特許第6366516号(P6366516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6366516種子コーティング材及び種子コーティング材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366516
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】種子コーティング材及び種子コーティング材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01C 1/06 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   A01C1/06 Z
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-12679(P2015-12679)
(22)【出願日】2015年1月26日
(65)【公開番号】特開2016-136864(P2016-136864A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】寳正 史樹
(72)【発明者】
【氏名】上林 史朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正治
(72)【発明者】
【氏名】清田 哲夫
【審査官】 瀬川 勝久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−6979(JP,A)
【文献】 特開2000−228902(JP,A)
【文献】 特開昭57−94204(JP,A)
【文献】 特開2005−192458(JP,A)
【文献】 特開2014−189515(JP,A)
【文献】 米国特許第6209259(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水処理において発生する汚泥を溶融後冷却して得られるスラグを主成分とする種子コーティング材。
【請求項2】
前記汚泥が、前記下水処理において、下水中に含まれるリンを汚泥中に濃縮する濃縮工程が実行された汚泥である請求項1に記載の種子コーティング材。
【請求項3】
前記スラグ中の塩基度が0.2〜1.2である請求項1又は2に記載の種子コーティング材。
【請求項4】
前記スラグ中の鉄リンシリカ比が0.2〜0.8である請求項1〜3のいずれか一項に記載の種子コーティング材。
【請求項5】
粒子径が100μm以上の溶融スラグの割合が全溶融スラグの10wt%以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の種子コーティング材。
【請求項6】
スラグ同士及びスラグと種子とを接着する接着物質を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の種子コーティング材。
【請求項7】
スラグを主成分とする種子コーティング材の製造方法であって、
下水処理工程によって得られた汚泥を溶融する溶融工程と、
前記溶融工程によって溶融された溶融汚泥を冷却してスラグを得る冷却工程とを備える種子コーティング材の製造方法。
【請求項8】
前記下水処理工程に、下水側に含まれるリンを汚泥側に濃縮するリン濃縮工程を含む請求項7に記載の種子コーティング材の製造方法。
【請求項9】
前記溶融工程に先立ち、前記汚泥に鉄分を添加する鉄分添加工程を行う請求項7又は8に記載の種子コーティング材の製造方法。
【請求項10】
前記鉄分が酸化第二鉄である請求項9に記載の種子コーティング材の製造方法。
【請求項11】
前記溶融工程に先立ち、前記汚泥の塩基度が0.2〜1.2となるように塩基度を調整する塩基度調整工程を行う請求項7〜10のいずれか一項に記載の種子コーティング材の製造方法。
【請求項12】
前記溶融工程に先立ち、前記汚泥の鉄リンシリカ比が0.2〜0.8となるように鉄リンシリカ比を調整する鉄リンシリカ比調整工程を行う請求項7〜11のいずれか一項に記載の種子コーティング材の製造方法。
【請求項13】
前記溶融工程における雰囲気の酸素比が1.1以下である請求項7〜12のいずれか一項に記載の種子コーティング材の製造方法。
【請求項14】
前記溶融工程における雰囲気温度が1200℃〜1400℃である請求項7〜13のいずれか一項に記載の種子コーティング材の製造方法。
【請求項15】
