特許第6366570号(P6366570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366570
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】圧力調整式の反応器
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/24 20060101AFI20180723BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20180723BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20180723BHJP
   C07C 45/52 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   B01J19/24 A
   B01J19/00 301D
   C07C47/22 Z
   C07C45/52
【請求項の数】20
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-502301(P2015-502301)
(86)(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公表番号】特表2015-514004(P2015-514004A)
(43)【公表日】2015年5月18日
(86)【国際出願番号】EP2013056395
(87)【国際公開番号】WO2013144140
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2016年3月2日
(31)【優先権主張番号】12161724.5
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511114771
【氏名又は名称】オーロテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】AUROTEC GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ツィケリ
(72)【発明者】
【氏名】フリードリヒ エッカー
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/083978(WO,A1)
【文献】 特開2002−191962(JP,A)
【文献】 特開昭62−021709(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/089209(WO,A1)
【文献】 実開昭62−136548(JP,U)
【文献】 特開2009−297607(JP,A)
【文献】 特開平02−056238(JP,A)
【文献】 特開2011−069296(JP,A)
【文献】 特表2012−515641(JP,A)
【文献】 特開平02−192687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
B01J 19/24
B01J 3/00
B01D 1/00
C01C 3/02
C07B 61/00
C07C 45/52
C07C 47/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の加熱可能な反応器管から成る管束反応器内で、流体の原料、又は流動化された原料をパイロリシス又はサーモリシスにより熱分解する方法であって、
当該方法は、
原料を、少なくとも1つの供給部を介して管束反応器の一方の端部に供給し、
前記供給部は、複数の減圧ユニットを有しており、該減圧ユニットは、前記管束反応器の個々の反応器管内への原料導入部の上流側における過剰圧力を可能にし、且つ反応器管内部における負圧を可能にし、
前記減圧ユニットは、前記個々の反応器管内への原料の実質的に均一な流入量を制御し、
前記反応器管の、少なくとも第1の区分を、原料の分解温度に加熱し、
これにより、原料をパイロリシス又はサーモリシスにより熱分解して、パイロリシス熱分解生成物又はサーモリシス熱分解生成物を得ることを含み、
前記減圧ユニットは、異なる細管直径及び/又は細管長さに基づき、それぞれ異なる圧力抵抗を有している細管であり、前記圧力抵抗は、前記管束反応器内での各反応器管の位置に基づき選択されることを特徴とする、管束反応器内で、流体の原料、又は流動化された原料をパイロリシス又はサーモリシスにより熱分解する方法。
【請求項2】
前記反応器管の第1の区分の内側表面を誘導加熱する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
原料を、分解温度未満の温度で予熱して蒸発させる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
原料を、前記反応器管の第2の区分において蒸発させ、蒸発した原料を、前記第2の区分から前記第1の区分に供給する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記第1の区分への原料の移送と、前記第1の区分における分解と、好適には前記予熱及び蒸発も、連続的に操作する、請求項3記載の方法。
【請求項6】
パイロリシス又はサーモリシスによる熱分解により、場合によっては副生成物として生じる固形堆積物を、前記第1の区分の内側表面の温度を高めることにより、特に蒸発、分解又は燃焼させて除去する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記加熱された内側表面が、パイロリシス熱分解反応器又はサーモリシス熱分解反応器の内部空間のほぼ全体を制限している、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
