(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸線方向に沿って延びる軸孔を有する絶縁体と、前記軸孔の先端側に設けられた中心電極と、前記絶縁体の外周に設けられた主体金具と、前記主体金具の先端に固定された接地電極と、を備えたスパークプラグであって、
前記絶縁体は、Al2O3を主成分とし、Si成分、Ba成分、Mg成分、Ca成分、Sr成分、及び希土類元素成分をそれぞれ酸化物換算したときの含有割合(質量%)を、それぞれRSiO2、RBaO、RMgO、RCaO、RSrO、RRE2O3とすると、Si成分、Ba成分、Mg成分、Ca成分、Sr成分、及び希土類元素成分の含有割合が下記の(1)〜(6)を満たすアルミナ焼結体からなり、前記アルミナ焼結体は、複数のアルミナの結晶それぞれの最大径の平均値である平均粒径DAとBa成分を含む結晶それぞれの最大径の平均値である平均粒径DBとの比(DA/DB)が0.5以上5.0以下であることを特徴とするスパークプラグ。
(1)1.0≦RSiO2≦5.0
(2)0.5≦RBaO≦5.0
(3)0≦RMgO≦0.18
(4)0≦RMgO/RBaO≦0.36
(5)0.3≦(RMgO+RCaO+RSrO)≦1.8
(6)0≦RRE2O3≦0.1
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグを
図1に示す。
図1はこの発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグ1の一部断面全体説明図である。なお、
図1では紙面下方すなわち後述する接地電極が配置されている側を軸線Oの先端方向、紙面上方を軸線Oの後端方向として説明する。
【0015】
このスパークプラグ1は、
図1に示されるように、軸線O方向に沿って延びる軸孔2を有する略円筒形状の絶縁体3と、前記軸孔2内の先端側に設けられた略棒状の中心電極4と、前記軸孔2内の後端側に設けられた端子金具5と、前記軸孔2内の前記中心電極4と前記端子金具5との間に配置された接続部6と、前記絶縁体3の外周に設けられた略円筒形状の主体金具7と、前記主体金具7の先端に固定された基端部及び前記中心電極4に間隙Gを介して対向するように配置された先端部を有する接地電極8とを備える。
【0016】
絶縁体3は、軸線O方向に延びる軸孔2を有し、略円筒形状を有している。絶縁体3は、後端側胴部11と、大径部12と、先端側胴部13、脚長部14とを備えている。後端側胴部11は、端子金具5を収容し、端子金具5と主体金具7とを絶縁する。大径部12は、該後端側胴部11よりも先端側に配置され、径方向外向きに突出している。先端側胴部13は、該大径部12の先端側に配置され、大径部12より小さい外径を有し、接続部6を収容する。脚長部14は、該先端側胴部13の先端側に配置され、先端側胴部13より小さい外径及び内径を有し、中心電極4を収容する。絶縁体3は、絶縁体3における先端方向の端部が主体金具7の先端面から突出した状態で、主体金具7に固定されている。絶縁体3は、機械的強度、熱的強度、電気絶縁性を有する材料で形成される。この発明の特徴部分である絶縁体3の詳細については、後述する。
【0017】
接続部6は、軸孔2内の中心電極4と端子金具5との間に配置され、中心電極4及び端子金具5を軸孔2内に固定すると共にこれらを電気的に接続する。
【0018】
主体金具7は、略円筒形状を有しており、絶縁体3を内装することにより絶縁体3を保持するように形成されている。主体金具7における先端方向の外周面にはネジ部24が形成されている。このネジ部24を利用して図示しない内燃機関のシリンダヘッドにスパークプラグ1が装着される。主体金具7は、ネジ部24の後端側にフランジ状のガスシール部25を有し、ガスシール部25の後端側にスパナやレンチ等の工具を係合させるための工具係合部26、工具係合部26の後端側に加締め部27を有する。ネジ部24の内周面における先端側は、脚長部14に対して空間を有するように配置されている。主体金具7は、導電性の鉄鋼材料、例えば、低炭素鋼により形成されることができる。
【0019】
端子金具5は、中心電極4と接地電極8との間で火花放電を行うための電圧を外部から中心電極4に印加するための端子である。端子金具5は、絶縁体3の後端側からその一部が露出した状態で軸孔2内に挿入されて接続部6により固定されている。端子金具5は、低炭素鋼等の金属材料により形成されることができる。
【0020】
中心電極4は、接続部6に接する後端部28と、前記後端部28から先端側に延びる棒状部29とを有する。中心電極4は、その先端が絶縁体3の先端から突出した状態で絶縁体3の軸孔2内に固定され、主体金具7に対して絶縁保持されている。中心電極4における後端部28と棒状部29とは、Ni合金等の中心電極4に使用される公知の材料で形成されることができる。中心電極4は、Ni合金等により形成される外層と、Ni合金よりも熱伝導率の高い材料により形成され、該外層の内部の軸心部に同心に埋め込まれるように形成されてなる芯部とにより形成されてもよい。芯部を形成する材料としては、例えば、Cu、Cu合金、Ag、Ag合金、純Ni等を挙げることができる。
【0021】
前記接地電極8は、例えば、略角柱形状に形成されてなり、基端部が主体金具7の先端部に接合され、途中で略L字状に屈曲され、先端部が中心電極4の先端との間に間隙Gを介して対向するように形成されている。この実施形態における間隙Gは、中心電極4の先端と接地電極8の側面との最短距離である。この間隙Gは、通常、0.3〜1.5mmに設定される。接地電極8は、Ni合金等の接地電極8に使用される公知の材料で形成されることができる。また、中心電極4と同様にNi合金等により形成される外層と、Ni合金よりも熱伝導率の高い材料により形成され、該外層の内部の軸心部に同心に埋め込まれるように形成されてなる芯部とにより形成されてもよい。
