(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エネルギー蓄積部に蓄積可能な蓄電容量として、前記バイパス部駆動装置による前記バイパス部の短絡動作を1回実行可能な最小限の容量に設定する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
前記バイパス部駆動装置は、前記バイパス部を短絡動作させた後開放指令を受けたとき、前記エネルギー蓄積部に蓄積された電力により前記ラッチ機能を解除するとともに前記バイパス部を開放動作させるようにした請求項3または請求項4に記載の電力変換装置。
【背景技術】
【0002】
モジュラー・マルチレベルコンバータ(MMC)は、IGBTなどのオンオフ制御可能なスイッチング素子と直流コンデンサとで構成されたセル変換器の出力端子を互いに直列に接続することで、スイッチング素子の耐圧以上の電圧を出力できる回路方式であり、直流送電システム(HVDC)や無効電力補償装置(STATCOM)などへの応用が期待されている回路方式である。
【0003】
例えば、特許文献1によれば、MMCは複数のセル変換器を直列(カスケード)接続して構成されている。各セル変換器は、スイッチング素子と直流コンデンサから構成された主回路と、他のセル変換器とカスケード接続するための外部端子と、外部端子の両端に接続するバイパス手段と、主回路の直流コンデンサからエネルギーを得てバイパス手段等を駆動する自給電源とを有する。
【0004】
そして、スイッチング素子をオンオフ制御することにより、外部端子間の電圧を、該セル変換器の有する直流コンデンサの電圧か、または零に制御できる。バイパス手段は、セル変換器が故障した場合に当該セル変換器の出力を短絡可能なノーマリーオンの短絡スイッチであり、この短絡スイッチによって故障したセル変換器の出力は短絡されるため、セル変換器が故障してもシステムとして運転継続させることも可能である。
【0005】
即ち、セル変換器105毎にバイパス手段としてノーマリーオンの短絡スイッチ209が出力端子に並列に接続されている。自給電源208は、直流コンデンサ203と並列に接続され、短絡スイッチ209の駆動電力を自給電源208から供給する。
セル変換器105が停止した場合、自給電源208から駆動電力が供給されなくなるため、短絡スイッチ209が自己オンすることでセル変換器105の出力が短絡され、セル変換器105が1台故障しても電力変換装置として運転継続させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による電力変換装置の構成を示す図である。電力変換装置は、互いに直列に(カスケード)接続されたセル変換器100a、100b、100c・・・を備えている。以下、代表して、セル変換器100aを同100としてその内部構成について説明する。
【0013】
IGBTなどのオンオフ制御可能なスイッチング素子1a、1bが互いに直列に接続されこれにコンデンサ2が接続されて主回路50を構成している。なお、各スイッチング素子1a、1bには、それぞれダイオードが逆並列に接続されている。この主回路50は、一対の外部端子X1、X2により外部に導出され、他のセル変換器100b、100cと接続される。そして、これら外部端子X1、X2には、バイパス部4が接続されている。
【0014】
更に、主回路50のコンデンサ2の電圧を入力し、後述するゲート駆動装置9およびエネルギー蓄積部5に給電する自己給電装置3を備えている。
なお、自己給電装置3としては、主回路50の動作で変動するコンデンサ2の高電圧を一定の低電圧に変換するDC/DCコンバータで構成するのが普通である。
【0015】
ゲート駆動装置9は、第一給電線7を介して自己給電装置3から給電される電力に基づき、スイッチング素子1a、1bをオンオフ制御することにより一対の外部端子X1、X2とコンデンサ2との間で電力変換を行い、外部端子X1、X2の間に、コンデンサ2の電圧または零電圧を出力する。
【0016】
エネルギー蓄積部5は、第一給電線7を介して自己給電装置3の電圧を入力して蓄電する。第一給電線7のエネルギー蓄積部5に接続される部分には、後述する理由により、給電方向に逆行する電流を阻止するためのダイオード10を挿入するのが望ましい。
【0017】
なお、エネルギー蓄積部5としては、コンデンサや電気二重層などの蓄電池を採用することが出来る。
