【実施例】
【0057】
実施例1:合成培地中で幹細胞由来のOPCを培養するために適するアクリルコーティング表面の同定
1.コーティング調製物
アクリルコーティング表面は、様々なアクリレートモノマーのホモモノマー又はコポリマーから調製した。コポリマーのために、2つの異なるアクリレートモノマーを用いた。合計24のホモポリマーと552のコポリマーの組合せをウェルに加えた。簡単にいうと、モノマーを、エタノールとIRGACURE819光誘導因子に1:9:0.01(モノマー[容量]/エタノール[容量]/光誘導因子[重量])の比に希釈し、製剤を調製した。コポリマーのために、2つの異なるモノマーを、70:30又は30:70の容量比で混合した。コポリマー製剤において、総モノマー[容量]/エタノール[容量]/光誘導因子[重量]は、依然として1:9:0.01の比率のままである。製剤は、バイオテック社のPrecessionマイクロプレートピペッティングシステムを用いて、プラズマ処理した環状オレフィンコポリマー96ウェルプレート(コーニング・ライフ・サイエンスの開発グループによって提供される)のウェルに5μLの容量で置いた。各ウェルに、所定のホモポリマー又はコポリマーの組合せを入れ、いくつかのウェルはポジティブコントロールとしてのマトリゲルにてコートした。アクリレートモノマーにてコートしたウェルについて、室温で3時間蒸発させることによってエタノール溶媒を取り除き、>99%のエタノールを取り除いた。次いで、コーティングは、N
2浄化ボックス(溶融シリカ窓を有する)中で1分間、13mW/cm
2パルス(100Hz)紫外光(Xenon RC−801)にて硬化した。硬化後、洗浄工程を行った。簡単にいうと、96ウェルプレートの各ウェルの表面を、200μLの>99%エタノールと1時間インキュベートし、その後200μLの水と終夜インキュベートして、抽出されうるものを移動させた。最後に、表面を空気乾燥し、その後殺菌した。
【0058】
2.細胞調製物とアッセイ
hESC由来のOPCのために、H1 hESCコロニーを、200U/mlのコラゲナーゼIVを用いて分離し、コーニング超低接着(ULA)プレートへ移し、胚様体(EB)を形成させた。神経分化を誘導するために、EBを、上皮細胞増殖因子(EGF)、FGF-2(線維芽細胞増殖因子-2)及びレチノイン酸(RA)にて9日間処理した後に、EGFのみにて18日間処理した。(基本培地:インスリン、トランスフェリン、プロゲステロン、プトレシン、セレニウム、トリヨードチロイジン(シグマ社)及びB27(インビトロゲン社)を添加した限定培地)。
【0059】
この時点で2つの異なるアクリレート再プレーティング計画を試験した。第一プロトコールでは、28日目に、EBを、96ウェルプレートの異なるアクリル表面に又はポジティブコントロールとしてのマトリゲルコートウェルに再プレーティングした。7日後(35日目)に、細胞を4%PFAにて固定した。第二プロトコールでは、28日目に、EBを、マトリゲル上に再プレートし、7日間培養し、次いで(35日目)96ウェルプレートの異なるアクリル表面に又はポジティブコントロールとしてのマトリゲルコートウェルに再プレーティングした。7日後(42日目)に、細胞を4%PFAにて固定した。
【0060】
両プロトコールからの細胞を、OPC特異的マーカー、ネスチン、Oliglについて免疫染色し、4’-6-ジアミジノ-2-フェニルインドールDAPI(核染色)にて対比染色した。
【0061】
アレイスキャンにて各プレートをスキャンした後に、各表面について以下の定量分析を実施した。1) TNC:DAPIポジティブ細胞数に基づいた細胞の総数、2) TNO:olig1ポジティブ細胞に基づいたOPCの総数。
【0062】
3.結果
試験した表面のごく一部だけが合成培地における接着とEBからの細胞増殖を支持したことが明らかとなった。
図3は、分化の28日目から35日目の間の、選択したアクリレートコート表面と、ポジティブコントロールのマトリゲル表面上に再プレーティングした後に免疫染色したhES細胞由来のOPCの蛍光画像である。
図4は、分化の28日目から35日目の間、並びに35日目から42日目の間の、選択したアクリレートコート表面と、ポジティブコントロールのマトリゲル表面上に2回再プレーティングした後に免疫染色したhES細胞由来のOPCの蛍光画像である。免疫染色画像は、分化した細胞がいくつかのアクリレートコーティング表面上でOPCマーカーを発現したことを示した。アクリレート表面上で増殖した細胞において観察される染色は、マトリゲルコントロール表面上で増殖した細胞において観察される染色と類似していた。合成培地において分化したヒトOPCを支持したコーティング表面の例を表2に挙げる。ここで、モノマー(2)に対するモノマー(1)の容量比は70:30である。
【0063】
【表2】
【0064】
図5A−Fは、ポジティブコントロールとしてのマトリゲル
TM、及び本発明の表面の選択した実施態様である22−2(B)、22−3(C)、133−4(D)、24−10(E)及び72−2(F)上で増殖するhES細胞由来OPCの顕微鏡写真から撮影した画像である。
図5A−Fは、ヘキスト核染色にて染色された、マトリゲル又は上記の本発明の表面の実施態様上のhESC由来のOPCの核染色を示す。
図5A−Fは、本発明の表面の実施態様は、合成培地におけるhESC由来OPCの接着と増殖を支持する好適な表面を提供することを表す。他の試験したホモポリマーとコポリマーの組み合わせについては、先の表2に挙げていない組み合わせのものであり、表面へのEB接着やEBからの細胞増殖は観察されなかった。
【0065】
ゆえに、幹細胞由来のオリゴデンドロサイト前駆細胞を培養するための合成表面の実施態様が開示される。当業者は、本明細書中に記述されるアレイ、組成物、キット及び方法が、開示されるもの以外の実施態様によっても実施されうることを理解するであろう。開示された実施態様は例示するためのものであって、限定するためのものではない。
【0066】
本発明は以下の態様を包含する。
(1)合成培地中でオリゴデンドロサイト前駆細胞を培養するための細胞培養物品であって、
表面を有する基体と、
該表面上に配置されるポリマー物質とを具備し、このとき該ポリマー物質が、
(i) テトラ(エチレングリコール)ジアクリレートから形成されるホモポリマー、又は、
(ii)
テトラ(エチレングリコール)ジアクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
グリセロールジメタクリレートとテトラ(エチレングリコール)ジアクリレート、
グリセロールジメタクリレートとトリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレートとジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレートとテトラエチレングリコールジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレートと1,6-ヘキサンジオールプロポキシレートジアクリレート、
グリセロールジメタクリレートと1,6-ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、
トリ(エチレングリコール)ジメタクリレートとトリメチロールプロパントリアクリレート、
