特許第6366508号(P6366508)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366508
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】複合金属ガス分離膜を作製する方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20180723BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20180723BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20180723BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20180723BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   B01D71/02 500
   B01D53/22
   B01D69/00
   B01D69/12
   B01D69/10
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-549172(P2014-549172)
(86)(22)【出願日】2012年12月17日
(65)【公表番号】特表2015-502253(P2015-502253A)
(43)【公表日】2015年1月22日
(86)【国際出願番号】US2012070069
(87)【国際公開番号】WO2013096186
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年12月10日
(31)【優先権主張番号】61/577,750
(32)【優先日】2011年12月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002105
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソウカイティス,ジョン・チャールズ
【審査官】 高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0232821(US,A1)
【文献】 特開2007−190455(JP,A)
【文献】 特開2008−086910(JP,A)
【文献】 特開2002−153737(JP,A)
【文献】 特表2006−520687(JP,A)
【文献】 特表2010−519026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22、
61/00 − 71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合ガス分離モジュールを作製する方法であって、
表面を有する金属膜層を上に有する多孔質支持体を用意するステップ;
後続金属膜層を上に配置させるために活性化特性を増強させた活性化表面を提供する表面形態を、研削媒体の使用により、前記金属膜層の表面上に付与するステップであり、前記活性化表面が、研削パターンおよび0.85ミクロン超から最大2.5ミクロンの範囲の平均表面粗さ(Sa)を有するステップ;
化学的活性化溶液を用いるさらなる活性化なしに、前記活性化表面上に前記後続金属膜層を配置させるステップ;ならびに
前記後続金属膜層をアニーリングして、アニーリング済み金属膜層を提供するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記活性化表面が、0.85ミクロンから1.5ミクロンの範囲の平均表面粗さ(Sa)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
表面が活性化される金属膜層が、パラジウムを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
金属間拡散バリアが、前記多孔質支持体と前記パラジウム含有金属膜層の間に配置される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
所定の平均表面粗さを付与するのに使用される研削媒体が、1から10ミクロンの平均粒子サイズを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
