(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固定プーリと、この固定プーリの軸部で回転軸方向に移動可能に設けられたスライドプーリとの間に、ベルトが巻き掛けられるV溝が形成されたプライマリプーリおよびセカンダリプーリと、
前記スライドプーリに付設された油圧室への油圧の供給を制御して前記V溝の溝幅を変更することで、前記プライマリプーリおよびセカンダリプーリにおけるベルトの巻き掛け半径を変更する油圧制御手段と、を備え、
前記油圧制御手段が、最Highの変速比を実現する際に、前記セカンダリプーリのスライドプーリを、当該スライドプーリの受圧面の一部を構成する当接部が前記セカンダリプーリ側の油圧室の壁に当接して前記V溝の溝幅を広げる方向への移動が制限される設計上の最High位置まで移動させたのち、前記設計上の最High位置よりもLow側に設定された制御上の最High位置まで移動させるように構成された無段変速機において、
前記油圧制御手段は、
前記セカンダリプーリを、前記設計上の最High位置から制御上の最High位置まで移動させる際に、
前記スライドプーリ全体の受圧面の受圧面積から前記当接部の受圧面積を除いた受圧面積に作用する油圧により発生する推力が、前記スライドプーリを前記制御上の最High位置で保持するのに必要な必要推力以上となる油圧を、前記セカンダリプーリの油圧室に作用させることを特徴とする無段変速機。
固定プーリと、この固定プーリの軸部で回転軸方向に移動可能に設けられたスライドプーリとの間に、ベルトが巻き掛けられるV溝が形成されたプライマリプーリおよびセカンダリプーリと、
前記スライドプーリに付設された油圧室への油圧の供給を制御して前記V溝の溝幅を変更することで、前記プライマリプーリおよびセカンダリプーリにおけるベルトの巻き掛け半径を変更する油圧制御手段と、を備え、
前記油圧制御手段が、最Highの変速比を実現する際に、前記セカンダリプーリのスライドプーリを、当該スライドプーリの受圧面の一部を構成する当接部が前記セカンダリプーリ側の油圧室の壁に当接して前記V溝の溝幅を広げる方向への移動が制限される設計上の最High位置まで移動させたのち、前記設計上の最High位置よりもLow側に設定された制御上の最High位置まで移動させるように構成された無段変速機において、
前記油圧制御手段は、
前記セカンダリプーリを、前記設計上の最High位置から制御上の最High位置まで移動させる際に、
前記スライドプーリ全体の受圧面の受圧面積から前記当接部の受圧面積を除いた受圧面積に作用する油圧により発生する推力が、前記スライドプーリを前記制御上の最High位置で保持するのに必要な必要推力と同じとなる油圧を、前記セカンダリプーリの油圧室に作用させることを特徴とする無段変速機。
前記制御手段は、前記セカンダリプーリの推力が前記必要推力となったのちに、前記プライマリプーリ側の油圧室に作用する油圧を減少させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無段変速機。
前記制御御手段は、実変速比が制御上の最Highになった時点で、前記セカンダリプーリ側の油圧室に作用させる油圧を、前記必要推力を実現する油圧に変更することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の無段変速機。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、ベルト式無段変速機構4を搭載した車両の駆動系と制御系を示す全体システム図である。
図2は、ベルト式無段変速機構4の要部構成を模式的に示した図であって、プライマリプーリ42の固定プーリ42aとスライドプーリ42bとプライマリ油圧室45の配置と、セカンダリプーリ43の固定プーリ43aとスライドプーリ43bとセカンダリ油圧室46の配置を説明する図である。なお、
図2では、説明の便宜上、プライマリプーリ42の回転軸X1を挟んだ一方側と、セカンダリプーリ43の回転軸X2を挟んだ他方側のみを、それぞれ示している。
【0016】
図1に示すように、ベルト式無段変速機構4を搭載した車両の駆動系は、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、ベルト式無段変速機構4と、終減速機構5と、駆動輪6、6と、を備えている。
【0017】
エンジン1は、ドライバーのアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号によりエンジン回転数や燃料噴射量が制御可能である。このエンジン1には、スロットルバルブ開閉動作や燃料カット動作等により出力トルク制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10が付設されている。
【0018】
トルクコンバータ2は、トルク増大機能を有する流体伝動装置であり、トルク増大機能を必要としないときには、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。
このトルクコンバータ2は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結されたタービンランナ23と、トルクコンバータ出力軸21に連結されたポンプインペラ24と、ワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
