特許第6366510号(P6366510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6366510視覚系の機能を評価するためのシステムの作動方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366510
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】視覚系の機能を評価するためのシステムの作動方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/113 20060101AFI20180723BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20180723BHJP
   A61B 5/18 20060101ALN20180723BHJP
【FI】
   A61B3/10 B
   A61B10/00 H
   !A61B5/18
【請求項の数】32
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2014-560420(P2014-560420)
(86)(22)【出願日】2013年3月11日
(65)【公表番号】特表2015-513430(P2015-513430A)
(43)【公表日】2015年5月14日
(86)【国際出願番号】FI2013050266
(87)【国際公開番号】WO2013132162
(87)【国際公開日】20130912
【審査請求日】2016年3月8日
(31)【優先権主張番号】20125256
(32)【優先日】2012年3月9日
(33)【優先権主張国】FI
(31)【優先権主張番号】61/608,773
(32)【優先日】2012年3月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514227519
【氏名又は名称】オキュスペクト オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイノネン、マルック
(72)【発明者】
【氏名】メンチサロ、タピオ
【審査官】 冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0128222(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0114414(US,A1)
【文献】 特表2010−526623(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0195051(US,A1)
【文献】 特開2011−161122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 − 3/18
A61B 10/00 − 10/06
A61B 5/06 − 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの片眼および/もしくは両眼、ならびに/または視覚系によって認識可能な視野を、評価および/または実行するマーカーを提供するシステムの作動方法であって、
前記システムが、
a)少なくともサッカード誘発刺激STSまたは円滑追跡誘発刺激SPTSと、前記片眼または両眼が固視像FOに正確に固定されている場合、すなわち、前記FOが前記ヒトの片眼または両眼の窩に位置する場合にのみ前記ヒトが識別可能な固視像FOとを、特定の場所に提供することが可能な単一または複数のディスプレイと、
b)前記FOを識別するヒトが、データ処理ユニットに、自身による前記FOの識別を報告可能な報告手段と、
c)ソフトウェアを備えるデータ処理ユニットとを備え、
前記ソフトウェアが、
前記ヒトの片眼または両眼の視野の特定の場所で、サッカード誘発刺激STSを検知する、周辺視野の能力、
前記ヒトの片眼または両眼の視野の特定の場所で、サッカード誘発刺激STSによって誘発されるサッカードを実行することにより、標的を正確に捉える、ヒトの片眼または両眼の能力、および/または、
前記ヒトの片眼または両眼の、円滑追跡誘発刺激SPTSによって誘発されている円滑追跡の精度
を評価するようにプログラムされ、該評価が、
a)前記片眼または両眼が、先行する固視像FOpに正確に固定されている場合、すなわち、前記FOpが前記ヒトの片眼または両眼の窩に配置されている場合にのみ前記ヒトが識別可能な、先行する固視像FOpに固定されている前記片眼または両眼に、提供された前記STSまたはSPTSにそれぞれ応じて、サッカードまたは円滑追跡を実行させるように、前記単一または複数のディスプレイ上に前記STSまたはSPTSを提供し、
b)前記片眼または両眼が固視像FOに正確に固定されている場合、すなわち、前記FOが前記ヒトの片眼または両眼の窩に配置されている場合にのみ前記ヒトが識別可能な固視像FOを、前記ヒトの片眼または両眼が前記サッカードの最後または前記円滑追跡中に固定されるべき場所に提供し、
c)前記ヒトによる前記FOの識別が終了したあとに、前記報告手段により前記ヒトから報告された前記FOの識別を受け取り、
d)報告された前記FOの識別の正確性、ならびに
前記STSの提供時点、および/または前記SPTSが用いられる場合、FOの提供時点、および
前記FOの識別の報告時点
を記録し、
e)前記STSが用いられる場合、前記STSまたはFOの提供と、前記FOの識別の報告との間の期間を、および/または、前記SPTSが用いられる場合、前記FOの提供と、前記FOの識別の報告との間の期間を計算する
ことによってなされ、
識別の報告が誤っていること、もしくは識別がないこと、および/または、
前記ヒトに対応した人々にとって正常とみなされる遅延と比較して、または、前記ヒトの片眼または両眼の視野の他の場所に関する遅延と比較して、または、前記ヒトの一生のより早い時期に取得された遅延と比較して、正確な識別の報告における遅延が延長していることが、
前記ヒトの片眼または両眼の視野の前記特定の場所で前記STSを検知する、前記ヒトの片眼または両眼の能力、
前記STSによって誘発されるサッカードを実行することにより、標的を正確に捉える、前記ヒトの片眼または両眼の能力、
前記ヒトの、前記FOを識別する能力、
前記ヒトの片眼または両眼の、前記SPTSによって誘発されている前記円滑追跡の精度、および/または
前記ヒトの前記視覚系の機能
が異常であるか、および/または悪化したことを示すマーカーとなるシステムの作動方法。
【請求項2】
前記システムの作動方法が、
f)前記片眼または両眼が別の固視像FFOiに正確に固定されている場合、すなわち、前記FFOiが前記ヒトの片眼または両眼の窩に位置する場合にのみ前記ヒトが識別可能な、別の固視像FFOiを、直前の別の固視像FFOpの場所と同じ場所に提供することと、
g)前記ヒトによるFFOiの識別が終了したあとに、前記報告手段により前記ヒトから報告された前記FFOiの識別を受け取ることと、
h)報告された前記FFOiの識別の正確性と、前記FFOiの提供時点および前記FFOiの識別の報告時点とを記録することと、
i)FFOiの提供と前記FFOiの識別の報告との間の期間を計算することとをさらに含み、
該期間は、請求項1のステップe)で計算された期間から差し引かれて、
前記STSの提供と、前記FOへの前記ヒトの片眼または両眼の正確な固定との間の期間、および/または、
前記SPTSが用いられる場合、前記FOの提供と、前記FOへの前記ヒトの片眼または両眼の正確な固定との間の期間
を評価し、前記期間を、前記ヒトに対応した人々にとって正常とみなされる対応する期間と、または前記ヒトにとって以前は正常とみなされていた期間と比較することを可能にする請求項1記載のシステムの作動方法。
【請求項3】
前記ヒトによる固視像FOの識別の報告の正確性に関する可視フィードバックを提供するフィードバック刺激FBSが、前記ヒトが前記FOの識別を報告した直後、すなわち、100ms以内に、前記FOが報告された場所に提供される請求項1または2記載のシステムの作動方法。
【請求項4】
前記システムの作動方法が、以下の連続的なステップ
i)前記片眼または両眼が第1固視像FO1に正確に固定されている場合、すなわち、前記FO1が前記ヒトの片眼または両眼の窩に位置する場合にのみ前記ヒトが識別可能な第1固視像FO1に、前記ヒトの片眼または両眼を固視させるように、前記単一または複数のディスプレイ上に前記第1固視像FO1を提供するステップと、
ii)第1識別と呼ばれる、前記ヒトによる前記FO1の識別が終了したあとに、前記報告手段により前記ヒトから報告された前記第1識別を受け取るステップと、
iii)前記ヒトの、前記FO1に正確に固定された前記片眼または両眼の視野内の、前記ヒトの視野の前記FO1とは異なる場所に、第1サッカード誘発刺激STS1に応じて前記片眼または両眼の第1サッカードと呼ばれるサッカードを前記ヒトの片眼または両眼に実行させるように、第1サッカード誘発刺激STS1を提供するステップと、
iv)前記第1サッカード中またはその直後に、第2固視像FO2を前記STS1の場所に提供するステップと
を含む多数のサイクルを備え、
前記サイクルのそれぞれに関してステップi)〜iv)を繰り返すことを含み、繰り返される各サイクルにおいて前記FO1は前のサイクルの前記FO2であり、
方法において前記識別は報告され、さらに、前記STS1の提供時点、前記FO2の提供時点および各サイクルの前記報告時間が記録され、前記STS1またはFO2の提供と、前記FO2の識別の報告との間の期間が計算され、
誤った識別の報告がなされること、もしくは識別がないこと、および/または、
前記ヒトに対応した人々にとって正常とみなされる遅延と比較して、または、前記ヒトの片眼または両眼の視野の他の場所に関する遅延と比較して、または、前記ヒトの一生のより早い時期に取得された遅延と比較して、正確に報告される識別において遅延が延長していることが、
前記ヒトの片眼または両眼の視野の前記特定の場所で前記STSを検知する、前記ヒトの片眼または両眼の能力、
前記サッカード誘発刺激STSによって誘発されるサッカードを実行することにより、標的を正確に捉える、前記ヒトの片眼または両眼の能力、
前記ヒトの、前記FOを識別する能力、および/または
前記ヒトの前記視覚系の機能
が異常であるか、および/または悪化したことを示すマーカーとなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のシステムの作動方法。
【請求項5】
前記第2固視像FO2が、前記第1サッカード誘発刺激STS1の終了後、遅延を経て提供される請求項4記載のシステムの作動方法。
【請求項6】
前記第1サッカード誘発刺激STS1の終了後、前記第2固視像FO2を提供するときの遅延は、前記サイクル間で異なる、請求項4または5記載のシステムの作動方法。
【請求項7】
前記サッカードおよび固視の継続時間は、前記第1サッカード誘発刺激STS1の終了後、前記第2固視像FO2の提供までの遅延を最小限に定めることにより得られ、これにより、前記ヒトの片眼または両眼の視野の所定の場所で所定の強度および継続時間を用いた、STS1の提供時における、前記FO2の提供と前記FO2の識別の正確な報告との間の計算される期間が最短となる請求項6記載のシステムの作動方法。