前者のコンデンサの場合は、一般に蓄電池より安価であり、また、容量のバリエーションに優れているため、適切な容量の選択が容易という利点がある。
後者の蓄電池を採用した場合は、自然放電の量が少なく、自己給電装置3からの電力をより効率的に蓄電できるという利点がある。
【0018】
バイパス部駆動装置6は、第二給電線8を介してエネルギー蓄積部5に蓄積された電力を入力し、後段の
図2で説明するように、自己給電装置3の電圧が予め設定した下限値未満となったとき当該蓄積された電力によりバイパス部4を短絡動作させる。
【0019】
次に、セル変換器100の故障発生によりバイパス部4を短絡動作させて当該セル変換器100をバイパスする保護動作について説明するが、先ずその前段で、セル変換器100の故障の内容について説明する。
【0020】
セル変換器100の故障として想定される事象を列挙してその故障内容を示すと以下の通りである。
1)スイッチング素子1aの開放故障:この場合、コンデンサ2の接続ラインが開放状態となるので、コンデンサ2の電圧が低下し、自己給電装置3の出力電圧低下に至る。
2)スイッチング素子1bの開放故障:この場合、コンデンサ2の電圧を増加させる動作モードしか存在しなくなり、コンデンサ2が最終的に過電圧により開放故障してコンデンサ2の電圧が低下し、自己給電装置3の出力電圧低下に至る。
3)コンデンサ2の開放故障:この場合、コンデンサ2の電圧が低下し、自己給電装置3の出力電圧低下に至る。
4)ゲート駆動装置9の故障:この場合、スイッチング素子1a、1bが動作しなくなり、それに伴い、コンデンサ2に電圧が供給されなくなり、自己給電装置3の出力電圧低下に至る。
5)自己給電装置3自体の故障:自己給電装置3の出力電圧が低下し、その結果、ゲート駆動装置9およびエネルギー蓄積部5への給電が途絶える。
【0021】
以上のように、セル変換器100を構成する部品の故障は、バイパス部4を除いてすべて自己給電装置3の出力電圧低下という現象に帰結することから、この実施の形態では、バイパス部駆動装置6が、自己給電装置3の出力電圧を監視し、これが予め設定した下限値未満となったときこれを検知してエネルギー蓄積部5に蓄積された電力エネルギーによりバイパス部4を短絡動作させる。
【0022】
この故障検知時点では、自己給電装置3の出力電圧は大幅に低下、または零となっており、自己給電装置3からの給電は期待できないが、それまでにエネルギー蓄積部5に蓄積されたエネルギーの残量でバイパス部4を確実に短絡動作させることが出来る。
上述したように、第一給電線7のエネルギー蓄積部5に接続される部分にダイオード10を挿入しておけば、たとえ、自己給電装置3の出力端が短絡状態になってもエネルギー蓄積部5に蓄積されたエネルギーは、故障した自己給電装置3側に放出されることなく、バイパス部4の短絡動作に確実に活用されるわけである。
【0023】
次に、以上の故障時の保護動作を、従来の場合と比較して
図2により説明確認する。
図2(a)は、本願発明の場合で、時刻t0でセル変換器100内で故障が発生すると、これに伴い、自己給電装置3の出力電圧が低下を始める。この出力電圧が時刻t1で設定下限値に達すると直ちにバイパス部駆動装置6が動作してバイパス部4は、時刻t2で速やかに短絡状態となる。
【0024】
この短絡動作により、エネルギー蓄積部5に蓄積されていたエネルギー残量は、下段の特性カーブに示すように、それまでのフルのレベルから1回の短絡動作に費やすエネルギーを減じたレベルまで低下することになる。
【0025】
以上に対し、
図2(b)に示す従来の場合は、バイパス部には自己給電装置に接続されたノーマリーオンの短絡スイッチが使用されているので、同じく、時刻t0でセル変換器内に故障が発生した後、自己給電装置の出力電圧が低下を始め、この出力電圧が、短絡スイッチが自己短絡動作可能となる自己オンレベルにまで低下する時刻t3での短絡動作となる。この結果、故障発生からバイパス部の短絡動作までに大きな時間差が生じることになる。
【0026】
逆にこの発明の場合は、短絡動作の閾値となる電圧下限値を適切に設定することにより、セル変換器100が故障しても迅速で確実な短絡保護動作が実現し、電力変換装置として常に安全に運転継続させることが出来る。
【0027】