原料の、パイロリシス又はサーモリシスによる熱分解は、負圧で、好適には最高500hPa、特に好適には最高250hPa、特に好適には80hPa〜200hPaの範囲の絶対圧力で行う、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記反応器管の少なくとも第1の区分の内側表面は、鉄本体の表面であり且つ/又は前記表面は、鉄又は酸化鉄である、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記反応器管の第2の区分の内側表面を、分解温度未満の温度に加熱し、好適には分解温度未満の少なくとも20℃、特に好適には少なくとも50℃に加熱し且つ/又は原料蒸発の固形副生成物、特に重合生成物が一切生じない温度に加熱する、請求項4を引用する請求項5から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記減圧ユニットの圧力抵抗は、少なくとも800hPaであり、好適には前記圧力抵抗は、前記反応器管内部の大気圧において、原料の流入を阻止する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記反応器管内部における負圧を、前記管束反応器内への流体の流入量が1×10−5/h〜1m/hであり、且つ/又は非作動時は0〜1×10−6/hであるように選択する、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項記載の方法を実施するための装置であって、多数の反応器管の管束反応器を備えるパイロリシス熱分解反応器又はサーモリシス熱分解反応器と、減圧ユニットを介して個々の前記反応器管に接続された原料供給部とを有しており、前記反応器管は加熱可能であり、前記反応器管の内部は、負圧ポンプと作用接続されており、前記減圧ユニットは、異なる細管直径及び/又は細管長さに基づき、それぞれ異なる圧力抵抗を有している細管であり、前記圧力抵抗は、前記管束反応器内での各反応器管の位置に基づき選択され、これにより前記個々の反応器管内への原料の実質的に均一な流入量を制御することを特徴とする、装置。
【請求項14】
前記管束反応器は、原料の連続的な導入、若しくはパイロリシス熱分解生成物又はサーモリシス熱分解生成物の連続的な導出に適している、請求項13記載の装置。
【請求項15】
前記反応器管は誘導加熱されており、好適には前記反応器管の表面が誘導式に、少なくとも1000℃、特に好適には少なくとも1300℃に加熱可能であり、特に好適には前記反応器管は、鉄本体を有しており且つ/又は鉄を含有する表面を有している、請求項13又は14記載の装置。
【請求項16】
加熱可能な蒸発器を備えており、好適には該蒸発器から前記管束反応器内にガス導管が通じており、好適には前記蒸発器は、前記管束反応器の1つの区分である、請求項13から1までのいずれか1項記載の装置。
【請求項17】
請求項13から1までのいずれか1項記載の装置において、前記管束反応器内でHCNを形成するために、カルボン酸アミド、好適にはホルムアミドをサーモリシスにより熱分解する方法において、
第1の方法ステップにおいて、カルボン酸アミドを、前記管束反応器の加熱された表面に接触させ、その際に、圧力調整により、前記管束反応器の多数の反応器管に同量のカルボン酸アミドを装入し、前記加熱された表面においてカルボン酸アミドをその分解温度に加熱し、生成物ガス‐ガスを連続的に導出することを特徴とする、管束反応器内でHCNを形成するために、カルボン酸アミド、好適にはホルムアミドをサーモリシスにより熱分解する方法。
【請求項18】
第2の方法ステップにおいて、前記管束反応器内にカルボン酸アミドを導入せずに温度を高めて分解温度を上回らせ、これにより場合によっては形成される、サーモリシスによる熱分解の副生成物の固形堆積物を、蒸発、分解又は燃焼によって除去する、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記表面を、サーモリシスによる熱分解のために430℃〜600℃に、好適には誘導式に加熱する、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記表面を、副生成物を除去するために700℃〜1500℃に、好適には誘導式に加熱する、請求項1又は19記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負圧状態で加熱される反応器における化学反応のための方法及び装置に関する。
【0002】
刊行物WO2010/083978A2に記載された管束反応器は、多数の加熱可能な反応管から成る。この反応器は、管束への入口の上流側に、反応混合物をせき止めるための、複数の孔又は通路を備える均質化プレートを有している。各孔又は各通路は、同一に寸法決めされている。
【0003】
EP363066B1に記載された、流体相反応プロセスのための、特にクロロジフルオロメタンの高温パイロリシスによる熱分解のための、誘導加熱可能な反応器は、多数の反応管を有する1つの材料ブロックから成り、この場合、この材料ブロックが誘導加熱され得る。
【0004】
DE2712728A1に記載された、ガス又は蒸気を加熱するための管反応器では、ガス又は蒸気が、導電体から成る、電磁誘導により加熱されるばら荷を通って案内される。
【0005】
DE102007034715A1に記載された、アンドルソフ法によるシアン化水素の製造方法では、メタンとアンモニアを過剰圧力状態でシアン化水素と水に変換する。このために反応器は、ガス供給部と、圧力低下を生ぜしめることができる混合層と、触媒層と、場合によっては熱を導出するために下流側に接続された熱交換器とを有している。
【0006】
US2011/306788には、触媒で満たされた管反応器内で原料と共にガスを加熱することにより、有機分子を酸化させる方法が記載されている。この反応器では様々な原料、例えばプロピレン、イソブチレン、tertブタノール若しくはtertブチルアルコール、メチルtertブチルエーテル、アクロレイン及びメタクロレインを酸化させることができる。
【0007】
刊行物US7951978B2は、0.01〜30kPaの圧力において、固体触媒に200℃〜550℃の温度で接触させることにより、グリセリン−ガスからアクロレインを生産する方法に関する。
【0008】
DE3525749A1には、負圧におけるホルムアミドのサーモリシスによる熱分解によって青酸を得るBASF法が記載されている。
【0009】
WO2009/062681には、ガス状のホルムアミドの触媒を用いた脱水(サーモリシスによる熱分解)による、青酸の製造が記載されている。脱水用の反応器は、交差して配置された複数の反応通路を備える、層状に構成された積層体を有しており、この場合、反応器は、鉄の割合が50重量パーセントを上回る内側表面を有している。反応通路は、1〜6mmの平均液圧直径を有しており、この場合、付加的な触媒及び/又は組込み部材は一切設けられていない。この構成の欠点は、各通路に異なる量のホルムアミドが装入され、これにより、濃度差に基づいて、異なる生成物及び副生成物が形成されることになる。
【0010】
刊行物WO2009/062897には、ホルムアミドを蒸発器内で蒸発させ、且つガス状のホルムアミドを触媒を用いて脱水することにより、青酸を製造する方法が記載されている。この場合、蒸発器は10〜2000MW/mの出力に最適化された。
【0011】
DE69215358には、負圧状態で排ガスを分解するための、電気的に加熱可能なサーモリシス熱分解反応器が記載されている。
【0012】
