特許第6366683号(P6366683)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6366683熱処理微粉ポリアリーレンスルフィド、及び該熱処理微粉ポリアリーレンスルフィドを製造する製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366683
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】熱処理微粉ポリアリーレンスルフィド、及び該熱処理微粉ポリアリーレンスルフィドを製造する製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/0277 20160101AFI20180723BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C08G75/0277
   C08J3/12
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-510441(P2016-510441)
(86)(22)【出願日】2015年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2015059217
(87)【国際公開番号】WO2015147090
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-62259(P2014-62259)
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】昆野 明寛
(72)【発明者】
【氏名】大澤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】河間 博仁
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−016142(JP,A)
【文献】 特開2007−106784(JP,A)
【文献】 特開2007−002172(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/147141(WO,A1)
【文献】 特表2002−533546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/0277
C08J 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理微粉ポリアリーレンスルフィドを製造する製造方法であって、下記の工程;
(a)有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させる重合工程;
(b)生成した粒状ポリアリーレンスルフィドを含有する反応液から、固液分離により平均粒径が130〜1500μmである粒状ポリアリーレンスルフィドと分離液とに分離する分離工程;
(c)該分離液を固液分離し、原料微粉ポリアリーレンスルフィドを得る固液分離工程;
(d)該原料微粉ポリアリーレンスルフィドを、0〜10℃、0.3〜10時間、不活性ガス雰囲気下でプレ熱処理してプレ熱処理原料微粉ポリアリーレンスルフィドを得るプレ熱処理工程;
(e)該プレ熱処理原料微粉ポリアリーレンスルフィドを、160〜260℃、1〜5時間熱処理して、平均粒径1〜80μmの熱処理微粉ポリアリーレンスルフィドを得る熱処理工程;
を含む熱処理微粉ポリアリーレンスルフィドを製造する製造方法。
【請求項2】
前記分離工程を、目開き径75〜180μmの範囲の少なくとも1つのスクリーンで行う請求項記載の製造方法。
【請求項3】
前記プレ熱処理工程を、減圧で行う請求項または記載の製造方法。
【請求項4】
前記プレ熱処理工程前に、水、アルコール、アセトン、酢酸、酢酸塩、塩酸、またはこれらから選ばれる混合物により、原料微粉ポリアリーレンスルフィドを洗浄する洗浄工程を配置する請求項乃至のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程を、不活性ガス雰囲気下で行う請求項乃至のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記固液分離工程前に、予備固液分離工程、副生アルカリ金属塩除去工程を配置する請求項乃至のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合工程、分離工程を含む製造方法により粒状ポリアリーレンスルフィドを製造する際に、分離工程での分離液から製造された熱処理微粉ポリアリーレンスルフィド、及び該熱処理微粉ポリアリーレンスルフィドを製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略記することがある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、「PAS」と略記することがある。)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れたエンジニアリングプラスチックである。PASは、押出成形、射出成形、圧縮成形などの一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能であるため、電気機器、電子機器、自動車機器、包装材料などの広範な技術分野において汎用されている。
【0003】
PASの代表的な製造方法としては、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記することがある。)などの有機アミド溶媒中で、パラジクロルベンゼン(以下、「pDCB」と略記することがある。)などのジハロ芳香族化合物(以下、「DHA」と略記することがある。)と、硫黄源としてのアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物等の硫黄化合物とを加熱条件下で重合反応させて得られるPAS含有反応液からPASを分離し、洗浄、乾燥を経て回収する方法がよく知られている。
【0004】
この重合反応は、脱塩重縮合反応であり、反応物であるPASの他に、例えば、アルカリ金属ハロゲン化物(例えば、NaCl)などの副生アルカリ金属塩、ダイマー、トリマー等の低重合物、不純物(揮発性物質、高沸点物質等)等が生成する。このため、重合反応後のPASの粒子間や粒子内あるいは反応液には、これら有機アミド溶媒、副生アルカリ金属塩、低重合物、不純物等が存在することとなる。したがって、PAS含有反応液から分離したPASは、充分な洗浄により、有機アミド溶媒、副生アルカリ金属塩、低重合物、不純物等を除去した上で、回収することにより、製品としてのPASの品質の維持向上を図っている。
【0005】
一方、PAS含有反応液から固液分離によりPASを分離した分離液には、微細な粒子状PAS(以下、「原料微粉PAS」と略記することがある。)が含まれている。しかし、この原料微粉PASは、製品のPASに比べ、品質面(分子量、色調、におい、ガス発生等)で劣るため、製品として回収されずに廃棄されている。原料微粉PASの廃棄は、具体的には、廃棄する際の環境基準に適合させるために、分離液から濾別等による固液分離により原料微粉PASを回収し、次いで、必要に応じて、原料微粉PASの微粉間や微粉内に存在する有機アミド溶媒、副生アルカリ金属塩、低重合物、不純物等を洗浄により除去し、環境基準への適合を確認した上で廃棄処分(例えば、埋め立てや焼却など)されているのが現状である。
【0006】
また、原料微粉PASを製品化したとしても、製品となる量は少ないため、工業的に利用価値がなく、廃棄しても問題は少なかった(以下、原料微粉PASを回収して、製品化した場合、その量を「製品化率」と略記することがある)。
【0007】
しかし、PASは市場化されてから、約30年経過し、品質に対する要求と共に、コスト低減に対する市場からの要求は、年々厳しさを増している。そのため、PASの製造工程の全般にわたって見直しが行われてきている。
【0008】
このような中で、PASのコスト低減及び環境問題の観点から、分離液から回収されて、従来廃棄処分をされてきた原料微粉PASも、製品として回収する方向で検討が進められてきた。
【0009】
特許文献1には、具体的には、反応温度260℃で3.0時間重合を行った後、60メッシュのスクリーンで粒状のポリマーを分離し、分離液からNaClを除いた後の、PASオリゴマーと溶媒とが含まれている混合液に、水を加えてオリゴマーの凝集をした後に、遠心分離によりPASオリゴマーを分離することが提案されている。
【0010】
この場合、60メッシュは目開き250μmであるから、250μm以下の粒径のオリゴマーを選択していることになる。すなわち、特許文献1では、重合方法に由来してか、250μm以上の粒径のPASポリマーを製品化し、粒径250μm以下のPASオリゴマーを分離していることになる。
【0011】
特許文献2には、相分離剤を用いて、重合を行い、顆粒状PAS、PASオリゴマー、有機極性溶媒、水、及びハロゲン化アルカリ金属塩を含有するスラリーから、PASオリゴマーを分離することが提案されている。具体的には、80メッシュ(175μm)の篩で顆粒状PASを分離した後、さらに、目開き10〜16μmのガラスフィルターで、PASオリゴマーを分離している。この場合、得られるPASオリゴマーは、下限が10〜16μm、上限が175μmの粒径分布のPASオリゴマーを選択していることになる。
【0012】
