特許第6366562号(P6366562)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366562
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】多層配線基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   H05K3/46 L
   H05K3/46 Y
   H05K3/46 Q
   H05K3/46 H
   H05K3/46 G
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-220003(P2015-220003)
(22)【出願日】2015年11月10日
(65)【公開番号】特開2017-92223(P2017-92223A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098615
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】長屋 善明
(72)【発明者】
【氏名】宮本 卓
(72)【発明者】
【氏名】今西 豊
(72)【発明者】
【氏名】岩田 宗之
(72)【発明者】
【氏名】森 奈緒子
【審査官】 井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−111702(JP,A)
【文献】 特開2000−13024(JP,A)
【文献】 特開2006−203114(JP,A)
【文献】 特開2006−278688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線層と熱融着層との間に熱硬化性樹脂層を有し且つ該熱硬化性樹脂層の厚み方向に沿ったビア導体を備える複数の単位樹脂絶縁層を、セラミック基板上に載置した多層配線基板の製造方法であって、
下側圧着治具の上に拘束した上記セラミック基板の上面に、上記複数の単位樹脂絶縁層、上記同様の熱硬化性樹脂層および金属箔からなる複数の単位樹脂緩衝層とこれらの間に挟まれた熱可塑性樹脂層とからなるクッション材、および、上側圧着治具を、垂直方向にのみ移動可能に順次積層して、複合積層体を形成する工程と、
上記複合積層体を下側加熱治具と上側加熱治具との間に挟み、該上側加熱治具を下側加熱治具側に押圧しつつ真空熱圧着する工程と、含む、
ことを特徴とする多層配線基板の製造方法。
【請求項2】
前記下側圧着治具の上面には、前記セラミック基板の上面付近を除いた大部分を収納する凹部が形成され、該凹部内に上記セラミック基板を水平方向に沿って拘束しつつ収納している、
ことを特徴とする請求項1に記載の多層配線基板の製造方法。
【請求項3】
前記真空熱圧着工程に用いる上側加熱治具は、その加熱面が傾斜可能とされている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の多層配線基板の製造方法。
【請求項4】
前記下側加熱治具と下側圧着治具との間、該下側圧着治具と前記セラミック基板との間、および、前記上側加熱治具と上側圧着治具との間には、耐熱性の緩衝板が挟持されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の多層配線基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体素子などの電子部品を搭載し、且つセラミック基板の上面に複数の樹脂絶縁層を載置した多層配線基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、片面に導体パターンが形成された熱可塑性樹脂からなる複数の樹脂フィルムを積層して積層体を形成し、該積層体を一対の熱プレス板の間で加熱加圧するに際し、該熱プレス板と上記積層体との間にガラス繊維不織布を介在させ、且つ該ガラス繊維不織布と上記積層体との間に樹脂シートを介在させることで、上記ガラス繊維不織布中のガラス繊維を粉砕しつつ、上記積層体を加熱加圧する多層回路基板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