研削パターンが、垂直、水平、放射、クロスハッチ、円形、正弦波、長円、楕円、コイル、ピーナツ型および8の字形からなる幾何学的パターンの群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記活性化表面が、0.9ミクロンから1.2ミクロンの範囲の平均表面粗さ(Sa)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
研削パターンが、クロスハッチパターンである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
研削材粒子が、ダイヤモンド、コランダム、エメリー、シリカ、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、炭化ホウ素および立方晶炭化ホウ素からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
後続金属膜層がアニーリングされる温度が、400℃から800℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
水素含有ガス混合物を、請求項1に記載の方法によって作製された複合ガス分離モジュールに通過させることによって、前記水素含有ガス混合物から水素を分離する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々なガスの混合物から特定のガスを分離するのに使用される複合ガス分離モジュールを製造および再調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合ガス分離モジュールは、ガス混合物から特定のガスを選択的に分離するのに一般に使用されている。これらの複合ガス分離モジュールは様々な材料から作製され得るが、最も一般に使用される2種の材料は、ポリマーおよび金属複合材である。ポリマー膜は低温でのガスの分離に効果的で費用効果の高い選択肢を提供することができるが、これらは熱分解する傾向があるので、より高い温度および圧力を必要とするガス分離プロセスに適していない場合が多い。より厳しい環境規制に加え、高温処理という要求は、高流量、高選択性および高温での動作能力を提供する複合ガス分離モジュールを必要とする。
【0003】
従来技術は、多孔質基材上に支持され、高温ガス分離用途に使用できる様々なタイプのガス分離膜およびその作製方法を開示している。多孔質基材上に薄く高密度のガス選択性膜層を堆積させる公知の技術の多くは、表面の厚みを均一でない状態にすることが多い技術を使用している。より均一な厚みを有する膜を製造するために開発された一技術が、U.S.Patent No.7,390,536に記載されている。この特許は、第1材料を多孔質基材上に堆積させて、被覆された基材を形成し、その表面から好ましくない形態を除去するように研削または研磨して、研磨された基材を形成することによる複合ガス分離モジュールを製造する方法を開示している。その後、パラジウムまたはパラジウム合金などのガス選択性金属を堆積させて、高密度ガス選択性膜を多孔質基材上に形成することができる。しかし、こうした研削または研磨が、膜層の表面の活性化特性を増強させ、その結果、化学的活性化、または水素選択性材料の核で表面をシードすることによる活性化を必要としなくなるという目的に使用できるという示唆はされていない。実際、U.S.Patent No.7,390,536は、研磨後、研磨した多孔質基材の表面を、後続のガス選択性金属の層を堆積させる前に化学的活性化すべきであると明示している。
【0004】
パラジウム複合ガス分離モジュールを製造する別の方法が、U.S.Patent Publication No.2009/0120287に開示されており、これは金属複合材ガス分離膜システムを作製する方法を示している。膜システムは、多孔質支持体、膜厚を低減させるために超微細研削材の使用によって膜層の大部分が除去された多孔質支持体を覆うガス選択性材料の第1膜層および低減した膜層を覆うガス選択性材料の第2層を含むことができる。第1膜層は、複数回のめっきで堆積されるパラジウムを含んでもよい。次いで、このパラジウム膜層を研削して、その厚みを低減させるように膜の大部分を除去し、研磨してより滑らかに仕上げる。続いて、第2パラジウム層を、新たに低減した層上に堆積させる。研削ステップは膜厚の低減をもたらすが、これがさらなる金属膜層をその上に配置または堆積させるための活性化特性を増強させた特殊な表面形態をもたらすとは言及していない。
