特許第6366502号(P6366502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6366502アフィニティクロマトグラフィーのための、洗浄溶液および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366502
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】アフィニティクロマトグラフィーのための、洗浄溶液および方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20180723BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20180723BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C07K1/22
   C07K16/00
   C07K19/00
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-513198(P2014-513198)
(86)(22)【出願日】2012年5月31日
(65)【公表番号】特表2014-515389(P2014-515389A)
(43)【公表日】2014年6月30日
(86)【国際出願番号】EP2012060313
(87)【国際公開番号】WO2012164046
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年5月27日
【審判番号】不服2017-4937(P2017-4937/J1)
【審判請求日】2017年4月6日
(31)【優先権主張番号】61/492,092
(32)【優先日】2011年6月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】フロウエンシュフ,アヒム
【合議体】
【審判長】 中島 庸子
【審判官】 松浦 安紀子
【審判官】 長井 啓子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−502737(JP,A)
【文献】 特表平1−238534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C07K1/00-1/36, C12P21/00-21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPlus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的のタンパク質が結合するアフィニティクロマトグラフィー(AC)マトリックスを使用して、精製した目的のタンパク質を生成する方法であって、.5〜9.5のpHのアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、ACマトリックスを洗浄することを含み、洗浄を非緩衝塩の存在なしで行い、目的のタンパク質が、抗体、たはFc領域を含むタンパク質であACマトリックスが、プロテインAマトリックス、プロテインGマトリックス、およびプロテインA/Gマトリックスからなる群より選択される、方法。
【請求項2】
a)目的のタンパク質を含む混合物をACマトリックスへ添加することと、
b).5〜9.5のpHのアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、ACマトリックスを洗浄することと、
c)ACマトリックスから目的のタンパク質を溶出することと
を含み、洗浄を非緩衝塩の存在なしで行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ACマトリックスがプロテインAカラムである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
プロテインAカラムを用いて、精製した抗体、たはFc領域を含むタンパク質を生成する方法であって、
a.抗体、たはFc領域を含むタンパク質を含む混合物をプロテインAカラム上に添加することと、
b..5〜9.5のpHのアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、プロテインAカラムを洗浄することと、
c.プロテインAカラムから、抗体、たはFc領域を含むタンパク質を溶出することと
を含み、洗浄を非緩衝塩の存在なしで行う、方法。
【請求項5】
プロテインAカラムに抗体、たはFc領域を含むタンパク質を添加する前、および/または、プロテインAカラムから抗体、たはFc領域を含むタンパク質を溶出する前に、平衡緩衝液を用いて、プロテインAカラムを平衡化することを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
pHが8.9〜9.0である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
pHが9.0である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
アルギニン誘導体が、アセチルアルギニン、アグマチン、アルギン酸、N−α−ブチロイル−L−アルギミン、およびN−α−ピバロイルアルギミンから成る群から選択される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
アルギニンが、0.1〜0.5Mの範囲の濃度で存在する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
アルギニンが、0.25Mの濃度で存在する、請求項に記載の方法。
【請求項11】
洗浄溶液が、アルギニン−HClを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
洗浄溶液が、高分子量(HMW)種、宿主細胞タンパク質(HCP)、および低分子量(LMW)種から成る群から選択される不純物を除去する、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
洗浄溶液が、1つまたは複数の緩衝塩を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
アフィニティクロマトグラフィーの間に、宿主細胞タンパク質(HCP)ならびに高分子量種(HMW)および低分子量種(LMW)等の生成物関連不純物を含む不純物を効率的に除去することは、タンパク質の下流処理中の重要な因子である。第一の精製工程(「捕捉工程」)の後のタンパク質の純度は、特に、精製された生成物を生成するために必要な後続の工程の種類および数に影響を与える。捕捉工程もまた、生成物を濃縮し、その後の精製工程における、比例してより小さく、コストがより低くなるコストのカラムの使用を可能にするため、重要である。したがって、第一のクロマトグラフィー工程の間に、不純物の除去を最適化することが重要である。抗体精製の場合において、この第一の工程は、典型的には、プロテインAまたは誘導体に対する親和性に基づいている。
【0002】
低pH条件(例えば、pH3〜4の間)は、アフィニティカラムから、結合した標的タンパク質を溶出するために必要であるが、潜在的に凝集を誘導するという欠点を有する。歴史的に、pH5〜5.5の間等のストリンジェンシーのより低い条件が、同時に標的−プロテインA相互作用を維持しながら、カラムから非特異的に結合した不純物を洗浄するために使用されている。しかしながら、特に高添加密度で作業する場合、これらの条件下では、標的タンパク質が部分的に溶出されるため、回収率が低下することが多い。
【0003】