更に、片面に導体パターンが形成された複数の樹脂フィルムを、これらを貫通する位置決めピンにより積層して積層体を形成し、該積層体を一対の熱プレス板の間で加熱加圧するに際し、当該積層体と一方の熱プレス板との間に、緩衝材を介在させると共に、上記積層体と他方の熱プレス板との間に、上記位置決めピンが貫通する位置決め穴を有する平滑板を介在させて、加熱しつつ加圧する多層回路基板の製造方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
しかし、前記特許文献1に記載の多層回路基板の製造方法では、前記積層体と熱プレス板との間に介在させたガラス繊維不織布が、前記導体パターンの真上の位置と該導体パターンのない位置とでは、ガラス繊維の密度が異なるため、上記積層体を形成する樹脂フィルムごとの全面において圧力がバラ付き易い。その結果、前記樹脂フィルムごとの導体パターンやビア導体が前記加圧に伴う圧力と直交する方向に沿って位置ズレを生じことにより、導体パターン同士間における不用意な短絡や、導体パターンとビア導体との不用意な接触による短絡や、離間によるオープン不良などの不具合を生じる場合があった。かかる不具合は、前記特許文献2に記載の多層回路基板の製造方法においても、解決することが不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−147419号公報(第1〜12頁、図1〜5)
【特許文献2】特開2007−201371号公報(第1〜14頁、図1〜7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術で説明した問題点を解決し、セラミック基板の上に配線層を片面に有する複数の単位樹脂絶縁層を積層して載置するに際し、位置ズレを確実に抑制ないし低減して、不用意な短絡やオープン不良を可及的に生じにくくした多層配線基板の製造方法を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、複数の単位樹脂絶縁層のうち、上側圧着治具とこれに隣接する最上層の単位樹脂絶縁層との間に、熱硬化性樹脂層および金属箔からなる複数の単位樹脂緩衝層とこれらの間に挟まれた熱可塑性樹脂層とからなるクッション材を介在させる、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明よる多層配線基板の製造方法(請求項1)は、配線層と熱融着層との間に熱硬化性樹脂層を有し且つ該熱硬化性樹脂層の厚み方向に沿ったビア導体を備える複数の単位樹脂絶縁層を、セラミック基板上に載置した多層配線基板の製造方法であって、下側圧着治具の上に拘束した上記セラミック基板の上面に、上記複数の単位樹脂絶縁層、上記同様の熱硬化性樹脂層および金属箔からなる複数の単位樹脂緩衝層とこれらの間に挟まれた熱可塑性樹脂層とからなるクッション材、および、上側圧着治具を、垂直方向にのみ移動可能に順次積層して、複合積層体を形成する工程と、かかる複合積層体を下側加熱治具と上側加熱治具との間に挟み、該上側加熱治具を下側加熱治具側に押圧しつつ真空熱圧着する工程と、含む、ことを特徴とする。
【0007】
これによれば、以下の効果(1)〜(3)を奏することが可能となる。
(1)前記クッション材の厚みが均一なことにより、前記複数の単位樹脂絶縁層における厚み方向の全体において均一に加圧できるので、前記厚み方向と直交する方向に沿った分力(滑り力)を抑制することができる。
(2)上記効果(1)に起因して、複数の単位樹脂絶縁層における配線層やビア導体の位置ズレを可及的に低減できる。