【0019】
前後進切替機構3は、ベルト式無段変速機構4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、前進クラッチ31(摩擦要素)と、後退ブレーキ32と、を有する。
ダブルピニオン式遊星歯車30は、サンギヤがトルクコンバータ出力軸21に連結され、キャリアが変速機入力軸40に連結される。前進クラッチ31は、前進走行時に締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のサンギヤとキャリアを直結する。後退ブレーキ32は、後退走行時に締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のリングギヤをケースに固定する。
【0020】
ベルト式無段変速機構4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、これらプライマリプーリ42とセカンダリプーリ43とに巻き掛けられたベルト44と、を有しており、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43におけるベルト44の巻掛け半径を変更することで、変速機入力軸40の入力回転数と変速機出力軸41の出力回転数の比(変速比)を無段階に変化させる無段変速機能を有する。
図2に示すように、プライマリプーリ42は、固定プーリ42aと、この固定プーリ42aの軸部421に、円筒状の軸部422を外挿して設けられたスライドプーリ42bと、から構成されており、固定プーリ42aのシーブ面42cと、スライドプーリ42bのシーブ面42dとの間に、ベルト44が巻き掛けられるV溝が形成されている。
【0021】
スライドプーリ42bは、固定プーリ42aの軸部421で回転軸X1方向に移動可能に設けられており、スライドプーリ42bに付設されたプライマリ油圧室45に油圧(プライマリ圧)が供給されると、外径側の受圧面(シーブ面42dの反対側の面42e)と、内径側の受圧面(軸部422のシーブ面42dとは反対側の端面422a)に油圧による付勢力(推力)が作用して、スライドプーリ42bが、V溝の溝幅を狭める方向(図中、右方向)に移動するようになっている。
【0022】
セカンダリプーリ43は、固定プーリ43aと、この固定プーリ43aの軸部431に、円筒状の軸部432を外挿して設けられたスライドプーリ43bと、から構成されており、固定プーリ43aのシーブ面43cと、スライドプーリ43bのシーブ面43dとの間に、ベルト44が巻き掛けられるV溝が形成されている。
【0023】
スライドプーリ43bは、固定プーリ43aの軸部431で回転軸X2方向に移動可能に設けられており、スライドプーリ43b付設されたセカンダリ油圧室46に油圧(セカンダリ圧)が供給されると、外径側の受圧面(シーブ面43dの反対側の面43e)と、内径側の受圧面(軸部432のシーブ面43dとは反対側の端面432b)に油圧による付勢力(推力)が作用して、スライドプーリ43bが、V溝の溝幅を狭める方向(図中、左方向)に移動するようになっている。
【0024】
ベルト式無段変速機構4では、プライマリ油圧室45とセカンダリ油圧室46に供給する油圧を制御して、スライドプーリ42b、43bを回転軸方向に移動させて、V溝の溝幅を変更することで、プーリ(プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43)におけるベルト44の巻き掛け半径を変更するようになっている。
【0025】
例えば変速比を最Highにするときには、プライマリプーリ42でのV溝の溝幅を最小にしてベルト44の巻き掛け半径を最大にすると共に、セカンダリプーリ43でのV溝の溝幅を最大にしてベルト44の巻き掛け半径を最小にするようになっている。
【0026】
ここで、セカンダリプーリ43では、固定プーリ43aの軸部431におけるスライドプーリ43bの移動可能範囲は、設計的(機械的)に決定されており、例えば、V溝の溝幅を広げる方向へのスライドプーリ43bの移動は、スライドプーリ43bの軸部432の端面432bが、当該スライドプーリ43bに付設されたセカンダリ油圧室46の壁461に当接するまでとされ、V溝の溝幅を狭める方向へのスライドプーリ43bの移動は、スライドプーリ43bの軸部432に設けた段部432aが、固定プーリ43aの軸部431に設けた段部431aに当接するまでとされている。
【0027】
図1に示すように、終減速機構5は、ベルト式無段変速機構4の変速機出力軸41からの変速機出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6、6に伝達する機構である。この終減速機構5は、変速機出力軸41とアイドラ軸50と左右のドライブ軸51、51に介装され、減速機能を持つ第1ギヤ52と、第2ギヤ53と、第3ギヤ54と、第4ギヤ55と、差動機能を持つディファレンシャルギヤ56を有する。
【0028】
ベルト式無段変速機搭載車の制御系は、変速油圧コントロールユニット7と、CVTコントロールユニット8と、を備えている。
【0029】
変速油圧コントロールユニット7は、プライマリ油圧室45に導かれるプライマリ油圧と、セカンダリ油圧室46に導かれるセカンダリ油圧を作り出す油圧制御ユニットである。この変速油圧コントロールユニット7は、オイルポンプ70と、レギュレータ弁71と、ライン圧ソレノイド72と、減圧弁73、プライマリ油圧ソレノイド74と、減圧弁75、セカンダリ油圧ソレノイド76と、を備えている。
