(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−232531号公報
【特許文献2】特開2014−51041号公報
【特許文献3】特開2006−56227号公報
【0004】
特許文献1には、樹脂成形体と金属形成体との間に、融点の低い熱可塑性エラストマー及びレーザー光吸収剤を含む樹脂組成物で形成された接着フィルムを介在させて樹脂成形体側からレーザー光を照射することにより樹脂成形体と金属形成体とを接合する方法が示されている。この方法によると、両成形体の間に接着フィルムを介在させてレーザー光を照射して接合するので、樹脂成形体を劣化させることなく、両成形体を強固に接合できるという利点が得られる。
特許文献2に記載されている複合成形体の製造方法は接合強度の大きい複合成形体を得ようとするもので、そのために次の第1〜3の工程からなっている。すなわち、金属形成体の樹脂成形体との接合面に対して、開口部の平均直径が所定径の凹部、または開口部の平均幅が所定幅の溝を形成する第1工程、前記凹部または溝が形成された接合面に対して、開口部の平均直径が所定径、所定深さの凹部、または開口部の平均幅が所定幅、所定深さの溝を形成する第2工程、その後、金属形成体の接合面を含む部分を金型内に配置して、樹脂成形体となる樹脂を使用して複合成形体を得る第3工程からなる。この方法によると、金属形成体の接合面に凹部、溝等を形成し、その後インサート成形するので、接合強度の大きい複合成形体が得られる。
【0005】
特許文献3には、樹脂成形金型内に金属成形品をセットし、その表面を覆うように樹脂モールド層を成形する成形方法が示されている。樹脂モールド層の一部は金属成形品に設けた開口内に入り込んで相互に固着結合する構造になっている。金属成形品はマグネシウム、アルミニウム合金、ステンレス、チタン等から形成され、樹脂モールド層はポリカーボネート等で形成されている。成形工程終了後、樹脂モールド層表面にクリアコート層、又は塗装層を設けるか、表面処理が必要な場合はブラスト加工、ヘアライン加工などを行い、場合により、塗装やクリアコートを施されている。この製造方法によると、樹脂成形金型内に金属成形品をセットし、その表面を覆うように樹脂モールド層を成形するので、接合強度は大で、高級感のある複合成形体が得られる。
【0006】
以上のように、特許文献1に記載の複合成形体は、金属形成体と樹脂成形体とを接着フィルムを介在させて接合した構造になっている。一方、特許文献2、3のそれぞれに記載の方法は別途形成された金属形成体を樹脂用金型にセットし、あるいはインサートし、そして溶融樹脂を射出して樹脂成形体を形成することにより金属形成体と樹脂成形体とからなる複合成形体を得るようになっている。このようなインサート成形装置が
図8、9に簡略化して模式的に示されている。すなわち、
図8の(ア)〜(ウ)にはプレス加工機が、
図9の(ア)〜(ウ)には射出成形機がそれぞれ示されている。プレス加工機PRは、下型(ダイ)100と上型(曲げパンチ)101とからなっている。したがって、
図8の(ア)に示されているように下型100の上に金属製ワークMW’を載置し、そして上型101を下方へプレスすると、ワークMW’は所定形状に曲げ加工される。
図8の(ウ)に示されているように上型101を開くと金属形成体M’が得られる。
【0007】
射出成形機INは、
図9に示されているように固定金型105と可動金型110とからなっている。可動金型110には金属形成体M’がインサートされる凹部111が形成され、固定金型105には樹脂通路であるスプル106が形成されている。したがって、可動金型110の凹部111に、先に加工された金属形成体M’を手動的あるいはロボットによりにインサートし、可動金型110を固定金型105に対して型締めすると、金属形成体M’の一面と固定金型105のパーティング面との間に樹脂成形体を成形するためのキャビティ107が構成される。金属形成体M’をインサートした状態が
図9の(ア)に、そしてキャビティ107が構成された状態が
図9の(イ)にそれぞれ示されている。溶融樹脂をスプル106からキャビティ107に射出・充填する。これにより、金属形成体M’と一体化された樹脂成形体P’が成形される。可動金型110を開く。そうすると、