次に、バイパス部4の具体的な構成とそのラッチ機能について説明する。即ち、バイパス部4は、自己給電装置3が故障から復帰して再開放指令を受け取るまでは短絡動作を保持する必要があるため、バイパス部4には、短絡動作後、当該短絡動作を保持するラッチ機能を備える必要がある。
【0028】
ラッチ機能の例をバイパス部4の種類毎に説明する。先ずは、バイパス部4を真空スイッチで構成する場合について説明する。
真空スイッチは、真空状態になったバルブの中で接点を開閉するものであり、絶縁に必要な距離を短く出来るので小型化が可能で、かつ高速な短絡動作を実現できる。駆動力は、主に、永久磁石の吸引力やばねを用いる方式が広く知られているが、それらの動作にはバイパス部駆動装置6による強力な駆動力が必要となる。
【0029】
図3は、バイパス部4として真空スイッチを適用した場合の動作を説明する図である。
図3(a)〜
図3(c)は、それぞれ、短絡動作、短絡動作状態の保持、および開放動作の原理を説明する図である。
【0030】
当初の開放状態からコイル133を励磁すると、コイル電流による磁束φcによってプランジャ110と中央脚122との間に吸引力が発生し、可動鉄心130は、図中下方向に移動し始める。この可動鉄心130の動作に伴い、連結された可動接点が短絡方向へ移動する。短絡動作が完了すると、
図3(b)に示すように、コイル133の励磁を解除し、永久磁石132の吸引力のみで短絡動作状態を保持する。
この段階では、中心軸の周囲に配置された遮断ばねと接圧ばね(図示せず)はいずれも蓄勢された状態となっており、次の開放動作に備える。
【0031】
開放動作では、
図3(c)に示すように、短絡動作時と逆方向の電流をコイル133に流す。このとき、コイル電流による磁束φcは、永久磁石132による磁束φpmを打ち消すように作用するため、プランジャ110と中央脚122との間の吸引力が低下する。これにより、接圧ばねおよび遮断ばねの力が上回るようになると、可動鉄心130は、図中上方向に移動し同時に開閉接点が開放される。
【0032】
以上のように、この種の真空スイッチでは、永久磁石の磁気吸引力を利用したラッチ機能が備えられており、短絡動作後、自己給電装置3の故障でコイルへの電流の供給が絶たれても、バイパス部4は、短絡状態を保持することができる。
【0033】
また、バイパス部4としては、ばね方式の機械スイッチを使用することも出来る。機械スイッチは、真空スイッチと比べると大型で短絡動作が低速であるものの安価で入手が容易である。短絡動作を行うにはバイパス部駆動装置6による強力な駆動力が必要となる。
駆動力は、主にばねを用いる方式が広く知られているが、それらの動作には電源の供給が必要である。ラッチ機構を設けることで短絡動作後には機械的にラッチされるので、人力でラッチを解除しなければ短絡動作を継続することが可能である。
【0034】
以上のように、この発明の実施の形態1による電力変換装置は、自己給電装置3の電圧を入力して蓄電するエネルギー蓄積部5、および自己給電装置3の電圧が予め設定した下限値未満となったときエネルギー蓄積部5に蓄積された電力によりバイパス部4を短絡動作させるバイパス部駆動装置6を備えたので、短絡動作の閾値となる上述の電圧下限値を適切に設定することにより、セル変換器100が故障しても迅速で確実な短絡保護動作が実現し、電力変換装置として常に安全に運転継続させることが可能となる。
【0035】
更に、自己給電装置3とエネルギー蓄積部5とを接続する第一給電線7に、給電方向に逆行する電流を阻止するダイオード10を挿入したので、たとえ、自己給電装置3の出力端が短絡状態になってもエネルギー蓄積部5に蓄積されたエネルギーは、故障した自己給電装置3側に放出されることなく、バイパス部4の短絡動作に確実に活用される。
【0036】
また、バイパス部には、短絡動作後、当該短絡動作を保持するラッチ機能を備えたので、短絡動作後、自己給電装置3の故障でバイパス部駆動装置6への給電が絶たれても、バイパス部4は、短絡状態を保持することができ、電力変換装置としての運転を支障なく継続させることが出来る。
【0037】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、バイパス部4として、永久磁石の磁気吸引力を利用してラッチさせるものを例示したが、その場合の課題と解決策について、この実施の形態2で説明する。
【0038】
即ち、エネルギー蓄積部5の容量が比較的大きい場合、先の