【0030】
レギュレータ弁71は、オイルポンプ70からの吐出圧を元圧とし、ライン圧PLを調圧する弁である。このレギュレータ弁71は、ライン圧ソレノイド72を有し、オイルポンプ70から圧送された油の圧力を、CVTコントロールユニット8からの指令に応じて所定のライン圧PLに調圧する。
【0031】
減圧弁73は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧としてプライマリ油圧室45に導くプライマリ油圧を減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この減圧弁73は、プライマリ油圧ソレノイド74を備え、CVTコントロールユニット8からの指令に応じてライン圧PLを減圧して指令プライマリ油圧に制御する。
【0032】
減圧弁75は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧としてセカンダリ油圧室46に導くセカンダリ油圧を減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この減圧弁75は、セカンダリ油圧ソレノイド76を備え、CVTコントロールユニット8からの指令に応じてライン圧PLを減圧して指令セカンダリ油圧に制御する。
【0033】
CVTコントロールユニット8は、車速やスロットル開度等に応じた目標変速比を得る制御指令を両油圧ソレノイド74,76に出力する変速比制御、スロットル開度等に応じた目標ライン圧を得る制御指令をライン圧ソレノイド72に出力するライン圧制御、前進クラッチ31と後退ブレーキ32の締結/解放を制御する前後進切替制御、ロックアップクラッチ20の締結/解放を制御するロックアップ制御、等を行う。
このCVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ80、セカンダリ回転センサ81、セカンダリ油圧センサ82、油温センサ83、インヒビタースイッチ84、ブレーキスイッチ85、アクセル開度センサ86、車速センサ87、タービン回転センサ88等からのセンサ情報やスイッチ情報が入力される。
また、エンジンコントロールユニット90からはエンジン回転センサ91からのエンジン回転数情報等の必要情報を入力し、エンジンコントロールユニット90へはエンジン回転数制御指令やフューエルカット指令やフューエルカットリカバー指令等を出力する。
【0034】
さらに、CVTコントロールユニット8は、ベルト式無段変速機構4で実現させる変速比として最Highが指示された場合に、セカンダリ油圧室46に供給する油圧を制御して、セカンダリプーリ43のスライドプーリ43bを、当該スライドプーリ43bの受圧面の一部(内径側の受圧面)を構成する端面432bが、セカンダリ油圧室46の壁461に当接してV溝の溝幅を広げる方向への移動が制限される設計上の最High位置まで移動させたのち、設計上の最High位置よりもLow側に設定された制御上の最High位置まで移動させる制御(最High制御)を実施するように構成されている。
【0035】
図3は、CVTコントロールユニット8のうち、最High制御を実行する最High制御の制御部100の機能ブロック図である。
最High制御の制御部100は、油圧指示部110と、開始判定部111と、最High判定部112と、必要推力算出部113と、保証推力算出部114と、推力決定部115と、最High到達判定部116とを有している。
【0036】
油圧指示部110は、最High制御の実行時に、プライマリ油圧室45に供給するプライマリ圧と、セカンダリ油圧室46に供給するセカンダリ圧の指示圧を決定する。
なお、決定されたプライマリ圧とセカンダリ圧の指示圧は、変速油圧コントロールユニット7に入力されて、変速油圧コントロールユニット7が、プライマリ圧とセカンダリ圧が、それぞれ指示圧となるように調圧する。
【0037】
開始判定部111は、ベルト式無段変速機構4で実現する変速比として最Highが指示されると、最High制御の開始を決定し、セカンダリプーリ43のスライドプーリ43bを、設計上実現可能な最High位置まで移動させるための指示レシオを決定する。
ここで、指示レシオとは、プライマリプーリ42におけるベルト44の目標巻掛け半径と、セカンダリプーリ43におけるベルトの目標巻掛け半径の比である。
【0038】
なお、この指示レシオは、油圧指示部110に入力されて、この油圧指示部110において、指示レシオを実現するためのプライマリ圧とセカンダリ圧が決定されることになる。
よって、開始判定部111で最High制御の開始が判定されると、セカンダリプーリ43のスライドプーリ43bが、設計上の最High位置に向けて移動することになる。同様に、プライマリプーリ42のスライドプーリ42bもまた、High側に移動することになる。
【0039】
最High判定部112は、セカンダリプーリ43のスライドプーリ43bが、設計上の最High位置に到達したか否かを判定する。
ここで、実施の形態では、スライドプーリ43bが、設計上の最High位置に必ず到達するようにするために、開始判定部111が決定する指示レシオは、設計上の最High位置よりもHigh側にスライドプーリ43bを位置させたときに実現するレシオに設定されている。