図9の(ウ)に示されているように金属形成体M’と樹脂成形体P’とからなる複合成形体M’・P’が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、特許文献2、3等により、あるいは
図8、9に示されているインサート成形方法によると、樹脂成形体M’が金型内で高圧の射出樹脂で成形されるので、金属形成体と樹脂成形体との接合強度は大きく、また複雑な形状の複合成形体にも対応できる利点はある。
しかしながら、インサート成形法によると、プレス加工機と射出成形機の2装置あるいは金属のプレス工程と樹脂の成形工程の2工程を必要としコスト高になる欠点がある。また、金属形成体を樹脂成形用の金型にインサートする手間がかかり、インサートずれが生じると複合成形体の品質が落ちることにもなる。このような欠点は、曲げ加工以外のパンチ穴加工された金属形成体のインサートについてもいえる。また、プレス加工と樹脂成形加工との間の加工サイクルを同期させる必要もある。プレス加工サイクルが先行すると、金属形成体のストックが生じ、ランダムにストックされた金属形成体のインサートにはさらに手間がかかることになる。
したがって、本発明は、構造がコンパクトで安価であるにも拘わらず、金属形成体と樹脂成形体との接合強度は大きく、また複雑な形状の金属形成体と樹脂成形体にも対応できるに複合成形体の製造方法および製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために固定盤と、この固定盤に対して型開閉される可動盤とが適用される。前記固定盤には固定金型が、可動盤には可動スライド金型が取り付けられる。そして、可動スライド金型を固定金型に型締めすると、前記可動スライド金型と固定金型とにより金属製ワークは塑性変形加工、穴開け加工等により金属形成体に機械加工され、また前記可動スライド金型と金属形成体とにより、または金属形成体と固定金型とにより樹脂成形体を成形するためのキャビティが構成される。すなわち、本発明の目的は、金属製ワークの機械加工と樹脂の成形とを実質的に同じ金型で同時に実施することにより達成される。
【0012】
すなわち請求項1に記載の発明は、固定金型と、該固定金型に対して型開閉される可動スライド金型とを使用して金属形成体に樹脂成形体が一体化された複合成形体を得る方法であって、前記可動スライド金型を第1の位置へ駆動して前記固定金型に対して型締めすることにより、所定の加工位置で金属製ワークを塑性変形加工、パンチ穴明け加工等の機械的加工をして金属形成体を得る工程と、第1の所定の成形位置で前記固定金型と前回加工された金属形成体との間にキャビティを構成する工程とを実質的に同時に実施し、前記キャビティに溶融樹脂を射出・充填して前記金属形成体に一体的に樹脂成形体を成形して複合成形体を製造し、前記可動スライド金型を第2の位置へ駆動して前記固定金型に対して型締めすることにより、前記所定の加工位置で金属製ワークを塑性変形加工、パンチ穴明け加工等の機械的加工をして金属形成体を得る工程と、第2の他の所定の成形位置で前記固定金型と前回加工された金属形成体との間にキャビティを構成する工程とを実質的に同時に実施し、前記キャビティに溶融樹脂を射出・充填して前記金属形成体に一体的に樹脂成形体を成形して複合成形体を製造し、前記複合成形体の製造を繰り返すことにより、前記可動スライド金型を前記固定金型に対して型締めする毎に複合成形体を製造するように構成される。
【0015】
請求項
2に記載の発明は、固定金型と、該固定金型に対して型開閉されると共にスライド的に駆動されて第1、2の型締め位置を採る可動スライド金型とからなり、前記固定金型のパーティング面側には、金属製ワークが塑性変形加工、パンチ穴明け加工等の機械的加工を受ける加工用凹部と、樹脂成形体が成形される第1、2の樹脂用凹部とが設けられ、前記可動スライド金型のパーティング面側には、前記固定金型の加工用凹部と前記第1の樹脂用凹部と共働する可動スライド金型側の第1の兼用凸部と、同様に前記固定金型の加工用凹部(31)と前記第2の樹脂用凹部と共働する可動スライド金型側の第2の兼用凸部とが設けられ、前記可動スライド金型が第1の位置で型締めされると、前記可動スライド金型側の前記第2の兼用凸部と前記固定金型の加工用凹部とにより金属製ワークが加工されると共に、前記可動スライド金型側の第1の兼用凸部と前記固定金型の第1の樹脂用凹部とにより樹脂成形体の成形用キャビティが構成され、前記可動スライド金型が第2の位置で型締めされると、前記可動スライド金型の兼用凸部と前記固定金型の加工用凹部とにより金属製ワークが加工されると共に、前記可動スライド金型の第2の兼用凸部と前記第2の樹脂用凹部とにより樹脂成形体の成形用キャビティが構成される、ように構成される。