【0022】
この発明の特徴部分である絶縁体について、以下に詳細に説明する。
【0023】
絶縁体3は、Al
2O
3を主成分とし、Si成分、Ba成分、Mg成分、Ca成分、Sr成分、及び希土類元素成分をそれぞれ酸化物換算したときの含有割合(質量%)を、それぞれR
SiO2、R
BaO、R
MgO、R
CaO、R
SrO、R
RE2O3とすると、Si成分、Ba成分、Mg成分、Ca成分、Sr成分、及び希土類元素成分の含有割合が下記の(1)〜(6)を満たすアルミナ焼結体からなる。
(1)1.0≦R
SiO2≦5.0
(2)0.5≦R
BaO≦5.0
(3)0≦R
MgO≦0.18
(4)0≦R
MgO/R
BaO≦0.36
(5)0.3≦(R
MgO+R
CaO+R
SrO)≦1.8
(6)0≦R
RE2O3≦0.1
【0024】
絶縁体3は、Al
2O
3を主成分とし、Si成分、Ba成分、Mg成分、Ca成分、Sr成分、及び希土類元素成分の含有割合が前述の(1)〜(6)を満たすアルミナ焼結体からなるので、このアルミナ焼結体で形成された絶縁体3が、例えば、約900℃という高温に曝されるような環境でスパークプラグが長期にわたって使用された場合に、十分な耐電圧性能を有する。したがって、この発明によると、長期にわたって高温下における耐電圧性能を維持することができる絶縁体を備えたスパークプラグを提供することができる。
【0025】
絶縁体3を形成するアルミナ焼結体は、Al
2O
3を主成分とする。すなわち、アルミナ焼結体は、アルミナ焼結体を蛍光X線分析したときに検出された元素を酸化物換算したときの合計質量に対するAl成分を酸化物換算したときの質量割合が最も多く、91質量%以上97質量%以下含有するのが好ましく、94.5質量%以上95.5質量%以下含有するのがより好ましい。Al成分は、その大部分が、アルミナの結晶としてアルミナ焼結体中に存在する。Al成分の一部は、ガラス相中及びアルミナ以外の結晶中に存在する。アルミナ焼結体は、Al成分を酸化物換算したときの含有割合が前記範囲内にあると耐電圧性能及び機械的強度等に優れる。Al成分を酸化物換算したときの含有割合が97質量%を超えると、焼結性が悪くなり、十分な耐電圧性能が得られないおそれがある。Al成分を酸化物換算したときの含有割合が91質量%未満であると、相対的にガラス相の割合が増大するので、例えば、約900℃という高温下において、ガラス相が軟化して、十分な耐電圧性能が得られないおそれがある。
【0026】
Si成分は、酸化物、イオン等としてアルミナ焼結体中に存在する。Si成分は、焼結時には溶融して通常液相を生じるので、アルミナ焼結体の緻密化を促進する焼結助剤として機能する。Si成分は、焼結後はガラス相として又はAl等の他の元素と共にアルミナ以外の結晶として存在する。アルミナ焼結体において、Si成分の含有割合R
SiO2は、アルミナ焼結体を蛍光X線分析したときに検出された元素を酸化物換算したときの合計質量に対するSi成分を酸化物換算したときの質量割合である。アルミナ焼結体は、Si成分の含有割合R
SiO2に関して、(1)1.0≦R
SiO2≦5.0を満たし、2.0≦R
SiO2≦4.0を満たすのが好ましい。Si成分の含有割合R
SiO2が1.0質量%より小さいと、焼結性が悪く、緻密なアルミナ焼結体が得られ難くなり、十分な耐電圧性能が得られない。Si成分の含有割合R
SiO2が5.0質量%より大きいと、ガラス相の割合が増大するので、例えば、約900℃という高温下においてガラス相が軟化して、十分な耐電圧性能が得られない。
【0027】
アルミナ焼結体は、Ba成分を必須成分として含有し、また、Mg成分、Ca成分、及びSr成分のうちの少なくとも1種を含有する。Ba成分、Mg成分、Ca成分、及びSr成分は、酸化物、イオン等としてアルミナ焼結体中に存在する。Ba成分、Mg成分、Ca成分、及びSr成分は、焼結時には溶融して通常液相を生じるので、アルミナ焼結体の緻密化を促進する焼結助剤として機能する。Ba成分、Mg成分、Ca成分、及びSr成分は、焼結後はガラス相として又はAl等の他の元素と共にアルミナ以外の結晶として存在する。アルミナ焼結体において、Ba成分の含有割合R
BaO、Mg成分の含有割合R
MgO、Ca成分の含有割合R
CaO、及びSr成分の含有割合R
SrOは、それぞれアルミナ焼結体を蛍光X線分析したときに検出された元素を酸化物換算したときの合計質量に対する、Mg成分、Ca成分、及びSr成分それぞれを酸化物換算したときの質量割合である。
【0028】
アルミナ焼結体は、Ba成分の含有割合R
BaOに関して、(2)0.5≦R
BaO≦5.0を満たし、1.2≦R
BaO≦3.0を満たすのが好ましい。スパークプラグ1を長期にわたって使用すると、すなわち高温下で絶縁体3に電圧を印加し続けると、マイグレーションが発生し、絶縁体3に含有されている、Mg、Ca、Sr、及びBaといったIUPAC1990年勧告に基づく周期表の第2族元素の原子が絶縁体3の正極から負極に向かって移動することがある。例えば、絶縁体3の軸孔2の内周面が正極及び外周面が負極になっている場合には、第2族元素の原子が絶縁体3の内周面から外周面に向かって移動する。第2族元素の原子が移動すると、原子が移動した跡に空隙が形成され、この空隙が絶縁破壊の起点となり、絶縁性能が低下する。一方、重い元素すなわち原子番号が大きい元素ほど電圧を印加したときに原子が移動し難い。したがって、焼結助剤として含有される第2族元素成分のうち、原子番号が大きいBa成分が焼結助剤として含有されていると、マイグレーションの発生を抑制することができ、耐電圧性能を向上させることができる。Ba成分の含有割合R