【0005】
多孔質基材上に支持される、ガス分離で使用する金属膜を作製する従来技術の方法の多くにおいて、多孔質基材の表面、ならびに金属層および膜各々のそれらの付着の間にある表面は、活性化溶液と接触することによって表面活性化される必要がある。このような活性化溶液の一例には、塩化第1スズ(SnCl)、塩化パラジウム(PdCl)、塩酸(HCl)および水の混合物がある。この活性化方法は、乾燥、さらにアニーリングを挟みながら、活性化溶液の複数回の適用をしばしば必要とする。これらの洗浄および乾燥ステップは面倒であり、危険な水性廃棄物を生じ、完了するまでに相当な時間を要する。
【0006】
パラジウム表面の活性化の別の方法は、酢酸パラジウムのクロロホルム中溶液を利用し、蒸発、乾燥および酢酸塩の分解、続いて、パラジウム金属シードへの還元を含む。
【0007】
金属の表面を活性化するための非化学的方法が、U.S.2011/0232821に開示されている。しかし、その開示された方法は、表面形態、特に表面粗さが、本発明の方法で使用するものとは異なるものを使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,390,536号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0120287号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2011/0232821号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、ガスの分離に使用することができ、薄く高密度で厚みが比較的均一な支持金属膜を作製する方法を有することが望ましい。
【0010】
さらに、方法が、支持体の表面および中間金属膜層の表面の中間的化学的活性化を必要とせずに、支持金属膜の製造において複数回の金属めっきステップを許容することも望ましい。
【0011】
また、方法が、支持金属膜の製造において廃棄物および揮発性有機溶媒の生じる量を低減させることも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
本発明は、後続の膜層の堆積の間に化学的表面活性化の使用を必要としない、複数の膜層を含む複合ガス分離モジュールを作製する非常に効率的で安価な方法を提供する。この方法は、金属膜層を有する多孔質支持体を用意するステップ;後続金属膜層を上に配置させるために活性化特性を増強させた活性化表面を提供する表面形態を、金属膜層の表面上に付与するステップであり、活性化表面が、下記のような研削パターンおよびある特定の平均表面粗さを有するステップ;活性化表面上に後続の金属膜層を配置させるステップ;ならびに後続金属膜層をアニーリングして、アニーリング済み金属膜層を提供するステップを含む。
【0013】
本発明の方法は、複数回の金属めっきステップを使用するが、しかし、それらのめっきステップの間に、活性化溶液を用いるめっき済み金属表面の中間的な処理なしで、薄く高密度のガス選択性膜の製造を実現するものである。活性化溶液を使用するこの表面活性化を排除することにより、従来技術による表面活性化技術に関連する多くの問題が克服される。例えば、これは、ガス分離モジュールの製造において支持体および金属層表面を活性化させるための活性化溶液の使用によって生じる、より遅く不均一な金属めっきの問題のいくつかを軽減する。
【0014】
本発明の方法はさらに、ガス分離モジュールの支持体およびめっき済み金属膜層の表面を活性化させるための化学的活性化溶液を使用しない活性化技術の使用によって、複合ガス分離モジュールの全体的な製造時間の削減を提供する。活性化溶液が利用されないので、活性化ステップの間に活性化溶液を洗い流す必要がない。この活性化溶液の使用の排除により、化学的活性化法で一般に生じる水性廃棄物および揮発性有機溶媒が低減されるため、より環境に優しいプロセスというさらなる利点がもたらされる。
【0015】