前記冷却工程が液体により前記溶融汚泥を冷却する液体冷却工程を含む7〜14のいずれか一項に記載の種子コーティング材の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の種子コーティング材、又は、請求項7〜15のいずれか一項に記載の種子コーティング材の製造方法により製造された種子コーティング材をコーティングしたコーティング種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子コーティング材及び種子コーティング材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米の直播栽培は、育苗および田植え作業を省くことができるため、大幅な労力の軽減、利用資材の縮小を実現でき、米栽培の低コスト化を達成できることが期待されている。
【0003】
当該直播栽培のための稲種子コーティング材としては、鉄を主成分とするものが公知である。鉄を主成分とするコーティング材は、鉄以外に酸化促進剤としての焼石膏等を含んでいる。このコーティング材で稲種子等の種子をコーティングする場合、種子に含まれる水分あるいは外部から供された水分などによって鉄の酸化反応が進行して、錆が生成される(酸化鉄となる)ことにより、鉄粒子同士が架橋され、種子の表面に酸化鉄を主成分とするコーティング層が形成される(例えば、特許文献1)。
【0004】
このようなコーティング材でコーティングされたコーティング種子は、その比重が大きくなるため播種した状態が雨水や入水によって乱れにくくなり、また、コーティング材による硬い殻が形成されるために鳥害に強い特性を持つ。また、土壌表面に播種するため、種子の出芽が良好となる。当該鉄コーティング種子は長期間保存できるため、イネ種子を鉄コーティングする作業は農閑期などに実施しておき、播種までの期間は鉄コーティングした状態で保存できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鉄コーティング湛水直播マニュアル2010, 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター, 2010.03
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような鉄を主成分とするコーティング材は、鉄の酸化反応を利用して種子の表面にコーティング層を形成することから、鉄粒子の粒径、酸化促進剤の含有率、コーティング時の水の添加量等の条件によっては、鉄の酸化反応が急激に進行し、その際に発生する反応熱により種子がダメージを受けて発芽率が低下する場合があるという問題があった。上記に鑑み、種子コーティング材のさらなる改良が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る種子コーティング材は、下水処理において発生する汚泥を溶融後冷却して得られるスラグを主成分とする。
【0008】
本発明は、スラグが種子のコーティング材に適しているという新たな知見に基づくものである。つまり、種子コーティング材としてスラグを用いることにより、鉄を用いた場合と同様に、コーティング材による硬い殻が形成されるために鳥害等に強い特性を持つ。また、スラグを主成分とする種子コーティング材は種子をコーティングする際に実質的に酸化反応を伴うものではない。このため、鉄を主成分とする種子コーティング材のような発熱による種子へのダメージを防止することができる。
【0009】
また、一般的に生活排水等の下水はリン化合物を含んでおり、下水処理により得られる汚泥から製造されたスラグにもリン化合物が含まれることとなる。このため、下水処理により得られる汚泥から製造されたスラグを主成分とする種子コーティング材により種子をコーティングした場合、含まれるリン化合物による肥料効果が期待できる。
【0010】
なお、ここで、「スラグを主成分」とは、種子コーティング材にスラグが50wt%以上含まれることをいう。種子コーティング材中のスラグの含有率が50wt%以上であれば、上記の効果が期待できる。
【0011】
上記構成において、前記汚泥が、前記下水処理において、下水中に含まれるリンを汚泥中に濃縮する濃縮工程が実行された汚泥であると好適である。
【0012】
本構成により、スラグ中のリン化合物濃度が高くなり、一層の肥料効果を期待することができる。
【0013】
上記構成において、前記スラグ中の塩基度が0.2〜1.2であると好適である。
【0014】
ここで、「塩基度」とは、CaO重量/SiO重量で定義される値である。塩基度をこのように設定することにより、スラグのガラス構造中の架橋酸素原子の割合が少なくなり、スラグ中のリンにおけるク溶性リンの割合を高めることができる。この結果、肥料効果の高い種子コーティング材を得ることができる。
【0015】
上記構成において、前記スラグ中の鉄リンシリカ比が0.2〜0.8であると好適である。