【請求項8】
前記サッカード誘発刺激STSの強度はサイクル間で異なり、前記視野のどの場所においても前記ヒトの片眼または両眼には見えない強度と、前記STSの強度とは無関係に前記サッカード誘発刺激STSに前記ヒトが反応するのに充分に高い強度との間で異なる請求項4〜7のいずれか1項に記載のシステムの作動方法。
【請求項9】
前記固視像FOを識別したときに誤った結果を報告すると、サッカード誘発刺激STSを異なる物理的位置に提供する前に、誤って識別された固視像FOeiと同じ物理的位置に、新しい固視像FOnを提供することを引き起こす、請求項3に従属する、請求項4〜8のいずれか1項に記載のシステムの作動方法。
【請求項10】
以前の固視像FOを識別したときの誤った結果の報告によって生じた新しい固視像FOnは、新しいサッカード誘発刺激STSnに続く請求項9記載のシステムの作動方法。
【請求項11】
前記ヒトの片眼または両眼のサッカードの実行を誘発することが意図される前記サッカード誘発刺激STSとともに、生理的盲点サッカード誘発刺激STSbsが、先行するFOpの識別の報告と、その後0〜300msの間の実質的に同時に提供され、前記STSbsは、前記片眼または両眼が先行する固視像FOpに固定されているときに、前記ヒトの片眼または両眼の視野の盲点がある場所に提供される請求項4〜10のいずれか1項に記載のシステムの作動方法。
【請求項12】
盲点妨害固視像FObsdが、盲点サッカード誘発刺激STSbsの場所に提供される請求項11記載のシステムの作動方法。
【請求項13】
1つまたは2つ以上の視覚探索妨害固視像FOvsおよび/または紛らわしい固視像FOmが、前記サッカード誘発刺激STSの場所の前記固視像FOと実質的に同時に、前記ヒトの片眼または両眼の視野の選択された場所に提供され、前記FOvsは、前記STSの場所に提供される前記FOとは区別できる請求項4〜12のいずれか1項に記載のシステムの作動方法。
【請求項14】
前記システムの作動方法が、ヒトの片眼および/または両眼の、円滑追跡誘発刺激SPTSによって誘発される円滑追跡の精度を評価することを含んでおり、該評価は、
i)前記SPTSに応じて、前記ヒトの片眼または両眼に円滑追跡させるように、前記単一または複数のディスプレイ上に前記SPTSを提供すること、
ii)前記片眼または両眼が前記FOに正確に固定されている場合、すなわち、前記FOが前記ヒトの片眼または両眼の窩に位置する場合にのみ前記ヒトが識別可能な固視像FOを、前記円滑追跡の間前記ヒトの片眼または両眼が固定されると予測される場所に提供することであって、前記FOは、前記SPTSと同じ角速度および方向に移動している、提供すること、
iii)前記ヒトによる前記FOの識別が終了したあとに、前記報告手段により前記ヒトから報告された前記FOの識別を受け取ること、
iv)報告された前記FOの識別の正確性、ならびに
前記FOの提供時点、および
前記FOの識別の報告時点
を記録すること、
v)前記FOの提供と、前記FOの識別の報告との間の期間を計算すること
によりなされ、
誤った報告がなされること、もしくは識別がないこと、および/または、
前記ヒトに対応した人々もしくは前記ヒトにとって正常とみなされる遅延と比較して、正確な識別の報告における遅延が延長していることが、
前記ヒトの片眼もしくは両眼の円滑追跡の精度が異常であるか、および/または悪化したことを示すマーカーとなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のシステムの作動方法。
【請求項15】
前記システムの作動方法が、サッカード誘発刺激STSが用いられる場合、前記ヒトの片眼もしくは両眼のサッカードのアクティブな監視を含まず、および/または、円滑追跡誘発刺激SPTSが用いられる場合、前記ヒトの片眼もしくは両眼の円滑追跡のアクティブな監視を含まない請求項1〜14のいずれか1項に記載のシステムの作動方法。
【請求項16】
請求項1のステップb)において、小さい文字、記号またはパターンを含む固視像FOを提供する請求項1記載のシステムの作動方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載のシステムの作動方法を実行することによって、ヒトの片眼および/もしくは両眼、ならびに/または視覚系によって認識可能な視野を、評価および/または実行するためのマーカーを提供するシステムであって、前記システムは、
a)少なくともサッカード誘発刺激STSまたは円滑追跡誘発刺激SPTSと、前記片眼または両眼が固視像FOに正確に固定されている場合、すなわち、前記FOが前記ヒトの片眼または両眼の窩に位置する場合にのみ前記ヒトが識別可能な固視像FOとを、特定の場所に提供することが可能な単一または複数のディスプレイと、
b)前記FOを識別するヒトが、データ処理ユニットに、自身による前記FOの識別を報告可能な報告手段と、
c)ソフトウェアを備えるデータ処理ユニットとを備え、前記ソフトウェアが少なくとも、
i)前記単一または複数のディスプレイ上で、少なくとも前記STSおよび/またはSPTS、ならびに前記FOを、前記特定の場所に提供し、
ii)報告された前記FOの識別の正確性を記録し、
iii)前記STSおよび/またはSPTS、ならびに前記FOを、前記特定の場所に提供する時点と、前記識別の報告時点とを記録し、
iv)前記STSが用いられる場合、少なくとも、前記STSの提供と、前記FOの識別の報告との間の期間を計算し、および/または、前記SPTSが用いられる場合、前記FOの提供と、前記FOの識別の報告との間の期間を計算するためのものであり、
d)前記データ処理ユニットの前記ソフトウェアは、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法にしたがって、前記ヒトの片眼もしくは両眼、および/または眼球運動機能によって認識可能な視野の評価を実行するシステム。
【請求項18】
前記システムが、多数のディスプレイを備えるディスプレイセットを備える請求項17記載のシステム。
【請求項19】
前記システムが、単一のディスプレイ、複数のディスプレイまたはディスプレイセットを備え、前記単一または複数のディスプレイの大きさは、12インチ〜168インチである請求項17または18記載のシステム。
【請求項20】
前記単一または複数のディスプレイは、それぞれが、少なくとも前記サッカード誘発刺激STSおよび前記固視像FOを表示することができ、円滑追跡誘発刺激SPTS、別の固視像FFOおよびフィードバック刺激FBSも表示することができる請求項17〜19のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項21】
前記単一または複数のディスプレイは、ディスプレイユニットが、ヒトの片眼または両眼を評価するときに用いられることが意図されて、その評価されるべき前記片眼または両眼から離れて配置される場合に、前記ディスプレイユニットが、前記ディスプレイユニットに固定される前記片眼または両眼に向くとき、前記片眼または両眼の視軸と異なる偏心角度で、サッカード誘発刺激STSおよび/または固視像FOを表示することができ、前記単一または複数のディスプレイの前記FOのいずれかに固定されるとき、意図された評価に適用可能となるように配置される請求項17〜20のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
前記単一のディスプレイ、複数のディスプレイまたはディスプレイセットが、評価されるべき前記片眼および/または両眼の光軸に前記単一のディスプレイ、複数のディスプレイまたはディスプレイセットが垂直であることの確認、および/または、前記単一のディスプレイ、複数のディスプレイまたはディスプレイセットの長手軸が直立位置から左側または右側に逸脱している角度の確認を可能にする、単一のまたは複数の位置センサを備える請求項17〜21のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項23】
前記システムが、前記単一のディスプレイ、複数のディスプレイまたはディスプレイセットと、前記ヒトの片眼または両眼との間の距離を監視するための、少なくとも1つのセンサを備える請求項17〜22のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項24】
前記システムが、周辺輝度を監視するための少なくとも1つのセンサを備える請求項17〜23のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項25】
前記システムが、前記STSおよび/またはFOの明度を調節するための手段を備える請求項17〜24のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項26】
前記システムが、前記ヒトの頭部に取り付けられる単一または複数のセンサを備え、前記単一または複数のセンサは、前記ヒトの視野にサッカード誘発刺激を表示するときに、前記頭部の回転の速度、タイミングおよび/または角度を検知できる請求項17〜25のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項27】
前記システムが、サッカード誘発刺激STSが用いられる場合、前記ヒトの片眼または両眼のサッカードをアクティブに監視する手段を含まず、および/または、円滑追跡誘発刺激SPTSが用いられる場合、前記ヒトの片眼または両眼の円滑追跡をアクティブに監視する手段を含まない請求項17〜26のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項28】
前記単一または複数のディスプレイが、小さい文字、記号またはパターンを含む固視像FOを提供することが可能である請求項17記載のシステム。
【請求項29】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の、ヒトの片眼および/もしくは両眼、ならびに/または視覚系によって認識可能な視野を、評価および/または実行するためのマーカーを提供するシステムの作動方法を実行するシステム用のプログラムであって、前記プログラムは、少なくとも、
i)単一または複数のディスプレイ上で、少なくともサッカード誘発刺激STSおよび/または円滑追跡誘発刺激SPTS、ならびに、前記片眼または両眼が固視像FOに正確に固定されている場合、すなわち、前記FOが前記ヒトの片眼または両眼の窩に位置する場合にのみ前記ヒトが識別可能な固視像FOを、特定の場所に提供し、
ii)前記ヒトの片眼または両眼による、報告されたFOの識別の正確性を記録し、
iii)前記STSおよび/またはSPTS、ならびに前記FOを、前記特定の場所に提供する時点と、前記識別の報告時点とを記録し、
iv)少なくとも、前記STSまたはFOの提供と、前記FOの識別の報告との間の期間を計算し、および/または、前記SPTSが用いられる場合、前記FOの提供と、前記FOの識別の報告との間の期間を計算するための
手段を備えるプログラム
【請求項30】
前記プログラムが、ヒトの片眼または両眼の標準的な視野座標系に提供されるサッカード誘発刺激STSの場所を記録するための手段をさらに備える請求項29記載のプログラム
【請求項31】
