(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板の少なくとも一方の主面の全部または一部に、金属ナノワイヤを含む金属ナノワイヤ層を、前記基板の材料を溶解または膨潤させることのできる溶媒中に金属ナノワイヤを分散させた金属ナノワイヤインクを基板の少なくとも一方の主面の全部または一部の面に塗布して形成する工程と、
所定のパターンで前記金属ナノワイヤ層に光を照射し、前記所定パターン形状の領域で金属ナノワイヤ層中の金属ナノワイヤを焼結する工程と、
を備えることを特徴とする導電パターンの製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機、携帯端末機あるいはパーソナルコンピュータ等の各種電子機器として、表示パネルに光透過性のタッチパネルを装着し、このタッチパネルを通して表示パネルの表示を視認しながら指等でタッチパネルの表面を操作することにより、電子機器に対して指示操作を行うことができるものが使用されている。
【0003】
このようなタッチパネルとして、例えば、透明な基板に、X方向に所定形状の透明電極パターンを形成するとともに、Y方向(X方向と直交する方向)に同様の透明電極パターンが形成された静電容量型タッチパネルが知られている。
【0004】
上記タッチパネルに使用される透明電極パターンは、電極パターンが形成されている領域(導電性領域)と、電極パターンが形成されていない領域(非導電性領域)とで光学的な性質に差が生じるために、電極パターンが視認できてしまう所謂「骨見え」が問題となる場合がある。このような「骨見え」を防ぐためには、透明電極パターンの境目の間隔を極端に狭くする必要があった。例えば、静電容量型タッチパネルの場合には、X方向の電極パターンとY方向の電極パターンとの間隔は最大でも50μm、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下とする必要があり、このような挟ピッチを実現するには印刷法では難しく、フォトリソグラフィー法によりパターニングされている。
【0005】
フォトリソグラフィー法の例としては、例えば、下記非特許文献1に以下の工程が記載されている。
(1)金属ナノワイヤを含有する導電性インクを基板に塗布する工程。
(2)焼成を行い、透明導電層を形成する工程。
(3)感光性を有するレジストを上記透明導電層上に形成する工程。
(4)微細パターンに相当する適当な遮光マスクを通じてレジストに光エネルギーを付与する工程。
(5)得られたレジストの潜像を、適当な現像用溶液による溶出によって現像する工程。
(6)適当なエッチング方法を用いて露出した被パターニング膜(透明導電層)を除去する工程。
(7)残存したレジストを適当な方法を用いて除去する工程。
【0006】
また、特許文献1には以下の工程が記載されている。
(1)水に分散した銀ナノワイヤを含有する導電性インクを基板に塗布する工程。
(2)焼成を行い、銀ナノワイヤ網層を形成する工程。
(3)プレポリマーを含有する光硬化型のマトリクス材を前記銀ナノワイヤ網層上に形成する工程。
(4)微細パターンに相当する適当な遮光マスクを通じてマトリクス材に光エネルギーを付与する工程。
(5)非硬化領域を溶媒(エタノール)で洗浄することによって除去する工程。または、粘着テープや粘着性ロールを用いて非硬化領域を物理的に除去する工程。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0024】
図1(a)〜(c)には、実施形態にかかる導電パターンの製造方法の工程を説明するための断面図が示される。基板の少なくとも一方の主面の全部または一部に、金属ナノワイヤ層12を形成する。基板10上に形成された金属ナノワイヤ層12中の金属ナノワイヤ濃度(分布)は面内で略均一である。
図1(a)では基板10の一方の主面の全面に金属ナノワイヤ層12を形成する場合を例示している。金属ナノワイヤ層12の形成方法については後述する。
【0025】
次に、
図1(b)において、金属ナノワイヤ層12に、予め定めたパターンで透光部14aが形成されたマスク14を介してキセノン式のパルス式照射ランプ等からパルス光を照射する。これにより、金属ナノワイヤ層12のうちパルス光が照射された領域に含まれる金属ナノワイヤが上記予め定めたパターンで焼結されて導電性が付与される。一方、パルス光が照射されなかった金属ナノワイヤ層12の領域に含まれる金属ナノワイヤは焼結されず、導電性が付与されていない(発現していない)。この結果、
