(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、発光装置の製造方法について説明する。ただし、本発明は図面または以下に記載される実施形態には限定されないことを理解されたい。
【0012】
本製造方法は、基板上にLED素子を実装する工程と、実装されたLED素子をシリコーン樹脂により封止する工程と、シリコーン樹脂の表面に紫外光を照射する工程とを有する。最後の照射工程にて、適切な照射エネルギーおよび波長の紫外光で発光装置(LEDパッケージ)の封止樹脂であるシリコーン樹脂の極表面を酸化する(改質させる)ことにより、封止樹脂にクラックや変色が発生することを防ぎつつ、その表面のタック性を低減させる。こうして、本製造方法では、簡便な後処理で、LEDパッケージのハンドリング性を向上させるとともに、封止樹脂の表面に埃などの異物が付着することを防止する。
【0013】
本製造方法では、封止樹脂としてJISK6253で規定されているタイプD硬度(ショアD30)が30以下のシリコーン樹脂を使用する場合を対象とする。ここで、タイプD硬度(ショアD30)とは、JISK6253で規定されているデュロメータDタイプを用いて測定された硬さを意味する。ショアD30以下の硬さのシリコーン樹脂は、柔らかくタック性が顕著であるが、それより硬い樹脂であればタック性は必ずしも問題にならないため、上記の照射工程は必要に応じて行えばよい。
【0014】
図1(A)および
図1(B)は、LEDパッケージ1と、エキシマランプ2による照射工程とを説明するための模式図である。
図1(A)は、LEDパッケージ1の上面図を示し、
図1(B)は、LEDパッケージ1のIB−IB線断面図と、エキシマランプ2を用いてLEDパッケージ1に紫外光を照射する工程を示す。なお、本製造方法で製造される発光装置は、基板上にシリコーン樹脂を用いてLED素子が封止されるものであればよく、
図1(A)および
図1(B)に示したものには限定されない。
【0015】
図1(A)に示すように、LEDパッケージ1は、照明用途などに用いられる発光装置であり、主要な構成要素として、実装基板10、回路基板20、LED素子30、反射枠40およびシリコーン樹脂50を有する。
【0016】
実装基板10は、一例として正方形の形状を有する、耐熱性および放熱性に優れたアルミニウム製の金属基板である。
【0017】
回路基板20は、一例として、実装基板10と同じ大きさの正方形の形状を有し、その中心部には、LEDパッケージ1の凹部となる円形の開口部が形成される。回路基板20の対角線上で向かい合う2つの頂点付近には固定用貫通穴22A,22Bが設けられており、回路基板20は、それらの位置が実装基板10の図示しない固定用貫通穴と合うように、下面が実装基板10上に貼り付けられて固定される。また、回路基板20の上面には、図示しない配線パターンが形成されており、この配線パターンは、固定用貫通穴22A,22Bが設けられていない残りの2つの頂点付近に形成された、外部電源との接続用の電極24A,24Bに接続される。
【0018】
LED素子30は、回路基板20の開口部から露出している実装基板10の上面に、絶縁性の接着剤などにより実装される。LEDパッケージ1は複数のLED素子30を有し、
図1(A)では16個のLED素子30が実装される場合の例を示している。LED素子30は上面に一対の素子電極を有し、
図1(B)に示すように、隣接するLED素子30の素子電極は、ワイヤボンド31により相互に接続される。開口部の外周側に位置するLED素子30から出たワイヤボンド31は、回路基板20の図示しない配線パターンに接続される。
【0019】
反射枠40は、開口部の大きさに合わせて白色の樹脂で構成された円形の枠体であり、シリコーン樹脂50を実装基板10上に固定する。反射枠40は、LED素子30から側方に出射された光を、LEDパッケージ1の上方(LED素子30から見て実装基板10とは反対側)に向けて反射させる。
【0020】
シリコーン樹脂50は、開口部に注入されて、LED素子30を一体に被覆し保護する無色かつ透明な樹脂であり、LEDパッケージ1の封止樹脂として機能する。例えば、LED素子30が青色LEDである場合には、シリコーン樹脂50には、YAG(yttrium aluminum garnet)などの黄色蛍光体が分散混入される。この場合、LEDパッケージ1は、青色LEDからの青色光と、それによって黄色蛍光体を励起させて得られる光とを混合させることで得られる、疑似白色といわれる昼光色の白色光を出射する。暖色光が求められる場合には、シリコーン樹脂50にはさらに赤色蛍光体が添加分散される。また、照明光の色再現性が重視される場合には、シリコーン樹脂50にはYAG以外に緑色蛍光体と赤色蛍光体が分散混入され、これにより演色性の高いLEDパッケージとなる。なお、シリコーン樹脂50には蛍光体を混入させず、LED素子30の色をそのまま出射させてもよい。
