特許第6366675号(P6366675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366675
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】衛生用紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20180723BHJP
   A47K 10/16 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   D21H27/00 G
   A47K10/16 D
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-246232(P2016-246232)
(22)【出願日】2016年12月20日
(62)【分割の表示】特願2012-231395(P2012-231395)の分割
【原出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2017-95856(P2017-95856A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】小澤 秀和
【審査官】 弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/105135(WO,A1)
【文献】 特開2012−110407(JP,A)
【文献】 特開2011−224151(JP,A)
【文献】 特開2001−262489(JP,A)
【文献】 特表2003−512542(JP,A)
【文献】 特開平09−296389(JP,A)
【文献】 特表平09−506683(JP,A)
【文献】 特表平08−500860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00− 11/14
D21D 1/00− 99/00
D21F 1/00− 13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00− 27/42
D21J 1/00− 7/00
A47K 7/00、 10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ティシュペーパー用の原紙の表面に、水溶性柔軟剤及び/又は水溶性保湿剤を含む風合い改善剤を、当該原紙に対する乾燥繊維重量比で10〜14.3wt%塗着する衛生用紙の製造方法であって、
前記原紙の抄紙工程で、ヤンキードライヤーの出口から前記原紙を巻き取るリールの間で、前記原紙の少なくとも片面に、前記巻き取り方向に垂直な方向にそれぞれ3.2〜10mmの間隔で離間する直径0.5〜2.0mmの複数のオリフィスを接触させ、該オリフィスから前記風合い改善剤を、該オリフィスの軸方向長さ1m当り720〜1900ml/分吐出し、
前記オリフィスに対向し、前記風合改善剤を塗付する位置のウェブの裏面側に、バックアッププレート又はバックアップロールを設け、
前記オリフィスはヘッダの所定位置に開口され、少なくとも前記オリフィスが開口した部分の前記ヘッダの外面が円弧状をなし、当該円弧状の面に前記原紙が接し、前記ヘッダの軸方向から見たとき、前記円弧状の面に接する前記原紙の最上流の位置から最下流の位置へ至る円弧の中心角θ=30〜90°であり、かつ前記オリフィスはθ/2よりも上流側に位置し、
前記オリフィスより下流側にて、前記原紙をディフュージングプレートにより支持して前記円弧状の面に接しさせる衛生用紙の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性柔軟剤は、炭素数8〜24の脂肪族基を含む界面活性剤、水溶性オルガノポリシロキサン、及び該水溶性オルガノポリシロキサンの水溶性誘導体の群から選ばれる少なくとも1つからなり、
前記水溶性保湿剤は、多価アルコール、糖類、及びアミノ酸系化合物の群から選ばれる少なくとも1つからなる請求項1記載の衛生用紙の製造方法。
【請求項3】