BaOが0.5質量%より小さいと、焼結性を確保するために、Ba成分以外の第2族元素成分の含有割合が相対的に大きくなるので、マイグレーションの発生を抑制することができず、絶縁性能が低下し、絶縁体3が例えば約900℃という高温に曝されるような環境でスパークプラグ1が長期にわたって使用された場合に、十分な耐電圧性能が得られない。Ba成分の含有割合R
BaOが5.0質量%より大きいと、焼結性が悪くなり、絶縁体の内部に気孔が多く形成され、十分な耐電圧性能が得られない。
【0029】
アルミナ焼結体は、Mg成分の含有割合R
MgOに関して、(3)0≦R
MgO≦0.18を満たす。Mgは第2族元素の中で原子番号が小さく、高温下で電圧を印加したときにマイグレーションが発生し易い。Mg成分の含有割合R
MgOが0.18質量%より大きいと、マイグレーションの発生を抑制することができず、絶縁性能が低下し、絶縁体3が例えば約900℃という高温に曝されるような環境でスパークプラグ1が長期にわたって使用された場合に、十分な耐電圧性能が得られない。
【0030】
アルミナ焼結体は、Ba成分の含有割合R
BaOに対するMg成分の含有割合R
MgOの比(R
MgO/R
BaO)に関して、(4)0≦R
MgO/R
BaO≦0.36を満たす。Mgは第2族元素の中で原子番号が小さく、高温下で電圧を印加したときにマイグレーションが発生し易い。一方、第2族元素の中でBaは原子番号が大きく、高温下で電圧を印加したときにマイグレーションが発生し難い。前記比(R
MgO/R
BaO)が0.36より大きいと、マイグレーションの発生を抑制することができず、絶縁性能が低下し、絶縁体3が例えば約900℃という高温に曝されるような環境でスパークプラグ1が長期にわたって使用された場合に、十分な耐電圧性能が得られない。
【0031】
アルミナ焼結体は、Mg成分の含有割合R
MgOと、Ca成分の含有割合R
Caoと、Sr成分の含有割合R
SrOとの合計含有割合(R
MgO+R
CaO+R
SrO)に関して、(5)0.3≦(R
MgO+R
CaO+R
SrO)≦1.8を満たす。アルミナ焼結体は、Mg成分、Ca成分、及びSr成分のうちの少なくとも1種を含有する。焼結助剤としての第2族元素のうちBa成分の含有割合が大き過ぎると焼結性が悪くなり、十分な耐電圧性能が得られない。焼結性の良好なアルミナ焼結体を得るために焼成温度を高くする方法が考えられるが、焼成温度が高くなると炉に負担がかかる等製造コストが高くなるので、低い焼成温度で良好な焼結性が得られるのが好ましい。アルミナ焼結体が、第2族元素成分の中でも原子番号の大きいBa成分だけでなく、Mg成分、Ca成分、及びSr成分のうちの少なくとも1種を、(5)を満たすように含有すると、焼成温度を高くしなくても良好な焼結性が得られると共にマイグレーションの発生を抑制することができ、絶縁体3が例えば約900℃という高温に曝されるような環境でスパークプラグ1が長期にわたって使用された場合に、十分な耐電圧性能が得られる。前記合計含有割合(R
MgO+R
CaO+R
SrO)が0.3質量%より小さいと、焼結性が悪くなり、十分な耐電圧性能が得られない。前記合計含有割合(R
MgO+R
CaO+R
SrO)が1.8質量%より大きいと、Mg、Ca、及びSrは、Baよりも原子番号が小さく、高温下で電圧を印加したときに、マイグレーションが発生し易くなり、十分な耐電圧性能が得られない。
【0032】
アルミナ焼結体は、Mg成分、Ca成分、Sr成分、及びBa成分をそれぞれ酸化物換算したときの合計含有割合(R
MgO+R
CaO+R
SrO+R
BaO)に対する、Ca成分を酸化物換算したときの含有割合R
CaOに関して、(7)0.10≦R
CaO/(R
MgO+R
CaO+R
SrO+R
BaO)≦0.50を満たすのが好ましい。Ca成分は、焼成温度を高くしなくても良好な焼結性が得られる点で含有されているのが好ましく、0.10≦R
CaO/(R
MgO+R
CaO+R
SrO+R
BaO)を満たすように含有されているのがより好ましい。一方で、Caは、Mgの次に原子番号が小さく、高温下で電圧を印加したときにマイグレーションが発生し易いので、アルミナ焼結体中に含有される第2族元素成分に対してCa成分の含有割合が大き過ぎると、マイグレーションの発生を抑制できないおそれがある。アルミナ焼結体が、Ca成分を(7)を満たすように含有していると、焼成温度を高くしなくても良好な焼結性が得られると共にマイグレーションの発生を抑制することができ、絶縁体3が例えば約900℃という高温に曝されるような環境でスパークプラグ1が長期にわたって使用された場合に、より一層十分な耐電圧性能が得られる。
【0033】
アルミナ焼結体は、Ba成分を酸化物換算したときの含有割合R
BaOに対する、Mg成分、Ca成分、及びSr成分をそれぞれ酸化物換算したときの合計含有割合(R
MgO+R
CaO+R
SrO)に関して、(8)0.06≦(R
MgO+R
CaO+R
SrO)/R
BaO≦1.25を満たすのが好ましい。アルミナ焼結体が、第2族元素成分の中でも原子番号の大きいBa成分だけでなく、Mg成分、Ca成分、及びSr成分のうちの少なくとも1種を、(8)を満たすように含有すると、焼成温度を高くしなくても良好な焼結性が得られると共にマイグレーションの発生を抑制することができ、絶縁体3が例えば約900℃という高温に曝されるような環境でスパークプラグ1が長期にわたって使用された場合に、より一層十分な耐電圧性能が得られる。
