特許第6366532号(P6366532)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6366532フィルタベント方法、フィルタベント装置及び原子力プラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366532
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】フィルタベント方法、フィルタベント装置及び原子力プラント
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/02 20060101AFI20180723BHJP
   G21F 9/22 20060101ALI20180723BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20180723BHJP
   G21C 9/004 20060101ALI20180723BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   G21F9/02 521A
   G21F9/22 A
   G21F9/06 551Z
   G21C9/004
   B01J23/42 M
   G21F9/02 511C
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-65952(P2015-65952)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-186427(P2016-186427A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2017年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】和田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】長山 位
(72)【発明者】
【氏名】石田 一成
(72)【発明者】
【氏名】田中 基
(72)【発明者】
【氏名】野下 健司
(72)【発明者】
【氏名】太田 信之
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62-276499(JP,A)
【文献】 特開平7-209488(JP,A)
【文献】 特表平8-507961(JP,A)
【文献】 特表2008-501123(JP,A)
【文献】 特開2011-200771(JP,A)
【文献】 特表2015-505718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/02
B01J 23/42
G21C 9/004
G21F 9/06
G21F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントの過酷事故時に放射性ヨウ素を含むガスを、スクラビング容器内の、白金族金属を含むナノ粒子が存在する水中に排出し、
前記水中において、前記放射性ヨウ素を、前記白金族金属を含むナノ粒子に含まれる前記白金族金属によって還元し、
前記還元によって生成された水溶性のヨウ素を前記スクラビング容器内の前記水中に保持することを特徴とするフィルタベント方法。
【請求項2】
前記水溶性のヨウ素の生成は、前記水中の前記放射性ヨウ素に、前記水中に存在する前記白金族金属を含むナノ粒子に含まれる前記白金族金属、及び前記水に含まれる還元剤によって行われる請求項1に記載のフィルタベント方法。
【請求項3】
前記還元剤として前記過酷事故時に生成されて前記水中に排出される前記ガスに含まれる水素を用いる請求項2に記載のフィルタベント方法。
【請求項4】
前記スクラビング容器内の前記水のpHが、7〜15の範囲内にある請求項1または2に記載のフィルタベント方法。
【請求項5】
前記水のpHが測定される請求項2に記載のフィルタベント方法。
【請求項6】
前記白金族金属を含むナノ粒子が、シリカ、チタニア及びジルコニアの中から選ばれた一種の表面に白金族金属が添着された白金族金属を含むナノ粒子である請求項1または2に記載のフィルタベント方法。
【請求項7】
前記白金族金属を含むナノ粒子の粒径が1nm〜5nmの範囲内にある請求項1に記載のフィルタベント方法。
【請求項8】
原子力プラントの過酷事故時に放射性ヨウ素を含むガスを、スクラビング容器内の、銀ナノ粒子が存在する水中に排出し、
前記水中において、前記放射性ヨウ素が前記銀ナノ粒子に含まれる銀と反応してヨウ化銀が生成されることを特徴とするフィルタベント方法。
【請求項9】
スクラビング容器と、前記スクラビング容器に充填された水に含まれる白金族金属を含むナノ粒子と、前記スクラビング容器内に挿入されて前記白金族金属を含むナノ粒子が存在する前記水に一端部が浸漬される、放射性ヨウ素を導く第1配管とを備えたことを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項10】
前記白金族金属を含むナノ粒子が、シリカ、チタニア及びジルコニアの中から選ばれた一種の表面に白金族金属が添着された白金族金属を含むナノ粒子である請求項9に記載のフィルタベント装置。
【請求項11】
前記白金族金属を含むナノ粒子の粒径が1nm〜5nmの範囲内にある請求項9または10に記載のフィルタベント装置。
【請求項12】
フィルタが前記スクラビング容器内で前記水の水面よりも上方に配置される請求項9に記載のフィルタベント装置。
【請求項13】
pH計が設けられて前記水が流入する第2配管が前記スクラビング容器に接続される請求項9に記載のフィルタベント装置。
【請求項14】
原子炉格納容器と、請求項9ないし13のいずれか1項に記載されたフィルタベント装置とを備え、
前記フィルタベント装置の前記第1配管が前記原子炉格納容器に接続されて前記原子炉格納容器内の空間に連絡されることを特徴とする原子力プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタベント方法、フィルタベント装置及び原子力プラントに係り、特に、原子力プラントの苛酷事故後のベント時に原子炉格納容器から外部への放射性物質(特に、放射性ヨウ素)の放出を抑制するのに好適なフィルタベント方法、フィルタベント装置及び原子力プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)では、原子炉格納容器内に原子炉圧力容器が配置され、BWRプラントの運転中、原子炉格納容器内のドライウェルの雰囲気が窒素ガスに置換されている。さらに、万が一の冷却材喪失事故の発生に備えて、非常用ガス処理系及び可燃性ガス濃度制御系が原子炉格納容器内のドライウェルに連絡されている。可燃性ガス濃度制御系は、水素と酸素を反応させる触媒を収納した再結合器を有する。
【0003】