要するに、過剰圧力反応又は負圧反応用の、連続運転される一連の化学的な反応器は公知である。しかしながら、連続運転するための従来の反応器の一般的な圧力制御では共通して、特に多重反応器の使用時に、反応器への不均一な原料導入が生じる恐れがある。これにより、特に通流反応器の滞留時間が短い場合は、変換及び進行する化学反応の形式に差が生じ、副生成物が発生することがある。このことは、生成物の質及び量にネガティブな影響を及ぼす。それというのも、量パラメータ、通流速度パラメータ、圧力パラメータ及び温度パラメータの最適化が困難になるからである。
【0013】
本発明の課題は、より均質な生成物を供給する、反応器における改善されたパイロリシス又はサーモリシス熱分解方法を提供することにある。
【0014】
本発明は、多数の加熱可能な反応管から成る管束反応器内で、流体の又は流動化された原料を、負圧状態で熱分解(パイロリシス又はサーモリシス)する方法に関する。この場合、原料は、少なくとも1つの供給部を通じて管束反応器の一方の端部に供給され、供給部は、複数の減圧ユニットを有している。減圧ユニットは、管束反応器の個々の反応器管への原料導入部の上流側における過剰圧力及びこれに関連する、反応器管内の負圧を可能にするか、若しくは生ぜしめる。本発明では、減圧ユニットは、個々の反応器管への原料の実質的に等しい流入を制御する。つまり、例えば全ての管が均一に原料を装入されて、同一の原料装入量を有している。これにより、パイロリシス又はサーモリシスによる熱分解中に全ての管において原料は一様に分解され、相当数の管において平均を上回って多量の装入が行われる、若しくは副生成物(例えば凝縮生成物又は重合生成物)の形成の増加につながる、高い原料濃度が生じることはない。本発明では、反応器管が、少なくとも1つの第1の区分において、原料の分解温度に加熱され、これにより原料がパイロリシス又はサーモリシスにより熱分解されて、パイロリシス又はサーモリシス熱分解生成物が得られる。
【0015】
別の観点において、本発明は、前記方法を実施するために適した装置に関し、該装置は、多数の反応器管の反応器束を有するパイロリシス又はサーモリシス熱分解反応器と、個々の反応器管に減圧ユニットを介して接続された原料供給部とを備えており、反応管は加熱可能であり、反応管の内部は負圧ポンプに作用接続されており、減圧ユニットは、個々の反応管内への実質的に均一な原料流入を制御する。この反応器は、好適には本発明による方法で使用される。以下の詳細な説明は、前記装置が使用可能な方法と、前記方法及び方法パラメータのために適している又は準備された装置の両方に関する。
【0016】
パイロリシス又はサーモリシスによる熱分解は、触媒を用いて、例えば鉄を含有する表面、例えば鉄又は鉄合金、或いは酸化鉄において行うことができる。パイロリシス又はサーモリシスによる熱分解は、脱水であってよい。例えば、グリセリンが原料として脱水可能である。グリセリンの脱水は、アクロレインを獲得するために用いることができる。一例において、原料は、青酸(HCN)にサーモリシス熱分解され得るホルムアミドのような、カルボン酸アミドである。
【0017】
よって本発明は特に、多数の反応器管を有する管束反応器においてHCNを形成するために、カルボン酸アミド、例えばホルムアミドをサーモリシスにより熱分解する方法に関する。この場合、第1の方法ステップにおいて、ホルムアミドを反応器の加熱された表面に接触させ、その際に、管束反応器の多数の反応管に、圧力調整によって同量のカルボン酸アミドを装入し、加熱された表面においてホルムアミドをその分解温度に加熱して、HCNガスを連続的に導出する。
【0018】
本発明は更に、請求項に記載したように規定される。
【0019】
本発明では、原料(例えばカルボン酸アミド)のパイロリシス又はサーモリシスによる熱分解のために、管束反応器が使用される。管束反応器は、多数の反応器管から成り、これらの反応器管は、合わせると1つの大きな表面を有しており、更に、高い原料処理量を可能にする。1つの管束反応器は、例えば2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16又はそれ以上の個別管若しくは反応器管から成っていてよい。好適には、管束反応器は10〜200、特に好適には15〜150、特に好適には20〜100、特に好適には30〜80の個別管若しくは反応器管から成っている。反応器管は、別個の管であってよいか、又は長手方向に互いに結合されていてよく、例えば共通の材料ブロックに収納されていてよい。好適には、管はそれぞれ、例えば1mm〜5mmの相互間隔を置いて隔てられている。
【0020】
本発明では、反応器管は互いに別個に、減圧ユニットを介して供給される。これにより、各管に対してそれぞれ専用の原料の通流量が決定され、この通流量は、他の反応管に対して適合される、つまり実質的に同一に選択される。「実質的に」とは、5%未満の範囲、特に3%未満、特に2%未満、又は1%未満、最も好適には0.5%未満の通流量の僅かな差違が可能であり得る、ということを意味する。種々様々な副生成物及び固形堆積物をもたらす恐れのある原料に応じて、個々の反応器管の通流量における最大の差が低く抑えられることが望ましい。例えば横断面円形の束の中心部の管は、個別の圧力抵抗管理若しくは通流量管理無しでは、通流が強まる傾向にあり、束の縁部の管は、通流が弱まる傾向にある(少なくとも、中央に位置決めされた、1つの供給部又は導入部を介した共通の供給の場合)。本発明により、この欠点を回避することができ、これにより、反応器の全ての管に対する原料の均一な配分が可能になる。パイロリシス又はサーモリシスによる熱分解用に設けられた反応器管の他に、反応器は、前記通流管理の影響を受けない、付加的な管も有していてよい。
【0021】
均一な通流量は、種々異なって選択された減圧ユニットによって可能にされ得る。このような減圧ユニットは、例えば所定の圧力抵抗を有する圧力調整器又は細管である。異なる細管直径及び/又は細管長さに基づき、細管はそれぞれ異なる圧力抵抗を有している。これにより、全ての管の通流量が適合され得る。例えば、同心的に配置された管の場合、束の中心の管のためには、一緒に供給する場合に通常はより小さな通流量を有する束の縁部の管に比べて、より高い圧力抵抗を有する減圧ユニットが選択される。よって、一般に高い通流量を有する管は、個別に減圧することなしに、より高い圧力抵抗(例えばより長い又はより細長い細管)によって装入量が減少され、その他の少ない通流量を有する管は、中心部の管に比べてより小さな圧力抵抗(例えばより短い又はより広幅の細管)に基づいて、装入量が増大される。このようにして一例では、分配領域に開口する1つの供給部を用いることが可能であり、分配領域から個々の減圧ユニットが、個々の反応器管に通じている。択一的に、同一の通流量を保証するためには、各管について、(それ自体が同一の通流量を有する)個別の供給部を選択することも可能であり、これらの供給部は、全ての管について同一の減圧ユニットを備えている。1つの可能性は、例えば各反応管に対して同一に寸法決めされた供給ホースを備える分配キャップである。
【0022】