図1(c)に示されるように、パルス光が照射された金属ナノワイヤ層12の領域12cが導電性領域となり、導電性領域以外の領域であって、パルス光が照射されなかった金属ナノワイヤ層12の領域12iが非導電性領域となって、上記マスク14に形成された透光部14aのパターンと相似形の導電パターンが形成される。
【0026】
なお、上記導電性領域の電気抵抗は、使用目的に応じて適宜決定できるが、例えば表面抵抗として200Ω/□以下が好ましい。この表面抵抗は低いほどよく、下限値は特に規定できないが、本実施形態の製造方法によれば、例えば100Ω/□程度とすることができる。また上記非導電性領域の表面抵抗も、使用目的に応じた絶縁性が確保されればよいが、例えば10
3Ω/□以上、更には10
6Ω/□以上となるのが好適である。
【0027】
なお、上記透光部14aは、マスク14に形成されたパターン形状の開口でもよいし、マスク14の一部(パターン)の領域に光透過性材料を使用して形成してもよい。
【0028】
ここで用いるマスクとしては、近紫外から近赤外までは透明な素材の基板上に、金属、黒色顔料等の遮光材料でパターニングしたもので、一般にはフォトマスクとも呼ばれる。透明な素材の基板としてはガラスや合成石英を用い、この上にクロムを遮光膜として描画図形が形成されるものが多いが、エマルジョンマスクと呼ばれる柔軟性のある透明な高分子フィルム上に図形が描かれたものを用いることもできる。また、これに限らず透明な素材の上に、遮光材料を描画したものであれば、用いることができる。
【0029】
また、基板10としてはシート状、フィルム状のものであれば特に制限はないが、例えば、ガラス、アルミナなどのセラミックや、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられ、本発明による導電膜を使用するに際し透明性を重視する場合は、全光線透過率が80%以上である基材を用いることが好ましく、具体的にはガラス、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂などが挙げられる。
【0030】
上記基板10の厚みは用途によって好ましい範囲は異なるが、シート状であれば500μm以上10mm以下が好ましく、フィルム状であれば10μm以上500μm以下が好ましい。
【0031】
本明細書中において「パルス光」とは、光照射期間(照射時間)が短時間の光であり、光照射を複数回繰り返す場合は
図2に示すように、第一の光照射期間(on)と第二の光照射期間(on)との間に光が照射されない期間(照射間隔(off))を有する光照射を意味する。
図2ではパルス光の光強度が一定であるように示しているが、1回の光照射期間(on)内で光強度が変化してもよい。上記パルス光は、キセノンフラッシュランプ等のフラッシュランプを備える光源から照射される。このような光源を使用して、上記基板に堆積された金属ナノワイヤにパルス光を照射する。n回繰り返し照射する場合は、
図2における1サイクル(on+off)をn回反復する。なお、繰り返し照射する場合には、次パルス光照射を行う際に、基材を室温付近まで冷却できるようにするため基材側から冷却することが好ましい。
【0032】
また、上記パルス光としては、1pm〜1mの波長範囲の電磁波を使用することができ、好ましくは10nm〜1000μmの波長範囲の電磁波(遠紫外から遠赤外まで)、さらに好ましくは100nm〜2000nmの波長範囲の電磁波を使用することができる。このような電磁波の例としては、ガンマ線、X線、紫外線、可視光、赤外線、マイクロ波、マイクロ波より長波長側の電波等が挙げられる。なお、熱エネルギーへの変換を考えた場合には、あまりに波長が短い場合には、形状保持材、パターン印刷を行う樹脂基材等へのダメージが大きく好ましくない。また、波長が長すぎる場合には効率的に吸収して発熱することが出来ないので好ましくない。従って、波長の範囲としては、前述の波長の中でも特に紫外から赤外の範囲が好ましく、より好ましくは100〜2000nmの範囲の波長である。
【0033】
