(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366440
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】水晶発振器
(51)【国際特許分類】
H03B 5/32 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
H03B5/32 H
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-188359(P2014-188359)
(22)【出願日】2014年9月17日
(65)【公開番号】特開2016-63329(P2016-63329A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 善弘
【審査官】
石川 雄太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−098628(JP,A)
【文献】
特開平10−098151(JP,A)
【文献】
特開2003−110356(JP,A)
【文献】
特開2007−214739(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/172442(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/30−5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶片を実装する凹部と、前記凹部の底面の一端側に設けた導電性バンプと、前記凹部周囲の土手部に設けたシーム溶接用リングと、外部底面の四隅に各々設けた実装端子とを具えるセラミック容器、前記導電性バンプに導電性接着剤によって片持ち状態で実装されている当該水晶片、及び、前記シーム溶接用リングに溶接された蓋材、を具える面実装型水晶振動子と、
セラミック基板を骨格材とする実装基板であって、前記セラミック基板の、前記面実装型水晶振動子の実装端子に対応する位置にそれぞれ設けた実装端子、前記セラミック基板の前記面実装水晶振動子側とは反対面に設けた凹部、及び、前記凹部内に設けた電子部品を具える実装基板と、を積層し、
前記面実装型水晶振動子及び前記実装基板の実装端子同士を接合材によって接続した構造の水晶発振器において、
前記実装基板の長辺寸法は5.0±0.1mm、短辺寸法は3.2±0.1mm、かつ、前記実装基板の前記凹部周囲の部分の厚さは0.8±0.1mmであり、
前面実装型水晶振動子の長辺寸法は3.2±0.1mm、短辺寸法は2.5±0.1mm、かつ、前記土手部の厚さは0.3±0.1mmであり、
前記接続を、ヤング率が0.38GPa以下のシリコーン系導電性接着剤で行ってあることを特徴とする水晶発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品が実装された実装基板と面実装型の水晶振動子とを積層した構造の面実装型の水晶発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶発振器は、情報化社会で必須の周波数基準源である。このような水晶発振器の一種として、例えば特許文献1に記載された、電子部品(ICやコンデンサ)が実装されたセラミック基板から成る実装基板と、セラミック容器を用いた面実装型の水晶振動子とを積層した構造の、面実装型の水晶発振器(以下、積層型の水晶発振器という)がある。
【0003】
この積層型の水晶発振器では、水晶振動子に設けた端子電極と実装基板に設けた端子接続電極とを半田によって接続することで、目的の構造を実現している。そして、実装基板の水晶振動子とは反対面に設けた実装電極を、電子機器に接続することで、この積層型の水晶発振器は電子機器に組み込まれる。この積層型の水晶発振器では、汎用性のある水晶振動子を所望の実装基板に積層するのみで、所望の発振器を実現できるので、生産性の利点等が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−353919号公報、請求項2、
図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、水晶発振器の一種として温度補償型の水晶発振器がある。温度補償をしていることから出力周波数精度は、温度補償型以外のものより高いが、このものでは、ヒステリシス特性という仕様項目を満たす必要がある。