アミノ酸アルギニンは、ある種の沈殿タンパク質を可溶化し(M、Tsumoto K、Nitta S、Adschiri T、Ejima D、Arakawa T、および Kumagai I、Biochem. Biophys. Res. Commun. 328、189-197(2005);Umetsu M、Tsumoto K、Hara M、Ashish K、Goda S、Adschiri T、Kumagai I、J Biol Chem. 2003 Mar 14;278(11):8979-87)、凝集体の形成を減少させ(Arakawa T、Tsumoto K、Biochem Biophys Res Commun. 2003 Apr 25;304(1):148-52)およびArakawa T、Biophys. Chem. 127 (2007)、pp. 1-8 (Review))、表面へのタンパク質の非特異的な吸着を減少させる(Ejima D、J Chromato A、05 およびSchneider CP、J. Phys. Chem. B 113 (2009)、pp.2050-2058)ことが示されている。更に、塩酸グアニジウムとは対照的に、アルギニンは、タンパク質をアンフォールディングしないことが示されていない(Arakawa T、Biochem. Biophys. Res. Commun. 304 (2003)、 pp. 148-152および Nakakido M、Biophys. Chem. 137 (2008)、pp. 105-109)。
【0004】
したがって、アルギニンは、アフィニティクロマトグラフィーカラムおよび他の種類の精製カラムから、タンパク質を溶出するために使用されている。例えば、Arakawaらは、pH4.1〜5.0の0.5〜2.0Mのアルギニンを含有する溶出緩衝液を用いて、プロテインAカラムから抗体を溶出する方法を記載している(Arakawaら(2004) Protein Expression and Purification 36:244-248; Tsumoto,K.ら(2004) Biotechnol. Prog. 20:1301-1308; 米国特許出願公開第20050176109号)。更に、Ejimaらによる米国特許第7,501,495号は、塩酸アルギニンを含有する展開液により、ゲル濾過カラムからタンパク質を溶出する方法を記載している。Ghoseらは、溶出液としてアルギニン勾配を用いて、誘導化されていないシリカから目的のタンパク質を溶出する方法を記載している(Ghose,S.ら(2004) Biotech. Bioeng. 87:413-423)。Coffmanらによる米国特許出願公開第20030050450号は、Fc含有分子とプロテインAとの複合体から、Fc含有分子を解離する方法を記載しており、ここでは、Fc/プロテインA複合体を疎水性相互作用カラム(HIC)にかけ、アルギニン含有緩衝液を用いてカラムを洗浄する。
【0005】
Barronらは、pH5.0〜7.5のリン酸/酢酸塩緩衝液中に0.5から2.0Mアルギニン(最適には、1Mアルギニン、pH5.0の0.1Mリン酸/酢酸塩緩衝液)を含有するプロテインAクロマトグラフィーのための中間の洗浄溶液を記載している。このアルギニン洗浄工程は、HCP汚染物質を除去することが報告されている。著者らはまた、pH5.0〜7.5で0.5〜2.0Mの塩化ナトリウムを含有する中間の洗浄溶液を試験し、NaCl洗浄がHCPの有意な低下を示さないことを報告した(Barronら「Improving Purity on Protein A Affinity Media Through Use of an Arginine Intermediate Wash Step」、 http://www.priorartdatabase.com/IPCOM/000127319)。更に、Barronらは、実験に用いた条件下で、洗浄緩衝液のpHを低下させることは、有益な効果を有することを報告した。
【0006】
精製プロセスを強化し、生成物回収率を上昇させるための改良された技術に対して、長年にわたるニーズが存在する。本開示は、このニーズに対応し、かつ、付加的な利益を提供する。
【0007】
発明の概要
本発明は、アフィニティクロマトグラフィーのための効率的かつロバストな洗浄溶液、および、この溶液を用いる洗浄方法を提供する。この洗浄溶液は、溶出工程の前の洗浄工程において適用され、その使用によって、マトリックスへ適用される出発物質から低分子量種(LMW)、高分子量種(HMW)および宿主細胞タンパク質(HCP)を効果的に除去する一方、アフィニティマトリックスから溶出した目的のタンパク質の高収率をもたらす。この洗浄溶液は、非緩衝塩が存在せず、高いpH、即ち8.0より高いpHでアルギニンが存在することを特徴とする。高いpHでのアルギニン(またはアルギニン誘導体)の組合せは、より低いpHのアルギニン含有洗浄溶液より、顕著に多くの不純物を除去し、目的の回収されたタンパク質の高濃度と相関する、より鋭い溶出ピークをもたらす。
【0008】
したがって、一実施形態において、本発明は、目的のタンパク質が結合するアフィニティクロマトグラフィー(AC)マトリックスを用いて、目的の精製されたタンパク質(例えば、抗体、抗体断片、またはタンパク質)を生成する方法を提供し、その方法は、非緩衝塩が存在することなく、8.0より高いpHのアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、ACマトリックスを洗浄することを含む。好ましい実施形態において、洗浄溶液のpHは、少なくとも8.1、より好ましくは少なくとも8.5、更により好ましくは少なくとも8.9または9.0である。一実施形態において、洗浄溶液のpHは約8.5〜9.5である。別の実施形態において、洗浄溶液のpHは、約8.9〜9.0である。
【0009】
別の実施形態において、その方法は、更に、(a)目的のタンパク質を含む混合物をACマトリックス上へ添加する(load)こと、(b)8.0より高いpHのアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、ACマトリックスを洗浄すること、および、(c)ACマトリックスから目的のタンパク質を溶出することを含み、洗浄は、非緩衝塩の存在なしで行われる。
【0010】
特定の実施形態において、ACマトリックスはプロテインAカラムである。様々な他の実施形態において、ACマトリックスは、プロテインGカラム、プロテインA/Gカラム、プロテインLカラム、固定化金属イオンアフィニティクロマトグラフィー(IMAC)カラム、カルモジュリン樹脂カラム、MEP HyperCel(商標)カラム、マルトース結合タンパク質(MBP)に結合するカラム、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)に結合するカラム、Strep−TagIIに結合するカラム、および色素−アフィニティカラムから成る群から選択される。他の実施形態において、ACマトリックスは、CaptureSelect IgG−CH1、CaptureSelect IgG−Fc(Hu)、CaptureSelect LC−kappa(Hu)、CaptureSelect LC−lambda(Hu)、CaptureSelect IgG4(Hu)、CaptureSelect IgG1(Hu)、CaptureSelect IgG3(Hu)、CaptureSelect IgMおよびCaptureSelect IgAから成る群から選択される樹脂を含む。他の実施形態において、ACマトリックスは、IgSelect、KappaSelect、LamdaFabSelect、およびCapto Lから成る群から選択される樹脂を含む。
【0011】
適切な目的のタンパク質は、抗体(および、Fc融合タンパク質等のFc領域を含む他のタンパク質)および抗体断片を含むがそれらに限定されず、本明細書に記載のアフィニティマトリックスに結合する他のタンパク質も、本発明の方法に従う精製に適している。
【0012】
別の態様において、本発明は、プロテインAカラムを使用した、精製された抗体、抗体断片、またはFc領域を含むタンパク質(例えば、Fc融合タンパク質)を生成する方法を提供し、その方法は、(a)抗体、抗体断片、またはタンパク質を含む混合物を、プロテインAカラム上へ添加すること、(b)(i)8.0より高いpH(例えば、約8.5〜9.5または約8.9〜9.0)のアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、プロテインAカラムを洗浄すること、および(c)プロテインAカラムから、抗体、抗体断片、またはタンパク質を溶出することを含み、洗浄は、非緩衝塩の存在なしで行われる。
