特許第6366688号(P6366688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366688
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】貨物船
(51)【国際特許分類】
   B63B 11/02 20060101AFI20180723BHJP
   B63B 3/56 20060101ALI20180723BHJP
   B63B 1/06 20060101ALI20180723BHJP
   B63B 27/10 20060101ALI20180723BHJP
   B63B 29/00 20060101ALI20180723BHJP
   B63B 25/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   B63B11/02
   B63B3/56
   B63B1/06 Z
   B63B27/10 A
   B63B29/00 A
   B63B25/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-512491(P2016-512491)
(86)(22)【出願日】2014年4月9日
(86)【国際出願番号】JP2014002048
(87)【国際公開番号】WO2015155804
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2017年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 智
(72)【発明者】
【氏名】森永 真矢
(72)【発明者】
【氏名】ハッサン マーハル
(72)【発明者】
【氏名】矢野 裕之
【審査官】 結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭49−149487(JP,U)
【文献】 特開昭57−198190(JP,A)
【文献】 特開2005−335670(JP,A)
【文献】 特開2006−27299(JP,A)
【文献】 特開昭49−134088(JP,A)
【文献】 実開平2−92396(JP,U)
【文献】 特開2010−76490(JP,A)
【文献】 佐伯和彦,岩野克也,“鉄道用軌条の歩みと今後の展望”,新日鉄住金技報,日本,新日鐵住金株式会社,2013年,第395号,pp.19-25
【文献】 "長尺(150メートル)レール輸送船の新造整備について",[online],日本,住友商事株式会社,2014年 4月23日,[平成29年12月6日検索],インターネット,URL,http://www.sumitomocorp.co.jp/news/detail/id=27837
【文献】 Liz Blanchard,“Union Pacific Rail Welding Facility Project”,米国,Port of Stockton,2014年11月,[平成30年6月13日検索],インターネット,URL,http://slideplayer.com/slide/4642446
【文献】 Chris Dupin,“Transporting 480-foot length of railroad track on specialized vessel means fewer welds.”,米国,American Shipper,2015年 1月24日,[平成30年6月13日検索],インターネット,URL,https://www.americanshipper.com/main/news/long-rail-carrier-59237.aspx
【文献】 "Long Rail Is a Game Changer",InsideTrack,[online],米国,Union Pacific Corporation,2015年 3月27日,[平成29年12月7日検索],インターネット,URL,http://www.up.com/aboutup/community/inside_track/long-rail-3-27-2015.htm
【文献】 "シップ・オブ・ザ・イヤー2014 大型貨物船「さやえんどうLNG船」に決定",[online],日本,日本船舶海洋工学会,2015年 6月12日,[平成29年12月6日検索],インターネット,URL,http://www.jasnaoe.or.jp/old_sites/jasnaoe02/commendation/soy2014.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 11/02, 1/06, 3/56
B63B 25/00,27/10,29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺貨物を積載可能な船倉を備える貨物船であって、
該船倉が船体の幅方向中央に位置しており、かつ、船倉が船長方向に延び平面視で長方形であり、
前記船倉の左右両側に複数の横隔壁が配設され、