【0021】
LEDパッケージ1の製造時には、まず、実装基板10上にLED素子30が実装され、開口部内にシリコーン樹脂50を充填してLED素子30が封止される。そして、その後で、
図1(B)に示すように、エキシマランプ2を用いて、LEDパッケージ1の上方からシリコーン樹脂50の表面51に紫外光L1が照射される。これにより、シリコーン樹脂50の極表面を酸化させる表面処理が行われる。
【0022】
照射工程でシリコーン樹脂50の表面のみを酸化させるためには、照射エネルギーを適切な範囲内に設定する必要がある。そこで、基板上にLED素子が実装され、そのLED素子がシリコーン樹脂により封止された複数のLEDパッケージを用意し、そのそれぞれについて異なる照射エネルギーで照射工程を実施して、シリコーン樹脂のタック性と照射エネルギーとの関係を調べた。タック性は、下記の2つの実験により判定した。
【0023】
第1の実験として、LEDパッケージの上に直径が等しい複数のビーズを配置し、LEDパッケージを傾けたときにビーズが転がるか否かによりシリコーン樹脂の表面のタック性を判定した。その際は、シリコーン樹脂の上に、直径が0.6mmのジルコニアビーズを5個配置し、LEDパッケージを鉛直方向に対して30度傾けて、10秒後にシリコーン樹脂の上に残っているビーズの個数を計測した。また、ビーズの直径を1.2mmに代えて、上記と同じ実験を行った。
【0024】
第2の実験として、照射後のシリコーン樹脂の表面に水滴(純水)を垂らして、その水滴と樹脂表面との接触角を計測することにより、間接的にタック性を評価した。接触角については、
図2(A)および
図2(B)を参照して次に説明する。別途行った主観試験により、接触角が概ね40度を超えるとタック性が認められるが、接触角が40度以下になるとタック性が低減することが確かめられている。そこで、水滴の接触角が40度を超えていればタック性が残存しており、40度以下であればタック性が低減したと判定した。
【0025】
図2(A)および
図2(B)は、水滴と樹脂表面との接触角について説明する図である。接触角は、水滴60の内側における、水滴60の表面とシリコーン樹脂の表面51とのなす角度θとして定義される。
図2(A)は接触角θが40度以上でタック性がある場合を、
図2(B)は接触角が0度でタック性がなく、滴下後に水滴60が瞬時に濡れ広がった場合をそれぞれ示す。
【0026】
以下では、照射工程の照射エネルギーを変化させて第1および第2の実験を行った結果について説明する。
【実施例1】
【0027】
基板上にLED素子が実装され、そのLED素子がシリコーン樹脂により封止されたLEDパッケージを用意し、エキシマランプにより酸素濃度1%の環境下で照射工程を実施した。エキシマランプとしては、株式会社エム・ディ・コム製の高照度エキシマ照射装置MEIRH−M−1−152−H1(ピーク波長172nm)を使用した。浜松ホトニクス株式会社製のH8025−172、C8026を使用して照射エネルギーを測定したところ、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーは285.8mJ/cm
2であった。
【0028】
実施例1の照射後のシリコーン樹脂について第1の実験を行ったところ、直径がどちらの場合もすべてのビーズが転がるという結果になった。また、第2の実験における水滴の接触角は40度であった。したがって、実施例1の照射後のシリコーン樹脂ではタック性が低減したことが確かめられた。また、実施例1の照射後のシリコーン樹脂では、クラックと変色は発生しなかった。
【0029】
図3は、酸素濃度1%の環境下での照射工程における照射エネルギーと照射後のシリコーン樹脂の表面に垂らした水滴の接触角との関係を示すグラフである。グラフの横軸は照射エネルギー(mJ/cm
2)を示し、縦軸は水滴の接触角(度)を示す。照射エネルギーの数値は、シリコーン樹脂の表面における値である。
図3に、実施例1ならびに後述する実施例2〜4および比較例1,2についての、第2の実験の結果をまとめて示す。
【実施例2】
【0030】
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、酸素濃度1%の環境下で、エキシマランプにより、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーが428.7mJ/cm