パルス光の1回の照射時間(on)は、光強度にもよるが、20μsec〜50msecの範囲が好ましい。20μsecよりも短いと金属ナノワイヤの焼結が進まず、導電膜の性能向上の効果が低くなる。また、50msecよりも長いと光劣化、熱劣化により基材へ悪影響を及ぼすことがあり、また金属ナノワイヤが吹き飛びやすくなる。より好ましくは40μsec〜10msecである。上記理由により、本実施形態では連続光ではなくパルス光を用いる。パルス光の照射は単発で実施しても効果はあるが、上記の通り繰り返し実施することもできる。繰り返し実施する場合照射間隔(off)は20μsec〜5secの範囲とすることが好ましく、より好ましくは2msec〜2secの範囲である。20μsecよりも短いと、連続光に近くなってしまい、一回の照射後に放冷される間も無く照射されるので、基材が加熱されて温度が高くなり、劣化する可能性がある。また、5secよりも長いとプロセス時間が長くなるので量産する場合には好ましくない。
【0034】
図3(a)〜(c)には、実施形態にかかる導電パターンの製造方法の変形例の工程を説明するための断面図が示され、
図1(a)〜(c)と同一要素には同一符号が付されている。なお、
図3(a)、(c)は
図1(a)、(c)と同様であるので説明は省略する。
【0035】
図3(b)では、
図1(b)と異なり、パルス光の代わりにレーザ光を使用する。レーザ光はレーザ光源16で発生され、ガルバノスキャナ等の走査手段18により予め定めたパターンでレーザ光を走査させつつ金属ナノワイヤ層12に照射する。これにより、金属ナノワイヤ層12のうちレーザ光が照射された領域に含まれる金属ナノワイヤが焼結されて導電性が付与される。この結果、
図3(c)に示されるように、レーザ光が照射された金属ナノワイヤ層12の領域12cが導電性領域となり、レーザ光が照射されなかった金属ナノワイヤ層12の領域12iが非導電性領域となって、予め定めたパターンの導電パターンが形成される。
【0036】
なお、上記レーザ光源16としては、例えば(株)片岡製作所製LD励起Qスイッチ型Gr−YVO
4レーザ KLY−QGS5α等を使用することができる。
【0037】
金属ナノワイヤ層12は、ナノワイヤ同士の間隙を光が十分透過できる程度に基板表面に堆積されてなる。すなわち、金属ナノワイヤは通常は不規則に堆積されており、緻密に金属ナノワイヤが堆積されてなるものではない。従って、金属ナノワイヤ層12により上記導電パターンを形成することにより、タッチパネルの電極パターン等に使用することができる。なお、金属ナノワイヤが規則的に配列された状態であっても、ナノワイヤ同士の間隙を光が十分透過できるものであれば本願の金属ナノワイヤ層12として使用できる。
【0038】
金属ナノワイヤ層12を構成する金属ナノワイヤは、径がナノメーターオーダーのサイズを有する金属であり、線状(中空のチューブ状を含む)の形状を有する導電性材料である。その性状は、柔軟であってもよく、剛直であってもよい。また金属ナノワイヤの金属は少なくとも一部に金属酸化物を含んでもよい。
【0039】
金属ナノワイヤの金属の種類としては、金、銀、白金、銅、ニッケル、鉄、コバルト、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、オスミウム、イリジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種およびこれら金属を組み合わせた合金等が挙げられる。低い表面抵抗かつ高い全光線透過率を有する塗膜を得るためには、金、銀および銅のいずれかを少なくとも1種含むことが好ましい。これらの金属は導電性が高いため、所定の表面抵抗を得る際に、面に占める金属の密度を減らすことができるので、高い全光線透過率を実現できる。
【0040】
これらの金属の中でも、導電性の観点から金、銅または銀の少なくとも1種を含むことがより好ましい。最適な態様としては、銀が挙げられる。
【0041】
上記金属ナノワイヤの径、長軸の長さおよびアスペクト比は一定の分布を有することが好ましい。この分布は、本実施形態の金属ナノワイヤ層12により構成される薄膜が、全光線透過率が高くかつ表面抵抗が低い薄膜となるように選択される。具体的には、金属ナノワイヤの径の平均は、1nm以上500nm以下が好ましく、5nm以上200nm以下がより好ましく、5nm以上100nm以下がさらに好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。また、金属ナノワイヤの長軸の長さの平均は、1μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上80μm以下がより好ましく、2μm以上60μm以下がさらに好ましく、5μm以上40μm以下が特に好ましい。金属ナノワイヤは、径の平均および長軸の長さの平均が上記範囲を満たすとともに、アスペクト比の平均が10以上5000以下であることが好ましく、100以上2000以下であることがより好ましく、200以上1000以下であることがさらに好ましい。ここで、アスペクト比は、金属ナノワイヤの径の平均をb、長軸の長さの平均をaと近似した場合、a/bで求められる値である。a及びbは、走査電子顕微鏡を用いて測定できる。金属ナノワイヤ層12中の上記金属ナノワイヤの濃度をコントロールして、ワイヤ同士の絡みあいにより導電性を確保することにより、透明導電パターンとすることができる。