【0013】
更に別の態様において、その方法は、目的のタンパク質(例えば、抗体、抗体断片、または、Fc領域を含むタンパク質(例えば、Fc融合タンパク質))をプロテインAカラムに添加および/またはプロテインAカラムから溶出する前に、プロテインAカラムを任意選択で平衡化することを含む。例えば、本発明は、精製した抗体、抗体断片、またはFc領域を含むタンパク質(例えば、Fc融合タンパク質)を、プロテインAカラムを使用して生成する方法を提供し、その方法は、(a)プロテインAカラムを平衡化すること(例えば、平衡緩衝液を使用して、pHを調整し、任意の残留保存緩衝液を除去することにより)、(b)抗体、抗体断片、またはタンパク質を含む混合物をプロテインAカラム上に添加すること、(c)プロテインAカラムを、(i)8.0より高いpH(例えば、約8.5〜9.5または約8.9〜9.0)のアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて洗浄すること、および(d)プロテインAカラムから抗体、抗体断片、またはタンパク質を溶出することを含み、洗浄は、非緩衝塩の存在なしで行われる。この方法は、抗体、抗体断片、またはタンパク質を溶出する前に、プロテインAカラムを平衡化する工程を更に含むことができる。
【0014】
特定の実施形態において、洗浄溶液は、アルギニンまたはアルギニン−HClを、好ましくは、約0.1〜0.5Mの範囲の濃度で含む。別の特定の実施形態において、アルギニンまたはアルギニン−HClは、0.25Mまたは約0.25Mの濃度で存在する。更に他の特定の実施形態において、洗浄溶液は、アセチルアルギニン、N−α−ブチロイル−アルギニン、アグマチン、アルギン酸およびN−α−ピバロイルアルギニンから成る群から選択される誘導体等のアルギニン誘導体を含む。
【0015】
本発明の方法は、高分子量および低分子量(それぞれ、HMWおよびLMW)種ならびに宿主細胞タンパク質(HCP)を含む様々な不純物の除去に効果的である。特定の実施形態において、洗浄溶液は更に、1つまたは複数の緩衝塩(例えば、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムまたはトリス)を含む。
【0016】
詳細な説明
本発明は、プロテインAクロマトグラフィー等のアフィニティクロマトグラフィーのための改良された洗浄溶液を提供し、これを、不純物を除去するために、目的のタンパク質の溶出の前に、カラムに適用する。改良された洗浄溶液は、非緩衝塩の存在なしで、8.0より高いpH(例えば、8.1より高いpH、好ましくは8.5より高いpH、例えば、約8.5〜9.5または約8.9〜9.0の間)でアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む。典型的に、洗浄溶液は水溶液である。
【0017】
高いpHでのアルギニンまたはアルギニン誘導体のこの独自の組合せは、回収率に影響を与えることなく、一般的に使用される手順より顕著に多くの不純物を除去する。更に、この洗浄条件は、溶出液中の目的のタンパク質の高い濃度に相関する、鋭い溶出ピークをもたらし、これは、追加の下流の精製プロセスの性能を向上させるのに有利である。
【0018】
宿主細胞タンパク質(HCP)ならびに高分子量(HMW)種および低分子量(LMW)種等の生成物関連不純物を含む不純物を効率的に除去することは、目的のタンパク質の下流処理中の重要な因子である。アフィニティクロマトグラフィーは、多くの場合、目的のタンパク質(例えば、抗体)の多段階精製プロセスの第一段階として使用され、アフィニティクロマトグラフィー後の目的のタンパク質の純度は、特に、その後の精製工程の種類および数に影響を与える。アフィニティクロマトグラフィーの別の重要な役割は、生成物を濃縮することであり、これによって、その後の精製工程における、比例的に、より小さくより低コストのカラムおよびリザーバー(バッグまたはスチールタンク)の使用が可能になる。したがって、高い中間濃度を維持しながら、収率を損なうことなく、アフィニティクロマトグラフィー工程の間の不純物除去を最適化することが、特に重要である。
【0019】
マトリックスに応じて、典型的にはpH3〜4の間の低いpH条件は、アフィニティマトリックスから目的の結合したタンパク質を溶出するための要件であり、潜在的に凝集を誘導するという欠点を有する。歴史的に、pH5〜5.5等のストリンジェンシーのより低い条件が、目的のタンパク質とアフィニティマトリックスとの間の相互作用を維持しながら、カラムから非特異的に結合された不純物を洗浄するために使用されてきた。しかしながら、特に高添加密度で作業する場合に、これらの条件では、目的のタンパク質が部分的に溶出するために、目的のタンパク質の回収率が低下することが多い。したがって、好ましい実施形態において、本発明により提供される洗浄溶液は、8.0より高いpH(例えば、好ましくは、8.1より高いpH、より好ましくは8.5より高いpH、例えば、約8.5〜9.5または約8.9〜9.0の間)で、有利に行われ、これは、不純物の除去を可能にしながら、アフィニティマトリックスへの目的のタンパク質の結合を維持する。
【0020】
典型的に、アルギニン洗浄は、非緩衝塩を含む。しかしながら、本発明の一利点は、本発明で用いる洗浄工程が、非緩衝塩の存在を必要としないことである。本明細書で使用する、用語「非緩衝塩」は、酸または塩基を加える際に、適用する条件(例えば、高いpH等)下で、実質的に、洗浄溶液のpHを保持するのに寄与しない種類および濃度である塩を指す。非緩衝塩としては、イオン性塩、ClまたはBrを含む塩を含むハロゲン塩、特に、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)またはマグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)を含む、アルカリ金属またはアルカリ土類金属(即ち、NaCl、KCl、CaClおよびMgCl)を含むハロゲン塩が挙げられる。特定の実施形態において、洗浄は、NaClの存在なしで行われる。
【0021】
用語「非緩衝塩」は、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムおよびトリス等の緩衝塩を含まない(これらの塩は、適用された条件下での洗浄溶液(単数または複数)のpHの保持に、実質的に寄与する)。したがって、そのような緩衝塩は、本発明の洗浄溶液に含まれ得る。
【0022】
共通の採取物または細胞抽出物中に存在する不純物の大きな生物物理学的多様性は、クロマトグラフィー媒体および/または目的の結合したタンパク質の固相との相互作用の非常に多様なモードをもたらす。多かれ少なかれ不純物を強く係留するのは、水素結合、静電相互作用、疎水性およびファンデルワールス力またはこれらの種類の相互作用の組合せ等の、2つの分子間の、非共有結合分子間相互作用の結果であり得る。したがって、いくつかの異なるメカニズムの組合せ(即ち、8.0より高いpHと組み合わせた、アルギニンまたはアルギニン誘導体)は、伝統的な技法より、不純物を除去するのにより効果的であることが見出された。
【0023】
洗浄溶液中でアルギニンを用いる文脈において、アルギニンはある種の沈殿タンパク質を可溶化し(Umetsu, M.ら(2005) Biochem. Biophys. Res. Commun. 328:189-197; Tsumoto, K.ら(2003) Biochem. Biophys. Res. Commun. 312:1383-1386)、凝集体の形成を減少させ(Arakawa,T.ら(2003) Biochem. Biophys. Res. Commun. 304:148-152)、表面へのタンパク質の非特異的吸着を減少させる(Ejima, D.ら (2005) J. Chromatogr. A. 1094:49-55)能力を有することが報告されている。メカニズムにより限定されることを意図するものではないが、タンパク質凝集の減少は、アルギニンと相互作用する、タンパク質上の疎水性パッチのマスキングに由来し得る。この相互作用は、アルギニン上のグアニジウム基とタンパク質上のトリプトファン基との間で生じ得るか、またはアルギニンのクラスタリングにより、疎水性パッチの形成を介して生じ得るか、またはそのような効果の組合せであり得る。
