【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
本発明は、後続の膜層の堆積の間に化学的表面活性化の使用を必要としない、複数の膜層を含む複合ガス分離モジュールを作製する非常に効率的で安価な方法を提供する。この方法は、金属膜層を有する多孔質支持体を用意するステップ;後続金属膜層を上に配置させるために活性化特性を増強させた活性化表面を提供する表面形態を、金属膜層の表面上に付与するステップであり、活性化表面が、下記のような研削パターンおよびある特定の平均表面粗さを有するステップ;活性化表面上に後続の金属膜層を配置させるステップ;ならびに後続金属膜層をアニーリングして、アニーリング済み金属膜層を提供するステップを含む。
【0013】
本発明の方法は、複数回の金属めっきステップを使用するが、しかし、それらのめっきステップの間に、活性化溶液を用いるめっき済み金属表面の中間的な処理なしで、薄く高密度のガス選択性膜の製造を実現するものである。活性化溶液を使用するこの表面活性化を排除することにより、従来技術による表面活性化技術に関連する多くの問題が克服される。例えば、これは、ガス分離モジュールの製造において支持体および金属層表面を活性化させるための活性化溶液の使用によって生じる、より遅く不均一な金属めっきの問題のいくつかを軽減する。
【0014】
本発明の方法はさらに、ガス分離モジュールの支持体およびめっき済み金属膜層の表面を活性化させるための化学的活性化溶液を使用しない活性化技術の使用によって、複合ガス分離モジュールの全体的な製造時間の削減を提供する。活性化溶液が利用されないので、活性化ステップの間に活性化溶液を洗い流す必要がない。この活性化溶液の使用の排除により、化学的活性化法で一般に生じる水性廃棄物および揮発性有機溶媒が低減されるため、より環境に優しいプロセスというさらなる利点がもたらされる。
【0015】
したがって、本発明の方法は、ガス分離膜システムまたは複合ガス分離モジュールの準備もしくは再調整またはその両方を提供する。本発明の方法は、後続の金属膜層がより容易に上に配置され得るように本明細書に詳細に記載するように活性化されてもよい表面を有する多孔質支持体および金属膜層を提供するために、ガス選択性金属または材料の金属膜層を多孔質支持体上に配置させるステップを含んでもよい。多孔質支持体はまた、多孔質支持体と金属膜層の間に適切に配置され得る金属間拡散バリアで被覆することができる。適切な金属間拡散バリアは、以下により詳細に論じている。
【0016】
ガス選択性金属膜層を上に堆積させる多孔質支持体は、ガス選択性材料の支持体としての使用に適し、水素を透過させるあらゆる多孔質金属材料を含んでもよい。多孔質支持体は、いずれの形状でも幾何構造でもよい。但し、これは、多孔質支持体上へのガス選択性材料の層の付着または堆積を可能にする表面を有することが条件である。このような形状は、ともにシートの厚みを画定する下面および上面を有する多孔質金属材料の平面または曲面状のシートを含むことができ、または多孔質基材の形状は、例えば、ともに壁厚を画定する内面および外面を有し、チューブ形状の内面がチューブ状導管を画定する、矩形、方形および円形チューブ形状などのチューブ状とすることができる。好ましい実施形態において、多孔質支持体は円筒形である。
【0017】
多孔質金属材料は、(1)ステンレス鋼、例えば、301、304、305、316、317および321シリーズのステンレス鋼、(2)HASTELLOY(登録商標)合金、例えば、HASTELLOY(登録商標)B−2、C−4、C−22、C−276、G−30、Xなど、ならびに(3)INCONEL(登録商標)合金、例えば、INCONEL(登録商標)合金600、625、690および718を含むが、これらだけに限らない当業者に周知の材料のいずれかから選択され得る。したがって、多孔質金属材料は、水素透過性で、鉄およびクロムを含む合金を含むことができる。多孔質金属材料はさらに、ニッケル、マンガン、モリブデンおよびこれらの任意の組合せなどの追加の合金金属を含むことができる。
【0018】
多孔質金属材料として使用するのに適した特に望ましい合金のひとつは、合金の総重量の最大約70重量%までの範囲の量のニッケルおよび合金の総重量の10から30重量%の範囲の量のクロムを含むことができる。多孔質金属材料として使用するのに適した別の合金は、30から70重量%の範囲のニッケル、12から35重量%の範囲のクロムおよび5から30重量%の範囲のモリブデンを含み、これらの重量%は、合金の総重量に基づいている。Inconel合金は、他の合金よりも好ましい。
【0019】