例えば、原子炉圧力容器に接続された配管等が原子炉格納容器内で破断する冷却材喪失事故が発生した場合には、原子炉圧力容器内の高温高圧の冷却水が、配管等の破断箇所から高温の蒸気となって原子炉格納容器内のドライウェルに放出される。原子炉圧力容器内の冷却水の水位が低下し、高温になった燃料棒において水−ジルコニウム反応生じて多量の水素ガスが発生する。また、放出された放射性物質によって生じた水の放射線分解によって水素ガスと共に酸素ガスも発生する。水素ガス及び酸素ガスは、ドライウェル内の窒素ガス及び水蒸気等のガスと共に可燃性ガス濃度制御系に流入する。水素ガス及び酸素ガスは、可燃性ガス濃度制御系の再結合器内の触媒の作用により化学反応を生じて再結合され、水(水蒸気)になる。また、原子炉圧力容器内の冷却水の水位の低下によって、非常用炉心冷却系が作動し、原子炉圧力容器内の炉心に冷却水が注入される。このように、冷却材喪失事故が発生した場合においても、BWRプラントの安全が維持される。
【0004】
一方、過酷事故時によって電源喪失が生じ水素の処理のために設置されている非常用ガス処理系及び可燃性ガス濃度制御系が機能しない場合には、水素の発生が続くと、原子炉格納容器の内圧が上昇して内圧の制限値に近づく。このような過酷事故状況下で原子炉格納容器内の圧力上昇を抑える技術であるフィルタベント装置が、BWRプラントに設けられる。フィルタベント装置の例が、特開平3−209193号公報、特開平9−101393号公報、特開2014−44118号公報及び特開平7−209488号公報等に記載されている。
【0005】
特開平3−209193号公報では、二基のBWRプラントにおいて、他方のBWRプラントの原子炉格納容器内に形成される圧力抑制室の圧力抑制プールをフィルタベント装置として利用する。原子力発電所内に設置された複数基のBWRプラントのうち或るBWRプラントで過酷事故が発生した場合には、このBWRプラントの原子炉格納容器内のドライウェルの放射性核種を含むガスが、ベント管を介してその原子炉格納容器内の圧力抑制室に形成された圧力抑制プールの冷却水中を上昇し、一部の放射性核種が冷却水中で除去された後に圧力抑制室内の、そのプール上方に形成されたウェットウェルに達する。放射性核種を含むそのガスは、さらに、他のBWRプラントの圧力抑制室内の圧力抑制プールの冷却水中に放出されてこの冷却水で放射性核種を除去した後、後者の圧力抑制室内のウェットウェルを通って排気筒から外部環境に放出される。
【0006】
特開平9−101393号公報では、過酷事故時において、BWRプラントの原子炉格納容器内の圧力抑制室の、圧力抑制プール上方のウェットウェルに達した放射性核種を含むガスを、復水貯蔵槽内の水中に放出し、その放射性核種を水中で除去する。そして、放射性核種が除去されたガスが、ベント配管を通して外部の環境に放出される。
【0007】
特開2014−44118号公報に記載されたフィルタベント装置は、BWRプラントの原子炉格納容器内のドライウェル、及び圧力抑制室内で圧力抑制プールの上方に形成されたウェットウェルのそれぞれに連絡されるフィルタ容器(ベントタンク)を有し、このフィルタ容器内にプール水を充填し、放射性核種を捕集するフィルタをフィルタ容器内でプール水上方の気相部に設置している。過酷事故時において、ドライウェル及びウェットウェル内の放射性核種を含むガスがフィルタ容器内のプール水中に放出され、放射性核種の一部がプール水で除去され、その後、フィルタ容器内の気相部に達したガスに含まれる放射性核種がフィルタ容器内のフィルタによって除去される。
【0008】
特開平7−209488号公報に記載されたフィルタベント装置は、特開2014−44118号公報に記載されたフィルタベント装置と同様に、内部にフィルタを配置して水が充填されたスクラバタンク(ベントタンク)を有している。特開平7−209488号公報では、さらに、湿分除去層及び活性炭フィルタを有する捕集槽が、スクラバタンクの下流に配置され、スクラバタンクに接続される。
【0009】
非特許文献1及び非特許文献2も、フィルタベント装置を説明している。
【0010】
特開平4−194791号公報は、原子炉の事故時に、原子炉圧力容器から原子炉格納容器内に放出された放射性ヨウ素を除去するために、原子炉格納容器内にチオ硫酸ナトリウムを含む水をスプレイすることを記載している。
【0011】
特開2014−101240号公報及び特開2014−163811号公報は、貴金属酸化物を含むナノ粒子であるコロイド粒子について説明している。また、特開2005−10160号公報は、白金、パラジウム、オスミウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、これらの金属の酸化物、窒化物、ホウ化物、リン化物及び混合物の一種以上を含む触媒ナノ粒子を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平3−209193号公報
【特許文献2】特開平9−101393号公報
【特許文献3】特開2014−44118号公報
【特許文献4】特開平7−209488号公報
【特許文献5】特開平4−194791号公報
【特許文献6】特開2014−101240号公報
【特許文献7】特開2014−163811号公報
【特許文献8】特開2005−10160号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】(社)日本機械学会動力エネルギーシステム部門 第18回動力・エネルギー技術シンポジウムOS8-2 「軽水炉・新型炉・原子力安全」“格納容器破損防止対策とフィルタドベント設置の考え方”。
【0014】
【非特許文献2】The OECD Nuclear Energy Agency, “Specialist meeting on filtered containment venting systems”, CSNI report 148 (1988).
【非特許文献3】NUREG/CR-5950(Iodine evolution and pH control)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特開2014−44118号公報及び特開平7−209488号公報に記載されたフィルタベント装置では、ベントタンクの内部に、供給されるガスに含まれている放射性核種を除去する水(スクラビング水)及びフィルタが収められている。ベントタンクに流入したガスは始めにスクラビング水中に放出され、スクラビング水中で、ガスに含まれるエアロゾル、及び水に溶解する成分が取り除かれる。ベントタンク内でスクラビング水から流出したガスに含まれる、スクラビング水に捕捉されなかった微粒子及びガス成分が、ベントタンク内のフィルタで除去される。このフィルタは、物理的に前述の物質を除去するタイプ、化学的な反応によりその物質を除去するタイプ、及び両者の性能を有するタイプがある。
【0016】
このスクラビング水には、放射性ヨウ素を取り除くためにアルカリ性の物質が添加される。このアルカリ性の物質の代表例は、水酸化ナトリウムである。
【0017】