前記プログラムが、サッカード誘発刺激STSおよび/または固視像FOの各強度に関して、前記プログラムを用いてもたらされた結果の許容誤差を定める手段を備える請求項29または30記載のプログラム
【請求項32】
小さい文字、記号またはパターンを含む固視像FOを単一または複数のディスプレイ上に提供する請求項29記載のプログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚系、特に、視野、視覚探索能力、視覚的意思決定、衝動性眼球運動および眼球の円滑追跡の機能を評価および実行するための方法および装置に関する。より詳細には、本発明は、片眼または両眼の向きを正確に判定する方法に関する。本発明により、中心視によってのみ検知可能な固視像の特徴を設計することで、片眼または両眼の網膜の視軸または中心窩が、所定の時点である固視像に向けられているか、またはそこに固定されていることを、片眼または両眼のアクティブな監視なしに確認することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景技術を示すために本明細書において用いられる出版物および他の資料、特に、実施に関して付加的な詳細を示すものが、参照により組み込まれている。
【0003】
眼球の視野を評価するための既存の装置および方法には、結果の信頼性に影響を及ぼしたり、検査される人にとって困難な検査状況をもたらしたりする、いくつかの問題がある。視野検査においては、眼球の向き、すなわち、眼球の網膜の視線(視軸)または中心窩が、どこに向けられているか、または固定されているかが正確に分かることが必要不可欠である。この正確な情報があって初めて、ヒトの視野の正確な位置に刺激を呈示できる。
【0004】
既存の装置および方法では、被検者は、所定の、静的な固視点に焦点を合わせ、周辺視野に対して呈示された刺激の存在および位置を報告することを求められる。このように長時間にわたって所定の点への固視を試みることは、ヒトにとっては、非常に不自然かつ多くの場合不快な眼の動きである。また、特に長期間にわたる、被検者の正確に固視する能力は乏しいことが知られているので、視野測定の精度は損なわれる。
【0005】
既存の装置および方法において、眼球固視の精度の監視は、通常、調べる眼球の瞳孔に焦点を合わせられる光学的テレスコープを用いて行われる。テレスコープの照準線は、瞳孔を中心とし、瞳孔が照準線の中央にないときに呈示された刺激は、全て廃棄される。この眼球固視の監視は、検者によって視覚的に行われてもよいが、これは信頼性が低く、検者の注意力に左右され、あるいは、電子カメラ画像処理システムや、自動電子ビデオカメラに基づく視標追跡装置を用いて行われてもよいが、これは複雑さを要するので高価な電子システムを必要とし、また、事前の較正処理も必要とする。
【0006】
視野の検査のための既存の装置は、通常大きく技術的に複雑なので、高価であって、使用していないときも小さな検査室の床面積の多くを占める分離した器械台を要する。
【0007】
眼球運動機能を評価するための既存の装置および方法のいくつかにおいて、眼球の向き、すなわち、眼球の網膜の視線(視軸)または中心窩が、どこに向けられているか、または固定されているかは、通常、自動電子ビデオに基づく視標追跡装置を用いて監視され、これは複雑であるがゆえに、高価な電子システムを必要とする。また、この種の装置が眼球の向きについての正確な情報を提供するまでには、装置が、検出された眼球の中心窩固視に対する眼球の特定の位置を、既知の固視標的に合致させることができるように、較正処理が行われなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的の1つは、ヒトの片眼、および/または、両眼、および/または、視覚系によって認識可能な視野を、評価および/または実行するマーカーを提供する方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、ヒトの片眼、および/または、両眼、および/または、視覚系によって認識可能な視野を、評価および/または実行するマーカーを提供するシステムの使用を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、ヒトの片眼、および/または、両眼、および/または、視覚系によって認識可能な視野を、評価および/または実行するマーカーを提供するシステムを提供することである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、ヒトの片眼、および/または、両眼、および/または、視覚系によって認識可能な視野を、評価および/または実行するマーカーを提供する方法を実行するシステム用のソフトウェア製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ヒトの片眼、および/または、両眼、および/または、視覚系によって認識可能な視野を、評価および/または実行するマーカーをもたらす方法を提供し、この方法は、
ヒトの片眼または両眼の視野の特定の場所で、サッカード誘発刺激STSを検知する、周辺視野の能力
ヒトの片眼または両眼の視野の特定の場所で、サッカード誘発刺激STSによって誘発されるサッカードを実行することにより、標的を正確に捉える、ヒトの片眼または両眼の能力、および/または
ヒトの片眼または両眼の、円滑追跡誘発刺激SPTSによって誘発されている円滑追跡の精度
を評価することを含み、該評価が、
a)片眼または両眼が固視像FOpに正確に固定されている場合、すなわち、FOpがヒトの片眼または両眼の窩に配置されている場合にのみヒトが識別可能な、先行する固視像FOpに固定されている片眼または両眼に、提供されたSTSまたはSPTSにそれぞれ応じて、サッカードまたは円滑追跡を実行させ、
b)片眼または両眼が固視像FOに正確に固定されている場合、すなわち、FOがヒトの片眼または両眼の窩に配置されている場合にのみヒトが識別可能な固視像FOを、ヒトの片眼または両眼がサッカードの最後または円滑追跡中に固定されるべき場所に提供し、
c)FOの識別とも呼ばれる、FOを識別することをヒトに行わせ、
d)ヒトにFOの識別を報告させ、
e)報告されたFOの識別の正確性、ならびに
SPTSが用いられる場合、STSおよび/またはFOの提供時点、および
FOの識別の報告時点
を記録し、
f)STSが用いられる場合、STSまたはFOの提供と、FOの識別の報告との間の期間を、および/または、SPTSが用いられる場合、FOの提供と、FOの識別の報告との間の期間を計算する
ことによって、
識別の報告が誤っていること、またはないこと、および/または、
そのヒトに対応した人々にとって正常とみなされる遅延と比較して、または、ヒトの片眼または両眼の視野の他の場所に関する遅延と比較して、または、ヒトのより早い時期に取得された遅延と比較して、正確な識別の報告における遅延が延長していることが、
ヒトの片眼または両眼の視野の特定の場所にあるSTSを検知する、ヒトの片眼または両眼の能力、
STSによって誘発されるサッカードを実行することにより、標的を正確に捉える、ヒトの片眼または両眼の能力、
ヒトの、FOを識別する能力、
ヒトの片眼または両眼の、SPTSによって誘発されている円滑追跡の精度、および/または
ヒトの視覚系の機能
が異常であるか、および/または悪化したことを示すマーカーとなる。
【0013】
本発明は、ヒトの片眼、および/または、両眼、および/または、視覚系によって認識可能な視野を、評価および/または実行するためのマーカーをもたらすシステムの使用を提供し、このシステムは、
a)少なくともサッカード誘発刺激STSまたは円滑追跡誘発刺激SPTSと、固視像FOを、特定された場所に提供することが可能な単一または複数のディスプレイと、
b)FOを識別するヒトが、データ処理ユニットに自身によるFOの識別を報告可能な報告手段と、
c)ソフトウェアを備えるデータ処理ユニットとを備え、このソフトウェアが少なくとも、
i)単一または複数のディスプレイ上で、少なくともSTSおよび/またはSPTS、ならびにFOを、特定された場所に提供し、
ii)FOの識別の報告の正確性を報告し、
iii)STSおよび/またはSPTS、ならびにFOを、特定の場所に提供する時点、および識別の報告時点を記録し、
iv)STSが用いられる場合、STSまたはFOの提供と、FOの識別の報告との間の期間を計算し、および/または、SPTSが用いられる場合、FOの提供と、FOの識別の報告との間の期間を計算する
ためのものであり、
STSおよび/またはSPTS、ならびに固視像FOsは、単一または複数のディスプレイに提供され、識別の時点および報告が登録され、期間は本発明の方法にしたがって計算される。
【0014】
本発明はさらに、本発明の方法のいずれかを実行することによって、ヒトの片眼、および/または、両眼、および/または、視覚系によって認識可能な視野を、評価および/または実行するためのマーカーをもたらすシステムを提供し、このシステムは、
a)少なくともサッカード誘発刺激STSまたは円滑追跡誘発刺激SPTSと、固視像FOとを、特定された場所に提供することが可能な単一または複数のディスプレイと、
b)FOを識別するヒトが、データ処理ユニットに自身によるFOの識別を報告可能な報告手段と、
c)ソフトウェアを備えるデータ処理ユニットとを備え、このソフトウェアが少なくとも、
i)単一または複数のディスプレイ上で、少なくともSTSおよび/またはSPTS、ならびにFOを、特定された場所に提供し、
ii)報告されたFOの識別の正確性を記録し、
iii)STSおよび/またはSPTS、ならびにFOを、特定の場所に提供する時点、および識別の報告時点を記録し、
iv)STSが用いられる場合、少なくとも、STSの提供と、FOの識別の報告との間の期間を計算し、および/または、SPTSが用いられる場合、FOの提供と、FOの識別の報告との間の期間を計算するためのものであり、
d)データ処理ユニットのソフトウェアは、本発明の方法のいずれかにしたがって、ヒトの片眼または両眼、および/または、眼球運動機能によって認識可能な視野の評価を実行する。
【0015】
本発明はさらに、本発明のいずれかにしたがって、ヒトの片眼、および/または、両眼、および/または、視覚系によって認識可能な視野を、評価および/または実行するためのマーカーをもたらす方法のいずれかを実行するシステム用のソフトウェア製品も提供し、このソフトウェア製品は、少なくとも、
i)単一または複数のディスプレイ上で、少なくともサッカード誘発刺激STSおよび/または円滑追跡誘発刺激SPTS、ならびに固視像FOを特定された場所に提供し、
ii)ヒトの片眼または両眼による、報告されたFOの識別の正確性を記録し、
iii)STSおよび/またはSPTS、ならびにFOを、特定の場所に提供する時点、および識別の報告時点を記録し、
iv)STSまたはFOの提供と、FOの識別の報告との間の期間を計算し、および/または、SPTSが用いられる場合、FOの提供と、FOの識別の報告との間の期間を計算するための
手段を備える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】視野の水平子午線に沿った眼球の視力を示す図である。網膜の中心窩での視力は良好で、辺縁では急激に低下する。