特許文献3には、特許文献2の手法で得たPASオリゴマーを、揮発分を低減させるために気相酸化性雰囲気下で150〜260℃で熱酸化処理するPAS樹脂の製造方法が提案されている。
【0013】
しかしながら、これらの先行文献には、分離液から回収される原料微粉PASを製品として回収する際の問題点や、正常品である製品に比べ品質上どのような問題があるのか、具体的な開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平5−93068号公報
【特許文献2】特開2007−2172号公報
【特許文献3】特開2007−16142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、市場からのコスト低減や環境問題改善の要望に応えるために、PAS含有反応液の固液分離により生ずる分離液から、濾別等による固液分離により固形分として回収した原料微粉PASを、製品化することを意図した。
【0016】
本発明者らは、原料微粉PASを、製品として回収することを阻害する主要な要因が、製品の粒状PASに比較して、(i)熱的に分解しやすい低重合物の比率が高いこと、(ii)微細な粒子状物(以下、「微粉」と略記することがある。)であることであり、さらには、(iii)揮発分低減等の改質目的として行われる熱処理が、目標どおりに機能していないこと、にあるのではないかと考えた。
【0017】
すなわち、PAS重合物は、分子量により熱的安定性が異なることが知られており、その中でもより低重合物が、より高分子量物のものに比べて、熱的に分解しやすい傾向にあり、原料微粉PASには、このような低重合物が多く含有されていることが問題となる。
【0018】
さらに、原料微粉PASに含有される低重合物は、微細な粒子状物である微粉の一部を形成しているため洗浄によって、容易に除去されるものではなく、その上微粉であるために、洗浄による効果が充分得られにくく、その結果有機アミド溶媒、副生アルカリ金属塩、不純物(揮発性物質、高沸点物質)等が微粉間と微粉内とに残存することとなり、原料微粉PASの製品化に当たって、品質への影響が大きくなるものと考えられる。
【0019】
本発明者らは、このような状況で、微粉PASの製品化に当たって、分離液からの濾別等の固液分離後のウエットケーキ状の原料微粉PASに従来行われている改質目的での熱処理等を行うと、熱履歴が厳密に調整されていないため、原料微粉PASの粒子の表面が、低重合物の熱分解により生成する熱分解生成物(例えば、硫黄含有ベンゼン系化合物、ハロゲン含有ベンゼン系化合物、窒素含有ハロゲン化合物、有機物、硫黄含有低沸点物等)を、発生ガスとして、微粉内から微粉外へ揮散しにくい構造となってしまうことを見出した。その結果、これらの熱分解生成物が、微粉内や微粉間に取り込まれ又は付着して残存することを見出した。
【0020】
このような状態の微粉PASを製品化した場合、例えば溶融成形加工中に、低重合物が熱分解して発生ガスとして揮散することで、成形表面を波状や皺状にしてしまうおそれが出るなどの品質上の問題や、作業環境を損なう等の安全・衛生上の問題を内包することになる。
【0021】
本発明者らは、原料微粉PASの製品化に際して、微粉のため、洗浄効果が充分発現されない場合においても、熱処理等を行う際の熱履歴を厳密に調整することにより、低重合物や、不純物が微粉外に揮散し易い微粉構造とすることで、低重合物や不純物等が微粉内に残存しにくい微粉PASとすることができること、および熱履歴の厳密な調整により微粉PASの溶融粘度や重量平均分子量が増大し、実用に充分耐える程に改善されることを見出し、これまで廃棄処分としていた原料微粉PASを、製品として回収することができることを見出した。
【0022】
このように、本発明者らは、粒状PASの製造において、従来廃棄されていた分離液からの少量の原料微粉PASの製品化を鋭意研究する中で、プレ熱処理及び熱処理という一連の工程を採用することによって、溶融成形加工時に発生ガスの生成が低減され、しかも溶融粘度や重量平均分子量も実用に充分耐える程に改善された微粉PAS(以下、「熱処理微粉PAS」と略記することがある。)を、高い製品化率で得ることができることを見出し、本発明を想到した。
【0023】
本発明は、重合工程、分離工程を含む製造方法により粒状PASを製造する際に、分離工程での固液分離により生ずる分離液から、溶融成形加工時の発生ガスの生成が低減され、しかも溶融粘度や重量平均分子量も実用に充分耐える程に改善された熱処理微粉PAS、および該熱処理微粉PASを製造する製造方法を提供することである。
【0024】
さらに、本発明は、製品化された熱処理微粉PASと、粒状PASとの樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
かくして、本発明によれば、熱処理微粉PASであって、
(i)該熱処理微粉PASが、
下記の工程:
有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させる重合工程;
生成した粒状PASを含有する反応液から、固液分離により粒状PASと分離液とに分離する分離工程;
を含む製造工程により粒状PASを製造する際に生じた該分離液から製造された熱処理微粉PASであり、
(ii)該熱処理微粉PASが、該分離液を固液分離して原料微粉PASを得て、次いで、該原料微粉PASを、プレ熱処理及び熱処理して得られた熱処理微粉PASであり、
(iii)該熱処理微粉PASの平均粒径が、1〜80μmであり、
(iv)該熱処理微粉PASの溶融粘度が、1Pa・s以上であり、かつ、
(v)該熱処理微粉PASの、発生ガス量が、10ppm以下である
熱処理微粉PASが提供される。
【0026】
また、本発明によれば、熱処理微粉PASを製造する製造方法であって、下記の工程;
(a)有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させる重合工程;
(b)生成した粒状PASを含有する反応液から、固液分離により粒状PASと分離液とに分離する分離工程;
(c)該分離液を固液分離し、原料微粉PASを得る固液分離工程;
(d)該原料微粉PASを、50〜150℃でプレ熱処理してプレ熱処理原料微粉PASを得るプレ熱処理工程;
(e)該プレ熱処理原料微粉PASを、熱処理して熱処理微粉PASを得る熱処理工程;
を含む熱処理微粉PASを製造する製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の熱処理微粉PASは、溶融粘度や重量平均分子量等の特性が実用に耐える程に充分改善されており、溶融粘度は、正常品である粒状PASの溶融粘度の50%から150%で、通常1Pa・s以上となっている。 さらに、本発明の熱処理微粉PASは、溶融成形加工時の発生ガスの生成が低減されており、成形工程での作業環境の改善につながると共に、製品化率が良好であるので、廃棄されていたものの再利用につながる。
【0028】
また、本発明の熱処理微粉PASを製造する製造方法は、従来廃棄されていた固液分離後の分離液からの熱処理微粉PASを製造する製造方法であるので、廃棄のために要していたコストが低減されると共に、廃棄物の減少という点で環境問題の改善にも役立つものである。
【0029】
本発明の熱処理微粉PASは、粒状PASのコンパウンドの一成分として混合することができ、コンパウンドの特性を損なうことがない。
このことにより、粒状PASの使用量を削減でき、更に、PASの製造コスト低減に大きく貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の熱処理微粉PASは、重合工程、分離工程を含む製造方法により粒状PASを製造する際に分離される分離液から製造された熱処理微粉PASであり、以下、下記I.II.では、先ず、粒状PASの製造に関して述べる。
【0031】
I.重合反応成分
1.硫黄源
硫黄源としてアルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源を使用する。アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物などを挙げることができる。アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物などを挙げることができる。
【0032】
アルカリ金属硫化物は、無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で、硫化ナトリウム及び硫化リチウムが好ましい。アルカリ金属硫化物は、水溶液などの水性混合物(すなわち、流動性のある水との混合物)として用いることが、処理操作や計量などの観点から好ましい。
【0033】
アルカリ金属水硫化物は、無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で、水硫化ナトリウム及び水硫化リチウムが好ましい。アルカリ金属水硫化物は、水溶液または水性混合物(すなわち、流動性のある水との混合物)として用いることが、処理操作や計量などの観点から好ましい。
【0034】
アルカリ金属硫化物の中には、少量のアルカリ金属水硫化物が含有されていてもよい。この場合、アルカリ金属硫化物とアルカリ金属水硫化物との総モル量が、必要により配置する脱水工程後の、重合工程で重合反応に供される硫黄源、すなわち「仕込み硫黄源」になる。
【0035】
アルカリ金属水硫化物の中には、少量のアルカリ金属硫化物が含有されていてもよい。この場合、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との総モル量が、仕込み硫黄源になる。アルカリ金属硫化物とアルカリ金属水硫化物とを混合して用いる場合には、当然、両者が混在したものが仕込み硫黄源となる。
