特許第6366645号(P6366645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6366645-ベアリングの潤滑構造 図000002
  • 特許6366645-ベアリングの潤滑構造 図000003
  • 特許6366645-ベアリングの潤滑構造 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366645
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ベアリングの潤滑構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20180723BHJP
【FI】
   F16H57/04 J
   F16H57/04 K
   F16H57/04 Q
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-129285(P2016-129285)
(22)【出願日】2016年6月29日
(65)【公開番号】特開2018-3922(P2018-3922A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2018年3月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 恭太
(72)【発明者】
【氏名】檀上 弥輝
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/186524(WO,A1)
【文献】 特開2014−062617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転要素、第2回転要素ならびに前記第1回転要素および前記第2回転要素を収容するケースを備える変速機において、前記第1回転要素と前記ケースとの間に介在されるベアリングを潤滑するための構造であって、
前記第2回転要素は、前記第1回転要素に対して回転軸線方向に隙間を空けて配置され、
前記ベアリングに対して回転径方向の内側に形成される油路を流通するオイルが前記隙間に供給されるように、前記油路と前記隙間とが連通し、
前記第2回転要素は、前記第1回転要素と回転軸線方向に対向して前記回転径方向に延びるを有し、
前記面、前記ベアリングに向けて突出する凸部が形成されている、ベアリングの潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベアリングの潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機が搭載された車両では、エンジンからの駆動力がトルクコンバータを介して自動変速機に入力され、自動変速機で変速された駆動力が駆動輪に伝達される。自動変速機には、たとえば、無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)や有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)などが広く用いられる。
【0003】
自動変速機では、回転要素を制動するためのブレーキや回転要素と別の回転要素とを連結するためのクラッチなどが多く使用されている。ブレーキやクラッチには、その作動のためのオイルを供給する必要がある。ベルト式の無段変速機では、ベルトが巻き掛けられる各プーリの可動シーブを移動させるため、各プーリにもオイルを供給する必要がある。また、自動変速機を収容するケースと回転要素との間に介在されるベアリングは、ケースと回転要素との間の差回転を吸収しなければならず、その差回転の吸収による焼き付きなどを防止するために、潤滑のためのオイルの供給を必要とする。そのため、自動変速機では、オイルポンプで発生した油圧がバルブボディで調圧されて、その調圧された油圧がバルブボディから油路を通してオイルの供給を必要とする各部に供給される。
【0004】
図3は、従来のベルト式の無段変速機201の出力側の構成を示す断面図である。図3では、断面を表すハッチングの付与が省略されている。
【0005】
無段変速機201のセカンダリプーリ202は、固定シーブ203、可動シーブ204およびシリンダ205を備えている。
【0006】
固定シーブ203は、セカンダリ軸206と一体に形成されている。可動シーブ204は、固定シーブ203に対してベルト207を挟んだ一方側(エンジン側)に配置され、回転軸線方向に移動可能に設けられている。
【0007】