【0024】
本明細書で使用する、句「高いpH」は、8.0より高いpHを指し、これは、従来の洗浄方法に用いられる、低いまたは中性のpH(例えば、約5.0〜7.0のpH)でのアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄と比較すると、不純物の有意な減少をもたらす。例えば、一実施形態において、「高いpH」の洗浄は、低いまたは、7.0の中性pHのアルギニン含有洗浄溶液と比較して、少なくとも約2〜3倍のHCPの減少率、および/または、少なくとも約3〜4倍のLMWレベルの減少率、および/または、少なくとも約30〜50%以上の全体的な凝集の減少をもたらす。
【0025】
特定の実施形態において、洗浄溶液の「高い」pHは、少なくとも約8.1、好ましくは少なくとも約8.5、より好ましくは約8.5〜9.5または約8.9〜9.0である。洗浄の例示的な「高い」pH条件は、例えば、8.1または約8.1、8.2または約8.2、8.3または約8.3、8.4または約8.4、8.5または約8.5、8.6または約8.6、8.7または約8.7、8.8または約8.8、8.9または約8.9、9.0または約9.0、9.1または約9.1、9.2または約9.2、9.3または約9.3、9.4または約9.4、9.5または約9.5、10.0または約10.0、10.1または約10.1、10.2または約10.2、10.3または約10.3、10.4または約10.4、および10.5または約10.5のpH値を含む。洗浄溶液はまた、pHを調整および/または維持するための1つまたは複数の緩衝剤(即ち、緩衝塩)を含有し得る。洗浄溶液(単数または複数)中に含むことができる典型的な緩衝剤の非限定的な例は、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン)、ビス−トリス、ビス−トリスプロパン、ヒスチジン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ギ酸塩、酢酸塩、MES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)、リン酸塩、HEPES(4−2−ヒドロキシエチル−1−ピペラジンエタンスルホン酸)、クエン酸塩、MOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)、TAPS(3−{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸)、ビシン(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン)、トリシン(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン)、TES(2−{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}エタンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)、カコジル酸塩(ジメチルアルシン酸)およびSSC(塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム)を含む。
【0026】
本発明の精製方法は、高分子量および低分子量(それぞれ、HMWおよびLMW)種ならびに宿主細胞タンパク質(HCP)を含む、様々な不純物を除去するのに効果的である。実施例において詳細に説明するように、その方法は、目的のタンパク質の高い収率百分率および目的のタンパク質の高濃度を達成しながら、洗浄溶出液中のHMW種、LMW種およびHCPを減すのに効果的である。例えば、様々な実施形態において、本明細書に記載の方法は、97%より高い、より好ましくは98%より高い、最も好ましくは99%より高い、目的のタンパク質の収率百分率をもたらす。
【0027】
他の実施形態において、本発明の方法は、少なくとも約2倍の減少率、より好ましくは少なくとも約3倍の減少率、より好ましくは少なくとも約4倍の減少率、より好ましくは少なくとも約5倍の減少率、更により好ましくは少なくとも約6倍の減少率である、溶出液中のHMWまたはLMW汚染物質の減少百分率をもたらす。更に他の実施形態において、その方法は、少なくとも約1.1、または少なくとも約1.2、または少なくとも約1.3、または少なくとも約1.4、または少なくとも約1.5、または少なくとも約1.6、または少なくとも約1.7、または少なくとも約1.8、または少なくとも約1.9、または少なくとも約2.0、または少なくとも約2.1、または少なくとも約2.2、または少なくとも約2.3、または少なくとも約2.4、または少なくとも約2.5、または少なくとも約2.6、または少なくとも約2.7、または少なくとも約2.8、または少なくとも約2.9、または少なくとも約3.0の、溶出液中のHCPの対数減少値(LRV)をもたらす。
【0028】
メカニズムによって限定されることを意図するものではないが、高いpHは部分的にHCPおよびHMWを変性させる可能性があり、一方、単量体の抗体を含む安定したタンパク質は、これらの条件では影響されない。汚染物質タンパク質の変性は、構造のわずかな変化として現れる可能性があり、これは、非特異的結合を弱めるのに十分であり得る。したがって、洗浄溶液の高いpHは、目的の結合タンパク質とのそれらの相互作用またはアフィニティマトリックスの固体支持を不安定化させることにより、不純物の除去を増加させるために有益であり得る。
【0029】
したがって、一態様において、本発明は、目的のタンパク質が結合する、アフィニティクロマトグラフィー(AC)マトリックスを用いて、精製したタンパク質(例えば、抗体、抗体断片、またはFc領域を含むタンパク質(例えば、Fc融合タンパク質))を生成する方法を提供し、その方法は、ACマトリックスからの目的のタンパク質の溶出の前に、非緩衝塩の存在なしに、8.0より高いpH(例えば、好ましくは8.1より高いpH、より好ましくは8.5より高いpH、例えば、約8.5〜9.5または約8.9〜9.0の間)で、アルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、ACマトリックスを洗浄することを含む。ACマトリックスは、目的のタンパク質の添加前および/または目的のタンパク質の溶出前に、任意選択で平衡化することができる。
【0030】
本明細書で使用する、用語「アフィニティクロマトグラフィーマトリックス」または「ACマトリックス」は、レセプターとリガンド、酵素と基質とのまたは、抗原と抗体との間のような、目的のタンパク質とACマトリックスとの間の非常に特異的な結合相互作用に基づいて、生化学的混合物の分離を可能にする、典型的にゲルまたは樹脂である、固相媒体を指すことを意図している。したがって、固相媒体は、緩衝液条件に応じて、目的のタンパク質が可逆的に結合できる標的を含む。ACマトリックスを含むことができる固定化または固相媒体の非限定的な例として、アガロースビーズ(市販のSepharoseマトリックス等)等のゲルマトリックスおよび多孔質ガラスビーズ(市販のProSepマトリックス等)等のガラスマトリックスが挙げられる。
【0031】
ACマトリックスへの目的のタンパク質の結合は、典型的に、カラムクロマトグラフィーにより達成される。すなわち、ACマトリックスをカラムへと形成し、目的のタンパク質を含有する生化学的混合物をカラムを通して流し、その後、洗浄溶液をカラムを通して流すことによりカラムを洗浄し、その後、溶出緩衝液をカラムを通して流すことにより、カラムから目的のタンパク質を溶出する。
【0032】