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によると、固定金型と、該固定金型に対して型開閉されると共にスライド的に駆動される可動スライド金型とを使用して、前記可動スライド金型を前記固定金型に対して型締めすると、これらの金型により金属製ワークは金属形成体に機械的に加工され、また加工された金属成形体と前記固定金型とにより、または加工された金属成形体と前記可動スライド金型とにより樹脂成形体を成形するためのキャビティが構成されるので、このキャビティに溶融樹脂を射出・充填するだけで金属形成体に樹脂成形体を一体化した複合成形体を得ることができる。すなわち、固定金型と可動スライド金型とに、金属製ワークを金属形成体に加工する機械加工部と、この金属形成体に樹脂成形体を一体的に成形する樹脂成形部とが組み込まれているので、製造装置の構造はコンパクトで安価で、機械加工工程と樹脂成形工程は型締めにより実施されるので単純である。安価で単純であるにも拘わらず、樹脂成形体は射出・充填により成形されるので、金属形成体との接合強度は大きく、また複雑な形状の金属形成体と樹脂成形体にも対応できる。
そして本発明によると、機械加工工程とキャビティの構成とが実質的に同時に実施されるので、効率的という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る製造装置を一部断面にして示す図で、その(ア)は可動スライド金型が第1の位置で型閉された状態で、その(イ)は可動スライド金型が第1の位置で金属形成体が成形された状態で、その(ウ)はその後可動スライド金型が型開されて第2の位置へ駆動された状態で、その(エ)はその可動スライド金型が第2の位置で型締された状態で、それぞれ示す断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る製造装置を一部断面にして示す図で、その(ア)は可動スライド金型が第2の位置で樹脂成形体が成形された状態で、その(イ)は可動スライド金型を開き複合成形体を取り出し、そして第1の位置へ駆動した状態でそれぞれ示す断面図である。
【
図3】本発明の第2の実施の形態に係る製造装置を一部断面にして示す図で、その(ア)は可動スライド金型が第1の位置で型閉された状態で、その(イ)は可動スライド金型が第1の位置で開かれ金属製ワークがセットされた状態で、その(ウ)は金属形成体が付いた可動スライド金型が第2の位置へ駆動された状態で、その(エ)はその可動スライド金型が第2の位置で型締された状態で、それぞれ示す断面図である。
【
図4】本発明の第3の実施の形態に係る製造装置を一部断面にして示す図で、その(ア)は可動スライド金型が第1の位置で型閉された状態で、その(イ)は可動スライド金型が第1の位置で型開され金属製ワークがセットされた状態で、その(ウ)はその後型開された状態で、その(エ)はその後可動スライド金型が第2の位置へ駆動され金属ワークがセットされた状態で、それぞれ示す断面図である。
【
図5】本発明の第3の実施の形態に係る製造装置を一部断面にして示す図で、その(ア)は可動スライド金型が第2の位置で型締めされ、金属形成体が形成され、また樹脂成形用のキャビティが構成された状態で、その(イ)はその後型開された状態で、その(ウ)はさらにその後可動スライド金型が第1の位置へ駆動された状態で、その(エ)は可動スライド金型が第1の位置で型締めされ、金属形成体が形成され、また樹脂成形用のキャビティが構成された状態で、それぞれ示す断面図である。
【
図6】本発明の他の実施の形態に係る製造装置を簡略化して示す断面図である。
【
図7】本発明のさらに他の実施の形態に係る製造装置を簡略化して示す断面図である。
【