シリンダ205は、可動シーブ204に対してエンジン側の位置で、セカンダリ軸206に外嵌されている。シリンダ205には、回転径方向に延びる略円環板状の内周部211と、内周部211から固定シーブ203側(エンジン側と反対側)に延びる略円筒状の第1中間部212と、第1中間部212から回転径方向の外側に延びる略円環板状の第2中間部213と、第2中間部213から固定シーブ203側に膨らみつつ回転径方向の外側に延びる外周部214とがこの順に連続して形成されている。
【0008】
セカンダリ軸206の外周面において、シリンダ205の内周部211が外嵌されている部分のエンジン側には、ロックナット221が螺着されている。このロックナット221の締め付けにより、シリンダ205がセカンダリ軸206に固定されている。
【0009】
セカンダリ軸206のエンジン側には、アウトプット軸231がセカンダリ軸206と同一の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
【0010】
セカンダリプーリ202のエンジン側には、セカンダリ軸206からアウトプット軸231に動力を伝達するための遊星歯車機構232が設けられている。サンギヤ233は、セカンダリ軸206にスプライン嵌合している。キャリア264は、ブレーキハブ234と一体回転可能に設けられている。具体的には、ブレーキハブ234は、ベアリング235の外輪に固定される固定部261と、固定部261から回転径方向の外側に延びる略円環板状の基端部262と、基端部262から固定シーブ203側に延びる略円筒状の延部263とを含み、ベアリング235を介して、アウトプット軸231に相対回転可能に支持されている。キャリア264は、延部263の固定シーブ203側の端部にスプライン嵌合し、その端部から回転径方向の内側に延びる略円環板状をなしている。キャリア264には、複数のピニオンギヤ236が回転可能に保持されている。各ピニオンギヤ236は、サンギヤ233と噛合している。リングギヤ237は、複数のピニオンギヤ236を一括して取り囲み、各ピニオンギヤ236と噛合している。
【0011】
サンギヤ233とリングギヤ237とを直結/分離するため、クラッチ241が設けられている。クラッチ241では、アウトプット軸231に固定されたクラッチドラム242とサンギヤ233に相対回転不能に支持されたクラッチハブ243との間に、複数のクラッチプレート244およびクラッチディスク245が交互に配置されている。リングギヤ237は、クラッチドラム242に相対回転不能に保持されている。各クラッチプレート244は、クラッチドラム242に支持され、各クラッチディスク245は、クラッチハブ243に支持されている。クラッチドラム242の内側には、クラッチピストン246が軸線方向に移動自在に配置され、クラッチドラム242とクラッチピストン246との間には、ピストン室247が形成されている。また、クラッチピストン246を挟んでピストン室247と反対側には、キャンセラ248が配置されており、クラッチピストン246とキャンセラ248との間には、キャンセラ室249が形成されている。また、クラッチピストン246とキャンセラ248との間には、それらを互いに離間する方向に付勢するリターンスプリング250が介裝されている。
【0012】
アウトプット軸231の内部には、キャンセラ油路251が形成されている。キャンセラ油路251は、アウトプット軸231のエンジン側の端面で開放されており、その端面とケース252との間の空間253と連通している。アウトプット軸231には、キャンセラ室249とキャンセラ油路251とを連通させる連通路254が形成されている。
【0013】
キャンセラ油路251には、アウトプット軸231のエンジン側の端面とケース252との間の空間253からオイルが供給される。キャンセラ油路251に供給されるオイルは、キャンセラ油路251から連通路254を通してキャンセラ室249に流入する。キャンセラ248の内周端部には、オイル排出孔255が貫通して形成されており、オイルは、キャンセラ室249からオイル排出孔255を通して排出される。
【0014】
ピストン室247にオイルが供給されて、ピストン室247内の油圧が高まると、クラッチピストン246が固定シーブ203側に移動し、クラッチピストン246がクラッチプレート244を押圧する。この押圧により、クラッチプレート244とクラッチディスク245とが圧接し、サンギヤ233とリングギヤ237とが一体となって回転する直結状態となる。
【0015】
