(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366578
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ラッカー被膜に埋め込まれたPVD被膜
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20180723BHJP
C08J 7/06 20060101ALI20180723BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20180723BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
B32B9/00 A
C08J7/06 ZCER
C08J7/06CEZ
C23C14/14 B
C23C14/14 D
C23C14/14 G
C23C14/58 Z
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-514381(P2015-514381)
(86)(22)【出願日】2013年5月30日
(65)【公表番号】特表2015-525146(P2015-525146A)
(43)【公表日】2015年9月3日
(86)【国際出願番号】EP2013001595
(87)【国際公開番号】WO2013178363
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2016年5月11日
(31)【優先権主張番号】61/653,058
(32)【優先日】2012年5月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケッケス,アンタル
(72)【発明者】
【氏名】ヘルマン,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】シューラー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー,リュディガー
(72)【発明者】
【氏名】バウアー,サッシャ
【審査官】
清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−328112(JP,A)
【文献】
実開昭61−000932(JP,U)
【文献】
特開2005−338625(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0172843(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第01484428(EP,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0052321(US,A1)
【文献】
実開昭58−035982(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3143605(JP,U)
【文献】
特開2002−093228(JP,A)
【文献】
特開平02−280744(JP,A)
【文献】
特開2006−327177(JP,A)
【文献】
特開2005−005665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08J 7/04−7/06
C23C 14/00−14/58
C25D 11/02−11/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層系を備えたプラスチック構成部品であって、前記層系は、プラスチック表面上に塗布されたベースラッカー被膜と、前記ベースラッカー被膜上に設けられた、2層からなるPVD被膜と、前記PVD被膜を被覆するトップラッカー被膜とを含み、前記2層からなるPVD被膜のうち、一つのPVD被膜はTiからなる被膜であり、他方のPVD被膜はAlからなる被膜である、プラスチック構成部品。
【請求項2】
前記プラスチック構成部品は、PPおよび/またはABSからなることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック構成部品。
【請求項3】
前記構成部品の前記被覆された表面は、視覚的にメタリックに見えることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のプラスチック構成部品。
【請求項4】
前記プラスチック構成部品は、透明または半透明であり、PCおよび/またはPMMAからなることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック構成部品。
【請求項5】
前記構成部品は、半透明の物体として、周囲照明用に用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラスチック構成部品。
【請求項6】
前記PVD被膜により、彩色表面が得られることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック構成部品。
【請求項7】
請求項6に記載のプラスチック構成部品の製造方法であって、前記PVD被膜は、金属被膜であり、TiまたはAlからなる被膜であり、かつ、前記トップラッカー被膜の塗布の前に、前記PVD被膜に対して陽極酸化処理を行い、彩色被膜を得る工程を含む、プラスチック構成部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基板上に塗布される層系に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
この層系は、気相からの析出により得られた被膜(PVD被膜)を有し、この被膜が、2つのラッカー被膜(例えば、下にあるベースコートと上にあるトップコートと)の間に埋め込まれている。この種の層系を、以下では塗装系と称する。本発明によれば、気相から析出されたこの被膜は、複数すなわち少なくとも2つの層を含み、好ましくは交互層系である。好ましくはこれらの層のうちの少なくとも2つは、異なる組成を有する。この際に、好ましくは、これは複数の層を含むPVD被膜である(PVDは、英語の概念「物理的気相成長法(physical vapor deposition)」の略語であり、ドイツ語では、「物理的気相析出法(physikalische Gasphasenabscheidung)」または「気相からの物理的析出(physikalische Abscheidung aus der Gasphase)」と翻訳される)。
【発明の効果】
【0003】
本発明による塗装系は、様々な問題への解決方法として使用されうる。この種の層系は、装飾用被覆に関連してのみ興味深いのではなく、プラスチック部品への応用において多くの可能性が開かれる。
【発明を実施するための形態】
【0004】
これらの応用の可能性のいくつかを、以下に、短く例示的に概略的に説明する。