【0036】
硫黄源がアルカリ金属水硫化物を含有するものである場合、アルカリ金属水酸化物を併用する。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で水酸化ナトリウム及び水酸化リチウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、水溶液または水性混合物として用いることが好ましい。
【0037】
PASの製造方法において、脱水工程で脱水されるべき水分とは、水和水、水溶液の水媒体、及びアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応などにより副生する水などである。
【0038】
2.ジハロ芳香族化合物
ジハロ芳香族化合物(DHA)は、芳香環に直接結合した2個のハロゲン原子を有するジハロゲン化芳香族化合物である。ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、同一ジハロ芳香族化合物において、2つのハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。これらのジハロ芳香族化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。ジハロ芳香族化合物の具体例としては、例えば、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等が挙げられる。これらの中でも、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、及びこれら両者の混合物が好ましく、p−ジハロベンゼンがより好ましく、p−ジクロロベンゼン(pDCB)が、特に好ましく用いられる。
【0039】
3.分岐・架橋剤
生成PASに分岐または架橋構造を導入するために、3個以上のハロゲン原子が結合したポリハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物、ハロゲン化芳香族ニトロ化合物等を併用することができる。分岐・架橋剤としてのポリハロ化合物として、好ましくはトリハロベンゼンが挙げられる。また、生成PAS樹脂に特定構造の末端を形成したり、あるいは重合反応や分子量を調節したりするために、モノハロ化合物を併用することができる。モノハロ化合物は、モノハロ芳香族化合物だけではなく、モノハロ脂肪族化合物も使用することができる。
分岐・架橋剤は、仕込み硫黄源1モル当たり0.0001〜0.01モル、好ましくは0.0002〜0.008モル、より好ましくは、0.0003〜0.005モルの範囲で用いられる。
【0040】
4.有機アミド溶媒
脱水反応及び重合反応の溶媒として、非プロトン性極性有機溶媒である有機アミド溶媒を用いる。有機アミド溶媒は、高温でアルカリに対して安定なものが好ましい。有機アミド溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム化合物;N−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン化合物またはN−シクロアルキルピロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン等のN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。これらの有機アミド溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
これらの有機アミド溶媒の中でも、N−アルキルピロリドン化合物、N−シクロアルキルピロリドン化合物、N−アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物が好ましく、特に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−メチル−ε−カプロラクタム、及び1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンが好ましく用いられ、NMPが特に好ましい。
【0042】
5.重合助剤
重合反応を促進させるために、必要に応じて、各種重合助剤を用いることができる。重合助剤の具体例としては、一般にPASの重合助剤として公知の水、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウムなどのアルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、パラフィン系炭化水素類、及びこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。有機カルボン酸金属塩としては、アルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。アルカリ金属カルボン酸塩としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。アルカリ金属カルボン酸塩としては、安価で入手しやすいことから、酢酸ナトリウムが特に好ましい。重合助剤の使用量は、化合物の種類により異なるが、仕込み硫黄源1モルに対し、通常0.01〜10モル、好ましくは0.1〜2モル、より好ましくは0.2〜1.8モル、特に好ましくは0.3〜1.7モルの範囲である。
【0043】
重合助剤が、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸塩、及びアルカリ金属ハライドである場合には、その使用量の上限は、仕込み硫黄源1モルに対し、好ましくは1モル以下、より好ましくは0.8モル以下であることが望ましい。
【0044】
6.相分離剤
重合反応を促進させ、高重合度のPASを短時間で得るために、または相分離を生起し粒状PASを得るために、各種相分離剤を用いる。相分離剤とは、それ自身でまたは少量の水の共存下に、有機アミド溶媒に溶解し、PASの有機アミド溶媒に対する溶解性を低下させる作用を有する化合物である。相分離剤自体は、PASの溶媒ではない化合物である。
【0045】
相分離剤としては、一般にPASの技術分野において、相分離剤として機能することが知られている化合物を用いることができる。相分離剤には、前記の重合助剤として使用される化合物も含まれるが、ここでは、相分離剤とは、相分離状態で重合反応を行う工程、すなわち相分離重合工程で相分離剤として機能し得る量比、または重合終了後その存在下で相分離を生起せしめるに十分な量比、で用いられる化合物を意味する。相分離剤の具体例としては、水、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウムなどのアルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、パラフィン系炭化水素類などが挙げられる。有機カルボン酸金属塩としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウムなどのアルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。これらの相分離剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの相分離剤の中でも、コストが安価で、後処理が容易な水、または水とアルカリ金属カルボン酸塩などの有機カルボン酸金属塩との組み合わせが、特に好ましい。
【0046】
相分離剤として水を使用する場合でも、相分離重合を効率的に行う観点から、水以外の他の相分離剤を重合助剤として併用することができる。相分離重合工程において、水と他の相分離剤とを併用する場合、その合計量は、相分離を起こすことができる量であればよい。相分離剤は、少なくとも一部は、重合反応成分の仕込み時から共存していてもかまわないが、重合反応の途中で相分離剤を添加して、又は重合反応後に相分離を形成するのに充分な量に調整することが望ましい。
【0047】
II.重合工程
PASの製造は、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させて粒状PASを生成させることで行われる。すなわち、本発明では、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させる重合工程は必須である。
【0048】
本発明では、粒状PASを製造する重合方法については、本発明を損なわない限り、如何なる重合方法でもよい。
【0049】
一般には、粒状PASを製造する重合方法としては、大別して(i)重合工程が相分離重合工程を含み、相分離重合後、徐冷する方法、(ii)重合反応後、相分離剤を添加し、徐冷する方法、(iii)塩化リチウム等の重合助剤を用いる方法、及び(iv)反応缶気相部分の冷却を行う方法等がある。
【0050】
中でも、重合条件を制御して、相分離剤の存在下、重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で行う重合反応の工程(以下、「相分離重合工程」と略記することがある。)を含む重合方法により粒状PASを製造した場合は、重合度の高い粒状PASが得られるため、篩のスクリーンの目開き径を小さくすることができる。したがって、重合度の高い製品の粒状PASの回収率を高める上で有利な重合方法となっている。
【0051】