【0042】
金属ナノワイヤ層12を基板10の一方の主面の全部または一部に形成するには、ウェットコートにより行い、例えば物理蒸着法や化学蒸着法等の真空蒸着法や、プラズマ発生技術を用いたイオンプレーティング法やスパッタリング法などのドライコートは使用しない。本実施形態におけるウェットコートとは、基板10上に液体(金属ナノワイヤインク)を塗布することによって成膜するプロセスを指す。本実施形態に用いるウェットコートは公知の方法であれば特に制限はなく、スプレーコート、バーコート、ロールコート、ダイコート、インクジェットコート、スクリーンコート、ディップコート、凸版印刷法、凹版印刷法、グラビア印刷法などを用いることができる。また、塗布する方法や材料の条件によっては、ウェットコートの後に基板10を加熱して塗布した材料や用いた溶媒を除去するプロセスや、分散媒など成膜した導電層中に含まれる不純物を洗浄によって洗い流すプロセスなどが含まれていても良い。
【0043】
上記ウェットコートは1回だけではなく複数回繰り返しても良い。塗布条件によっては1回で所望の膜厚に達しない可能性もあるからである。
【0044】
上記ウェットコートに使用する分散媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチルなどのエステル系化合物;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジオキサン等のエーテル系化合物;トルエン、キシレンなどの芳香族化合物;ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族化合物;塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルムなどのハロゲン系炭化水素;メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール(PGME)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、テルピネオール、グリセリン、ジグリセリン、ボルニルシクロヘキサノール、ボルニルフェノール、イソボルニルシクロヘキサノール、イソボルニルフェノールなどのアルコール化合物、水あるいはこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
【0045】
本実施形態に係る金属ナノワイヤインクは、上記分散媒に金属ナノワイヤを分散させて製造する。金属ナノワイヤインクは金属ナノワイヤと分散媒を含み、金属ナノワイヤインク中の金属ナノワイヤ含有率は0.01〜10質量%であることが好ましく、0.05〜5質量%であることがより好ましく、更に0.1〜3質量%であることが好ましい。金属ナノワイヤが0.01質量%未満であると、所望の導電性を確保するには、透明導電膜層を非常に厚く印刷する必要があり印刷の難易度が高くなる上に、乾燥時にパターンが維持し難くなる。また、10質量%を超えると所望の透明度を確保するには、非常に薄く印刷する必要があり、この系も印刷が難しくなる。
【0046】
塗布後における塗膜中に含まれている分散媒の除去は適宜な手法が用いられる。例えば、加熱炉や遠赤外炉などを用いての加熱(乾燥)によって分散媒を除去できる。真空乾燥などの手法を用いることもできる。
【0047】
金属ナノワイヤ層12は本発明の効果を損なわない範囲において金属ナノワイヤ以外の成分を加えた金属ナノワイヤインクにより形成することもできる。具体的には後述するバインダー樹脂や界面活性剤、顔料等が挙げられる。
【0048】
金属ナノワイヤとバインダーなど他の成分の配合比率は用途に応じて任意に変更することが可能であるが、金属ナノワイヤの配合比が少なすぎると導電性が低下する危険性があるので、金属ナノワイヤ層12全体に占める金属ナノワイヤの質量比は10質量%以上100質量%以下が好ましく、30質量%以上60質量%以下がより好ましい。ただし、バインダーの割合には基板10から溶解してきたものも含む。なお、ここでいう「金属ナノワイヤ層」とはウェットコートにより基板上に形成された層であり、金属ナノワイヤインクの分散媒は除去されたものを意味する。