図2】ディスプレイユニット1〜6を備える装置の実施形態を、単純さのために一次元配列で示し、本発明の方法のシーケンスの一例を示す図である。
図3】ヒトの眼球を評価するためのシーケンスの、いくつかの段階および時点を示す図である。
図4】視覚探索妨害像の使用を示す図である。
図5】いくつかの連続した別の固視像FFOを同一のディスプレイに提供するためのシーケンスの、いくつかの段階および時点を示す図である。
図6】別の固視像が、先行する固視像として同一の表示ユニットに提供されている検査シーケンスを示す図である。
図7】視野の1つの場所の検査シーケンスを示す図である。
図8】ヒトが視野に欠損場所を有する場合の、検査シーケンスを示す図である。
図9】正常な視野を有するヒトが、左側にサッカード障害を有し、右側には正常なサッカードを有する場合の、検査シーケンスを示す図である。
図10】ヒトの注視方向を1つの場所から別の場所へと変えるために、眼球および/または頭部に要求される運動機能を評価する場合に、FOが提供される前に遅延の長さを調節することの利点を示す図である。
図11】ヒトの注視方向を1つの場所から別の場所へと変えるために、眼球および/または頭部に要求される運動機能を評価する場合に、FOが提供される前に遅延の長さを調節することの利点を示す図である。
図12】テキストのパラグラフを用いた、ヒトの視覚系、特に読字能力の評価機能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、視覚系の機能を評価するための方法および装置に関する。本発明は、とりわけ、緑内障および眼球の視野に影響を及ぼすその他の視覚障害の診断、アルツハイマー病、および、眼球運動機能または神経連絡、あるいは視覚探索および視覚的意思決定を担う様々な脳の領域の機能に影響を及ぼす他の様々な脳障害、ヒトの疲労状態、覚醒状態および敏捷性の評価、ならびに、動力駆動の乗り物を駆動したり機械を操作したりするための視覚的適応度の評価に有用である。また本発明は、視覚探索能力、視覚的意思決定、衝動性眼球運動および眼球の円滑追跡を評価および実行するためにも用いられ得る。
【0018】
本発明の目的は、上述のデメリットを実質的に減少させるか、または取り除くことである。具体的には、本発明によって、眼球の網膜の視軸または中心窩が、所定の時点である固視像(fixation object)(FO)に向けられているか、またはそこに固定されていることを、確実に知ることができる。この情報を用いて、ヒトの視野の中心であるこの場所に対する周辺視野の正確な場所に刺激を与えることができる。
【0019】
本発明の趣旨は、固視像(FO)の正確な識別により、ヒト自身が、ヒトの眼球がどこに固定されているかを、識別の任意の時点で報告することにある。これは、眼球が固視像(FO)に正確に固定されているとき、すなわち、眼球の網膜の中心窩がその固視像に向けられているときにのみ識別可能な識別像を選択することにより達成される。固視像(FOs)への固視が、異なる(または同一の)固視像の異なる時点の検査を通して報告される場合、例えば、眼球のサッカード、円滑追跡または固視の、外部からの監視は必要ない。したがって、本発明を用いる場合、複雑で費用のかかる使いにくい装置を伴う、外部からの監視のための手段は不必要である。
【0020】
固視像(FOs)への固視時点を用い、また、検査のパラダイムおよび用いられる刺激の特性を定めることにより、ヒトが固視像(FOs)の識別を報告する基礎となる、視覚系および運動反応の機能の、様々な態様についての情報を入手することが可能となる。例えば、視野検査の場合、同様の刺激が視野の異なる場所に呈示されてもよい。固視時点を用いて計算された反応時間が、視野のいくつかの限られた領域においてより長い場合、これはその領域における視力欠損を示し得る。
【0021】
代替的には、固視時点を用いて計算された反応時間を、正常とみなされる反応時間または以前に取得された同一人物の反応時間と比較することである。このようにして、反応時間に対する、脳疾患、疲労またはアルコールもしくは薬物の使用の影響を検知し得る。
【0022】
本発明は、眼球の固視を監視するために、ヒトの眼球の構造および視覚精神物理学を利用する。ヒトの眼球において、窩(または中心窩)という用語は、網膜上のくぼみを示す。中心視は、ヒトの視野に特異な特別な特徴を多く有する。中心視は、視覚の最大の視力を可能にする(図1)。明所(すなわち、薄暗がりでない)において、窩は、視対象と背景との間の光差(光感度の差)を検出する、視野の最も感度の高い領域でもある。また、色覚も中心視において最も感度が高い。
【0023】
本発明において、ヒトが固視する固視像(FO)は、これら中心窩の特徴を用い、また、窩が像に向けられている場合にのみ認識可能であるように構成される。ゆえにFOは、ヒトが識別および報告しなくてはならない、小さい文字、記号またはパターンを含み得る。代替的にFOは、中心視でのみ検知可能なように、非常にぼんやりしているか、非常に薄い色合いを有していてもよい。FOの識別後、ヒトは、例えば正しいボタンを押してこれを報告する。この時点で、FOの正しい識別後、眼球の向きが正確に把握され、窩はFOを固視している。
【0024】
この時点は、視野の正確に把握された周辺の場所に、さらなる単一の刺激または複数の刺激を与える可能性をもたらす。ヒトがこの新しい周辺刺激を検知できる場合、ヒトは、本発明によれば、視線を変えるためまたは固視像FOから窩を向け直すために素早い眼球移動を行い、この周辺のサッカード誘発刺激(STS)に対するサッカードを行うことができる。代替的には、いわゆるアンチサッカードタスクパラダイムが用いられてもよく、すなわち、ヒトはSTSの反対方向にサッカードを行うように命令される。第1固視像(FO1)と同一のデザイン特性を有し、ゆえに中心視によってのみ認識可能な第2固視像(FO2)は、FO1または視野の原点に対するSTSの対称位置に設けられ得る。
【0025】
正しいボタンを押すことによってFOの識別を正確に報告したヒトは、注視方向を変えるおそれがあるので、眼球の窩は、ボタンが押された時点ではもはやFOに向けられていない。これは、ヒトの反応の正確性についての可視フィードバックをもたらすフィードバック刺激(FBS)により、同一の場所にあるFOを置き換えることによって防がれ得る。ヒトは、ボタンを押すことによって正しい反応が得られるかどうかを知りたがるので、FBSにじっと固視したままである。サッカード誘発刺激STSを正確に把握された周辺の場所にもたらすために、FO/FBSへの眼球の固視は、このようにして確認される。
【0026】
周辺STSは、従来の視野検査装置において用いられる、例えば標準刺激を模倣するように構成されてもよい。ゆえにその大きさ、形状、継続時間および輝度は、視野検査に関する規格(ISO12866:視野計に関する国際規格)に従うように選択され得る。STSは、FOまたは他のあらゆる文字または像と似るように選択されてもよい。予期しない周辺刺激に対する、正常なヒトのサッカードは、通常、開始するのに約200ミリ秒(ms)かかり、その後振幅に応じて約20〜200ms続く。それゆえ、ヒトがサッカードを実行し、その窩を周辺STSの位置に向け直すまでには、合計で約200ms〜400msかかる。この時間の間、STSは、第1固視像(FO1)と同一のデザイン特性を有し、ゆえに中心視によってのみ認識可能な第2固視像(FO2)によって置き換えられ得る。ヒトがFO2を正しく識別および報告した場合、ヒトが正確なサッカードを無事に行い、その窩をFO1から、次に視野の中心となるFO2へと向け直したと推測できる。FO2の識別の報告直後または報告のときに、FO2という新しい固視像の場所を視野の中心として用い、別の周辺STSを提供して、このシーケンスが繰り返され得る。
【0027】
STSの提供(固視像FO1の識別を正確に報告した時点にほぼ一致する)から、FO2の識別の正確な報告までのシーケンスを行うための、期間、すなわち、反応時間(RT)または確認された視覚探索反応時間(VVS−RT)は、刺激の角度の大きさおよび他の特性が一定に維持される場合、ヒトに対して一定である。しかしながら、視野の1つの場所が視覚障害(低下した感度)を有している場合には、STSの可視性(輝度)は検知の閾値に到達せず、サッカードの開始は機能しない。サッカード誘発刺激は、所定の間隔の後、ヒトがその後いくつかのサッカードを用いて探査しなければならずそれにより正確に識別できる、第2固視像FO2により置き換えられる。ゆえに期間VVT−RTの長期化は、視野のその場所における視覚障害を示す。
【0028】
本発明が視野検査に用いられ、サッカード誘発刺激STSの継続時間が、視野計に関する国際規格(ISO12866)にしたがい100msである場合、STSの強度が非常に低い場合でも視覚系がSTSとFOとの区別を簡単に行えるように、STSが設けられた場所と同じ場所にFO2が設けられる前に、100〜200msの短い間隔を有することが有利である。
【0029】
FO2が提供されるまでの遅延の長さを調節することも、注視方向をFO1の場所からSTSの場所へと変えるための眼球および/または頭部の運動作用に必要な時間を調べるために用いられ得る。ヒトが異常に遅いサッカードを示す場合や、あるいは注視方向を変えるのに困難を伴う場合には、FO1の提供と、その識別の正確な報告との間の期間は、FO2が提供されるまでの遅延の長さが大きくなると短くなる。これについては実施例8でより詳細に説明する。
【0030】
生理的盲点へのサッカード誘発刺激の提供
今日広く用いられている多くの視野計において、ヒトが固定した固視標を安定して固視しているかどうかを確認する1つの方法は、正常な眼球の盲点が存在する視野の場所に、検査刺激を与えることである。眼球の位置合わせが正しい場合、すなわち、眼球が固視標を固視している場合、ヒトは検査刺激を見ることができない。しかしながら、位置合わせが正しくない場合、検査刺激はもはや盲点の領域内に存在しないので、ヒトは閃光を見ることができ、ボタンを押して見たことを報告する。
【0031】
本発明においては、わずかな特有の変更を伴って同一の原理を適用できる。ヒトがFOの識別を報告し、STSを提供したのと同時、または最大で300ms後、盲点のサッカード誘発刺激STSbsが、眼球の盲点がある場所に提供され、その後盲点の妨害固視像FObsdがそこに提供される。眼球の位置合わせが正しくない場合、すなわち、ヒトが先行する固視像FOpを固視していない場合、STSbsはヒトにとって可視な状態となり、ヒトはSTSbsの場所にサッカードを行い、FObsdの識別を報告するように促され、これは、サッカード誘導刺激STSが存在した場所の本物のFOと比べると、誤った報告を引き起こす。
【0032】
妨害および紛らわしい固視像
ヒトの視覚系は、視覚探索を行うのに非常に効率的である。それゆえ本発明による検査を行う場合、ヒトは、同一の場所にあるFOに先行するサッカード誘発刺激STSを検知していなくても、驚くほど短い反応時間でFOを発見および報告する場合がある。通常の場合と同様に、異なる輝度値を用いてSTSの可視性を調べたい場合、先行するSTSを検知していないヒトに対して、FOの発見をより困難にしたい場合がある。これは、本発明によれば、STSの場所のすぐ近くに、視覚探索妨害固視像(FOvss)を挿入することによって行われ得る。FOvssはFOに似ており、注意深く観察することにより区別可能であるので、最初にSTSを検知することなく多くのFOvssからFOのみを視覚探索によって見つけることは困難となり、これは、STSの検知を用いてFOが見つけられている状況と比べて、FOの正しい識別の報告のための反応時間をより長くする。