すなわち、この場合の重合工程は、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させて粒状PASを生成させる際に、生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応させることを含む重合工程である。
この場合の重合工程を詳述する。
【0052】
1.仕込み工程
本発明の熱処理微粉PASを製造する製造方法に含まれる重合工程は、以下の仕込み工程を経て実施することができる。
仕込み工程は、所望により配置する脱水工程で系内に残存する混合物とジハロ芳香族化合物とを混合し、必要に応じてアルカリ金属水酸化物及び水を添加して、有機アミド溶媒、硫黄源(仕込み硫黄源)、アルカリ金属水酸化物、水分、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する。脱水工程で有機アミド溶媒の留出量が多すぎる場合は、仕込み工程で有機アミド溶媒を追加させてもよい。また、仕込み硫黄源を調整するために仕込み工程で硫黄源を追加させてもよい。一般に、脱水工程において各成分の含有量及び量比が変動するため、仕込み工程での各成分量の調整は、脱水工程で得られた混合物中の各成分の量を考慮して行う必要がある。
【0053】
ジハロ芳香族化合物の使用量は、仕込み硫黄源1モルに対し、通常0.90〜1.50モル、好ましくは0.92〜1.10モル、より好ましくは0.95〜1.05モルである。硫黄源に対するジハロ芳香族化合物の仕込みモル比が大きくなりすぎると、高分子量ポリマーを生成させることが困難になる。他方、硫黄源に対するジハロ芳香族化合物の仕込みモル比が小さくなりすぎると、分解反応が生じ易くなり、安定的な重合反応の実施が困難となる。
【0054】
特に、硫黄源としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、脱水工程で硫化水素が揮散すると、平衡反応により、アルカリ金属水酸化物が生成し、系内に残存することになる。したがって、揮散する量を正確に把握して、仕込み工程でのアルカリ金属水酸化物の硫黄源に対するモル比を決定する必要がある。脱水時に生成するアルカリ金属水酸化物のモル数と脱水前に添加したアルカリ金属水酸化物のモル数と脱水後に添加するアルカリ金属水酸化物のモル数との総モル数が、脱水工程後に系内に存在する硫黄源、すなわち仕込み硫黄源1モル当たり1.005〜1.09モル、より好ましくは1.01〜1.08モル、特に好ましくは1.015〜1.075モルとなり、かつ、水のモル数が仕込み硫黄源1モル当たり0.01〜2.0モル、好ましくは0.05〜1.8モル、より好ましくは0.5〜1.6モルとなるように調整することが望ましい。
【0055】
本発明では、脱水工程で使用する硫黄源と区別するために、仕込み工程での硫黄源を「仕込み硫黄源」と呼んでいる。その理由は、脱水工程前に反応槽内に投入する硫黄源の量は、脱水工程で変動するからである。仕込み硫黄源は、重合工程でのジハロ芳香族化合物との反応により消費されるが、仕込み硫黄源のモル量は、仕込み工程でのモル量を基準とする。仕込み硫黄源の量は、〔仕込み硫黄源〕=〔総仕込み硫黄モル〕−〔脱水後の揮散硫黄モル〕の式により算出される。
【0056】
仕込み硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が大きすぎると、有機アミド溶媒の変質を増大させたり、重合時の異常反応や分解反応を引き起こしやすい。また、生成PASの収率の低下や品質の低下を引き起こすことが多くなる。アルカリ金属水酸化物が少過剰の状態で重合反応を行うことが、重合反応を安定的に実施し、高品質のPASを得る上で好ましい。
【0057】
仕込み工程において、有機アミド溶媒の量は、仕込み硫黄源1モル当り、通常0.1〜10kg、好ましくは0.13〜5kg、より好ましくは0.15〜2kgの範囲とすることが望ましい。
【0058】
2.重合工程
重合工程では、前記の仕込み工程により調整した仕込み混合物を、通常170〜290℃、好ましくは180〜280℃、より好ましくは190〜275℃の温度に加熱して、重合反応を開始させ、重合を進行させる。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、または両方法の組み合わせが用いられる。重合反応時間は、一般に10分間〜72時間の範囲であり、望ましくは30分間〜48時間である。重合反応は、前段重合工程と後段重合工程の2段階工程で行うことが好ましく、その場合の重合時間は前段重合工程と後段重合工程との合計時間である。
【0059】
この重合工程において、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、相分離剤の存在下、重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応を行う重合工程を含んでおり、重合反応は、170〜290℃の温度で重合反応させる。相分離剤としては、先に述べた水や、相分離剤として機能することが知られている化合物等が好ましく用いられる。
【0060】
さらには、重合工程において、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、170〜270℃の温度で重合反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が30%以上となった時点で、重合反応混合物中に、相分離剤を添加して、重合反応系内に相分離剤を存在させ、次いで、重合反応混合物を昇温し、245〜290℃の温度で、相分離剤の存在下の重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応を継続させることが、好ましい。
【0061】
さらには、重合工程において、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させて、該ジハロ芳香族化合物の転化率が30%以上、好ましくは80〜99%のポリマーを生成させる前段重合工程;並びに、相分離剤の存在下、重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応を継続させる後段重合工程;を含む少なくとも2段階の重合工程により重合反応を行うことが好ましい。
【0062】
具体的には、重合工程において、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、仕込み硫黄源1モル当たり0.01〜2.0モルの水が存在する状態で、170〜270℃の温度で重合反応させて、該ジハロ芳香族化合物の転化率が80〜99%のポリマーを生成させる前段重合工程;並びに、仕込み硫黄源1モル当たり2.0モル超過10モル以下の水が存在する状態となるように重合反応系内の水量を調整するとともに、245〜290℃の温度に加熱することにより、重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応を継続させる後段重合工程;を含む少なくとも2段階の重合工程により重合反応を行うことがより好ましい。
【0063】
前段重合工程とは、先に述べたとおり、重合反応開始後、ジハロ芳香族化合物の転化率が80〜99%、好ましくは85〜98%、より好ましくは90〜97%に達した段階であって、前段重合工程において、重合温度を高くしすぎると、副反応や分解反応が生じ易くなる。
【0064】
ジハロ芳香族化合物の転化率は、以下の式により算出した値である。ジハロ芳香族化合物(以下、「DHA」と略記することがある。)を硫黄源よりモル比で過剰に添加した場合は、下記式
転化率=〔〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)−DHA過剰量(モル)〕〕×100
によって転化率を算出する。それ以外の場合には、下記式
転化率=〔〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)〕〕×100
によって転化率を算出する。
【0065】
前段重合工程における反応系の共存水量は、仕込み硫黄源1モル当たり、通常0.01〜2.0モル、好ましくは0.05〜1.8モル、より好ましくは0.5〜1.6モル、特に好ましくは0.8〜1.5モルの範囲である。前段重合工程での共存水量は、少なくてもよいが、過度に少なすぎると、生成PASの分解等の望ましくない反応が起こり易くなることがある。共存水分量が2.0モルを超過すると、重合速度が著しく小さくなったり、有機アミド溶媒や生成PASの分解が生じ易くなるので、いずれも好ましくない。重合は、170〜270℃、好ましくは180〜265℃の温度範囲内で行われる。重合温度が低すぎると、重合速度が遅くなり過ぎ、逆に、270℃を越える高温になると、生成PASと有機アミド溶媒が分解を起こし易く、生成するPASの重合度が極めて低くなる。
【0066】
前段重合工程において、温度310℃、剪断速度1,216sec−1で測定した溶融粘度が、通常0.5〜30Pa・sのポリマー(「プレポリマー」ということがある。)を生成させることが望ましい。
【0067】
後段重合工程は、前段重合工程で生成したポリマー(プレポリマー)の単なる分別・造粒の工程ではなく、該ポリマーの重合度の上昇を起こさせるためのものである。
【0068】
後段重合工程では、重合反応系に相分離剤(重合助剤)を存在させて、生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応を継続することが好ましい。
【0069】