サンギヤ233とリングギヤ237とが一体となって回転している状態では、キャンセラ室249内のオイルに遠心力が作用し、キャンセラ室249に遠心油圧が発生する。この遠心油圧により、ピストン室247内に発生する遠心油圧をキャンセル(相殺)することができる。そのため、ピストン室247へのオイル(油圧)の供給が停止されると、リターンスプリング250の付勢力により、クラッチピストン246がエンジン側にスムーズに移動する。このクラッチピストン246の移動により、クラッチプレート244とクラッチディスク245との圧接が解除され、サンギヤ233とリングギヤ237とが分離される。
【0016】
また、サンギヤ233とリングギヤ237とが分離して回転している状態においても、キャンセラ室249内のオイルに遠心力が作用し、キャンセラ室249に遠心油圧が発生する。この遠心油圧により、ピストン室247内に発生する遠心油圧でクラッチピストン246がクラッチプレート244側に移動することを防止でき、クラッチ241が係合することを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2015−145682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
キャンセラ室249からオイル排出孔255を通して排出されるオイルの一部は、セカンダリ軸206とサンギヤ233との間を流れ、ロックナット221とサンギヤ233との間をさらに流れて、シリンダ205の内周部211とキャリア264との間に到達する。
【0019】
ケース252には、シリンダ205の第1中間部212に対して回転径方向の外側から平行をなして対向する対向部271が形成されている。この対向部271と第1中間部212との間には、シリンダ205を介してセカンダリ軸206のエンジン側の端部を回転可能に保持するベアリング272が介在されている。シリンダ205の内周部211、対向部271およびベアリング272のエンジン側の各面は、ほぼ面一をなし、略円環板状のキャリア264の固定シーブ203側の面と平行に延びる平面を形成している。
【0020】
そのため、シリンダ205の内周部211とキャリア264との間を流れるオイルの一部は、ベアリング272の内輪と外輪との間に潤滑オイル(潤滑油)として供給されるが、その大半は、キャリア264の固定シーブ203側の面またはその面と対向する平面に沿って流れる。その結果、ベアリング272へのオイルの供給が不足し、ベアリング272に潤滑不良による焼き付きが発生するおそれがある。
【0021】
本発明の目的は、ケースと第1回転要素との間に介在されるベアリングにオイルを良好に供給できる、ベアリングの潤滑構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記の目的を達成するため、本発明に係るベアリングの潤滑構造は、第1回転要素、第2回転要素ならびに第1回転要素および第2回転要素を収容するケースを備える変速機において、第1回転要素とケースとの間に介在されるベアリングを潤滑するための構造であって、この構造では、第2回転要素は、第1回転要素に対して回転軸線方向に隙間を空けて配置され、油路を流通するオイル(潤滑油)が隙間に供給されるように、油路と隙間とが連通し、第2回転要素における第1回転要素と回転軸線方向に対向する面に、ベアリングに向けて突出する凸部が形成されている。
【0023】
この構造によれば、第1回転要素と第2回転要素とは、互いに回転軸線方向に隙間を空けて配置されている。第1回転要素と第2回転要素との隙間が油路と連通することにより、油路を流通するオイルがその隙間に供給される。第2回転要素における第1回転要素と回転軸線方向に対向する面には、凸部が形成されている。凸部は、第1回転要素とケースとの間に介在されるベアリングに向けて突出している。そのため、第1回転要素と第2回転要素との隙間に供給されるオイルは、凸部に沿って流れることにより、その流れの方向がベアリングに向く方向に変わる。これにより、オイルをベアリングに導くことができ、ベアリングにオイルを良好に供給することができる。よって、ベアリングへのオイルの供給が不足することを抑制でき、ひいては、ベアリングに潤滑不良による焼き付きが発生することを抑制できる。
【0024】
また、従来の構成と比較して、ベアリングに供給されるオイルの量が増加するので、その増加分、第2回転要素とケースとの間を流れるオイルの量が減少する。そのため、第2回転要素とケースとの間に対して回転径方向の外側にクラッチ(ブレーキ)が配設されている場合に、そのクラッチに供給されるオイルの量が減少する。その結果、クラッチによる引き摺り損失を低減することができ、このベアリング構造が適用される車両の燃費を向上させることができる。