【0034】
アルミナ焼結体が希土類元素成分を含有する場合には、希土類元素成分は、酸化物、イオン等としてアルミナ焼結体中に存在する。希土類元素成分の含有割合R
RE2O3は、アルミナ焼結体を蛍光X線分析したときに検出された元素を酸化物換算したときの合計質量に対する希土類元素成分を酸化物換算したときの質量割合である。アルミナ焼結体は、希土類元素成分の含有割合R
RE2O3に関して、(6)0≦R
RE2O3≦0.1を満たす。アルミナ焼結体におけるBa成分の含有割合が比較的大きいときに、希土類元素成分の含有割合が大きくなるほど、焼結性が低下し、十分な耐電圧性能が得られない。焼結性の良好なアルミナ焼結体を得るためには焼成温度を高くする方法が考えられるが、焼成温度が高くなるほどアルミナ焼結体の製造コストが高くなる。したがって、アルミナ焼結体における希土類元素成分の含有割合R
RE2O3は、無含有であるのが好ましく、含有する場合には0.1質量%以下であるのが好ましい。希土類元素成分としては、例えば、Sc成分、Y成分、La成分、Ce成分、Pr成分、Nd成分、Pm成分、Sm成分、Eu成分、Gd成分、Tb成分、Dy成分、Ho成分、Er成分、Tm成分、Yb成分、及びLu成分が挙げられる。
【0035】
アルミナ焼結体に含まれる各成分の含有割合は、次のようにして求めることができる。まず、スパークプラグ1を軸線Oに直交する面で切断して、切断面を露出させる。次いで、絶縁体3の切断面を鏡面研磨して、研磨面を得る。この研磨面における任意の5箇所において蛍光X線分析して、検出された元素を酸化物換算したときの合計質量に対するAl成分の酸化物換算したときの質量の割合を算出し、得られた値の算術平均を算出することにより、Al成分の含有割合(質量%)を求める。同様にして、Si成分、Ba成分、Mg成分、Ca成分、Sr成分、及び希土類元素成分をそれぞれ酸化物換算したときの含有割合(質量%)R
SiO2、R
BaO、R
MgO、R
CaO、R
SrO、及びR
RE2O3を求める。
【0036】
アルミナ焼結体は、アルミナ焼結体の全質量を100質量%としたときにNa成分及びK成分の合計含有割合が、0.002質量%以上0.050質量%以下であるのが好ましい。Na成分及びK成分は、酸化物、イオン等として主にガラス相中に存在する。Na成分及びK成分の含有割合が小さいほどガラス相の軟化温度が上昇するので、高温下における耐電圧性能が向上する。Na成分及びK成分の含有割合は小さいほど好ましいが0.050質量%以下では、ガラス相の軟化温度を上げることによる効果が頭打ちになる。また、Na成分及びK成分の含有割合が0.050質量%以下であれば、マイグレーションによりNa原子及びK原子が移動しても、絶縁体3が例えば約900℃という高温に曝される環境でスパークプラグ1が長期にわたって使用された場合に、十分な耐電圧性能が得られる。また、アルミナ焼結体は、Na成分及びK成分を不可避不純物として含有することがある。したがって、アルミナ焼結体は、Na成分及びK成分を0.002質量%以上含有してもよい。
【0037】
アルミナ焼結体は、アルミナ焼結体の全質量を100質量%としたときにTi成分及びFe成分の合計含有割合が、0.01質量%以上0.08質量%以下であるのが好ましい。Ti成分及びFe成分は、酸化物、イオン等として主にガラス中に存在する。Ti成分及びFe成分の含有割合が0.08質量%以下であると、理由は不明であるが、絶縁体3が例えば約900℃という高温に曝される環境でスパークプラグ1が長期にわたって使用された場合に、十分な耐電圧性能が得られる。アルミナ焼結体は、Ti成分及びFe成分を不可避不純物として含有することがある。したがって、アルミナ焼結体は、Ti成分及びFe成分を0.01質量%以上含有してもよい。
【0038】
アルミナ焼結体におけるNa成分、K成分、Ti成分、及びFe成分等の微量成分の含有割合は、ICP発光分光分析法により、分析サンプルの全質量に対するそれぞれの元素の質量割合として求めることができる。
【0039】
アルミナ焼結体は、アルミナの結晶以外の結晶として、Ba成分を含む結晶を含有するのが好ましい。Ba成分を含む結晶としては、Ba成分とAl成分とを含む結晶を挙げることができ、例えば、BaO・6Al
2O
3(バリウムヘキサアルミネート)、BaAl
2Si
28(セルシアン)、BaAl
12O
19等を挙げることができる。バリウムヘキサアルミネート等のBa成分を含む結晶において、Baの一部がMg、Ca、Srに置換されていてもよい。Ba成分を含む結晶は層状構造を有するので、アルミナ焼結体がBa成分を含む結晶を含有すると、マイグレーションが発生したときのMg原子及びCa原子等の移動経路が長くなる。したがって、アルミナ焼結体がBa成分を含む結晶を含有すると、高温下で絶縁体3に電圧を印加した場合にマイグレーションが発生し、原子が移動したとしても、長期にわたってスパークプラグ1を使用したときの耐電圧性能の低下を抑制することができる。
【0040】
アルミナ焼結体に含まれる結晶の種類は、例えば、アルミナ焼結体をX線回折分析し、X線回折により得られたX線回折チャートと例えばJCPDSカードとを対比することで、確認することができる。
【0041】
アルミナ焼結体は、複数のアルミナの結晶それぞれの最大径の平均値である平均粒径D
AとBa成分を含む結晶それぞれの最大径の平均値である平均粒径D
Bとの比(D
A/D
B)が0.5以上5.0以下であるのが好ましい。前記比(D
A/D