後段重合工程では、相分離剤として、水を使用することが特に好ましく、仕込み硫黄源1モルに対して、2.0モル超過10モル以下、好ましくは、2.0モル超過9モル以下、より好ましくは2.1〜8モル、特に好ましくは2.2〜7モルの水が存在する状態となるように重合反応系内の水の量を調整することが好ましい。後段重合工程において、重合反応系中の共存水分量が仕込み硫黄源1モル当り2.0モル以下または10モル超過になると、生成PASの重合度が低下することがある。特に、共存水分量が2.2〜7モルの範囲で後段重合を行うと、高重合度のPASが得られやすいので好ましい。
【0070】
より好ましい製造方法においては、少量の相分離剤で重合を実施するために、相分離剤として、水と水以外の他の相分離剤を併用することができる。この態様においては、重合反応系内の水量を、仕込み硫黄源1モル当り0.1〜10モル、好ましくは0.3〜10モル、更に好ましくは0.4〜9モル、特に好ましくは0.5〜8モルの範囲内に調整するとともに、水以外の他の相分離剤を、仕込み硫黄源1モル当り0.01〜3モルの範囲内で存在させることが好ましい。水と併用することが特に好ましい他の相分離剤は、有機カルボン酸金属塩、中でも、アルカリ金属カルボン酸塩であり、その場合は、仕込み硫黄源1モルに対して、水を0.5〜10モル、好ましくは0.6〜7モル、特に好ましくは0.8〜5モルの範囲内で使用するとともに、アルカリ金属カルボン酸塩を0.001〜0.7モル、好ましくは0.02〜0.6モル、特に好ましくは0.05〜0.5モルの範囲内で使用すればよい。
【0071】
後段重合工程での重合温度は、245〜290℃の範囲であり、重合温度が245℃未満では、高重合度の粒状PASが得られにくく、290℃を越えると、粒状PASや有機アミド溶媒が分解するおそれがある。特に、250〜270℃の温度範囲が高重合度の粒状PASが得られやすいので好ましい。
【0072】
生成PAS中の副生アルカリ金属塩(例えば、NaCl)や不純物の含有量を低下させたり、PASを粒状で回収する目的で、重合反応後期あるいは終了時に水を添加し、水分を増加させることができる。重合反応方式は、バッチ式、連続式、あるいは両方式の組み合わせでもよい。バッチ式重合では、重合サイクル時間を短縮する目的のために、所望により2つ以上の反応槽を用いる方式を用いることができる。
【0073】
3.所望により配置する脱水工程
本発明の熱処理微粉PASの製造において、重合工程を実施する際の仕込み工程前に、所望により脱水工程を配置してもよい。
【0074】
重合工程の前工程として、脱水工程を配置して反応系内の水分量を調節することが好ましい。脱水工程は、好ましくは不活性ガス雰囲気下で、有機アミド溶媒とアルカリ金属硫化物とを含む混合物を加熱して反応させ、蒸留により水を系外へ排出する方法により実施する。硫黄源としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物とを含む混合物を加熱して反応させ、蒸留により水を系外へ排出する方法により実施する。
【0075】
脱水工程では、水和水(結晶水)や水媒体、副生水などからなる水分を必要量の範囲内になるまで脱水する。
また、脱水工程では、加熱により水及び有機アミド溶媒が蒸気となって留出する。したがって、留出物には、水と有機アミド溶媒とが含まれる。留出物の一部は、有機アミド溶媒の系外への排出を抑制するために、系内に環流してもよいが、水分量を調節するために、水を含む留出物の少なくとも一部は系外に排出する。留出物を系外に排出する際に、微量の有機アミド溶媒が水と同伴して系外に排出される。
【0076】
また、脱水工程では、硫黄源に起因するが硫化水素が揮散する。水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出するのに伴い、揮散した硫化水素も系外に排出される。
【0077】
脱水工程では、重合反応系の共存水分量が、仕込み硫黄源1モルに対して、通常0.01〜2.0モル、好ましくは0.05〜1.8モル、より好ましくは0.5〜1.6モルになるまで脱水する。前述したとおり、脱水工程後重合工程開始前の硫黄源を「仕込み硫黄源」と呼ぶ。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、重合工程の前に水を添加して所望の水分量に調節してもよい。
【0078】
硫黄源としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合、脱水工程において、有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物、及び該アルカリ金属水硫化物1モル当たり0.9〜1.1モル、好ましくは0.91〜1.08モル、より好ましくは0.92〜1.07モル、特に好ましくは0.93〜1.06モルのアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、反応させ、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出することが好ましい。アルカリ金属水硫化物には、多くの場合、少量のアルカリ金属硫化物が含まれており、硫黄源の量は、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との合計量になる。また、少量のアルカリ金属硫化物が混入していても、本発明では、アルカリ金属水硫化物の含有量(分析値)を基準に、アルカリ金属水酸化物とのモル比を算出し、そのモル比を調整する。
【0079】
脱水工程でのアルカリ金属水硫化物1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が小さすぎると、脱水工程で揮散する硫黄成分(硫化水素)の量が多くなりすぎて、硫黄源量の低下による生産性の低下を招いたり、脱水後に残存する仕込み硫黄源に多硫化成分が増加することによる異常反応、生成PASの品質低下が起こり易くなる。アルカリ金属水硫化物1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が大きすぎると、有機アミド溶媒の変質が増大したり、重合反応を安定して実施することが困難になったり、生成PASの収率や品質が低下することがある。
【0080】
脱水工程での各原料の反応槽への投入は、一般的には、常温(5〜35℃)から300℃、好ましくは常温から200℃の温度範囲内で行われる。原料の投入順序は、任意に設定することができ、さらには、脱水操作途中で各原料を追加投入してもかまわない。脱水工程に使用される溶媒としては、有機アミド溶媒を用いる。この溶媒は、重合工程に使用される有機アミド溶媒と同一であることが好ましく、NMPが特に好ましい。有機アミド溶媒の使用量は、反応槽に投入する硫黄源1モル当たり、通常0.1〜10kg程度である。
【0081】
脱水操作は、反応槽内へ原料を投入後の混合物を、通常、300℃以下、好ましくは100〜250℃の温度範囲で、通常、15分間から24時間、好ましくは30分間〜10時間、加熱して行われる。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、または両者を組み合わせた方法がある。脱水工程は、バッチ式、連続式、または両方式の組み合わせ方式などにより行われる。
【0082】
脱水工程を行う装置は、後続する重合工程に用いられる反応槽(反応缶)と同じであってもよいし、異なるものであってもよい。装置の材質は、チタンのような耐食性材料が好ましい。
【0083】
他の粒状PASを得る好ましい態様として、重合終了後に相分離を形成するのに充分な量に調整し、徐冷する方法が好ましい。
【0084】
III.分離工程
本発明の熱処理微粉PASを製造する製造方法は、下記の工程;
(a)有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させる重合工程;
(b)生成した粒状PASを含有する反応液から、固液分離により粒状PASと分離液とに分離する分離工程;
(c)該分離液を固液分離し、原料微粉PASを得る固液分離工程;
(d)該原料微粉PASを、50〜150℃でプレ熱処理してプレ熱処理原料微粉PASを得るプレ熱処理工程;
(e)該プレ熱処理原料微粉PASを、熱処理して熱処理微粉PASを得る熱処理工程;
を含む熱処理微粉PASを製造する製造方法により製造される熱処理微粉PASである。
【0085】
本発明の熱処理微粉PASを製造する製造方法は、上記(a)の重合工程、(b)の分離工程、(c)の固液分離工程、(d)のプレ熱処理工程及び(e)の熱処理工程を必ず含む製造方法であり、これ以外の工程、例えば必要により、反応液や分離液を濃縮または希釈する工程、洗浄工程、あるいは乾燥工程等を追加して用いてもよいし、あるいは上記(a)〜(e)の工程、特に(c)から(e)の工程のうち一つあるいは複数の工程を追加して用いることもできる。
【0086】
本発明の熱処理微粉PASは、前述した熱処理微粉PASを製造する製造方法において固液分離して得られる分離液から得られるものであり、一方固液分離後の固形分からは、粒状PASが製造され回収される。
以下に、製品として回収される好ましい粒状PASの性状について例示する。
【0087】
粒状PASの製造方法において、重合工程後の粒状PASの分離回収処理は、例えば篩分による分離工程により行うことができる。分離工程としては、重合反応終了後、生成した粒状PASを含有する反応液である生成物スラリーを冷却した後、必要により水などで生成物スラリーを希釈してから、篩分することにより、該反応液から粒状PASを分離して回収することができる。
【0088】