【0025】
さらに、凸部の近傍におけるオイルの滞留による効果も期待できる。すなわち、凸部の近傍でオイルの流れの方向が変化するので、第2回転要素の低速回転時には、その凸部の近傍にオイルが滞留する部分が生じる。第2回転要素の高速回転時には、凸部の近傍に滞留したオイルは、遠心力を受けて、凸部に沿ってベアリングに向けて流れる。その結果、第2回転要素の高速回転時にも、ベアリングへのオイルの供給が不足することを抑制でき、ひいては、ベアリングに潤滑不良による焼き付きが発生することを一層抑制できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ケースと第1回転要素との間に介在されるベアリングにオイルを良好に供給することができる。よって、ベアリングへのオイルの供給が不足することを抑制でき、ひいては、ベアリングに潤滑不良による焼き付きが発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係るベアリングの潤滑構造が適用された無段変速機の出力側の構成を示す断面図である。
図2】セカンダリプーリと遊星歯車機構との間の部分を示す断面図である。
図3】従来のベルト式の無段変速機の出力側の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0029】
<無段変速機>
図1は、本発明の一実施形態に係るベアリングの潤滑構造が適用された無段変速機1の出力側の構成を示す断面図である。図1では、断面を表すハッチングの付与が省略されている。
【0030】
ベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)1は、車両のトランスミッションの一例であり、入力側のプライマリプーリ(図示せず)と出力側のセカンダリプーリ11との間に無端状のベルト12が巻き掛けられた構成を有している。
【0031】
<セカンダリプーリ>
セカンダリプーリ11は、固定シーブ13、可動シーブ14およびシリンダ15を備えている。
【0032】
固定シーブ13は、セカンダリ軸16と一体に形成され、セカンダリ軸16から回転径方向に鍔状に張り出している。
【0033】
可動シーブ14は、固定シーブ13に対してベルト12を挟んだ一方側(図1における右側。以下、「右側」という。)に配置されている。可動シーブ14は、セカンダリ軸16に回転軸線方向に移動可能に外嵌された略円筒状の外嵌部21と、外嵌部21の固定シーブ13側(図1における左側。以下、「左側」という。)の端部から回転径方向に鍔状に張り出すシーブ本体部22と、シーブ本体部22の外周端部からエンジン側に延びる略円筒状の外周部23とを一体的に備えている。ベルト12は、固定シーブ13と可動シーブ14のシーブ本体部22との間に挟持される。
【0034】
シリンダ15は、可動シーブ14に対して右側の位置で、セカンダリ軸16に外嵌されている。シリンダ15には、回転径方向に延びる略円環板状の内端部24と、内端部24から左側に延びる略円筒状の第1中間部25と、第1中間部25から回転径方向の外側に延びる略円環板状の第2中間部26と、第2中間部26から左側に膨らみつつ回転径方向の外側に延びる外端部27とがこの順に連続して形成されている。
【0035】
セカンダリ軸16おけるシリンダ15が外嵌される部分は、可動シーブ14の外嵌部21が外嵌されている部分よりも小径に形成されている。これにより、セカンダリ軸16の外周面には、可動シーブ14の外嵌部21が外嵌されている部分とシリンダ15が外嵌されている部分との間で段差が生じている。
【0036】
その段差によって形成される面31とシリンダ15の内端部24との間には、可動シーブ14の移動を規制するための円環板状のストッパ32が介在されている。
【0037】
また、セカンダリ軸16の外周面において、シリンダ15の内端部24が外嵌されている部分の右側には、ねじが切られている。ねじが切られた部分には、ロックナット33が螺着されている。このロックナット33の締め付けにより、シリンダ15の内端部24およびストッパ32の内周端部が面31とロックナット33との間で圧接されて、シリンダ15およびストッパ32がセカンダリ軸16に固定されている。
【0038】
セカンダリ軸16の右側の端部には、端面で開放される凹部34が形成されている。凹部34は、セカンダリ軸16の回転軸線を中心とする円筒状の内周面を有している。
【0039】
<アウトプット軸>
セカンダリ軸16の右側には、アウトプット軸41がセカンダリ軸16と同一の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