NUREG/CR-5950(Iodine evolution and pH control)では、放射線照射下の水中のヨウ素はI2とI-の間に平衡が成立しており、その水のpHが酸性側にある場合にはI2の比率が増加すること記載している。この平衡では、(1)式及び(2)式のように、I2、I-、HOI及びIO-のヨウ素化合物の間の平衡反応を考慮しており、各成分の分配比はそれらの成分が存在する水のpHに依存する。
【0018】
2 + OH- = I-+ HOI …(1)
HOI = IO-+ H+ …(2)
水酸化ナトリウムなどの添加によって水のpHをアルカリ側にすると、水中におけるI2の存在比が低下し、I-及びIO-のイオン成分として水中にヨウ素が安定に溶解する。これらの平衡関係に基いて、放射線照射下での平衡定数を用い、初期に水中に添加したI-濃度に対するその水中での分子状ヨウ素I2濃度の割合を計算した結果を、図3に示す。図3に示された計算結果は、水中における初期のI-濃度を1×10-7mol/L、1×10-6mol/L及び1×10-5mol/Lとし、pHを1から7まで変化させて計算して得られた。ヨウ素が溶解する水のpHが低いほど、また、初期のI-濃度が高いほど、I2の割合が高くなる。しかし、ヨウ素が溶解する水のpHが7程度では、I2の割合はほとんど0に近くなる。
【0019】
水中のI-がひとたび分子状のI2になると、このI2は、揮発性のため、その水の上方に形成される気相に移行する。気相に移行したI2は、そのままベント時に外部環境に放出され、または、ベントタンク及びベントタンクに接続されたベント配管のそれぞれの内面に塗装されたペイントなどの有機物と反応して有機ヨウ素の形態に変わってベント時に外部環境に放出される。このため、生成されるI2の割合を低下させる対応、または、気相のヨウ素を捕捉する別の手段の設置が必要となる。
【0020】
したがって、放射線の存在下で水のpHがアルカリになっている条件では、スクラビング水中にヨウ素を安定に保持することが可能である。スクラビング水が酸性になってベントタンク内での放射性ヨウ素の除去率が低下することを防ぐために、通常は、大過剰の水酸化ナトリウムをスクラビング水に溶解し十分な裕度をもった管理がなされている。
【0021】
さらにヨウ素を安定に捕捉するために、スクラビング水にチオ硫酸ナトリウムが添加される。チオ硫酸ナトリウムはヨウ素の滴定に使用されるように、(3)式の反応でヨウ素と効率的に反応する。
【0022】
2 + 2S232- → 2I- + S462- …(3)
ところが、チオ硫酸ナトリウムは還元剤であるため、熱及び放射線の環境下では、チオ硫酸ナトリウム自体の酸化が促進され、スクラビング水中のチオ硫酸ナトリウムが消費される。このため、大過剰の量のチオ硫酸ナトリウムがスクラビング水内に溶解されるが、長期的にはチオ硫酸ナトリウムが消費されるので、それの補充が必要である。
【0023】
本発明の目的は、放射性ヨウ素をスクラビング容器内の水中により長い時間保持することができるフィルタベント方法、フィルタベント装置及び原子力プラントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、原子力プラントの過酷事故時に放射性ヨウ素を含むガスを、スクラビング容器内の、白金族金属を含むナノ粒子が存在する水中に排出し、
その水中において、放射性ヨウ素を、白金族金属を含むナノ粒子に含まれる白金族金属によって還元し、
この還元によって生成された水溶性のヨウ素をスクラビング容器内の水中に保持することにある。
【0025】
原子力プラントの過酷事故時に放射性ヨウ素を含むガスを、スクラビング容器内の、白金族金属を含むナノ粒子が存在する水中に排出するため、その水中において、流入した放射性ヨウ素が白金族金属を含むナノ粒子に含まれる白金族金属によって還元されて水溶性の放射性ヨウ素に変換される。このため、水溶性の放射性ヨウ素をスクラビング容器内の水中により長い時間保持することができる。それ故に、過酷事故時に外部環境に排気される放射性ヨウ素の量を著しく低減することができる。
【0026】
スクラビング容器内の水中に還元剤が存在すると、金族金属を含むナノ粒子に含まれる白金族金属による、上記の水溶性の放射性ヨウ素への変換が促進される。この還元剤として過酷事故時に生成される水素を用いることが望ましい。
【0027】
また、白金族金属を含むナノ粒子として担体である、シリカ、チタニア及びジルコニアの中から選ばれた一種の酸化物粒子の表面に、白金族金属(白金、パラジウムまたはロジウム)を担持してなる白金族金属を含むナノ粒子を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、放射性ヨウ素をスクラビング容器内の水中により長い時間保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の好適な一実施例である実施例1のフィルタベント装置を適用した沸騰水型原子力プラントの構成図である。
図2図1に示されたフィルタベント装置の詳細構成図である。
図3】放射線存在下でのヨウ素の化学形態のpH依存性を示す説明図である。
図4】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用された実施例2のフィルタベント装置の詳細構成図である。
図5】本発明の好適な他の実施例である実施例3のフィルタベント装置を適用した沸騰水型原子力プラントの構成図である。
図6図5に示されたフィルタベント装置の詳細構成図である。
図7】本発明の好適な他の実施例である実施例4のフィルタベント装置を適用した沸騰水型原子力プラントの構成図である。
図8図7に示されたフィルタベント装置の詳細構成図である。
図9】本発明の好適な他の実施例である実施例5のフィルタベント装置を適用した加圧水型原子力プラントの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明者らは、放射性ヨウ素をスクラビング容器内の水中により長い時間保持することができるフィルタベント方法を検討した。この検討により得られた知見を以下に説明する。
【0031】
白金族貴金属を含むナノ粒子がスクラビング容器内の水中に存在することによって、過酷事故発生時に、原子炉格納容器から配管を通してスクラビング容器内の水中に放出されたガスに含まれる放射性ヨウ素I2が白金族貴金属を含むナノ粒子の白金族金属(例えば、白金、パラジウムまたはロジウム)の作用によって水中で安定な放射性のI-(水溶性の放射性ヨウ素)に変換される。水中に放出されたガスに含まれる放射性ヨウ素の一部は、水中に存在する、白金族金属を含むナノ粒子の白金族金属に吸着される。このため、スクラビング容器内の水中に放出された放射性ヨウ素I2は、I-の化学形態でスクラビング容器内の水中に捕捉されてより長い時間保持され、また、水中に存在する、白金族金属を含むナノ粒子の白金族金属に吸着されて水中により長い時間保持される。スクラビング容器内の水中から外部環境に放出される放射性ヨウ素の量が長期間に亘って著しく低減される。触媒として作用する白金族金属は、その水中において消費され難く、スクラビング容器内の水中へのナノ粒子としての補充が不要である。