(3)上記効果(2)によって、複数の単位樹脂絶縁層における配線層同士の不用意な短絡や、該配線層とビア導体との不用意な短絡やオープン不良を低減できるので、信頼性の高い多層配線基板を提供することができる。
【0008】
尚、前記単位樹脂絶縁層を構成する熱硬化性樹脂層は、ポリイミドからなる。
また、前記単位樹脂絶縁層に形成された熱融着層は、熱可塑性のポリイミドからなる。尚、かかる熱融着層は、予め上記熱硬化性樹脂層の両面に被覆され、その片方の表面に前記配線層が形成されていても良い。
更に、前記配線層は、例えば、銅箔をパターニングして形成されたものである。
また、前記単位樹脂絶縁層では、前記ビア導体の一端と上記配線層とが接続されている。
更に、前記クッション材を構成する熱可塑性樹脂層も熱可塑性のポリイミドからなる。
また、上記クッション材を構成する前記金属箔は、例えば、銅箔である。
更に、前記複数の単位樹脂絶縁層の周辺部、前記クッション材の周辺部、および前記上側圧着治具(蓋板)の周辺部には、下側圧着治具の上面から立設した複数のガイドピンが個別に貫通する積層時の位置決め用の貫通孔が形成されている。
【0009】
また、前記セラミック基板は、少なくとも1層のセラミック層と、その両面に個別に形成した複数のパッドあるいは複数の接続端子と、これらの間を導通するビア導体とを備えている。
更に、前記セラミック基板は、複数のセラミック層を積層したセラミック基板本体と、前記セラミック層間に配設した配線層と、セラミック基板本体の両面に個別に形成したパッドあるいは接続端子と、該パッドまたは接続端子と上記配線層との間および配線層同士の間を接続するビア導体とを有する形態であっても良い。上記セラミック層は、例えば、アルミナからなり、上記配線層、パッド、接続端子、およびビア導体は、例えば、WまたはMoからなる。
加えて、前記真空熱圧着する工程は、前記クッション材を構成する熱可塑性樹脂層のガラス転移温度(ガラス転移点)以上の温度域(約300〜380℃)に加熱し、且つ0.095MPa以下の真空度にした状態で、約0.5〜1時間にわたり保持することで行われる。
【0010】
また、本発明には、前記下側圧着治具の上面には、前記セラミック基板の上面付近を除いた大部分を収納する凹部が形成され、該凹部内に上記セラミック基板を水平方向に沿って拘束しつつ収納している、多層配線基板の製造方法(請求項2)も含まれる。
これによれば、前記効果(1)、(2)を一層確実に奏することができる。
尚、上記セラミック基板を上記凹部内に水平方向に沿って拘束して収納するため、例えば、平面視が矩形状の上記凹部における四辺の側壁から当該凹部内に進退する複数のスライドピンを、ボールネジで移動可能とした構造が挙げられる。
【0011】
更に、本発明には、前記真空熱圧着工程に用いる上側加熱治具は、その加熱面が傾斜可能とされている、多層配線基板の製造方法(請求項3)も含まれる。
これによれば、前記複合積層体が若干傾いていても、常に均一な圧力を加えられ、且つ該圧力の方向と直交する方向の滑りを一層抑制できるので、前記効果(1)〜(3)をより顕著に奏することができる。
尚、上側加熱治具の加熱面を傾斜可能とする機構には、例えば、かかる上側加熱治具の前記加熱面と反対側に加圧方向に沿って凹んだ凹曲面と、該凹曲面に点接触する半球形状の凸曲面を有するプレス軸との組み合わせが例示される。
【0012】
加えて、本発明には、前記下側加熱治具と下側圧着治具との間、該下側圧着治具と前記セラミック基板との間、および、前記上側加熱治具と上側圧着治具との間には、耐熱性の緩衝板が挟持されている、多層配線基板の製造方法(請求項4)も含まれる。
これによれば、前記上側加熱治具と下側加熱治具とから圧力と共に加熱に伴う熱が伝達されても、かかる熱を過度に前記複数の単位樹脂絶縁層に伝熱する事態を抑制できるので、前記効果(1)〜(3)を一層確実に奏することができる。