前記オリフィスより上流側にて、前記原紙を支持ロールにより押圧して前記円弧状の面に接しさせる請求項1又は2記載の衛生用紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティシュペーパーやトイレットペーパーなどの衛生用紙に柔軟剤や保湿剤を塗着させて表面性と柔軟性を改善した衛生用紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ティシュペーパーやトイレットペーパーの柔軟性を改善するため、繊維を薬品により柔軟処理する技術として、一定範囲の繊維長及び繊維粗度を有する針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプを特定の範囲で配合し、この紙料に柔軟剤を内添した後、さらにポリエチレンオキサイド等の分散剤を内添して湿紙を形成し、その後クレープ処理をすることにより、嵩高で柔軟なクレープ紙を得る技術が開示されている(特許文献1)。
又、ティシュペーパーやトイレットペーパーのウェブの表面にスプレー等で薬液を塗布(外添)して柔軟性を改善する技術として、ヤンキードライヤー又はプレスパート上のシートに、カチオン系化合物、非イオン界面活性剤、有機酸又は無機酸、及び有機溶剤からなる自己乳化型柔軟組成物を付与する技術が開示されている(特許文献2)。
さらに、ティッシュペーパーの折り加工設備で、スプレーや印刷により柔軟剤や保湿剤からなる薬剤成分を塗布する技術が開示されている(特許文献3,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−097191号公報
【特許文献2】特開2008−223161号公報
【特許文献3】特開2004‐218151号公報
【特許文献4】特開2007‐61143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ペーパーマシンで柔軟成分や保湿成分を含む水溶性の風合い向上剤を直接ウェブに塗付(抄紙機でオンライン塗工)すると、ウェブ形成後の二次工程で塗付する場合に比べて工程の簡略化が図られ、設備及び製造に係るコストの改善効果が大きい。しかし、水溶性の風合い改善剤をペーパーマシンでウェブに塗付すると液ダレや外観不良が生じやすい問題がある。
従って本発明は、ペーパーマシンでウェブへ水溶性の風合い改善剤をオンラインで付与した場合に液ダレや外観不良が発生しにくい衛生用紙の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の衛生用紙の製造方法は、ティシュペーパー用の原紙の表面に、水溶性柔軟剤及び/又は水溶性保湿剤を含む風合い改善剤を、当該原紙に対する乾燥繊維重量比で10〜14.3wt%塗着する衛生用紙の製造方法であって、前記原紙の抄紙工程で、ヤンキードライヤーの出口から前記原紙を巻き取るリールの間で、前記原紙の少なくとも片面に、前記巻き取り方向に垂直な方向にそれぞれ3.2〜10mmの間隔で離間する直径0.5〜2.0mmの複数のオリフィスを接触させ、該オリフィスから前記風合い改善剤を、該オリフィスの軸方向長さ1m当り720〜1900ml/分吐出し、前記オリフィスに対向し、前記風合改善剤を塗付する位置のウェブの裏面側に、バックアッププレート又はバックアップロールを設け、前記オリフィスはヘッダの所定位置に開口され、少なくとも前記オリフィスが開口した部分の前記ヘッダの外面が円弧状をなし、当該円弧状の面に前記原紙が接し、前記ヘッダの軸方向から見たとき、前記円弧状の面に接する前記原紙の最上流の位置から最下流の位置へ至る円弧の中心角θ=30〜90°であり、かつ前記オリフィスはθ/2よりも上流側に位置し、前記オリフィスより下流側にて、前記原紙をディフュージングプレートにより支持して前記円弧状の面に接しさせる。


【0006】
前記水溶性柔軟剤は、炭素数8〜24の脂肪族基を含む界面活性剤、水溶性オルガノポリシロキサン、及び該水溶性オルガノポリシロキサンの水溶性誘導体の群から選ばれる少なくとも1つからなり、前記水溶性保湿剤は、多価アルコール、糖類、及びアミノ酸系化合物の群から選ばれる少なくとも1つからなることが好ましい。