【0049】
基板10の表面の全部または一部に金属ナノワイヤ層12を印刷する際には、印刷前に基板10の表面に基板と金属ナノワイヤとの密着性向上に寄与するアンダーコート層を形成し、このアンダーコート層上に上記ウェットコートにより金属ナノワイヤ層12を形成することができる。アンダーコート層としては、例えば金属ナノワイヤの一部が食い込めるような柔軟な樹脂か、ウェットコートに用いる溶媒(分散媒)に溶解または膨潤し、印刷中金属ナノワイヤの一部が食い込めるような樹脂を用いることができる。金属ナノワイヤの一部がアンダーコート層に食い込むことにより、基板10と金属ナノワイヤ層12との密着性を向上させることができる。
【0050】
ここで用いるアンダーコート樹脂とは、光学的に透明であること、溶剤乾燥後にタックフリー(非粘着性)に近くなること(少なくともスクリーン印刷やグラビアオフセット印刷ができること)、光照射によりAgナノワイヤ等の金属ナノワイヤとの密着性を確保できること等が挙げられる。本明細書において「光学的に透明」とは、全光線透過率が80%以上であり、ヘイズが10%以下であるものを意味する。
【0051】
アンダーコート層として光照射時に発生する熱を吸収して軟化する透明樹脂を用いれば、光照射によりAgナノワイヤ等の金属ナノワイヤとの密着性を確保することができる。そのため、上記樹脂はTg(ガラス転移温度)が200℃以下である非晶性の熱可塑性樹脂、またはTgが200℃以下であり、光焼成前には三次元架橋していない硬化性樹脂プレポリマーで光照射により三次元架橋構造となる硬化性樹脂であり、Tgは160℃以下であることがより好ましく、130℃以下であることがさらに好ましい。Tgが200℃以下であっても光照射前に既に三次元架橋している硬化性樹脂を用いた場合、光焼成時に軟化が十分起こらずAgナノワイヤ等の金属ナノワイヤとの密着性を十分確保することができない。一方、タックフリーのものであればTgの下限値は特にないが、−50℃以上であることが好ましく、0℃以上であることがより好ましい。光照射前は前記タックフリーに近い状態であり、かつTgが200℃以下の硬化性樹脂プレポリマーであり、光照射により硬化し、Tgが200℃以上になり耐溶剤性を向上するものであると更に好ましい。なお、上記プレポリマーとは、熱または光により三次元架橋構造となる硬化性樹脂前駆体(組成物)を意味し、例えばジアリルフタレート(DAP)プレポリマー、ウレタンアクリレートプレポリマー等が挙げられる。
【0052】
上記熱可塑性樹脂の具体例としては、環状ポリオレフィン樹脂(シクロオレフィンコポリマー(COC)、シクロオレフィンポリマー(COP))、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂(フェノキシタイプ)、ポリビニルブチラール樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0053】
パルス光またはレーザ光の照射前及び非照射部の照射工程後の絶縁性を確保する目的でバインダー樹脂を含んだ金属ナノワイヤインクを使用して金属ナノワイヤ層12を形成することが望ましい。バインダー樹脂としては、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリ−N−ビニルカプロラクタム、ポリ−N−ビニルアセトアミドのようなポリ−N−ビニル化合物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリTHFのようなポリアルキレングリコール化合物、ポリウレタン、セルロース化合物およびその誘導体、フェノキシタイプのエポキシ化合物、三菱ガス化学株式会社製ユピゼータ(登録商標)等のポリカーボネート化合物、ポリエステル化合物、塩素化ポリオレフィン、ゼオノア(日本ゼオン(株)製)、アペル(三井化学(株)製)のようなシクロオレフィンポリマー、コポリマー、ポリメチルメタクリレートのようなポリアクリル化合物等の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0054】
バインダー樹脂を使用する代わりに、基板10を溶解または膨潤する溶媒を分散媒とし、これに金属ナノワイヤを分散させた金属ナノワイヤインクを使用し、印刷中に基板10の表面を溶解しながら金属ナノワイヤ層12を形成してもよい。この場合には、金属ナノワイヤの一部が溶解した基板10の内部に食い込むことができる。