【0016】
ここで、「鉄リンシリカ比」とは、Fe/(P+Si)[mol/mol]で定義される値である。鉄リンシリカ比をこのように設定することにより、汚泥中のリン成分がスラグ中に取り込まれ易くなりスラグ中のリン濃度を高めることができる。この結果、肥料効果の高い種子コーティング材を得ることができる。
【0017】
上記構成において、粒子径が100μm以上の溶融スラグの割合が全溶融スラグの10wt%以下であると好適である。
【0018】
本構成のように、粒子径が100μm以上の溶融スラグの割合が全溶融スラグの10wt%以下とすることにより、確実に種子をコーティングすることができる種子コーティング材を得ることができる。
【0019】
上記構成において、スラグ同士及びスラグと種子とを結合する結合物質を含むと好適である。
【0020】
上記構成により、結合物質の作用により、種子の表面に確実にコーティング層を形成することができる。
【0021】
本発明の種子コーティング材の製造方法は、スラグを主成分とする種子コーティング材の製造方法であって、下水処理工程によって得られた汚泥を溶融する溶融工程と、前記溶融工程によって溶融された溶融汚泥を冷却してスラグを得る冷却工程とを備える。
【0022】
本発明は、スラグが種子のコーティング材に適しているという新たな知見に基づくものである。つまり、種子コーティング材としてスラグを用いることにより、鉄を用いた場合と同様に、コーティング材による硬い殻が形成されるために鳥害等に強い特性を持つ。また、スラグを主成分とする種子コーティング材は種子をコーティングする際に実質的に酸化反応を伴うものではない。このため、鉄を主成分とする種子コーティング材のような発熱による種子へのダメージを防止することができる。
【0023】
また、一般的に生活排水等の下水はリン化合物を含んでおり、下水処理工程により得られる汚泥から製造されたスラグにもリン化合物が含まれることとなる。このため、下水処理により得られる汚泥から製造されたスラグを主成分とする種子コーティング材により種子をコーティングした場合、含まれるリン化合物による肥料効果が期待できる。
【0024】
なお、ここで、「スラグを主成分」とは、種子コーティング材にスラグが50wt%以上含まれることをいう。種子コーティング材中のスラグの含有率が50wt%以上であれば、上記の効果が期待できる。
【0025】
上記構成において、前記下水処理工程に、下水側に含まれるリンを汚泥側に濃縮するリン濃縮工程を含むと好適である。
【0026】
本構成により、スラグ中のリン化合物濃度が高くなり、得られる種子コーティング材は、一層の肥料効果を期待することができる。
【0027】
上記構成において、前記溶融工程に先立ち、前記汚泥に鉄分を添加する鉄添加工程を備えると好適である。
【0028】
本構成のように、溶融工程に先立ち、汚泥に鉄分を添加することにより、溶融工程における汚泥中のリン成分がスラグ中に取りこまれ易くなる。この結果、スラグ中のリン濃度を高めることができる。
【0029】
上記構成において、前記鉄分が酸化第二鉄であると好適である。
【0030】
本構成のように鉄分として第二鉄を用いることにより、酸化反応による発熱を防止することができ、処理が容易になる。
【0031】
上記構成において、前記溶融工程に先立ち、前記汚泥の塩基度が0.2〜1.2となるように塩基度を調整する塩基度調整工程を行うと好適である。
【0032】
塩基度を上記のように調整することにより、スラグのガラス構造中の架橋酸素原子の割合が少なくなり、スラグ中のリンにおけるク溶性リンの割合を高めることができる。
【0033】
上記構成において、前記溶融工程に先立ち、前記汚泥の鉄リンシリカ比が0.2〜0.8となるように鉄リンシリカ比を調整する鉄リンシリカ比調整工程を行うと好適である。
【0034】
鉄リンシリカ比を上記のように調整することにより、溶融工程における汚泥中のリン成分がスラグに取り込まれ易くなり、スラグ中のリン濃度を高めることができる。
【0035】
上記構成において、前記溶融工程における雰囲気の空気比が1.1以下であると好適である。
【0036】
本構成により、雰囲気中の酸素が過剰になることを抑制し、重金属が酸化物となることを抑制することができる。この結果、重金属が比較的低い温度でも気化することとなり、スラグ中に残留する重金属濃度を低くすることができる。
【0037】
上記構成において、前記溶融工程における雰囲気温度が1200℃〜1400℃であると好適である。
【0038】
溶融工程における雰囲気温度をこのように設定することにより、汚泥中のリン成分の揮散を抑制しつつ、重金属を揮散させることができる。この結果、スラグ中のリン化合物濃度を高めつつ、スラグ中に重金属が残存することを抑制することができる。