前記オリフィスより上流側にて、前記原紙を支持ロールにより押圧して前記円弧状の面に接しさせることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、ペーパーマシンでウェブへ水溶性の風合い改善剤をオンライン付与した場合に液ダレや外観不良が発生しにくく、ウェブ形成後の二次工程で水系風合い改善剤を塗付する工程が省略できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る衛生用紙を製造するペーパーマシンの一例を示す図である。
図2】ヘッダ及びオリフィスの構成を示す斜視図である。
図3】ヘッダの軸方向から見たときの、ヘッダ外面への原紙の接触状態を示す図である。
図4】支持ロール及びディフュージングプレートの構成を示す斜視図である。
図5】オリフィスから原紙表面に水溶性保湿成分が塗工される状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の好ましい実施形態に基づき図面と共に説明するが、これらは例示の目的で掲げたものでこれらにより本発明を限定するものではない。
図1を参照し、本発明の実施形態に係る衛生用紙の製造方法について説明する。まず、抄紙原料を貯蔵する原料タンク1から抄紙原料を供給し、さらに白水により希釈して紙料を調製する。この紙料を脱気スクリーニング除塵後、ファンポンプ2でストックインレット3に送る。ストックインレット3は、抄紙機のワイヤー全幅に、均一でフロック(小さな塊)がなく、流れ縞を生じないように繊維をよく分散させた紙料を、適正な濃度、速度、角度でワイヤー上に供給する。ストックインレット3としては、高所に大気開放で設置されるヘッドボックス、加圧式、ハイドローリック式などがあるがいずれを採用しても良い。
そして、ストックインレット3からワイヤー4及びフェルト5の間に紙料をジェット吐出し、フェルト5上にシート(ウェブ、湿紙、特許請求の範囲の「原紙」に相当)100を形成する。なお、図1は、クレセントフォーマーを例示するが、湿紙の形成は、丸網式、長網(フォードリニアー)式、サクションブレスト式、短網式、ツインワイヤー式のいずれを採用しても良い。
【0010】
ワイヤー4及びフェルト5の間に形成されたウェブ100は、プレッシャーロール7でヤンキードライヤー8に密着転送される。次に、ウェブ100はヤンキードライヤー8及びヤンキードライヤーフード9により乾燥され、さらにクレーピングドクター11によりクレーピング処理されながらヤンキードライヤー8から剥がされ、リールドラム13を介してリール14に巻き取られる。ヤンキードライヤー8は、ウェブを乾燥させるための鋳鉄又は鋳鋼製のドラムであり、外径は一般には2.4〜6mである。
ここで、クレーピングは、紙を縦方向(マシン走行方向)に機械的に圧縮してクレープと称される波状の皺を形成する方法であり、衛生用紙に嵩(バルク感)、柔らかさ、吸水性、表面の滑らかさ、美観(クレープの形状)などを付与する。そして、ヤンキードライヤー8とリール14の速度差(リールの速度がヤンキードライヤーより遅い)により、クレーピングドクター11でクレープが形成される。クレープの特性は、上記速度差にもよるが、ヤンキードライヤー8上の原紙の坪量が7〜40g/m2であれば、リール14上での坪量は概略9〜50g/m2となり、ヤンキードライヤー8上の坪量より大きくなる。
【0011】
ヤンキードライヤー8とリール14の速度差に基づくクレープ率は次式により定義される。
クレープ率(%)=100×(ヤンキードライヤー速度(m/分)−リール速度(m/分))÷リール速度(m/分)
クレープの品質やクレーピングの操業性は、クレープ率によってほぼ決まり、本発明において、クレープ率は10〜50%の範囲が好適である。
【0012】
又、クレーピング処理を最適に行うためにヤンキースプレー10を使用すると好ましい。ヤンキースプレーから所定の付着剤をドライヤー8表面又はウェブ100に塗着することにより、ヤンキードライヤー8にウェブが貼りつき、上述の通りクレーピングドクター11によりクレーピング処理が可能となる。
