特許第6366494号(P6366494)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6366494スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366494
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/48 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   C08G65/48
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-256574(P2014-256574)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-117790(P2016-117790A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】三井 昭
(72)【発明者】
【氏名】藤井 修
(72)【発明者】
【氏名】田中 軌人
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐一
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−059675(JP,A)
【文献】 特開2014−232663(JP,A)
【文献】 特開昭63−229109(JP,A)
【文献】 特開2005−171087(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/102851(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02128919(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G65/00−65/48
C08L71/00−71/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素原子含有量が30質量%以上40質量%以下であり、イオン交換容量が0.5ミリ当量/g以上3.5ミリ当量/g以下である、スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂。
【請求項2】
一般式(1)および一般式(2)で示される構成成分を含む、請求項1に記載のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂。
【化1】
・・・(1)
(式中、R11、R12、R13は、それぞれ独立して、水素、炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、カルボキシ基、ヒドロキシアルキル基、ホルミルアルキル基、カルボキシアルキル基のいずれかである。);
【化2】
・・・(2)
(式中、R21、R22、R23は、それぞれ独立して、水素、炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、カルボキシ基、ヒドロキシアルキル基、ホルミルアルキル基、カルボキシアルキル基のいずれかであり、Xは、H、Li、Na、Kのいずれかである。)
【請求項3】
前記一般式(1)および一般式(2)で示される構成成分に対する、前記一般式(2)で示される構成成分の割合であるスルホン化率が20モル%以上である、請求項1又は2に記載のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂。
【請求項4】
170℃で20分間アニール処理した後のイオン交換容量が0.5ミリ当量/g以上3.5ミリ当量/g以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜として有用なスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質型燃料電池は、プロトン交換膜の両面に電極を接合し、プロトン交換膜−電極構造のアノード側に水素、カソード側に酸素または空気を供給して、電極両端に生じる電位差より発電される。
【0003】
このとき、プロトン交換膜に用いられる固体高分子電解質としては、プロトン導電率とともに電気化学的および力学的に十分安定なものでなくてはならないため、長期にわたり使用できるものとして、主に米デュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」を代表例とする非常に高価なパーフルオロカーボンスルホン酸膜が採用されてきた。
【0004】
また、プロトン交換膜は、ガス透過率を低くすることによりガスバリア隔壁としての役割も果たす必要がある。プロトン交換膜のガス透過率が高いと、アノード側水素のカソード側へのリーク及びカソード側酸素のアノード側へのリーク、すなわち、クロスリークが発生する。クロスリークが発生すると、いわゆるケミカルショートの状態となって良好な電圧が取り出せなくなる。また、アノード側水素とカソード側酸素とが反応して過酸化水素が発生し、プロトン交換膜を化学劣化させるという問題もある。
【0005】
このような欠点を克服するものとして、比較的ガスバリア性の高い非フッ素系芳香族環含有ポリマーにスルホン基を導入したプロトン交換膜の検討が行われている。例えば、ポリアリールエーテルスルホン樹脂をスルホン化したもの(例えば、特許文献1参照)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂をスルホン化したもの(例えば、特許文献2参照)、ポリフェニレンエーテル樹脂をスルホン化したもの(例えば、非特許文献1参照)等が例示される。中でも、汎用エンプラとして用いられるポリフェニレンエーテル樹脂であるポリ(2,6−ジメチル−1,4フェニレンエーテル)を基材とするプロトン交換膜は、その変性容易性、経済性が優れる事から最も期待される材料の一つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−133146号公報
【特許文献2】特開平6−93114号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0091225号明細書(第1〜2頁)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science,Vol.29(1984)p.4017−4027
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの非フッ素系芳香族環含有ポリマーのスルホン化反応により芳香環上に導入されたスルホン基は一般に熱により脱離しやすい傾向にある。