【0032】
白金族金属を含むナノ粒子は、白金族金属自体のナノ粒子であってもよく、担体である、シリカ、チタニア及びジルコニアの中から選ばれた一種の酸化物粒子の表面に、白金族金属(白金、パラジウムまたはロジウム)を添着してなるナノ粒子であってもよい。
【0033】
スクラビング容器内の水中に還元剤が存在すれば、その水中に放出された放射性ヨウ素は、その還元剤及び白金族貴金属を含むナノ粒子の白金族金属の作用によって速やかに水中で安定な化学形態であるI-に変換される。その還元剤として、過酷事故時に発生して原子炉格納容器内に放出される水素が用いられる。原子炉格納容器内に放出された水素は、放射性ヨウ素I2を含むガスと共にスクラビング容器内の水中に供給される。過酷事故時に原子炉格納容器内に放出される水素を還元剤として用いることにより、スクラビング容器内の水中に還元剤を別途供給する必要がなく、苛酷事故後に人が近づき難いあるいは還元剤をその水中に補充しにくい条件下においても、スクラビング容器内の水中に容易に還元剤を供給することができる。
【0034】
白金族金属は水素の酸化触媒として知られており、過酷事故時に原子炉圧力容器内で発生した水素が放射性ヨウ素I2と共にスクラビング容器内の水中に流入すると、(4)式で表わされる反応が、白金族金属の作用によりその水中で生じ、I-が生成される。
【0035】
2 + H2 → 2I- + 2H+ …(4)
原子炉格納容器から排出されたガスに含まれる水素がスクラビング容器内の水中に流入すると、この水中に存在する白金族金属を含むナノ粒子の白金族金属(白金、パラジウムまたはロジウム)は水素の触媒として作用し、水素が放電してプロトンと電子を生成するときに、生成された電子によって、そのガスと共に水中に排出された放射性ヨウ素がI-に還元される。
【0036】
白金族金属を含むナノ粒子は、前述したように、白金族金属の白金、パラジウム及びロジウムの中から選ばれた少なくとも一種の物質の、ナノメートルサイズの粒径を有する粒子、または、担体である、シリカ、チタニア及びジルコニアの中から選ばれた一種の酸化物粒子の表面に、白金族金属(白金、パラジウムまたはロジウム)を担持してなる、ナノメートルサイズの粒径を有する粒子である。ナノメートルサイズの粒径を有する白金族金属を含むナノ粒子は、スクラビング容器内の水中に安定に分散し、その水中で沈殿し難い。白金族金属を含むナノ粒子の粒径は、好ましくは、1nm〜5nmの範囲内に存在することが望ましい。
【0037】
ナノメートルサイズの粒径を有する白金族金属を含むナノ粒子が、スクラビング容器内の水中に安定に分散するため、水中に均一に分散し、水中に供給された前述の放射性ヨウ素I2を速やかに還元することができ、水中において、安定なI-を効率良く生成することができる。白金族金属を含むナノ粒子は、ナノ粒子化されているため、同一重量の触媒に対して表面積が粒子の半径の逆数に比例して増大し、放射性ヨウ素I2の還元反応の効率が高くなる。
【0038】
白金族金属を含むナノ粒子の一例である貴金属酸化物を含むナノ粒子が、前述したように、特開2014−101240号公報及び特開2014−163811号公報に記載されている。貴金属酸化物を含むナノ粒子(コロイド粒子)は、例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸塩の水溶液を作製し、このヘキサヒドロキソ白金酸塩の水溶液を水素イオン型陽イオン交換樹脂層に通水してその水溶液に含まれる陽イオンを水素イオンに置換し、これにより、ヘキサヒドロキソ白金酸懸濁液を生成し、生成されたその懸濁液にガンマ線を照射することにより製造される。
【0039】
白金族金属の替りに銀を用いてもよい。銀は、(5)式で表わされる反応によりヨウ素I-と反応して難溶性のAgIを形成することは古くから知られている。
【0040】
- + Ag+ → AgI …(5)
そこで、銀がスクラビング容器内の水中に存在していれば、過酷事故時において排気によって放射性ヨウ素がその水中に流入したときに、水中の銀と放射性ヨウ素が速やかに反応して水に溶けにくい塩であるAgIが生成され、放射性ヨウ素をスクラビング容器内の水中に保持することが可能になる。生成されたAgIはスクラビング容器内の水中で沈殿する。好ましくは、銀は、ナノメートルサイズの粒径を有する、銀を含むナノ粒子としてスクラビング容器内の水中に分散させることが望ましい。銀を含むナノ粒子がスクラビング容器内の水中に安定に分散し、過酷事故時において放射性ヨウ素を含むガスがその水中に流入したとき、銀を含むナノ粒子の銀が速やかにヨウ素と反応してAgIを生成し、放射性ヨウ素をその水中に保持することが可能となる。微粒子である、銀を含むナノ粒子を用いることによって、同一の重量の銀に対してする表面積が半径の逆数に比例して増大するため、銀とヨウ素との反応効率が高くなる。銀を含むナノ粒子の粒径は、好ましくは、1nm〜5nmの範囲内に存在することが望ましい。
【0041】
また、白金族金属は高価であるため使用量を減らすことが望ましい。そこで、前述したように、シリカ、チタニア及びジルコニアの中から選ばれた一種の酸化物粒子を担体として用い、この担体の表面に、白金族金属(白金、パラジウムまたはロジウム)を添着することにより白金族金属を含むナノ粒子を構成する。担体の表面に白金族金属を添着したナノ粒子を、スクラビング容器内の水中に分散することによって、白金族金属を含むナノ粒子に用いられる白金族金属の量を低減することができ、少ない白金族金属によって効率良く水中の放射性ヨウ素をI-に変化させることができる。
【0042】
さらに、過酷事故時における放射性ヨウ素を含む高温のガスがスクラビング容器内の水中に流入することによって、その水の温度が上昇し、その水中に捕捉された放射性ヨウ素によって水中の放射線線量率が上昇する。このとき、その水中に存在する白金族金属を含むナノ粒子の担体であるシリカ、チタニアまたはジルコニアは、水中の熱及び放射性ヨウ素からの放射線によって励起され、添着された白金族金属が助触媒として作用することによって、光触媒的に作用する。このとき、光触媒上で発生した電子によって水中の放射性ヨウ素が還元され、安定なI-に変えることができる。前述の銀を含むナノ粒子も、シリカ、チタニアまたはジルコニアの担体の表面に銀を添着して構成してもよい。
【0043】
好ましくは、白金族金属を含むナノ粒子または銀を含むナノ粒子が添加される、スクラビング容器内の水は、アルカリ性であることが好ましい。特に、この水のpHは7〜15の範囲内に調節されることが望ましい。スクラビング容器内の水のpHが7〜15の範囲内に調節されていれば、白金族金属を含むナノ粒子及び銀を含むナノ粒子は、その水中において分散しやすくなり、さらに、沈殿し難くなるという効果を得ることができる。スクラビング容器内の水のpHを7〜15の範囲内に調節するために、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液をスクラビング容器内の水に注入する。また、還元剤であるチオ硫酸ナトリウム水溶液の注入により、過酷事故時においてその水中に水素ガスが供給される初期において、スクラビング容器内の水に含まれるチオ硫酸ナトリウムの還元力で水中に供給された放射性ヨウ素をI-に還元することができる。