そのため、指示レシオに応じて決まるスライドプーリ43bの位置は、設計上実現不可能な位置となっている。
【0040】
ここで、このスライドプーリ43bの設計上の最High位置への移動は、セカンダリ圧の制御により行われるようになっており、スライドプーリ43bを設計上の最High位置に向けて移動させている途上では、現時点におけるベルト式無段変速機構4でのレシオ(実レシオ)と指示レシオとの差に基づいて、セカンダリ圧のフィードバック制御(実レシオと指示レシオとの差を小さくする方向へのセカンダリ圧の調整)が行われている。
ここで、実レシオとは、プライマリプーリ42におけるベルト44の実際の巻掛け半径と、セカンダリプーリ43におけるベルトの実際の巻掛け半径の比である。
【0041】
そのため、スライドプーリ43bが設計上の最High位置に到達したのちは、セカンダリ圧のフィードバック制御を繰り返しても、実レシオと指示レシオの差が小さくならないので、フィードバック量だけが加算されることになる。
実施の形態では、このフィードバック量の加算に着目して、フィードバック量が、所定の閾値Th_1よりも大きくなった時点で、スライドプーリ43bが、設計上の最High位置に到達したと判定するようにしている。
ここで、フィードバック量が、所定の閾値Th_1よりも大きくなるのを待つのは、スライドプーリ43bを設計上の最High位置まで確実に到達させるためである。
【0042】
必要推力算出部113は、スライドプーリ43bを、設計上の最High位置から制御上の最High位置まで移動させる際に、スライドプーリ43bをLow側(
図2における左側)に向けて移動させるのに必要な推力を算出する。
ここで算出される推力は、スライドプーリ43bの外径側の受圧面(シーブ面43dの反対側の面43e)と内径側の受圧面(軸部432の端面432b)の両方(全受圧面)にセカンダリ圧が作用している場合を基準として算出される。
【0043】
保証推力算出部114は、スライドプーリ43bを、設計上の最High位置から制御上の最High位置まで移動させる際に、外径側の受圧面(シーブ面42dの反対側の面42e)にのみセカンダリ圧が作用している状態でも、スライドプーリ43bを制御上の最High位置まで移動させて、制御上の最High位置で保持することができる推力の決定に必要な保証推力を算出する。
【0044】
前記したように、スライドプーリ43bは、内径側の受圧面(軸部432のシーブ面43dとは反対側の端面432b)と、外径側の受圧面(シーブ面43dの反対側の面43e)の両方(全受圧面)に作用するセカンダリ圧による付勢力(推力)で、V溝の溝幅を狭める方向(
図2における左方向)に移動するようになっている。
ここで、スライドプーリ43bが設計上の最High位置に配置されている場合には、セカンダリ油圧室46の壁461にスライドプーリ43bの内径側の受圧面(軸部432の端面432b)が当接している。この状態では、セカンダリ油圧室46に供給された油圧が、内径側の受圧面に作用しないため、スライドプーリ43bに作用する付勢力(推力)は、内径側の受圧面(端面432b)と外径側の受圧面(面43e)の両方に油圧が作用する場合よりも低くなってしまう。
【0045】
そのため、実施の形態では、保証推力算出部114が、外径側の受圧面(シーブ面43dの反対側の面43e)にのみセカンダリ圧が作用している状態でも、スライドプーリ43bを制御上の最High位置まで移動させて、制御上の最High位置で保持することができるようにするために、少なくとも内径側の受圧面(端面432b)が担う推力分を、保証推力として決定している。
【0046】
具体的には、スライドプーリ43bの外径側の受圧面(面43e)に作用するセカンダリ圧P1で発生する推力Foと、スライドプーリ43bの全体の受圧面(外径側の受圧面(面43e)と内径側の受圧面(端面432b))に作用するセカンダリ圧P1で発生する推力であって、スライドプーリ43bを制御上の最High位置で保持するのに必要な必要推力Fallと、保証推力Fadとが、下記式(1)の関係を満たす保証推力Fadを、外径側の受圧面(面43e)と内径側の受圧面(端面432b)の面積に基づいて算出する。
【0047】
Fo + Fad ≧ Fall (1)
【0048】
ここで、推力Foは、スライドプーリ43bの全体の受圧面(面43e、端面432b)の受圧面積から、スライドプーリ43bが設計上の最High位置に配置された際にセカンダリ圧が作用しない内径側の受圧面(端面432b)の受圧面積を除いた受圧面積に作用するセカンダリ圧P1により発生する推力である。
【0049】
推力決定部115は、保証推力算出部114で保証推力が決定されると、推力Foに、保証推力Fadを加算して得られる推力を、スライドプーリ43bを設計上の最High位置から制御上の最High位置まで移動させる際に必要な推力Fpとして決定する。
これにより、油圧指示部110が、この推力Fpを発生可能な油圧値を、セカンダリ圧の指示圧として決定することになる。
【0050】
最High到達判定部116は、スライドプーリ43bを設計上の最High位置から制御上の最High位置まで移動させている際に、スライドプーリ43bが制御上の最High位置に到達したか否かを判定する。
具体的には、最High制御では、スライドプーリ43bが設計上の最High位置に達したと判定された時点で、スライドプーリ43bを制御上の最High位置に配置させるための指示レシオが決定される。