上記付着剤の成分としては、ハーキュリス社のクレプトロール190を代表例とするポリアミドポリアミン樹脂(PA樹脂)やポリアミドアミンエピクロルヒドリン(PAE樹脂)、カチオン性ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミド可塑剤付加品、ポリアミドソフナー付加品、変性ポリアミドアミン、ポリビニルアセテートなどが挙げられ、これらを単独又は混合して使用することができる。
また、ヤンキードライヤー8からのウェブ100の剥がれを良くする剥離剤として、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、植物油、動物油、高級脂肪酸、炭化水素化合物、非イオン界面活性剤、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール油脂のエステル化物、シリコーン系化合物、ジプロピレングリコール、トリエタノールアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどを単独又は2種以上混合して使用することができる。
最適なクレーピング処理を得るため、これら付着剤及び/又は剥離剤の濃度を適宜調整し、ヤンキードライヤー8表面にスプレー噴霧することができる。
【0013】
ヤンキードライヤー8の出口からリール14の間に円筒状のヘッダ60が配置され、ヘッダ60の表面には図2に示すオリフィス61が多数開口している。そして、ウェブ100の少なくとも片面にオリフィス61を接触させ、オリフィス61から風合い改善剤を吐出してウェブ100表面に、水溶性柔軟剤及び/又は水溶性保湿剤を含む風合い改善剤を塗着する。
風合改善剤を原紙に塗着する位置は、衛生用紙を巻取るリールドラム13直前が好ましく、この位置にヘッダ60(オリフィス61)を配置すればよい。又、風合改善剤を塗付する位置のウェブの裏面側に、バックアッププレート又はバックアップロールを設けることで、風合改善剤の裏抜けを捕捉し風合い改善剤を回収できる。
なお、図1の符号17はマシンカレンダーを示す。
【0014】
図2に示すように、ヘッダ60はウェブ100の巻取り方向(MD方向)に垂直な方向(CD方向)を軸方向として設置され、CD方向に沿うヘッダ60の外面には、複数のオリフィス61(円形の流出口)がそれぞれ間隔dで離間して開口している。なお、間隔dとは、隣接するオリフィス61の縁同士の距離であり、隣接するオリフィス61の中心同士の距離ではない。
又、ヘッダ60のオリフィス61と反対側には液の供給パイプ63が複数本延び、供給パイプ63からヘッダ60内に上記水溶性保湿成分及び柔軟成分を、ヘッダ60の長手方向に流量が均一になるように供給しつつ、オリフィス61から水溶性保湿成分及び柔軟成分を吐出するようになっている。そして、ウェブ100をオリフィス61に連続的に接触させながら巻き取ると、オリフィス61からウェブ100表面に上記水溶性保湿成分及び柔軟成分が筋状に塗工される。
ヘッダ60内では、供給パイプ63からの薬液流入により長手方向の流速分布が生じ、これによりオリフィス61からの吐出量にバラツキが生じることがある。これを緩和するため、ヘッダ60の内径は20〜45mmとするのが好ましく、35〜45mmとするのがより好ましい。又、オリフィス61は円形に限らず、楕円等の形状でもあっても良い。
又、ヘッダ60は完全な円筒でなくてもよく、少なくともオリフィス61が開口した部分のヘッダ60外面が円弧状をなしていれば、半円筒等の形状であってもよい。
また、強度がやや影響するものの、塗工後にエンボス加工してもよい。その場合にはエンボスが鮮明かつ成型が良い。
【0015】
オリフィス61の直径を0.5〜2.0mmとし、オリフィス61間の間隔dを3.2〜10mmとする。オリフィス61の直径は、0.8〜1.5mmが好ましく、オリフィス61間の間隔は、3.2〜8.5mmが好ましい。間隔dが3.2mm未満であると、塗工時に非塗工部の領域が狭くなるために、ウェブ100の走行速度が400m/分以上の高速で原紙の強度が低下し断紙する。dが10mmを超えると、一定の塗工量を確保するために個々のオリフィス61からの吐出量が増え、非塗工部との境界ムラ(縞模様)が大きくなり、ウェブ100の縮みムラ(シワシワ)が生じやすくなると共に、非塗工部の擦れから生じる紙粉の発生量も大きくなる。オリフィス61の直径が0.5mm未満であると、オリフィス詰まりが生じやすく、2.0mmより大きいと吐出量にバラツキが生じやすい。なお、オリフィス61が円形で無い場合、その面積と同一の円の直径を用いる。