尚、上記耐熱性の緩衝板には、例えば、全芳香族ポリアミドからなる耐熱ボードが例示される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(A)は単位樹脂絶縁層を形成するための銅箔張り樹脂シートの断面図、(B),(C)は単位樹脂絶縁層を形成する工程を示す断面図、(D)は複合積層体を形成する工程を示す垂直断面図。
図2】(A),(B)は図1(D)に続く複合積層体を形成する工程を示す垂直断面。
図3】真空圧着工程の直前の状態を示す垂直断面図。
図4】真空圧着工程を行った直後の状態を示す垂直断面図。
図5】真空圧着して得られた複合積層体を示す垂直断面図。
図6】本発明により得られた多層配線基板を示す垂直断面図。
図7】比較例の製造方法を示す垂直断面図。
図8】異なる比較例の製造方法を示す垂直断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
予め、図1(A)に示す銅箔張り樹脂シートJ0を複数用意した。かかる銅箔張り樹脂シートJ0は、図示のように、ポリイミド(以下、PIと称する)からなる熱硬化性樹脂層1と、その両面に形成され熱可塑性PIからなる熱融着層2と、一方の熱融着層2に貼着された銅箔(金属箔)3とを備え、全体の厚みが約30μmの複合積層体である。かかる銅箔張り樹脂シートJ0を3枚用意した。
先ず、図1(B)に示すように、上記銅箔張り樹脂シートJ0の中央側に複数のビアホール5aと、該樹脂シートJ0の周辺部に複数(例えば、4つ)の貫通孔6を穿設した。上記ビアホール5a内ごとには、銅粉末を含む導電性ペーストを充填して、一端(上端)側が銅箔3を貫通するビア導体5を形成した。
次いで、上記銅箔3に対し、フォトリゾグラフィーなどのパターニング技術を施して、図1(C)に示すように、所要パターンの配線層4を形成した。その結果、複数の単位樹脂絶縁層Jn(例えば、n=1〜3)が得られた。
【0015】
次に、図1(D)に示すように、下側圧着治具7の上面に開口する凹部8内に耐熱性の緩衝板11を介して、上面付近を除くセラミック基板12の大部分を収納した。尚、上記緩衝板11には、例えば、全芳香族ポリアミドからなる耐熱ボードが用いられる。
更に、上記セラミック基板12の側面ごとに対し、前記凹部8の内壁面ごとから図示しないボールネジにより水平方向に沿って且つ該凹部8の中央側に向かって進退する複数のスライドピン9を個別に当接することによって、上記セラミック基板12を水平方向において位置決めした状態で拘束した。
【0016】
上記セラミック基板12は、図1(D)に示すように、例えば、アルミナを主成分とするセラミック層c1〜c3と、上面(表面)に形成した複数のパッド13と、底面(裏面)に形成した複数の接続端子14と、上記セラミック層c1〜c3間に形成された所要パターンの配線層15と、上記パッド13、配線層15、接続端子14の間を個別に導通し且つ上記セラミック層c1〜c3を個別に貫通する複数のビア導体16とを備えている。尚、上記パッド13、接続端子14、配線層15、およびビア導体16は、例えば、WあるいはMoからなる。
【0017】
図1(D)に示すように、下側圧着治具7における凹部8の開口部を囲む上面には、予め、複数(例えば、4本)の位置決め用のガイドピン10が垂直に立設されている。かかる複数のガイドピン10は、図示のように、前記複数の貫通孔6に個別に挿通することにより、複数(3層)の前記単位樹脂絶縁層J1〜J3を前記セラミック基板12の上方に順時積層した。この際、セラミック基板12側のバッド13と最下層の単位樹脂絶縁層J1の底面に露出するビア導体5とが電気的に接続された。尚、上記下側圧着治具7、スライドピン9、およびガイドピン10は、例えば、鋼や鋳鉄などの金属からなる。
【0018】