通流量の均等制御に加えて付加的に、通流量の正確な制御を可能にするためには、減圧ユニットが使用され得る。この目的のために、減圧ユニットの圧力抵抗は、非作動時には一切の通流が不可能になるように選択される。即ち、圧力抵抗は、反応器管の内部空間に通じる供給部の圧力差に等しいか、又はそれよりも大きい。一般に原料は、所定の過剰圧力を生ぜしめるポンプを介して、供給部を通じて供給され、一般に反応器の下流側に接続された負圧ポンプ若しくは真空ポンプによって、内部空間内には負圧が生ぜしめられる。この負圧も自由に選択可能である。この場合の「負圧」は、相対的なものを意味する。反応管の内部空間内の負圧は、供給部の圧力に対して相対的である。この負圧は、絶対的な負圧、即ち、大気圧に対する相対的な負圧であってよいが、そうである必要は無い。例えば、供給部を通じて媒体を流入させることにより、或いは択一的に、又は組み合わせで、反応管の内部空間に媒体、好適には不活性媒体又は空気を別個に供給することにより、内部空間内で絶対的な過剰圧力を保持することも可能である。ホルムアミドのサーモリシス熱分解では、例えば1000hPa未満の絶対的な負圧が選択される。減圧ユニットの圧力抵抗は、好適な構成では少なくとも800hPa、好適には少なくとも900hPa、又は少なくとも1000hPa、少なくとも1100hPa、少なくとも1200hPa、少なくとも1300hPa、少なくとも1400hPa、少なくとも1500hPa、少なくとも1600hPa、少なくとも1800hPa、少なくとも2000hPaである。好適には、圧力抵抗は、反応器管の内部が大気圧である場合に、原材料の流入を阻止する。
【0023】
好適な構成において、反応器管の内部の負圧は、反応器内への流体の流入量が1×10−5/h〜1m/h、好適には1×10−4/h〜1×10−1/hであり、且つ/又は非作動時は0〜1×10−6/h、好適には0〜1×10−8/hであるように選択される。好適な構成において、反応器管の内部の負圧は、反応器内への流体の流入量が1×10−2kg/h〜1000kg/h、好適には0.1kg/h〜100kg/hであり、且つ/又は非作動時は0〜1×10−3kg/h、好適には0〜1×10−5kg/hであるように選択される。非作動時は、一般に反応管の内部の圧力は、約1000hPaの大気圧である。
【0024】
負圧−サーモリシス熱分解は、好適には大気圧未満の圧力において操作される。特別な構成において、原料のパイロリシス又はサーモリシスによる熱分解は、絶対的な負圧において、好適には最高500hPaの絶対圧力において、特に好適には最高250hPaの絶対圧力において、特に好適には80hPa〜200hPaの範囲の絶対圧力において行われる。
【0025】
本発明の主要な利点は、管理された圧力供給にある。負圧反応器には、供給圧の正確な管理無しでは、負圧が供給部を破損するか、又はこの破損が若干の少数の管にのみ現れる、即ち、中央の管だけが十分に装入される、という危険がある。この危険は、本発明に基づく圧力管理及び流入管理によって、つまり管の個別の圧力抵抗/圧力損失、及びこれに関係する、反応器管内への導入部の上流側における一様な圧力形成、若しくは反応器管内で保持される内部圧力の一様な圧力形成によって、取り除かれる。
【0026】
パイロリシス又はサーモリシスによる熱分解のために、反応器は加熱される。このために、好適には反応管の内側表面が、原料の分解温度に加熱される。有効表面積は、好適には例えばばら荷又は特定のボデーの挿入体等の、反応管内の相応の組込み部材によって増大され得る。好適には、挿入されるボデーは、例えばスタティックミキサーのような、例えば付加的な混合機能を有している。好適には、ストレーナ、焼結部材、又は放射状体が使用され、これらは特にずらして管に挿入することもできるので、間隙領域にわたって放射状の拍車領域が位置することになる。このような組込み部材、特に焼結部材は、好適には蒸発器内で、供給部若しくは減圧ユニットの近くに配置され、これにより、蒸発器内での最適な配分と、完全な蒸発が保証される。
【0027】
反応管は、全長にわたって分解温度に加熱される必要はない。所定の(第1の)区分における加熱で十分である。
【0028】
別の区分は、予熱又は蒸発のために設けられてよく、これらの別の区分では、例えば原料が少なくとも沸騰温度に、但し分解温度未満に加熱される。好適には、本発明による方法において、原料は、分解温度未満の温度で予熱されて蒸発させられる。本発明による装置は、蒸発器を有していてよい。好適には、蒸発器は分解区分の直ぐ上流側に設けられている、即ち、上述した減圧ユニットは、まず最初に蒸発器(若しくは蒸発区分)に通じ、その後で熱分解装置(若しくはサーモリシス熱分解区分又は分解区分)に通じている。つまり、原料は、反応器管の第2の区分(予熱区分)内で蒸発させられ、好適には第2の区分から第1の区分(サーモリシス熱分解区分)に供給される。好適には、原料は、噴射ノズルを介して蒸発器に供給され、これにより、霧化と良好な分散とが促進される。原料は、溶剤に溶かされていてよく、この溶剤もやはり、場合によっては蒸発器区分において蒸発させられる。
【0029】
サーモリシスは、原料が管理された加熱によって、1つ、2つ又はそれ以上の生成物に分解される化学反応である。つまり、サーモリシスが特定の生成物(又は反応中間体)の生成に関与するのに対して、パイロリシスは、これらの物質を分解する目的を有する、熱的な分解に関する。本発明による反応器は、両方の反応に適したものであり、且つ両プロセスに関して、サーモリシスに限定することなく、統一して「熱分解装置(Thermolysator)」と云う。同様に、サーモリシスは、反応器の複数の反応のうちの1つの中間ステップであってもよい。別の(後続の)反応も可能である。特に、ここで使用されるようなサーモリシスは、分解が行われることのない、熱の作用による原料の化学的な変換を意味する。このような可能な反応は、例えばベックマン転位等の化学的な転位であり、これは例えば、ε−カプロラクタムを形成するために利用され得る。本発明による反応器のための別の可能な反応は、触媒による変換、特に酸触媒による変換、又は表面反応、異性化、加水分解等、外部から熱を供給して熱の作用に基づき進行する化学反応である。
【0030】
好適には、加熱される内側の表面が、パイロリシス反応器又はサーモリシス反応器の内部空間(加熱される全ての反応器管)のほぼ全体を制限している。ここで「ほぼ」と述べたが、それは当然ながら、例えば一次生成物又は分解生成物の導入開口若しくは導出開口のための供給開口又は導出開口等の、相当数の領域は、空いたままであり続ける必要があるからである。好適には、内部空間の表面の少なくとも70%、特に好適には少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%が加熱されている。
【0031】