前記船倉の船倉幅が船幅の25〜40%であって、
二重底の高さが前記船幅の1/5〜1/10である
ことを特徴とする貨物船。
【請求項2】
前記船倉の左右の船長方向隔壁の船首側および船尾側に、それぞれ開口が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の貨物船。
【請求項3】
船首の形状が直立船首である
ことを特徴とする請求項1または2記載の貨物船。
【請求項4】
船尾上方に主機関が設けられている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の貨物船。
【請求項5】
複数のデッキクレーンが、前記船倉の左右何れか一方にのみ設置されている
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の貨物船。
【請求項6】
前記船倉の左右に、前記船長方向隔壁に沿って複数の退避空間が設けられ、
前記船倉と各前記退避空間とを導通する出入口が前記船長方向隔壁に設けられている
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の貨物船。
【請求項7】
前記船倉の左右に、前記船長方向隔壁に沿ってラッシングスペースを備え、
各前記ラッシングスペースの床面に、船長方向で3m〜7m毎にラッシング固縛装置が設けられている
ことを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の貨物船。
【請求項8】
燃料タンクが前部船体に設けられ、かつ船首水タンクおよび船尾水タンクが設けられている
ことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載の貨物船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貨物船に関する。さらに詳しくは、長尺貨物(150mレール)を積載可能な船倉を備える貨物船に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺貨物を輸送する場合は、船倉の縦方向の長さに合った長さの長尺貨物を積載するしか方法がなかった。このため、船倉の縦方向の長さよりも長い長尺貨物(例えば約150mのレール(厳密には480 feet (146.3 m)の長尺レール))を船で輸送することができなかった。船の上甲板上に長尺貨物を積載することも考えられるが、復原性が悪化し、転覆の恐れが増すので船の上甲板上に長尺貨物を積載することは好ましくない。
貨物船に関する技術として、例えば下記の出願がある(特許文献1)。
【0003】
上記の出願は、グレンの積載量を多く確保しながら、運航効率の高い貨物船を提供することを目的としており、船倉を前後方向に3倉H1〜H3以上有する貨物船において、1番船倉H1と3番船倉H3を除く中間の2番船倉H2をダブルハル構造の船倉とすることを特徴とする。このようにすることにより、中間の船倉にダブルハルが存在するので、グレンの横移動が拘束され、船体の横方向安定性が高くなり、袋押えやストラッピング等の横移動防止対策をとらなくてよくなるという効果を有する。また、船首側と船尾側の船倉H1,H3では積める限り積んで(トリミングして)フル積みするが、たとえこの作業が未完了でも、中間の船倉H2に撒積みする間に行えばよく、中間の船倉H2への積み込みを終えると、直ちに出港できるので、船の運航効率が高くなるという効果を有する出願である。しかし、この出願における貨物船はグレン積みを考慮した貨物船であり、例えば150mレールという長さの長尺貨物を積み込むことができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−219132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、長尺貨物を積載可能な船倉を備える貨物船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の貨物船は、長尺貨物を積載可能な船倉を備える貨物船であって、該船倉が船体の幅方向中央に位置しており、かつ、船倉が船長方向に延び平面視で長方形であり、前記船倉の左右両側に複数の横隔壁が配設され、前記船倉の船倉幅が船幅の25〜40%であって、二重底の高さが前記船幅の1/5〜1/10であることを特徴とする。
第2発明の貨物船は、第1発明において、前記船倉の左右の船長方向隔壁の船首側および船尾側に、それぞれ開口が設けられていることを特徴とする。
第3発明の貨物船は、第1または第2発明において、船首の形状が直立船首であることを特徴とする。
第4発明の貨物船は、第1、第2または第3発明において、船尾上方に主機関が設けられていることを特徴とする。
第5発明の貨物船は、第1、第2、第3または第4発明において、複数のデッキクレーンが、前記船倉の左右何れか一方にのみ設置されていることを特徴とする。