【0039】
上記構成において、前記冷却工程が液体により前記溶融汚泥を冷却する液体冷却工程を含むと好適である。
【0040】
上記構成により、冷却工程において、溶融汚泥が液体により急速に冷却されることとなる。この結果、得られたスラグは非結晶状態となり、粉砕等による粒径の調整が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明による種子コーティング材製造方法の説明図
図2】本発明における溶融工程に用いられる溶融炉の説明図
図3】コーティング種子の模式図
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(種子コーティング材)
この種子コーティング材は、特に限定はされないが、例えば、イネ種子、麦種子、大豆種子、小豆種子、トウモロコシ、種芋などの植物種子のコーティング材として適用可能である。
【0043】
この種子コーティング材は、例えば、生活下水等の下水処理工程において発生する汚泥を溶融後冷却して得られたスラグを主成分とする。生活下水等の下水には一般的にリン成分が含まれており、下水処理工程において、標準活性汚泥法、生物膜法、膜分離活性汚泥法、生物リン法、凝集沈殿法等の公知の水処理技術により、下水中のリン成分を汚泥中に濃縮する処理が行われている。このような汚泥を用いてスラグを生成することにより、リン成分の含有率が高いスラグを生成することができる。
【0044】
スラグ中におけるPの含有率は、特に限定はされないが好ましくは、10〜40wt%である。このうち、ク溶性Pの含有率は、好ましくは、15〜35wt%である。また、Feの含有率は、好ましくは、25〜35wt%である。また、特に限定はされないが、スラグは、SiO、CaO、MgO、KO、Al等のその他の肥料成分を含んでいると好適である。
【0045】
スラグ中に含まれる可能性のある重金属としては、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ヒ素(As)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、鉛(Pb)等が挙げられる。溶融スラグ中のこれらの物質の含有率は低い方が好ましい。特に限定されないが、これらの物質の含有率の許容量の目安としては、既存の普通肥料の公定規格から想定した含有を許容される有害成分の最大量を参照し、スラグ中のP1wt%あたりの重金属量が、Ni:0.005wt%以下、Cr:0.05wt%以下、Ti:0.02wt%以下、As:0.002wt%以下、Cd:0.000075wt%以下、Hg:0.00005wt%以下、Pb:0.003wt%以下とすることが好ましい。
【0046】
スラグは、特に限定はされないが、種子に対するコーティングのしやすさの観点から粒径(直径)が100μm以上のスラグの含有率が10wt%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、粒径(直径)が100μm以上の溶融スラグの含有率が5wt%以下であることが好ましく、粒径(直径)が100μm以上の溶融スラグが含まれないことが特に好ましい。なお、スラグ中のク溶性リンによる肥料効果の観点からは粒径(直径)が300μm以下であることが好ましい。したがって、粒径(直径)が100μm以上のスラグの含有率が10wt%以下であれば、十分な肥料効果も期待できる。
【0047】
この種子コーティング材は、スラグ以外に、特に限定はされないが、スラグ同士及びスラグと種子とを結合する結合物質等の添加物質を含有することができる。結合物質等としては、水溶性の粉末接着剤を好適に用いることができる。このような接着剤として、特に限定はされないが、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)粉末を用いることができる。接着剤は、特に限定はされないが、種子の重量に対して1wt%程度とすることができる。なお、結合物質は上記に限られるものではない。例えば、結合物質として鉄を用いて、従来と同様に鉄の酸化反応により、結合を行ってもよい。この場合でも、コーティング材中の鉄(金属鉄)の含有量が少ないことから、反応熱による問題を抑制することができる。また、結合物質以外の添加物質としては、特に限定はされないが、例えば酸化鉄粉、焼石膏等を含むことができる。ここで、「スラグを主成分とする」とは、種子コーティング材中のスラグの含有率が50wt%以上のことである。スラグの含有率は好ましくは70wt%以上であり、特に好ましくは、90wt%以上である。
【0048】
(種子コーティング材の製造方法)