【0016】
図3は、ヘッダ60の軸方向から見たときの、ヘッダ60外面へのウェブ100の接触状態を示す図である。ヘッダ60外面に接するウェブ100の最上流の位置をPとし、最下流の位置をQとすると、PからQへ至るヘッダ60外面で構成される円弧の中心角θが30〜90°であり、かつオリフィス61がθ/2(図3の位置T)よりも上流側に位置することが好ましい。ここで、中心角θは、∠POQ(Oはヘッダ60の中心)である。
これにより、オリフィス61から吐出される薬液とウェブ100との接触時間が増え、ウェブ100への薬液のなじみが良くなる。
【0017】
図4は、ヘッダ60近傍に配置した、支持ロール70及びディフュージング(拡散(Diffuse))プレート71の構成を示す斜視図である。
ウェブ100の表面がオリフィス61(ヘッダ60)に密着するよう、オリフィス61より上流側にて、支持ロール70でウェブ100の塗工面と反対面をオリフィス61近傍のヘッダ60外面に近接させるとよい。支持ロール70を設けると、オリフィス61から吐出される薬液とウェブ100との接触時間が更に長くなり、液ダレも防ぐことができる
又、オリフィス61より下流側にて、ディフュージングプレート71によりウェブ100の塗工面を支持するとよい。ディフュージングプレート71を設けると、ディフュージングプレート71上でウェブ100の薬液の拡散が促進され、ウェブ100への薬液の馴染みが更に良くなる。
なお、ウェブ100の走行方向に沿う、ディフュージングプレート71の長さは40〜80mmが望ましい。この長さが40mmより短いと、上記したウェブ100への薬液の馴染み効果が小さく、80mmより大きいとウェブ100が接触により擦られ、紙粉が発生することがある。
【0018】
また、ウェブ100をヘッダ60に接触させて滑走させるため、ウェブ100から紙粉が生じてオリフィス61の周辺に堆積することがあるが、エアーパージによる除去や、ヘッダ60表面の潤滑コーティング処理等によって対処することができる。また、オリフィス61を有するヘッダ60を、CD方向に5〜20mmの振幅でウェブ100に対して摺動させると、オリフィス61周辺への紙粉堆積を有効に防ぐことができる。なお、オリフィス61からウェブ100に吐出される塗工液は、直線筋状でなく、CD方向に振幅する波形の筋状となるが、吐出後の塗工液はウェブ100全面に均一に拡散し、筋模様は消える。ヘッダ60の摺動は、例えば、図2に示すようにヘッダ60の横にエアーシリンダー80、電磁弁式切替バルブ90を設置することにより行うことができる。
【0019】
図5は、オリフィス61からウェブ100表面に上記水溶性保湿成分及び柔軟成分が塗工される状態を示す。塗工直後(図5(a))では、オリフィス61に対応した間隔dで塗工部4aがMD方向に沿って筋状に形成され、隣接する塗工部4a間が非塗工部4bになっている。つまり、塗工部4aはMD方向に連続するが、CD方向には連続しない。そして、塗工部4aでは水溶性保湿成分及び柔軟成分を含むためにウェブ100の強度が低下するが、MD方向がCD方向に比べて強度が高いため、MD方向に沿って塗工部4aを設けることでウェブ100が断紙し難くなり、安定して生産を行うことができる。又、パターン印刷で塗工した場合のように、印刷領域で嵩が著しく低下することが無い。
そして、塗工してしばらく経過すると(図5(b))、ウェブ100の紙(セルロース)繊維と親和性の高い水溶性保湿成分及び柔軟成分がウェブ100のCD方向に浸透して非塗工部4bに流れ、通常1〜5分経過後にウェブ100の全面に水溶性保湿成分及び柔軟成分が浸透し、筋(縞)模様が消える。このようにして、水溶性保湿成分及び柔軟成分が全面に塗布された衛生用紙を製造することができる。
【0020】
<原紙>