【0040】
アウトプット軸41の左側の端部は、セカンダリ軸16の凹部34の内径よりも小さい外径を有する円柱状に形成されており、凹部34に挿入されている。凹部34とアウトプット軸41の端部との間には、ベアリング42が介在されている。アウトプット軸41の右側の端部には、ベアリング43が外嵌されている。ベアリング43の外輪は、無段変速機1の外殻をなすケース44に保持されている。これにより、アウトプット軸41は、左側の端部がベアリング42を介してセカンダリ軸16に回転可能に支持され、右側の端部がベアリング43を介してケース44に回転可能に支持されている。
【0041】
<遊星歯車機構>
セカンダリプーリ11の右側には、セカンダリ軸16からアウトプット軸41に動力を伝達するための遊星歯車機構51が設けられている。遊星歯車機構51は、サンギヤ52、キャリア63およびリングギヤ54を備えている。
【0042】
サンギヤ52は、セカンダリ軸16の右側の端部にスプライン嵌合し、ロックナット33に対して右側に隙間を空けて配置されている。
【0043】
キャリア63は、ブレーキハブ53と一体回転可能に設けられている。具体的には、ブレーキハブ53は、回転径方向の外側に延びる略円環板状の基端部61と、基端部61の外周端部から左側に延びる略円筒状の延部62とを一体的に備え、ベアリング55を介して、アウトプット軸41に相対回転可能に支持されている。キャリア63は、延部62の左側の端部にスプライン嵌合し、その端部から回転径方向の内側に延びる略円環板状をなしている。
【0044】
キャリア63には、複数のピニオン軸64が保持されている。複数のピニオン軸64は、セカンダリ軸16の回転軸線を中心とする円周上に配置されている。各ピニオン軸64は、キャリア63から右側に延出し、ピニオンギヤ65を回転可能に支持している。各ピニオンギヤ65は、サンギヤ52と噛合している。
【0045】
リングギヤ54は、複数のピニオンギヤ65を一括して取り囲む略円筒状を有し、各ピニオンギヤ65に回転径方向の外側から噛合している。
【0046】
<クラッチ>
サンギヤ52とリングギヤ54とを直結/分離するため、クラッチ71が設けられている。クラッチ71は、クラッチドラム72、クラッチハブ73、クラッチピストン74およびキャンセラ75を備えている。
【0047】
クラッチドラム72は、アウトプット軸41に圧入により外嵌固定された略円環板状の外嵌固定部81と、外嵌固定部81の外周端部から左側に延びる略円筒状の延部82とを一体的に備えている。延部82の先端部(左側の端部)に、リングギヤ54が保持されている。延部82には、リングギヤ54の右側に、複数のクラッチプレート83が回転軸線方向に間隔を空けて保持されている。
【0048】
クラッチハブ73は、クラッチドラム72の内側に設けられて、サンギヤ52に相対回転不能に支持されている。クラッチハブ73は、サンギヤ52から回転径方向の外側に延びる略クランク状の断面を有する支持部91と、支持部91の外周端部から左側に延びる略円筒状の延部92とを一体的に備えている。延部92は、クラッチドラム72の延部82と回転径方向に間隔を空けて対向している。延部92には、複数のクラッチディスク93が回転軸線方向に間隔を空けて保持されている。クラッチプレート83とクラッチディスク93とは、回転軸線方向に交互に並ぶように配置されている。
【0049】
クラッチピストン74は、クラッチドラム72の内側かつクラッチハブ73の右側に、回転軸線方向に移動可能に設けられている。クラッチピストン74は、回転径方向に延びる略円環板状の受圧部101と、受圧部101の外周端部から左側に延びる略円筒状の押圧部102とを一体的に備えている。受圧部101の右側の面には、シール103が貼着されている。シール103の外周端部は、クラッチドラム72の延部82に液密的に当接し、内周端部は、アウトプット軸41に液密的に当接している。これにより、アウトプット軸41の周囲において、クラッチドラム72とクラッチピストン74との間に、クラッチピストン74に作用する油圧が供給されるピストン室104が形成されている。
【0050】