【0044】
スクラビング容器内の水のpHを7〜15の範囲内に調節するために、pH計をスクラビング容器に設置する。このpH計によりスクラビング容器内の水のpHを測定し、pHの測定値に基づいてスクラビング容器内の水に注入するアルカリ水溶液の量を調節し、スクラビング容器内の水のpHを7〜15の範囲内に調節する。
【0045】
さらに、スクラビング容器内の水のpHを7〜15の範囲内に維持されていれば、スクラビング容器内の水中の白金族金属を含むナノ粒子または銀を含むナノ粒子は、前述したように、その水中において分散しやすくなり、さらに、沈殿し難くなる。このため、過酷事故が発生し、放射性ヨウ素を含むガスが原子炉格納容器からスクラビング容器内の水中に排出されている間で、pH計によりスクラビング容器内の水のpHを測定し、このpHが7〜15の範囲内に維持されていることを確認する。pHが7〜15の範囲内に維持されていることを確認したとき、その水中の白金族金属を含むナノ粒子または銀を含むナノ粒子による放射性ヨウ素のI-化またはHgI化を確認することができる。
【0046】
以上の検討結果を反映した本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0047】
本発明の好適な一実施例である実施例1のフィルタベント装置を、図1及び図2を用いて説明する。本実施例のフィルタベント装置は、沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)に適用される。
【0048】
本実施例のフィルタベント装置10が適用されたBWRプラント1は、原子炉格納容器2内に原子炉圧力容器3を配置している。原子炉圧力容器3は、原子炉格納容器2内に据え付けられた円筒状の支持部材であるペデスタル4の上端に設置される。原子炉格納容器2内には、互いに隔離されたドライウェル5及び圧力抑制室6が形成される。圧力抑制室6は、環状であり、ペデスタル4の周囲を取り囲んでいる。冷却水が充填された圧力抑制プール7が、圧力抑制室6内に形成され、ペデスタル4の周囲を取り囲んでいる。圧力抑制室6内で圧力抑制プール7の冷却水の水面上方に、気相空間であるウェットウェル8が形成される。複数のベント管9が圧力抑制室6に配置され、各ベント管9の上端がドライウェル5に開放され、各ベント管9の下端部が圧力抑制プール7の冷却水中に浸漬される。各ベント管9の下端は圧力抑制プール7の冷却水中に開放されている。BWRプラント1の運転中、ドライウェル5及びウェットウェル8の各雰囲気は、窒素ガスに置換されている。
【0049】
フィルタベント装置10は、ベントタンク(スクラビング容器)11、入口配管14及び35及び出口配管16を有する。ベントタンク11は、内部にスクラビング水12を充填している。フィルタ13が、ベントタンク11内の、スクラビング水12の水面よりも上方に形成される気相部に配置される。入口配管14は、原子炉格納容器2に接続され、圧力抑制室6内のウェットウェル8に連絡される。隔離弁15がベントタンク11の外側で入口配管14に設置される。入口配管14は、ベントタンク11の側壁を貫通し、ベントタンク11に取り付けられる。入口配管14の他端部は、ベントタンク11内においてスクラビング水12中に浸漬される。隔離弁36が設けられた入口配管35の一端部が、原子炉格納容器2に接続され、ドライウェル5に連絡される。入口配管35の他端部は、ベントタンク11と隔離弁15の間で入口配管14に接続される。
【0050】
スクラビング水12には、白金族金属を含むナノ粒子である、添加された多数の白金酸化物ナノ粒子33が含まれる。白金酸化物ナノ粒子33の粒径は1nm〜5nmの範囲内に存在し、白金酸化物ナノ粒子33の平均粒径は、例えば、2.5nmである。図2において、白金酸化物ナノ粒子33は、見やすくするため、実際よりも非常に大きな円で表わしている。スクラビング水12は、チオ硫酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム等のアルカリを含んでいない。出口配管16の一端部が、フィルタ13の上方でベントタンク11の上端部に接続される。出口配管16の他端部が、排気筒17に接続される。
【0051】
通常、隔離弁15が閉じており、ウェットウェル8とベントタンク11は連通していない。さらに、隔離弁36も閉じており、ドライウェル5とベントタンク11も連通していない。BWRプラント1において過酷事故が発生したとき、原子炉圧力容器3内で生成された水素及び放射性ヨウ素が原子炉格納容器2内のドライウェル5に放出される。ドライウェル5内の水素及び放射性ヨウ素を含むガスが、各ベント管9を通って圧力抑制プール7の冷却水中に放出される。
【0052】
過酷事故によって原子炉格納容器2内の圧力が上昇して原子炉格納容器2の破損が生じる前に、隔離弁15及び36が開けられる。隔離弁15が開くことにより、ウェットウェル8内の水素及び放射性ヨウ素を含むガスが、入口配管14を通してベントタンク11内に排出される。隔離弁15を開くことによって、ウェットウェル8内の水素及び放射性ヨウ素を含むガスは、原子炉格納容器2とベントタンク11の差圧によってベントタンク11内のスクラビング水12中に放出される。また、隔離弁36が開くと、ドライウェル5内の水素及び放射性ヨウ素を含むガスが、入口配管35及び14を通ってベントタンク11内のスクラビング水12中に放出される。
【0053】
スクラビング水12中に放出された水素は、還元剤として作用する。また、スクラビング水12に放出された放射性ヨウ素I2は、スクラビング水12中の水素及び白金酸化物ナノ粒子33に含まれる白金の作用により、スクラビング水12中で安定な放射性のI-に変換される。放射性ヨウ素I2の一部は、その白金に吸着される。このように、原子炉格納容器2からベントタンク11内に排出されたガスに含まれた放射性ヨウ素I2が放射性のI-に変換され、さらには、白金酸化物ナノ粒子33に含まれる白金に吸着されてそのガスから除去される。放射性のI-はベントタンク11内のスクラビング水12中により長時間に亘って安定な状態で保持される。スクラビング水12中の白金に吸着された放射性ヨウ素I2も、スクラビング水12中により長時間に亘って安定な状態で保持される。それ故に、スクラビング水12に保持された放射性のI-及び白金に吸着された放射性ヨウ素I2がスクラビング水12からベントタンク11内の気相部に放出されることを防止できる。このため、スクラビング水12からその気相部に放出される放射性ヨウ素I2は著しく低減される。
【0054】