2になるように照射工程を実施した。エキシマランプと照射エネルギーの測定装置は実施例1と同一のものを使用し、測定環境の酸素濃度も実施例1と同一に設定した。実施例2の照射後のシリコーン樹脂について第1の実験を行ったところ、直径がどちらの場合もすべてのビーズが転がるという結果になった。また、第2の実験における水滴の接触角は34度であった。したがって、実施例2の照射後のシリコーン樹脂でもタック性が低減したことが確かめられた。また、実施例2の照射後のシリコーン樹脂では、クラックと変色は発生しなかった。
【実施例3】
【0031】
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、酸素濃度1%の環境下で、エキシマランプにより、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーが571.6mJ/cm
2になるように照射工程を実施した。エキシマランプと照射エネルギーの測定装置は実施例1と同一のものを使用し、測定環境の酸素濃度も実施例1と同一に設定した。実施例3の照射後のシリコーン樹脂について第1の実験を行ったところ、直径がどちらの場合もすべてのビーズが転がるという結果になった。また、第2の実験における水滴の接触角は23度であった。したがって、実施例3の照射後のシリコーン樹脂でもタック性が低減したことが確かめられた。また、実施例3の照射後のシリコーン樹脂では、クラックと変色は発生しなかった。
【実施例4】
【0032】
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、酸素濃度1%の環境下で、エキシマランプにより、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーが715mJ/cm
2になるように照射工程を実施した。エキシマランプと照射エネルギーの測定装置は実施例1と同一のものを使用し、測定環境の酸素濃度も実施例1と同一に設定した。実施例4の照射後のシリコーン樹脂について第1の実験を行ったところ、直径がどちらの場合もすべてのビーズが転がるという結果になった。また、第2の実験における水滴の接触角は0度であった。したがって、実施例4の照射後のシリコーン樹脂でもタック性が低減したことが確かめられた。また、実施例4の照射後のシリコーン樹脂では、クラックと変色は発生しなかった。
【実施例5】
【0033】
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、酸素濃度1%の環境下で、エキシマランプにより、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーが1000mJ/cm
2になるように照射工程を実施した。エキシマランプと照射エネルギーの測定装置は実施例1と同一のものを使用し、測定環境の酸素濃度も実施例1と同一に設定した。実施例5の照射後のシリコーン樹脂について第1の実験を行ったところ、直径がどちらの場合もすべてのビーズが転がるという結果になった。また、第2の実験における水滴の接触角は0度であった。したがって、実施例5の照射後のシリコーン樹脂でもタック性が低減したことが確かめられた。また、実施例5の照射後のシリコーン樹脂では、クラックと変色は発生しなかった。
【実施例6】
【0034】
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、酸素濃度1%の環境下で、エキシマランプにより、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーが1430mJ/cm
2になるように照射工程を実施した。エキシマランプと照射エネルギーの測定装置は実施例1と同一のものを使用し、測定環境の酸素濃度も実施例1と同一に設定した。実施例6の照射後のシリコーン樹脂について第1の実験を行ったところ、直径がどちらの場合もすべてのビーズが転がるという結果になった。また、第2の実験における水滴の接触角は0度であった。したがって、実施例6の照射後のシリコーン樹脂でもタック性が低減したことが確かめられた。
【0035】
図4(A)は、実施例6の照射後のシリコーン樹脂の表面状態を示す写真である。実施例6の照射後のシリコーン樹脂では、クラックと変色は発生しなかった。
【実施例7】
【0036】
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、エキシマランプにより酸素濃度3%の環境下で照射工程を実施した。エキシマランプと照射エネルギーの測定装置は実施例1と同一のものを使用し、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーを513.5mJ/cm