図8】従来のプレス加工機を示す図で、その(ア)は金属製ワークをセットした状態で、その(イ)は金属製ワークが加工された状態で、その(ウ)はその後、上型を開いた状態で、それぞれ示す断面図である。
【
図9】従来の射出成形機を一部断面にして示す断面図で、その(ア)は金属形成体をインサートした状態で、その(イ)はインサートされた金属形成体と金型との間に構成されたキャビティに溶融樹脂を充填している状態で、その(ウ)型開して製造された複合成形体を取り出している状態で、それぞれ示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は色々な形で実施できるが、可動スライド金型を固定金型に型締めすると金属製ワークは金属形成体に機械加工され、再び型締めすると、金属形成体に樹脂成形体が成形される実施の形態が第1、2の実施の形態として
図1〜3に示されている。第1の実施の形態では、樹脂成形体は金属形成体の一方の面に、第2の実施の形態では他の面に成形される。可動スライド金型を固定金型に型締めすると金属製ワークは金属形成体に機械加工され、同時に、金属形成体の一方の面に樹脂成形体が成形される実施の形態が第3の実施の形態として
図4、5に示されている。第2の実施の形態と同様に、可動スライド金型に金属形成体が付いた状態で第2の成形位置へ駆動して型締めすると、他方の面に樹脂成形体を成形することができるが、その実施の形態は図には示されていないし、具体的に説明もされていない。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態により製作あるいは製造される複合成形体は自動車の部品、電子機器収納用の筐体等であり、形状、構造に格別限定されないが、箱状の複合成形体を製造する例について説明する。また、金属形成体の材質が鋼、マグネシウム、アルミニウム合金等に限定されないし、樹脂成形体も目的に応じて選択した材料から成形される。さらには、可動盤を固定盤に対して型締めするときの動作により金属製ワークを所定の形状、構造に加工ができれば、曲げ加工、絞り加工、穴明け、パンチ加工等の機械加工が可能であるが、以下プレス加工の例について説明する。
【0020】
図1に示されている第1の実施の形態は、その(ア)に示されているように、架台に固定的に設けられている固定盤1と、この固定盤1に対して型開閉される可動盤2とからなっている。そして、固定盤1には固定金型10が取り付けられ、可動盤2には
図1において上下方向にスライド的に駆動される可動スライド金型15が設けられている。固定金型10のパーティング面側には、可動スライド金型15の方に開口した所定大きさの固定金型側兼用凹部11が1個設けられている。この兼用凹部11は、後述する作用の説明からも明らかなように、樹脂成形体を成形するときのキャビティの作用も奏するが、主として金属成形体を加工するときのプレス機の下型の作用を奏するようになっている。したがって、この固定金型10は望ましくはプレスの下型に適した材料から構成されている。このように、固定金型10はプレス加工と樹脂の成形加工の両加工に寄与するので、兼用加工部を構成していることになる。固定金型10には、この金型を横切るように、スプル7が形成されている。このスプル7の一方の端部には、射出ユニットの射出ノズル6がタッチされるようになり、他方の終端部はゲートを介して固定金型側兼用凹部11に開口している。
【0021】
可動スライド金型15のパーティング面側には、型締時にプレスの上型の作用をする可動スライド金型側プレス用凸部16と、このプレス用凸部16と所定の間隔をおいて、樹脂成形体を成形するための可動スライド金型側樹脂用凸部17とが設けられている。換言すると、可動スライド金型15は機械加工部16と、樹脂成形部17の両部からなっている。プレス用凸部16と樹脂成形用凸部17は、固定金型側兼用凹部11と対をなすもので、前記凸部16は兼用凹部11よりも金属形成体の板厚分だけ小さく、前記凸部17は金属形成体と樹脂成形体の合計の板厚分だけ小さい。このように構成されている可動スライド金型15は、上下方向にスライド可能にスライド板3を介して可動盤2に取り付けられている。スライド板3の下方から片持ち梁4が可固定盤1の方へ延びている。そして、この片持ち梁4に油圧ピストン・シリンダユニット5が設けられている。可動スライド金型15は、上記ユニット5によりプレス用凸部16が兼用凹部11に整合する第1の位置と、樹脂用凸部17の方が整合する第2の位置とに駆動されるようになっている。