前述のとおり、粒状PASの製造方法によれば、粒状PASを生成させることができるため、スクリーンを用いる篩分による分離が用いられる。
また、室温程度まで冷却することなく、生成物スラリーから高温状態で粒状PASを篩分けすることもできる。
【0089】
分離工程における篩分による分離に用いられるスクリーンの目開き径は、通常、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)、好ましくは目開き径90μm(170メッシュ)〜150μm(100メッシュ)である。この範囲のスクリーンを少なくとも1つ用いるが、多段で用いてもよい。通常、目開き径150μm(100メッシュ)のスクリーンが用いられることが多い。
【0090】
製品として回収された粒状PASの回収率は、脱水工程後の反応缶中に存在する仕込み硫黄源中の有効硫黄成分の全てがPASに転換したと仮定したときのPAS質量(理論量)を、得られるPASの全量として算出する。
【0091】
この回収率は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンの場合、通常80質量%以上、場合によっては83質量%以上、また場合によっては85質量%以上である。回収率の上限は、99.5質量%程度である。
【0092】
また、得られた粒状PASの平均粒径は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンの場合、通常130〜1,500μm、好ましくは、150〜1,500μm、より好ましくは、180〜1,500μmである。
【0093】
得られた粒状PASの重量平均分子量は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンの場合、粒状PASの重量平均分子量は、通常30,000以上、好ましくは33,000以上、より好ましくは、35,000以上である。重量平均分子量の上限は、90,000程度である。
【0094】
また得られた粒状PASのピークトップ分子量は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンの場合、通常35,000以上、好ましくは38,000以上、より好ましくは、40,000以上である。ピークトップ分子量の上限は、100,000程度である。
【0095】
得られた粒状PASの溶融粘度は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンの場合、粒状PASの溶融粘度は、通常、5Pa・s以上、好ましくは10Pa・s以上、より好ましくは、15Pa・s以上である。溶融粘度の上限は、500Pa・s程度である。溶融粘度は、キャピラリーとして、1mmφ×10mmLのフラットダイを使用し、設定温度は、310℃とした。ポリマー試料を装置に導入し、5分間保持した後、剪断速度1,216sec−1での溶融粘度を測定する。
【0096】
IV.分離液からの熱処理微粉PASの製造(回収)
(IV−1)粒状PASの製造において、分離工程で生ずる、粒状PASと分離された分離液には、多くの場合、原料微粉PAS、副生アルカリ金属塩(NaCl等)、オリゴマー、揮発性物質や高沸点物質等を含有する不純物、有機アミド溶媒、相分離剤(水等)等が含まれている。
【0097】
すなわち、本発明の熱処理微粉PASは、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させる重合工程;生成した粒状PASを含有する反応液から、固液分離により粒状PASと分離液とに分離する分離工程;を含む製造工程により粒状PASを製造する際に生じた該分離液から製造された熱処理微粉PASである。
【0098】
本発明の熱処理微粉PASは、該分離液を固液分離して原料微粉PASを得て、次いで、該原料微粉PASを、プレ熱処理及び熱処理して得られた熱処理微粉PASであって、製品として有用な熱処理微粉PASである。
【0099】
この「該分離液を固液分離して原料微粉PASを得て」には、分離液から、直ちに固液分離工程を行う場合や、分離液に後述する予備固液分離工程等を行った後に、固液分離工程を行う場合を含む。
固液分離工程、プレ熱処理工程、熱処理工程は、以下の工程で行う。
【0100】
(i)固液分離工程
固液分離工程は、分離液から固液分離により原料微粉PASを得る工程である。固液分離工程では、固液分離は、濾過、遠心分離、篩分、沈降等で行う。例えば濾過は、微粉用の通常の濾布を用いた濾過装置を用いることが多い。吸引濾過装置が、処理時間等からみて、有利である。固液分離工程は、連続式でもバッチ式のどちらの方法も可能である。連続式としては、水平ベルト型濾過機がある。バッチ式の場合、濾過装置としては、原料微粉PAS濃度が低い場合は、処理量からみて、フィルタープレスで行うことが好ましい。
【0101】
得られた原料微粉PASの重量平均分子量は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンの場合、通常15,000以上、好ましくは18,000以上、より好ましくは、20,000以上である。重量平均分子量の上限は、75,000程度である。
【0102】
また、得られた原料微粉PASのピークトップ分子量は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンの場合、通常30,000以上、好ましくは33,000以上、より好ましくは、35,000以上である。ピークトップ分子量の上限は、85,000程度である。
【0103】
得られた原料微粉PASの平均粒径は、レーザ回折式粒子径分布測定装置による測定値であり、通常1〜80μm、好ましくは、2〜80μm、より好ましくは、3〜80μmである。
【0104】
得られた原料微粉PASの溶融粘度は、通常0.2Pa・s以上、好ましくは0.6Pa・s以上、より好ましくは1.0Pa・s以上である。溶融粘度の上限は、50Pa・s程度である。溶融粘度の測定方法は前述のとおりである。
【0105】
(ii)プレ熱処理工程
プレ熱処理工程では、前記原料微粉PASを、プレ熱処理する。すなわち、後述する熱処理工程の前段階としてプレ熱処理することである。原料微粉PASをプレ熱処理した後の固形分を「プレ熱処理原料微粉PAS」という。
【0106】
プレ熱処理は、連続式、バッチ式のどちらの方法も可能である。プレ熱処理は、通常の槽型乾燥機、槽回転型乾燥機、気流型乾燥機、流動層型乾燥機等の乾燥機を使って行うことができる。原料微粉PASは、静置状態でも構わないが、大量の原料微粉PASを均一にプレ熱処理燥する場合には、何らかの方法で原料微粉PASを流動させることが望ましい。原料微粉PASを流動させながらプレ熱処理する方法としては、流動層、攪拌羽、パドル、または攪拌スクリューを備えた乾燥機を使用する方法が挙げられる。
【0107】
プレ熱処理は、空気、または低酸素濃度雰囲気下、あるいは窒素ガス、炭酸ガス、または水蒸気等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
また、常圧、減圧、加圧いずれの状態下でも行うことができる。
【0108】
前述したとおり、熱履歴を厳密に調整しないと発生ガスが揮散しにくい構造となってしまうので、このプレ熱処理工程を行うことにより、後述する熱処理工程と合わせて、熱履歴を厳密に調整でき、微粉の温度を上げ、かつ、発生ガスを微粉外に揮散させやすく、しかも溶融粘度や重量平均分子量も実用に充分耐える程に改善されやすい構造とするという効果を有する。
【0109】
プレ熱処理工程の温度は、通常、50〜150℃、好ましくは、53〜145℃、より好ましくは、55〜140℃である。プレ熱処理時間にもよるが、150℃を超えると、原料微粉PASの実質的空気酸化による粘度上昇が起きてしまう。
【0110】
プレ熱処理工程の時間は、通常0.3〜10時間、好ましくは、0.5〜6時間、より好ましくは、1.0〜4時間である。
【0111】
プレ熱処理は、熱効率の観点からは、100℃以上の乾熱雰囲気下で行うのが好ましいが、減圧下では、100℃以下、さらには90℃以下でも可能である。
減圧度は、70〜101KPaの範囲であれば充分である。
【0112】
(iii)熱処理工程
プレ熱処理原料微粉PASの熱処理は、連続式、バッチ式のどちらの方法も可能である。熱処理は、通常の熱風熱処理機、撹拌翼付の加熱装置、流動層熱処理機、槽回転式熱処理機等の熱処理装置を使って行うことができる。プレ熱処理工程の乾燥機と熱処理工程の熱処理装置を同じ装置を用いて行うこともできる。
【0113】
プレ熱処理原料微粉PASの熱処理は、静置状態でも構わないが、大量のプレ熱処理原料微粉PASを均一に熱処理する場合には、何らかの方法でプレ熱処理原料微粉PASを流動させることが望ましい。プレ熱処理原料微粉PASを流動させながら熱処理する方法としては、流動層、攪拌羽、パドル、または攪拌スクリューを備えた熱処理装置を使用する方法が挙げられる。
【0114】
熱処理は、空気、または低酸素濃度雰囲気下、あるいは窒素ガス、炭酸ガス、または水蒸気等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
また、常圧、減圧、加圧いずれの状態下でも行うことができる。減圧度は、70〜101KPaの範囲であれば充分である。
【0115】
酸素が存在しない不活性ガス雰囲気下で熱処理を行うと、着色の程度が小さいというメリットがある。
【0116】
