特許第6366563号(P6366563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366563
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】工作機械における送り軸の位置制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/19 20060101AFI20180723BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20180723BHJP
   G05D 3/12 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   G05B19/19 L
   G05B19/404 E
   G05D3/12 305Z
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-226973(P2015-226973)
(22)【出願日】2015年11月19日
(65)【公開番号】特開2017-16623(P2017-16623A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2017年6月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-257722(P2014-257722)
(32)【優先日】2014年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-137975(P2015-137975)
(32)【優先日】2015年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】宮路 匡
【審査官】 藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−240837(JP,A)
【文献】 特開2005−182427(JP,A)
【文献】 特開2008−211905(JP,A)
【文献】 特開2008−210179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18−19/416;19/42−19/427
G05D 3/00−3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸に装着した工具を回転させて被加工物を加工すると共に、サーボモータを用いて負荷を所定の直線軸方向へ駆動させる送り軸機構を備えた工作機械に設けられ、前記送り軸機構の可動部の位置を位置検出器により検出し、上位装置からの送り軸の位置指令値に従って前記可動部の位置を制御する送り軸の位置制御装置であって、
前記位置指令値と前記位置検出器からの位置検出値との偏差を増幅する速度指令演算器と、
前記位置指令値を微分して得られる速度フィードフォワードと前記速度指令演算器の出力とを加算して速度指令値を出力する第1の加算器と、
前記速度指令値と、前記可動部の速度を速度検出器により検出、あるいは、前記位置検出値を微分して得た速度検出値との偏差を増幅してフィードバックトルクを出力するトルク指令演算器と、
前記速度フィードフォワードを微分し、前記可動部のモータ軸換算イナーシャを乗じて得られるトルクフィードフォワードと前記フィードバックトルクとを加算してトルク指令値を出力する第2の加算器と、
前記トルク指令値に応じて前記サーボモータを駆動する駆動手段と、
前記位置指令値と前記位置検出器からの位置検出値との偏差を参照信号とし、前記上位装置から得られる前記主軸の回転角度情報と前記参照信号とから位置補正量を算出する振れ量補正器と、
前記位置補正量を前記位置指令値に重畳し、前記位置指令値を補正する第3の加算器と、を備え、
前記振れ量補正器は、前記参照信号から前記工具の切れ刃の振れ量を推定し、前記参照信号に現れる各前記切れ刃の影響が平準化されるように前記位置補正量を算出することを特徴とする工作機械における送り軸の位置制御装置。
【請求項2】
主軸に装着した工具を回転させて被加工物を加工すると共に、サーボモータを用いて負荷を所定の直線軸方向へ駆動させる送り軸機構を備えた工作機械に設けられ、前記送り軸機構の可動部の位置を位置検出器により検出し、上位装置からの送り軸の位置指令値に従って前記可動部の位置を制御する送り軸の位置制御装置であって、
前記位置指令値と前記位置検出器からの位置検出値との偏差を増幅する速度指令演算器と、
前記位置指令値を微分して得られる速度フィードフォワードと前記速度指令演算器の出力とを加算して速度指令値を出力する第1の加算器と、
前記速度指令値と、前記可動部の速度を速度検出器により検出、あるいは、前記位置検出値を微分して得た速度検出値との偏差を増幅してフィードバックトルクを出力するトルク指令演算器と、
前記速度フィードフォワードを微分し、前記可動部のモータ軸換算イナーシャを乗じて得られるトルクフィードフォワードと前記フィードバックトルクとを加算してトルク指令値を出力する第2の加算器と、
前記トルク指令値に応じて前記サーボモータを駆動する駆動手段と、
前記フィードバックトルクを参照信号とし、前記上位装置から得られる前記主軸の回転角度情報と前記参照信号とから位置補正量を算出する振れ量補正器と、
前記位置補正量を前記位置指令値に重畳し、前記位置指令値を補正する第3の加算器と、を備え、
前記振れ量補正器は、前記参照信号から前記工具の切れ刃の振れ量を推定し、前記参照信号に現れる各前記切れ刃の影響が平準化されるように前記位置補正量を算出することを特徴とする工作機械における送り軸の位置制御装置。
【請求項3】
主軸に装着した工具を回転させて被加工物を加工すると共に、サーボモータを用いて負荷を所定の直線軸方向へ駆動させる送り軸機構を備えた工作機械に設けられ、前記送り軸機構の可動部の位置を位置検出器により検出し、上位装置からの送り軸の位置指令値に従って前記可動部の位置を制御する送り軸の位置制御装置であって、
前記位置指令値と前記位置検出器からの位置検出値との偏差を増幅する速度指令演算器と、
前記位置指令値を微分して得られる速度フィードフォワードと前記速度指令演算器の出力とを加算して速度指令値を出力する第1の加算器と、
前記速度指令値と、前記可動部の速度を速度検出器により検出、あるいは、前記位置検出値を微分して得た速度検出値との偏差を増幅してフィードバックトルクを出力するトルク指令演算器と、
前記速度フィードフォワードを微分し、前記可動部のモータ軸換算イナーシャを乗じて得られるトルクフィードフォワードと前記フィードバックトルクとを加算してトルク指令値を出力する第2の加算器と、
前記トルク指令値に応じて前記サーボモータを駆動する駆動手段と、
前記速度検出値に、前記サーボモータ及び前記負荷からなる前記送り軸機構のノミナル値の逆特性を乗じて得た値と前記トルク指令値との差分をローパスフィルタに入力し、外乱推定値を得る外乱オブザーバと、
前記外乱推定値を参照信号とし、前記上位装置から得られる前記主軸の回転角度情報と、前記参照信号とから位置補正量を算出する振れ量補正器と、
前記位置補正量を前記位置指令値に重畳し、前記位置指令値を補正する第3の加算器と、を備え、