【0033】
STSが設けられた場所にある正しいFOの発見をより困難にするための別の手段は、ヒトがSTSを検知できず視覚探索により発見した場合に、ヒトに、FOに対するサッカードを招く、本物の固視像FOの正しくない識別を報告させる紛らわしいパターン(FOm)を有する、1つまたはいくつかの固視像を提供することである。
【0034】
サッカード誘発刺激の明度の調節
視野の所定の場所の感度は、周辺視野の特定の場所に向けてこのシーケンスを繰り返し、異なる輝度値を有するサッカード誘発刺激(STSs)を提供することによって測定され得る。STSの輝度値が減少し、特定の視野の場所の検知の閾値に近づいている場合、刺激の検知のための期間は、閾値を明らかに上回る輝度値を有する刺激に比べて長くなる。STSの輝度が所定の視野の場所の閾値を下回る場合、STSはヒトには見えず、固視像(FO)の場所に関する事前の手がかりがない。これはFOの発見および識別のための反応時間を増やし、特定された輝度のSTSの検知のための閾値を示す。
【0035】
固視像の明度の調節
窩のコントラスト感度は、FOパターンの明度を弱めることによって測定され得る。FOパターンの可視性に関する閾値は、識別FOの正しい報告のための反応時間が増えたときに検知され得る。
【0036】
個人間での変動
STSの提供から、例えば正しいボタンを押すことによる、FO2の識別の正確な報告までの期間(確認された視覚探索反応時間VVS−RT)は、視覚系および脳の様々な領域によって制御され、個人差があるいくつかの段階へと分割され得る。
(1)視野の特定の場所におけるSTSの検知のための期間は、その特定のSTSに対する対応する網膜の場所の感度(例えば、大きさ、継続時間、波長成分による)、および、周辺輝度に対する網膜の適応状態に依存する。時間積分およびプルフリッヒ効果の影響は、上述されている。STSが網膜の閾値よりも明るい場合、神経刺激は神経路を通って脳の視覚領域に伝わる。この期間は、上述のパラメータが一定に維持されている場合、個人間の差はあまりない。
(2)眼球がFOを固視している場合の、周辺STSに対するサッカードの開始および実行のための期間は、脳幹および小脳で制御され、個人間の差はほとんどない。
(3)補正サッカードを作り出すための期間:10度を超える振幅で周辺刺激に行われるサッカードは、しばしば、標的の約10%手前まで到達し、短い待ち時間(約150ms)の後、窩を標的に正確に位置付けるための補正サッカードが続くが、本発明においてこれはFO2によって置き換えられ得る。10度を下回る振幅での周辺刺激への小さなサッカードは、しばしば標的を通り過ぎるので、窩を標的に正確に位置付けるために補正サッカードを必要とする。この、補正サッカードを作り出すための眼球運動機能も、脳幹および小脳で制御される。この期間も、この機能を担う神経領域および神経連絡が欠損していない限り、個人間の差はほとんどない。
(4)FO2の識別のための期間は、FO2の複雑性に依存する。FO2が視覚的に非常に単純(例えば、はっきりとした矢印)である場合には、この期間は短い場合もあり、皮質プロセス(cortical processing)をあまり伴わない。FO2が複雑なパターンを有する場合、パターンが認識される前に、いくつかの小さなサッカード、および、皮質プロセスのためのその間の短い固視やより長い固視時間が必要とされる。認識のために異なるパターンの視覚的記憶を利用するために、脳の腹側視覚路への神経連絡が必要とされる。小さな補正サッカードの制御は、より高い位置の大脳皮質の寄与も必要とする。FOに関するこの種のパターンの一例は、書かれた語または句である。この期間は、ヒトの疲労状態、覚醒状態、敏捷性または様々な脳障害により影響され得る。
(5)識別を報告するためのあらゆる運動作用が開始される前の、FO2の識別を報告するときの意思決定のための期間である。この期間はタスクの困難性に依存し、個人間で相当な差を有する場合もあり得る。
(6)例えば指を用いて正しいボタンを押すことによって、適切な運動機能を開始および実行するための期間である。この期間は個人間で大いに差がある。
【0037】
個人間の変動を最小限にし、(1)〜(3)の期間に関するより正確な測定を得るために、本発明によれば、以前の固視像FOと同じ場所に別の固視像FFOをさらに提供することによって期間4〜6の長さを測定し、FFOおよびFOの識別の正確な報告の間の期間を測定することが有利である。FOおよびFFOには、非常に単純な視覚的刺激を用いることが有利である。この期間を反応時間VVS−RTから差し引くと、個人間での期間の変動が減少されるので、対応する、正常なヒトの期間とより正確に比較することが可能となる。
【0038】
ヒトの眼球運動機能に欠陥がある場合(例えば、左側ではサッカードが正常よりも遅く、右側ではサッカードが正常である、実施例7および図9を参照)、VVS−RTは、ヒトの視野が正常かつ対称であったとしても、眼球固視の右側に表示されるSTSに比べて、左側に表示されるSTSに関してより長い。VVS−RTの延長が、眼球運動の欠陥によるものなのか、視野の欠陥によるものなのかを区別するために、ヒトが急速眼球運動を行うと同時に、ヒトに対して、STSを検知するとすぐに手を使ってそのSTSの場所を指してもらうことが有利である。STSに対する手の動作の開始は、例えば手の速度を測定するセンサによって監視され得る。このセンサは、ヒトの応答ボタンの一体部分であってもよい。
【0039】
背景輝度
サッカード誘発刺激STSを検知するための網膜の感度は、検査が行われる部屋の周辺光に対する、網膜の適応状態による。ヒトの眼球では、この網膜の感度は、刺激の輝度の弁別閾値ΔIは、背景輝度の強度Iに比例する(ΔI/I=一定)という、ウェーバーの法則にしたがう。ゆえに、所定の背景輝度における視野場所の感度が既知である場合、装置に取り付けられた単一または複数の適切なセンサにより刺激が表示される背景の周辺輝度を測定することによって、異なる背景輝度に関する閾値輝度を計算することができる。単一または複数のディスプレイの異なる領域において測定および計算された周辺輝度は、STSおよびFO刺激の輝度をそれにしたがい調節することによって補われ得る。
【0040】
円滑追跡
円滑追跡眼球運動により、眼球は移動物体をしっかりと追従することができるので、この運動は移動標的の窩上への投射を安定させ、眼球と標的との間の速度誤差を補正する。これはヒトが自発的に注視方向を変えることができる方法の1つであって、もう一方は衝動性の眼球運動である。円滑追跡眼球運動は、移動する視覚刺激である、円滑追跡誘発刺激(SPTS)を要する。追跡は、窩がSPTSに向けられていない場合を検知し、眼球の照準を補正するために補正のためのサッカードを開始する、継続的な視覚フィードバックによって修正される。脳の眼球運動系は、SPTSの網膜スリップ(retinal slip)を補うために、眼球の円滑追跡の角速度を調節して、移動刺激SPTSの速度に合わせる。眼球が正確にSPTSを追跡している場合、これは本発明にしたがって、眼球がFOに正確に固定されているときにのみヒトが識別可能な、固視像(FO)によって置き換えられ、ヒトは固視像FOを迅速に識別でき、また、例えば正しいボタンを押すことによって、その識別を報告できる。しかしながら、眼球がSPTSに正確に向けられていない場合、ヒトは迅速にFOを認識することができず、正しい識別のために窩をFOに正確に向けるように、最初に補正のための単一または複数のサッカードを作り出さなければならないか、または円滑追跡の速度を調節する。ゆえに、FOの提供からFOの識別の正確な報告までの期間は、眼球の円滑追跡が正確でない場合に増加する。
【0041】
記憶誘導性サッカード
周辺視覚刺激(例えば、サッカード誘発刺激STS)により誘発されるサッカードである、視覚誘導性サッカードに加えて、ヒトの眼球運動系は、視野の記憶された場所に向かってサッカードを行うことも可能である。視野の中心としてFO2という新しい固視像の場所を用い、後で別の固視像FO3によって置き換えられる別の周辺STSを、STSと同じ場所に設けるシーケンスを用いる本発明は、以下のように記憶誘導性サッカードを行う能力を評価するために用いられ得る。
シーケンスは、3〜6の異なる視野の場所を用いて、所定のリズム(例えば、毎秒新しいサッカード誘発刺激STS)で示される。
シーケンスは数回実行される。
固視像FOの識別は、各ステップでヒトにより報告される。
実行期間の後、同一のシーケンスが同一のリズムで示されるが、この場合はサッカード誘発刺激STSなしで、固視像FOsのみを示す。
ヒトは、記憶によってのみ誘導されるサッカードのシーケンスを行うことにより、FOsを識別する。
サッカードが正確である場合、シーケンスにおいて窩は固視像を正確に固視しており、これはヒトによって、遅延なく識別および報告され得る。
サッカードが不正確であって、窩がFOとは異なる場所を固視している場合、FOの識別前にいくつかの補正サッカードが必要となり、これはFOの報告および識別に遅延をもたらすおそれがある。
【0042】
動力駆動の乗り物における、視覚的なイグニッション・インターロック装置
本発明は、ヒトの疲労状態、覚醒状態または敏捷性や、アルコールまたは薬物の使用により、ヒトが動力駆動の乗り物の運転に適さないと評価された場合に、モータ駆動の乗り物に設置される視覚的なイグニッション・インターロック装置としても用いられ得る。本発明を利用した視覚探索および視覚的な意思決定工程の実行における性能が、正常値を下回るか、より早い時点で取得されているヒト自身の値を下回る場合、自動車は起動できないか、装置がその事象を記録し、運転者に警告し、警報を発する。
【0043】
チームゲームにおける個々の選手の視覚的注意の分析
本発明は、スポーツに関する用途、例えばサッカーやアイスホッケーなどのチームゲームにおいても用いられ得る。優秀な選手は、他のチームメンバーを観察し、どのチームメンバーが、競技場の、ボールまたはパックをパスするのに良い戦略的な場所に位置しているかを評価する能力がある。一方で、初心者の選手は、すぐにボールやパックの処理に集中しすぎるので、競技場およびチームメンバーを充分に観察できない。本発明は、初心者の選手に、他のチームメンバーへ注意を向けるように指導するときに、チームのコーチが用いることができる。本発明に記載されるディスプレイは、選手の頭やホッケースティックに取り付けられ得るので、チームのコーチは、競技場の良好な戦略的場所にいる選手のディスプレイに、サッカード誘発刺激STSを点灯し得る。初心者の選手のタスクは、STSに気づき、固視像FOの識別を報告することであり、これは無線の応答ユニットを用いて、チームメンバーのディスプレイユニットに示される。選手のそれぞれの時点および期間は、本発明により記録される。コーチは後で個々の選手のそれぞれの結果のサマリーを見直すことができ、選手の能力の進歩をたどり、チームメンバーの観察を行う。
【0044】
応答ユニット
本発明の方法を利用する装置の好ましい実施形態において、速度を監視する電子センサ、例えば運動感知装置は、ヒトが手で保持する応答ユニットに設置される。
【0045】
頭部の動きの監視