熱処理は、プレ熱処理原料微粉PASの融点未満の温度で行うことまで可能であるが、通常、160〜260℃、より好ましくは180〜250℃、さらに好ましくは、200〜240℃で行う。熱処理時間は、通常0.5〜6時間、好ましくは1〜5時間、より好ましくは2〜4.5時間である。熱処理は、減圧状態で行ってもよい。この熱処理により、低重合物や不純物が、発生ガスとして揮散する。プレ熱処理工程により、熱履歴が厳密に調整されているので、発生ガスが揮散しやすい。同時に、低分子量物の除去等により熱処理微粉PASの重量平均分子量や溶融粘度が増大する。低重合物を揮散するためには、少なくとも160℃以上の熱処理が必要である。
【0117】
(IV−2)プレ熱処理工程の前に、以下の洗浄工程を配置してもよい。
[洗浄工程]
この洗浄工程の目的は、原料微粉PAS中の副生アルカリ金属塩由来のアルカリ金属濃度(例えば、Na濃度)低減が目的である。
【0118】
原料微粉PASを洗浄液としては、重合溶媒、アルコール、アセトン等の有機化合物、水、酢酸、酢酸塩、塩酸、またはこれらから選ばれる混合物が好ましい。好ましくは、水、酢酸などの酸水溶液が用いられる。
【0119】
本発明では、水、アルコール、アセトン、酢酸、酢酸塩、塩酸、またはこれらから選ばれる混合物が用いられる。洗浄した場合、洗浄後の濾別を行ってもよい。洗浄回数に合わせて濾別も同じ回数を行う。
【0120】
(IV−3)さらには、固液分離工程の前に、予備固液分離工程、副生アルカリ金属塩除去工程を配置してもよい。
[予備固液分離工程]
予備固液分離工程は、分離液を、濾過等の予備固液分離手段により、原料微粉PASと、濾液とに固液分離する工程である。その際、原料微粉PASに、さらに、アセトン等を添加し、原料微粉PASに含まれた有機アミド溶媒を洗浄し、再度、濾過等の分離手段により、洗浄された原料微粉PASを得てもよい。
【0121】
[副生アルカリ金属塩除去工程]
副生アルカリ金属塩除去工程は、予備固液分離工程後の、原料微粉PASを水で洗浄して、副生アルカリ金属塩を溶解させ除去する工程である。
【0122】
このようにして得た予備固液分離工程、副生アルカリ金属塩除去工程を経た、原料微粉PASを含む液体は、通常、原料微粉PAS0.1〜15質量%、好ましくは0.15〜10質量%、さらに好ましくは0.2〜5質量%程度の液体となっている。
【0123】
この場合、固液分離工程での濾過による分離は、遠心濾過やフィルタープレスを用いて濾過を行い、原料微粉PASを得ることが望ましい。この場合、固形分が、ウエットケーキの形で回収される。
【0124】
(IV−4)熱処理工程後の熱処理微粉PASを製品として用いる。通常は、全量回収して用いるが、さらに篩分による分離を行い、一定の粒径以上の熱処理微粉PPSを用いてもよい。例えば、粒状PASを、目開き径150μm(100メッシュ)のスクリーンで篩分した場合、分離液から得られた熱処理微粉PASを、目開き径75μm(200メッシュ)のスクリーンによる篩分による分離を行う等することである。ただし、熱処理微粉PASの篩分による分離を行った場合は、製品化率は下がる。
【0125】
V.熱処理微粉PAS
本発明の熱処理微粉PASは、
(i)該熱処理微粉PASが、
下記の工程:
有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させる重合工程;
生成した粒状PASを含有する反応液から、固液分離により粒状PASと分離液とに分離する分離工程;
を含む製造工程により粒状PASを製造する際に生じた該分離液から製造された熱処理微粉PASであり、
(ii)該熱処理微粉PASが、該分離液を固液分離して原料微粉PASを得て、次いで、該原料微粉PASを、プレ熱処理及び熱処理して得られた熱処理微粉PASであり、
(iii)該熱処理微粉PASの平均粒径が、1〜80μmであり、
(iv)該熱処理微粉PASの溶融粘度が、1Pa・s以上であり、かつ、
(v)該熱処理微粉PASの発生ガス量が、10ppm以下である熱処理微粉PASである。
【0126】
本発明の熱処理工程を経た熱処理微粉PASは、製品として、従来製品である上述の分離工程での篩分における篩上物から得られる粒状PASに混合して、樹脂組成物(コンパウンド)として用いることができる。
【0127】
得られた熱処理微粉PASの重量平均分子量は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンで回収する場合、通常30,000以上、好ましくは33,000以上、より好ましくは、35,000以上である。重量平均分子量の上限は、90,000程度である。
【0128】
また、得られた熱処理微粉PASのピークトップ分子量は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンで回収する場合、通常32,000以上、好ましくは34,000以上、より好ましくは、36,000以上である。ピークトップ分子量の上限は、100,000程度である。
【0129】
また、得られた熱処理微粉PASの溶融粘度は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンで回収する場合、分離工程で得た粒状PASの溶融粘度と対比して、粒状PASの溶融粘度の50%から150%、好ましくは55%から130%、より好ましくは58%から120%、特に好ましくは65%から110%である。溶融粘度の測定は、前述のとおり行う。
【0130】
また、その溶融粘度は、通常1Pa・s以上、好ましくは3Pa・s以上、更に好ましくは5Pa・s、特に好ましくは10Pa・s以上である。溶融粘度の上限は、500Pa・s程度である。
熱処理微粉PASの溶融粘度は、原料微粉PASの溶融粘度の、通常は、2〜30倍、好ましくは、5〜30倍、より好ましくは、8〜30倍である。
【0131】
得られた熱処理微粉PASは、熱処理工程を経ているため低分子量物の除去等により、分離液に存在している時の原料微粉PASよりも、重量平均分子量が、大きくなっているものと考えられる。
【0132】
得られた熱処理微粉PASの平均粒径は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンで回収する場合、レーザ回折式粒子径分布測定装置による測定値で、通常1〜80μm、好ましくは、2〜80μm、より好ましくは、3〜80μmである。
【0133】
本発明の各工程を経て得られた熱処理微粉PASの製品化率は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンで回収する場合、通常2質量%以上、好ましくは、3質量%以上、好ましくは4質量%以上である。上限は10質量%程度である。
【0134】
製品として回収された熱処理微粉PASの製品化率は、脱水工程後の反応缶中に存在する仕込み硫黄源中の有効硫黄成分の全てがPASに転換したと仮定したときのPAS質量(理論量)を、PASの全量として算出する。すなわち、製品化率は、熱処理微粉PAS質量/PAS質量(理論量)である。
【0135】
熱処理微粉PASの製品化率が高いということは、分離液からの従来廃棄していた原料微粉PASを再利用できるのであるから、経済的に非常に有利である。
【0136】
本発明の熱処理微粉PASの発生ガス量は、篩分のスクリーンの目開き径にもよるが、目開き径75μm(200メッシュ)〜180μm(80メッシュ)の範囲の少なくとも1つのスクリーンで回収する場合、通常10ppm以下、好ましくは8ppm以下、より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは4ppm以下である。下限値は0ppmであるが、通常は、0.05ppm程度である。
【0137】
このガス発生量は、プレ熱処理工程により、すなわち熱履歴を厳密に調整することにより、発生ガスを微粉外に揮散させやすい構造としているので、熱処理工程により、充分発生ガスが揮散されているためである。
【0138】
発生ガスとしては、硫黄含有ベンゼン系化合物、ハロゲン含有ベンゼン系化合物、窒素含有ハロゲン化合物、有機物、硫黄含有低沸点物等が考えられる。
【0139】
本発明は、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させる重合工程;生成した粒状PASを含有する反応液から、固液分離により粒状PASと分離液とに分離する分離工程;を含む製造方法により製造された粒状PASと、上記方法により製造された熱処理微粉PASとを含む樹脂組成物を提供する。
【0140】
コンパウンドの一成分として、熱処理微粉PASを用いる場合は、粒状PASと熱処理微粉PASの全量を基準として、コンパウンドの特性を損なうことなく、熱処理微粉PASを、通常10質量%以下、好ましくは8質量%、より好ましくは6質量%以下まで用いることができる。経済的に見た場合、下限は1質量%程度である。
【0141】
このように、従来廃棄していた原料微粉PASを、粒状PASと熱処理微粉PASの全量を基準として、熱処理微粉PASを10質量%もコンパウンドの一成分として利用することができることは、経済的に非常に有利である。
【0142】
用いられる粒状PASの平均粒径は、通常130〜1,500μm、好ましくは、150〜1,500μm、より好ましくは、180〜1,500μmである。
【実施例】
【0143】
以下、本発明について、製造例、実施例及び比較例を挙げて、より具体的に説明する。本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、部及び%は、特に断りがない限り、質量基準である。
【0144】
以下に各種物性の測定法を示す。
(1)粒状PASの回収率、微粉PASの製品化率(質量%)
