており、試料の水素濃度を検出した後、上記電源装置によって上記試料極と上記標準極との間に電圧を印加し、電流を流すことにより上記試料極の水素を水素イオンにして離脱させることが好ましい。この場合には、上記試料極内の水素を速やかに離脱することができる。これにより、上記水素濃度検出素子によって、水素濃度を検出した後、次回の水素濃度を検出するまでの間隔を短縮することができる。
【0023】
上記電源装置によって上記試料極と上記標準極との間に印加される電圧は、0.4V以上0.75V以下の範囲にあることが好ましい。この場合には、上記試料極と上記標準極との間に電流が流れるため、上記試料極内の水素を水素イオンとして電解質へ効率良く、速やかに放出することができる。尚、電圧が0.4V未満になると、上記試料極に還元反応が生じ水素ガスが生成される場合がある。また、電圧が0.75Vを越えると、上記試料極の酸化反応が生じ上記試料極が劣化するおそれがある。また、上記試料極と上記標準極との間に印加される電圧は、0.5V以上0.7V以下の範囲にあることがより好ましく、0.55V以上0.65V以下の範囲にあることがさらに好ましい。この場合には、上記試料極における還元反応に伴う水素ガスの生成及び上記試料極の酸化反応に伴う上記試料極の劣化をより抑制することができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
上記水素検出素子にかかる実施例について、図1及び図2を参照して説明する。
図1に示すごとく、水素濃度検出素子1は試料における水素濃度を検出するためのものである。水素濃度検出素子1は、水素透過性金属からなり試料と接触する試料極2と、所定の水素濃度に保たれた標準極4と、試料極2及び標準極4に接触した状態で試料極2及び標準極4の間に介在する水素イオン伝導体6とを備えている。水素イオン伝導体6は、溶融塩電解質を除く、水素イオン伝導性を有する電解質からなる。
【0025】
以下、さらに詳細に説明する。
図1に示すごとく、水素濃度検出素子1の軸方向Xにおける試料極2が配置された側を先端側とし、その反対側を基端側として説明する。
水素濃度検出素子1は、例えば、飲料、食物等、100℃以下の液体状の試料に溶存する水素の濃度を検出可能なものである。尚、液体状の試料としては、ゼリー状等、試料極2が損傷しない程度の固さを有する半液体状のものであってもよい。
【0026】
水素濃度検出素子1の標準極4は、純パラジウムを円板状に形成してなり、円筒状の内側筒部5における先端に配置されている。内側筒部5は、ガラス等の水素が不透過でかつ水素イオンが伝導しない材料からなり、内側筒部5と標準極4との間は電気絶縁性が確保されている。尚、本例において、内側筒部5は電気絶縁性を有する樹脂材料によって形成されている。
【0027】
標準極4には、導電性を有するリード線41の一端が電気的に接続されている。リード線41の表面は電気絶縁性を有する絶縁層によって覆われている。また、リード線41の他端は、後述する演算装置と接続されている。
標準極4は、水素供給手段7から供給される水素によって水素濃度が一定に保たれている。水素供給手段7は、円筒状のノズル71と、水素ガスが充填されたガスボンベ(図示略)とを備えている。ノズル71は、内側筒部5の内周側に配置されており、ガスボンベから供給された水素ガスをノズル71から標準極4に向かって吹き付けている。本例において、水素供給手段7によって水素を供給された標準極4は、供給される水素分圧に相当する水素ポテンシャルを保った状態にある。内側筒部5内に供給された水素は、内側筒部5とノズル71との間の空隙を通じ、内側筒部5の基端側端部近傍に形成された排出孔(図示略)から排出される。
【0028】
図1に示すごとく、試料極2は、内側筒部5の外側に、同軸となるように配設された外側筒部3の先端に配設された保持層21の表面に形成されている。
試料極2は、純パラジウムからなり、厚さは100nmに設定されている。本例の試料極2は、スパッタにより形成されたパラジウム膜を、円形状に切り出した後、保持層21の表面に固体電解質を用いて貼り付けてある。また、試料極2には、導電性を有するリード線22の一端が電気的に接続されている。リード線22の表面は電気絶縁性を有する絶縁層によって覆われている。また、リード線22の他端は、図示しない演算装置及び電源装置と接続されている。
【0029】
試料極2が貼り付けられた保持層21は、複数の流通孔を備えた多孔質膜211と、固体電解質からなる電解質膜212とを有している。