前記振れ量補正器は、前記参照信号から前記工具の切れ刃の振れ量を推定し、前記参照信号に現れる各前記切れ刃の影響が平準化されるように前記位置補正量を算出することを特徴とする工作機械における送り軸の位置制御装置。
【請求項4】
前記振れ量補正器は、
前記参照信号に各前記切れ刃の影響で現れる波形のピークを各前記切れ刃と対応付けて検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部で検出した前記参照信号の各前記切れ刃に対するピーク値から各前記切れ刃の加工代の増減分を推定する増減分推定部と、
前記増減分推定部で推定した各前記切れ刃の加工代の増減分から各前記切れ刃の振れ量を推定する振れ量推定部と、
各前記切れ刃が前記被加工物を加工するタイミングで、前記振れ量推定部で推定した各前記切れ刃の振れ量に基づいた補正量が印加されるよう前記位置補正量を決定する補正量決定部と、を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の工作機械における送り軸の位置制御装置。
【請求項5】
前記工作機械は、第1軸と当該第1軸とは別に設置された第2軸とに係る2つの前記送り軸機構を少なくとも備え、
前記振れ量補正器は、
前記第1軸に係る前記参照信号に各前記切れ刃の影響で現れる波形のピークを各前記切れ刃と対応付けて検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部で検出した前記参照信号の各前記切れ刃に対するピーク値から各前記切れ刃の加工代の増減分を推定する増減分推定部と、
前記増減分推定部で推定した各前記切れ刃の加工代の増減分から各前記切れ刃の振れ量を推定する振れ量推定部と、
各前記切れ刃が前記被加工物を加工するタイミングで、前記振れ量推定部で推定した各前記切れ刃の振れ量に基づいた補正量が印加されるよう前記第2軸に係る前記位置補正量を決定する補正量決定部と、を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の工作機械における送り軸の位置制御装置。
【請求項6】
前記工作機械は、複数の送り軸に係る前記送り軸機構をそれぞれ備え、
前記振れ量補正器は、
前記参照信号に各前記切れ刃の影響で現れる波形のピークを各前記切れ刃と対応付けて検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部で検出した前記参照信号の各前記切れ刃に対するピーク値から各前記切れ刃の加工代の増減分を推定する増減分推定部と、
前記増減分推定部で推定した各前記切れ刃の加工代の増減分から各前記切れ刃の振れ量を推定する振れ量推定部と、
各前記切れ刃が前記被加工物を加工するタイミングで、前記振れ量推定部で推定した各前記切れ刃の振れ量に基づいた補正量が印加されるよう各前記送り軸ごとの前記位置補正量を決定する補正量決定部と、を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の工作機械における送り軸の位置制御装置。
【請求項7】
前記工作機械は、第1軸と当該第1軸とは別に設置された第2軸とに係る2つの前記送り軸機構を少なくとも備え、
前記振れ量補正器は、
前記第1軸に係る前記参照信号と前記第2軸に係る参照信号とを合成して得られる合成信号に各前記切れ刃の影響で現れる波形のピークを各前記切れ刃と対応付けて検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部で検出した前記合成信号の各前記切れ刃に対するピーク値から各前記切れ刃の加工代の増減分を推定する増減分推定部と、
前記増減分推定部で推定した各前記切れ刃の加工代の増減分から各前記切れ刃の振れ量を推定する振れ量推定部と、
各前記切れ刃が前記被加工物を加工するタイミングで、前記振れ量推定部で推定した各前記切れ刃の振れ量に基づいた補正量が印加されるよう各軸ごとの前記位置補正量を決定する補正量決定部と、を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の工作機械における送り軸の位置制御装置。
【請求項8】
前記工作機械は、上位装置からの主軸速度指令値に従って前記主軸の回転速度を制御する主軸制御装置を備え、
前記主軸制御装置は、
前記主軸速度指令値と、前記主軸に取り付けられた主軸速度検出器により検出された主軸速度検出値、或いは前記主軸に取り付けられた主軸位置検出器により検出される主軸位置検出値を微分して得た主軸速度検出値との偏差を増幅して主軸トルク指令値を出力するトルク指令演算器と、
前記主軸トルク指令値に応じて主軸モータを駆動する駆動手段と、を備え、
前記振れ量補正器は、
前記主軸制御装置から得られる前記主軸トルク指令値を前記参照信号とすることを特徴とする請求項6に記載の工作機械における送り軸の位置制御装置。
【請求項9】
前記工作機械は、上位装置からの主軸速度指令値に従って前記主軸の回転速度を制御する主軸制御装置を備え、
前記主軸制御装置は、
前記主軸速度指令値と、前記主軸に取り付けられた主軸速度検出器により検出された主軸速度検出値、或いは前記主軸に取り付けられた主軸位置検出器により検出される主軸位置検出値を微分して得た主軸速度検出値との偏差を増幅して主軸フィードバックトルクを出力するトルク指令演算器と、
前記主軸速度指令値を微分し、前記主軸の可動部のモータ軸換算イナーシャを乗じて得られる主軸トルクフィードフォワードと前記主軸フィードバックトルクとを加算して主軸トルク指令値を出力する加算器と、
前記主軸トルク指令値に応じて主軸モータを駆動する駆動手段と、を備え、
前記振れ量補正器は、
前記主軸制御装置から得られる前記主軸フィードバックトルクを前記参照信号とすることを特徴とする請求項6に記載の工作機械における送り軸の位置制御装置。
【請求項10】
前記工作機械は、上位装置からの主軸速度指令値に従って前記主軸の回転速度を制御する主軸制御装置を備え、
前記主軸制御装置は、
前記主軸速度指令値と、前記主軸に取り付けられた主軸速度検出器により検出された主軸速度検出値、或いは前記主軸に取り付けられた主軸位置検出器により検出される主軸位置検出値を微分して得た主軸速度検出値との偏差を増幅して主軸フィードバックトルクを出力するトルク指令演算器と、
前記主軸速度指令値を微分し、前記主軸の可動部のモータ軸換算イナーシャを乗じて得られる主軸トルクフィードフォワードと前記主軸フィードバックトルクとを加算して主軸トルク指令値を出力する加算器と、
前記主軸トルク指令値に応じて主軸モータを駆動する駆動手段と、
前記主軸速度検出値に、前記主軸モータのノミナル値の逆特性を乗じて得た値と前記主軸トルク指令値との差分をローパスフィルタに入力し、主軸外乱推定値を得る外乱オブザーバと、を備え、
前記振れ量補正器は、
前記主軸制御装置から得られる前記主軸外乱推定値を前記参照信号とすることを特徴とする請求項6に記載の工作機械における送り軸の位置制御装置。
【請求項11】
前記位置補正量の大きさが予め設定された前記切れ刃の振れ量のアラーム検出レベルを超えたことを報知する報知手段を設けるか、或いは前記位置補正量を画面出力部に表示するかしてオペレータに注意喚起することを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の工作機械における送り軸の位置制御装置。
【請求項12】
前記振れ量補正器は、