反応器管の内側表面は、好適には蒸発温度に加熱される。第2の区分において分解温度未満の温度に加熱され、好適には少なくとも20℃、特に好適には少なくとも50℃、分解温度未満で且つ/又は原料蒸発の固体副生成物、特に重合生成物は一切生じない温度に加熱される。
【0032】
加熱可能な蒸発器から、好適には少なくとも1つの(又は例えば各反応器管毎の複数の)ガス導管が、反応器内に通じている。蒸発器は、管束反応器の1区分であってもよい。
【0033】
本発明による方法若しくは装置は、連続操作用に設計されている。好適には、第1の区分における分解、好適には予熱及び蒸発、及び第1の区分への原料の移送が連続的に操作される。蒸発器は、原料の流動化に用いられてよく、且つ/又は原料をガス状の状態に移行させる。
【0034】
本発明による反応器及び反応器管の加熱は、好適には間接的に、特に誘導式に行われる。択一的な直接的な加熱は、好適には反応管の内部空間の外側から行われる。もちろん、間接的な加熱と直接的な加熱を組み合わせてもよい。特に、第1の区分における反応器管の内側の表面は、誘導加熱される。同様に、第2の区分における反応器管の内側の表面も、誘導加熱されてよい。誘導加熱のために、反応器管は少なくとも部分的に、誘導加熱するための導電体から成っている。特に、加熱される表面の周りの部分が加熱されていることが望ましい。管の内面及び/又は挿入体が、誘導加熱され得る。これにより、パイロリシス又はサーモリシスに必要な熱が、直ちに必要な箇所に生ぜしめられる。誘導加熱は、堆積物も生じるパイロリシスの箇所で直接に、酸素を供給して又は供給せずに、温度上昇に基づき堆積物を容易に燃焼させる又は除去する、という利点を有している。
【0035】
誘導のために、導体路を反応器、管束及び/又は個別管の周りに設けることができる。これについては種々様々な形状が知られており、例えば関連する、本明細書に記載のZinn及びSemiatin (Heat Treating June 1988:32-36) 又は Zinn及びSemiatin(Heat Treating August 1988:29-32)に記載されている。導体路は、極性反転及び磁化損失、若しくは渦電流損失に基づき反応器管内に熱を生ぜしめる磁界を形成する。電流は、作用接続された高周波発電機によって発生させることができる。一般的な周波数範囲は、約5kHz〜2.5MHz、好適には250kHz〜1MHzである。出力は、反応器の大きさに応じて2kW〜600kW、好適には30kW〜200kWの範囲にあるか、又はより高くてよい。好適には、誘導用の導体路は冷却、例えば水冷される。効果的な誘導のために、反応器管の表面は、可能な限り高いキュリー温度を有する磁性材料又は磁化可能な材料から成ってもいるので、分解温度まで、またはより高い温度までの効果的な加熱が可能になる。純金属のキュリー温度は例えば:コバルト 1121℃、鉄 766℃、ニッケル 360℃である。しかしながら誘導により、導体特性(渦電流損失)のみに基づいた比較的高い加熱も可能である。好適には、表面又は反応管は、鉄又は鉄合金、好適には鋼から成る。
【0036】
本発明は、流体の又は流動化された原料の、パイロリシス又はサーモリシスによる熱分解方法にも関し、原料を、第2の加熱された表面で予熱して蒸発させ、蒸発させられた原料を第1の加熱された表面に運び、この場合、第1の加熱された表面は、誘導加熱された表面であり、原料を、第1の加熱された表面において原料の分解温度に加熱し、これにより、原料をパイロリシス又はサーモリシスにより熱分解して、パイロリシス生成物又はサーモリシス生成物を得ることを特徴とする。反応器は、好適には管束反応器である。
【0037】
種々様々な原料、例えばホルムアミドのパイロリシス又はサーモリシスによる熱分解では、副反応により固形堆積物が形成される恐れがある。好適には、パイロリシス又はサーモリシスによる熱分解により場合によっては副生成物として生じる固形堆積物は、特に堆積物を蒸発、分解又は燃焼させるために高められた第1の区分の内側表面の温度に基づいて、除去される。除去のために、原料の流入は停止され、反応器が堆積物の除去のために高められた温度に加熱される。温度はこのために、第1の区分において例えば少なくとも1200℃に、又は少なくとも1400℃に高められてよい。
【0038】
パイロリシス又はサーモリシスによるいくつかの熱分解に関しては、触媒の存在が有利である。よって、第1の区分の(管内壁及び/又は挿入体の)表面は、触媒によってコーティングされていてよい。ホルムアミドのサーモリシスによる熱分解には、例えば鉄触媒が適切である。表面は、例えば鉄又は酸化鉄を有していてよい。好適には、反応管の内側表面は、少なくとも第1の区分において、鉄本体の表面である。
【0039】
装置若しくは反応器内部空間は、少なくとも500℃に、好適には少なくとも750℃に、又は少なくとも1000℃に、特に好適には少なくとも1300℃に加熱可能であってよく、特に好適には、反応器管は鉄本体及び/又は鉄を含有する表面を有している。このために、例えば誘導コイル又は電気的な加熱部材等の加熱部材が取り付けられていてよい。
【0040】
特に、原料はカルボン酸アミド、例えばホルムアミド、又はグリセリンである。よって、HCNを形成するために、又はアクロレインを形成するためのグリセリンを脱水するために、カルボン酸アミド、好適にはホルムアミドをサーモリシスにより熱分解する特別な方法も、上述した構成の枠内で説明する。サーモリシスによる熱分解又は脱水は、多数の反応器管を備える管束反応器内で行われる。つまり、まず最初の方法ステップにおいて、原料、特にホルムアミド又はグリセリンを、反応器の加熱された表面と接触させ、その際に管束反応器の多数の反応器管には、圧力調整に基づいて同量の原料を装入し、加熱された表面において原料をその分解温度に加熱し、生成物、例えばHCNガス又はアクロレインを連続的に導出する。
【0041】
好適には、反応器内の第1の区分の上流側に、酸素を例えば空気の形態で導入する。酸素は、副生成物の生成を減少させる。この導入は、好適には第2の区分(蒸発器)の下流側で行われる。
【0042】
第2の方法ステップにおいて、反応器に原料を導入せずに、分解温度を上回るように温度を高め、これにより場合によっては形成される、生成物形成の副生成物の固形堆積物を、蒸発、分解又は燃焼によって除去する。
【0043】
好適には、ホルムアミドをサーモリシスにより熱分解するためには表面を430℃〜600℃に、又はグリセリンをサーモリシスにより熱分解するためには表面を300℃〜500℃に、好適には誘導加熱する。
【0044】
好適には、副生成物の除去のために、表面を700℃〜1500℃に、好適には誘導加熱する。サーモリシス又はパイロリシスによる熱分解の後に、生成物をガス流から分離する。生成物は引き続き、浄化及び処理されてよい。好適には、生成物は熱回収のための熱交換器を介して案内される。回収された熱は、原料の予熱のために利用するか、又は下流側に接続された処理ステップにおいて利用することができる。
【0045】