粒状PAS回収率、熱処理微粉PASの製品化率は、脱水工程後の反応缶中に存在する仕込み硫黄源中の有効硫黄成分の全てがPASに転換したと仮定したときのPAS質量(理論量)を、PASの全量として算出する。
すなわち、粒状PASの回収率は、回収した粒状PASの質量/PAS質量(理論量)で算出した。
熱処理微粉PASの製品化率は、製品化した熱処理微粉PASの質量/PAS質量(理論量)で算出した。
【0145】
(2)粒状PASの平均粒径
回収した粒状PASの平均粒径は、使用篩として、メッシュ#7(目開き径2,800μm)、#12(目開き径1,410μm)、#16(目開き径1,000μm)、#24(目開き径710μm)、#32(目開き径500μm)、#60(目開き径250μm)、#100(目開き径150μm)、#145(目開き径105μm)、#200(目開き径75μm)を用いた篩分法により測定した。
【0146】
(3)原料微粉PAS及び熱処理微粉PASの平均粒径
原料微粉PAS及び熱処理微粉PASの平均粒径は、レーザ回折式粒子径分布測定装置(SALD 株式会社島津製作所製)により、測定した。
【0147】
(4)重量平均分子量、及びピークトップ分子量
粒状PAS、原料微粉PAS、及び熱処理微粉PASの重量平均分子量(Mw)は、株式会社センシュー科学製の高温ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)SSC−7101を用いて、以下の条件で測定した。重量平均分子量、及びピークトップ分子量は、ポリスチレン換算値として算出した。
溶媒: 1−クロロナフタレン、
温度: 210℃、
検出器: UV検出器(360nm)、
サンプル注入量: 200μl(濃度:0.1質量%)、
流速: 0.7ml/分、
標準ポリスチレン: 616,000、113,000、26,000、8,200、及び600の5種類の標準ポリスチレン。
【0148】
(5)発生ガス量
発生ガスを検知管法により測定した。
・気体採取器セット GASTEC GV−100S 1分間保持
・気体検知管
4.0ppm以下:GASTEC No.4LT
4〜40ppm: GASTEC No.4LK
40〜240ppm:GASTEC No.4L
測定方法
ドライブロックバスを280℃(実温)まで昇温し、試験管をセットした。試験管が280℃まで昇温したことを確認し、0.1000gのサンプルを投入した。投入後素早くガス導入管、及び排出管を有する栓を閉め、窒素ガスを流量16.67mL/minで流した。排出ガスをテドラーパック(1L)に1時間捕集し、上記の測定装置で測定を行った。
【0149】
(6)溶融粘度
粒状PAS、原料微粉PAS、及び熱処理微粉PASの乾燥品約20gを用いて、東洋精機製キャピログラフ1−Cにより溶融粘度を測定した。この際、キャピラリーは、1mmφ×10mmLのフラットダイを使用し、設定温度は、310℃とした。上記のPAS試料を装置に導入し、5分間保持した後、剪断速度1,216sec−1での溶融粘度を測定した。
【0150】
[製造例]
(脱水工程)
20リットルのオートクレーブに、NMP6,001gと水硫化ナトリウム水溶液(NaSH:純度62質量%)2,000g、水酸化ナトリウム(NaOH:純度74.0質量%)1,171gを仕込んだ。
【0151】
該オートクレーブ内を窒素ガスで置換後、約4時間かけて、撹拌機の回転数250rpmで撹拌しながら、徐々に200℃まで昇温し、水(HO)1,014g、NMP763g、及び硫化水素(HS)12gを留出させた。
【0152】
(重合工程)
上記脱水工程後、オートクレーブの内容物を150℃まで冷却し、pDCB3,360g、NMP2,707g、水酸化ナトリウム19g、及び水167gを加え、撹拌しながら、220℃の温度で5時間反応させて、前段重合を行った。
【0153】
缶内のNMP/仕込み硫黄源(以下、「仕込みS」と略記する。)の比率(g/モル)は、375、pDCB/仕込みS(モル/モル)は1.050、HO/仕込みS(モル/モル)は1.50であった。
前段重合のpDCBの転化率は、92%であった。
【0154】
前段重合終了後、撹拌機の回転数を400rpmに上げ、オートクレーブの内容物を撹拌しながらイオン交換水443gを圧入した。HO/仕込みS(モル/モル)は2.63であった。イオン交換水の圧入後、255℃まで昇温し、4時間反応させて後段重合を行った。
【0155】
(分離工程)
後段重合終了後、室温付近まで冷却してから、内容物を目開き径150μm(100メッシュ)のスクリーンで篩分けし、篩上に、粒状PPSのウェットケーキ、篩下に分離液を得た。
【0156】
その後、篩上の粒状PPSに、通常の洗浄、乾燥等の回収工程を行い、回収率88質量%で、製品となる粒状PPSを得た。平均粒径は、360μmであり、重量平均分子量は、42,800、ピークトップ分子量は51,200であった。
【0157】
[実施例1]
製造例1の篩分による分離工程での篩下の分離液に以下の処理を行った。
【0158】
分離液を、濾過し、原料微粉PPSと、濾液とに予備固液分離した(予備固液分離工程)。原料微粉PPSをアセトンにより2回洗浄し、再度、濾過を行い、原料微粉PPSと濾液とに分離した。原料微粉PPSは140℃の乾燥機で乾燥を行った。次いで、蒸留水により洗浄を行い(副生アルカリ金属塩除去工程)、フィルタープレスにより固液分離し、ウエットケーキを得た(固液分離工程)。固液分離後のウエットケーキの一部を室温で、24時間風乾し、平均粒径、重量平均分子量、ピークトップ分子量、溶融粘度を測定した。
【0159】
さらに、ウエットケーキを水洗した(洗浄工程)。水洗したウエットケーキを、濾過機により濾別した。次いで、ウエットケーキを、プレ熱処理工程として、減圧状態(90KPa)で60℃、3時間乾燥した。
【0160】
次いで、プレ熱処理工程でプレ熱処理したプレ熱処理原料微粉PPSを、熱処理工程として、窒素雰囲気下、220℃、3時間熱処理し、その後回収し、熱処理微粉PPSを得た。結果を表1に示す。
【0161】
[実施例2]
プレ熱処理工程を、常圧状態で、140℃、3時間でプレ熱処理する以外は実施例1と同じに行った。結果を表1に示す。
【0162】
[実施例3]
プレ熱処理工程を、常圧状態で、120℃、3時間でプレ熱処理する以外は実施例1と同じに行った。結果を表1に示す。
【0163】
[比較例1]
プレ熱処理工程を行わずに、熱処理工程を、常圧状態で、窒素雰囲気下で、220℃、6時間で熱処理を行った以外は実施例1と同じように行った。結果を表1に示す。
【0164】
[比較例2]
プレ熱処理を常圧状態で、120℃で6時間行い、かつ、熱処理工程を行わないこと以外は、実施例1と同じように行った場合を比較例2とした。結果を表1に示す。
【0165】
【表1】
【0166】
[実施例4]
前記製造例で製造された粒状PPS95質量%、実施例1で製造された熱処理微粉PPS5質量%からなるPPS60質量%、繊維状充填剤(13μmのガラスファイバー)39.8質量%、及び離型剤0.2質量%を5分間混合した後、シリンダー温度320℃の2軸押出機で溶融混練してペレットを作成した。溶融混練してペレットを作成している間、後述する比較例3のような悪臭はなかった。作成したペレット10gを10mmφの試験管に測り取り、8mm角(2mm厚)のSKD11金属片をペレット積層部の上部に置き、シリコン栓で封入した。その後、試験管をアルミブロックバスに入れて、340℃で4時間加熱した。試験前後の金属片の揮発付着物を目視したところ、熱処理微粉PPSを入れない場合と同じ程度であった。
【0167】
[比較例3]
熱処理微粉PPSの代わりに比較例2で得たプレ熱処理をしただけの微粉PPSを用いた以外は、実施例4と同じように行った。溶融混練してペレットを作成している間、悪臭がひどかった。また金属片の揮発付着物が多かった。
【0168】
[考察]
比較例1は、プレ熱処理を行わずに、直ちに、窒素雰囲気下で220℃、6時間の熱処理を行っている。プレ熱処理を行っていないため、発生ガス量が多く、溶融粘度が低い。また、熱処理の時間を実施例の2倍の長時間行っているにもかかわらず、溶融粘度は実施例から予測されるよりも低い。発生ガス量が多いときは溶融粘度が低いことが窺える。
【0169】
比較例2は、120℃、6時間のプレ熱処理を行ったのみで熱処理を行っていない。このため、プレ熱処理原料微粉PPS中の、発生ガス量が非常に多く、重量平均分子量や溶融粘度が小さい。この場合プレ熱処理を長時間おこなっているにもかかわらず、その効果は出ていない。
【0170】
実施例1〜3は、それぞれ60℃、3時間、減圧;140℃、3時間、常圧;120℃、3時間、常圧でのプレ熱処理を行い、次いで、それぞれ、220℃、3時間の熱処理を行っている。このため、微粉PPSの熱履歴が厳密に調整された状態で、プレ熱処理し、次いで熱処理を行うため、不純物が良く揮散し発生ガス量も少なく、また、熱処理により重量平均分子量や溶融粘度、ピークトップ分子量も、十分実用に耐えられるものが得られている。
【0171】
また、比較例3から、比較例2の熱処理を行っていない微粉PPSを用いた場合、溶融混練してペレットを作成している間、悪臭がひどく、金属片の揮発付着物が多いことが判明した。これに対して、実施例4では、コンパウンドの一成分として熱処理微粉PPSを用いても付着物が付着せず、実用性が高いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明の熱処理微粉PASは、コンパウンドの一成分として再利用が可能である。本発明の熱処理微粉PASは、従来廃棄されたりして用いられてこなかった分離液中の原料微粉PASから製造されるものであり、作業環境を汚染せずに、再利用できることは非常に有意義なことである。