次いで、図2(A)に示すように、前記銅箔張り樹脂シートJ0からなり、銅箔3を外側に露出させた上下2層の単位樹脂緩衝層J0と、これらの間に挟持された熱可塑性樹脂層18とからなるクッション材Cnを、これらに対して前記同様に穿設した貫通孔6,17に前記ガイドピン10を挿通して載置した。尚、熱可塑性樹脂層18は、厚みが約25μmの熱可塑性PIのフィルムからなる。
その結果、前記セラミック基板12と、前記単位樹脂絶縁層J1〜J3と、上記クッション材Cnとからなる複合積層体HSが得られた。
次に、図2(B)に示すように、上層側の単位樹脂緩衝層J0の銅箔3の上に、前記ガイドピン10の上端側が進入する複数の貫通孔19を周辺側に有する上側圧着治具20を載置することにより、該上側圧着治具20と前記下側圧着治具7との間に、前記複合積層体HSを挟み込んだ。尚、上側圧着治具20も、前記同様の金属からなる。
【0019】
更に、図3に示すように、熱圧着プレスを構成する下側加熱治具22と上側加熱治具23との間に、それぞれ前記同様の耐熱ボードからなる緩衝板21を介して、前記複合積層体HSと、これを間に挟んだ前記下側圧着治具7および上側圧着治具20とを配設した。上記下側加熱治具22は、上面が平坦な前記同様の金属からなるベース盤である。一方、上側加熱治具23は、その上面の中央部に上向きに凹の凹曲面24を有する凸部25が立設し、前記凹曲面24には、下向きに凸の凸曲面26を下端に有するプレス軸27が点接触により当接している。上記凹曲面24と凸曲面26とは、上側加熱治具23の加熱面(底面)を傾斜可能とする機構(傾斜機構)を構成している。
【0020】
図3に示す状態で、前記下側加熱治具22、複数のガイドピン10を含む下側圧着治具7、緩衝板11、複合積層体HS(セラミック基板12、単位樹脂絶縁層J1〜J3、クッション材Cn)、上側圧着治具20、緩衝板21、およびプレス軸27を含む上側加熱治具23を、真空室(図示せず)内に挿入し、0.095MPa以下の真空度にした。
上記真空状態で、下側加熱治具7および上側加熱治具23に埋設した図示しないヒータに通電して、前記クッション材Cnを構成する熱可塑性樹脂層18のガラス転移温度(ガラス転移点)以上の温度域(約300〜380℃)に加熱すると共に、図3中の白抜き矢印で示すように、傾斜機構24,26を介して上側加熱治具23に圧力Pを加え、該上側加熱治具23を下側加熱治具7側に押し下げ、且つ約0.5〜1時間にわたり保持する真空熱圧着工程を行った。
尚、上記圧力Pは、セラミック基板12のサイズにより異なる。該圧力Pは、セラミック基板12に約10〜80kgf/cm2(約0.98〜7.84MPa)の圧力が加わるように設定する(例えば、セラミック基板12のサイズが4cm角で、且つ50kgf/cm2の圧力を加える場合、前記装置の設定値は、4cm×4cm×50kgf/cm2=800kgf/cm2となる)。
【0021】
その結果、図4に示すように、単位樹脂絶縁層J1〜J3は、それらの隣接する熱融着層2同士により接着され、最下層の単位樹脂絶縁層J1における底面側の熱融着層2に隣接するセラミック基板12の上面が接着され且つ該上面のパッド13が食い込んでいた。同時に、クッション材Cnと上側圧着治具20とが、最上層の単位樹脂絶縁層J3側に下降した。
上記真空熱圧着工程において、図4中の白抜きの矢印で示すように、前記プレス軸27に加えられた圧力Pは、クッション材Cnにおける上層側の単位樹脂緩衝層J0で平面視の全面に均一に分散され、隣接する熱可塑性樹脂層18で外周側向きの水平方向に沿った比較的大きな分力(滑り力)となる。しかし、下層側の単位樹脂緩衝層J0の銅箔3と最上層の単位樹脂緩衝層J3の配線層4とが密着し且つ水平方向に沿った滑りが生じないので、下層側の単位樹脂緩衝層J0および単位樹脂絶縁層J1〜J3では、外周側向きの水平方向に沿った比較的小さく且つ均一な分力(滑り力)に抑制されていた。この際、最下層(1層目)の単位樹脂絶縁層J1は、自己に生じる滑り力のみを受けるため、比較的少ない位置ズレしか生じなかったが、中層(2層目)の単位樹脂絶縁層J2、更に最上層(3層目)の単位樹脂絶縁層J3の上層側になる程、下層側の滑り力の影響も含む結果、位置ズレが順次大きくなる傾向があった。