いくつかの場合、特に子どもを検査する場合に、ヒトはボタンを押すことによってFOの識別やSTSの検知を報告できない。このような場合、頭部に取り付けられた動作または速度センサを用いてヒトの頭部の動きを監視することが好ましい。センサは、ヒトがSTSを検知し、STSに眼球および頭部を向けようとするときに、頭部の動きを検知できる。
【0046】
装置
装置の傾斜角度を測定するための単一または複数のセンサも、装置内、例えば、刺激を示すために用いられるディスプレイセット内に設置されることが好ましい。また、ヒトの眼球までの距離を監視するためのシステムも含まれることが好ましい。装置の好ましい実施形態において、距離の監視は、電子的な距離センサや近接センサの使用、鏡により作り出される二重像に基づく光学距離計の使用、またはヒトから一定の距離で装置を保持するネックストラップによるさらに単純な方法によって、視覚系の機能を評価するヒトにより行われ得る。
【0047】
眼球の円滑追跡の精度を評価する場合、円滑追跡誘発刺激SPTSが、ディスプレイユニットの1つ、例えばユニット1に提供され得る。装置またはディスプレイユニットは、手動または自動で、所望の速度で移動される。不規則な間隔で円滑追跡誘発刺激SPTSは、同一のディスプレイユニットでFOによって置き換えられる。ヒトが移動するSPTSを正確に追跡している場合、ヒトはFOを迅速に識別し、ボタンを押すことによってその識別を報告できる。
【0048】
定義
本開示において、「視覚系」という用語は、生物が視覚的詳細を処理することを可能にし、また、いくつかの非画像形成光感知機能も可能にする、中枢神経系の部分をいう。これは可視光から情報を読み取って、周りの世界の描写を作り出す。視覚系は、光の受容および単眼表示の形成、一組の二次元投影からの両眼知覚の構成、視対象の識別および分類、対象までの距離および対象間の距離の評価、ならびに、視対象に対する身体の動きの誘導を含む、多数の複雑なタスクを達成する。視覚系は、眼球、特に、網膜、視神経、視束交差、視索、外側膝状体、視放線、視覚野および視覚連合野から構成される。
【0049】
「ヒトの眼球のサッカードまたは円滑追跡のアクティブな監視を含まない」という表現および同等の表現は、本願のコンテクストにおいては、眼球を監視する直接的な手段を伴わないということを意味する。信頼性の低い手段としては、検者が光学的テレスコープを用いて眼球を視覚的に監視することや、眼球から反射し、ビデオカメラまたは他のいくつかの特別に設計された光学センサ(ビデオ眼球運動記録法)あるいは標準的なビデオカメラにより感知される、通常赤外線の光により眼球運動を測定することにより眼球を視覚的に監視することが含まれる。別の、信頼性の低い眼球監視手段としては、例えば内蔵の鏡または磁場センサ(サーチコイル)を備える特殊なコンタクトレンズなどの装着品を眼球に用いることや、眼球の周りに配置された電極を用いて眼球から生じる電位を測定すること(電気眼球図記録法)である。それよりも、あらゆるFOに対する眼球の向きは、ヒトの眼底の中心窩の、独自の精神物理学的特性を生かして、ヒト自身によって確認される。眼球がこのようなFOを固視するときに、ヒトにあらゆるFOの識別を即時に報告させることにより、識別の特定の時点での眼球の固視が確認され得る。
【0050】
本開示において「ヒト」という用語は、視覚系の機能が評価または実行される個人のことをいう。同様に、「眼球」、「視野」、「眼球運動機能」、「サッカード」、および「円滑追跡」もヒトに関する。
【0051】
「窩」という用語は、眼球の網膜の、最も視力が高い領域をいう。
【0052】
「固視像」という用語は、眼球の視線(視軸)または網膜の中心窩が向けられるか、固定されている、可視標的をいい、通常、小さな文字、記号またはパターンからなる。
【0053】
「視野」という用語は、ヒトの眼球の網膜に影響を与える、外界の物理的対象および光源をいう。「標準視野座標系」という用語は、視野の中の場所を指定するための基準系をいい、これは視野検査の分野において広く用いられ、また視野計に関する国際規格(ISO12866)でも言及されている。この系において眼球の瞳孔は、球座標系の原点に位置付けられる。任意の視野地点の場所は、検査刺激の中心の半子午線(half-meridian)θおよび偏心度Φによって特定され、どちらも度(θ、Φ)で表される。0度の半子午線は、(患者から見て)患者の右側に定められる。特定された半子午線はその後、(患者から見て)固視刺激の周りを360度反時計回りに進む。固定点の偏心度は0°と定められる。
【0054】
「子午線」という用語は、原点を通って視野座標系の一本の直線を構成する、2つの半子午線をいう。視野座標系におけるその方向は、半子午線のいずれかによって特定される。
【0055】
「盲点」または「生理的盲点」という用語は、視野の、視神経が通る網膜の視神経円板上の光を検出する光受容細胞の欠乏に対応する領域のことをいう。視神経円板上の光を検出する細胞がないので、視野の一部は気づかれない。盲点は約12〜15°側頭側、および水平線の1.5°下に位置し、高さはおよそ7.5°で幅はおよそ5.5°である。
【0056】
「コントラスト」という用語は、像(または画像またはディスプレイにおける像の表示)を区別可能にする、像の前景および背景の輝度および/または色の差異をいう。
【0057】
「コントラスト感度」という用語は、コントラストを検知する視覚系の能力の測定基準である。
【0058】
「サッカード」という用語は、1つの固視像から、眼球の視野内のどこかに位置する標的への、眼球の素早い動きであって、これは眼球と標的との間の位置の誤差を補正するためのものである。
【0059】
「サッカード誘発刺激、STS」という用語は、視野内の可視標的をいい、これは固視像FOからSTSへと窩または視線を向け直すサッカードを生じさせる。アンチサッカードパラダイムが用いられる場合、サッカードの標的は、FOまたは視野の原点に対する、STSの対称位置にある。
【0060】
「円滑追跡」という用語は、移動標的の窩上への投射を安定させ、眼球と標的との間のあらゆる速度誤差を補正する、低速な眼球移動をいう。
【0061】
「フィードバック刺激、FBS」という用語は、固視像FOと同じ場所に表示される文字、記号またはパターンをいう。これは固視像FOの、報告された識別の正しさに関する可視フィードバックを提供する。
【0062】
「別の固視像、FFO」という用語は、FFOに先行する固視像と同じ場所に設けられる固視像をいう。
【0063】
「割り込み固視像、IFS」という用語は、次のFFOが表示される前に、先行する固視像FOまたはFFOと同じ場所に表示される文字、記号またはパターンをいう。これは、先行する固視像FOまたはFFOの、報告された識別の正しさに関するフィードバックを提供するために、フィードバック刺激FBSとして機能し得る。
【0064】
「確認された視覚探索反応時間、VVS−RT」という用語は、STSの提供から、STSと同じ場所に設けられる第2固視像FO2の識別の正しい報告までのシーケンスを行うための期間をいう。
【0065】
本発明の好ましい実施形態
本発明の方法の、多くの好ましい実施形態は、
g)片眼または両眼が別の固視像FFOiに正確に固定されている場合、すなわち、FFOiがヒトの片眼または両眼の窩に位置する場合にのみヒトが識別可能な、別の固視像FFOiを、好ましくは提供される連続した別の固視像FFOの間に、同じ場所に短い割り込み固視刺激IFSを用いて、直前の別の固視像FFOpの場所と同じ場所に提供することと、
h)ヒトに、FFOiの識別と呼ばれる、FFOiを識別することを行わせることと、
i)ヒトに、FFOiの報告を行わせることと、
j)報告されたFFOiの識別の正確さと、FFOiの提供時点およびFFOiの識別の報告時点とを記録することと、
k)FFOiの提供とFFOiの識別の報告との間の期間を計算することとをさらに含み、
該期間は、請求項1のステップf)で計算された期間から差し引かれて、
STSの提供と、FOへのヒトの片眼または両眼の正確な固定との間の期間、および/または、
SPTSが用いられる場合、FOの提供と、FOへのヒトの片眼または両眼の正確な固定との間の期間
を評価し、この期間を、そのヒトに対応した人々にとって正常とみなされる期間と、またはそのヒトにとって以前は正常とみなされていた期間と比較することを可能にする。
【0066】
本発明の方法の、多くの好ましい実施形態において、ヒトによる固視像FOの識別の報告の正確さに関する可視フィードバックを提供する、フィードバック刺激FBSが、ヒトがFOの識別を報告した直後、すなわち、100ms以内、好ましくは30ms、より好ましくは10msおよび最も好ましくは3ms以内に、FOが報告された場所に提供される。
【0067】
本発明の方法のいくつかの好ましい実施形態は、以下の連続的なステップ
i)片眼または両眼が第1固視像FOiに正確に固定されている場合、すなわち、FOiが患者の片眼または両眼の窩に位置する場合にのみヒトが識別可能な第1固視像FOiに、ヒトの片眼または両眼を固視させるステップと、
ii)第1識別と呼ばれる、FOiの識別をヒトに行わせるステップと、
iii)ヒトにその第1識別を報告させるステップと、
iv)ヒトの、FO1に正確に固定された片眼または両眼の視野内の、患者の視野のFO1とは異なる場所に、第1サッカード誘発刺激STS1を提供するステップと、
v)サッカード誘発刺激STS1に応じて、片眼または両眼の第1サッカードと呼ばれるサッカードを、ヒトの片眼または両眼に実行させるステップと、
vi)第1サッカード中またはその直後に、第2固視像FO2をSTS1の場所に提供するステップと
を含む多数のサイクルを備え、
サイクルのそれぞれに関してステップi)〜vi)を繰り返すことを含み、繰り返される各サイクルにおいてFO1は前のサイクルのFO2であり、
方法において識別は報告され、さらに、STS1の提供時点、FO2の提供時点および各サイクルの報告時間が記録され、STS1またはFO2の提供と、FO2の識別の報告との間の期間が計算され、
誤った報告がなされること、または識別がないこと、および/または、
そのヒトに対応した人々にとって正常とみなされる遅延と比較して、ヒトの片眼または両眼の視野の他の場所に関する遅延と比較して、またはヒトのより早い時期に取得された遅延と比較して、正確に報告される識別において遅延が延長していることが、
ヒトの片眼または両眼の視野の特定の場所にあるSTSを検知する、ヒトの片眼または両眼の能力、
サッカード誘発刺激STSによって誘発されるサッカードを実行することにより、標的を正確に捉える、ヒトの片眼または両眼の能力、
ヒトの、FOを識別する能力、および/または
ヒトの視覚系の機能
が異常であるか、および/または悪化したことを示すマーカーとなる。
【0068】
通常、第2固視像FO2は、第1サッカード誘発刺激STS1の終了後、好ましくは50〜1000msの遅延を経て提供される。
【0069】
通常、第1サッカード誘発刺激STS1の終了後、第2固視像FO2を提供するときの遅延は、サイクル間で、好ましくは50〜1000ms異なる。このような実施形態においてサッカードおよび固視の継続時間は、第1サッカード誘発刺激STS1の終了後、第2固視像FO2の提供までの遅延を最小限に定めることにより得られ、これにより、ヒトの片眼または両眼の視野の所定の場所で所定の強度および継続時間を用いた、STS1の提供時に、FO2の提供とこのFO2の識別の正確な報告との間の計算される期間が最短となる。