前記参照信号に各前記切れ刃の影響で現れる波形のピークによって形成されるピーク間の極小値を監視し、前記ピーク間の極小値が予め設定された推定許可レベル範囲内の場合に前記振れ量推定部で各前記切れ刃の振れ量を推定し、前記ピーク間の極小値が前記推定許可レベルの範囲外の場合は直前の各前記切れ刃の振れ量の推定値を前記振れ量推定部の出力とすることを特徴とする請求項4乃至7の何れかに記載の工作機械における送り軸の位置制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の加工中、特にチタン合金といった難削材の重切削加工中において、工具の切れ刃の振れ量を考慮して送り軸の位置を制御することでびびり振動や工具チッピングの発生を抑制するために行う送り軸の位置制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミーリング加工で難削材を加工する場合、加工コスト低減のためにスローアウェイやインサートと呼ばれる脱着式の切れ刃を装着する工具が使用される。この工具においては、工具本体の切れ刃の取付座面や切れ刃自身の加工精度の影響により、装着した切れ刃の高さは均一にならず、切れ刃には振れ量(各切れ刃間の相対取付誤差)が生じる。この振れ量が大きな切れ刃の場合、工具チッピングが生じて工具寿命が短くなるという問題があった。そこで、本件出願人は、特許文献1において、切れ刃の各位置と予め測定した振れ量とに基づいて振幅や位相を設定して、振れ量をキャンセルするように主軸に同期させて送り軸を加工進行方向と逆方向に微小変位させることで、各切れ刃の1刃送り量を本来の指令通りの値に近づけて工具チッピングの抑制を図る発明を提供している。
【0003】
この発明を、工具の刃数Zが3[枚刃]の場合を例に説明する。なお、説明の便宜上、各切れ刃を♯1、♯2、♯3と付番する。
予め計測した各切れ刃の振れ量C(i=1〜Z)がC=0[μm]、C=20[μm]、C=25[μm]であったとして、各切れ刃が♯1、♯2、♯3、♯1、♯2、♯3、・・の順でワークを加工していく場合、実際の加工代の増減分D(i=1〜Z)は、D=C−C=−25[μm]、D=C−C=20[μm]、D=C−C=5[μm]となる。仮に、指令上の加工代(1刃送り量)fzが80[μm]であったとすると、各切れ刃の実際の加工代fz(i=1〜Z)は、fz=fz+D=55[μm]、fz=fz+D=100[μm]、fz=fz+D=85[μm]となり、突出して値が大きい♯2の切れ刃においてチッピングが発生しやすい状態となる。
【0004】
一方、主軸の回転角度から、ワークの削り取りを行っている切れ刃を特定し、振れ量が小さい切れ刃♯1が削り取りを行うときは加工代が増えるように、振れ量が大きい切れ刃♯2、♯3が削り取りを行うときは加工代が減るように、送り軸の位置指令値に補正量を重畳させることを考える。即ち、各切れ刃に対する補正量R(i=1〜Z)をR=15[μm]、R=−5[μm]、R=−10[μm]とすると、見かけ上の振れ量C+Rは各切れ刃で均一となり、実際の加工代もまた均一となる。結果、工具チッピングを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−240837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の加工方法においては、予め外部装置等で各切れ刃の振れ量を計測しておかなければならないため、作業に手間が掛かる、工作機械の制御装置とは別に外部装置が必要になる、といった課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、従来と同様に工具チッピングを抑制可能でありながらも、各切れ刃の振れ量を特定する過程で、外部装置や事前測定を必要としない工作機械における送り軸の位置制御装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、主軸に装着した工具を回転させて被加工物を加工すると共に、サーボモータを用いて負荷を所定の直線軸方向へ駆動させる送り軸機構を備えた工作機械に設けられ、前記送り軸機構の可動部の位置を位置検出器により検出し、上位装置からの送り軸の位置指令値に従って前記可動部の位置を制御する送り軸の位置制御装置であって、
前記位置指令値と前記位置検出器からの位置検出値との偏差を増幅する速度指令演算器と、
前記位置指令値を微分して得られる速度フィードフォワードと前記速度指令演算器の出力とを加算して速度指令値を出力する第1の加算器と、
前記速度指令値と、前記可動部の速度を速度検出器により検出、あるいは、前記位置検出値を微分して得た速度検出値との偏差を増幅してフィードバックトルクを出力するトルク指令演算器と、
前記速度フィードフォワードを微分し、前記可動部のモータ軸換算イナーシャを乗じて得られるトルクフィードフォワードと前記フィードバックトルクとを加算してトルク指令値を出力する第2の加算器と、
前記トルク指令値に応じて前記サーボモータを駆動する駆動手段と、
前記位置指令値と前記位置検出器からの位置検出値との偏差を参照信号とし、前記上位装置から得られる前記主軸の回転角度情報と前記参照信号とから位置補正量を算出する振れ量補正器と、
前記位置補正量を前記位置指令値に重畳し、前記位置指令値を補正する第3の加算器と、を備え、
前記振れ量補正器は、前記参照信号から前記工具の切れ刃の振れ量を推定し、前記参照信号に現れる各前記切れ刃の影響が平準化されるように前記位置補正量を算出することを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、主軸に装着した工具を回転させて被加工物を加工すると共に、サーボモータを用いて負荷を所定の直線軸方向へ駆動させる送り軸機構を備えた工作機械に設けられ、前記送り軸機構の可動部の位置を位置検出器により検出し、上位装置からの送り軸の位置指令値に従って前記可動部の位置を制御する送り軸の位置制御装置であって、
前記位置指令値と前記位置検出器からの位置検出値との偏差を増幅する速度指令演算器と、
前記位置指令値を微分して得られる速度フィードフォワードと前記速度指令演算器の出力とを加算して速度指令値を出力する第1の加算器と、
前記速度指令値と、前記可動部の速度を速度検出器により検出、あるいは、前記位置検出値を微分して得た速度検出値との偏差を増幅してフィードバックトルクを出力するトルク指令演算器と、
前記速度フィードフォワードを微分し、前記可動部のモータ軸換算イナーシャを乗じて得られるトルクフィードフォワードと前記フィードバックトルクとを加算してトルク指令値を出力する第2の加算器と、
前記トルク指令値に応じて前記サーボモータを駆動する駆動手段と、
前記フィードバックトルクを参照信号とし、前記上位装置から得られる前記主軸の回転角度情報と前記参照信号とから位置補正量を算出する振れ量補正器と、
前記位置補正量を前記位置指令値に重畳し、前記位置指令値を補正する第3の加算器と、を備え、
前記振れ量補正器は、前記参照信号から前記工具の切れ刃の振れ量を推定し、前記参照信号に現れる各前記切れ刃の影響が平準化されるように前記位置補正量を算出することを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、主軸に装着した工具を回転させて被加工物を加工すると共に、サーボモータを用いて負荷を所定の直線軸方向へ駆動させる送り軸機構を備えた工作機械に設けられ、前記送り軸機構の可動部の位置を位置検出器により検出し、上位装置からの送り軸の位置指令値に従って前記可動部の位置を制御する送り軸の位置制御装置であって、