あるいは、ACマトリックスへの目的のタンパク質の結合は、バッチ処理によって達成することができ、目的のタンパク質を含有する生化学的混合物を容器中でACマトリックスと共にインキュベートして、ACマトリックスに目的のタンパク質を結合させ、固相媒体を容器から取り出し(例えば、遠心分離または真空ポンプを用いた濾過により)、固相媒体を洗浄して、不純物を除去し、再び回収し(例えば、遠心分離または真空ポンプを用いた濾過により)、目的のタンパク質を固相媒体から溶出する。
【0033】
更に別の実施形態において、バッチ処理およびカラムクロマトグラフィーの組合せを使用することができる。例えば、ACマトリックスへの目的のタンパク質の初期の結合を、バッチ処理により達成することができ、次に、固相媒体をカラム中へ充填し、その後、カラムを洗浄し、目的のタンパク質をカラムから溶出することができる。
【0034】
特定の固相マトリックスの性質、特に、固相へ結合される標的の結合特性により、固相マトリックスを用いて精製することができるタンパク質(単数または複数)の種類(単数または複数)が決定される。例えば、本発明の好ましい実施形態において、ACマトリックスはプロテインAカラムであり、これは、固相へ結合した標的として、特定の免疫グロブリンのFc領域内のCH2およびCH3ドメインと特異的に結合する、細菌の細胞壁タンパク質であるプロテインAを含む。プロテインAの結合特性は、当該技術分野において良く確立されている。
【0035】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、(精製される)目的のタンパク質は抗体、抗体断片、またはFc領域を含むタンパク質(例えば、Fc融合タンパク質)である。更に、プロテインAクロマトグラフィーを用いて精製することができる追加のタンパク質は、Fc含有タンパク質(例えば、Fc融合タンパク質)を含む。特異的にプロテインAマトリックスへ結合することができる限り、任意のタンパク質を本発明の方法に従って精製することができる。様々なプロテインA樹脂が当該技術分野で周知であり、本発明における使用に適している。市販のプロテインA樹脂の非限定的な例は、MabSelect、MabSelect Xtra、MabSelect Sure、rProtein A Sepharose FF、rmpProtein A Sepharose FF、Protein A Sepharose CL−4BおよびnProtein A Sepharose 4 FF(全てGE Healthcareから市販されている);ProSep A、ProSep−vA High Capacity、ProSep−vA UltraおよびProSep−Va Ultra Plus(全てMilliporeから市販されている);Poros AおよびMabcapture A(両方ともにPorosから市販されている);IPA−300、IPA−400およびIPA−500(全てRepliGen Corp.から市販されている);Affigel protein AおよびAffiprep protein A(両方ともにBio−Radから市販されている);Protein A Ceramic Hyper D F(Pall Corporationから市販されている);Ultralink Immobilized protein AおよびAgarose protein A(両方ともにPIERCEから市販されている);ならびにProtein A Cellthru 300およびProtein A Ultraflow(両方ともにSterogen Bioseparationsから市販されている)を含む。
【0036】
別の実施形態において、樹脂は、CaptureSelect IgG−CH1(ヒトIgGおよび全てのFab断片の精製に適している)、CaptureSelect IgG−Fc(Hu)(ヒトIgGに特異的であり、4つの全てのサブクラスを認識する)、CaptureSelect LC−kappa(Hu)(生成物を含有する全てのヒトκIg軽鎖の精製に適している(以前は、CaptureSelect Fab kappaとして知られていた))、CaptureSelect LC−lambda(Hu)(生成物を含有する全てのヒトλIg軽鎖の精製に適している(以前はCaptureSelect Fab lambdaとして知られていた))、CaptureSelect IgG4(Hu)(他のサブクラスまたは種に全くクロス結合せずにヒトIgG4について非常に特異的である)、CaptureSelect IgG1(Hu)(他のサブクラスまたは種に全くクロス結合せずにヒトIgG1について非常に特異的である)、CaptureSelect IgG3(Hu)(他のサブクラスまたは種に全くクロス結合せずにヒトIgG3について非常に特異的である)、CaptureSelect IgM(ヒト、マウス、ラットIgMについて適したIgM樹脂)、または、CaptureSelect IgA(ヒトIgA、IgA−ダイマーおよび分泌型IgA(sIgA)の精製に適している)であり、全てBACから市販されている。別の実施形態において、樹脂は、IgSelect(ヒトIgGの精製のためのアフィニティ媒体)、KappaSelect(Fab(κ)断片の精製のためのアフィニティ媒体)、LamdaFabSelect(λFab断片の精製のためのアフィニティ媒体)、またはCapto L(抗体および抗体断片を捕捉するための樹脂)であり、全てGE Healthcare Life Sciencesから市販されている。
【0037】
本発明に用いることができる更なるアフィニティクロマトグラフィーシステムは、例えば、プロテインG、プロテインA/GおよびプロテインLカラムを含み、これらのそれぞれはまた、当該技術分野で確立された結合特性を有する免疫グロブリン結合細菌性タンパク質である。したがって、プロテインGマトリックス、プロテインA/GマトリックスまたはプロテインLマトリックスであるACマトリックスを、抗体、抗体断片、またはFc領域を含むタンパク質(例えば、Fc融合タンパク質)を精製するために、使用することができる。
【0038】
ACマトリックスの他の非限定的な例、およびそれらのACマトリックスが精製するのに効果的なタンパク質の種類は、以下を含む:固定化金属イオンアフィニティクロマトグラフィー(IMAC)カラム(ヒスチジンタグ付きタンパク質等の、金属イオンについての親和性を有するタンパク質の精製のため)、カルモジュリン樹脂カラム(カルモジュリン結合ペプチド(CBP)でタグ付けされたタンパク質の精製のため)、MEP HyperCel(商標)カラム(選択的に免疫グロブリンに結合するセルロースマトリックス)、マルトース結合タンパク質(MBP)に結合するカラム(MBPでタグ付けされたタンパク質に選択的に結合する、Dextrin Sepharose(商標)樹脂等)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)に結合するカラム(GSTでタグ付けされたタンパク質に選択的に結合するGlutathione Sepharose(商標)樹脂等)およびStrep−TagIIに結合するカラム(Strep−TagIIでタグ付けされたタンパク質に選択的に結合する、Strep−Tactin(商標)Sepharose樹脂等)。更に、固相に固定された抗体へ特異的に結合する目的の抗原を精製するために、固相に固定された標的の抗体を含む、免疫親和性マトリックスを使用することができる。
【0039】
対象の発明は、特にプロテインAクロマトグラフィーを用いる抗体の精製について本明細書において記載しているが、任意のタンパク質(融合タンパク質を含む)が選択的に特定のACマトリックスへ結合することが当分野で知られている限りにおいては、タンパク質は、本明細書に記載の洗浄方法を用いて、容易に精製される。
【0040】