したがって、本発明の方法は、ガス分離膜システムまたは複合ガス分離モジュールの準備もしくは再調整またはその両方を提供する。本発明の方法は、後続の金属膜層がより容易に上に配置され得るように本明細書に詳細に記載するように活性化されてもよい表面を有する多孔質支持体および金属膜層を提供するために、ガス選択性金属または材料の金属膜層を多孔質支持体上に配置させるステップを含んでもよい。多孔質支持体はまた、多孔質支持体と金属膜層の間に適切に配置され得る金属間拡散バリアで被覆することができる。適切な金属間拡散バリアは、以下により詳細に論じている。
【0016】
ガス選択性金属膜層を上に堆積させる多孔質支持体は、ガス選択性材料の支持体としての使用に適し、水素を透過させるあらゆる多孔質金属材料を含んでもよい。多孔質支持体は、いずれの形状でも幾何構造でもよい。但し、これは、多孔質支持体上へのガス選択性材料の層の付着または堆積を可能にする表面を有することが条件である。このような形状は、ともにシートの厚みを画定する下面および上面を有する多孔質金属材料の平面または曲面状のシートを含むことができ、または多孔質基材の形状は、例えば、ともに壁厚を画定する内面および外面を有し、チューブ形状の内面がチューブ状導管を画定する、矩形、方形および円形チューブ形状などのチューブ状とすることができる。好ましい実施形態において、多孔質支持体は円筒形である。
【0017】
多孔質金属材料は、(1)ステンレス鋼、例えば、301、304、305、316、317および321シリーズのステンレス鋼、(2)HASTELLOY(登録商標)合金、例えば、HASTELLOY(登録商標)B−2、C−4、C−22、C−276、G−30、Xなど、ならびに(3)INCONEL(登録商標)合金、例えば、INCONEL(登録商標)合金600、625、690および718を含むが、これらだけに限らない当業者に周知の材料のいずれかから選択され得る。したがって、多孔質金属材料は、水素透過性で、鉄およびクロムを含む合金を含むことができる。多孔質金属材料はさらに、ニッケル、マンガン、モリブデンおよびこれらの任意の組合せなどの追加の合金金属を含むことができる。
【0018】
多孔質金属材料として使用するのに適した特に望ましい合金のひとつは、合金の総重量の最大約70重量%までの範囲の量のニッケルおよび合金の総重量の10から30重量%の範囲の量のクロムを含むことができる。多孔質金属材料として使用するのに適した別の合金は、30から70重量%の範囲のニッケル、12から35重量%の範囲のクロムおよび5から30重量%の範囲のモリブデンを含み、これらの重量%は、合金の総重量に基づいている。Inconel合金は、他の合金よりも好ましい。
【0019】
多孔質金属基材の厚み(例えば、上述の壁厚またはシート厚)、孔隙率および孔の孔サイズ分布は、所望の特性を有する本発明のガス分離膜システムを提供するために選択される多孔質支持体の特性であり、そのような選択が、本発明のガス分離膜システムの製造において必要とされる。
【0020】
多孔質支持体の厚みが増加するにつれて、水素分離用途で多孔質支持体が使用されるときに水素流量が減少する傾向にあることを理解されたい。圧力、温度および流体流組成などの操作条件も水素流量に影響を与える可能性がある。いずれにせよ、それを通して多くのガス流量を提供するのに合理的な薄さの厚みを有する多孔質支持体を使用することが望ましい。以下に企図する典型的な用途のための多孔質基材の厚みは、約0.1mmから約25mmの範囲であり得る。好ましくは、厚みは、1mmから15mmの範囲である。より好ましくは、その範囲は、2mmから12.5mm、最も好ましくは3mmから10mmである。
【0021】
多孔質金属基材の孔隙率は、0.01から約1の範囲であり得る。孔隙率という用語は、多孔質金属基材材料の全体積(即ち、中実および中空)に対する中空体積の比率と定義される。より典型的な孔隙率は、0.05から0.8、さらには0.1から0.6の範囲である。
【0022】
多孔質金属基材の孔の孔サイズ分布は、平均孔直径を一般に約0.1ミクロンから約50ミクロンの範囲として変えることができる。より典型的には、多孔質金属基材材料の孔の平均孔直径は、0.1ミクロンから25ミクロン、最も典型的には0.1ミクロンから15ミクロンの範囲である。
【0023】
本発明の方法において、当業者に周知の任意の適切な手段または方法によって上にガス選択性金属または材料の金属膜層を配置させることによって作製された多孔質支持体が最初に用意される。支持体上に金属層を準備および形成する適切な手段および方法のいくつかは、参照により本明細書に組み込まれるU.S.Patent Publication2009/0120287に記載されている。支持体上に金属膜層を配置させる、可能性のある適切な手段または方法には、例えば、無電解めっきによる表面上への金属の堆積、熱による堆積、化学蒸着、電気めっき、噴霧堆積、スパッタ被覆、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着および噴霧熱分解がある。好ましい堆積方法は無電解めっきである。