前記位置指令値と前記位置検出器からの位置検出値との偏差を増幅する速度指令演算器と、
前記位置指令値を微分して得られる速度フィードフォワードと前記速度指令演算器の出力とを加算して速度指令値を出力する第1の加算器と、
前記速度指令値と、前記可動部の速度を速度検出器により検出、あるいは、前記位置検出値を微分して得た速度検出値との偏差を増幅してフィードバックトルクを出力するトルク指令演算器と、
前記速度フィードフォワードを微分し、前記可動部のモータ軸換算イナーシャを乗じて得られるトルクフィードフォワードと前記フィードバックトルクとを加算してトルク指令値を出力する第2の加算器と、
前記トルク指令値に応じて前記サーボモータを駆動する駆動手段と、
前記速度検出値に、前記サーボモータ及び前記負荷からなる前記送り軸機構のノミナル値の逆特性を乗じて得た値と前記トルク指令値との差分をローパスフィルタに入力し、外乱推定値を得る外乱オブザーバと、
前記外乱推定値を参照信号とし、前記上位装置から得られる前記主軸の回転角度情報と、前記参照信号とから位置補正量を算出する振れ量補正器と、
前記位置補正量を前記位置指令値に重畳し、前記位置指令値を補正する第3の加算器と、を備え、
前記振れ量補正器は、前記参照信号から前記工具の切れ刃の振れ量を推定し、前記参照信号に現れる各前記切れ刃の影響が平準化されるように前記位置補正量を算出することを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、前記振れ量補正器は、前記参照信号に各前記切れ刃の影響で現れる波形のピークを各前記切れ刃と対応付けて検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部で検出した前記参照信号の各前記切れ刃に対するピーク値から各前記切れ刃の加工代の増減分を推定する増減分推定部と、
前記増減分推定部で推定した各前記切れ刃の加工代の増減分から各前記切れ刃の振れ量を推定する振れ量推定部と、
各前記切れ刃が前記被加工物を加工するタイミングで、前記振れ量推定部で推定した各前記切れ刃の振れ量に基づいた補正量が印加されるよう前記位置補正量を決定する補正量決定部と、を備えることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、前記工作機械は、第1軸と当該第1軸とは別に設置された第2軸とに係る2つの前記送り軸機構を少なくとも備え、
前記振れ量補正器は、
前記第1軸に係る前記参照信号に各前記切れ刃の影響で現れる波形のピークを各前記切れ刃と対応付けて検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部で検出した前記参照信号の各前記切れ刃に対するピーク値から各前記切れ刃の加工代の増減分を推定する増減分推定部と、
前記増減分推定部で推定した各前記切れ刃の加工代の増減分から各前記切れ刃の振れ量を推定する振れ量推定部と、
各前記切れ刃が前記被加工物を加工するタイミングで、前記振れ量推定部で推定した各前記切れ刃の振れ量に基づいた補正量が印加されるよう前記第2軸に係る前記位置補正量を決定する補正量決定部と、を備えることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、前記工作機械は、複数の送り軸に係る前記送り軸機構をそれぞれ備え、
前記振れ量補正器は、
前記参照信号に各前記切れ刃の影響で現れる波形のピークを各前記切れ刃と対応付けて検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部で検出した前記参照信号の各前記切れ刃に対するピーク値から各前記切れ刃の加工代の増減分を推定する増減分推定部と、
前記増減分推定部で推定した各前記切れ刃の加工代の増減分から各前記切れ刃の振れ量を推定する振れ量推定部と、
各前記切れ刃が前記被加工物を加工するタイミングで、前記振れ量推定部で推定した各前記切れ刃の振れ量に基づいた補正量が印加されるよう各前記送り軸ごとの前記位置補正量を決定する補正量決定部と、を備えることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、前記工作機械は、第1軸と当該第1軸とは別に設置された第2軸とに係る2つの前記送り軸機構を少なくとも備え、
前記振れ量補正器は、
前記第1軸に係る前記参照信号と前記第2軸に係る参照信号とを合成して得られる合成信号に各前記切れ刃の影響で現れる波形のピークを各前記切れ刃と対応付けて検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部で検出した前記合成信号の各前記切れ刃に対するピーク値から各前記切れ刃の加工代の増減分を推定する増減分推定部と、
前記増減分推定部で推定した各前記切れ刃の加工代の増減分から各前記切れ刃の振れ量を推定する振れ量推定部と、
各前記切れ刃が前記被加工物を加工するタイミングで、前記振れ量推定部で推定した各前記切れ刃の振れ量に基づいた補正量が印加されるよう各軸ごとの前記位置補正量を決定する補正量決定部と、を備えることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項6の構成において、前記工作機械は、上位装置からの主軸速度指令値に従って前記主軸の回転速度を制御する主軸制御装置を備え、
前記主軸制御装置は、
前記主軸速度指令値と、前記主軸に取り付けられた主軸速度検出器により検出された主軸速度検出値、或いは前記主軸に取り付けられた主軸位置検出器により検出される主軸位置検出値を微分して得た主軸速度検出値との偏差を増幅して主軸トルク指令値を出力するトルク指令演算器と、
前記主軸トルク指令値に応じて主軸モータを駆動する駆動手段と、を備え、
前記振れ量補正器は、
前記主軸制御装置から得られる前記主軸トルク指令値を前記参照信号とすることを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、請求項6の構成において、前記工作機械は、上位装置からの主軸速度指令値に従って前記主軸の回転速度を制御する主軸制御装置を備え、
前記主軸制御装置は、
前記主軸速度指令値と、前記主軸に取り付けられた主軸速度検出器により検出された主軸速度検出値、或いは前記主軸に取り付けられた主軸位置検出器により検出される主軸位置検出値を微分して得た主軸速度検出値との偏差を増幅して主軸フィードバックトルクを出力するトルク指令演算器と、
前記主軸速度指令値を微分し、前記主軸の可動部のモータ軸換算イナーシャを乗じて得られる主軸トルクフィードフォワードと前記主軸フィードバックトルクとを加算して主軸トルク指令値を出力する加算器と、
前記主軸トルク指令値に応じて主軸モータを駆動する駆動手段と、を備え、
前記振れ量補正器は、
前記主軸制御装置から得られる前記主軸フィードバックトルクを前記参照信号とすることを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、請求項6の構成において、前記工作機械は、上位装置からの主軸速度指令値に従って前記主軸の回転速度を制御する主軸制御装置を備え、