B)が0.5以上5.0以下であると、マイグレーションが発生したときのMg原子及びCa原子等の移動経路をより長くすることができ、長期にわたってスパークプラグ1を使用したときの耐電圧性能の低下をより一層抑制することができる。
【0042】
前記比(D
A/D
B)は、アルミナ焼結体を製造するときの原料組成、原料粉末の成形体を焼成するときの焼成条件、例えば昇温速度、焼成温度、及び降温速度等を変更することにより調整することができる。
【0043】
前記比(D
A/D
B)は、例えば、次のようにして求めることができる。まず、スパークプラグ1を軸線Oに直交する面で切断して、切断面を露出させる。次いで、絶縁体3の切断面において結晶のみを観察するために、切断面が露出したスパークプラグ1を炉に入れて、1400℃で1時間保持することによりサーマルエッチングを行う。次いで、絶縁体3の切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、例えば縦300μm、横300μmの領域においてアルミナの結晶とBaを含む結晶とを5個ずつ選択し、それぞれの結晶の最大径を測定する。10視野において、同様にしてアルミナの結晶とBaを含む結晶とを5個ずつ選択し、それぞれの結晶の最大径を測定する。それぞれの結晶について、合計50個の結晶の最大径の平均値を算出する。アルミナの結晶の最大径の平均値を平均粒径D
Aとし、Ba成分を含む結晶の最大径の平均値を平均粒径D
Bとし、平均粒径D
Aと平均粒径D
Bとの比(D
A/D
B)を求める。なお、それぞれの視野において、SEMに付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて元素分析を行うことにより、アルミナの結晶及びBa成分を含む結晶を特定することができる。
【0044】
スパークプラグ1は、例えば次のようにして製造される。まず、この発明の特徴部分である絶縁体3の製造方法について説明する。
【0045】
まず、原料粉末、すなわち、Al化合物粉末と、Si化合物粉末と、Ba化合物粉末と、Mg化合物粉末、Ca化合物粉末、及びSr化合物粉末のうち少なくとも1種と、所望により希土類元素化合物粉末とを所定の割合で配合してスラリー中で混合する。ここで、各粉末の混合割合は、例えば絶縁体3を形成するアルミナ焼結体における各成分の含有割合と同一に設定することができる。この混合は、原料粉末の混合状態を均一にし、かつ得られる焼結体を高度に緻密化することができるように、8時間以上にわたって混合されるのが好ましい。
【0046】
Al化合物粉末は、焼成によりAl成分に転化する化合物であれば特に制限はなく、通常、アルミナ(Al
2O
3)粉末が用いられる。Al化合物粉末は、不可避不純物、例えばNa等を含有していることがあるので、高純度のものを用いるのが好ましく、例えば、Al化合物粉末における純度は99.5%以上であるのが好ましい。Al化合物粉末は、緻密なアルミナ焼結体を得るには、通常、その平均粒径が0.1〜5.0μmの粉末を使用するのがよい。
【0047】
Si化合物粉末は、焼成によりSi成分に転化する化合物であれば特に制限はなく、例えば、Siの酸化物(複合酸化物を含む。)、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等、リン酸塩等の各種無機系粉末を挙げることができる。具体的にはSiO
2粉末等を挙げることができる。なお、Si化合物粉末として酸化物以外の粉末を使用する場合には、その使用量は酸化物に換算したときの酸化物換算質量%で把握する。Si化合物粉末の純度及び平均粒径はAl化合物粉末と基本的に同様である。
【0048】
Ba化合物粉末は、焼成によりBa成分に転化する化合物であれば特に制限はなく、例えば、Baの酸化物(複合酸化物を含む。)、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等、リン酸塩等の各種無機系粉末を挙げることができる。具体的には、BaO粉末、BaCO
3粉末等を挙げることができる。なお、Ba化合物粉末として酸化物以外の粉末を使用する場合には、その使用量は酸化物に換算したときの酸化物換算質量%で把握する。Ba化合物粉末の純度及び平均粒径はAl化合物粉末と基本的に同様である。
【0049】
Mg化合物粉末は、焼成によりMg成分に転化する化合物であれば特に制限はなく、例えば、Mgの酸化物(複合酸化物を含む。)、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等、リン酸塩等の各種無機系粉末を挙げることができる。具体的には、MgO粉末、MgCO
3粉末等を挙げることができる。なお、Mg化合物粉末として酸化物以外の粉末を使用する場合には、その使用量は酸化物に換算したときの酸化物換算質量%で把握する。Mg化合物粉末の純度及び平均粒径はAl化合物粉末と基本的に同様である。
【0050】
Ca化合物粉末は、焼成によりCa成分に転化する化合物であれば特に制限はなく、例えば、Caの酸化物(複合酸化物を含む。)、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等、リン酸塩等の各種無機系粉末を挙げることができる。具体的には、CaO粉末、CaCO
3粉末等を挙げることができる。なお、Ca化合物粉末として酸化物以外の粉末を使用する場合には、その使用量は酸化物に換算したときの酸化物換算質量%で把握する。Ca化合物粉末の純度及び平均粒径はAl化合物粉末と基本的に同様である。
【0051】