【0024】
本明細書で使用する用語としてのガス選択性金属または材料は、高密度の(すなわち、ガスの、妨害のない通過を可能にする、最小量のピンホール、割れ、間隙空間などを有する)薄膜の形をしているときに選択的にガスを透過させる材料である。したがって、ガス選択性材料の高密度の薄層は、その他のガスの通過を防止しながら所望のガスを選択的に通過させるように機能する。可能なガス選択性金属には、パラジウム、白金、金、銀、ロジウム、レニウム、ルテニウム、イリジウム、ニオブおよびこれらの2種以上の合金がある。本発明の好ましい一実施形態において、ガス選択性材料は、白金、パラジウム、金、銀および合金を含むこれらの組合せなどの水素選択性金属である。より好ましいガス選択性材料は、パラジウム、銀ならびにパラジウムおよび銀の合金である。最も好ましいガス選択性材料はパラジウムである。
【0025】
ガス選択性金属膜層の典型的な膜厚は、1ミクロンから50ミクロンの範囲であり得る。しかし、多くのガス分離用途にとって、この範囲の上限の膜厚は、所望のガスの選択を可能にする妥当なガス流量を提供するには厚すぎる可能性がある。また、様々な従来技術による製造方法は、許容できないガス分離能力を提供するような許容できないほど厚いガス選択性膜層を有するガス分離膜システムをしばしば提供する。通常、20ミクロンを超える膜厚は、ガス混合物からの水素の許容可能な分離を提供するには大きすぎる。15ミクロン、さらには10ミクロンを超える膜厚でさえ、望ましくない。
【0026】
本発明の方法は、化学的活性化溶液を使用して多孔質支持体の表面を化学的処理することなく、上に金属膜層を有する多孔質支持体の表面を活性化させる方法を提供する。表面の活性化の目的は、ガス選択性金属の堆積またはめっきによる1層以上の金属膜層の後続の配置を提供することである。支持金属膜システムを準備する従来技術による方法のいくつかにおいて、複数の金属膜層が多孔質支持体の表面上に配置されているとき、一般に、各金属膜層の表面は、各めっきまたは堆積ステップの間で活性化される必要があり、それは化学的手段を使用して一般に実施される。本方法は、金属膜層の非常に効率的な表面活性化が、金属膜層を有する多孔質支持体の表面上に、以下に記載するような研削パターン特にある種の制御された平均表面粗さを含む特定の表面形態を付与することによって、化学的手段を使用することなく実現され得るという発見に基づいている。この付与した表面形態は、後続の金属膜層を上に配置できるようにする活性化特性を増強させた活性化表面を提供するようになっている。
【0027】
支持金属膜の表面上に付与される特定の表面粗さは、本発明の方法の重要な態様である。従来技術は、膜層の欠陥を除去し、さらなる金属層を上に堆積することができる金属膜材料の薄く均一な金属層を提供するために、金属堆積またはめっきステップの間の膜の金属表面の研磨が重要であることを示している。めっきの間に金属層のよく研磨された滑らかな表面を有することが最善であると考えられてきた。以前考えられていたこととは反対に、以下に定義した特定の範囲内に表面粗さを制御するために研削媒体を使用することによって、化学的活性化溶液の使用による活性化を必要としない、金属膜の表面の活性化に関する著しい利点を有し得ることが分かった。
【0028】
本発明によれば、表面が0.8ミクロン超から最大2.5ミクロンの範囲の平均表面粗さ(Sa)になるように研削または研磨された場合、支持金属膜の表面活性化の向上が実現され得ることが分かった。好ましくは、めっきする金属膜の平均表面粗さ(Sa)は、0.85ミクロンから1.5ミクロンの範囲、より好ましくは0.9ミクロンから1.2ミクロンの範囲である。
【0029】
平均表面粗さまたは相加平均高さ(Sa)は、表面の粗さを測定するための周知の測定値であり、光学プロフィルメータを使用して容易に決定され得る。市販のいずれの光学プロフィルメータを使用してもよい。このような市販の光学プロフィルメータの一例はST400 3Dプロフィルメータであり、Nonovea(登録商標)から販売されている。よく研磨されている表面の場合、所望の表面粗さが研削媒体の使用により付与されて、所望の範囲内に表面粗さを増大させることができる。