前記主軸制御装置は、
前記主軸速度指令値と、前記主軸に取り付けられた主軸速度検出器により検出された主軸速度検出値、或いは前記主軸に取り付けられた主軸位置検出器により検出される主軸位置検出値を微分して得た主軸速度検出値との偏差を増幅して主軸フィードバックトルクを出力するトルク指令演算器と、
前記主軸速度指令値を微分し、前記主軸の可動部のモータ軸換算イナーシャを乗じて得られる主軸トルクフィードフォワードと前記主軸フィードバックトルクとを加算して主軸トルク指令値を出力する加算器と、
前記主軸トルク指令値に応じて主軸モータを駆動する駆動手段と、
前記主軸速度検出値に、前記主軸モータのノミナル値の逆特性を乗じて得た値と前記主軸トルク指令値との差分をローパスフィルタに入力し、主軸外乱推定値を得る外乱オブザーバと、を備え、
前記振れ量補正器は、
前記主軸制御装置から得られる前記主軸外乱推定値を前記参照信号とすることを特徴とする。
請求項11に記載の発明は、請求項1乃至10の何れかの構成において、前記位置補正量の大きさが予め設定された前記切れ刃の振れ量のアラーム検出レベルを超えたことを報知する報知手段を設けるか、或いは前記位置補正量を画面出力部に表示するかしてオペレータに注意喚起することを特徴とする。
請求項12に記載の発明は、請求項4乃至7の何れかの構成において、前記振れ量補正器は、前記参照信号に各前記切れ刃の影響で現れる波形のピークによって形成されるピーク間の極小値を監視し、前記ピーク間の極小値が予め設定された推定許可レベル範囲内の場合に前記振れ量推定部で各前記切れ刃の振れ量を推定し、前記ピーク間の極小値が前記推定許可レベルの範囲外の場合は直前の各前記切れ刃の振れ量の推定値を前記振れ量推定部の出力とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外部装置を設けたり事前測定を行ったりすることなく工具の切れ刃に対する振れを補正することができ、簡単且つ低コストで工具チッピングを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の位置制御装置のブロック図である。
図2】実施例2の位置制御装置のブロック図である。
図3】実施例3の位置制御装置のブロック図である。
図4】振れ量補正器のブロック図である。
図5】工具の切れ刃の振れを補正する前の参照信号の波形例である。
図6】工具の切れ刃の振れを補正したときの参照信号の波形例である。
図7】加工中に工具に作用する力を示した説明図である。
図8】多軸制御対応した振れ量補正器の第1変更例のブロック図である。
図9】多軸制御対応した振れ量補正器の第2変更例のブロック図である。
図10】多軸制御対応した振れ量補正器の第3変更例のブロック図である。
図11】主軸制御装置から参照信号を得る第1形態のブロック図である。
図12】主軸制御装置から参照信号を得る第2形態のブロック図である。
図13】主軸制御装置から参照信号を得る第3形態のブロック図である。
図14】推定した振れ量が大きい場合に警告を出すための構成図である。
図15】推定した振れ量をオペレータに通知するための構成図である。
図16】加工が進行したときの説明図である。
図17】加工が進行したときの参照信号の波形例である。
図18】振れ量補正器において推定可能状態か否かを自動判別するための構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1図3は、本発明に係る工作機械の送り軸の位置制御装置の各実施例1〜3を示すブロック図である。各実施例に共通して、工作機械は、例えばベッドに立設したコラムの前面に、工具が装着される主軸を有する主軸頭を、X軸制御ユニット及びZ軸制御ユニットによってX軸方向及びZ軸方向へ移動制御可能に設けると共に、ベッド上に、Y軸制御ユニットによってY軸方向へ移動制御可能なテーブルを設けて、テーブル上に被加工物を固定可能とした周知のものが考えられる。ここで使用される工具は、複数の切れ刃を周方向に等間隔で同心円上に備えたものとなっている。
【0012】
図1図3において、減算器1は、各制御ユニットを制御する上位装置としての数値制御装置から指令された位置指令値Pと、送り軸機構である対象プラント(ここではY軸制御ユニット)10内のサーボモータあるいはテーブルに取り付けられた位置検出器の位置検出値Pとの差分から位置偏差Pdifを算出する。算出された位置偏差Pdifは、速度指令演算器2で増幅された後、位置指令値Pを微分器3で微分して得られる速度フィードフォワードVffと加算器4(第1の加算器)で加算され、速度指令値Vとなる。
【0013】
次に、速度指令値Vと、位置検出値Pを微分して得られる、あるいは対象プラント10内に取り付けられた速度検出器から直接得られる速度検出値Vとの差分が減算器5で演算された後、トルク指令演算器6で増幅されてフィードバックトルクTfbとなる。さらに、フィードバックトルクTfbは、速度フィードフォワードVffを微分器7で微分した後、対象プラント10における可動部のモータ軸換算イナーシャ8を乗じて算出されるトルクフィードフォワードTffと加算器9(第2の加算器)で加算され、トルク指令値Tとなる。対象プラント10は、駆動手段としての図示しない電流制御部の制御により、トルク指令値Tに相当するトルクを対象プラント10内のサーボモータで発生させ、例えばボールねじを介して、対象プラント10内の被駆動体としてのテーブルを駆動する。
【0014】
ここで、図1では、位置偏差Pdifを参照信号refとし、図2では、フィードバックトルクTfbを参照信号refとしている。また、図3では、速度検出値Vに、対象プラント10のノミナル値Pの逆特性P-1を乗じて得た値とトルク指令値Tとの差分を減算器22で演算し、その出力をローパスフィルタ23に通して得られる外乱推定値Tを参照信号refとしている。
【0015】
一方、振れ量補正器31は、上位装置から得られる主軸の回転角度情報θと参照信号refとから位置補正量Paddを算出する。算出された位置補正量Paddは、加算器36(第3の加算器)で位置指令値Pに重畳されて位置指令値Pを補正する。
この振れ量補正器31は、図4に示すように、ピーク検出部32と、増減分推定部33と、振れ量推定部34と、補正量決定部35と、を備える。
ピーク検出部32は、主軸の回転角度情報θから工具のどの切れ刃で加工が行われているかを特定し、同時に参照信号refを監視し、当該切れ刃でワークの削り取りを行った影響で現れる波形のピーク値を検出する。ここで検出される波形のピーク値は実際の加工代fz(i=1〜Z)と相関を持った値であり、実際の加工代fzが大きければピーク値も大きな値として、実際の加工代fzが小さければピーク値も小さな値として検出される。なお、当該切れ刃でワークの削り取りを行った影響で現れる波形のピーク値は、主軸が1回転する間に工具の刃数Zの数だけ、おおよそ切れ刃が取り付けられた間隔で検出される。
【0016】
次に、増減分推定部33は、ピーク検出部32で検出した参照信号refの各切れ刃に対するピーク値から各切れ刃の加工代の増減分D(i=1〜Z)を推定する。
更に、振れ量推定部34は、推定された各切れ刃の加工代の増減分Dから各切れ刃の振れ量Cを算出する。
そして、補正量決定部35では、次回、当該切れ刃でワークの削り取りが行われる際に、振れ量推定部34で算出した切れ刃の振れ量Cに合わせた補正量を印加できるよう位置補正量Paddを決定する。