【0022】
機械加工部16すなわち可動スライド金型側プレス用凸部16は、プレス機の上型の作用を奏し、樹脂成形部17すなわち可動スライド金型側樹脂用凸部17は樹脂成形用の金型の作用をそれぞれ奏するので、これらの凸部16、17を含む部分はそれぞれに適した金属材料から構成し、これらを一体化してスライド板3にスライド可能に設けることもできるが、
図1では同一金属で構成されているように図示されている。なお、固定盤1、可動盤2等が搭載される架台、型開閉用のトグル機構、油圧シリンダ機構等からなる型締ユニット、加熱シリンダ、スクリュ等からなる射出ユニット等は
図1には示されていない。
【0023】
次に、上記第1実施の形態の作用を説明する。
図1の(イ)において示されているように、可動スライド金型15を型開して上方の第1の位置に駆動する。そうすると、可動スライド金型側プレス用凸部16は固定金型側兼用凹部11と整合する。所定大きさの金属製ワークMWを兼用凹部11に被せるようにしてセットする。そうして、可動盤2を固定盤1に対して型締めする。すなわち、可動スライド金型15を固定金型10に対して型締めする。この型締めにより、プレス用凸部16は上型の作用をし、下型の作用をする兼用凹部11と共働して略箱形を呈する金属形成体Mが加工される。金属形成体Mが固定金型兼用凹部11に残るようにして可動スライド金型15を開く。このように、金属形成体Mが兼用凹部11に残って開かれた状態が
図1の(イ)、(ウ)に示されている。
【0024】
可動スライド金型15を下方の第2位置へ駆動する。駆動した状態が
図1の(ウ)に示されている。今度は、可動スライド金型側樹脂用凸部17が、金属形成体Mが残っている兼用凹部11と整合する。可動スライド金型15を固定金型10に対して型締めする。そうすると、兼用凹部11に残っている金属形成体Mの内周面と樹脂用凸部17の外周面との間に樹脂成形用キャビティ18が構成される。このようにして、キャビティ18が構成された状態が
図1の(エ)に示されている。溶融樹脂を射出ノズル6からスプル7を介してキャビティ18に向け射出・充填する。射出・充填した状態が
図2の(ア)に示されている。これにより、金属形成体Mに樹脂成形体Pが一体化され、内周面が樹脂成形体Pで覆われた箱状の複合成形体M・Pが製造される。可動スライド金型15を開いて複合成形体M・Pを取り出し、可動スライド金型15を上方の第1の位置へ駆動する。そうすると、プレス用凸部16は固定金型側兼用凹部11と整合する。この整合した状態は、
図2の(イ)に示されているが、この状態は
図1の(イ)と同じであり、複合成形体の製造の初期に戻っている。以下、前述したようにして箱状の複合成形体M・Pを製造する。
【0025】
第1の実施の形態に係る製造装置によると、固定金型10には機械加工と樹脂成形の両作用を奏する固定金型側兼用凹部11が1個設けられているだけで、また可動スライド金型15には機械加工作用を奏するプレス用凸部16と樹脂成形作用を奏する樹脂用凸部17とが設けられているだけで、構造はコンパクトで安価になっている。そして、可動スライド金型15を型締めするという一つの動作により金属製ワークは機械加工され、また樹脂成形用キャビティが構成されるので、複合成形体を低コストで製造できる。樹脂成形体が溶融樹脂の射出により形成されるので金属形成体と樹脂成形体との接合強度は大きく、また複雑な形状の金属形成体と樹脂成形体にも対応できる。
【0026】
上記第1の実施の形態では、加工された金属形成体Mを固定金型側兼用凹部11に残して型を開き、残した金属形成体Mと、可動スライド金型15の樹脂用凸部17とで構成されるキャビティ18に溶融樹脂を充填して、金属成形体の内周面に樹脂成形体Pを成形しているが、これとは逆に、加工された金属形成体Mを可動スライド金型の凸部に残して、その外周面に樹脂成形体を成形することもできる。その第2の実施の形態が