ティシュペーパー用又はトイレットペーパー用の原紙は、パルプを含む抄紙原料を抄紙して製造される。パルプは、例えば針葉樹パルプ又は広葉樹パルプなどのバージンパルプや、古紙から再生した古紙パルプを用いることができる。これらパルプは衛生用紙の品質に大きく影響するので、要求品質に合わせて所定の種類及び配合割合で適宜配合される。抄紙原料は、要求品質及び操業の安定のために様々な薬品を添加(内添)してもよく、これら薬品としては、柔軟剤、嵩高剤、染料、分散剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力剤、濾水向上剤、ピッチコントロール剤、歩留向上剤などが挙げられる。
原紙は例えば、坪量7〜40g/m2とすることができる。
【0021】
又、原紙としてトイレットペーパーを用いて後述の風合い改善剤を塗布する場合、風合い改善剤塗布時の水分の吸収によって紙力低下を招いて紙切れ等のトラブルを起こし操業性が悪化することがある。これは、通常のトイレットペーパーは湿潤紙力増強剤を含まないためであるり、風合い改善剤の塗布量(水分を含む液量)が5〜6wt%を超えると紙切れ等のトラブルが顕著となる。そこで、原紙としてトイレットペーパーを用いる場合であって、風合い改善剤の塗布量が水分を含む液量として原紙の乾燥繊維重量の6wt%を超える場合には、原紙に風合い改善剤を塗布して湿潤する一時(即ち風合い改善剤の塗布直後からウェブの巻取り工程に至るまでの数秒間)は原紙の湿潤強度を維持し、衛生用紙となった後の使用時(水洗トイレなどの大量の水分下)では一定時間経過後に湿潤強度を失うよう、一時性湿潤紙力増強剤をトイレットペーパーに内添することで、風合い改善剤を液量として10wt%まで安定して添加することができる。
【0022】
具体的には、トイレットペーパー用の原紙を、JIS P8113に従い、幅25mm、つかみ間隔100mmとした短冊状の試験片での乾燥時の引張り強さと、該試験片の両掴み部の間の中央部分を含み短冊の長辺に沿って長さ10mm以上で、かつ試験片の幅方向全体にわたる領域を湿潤させた時の引張り強さと、を測定したとき、湿潤直後の強度が湿潤前の強度の10%以上であり、湿潤後60秒経過したときの強度が湿潤直後の強度に対して20%以上低下するよう、一時性湿潤紙力増強剤を添加する。一時性湿潤紙力増強剤としては、ポリアクリルアミド、ポリアミド・エピクロヒドリン、グリオキザール・ポリアクリルアミド共重合物、ジアルデヒドスターチ又はカチオン変性デンプン等が挙げられる。一時性湿潤紙力増強剤の添加によるトイレットペーパー用の原紙強度は高いほど良いが、強度が高過ぎると強度の低下にも時間を要し、トイレットペーパーに必要な水溶解性が損なわれるので、湿潤後60秒後に湿潤強度がある程度(20%以上)失われて離解し易い状態になる必要がある。
【0023】
<風合い改善剤>
風合い改善剤は、水溶性柔軟剤及び/又は水溶性保湿剤を含み、水溶性である。風合い改善剤の原紙への添加量が水分を含む液量として、原紙がティシュペーパーの場合は乾燥繊維重量比で2〜15wt%であり、2〜10wt%であることが好ましい。一方、原紙がトイレットペーパーの場合は、乾燥繊維重量比で2〜10wt%である。原紙がティシュペーパーの場合、風合い改善剤の原紙への添加量が乾燥繊維重量比で2wt%未満であると、原紙の風合い改善効果が生じず、15%を超えても効果が飽和し、風合い改善剤が無駄になる。又、風合い改善剤の原紙への添加量が液量として乾燥繊維重量比で15wt%を超えると、風合い改善剤の水系成分と、原紙中のパルプの水和作用によりウェブの強度が低下し、巻シワが入りやすくなり、断紙の原因となる。又、原紙がトイレットペーパーの場合、一時性湿潤紙力増強剤をトイレットペーパーに内添した場合でも10wt%を超えると断紙が発生する。
【0024】
水溶性柔軟剤は、炭素数8〜24の脂肪族基を含む界面活性剤、水溶性オルガノポリシロキサン、及び該水溶性オルガノポリシロキサンの水溶性誘導体の群から選ばれる少なくとも1つからなる。炭素数8〜24の脂肪族基を含む界面活性剤としては、カチオン界面活性剤、ノニオン(非イオン)界面活性剤、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤があるが、カチオン界面活性剤又はノニオン界面活性剤が入手し易い。カチオン系界面活性剤としては、脂肪族第4級アンモニウム塩、脂肪族第1級アルキルアミン塩などの脂肪族のアンモニウム塩やアルキルアミン塩などがある。非イオン界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ジエチレングリコールモノステアレート、ジエチレングリコールモノオレエート、グリセリルモノステアレート、グリセリルモノオレート等がある。