また、このピーク検出部32から補正量決定部35までの動作を、参照信号refに現れるピーク値が平準化されるまで、繰返し行うことによって、切れ刃の振れ量Cに対する推定精度を高めることができる。
【0017】
以下に具体例をあげて説明する。従来技術と同様、工具の刃数Zが3[枚刃]で、各切れ刃の振れ量C(i=1〜Z)がC=0[μm]、C=20[μm]、C=25[μm]の場合を例に説明する。
【0018】
前述のように、指令上の加工代(1刃送り量)fzが80[μm]で、各切れ刃が♯1、♯2、♯3、♯1、♯2、♯3、・・の順で被加工物を加工していく場合、各切れ刃の実際の加工代fz(i=1〜Z)は、fz=55[μm]、fz=100[μm]、fz=85[μm]となる。
【0019】
この時、実際の加工代fzに比例した切削負荷が、トルク外乱として作用するため、位置偏差Pdif、フィードバックトルクTfb(外乱推定値T)は図5のように変動する。なお、位置制御装置の構成が図1の形態の場合は図5の上段のPdifが、位置制御装置の構成が図2図3の形態の場合は図5の下段のTfb(T)が、参照信号refとして観測される。
【0020】
そこで、ピーク検出部32は、参照信号refを監視し、波形のピーク値Prefを実際の加工代fzと相関を持った値として検出する。このとき、主軸の回転角度情報θによって、検出したピーク値が、どの切れ刃によって生じたものか対応付けて管理される。
【0021】
次に、増減分推定部33では、ピーク検出部32で検出したピーク値Prefから、各切れ刃の加工代の増減分Dを、例えば下記(1)式により推定する。
={Pref−Σ(Pref)/Z}×K ・・(1)
【0022】
ここで、{Pref−Σ(Pref)/Z}は、Prefのオフセット成分を排除すると共に、加工代の増減分Dの総和を0とするための演算であり、Kは加工代の増減分Dを推定するための推定ゲインを表す。なお、推定ゲインKを大きくすることによって、ピーク値Prefが平準化されるまでの時間を短縮することができるが、過度に大きく設定すると、繰返し、切れ刃の振れ量Cを推定する過程で収束しなくなる恐れがあるため、適切な値を設定する必要がある。
【0023】
その後、振れ量推定部34では、増減分推定部33で推定された各切れ刃の加工代の増減分Dから各切れ刃の振れ量Cを、例えば下記(2)式により算出する。
=(D−Di+1)/3 (ただしDz+1=Dとする) ・・(2)
【0024】
仮に、増減分推定部33で推定された各切れ刃の加工代の増減分Dが、D=−25[μm]、D=20[μm]、D=5[μm]であったとすると、C=(D−D)/3=−15[μm]、C=(D−D)/3=5[μm]、C=(D−D)/3=10[μm]と算出できる。なお、(2)式で算出される各切れ刃の振れ量は総和が0となるようオフセット成分が排除されているため、♯1の切れ刃を基準とした元々の値(C=0[μm]、C=20[μm]、C=25[μm])とはオフセット分だけ異なった値となる。
【0025】
次に、補正量決定部35では、振れ量推定部34で算出した切れ刃の振れ量Cに基づき、各切れ刃に対する補正量R(i=1〜Z)を、例えば下記(3)式により算出する。
=−C+R・z-1 (ただしR・z-1はRの前回値を表す) ・・(3)
【0026】
更に、補正量決定部35では、次回、♯iの切れ刃がワークの削り取りを行う際に位置補正量PaddがRとなるよう出力される。結果、従来技術にて各切れ刃に対する補正量R(i=1〜Z)を、R=15[μm]、R=−5[μm]、R=−10[μm]とした場合と同様に、実際の加工代を均一とすることができ、工具チッピングを抑制することができる。
【0027】
また、図6のように適切な補正量Rが算出され、参照信号refに現れるピーク値が平準化された後も、(3)式により適切な補正量Rが保持されるため、実際の加工代を均一とした状態を維持することができる。
【0028】
なお、上記実施例では、各切れ刃の加工代の増減分Dを(1)式で、各切れ刃の振れ量Cを(2)式で、各切れ刃に対する補正量Rを(3)式で算出したが、各値の演算方法はこれらの式に限定されるものではない。特に(2)式は工具の刃数Zにより最適な演算式が異なり、例えばZ=4[枚刃]の場合、下記(4)式により算出する。
=(D−2Di+1−Di+2)/4(但し、DZ+1=D、DZ+2=Dとする)・・(4)
上記(2)式、(4)式は、ΣC=0、ΣD=0の条件の下、下記(5)式で任意の刃数Zに対し、一般化される式で、(5)式は、D=C−Ci−1を行列表現した下記(6)式の最下段:D=−CZ−1+Cに、0=C+C+・・+C(∵ΣC=0)を加算することで得られる関係式である。
【0029】
【数1】
【0030】
ここで、Z=3、Z=4の場合には、それぞれ以下のように表現され、それぞれ(2)式、(4)式に相当する。
【0031】
【数2】
【0032】
また、図3では外乱推定値Tを得る目的で外乱オブザーバを使用しているが、外乱成分を打ち消すよう外乱推定値Tをトルク指令値Tに加算する構成としても良い。加えて、切削負荷の影響を検出できる構成であれば、外乱オブザーバの構成は図3の構成に限定されるものではない。
【0033】
更に、上記実施例では、図5のように、参照信号refに切削負荷の変動が、主軸1回転毎で同じように発生する場合を例に説明したが、実加工では徐々に切削負荷の大きさが変化するケースも想定される。しかし、そのような場合でも、ピーク検出部32で、参照信号refのピーク値Prefを検出する過程において、同一の切れ刃のピーク値Prefの前回値Pref・z-1、前々回値Pref・z-2を参照することで、切削負荷がどの程度上昇傾向(減少傾向)にあるのか特定することができ、ピーク値Prefに含まれる切削負荷の上昇傾向(減少傾向)の成分を分離して考えることができる。結果、主軸1回転毎で切削負荷が変化していくようなケースであっても、切れ刃の振れ量の推定、ならびに補正を行うことが可能となる。
【0034】
以上のように、各実施例に係る位置制御装置によれば、位置指令値Pと位置検出値Pとの偏差Pdifを増幅する速度指令演算器2と、位置指令値Pを微分して得られる速度フィードフォワードVffと速度指令演算器2の出力を加算して速度指令値Vを出力する加算器4と、速度指令値Vと、可動部の速度検出値Vとの偏差を増幅してフィードバックトルクTfbを出力するトルク指令演算器6と、速度フィードフォワードVffを微分し、モータ軸換算イナーシャを乗じて得られるトルクフィードフォワードTffとフィードバックトルクTfbとを加算してトルク指令値Tを出力する加算器9と、トルク指令値Tに応じてサーボモータを駆動する駆動手段と、参照信号refと主軸の回転角度情報θとから、各切れ刃の影響が平準化されるように位置補正量Paddを算出する振れ量補正器31と、位置補正量Paddを位置指令値Pに重畳して位置指令値Pを補正する加算器36と、を備えてなることで、外部装置を設けたり事前測定を行ったりすることなく工具の切れ刃に対する振れを補正することができ、簡単且つ低コストで工具チッピングを抑制することができる。
【0035】
なお、複数の送り軸によって、工具や被加工物の位置を制御する工作機械の場合、切削負荷の変動を検出しやすいように、或いはより適切な補正量を算出できるように、振れ量補正器の構成を変更するのが望ましい。以下に振れ量補正器の変更例について説明する。但し、先の実施例と同じ構成部には同じ符号を付して重複する説明は省略する。