本明細書で使用する用語「抗体」は、完全な抗体および任意の抗原結合断片(即ち、「抗原結合断片」(「抗原結合部分」としても知られている))またはその単鎖を含む。完全な抗体は、ジスルフィド結合により相互に接続された、少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてVと略す)および重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン、C1、C2およびC3から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてVと略す)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCから構成される。VおよびV領域は、更に、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、超可変領域へ細分することができ、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存されている領域が散在している。各VおよびVは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で、アミノ末端からカルボキシ末端まで配置された、3つのCDRおよび4つのFRから構成されている。重鎖および軽鎖の様々な領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的な補体系の第一成分(Clq)を含む宿主組織または因子への、免疫グロブリンの結合を媒介することができる。用語「抗体」はまた、低分子化抗体(minibody)、ビス−scFv、二重特異性抗体、三重特異性抗体(triabody)、四重特異性抗体(tetrabody)および化学的に共役であるFab’多量体を包含する。
【0041】
本明細書で使用する用語「抗体断片」(「抗原結合断片」または「抗原結合部分」とも呼ばれる)は、特異的に抗原に結合する能力を保持する抗体の1つまたは複数の断片を指す。抗体の抗原結合機能は、完全長の抗体の断片により行うことができることが示されている。抗体の、用語「抗原結合断片」内に包含される結合断片の例は、(i)Fab断片、V、V、CおよびC1ドメインから成る一価断片、(ii)F(ab’)断片、本質的にヒンジ領域の一部を含むFabである二価断片(FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY (Paul編、3.sup.rd ed. 1993)を参照)、(iv)VおよびC1ドメインから成るFd断片、(v)抗体の単一アームのVおよびVドメインから成るFv断片、(vi)Vドメインから成る、dAb断片(Wardら(1989) Nature 341:544-546)(vii)単離された相補性決定領域(CDR)、および(viii)単一の可変ドメインおよび2つの定常ドメインを含む重鎖可変領域である、ナノボディ(単一ドメイン抗体(sdAb)としても知られている)を含む。単一ドメイン抗体は、VH断片(ラクダ科動物で見つけられた重鎖抗体から設計された単一ドメイン抗体、および、軟骨性魚類のVNAR断片(重鎖抗体から得られた単一ドメイン抗体(IgNAR「免疫グロブリン新しい抗原受容体」))を含む。
【0042】
更に、Fv断片の2つのドメイン、VおよびVは、別々の遺伝子によってコードされているが、それらが一価分子を形成するためにVおよびV領域がペアになる単一タンパク質鎖として作られることを可能にする、合成リンカーによって組換え法を用いて、それらを連結することができる(単鎖Fv(scFv)として知られている;Birdら (1988) Science 242:423-426; およびHustonら(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照)。そのような単鎖抗体はまた、抗体の、用語「抗原結合断片」内に包含されることが意図されている。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来技術を用いて得られ、断片は、完全な抗体である場合と同様の方法で、有用性についてスクリーニングされる。別のポリペプチドまたは分子に融合した、抗原結合ドメインまたは同等のものを含むキメラ分子(または融合分子)もまた、本発明に包含される。
【0043】
本発明の洗浄溶液は、アルギニンまたはアルギニン誘導体を含む。本発明で使用することができるアルギニンは、天然アミノ酸アルギニン(例えば、L−アルギニン)、D−アルギニンまたはアルギニン誘導体であり得る。本明細書で使用する用語「アルギニン誘導体」は、DまたはL−形態のいずれかであるアミノ酸アルギニンから、双性イオン性、両性イオン性、または双極特性のアルギニン(例えば、樹脂骨格、プロテインAリガンドまたは結合した標的タンパク質に結合した不純物間の、非特異的な相互作用を壊し得る)のいずれかを保持する、化学的または物理的プロセスにより誘導された分子を指す。
【0044】
アルギニン誘導体の非限定的な例は、アセチルアルギニンおよびN−α−ブチロイルアルギニン等のアシル化アルギニン、アグマチン、アルギン酸およびN−α−ピバロイルアルギニンを含む。アルギニンまたはアルギニン誘導体を、酸付加塩の形態で使用することができる。酸付加塩を形成することができる酸の例は、塩酸等を含む。他の誘導体は、3−グアニジノプロピオン酸、4−グアニジノ酪酸、L−2−アミノ−3−グアニジノプロピオン酸塩酸塩、L−2−アミノ−3−グアニジノプロピオン酸塩酸塩、Nωニトロ−L−アルギニンベンジルエステルp−トルエンスルホン酸塩およびホモアルギニンを含むがそれらに限定されない。
【0045】
洗浄溶液中のアルギニンまたはアルギニン誘導体の濃度は、典型的に、0.05から0.85Mの間(これは、20℃の水中におけるアルギニンの溶解度の上限である)(例えば、0.05M、0.1M、0.15M、0.2M、0.25M、0.3M、0.35M、0.4M、0.45M、0.5M、0.55M、0.6M、0.65M、0.7M、0.75M、0.8Mまたは0.85M)であり、最も好ましくは0.1から0.5Mの間(例えば、0.1M、0.15M、0.2M、0.25M、0.3M、0.35M、0.4M、0.45Mまたは0.5M)である。様々な実施形態において、アルギニンまたはアルギニン誘導体の濃度は、例えば、0.05M、0.1M、0.2M、0.25M、0.3M、0.4M、0.5M、0.6M、0.7Mもしくは0.8M、または0.1Mから0.5Mの間であり得る。特定の実施形態において、洗浄溶液中のアルギニンまたはアルギニン誘導体の濃度は、0.25M以上である。特定の実施形態において、アルギニンは、0.1Mもしくは約0.1M、0.25Mもしくは約0.25M、または0.5Mもしくは約0.5Mの濃度で存在する。
【0046】
本発明は、本明細書において、アフィニティクロマトグラフィーの間の洗浄工程について記載されているが、アフィニティクロマトグラフィーマトリックスから目的のタンパク質の精製を達成するために、洗浄工程の前および後の両方で、追加の工程が行われることが、当業者に容易に理解されるであろう。例えば、洗浄および/または溶出工程の前に、本発明の方法は、アフィニティクロマトグラフィーマトリックスを平衡化する平衡化工程、および/または、目的のタンパク質を含有する生化学的混合物(例えば、細胞採取物)を、ACマトリックスへ適用する、添加または捕捉工程を含むことができる。
【0047】
適切な平衡化緩衝液は、一般的に、沈殿を防止するために、添加液(約7.0+/−0.5)と一致するように、ほぼ中性のpHを有する。通常、塩(NaCl)を含む必要はないが、緩衝するのに十分高い濃度(>約20mM)で、緩衝物質(このpH範囲についてのリン酸塩)を有する必要がある。平衡化緩衝のための適切な条件は、ACマトリックスおよび精製される目的のタンパク質の性質によって異なり、当業者は、当該技術分野でよく確立されている方法および情報を用いて、そのような条件を容易に決定することができる。プロテインAカラムを用いた、抗体の精製のための平衡化緩衝液の非限定的な例を、実施例に示す。
【0048】
更に、本発明の方法は、上述の洗浄工程の後に、マトリックスから目的のタンパク質を溶出するために、溶出緩衝液をアフィニティクロマトグラフィーマトリックスへ適用する、溶出工程を含むことができる。溶出緩衝液についての適切な条件は、ACマトリックスの性質および精製される目的のタンパク質により変化し、当業者は、当該技術分野でよく確立されている方法および情報を用いて、そのような条件を容易に決定することができる。典型的に、ACマトリックスからの目的のタンパク質の溶出は、酸性pHで行われる。プロテインAカラムを用いた抗体の精製のための溶出緩衝液の非限定的な例を、実施例に示す。