多孔質金属基材の厚み(例えば、上述の壁厚またはシート厚)、孔隙率および孔の孔サイズ分布は、所望の特性を有する本発明のガス分離膜システムを提供するために選択される多孔質支持体の特性であり、そのような選択が、本発明のガス分離膜システムの製造において必要とされる。
【0020】
多孔質支持体の厚みが増加するにつれて、水素分離用途で多孔質支持体が使用されるときに水素流量が減少する傾向にあることを理解されたい。圧力、温度および流体流組成などの操作条件も水素流量に影響を与える可能性がある。いずれにせよ、それを通して多くのガス流量を提供するのに合理的な薄さの厚みを有する多孔質支持体を使用することが望ましい。以下に企図する典型的な用途のための多孔質基材の厚みは、約0.1mmから約25mmの範囲であり得る。好ましくは、厚みは、1mmから15mmの範囲である。より好ましくは、その範囲は、2mmから12.5mm、最も好ましくは3mmから10mmである。
【0021】
多孔質金属基材の孔隙率は、0.01から約1の範囲であり得る。孔隙率という用語は、多孔質金属基材材料の全体積(即ち、中実および中空)に対する中空体積の比率と定義される。より典型的な孔隙率は、0.05から0.8、さらには0.1から0.6の範囲である。
【0022】
多孔質金属基材の孔の孔サイズ分布は、平均孔直径を一般に約0.1ミクロンから約50ミクロンの範囲として変えることができる。より典型的には、多孔質金属基材材料の孔の平均孔直径は、0.1ミクロンから25ミクロン、最も典型的には0.1ミクロンから15ミクロンの範囲である。
【0023】
本発明の方法において、当業者に周知の任意の適切な手段または方法によって上にガス選択性金属または材料の金属膜層を配置させることによって作製された多孔質支持体が最初に用意される。支持体上に金属層を準備および形成する適切な手段および方法のいくつかは、参照により本明細書に組み込まれるU.S.Patent Publication2009/0120287に記載されている。支持体上に金属膜層を配置させる、可能性のある適切な手段または方法には、例えば、無電解めっきによる表面上への金属の堆積、熱による堆積、化学蒸着、電気めっき、噴霧堆積、スパッタ被覆、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着および噴霧熱分解がある。好ましい堆積方法は無電解めっきである。
【0024】
本明細書で使用する用語としてのガス選択性金属または材料は、高密度の(すなわち、ガスの、妨害のない通過を可能にする、最小量のピンホール、割れ、間隙空間などを有する)薄膜の形をしているときに選択的にガスを透過させる材料である。したがって、ガス選択性材料の高密度の薄層は、その他のガスの通過を防止しながら所望のガスを選択的に通過させるように機能する。可能なガス選択性金属には、パラジウム、白金、金、銀、ロジウム、レニウム、ルテニウム、イリジウム、ニオブおよびこれらの2種以上の合金がある。本発明の好ましい一実施形態において、ガス選択性材料は、白金、パラジウム、金、銀および合金を含むこれらの組合せなどの水素選択性金属である。より好ましいガス選択性材料は、パラジウム、銀ならびにパラジウムおよび銀の合金である。最も好ましいガス選択性材料はパラジウムである。
【0025】
ガス選択性金属膜層の典型的な膜厚は、1ミクロンから50ミクロンの範囲であり得る。しかし、多くのガス分離用途にとって、この範囲の上限の膜厚は、所望のガスの選択を可能にする妥当なガス流量を提供するには厚すぎる可能性がある。また、様々な従来技術による製造方法は、許容できないガス分離能力を提供するような許容できないほど厚いガス選択性膜層を有するガス分離膜システムをしばしば提供する。通常、20ミクロンを超える膜厚は、ガス混合物からの水素の許容可能な分離を提供するには大きすぎる。15ミクロン、さらには10ミクロンを超える膜厚でさえ、望ましくない。
【0026】
本発明の方法は、化学的活性化溶液を使用して多孔質支持体の表面を化学的処理することなく、上に金属膜層を有する多孔質支持体の表面を活性化させる方法を提供する。表面の活性化の目的は、ガス選択性金属の堆積またはめっきによる1層以上の金属膜層の後続の配置を提供することである。支持金属膜システムを準備する従来技術による方法のいくつかにおいて、複数の金属膜層が多孔質支持体の表面上に配置されているとき、一般に、各金属膜層の表面は、各めっきまたは堆積ステップの間で活性化される必要があり、それは化学的手段を使用して一般に実施される。本方法は、金属膜層の非常に効率的な表面活性化が、金属膜層を有する多孔質支持体の表面上に、以下に記載するような研削パターン特にある種の制御された平均表面粗さを含む特定の表面形態を付与することによって、化学的手段を使用することなく実現され得るという発見に基づいている。この付与した表面形態は、後続の金属膜層を上に配置できるようにする活性化特性を増強させた活性化表面を提供するようになっている。