多孔質膜211は、限外ろ過膜(UF膜)からなる。この多孔質膜211に、溶媒に溶解させた固体電解質を塗布することで多孔質膜211の表面が固体電解質によって覆われる。また、溶媒が揮発した後、固体電解質が試料極2を多孔質膜211に保持するための接着剤の役割を果たす。尚、多孔質膜211としては、限外ろ過膜(UF膜)以外にも多孔質セラミックスや不織布等を用いることができる。
【0030】
電解質膜212は、多孔質膜211における試料極2が張り付けられた側と反対側に配設されている。本例においては、電解質膜212としてナフィオン(登録商標)を用いた。尚、ナフィオン以外にも種々の水素イオン伝導性を有する固体電解質を電解質膜212として用いることができる。
【0031】
試料極2を保持した保持層21は、試料極2が先端側を向くように外側筒部3の先端に配設されている。外側筒部3は、水素が透過しない材料からなり、外側筒部3と試料極2との間は電気絶縁性が確保されている。
【0032】
外側筒部3の内側には、水素イオン伝導性を備えた電解質からなる水素イオン伝導体6が注入されている。本例において、水素イオン伝導体6には希硫酸を用いている。水素イオン伝導体6は、標準極4と試料極2との両方に接触するように、両者の間に介在している。
【0033】
試料中の水素は、水素透過性金属からなる試料極2を透過し、水素イオン伝導体6と試料極2との界面まで到達する。これにより、水素イオン伝導体6と試料極2との界面は、試料溶液中の溶存水素の水素ポテンシャルに相当する水素分圧を有している。つまり、試料極2における水素イオン伝導体6側の界面における水素分圧と、試料の水素分圧とは部分平衡状態にある。
一方、標準極4側では、供給される水素が標準極4を透過し、水素イオン伝導体6と標準極4との界面まで到達する。これにより、平衡状態においては、水素イオン伝導体6と標準極4の界面は、水素供給手段によって供給される水素ガスの水素分圧と同等の水素分圧を有している。つまり、標準極4における水素イオン伝導体6側の界面の水素分圧と、水素供給手段7によって供給される水素ガスの水素分圧とは部分平衡状態にある。
【0034】
リード線22、41によって標準極4及び試料極2と接続された演算装置は、標準極4と試料極2との間において生じた起電力、標準極4における水素分圧、及び試料の温度を基に、ネルンストの式を用いることにより、試料極2における水素分圧を算出することができる。尚、ネルンストの式は、E=(−RT/2F)ln(P1/P2)であらわされる。ここで、Eは起電力、Rは気体定数、Tは温度(K)、Fはファラデー定数、P1は試料極2の水素ポテンシャルに相当する水素分圧、P2は標準極4の水素ポテンシャルに相当する水素分圧である。
【0035】
図2は、大気圧下において気体定数R、温度T、ファラデー定数F及び標準極4の水素分圧P2が既知となった際の起電力Eと試料中に溶存する水素の水素濃度との関係を例示するグラフである。
【0036】
リード線22、41によって試料極2及び標準電極4と接続された電源装置は、試料極2と標準極4との間に0.4V〜0.75Vの電圧を印加することができる。本例においては、水素濃度検出素子1によって、試料の水素濃度を検出した後、試料極2と標準極4との間に電圧を印加することにより、試料極2内の水素を離脱させる。
【0037】
次に、本例の作用効果について説明する。
水素濃度検出素子1において、水素イオン伝導体6は、溶融塩電解質を除く水素イオン伝導性を有する電解質からなる。そのため、100℃以下の試料であっても、水素濃度を、速やかに検出することができる。
【0038】
すなわち、溶融塩電解質は、塩を加熱し溶融させたものであり、融点以上の温度において優れたイオン伝導性を有しているが、その一方で融点以下ではイオン伝導性が著しく低下する。そのため、100℃以下の低温の試料における水素濃度を検出する際には、溶融電解質のイオン伝導性が低下した温度領域となり、水素濃度の検出時間が増大する。
【0039】
水素濃度検出素子1においては、溶融塩電解質を除く、水素イオン伝導性を備えた電解質を水素イオン伝導体6として用いている。そのため、水素イオン伝導体6によれば、100℃以下の低温でも優れたイオン伝導性を発揮し、100℃以下の試料においても試料の水素濃度を速やかに検出することが可能となる。
【0040】
また、試料極2は、水素透過性金属のパラジウムからなる。水素のみを選択的に透過させることのできるパラジウムを試料極2に用いることにより、酸性度等の試料溶液の環境に左右されずに水素濃度の検出精度を向上することができる。
【0041】