【0030】
膜面全体を十分にさらに活性化するために、表面が均一に施された研削パターンを有し、これが配置パターンの形でもよく、支持金属膜層の表面上の連続的な模様であることが望ましい。表面仕上げの配置パターンの例(本明細書では「研削パターン」とも称す)には、垂直、水平、放射、クロスハッチ、円形、正弦波、長円、楕円、コイル、ピーナツ型およびその他のパターンがある。適切で好ましい研削パターンならびに支持金属膜の表面上にこのような研削パターンを付加または付与する方法および手段のいくつかは、本明細書の別の箇所でより詳細に述べている。
【0031】
支持金属膜の表面を活性化する際に使用する好ましい研削パターンは、クロスハッチングの交線が互いに特定の角度でおよび表面内に特定の擦過痕深さで配置される「X」型のクロスハッチパターンである。クロスハッチングの交線は、互いに対して10°(170°)から90°、25°(155°)から90°または30°(150°)から90°の範囲の角度であることが好ましい。
【0032】
表面の中へ、上へまたは上で所望の表面粗さおよび研削パターンを付与または付加するための、当業者に周知のいずれの適切な手段または方法も、本発明の方法において使用することができる。特定の表面形態を支持金属膜の表面上に付与する手段として使用することができる広範な研磨および工作機械があり、それらには、例えば、様々な機械的平坦化装置およびコンピュータ数値制御機械がある。研削表面は、様々な研磨パッド、研削ベルトおよびその他の研削表面から選択され得る。
【0033】
所望の表面粗さおよび研削パターンを製造する研削ステップでの使用に適した研削材は、固定研削材、研削布紙および液体中に懸濁させた研削材粒子またはペースト中に含有されている研削材を含む遊離研削剤などの研削材の任意のタイプから選択され得る。研削粒子のサイズは、適切な研削パターンを作製し、表面粗さを定義した範囲に制御する働きをするようにすべきである。1から10ミクロンの平均粒子サイズを有する研削媒体が、適切な表面粗さを製造することが分かった。しかし、この範囲を超えるまたは達しない平均粒子サイズを有する他の研削媒体は、0.8ミクロン超から最大2.5ミクロンの最終平均表面粗さ(Sa)を製造する場合に限り使用することができる。
【0034】
研削材粒子の組成物は重要ではなく、研削材粒子は、例えば、ダイヤモンド、コランダム、エメリーおよびシリカなどの天然研削材から、または例えば、炭化ケイ素、酸化アルミニウム(溶融、焼結、ゾル−ゲル焼結)、炭化ホウ素および立方晶窒化ホウ素などの製造された研削材から選択され得る。
【0035】
US Publication No.US2009/0120287に開示されるものを含めて、活性化させた表面上にガス選択性金属の後続金属膜層を配置させるいずれの適切な手段または方法が使用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0036】
活性化させた表面上に各後続金属膜層を配置させた後、後続金属膜層は好ましくはアニーリングされる。各後続金属膜層のアニーリングまたは熱処理は、400℃から800℃、好ましくは500℃から550℃の温度で適切に実施され得る。前述の層のアニーリングは、水素雰囲気、または窒素、アルゴンもしくはヘリウムなどの不活性ガス中において実施され得る。好ましい一実施形態において、アニーリングは、100%水素雰囲気、または水素ならびに3wt%から97wt%の、窒素、アルゴンおよびヘリウムからなる群から選択される不活性ガスの混合物を含む雰囲気中で実施される。表面活性化、後続金属膜層の配置およびアニーリングのステップは、本発明の最終的な密封され漏洩しない複合ガス分離モジュールを提供するために、1回以上繰り返され得る。
【0037】
本発明の一実施形態において、表面形態は、旋盤など、水平軸を中心にチューブを回転させるための任意の適切な回転機械手段内に多孔質チューブを配置することによって、多孔質チューブ上に支持させた金属膜層の表面上に付与される。直線研磨ベルトもしくは研磨パッドなどの研削手段または他の任意の適切な研削装置は、外面上に金属膜を有する回転しているチューブに対して押しつけられる。チューブに対する研削装置の向きおよび相対的回転チューブ速度および回転または移動している研削装置速度はすべて、所望の研削パターンおよび表面粗さパラメータを提供するように調整され得る。チューブの回転速度は、使用される特定の機器に一般に依存する。例えば、バフ研磨機は3000rpmから6000rpmの回転速度で動作することができ、または旋盤は10から500rpmの回転速度で動作することができる。旋盤が回転手段として使用されるとき、好ましい回転速度は毎分20から250回転(rpm)である。