【0022】
しかも、最上層の単位樹脂絶縁層J3の配線層4によってクッション材Cnが傾斜していても、前記凹曲面24と凸曲面26とによる傾斜機構によって、上側加熱治具23の加熱面(底面)も、上記傾斜に追従することができる。そのため、前記と同様に、下層側の単位樹脂緩衝層J0と単位樹脂絶縁層J1〜J3では、外周側向きの水平方向に沿った比較的小さく且つ均一な分力に抑制されていた。
その結果、単位樹脂絶縁層J1〜J3の熱硬化性樹脂1は、水平方向に沿った延びが極めて抑制されるので、配線層4同士間の不用意な短絡や、配線層4とビア導体5との間における不用意な短絡やオープン不良を皆無にすることができた。
【0023】
図5は、前記真空熱圧着工程の後で、前記プレス軸27を含む上側加熱治具23とクッション材Cnとを取り除き、複数の前記ガイドピン10から抜き出した後の複合配線基板HPを示す垂直断面図である。
図5中の破線で示す切断予定面29に沿って、図示しない高速で回転する切断用カッターを挿入し且つ水平方向に沿って移動させることで、前記貫通孔6を含む外周側の耳部(捨て代)28を切除した。
更に、複合配線基板HPで外部に露出する最上層の配線層(パッド)4の表面と、セラミック基板12の底面に位置する複数の接続端子14の表面と対し、ニッケルや、金などの電解メッキ、若しくは無電解メッキを施した。
【0024】
その結果、図6に示すように、前記セラミック基板12の上側に、平面視で該セラミック基板12のサイズと同じか、あるいは相似形とされた単位樹脂絶縁層J1〜J3を一体に接着した多層配線基板30を得ることができた。
以上のような多層配線基板30の製造方法によれば、前記効果(1)〜(3)を確実に奏することができた。
尚、前記真空熱圧着工程では、前記凹曲面24と凸曲面26とによる傾斜機構を省略し、上側加熱治具23を、その上面の中央部に、前記プレス軸27が直に接続された形態としても、前記同様の作用および効果を得ることが可能である。
【実施例】
【0025】
以下において、本発明の製造方法の具体的な実施例を比較例と併せて説明する。
予め、同じ形状および構造のセラミック基板12(縦横80mm角)と、同じ形状および構造である5層の単位樹脂絶縁層J1〜J5とを、4組で且つ各組10個ずつの合計40個ずつを用意した。
尚、上記単位樹脂絶縁層J1〜J5は、厚さが30μmで縦横160mmずつのサイズを有し、熱硬化性樹脂層1の両面に熱融着層2と、片方の熱融着層2の全面に銅箔3を貼着した銅箔張り樹脂シート(宇部興産(株)製の商品名:ユビセルN)J0を用い、更に前述した各工程によって前記配線層4とビア導体5とを形成したものである。
【0026】
1つ目の組は、前記図3で示したように、下側圧着治具7のガイドピン10に単位樹脂絶縁層J1〜J5をそれらの貫通孔6を挿通することにより、前記緩衝板11上に固定したセラミック基板12の上方に積層し、更に、最上層の単位樹脂絶縁層Jの上方に一対の単位樹脂緩衝層J0と、これらの間に厚みが25μmで縦横100mmずつの熱可塑性樹脂層(クラボウ(株)製の商品名:ミドフィル)18を挟んだクッション材Cnを前記同様に載置した。そして、上記クッション材Cnの上方に上側圧着治具20と耐熱性の緩衝板21とを前記同様に載置した後、前記傾斜機構(24,26)を有しない上側加熱治具23を配置し、前述した真空熱圧着工程を行った。該方法により得られた10個の多層配線基板30を実施例1とした。
尚、上記真空熱圧着工程の条件は、0.090MPaの真空度、350℃の加熱温度、セラミック基板12に加える圧力は1cm2当たり6.86MPa(70kgf/cm2)、および60分の保持時間であった。
【0027】