図4は、ヒステリシス特性を説明する図であり、横軸に水晶発振器が置かれる環境温度をとり、縦軸に水晶発振器の出力周波数の変化率をとって示したものである。環境温度が上昇したときと下降したときの周波数変化特性T1,T2間に差が生じる(ヒステリシス特性が生じる)ことを示している。ヒステリシス特性は無いことが理想である。実際は、環境温度が上昇したときと下降したときの周波数変化率の差ΔFnにおける最大値ΔFmaxが、所定値以下を満たすことが望まれる。温度補償型の積層型の水晶発振器に対しても、ヒステリシス特性の改善が望まれている。
【0006】
この出願の目的は、上述した課題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的の達成を図るため、この発明の水晶発振器によれば、セラミック容器を用いた面実装型水晶振動子と、電子部品が実装されたセラミック基板から成る実装基板とを積層し互いの端子同士を接合材によって接続した構造の水晶発振器において、前記接続を、導電性を有しかつヤング率が1GPa以下の接合材で行ってあることを特徴とする。
【0008】
この発明の実施に当たり、より好ましくは、前記接合材を、導電性を有しかつヤング率が0.5GPa以下の材料で構成するのが良い。導電性を有しかつヤング率が1GPa以下の接合材及び0.5GPa以下の接合材の好ましい例として、シリコーン系の導電性接着剤を挙げることができる。
【0009】
なお、この発明でいう実装基板は、少なくとも水晶発振回路用の電子部品が実装されたものをいう。さらにこの実装基板は、積層される水晶振動子の外形と同様な外形のもの又は水晶振動子の外形より大きい外形のものをいう。後者の場合、より好ましくは、用いる水晶振動子の外形に対し、水晶振動子の規格化されたサイズ群中の1ランク大きいサイズを有した基板とするのが良い。例えば、水晶振動子が長辺が約3.2mm、短辺が約2.5mm(いわゆる3225型)の水晶振動子の場合ならば、実装基板は長辺が約5.0mm、短辺が約3.2mm(いわゆる5032型)の大きさの実装基板とするのが良い。水晶振動子と実装基板とを上記のような大小関係とした場合、水晶振動子の実装基板への実装が行い易いこと、及び、電子機器の基板に当該水晶発振器を実装する際にもランドパタン等の規格化がし易いこと等の理由から、完成している水晶振動子を利用した積層型の水晶発振器を安価かつ歩留良くしかもユーザが利用し易い形態で提供できる等の利点が得られる。他の例組合せ例としては、水晶振動子が長辺が約2.5mm、短辺が約2.0mm(いわゆる2520型)のもので、実装基板が長辺が約3.2mm、短辺が約2.5mm(いわゆる3225型)のもの等が挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、水晶振動子および実装基板各々の端子同士を接続する接合材を所定のヤング率の導電性部材で構成している。このような接合材であると、後述のシミュレーション及び実験結果から分かるように、接合材として半田を用いていた従来品に比べ、実装基板から水晶振動子に及ぶ応力(主に、当該水晶発振器の環境温度変化に起因する応力)を軽減できるため、周波数温度特性のヒステリシス特性の改善が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(A)〜(C)は実施例の水晶発振器の説明図である。
【
図2】(A)〜(C)は実施例の水晶発振器に具わる主に水晶振動子の説明図である。
【
図3】(A)、(B)は、シミュレーションの様子とその結果を説明する図である。
【
図4】温度特性のヒステリシス性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照してこの発明の水晶発振器の実施例について説明する。なお、説明に用いる各図はこの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の実施例中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明が以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0013】
1.構造の説明
図1(A)〜(C)は実施例の水晶発振器10の説明図である。特に、(A)図は実施例の水晶発振器10の斜視図、(B)図は実施例の水晶発振器10の断面図であって(A)図のP−P線相当の断面図、(C)図は水晶振動子20と、実装基板40と、接合材50との組立前の図である。
【0014】
実施例の水晶発振器10は、面実装型水晶振動子20と、実装基板40と、これらの互いが対向する面に設けた実装端子33及び45同士を接続している所定のヤング率を有した導電性の接合材50と、を具えている。