なお、水溶性柔軟剤として、炭素数8〜24の脂肪族基を含むHLBが低い(10以下)ノニオン(非イオン)界面活性剤を用いた場合、カチオン界面活性剤と併用又はHLBの高い(12以上)非イオン界面活性剤と併用することで、HLBが低い(10以下)ノニオン界面活性剤に自己乳化性を付与し、水溶性化することもできる。
水溶性オルガノポリシロキサンとしては、ポリエーテル変性シリコーンであるポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体、エマルジョン化したアミノ変性シリコーンであるアミノエチルアミノプロピルメチルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体等が挙げられる。
水溶性柔軟剤は、「滑らかさ」や「ふんわり感」を与える。従って、風合い改善剤が水溶性柔軟剤を含み、水溶性保湿剤を含まない場合、「滑らかさ」や「ふんわり感」のみが得られる。
【0025】
水溶性保湿剤は、多価アルコール、糖類、及びアミノ酸系化合物の群から選ばれる少なくとも1つからなる。多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。糖類としては、ソルビトール、キシリトール、グルコース等が挙げられる。アミノ酸系化合物としては、例えばPCAソーダ(味の素社製)が挙げられる。
水溶性保湿剤は、「しなやかさ」や「しっとり感」を与える。従って、風合い改善剤が水溶性保湿剤を含み、水溶性柔軟剤を含まない場合、「しなやかさ」や「しっとり感」のみが得られる。風合い改善剤が水溶性保湿剤と水溶性柔軟剤を共に配合する場合は、両者の特性が得られる。
【0026】
上記した炭素数8〜24の脂肪族基を含む界面活性剤の原紙への添加量が、原紙の乾燥繊維重量比で0.2〜5wt%であり、水溶性オルガノポリシロキサンと該水溶性オルガノポリシロキサンの水溶性誘導体の前記原紙への合計添加量が乾燥繊維重量比で0.02〜2wt%であることが好ましい。
又、上記した水溶性保湿剤の原紙への添加量が乾燥繊維重量比で1〜15wt%であることが好ましい。
なお、上記したように、衛生用紙はクレーピングされていることが好ましい。
【0027】
また、塗布する水溶性保湿成分及び柔軟成分の液粘度は25℃で200cP(mPa・s)以下であれば安定して塗工でき、より望ましくは20〜100cP(mPa・s)である。粘度が高すぎると原紙への移行が悪くなり、ムラが生じやすく塗布スピードも低下することがある。
【0028】
本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
ウェブ100の両面に塗工する場合は、2個のヘッダ60をそれぞれウェブ100の表裏に置くのが好ましく、その場合には、ウェブ100表面の塗工部4aと裏面の塗工部4aとの位置をずらした方がよい。
なお、溶媒である水は、原紙中のパルプ繊維の水素結合を破壊することから、水溶性保湿成分及び柔軟成分を水で希釈する場合、水溶性保湿成分及び柔軟成分が50質量%以上であることが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は勿論これらの例に限定されるものではない。
【0030】
<実験例A>
図1に示すペーパーマシンにて、原紙(トイレットペーパー、坪量17.6g/m2、NBKP40wt%、LBKP60wt%)の原料を配合して抄紙し、リールドラム13直前で以下の風合改善剤を原紙の片面に、ヘッダ60(オリフィス61)を用いて原紙の乾燥繊維重量あたり表1に示す量(液量)塗着し、衛生用紙を得た。
風合改善剤:ポリエーテル変性ジメチルシリコーン1wt%とグリセリン99wt%とからなる水溶液であり、比重1.25g/cm3、粘度70cp (25℃)とした。
風合い改善剤の塗着量は、熱水抽出及びトルエン抽出により各実施例及び比較例の塗着量を実測し、ブランクの抽出分量を差し引いて求めた。