【実施例1】
【0005】
実施例1:
関連分野:歩道の保護−衝突保護
視覚的にはメタリックであるが、同時に柔軟性があり、壊れにくく、構成部品に合わせることができる形状の平坦な基板を用いることが望ましい。
【0006】
従来技術によれば、この目的は、薄膜技術または電気めっきを用いて達成されるが、しかし、薄膜技術は非常に高価で、電気めっきは、鋭い縁部が作られるという欠点を伴う。
【0007】
本発明によれば、この問題は、柔軟性を有する割安なプラスチック基板またはプラスチック構成部品(これは、例えばPPおよび/またはABSからなる)上に、塗装系が塗布されることにより解決される。これにより、プラスチック基板ないしプラスチック構成部品は、柔軟性を有し続け、壊れにくくあり続けるが、視覚的にメタリックになる。上述のPVDおよびラッカー技術を用いて、この塗装系は、様々な形状およびサイズを有する基板ないし構成部品上に容易に塗布することができる。
【実施例2】
【0008】
実施例2:
関連分野:
周囲照明用の半透明の/トランスルックス(Translux)、背景照明なしにメタリック光沢があり、高度の光沢があり、シルクの光沢がある
従来の技術:
薄膜技術、銀のラッカー
本発明による問題解決:
例えばPC、PMMAからなる透明な基板上への塗装系
【実施例3】
【0009】
実施例3
関連分野:
背景照明される記号を付けた構成部品
従来の技術:
ラッカー、薄膜技術および電気めっき(BIA特許)
本発明による問題解決:
例えばPC、PMMAの半透明/透明な基板上にレーザ加工、PVD被膜による塗装系
【実施例4】
【0010】
実施例4
関連分野:
重量節約および資源保護(CuおよびNiを用いない)
従来の技術:
電気めっき
本発明による問題解決:
電気めっき被膜に比して約90%の重量節約を行う塗装系
【実施例5】
【0011】
実施例5
関連分野:
UVラッカーのトップコート適合性
従来の技術:
フッ素化、反応性プラズマ、大気プラズマ
本発明による問題解決:
マグネトロンスパッタリングおよび反応性プラズマによるUV表面の活性化
【実施例6】
【0012】
実施例6
関連分野:
PVDで強調した構造化表面(直接金属化)
KS構造を工具中に入れることができ、または、エッチングプロセス、レーザ加工を介して、クリーニングしやすいプロセス用の構造、または、視覚的な効果のための構造を作ることができる。
【0013】
従来の技術:
厚い被膜が構造を覆う
本発明による問題解決:
被覆ラッカーを用いたPVDによる直接金属化(光沢、シルクの光沢)
【実施例7】
【0014】
実施例7:
関連分野:
プラスチック表面上に彩色被膜を製造
従来の技術:
PVD技術を用いてプラスチック表面上に透明な被膜を生成することにより、例えばカソードスパッタ技術(例えば、マグネトロンスパッタリング)の使用により、干渉色を作る。この種の被膜の被膜厚は、通常、ある種の色を反射するために、精確な厚さでなければならない。したがって、この技術を使用して、均質な色を平坦ではない表面上に設けることは非常に困難である。
【0015】
本発明による問題解決:
彩色被膜は、予めPVD技術で析出されたTi/Al被膜の陽極酸化により得られる。好ましくは、本発明によれば、まずベースコートとして少なくとも1つのラッカー被膜を基板表面上に塗布し、その後、少なくとも2つの層からなるPVD被膜(これは、例えばチタン
またはアルミニウムからなる)を析出し、続いて、上述のように被覆された表面に対して陽極酸化処理を行い、また最後に少なくとももう1つのラッカー被膜をトップコートとして塗布する。
【実施例8】
【0016】
実施例8:
関連分野:
低応力PVD被膜の析出
従来の技術:
しばしば、PVDで析出された被膜は高い固有応力を有し、これが被膜内で破壊やひび割れを引き起こしうる。
【0017】
本発明による問題解決:
PVD被膜内の固有応力を低減させる特殊なプロセスの遂行。これは、例えば、まず始めに第1ラッカー被膜(ベースコート)を塗布することにより達成されうるが、この塗布は、ラッカー被膜特性(例えば硬度および/またはEモジュールおよび/または厚さ)が、後の段階でPVD被膜を析出する際に上述の固有応力の発生に影響を与え、これによりPVD被膜内の固有応力がより小さくなるようになされる。
【実施例9】
【0018】
実施例9:
関連分野:
メタリックな外観を備えた黒いプラスチック表面の生成
従来の技術:
表面を黒く金属化することは、この表面にある種の導電性を発生させることになり、これは、応用によっては望ましくないまたは許容されない。
【0019】
本発明による問題解決:
すでに黒いプラスチック表面ないし黒いプラスチック構成部品の表面を、透明な金属酸化物被膜で被覆し、これにより、視覚的な効果でメタリックな外観が生じる。透明である非導電性の金属酸化物被膜は、被膜厚と黒い背景とを正しく組み合わせることにより、メタリックな外観を達成することができる。好ましくは黒いプラスチック基板上に、まずベースコートを塗布し、続いて少なくとも2つの層のPVD被膜を、1つまたは複数の透明で電気的には非導電性の金属酸化物から析出させ、続いて、トップコートを塗布することができる。
【実施例10】
【0020】
実施例10:
関連分野:
導電体としてまたはコンデンサとして機能できるプラスチック構成部品の表面の生成
従来技術における問題:
柔軟性およびサイズ
本発明による問題解決:
導電体:例えば金属からなり、導電性を有するPVD被膜の析出により、導電性を有する被覆部の塗布を行う。しかし、導電性を有するPVD被膜が剥げ落ちる場合には、導電性が妨げられるために問題が生じる。
【0021】
コンデンサの製造に用いられうるさらなる変形例は、複数層の層系であり、…PVD被膜/ラッカー/PVD被膜/ラッカー/PVD被膜/ラッカー…である。好ましくは、例えば本発明による塗装系の概念では、容量特性を達成するために:ベースコート+複数層(少なくとも2つの層の)PVD被膜+トップコートを、プラスチック基板の直接上に析出する。
【実施例11】
【0022】
実施例11:
関連分野:
自然の中での標示
従来技術における問題:
自然における有害物質
本発明による問題解決:
本発明によるラッカー+PVDの組み合わせ。PVDは、大きな環境汚染を引き起こさない。
【実施例12】
【0023】
実施例12:
関連分野:
鏡、高反射
従来技術における問題:
重量、柔軟性
本発明による問題解決:
本発明の塗装系を塗布することにより、鏡特性ないし高反射特性が得られる。
【実施例13】
【0024】
実施例13:
関連分野:
トリムシステム
従来技術における問題:
L字型のトリム用の工具コストは高い、扱いが難しい
本発明による問題解決:
直線状のトリム(これは、後の行程で変形される)の被覆(本発明の塗装系の塗布)。尾部中のエンブレムについても可能である。
【0025】
ベースコート上に直接トップコートをラッカーすることは可能ではないが、本発明の塗装系の概念、すなわち、ベースコート+複数層(少なくとも2つの層の)PVD被膜+トップコートにより、明らかにより良い光沢仕上げが可能となる。