ベントタンク11内のスクラビング水12中に放出されたガスに含まれるエアロゾル状の放射性物質(放射性核種を含むエアロゾル)及び可溶性の放射性物質は、スクラビング水12に溶解して除去される。スクラビング水12中に放出されたガスに含まれる放射性核種のうちスクラビング水に捕捉されなかったガス状の放射性物質および一部のエアロゾル状の放射性物質は、ベントタンク11内の気相部に放出され、エアロゾル状の放射性物質はベントタンク11内の気相部に配置されたフィルタ13で除去される。フィルタ13は、過酷事故時において原子炉格納容器2からベントタンク11に排出される高温高圧のガスの流れに耐える素材(金属、モレキュラーシーブ等)で形成されている。放射性核種が除去されてフィルタ13を通過したガスは、ベントタンク11から出口配管16に排出され、排気筒17から外部の環境に排気される。
【0055】
スクラビング水12に添加された白金酸化物ナノ粒子33は、ヘキサヒドロキソ白金酸懸濁液にガンマ線を照射することにより生成され、多量のPtO2を含んでいる。この白金酸化物ナノ粒子33は、水素の酸化に対し非常に高い触媒活性を有するだけでなく、一年以上にわたり沈殿を生じないほどの高い分散性を有する。さらに、白金酸化物ナノ粒子33は、アルカリ環境で分散性が高いことから、ベントタンク11内のスクラビング水12に添加するのに好適である。過酷事故時における原子炉格納容器2内に放出される放射性ヨウ素I2の量は、ほとんどのBWRプラントにおいて200〜300molである。このうちベントタンク11内のスクラビング水12中に移行する放射性ヨウ素I2の量は1mol程度である。これらの放射性ヨウ素を白金による化学吸着で除去する場合には、少なくとも等モルの白金が必要であるため、ベントタンク11内に移行する放射性ヨウ素I2の量が1molの場合には、必要な白金の量は約200gとなる。一つのベントタンク11内のスクラビング水12の量が10m程度であるとすると、白金濃度は20ppm程度であればよい。この白金濃度は、1molの放射性ヨウ素I2を、直接、白金に吸着させて除去する場合の値であるが、原子炉格納容器2からベントタンク11内のスクラビング水12に流入する水素を用いて放射性ヨウ素I2を還元する場合には、白金は触媒として作用して消費されないので、スクラビング水12に添加する白金の濃度は20ppmよりも少なくてもよい。スクラビング水12内において放射性ヨウ素I2の還元反応を効率的に進めさせるために、スクラビング水12に流入する放射性ヨウ素I2の量よりも大過剰に白金を使用する場合には、その放射性ヨウ素量の10倍の量の白金を使用する。この場合には、スクラビング水12中における白金の濃度は200ppm程度になり、この白金濃度を満足する量の白金酸化物ナノ粒子33がスクラビング水12に添加される。
【0056】
本実施例によれば、ベントタンク11内のスクラビング水12に白金酸化物ナノ粒子33を添加しているので、過酷事故時に原子炉格納容器2からベントタンク11内のスクラビング水12に流入した放射性ヨウ素I2を水に溶解しやすい放射性I-に変換させることができ、放射性I-をスクラビング水12中で安定に長時間に亘って保持することができる。スクラビング水12に流入した放射性ヨウ素I2の一部は、白金酸化物ナノ粒子33に含まれる白金に吸着され、白金に吸着された放射性ヨウ素I2もスクラビング水12中で安定に長時間に亘って保持することができる。このため、過酷事故時に外部環境に放出される放射性ヨウ素I2の量が著しく低減される。
【0057】
なお、スクラビング水12に添加された白金酸化物ナノ粒子33に含まれる白金の大部分は、放射性ヨウ素I2の還元反応を促進させる触媒として機能するため、消費されずに長時間に亘ってスクラビング水12中に存在する。このため、予め必要な量の白金酸化物ナノ粒子33をスクラビング水12に添加することにより、過酷事故が発生した後に、白金酸化物ナノ粒子33の、ベントタンク11内のスクラビング水12への補充は不要である。
【0058】
本実施例では、スクラビング水12に添加される還元剤として、過酷事故時に発生する水素が用いられるため、スクラビング水12に還元剤を別途添加する必要がなく、苛酷事故後に人が近づき難いあるいは還元剤をその水中に補充しにくい条件下においても、ベントタンク11内のスクラビング水12中に容易に還元剤である水素を供給することができる。
【0059】
スクラビング水12に添加される白金族金属を含むナノ粒子は粒径が1nm〜5nmの範囲内に存在しているため、白金族金属を含むナノ粒子がスクラビング水12に分散し易くなる。このため、過酷事故時にスクラビング水12中に排出された放射性ヨウ素I2を速やかに還元することができ、スクラビング水12中において、安定なI-を効率良く生成することができる。特に、白金族金属を含むナノ粒子として白金酸化物ナノ粒子33を用いているので、白金酸化物ナノ粒子33のスクラビング水12中での分散性がさらに向上し、I-の生成効率がさらに向上する。
【0060】
本実施例では、ベントタンク11内のスクラビング水12はチオ硫酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを含んでいない。このため、スクラビング水12へのこれらの薬剤の添加が不要である。
【0061】
しかしながら、還元剤であるチオ硫酸ナトリウムを予めスクラビング水12に添加してもよい。チオ硫酸ナトリウムをスクラビング水12に予め添加した場合には、過酷事故時においてスクラビング水12中に水素ガスが供給される初期において、スクラビング水12に含まれるチオ硫酸ナトリウムの還元力によりでスクラビング水12中に流入した放射性ヨウ素I2をI-に還元することができる。このため、スクラビング水12中に水素ガスが供給される初期においても、外部の環境に放出される放射性ヨウ素の量を著しく低減できる。なお、水酸化ナトリウムをスクラビング水12に添加してもよく、水酸化ナトリウムの添加は、スクラビング水12のpHが7〜15の範囲になるように行われる。スクラビング水12のpHが7〜15の範囲にあれば、スクラビング水12中における白金族金属を含むナノ粒子の分散性が向上し、白金族金属を含むナノ粒子が沈殿し難くなる。
【実施例2】
【0062】
本発明の好適な他の実施例である実施例2のフィルタベント装置を、図4を用いて説明する。本実施例のフィルタベント装置はBWRプラントに適用される。
【0063】
本実施例のフィルタベント装置が適用されたBWRプラントは、実施例1におけるBWRプラント1においてフィルタベント装置10をフィルタベント装置10Aに替えた構成を有する。本実施例のフィルタベント装置10Aが適用されたBWRプラントの他の構成は、BWRプラント1と同じである。
【0064】
さらに、フィルタベント装置10Aは、フィルタベント装置10にpH計18及びサンプリング管19を追加した構成を有する。フィルタベント装置10Aの他の構成はフィルタベント装置10と同じである。サンプリング管19の両端部はベントタンク11に接続され、pH計18はサンプリング管19に設けられる。
【0065】