【0055】
具体的には、基板10がゼオノアのようなシクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマーの場合には、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素、シクロヘキサンのような脂環式炭化水素、テルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノールのようなテルペンアルコール類を分散媒として使用する。また、基板10がポリカーボネートの場合は、ジクロロメタン、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素を分散媒として金属ナノワイヤインクに配合する。
【0056】
なお、バインダー樹脂を含んだ金属ナノワイヤインクを基板10の表面に印刷する場合には、上記アンダーコート層を基板10の表面に形成しなくてもよいし、形成してもよい。
【0057】
なお、以上に述べた金属ナノワイヤ層12は、
図1(a)〜(c)、
図3(a)〜(c)に示されるように、金属ナノワイヤ樹脂層になっていなくても、金属ナノワイヤの周りを樹脂がコートしている程度でも良い。ただし、あまりにコート樹脂の量が少ないと金属ナノワイヤ層12に圧力がかかった程度で、本来絶縁にしたい部分に導電性が発現するので好ましくない。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0059】
<実施例1>
<バインダーを含まないインクの調製方法>
銀ナノワイヤ分散液としてSLV−NW−35(bluenano社製 イソプロパノール分散液、銀ナノワイヤの径35nm、長さ約15μm(カタログ値))を用い、この銀ナノワイヤ分散液にテルピネオール(日本テルペン化学(株)製)を少量加え、良く分散させた後、イソプロパノールを留去し溶媒置換を行った。その後テルソルブ MTPH(日本テルペン化学(株)製、イソボルニルシクロヘキサノール)およびテルピネオールを最終的に分散媒の濃度がテルピネオール/テルソルブ MTPH=1/8(質量比)となるように加え、(株)シンキー社製のARV−310を用いてよく分散させた分散液を得た。なお、最終的に得られる分散液の銀ナノワイヤ濃度が1質量%になるよう、最初に加える少量のテルピネオールの量は予め計算して決定しておいた。
【0060】
上記インクを用いてスクリーン印刷機MT−320TVZ(マイクロテック(株)製)により、ゼオノアシートZF14−100(厚み:100μm、日本ゼオン(株)製)に11cm角の金属ナノワイヤ層12を印刷し、60℃−30分、80℃−30分、100℃−30分の条件で計90分乾燥した。印刷乾燥後の基板(ゼオノアシート)の表面のSEM写真を
図4に示す。写真より、銀ナノワイヤの一部が、テルピネオール及びテルソルブ MTPHにより表面が溶解または膨潤した基板内部に埋め込まれている様子が確認できた。
【0061】
光照射前の導電性領域内の表面抵抗の測定には、低抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製 ロレスターGP)の4端子リニアプローブ(電極間隔1.5mm)を用いた四探針法を用いた。結果を表1に示す。
【0062】
次に、
図5に示されるパターンで透光部14aが形成されたマスク14を用意し、11cm角の上記膜に合わせ、NovaCentrix社製PulseForge3300により照射電圧600V、照射時間80μsecのパルス光(照射エネルギー2.0J/cm
2)を照射した。なお、マスク14は、
図5の左端から2cm幅の透光部14aと0.5cm幅の非透光部とが交互に形成されたパターンである。なお、
図5の右端の透光部14aは0.5cmの幅である。
【0063】