【0049】
別の態様において、本発明は、抗体または他のFc含有タンパク質のプロテインA精製の間に、抗体含有混合物から不純物を除去するための方法を提供する。したがって、本発明は、プロテインAカラムを用いた、精製された抗体、抗体断片、またはFc領域を含むタンパク質を生成する方法を提供し、この方法は、
(a)抗体、抗体断片またはタンパク質を含む混合物を、プロテインAカラム上に添加することと、
(b)8.0より高いpH(例えば、8.1より高いpH、好ましくは8.5より高いpH、より好ましくは約8.5〜9.5または約8.9〜9.0の間)のアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、プロテインAカラムを洗浄することと、
(c)プロテインAカラムから、抗体、抗体断片、またはタンパク質を溶出することとを含み、洗浄は、非緩衝塩の存在なしで行われる。必要に応じて、その方法は、プロテインAカラムから抗体、または抗体断片を溶出する前に、平衡化緩衝液を用いて、プロテインAカラムを洗浄することを更に含む。必要に応じて、その方法は、目的のタンパク質を添加する前および/または目的のタンパク質を溶出する前に、プロテインAカラムを平衡化することを更に含む。
【0050】
アルギニン(およびアルギニン誘導体)の好ましい濃度および濃度範囲は、上述の通りである。例えば、一実施形態において、アルギニンは、約0.25Mの濃度で、または0.25Mの濃度で存在する。別の実施形態において、アルギニンは、0.1〜0.5Mの範囲の濃度で存在する。好ましいpHおよびpH範囲はまた、上述の通りである。例えば、pHは、8.0より高いpH(例えば、好ましくは、8.1より高いpH、より好ましくは8.5より高いpH、例えば、約8.5〜9.5または約8.9〜9.0の間)である。
【0051】
本発明は、更に、以下の実施例によって例示され、これは更に限定すると解釈されるべきではない。特に、実施例は、本発明の好ましい実施形態に関する。本出願を通して引用された全ての参考文献、特許および公開特許出願の内容は、その全体が参照により本明細書に明白に組み込まれる。
【実施例】
【0052】
実施例1:高いpHのみでは、生成物の純度を向上させない
本実施例において、アフィニティクロマトグラフィーの間の抗体含有溶液からの不純物の除去に対するpH単独の影響を評価する。具体的には、2つの洗浄溶液を比較する:1つは、pH7.0で1MのNaClを含有し、1つはpH9.0で1MのNaClを含有する。
【0053】
0.2から3.0g/Lの間のモノクローナル抗体#1を含有する、清澄化した哺乳動物細胞培養上清を、デプス濾過(depth filtration)により採取し、以下の表1に記載された条件に従って、ALCカラム、特にプロテインAカラム(GE Healthcare)を用いて精製する。
【0054】
表1:実施例1についてのプロテインAカラムのための操作条件
【表1】
【0055】
平衡化したカラムに清澄化採取物を添加し、最初に、以下の表2に記載するように、W1−N7(pH7.0で1M NaCl)またはW2−N9(pH9.0で1M NaCl)のいずれかを用いて洗浄する。
【0056】
表2:試験した洗浄溶液のリスト
【表2】
次に、カラムを表1に記載した平衡化緩衝液(即ち、20mMのNaHPO/NaHPO、pH7.0)で洗浄し、次に、低いpHで溶出する。溶出液を、分析ALCによりその抗体濃度について分析し、分析サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によりHMW/LMWについて分析し、同じ細胞系で実施した酵素結合免疫吸着アッセイによりHCP含有量について分析する。
【0057】
表2に示した2つの異なる洗浄溶液を用いたモノクローナル抗体#1のプロテインA精製についての収率百分率を以下の表3に示す。
【0058】
表3:低いpHおよび高いpHのALC性能への影響の比較
【表3】
【0059】
表3に示すように、pHを中性(pH7.0)から塩基性(pH9.0)まで変えることは、収率、溶出液プール濃度、HMWもしくはLMW種レベルまたはHCP濃度に対する影響は有していない。したがって、これらの結果は、高いpHのみでは、生成物の純度の向上をもたらさないことを実証している。しかしながら、以下の実施例で実証したように、アルギニンと組み合わせた高いpHは、生成物の純度に有意な効果を有している。
【0060】
実施例2:アルギニン(高いpHと組み合わせて)は、極めて重要な添加剤である
この実施例において、アフィニティクロマトグラフィーの間に、どの洗浄およびpHが、抗体含有溶液から不純物を除去するのに最も効果的であるかを決定するために、様々な洗浄能力を比較する。具体的には、4つの洗浄溶液を比較する:1つは、pH7.0で1MのNaClを含有、1つはpH7.0で250mMのアルギニンを含有、1つはpH8.9で250mMのアルギニンを含有、1つはpH8.9で500mMのトリスを含有する。トリスは、トリス単独で不純物の除去に影響を有するかどうかを判断するために含める。
【0061】
0.2から2.5g/Lの間のモノクローナル抗体#3を含有する、清澄化した哺乳動物細胞培養上清を、デプス濾過により採取し、以下の表4に記載された条件に従って、ALCカラム、特にプロテインAカラム(GE Healthcare)を用いて精製する。
【0062】
表4:実施例2についてのプロテインAカラムのための操作条件
【表4】
【0063】
平衡化したカラムに清澄化した採取物を添加し、最初に、以下の表5に記載するように、W1−N7、W3−Arg7、W4−Arg9またはW5−T9のいずれかを用いて洗浄する。
【0064】
表5:試験した洗浄溶液のリスト
【表5】
カラムを次に、表4に記載した平衡化緩衝液(即ち、20mMのNaHPO/NaHPO、pH7.0)で洗浄し、次に、低いpHで溶出する。溶出液を、分析ALCによりその抗体濃度について分析し、分析サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によりHMW/LMWについて分析し、同じ細胞系で実施した酵素結合免疫吸着アッセイによりHCP含有量について分析する。
【0065】
表5に示された4つの異なる洗浄溶液を用いた、モノクローナル抗体#3のプロテインA精製についての収率百分率を、以下の表6に示す。
【0066】
表6:異なるpH値でのアルギニンベース緩衝液、およびトリスベースの緩衝液に対する、NaCl含有ALC洗浄緩衝液の比較
【表6】
【0067】
表6に示すように、アルギニンベースの緩衝液は、高塩ベースの洗浄より、HMW、LMWおよびHCPを除去するのに、より効率的であることが明らかである。更に、この効果は、高pH条件で増幅される。具体的には、8.9の高いpHでアルギニン含有洗浄緩衝液(W4−Arg9)を使用すると、7.0のpHでのアルギニン含有洗浄緩衝液(W3−Arg7)と比較して、非緩衝塩の存在なしに、HCPの3倍の減少率、LMWレベルの4倍の減少率、および2.3%から1.5%までの凝集レベルの減少をもたらす。同等の収率にもかかわらず、より高いpHはまた、プール濃度を増加させる。
【0068】
トリスは、アリギニン含有緩衝液のpHを調整するために使用され、8.9のpHを達成するために約300mMに近いトリスが必要とされるため、高いpHで500mMのトリスを含有する洗浄(即ち、W5−T9)を含める。しかしながら、表6に示すように、W5−T9は、HMWまたはLMWの除去には影響しない。実際に、HCPレベルは、W5−T9については、NaCl含有洗浄についてより更に高い。この洗浄は、トリスについての最良の場合の条件で行われる(例えば、他の緩衝液で使用される最高濃度に比べて、トリスの濃度は約2倍であり、洗浄時間も2倍であることを意味する)ことを考えると、その結果は、トリス単独では洗浄効果を有さないことを示唆している。更に、高いpHのみでは、所望の不純物除去をもたらさないことは明らかである。
【0069】