1,4-ブタンジオールジメタクリレートと1,9 ノナンジオールジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオールジアクリレートとトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオールジアクリレートと1,6-ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオールジアクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
ネオペンチルグリコールプロポキシレート(1PO/OH)ジアクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
ジ(エチレングリコール)ジメタクリレートとネオペンチルグリコールジアクリレート、
ジ(エチレングリコール)ジメタクリレートとトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールジアクリレート、
テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートと1,4-ブタンジオールジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオールプロポキシレートジアクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
ネオペンチルグリコールジアクリレートとトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールジアクリレート、
ネオペンチルグリコールジアクリレートと1,6-ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、
ネオペンチルグリコールジアクリレートとポリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、
トリメチロールプロパンエトキシレート(1EO/OH)メチルジアクリレートと2,2,3,3,4,4,5,5 オクタフルオロ 1,6 ヘキサンジオールジアクリレート、
ネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレートとジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレートと1,4-ブタンジオールジメタクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレートとジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレートとネオペンチルグリコールジアクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレートとネオペンチルグリコールジメタクリレート、
2,2,3,3,4,4,5,5 オクタフルオロ 1,6 ヘキサンジオールジアクリレートとテトラ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
2,2,3,3,4,4,5,5 オクタフルオロ 1,6 ヘキサンジオールジアクリレートとネオペンチルグリコールジアクリレート、又は
ポリ(プロピレングリコール)ジアクリレートとグリセロール 1,3-ジグリセロレートジアクリレート
から形成されるコポリマーを含むものである、細胞培養物品。
(2)揮発性有機溶媒に一ないし複数のモノマーを希釈し、
希釈したモノマーを物品の基体表面上に沈着させ、
実質的にすべての溶媒を蒸発させ、そして、
モノマーを重合化させて、表面に接着したポリマー層を形成させる
といった工程によって製造される、(1)に記載の物品。
(3)揮発性溶媒がエタノールである、(2)に記載の物品。
(4)物品の表面上に配置されたポリマー物質がおよそ5mm
2より大きな表面領域を有する、(1)に記載の物品。
(5)さらにウェルを具備し、このとき該ウェルにポリマー物質が配置される基体の表面がある、(1)に記載の物品。
(6)物品がマルチウェルプレート、シャーレ、ビーカー、チューブ及びフラスコからなる群から選択される、(5)に記載の物品。
(7)オリゴデンドロサイト前駆細胞の培養物であって、
表面上に配置されたポリマー物質を含む物品と、
ポリマー物質上に配置されたオリゴデンドロサイト前駆細胞と、
該オリゴデンドロサイト前駆細胞が培養される培養培地とを具備し、このとき該ポリマー物質が、
(i) テトラ(エチレングリコール)ジアクリレートから形成されるホモポリマー、又は、
(ii)
テトラ(エチレングリコール)ジアクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
グリセロールジメタクリレートとテトラ(エチレングリコール)ジアクリレート、
グリセロールジメタクリレートとトリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレートとジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレートとテトラエチレングリコールジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレートと1,6-ヘキサンジオールプロポキシレートジアクリレート、
グリセロールジメタクリレートと1,6-ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、
トリ(エチレングリコール)ジメタクリレートとトリメチロールプロパントリアクリレート、
1,4-ブタンジオールジメタクリレートと1,9 ノナンジオールジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオールジアクリレートとトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオールジアクリレートと1,6-ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオールジアクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
ネオペンチルグリコールプロポキシレート(1PO/OH)ジアクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
ジ(エチレングリコール)ジメタクリレートとネオペンチルグリコールジアクリレート、
ジ(エチレングリコール)ジメタクリレートとトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールジアクリレート、
テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートと1,4-ブタンジオールジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオールプロポキシレートジアクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
ネオペンチルグリコールジアクリレートとトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールジアクリレート、