そのため、スライドプーリ43bを設計上の最High位置から制御上の最High位置まで移動させている際には、ベルト式無段変速機構4における現時点のレシオ(実レシオ)は、指示レシオに向けて変化している途上になる。
よって、最High到達判定部116は、実レシオが、指示レシオと一致したか否かを確認し、実レシオと指示レシオとが一致した時点で、スライドプーリ43bが制御上の最High位置に到達したと判定する。
【0051】
以下、
図4乃至
図6を参照して、最High制御を説明する。
図4は、CVTコントロールユニット8で実行される最High制御のフローチャートである。
図5は、最High制御実行時の実レシオ、指示レシオ、フィードバック量F/B、プライマリ圧(Pri圧)、セカンダリ圧(Sec圧)の変化の一例を示すタイムチャートであり、(a)は、実施の形態にかかる最High制御でのタイムチャートであり、(b)は、従来例にかかる制御でのタイムチャートである。
図6は、最High制御実行時のプライマリプーリ42とセカンダリプーリ43の動作を説明する図であり、(a)は、設計上の最Highである状態を、(b)は、制御上の最Highである状態をそれぞれ示している。
【0052】
実施の形態にかかる最High制御は、目標変速比として最Highが指示される度に実行され、例えば、高車速での走行時やコースト走行時の際に実行される。
そのため、学習によりスライドプーリ43bの制御上の最High位置を決定した以降は、常に決定された制御上の最High位置にスライドプーリ43bを配置させる従来例の場合とは異なり、最Highが指示される度に、繰り返し実行される。
【0053】
ステップ101において、変速比として最Highが指示されると(
図5の(a):時刻t1)、ステップ102において、セカンダリプーリ43のスライドプーリ43bを、設計上の最High位置まで移動させるための指示レシオが決定されて、この指示レシオに基づく変速が開始される(
図5の(a):時刻t1以降)。
これにより、ベルト式無段変速機構4における実際のレシオ(実レシオ)を指示レシオ向けて変化させるために、セカンダリプーリ43のスライドプーリ43bが、設計上の最High位置に向けて移動することになる。
【0054】
ステップ103において、スライドプーリ43bが、設計上の最High位置まで到達したか否かを確認する。
前記したように実施の形態では、スライドプーリ43bの設計上の最High位置への移動は、セカンダリ圧の制御により行われるようになっており、スライドプーリ43bを設計上の最High位置に向けて移動させている途上では、現時点におけるベルト式無段変速機構4での実レシオと指示レシオとの差に基づいて、セカンダリ圧のフィードバック制御が行われている。
【0055】
ここで、スライドプーリ43bが設計上の最High位置に到達(
図6の(a)参照)すると、実レシオが指示レシオに向けて変化できなくなる(
図5の(a):時刻t2)。よって、スライドプーリ43bが設計上の最High位置に到達したのちは、セカンダリ圧のフィードバック制御を繰り返しても、実レシオと指示レシオの差が小さくならないので、フィードバック量F/Bだけが加算されることになる(
図5の(a):時刻t2以降)。
実施の形態では、このフィードバック量の加算に着目して、フィードバック量が、所定の閾値Th_1よりも大きくなった時点(
図5の(a):時刻t3)で、スライドプーリ43bが、設計上の最High位置に到達したと判定される。
【0056】
スライドプーリ43bの設計上の最High位置までの到達が判定されると(ステップ103、Yes)、ステップ104において、プライマリプーリ42のプライマリ油圧室45に供給する油圧の指令圧(プライマリ圧の指示圧)が、セカンダリプーリ43のスライドプーリ43bが設計上の最High位置に到達したと判定された時点(
図5の(a):時刻t3)でのプライマリ圧に固定される。
続くステップ105において、スライドプーリ43bを、設計上の最High位置から制御上の最High位置に移動させるためのセカンダリ圧の指示圧(セカンダリ油圧室46に供給する油圧の指示圧)が決定される。
【0057】
具体的には、スライドプーリ43bの外径側の受圧面(面43e)に作用するセカンダリ圧P1で発生する推力Foと、スライドプーリ43bの全体の受圧面(外径側の受圧面(面43e)と内径側の受圧面(端面432b))に作用するセカンダリ圧P1で発生する推力であって、スライドプーリ43bを制御上の最High位置で保持するのに必要な必要推力Fallと、保証推力Fadとが、下記式(1)の関係を満たす保証推力Fadが、外径側の受圧面(面43e)と内径側の受圧面(端面432b)の面積に基づいて算出される。
【0058】
Fo + Fad ≧ Fall (1)
【0059】
そして、推力Foに、保証推力Fadを加算して得られる推力を、スライドプーリ43bを設計上の最High位置から制御上の最High位置まで移動させる際に必要な推力Fpとし、この推力Fpを発生可能な油圧値が、セカンダリ圧の指示圧として決定される。
【0060】
これにより、セカンダリ油圧室46に供給されるセカンダリ圧が、ステップ104において設定された指令圧に向けて上昇することになる(
図5の(a):時刻t3〜t4)。
【0061】
セカンダリ圧が、ステップ104で設定された指令圧に向けて上昇を開始すると、ステップ106において、セカンダリ油圧室46に供給される実際のセカンダリ圧が、スライドプーリ43bを制御上の最High位置で保持するのに必要な必要推力Fallを発生可能な油圧(必要油圧Pr)よりも大きくなったか否かが確認される。