図3に示されている。第1の実施の形態の構成要素と同様な要素には同じ参照数字を付けて重複説明はしない。この第2の実施の形態によると、固定金型20には2個の凹部21、22が、そして可動スライド金型25には1個の凸部26が設けられている。すなわち、固定金型20のパーティング面側には、可動スライド金型25の方に開口した所定大きさの固定金型側プレス用凹部21と、同様に可動スライド金型25の方に開口した固定金型側樹脂用凹部22とが設けられている。換言すると、固定金型20は機械加工部21と樹脂成形部22の両部からなっている。プレス用凹部21は、詳しくは後述する可動スライド金型側兼用凸部26と対をなすもので、該凸部26よりも金属製ワークの板厚分だけ大きく、固定金型側樹脂用凹部22も対をなすもので、金属形成体と樹脂成形体の合計板厚分だけ大きい。
【0027】
可動スライド金型25のパーティング面側には、型締時にプレスの上型の作用と樹脂成形用キャビティの構成部材の両作用を奏する1個の可動スライド金型側兼用凸部26が設けられている。この兼用凸部26は、後述する作用の説明からも明らかなように、樹脂成形体を成形するときのキャビティの間接的な構成部材の作用も奏するが、主としてプレス機の上型の作用を奏する。したがって、プレス機に適した材質から構成することができる。
【0028】
第2の実施の形態の作用について説明する。
図3の(イ)に示されているように、可動スライド金型25を型開して上方の第1の位置に駆動する。そうすると、可動スライド金型側兼用凸部26は、固定金型側プレス用凹部21と整合する。所定大きさの金属製ワークMWをプレス用凹部21に被せるようにしてセットする。そうして、可動盤5を固定盤1に対して型締めする。すなわち、可動スライド金型25を固定金型20に対して型締めする。この型締めにより、可動スライド金型側兼用凸部26は上型の作用をし、下型の作用をする固定金型側プレス用凹部21と共働して略箱形を呈する金属形成体Mが加工される。金属形成体Mが可動スライド金型側兼用凸部26に残るようにして可動スライド金型25を開く。
【0029】
可動スライド金型25を下方の第2位置へ駆動する。駆動した状態が
図3の(ウ)に示されている。金属形成体Mが付いている兼用凸部26は、今度は固定金型側樹脂用凹部22と整合する。可動スライド金型25を固定金型20に対して締めする。そうすると、可動スライド金型側兼用凸部26に付いている金属形成体Mの外周面と固定金型側樹脂用凹部22との間に樹脂成形用キャビティ23が構成される。このようにして、キャビティ23が構成された状態が
図3の(エ)に示されている。溶融樹脂を射出ノズル6からスプル7を介してキャビティ23に向け射出・充填する。これにより、図には示されていないが、金属形成体と樹脂成形体とが一体化され、外周面が樹脂成形体で覆われた箱状の複合成形体が成形される。可動スライド金型25を開いて複合成形体を取り出し、可動スライド金型25を上方の第1の位置へ駆動する。そうすると、兼用凸部26は固定金型側プレス用凹部21と整合する。この整合した状態は、
図3の(イ)に示されているように、製造の初期状態に戻っている。以下、前述したようにして箱状の複合成形体を製造する。
【0030】
上記第1、2の実施の形態では、可動盤を固定盤に対して型締めする毎にプレス加工と樹脂成形とが交互に実施され、2回の型締め毎に1個の複合成形体が得られるが、型締めする毎に複合成形体が得られる製造装置が第3の実施の形態として
図4、5に示されている。
【0031】
前述した第1、2の実施の形態の構成要素と同じ、または同じような要素には同じ参照数字を付けて、以下
図4、5により第3の実施の形態を説明する。第3の実施の形態によると、固定金型30のパーティング面には3個の凹部31、32、33が設けられているが、可動スライド金型35には第1の実施形態と同様に2個の凸部36、37が設けられている。すなわち、