【0038】
上述のように、本発明の改良方法は、好ましくは、多孔質基材の表面に金属間拡散バリアを付着させた後、非化学的な表面活性化技術を使用して、ガス選択性材料の層をその上に配置することを含む。適切な金属間拡散バリアは、無機酸化物、耐火金属および貴金属エッグシェル型触媒からなる群から選択される材料の粒子を含む。これらの粒子は、これらまたはこれらの粒子の少なくとも一部分が、パラジウム−銀膜の支持に使用される多孔質基材の孔のいくつかの中に少なくとも一部がはめ込まれ得るようなサイズになっている。したがって、これらは一般に、約50ミクロン(μm)未満の最大寸法を有するべきである。
【0039】
これらの粒子の粒子サイズ(即ち、この粒子の最大寸法)はまた一般に、本発明の方法で使用する多孔質基材の孔の孔サイズ分布に依存する。一般に、無機酸化物、耐火金属または貴金属エッグシェル型触媒の粒子の粒子サイズ中央値は、0.1ミクロンから50ミクロンの範囲にある。より詳細には、粒子サイズ中央値は、0.1ミクロンから15ミクロンの範囲にある。粒子の粒子サイズ中央値は、0.2ミクロンから3ミクロンの範囲にあることが好ましい。
【0040】
金属間拡散バリア粒子の層として適切に使用され得る無機酸化物の例には、アルミナ、シリカ、ジルコニア、イットリアまたはセリア安定化ジルコニアなどの安定化ジルコニア、チタニア、セリア、ケイ素、カーバイド、酸化クロム、セラミック性材料およびゼオライトがある。耐火金属には、タングステン、タンタル、レニウム、オスミウム、イリジウム、ニオブ、ルテニウム、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、クロムおよびモリブデンがあり得る。多孔質基材の表面に付着させる金属間拡散バリア粒子の層として適切に使用され得る貴金属エッグシェル型触媒に関して、この貴金属エッグシェル型触媒は、全内容が参照により本明細書に組み込まれるU.S.Patent7,744,675に非常に詳細に定義され、記載されている。本発明の方法での使用に好適な金属間拡散バリアは、イットリアで安定化させたジルコニア、特に6から8wt%のイットリアで安定化させたジルコニアを含む貴金属エッグシェル型触媒である。ある場合において、セリアの添加も安定化を増加させると分かった。
【0041】
被覆された基材を提供するために多孔質基材の表面に付着させた金属間拡散バリア粒子の層は、多孔質基材の孔を覆い、0.01ミクロン以上、一般に0.01ミクロンから25ミクロンの範囲の層の厚みを有する層を提供するようなものにすべきである。金属間拡散バリアの層の厚みは、0.1ミクロンから20ミクロンの範囲にあることが好ましく、最も好ましくは2ミクロンから3ミクロンの範囲である。
【0042】
多孔質基材に金属間拡散バリアを付着させた後、ガス選択性材料の1層以上の層は、例えば、無電解めっき、熱による堆積、化学蒸着、電気めっき、噴霧堆積、スパッタ被覆、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着および噴霧熱分解などの当業者に周知の任意の適切な手段または方法を使用して、被覆済み多孔質基材上に堆積され得る。被覆済み多孔質基材上にガス選択性材料を堆積させるための好ましい堆積方法は、無電解めっきである。ガス選択性材料の各層を堆積させる前に、前の層の表面は、先に記載した本発明の非化学的な表面活性化技術を使用して活性化される。
【0043】
本方法に従って作製した複合ガス分離モジュールは、ガス混合物から選択するガスを選択的に分離するのに使用され得る。複合ガス分離膜モジュールは、水素含有ガス流から水素を、特に高温適用において分離するのに特に有用である。本発明のガス分離膜を使用することができる高温適用の一例は、水蒸気中でメタンなどの炭化水素を再形成して、一酸化炭素および水素を得、続いて、いわゆる水性ガスシフト反応において、生じた一酸化炭素と水を反応させて、二酸化炭素および水素を得るものである。これらの接触反応は平衡タイプの反応であり、本発明のガス分離膜は、生じた水素の同時分離に有用であり、一方、水素収率に有利に平衡条件を強化するように反応を行う。これらの反応が同時に行われる反応条件は、400℃から600℃の範囲の反応温度および1から30バールの範囲の反応圧力を含み得る。