過酷事故が発生したとき、本実施例においても、実施例1と同様に、放射性ヨウ素I2及び水素を含むガスが、入口配管14を通して原子炉格納容器2のウェットウェル8からベントタンク11内のスクラビング水12中に導かれる。このとき、入口配管14に設けられた隔離弁15は開いている。放射性ヨウ素I2は、実施例1で述べたように、スクラビング水12中に存在する水素及び白金酸化物ナノ粒子33に含まれる白金の作用により、スクラビング水12中で安定な放射性のI-に変換される。さらに、スクラビング水12中に導かれた放射性ヨウ素I2の一部は、白金酸化物ナノ粒子33に含まれる白金に吸着される。
【0066】
放射性ヨウ素I2を含むガスがスクラビング水12中に導かれる間、ベントタンク11内のスクラビング水12は、サンプリング管19の一端部からサンプリングされてサンプリング管19内に流入し、サンプリング管19の他端部からベントタンク11内に戻される。pH計18は、サンプリング管19内を流れるスクラビング水12のpHを測定する。pH計18が高温のスクラビング水12のpHを測定できるpH計ではないため、サンプリング管19の、pH計の上流側には冷却器(図示せず)が設置される。
【0067】
サンプリング管19内を流れるスクラビング水12は、例えば、室温になるまで冷却器により冷却される。冷却されたスクラビング水12のpHが、pH計18によって測定される。この測定されたpHの値に基づいて、ベントタンク11内のスクラビング水12のpHがpH7以上になっているかを確認する。スクラビング水12のpHが7〜15の範囲内に維持されていれば、スクラビング水12中の白金酸化物ナノ粒子33は、スクラビング水12で沈殿していなく、スクラビング水12中に分散した状態になっている。このため、スクラビング水12中で、放射性ヨウ素I2のI-への変化が、白金酸化物ナノ粒子33に含まれる白金により良好に継続されていることを確認することができる。
【0068】
pH計18として高温のスクラビング水12のpHを測定できるpH計をサンプリング管19に設置してもよい。高温のスクラビング水12のpHを計測することができるpH計を用いることによって、サンプリング管19内を流れるスクラビング水12を冷却する必要がなくなり、サンプリング管19への冷却器の設置が不要になる。高温のスクラビング水12のpHを測定できるpH計は、高温のスクラビング水12のpHを直接測定することができる。しかしながら、過酷事故発生時に放射性ヨウ素を含むガスがスクラビング水12に吹き込まれると、高温のスクラビング水12のpHを測定できるpH計は、スクラビング水12の急激な温度上昇によって破損する懸念がある。
【0069】
pH計18によって測定されたpHの値は、過酷事故発生前におけるベントタンク11内のスクラビング水のpHの調節にも使用することができる。過酷事故発生前において、ベントタンク11内のスクラビング水12に水酸化ナトリウム水溶液が、この水溶液が充填されたタンク(図示せず)から、このタンクとベントタンク11を接続する注入配管(図示せず)を通してベントタンク11内のスクラビング水12に注入される。水酸化ナトリウム水溶液のスクラビング水12への注入は、スクラビング水12のpHが7〜15の範囲内になるように行われる。すなわち、pH計18によって測定されたpHの値が7〜15の範囲内の或る値、例えば、8になったとき、注入配管に設けられた弁(図示せず)が閉じられ、水酸化ナトリウム水溶液が充填されたタンクからスクラビング水12への水酸化ナトリウム水溶液の注入が停止される。この結果、ベントタンク11内のスクラビング水12のpHが8に維持され、スクラビング水12中での白金酸化物ナノ粒子33の分散性を担保することができる。
【0070】
本実施例は実施例1で生じる各効果も得ることができる。
【実施例3】
【0071】
本発明の好適な他の実施例である実施例3のフィルタベント装置を、図5及び図6を用いて説明する。本実施例のフィルタベント装置はBWRプラントに適用される。
【0072】
本実施例のフィルタベント装置10Bが適用されたBWRプラント1Aは、実施例1におけるBWRプラント1においてフィルタベント装置10をフィルタベント装置10Bに替えた構成を有する。BWRプラント1Aの他の構成はBWRプラント1と同じである。
【0073】
フィルタベント装置10Bは、フィルタベント装置10においてスクラビング水12を、銀ナノ粒子34を添加したスクラビング水12Aに替えた構成を有する。スクラビング水12Aそのものは、スクラビング水12と同じ水である。銀ナノ粒子34の粒径は1nm〜5nmの範囲内に存在し、銀ナノ粒子34の平均粒径は、例えば、2.5nmである。
【0074】
実施例1と同様に、過酷事故が発生すると、放射性ヨウ素I2及び水素を含むガスが、入口配管14を通して原子炉格納容器2のウェットウェル8からベントタンク11内のスクラビング水12中に排出される。このとき、入口配管14に設けられた隔離弁15は開いている。スクラビング水12に排出された放射性ヨウ素I2はスクラビング水12中で水素と(4)式で表わされる反応を生じ、I-及びH+を生成する。生成されたI-はスクラビング水12内に存在する銀ナノ粒子34に含まれる銀と(5)式で示される反応を生じ、難溶性のAgIを生成する。生成されたAgIは、スクラビング水12中で沈殿し、ベントタンク11の底部に堆積する。このため、排気筒17から外部の環境に排気される放射性ヨウ素の量が著しく低減される。
【0075】
実施例1で述べたように、過酷事故時においてベントタンク11内のスクラビング水12中に移行する放射性ヨウ素I2の量は1mol程度である。これらの放射性ヨウ素I2を銀との化学吸着で除去する場合には、少なくとも等モルの銀が必要である。このため、放射性ヨウ素I2の量が1molである場合には、スクラビング水12中で必要な銀の量は約110gとなる。一つのベントタンク11内のスクラビング水12の量が10m程度であるとすると、スクラビング水12中の銀の濃度は11ppm程度の銀粒子濃度であればよい。スクラビング水12に流入する放射性ヨウ素I2の量よりも大過剰に銀を使用する場合には、その放射性ヨウ素量の10倍の量の銀を使用する。この場合には、スクラビング水12中における銀の濃度は110ppm程度になる。
【0076】
本実施例によれば、過酷事故時にベントタンク11内のスクラビング水12中に排出されるガスに含まれる放射性ヨウ素I2はスクラビング水12に含まれる水素の作用によりI-に変化し、このI-が銀ナノ粒子34に含まれる銀と反応して難溶性のAgIを生成する。このため、外部の環境に排気される放射性ヨウ素の量が著しく低減される。
【0077】
ベントタンク11内のスクラビング水12にアルカリ(チオ硫酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム等)が添加されている場合には、本実施例のフィルタベント装置10Bのベントタンク11に、実施例2と同様に、pH計18を設けたサンプリング管19の両端部を接続してもよい。このような構成を採用することにより、実施例2と同様に、ベントタンク11内のスクラビング水12のpHをpH計18で測定することができる。このため、測定されたpHに基づいてスクラビング水12内における銀ナノ粒子34の分散状態を確認することができ、銀ナノ粒子34に含まれる銀とスクラビング水12内のI-の反応が良好に継続されているかを確認することができる。