以下に、本発明を前記構成に限定することなく、図面及び例に基づいて詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1には、原料をサーモリシスにより熱分解するための装置の概略的な構成が示されている。蒸発されるべき材料A(例えば原料)及びB(例えば第2の原料又は水等のキャリヤ媒体)が、相応の貯蔵容器(1及び2)に供給される。材料A及びBは、貯蔵容器の下流側に取り付けられた供給装置を介して、同時に又は順次、或いは混合されて、圧送装置(3)に供給され得る。減圧ユニット(4)を介して原料は蒸発器(5)に導入されて、蒸発させられる。蒸発器(5)は、誘導コイル(7)を介して加熱され、誘導コイル(7)は、電流線路(9)を介して交流発電機(8)に接続されている。ガス状の(蒸発された)材料は、熱分解装置(6)に送られ、熱分解装置(6)は、コイル(10)を介して誘導加熱される。このためには発電機(8)から交流電圧が、電流線路(11)を介して供給される。蒸発器(5)と熱分解装置(6)との間には、別の材料、特にガス(C、例えば空気、及びD、例えば不活性ガス、N)が、弁(33,34及び35)を介して位置32に導入されてよい。パイロリシスによる熱分解生成物は、分解ガス導出部(14)と、復水分離器(12)とを介して導出される。復水は、弁(13)を介して排出されてよい。
図2図2には、120本の個別管から成る1つの管束を有する反応器の横断面が示されている。
図3図3には、上下に重ねられてずらされた、2つの放射状の挿入体の横断面図が示されている。
図4図4には、絶縁されたケーシング内に設けられた、サーモリシスによる熱分解反応器の概略的な構成が示されている。原料供給部はポイント41に通じていて、ポイント41において原料は蒸発器区分内に導入される。蒸発器は、誘導加熱のための誘導電界を形成するための高周波発電機に接続されている。蒸発器区分はフランジを介して、分解温度にまで誘導加熱を生ぜしめるように動作可能に接続された専用の高周波発電機を有する熱分解装置区分(6)に接続される。サーモリシスによる熱分解生成物は、排出ゾーン(12)を介して回収され、ここで場合によっては熱回収するために、熱交換器に接続され、引き続く処理及び浄化のために、導出部(15)を介して送られる。
図5図5には(部分的な図5A図5B及び図5Cにより)、蒸発器(5)と熱分解装置(6)とを備える装置が示されており(図5A)、蒸発器(5)と熱分解装置(6)とは、中間フランジ(32、図5Cに拡大して図示)を介して結合されている。フランジ内には、ガス(例えば空気)を吹き込むための導管(35)が設けられている。蒸発器(5)内には導管(41、図5Bに拡大して図示)が通じており、導管(41)は、管束の個別の管(55)に対して分岐していて、それぞれ減圧ユニット内に細管(56)の形態で開口している。管に個別に供給するこの構成では、個々の管の減圧ユニットは、それぞれ同一に形成されている。図面の下部領域には、管束の横断面が図示されている。
図6図6には(部分的な図6A図6Bにより)、蒸発器(5)と熱分解装置(6)とを備える装置が示されており(図6A)、蒸発器(5)と熱分解装置(6)とは、中間フランジ(32)を介して結合されている。蒸発器(5)内には、導管(41、図6Bに拡大して図示)が通じており、導管(41)は、個々の減圧ユニットを備えるキャップ領域において、それぞれ構成の異なる細管(56)の形態で、管束の個別の管(55)に対して開口している。図面の下部領域には、管束の横断面が図示されている。
図7図7には、反応器管内に細管を介して原料を導入するための、個別の接続ホースを備えた、反応器用の供給部の端部が示されている。
図8図8には、方形に配置された複数の管を備える、方形に形成された反応器が示されている(圧縮機(5)及び熱分解装置(6)の横断面を示す図8Bの横断面図を参照)。平面図(図8A)を断面して供給部(41)が示されており、この供給部(41)は、複数の細管(56)に対する1つの分配部に通じている。そこから原料混合物は蒸発器(5)内にもたらされ、供給部(35)を有する中間部材を介して熱分解装置(6)にもたらされる。熱分解装置(6)の終端部には、複数の加熱されない集合管(81)が設けられている。この構成では、比較的多く装入される管又は装入が均一でない管を回避するために、(例えば供給部(41)の入口に対向する)中間反応管が省かれている。
【0047】
好適な実施形態:
図1に関連して、本発明に基づき蒸発させようとする原材料(A及びB)は、それぞれ相応の貯蔵容器に供給される。原材料(A及びB)の内の少なくとも一方が、サーモリシス又はパイロリシスにより熱分解されることが望ましい。貯蔵容器は、加熱部又は冷却部を装備していてよく、必要な場合は洗浄ガスで覆われていてよい。沈殿する原材料のために、貯蔵容器は攪拌装置又は相応の循環装置も装備していてよい。原材料(A及びB)は、貯蔵容器の下流側に取り付けられた供給装置を介して同時に、又は順次、又は所定の混合比で、圧送装置(3)に供給され得る。このプロセスは、任意の数の原材料の供給に基づき、化学的な要求に応じて拡張されてよい。
【0048】
圧送装置としては、歯車ポンプ、ピストン調量ポンプ、渦巻きポンプ、ダイヤフラムポンプ、又は類似のポンプが使用され得る。圧送装置を通過した流体流は、蒸発器に流入する前に、プロセス圧に適合された減圧ユニット(4)を通過し、これにより、蒸発器部分(5)と熱分解装置部分(6)とにおいて、相応のプロセス圧と流入流体とを生ぜしめることができる。蒸発器において、好適には混合用の組込み部材、特に焼結部材又はスクリーンが、好適には蒸発器内で供給部若しくは減圧ユニットの近くに配置され、これにより、蒸発器内での最適な分散及び完全な蒸発が保証されている。同様に、供給流は、蒸発器内に噴射された直後に、蒸発器ヘッド部分に設けられた多孔板を介して、蒸発器部分内で微細に分散され得る。蒸発器部分内の液体の分散部は、蒸発器部分全体に、若しくは蒸発器部分の長さにわたって、(好適には多孔性の)分散板が取り付けられていて、液体が蒸発器内壁に向かって螺旋状に案内されるように構成していてもよい。より効率的な蒸発のためには、蒸発されるべき液体内への熱入力が、例えばやはり誘導加熱される組込み部材による例えば表面積拡大に基づき最適化され得、この組込み部材を介して内部に熱を導入することができる。つまり表面積は、空の管の表面積に比べて最大100倍だけ拡大され得る。
【0049】
流入は、減圧ユニットを介して、特に供給する細管を介して、例えば細管の寸法により制御され、減圧ユニットの圧力損失に基づき真空ポンプによってもたらされた真空が、蒸発器及び熱分解装置部分内に生ぜしめられて維持され、その際に、蒸発器には連続的に液体が供給される。
【0050】