キャンセラ75は、クラッチハブ73とクラッチピストン74との間に設けられている。キャンセラ75は、回転径方向に延びる略円環板状に形成されている。キャンセラ75の内周端部は、アウトプット軸41に外嵌されている。キャンセラ75の外周端部には、その外周端部に沿った環状のシール105が貼着されている。シール105は、クラッチピストン74の押圧部102に回転径方向の内側から液密的に当接している。これにより、アウトプット軸41の周囲において、クラッチピストン74とキャンセラ75との間に、キャンセラ室106が形成されている。キャンセラ室106には、リターンスプリング107が設けられており、クラッチピストン74とキャンセラ75とは、リターンスプリング107の付勢力により、互いに離間する方向に弾性的に付勢されている。この付勢により、キャンセラ75は、アウトプット軸41に取り付けられたスナップリング108に当接し、回転軸線方向の移動が規制されている。
【0051】
<油路構成>
アウトプット軸41の内部には、クラッチ油路111およびキャンセラ油路112が形成されている。クラッチ油路111およびキャンセラ油路112は、アウトプット軸41の回転軸線から外れた位置に互いに独立して形成されている。
【0052】
クラッチ油路111は、アウトプット軸41の右側の端面からピストン室104と回転径方向に対向する位置まで回転軸線方向に延びている。クラッチ油路111の右側の端部は、ボール113の圧入により封止されている。アウトプット軸41の右側の端部には、アウトプット軸41の外周面とクラッチ油路111との間を貫通するオイル導入口114が形成されている。また、アウトプット軸41には、ピストン室104とクラッチ油路111とを連通させる連通油路115が形成されている。
【0053】
キャンセラ油路112は、アウトプット軸41の右側の端面からクラッチ油路111よりも遠い位置まで回転軸線方向に延びている。キャンセラ油路112は、アウトプット軸41の右側の端面で開放されており、その端面とケース44との間の空間116と連通している。アウトプット軸41には、キャンセラ室106とキャンセラ油路112とを連通させる連通油路117が形成されている。また、アウトプット軸41には、キャンセラ油路112と連通する分配油路118が形成されている。分配油路118は、ベアリング43に対する右側の位置において、アウトプット軸41の外周面で開放されている。
【0054】
アウトプット軸41の左側の端部には、クラッチ油路111およびキャンセラ油路112が形成されていない。そして、その左側の端部には、軸心油路121が形成されている。軸心油路121は、アウトプット軸41の回転軸線上をアウトプット軸41の左側の端面まで延び、その端面で開放され、セカンダリ軸16の凹部34内でセカンダリ軸16とアウトプット軸41との間に生じている空間と連通している。また、アウトプット軸41には、キャンセラ室106と軸心油路121とを連通させるキャンセラ排出油路122が形成されている。さらに、アウトプット軸41には、軸心油路121と連通する連通油路123が形成されている。連通油路123は、ベアリング42に対する右側の位置において、アウトプット軸41の外周面で開放されている。
【0055】
<クラッチの動作>
クラッチ油路111には、オイル導入口114を介して、オイルが供給される。クラッチ油路111に供給されるオイルは、連通油路115からピストン室104に供給される。オイルの供給により、ピストン室104内の油圧が高まると、クラッチピストン74の受圧部101が油圧を受けて、クラッチピストン74が左側に移動し、クラッチピストン74の押圧部102がクラッチプレート83を押圧する。この押圧により、クラッチプレート83とクラッチディスク93とが圧接(クラッチ71が係合)し、サンギヤ52とリングギヤ54とが一体となって回転する直結状態となる。
【0056】
一方、キャンセラ油路112には、アウトプット軸41の右側の端面とケース44との間の空間116を介して、オイルが常に供給されている。これにより、キャンセラ油路112、連通油路117、キャンセラ室106、キャンセラ排出油路122および軸心油路121をオイルが流通する。軸心油路121を流通するオイルの一部は、連通油路123を流れて、ベアリング42に対する右側の位置に流出し、その残りのオイルは、セカンダリ軸16とアウトプット軸41との間に生じている空間に流出する。
【0057】
サンギヤ52とリングギヤ54とが一体となって回転している状態では、キャンセラ室106内のオイルに遠心力が作用し、キャンセラ室106に遠心油圧が発生する。この遠心油圧により、ピストン室104内に発生する遠心油圧をキャンセル(相殺)することができる。そのため、クラッチ油路111へのオイル(油圧)の供給が停止されると、リターンスプリング107の付勢力により、クラッチピストン74が右側にスムーズに移動する。このクラッチピストン74の移動により、クラッチプレート83とクラッチディスク93との圧接が解除され、サンギヤ52とリングギヤ54との直結状態が解除(クラッチ71が解放)される。