【0044】
すでに言及したように、本発明のガス分離モジュールは、他のガス、例えば、二酸化炭素、水、メタンまたはこれらの混合物からなるガスの群から選択されるものを含むガス流からの水素の分離に関与する多種多様な用途に使用され得る。このような用途において、温度条件は、最大600℃までの範囲、例えば100℃から600℃の範囲であり得、圧力条件は、最大60バールまでの範囲、例えば1から60バールの範囲であり得る。
【0045】
次の実施例は、本発明をさらに例証するために示されているが、これらは本発明の範囲を限定すると考えるべきではない。
【実施例】
【0046】
以下の実施例は、本方法であって、各パラジウム層の表面を、後続のパラジウム層を堆積させる前に、研削パターンおよび上記の所定の平均表面粗さ(Sa)の範囲内の表面粗さを付与することによって活性化させた方法を使用する複合ガス分離モジュールの準備を説明している。本発明に従う研削によるパラジウム表面の活性化は、どんな化学的活性化もなしで、パラジウム層の継続的な無電解めっきを可能にする。
【0047】
[実施例1]
パラジウムおよびイットリア安定化ジルコニアを含む貴金属エッグシェル型触媒のスラリーを、1”OD×15”の多孔質金属チューブの表面上に堆積させて、2−3ミクロンの厚みを有する金属間拡散バリアを形成した。その後、28−30%の水酸化アンモニウム溶液198ml、テトラアミンパラジウム(II)塩化物4.0g、EDTA二ナトリウム40.1gおよび全体積を1リットルにする十分に脱イオン化した水を含むパラジウム浴溶液を金属間拡散バリアで被覆した多孔質チューブの表面上に、1−2ミクロンの厚みを有する第1パラジウム層が得られるまで循環させることによって、パラジウムの第1膜をその被覆済み多孔質チューブ上に堆積させた。パラジウム層を洗浄し、乾燥させ、3vol%水素の窒素中混合物を含む雰囲気中において520℃でアニーリングした。
【0048】
次いで、被覆多孔質チューブ上のアニーリング済みパラジウム層の表面を研磨、つまり、サンディングブロックに付けたサンドペーパーで20rpmにて旋盤上で研削した。7−8ミクロン、6ミクロンおよび5ミクロンの平均粒子サイズを有する3種の異なる研削紙(走査型電子顕微鏡により判別)をそれぞれ研磨/活性化操作に利用し、より大きな粒子サイズの紙から始めて5ミクロンの紙で終了した。支持体の表面に対して配置したサンディングブロックに圧力を加えた。支持体の片端から始めて反対端に達するまで、サンドペーパーをゆっくり移動させ、支持体を横断させた。その工程をもう一端から始めて、繰り返した。右回りおよび左回りの回転を利用した。サンドペーパーが滑らかになって光沢を有し、または砂粒がなくなるまで、この動作を繰り返した。サンドペーパーサイズを徐々に小さくして、研磨ステップを繰り返した。最終研磨ステップにおいて、めっきした支持体の表面を、5ミクロンの新しいサンドペーパーを使用して軽くクロスハッチングし、それによってパラジウム表面を活性化させ、続いて、化学的活性化を施さずにパラジウムの層でめっきした。
【0049】
光学プロフィロメトリーによる研磨済みパラジウム表面の平均表面粗さ(Sa)は1.62であった。めっき、洗浄、乾燥、アニーリングおよび表面を活性化するための研削のステップを、漏洩のない膜が得られるまで繰り返した。膜は26Nm/m/時間の透過度を有し、試験後、漏洩の発生は15psiで検出されなかった。
【0050】
[実施例2]
実施例1において記載した手順を7つの異なる多孔質金属支持体で繰り返した。6回の研磨/活性化ステップを各々行った後の平均表面粗さ(Sa)を以下の表に示している。通常、4から8回の研磨/活性化および後続のめっきステップが、気密膜の製造に必要とされた。最終のめっきステップ後、パラジウム表面を研磨しなかった。
【0051】
【表1】
【0052】
上記の実施例における様々な段階の支持体の平均表面粗さ値(Sa)を、Nanovea(登録商標)から販売されているST400光学プロフィルメータを使用して測定した。
【0053】
本発明をその好ましい諸実施形態を参照して記載してきたが、添付の特許請求の範囲に説明する本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の種々の改変を行い得ることが当業者には理解される。