蒸発器(5)は、円形、角形、又は蒸発プロセスに適合された特別な幾何学形状で形成されていてよい。蒸発器(5)は、運転温度又は蒸発温度へ加熱するために、誘導コイル(7)によって包囲されている。誘導コイル(7)は、蒸発器の周りに緩く取り付けられていてよいか、又は温度を遮蔽し且つ安全対策を講じるために耐火セメント内に埋め込まれていてよい。誘導コイル(7)は渦巻き形、フォーク形、棒形、ジグザグ形に形成されていてよく、且つ蒸発器を完全に、又は部分的にのみ取り囲んでいてよい。誘導コイル(7)は、接続部材又は接続線路(9)を介して、誘導発電機(8)に接続されている。
【0051】
誘導コイルの構造及び設計は、Stanley Zinn及びS.L.Semiatin著のHeating Treating June 1988、第32〜36頁; Coil design and fabrication: basic Design and modifications、並びにHeating Treating August 1988、第29〜32頁; Coil design and fabrication: part 2, speciality coils、及びHeating Treating October 1988、第39〜41頁; Coil design and fabrication: basic Design and modifications part 3, fabrication principlesに記載されている。誘導コイルは、絶縁のために耐熱性のセメント型又は別の耐熱性の絶縁材料に埋め込まれていてよい。
【0052】
蒸発器部分(5)の誘導加熱のために、蒸発器は、金属又は半導体材料(シリコン)等の、導電性材料から製造されているか、若しくはこれらの導電性材料を少なくとも部分的に含んでいてよい。誘導発電機(8)を介して発生される高周波エネルギは、インダクタ(誘導コイル)(7)を介して蒸発器に伝達される。インダクタ(7)は、加熱ゾーンの幾何学形状に適合されていて、大抵は銅中空成形部材から曲げられて成形され、且つ加熱からの自己防護のために、水冷されていてよい。誘導発電機(8)としては、最大出力が600kWで、周波数が5kHz〜2.5MHzの、中周波誘導発電機及び高周波誘導発電機を用いることができる。一般に、運転用に生ぜしめられるべき周波数は、5〜150kHzの範囲である。誘導発電機の周波数は、ポテンショメータを用いて予め選択されるか、若しくは蒸発プロセス及びサーモリシス熱分解プロセスのために予め選択されて固定される。プログラマブルコントローラもやはり、連続的な蒸発及びサーモリシス熱分解のために使用することができる。プロセスが許す場合は、反応器システムの容量式加熱を用いてもよい。13〜30MHzの周波数において、最大200kWの出力が使用可能である。
【0053】
自己防護(加熱及び溶融に対する保安)のために、大抵は銅/銅合金から成る誘導コイルは、誘導コイルの内部を冷却水で冷却されてよく、この場合、出力に応じて冷却水流は180l(リットル)/h〜30m/hで調節され、且つ好適には周波数制御装置を介して案内される。
【0054】
反応器内で誘導される加熱出力(W)は、誘導コイルの電流(アンペア)、蒸発器管材料及び熱分解装置管材料の比透磁率、蒸発器管材料及び熱分解装置管材料の固有抵抗(Ω・mm/m)並びに生ぜしめられた周波数(Hz)を介して調節され得る。アルミニウム2.65・10−2;特殊鋼7.2・10−1;鉄1.0・10−1〜1.5・10−1;貴金属2.214・10−2の、典型的な固有抵抗が考慮され得る。
【0055】
熱出力の算出について、以下の材料が有する比透磁率(μr)は、銅1−6.4・10−6;アルミニウム1+2.2・10−5;白金1+2.57・10−4;鉄300...10.000;フェライト4...15.000;NiFe50.000...140.000である。
【0056】
蒸発器管及び熱分解装置管の構造並びにその寸法及び管質量は、蒸発器管及び熱分解装置管を介して入力されるべきエネルギ消費若しくは出力が、蒸発プロセス及び分解プロセスを制御するために短時間で行われるように選択されてよい。蒸発プロセス及びサーモリシス熱分解プロセスは、処理量要件及び使用される管質量に応じて、12ワット秒〜60.000ワット秒、好適には5.000ワット秒〜30.000ワット秒の固有エネルギ消費で運転されてよく、その結果、材料データから所要の蒸発出力及び分解出力に応じて算出可能な、蒸発システム及びサーモリシス熱分解システムの比較的短い加熱が生ぜしめられる。反応器の内部に生ぜしめられたプロセス圧は、一般に50〜200mbarで変動し、真空ポンプ及び/又は制御弁によって調節されるか、若しくは一定に保たれてよい。
【0057】
熱は、蒸発器部分(5)若しくは後続の熱分解装置(6)において、反応管自体の内部に発生するので、熱伝達媒体(例えば空気又は別の導電性の固体化合物)は不要である。電気エネルギは、本発明では蒸発器(5)又は熱分解装置(6)の、加熱されるべき反応器に、磁界を介して伝達される。
【0058】
誘導コイル/インダクタ(7)を通流する交流は、交番磁界を生ぜしめ、その結果この交番磁界は、ワーク内に所定の電流を生ぜしめる。つまり、誘導コイル(7)を介して供給された電気エネルギは、まず磁気エネルギに変換され、次いでワーク内で熱に変換される。ワーク内の電流密度は、いわゆる「表皮効果」により決定されている。この場合、蒸発器表面又は熱分解装置表面において最大の電流密度が達成される。経験上、電流密度は内側に向かって急激に低下する。
【0059】
誘導された材料の内部には、事実上電流は最早流れない。インダクタ(7)に印加される電圧の周波数が高ければ高いほど、蒸発器及び熱分解装置内の渦電流の浸透深さは小さくなる(表皮効果)。
【0060】
蒸発器及び熱分解装置には、表面積拡大のために特別に成形された組込み部材が挿入され得る。これらの特別な組込み部材は、蒸発器と熱分解装置の全長にわたって「1つの棒体」として組み込まれるか、又は複数の個別の成形体セグメントとして組み込まれてよく、この場合、これらのセグメントは互いに半径方向にずらされていてよく、これにより、液体流の蒸発中若しくはサーモリシスによる熱分解中に、蒸気及び分解ガスを変向させて、加熱面に接触させることができる。接触面は、同時に触媒接触面として形成されていてよい。好適には、組込み部材は誘導加熱される。
【0061】
経済的なサーモリシス熱分解プロセスを構成することができるようにするために、管束装置は誘導電磁界内で加熱される。管束の幾何学形状に基づいて、個々の管の間には中空空間及び空の領域が存在しているので、著しく低下された誘導加熱を考慮する必要がある。意外にも、図2に示した管束を、誘導電磁界内で極めて良好に加熱可能な蒸発器及び熱分解装置として構成することができる、ということが判った。この場合、個々のプロセス蒸発器と熱分解装置管との間の管の間隔は、2mm、好適には5mmの最小間隔が与えられているように選択される。好適には薄壁の管が、蒸発器(5)及び熱分解装置(6)に用いられる。管壁は、例えば0.1mm〜2cm、好適には1mm〜1cmである。それぞれ最高500本の個別管を備える蒸発器反応区分及び/又は熱分解装置反応区分も、やはり可能である。しかしまた、管の数は、蒸発器と熱分解装置との間で相違するように選択されてもよい。