第6発明の貨物船は、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記船倉の左右に、前記船長方向隔壁に沿って複数の退避空間が設けられ、前記船倉と各前記退避空間とを導通する出入口が前記船長方向隔壁に設けられていることを特徴とする。
第7発明の貨物船は、第1、第2、第3、第4、第5または第6発明において、前記船倉の左右に、前記船長方向隔壁に沿ってラッシングスペースを備え、各前記ラッシングスペースの床面に、船長方向で3m〜7m毎にラッシング固縛装置が設けられていることを特徴とする。
第8発明の貨物船は、第1、第2、第3、第4、第5、第6または第7発明において、燃料タンクが前部船体に設けられ、かつ船首水タンクおよび船尾水タンクが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、つぎの効果を奏する。
a)該船倉が船体の幅方向中央に位置しており、かつ、船倉が船長方向に延び平面視で長方形であることから、船倉長が船長の80%程度の船倉を設けることができる。
b)該船倉が船体の幅方向中央に位置しており、前記船倉の左右両側に複数の横隔壁が配設されているので船体の強度を十分に確保できる。
このため、従来は運搬できなかった、例えば約150mのレールのような長尺貨物も運搬することができる。
第2発明によれば、船体に作用する曲げモーメントによって船倉の船長方向隔壁に生じる応力集中を回避することができる。
第3発明によれば、船長の長大化を抑制しつつ、船倉の船倉長を最大限に確保することができる。
第4発明によれば、船尾側における船幅が広い箇所に主機関を設けることによって、機関室をできるだけ船尾側に位置させることができる。このため、船長の長大化を抑制しつつ、船倉の船倉長を最大限に確保することができる。
第5発明によれば、長尺貨物の荷役作業において、デッキクレーン自体が邪魔になることがない。
第6発明によれば、船倉内で荷役作業を行う作業員の退避場所を確保することができる。
第7発明によれば、長尺貨物のラッシングを効率的に行うことができる。
第8発明によれば、長尺貨物の荷役作業時等において、トリムの調節を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る貨物船における船倉を示す側面図である。
図2図1の貨物船における各種タンクを示す側面図である。
図3図1の貨物船の平面図である。
図4図1の貨物船の船倉床面の平面図である。
図5図4に示すX−X断面図である。
図6図1の貨物船における船首側の船長方向隔壁の拡大側面図である。
図7図1の貨物船における船尾側の船長方向隔壁の拡大側面図である。
図8図1の貨物船に係る退避空間の説明図である。
図9】(a)は図8のa−a平面図、(b)は図8のb−b平面図、(c)は図8のc−c平面図、(d)は図8のd−d平面図である。
図10】ラッシング方法の一実施形態を示す説明図である。
図11】ラッシング方法の他の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の貨物船は、長尺貨物を積載可能な船倉を備えることを特徴とする。
【0010】
図1図2図4および図5に示すように、本実施形態に係る貨物船1は、長尺貨物を積載可能な船倉Cを備える。
まず、貨物船1の主な構成であるが、船倉Cの船首側には船首水タンク50が設けられ、船倉Cの船尾側には船尾水タンク51が設けられている。これらについては後述する。
図2および図4に示すように、船倉Cの両側および下方には、水バラストタンク53、54P、54S、55P、55S、56P、56S、57P、57S、58P、58S、59が設けられている。
図5は、図4におけるX−X断面図である。同図に示すように、上甲板2の下方には第二甲板15が設けられ、縦隔壁14によって区切られて、パイプスペース61P、61Sおよびラッシングスペース30P、30Sが設けられている。
また、第二甲板の下方には、船側外板12、縦隔壁13、船底外板10、内底板8および中心線ガーダ16によって水バラストタンク56P、56Sが形成されている。
さらに、第二甲板の下方には、縦隔壁13、船長方向隔壁4および内底板8によってボイド60P、60Sが形成されている。なお、例えば燃料タンク42P、42Sが設けられている位置の船幅方向断面では、ボイド60P、60Sの位置に燃料タンクが設けられている。
すなわち、貨物船1の船底は、船底外板10と内底板8からなる二重底構造となっており、貨物船1の船側は、船側外板12と、縦隔壁13または縦隔壁14と、船長方向隔壁4とによって三重船側構造となっている。
【0011】
船倉Cは、船長方向に伸びる左右の船長方向隔壁4、4と、船首隔壁7、船尾隔壁9と、内底板8と、から形成されている。
船倉Cの船倉幅CBは、船幅Bの25%〜40%に設定されることが好ましく、30%〜35%に設定されることがより好ましい。
なお、船倉Cの船倉幅CBが船幅Bの25%〜40%に設定されることによって、船倉Cの左右のデッキ幅は、それぞれ30%〜37.5%に設定されることとなる。
【0012】