このスラグを主成分とする種子コーティング材の製造方法は、下水処理工程によって得られた汚泥を溶融する溶融工程と、前記溶融工程によって溶融された溶融汚泥を冷却して溶融スラグを得る冷却工程とを備える。なお、下水処理工程により得られた汚泥は、適宜、乾燥工程等を経た後に、溶融工程に用いられる。
【0049】
下水処理工程は、例えば、生活排水等の下水を処理する工程である。下水処理工程において、特に限定はされないが、標準活性汚泥法、生物膜法、膜分離活性汚泥法、生物リン法、凝集沈殿法等を用いた水処理を通じて、下水中のリン成分が汚泥側に濃縮される。図1に示すように、このような処理により発生する余剰汚泥が下水処理装置から濃縮汚泥として分離される。分離された濃縮汚泥に、例えば、ポリ硫酸第二鉄{(FeOH)(SO4)3−n/2}等の凝集剤が添加されて凝集され、凝集された汚泥がスクリュープレスやフィルタプレス等の脱水機1により脱水処理が施され貯留ピット2に貯留される。なお、特に限定はされないが、脱水処理後の脱水汚泥の含水率は一般的に、70〜85wt%である。
【0050】
貯留ピット2に貯留された脱水汚泥に対して、塩基度調整剤により汚泥の塩基度を調整する塩基度調整工程が行われる。具体的には、貯留ピットに貯留された脱水汚泥に、塩基度調整剤として、消石灰(Ca(OH))又は(珪砂)SiOが添加され、脱水汚泥の塩基度が調整される。ここで、CaO重量/SiO重量で定義される塩基度は、特に限定はされないが、0.2〜1.2の範囲に調整されることが好ましく、特に好ましくは、0.6〜0.8の範囲に調整される。なお、塩基度調整剤は、Ca又はSiを含むものであれば特に上記のものに限定されるものではない。
【0051】
また、貯留ピット2に貯留された脱水汚泥に鉄分を添加する鉄添加工程が行われる。鉄添加工程において添加される鉄化合物としては、特に限定はされないが、例えば、酸化第二鉄(Fe)等の3価の鉄化合物が好ましい。つまり、Feのような3価の鉄化合物であれば、水分を含んだ状態の汚泥に添加しても発熱する虞がない。このため、汚泥がある程度水分を含んだこの時点で鉄分を添加することができる。Fe以外の3価の鉄化合物としては、例えば水酸化第二鉄(Fe(OH))、塩化第二鉄(FeCl)、硫酸第二鉄(Fe(SO)、ポリ硫酸第二鉄({(FeOH)(SO3−n/2})等が挙げられる。これらの化合物の一種または複数種を好適に用いることができる。本実施形態では、凝集剤としてのポリ硫酸第二鉄{(FeOH)(SO3−n/2}が添加された後に、さらに酸化第二鉄(Fe)が添加されることにより、鉄分添加工程が行われている。なお、添加する鉄分はFe等の3価の鉄化合物に限定されるものではなく、発熱等に留意しながら添加されるのであれば、例えば鉄(Fe)や二価の鉄化合物等であってもよい。
【0052】
ここで、特に限定はされないが、好ましくは、鉄(Fe)リン(P)シリカ(Si)比(Fe/(P+Si)[mol/mol])が0.2〜0.8の範囲であることが好ましい。このように、鉄リンシリカ比を調整する鉄リンシリカ比調整工程は、上記の塩基度調整工程及び鉄分添加工程を通じて、鉄リンシリカ比が上記の値を満たすようにすることにより実行される。なお、塩基度調整工程と鉄分添加工程とは同時に行われてもよい。
【0053】
塩基度、及び、鉄リンシリカ比を上記の範囲に調整することにより、溶融スラグが比較的低い融点で高い流動性を示す。このため、リン成分の揮散を効果的に抑制することができ、スラグ中のリン成分の濃度を高めることができる。さらに、汚泥中のリンがスラグのガラス構造中に取り込まれ易くなり、得られるスラグのリン含有量が高くなる。
【0054】
なお、塩基度調整工程及び鉄化合物添加工程は、必須の工程ではなく、必要に応じて行えばよい。また、塩基度調整工程及び鉄化合物添加工程は、溶融工程の前に行っていればよく、必ずしも上記の順序で行い必要はない。しかしながら、上記のように汚泥中に水分がある程度残っているこの時点(後述する乾燥工程の前)で行うことにより、汚泥への塩基度調整剤や鉄化合物の混合を容易に行うことができる。
【0055】
その後、脱水汚泥は、乾燥機に投入されて乾燥処理が施される。乾燥機としては、特に限定はされないが、例えば蒸気式の乾燥機を用いることができる。なお、特に限定はされないが、乾燥処理後の乾燥汚泥の含水率は一般的に、約20〜35wt%である。
【0056】
上記の処理が行われた下水汚泥は、コンベヤ機構等を介してホッパーから順次溶融炉に投入されて溶融処理が行われ、生成された溶融スラグは、その後冷却され固化される。溶融炉としては特に限定はされないが、表面溶融炉、電気式溶融炉、旋回式溶融炉、コークスベッド溶融炉等を用いることができる。本実施形態では表面溶融炉の一例である回転式表面溶融炉が用いられる。
【0057】