また、試料極2は、該試料極2を保持する保持層21の表面に形成されており、試料極2の厚さが1μm以下である。そのため、試料極2における試料の水素濃度への応答性をより向上することができる。したがって、水素濃度検出素子1によって、さらに速やかに水素濃度を検出することができる。また、試料極2の厚さが薄くなることで低下する試料極2の強度を、保持層21によって補強することができる。これにより、試料極2の損傷を防止することができる。
【0042】
また、保持層21は、複数の流通孔を備えた多孔質膜211を有している。そのため、保持層21によって試料極2を補強しながら、流通孔に試料又は電解質を流通させ、試料極2と接触させることができる。
【0043】
また、保持層21は、水素イオンの伝導性を有する固体電解質からなる電解質膜212を有している。そのため、電解質膜212が接着剤の役割を果たし、試料極2を保持層21に容易に保持させることができる。また、電解質膜212を設けることによって万が一、試料極2が損傷した場合に、水素イオン伝導体6の漏出を防止することができる。
【0044】
また、標準極4は、パラジウムからなり、水素供給手段7によって所定の水素分圧に保たれている。そのため、標準極4を所定の水素分圧と平衡を保ち、標準極4における水素ポテンシャルを容易に把握することができる。これにより、水素濃度の検出精度を向上することができる。
【0045】
また、試料極2は、試料極2と標準極4との間に電圧を印加するための電源装置と電気的に接続されており、試料の水素濃度を検出した後、電源装置によって試料極2と標準極4との間に0.4V以上0.75V以下の電圧を印加し、試料極2の水素イオンを離脱させるよう構成されている。そのため、試料極2内の水素を速やかに離脱することができる。すなわち、試料極2と標準極4との間に電流が流れるため、試料極2内の水素を水素イオンとして電解質へ効率良く、速やかに放出することができる。これにより、水素濃度検出素子1によって、水素濃度を検出した後、次回の水素濃度を検出するまでの間隔を短縮することができる。
【0046】
以上のごとく、本例の水素濃度検出素子1によれば、100℃以下の試料においても水素の濃度を速やかに検出することができる。
【0047】
尚、図1に示した水素濃度検出素子1の構成は一例を示すものであり、これ以外にも種々の構成が考えられる。例えば、図3に示すごとく、保持層21を構成する多孔質膜211と電解質膜212との間に試料極2を配置してもよい。また試料極2が厚く強度が十分高い場合には保持層21を除いてもよい。
【0048】
(確認試験)
本確認試験は、図4図9に示すごとく、3つの水素濃度検出素子1、100、101、102における水素濃度の検出時間を比較したものである。
図4に示すごとく、水素濃度検出素子1、100は、保持層21を多孔質膜211のみによって構成しており、多孔質膜211の表面に試料極2が形成されている。水素濃度検出素子1において、試料極2は、純パラジウムからなり厚さは100nmである。また、水素濃度検出素子100において、試料極2は、純パラジウムからなり厚さは400nmである。その他の構成は実施例1と同様である。
【0049】
図5に示すごとく、水素濃度検出素子101、102は、保持層21を有しておらず、試料極2が外側筒部3の先端に配設されている。
水素濃度検出素子101において、試料極2は、純パラジウムからなり厚さは5μmである。また、水素濃度検出素子102において、試料極2は、純パラジウムからなり厚さは25μmである。水素濃度検出素子101、102において、試料極2は、圧延加工により形成されており多孔質膜211は備えられていない。その他の構成は実施例1と同様である。
【0050】
次に、本確認試験における試験条件について説明する。
本確認試験に用いられる試料は、20℃の純水中に水素を吹き込み、水素濃度を飽和させた水素水である。
水素濃度検出素子1、100、101、102の試料極2をそれぞれ試料中に浸漬することで、試料極2に生じる起電力と、この起電力が低下収束するまでの検出時間とを計測した。尚、水素濃度検出素子1、100、101、102は、試験実施前に大気中において、試料極2の水素を離脱した状態にある。
【0051】
図6図9は、水素濃度検出素子1、100、101、102における起電力と検出時間との関係を示すグラフである。図6図9は、それぞれ、縦軸を起電力とし横軸を時間としてある。
図6に示すごとく、水素濃度検出素子1における検出時間t1は約45秒であった。