また、図4に示すように、上甲板2の下には、横隔壁3が複数配設されている。従来の貨物船は、複数の船倉を備え、各船倉間に横隔壁が配設されて、船体の強度を確保している。しかしながら、本実施形態に係る船倉Cは、船倉長CLが非常に長い1つの船倉であるため、船体に作用する横方向の力に非常に弱くなる。
そこで、本実施形態のように横隔壁3を上甲板2の下に複数配設することによって、船体の強度を確保しつつ、船倉長CLの長い船倉Cを設けることができる。
【0013】
さらに、図5に示すように、船倉Cの二重底の高さHは、船幅Bの1/5〜1/10に設定されている。貨物船1の船底は、船底外板10と内底板8からなる二重底構造をなしているが、従来の貨物船における二重底の高さは、船幅の1/13〜1/16程度に設定される。しかしながら、本実施形態に係る船倉Cは、船倉長CLが非常に長い1つの船倉であるため、船体に作用する横方向および縦方向の力に非常に弱くなる。
そこで、本実施形態のように船倉Cの二重底の高さHを船幅Bの1/5〜1/10に設定する、すなわち二重底の高さHを十分に確保することによって、船倉長CLの長い船倉Cを設けることができる。
【0014】
少なくとも、以上の構成を備える貨物船1によると、船体の強度を十分に確保しつつ、船倉長CLが船長Lの80%程度の船倉Cを設けることができる。このため、従来は運搬できなかった、例えば約150mのレールのような長尺貨物も運搬することができる。
なお、船長Lによって船倉長CLは決定されるが、船倉長CLは船長Lの75%〜85%に設定されることが好ましく、78%〜82%に設定されることがより好ましい。すなわち、例えば船長200mの貨物船1であれば、船倉Cの船倉長CLを150m〜170m程度確保することができる。そのため、全長が150mを超えるような長尺貨物であっても、船長Lの長大化を抑制しつつ、船倉長CLの長い船倉Cを備えた貨物船1によって運搬することができる。
【0015】
(船長方向隔壁4の開口5、6)
図1図6および図7に示すように、本実施形態の貨物船1に係る船倉Cにおいて、船倉Cを形成する左右の船長方向隔壁4、4には、船首側および船尾側にそれぞれ開口5、6が設けられることが好ましい。
貨物船1に縦曲げモーメントが作用すると、サギングの状態またはホギングの状態となる。サギングの状態では、上甲板2側に圧縮力が働き、船底外板10側に引張り力が働く。その反対に、ホギングの状態では、上甲板2側に引張り力が働き、船底外板10側に圧縮力が働く。そして、サギングまたはホギングの状態のとき、船長方向隔壁4、4にも当然に圧縮力および引張り力が作用し、船首側および船尾側において特に応力集中が発生する。
そこで、まず左右の船長方向隔壁4、4の船首側には、開口5、5が設けられている。開口5、5の下側は内底板8に達しているが、開口5、5の上側は船長方向隔壁4の上端には達していない。これは、船長方向隔壁4の下部が横隔壁とつながっていると、その部分に応力が集中し、座屈あるいは破断するおそれがあるからである。
また、左右の船長方向隔壁4、4の船尾側にも、開口6、6が設けられている。開口6、6の下側は内底板8に達しているが、開口6、6の上側は船長方向隔壁4の上端には達していない。これは、前記した開口5、5と同様の理由からである。
なお、図6および図7に示すように、開口5の内縁5aおよび開口6の内縁6aは滑らかに形成されている。開口5、6の内縁5a、6aを滑らかに形成することによって、船長方向隔壁4、4に圧縮力および引張り力が作用した際、開口5、6に作用する応力によって開口5、6に亀裂が生じることを防ぐことができる。
また、開口5、6には、格子5b、6bがそれぞれ設けられることが好ましい。これら格子5b、6bを設けることによって、例えば船倉Cに粉体などの荷袋を積載したとき、荷袋の荷崩れを防止することができる。ただし、これら格子5b、6bは、開口5、6を構成するものではなく、開口5、6とは別に設けられるものであって、作用効果を異にするものである。
【0016】
(直立船首)
図1に示すように、本実施形態の貨物船1に係る船首Sは、直立船首とすることが好ましい。
通常の貨物船であれば、造波抵抗を最小限とするためにバルバス・バウが設けられるのが一般的である。しかしながら、バルバス・バウを設けると、貨物船の船長が長くなる。そのため、本実施形態の貨物船1に係る船首Sを直立船首とすることによって、船長Lの長大化を抑制しつつ、船倉Cの船倉長CLを最大限に確保することができる。
【0017】
(主機関)
図1に示すように、本実施形態の貨物船1に係る主機関は、船尾上方に設けられることが好ましい。
通常、主機関を船尾側に設ける場合、船の安定性を考慮すれば、できる限り船尾下方に設けることが好ましい。しかしながら、船尾の船底は、船尾側にいくにつれて徐々に幅が狭くなっていく。したがって、主機関をできる限り下方に設けようとすると、船尾より前方に位置する、主機関を設けるのに十分な船幅を確保できる部分となってしまう。
しかしながら、主機関が船尾より前方に設けられると、その分だけ船倉を前方へ設けざるを得なくなり、船倉長の長い船倉を設ける場合には、船長の長大化を招くこととなる。