実施例3:高いpHと組み合わせたアルギニン洗浄は、有意に不純物を減少する
本実施例において、3つのモノクローナル抗体の純度への3つの異なる洗浄緩衝液条件の影響を評価する。具体的には、3つの洗浄溶液を比較する:(1)低いpH(W6−Ace5)、(2)高い塩(W1−N7)、(3)および高いpHでのアルギニン(W7−Arg9)。
【0070】
3つのモノクローナル抗体(#1、#2、および#4)を、デプス濾過により採取し、以下の表7に記載された条件に従って、ALCカラム、特にプロテインAカラム(GE Healthcare)を用いて精製した。
【0071】
表7:実施例4についてのプロテインAカラムのための操作条件
【表7】
【0072】
平衡化したカラムに、清澄化した採取物を添加し、最初に、以下の表8に記載するように洗浄する。
【0073】
表8:試験した洗浄溶液のリスト
【表8】
カラムを次に、表7に記載した平衡化緩衝液(即ち、20mMのNaHPO/NaHPO、pH7.0)で洗浄し、次に、低いpHで溶出する。溶出液を、分析ALCによりその抗体濃度について分析し、分析サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によりHMW/LMWについて分析し、同じ細胞系で実施した酵素結合免疫吸着アッセイによりHCP含有量について分析する。
【0074】
表9は、抗体収率、溶出液プール濃度、HCPレベルおよびHMWレベルにより評価した、異なるALC洗浄緩衝液条件の、溶出液中の3つのモノクローナル抗体の純度への影響をまとめる。
【0075】
表9:3つのモノクローナル抗体(#1、#2、および#4)についての、低いpH(W6-Ace5)、高い塩(W1-N7)または高いpHでのアルギニン(W7-Arg9)を用いた洗浄後の、ALC性能の比較のまとめ
【表9】
【0076】
表9において上で示すように、低いpHでの洗浄(W6−Ace5)は、84.5%から94.8%の間(平均:90.7%)の収率をもたらし、高い塩での洗浄(W1−N7)は、98.7%の平均収率(97.6%から100%の間)をもたらす。高いpHでのアルギニンを用いた洗浄(W7−Arg9)は、平均収率97.2%(94.1%から98.8%の間)で、3つの洗浄の中で最高の収率をもたらす。
【0077】
溶出液濃度は、異なる抗体を用いたALCの間に適用された異なる洗浄緩衝液を比較した場合、明確な傾向を示していない。全体的には、同等の範囲が見出され、どちらの洗浄も一貫して、最低または最高の濃度をもたらしていない。
【0078】
不純物除去に関して、一般的な順序は、3つの洗浄緩衝液の間で確立することができる。最低のHCP減少は、低いpH洗浄(W6−Ace5)を用いて、次に、高い塩洗浄(W1−N7)を用いて、一貫して得られる。最高の不純物除去は、高いpH9.0でのアルギニンを用いた洗浄(W7−Arg9)により得られる。具体的には、除去の対数オーダーの観点から、1.3ログの平均値は、低いpHの洗浄(W6−Ace5)を用いた洗浄の後に得られ、1.6ログは高塩洗浄(W1−N7)を用いて洗浄した後に得られ、1.9ログの最高除去は、高いpH9.0でのアルギニン洗浄(W7−Arg9)を用いて洗浄した後に達成される。
【0079】
HMWレベルについて、これらのレベルは、3つの異なるモノクローナル抗体について不均一であり、HMWの除去は、モノクローナル抗体依存である。全体的に、低pH洗浄(W6−Ace5)は、HMWレベルの減少において、最も有効でない洗浄溶液である。比較的良い結果が、高塩洗浄(W1−N7)により得られる。しかしながら、ALC溶出液の最低HMW値は、一貫してアルギニンを用いた高pH9.0洗浄(W7−Arg9)について見出される。2つのモノクローナル抗体は、それぞれ、高pH9.0洗浄(W7−Arg9)と比較して、低pH洗浄(W6−Ace5)から、HMWの3.1倍または3.9倍の減少率に応答するのに対し、モノクローナル抗体#2のみは、限界の減少を示す。
【0080】
要約すると、この実施例は、アルギニンと高いpHの新しい組合せが、収率、プール濃度、HCPプール含有量およびHMWプールレベルにより測定されるように、標準的な洗浄緩衝液と比較して、顕著に抗体純度および濃度を改善することを示している。アルギニンと高いpHの特定の組合せを用いた洗浄は、同時に生成物の損失を最小限に抑えながら、高い生成物純度および高い溶出液濃度をもたらす。更に、HCPおよびHMWレベルの低下は、後続の下流の処理工程の負担を軽減し、品質および収益性の観点から、全体的なプロセスのパフォーマンスを向上させる。更に、HCPまたはHMW種等の任意の汚染物質が、更に生成物凝集の核としての役割を果たし得るため、捕捉工程中のそれらの減少は、不純物に関連する凝集のプロセスを遅くする。

本発明は以下の態様を含みうる。
[1] 目的のタンパク質が結合するアフィニティクロマトグラフィー(AC)マトリックスを使用して、精製した目的のタンパク質を生成する方法であって、8.0より高いpHのアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、ACマトリックスを洗浄することを含み、洗浄を非緩衝塩の存在なしで行う、方法。
[2] a)目的のタンパク質を含む混合物をACマトリックスへ添加することと、
b)8.0より高いpHのアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、ACマトリックスを洗浄することと、
c)ACマトリックスから目的のタンパク質を溶出することと
を含み、洗浄を非緩衝塩の存在なしで行う、上記[1]に記載の方法。
[3] 目的のタンパク質が、抗体、抗体断片、またはFc融合タンパク質である、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4] ACマトリックスがプロテインAカラムである、上記[3]に記載の方法。
[5] プロテインAカラムを用いて、精製した抗体、抗体断片、またはFc融合タンパク質を生成する方法であって、
a.抗体、抗体断片、またはFc融合タンパク質を含む混合物をプロテインAカラム上に添加することと、
b.8.0より高いpHのアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、プロテインAカラムを洗浄することと、
c.プロテインAカラムから、抗体、抗体断片、またはFc融合タンパク質を溶出することと
を含み、洗浄を非緩衝塩の存在なしで行う、方法。
[6] プロテインAカラムに抗体、抗体断片、またはFc融合タンパク質を添加する前、および/または、プロテインAカラムから抗体、抗体断片、またはFc融合タンパク質を溶出する前に、平衡緩衝液を用いて、プロテインAカラムを平衡化することを更に含む、上記[5]に記載の方法。
[7] pHが8.5より高い、上記[1]から[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8] pHが約8.5〜9.5である、上記[1]から[6]のいずれか一項に記載の方法。
[9] pHが約8.9〜9.0である、上記[1]から[6]のいずれか一項に記載の方法。
[10] pHが9.0または約9.0である、上記[1]から[6]のいずれか一項に記載の方法。
[11] アルギニン誘導体が、アセチルアルギニン、アグマチン、アルギン酸、N−α−ブチロイル−L−アルギミン、およびN−α−ピバロイルアルギミンから成る群から選択される、上記[1]から[10]のいずれか一項に記載の方法。
[12] アルギニンが、0.1〜0.5Mの範囲の濃度で存在する、上記[1]から[6]のいずれか一項に記載の方法。
[13] アルギニンが、または約0.25Mの濃度で存在する、上記[12]に記載の方法。
[14] 洗浄溶液が、アルギニン−HClを含む、上記[1]から[13]のいずれか一項に記載の方法。
[15] 洗浄溶液が、高分子量(HMW)種、宿主細胞タンパク質(HCP)、および低分子量(LMW)種から成る群から選択される不純物を除去する、上記[1]から[14]のいずれか一項に記載の方法。
[16] 洗浄溶液が、1つまたは複数の緩衝塩を含む、上記[1]から[15]のいずれか一項に記載の方法。