なお、ヤンキースプレー10から以下の付着剤をウェブ100に塗着した後、クレーピングドクター11によりクレーピング処理を行った。又、ヤンキードライヤー8に以下の剥離剤を塗布してクレーピング処理後にウェブ100の剥がれを良くした。
付着剤:クレプトロールA6115(理研グリーン製)
剥離剤:サントールFT(日華化学製)
【0031】
<実験例B>
図1に示すペーパーマシンにて、原紙(ティッシュペーパー、坪量13.8g/m2、NBKP40wt%、LBKP60wt%)の原料を配合し、湿潤紙力増強剤(アラフィックス255 荒川化学工業株式会社製)0.2wt%添加)を加えて抄紙し、リールドラム13直前で風合改善剤を原紙の片面に、ヘッダ60(オリフィス61)を用いて原紙の乾燥繊維重量あたり表2に示す量(液量)塗着し、衛生用紙を得た。
風合改善剤の組成、及びその塗着量の測定は、実験例Aと同様とした。
なお、ヤンキースプレー10から以下の付着剤をウェブ100に塗着した後、クレーピングドクター11によりクレーピング処理を行った。又、ヤンキードライヤー8に以下の剥離剤を塗布してクレーピング処理後にウェブ100の剥がれを良くした。
付着剤:クレプトロールA6115(理研グリーン製)
剥離剤:サントールFT(日華化学製)
【0032】
<測定>
1.坪量
最終的な衛生用紙の坪量(g/m)をJIS P8124に準じて測定した。
2.厚み
最終的な衛生用紙の厚み(mm/10枚)を、40g/cmの荷重下でPeacockダイヤルゲージで測定した。
3.ハンドフィール
衛生用紙の風合改善剤の塗着面につき、塗着後2日経過後に5人のパネラーにより触感評価を行った。5段階(5:非常に優れている、4:優れている、3:普通、2:やや劣る、1:劣る)で評価し、5人の平均値とした。評点が「3」以上であれば実用上問題はない。
4.液だれ
液だれの有無は、ペーパーマシンを操業中の風合改善剤の塗着面の状態を目視にて判定した。
5.外観
外観は、得られた衛生用紙につき、目視により以下の基準で評価した。評価が○であれば実用上問題はない。
○:シワ等の発生がない
△:シワの発生がある
×:塗工ムラがある
【0033】
得られた結果を、トイレットペーパー(実験例A)につき表1に示し、フェイシャルティシュペーパー(実験例B)につき表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表1、表2から明らかなように、各実施例の場合、原紙(ティシュペーパー又はトイレットペーパー)に、ヤンキードライヤーの出口からリールの間でオリフィスにより、水溶性の風合い改善剤を所定量塗着したため、風合い改善効果が十分に得られ、ハンドフィールに優れると共に、液だれや外観不良も生じなかった。
【0037】
一方、水溶性の風合い改善剤を塗着しなかった比較例1、11の場合、風合い改善効果が得られず、ハンドフィールが劣った。
風合い改善剤をオフラインでグラビア塗工した比較例2,12の場合、風合い改善効果は得られたが、実施例に比べて紙厚が低下してシワが発生し、外観が劣った。
オリフィスからの風合い改善剤の吐出量が、オリフィスの軸方向長さ1m当り1900ml/分を超えた比較例3の場合、風合い改善剤が多量に塗着し、風合い改善効果は得られたが、液だれや外観不良が生じた。
オリフィスからの風合い改善剤の吐出量が、オリフィスの軸方向長さ1m当り720ml/分未満である比較例4の場合、風合い改善剤の塗着量が少なく、風合い改善効果が得られず、ハンドフィールが劣った。
図3に示す中心角(ラップ角)θが30°未満である比較例5、及びθが90°を超えた比較例6の場合、いずれもヘッダ外面への原紙の接触時間が短くなり、原紙への薬液のなじみが少なくなって液だれが生じた。
オリフィスの間隔が10mmを超えた比較例7、15の場合、塗工ムラによる外観不良が生じた。
オリフィスの直径が2.5mmを超えた比較例8、16の場合も、塗工ムラによる外観不良が生じた。
【0038】
フェイシャルティシュペーパーの製造において、図4に示すディフュージングプレートを用いなかった比較例13,14の場合も、ヘッダ外面への原紙の接触時間が短くなり、原紙への薬液のなじみが少なくなって液だれが生じた。
【符号の説明】
【0039】
5 フェルト
8 ヤンキードライヤー
13 リール
100 原紙
図1
図2
図3
図4
図5