また、2つ目の組は、前記同様のセラミック基板12と、前記と同じ単位樹脂絶縁層J1〜J5と、クッション材Cnと、下側圧着治具7および上側圧着治具20と、緩衝板11,21とを用いると共に、これら全体を前記下側加熱板22と傾斜機構24,26を有する上側加熱板23との間に挟み込んだ後、前記と同じ条件の真空熱圧着工程を行った。かかる方法により得られた10個の多層配線基板30を実施例2とした。
更に、3つ目の組は、図7に示すように、前記同様のセラミック基板12と、前記と同じ単位樹脂絶縁層J1〜J5と、厚さが2mmのガラス繊維板33の両面にPIからなる厚さ25μmの樹脂フイルム34を貼着したものとを、緩衝板11を介して、下側および上側圧着時具7,20の間に挟み込み、これら全体を上下一対の緩衝板21を介して、下側加熱治具22と、傾斜機構24,26のない上側加熱治具23との間に挟み込んで、前記と同じ条件の真空熱圧着工程を行った。かかる方法により得られた10個の多層配線基板30を比較例1とした。
【0028】
加えて、4つ目の組は、図8に示すように、前記同様のセラミック基板12と、前記と同じ単位樹脂絶縁層J1〜J5と、前記上下2層の単位樹脂緩衝層J0とを、緩衝板11を介して、下側および上側圧着時具7,20の間に挟み込み、これら全体を上下一対の緩衝板21を介して、下側加熱治具22と、傾斜機構24,26のない上側加熱治具23との間に挟み込んで前記と同じ条件の真空熱圧着工程を行った。かかる方法により得られた10個の多層配線基板30を比較例2とした。即ち、かかる比較例2は、前記クッション材Cnから熱可塑性樹脂層18を取り除いたものである。尚、図8では、作図上の都合により、単位樹脂絶縁層J4,J5を省略して表示している。
【0029】
前記各例において、位置ズレが最小となる最下層(1層目)の単位樹脂絶縁層J1と、位置ズレが最大となる最上層(5層目)の単位樹脂絶縁層J5との上面には、予め、かかる上面の中心を中心とし且つ平面視で一辺が50mmずつの正方形の各コーナ部に位置ズレ確認用の銅パターンが付与されており、前記真空熱圧着工程の前後における上記銅パターンの位置座標を個別に測定した。
そして、前記図3,7,8において、最上層(5層目)の単位樹脂絶縁層J5の上面における左右方向(X方向)に沿った一辺の長さの伸び量と、図示で奥行き方向(Y方向)に沿った一辺の長さの伸び量とを測定し、各例の平均値を算出した。尚、同じX方向およびY方向に沿った一対の辺では、大きい方の伸び量を採用した。上記伸び量の平均値の結果を、表1中の左側に示した。
更に、各例の最下層(1層目)の単位樹脂絶縁層J1についても、前記同様にX・Y方向に沿った一辺の長さの伸び量を測定し、且つそれぞれの平均値を算出した上、各例において、最下層(1層目)の単位樹脂絶縁層J1と最上層(5層目)の単位樹脂絶縁層J5とのX方向およびY方向における伸び量の差、即ち、ズレ量を個別に算出し、各例の平均値を算出した。それらの結果を、表1中の右側に示した。
【0030】
【表1】
【0031】
表1によれば、前記傾斜機構(24,26)を有しない上側加熱治具23を用いた実施例1の多層配線基板30では、5層目の単位樹脂絶縁層J5におけるX・Y方向に沿った一辺ごとの伸び量が16μm、21μmと比較的小さく、且つ1層目と5層目の単位樹脂絶縁層J1,J5間のズレ量も14μm、17μmと比較的小さかった。かかる結果は、実施例1では、1層目〜5層目の単位樹脂絶縁層J1〜J5の全てにおいて前記伸び量が小さく、且つ該単位樹脂絶縁層J1〜J5にかけて伸び量が少しずつ増加したことによるものと推定される。
更に、前記傾斜機構(24,26)を有する上側加熱治具23を用いた実施例2の多層配線基板30では、5層目の単位樹脂絶縁層J5におけるX・Y方向に沿った一辺ごとの伸び量が何れも9μmと最も小さくなり、且つ1層目と5層目の単位樹脂絶縁層J1,J5間のズレ量も8μm、10μmと最も小さくなった。かかる結果は、実施例2では、1層目から5層目の単位樹脂絶縁層J1〜J5の全ての前記伸び量が僅であり、且つ該単位樹脂絶縁層J1〜J5にかけて伸び量が僅かずつしか増加しなかったことによるものと推定される。