図2に示すように、回転式表面溶融炉5は、天井部52と、天井部52の周囲に立設された内筒53と底を有する外筒55とを備える。内筒53と外筒55とが共通軸心廻りに配置され、外筒55を共通軸廻りに回転させる回転機構(図示はせず)を備え、外筒55が内筒53に対して回転可能に構成されている。内筒53と外筒55との間には、汚泥が貯留される貯留部が形成され、天井部52には燃焼器51が設けられ、底部の中央には出滓口54が設けられている。
【0058】
燃焼器51は、燃料タンクから供給される燃料とブロワから供給される空気とを混合して燃焼させるバーナである。燃料の供給量を調整することにより、溶融スラグの温度が所期の温度となるよう、主燃焼室の温度が調整される。なお、溶融工程におけるスラグ温度は、特に限定はされないが、1200℃〜1400℃に調整されることが好ましい。また、特に限定はされないが、溶融工程における溶融炉中の雰囲気として、酸素過剰でない雰囲気又は還元雰囲気が好ましい。つまり、空気比が1.1未満であることが好ましく、1若しくは1未満であることが特に好ましい。また、特に限定はされないが、空気比の下限値としては、0.6程度であることが好ましい。このように、溶融工程における溶融炉中の雰囲気を還元雰囲気若しくは、酸素過多でない雰囲気にすることにより、重金属が酸化することが抑制される。この結果、重金属が揮散しやすくなり、スラグ中に残留する重金属を抑制することができる。また、還元剤として炭素を添加してもよい。
【0059】
蓄積部に投入された乾燥汚泥は、内筒53と外筒55の相対回転により主燃焼室56に供給される。汚泥の露出面が、燃焼器の燃焼火炎により溶融して、出滓口54から溶融スラグとして滴下排出される。溶融スラグは出滓口の下方に設けられた液体槽6の水で急冷され水砕スラグとなる。なお、液体槽に入れる液体は、油等水以外であってもよい。このように水や油等の液体により冷却することにより100℃/秒以上の急速な冷却、若しくは、さらなる急速な冷却が可能となる。このように液体による急速な冷却を行うことにより、冷却後のスラグが結晶化することが抑制され、その後の粉砕(後述する粉砕工程)が行いやすくなる。なお、液体による急速な冷却に変えて、冷却風等による冷却を行うなどであってもよく、冷却の態様は上記に限られるものではない。
【0060】
上記のように、回転式表面溶融炉で溶融工程が行われ、溶融工程で溶融した溶融スラグを冷却固化する冷却工程が行われる。本実施形態では、冷却工程が、溶融スラグを液体により急速に冷却する液体冷却工程を含む。
【0061】
冷却工程により固化された水砕スラグは、適宜、乾燥され、その後、粉砕工程を経て所望の粒径となるように粉砕される。粉砕工程において、ジョークラッシャやロールクラッシャ等の破砕機で5mm程度の粒径まで粉砕した後に、ロッドミルやボールミル等の粉砕機で粉砕する。粉砕物は篩等の選別機により、所望の粒径以下になったものを選別する。所望の粒径以上の粉砕物は、再度、粉砕機により粉砕される。上記の操作の繰り返しにより、所望の粉砕物が得られる。粉砕工程後の水砕スラグは、特に限定はされないが、粒径が100μm以上のスラグの含有率が10wt%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、粒径が100μm以上のスラグの含有率が5wt%以下であることが好ましく、粒径が100μm以上のスラグが含まれないことが特に好ましい。
【0062】
上記の工程により製造されたスラグ中における肥料成分の含有率の一例は後述の[実施例]に示すとおりである。なお、[実施例]の含有率は一例であり、本発明の種子コーティング材は[実施例]のスラグを主成分とするものに限定されるものではない。トータルP(T−P)濃度、及びク溶性P濃度ともに、一般的な肥料の値と同等以上の値を示している。このため、このスラグを主成分とする種子コーティング材は高い肥料効果を期待することができる。
【0063】
また、上記の工程により製造されたスラグに中の重金属濃度は非常に小さいものであり、スラグ中のP1wt%あたりの各重金属量が、Ni:0.005wt%以下、Cr:0.05wt%以下、Ti:0.02wt%以下、As:0.002wt%以下、Cd:0.000075wt%以下、Hg:0.00005wt%以下、Pb:0.003wt%以下を満たすことができる。
【0064】
その後、結合物質やその他の添加物が添加される。なお、結合物質等の添加物は必ずしもこの時点で添加する必要はない。つまり、種子コーティング材による種子のコーティングを行う際に添加してもよい。
【0065】
(種子コーティング材による種子のコーティング)