【0009】
そこで、本発明は、熱によるスルホン基の脱離を抑制することによって、耐久性に優れるスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
熱によるスルホン基の脱離が抑制されたポリマーとして、電子吸引性芳香環上にスルホン基を導入したモノマーを用いて重合することによって得られる、熱的に安定性の高いスルホン化ポリアリールエーテルスルホン系化合物が報告されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、モノマーの反応性が低いために、ポリマーを得るのに要する重合反応時間が長くなり、ポリマーの経済性に問題があった。
【0011】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ポリフェニレンエーテル樹脂を部分的に酸化させることによって、芳香環上に導入したスルホン基の脱離が抑制され、プロトン伝導性に優れ、ガス透過性が小さく、熱処理後も電気化学的に安定なスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を見出すに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0013】
[1]酸素原子含有量が30質量%以上40質量%以下であり、イオン交換容量が0.5ミリ当量/g以上3.5ミリ当量/g以下である、スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂。
【0014】
[2]一般式(1)および一般式(2)で示される構成成分を含む、[1]に記載のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂。
【化1】
・・・(1)
(式中、R11、R12、R13は、それぞれ独立して、水素、炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、カルボキシ基、ヒドロキシアルキル基、ホルミルアルキル基、カルボキシアルキル基のいずれかである。);
【化2】
・・・(2)
(式中、R21、R22、R23は、それぞれ独立して、水素、炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、カルボキシ基、ヒドロキシアルキル基、ホルミルアルキル基、カルボキシアルキル基のいずれかであり、Xは、H、Li、Na、Kのいずれかである。)
【0015】
[3]前記一般式(1)および一般式(2)で示される構成成分に対する、前記一般式(2)で示される構成成分の割合であるスルホン化率が20モル%以上である、[1]又は[2]に記載のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂。
【0016】
[4]170℃で20分間アニール処理した後のイオン交換容量が0.5ミリ当量/g以上3.5ミリ当量/g以下である、[1]乃至[3]のいずれかに記載のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、芳香環上に導入したスルホン基の脱離が抑制され、プロトン伝導性に優れ、ガス透過性が小さく、熱処理後も電気化学的に安定なスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、酸化により酸素原子含有量を特定の範囲としたスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を調製して、スルホン基の脱離が抑制され、ガスバリア性、加工性、電気化学的安定性、イオン伝導性に優れた、特に燃料電池用電解質膜として有用な高分子材料を提供するものである。
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0020】
(スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂)
本実施形態のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂としては、特に制限はないが、一般式(1)
【化3】
・・・(1)
(式中、R11、R12、R13は、それぞれ独立して、水素、炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、カルボキシ基、ヒドロキシアルキル基、ホルミルアルキル基、カルボキシアルキル基のいずれかである。)
、および一般式(2)
【化4】
・・・(2)
(式中、R21、R22、R23は、それぞれ独立して、水素、炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、カルボキシ基、ヒドロキシアルキル基、ホルミルアルキル基、カルボキシアルキル基のいずれかであり、Xは、H、Li、Na、Kのいずれかである。)
で示される構成成分を含むものが好ましい。
【0021】
前述の一般式(1)および一般式(2)中におけるヒドロキシアルキル基は、水酸基と直鎖状、分枝状、または環状の炭素数2〜4のアルキレン基とで構成される基を指し、例えば、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。
ホルミルアルキル基は、ホルミル基と炭素数1〜3のアルキレン基とで構成される基を指し、例えば、ホルミルメチル基、ホルミルエチル基等が挙げられる。
カルボキシアルキル基は、カルボキシル基と炭素数1〜3のアルキレン基とで構成される基を指し、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基等が挙げられる。
【0022】
本実施形態のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂の酸素原子含有量は、熱によるスルホン基の脱離を抑制して、耐久性を高める観点から、30質量%以上であり、33質量%以上であることが好ましく、また、ポリフェニレンエーテル樹脂の架橋反応を抑制して、後述のポリフェニレンエーテル樹脂のスルホン化反応によりスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を得る場合の反応効率を高める観点、及び、スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂の製膜加工性を高める観点から、40質量%以下であり、35質量%以下であることが好ましい。