2とした。実施例7の照射後のシリコーン樹脂について第1の実験を行ったところ、直径がどちらの場合もすべてのビーズが転がるという結果になった。また、第2の実験における水滴の接触角は15度であった。したがって、実施例7の照射後のシリコーン樹脂でもタック性が低減したことが確かめられた。また、実施例7の照射後のシリコーン樹脂では、クラックと変色は発生しなかった。
【0037】
図5は、処理時間を一定とした照射工程における環境の酸素濃度と照射後のシリコーン樹脂の表面に垂らした水滴の接触角との関係を示すグラフである。グラフの横軸は酸素濃度(%)を示し、縦軸は水滴の接触角(度)を示す。
図5に、実施例4,7および後述する実施例8についての、第2の実験の結果をまとめて示す。
【実施例8】
【0038】
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、エキシマランプにより酸素濃度5%の環境下で照射工程を実施した。エキシマランプと照射エネルギーの測定装置は実施例1と同一のものを使用し、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーを340.0mJ/cm
2とした。実施例8の照射後のシリコーン樹脂について第1の実験を行ったところ、直径がどちらの場合もすべてのビーズが転がるという結果になった。また、第2の実験における水滴の接触角は38度であった。したがって、実施例8の照射後のシリコーン樹脂でもタック性が低減したことが確かめられた。また、実施例8の照射後のシリコーン樹脂では、クラックと変色は発生しなかった。
【0039】
(比較例1)
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、照射工程を実施せずに第1の実験を行ったところ、直径がどちらの場合も、すべてのビーズが転がらないという結果になった。また、第2の実験における水滴の接触角は95度であった。したがって、エキシマランプを用いた照射工程を実施しない比較例1ではタック性が残存していることが確かめられた。
【0040】
図4(B)は、比較例1のシリコーン樹脂の表面状態を示す写真である。比較例1のシリコーン樹脂では、クラックと変色は発生しなかった。
【0041】
(比較例2)
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、エキシマランプにより、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーが142.9mJ/cm
2になるように照射工程を実施した。エキシマランプと照射エネルギーの測定装置は実施例1と同一のものを使用し、測定環境の酸素濃度も実施例1と同一に設定した。比較例2の照射後のシリコーン樹脂について第1の実験を行ったところ、直径がどちらの場合も、5個のうちの3個のビーズが転がらずに残るという結果になった。また、第2の実験における水滴の接触角を測定すると、72度であった。したがって、比較例2の照射後のシリコーン樹脂では、タック性が残存していることが確かめられた。また、比較例2の照射後のシリコーン樹脂では、クラックと変色は発生しなかった。
【0042】
(比較例3)
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、エキシマランプにより酸素濃度10%の環境下で照射工程を実施した。エキシマランプと照射エネルギーの測定装置は実施例1と同一のものを使用し、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーを190.0mJ/cm
2とした。比較例3の照射後のシリコーン樹脂について第1の実験を行ったところ、直径がどちらの場合も、5個のうちの2個のビーズが転がらずに残るという結果になった。また、第2の実験における水滴の接触角は60度であった。したがって、比較例3の照射後のシリコーン樹脂では、タック性が残存していることが確かめられた。また、比較例3の照射後のシリコーン樹脂では、クラックと変色は発生しなかった。
【0043】
図6は、処理時間を一定とした照射工程における環境の酸素濃度とシリコーン樹脂の最表面における照射エネルギーとの関係を示すグラフである。グラフの横軸は酸素濃度(%)を示し、縦軸はシリコーン樹脂の最表面における照射エネルギー(mJ/cm
2)を示す。環境の酸素濃度が高くなるほど、エキシマランプからの紫外光は空気中の酸素に吸収されやすくなり、シリコーン樹脂の表面まで届きにくくなる。このことに起因して、
図6からわかるように、環境の酸素濃度が高くなるほど樹脂表面への照射エネルギーが減少し、タック性を除去することが難しくなる。
【0044】
(比較例4)
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、エキシマランプにより、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーが2145mJ/cm