【0036】
例えば図7に示すように、第1軸(ここではX軸制御ユニット)で工具41を備えた主軸頭の位置を制御し、第2軸(ここではY軸制御ユニット)で被加工物43を固定したテーブルの位置を制御する構成で、第2軸の可動方向に加工を行う場合、切れ刃42(ここでは3枚)に加わる切削負荷として、主分力と背分力とが作用する。切れ刃42が加工方向を向くとき、主分力は第1軸の可動方向に作用し、背分力は第2軸の可動方向に作用するが、その大きさは、一般的に主分力の方が大きい。すなわち、加工方向である第2軸よりも、加工方向と直交する第1軸の方が、切削負荷の変動の影響が出やすく、参照信号refに現れる切れ刃の振れの影響もより顕著となる。
【0037】
そこで、図8に示す第1変更例のように振れ量補正器51を構成すると、切れ刃の振れの影響をより抽出しやすくすることができる。
この振れ量補正器51は、ピーク検出部52と、増減分推定部33と、振れ量推定部34と、補正量決定部55とを備える。図4の振れ量補正器31と異なるのは、振れ量補正器31のピーク検出部32には参照信号refが入力されて、補正量決定部35が参照信号refと同一制御軸の位置補正量Paddを出力していたのに対し、ここでのピーク検出部52では、第1軸の参照信号ref_1が入力されて、補正量決定部55は、参照信号ref_1と異なる第2軸の位置補正量Padd_2を出力している点である。主軸の回転角度情報θから工具のどの切れ刃で当該軸方向に加工が行われているかを判別しながら補正を行う動作は同じである。
【0038】
また、切れ刃の振れの影響は加工方向のみならず、加工方向と直交する方向にも現れ、これは切削負荷の変動に加え、切れ刃毎の削り代のムラに繋がる。
そこで、図9に示す第2変更例のように振れ量補正器61を構成すると、加工方向及びその直交方向のそれぞれで切削負荷を平準化することができる。
この振れ量補正器61は、ピーク検出部32と、増減分推定部33と、振れ量推定部34と、補正量決定部65とを備える。図4の振れ量補正器31と異なるのは、振れ量補正器31の補正量決定部35が1軸方向の位置補正量Paddを出力していたのに対し、ここでの補正量決定部65は、第1軸の位置補正量Padd_1と、第2軸の位置補正量Padd_2との双方を出力する点である。主軸の回転角度情報θから工具のどの切れ刃で当該軸方向に加工が行われているかを判別しながら補正を行う動作は同じである。
なお、ここで補正対象となる軸は2軸に限定する必要はなく、機械構成に応じて適宜追加することも可能である。また、位置補正量も軸構成や加工方向に応じて適宜分配することも可能である。
【0039】
次に、加工方向と制御軸方向とに着目した場合、両者は必ずしも図7のように一致するとは限らないため、切削負荷の変動検出及び補正にズレが生じるおそれがある。
そこで、図10に示す第3変更例のように振れ量補正器71を構成すると、加工方向と制御軸方向とが異なる場合でも、適切に切削負荷を平準化することができる。
この振れ量補正器71は、ピーク検出部72と、増減分推定部33と、振れ量推定部34と、補正量決定部65とを備える。図9の振れ量補正器61と異なるのは、振れ量補正器61のピーク検出部32には、1つの軸の参照信号refを入力していたのに対し、ここでのピーク検出部72には、第1軸の参照信号ref_1と、第2軸の参照信号ref_2との複数の参照信号が入力され、制御軸構成に基づき内部で両信号を合成し、加工方向成分、或いは直交方向成分に相当する合成信号を算出する点及び、この合成信号に対して各切れ刃の影響で現れる波形のピークを各切れ刃と対応付けて検出する点である。
なお、ここで入力となる参照信号は2軸に限定する必要はなく、機械構成に応じて適宜追加することも可能である。
【0040】
このように、複数の送り軸で工具や被加工物の位置を制御する場合、振れ量補正器の構成を変更することによって、切れ刃の振れの影響をより抽出しやすくし、さらには各軸方向に対して切削負荷を平準化することが可能となる。加えて、加工方向と制御軸方向とが異なる場合でも、適切に切削負荷を平準化することが可能となり、工具チッピングを抑制することができる。
【0041】
ところで、図9の振れ量補正器61の構成を採用した場合、参照信号refは必ずしも送り軸の位置制御装置内で算出される制御信号とする必要はなく、工具を装着した主軸を制御する主軸制御装置内で算出される制御信号を参照信号refとすることも可能である。以下、当該主軸制御装置からの参照信号refの取得について説明する。なお、ここでの主軸制御装置は、主軸の回転速度を制御するものとして説明するが、主軸の回転角度(位置)を制御する構成であってもよく、この場合も、送り軸の位置制御装置と同様にして切削負荷を平準化することは可能である。
【0042】
図11図13は、第1形態〜第3形態の主軸制御装置の制御ブロックを示した図である。各図において、85は減算器で、各制御ユニットを制御する上位装置としての数値制御装置から指令された主軸速度指令値Vと、対象プラント90内の主軸モータに取り付けられた主軸速度検出器により検出、或いは主軸モータに取り付けられた主軸位置検出器により検出される主軸位置検出値を微分して得た主軸速度検出値Vとの差分が減算器85で演算される。
図11では、この差分がトルク指令演算器86で増幅されて主軸トルク指令値Tとなり、図12,13では、この差分がトルク指令演算器86で増幅されて主軸フィードバックトルクTfbとなる。この主軸フィードバックトルクTfbは、主軸速度指令値Vを微分器87で微分した後、対象プラント90における主軸可動部のモータ軸換算イナーシャ88を乗じて算出される主軸トルクフィードフォワードTffと加算器89で加算され、主軸トルク指令値Tとなる。
対象プラント90は、駆動手段としての図示しない電流制御部の制御により、主軸トルク指令値Tに相当するトルクを、対象プラント90内の主軸モータで発生させ、主軸に装着した工具を回転させる。
【0043】
ここで、図11の第1形態では、主軸トルク指令値Tを参照信号refとし、図12の第2形態では、主軸フィードバックトルクTfbを参照信号refとしている。そして、図13の第3形態では、主軸速度検出値Vに、対象プラント90のノミナル値Pの逆特性P−1を乗じて得た値と主軸トルク指令値Tとの差分を減算器92で減算し、その出力をローパスフィルタ93に通して得られる主軸外乱推定値Tを参照信号refとしている。
また、図11〜13の主軸制御装置では、主軸速度検出値Vを積分、或いは主軸位置検出器から直接得られる主軸位置検出値を主軸の回転角度情報θとすることができ、この主軸の回転角度情報θと参照信号refとを振れ量補正器61へ入力することで、送り軸各軸の位置補正量Padd_1、Padd_2を算出する。
【0044】
図11〜13においては、主軸トルク指令値T、主軸フィードバックトルクTfb、主軸外乱推定値Tをそれぞれ振れ量補正器61に入力する参照信号refとしているが、これは、図7において、工具に作用する主分力が主軸制御装置においては外乱トルクとして作用し、この外乱を打ち消すようフィードバック制御が働くことを利用したものである。すなわち、切れ刃の振れが大きく、主分力が大きくなれば外乱トルクも大きくなるため、主軸外乱推定値Tも大きくなり、外乱トルク分を補おうとした主軸トルク指令値T、主軸フィードバックトルクTfbも大きくなる。反対に、切れ刃の振れが小さく、主分力が小さければ、外乱トルクも小さくなるため、主軸外乱推定値Tも小さくなり、外乱トルク分を補おうとした主軸トルク指令値T、主軸フィードバックトルクTfbも小さくなる。