【0062】
そして、セカンダリ油圧室46に作用するセカンダリ圧が、必要油圧Prよりも高くなった時点(
図5:時刻t4)で(ステップ106、Yes)、ステップ107において、プライマリ圧の低下が許容されて、Low変速が開始される。
【0063】
ここで、前記したステップ104において、プライマリ圧の指示圧を、スライドプーリ43bが設計上の最High位置に到達した時点のプライマリ圧に保持していたのは、実施の形態では、セカンダリ圧を略一定に保持しつつプライマリ圧を積極的に制御することで制御上の最HighへのLow変速を実施する構成となっており、Low変速はプライマリ圧を低下させることで開始されるので、プライマリ圧を低下させずに保持し続けることで、Low側変速が、セカンダリ圧の指令圧が決定された時点で開始されないようにするためである。
【0064】
また、セカンダリ油圧室46に作用するセカンダリ圧が、必要油圧Prよりも高くなるのを待って、Low変速を開始するのは、スライドプーリ43bに作用する推力のうち内径側の受圧面(端面432b)が担う推力が不足しても、スライドプーリ43bの内径側の受圧面(端面432b)が、セカンダリ油圧室46の壁461と衝突を繰り返さないようにするために、衝突を避けることのできる最小の推力の発生を待って、Low変速を開始するためである。
【0065】
Low変速が開始されると、ステップ108において、スライドプーリ43bが、制御上の最High位置(
図6の(b)参照)に到達したか否かが確認される。
実施の形態にかかる最High制御では、変速比として最Highが指示されると、セカンダリプーリ43のスライドプーリ43bを、設計上実現可能な最High位置まで移動させるための指示レシオが決定されて、ベルト式無段変速機構4における実際のレシオが、セカンダリ圧の制御により指示レシオに向けて変化する(
図5の(a):時刻t4以降)。
そのため、ステップ108では、現時点におけるプーリでの実レシオと、スライドプーリ43bが制御上の最Highに到達したときに実現するレシオ(指示レシオ)とが一致したか否かを確認し、実レシオと指示レシオとが一致した時点(
図5の(a):時刻t6)で、スライドプーリ43bが、制御上の最High位置に到達したと判定される。なお、設計上の最Highとは、
図6(a)のように端面432bと壁461とが当接して両者に隙間が存在しない状態であり、また、制御上の最Highとは、
図6(b)のように端面432bと壁461とが離間して両者に隙間が存在する状態である。
【0066】
そして、ステップ108においてスライドプーリ43bが制御上の最High位置に到達したと判定されると(ステップ108、Yes)、ステップ109において、実レシオと指示レシオとが一致したと判定されてからの経過時間が、所定の判定時間(
図5の(a):時刻t6〜t7)を経過したか否かが確認される。
【0067】
そして、実レシオと指示レシオとが一致したと判定されてからの経過時間が、所定時間を超えた時点(
図5の(a):時刻t7)(ステップ109、Yes)、ステップ110において、セカンダリ圧の指令圧が、スライドプーリ43bの全体の受圧面(外径側の受圧面(面43e)と内径側の受圧面(端面432b))に作用するセカンダリ圧P1で発生する推力であって、スライドプーリ43bを制御上の最High位置で保持するのに必要な必要推力Fallを発生可能な油圧値に変更される。
これにより、推力Foに加算されていた保証推力Fadに相当する分だけ、セカンダリ圧の指令圧が低下することになるので(
図5の(a):時刻t7以降)、セカンダリ圧が変更後の指令圧に向けて低下することになる。
【0068】
そして、ステップ111において、セカンダリ圧が、変更後の指令圧まで低下して、変更後の指令圧が達成されると、最High制御を終了して、ベルト式無段変速機構4における変速比の通常制御に移行することになる。
【0069】
ここで、従来例に係る最High制御では、スライドプーリ43bを設計上の最High位置から制御上の最High位置まで移動させる際に、保証推力に基づくセカンダリ圧の修正が行われないので、スライドプーリ43bを設計上の制御上の最High位置への移動により、スライドプーリ43bの内径側の受圧面(端面432b)が、セカンダリ油圧室46の壁461から離れる瞬間に、一時的に推力が不足して、スライドプーリ43bの内径側の受圧面(端面432b)とセカンダリ油圧室46の壁461とが接触/非接触を繰り返すことがあるが、実施の形態にかかる最High制御では、スライドプーリ43bの内径側の受圧面(端面432b)が担っていた分の推力が、保証推力により保証されるので、かかる事態の発生が好適に防止されるようになっている。
【0070】
以上の通り、実施の形態では、
(1)固定プーリ42a、43aと、この固定プーリ42a、43aの軸部で回転軸方向に移動可能に設けられたスライドプーリ42b、43bとの間に、ベルト44が巻き掛けられるV溝が形成されたプライマリプーリ42およびセカンダリプーリ43と、
スライドプーリ42b、43bに付設された油圧室(プライマリ油圧室45、セカンダリ油圧室46)への油圧の供給を制御してV溝の溝幅を変更することで、プライマリプーリ42およびセカンダリプーリ43におけるベルト44の巻き掛け半径を変更する油圧制御手段(変速油圧コントロールユニット7、CVTコントロールユニット8)と、を備え、