【0070】
多くの好ましい実施形態において、サッカード誘発刺激STSsの強度はサイクル間で異なり、視野のどの場所においてもヒトの片眼または両眼には見えない、好ましくはゼロの強度と、ヒトが、STSの強度とは無関係にサッカード誘発刺激STSに反応するのに充分に高い強度との間で異なる。
【0071】
いくつかの好ましい実施形態において、固視像FOを識別したときに誤った識別を報告すると、サッカード誘発刺激STSを異なる物理的位置に提供する前に、誤って識別された固視像FOeiと同じ物理的位置に、好ましくは新しいサッカード誘発刺激STSnに続いて、新しい固視像FOnを提供することを引き起こす。
【0072】
いくつかの好ましい実施形態においては、ヒトの片眼または両眼のサッカードの実行を誘発することを意図されるサッカード誘発刺激とともに、生理的盲点サッカード誘発刺激STSbsが、先行するFOpの識別の報告と実質的に同時、好ましくは0〜300ms後に提供され、このSTSbsは、片眼または両眼が先行する固視像FOpに固定されているときにヒトの片眼または両眼の視野の盲点がある場所に提供される。このような実施形態において盲点の妨害固視像FObsdは、通常、盲点のサッカード誘発刺激STSbsの場所に提供される。
【0073】
多くの好ましい実施形態において、1つまたは2つ以上の視覚探索妨害固視像FOvsおよび/または紛らわしい固視像FOmは、サッカード誘発刺激STSの場所の固視像FOと実質的に同時、好ましくは500msよりも早くなく、また1000msよりも遅くない時点で、ヒトの片眼または両眼の視野の選択された場所に提供され、FOvssはSTSの場所に提供されるFOとは区別できる。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明の方法は、ヒトの片眼および/または両眼の円滑追跡の精度を評価することを含んでおり、この円滑追跡は、
i)SPTSに応じて、ヒトの片眼または両眼に円滑追跡させること、
ii)片眼または両眼がFOに正確に固定されている場合、すなわち、FOがヒトの片眼または両眼の窩に位置する場合にのみヒトが識別可能な固視像FOを、円滑追跡の間ヒトの片眼または両眼が固定されると予測される場所に提供することであって、FOは、SPTSと同じ角速度および方向に移動している、提供すること、
iii)FOの識別と呼ばれる、FOを識別することをヒトに行わせること、
iv)ヒトにFOの識別を報告させること、
v)報告されたFOの識別の正確性、ならびに
FOの提供時点、および
FOの識別の報告時点
を記録すること、
vi)FOの提供と、FOの識別の報告との間の期間を計算すること
によって、円滑追跡誘発刺激SPTSによって誘発されており、
誤った報告がなされること、または識別がないこと、および/または、
このヒトに対応した人々またはこのヒトにとって正常とみなされる遅延と比較して、正確な識別の報告における遅延が延長していることが、
ヒトの片眼または両眼の円滑追跡の精度が異常であるか、および/または悪化したことを示すマーカーとなる。
【0075】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の方法は、サッカード誘発刺激STSsが用いられる場合、ヒトの片眼または両眼のサッカードのアクティブな監視を含まず、および/または、円滑追跡誘発刺激SPTSsが用いられる場合、ヒトの片眼または両眼の円滑追跡のアクティブな監視を含まない。
【0076】
本発明による使用の好ましい実施形態は、原点が視野の中心となる標準的な視野座標系において、好ましくは装置の異なる傾斜角度のために、データ処理ユニットのソフトウェアが、提供されるサッカード誘発刺激STSsの場所の記録用でもある使用を含む。
【0077】
本発明のシステムのいくつかの好ましい実施形態は、多数のディスプレイ、好ましくは3〜100のディスプレイ、より好ましくは4〜30のディスプレイ、さらに好ましくは20〜30のディスプレイ、最も好ましくは24のディスプレイを備えるディスプレイセットを備える。通常、ディスプレイが小さいほどより多くのディスプレイが用いられる。また、通常、ディスプレイが大きいほどより少ないディスプレイが用いられる。小型のシステムが好ましい場合、通常セットになっている多数の小型のディスプレイが用いられる。小型のシステムにおいて、通常1つのディスプレイが多数のディスプレイを備えるディスプレイは、非常に小型であって、その大きさは好ましくは0.2インチ〜5インチ、より好ましくは0.5インチ〜2インチ、最も好ましくは約1インチである。
【0078】
システムのいくつかの好ましい実施形態は、単一のディスプレイ、複数のディスプレイまたはディスプレイセットを備え、単一または複数のディスプレイの大きさは、12インチ〜168インチ、好ましくは20インチ〜112インチ、より好ましくは32インチ〜84インチ、最も好ましくは40インチ〜55インチである。
【0079】
通常単一または複数のディスプレイは、それぞれが、少なくとも1つのサッカード誘発刺激STSおよび固視像FOを表示することができ、好ましくは、円滑追跡誘発刺激SPTS、別の固視像FFOおよびフィードバック刺激FBSも表示することができる。いくつかの実施形態において、複数のディスプレイは、ディスプレイセットの長手軸に平行な列上にある。好ましい実施形態のいくつかにおいて、複数のディスプレイ平行列に配置されるので、ディスプレイユニットは、ヒトの眼球を評価するときに用いられることを意図される場合、その評価されるべき眼球から離れて配置され、また眼球に向き、ディスプレイユニットの固定される眼球の光軸に対して垂直になると、眼球の光軸とは異なる偏心角度となり、ディスプレイユニットに固定されると、意図された評価に適用可能となる。通常、異なるディスプレイユニットは、ディスプレイセットの一端にある最も離れたディスプレイユニットに対して、0度、5度、15度、25度、35度、75度および90度の偏心角度にあり、好ましくは、一端にある最も離れたディスプレイユニットに対して23度の偏心角度にある付加的なディスプレイユニットが含まれる。ディスプレイユニットに関する別の典型的な偏心角度のセットは、0度、10度、15度、40度、70度および90度である。
【0080】
多くの好ましい実施形態において、単一または複数のディスプレイは、ディスプレイユニットが、ヒトの片眼または両眼を評価するときに用いられることを意図される場合、その評価されるべき片眼または両眼から離れて配置され、ディスプレイユニットが、このディスプレイユニットに固定される片眼または両眼に向く場合、片眼または両眼の視軸の異なる偏心角度に、サッカード誘発刺激STSsおよび/または固視像FOsを表示することができ、単一または複数のディスプレイのFOsのいずれかに固定されると、意図された評価に適用可能となるように配置される。
【0081】
本発明のシステムの、多くの好ましい実施形態において、単一のディスプレイ、複数のディスプレイまたはディスプレイセットは、単一のディスプレイ、複数のディスプレイまたはディスプレイセットが評価されるべき片眼および/または両眼の光軸に垂直であること、および/または、単一のディスプレイ、複数のディスプレイまたはディスプレイセットの長手軸が直立位置から左側または右側に逸脱している角度の確認を可能にする、単一の位置センサまたは複数のセンサを備える。
【0082】
システムのいくつかの好ましい実施形態は、上述のものと同様であるが、視野全体を覆うために二次元に配置されているディスプレイを備え、この場合、ディスプレイの数は多く、好ましくは50よりも多い。代替的には、システムは、最低でも一次元または二次元で多くの異なる物理的位置にSTSおよびFOを表示することが可能な、1つまたは2つ以上の大きなディスプレイから構成されてもよい。
【0083】
システムのいくつかの好ましい実施形態は、単一のディスプレイ、複数のディスプレイまたはディスプレイセットと、ヒトの片眼または両眼との間の距離を監視するための、少なくとも1つ、好ましくは2つまたは3つ以上のセンサを備える。
【0084】
本発明のシステムの多くの好ましい実施形態においては、測定が行われている部屋の周辺輝度を監視するための、少なくとも1つ、好ましくは2つまたは3つ以上のセンサがシステムに含まれ、好ましくはシステムの単一のディスプレイ、複数のディスプレイまたはディスプレイセットに含まれる。
【0085】
システムの好ましい実施形態は、STSおよび/またはFOの明度を調節するための手段を備える。
【0086】
システムの好ましい実施形態は、ヒトの頭部に取り付けられる単一または複数のセンサを備え、この単一または複数のセンサは、ヒトの視野にサッカード誘発刺激を表示するときに、頭部の回転の速度、タイミングおよび/または角度を検知できる。
【0087】
システムの好ましい実施形態は、サッカード誘発刺激STSsが用いられる場合、ヒトの片眼または両眼のサッカードのアクティブな監視を含まず、および/または、円滑追跡誘発刺激SPTSsが用いられる場合、ヒトの片眼または両眼の円滑追跡のアクティブな監視を含まない。
【0088】
本発明のソフトウェア製品の好ましい実施形態はさらに、ヒトの片眼または両眼の標準的な視野座標系に提供されるサッカード誘発刺激STSsの場所を記録するための手段を備える。
【0089】
本発明の好ましいソフトウェア製品は、サッカード誘発刺激STSsおよび/または固視像FOsの各強度に関して、ソフトウェア製品を用いてもたらされた結果の許容誤差を定める手段を備える。
【0090】
実施例
以下の実験セクションは、実施例によって本発明を説明する。
【0091】
実施例1
装置
本発明の方法を利用する装置の好ましい実施形態は、中心視によってのみ検知可能なように構成される固視像FO、および、評価または実行されている視覚系の機能のニーズに応じて構成されるサッカード誘発刺激または円滑追跡誘発刺激(STSまたはSPTS)の両方を提供することが可能な、ディスプレイユニットから構成される。好ましい実施形態においては、いくつかのディスプレイユニットが用いられ得る(図2)。これらはヒトの眼球に対して、様々な角距離に位置付けられ得る。図2では、連続的な角距離、10度、5度、25度、30度および20度が用いられている。本発明によれば、眼球はディスプレイユニット1〜6の間で衝動性眼球運動を行う。表1は、6つのディスプレイユニットの間で眼球が行う可能性のある、全てのサッカードの可能性をまとめる。表2では、可能性のある全ての角距離が順番に並べられている。
【0092】
図2は、本発明による検査のシーケンスを示す。t0の時点で、固視像FOがディスプレイユニット4に提供される。ヒトがt1の時点でFOを正確に識別および報告すると、ディスプレイユニット4から25度の位置に位置付けられているディスプレイユニット3に、サッカード誘発刺激STSが提供される。t2の時点で、第2固視像FO2がディスプレイユニット3に提供される。t3の時点で、ヒトがFO2を正確に識別および報告すると、ディスプレイユニット3から25度の位置に位置付けられているディスプレイ5に、サッカード誘発刺激STSが提供される。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
実施例2
視野の評価