【0045】
なお、図11〜13の構成の場合、各切れ刃の実際の加工代fzに比例した切削負荷が、外乱トルクとして作用し、参照信号refのピーク値Prefに現れることを利用して、(1)式における推定ゲインKの設定目安を得ることができる。仮に、比例係数Kを用いて、Pref=fz×Kと表現すると、各切れ刃の実際の加工代fzが、指令上の加工代(1刃送り量)fzと各切れ刃の加工代の増減分Dを用いてfz=fz+Dと表現できることから、Pref=(fz+D)×Kとなる。ここで、fz×KはPrefの平均成分を、D×KはPrefの変動成分を表していることから、fz×K=Σ(Pref)/Z、即ち、K=Σ(Pref)/(fz×Z)と表現できる。したがって、Pref=(fz+D)×Σ(Pref)/(fz×Z)と表現でき、これをDについて解くとD={Pref−Σ(Pref)/Z}×{(fz×Z)/Σ(Pref)}を得ることができる。つまり、推定ゲインKは{(fz×Z)/Σ(Pref)}に相当する値を目安として設定すれば良いことになる。
【0046】
このように、主軸トルク指令値T、主軸フィードバックトルクTfb、主軸外乱推定値Tには切れ刃の振れの影響が転写されるため、振れ量補正器61への入力となる参照信号refとして採用することができ、算出された送り軸各軸の位置補正量Padd_1、Padd_2を送り軸各軸で補正することによって、適切に切削負荷を平準化することが可能となり、工具チッピングを抑制することができる。
【0047】
なお、推定した切れ刃の振れ量に基づき、振れ量が大きいことをオペレータに通知し、注意喚起することも可能である。図14は、推定した振れ量が大きい場合に警告を出すための構成図を、図15は、推定した振れ量をオペレータに通知し確認することで注意を促すための構成図をそれぞれ示している。オペレータはこの注意喚起を受けて切れ刃の振れを見直し、切れ刃の振れが少ない理想的な状態で加工を行うことも可能となる。
【0048】
図14において、37は、位置制御装置内に設けられた絶対値演算器で、この絶対値演算器37は、補正量決定部35(又は55,65)で算出された位置補正量Padd(又はPadd_1、Padd_2)から、その大きさを算出し、比較器38で予め設定された振れ量のアラーム検出レベルAL−Levelと比較する。比較の結果、位置補正量Padd(又はPadd_1、Padd_2)の大きさがアラーム検出レベルAL−Levelを超えた場合には報知手段としての警告ALARMを出力し、オペレータに注意喚起する。なお、報知手段としては、これ以外に、パトライト(登録商標)のような回転表示灯等で状態表示する、操作画面上に警告メッセージを表示する、ブザー音を鳴らす等の種々の方法が考えられる。複数の方法を組み合わせることもできる。
【0049】
一方、図15は、補正量決定部35(又は55,65)で算出された位置補正量Padd(又はPadd_1、Padd_2)を、工作機械に設けた画面出力部11に直接表示し、切れ刃の振れ量が適切な範囲にあるか否かをオペレータが確認できるようにしたものである。なお、画面出力部11は、上位装置との間で入出力操作を行う操作画面上に設けてもよく、又は別途設置した表示画面や、上位装置や位置制御装置に接続されたパーソナルコンピュータのモニタ画面とする方法も考えられる。
なお、図14,15において、入力となる位置補正量Padd(又はPadd_1、Padd_2)は、補正量決定部35(又は55,65)の内部で算出される各切れ刃に対する補正量R(i=1〜Z)で代替することも可能である。
【0050】
ところで、図7の状態から加工が進行すると図16のように、被加工物43に切れ刃42が複数、同時に接触した状態となる。この場合、図5で示した参照信号refの波形は、図17のように変化する。即ち、複数の切れ刃42が被加工物43に同時に接触することにより、切削負荷が上昇し、波形のピーク値Prefが高まる。更に、常にいずれかの切れ刃42が被加工物43と接触し、加工を行うため、常に切削負荷が作用する状態となり、参照信号refの変動幅が小さく、そして、定常的にある程度のオフセットを含んだ状態となる。このように、複数の切れ刃42が被加工物43に接触した状態で各切れ刃42の振れ量を推定しようとすると、参照信号refに含まれる切れ刃の振れの影響は単一切れ刃の影響でなくなるため、推定を誤る恐れが出てくる。
【0051】
そこで、図4,8〜10で示した振れ量補正器31,51,61,71には、図18に示すように、被加工物43に接触している切れ刃42が単一であるか否か、即ち推定可能状態か否かを自動判別するための構成を具備するのが望ましい。
図18において、39は、ボトム検出部で、参照信号ref(又はref_1、ref_2)から各切れ刃に対応した参照信号refの極小値(最小値)を検出し、比較器40で予め設定された推定許可レベルPM-Levelと比較する。比較の結果、参照信号refの極小値(最小値)が許可レベルPM-Level以下の場合は定常的に切削負荷が加わっていない、即ち単一切れ刃で加工が行われている状態と判断し、振れ量推定部34に推定許可PERMITを出力する。この場合、振れ量推定部34は、増減分推定部33で推定された各切れ刃の加工代の増減分Dから各切れ刃の振れ量Cを算出して補正量決定部35,55,65に出力する。反対に、参照信号refの極小値(最小値)が許可レベルPM-Levelを超えた場合は被加工物43に切れ刃42が複数、同時に接触した状態にあると判断し、振れ量推定部34に推定許可PERMITを出力せず、切れ刃42の振れ量の推定を中断・禁止する。この場合、補正量決定部35,55,65は、直前に算出した各切れ刃の振れ量Cを振れ量推定部34の出力として位置補正量Padd(又はPadd_1,Padd_2)を決定する。
【0052】
その他、工具における切れ刃の数は上記形態に限らず、適宜増減可能である。工作機械も、同心円上に複数配置される切れ刃を装着してなる工具を回転させて送り軸制御して加工を行うものであれば、複合加工機やマシニングセンタ等、特に機種・軸構成を限定するものではない。また、第1軸と第2軸とが直交する場合に限らず、第2軸が第1軸に対して傾斜配置されている場合や両軸が平行に配置されて同期運転される場合も本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1,5,22,85,92・・減算器、2・・速度指令演算器、3,7,87・・微分器、4,9,36,89・・加算器、6,86・・トルク指令演算器、8,88・・モータ軸換算イナーシャ、10,90・・対象プラント、11・・画面出力部、21,91・・ノミナルプラントの逆システム、23,93・・ローパスフィルタ、31,51,61,71・・振れ量補正器、32,52,72・・ピーク検出部、33・・増減分推定部、34・・振れ量推定部、35,55,65・・補正量決定部、37・・絶対値演算器、38,40・・比較器、39・・ボトム検出部、41・・工具、42・・切れ刃、43・・被加工物。
図1
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