Sr化合物粉末は、焼成によりSr成分に転化する化合物であれば特に制限はなく、例えば、Srの酸化物(複合酸化物を含む。)、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等、リン酸塩等の各種無機系粉末を挙げることができる。具体的には、SrO粉末、SrCO
3粉末等を挙げることができる。なお、Sr化合物粉末として酸化物以外の粉末を使用する場合には、その使用量は酸化物に換算したときの酸化物換算質量%で把握する。Sr化合物粉末の純度及び平均粒径はAl化合物粉末と基本的に同様である。
【0052】
任意で添加される希土類元素化合物粉末は、焼成により希土類元素成分に転化する化合物であれば特に制限はなく、例えば、希土類元素の酸化物(複合酸化物を含む。)等を挙げることができる。なお、希土類元素化合物粉末として酸化物以外の粉末を使用する場合には、その使用量は酸化物に換算したときの酸化物換算質量%で把握する。希土類元素化合物粉末の純度及び平均粒径はAl化合物粉末と基本的に同様である。
【0053】
この原料粉末を溶媒に分散させ、バインダーとして例えば親水性結合剤を配合することにより、スラリー中で混合する。このとき用いられる溶媒としては、例えば、水、アルコール等を挙げることができる。親水性結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、水溶性アクリル樹脂、アラビアゴム、デキストリン等を挙げることができる。これらの親水性結合剤及び溶媒は1種単独でも2種以上を併用することもできる。親水性結合剤及び溶媒の使用割合は、原料粉末を100質量部としたときに、親水性結合剤は0.1〜5.0質量部、好ましくは0.5〜3.0質量部であり、溶媒として水を使用する場合には40〜120質量部、好ましくは50〜100質量部である。
【0054】
次いで、このスラリーをスプレードライ法等により噴霧乾燥して平均粒径50〜200μm、好ましくは70〜150μmに造粒する。この平均粒径はいずれもレーザー回折法(日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布測定装置(MT−3000))により測定した値である。
【0055】
次いで、この造粒物を例えばラバープレス又は金型プレス等でプレス成形して好ましくは絶縁体3の形状及び寸法を有する未焼成成形体を得る。得られた未焼成成形体は、その外面がレジノイド砥石等で研削されることにより形状が整えられる。
【0056】
所望の形状に研削整形された未焼成成形体を、大気雰囲気で昇温速度5〜15℃/分で常温から1500〜1700℃、好ましくは1550〜1650℃の範囲における所定の温度まで昇温し、この温度で、1〜8時間、好ましくは3〜7時間保持して焼成し、この焼成温度から常温まで降温速度3〜20℃/分で降温することにより、アルミナ焼結体が得られる。昇温速度が5〜15℃/分であると、未焼成成形体内の有機成分の揮発に伴うクラックを抑制することが可能であり、得られるアルミナ焼結体の耐電圧性能及び機械的強度を確保することができる。アルミナ焼結体は焼成温度が1500〜1700℃であると、Ba成分を比較的多く含有しても良好な焼結性を有し、また、アルミナ成分の異常粒成長が生じ難いので、緻密なアルミナ焼結体を得ることができる。また、焼成時間が1〜8時間であると、アルミナ成分の異常粒成長が生じ難く、焼結体が十分に緻密化し易い。また、降温速度が3〜20℃/分であると、所望の粒径を有する、アルミナの結晶とBa成分を含有する結晶とが形成され易くなる。したがって、未焼成成形体を焼成するときの昇温速度、焼成温度、焼成時間、降温速度が前記範囲内であると、絶縁体3が約900℃の高温に曝される環境でスパークプラグ1が長期にわたって使用された場合に、十分な耐電圧性能を有するアルミナ焼結体を得ることができる。
【0057】
このようにしてアルミナ焼結体からなる絶縁体3が得られる。この絶縁体3を備えたスパークプラグ1は、例えば次のようにして製造される。すなわち、Ni合金等の電極材料を所定の形状及び寸法に加工して中心電極4及び接地電極8を作製する。電極材料の調整及び加工を連続して行うこともできる。例えば、真空溶解炉を用いて、所望の組成を有するNi合金等の溶湯を調整し、真空鋳造にて各溶湯から鋳塊を調整した後、この鋳塊を、熱間加工、線引き加工等して、所定の形状及び所定の寸法に適宜調整して、中心電極4及び接地電極8を作製することができる。
【0058】
次いで、所定の形状及び寸法に塑性加工等によって成形した主体金具7の端面に接地電極8の一端部を電気抵抗溶接等によって接合する。次いで、絶縁体3の軸孔2内に中心電極4を公知の手法により組付け、接続部6を形成する組成物を軸孔2内に予備圧縮しつつ充填する。次いで、軸孔2内の端部から端子金具5を圧入しつつ組成物を圧縮加熱する。こうして前記組成物が焼結して接続部6が形成される。次いで、接地電極8が接合された主体金具7に、この中心電極4等が固定された絶縁体3を組付ける。最後に、接地電極8の先端部を中心電極4側に折り曲げて、接地電極8の一端が中心電極4の先端部と対向するようにして、スパークプラグ1が製造される。
【0059】
この発明に係るスパークプラグ1は、自動車用の内燃機関例えばガソリンエンジン等の点火栓として使用され、内燃機関の燃焼室を区画形成するヘッド(図示せず)に設けられたネジ穴に前記ネジ部24が螺合されて、所定の位置に固定される。この発明に係るスパークプラグ1は、如何なる内燃機関にも使用することができる。この発明に係るスパークプラグ1における絶縁体3は、例えば900℃という高温下で長期にわたって電圧を印加しても耐電圧性能を維持することができるので、絶縁体3が例えば900℃という高温に曝される内燃機関に特に好適である。