そこで、主機関を設けるのに十分な船幅を備える船尾上方に、本実施形態に係る主機関を設けることによって、機関室ERをできる限り船尾側に設けることができる。そのため、船長Lを抑制しつつ、船倉長CLの長い船倉Cを備えた貨物船1を提供することができる。
【0018】
(デッキクレーン11)
図1および図2に示すように、本実施形態の貨物船1に係る複数のデッキクレーン11は、船倉Cの左右何れか一方にのみ設置されている。
複数の船倉を備える貨物船(ばら積み貨物船など)では、船体中央の船倉間にデッキクレーンが設置されるのが一般的である。しかしながら、本実施形態に係る貨物船1には、まず船体中央に船倉長CLの長い船倉Cが設けられているため、船体中央にデッキクレーンを設置することができない。
また、船体の安定性を考慮して船倉Cの左右にデッキクレーンを設置した場合、船倉Cへの長尺貨物の積み込みおよび船倉Cからの長尺貨物の積み卸し作業時に、デッキクレーン自体が邪魔になる。
そこで、本実施形態の貨物船1に係る複数のデッキクレーン11を、船倉Cの左右何れか一方にのみ設置することによって、長尺貨物の荷役作業において、デッキクレーン自体が邪魔になることがない。
【0019】
(退避空間20)
図3図4図8および図9に示すように、本実施形態の貨物船1に係る船倉Cの左右には、船長方向隔壁4に沿って複数の退避空間20が設けられている。
図8および図9に示すように、退避空間20には、船倉床24からフロア25及びフロア26を経由してフロア27に至る階段23a、23b、23cと、船倉床24からフロア26に至る梯子22aと、フロア27から上甲板2に至る梯子22bとを備える。上甲板2と退避空間20とは、退避空間ハッチ28を介して導通されている。
そして、この退避空間20と船倉Cとが、船長方向隔壁4に設けられた出入口21によって導通されている。作業員は、船倉C内の貨物積載高に応じて、退避空間20内の各フロア24、25、26、27と船倉Cとを、出入口21を介して行き来することができる。そのため、船倉C内で荷役作業を行う作業員の退避場所を確保することができる。
【0020】
(ラッシング固縛装置31)
図10および図11に示すように、本実施形態の貨物船1に係る船倉Cの左右には、船長方向隔壁4、4に沿ってラッシングスペース30、30が設けられ、各ラッシングスペース30、30の床面に、船長方向で3m〜7m毎にラッシング固縛装置31が設けられることが好ましい。
ラッシング方法は特に限定されないが、例えば図10に示すように、まず船倉Cに積載された長尺貨物R、R・・・の上端にラッシングビーム32を載置する。このラッシングビーム32の端部と、ラッシング固縛装置31、31とをそれぞれラッシングワイヤ33で係止することによって、長尺貨物Rのラッシングが行われてもよい。
また、例えば図11に示すように、一方のラッシング固縛装置31から他方のラッシング固縛装置31にラッシングワイヤ33を掛け渡して緊締することによって、長尺貨物Rのラッシングが行われてもよい。
何れのラッシング方法によっても、ラッシングスペース30にラッシング固縛装置31を船長方向で3m〜7m毎に予め設けておくことによって、長尺貨物のラッシングを効率的に行うことができる。
【0021】
(燃料タンク40、船首水タンク50および船尾水タンク51)
図2図4および図5に示すように、本実施形態に係る貨物船1は、前部船体に複数の燃料タンクが設けられ、かつ船首水タンク50および船尾水タンク52が設けられている。
貨物船1の左舷に、船倉Cに沿って船首側から燃料タンク40P、41P、42Pが設けられ、右舷に、船倉Cに沿って船首側から燃料タンク40S、41S、42Sが設けられている。そして、これら全ての燃料タンクが前部船体に設けられている。
また、貨物船1の船首には船首水タンク50が設けられ、船尾には船尾水タンク51が設けられている。
本実施形態に係る貨物船1は、主機関ERが船尾側に設けられているため、船尾トリムとなる。船尾トリムの状態で、水平に釣り上げた長尺貨物を船倉Cに積載しようとすると、長尺貨物が船倉C内において船首側から着床し、長尺貨物の姿勢が不安定となり、長尺貨物および船倉Cの内底板8に損傷を与えるおそれがある。
そこで、燃料タンク40P、41P、42P、40S、41S、42Sを前部船体に設けると共に、船首水タンク50および船尾水タンク51を設けることによって、長尺貨物の荷役作業時において、トリム調節を容易に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の貨物船は、長尺貨物の運搬に好適であるが、一般の貨物(袋詰めの穀物など)やコンテナの運搬にも適用できる。
【符号の説明】
【0023】
1 貨物船
2 上甲板
3 横隔壁
4 船長方向隔壁
5、6 開口
11 デッキクレーン
20 退避空間
21 出入り口
31 ラッシング固縛装置
40 燃料タンク
50 船首水タンク
51 船尾水タンク
B 船幅
C 船倉
CB 船倉幅
CL 船倉長
ER 主機関
H 二重底の高さ
L 船長
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11