【0015】
水晶振動子20は、凹部21aを有したセラミック容器21を具える。そして、この凹部21a内に、水晶片23を実装してある(
図1(B))。詳細には、水晶片23は、セラミック容器21の凹部21aの底面に設けた導電性バンプ25に、導電性接着剤27によって固定してある。また、水晶振動子20では、セラミック容器21の上面にシーム溶接用リング29を具え、このリング29に蓋材31を溶接してある。さらにこのセラミック容器21の実装基板40と対向する面には、その四隅各々に1個ずつ、合計4個の実装端子33を具えている。この実施例の場合、これら4個の実装端子33のうちの2個を、セラミック容器21に形成してあるビア配線(図示せず)を介して、導電性バンプ25に接続してある。
【0016】
図2(A)は、水晶振動子20の内部を透視した概略斜視図、
図2(B)は蓋材31を外して水晶振動子20を見た上面図、
図2(C)は水晶振動子20の底面図である。水晶振動子20に内蔵した水晶片23は、この場合、平面形状が矩形状のATカット水晶片としてある。この水晶片23は、その両主面に励振用電極35を具えている。この水晶片23を、その短辺側の端部の短辺方向に沿う離れた2点で、導電性バンプ25に導電性接着剤27によって接続固定してある。また、水晶振動子20の底面に設けた4個の実装端子33のうちの対角線上の2個は、既に説明したように、励振電極35に、ビア配線(図示せず)および導電性バンプ25を介し接続してある。そして、これら4個の実装端子33を、基板40側の実装端子45に、接合材50によって接続してある。
【0017】
実装基板40は、
図1(B)、(C)に示したように、凹部41aを有したセラミック基板41を骨格材とするものである。この凹部41aを、セラミック基板41の水晶振動子20とは反対面に設けてある。そして、この凹部40aの底面に、電子部品、具体的には、発振回路及び温度補償回路用の集積回路(IC)43aやコンデンサ43b、43cを具えている。また、このセラミック基板41の水晶振動子の実装端子33と対応する位置に、実装端子45を具えている。そして、この例の場合、水晶振動子20と実装基板40とは、それぞれに設けた実装端子33,45の位置、従って4ヶ所で、接続材50により接続固定してある。また、セラミック基板41の凹部41aを設けた面の縁領域に、この水晶発振器10を電子機器等へ実装するための実装端子47を具えている。電子部品43a、43b、43cと実装端子45と実装端子47とはビア配線49aやキャスタレーション49b等により互いに所定関係で接続してある。なお、実装端子47は、電源用端子、GND用端子、出力端子等の各種端子として使用されるものである。
【0018】
この実施例の場合、実装基板40の大きさを5032型と呼ばれる大きさとし、水晶振動子20の大きさを3225型と呼ばれる大きさとしてある。この実施例の積層型の水晶発振器10は、
図1(C)に示したように、水晶振動子20と実装基板40とを別途に用意しておき、その一方の実装端子上にシリコーン系導電性接着剤50を塗布した後に、この上に他方を積層し適当な圧力で押しつけた後に、所定の加熱炉で接着剤50を硬化させることで得ることができる。
【0019】
2.シミュレーションおよびその結果の説明
この発明では、水晶振動子20の実装端子33と発振器基板40の実装端子45とを、導電性を有する接続材であってヤング率が1GPa以下、より好ましくは0.5GPa以下の接続材50によって接続してある。この接続材50を決める根拠となったシミュレーションおよび実験結果を以下に説明する。
【0020】
図3はシミュレーションの概要とその結果を示した図である。具体的には、
図1,2を用いて説明した積層型の水晶発振器10であって、実装基板40は長辺寸法が約5mm、短辺寸法が約3.2mm(いわゆる5032型)、厚い部分の厚さTが約0.8mmのものとし、水晶振動子20は長辺寸法が約3.2mm、短辺寸法が約2.5mm(いわゆる3225型)、セラミック部分の厚い部分の厚さtが約0.3mm、リング29の厚さが約0.12mmのものとし、接続材50をヤング率が異なる表1の各種材料としたモデルを設定する。そして、このモデルに対し温度差125℃の温度変化を与えたときの応力シミュレーションを有限要素法により実施する。長辺や短辺等の寸法は各々±0.1mmのバラツキを考慮してシミュレーションをしている。なお、接合材50の材質を変えたこと以外、シミュレーション条件は一定なので、用いたモデルの各部の詳細寸法や物性の記載は省略する。