【0060】
この発明に係るスパークプラグ1は、前述した実施例に限定されることはなく、本発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0061】
(絶縁体の作製)
表1〜表7に示すように、Al
2O
3粉末と、SiO
2粉末と、BaCO
3粉末と、MgCO
3粉末と、CaCO
3粉末と、SrCO
3粉末と、La
2O
3粉末と、Na
2CO
3粉末と、K
2CO
3粉末と、Fe
2O
3粉末と、TiO
2粉末とを適宜混合して原料粉末とした。この原料粉末に溶媒としての水と親水性結合剤とを添加してスラリーを調製した。
【0062】
得られたスラリーをスプレードライ法により噴霧乾燥して平均粒径が約100μmの粉末を造粒した。この粉末をプレス成形して試験用絶縁体
70の原形となる未焼成成形体を成形した。この未焼成成形体を大気雰囲気下において、昇温速度5〜15℃/分の範囲内で室温から焼成温度1500〜1700℃の範囲内の所定の温度まで昇温し、この焼成温度で焼成時間を1〜8時間の範囲内に設定して焼成し、その後、降温速度3〜20℃/分の範囲内で降温させて、室温まで温度を下げた。このようにして、
図2に示される形状を有する蓋付きの試験用絶縁体70を得た。
【0063】
(試験用絶縁体の組成等の測定)
作製した試験用絶縁体70を軸線方向に直交する面で切断して切断面を研磨して、研磨面を得た。この研磨面を、蛍光X線分析して、検出された元素を酸化物換算したときの合計質量に対するAl成分の酸化物換算したときの質量の割合を算出した。5箇所において同様の測定を行い、得られた値の算術平均を算出し、Al成分の含有割合R
Al2O3を求めた。同様にして、Si成分、Ba成分、Mg成分、Ca成分、Sr成分、及びLa成分をそれぞれ酸化物換算したときの含有割合R
SiO2、R
BaO、R
MgO、R
CaO、R
SrO、及びR
RE2O3をそれぞれ求めた。また、これらの値から表1〜表7に示す各種数値を算出した。
後述の「高温耐電圧試験I」では、試験用絶縁体70をX線回折分析し、試験用絶縁体70に含有される結晶の同定を行った。
後述の「高温耐電圧試験IV」では、試験用絶縁体70に含まれるNa、K、Fe、及びTi等の微量成分の含有割合を、ICP発光分光分析法により求めた。
【0064】
(結晶粒径の測定)
後述の「高温耐電圧試験I」では、アルミナ焼結体に含まれる、アルミナの結晶の平均粒径D
AとBa成分を含む結晶の平均粒径D
Bとの比(D
A/D
B)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて求めた。具体的には、まず、試験用絶縁体70の組成を測定するのに用いた、切断面が露出した試験用絶縁体70を電気炉に入れて、1400℃で1時間保持することによりサーマルエッチングを行った。次いで、試験用絶縁体70の切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、前述したように、縦300μm、横300μmの領域、10視野においてアルミナの結晶、Ba成分を含む結晶それぞれについて合計50個の結晶の最大径を測定し、得られた測定値の平均値を算出した。アルミナの結晶の最大径の平均値を平均粒径D
Aとし、Ba成分を含む結晶の最大径の平均値を平均粒径D
Bとし、平均粒径D
Aと平均粒径D
Bとの比(D
A/D
B)を求めた。なお、それぞれの視野において、SEMに付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて元素分析を行うことにより、アルミナの結晶及びBa成分を含む結晶を特定した。
【0065】
(高温耐電圧試験I)
図2に示す耐電圧測定装置71を用いて、この試験用絶縁体70の900℃における高温耐電圧試験を行った。
図2に示すように、作製した試験用絶縁体70は、その軸線方向の中心部に軸孔を備えていると共に軸孔の先端部には蓋が設けられ、閉じた状態になっている。耐電圧測定装置71は、金属製の環状部材72と、試験用絶縁体70を加熱するヒータ73を有する炉とを備えている。試験用絶縁体70の軸孔にNi合金製の試験用中心電極74をその先端部まで挿入配置し、試験用絶縁体70の先端部外周面に、環状部材72の内周面が接するように環状部材72を配置した状態で、試験用絶縁体70の耐電圧を測定した。具体的には、まず、試験用絶縁体70を炉に入れてヒータ73で炉内の温度が900℃になるまで加熱して900℃に保持した状態で、試験用中心電極74と環状部材72との間に20kVで30分間電圧を印加した。これにより、絶縁体を備えたスパークプラグを長期にわたって使用した後の状態として、加速試験を行った。その後、試験用中心電極74と環状部材72との間に電圧を印加し、0.5kV/sで昇圧した。試験用絶縁体70に絶縁破壊が発生したとき、すなわち、試験用絶縁体70が貫通して昇電圧できなくなったときの電圧値を測定し、この値を耐電圧値(kV)として表1〜表3に示した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
表1に示すように、請求項1に記載の(1)〜(6)をすべて満たし、本発明の範囲内にある試験番号1、2、4、6、8〜12、15、18〜20、24〜26の試験用絶縁体は、耐電圧値が「25kV」以上であり、十分な耐電圧性能が得られたのに対し、請求項1に記載の(1)〜(6)の少なくとも一つを満たさず、本発明の範囲外にある試験番号3、5、7、13、14、16、17、21〜23、27〜29の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「23kV」以下であり、十分な耐電圧性能が得られなかった。