ヒトの眼球の視野の評価は、例えば以下のように(図3参照)実行され得る。
【0096】
図3に示されるシーケンスは、サッカード誘発刺激STS1の提供で開始し、FO2の識別の正確な報告で終了する。この図では、ディスプレイ3および4(図2参照)のみが見えている。また、ヒトの反応が示されており、ディスプレイユニットに向かう手の動作は、手の動きのセンサによって記録され、ヒトが押したボタンの選択は、固視像FOの識別を報告する。
【0097】
固視像FO1は、t0の時点でディスプレイユニット4に提供される。ヒトがそれを識別し(左向きの矢印)、t1の時点で正しいボタン(左のボタン)を押すことによって報告すると、固視像FO1は消去され、ディスプレイユニット4から25度離れて位置付けられているディスプレイユニット3に、サッカード誘発刺激STS1が提供される。標準的な視野検査が行われている場合、STSの大きさ、形状、継続時間および輝度は、視野検査に関する規格(ISO12866:視野計に関する国際規格)に従うように選択され得る。このような場合、STSの継続時間は100msであって、その後これはt4の時点で消去され、100〜200msの短い遅延間隔が用いられた後に、t5の時点で同じディスプレイユニット3に第2固視像FO2が提供される。ヒトがそれを識別し(右向きの矢印)、t8の時点で正しいボタン(右のボタン)を押すことによって報告すると、固視像FO2は消去され、サッカード誘発刺激STS2が再びディスプレイユニット4に提供される。このサイクルは、必要とされる視野の場所全てに関する時点を収集するために、必要に応じて異なるディスプレイユニットを用いて繰り返され、また、例えば特定された視野の場所におけるSTSの検知に関する閾値を測定するために、必要に応じてSTSおよびFOのパラメータを変更して繰り返され得る。図2において装置の向きは垂直であるので、この垂直子午線の視野の場所のみが測定され得る。異なる子午線の視野の場所は、装置の向きを所望の傾斜へと傾けることによって測定され得る。
【0098】
固視像の識別および報告のための期間(図3参照、t8時点とt7時点との間の期間)は、例えば以下のように(図5参照)、眼球移動をまったく用いずに別々に測定され得る。
【0099】
ディスプレイ4にはt0の時点で別の固視像FFOpが提供され、ヒトはt1の時点で正しいボタンを押すことによりこれを正確に識別する。割り込み固視像IFSは、任意にFFOpに取って代わり、任意に、FFOpの識別の報告の正確性に関する可視フィードバックをヒトに与える。t2の時点で別の固視刺激FFOiがIFSに取って代わり、ヒトは、t3の時点で正しいボタンを押すことによってこれを正しく識別する。FFOiの提供(t2)と、FFOiの識別および報告(t3)との間の期間は、図3におけるt8とt7との間の期間(FO2の識別および報告)とほぼ同一の視覚プロセスおよび運動プロセスを示す。STSの提供と、固視像FO2への正確な固定との間の期間(図3参照、t7とt1との間の期間)を推測するためには、図3におけるt8とt1との間の期間(STSの提供と、FO2の識別および報告との間の期間)から、図5におけるt3とt2との間の期間を差し引く。数回の測定の平均が計算され得るように、シーケンスを数回繰り返すことによって、この期間の精度は上げられ得る。
【0100】
実施例3
妨げとなる固視像
図4は、視覚探索妨害固視像(図4では「妨害像」と呼ばれている)の使用を示す。t5の時点で、ディスプレイユニット3に提供されたFO2に加えて、1つまたは複数のディスプレイユニットnに1つまたは多数の任意の妨害像が提供される。ヒトがサッカード誘発刺激STS1を検知し、ディスプレイ3に対してサッカードを行うと、ヒトはFO2を容易に遅延なく見つけ、この識別を報告する。妨害像はFOと似ており、注意深く観察することにより区別可能であるので、最初にSTSを検知することなく、多くの妨害像からFOのみを視覚探索によって見つけることは困難となり、これにより、FOに対するサッカードを誘発するSTSの検知を用いてFOが見つけられた状況と比べて、FOの正しい識別の報告のための反応時間がより長くなる。
【0101】
【表3】
【0102】
実施例4
別の固視像を用いた検査シーケンス
図6は、請求項2に記載の実施形態を示す。図には検査結果が示され、ここでは別の固視像FFOが先行する固視像(ラインナンバー1)と同一のディスプレイユニット(ディスプレイユニット3、ラインナンバー3)に提供されている。2つの固視像の間には、短い、継続時間100msの固視刺激IFS(ラインナンバー2)が割り込む。この場合、FFOの提供と、FFOの識別との間の期間は525msである。この種の刺激呈示は、別の固定像が視軸(窩)に位置付けられていることから、眼球運動をまったく必要としない。この種の検査を概略的なタイムラインで示したものについては図5を、検査のより完全なデータセットについては表3を参照されたい。
【0103】
実施例5
視野の1つの場所の検査シーケンス
図7は、請求項1に記載の実施形態のシーケンスを示す。図には、視野の1つの場所(視野の固定または中心から右側へ25°周囲にずれた場所)の検査例が示されている。眼球がディスプレイユニット3で固視像FOを固視し、ヒトが5451msの時点(ラインナンバー1)でボタンを押すことによりFOの識別を報告する場合、サッカード誘発刺激STS(継続時間100ms)は、ディスプレイユニット3から右に25°のところに位置付けられているディスプレイユニット4に提供される。この刺激は、対応する周辺視野の場所によって検知され、ディスプレイユニット4に対するサッカードを誘発する。6470msの時点(ラインナンバー5)で、ヒトは、200msの遅延後、5751msの時点(ラインナンバー5)で、ディスプレイユニット4に提供される固視像の識別を正しく報告する。STSの提供(ラインナンバー3)、およびボタンを押すことによるFOの識別(ラインナンバー5)の期間は、この場合、1019msである。この種の検査を概略的なタイムラインで示したものについては図3を参照されたい。
【0104】
実施例6
ヒトが欠損した視野の場所を有する場合の検査シーケンス
図8は、ヒトが、視野の固視または中心から左側へ25°のところに、欠損した視野の場所を有する実施形態のシーケンスを示す。固視から右側へ25°の視野の場所へのSTSの提供(ラインナンバー3)から、ボタンを押すことによるFOの識別(ラインナンバー5)までの期間は、STSが固視から左側へ25°のところに提供される場合(ラインナンバー7)の1403msに対して、992msである。この反応時間の延長は、この特定の場所における網膜の感度が低下し、これがSTSに対するサッカードを遅延させていることを示す。
【0105】
実施例7
左側へのサッカード障害
図9は、ヒトが正常な視野を有しているが、左側へのサッカードに障害があり、右側へのサッカードは正常である場合の、本発明の実施形態のシーケンスを示す。ボタンの押圧から測定される反応時間は、視野に提供されるSTSが固視から左側の場合、STSが固視から右側に提供される状況と比べて延長される(1733msに対して951ms)。しかしながら、反応時間が手の動き(ヒトに対するタスクは、手を使って閃光を指し、応答ボタンにより矢印の方向を報告することである)から測定される場合、そこまで差はない(1048msに対して1030ms)。これは、特定された場所において、周辺視野は正常であるが左側へのサッカード障害があることを示す。
【0106】
実施例8
注視方向変更の継続時間の評価
図10および11は、遅延の長さ、すなわち、STS1が提供された場所にFO1が提供される前の、t3の時点とt4の時点との間の期間を調節する利点を示す。
【0107】
図10では、t1の時点で、ヒトが正しいボタンを押すことによりFO1の識別を報告し、それゆえディスプレイユニット4でFO1を固視していることを確かめる。同じくt1の時点で、ディスプレイユニット3には、ディスプレイユニット3の場所に対してサッカードを誘発するSTS1が提供される。この場合、サッカードの実行および補正サッカードは非常に遅いので、t5の時点でFO2の識別の報告を行うためにディスプレイユニット3の場所に注視方向が変えられるよりもずっと前に(t4の時点)、FO2はディスプレイユニット3に提供されている。
【0108】
図11では、図10で用いられたものと同一のディスプレイユニットが用いられ、ゆえに同一のサッカード長さおよび方向が用いられる。STSおよびFO刺激の強度も同じである。この図では、図10における、FO2がt4の時点で提供される前の遅延(「delay1」)に比べて、より長い遅延(「delay2」)が用いられ、これによりFOの提供(t4の時点)と、FOの識別の報告(t5の時点)との間の期間が短くなる。このようにして、t4の時点と、t5の時点との間の期間を長くすることのない、t3の時点と、t4の時点との間の最短期間を見出すことが可能である。図11においてt2とt4との間の期間は、眼球および/または頭部の運動機能が、ヒトの注視方向をFO1の場所(ディスプレイユニット4)からSTSの場所(ディスプレイユニット3)へ変更するために必要な時間に対応する。
【0109】
実施例9
テキストのパラグラフを用いる、視覚系の機能の評価
図12は、テキストのパラグラフを用いて、ヒトの視覚系、特に読字能力の機能を評価する、本発明の実施形態のシーケンスを示す。ヒトに対するタスクは、パラグラフの中心の語、すなわち、2行目の真ん中の語を読み取り、その語が数値(例えば、「1(one)」、「2(two)」、「3(three)」)である場合は「1」と印を付けられたボタンを押し、他の語である場合には「A」と印を付けられたボタンを押すことである。図12において、この、ディスプレイユニット3のテキストパラグラフの中心の語は、「herself」であって、この語は、ヒトが認識し、5694msの時点(ラインナンバー1)で「A」と印を付けられたボタンを押すことによって報告する、固視像FOとして機能する。これと同時にディスプレイユニット4には、周辺サッカード誘発刺激STSとして機能する、別のテキストパラグラフが提供される(ラインナンバー2)。パラグラフの中心の語(「twenty」)に対するサッカードの後、ヒトは、6747msの時点(ラインナンバー2)の時点で「1」と印を付けられたボタンを押すことによってその語の認識を報告し得る。STSの提供およびFO(「twenty」という語)の識別の期間は、ゆえに、6747ms−5694ms=1053msである(ラインナンバー2)。
【0110】
その他の好ましい実施形態
本発明の方法は、多様な実施形態の形態で組み込むことができ、そのいくつかのみが本明細書に開示されていることが理解される。例えば、システムは、刺激が二次元で表示され得るように構築されてもよく、このために測定が、二次元の視野に及んでもよい。さらに、ディスプレイユニットは、例えば検査室内の所望の場所に配置され得るように、互いに接続せずに分離していてもよいので、検者は、例えばヒトの眼球の眼底検査を行うときに、ヒトの注視方向を所望の方向に向けることができる。他の実施形態も存在し、これらは本発明の趣旨を逸脱しないことは、当業者にとっては明らかである。ゆえに、記載される実施形態は例示的なものであって、制限的なものと理解されるべきでない。
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図12