【0032】
一方、比較例1の多層配線基板30では、5層目の単位樹脂絶縁層J5におけるX・Y方向に沿った一辺ごとの伸び量が39μm、43μmと比較的大きく、且つ1層目と5層目の単位樹脂絶縁層J1,J5間のズレ量も28μm、34mと比較的大きくなっていた。かかる結果は、比較例1では、1層目から5層目の単位樹脂絶縁層J1〜J5の全てにおいて伸び量が大きく、且つ該単位樹脂絶縁層J1〜J5にかけても、前記伸び量が順次増大したことによるものと推定される。
また、比較例2の多層配線基板30では、5層目の単位樹脂絶縁層J5におけるX・Y方向に沿った一辺ごとの伸び量が53μm、59μmと最も大きくなり、且つ1層目と5層目の単位樹脂絶縁層J1,J5間のズレ量が9μm、14mと比較的小さくなっていた。かかる結果は、比較例2では、1層目から5層目の単位樹脂絶縁層J1〜J5の全てにおいて前記伸び量が最も大きくなったことによるものと推定される。
以上のような結果によれば、実施例1,2に例示された本願発明による多層配線基板の製造方法は、前記効果(1)〜(3)を奏し得るものである、ことが裏付けられた。
【0033】
本発明は、以上において説明した実施の形態と実施例とに限定されない。
例えば、前記セラミック基板12は、ムライトや窒化アルミニウムなどの高温焼成セラミック、あるいはガラス−セラミックなどの低温焼成セラミックからなるセラミック層により形成しても良く、該セラミック層の層数も任意である。上記低温焼成セラミックのセラミック層からなる場合、前記パッド13、接続端子14、配線層15、およびビア導体16には、CuまたはAgが適用される。
また、前記単位樹脂絶縁層Jnおよび他印樹脂緩衝層J0の厚みは、任意であると共に、平面視において長方形状を呈するものであっても良い。
更に、前記クッション材Cnに用いる熱可塑性樹脂層18の厚みも、任意であると共に、平面視において長方形状を呈するものであっても良い。
【0034】
また、前記ガイドピン10は、前記下側圧着治具7の上面の周辺側に、6本、8本、または10本以上を垂直に立設しても良い。
更に、前記複数のガイドピン10は、それらの下側に刻設した雄ネジを、前記下側圧着治具7に形成した複数の雌ネジ孔に個別にネジ込むことで、昇降および回転可能に立設しても良い。
また、前記上側圧着治具20は、その周辺側に設けた複数の雌ネジ孔ごとに、上記ガイドピン10ごとの上側に刻設した雄ネジを、個別にネジ結合させつつ昇降可能とした形態としても良い。
加えて、本発明により得られる多層配線基板には、複数の電子部品を同時に検査するための電子部品検査装置用配線基板も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、セラミック基板の上に配線層を有する複数の樹脂絶縁層を積層して載置するに際し、位置ズレを確実に抑制ないし低減して、不用意な短絡やオープン不良を可及的に生じにくくした多層配線基板の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0036】
1……………熱硬化性樹脂層、 2……………熱融着層、
3……………金属箔(銅箔)、 4……………配線層、
5……………ビア導体、 7……………下側圧着治具、
8……………凹部、 10…………ガイドピン、
11,21…緩衝板、 12…………セラミック基板、
18…………熱可塑性樹脂層、 20…………上側圧着治具、
22…………下側加熱治具、 23…………上側加熱治具、
30…………多層配線基板、 J0…………単位樹脂緩衝層、
J1〜J5…単位樹脂絶縁層、 Cn…………クッション材、
HS…………複合積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8