ポリフェニレンエーテル樹脂は、その構造中に酸素原子を含有する。例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4フェニレンエーテル)の場合、酸素原子含有量は、約13質量%である。この樹脂を、後述の方法により酸化処理し、また、後述の方法によりスルホン化処理することによって、酸素原子含有量を、30質量%以上とすることができる。
なお、樹脂の酸素原子含有量は、特に断りのない限り、樹脂を室温(例えば、30℃)で24時間乾燥させた後における値を指す。
【0023】
またなお、本実施形態のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂の酸素原子含有量は、炭素・水素・窒素同時定量装置を用いて、測定することができる。すなわち、所定量のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を乾燥させた後、燃焼温度1050℃において、分解ガス中の二酸化炭素および水を吸着・還元することにより定量して、スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂中の酸素原子含有量を求めることができる。炭素・水素・窒素同時定量装置としては、例えば、ヤナコテクニカルサイエンス(株)社製のCHNコーダーMT−6等が挙げられる。
【0024】
本実施形態のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂のイオン交換容量は、下記の理由により、3.5ミリ当量/g以下であり、2.8ミリ当量/g以下であることが好ましく、2.5ミリ当量/g以下であることが更に好ましい。すなわち、イオン交換容量をこの範囲とすることによって、スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を固体高分子電解質膜として用いた際に、燃料電池運転中に生じる高温高加湿下での膨潤が低減されやすくなる。固体高分子電解質膜の膨潤が低減されることによって、固体高分子電解質膜の強度が低下したり、しわが発生して電極から剥離したりする等の問題、更には、ガス遮断性が低下する問題を、改善することができる。
また、上記イオン交換容量は、膨潤が低減された固体高分子電解質膜を備えた燃料電池の発電能力を良好にする観点から、0.5ミリ当量/g以上であり、0.65ミリ当量/g以上であることが好ましく、1.3ミリ当量/g以上であることが更に好ましい。
なお、樹脂のイオン交換容量は、特に断りのない限り、樹脂を室温(例えば、30℃)で24時間乾燥させた後における値を指す。
【0025】
またなお、イオン交換容量は、常法により求めることができる。
【0026】
本実施形態のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂のスルホン化率は、特に制限はないが、樹脂を固体高分子電解質膜として備えた燃料電池の発電効率を高める観点から、20モル%以上であることが好ましく、35%モル以上であることが更に好ましく、50モル%以上であることが特に好ましく、また、固体高分子電解質膜の膨潤を低減させる観点から、80モル%以下であることが好ましく、75モル%以下であることが更に好ましい。
なお、樹脂のスルホン化率は、特に断りのない限り、樹脂を室温(例えば、30℃)で24時間乾燥させた後における値を指す。
【0027】
またなお、スルホン化率は、ベースとなるポリフェニレンエーテル樹脂の構成成分(モノマー単位)全体に対する、スルホン基が導入されている構成成分の割合(モルによる割合)を指す。例えば、スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂が、前述の一般式(1)および一般式(2)で示される構成成分を含む場合には、スルホン化率は、一般式(1)および一般式(2)で示される構成成分に対する、前記一般式(2)で示される構成成分の割合を指す。また、例えば、スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂が、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)を部分的酸化・スルホン化することによって調製された場合には、未置換の2,6−ジメチルフェニレンオキサイドユニットのモル数をQ、スルホン基で置換された2,6−ジメチルフェニレンオキサイドユニットのモル数をPとしたとき、P/(P+Q)×100(モル%)で表される値を指す。
【0028】
本実施形態のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂では、高温条件下であっても熱によるスルホン基の脱離が生じにくいという効果が得られる。そして、上記効果により、高温条件下においた後における本実施形態の樹脂のイオン交換容量は、高温条件下においた後における従来の樹脂のイオン交換容量と比較して大きくなる。
例えば、170℃で20分間熱処理した後における本実施形態のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂のイオン交換容量の値は、
好適には0.5ミリ当量/g以上であり、更に好適には1.3ミリ当量/g以上であり、また、好適には3.5ミリ当量/g以下であり、更に好適には2.5ミリ当量/g以下であり、特に好適には1.8ミリ当量/g以下である。
【0029】
本実施形態のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂のイオン交換容量は、ポリフェニレンエーテル樹脂をスルホン化する際の、反応溶液濃度やスルホン化剤であるクロロスルホン酸の滴下量を選択することによって、上記数値範囲内に入るよう適宜調整することができる。ここで、樹脂に導入されたスルホン基の量が多いほど、樹脂のイオン交換容量は高くなる。
【0030】
本実施形態のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂は、例えば、初めに、ポリフェニレンエーテル樹脂を部分的に酸化し、次いで、この部分的に酸化された樹脂にスルホン基を導入することによって、調製することができる。
なお、スルホン基を予め導入したスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を酸素雰囲気下で熱処理する方法もあるが、この場合、熱によるスルホン基の脱離が生じやすいため、上記の通り、酸素雰囲気下でポリフェニレンエーテル樹脂を予め熱処理した後にスルホン基を導入する方法が好ましい。
【0031】