ネオペンチルグリコールジアクリレートと1,6-ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、
ネオペンチルグリコールジアクリレートとポリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、
トリメチロールプロパンエトキシレート(1EO/OH)メチルジアクリレートと2,2,3,3,4,4,5,5 オクタフルオロ 1,6 ヘキサンジオールジアクリレート、
ネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレートとジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレートと1,4-ブタンジオールジメタクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレートとジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレートとネオペンチルグリコールジアクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレートとネオペンチルグリコールジメタクリレート、
2,2,3,3,4,4,5,5 オクタフルオロ 1,6 ヘキサンジオールジアクリレートとテトラ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
2,2,3,3,4,4,5,5 オクタフルオロ 1,6 ヘキサンジオールジアクリレートとネオペンチルグリコールジアクリレート、又は、
ポリ(プロピレングリコール)ジアクリレートとグリセロール 1,3-ジグリセロレートジアクリレート
から形成されるコポリマーを含むものである、培養物。
(8)オリゴデンドロサイト前駆細胞が幹細胞由来のオリゴデンドロサイト前駆細胞である、(7)に記載の培養物。
(9)オリゴデンドロサイト前駆細胞がヒト胚性幹細胞由来のオリゴデンドロサイト前駆細胞である、(7)に記載の培養物。
(10)オリゴデンドロサイト前駆細胞の培養方法であって、
オリゴデンドロサイト前駆細胞を含む懸濁物をポリマー物質上に沈着させ、そして、
沈着させたオリゴデンドロサイト前駆細胞を細胞培養培地中で培養することを含み、このとき該ポリマー物質が、
(i) テトラ(エチレングリコール)ジアクリレートから形成されるホモポリマー、又は、
(ii)
テトラ(エチレングリコール)ジアクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
グリセロールジメタクリレートとテトラ(エチレングリコール)ジアクリレート、
グリセロールジメタクリレートとトリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレートとジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレートとテトラエチレングリコールジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレートと1,6-ヘキサンジオールプロポキシレートジアクリレート、
グリセロールジメタクリレートと1,6-ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、
トリ(エチレングリコール)ジメタクリレートとトリメチロールプロパントリアクリレート、
1,4-ブタンジオールジメタクリレートと1,9 ノナンジオールジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオールジアクリレートとトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオールジアクリレートと1,6-ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオールジアクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
ネオペンチルグリコールプロポキシレート(1PO/OH)ジアクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
ジ(エチレングリコール)ジメタクリレートとネオペンチルグリコールジアクリレート、
ジ(エチレングリコール)ジメタクリレートとトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールジアクリレート、
テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートと1,4-ブタンジオールジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオールプロポキシレートジアクリレートとネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、
ネオペンチルグリコールジアクリレートとトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールジアクリレート、
ネオペンチルグリコールジアクリレートと1,6-ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、
ネオペンチルグリコールジアクリレートとポリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、
トリメチロールプロパンエトキシレート(1EO/OH)メチルジアクリレートと2,2,3,3,4,4,5,5 オクタフルオロ 1,6 ヘキサンジオールジアクリレート、
ネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレートとジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレートと1,4-ブタンジオールジメタクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレートとジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレートとネオペンチルグリコールジアクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレートとネオペンチルグリコールジメタクリレート、
2,2,3,3,4,4,5,5 オクタフルオロ 1,6 ヘキサンジオールジアクリレートとテトラ(エチレングリコール)ジメタクリレート、
2,2,3,3,4,4,5,5 オクタフルオロ 1,6 ヘキサンジオールジアクリレートとネオペンチルグリコールジアクリレート、又は、
ポリ(プロピレングリコール)ジアクリレートとグリセロール 1,3-ジグリセロレートジアクリレート
から形成されるコポリマーを含むものである、方法。
(11)細胞培養培地が合成培地である、(10)に記載の方法。
(12)オリゴデンドロサイト前駆細胞が幹細胞由来のオリゴデンドロサイト前駆細胞である、(10)に記載の方法。
(13)オリゴデンドロサイト前駆細胞がヒト胚性幹細胞由来のオリゴデンドロサイト前駆細胞である、(10)に記載の方法。