2になるように照射工程を実施した。エキシマランプと照射エネルギーの測定装置は実施例1と同一のものを使用し、測定環境の酸素濃度も実施例1と同一に設定した。
【0045】
図4(C)は、比較例4の照射後のシリコーン樹脂の表面状態を示す写真である。比較例4では、主観試験によりシリコーン樹脂のタック性が低減していることが確かめられ、またシリコーン樹脂の変色は確認されなかったが、樹脂にクラックが発生した。
【0046】
(比較例5)
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、エキシマランプにより、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーが2860mJ/cm
2になるように照射工程を実施した。エキシマランプと照射エネルギーの測定装置は実施例1と同一のものを使用し、測定環境の酸素濃度も実施例1と同一に設定した。
【0047】
図4(D)は、比較例5の照射後のシリコーン樹脂の表面状態を示す写真である。比較例5でも、主観試験によりシリコーン樹脂のタック性が低減していることが確かめられ、またシリコーン樹脂の変色は確認されなかったが、樹脂にクラックが発生した。
【0048】
(比較例6)
実施例1と同様のLEDパッケージを用意し、ピーク波長が172nmのエキシマランプに代えて、表面改質に関わる主な波長が185nmと254nmである低圧水銀ランプを光源とするUVオゾン処理装置を使用して、照射工程を実施した。照射エネルギーは、シリコーン樹脂の表面において24000mJ/cm
2となるように設定した。また、照射エネルギーの測定装置は実施例1と同一のものを使用し、測定環境の酸素濃度も実施例1と同一に設定した。ただし、波長が185nmの光は波長が254nmの光に対して非常に弱いことから、酸素に阻まれてほとんどシリコーン樹脂の表面に到達していないため、実質的には波長254nmの光のみがシリコーン樹脂の表面に照射されている。比較例6の照射後のシリコーン樹脂について第2の実験を行ったところ、水滴の接触角は83度であった。したがって、比較例6の照射後のシリコーン樹脂は、タック性が残存していることが確かめられた。また、比較例6のシリコーン樹脂では、クラックは発生しなかったが、黄色く変色していた。
【0049】
図7は、表面改質に関わる主な波長が185nmと254nmであるUVオゾン処理装置を光源に使用した場合の、照射工程における照射エネルギーと照射後のシリコーン樹脂の表面に垂らした水滴の接触角との関係を示すグラフである。グラフの横軸は照射エネルギー(mJ/cm
2)を示し、縦軸は水滴の接触角(度)を示す。照射エネルギーの数値は、シリコーン樹脂の表面における値である。照射エネルギーが24000mJ/cm
2の結果は、上記の比較例6に対応する。
図7からわかるように、UVオゾン処理装置を光源に使用した場合には、照射エネルギーにかかわらず、水滴の接触角は約80度以上であり、照射工程によってタック性は変化しなかった。しかも、図示しないが、照射エネルギーが24000mJ/cm
2,35000mJ/cm
2,48000mJ/cm
2の場合には、照射工程によってシリコーン樹脂が黄色く変色することが確認された。
【0050】
以上説明した、実施例1〜8および比較例1〜6の結果を表1にまとめて示す。なお、表1における実験1の結果の表記は、「(転がらずに残ったビーズ数)/(実験した全ビーズ数)」という意味である。
【0051】
【表1】
【0052】
表1からわかるように、エキシマランプを用いて、シリコーン樹脂の最表面における照射エネルギーが280mJ/cm
2〜1500mJ/cm
2になるようにシリコーン樹脂の表面に紫外光を照射すれば、封止樹脂にクラックが発生することを防ぎつつ、その表面のタック性を低減させることが可能である。特に、この照射エネルギーは、500mJ/cm
2〜1000mJ/cm
2の範囲であることが好ましい。
【0053】
照射エネルギーが下限の280mJ/cm
2より低いと、シリコーン樹脂の表面の改質が不十分であり、タック性が残ってしまう。一方、照射エネルギーが上限の1500mJ/cm
2より高いと、表面だけでなく、シリコーン樹脂の内部まで改質が進んでしまう。この場合には、タック性はなくなるが、シリコーン樹脂が硬くなって、熱応力を緩和させるなどの機能を果たせなくなり、クラックが発生するという不具合がある。照射エネルギーを高くしすぎると、シリコーン樹脂の表面におけるSiO
2の比率が高くなり、表面収縮と高硬度化に起因してクラックが発生すると考えられる。また、照射エネルギーを高くしすぎると、シリコーン樹脂に変色が発生し、LEDパッケージ1の発光特性に悪影響を及ぼすことも考えられる。したがって、本製造方法では、エキシマランプ2による照射エネルギーは、シリコーン樹脂の表面において280mJ/cm