最High制御の制御部100が、最Highの変速比を実現する際に、セカンダリプーリ43のスライドプーリ43bを、当該スライドプーリ43bの受圧面の一部を構成する端面432b(当接部:内径側の受圧面)が、セカンダリ油圧室46の壁461に当接してV溝の溝幅を広げる方向への移動が制限される設計上の最High位置(
図6の(a)参照)まで移動させたのち、設計上の最High位置よりもLow側に設定された制御上の最High位置(
図6の(b)参照)まで移動させるように構成された無段変速機において、
最High制御の制御部100は、
スライドプーリ43bを、設計上の最High位置から制御上の最High位置まで移動させる際に、
スライドプーリ43b全体の受圧面(面43e:外径側の受圧面、端面432b:内径側の受圧面)の受圧面積から、内径側の受圧面(端面432b)の受圧面積を除いた受圧面積(面43eの面積)に作用する油圧P1により発生する推力Foが、スライドプーリ43bを制御上の最High位置で保持するのに必要な必要推力Fall以上となる油圧を、セカンダリ油圧室46に作用させる構成とした。
【0071】
具体的には、下記式(1)の関係を満たす保証推力Fadを算出して、この保証推力Fadを推力Foに加算した推力を実現する油圧が、セカンダリ油圧室46に作用するようにした。
Fo + Fad ≧ Fall (1)
【0072】
これにより、内径側の受圧面(端面432b)が、セカンダリ油圧室46の壁461に当接して、内径側の受圧面が担っていた推力が不足しても、保証推力Fadが推力Foに加算されることで、スライドプーリ43bに、当該スライドプーリ43bを制御上の最High位置で保持するのに必要な必要推力以上の推力が作用することになる。
よって、設計上の最Highから制御上の最Highへ変速させるときの、スライドプーリ43bの端面432b(内径側の受圧面)が、セカンダリ油圧室46の壁461から離れる際に、内径側の受圧面(端面432b)に作用するプライマリプーリ圧の反力が低下しても、その反力の低下分が、保証推力により保証される。
これにより、スライドプーリ43bの内径側の受圧面(端面432b)とセカンダリ油圧室46の壁461とが接触/非接触を繰り返す事態の発生を好適に防止できると共に、ベルト44の挟持力が不足してベルト44がスリップすることも好適に防止できる。
また、制御上の最Highを、設計上の最Highにいっそう近づけることができるので、制御上の最Highでの走行時のエンジン回転数を低下させることができると共に、燃料噴射量の低減が可能になる。これにより、無段変速機を搭載した車両の燃費を向上させることができる。
【0073】
(2)また、最High制御の制御部100は、
スライドプーリ43bを、設計上の最High位置から制御上の最High位置まで移動させる際に、
スライドプーリ43b全体の受圧面(面43e:外径側の受圧面、端面432b:内径側の受圧面)の受圧面積から、内径側の受圧面(端面432b)の受圧面積を除いた受圧面積(面43eの面積)に作用する油圧P1により発生する推力Foが、スライドプーリ43bを制御上の最High位置で保持するのに必要な必要推力Fallにする油圧を、セカンダリ油圧室46に作用させる構成とした。
【0074】
具体的には、下記式(2)の関係を満たす保証推力Fadを算出して、この保証推力Fadを推力Foに加算した推力を実現する油圧が、セカンダリ油圧室46に作用するようにした。
Fo + Fad = Fall (2)
【0075】
このようにすることによっても、内径側の受圧面(端面432b)に作用するプライマリプーリ圧の反力が低下しても、保証推力Fadが推力Foに加算されることで、スライドプーリ43bに、当該スライドプーリ43bを制御上の最High位置で保持するのに必要な必要推力が作用することになる。
よって、設計上の最Highから制御上の最Highへ変速させるときの、スライドプーリ43bの端面432b(内径側の受圧面)がセカンダリ油圧室46の壁461から離れる際に、内径側の受圧面(端面432b)に作用するプライマリプーリ圧の反力が低下しても、その反力の低下分が保証推力により保証されるので、スライドプーリ43bの内径側の受圧面(端面432b)とセカンダリ油圧室46の壁461とが接触/非接触を繰り返す事態の発生を好適に防止できる。
【0076】
ここで、セカンダリ圧を増大させるとベルト44の挟持力が高くなって、ベルト44の滑りを好適に防止できるものの、セカンダリ圧を過度に増大させることは、フリクションが高くなることなどに起因して、無段変速機を搭載した車両の燃費を悪化させる原因となる。よって、上記式(2)の関係を満たす保証推力Fadとすることで、内径側の受圧面(端面432b)に作用するプライマリプーリ圧の反力分だけ保証することで、スライドプーリ43bの内径側の受圧面(端面432b)とセカンダリ油圧室46の壁461とが接触/非接触を繰り返す事態の発生を好適に防止しつつ、燃費の悪化を低減できる。
【0077】
(3)制御部100は、セカンダリプーリの推力が、推力Foに保証推力Fadを加算した推力となったのちに、プライマリ油圧室45に作用するプライマリ圧を減少させて、設計上の最Highから制御上の最Highに向けたLow側への変速を開始する構成とした。
【0078】