図4の(ア)に示されているように、固定金型30のパーティング面側の略中央部には所定大きさの1個の固定金型側プレス用凹部31が設けられている。このプレス用凹部31を挟んで、上下方向に所定の間隔をおいて第1、2の固定金型側樹脂用凹部32、33が設けられている。これらの第1、2の樹脂用凹部32、33は、プレス用凹部31よりも樹脂成形体の板厚分だけ大きい。第1、2の樹脂用凹部32、33の側部には、ゲートを介して第1、2のスプル7、7’が開口している。射出ノズル6は、溶融樹脂を溶融状態に維持するホットランナ8に接続されている。このホットランナ8と第1、2のスプル7、7’は、それぞれ図に示されていないバルブゲートを介して接続されている。従って、射出ノズル6から射出される溶融樹脂は、バルブゲートを操作することによって、第1、2の樹脂成形用凹部32、33に射出・充填されるようになっている。なお、本実施の形態においてはホットランナ8において樹脂を溶融状態に維持しているが、これは第1、2のスプル7、7’において固化した樹脂を取り出せるようにするためである。ランナ、スプルの形状によっては、ランナ、スプル内において固化した樹脂を取り出すこともできる。この場合コールドランナによって実施することもできる。
【0032】
可動スライド金型35のパーティング面側には、第1、2の可動スライド金型側兼用凸部36、37が形成されている。可動スライド金型35が上方の第1の位置へ駆動されると、第1の兼用凸部36は第1の固定金型側樹脂用凹部32と整合し、第2の兼用凸部37は固定金型側プレス用凹部31と整合するようになっている。下方の第2の位置へ駆動されると、今度は第1の兼用凸部36が固定金型30のプレス用凹部31と整合し、第2の兼用凸部37は第2の固定金型側樹脂用凹部33と整合する。これらの第1、2の兼用凸部36、37は、金属形成体の板厚分だけ固定金型側プレス用凹部31よりも小さく、樹脂用凹部32、33よりも金属形成体と樹脂成形体の合計の板厚分だけ小さい。
【0033】
次に、第3実施の形態の作用について説明する。可動スライド金型35を開いて、油圧ピストンユニット7により上方の第1の位置へ駆動する。そうすると、第2の可動スライド金型側兼用凸部37が固定金型側プレス用凹部31と整合する。所定大きさの金属製ワークMWを、
図4の(イ)示されているように固定金型側プレス用凹部31を覆うようにセットする。そうして、可動スライド金型35を固定金型30に対して型締めする。そうすると、第2の兼用凸部37は上型、プレス用凹部31は下型の作用を奏し、金属製ワークMWは略箱形に曲げ、あるいは絞り加工される。すなわち、金属形成体Mが形成される。
【0034】
可動スライド金型35を開く。このとき、形成された金属形成体Mが第2の可動スライド金型側兼用凸部37に付いた状態で開く。付いた状態で可動スライド金型35を開いた状態が
図4の(ウ)に示されている。可動スライド金型35を下方の第2の位置へ駆動する。そうすると、金属形成体Mが付いている第2の兼用凸部37は、第2の固定金型側樹脂用凹部33と整合する。第1の可動スライド金型側兼用凸部36は固定金型側プレス用凹部31と整合する。このように整合した状態が
図4の(エ)に示されている。所定大きさの金属製ワークMWを、前述したように固定金型側プレス用凹部31を覆うようにセットする。
【0035】
可動スライド金型35を型締めする。そうすると、金属製ワークMWは、第1の可動スライド金型側プレス用凸部36と固定金型側プレス用凹部31とにより金属形成体Mに加工される。同時に、可動スライド金型35の第2の兼用凸部37に付いている金属形成体Mと第2の固定金型樹脂用凹部33とにより、樹脂成形体Pを成形するためのキャビティ38が構成される。金属形成体Mに加工され、樹脂成形用キャビティ38が構成された状態が
図5の(ア)に示されている。
【0036】
図示されていないバルブゲートを開いてホットランナ8と第2のスプル7’を連通し、可塑化された溶融樹脂を射出ノズル6から射出する。溶融樹脂は第2のスプル7’を通して樹脂成形用キャビティ38に射出・充填される。この射出・充填により、金属形成体Mと一体化された樹脂成形体Pが成形される。すなわち、複合成形体M・Pが得られる。樹脂成形体Pの冷却・固化を待って可動スライド金型35を開く。新しく加工された金属形成体Mは、第1の兼用凸部36に付いて開かれる。複合成形体M・Pは突き出される。あるいは取り出される。このような状態が
図5の(イ)に示されている。
【0037】
可動スライド金型35を上方の第1の位置へ駆動する。そうすると、第2の兼用凸部37が固定金型側プレス用凹部31と整合する。所定大きさの金属製ワークMWを、