2〜1500mJ/cm
2の範囲内に設定される。
【0054】
また、照射工程における環境の酸素濃度は、0%〜5%であることが好ましく、特に1〜3%であることがより好ましい。ここで、酸素濃度0%とは、有効数字1桁の値であり、必ずしも酸素を全く含まないという意味ではない。酸素濃度が5%を超えると、
図6を用いて説明したように、環境の酸素濃度が高くなるほどエキシマランプからの紫外光が空気中の酸素に吸収されやすくなるため、樹脂表面への照射エネルギーが減少し、タック性を除去することが難しくなる。また、エキシマランプ2からの紫外光が空気中の酸素に吸収されてオゾンが発生し、このオゾンによってシリコーン樹脂が酸化されることで、タック性が残ったままシリコーン樹脂50に変色が発生する場合がある。したがって、環境の酸素濃度はなるべく低いことが好ましい。また、このような紫外光の吸収を避けるためには、照射工程の際に、LEDパッケージ1をエキシマランプ2になるべく接触させておくことが好ましい。
【0055】
また、エキシマランプ2の発光波長(ピーク波長)は、100nm〜200nmであることが好ましい。一般に、波長が長くなると物質の内部にまで光が入り込むが、逆に波長が短くなれば、物質内部には光が入り込まなくなる。照射工程ではシリコーン樹脂の表面のみを酸化させたいため、紫外光(紫外線)の中でも、特に200nm以下の真空紫外線を照射することが好ましい。また、代表的なエキシマランプとしては、ピーク波長(放射波長)が126nm(Ar
2*)、146nm(Kr
2*)、172nm(Xe
2*)、222nm(KrCl*)および308nm(XeCl*)のものが知られている。そこで、本製造方法では、このうち、ピーク波長が100nm〜180nmの範囲に含まれる、126nm、146nmまたは172nmのものを使用することがさらに好ましい。
【0056】
図8は、照射工程が行われた後のシリコーン樹脂50の表面51の模式図である。上記した範囲内の照射エネルギーで表面を処理することによって、実施例1〜8における照射後のシリコーン樹脂50の表面51には、シリコーン樹脂50のSi原子とO原子から生成されたSiO
2(二酸化ケイ素、あるいはシリカ)の層52が、多数の島状に点在していると考えられる。こうして、もとの柔らかいシリコーン樹脂の部分と、硬く変化したシリカの部分とがまだら模様に混在することにより、シリカの部分によってタック性が低減されるとともに、もとの柔らかい部分がバネ成分として機能することで、表面のクラックの発生が抑制される。
【0057】
図9(A)〜
図9(C)は、それぞれ、シリコーン樹脂50に対してX線光電子分光分析を行って得られた、C原子、O原子およびSi原子のナロースペクトルを示すグラフである。各グラフの横軸は光電子の結合エネルギー(eV)を示し、縦軸は計測された1秒当たりの光電子の個数(c/s)を示す。また、各グラフの曲線a〜cは、それぞれ、照射工程の実施前、シリコーン樹脂の表面における照射エネルギーが715mJ/cm
2になるように照射工程を実施した後、および同じ照射エネルギーが1430mJ/cm
2になるように照射工程を実施した後に、シリコーン樹脂に対してX線光電子分光分析を行った結果を示す。なお、X線源にはAlKα線(1486.6eV)を使用した。
【0058】
図9(A)〜
図9(C)に示すように、C1s、O1sおよびSi2pのピーク位置は、照射工程の実施前にはそれぞれ283.5eV、531.4eVおよび101.2eVであるのに対し、照射工程の実施後にはそれぞれ283.8eV、532.0eVおよび102.5〜102.8eVとなった。特に、O1sおよびSi2pのピーク位置は、照射工程の実施前にはメチル基2個のものと同じであったが、照射工程の実施後にはメチル基0個のものと同じになった。このことから、エキシマランプを用いた表面処理によって、シリコーン樹脂内のメチル基が減少したと考えられる。また、
図9(A)〜
図9(C)に示すように、照射工程を実施することによってC原子の検出強度が弱くなるとともに、O原子とSi原子の検出強度が強くなることから、シリコーン樹脂内のSi−C結合およびC−C結合の解裂ならびに炭素基の脱離などが生じたと推測される。これらの結果から、エキシマランプを用いた表面処理によって、シリコーン樹脂の表面には、シリコーン樹脂のSi原子とO原子から生成されたSiO2の層が島状に点在していることが推定される。
【0059】
なお、上記の各実施例では光源としてエキシマランプを用いたが、光源は真空紫外線を照射できるものであればどのようなものでもよく、例えばピーク波長が157nmのF
2レーザなどを用いてもよい。