本実施形態のポリフェニレンエーテル樹脂としては、特に制限はないが、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)とポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル)とのブロック共重合体やこれらの混合物、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとのランダム共重合体、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)とポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンエーテル)とのブロック共重合体やこれらの混合物、2,6−ジメチルフェノールと2,6−ジフェニルフェノールとのランダム共重合体が好ましい。
【0032】
上記ポリフェニレンエーテル樹脂の極限粘度としては、スルホン基を導入したときの溶媒からの単離性、および耐熱性を高める観点から、0.25dL/g以上であることが好ましく、0.30dL/g以上であることが更に好ましく、また、スルホン酸基導入時の溶液粘度が高くなり過ぎることを防ぎ、撹拌・送液等のハンドリング性を高める観点から、1.45dL/g以下であることが好ましく、0.70dL/g以下であることが更に好ましい。
なお、極限粘度は、下記のようにして求められる。すなわち、ポリフェニレンエーテル樹脂0.5gをクロロホルムに溶解し、100mL以上(濃度0.5g/dL以下)となる異なる濃度の2種以上の溶液を得る。そして、25℃においてウベローデ型の粘度計を用いて、異なる濃度の溶液毎の比粘度を測定し、比粘度と濃度との関係から、濃度が0であるときの粘度を導出し、この粘度を極限粘度とする。
【0033】
本実施形態に用いるポリフェニレンエーテル樹脂の部分的酸化方法としては、樹脂の酸素原子含有量を30質量%以上40質量%以下に制御できる限り、特に制限はないが、例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂の粉体、および/または、それを溶融混練機等を用いて溶融混練することによってペレタイズしたもの(以下、「ペレット」ともいう)を、酸素雰囲気下でオーブン等を用いて熱処理することによって酸化させる方法が挙げられる。また、ポリフェニレンエーテル樹脂の粉体、および/または、そのペレットを、酸化雰囲気下(具体的には、酸素を含む気体が共存する条件下)で溶融混練等の熱処理をさせることによって酸化させる方法も挙げられる。
部分的酸化の反応条件としては、例えば、溶融混練機を用いた場合には、空気下、熱処理温度:340℃〜380℃、熱処理時間:0.2分間〜3分間、とすることができ、また、例えば、オーブンを用いた場合には、空気下、熱処理温度:120℃〜180℃、熱処理時間:20分間〜200時間、とすることができる。
【0034】
本実施形態に用いる部分的に酸化されたポリフェニレンエーテル樹脂にスルホン基を導入する方法としては、特に制限はないが、例えば、非特許文献1に記載の方法を用いることができる。すなわち、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)をクロロホルムに溶解し、この溶液にクロロスルホン酸を滴下して、室温で反応させることによって、スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を得ることができる。スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂は、スルホン化反応の進行と共に(スルホン化率が高まると共に)、クロロホルム不溶となり、不定形の固体として析出する。
スルホン化の反応条件としては、反応溶液中の樹脂の濃度:約60g/L、反応溶液中のクロロスルホン酸の濃度:約28g/L、クロロスルホン酸の滴下量:約7g/分、とすることができる。
【0035】
上記の固体として得られたスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂の処理方法としては、特に制限はされないが、例えば、樹脂を、メタノール、エタノール、プロパノール、ジメチルスルホキシド等の溶媒に溶解させ、その後、この溶液をトレイ上にキャスト・乾燥して、膜状の固体とする方法等が挙げられる。
【0036】
本実施形態のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂は、単独の固体高分子電解質膜として、または従来のパーフルオロカーボンスルホン酸膜との複合膜として、固体高分子型燃料電池、レドックスフロー電池等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
実施例及び比較例のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂の原材料として、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)(S201A、旭化成ケミカルズ株式会社製)(極限粘度:0.47dL/g)を用いた。
【0039】
実施例及び比較例における各種物性の測定方法及び評価方法(1)〜(3)を以下に示す。
【0040】
(1)スルホン化率
スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を、1H−NMR装置(ECA−500、JEOL株式会社製)を用いて、溶媒:DMSO−d6、周波数:500MHz、緩和時間:5sec、積算回数:64回、室温の条件下で、NMR測定した。そして、δ 6.0ppm付近のピークをスルホン化された2,6−ジメチルフェニレンオキサイドユニットの3位又は5位のプロトン(X)、δ 6.4ppm付近のピークを未置換の2,6−ジメチルフェニレンオキサイドユニット3位及び5位のプロトン(Y)と同定し、そのピークの面積比(積分値の比)からスルホン化率=ピーク(X)の面積/(ピーク(X)の面積+ピーク(Y)の面積/2)×100(モル%)を求めた。
また、部分的に酸化されたスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂の場合も同様とした。
【0041】
(2)酸素原子含有量
スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を、90℃で1時間乾燥させ、その後この樹脂を約2mg秤量した。秤量した樹脂について、炭素・水素・窒素同時測定装置(CHNコーダーMT−6、ヤナコテクニカルサイエンス(株)製)を用いて、燃焼温度1050℃にて発生する分解ガス中の二酸化炭素(CO2)および水(H2O)の濃度を定量し、スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂の酸素原子含有量(質量%)を求めた。
【0042】
(3)イオン交換容量
スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂0.02gを、25℃の飽和NaCl水溶液30mLに浸漬し、攪拌しながら30分間放置した。次いで、その飽和NaCl水溶液中のプロトンを、フェノールフタレインを指示薬として用いながら、0.01N水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定した。中和後に、イオン交換基の対イオンがナトリウムイオンとなっているスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を、ろ過により得た。得られた樹脂を、純水ですすぎ、更に、160℃で真空乾燥した後の絶乾重量を秤量した。
中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM(mmol)、イオン交換基の対イオンがナトリウムイオンとなっているスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂の質量をW(mg)として、式:EW=(W/M)−22により、当量質量EW(g/当量)を求めた。更に、得られたEW値の逆数をとって1000倍することによって、イオン交換容量(ミリ当量/g)を算出した。
【0043】
以下、各実施例及び各比較例について詳述する。
【0044】
(実施例1)
ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)約1kgを、同方向回転二軸押出機(ZSK−25、コぺリオン社製)(スクリュー径:25mm、L/D=42、真空ベント付)を用いて溶融混練し、ストランドカット法により直径約3mm、長さ約3mmの円筒状ペレットを得た。なお、溶融混練条件としては、原料供給ホッパーに窒素を導入、ホッパー内の酸素濃度:1〜5体積%、バレル温度:320℃、スクリュー回転数:250rpm、ベント真空度:700mmHg、吐出量:12kg/時、とした。
【0045】
得られたペレットを、オーブンにて空気下、150℃で20時間酸化処理した。
【0046】
酸化処理したペレット30.0gをクロロホルム450mLに溶解させ、これにクロロスルホン酸14.1gを20分かけて滴下し、室温で30分撹拌して反応させた。反応の進行とともに析出したスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂から上澄みを取り除き、クロロホルム300mLを用い3回洗浄した。得られたスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を300mLのメタノールに溶解した。ステンレス製トレイにポリテトラフルオロエチレンシートを敷き、ポリテトラフルオロエチレンシート上にキャスト法により塗布し、室温で12時間風乾し、厚さ約4μmのフィルム状のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を得た。
【0047】
フィルム状のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を、ハサミで約5mm四方程度に切断し、3Lポリタンクに移し、600mLの蒸留水を加え洗浄した。この洗浄操作での洗浄分離水のpHが5以上になるまで同様の洗浄操作を5回繰り返した。
洗浄したフィルム状スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を室温で24時間風乾させた後、前述の方法(1)〜(3)により、スルホン化率、酸素原子含有量、イオン交換容量を測定した。
また、洗浄したフィルム状スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂をオーブンにて170℃で20分間熱処理(アニール処理)した後、前述の方法(3)により、イオン交換容量を測定した。
【0048】
(実施例2)
ポリ(2,6−ジメチル−1,4フェニレンエーテル)を溶融混練して得たペレットをオーブンにて空気下、150℃で100時間酸化処理した以外は、実施例1と同様に、スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を得て、評価を行った。
【0049】
(実施例3)
ポリ(2,6−ジメチル−1,4フェニレンエーテル)を溶融混練して得たペレットをオーブンにて空気下、150℃で200時間酸化処理した以外は、実施例1と同様に、スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を得て、評価を行った。該酸化処理したペレットは、スルホン化反応時に、一部クロロホルム不溶(約20質量%)となり、可溶分を用いてスルホン化反応以降の操作を行った。
【0050】
(比較例1)
同方向回転二軸押出機のホッパー内の酸素濃度を1体積%未満に制御し、ポリ(2,6−ジメチル−1,4フェニレンエーテル)を溶融混練してペレットを得て、その後、オーブンでの酸化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様に、スルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を得て、評価を行った。
【0051】
(比較例2)
ポリ(2,6−ジメチル−1,4フェニレンエーテル)を溶融混練して得たペレットを、オーブンにて空気下、150℃で500時間酸化処理した。得られた酸化処理したペレット30.0gは、クロロホルム450mLに溶解させようとしたが、溶解せず、スルホン基含有ポリフェニレンエーテルは得られなかった。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、酸素原子含有量が30質量%以上40質量%以下である実施例1、2および3のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂は、比較例1と比較して、170℃で20分間熱処理した後も高いイオン交換容量を示す。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、芳香環上に導入したスルホン基の脱離が抑制され、プロトン伝導性に優れ、ガス透過性が小さく、熱処理後も電気化学的に安定なスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂を提供できる。
本発明のスルホン基含有ポリフェニレンエーテル樹脂は、単独の固体高分子電解質膜として、または従来のパーフルオロカーボンスルホン酸膜との複合膜とし、高い耐久性と発電効率を兼ね備え、固体高分子型燃料電池、レドックスフロー電池等に好適に利用可能である。