図5の(ウ)示されているように固定金型側プレス用凹部31を覆うようにセットする。そうして、可動スライド金型35を型締めする。そうすると、第1の可動スライド側兼用凸部36と固定金型側プレス用凹部31とにより、金属製ワークMWは略箱形の金属成形体Mに加工される。
【0038】
型締めすると、第1の可動スライド金型側兼用凸部36に付いている金属形成体Mと固定金型側樹脂用凹部32とにより、樹脂成形体Pを成形するためのキャビティ39も構成される。金属形成体Mが加工され、樹脂成形用キャビティ39が構成された状態が
図5の(エ)に示されている。
【0039】
図示されていないバルブゲートを開いてホットランナ8と第1のスプル7を連通し、可塑化された溶融樹脂を射出ノズル6から射出して樹脂成形用キャビティ39に射出・充填する。この射出・充填により、金属形成体Mと一体化された樹脂成形体Pが成形される。樹脂成形体Pの冷却・固化を待って可動スライド金型35を開く。型締めにより加工された金属形成体Mは、第2の可動スライド金型側兼用凸部37に付いて開かれる。複合成形体M・Pは突き出される。あるいは取り出される。次いで、可動スライド金型35を第2の位置へ駆動する。第2の位置における固定金型側プレス用凹部31と可動スライド金型35の第1、2の兼用凸部36、37との位置関係は、
図4の(エ)、
図5の(ア)に示されているとおりである。以下、これらの図に関して説明したようにして、金属形成体Mを加工し、樹脂成形体Pを成形して複合成形体M・Pを製造する。
【0040】
上記第1〜3の実施の形態では略箱形を呈する複合成形体M・Pが製造されているが、金型の凹部、凸部等を適宜選定することにより同様にして他の形状、例えばの板状の複合成形体を製造することもできる。また、上記第1、2の実施の形態では、金属製ワークを機械加工するための型締力と、キャビティを構成するため型締力とが異なるように実施することもできる。例えば、機械加工時には金属製ワークを所定形状に打ち抜く型締力、文字、数字、模様等を打刻する型締力等で型締めすることもできる。第1、2の実施の形態の変形例が
図6、7に示されている。
【0041】
図6は、
図1に示す実施の形態の変形例であるので、同じような部材には同じ参照数字にダッシュ「’」を付けて詳しい説明はしないが、固定金型10’には1本のスプル7’のみが形成され、可動スライド金型15’には第1、2の可動スライド金型側凹部16’、17’が形成されている。したがって、可動スライド金型15’を開き、上方の第1の位置へ駆動して、固定金型10’のパーティング面側の所定の部位に金属製ワークMW’をセットする。そうして所定の力で型締めすると、例えば打刻に適した力で型締めする。固定金型10’のパーティング面に加工されている型により文字、数字等が刻まれた板状の金属形成体M’が得られる。固定金型10’の方に金属形成体M’が残るようにして可動スライド金型15’を開く。開いた状態が
図6の(ウ)に示されている。可動スライド金型15’を下方の第2の位置へ駆動し、射出成形に適した所定の力で型締めする。そうすると、
図6の(エ)に示されているように、第2の可動スライド金型側凹部17’の内周面と金属形成体M’の外周面との間にキャビティ18’が構成される。キャビティ18’に溶融樹脂を充填して板状の複合成形体を得る。
【0042】
図7は、
図3に示されている実施の形態の変形例である。同様に簡略的に説明する。固定金型20’のパーティング面側には、1個の固定金型側樹脂用凹部22’が形成され、可動スライド金型25’にも1個の可動スライド金型側兼用凹部26’が形成されている。したがって、可動スライド金型25’を開いて上方の第1の位置に駆動し、
図7の(ア)に示されているように、固定金型20’のパーティング面の所定の部位に金属製ワークMW’をセットし、所定の力で例えば打刻に適した力で型締めする。このときの打刻は固定金型側兼用凹部26’の底部で行われる。金属形成体M’が可動スライド金型側兼用凹部26’に残るようにして型を開き、下方の第2の位置へ駆動する。そうして射出成形に適した型締力で型締めする。そうすると、金属形成体M’と固定金型側樹脂用凹部22’との間にキャビティ23’が構成される。キャビティ23’に溶融樹脂を射出・充填すると、金属形成体M’と一体化された樹脂成形体が得られる。以下同様にして複合成形体を製造する。