本発明の種子コーティング材による種子100のコーティングの一例について説明する。種子100は、例えばイネ種子、麦種子などの植物種子が適用可能である。イネ種子の品種は、ジャポニカ種・インディカ種などが使用できる。種子100にコーティング材を施したコーティング種子は、その比重が大きくなって水中に沈むため播種後には水によって流れ難くなり、また、スラグを主成分とするコーティングの硬い殻が形成されるため鳥害に強い特性を持つ。このような特性を所望の種子に付与したい場合、本発明の種子コーティング材は、あらゆる種子に適用することが可能である。以下、本実施形態ではイネ種子を使用した場合について説明する。
【0066】
図3に示すコーティング種子は、直播栽培に用いることができる。コーティングを行なう時期は、農閑期など、直播などの播種を行なう前であれば特に制限されるものではない。
【0067】
種子100はコーティング前に予め水に浸漬する浸種処理を行なうとよい。特に限定はされないが、浸種処理に用いる水の温度は15〜20℃程度が好ましく、浸漬時間は3〜4日程度が好ましい。特に限定はされないが、浸種処理における積算温度は40℃〜60℃程度が好ましく、積算温度がこのようになるように浸種処理に用いる水の温度及び浸漬時間を設定すればよい。
【0068】
浸種処理の後にコーティング材によるコーティング処理を行う。コーティング処理において、上記の種子をコーティング装置に投入する。この際、必要に応じて噴霧器等により、種子100に水分を供給してもよい。さらに、コーティング装置に種子コーティング材を投入する。コーティング装置にてこれらを攪拌しながら混合し、適宜、水を噴霧して種子の表面に種子コーティング材を付着させる。水により水溶性の接着剤が溶解し、この接着剤の作用により種子の表面にコーティング層101(図3を参照)が形成される。特に限定はされないが、コーティングに用いる種子コーティング材は、浸漬処理前の種子1000gに対して、300gから500g程度とすることができる。
【0069】
なお、コーティング処理に先立ち、接着剤等の添加物で種子の表面をコーティングする事前コーティング処理を行なってもよい。事前コーティング処理を行う場合、浸漬処理後の種子100を造粒機に投入する。この際、必要に応じて、噴霧器等により、種子100に水分を供給してもよい。さらに、造粒機に結合物質等のコーティングすべき添加物を投入する。造粒機にてこれらを攪拌しながら混合し、適宜、水を噴霧して種子の表面に添加物を付着させる。これにより、種子100の表面に結合物質層等の添加物層が形成される。その後、コーティング装置に種子コーティング材が投入され、コーティング処理が行われる。また、コーティング処理後に、さらに結合物質等の添加物でコーティングする仕上げコーティング処理を実行してもよい。事前コーティング処理及び仕上げコーティング処理は、必須の処理ではなく、必ずしも行わなくてもよい。また、いずれか一方のみを行ってもよい。
【0070】
上記のコーティング処理後に、乾燥処理を行なう。乾燥処理は、例えば、コーティング処理後の種子100をマット苗育成用の育苗箱に移して行なう。例えば、上記の種子100に例えばファン等により通風することにより、種子100を乾燥させる。これにより、金属コーティング種子(図3を参照)が完成する。なお、酸化・乾燥工程全体を通じてファン等により通風を行なってもよい。上記処理を経て図3に示すように、種子100の表面がコーティング層101で覆われたコーティング種子が製造される。
【0071】
なお、上記工程において用いるコーティング装置としては特に限定されないが、例えば、株式会社啓文社製作所製のコーティングマシンKC−151を好適に用いることができる。
【0072】
[実施例]
上記の方法により製造されたスラグ中におけるク溶性リンをはじめとする肥料成分の含有率を示す。なお、カッコ内は、上記の方法により製造した場合の下水汚泥スラグにおける同成分の一般的な含有率範囲である。なお、「T−」はトータルの含有率を示し、「C−」は、ク溶性の含有率を示す。
T−P: 29.8wt% (15〜30wt%)
C−P: 28.0wt% (15〜28wt%)
T−SiO: 14.8wt% (13.6〜33wt%)
T−CaO : 12.6wt% (9.8〜18.5wt%)
塩基度 : 0.7 (0.2〜1.2)
【0073】
上記から明らかなように、市販の肥料と同等以上のC−P含有率が得られた。また、その他の肥料成分についても、市販の肥料と同等若しくはそれ以上の含有率が得られた。このため、このスラグを主成分とする種子コーティング材は高い肥料効果を発揮する。また、T−Fe含有率が高いため得られたスラグは比重が大きくなる。このため、このスラグを主成分とする種子コーティング材は、種子にコーティングした際に高い重り効果を発揮する。
【符号の説明】
【0074】
100 種子
101 コーティング層
図1
図2
図3