【実施例4】
【0078】
本発明の好適な他の実施例である実施例4のフィルタベント装置を、図7及び図8を用いて説明する。本実施例のフィルタベント装置10CはBWRプラントに適用される。
【0079】
本実施例のフィルタベント装置10Cが適用されたBWRプラント1Bは、実施例1におけるBWRプラント1においてフィルタベント装置10をフィルタベント装置10Cに替えた構成を有する。BWRプラント1Bの他の構成はBWRプラント1と同じである。
【0080】
フィルタベント装置10Cは、フィルタベント装置10において白金酸化物ナノ粒子33を添加したスクラビング水12を、白金族金属を含むナノ粒子33Aを添加したスクラビング水12Bに替えた構成を有する。スクラビング水12Bそのものは、スクラビング水12と同じ水である。白金族金属を含むナノ粒子33Aの粒径は1nm〜5nmの範囲内に存在し、銀ナノ粒子34の平均粒径は、例えば、2.5nmである。
【0081】
白金族金属を含むナノ粒子33Aは、シリカ、チタニア及びジルコニアの中から選ばれた一種の酸化物粒子を担体として用い、この担体の表面に、白金族金属(白金、パラジウムまたはロジウム)を添着することにより得られた白金族金属を含むナノ粒子である。本実施例でベントタンク11内のスクラビング水12Bに添加される白金族金属を含むナノ粒子33Aは、白金を担体であるシリカの表面に添着している白金を含むナノ粒子である。
【0082】
過酷事故が発生したとき、本実施例においても、実施例1と同様に、放射性ヨウ素I2及び水素を含むガスが、入口配管14を通して原子炉格納容器2のウェットウェル8からベントタンク11内のスクラビング水12中に導かれる。このとき、入口配管14に設けられた隔離弁15は開いている。放射性ヨウ素I2は、実施例1で述べたように、スクラビング水12中に存在する水素及び白金族金属を含むナノ粒子33Aに含まれる白金の作用により、スクラビング水12中で安定な放射性のI-に変換される。さらに、スクラビング水12中に導かれた放射性ヨウ素I2の一部は、白金族金属を含むナノ粒子33Aに含まれる白金に吸着される。このため、本実施例は、実施例1と同様に、外部の環境に排気される放射性ヨウ素の量を著しく低減することができる。
【0083】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は酸化物粒子を担体として用いた、白金族金属を含むナノ粒子33Aを用いているため、高価な白金族金属の使用量を減らすことができ、実施例1と同様な効果を得ることができる。
【0084】
さらに、過酷事故時における放射性ヨウ素を含む高温のガスがベントタンク11内のスクラビング水12中に流入することによって、スクラビング水12の温度が上昇し、そのスクラビング水12中に捕捉された放射性のI-等の放射性核種によってスクラビング水12中の放射線線量率が上昇する。このとき、そのスクラビング水12中に存在する白金族金属を含むナノ粒子33Aの担体であるシリカは、スクラビング水12中の熱及び放射性核種からの放射線によって励起され、シリカの表面に添着された白金が助触媒として作用することによって、光触媒的に作用する。このとき、光触媒上で発生した電子によってスクラビング水12中の放射性ヨウ素I2がさらに還元され、安定なI-に変えることができる。このため、本実施例では、I-の生成効率が向上する。
【0085】
また、フィルタベント装置10Cのベントタンク11に、実施例2と同様に、pH計18を設けたサンプリング管19の両端部を接続してもよい。
【実施例5】
【0086】
本発明の好適な他の実施例である実施例5のフィルタベント装置を、図9を用いて説明する。本実施例では、実施例1のフィルタベント装置10が用いられ、このフィルタベント装置10は、実施例1ないし4とは異なり、加圧水型原子力プラント(PWRプラント)に適用される。
【0087】
フィルタベント装置10の構成は実施例1で述べたので、ここではその構成の説明は省略する。フィルタベント装置10が適用されるPWRプラント1Cの構成の概略を、図9を用いて説明する。PWRプラント1Cは、原子炉格納容器20、原子炉容器である原子炉圧力容器21、蒸気発生器22、タービン27及び復水器29を有する。を配置している。原子炉圧力容器21及び蒸気発生器22は、原子炉格納容器20内に配置される。原子炉圧力容器21と蒸気発生器22は高温側の一次系配管26によって接続され、この一次系配管26の一端部は蒸気発生器22内に配置される複数の伝熱管の一端部に連絡される。る。加圧器23が一次系配管26に接続される。また、原子炉圧力容器21と蒸気発生器22は低温側の一次系配管25によっても接続され、この一次系配管25の一端部は蒸気発生器22内に配置される複数の伝熱管の他端部に連絡される。一次系冷却材ポンプ24が一次系配管25に設けられる。
【0088】
タービン27及び復水器29は原子炉格納容器20の外部に設置される。蒸気発生器22のシェル側に連絡された主蒸気配管30がタービン27に接続される。発電機28がタービン27に連結される。タービン27から排気された蒸気が導かれる復水器29は、給水配管31によって蒸気発生器22のシェル側に連絡される。
【0089】
PWRプラント1Cにおいて過酷事故が発生すると、BWRプラント1と同様に、原子炉圧力容器21内で生成された水素及び放射性ヨウ素が原子炉格納容器20内の空間(BWRプラント1の原子炉格納容器2内のドライウェル5に相当)に放出される。フィルタベント装置10の入口配管14が原子炉格納容器20に接続されて原子炉格納容器20内のその空間に連絡されているので、過酷事故発生時に隔離弁15を開くことにより、原子炉格納容器20内の空間に存在する、水素及び放射性ヨウ素I2を含むガスが、入口配管14を通してベントタンク11内のスクラビング水12中に排出される。
【0090】
このスクラビング水12中では、実施例1と同様に、スクラビング水12に放出された放射性ヨウ素I2は、スクラビング水12中の水素及び白金酸化物ナノ粒子33(平均粒径2.5nm)に含まれる白金の作用により、スクラビング水12中で安定な放射性のI-に変換される。放射性ヨウ素I2の一部は、その白金に吸着される。
【0091】
このため、本実施例のPWRプラント1Cに含まれるフィルタベント装置10によっても、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0092】
1,1A,1B…沸騰水型原子力プラント、1C…加圧水型原子力プラント、2,20…原子炉格納容器、3,21…原子炉圧力容器、5…ドライウェル、8…ウェットウェル、10,10A,10B,10C…フィルタベント装置、11…ベントタンク、12,12A,12B…スクラビング水、13…フィルタ、14,35…入口配管、18…pH計、19…サンプリング管、33…白金酸化物ナノ粒子、33A…白金族金属を含むナノ粒子、34…銀ナノ粒子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9