光照射後、DIJITAL MULTIMETER PC500a(三和電気計測((株))製)により、マスクの透光部に対応する金属ナノワイヤ層(導電性領域)の両端に測定端子を当てて膜の抵抗(導電性領域内抵抗)を測定した。4か所の2cm幅ラインとも50Ωであった。またマスクの非透光部に対応する金属ナノワイヤ層12(非導電性領域)の両側に隣接する二つの導電性領域にそれぞれ測定端子を当てて抵抗(導電性領域間抵抗)を測定したが、抵抗値は測定範囲外で、絶縁が保持されていることを確認した。続いて、得られた焼成パターンの2つの導電性領域をそれぞれワニ口クリップで挟み、これを、電源としてKEITHLEY 2400 SourceMeter(KEITHLEY社製)、電流計として、KEITHLEY 2110 5 1/2 DIGIT MULTIMETER(KEITHLEY社製)を使用して直列に接続したのち、1時間連続して電圧印加を行っても絶縁が維持される(電流値が10μA以下を保持する)最大電圧(1時間耐電圧)を測定した。評価結果を表1に示す。
【0064】
また、光照射後の金属ナノワイヤ層12を目視観察した結果、肉眼では導電性領域と非導電性領域の違いは見られなかった。
【0065】
<実施例2>
実施例1で製造したインク中に銀ナノワイヤ99.5質量部に対して0.5質量部となるようにポリ−N−ビニルピロリドン(以下PNVP、(株)日本触媒製 K−90、分子量36万)を添加したインクを調製し、スクリーン印刷機MT−320TVZ(マイクロテック(株)製)により、ルミラー(登録商標)U98(東レ(株)製二軸延伸ポリエステルフィルム、厚み125μm)に11cm角の金属ナノワイヤ層12を印刷した。乾燥後の膜厚は0.15μmであった。
【0066】
次に、
図5に示されるパターンで透光部14aが形成されたマスク14を用意し、11cm角の上記金属ナノワイヤ層12に合わせ、NovaCentrix社製PulseForge3300により照射電圧600V、照射時間50μsecのパルス光(照射エネルギー1.0J/cm
2)を照射した。なお、マスク14は、
図5の左から2cm幅の透光部14aと0.5cm幅の非透光部とが交互に形成されたパターンである。なお、
図5の右端の透光部14aは0.5cmの幅である。
【0067】
光照射前の導電性領域内の表面抵抗の測定は、実施例1と同様に、低抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製 ロレスターGP)の4端子リニアプローブ(電極間隔1.5mm)を用いた四探針法を用いた。結果を表1に示す。
【0068】
光照射後、実施例1と同様に、DIJITAL MULTIMETER PC500a(三和電気計測((株))製)によりマスクの透光部に対応する金属ナノワイヤ層(導電性領域)の両端に測定端子を当てて膜の抵抗(導電性領域内抵抗)を測定したところ、4か所の2cm幅ラインとも50Ωであった。また実施例1と同様にマスクの非透光部に対応する金属ナノワイヤ層12(非導電性領域)の両側に隣接する二つの導電性領域間にそれぞれ測定端子を当てて抵抗(導電性領域間抵抗)を測定し、絶縁が保持されていることを確認した。続いて実施例1と同様に1時間耐電圧を測定した。評価結果を表1に示す。
【0069】
また、光照射後の金属ナノワイヤ層12を目視観察した結果、肉眼では照射部(導電性領域)と非照射部(非導電性領域)の違いはみられなかった。
【0070】
【表1】
【0071】
<実施例3>
<バインダー樹脂を含有するインクの調製及び特性評価>
バインダー樹脂として、ポリ−N−ビニルピロリドン(以下PNVP、(株)日本触媒製 K−90、分子量36万)1gをテルピネオール9gに溶解してPNVPの10質量%テルピネオール溶液を作製したのち、このPNVPのテルピネオール溶液400mgに、実施例1同様溶媒置換して量比を変えて調製した銀ナノワイヤの2質量%テルピネオール分散液250mg、テルピネオール350mg、メチルイソブチルケトン(以下MIBK、東京化成工業(株)製)1gを加え、短時間作業用新型ボルテックスミキサーVORTEX3(IKA社製)で1分間室温25℃にて振動撹拌することにより、インクを調製した。
【0072】
上記の方法で作製したインクは、100μm厚のPETフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、KFL10W、または東レ(株)製 タフトップSHB100)を基板として、10μm厚用スパイラルアプリケーター(TQC(株)製)を使用して塗布したのち、恒温器HS350(エタック(株)製)で、空気下100℃1時間加熱して乾燥し、金属(銀)ナノワイヤ層を形成した。乾燥後の膜厚は300nmであった。
【0073】
得られた金属(銀)ナノワイヤ層が形成されたPETフィルムの上に、1mm幅の遮光ラインで隔てられた2つの25mm角開口部を有するマスク(ステンレス製、厚み300μm、
図6a参照)を設置し、PulseForge3300(NovaCentrix社製)を使用し、照射電圧600V、照射時間50μsecのパルス光(照射エネルギー1.0J/cm