【0062】
蒸発器管と熱分解装置管とは、所定の間隔で1つの束に組み立てられて、各管束端部において、ヘッドプレート/又はエンドプレートに溶接されるか、又は圧入されてよい。ヘッドプレートとエンドプレートとの間には、複数の中間プレートが組み込まれていてよい。このことは有利であるということが判った。それというのも、誘導加熱に基づいて、プレート領域内に、管束温度とは異なる温度ゾーンを有する複数の温度ゾーンを生ぜしめることができ、これにより、反応制御若しくは温度制御に対して意図的に影響を及ぼすことができるからである。ヘッドプレート/エンドプレート若しくは中間プレートは、それぞれ円形孔がずらされて形成されているものとして、円形孔が直線上に形成されているものとして、方形孔が直線上に形成されているものとして、方形孔がずらされて形成されているものとして、方形孔が対角線上に形成されているものとして、六角形孔がずらされて形成されているものとして、或いは長孔がずらされて形成されているものとして、長孔が直線上に横方向に延在するように形成されているものとして、並びに長孔が直線上で角度を成して横方向に延在するように形成されているものとして、形成されていてよい。
【0063】
蒸発器部分(5)は、熱分解装置部分(6)と形状接続的(形状的な束縛、例えば係合による結合)に、且つ密に結合されている。結合部材としては、ねじ、フランジ又はプレスナットも使用され得る。耐熱性の処理可能なセラミック(セラミック接着剤Durabond(登録商標))を用いた接合も、やはり可能である。熱分解装置(6)と蒸発器(5)との間のシールは、金属シール又はセラミックシール又はねじ山付きシールを介して行うことができる。
【0064】
熱分解装置(6)は、円形、角形、又はサーモリシス熱分解プロセスに適合された特別な幾何学形状に形成されていてよい。熱分解装置(6)は、液状又は蒸気状で供給される原材料を運転温度又は分解温度に加熱して分解するために、誘導コイル(10)によって取り囲まれている。誘導コイル(10)は、熱分解装置の周りに緩く取り付けられていてよいか、又は温度を遮蔽し且つ安全対策を講じるために、耐火セメント内に埋め込まれていてよい。誘導コイル(10)は渦巻き形、フォーク形、棒形、ジグザグ形に形成されていてよく、且つ熱分解装置を完全に、又は部分的にのみ取り囲んでいてよい。誘導コイル(10)は、接続部材又は接続線路(11)を介して、誘導発電機(8)に接続されている。熱分解装置(6)からの出口には、プロセス復水導出システム(12)が取り付けられており、これにより、場合によっては生じる復水(13)を、サーモリシス熱分解の始動中に適切に捕集することができる。
【0065】
サーモリシス熱分解プロセスは、極めて高い温度で進行し、分解ガスを再利用する場合は、下流側に接続された装置及びプロセス設備部分が、より低い温度で運転される恐れがあるので、分解ガスは、分解ガス通路(15)を介して(加熱されて又は加熱されずに)且つ/又は冷却回収及び/又は熱回収用の熱交換器に供給され得る。
【0066】
成形体、管、及び挿入部材又は組込み部材は、α鉄/Al等の触媒材料、鉄合金、CuO/Cr、ZnO/Cr又はCuO/ZnOから成る触媒材料、V/キャリヤ、並びに白金/ロジウムから成る触媒から製造されていてよく、蒸発及びサーモリシスによる熱分解に用いることができる。
【0067】
誘導式に操作される蒸発プロセス及びサーモリシス熱分解プロセスの利点は、装置の運転中に内部に堆積物又は凝固物が形成された場合に、これらを加熱によって除去することができるという点にある。これにより、液体による洗浄を省くことができ、危険なプロセス化学物質の発生が阻止される。良好な温度制御、並びに本発明による反応器の良好な始動特性は、例えばホルムアミドから製造される青酸等の危険な物質を、使用する現場で「オンデマンド」で製造することができる、ということを可能にするので、危険物質の搬送や支持は必要ない。
【0068】
プロセス液体又はプロセスガス(新鮮ガス又は再循環ガス)の供給は、図1に符号(32)で示した箇所で行うことができ、この場合、供給部は、図5又は図6において蒸発器と熱分解装置との間の結合区分について説明したように形成されていてよい。
【0069】
例:
実験は、上述したような反応システムを用いて実施された(図1に基づく実施例の説明)。
【0070】
反応システムは、蒸発部分用の120本の管と、サーモリシスによる熱分解部分用の120本の管とから組み立てられた。使用される管状の蒸発器構成部材及び熱分解装置構成部材のためには、DIN2391による精密管ST35が使用された。内径は0.5〜13mmで変化させ、この場合、使用された管の壁厚さは0.1〜1.5mmで変動した。熱分解装置部分は、蒸発器部分と直接に結合された。
【0071】
蒸発器管及び熱分解装置管は、所定の間隔で1つの束を形成するように組み立てられ、各管束端部においてヘッドプレート/エンドプレートに溶接又は圧入された。ヘッドプレートとエンドプレートとの間には、複数の中間プレートが組み込まれている。
【0072】
両反応器区分は、誘導加熱のために、蒸発器及び熱分解装置に特別に適合された誘導コイル内に嵌め込まれている。
【0073】
誘導コイルは、15〜20kWの出力を有する発電機に接続された。誘導加熱用に、5〜150kHzの範囲の周波数が用いられた。
【0074】
自己防護(加熱及び溶融に対する保安)のために、銅/銅合金から成る誘導コイルは、誘導コイルの内部を冷却水で冷却された。誘導コイル延いては供給されるエネルギの制御、並びにプロセス温度の正確な維持(+/−1℃)は、パイロメータを用いて実施された。
【0075】
蒸発器管及び熱分解装置管の構造、並びにそれらの寸法及び管質量は、蒸発器管及び熱分解装置管を介して入力されるべきエネルギ消費若しくは出力を、蒸発プロセス及び分解プロセスを制御するために短時間で行うことができるように選択された。
【0076】
実験中に生ぜしめられたプロセス圧は、50〜200mbarで変動し、負圧ポンプ及び弁によって調整若しくは一定に保持された。
【0077】
【表1】
【0078】
実験1〜9には、直径7mm及び長さ25cmの管が使用され、実験10には直径1mm及び長さ30cmの管が使用され、実験11には直径0.5mm及び長さ30cmの管が使用された。これにより、反応器内にはそれぞれ異なる流入量において、それぞれ異なる表面負荷及び容積負荷が生ぜしめられる。全てのケースにおいて、最高500℃で分解するカルボン酸アミド、特にホルムアミド等の、触媒を用いたパイロリシス熱分解に必要な温度(分解ガス温度)を達成することができた。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8A
図8B