【0070】
表2に示すように、バリウムヘキサアルミネート(BaO・6Al
2O
3)の形成が確認された試験番号31〜35の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「25kV」以上であり、十分な耐電圧性能が得られたのに対し、バリウムヘキサアルミネート(BaO・6Al
2O
3)の形成が確認されなかった試験番号36及び37の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「22kV」以下であり、十分な耐電圧性能が得られなかった。
【0071】
表3に示すように、アルミナの結晶の平均粒径D
AとBa成分を含む結晶の平均粒径D
Bとの比(D
A/D
B)が「0.5」以上である試験番号41〜45の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「25kV」以上であり、十分な耐電圧性能が得られたのに対し、比(D
A/D
B)が「0.5」より小さい試験番号46及び47の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「22kV」以下であり、十分な耐電圧性能が得られなかった。
【0072】
(高温耐電圧試験II
:参考試験)
試験用絶縁体70を炉に入れてヒータ73で炉内の温度が900℃になるまで加熱して900℃に保持した状態で、試験用中心電極74と環状部材72との間に25kVで30分間電圧を印加した後に、耐電圧値を測定したこと以外は「高温耐電圧試験I」と同様にして試験を行った。高温耐電圧試験IIは、高温耐電圧試験Iより印加した電圧値が高く、厳しい条件になっている。結果を表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
表4に示すように、請求項に記載の(1)〜(7)をすべて満たしている試験番号51〜53、57〜63の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「20kV」以上であり、十分な耐電圧性能が得られたのに対し、請求項に記載の(5)及び(7)を満たしていない試験番号54〜56の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「18kV」であり、十分な耐電圧性能が得られなかった。
【0075】
(高温耐電圧試験III
:参考試験)
試験用絶縁体70を炉に入れてヒータ73で炉内の温度が900℃になるまで加熱して900℃に保持した状態で、試験用中心電極74と環状部材72との間に20kVで60分間電圧を印加した後に、耐電圧値を測定したこと以外は「高温耐電圧試験I」と同様にして試験を行った。高温耐電圧試験IIIは、高温耐電圧試験Iより長時間電圧を印加しており、厳しい条件になっている。結果を表5に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
表5に示すように、請求項に記載の(1)〜(8)をすべて満たしている試験番号7174、76、77、80、81の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「20kV」以上であり、十分な耐電圧性能が得られたのに対し、請求項に記載の(8)を満たしていない試験番号75、78、79の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「18kV」であり、十分な耐電圧性能が得られなかった。
【0078】
(高温耐電圧試験IV)
試験用絶縁体70を炉に入れてヒータ73で炉内の温度が900℃になるまで加熱して900℃に保持した状態で、試験用中心電極74と環状部材72との間に20kVで120分間電圧を印加した後に、耐電圧値を測定したこと以外は「高温耐電圧試験I」と同様にして試験を行った。高温耐電圧試験IVは、高温耐電圧試験Iより長時間電圧を印加しており、厳しい条件になっている。結果を表6及び表7に示す。
【0079】
【表6】
【0080】
表6に示すように、請求項に記載の(1)〜(8)をすべて満たし、かつNa及びKの合計含有割合が0.002質量%以上0.050質量%以下である試験番号91〜97の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「25kV」以上であり、十分な耐電圧性能が得られたのに対し、Na及びKの合計含有割合が0.050質量%を超えている試験番号98〜101の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「19kV」以下であり、十分な耐電圧性能が得られなかった。
【0081】
【表7】
【0082】
表7に示すように、請求項に記載の(1)〜(8)をすべて満たし、Na及びKの合計含有割合が0.002質量%以上0.050質量%以下であり、Fe成分及びTi成分の合計含有割合が0.01質量%以上0.08質量%以下である試験番号111〜119の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「25kV」以上であり、十分な耐電圧性能が得られたのに対し、Fe成分及びTi成分の合計含有割合が0.08質量%を超えている試験番号120〜121の試験用絶縁体70は、耐電圧値が「17kV」以下であり、十分な耐電圧性能が得られなかった。