【0021】
図3(A)は、上記温度変化時のモデルでの応力分布シミュレーションの理解のため、シミュレーション時の画像を引用したものである。この
図3(A)では、各部材の番号等を記載してある。また、
図3(B)は、この温度変化時の水晶片23の中央部Q点での応力を、接続材50毎で求めてプロットしたものである。水晶片23の中央部での応力を比較すれば、接合材50の効力の評価が可能だからである。横軸にシミュレーションした接合材50のヤング率をとり、縦軸にQ点での応力をとって、シミュレーション結果をプロットしたものである。なお、表1に、シミュレーションで用いた各接合材のヤング率とシミュレーションで算出された応力とを示す。
【0023】
このシミュレーション結果から、接続材50として半田を用いた場合、Q点での応力は0.394MPaである。これに対し、ヤング率が1の接続材を用いた場合は、Q点での応力は、
図3(B)の特性図中の近似線から、2程度であることが分かり、接続材を半田とした場合の50%にまで応力を軽減できることが分かる。また、接続材50としてシリコーン系接着剤(ヤング率が0.5GPa以下、この場合0.38GPa)を用いた場合、同応力は0.151MPaになり、接合材として半田を用いる場合の40%弱まで軽減できることが分かる。応力を半減以下にできることは好ましいことから、接合材として、ヤング率が1以下の導電性接合材を用いるのが良いことが分かる。より好ましくは、ヤング率が0.5以下の導電性接合材を用いるのが良いことが分かる。具体的には、シリコーン系の導電性接着剤を用いるのが良いことが分かる。
【0024】
3.試作評価
5032型の実装基板と3225型の水晶振動子とを、半田により接合した試作品(比較例)と、シリコーン系の導電性接着剤により接合した試作品(実施例)とをそれぞれ20個ずつ試作した。これら実施例及び比較例の各試作品に対し、−20℃から+85℃の温度での周波数出力のヒステリシス特性を各々測定した。そして、これら測定したヒステリシス特性から、
図4を用いて説明した周波数の最大差ΔXmaxを各々求めた。
実施例の試作品20個のΔXmaxの平均値は69ppbであり、比較例の試作品20個のΔXmaxの平均値は115ppbであり、実施例は比較例に対し、ΔXmaxが60%になることが分かった。また、実施例及び比較例の各試作品のΔXmaxの所定値(規格値)に対する合格率を求めた。その結果、実施例での合格率は37%、比較例での合格率は0%であった。
【0025】
これらの結果からも、接合材を、0.5GPa以下のものとすることで、ヒステリシス特性を改善できることが分かる。なお、ここでは合格率が37%と述べたが、この合格率は今回の規格値に対する例示であり、この数値が37%と低いことは問題ではなく、実施例の比較例に対する有意差を示したものである。また、シミュレーション結果では、接続材50としてヤング率が1GPaのものを用いると、接合材を半田とした場合に比べ、Q点での応力は半減することから、ヤング率が1GPa以下の接合材で製品を試作した場合も、ヒステリシス特性の改善に寄与できると言える。
【0026】
上述においては、この発明の水晶発振器の実施例を説明したが、この発明は上述の例に限られない。例えば、上述の例では、実装基板の大きさをいわゆる5032型とし、水晶振動子の大きさをいわゆる3225型としたが、本発明の効果は、実施例以外の大きさの実装基板と水晶振動子との組合せたものでも得られる。また、この発明は周波数温度特性の仕様が厳しい温度補償型の積層型の水晶発振器に適用して好適であるが、温度補償型以外の発振器にも適用できる。また、上述の実施例では水晶振動子としてシーム溶接用リングを有するものを用いたが、シームリングを有していないいわゆるダイレクトシーム型のもの等、他の水晶振動子であっても本発明は適用できる。また、上述の実施例では水晶片として平面形状が矩形のATカット水晶片を用いたが、形状および切断方位が他の水晶片であっても本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0027】
10:水晶発振器
20:水晶振動子
21:セラミック容器
21a:凹部
23:水晶片
25:導電性バンプ
27:導電性接着剤
29:シーム溶接用リング
31:蓋材
33:実装端子
35:励振用電極
40:実装基板
41:セラミック基板
41a:凹部
43a、43b、43c:電子部品
45:実装端子(水晶振動子との実装端子)
47:実装端子(電子機器等との実装端子)
49a:ビア配線
49b:キャスタレーション
50:接合材(導電性を有した所定ヤング率の接続材)