図7に示すごとく、水素濃度検出素子100における検出時間t2は約100秒であった。また、図8に示すごとく、水素濃度検出素子101における検出時間t3は約180秒であった。また、図9に示すごとく、水素濃度検出素子102における検出時間t3は約4000秒であった。このように、試料極2の厚さが薄くなるにつれて、検出時間が短縮されることが確認された。したがって、試料極2の厚さを薄くすることで、試料中の水素濃度を速やかに検出することができる。
【0052】
(実施例2)
本例は、図10に示すごとく、実施例1の水素濃度検出素子における構成を一部変更したものである。
本例の水素濃度検出素子103においては、内側筒部5を先端側の位置に配置することにより、標準極4を保持層21における電解質膜212に当接させている。つまり、電解質膜212が水素イオン伝導体6を兼ねている。外側筒部3の内側には、電解質膜212の湿潤を保つために純水8が注入されている。
その他の構成は実施例1と同様である。
【0053】
本例の水素濃度検出素子103においては、保持層21の電解質膜212を水素イオン伝導体6として用いることにより、水素濃度検出素子103の構造を簡略化することができる。
また、水素イオン伝導体6は、固体電解質からなる。そのため、万が一、水素濃度検出素子103が損傷しても、水素濃度検出素子103の外部に水素イオン伝導体6が漏出するのを防止することができる。
また、本例においても実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0054】
(実施例3)
本例は、図11及び図12に示すごとく、実施例1の水素濃度検出素子における構成を一部変更したものである。
本例の水素濃度検出素子104において、水素供給手段7は、水素吸蔵合金72であるパラジウムからなり、Pd−H系における圧力−組成−等線図においてプラトー領域となる水素量を固溶させたパラジウム水素化物である。尚、本例において、水素吸蔵合金72は標準極4を兼ねるものである。水素吸蔵合金72は外側筒部3内の水素イオン伝導体6に浸漬されている。
【0055】
標準極4における水素分圧P2は、温度により変化するため、演算装置は、温度を測定する温度検出手段(図示略)と、標準極4における温度と水素分圧との関係を示すデータとを有している。図12は、標準極4にパラジウム水素化物における温度と水素分圧P2(プラトー圧)との関係を示すグラフである。これにより温度変化に応じた標準極4の水素分圧を得ることができる。
その他の構成は実施例1と同様である。
【0056】
本例の水素濃度検出素子104において、水素供給手段7は、所定量の水素を固溶させた水素吸蔵合金からなる。そのため、水素供給手段7の構造を簡略化し、上記水素濃度検出素子104を小型化することができる。
また、本例においても実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0057】
(実施例4)
本例は、図13に示すごとく、実施例1の水素濃度検出素子における構成を一部変更したものである。
本例の水素濃度検出素子105において、水素供給手段7は、水素化物であるZrH(二水素化ジルコニウム)からなり、飽和量の水素を固溶させている。水素供給手段7は、内側筒部5の内側において、標準極4と接触するように配設されている。
標準極4は、試料極2における電解質膜212に接触するように配設されている。本例において、試料極2における電解質膜212は、水素イオン伝導体6を兼ねるものである。
外側筒部3の内側には、標準極4と内側筒部5の先端近傍とが浸漬するように純水が入れられている。
その他の構成は実施例1と同様である。
また、本例においても、実施例3と同様の作用効果を得ることができる。
【0058】
(実施例5)
本例は、図14に示すごとく、実施例1の水素濃度検出素子における構造を一部変更したものである。
本例の水素濃度検出素子106において、水素供給手段7は、水素化物であるNbH(水素化ニオブ)からなり、飽和量の水素が固溶されている。水素供給手段7は、パラジウムからなる標準電極によって被覆されており、保持層21の電解質膜212に接触するように配設されている。
その他の構成は実施例1と同様である。
また、本例においても、実施例3と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 水素濃度検出素子
2 試料極
21 保持層
211 多孔質膜
212 電解質膜
22、41 リード線
3 外側筒部
4 標準極
5 内側筒部
6 水素イオン伝導体
7 水素供給手段
71 ノズル
8 純水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14