【0027】
支持金属膜の表面上に付与される特定の表面粗さは、本発明の方法の重要な態様である。従来技術は、膜層の欠陥を除去し、さらなる金属層を上に堆積することができる金属膜材料の薄く均一な金属層を提供するために、金属堆積またはめっきステップの間の膜の金属表面の研磨が重要であることを示している。めっきの間に金属層のよく研磨された滑らかな表面を有することが最善であると考えられてきた。以前考えられていたこととは反対に、以下に定義した特定の範囲内に表面粗さを制御するために研削媒体を使用することによって、化学的活性化溶液の使用による活性化を必要としない、金属膜の表面の活性化に関する著しい利点を有し得ることが分かった。
【0028】
本発明によれば、表面が0.8ミクロン超から最大2.5ミクロンの範囲の平均表面粗さ(Sa)になるように研削または研磨された場合、支持金属膜の表面活性化の向上が実現され得ることが分かった。好ましくは、めっきする金属膜の平均表面粗さ(Sa)は、0.85ミクロンから1.5ミクロンの範囲、より好ましくは0.9ミクロンから1.2ミクロンの範囲である。
【0029】
平均表面粗さまたは相加平均高さ(Sa)は、表面の粗さを測定するための周知の測定値であり、光学プロフィルメータを使用して容易に決定され得る。市販のいずれの光学プロフィルメータを使用してもよい。このような市販の光学プロフィルメータの一例はST400 3Dプロフィルメータであり、Nonovea(登録商標)から販売されている。よく研磨されている表面の場合、所望の表面粗さが研削媒体の使用により付与されて、所望の範囲内に表面粗さを増大させることができる。
【0030】
膜面全体を十分にさらに活性化するために、表面が均一に施された研削パターンを有し、これが配置パターンの形でもよく、支持金属膜層の表面上の連続的な模様であることが望ましい。表面仕上げの配置パターンの例(本明細書では「研削パターン」とも称す)には、垂直、水平、放射、クロスハッチ、円形、正弦波、長円、楕円、コイル、ピーナツ型およびその他のパターンがある。適切で好ましい研削パターンならびに支持金属膜の表面上にこのような研削パターンを付加または付与する方法および手段のいくつかは、本明細書の別の箇所でより詳細に述べている。
【0031】
支持金属膜の表面を活性化する際に使用する好ましい研削パターンは、クロスハッチングの交線が互いに特定の角度でおよび表面内に特定の擦過痕深さで配置される「X」型のクロスハッチパターンである。クロスハッチングの交線は、互いに対して10°(170°)から90°、25°(155°)から90°または30°(150°)から90°の範囲の角度であることが好ましい。
【0032】
表面の中へ、上へまたは上で所望の表面粗さおよび研削パターンを付与または付加するための、当業者に周知のいずれの適切な手段または方法も、本発明の方法において使用することができる。特定の表面形態を支持金属膜の表面上に付与する手段として使用することができる広範な研磨および工作機械があり、それらには、例えば、様々な機械的平坦化装置およびコンピュータ数値制御機械がある。研削表面は、様々な研磨パッド、研削ベルトおよびその他の研削表面から選択され得る。
【0033】
所望の表面粗さおよび研削パターンを製造する研削ステップでの使用に適した研削材は、固定研削材、研削布紙および液体中に懸濁させた研削材粒子またはペースト中に含有されている研削材を含む遊離研削剤などの研削材の任意のタイプから選択され得る。研削粒子のサイズは、適切な研削パターンを作製し、表面粗さを定義した範囲に制御する働きをするようにすべきである。1から10ミクロンの平均粒子サイズを有する研削媒体が、適切な表面粗さを製造することが分かった。しかし、この範囲を超えるまたは達しない平均粒子サイズを有する他の研削媒体は、0.8ミクロン超から最大2.5ミクロンの最終平均表面粗さ(Sa)を製造する場合に限り使用することができる。
【0034】
研削材粒子の組成物は重要ではなく、研削材粒子は、例えば、ダイヤモンド、コランダム、エメリーおよびシリカなどの天然研削材から、または例えば、炭化ケイ素、酸化アルミニウム(溶融、焼結、ゾル−ゲル焼結)、炭化ホウ素および立方晶窒化ホウ素などの製造された研削材から選択され得る。
【0035】
US Publication No.US2009/0120287に開示されるものを含めて、活性化させた表面上にガス選択性金属の後続金属膜層を配置させるいずれの適切な手段または方法が使用され得る。