【0058】
また、サンギヤ52とリングギヤ54とが分離して回転している状態においても、キャンセラ室106内のオイルに遠心力が作用し、キャンセラ室106内に遠心油圧が発生する。この遠心油圧により、ピストン室104内に発生する遠心油圧でクラッチピストン74がクラッチプレート83側に移動することを防止でき、クラッチ71が係合することを防止できる。
【0059】
<ベアリングの潤滑構造>
図2は、セカンダリプーリ11と遊星歯車機構51との間の部分を示す断面図である。図2においても、断面を表すハッチングの付与が省略されている。
【0060】
軸心油路121から連通油路123を通してベアリング42に対する右側の位置に流出するオイルの一部は、クラッチハブ73とキャンセラ75との間を流れて、クラッチプレート83およびクラッチディスク93などに供給される。また、そのオイルの一部は、セカンダリ軸16とサンギヤ52との間を流れ、ロックナット33とサンギヤ52との間を流れて、シリンダ15の内端部24とキャリア63との間に到達する。
【0061】
ケース44には、シリンダ15の第1中間部25に対して回転径方向の外側から平行をなして対向する対向部131が形成されている。この対向部131と第1中間部25との間には、シリンダ15を介してセカンダリ軸16の右側の端部を回転可能に保持するベアリング132が介在されている。
【0062】
また、ケース44には、楔状部133が対向部131の右側に連続して形成されている。楔状部133は、対向部131から回転径方向の内側に延び、ベアリング132に右側から対向している。楔状部133は、ベアリング132と間隔を空けて回転径方向に延びる円環状の円環面134と、円環面134の内周縁から右側かつ回転径方向の外側に傾斜して延びる傾斜面135とを有している。
【0063】
一方、キャリア63の左側の面136には、ベアリング132の保持器に向けて突出する断面略三角形状の凸部137が形成されている。凸部137は、面136から左側に延びる円筒状の円筒面138と、楔状部133の傾斜面135とほぼ平行をなして傾斜する傾斜面139とを有している。
【0064】
<作用効果>
以上の構成によれば、シリンダ15の内端部24とキャリア63との間に到達したオイルは、凸部137の円筒面138に当たって、円筒面138に沿って流れることにより、その流れの方向がベアリング132に向く方向に変わる。これにより、オイルをベアリング132に導くことができ、ベアリング132にオイルを良好に供給することができる。よって、ベアリング132へのオイルの供給が不足することを抑制でき、ひいては、ベアリング132に潤滑不良による焼き付きが発生することを抑制できる。
【0065】
また、従来の構成と比較して、ベアリング132に供給されるオイルの量が増加するので、その増加分、キャリア63とケース44との間(凸部137の傾斜面139と楔状部133の傾斜面135との間)を流れるオイルの量が減少する。そのため、キャリア63とケース44との間に対して回転径方向の外側に配設されているブレーキ141(図1参照)に供給されるオイルの量が減少する。その結果、ブレーキ141による引き摺り損失を低減することができ、無段変速機1が搭載される車両の燃費を向上させることができる。
【0066】
さらに、凸部137の近傍におけるオイルの滞留による効果も期待できる。すなわち、凸部137の円筒面138の近傍でオイルの流れの方向が変化するので、キャリア63の低速回転時には、凸部137の近傍にオイルが滞留する部分が生じる。キャリア63の高速回転時には、凸部137の近傍に滞留したオイルは、遠心力を受けて、凸部137に沿ってベアリング132に向けて流れる。その結果、キャリア63の高速回転時にも、ベアリング132へのオイルの供給が不足することを抑制でき、ひいては、ベアリング132に潤滑不良による焼き付きが発生することを一層抑制できる。
【0067】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0068】
たとえば、前述の実施形態では、無段変速機1に備えられたベアリング132を潤滑する構造を例にとったが、本発明は、無段変速機1以外の動力伝達機構に備えられたベアリングを潤滑する構造にも適用可能である。
【0069】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0070】
15 シリンダ(第1回転要素)
44 ケース
63 キャリア(第2回転要素)
121 軸心油路(油路)
123 連通油路(油路)
132 ベアリング
136 面
137 凸部
図1
図2
図3