2)を1パルス照射して導電パターンを得た。
【0074】
電気特性については、光照射前の導電領域内表面抵抗の測定には高抵抗率計(Hiresta−UP MCP−HT450、MITSUBISHI CHEMICAL CORPORATION製)(測定プローブ(UR100))を用い、光照射後の導電性領域内表面抵抗の測定には、低抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製 ロレスターGP)の4端子リニアプローブ(電極間隔1.5mm)を用いた四探針法により測定した。光照射前の導電性領域内表面抵抗は測定限界を超えていたのに対して、光照射後の導電性領域内表面抵抗は100〜150Ω/□であった。また、導電性領域間抵抗は、DIJITAL MULTIMETER PC500a(三和電気計器(株)製)を用いて測定した。導電性領域間抵抗値は測定上限を超えており、絶縁が維持されていた。
【0075】
更に実施例1と同様に1時間耐電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0076】
<実施例4>
<バインダー樹脂を含有するインクの調製及び特性評価>
光焼成に用いるマスクの遮光ラインが0.5mm(
図6b)のものを用いた以外は、実施例3と同様の方法でバインダー樹脂を含有するインクの調製及び特性評価を実施した。評価結果を表2に示す。
【0077】
<実施例5>
<バインダー樹脂を含有するインクの調製及び特性評価>
バインダー樹脂として、ポリ−N−ビニルアセトアミド(以下PNVA、昭和電工(株)製 GE191−104P、分子量30万)1gを1−メトキシ−2−プロパノール(以下PGME、東京化成工業(株)製)9gに溶解してPNVAの10質量%PGME溶液を作製したのち、このPNVAのPGME溶液400mgに、実施例1同様溶媒置換して分散媒を変えて調製した銀ナノワイヤの1質量%PGME分散液500mg、PGME300mg、MIBK800mgを加え、VORTEX3(IKA社製)で1分間振動撹拌することにより、インクを調製した。
【0078】
得られたインクを用い、照射時間を100μsec(照射エネルギー2.7J/cm
2)に変更した以外は実施例3記載と同等の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0079】
<実施例6>
<バインダー樹脂を含有するインクの調製及び特性評価>
光焼成に用いるマスクの遮光ラインが0.5mm(
図6b)のものを用いた以外は、実施例5と同様の方法でバインダー樹脂を含有するインクの調製及び特性評価を実施した。評価結果を表2に示す。
【0080】
<実施例7>
<バインダー樹脂を含有するインクの調製及び特性評価>
バインダー樹脂としてポリ(メチルメタクリレート)(以下PMMA、三菱レイヨン(株)製 VH−001)1gをMIBK9gに溶解してPMMAの10質量%MIBK溶液を作製したのち、このPMMAのMIBK溶液800mgに、銀ナノワイヤの2質量%テルピネオール分散液250mg、テルピネオール750mg、MIBK200mgを加え、VORTEX3(IKA社製)で1分間振動撹拌することにより、インクを調製した。
【0081】
得られたインクを用い、照射時間を60μsec(照射エネルギー1.3J/cm
2)に、基板を100μm厚のPETフィルム(東レ(株)製 タフトップSHB100)に変更した以外は実施例3記載と同等の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0082】
<実施例8>
<アンダーコートを使用した実施例>
アンダーコート樹脂として、フェノキシタイプのエポキシ樹脂(jER1256、三菱化学(株)製)の20質量%溶液(溶媒ブチルカルビトールアセテート)を調製し、基板であるルミラー(登録商標)T60(東レ(株)製ポリエステルフィルム、厚み125μm)表面に塗布後、80℃で60分間乾燥して、アンダーコート層(膜厚約2μm)を形成したポリエステルフィルムを用いた以外は、実施例3と同等の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示すように、PNVP、PNVAまたはPMMAを用いた系において、いずれも光照射部(露光部)の表面抵抗が十分低下するとともに、光照射部−未照射部間の絶縁(1時間耐電圧)が維持されていることが確認できた。