このように構成すると、ベルト44のスリップを阻止できる推力を確保した上で、スライドプーリ43bを制御上の最High位置に向けて移動させることができるので、制御上の最Highに向けたLow側への変速を行う際に、スライドプーリ43bに作用する推力が不足して、ベルト44のスリップが発生する事態の発生を好適に防止できる。
【0079】
(4)制御部100は、実変速比が制御上の最Highになった時点で、セカンダリ油圧室46に作用させるセカンダリ圧を、必要推力Fallを実現する油圧値に低減させる構成とした。
【0080】
セカンダリ圧の増大は、燃費の悪化につながるので、実変速比が制御上の最Highになった時点で、推力Foに保証推力Fadを加算した推力に基づくセカンダリ圧ではなく、必要推力Fallに基づくセカンダリ圧まで低減させることで、燃費の悪化を好適に防止できる。
また、制御上の最Highになった時点で、スライドプーリ43bの内径側の受圧面(端面432b)とセカンダリ油圧室46の壁461とが接触/非接触を繰り返す事態が発生しないので、制御上の最Highになった時点で、必要推力Fallに基づくセカンダリ圧まで低減させても、ベルト44の挟持力が不足して、ベルト44がスリップする事態が生じることもない。
【0081】
ここで、実施の形態にかかるベルト式無段変速機構4では、原則として、設計上の最Highから制御上の最HighへのLow変速を、プライマリ圧の低下のみで行うように構成されており、セカンダリ圧の積極的な制御により行わないようにしている。
これは、設計上の最Highから制御上の最Highへの変速に際して、セカンダリ圧を増大させると、ベルト式無段変速機構4を搭載した車両での燃費が悪化するためである。
実施の形態は、設計上の最Highから制御上の最HighへのLow変速を、プライマリ圧の低下のみで行う際に、スライドプーリ43bの内径側の受圧面(端面432b)とセカンダリ油圧室46の壁461とが接触/非接触を繰り返す事態が発生した場合の推力(ベルト44の挟持力)の不足により、ベルト44がスリップ状態になることのみを防止することを目的として、一時的にセカンダリ圧を増大させるようにしている。
【0082】
さらに、前記した実施の形態では、ベルト式の無段変速機構の場合を例示したが、無段変速機はチェーン式の無段変速機構であってもよい。
【0083】
実施の形態にかかる最High制御は、目標変速比として最Highが指示される度に実行され、例えば、高車速での走行時やコースト走行時の際に実行される。
これは、従来例に係る最High制御のように、学習によりスライドプーリ43bの制御上の最High位置を決定した以降は、常に決定された制御上の最High位置にスライドプーリ43bを配置させる構成とすると、制御上の最High位置を誤って設定した場合に、最適の制御上の最Highにスライドプーリ43bを配置させることができなくなるからである。
とくに、無段変速機で採用するベルトやチェーンは、入力トルクに応じた伸びが生じるために、制御上の最High位置は入力トルクに応じて変化する。
そのため、学習により決定した制御上の最High位置に一律に固定してしまうと、(a)設計上の最High位置よりもHigh側に制御上の最High位置が設定されてしまうことや、(b)実現可能な制御上の最High位置よりもLow側に制御上の最High位置が設定されてしまうことがある。
よって、(a)の場合には、制御上の最High位置にスライドプーリ43bを移動させるための、スライドプーリ43bに作用する推力が過剰となって(過推力)となって燃費が悪化することがある。また、(b)の場合には、実現可能な制御上の最High位置よりもLow側にスライドプーリ43bが位置することで、その分だけ燃費が低下してしまう。
【0084】
前記した実施の形態では、最Highが指示された場合にのみ制御を実行するように構成し、最Lowが指示された場合には、最High制御に相当する制御を実行しない構成とした。これは、設計上の最Lowは、セカンダリ油圧室46に高いセカンダリ圧を作用させて発生させたプライマリプーリ42の反力により、ベルト44の把持力を確保する等する思想であるため、設計上の最Highの場合のような問題が生じないこと、最Lowが指示される車両の停車中は、プーリ(プライマリプーリ42、セカンダリプーリ43)が回転しておらず、レシオが判らないために実施の形態にかかる最High制御を行えないこと、によるものである。
【0085】
前記した実施の形態では、設計上の最Highを、セカンダリプーリ43のスライドプーリ43の端面432がセカンダリ油圧室46の壁46に当接することで実現するように構成し、プライマリプーリ42側で実現しないようにした。
プライマリプーリ42側で最Highを実現するためには、プライマリプーリ42のスライドプーリ42bの軸部422に段部を設けると共に、固定プーリ42aの軸部421に段部を設けて、最Highを実現するために固定プーリ42a側に移動したスライドプーリ42bが、当該スライドプーリ42b側の段部を、固定プーリ42a側の段部に当接させて回転軸X1方向の最High位置を決める必要があるので、段部を設ける分だけ、プライマリプーリ42の軸部422と、固定プーリ42aの軸部421の径が太くなってしまう。
そうすると、プライマリプーリ42におけるベルトの接触面が低減する結果、プライマリプーリ42でのレシカバ(プライマリプーリ42の半径)が減ることになるので、
プライマリプーリ42におけるベルトの挟持力が低下してしまう。
そのため、前記した実施の形態では、設計上の最Highを、セカンダリプーリ43側で実現するようにしている。