図2(a)のタイミングチャートに示したように、バイパス部4の短絡動作駆動用にエネルギーを使用しても、バイパス部4を再度駆動可能なエネルギーが残っていることが考えられる。
バイパス部4のラッチ機能が機械的ではない、例えば、永久磁石の磁気吸引力を利用した方式である場合、先の
図3(c)に示すように、誤ってコイルに短絡動作とは逆方向の電流を与えるとバイパス部4が開放動作を行ってしまい、電力変換装置として運転継続が出来なくなってしまう。
【0039】
その防止策として、エネルギー蓄積部5に蓄積可能な蓄電容量として、バイパス部駆動装置6によるバイパス部4の短絡動作を1回実行可能な最小限の容量に設定する。
図4は、この場合の、バイパス部4の動作タイミングを示すタイミングチャートで、バイパス部4の短絡動作駆動用にエネルギーを使用するとエネルギー蓄積部5のエネルギー残量がほぼ零になっており、たとえ、誤ってコイルに短絡動作時とは逆方向の電流を流す操作がなされたとしても、実際にバイパス部4を駆動するエネルギーが存在しないので、バイパス部4の開放動作が確実に防止される。
【0040】
以上のように、この発明の実施の形態2による電力変換装置は、エネルギー蓄積部5に蓄積可能な蓄電容量として、バイパス部駆動装置6によるバイパス部4の短絡動作を1回実行可能な最小限の容量に設定したので、短絡動作後の誤操作によるバイパス部4の開放動作が確実に防止される。
【0041】
実施の形態3.
先の実施の形態1および2では、いずれかのセル変換器100内で故障が発生したとき当該セル変換器100のバイパス部4を迅速確実に短絡動作させることで、常に安全に運転の継続が可能となる電力変換装置について説明した。
これに対し、この実施の形態3は、セル変換器100の故障ではなく、従って、電力変換装置としては正常であるが、系統短絡事故等、電力変換装置の外部における事故により、電力変換装置が停止しすべてのセル変換器100の自己給電装置3の出力電圧が低下して全バイパス部4が短絡動作した場合を想定したものである。
【0042】
この場合は、外部事故が除去され系統が回復すると、当然ながら電力変換装置の速やかな運転再開が期待される。この実施の形態3は、その期待に応えるため創案されたものである。
【0043】
図5は、コンデンサ2の充電動作に係る現象を説明するもので、電力変換装置の稼働中、同図(a)、(b)に示すように、スイッチング素子1bをオフ制御するタイミングで、外部端子X1から流入した電流は上側のダイオードを介してコンデンサ2に供給されコンデンサ2を充電する。これによって、自己給電装置3はコンデンサ2から電圧が供給され動作可能となる。
【0044】
ここで、上述したように、外部事故が発生して電力変換装置が停止すると、セル変換器100への電流の流入が絶たれ、コンデンサ2の電圧は低下し、先の実施の形態で説明したように、やがて設定下限値に至るとバイパス部4が短絡動作する。
【0045】
そして、バイパス部4が一旦短絡状態になると、その後、たとえ、電流が流入しても、
図5(c)に示すように、電流はほとんどバイパス部4のみに流れコンデンサ2は充電されない。
この結果、バイパス部にノーマリーオンの短絡スイッチを使用する従来の場合は、たとえ、外部事故が除去され系統が回復しても、バイパス部を外部の何らかの動力源により開放操作しない限り、電力変換装置を再稼働させることが出来ない。
【0046】
これに対し、この発明では、先の実施の形態1で説明したように、エネルギー蓄積部5に蓄積された電力によりバイパス部4を駆動する方式を採用したので、この電力変換装置の再稼働が可能となる。但し、先の実施の形態2とは異なり、エネルギー蓄積部5として、少なくとも、バイパス部4の短絡動作を1回実行し、更に、その短絡動作後、バイパス部4を開放動作させるに必要な容量を持ったものとする必要がある。
【0047】
図6は、この発明の実施の形態3による電力変換装置のバイパス部4の動作タイミングを示すタイミングチャートである。
図6において、時刻t0で電力変換装置が停止し、時刻t1で自己給電装置3の出力電圧が設定下限値まで低下すると、バイパス部駆動装置6は、故障検出とみなして直ちにエネルギー蓄積部5に蓄積された電力によりバイパス部4を短絡動作させる(時刻t2)。
【0048】
その後、外部事故が除去され系統が回復し、その後、バイパス部駆動装置6は時刻t4で開放指令を受けると、先の
図3(c)で示したように、エネルギー蓄積部5に蓄積された残電力により直ちにバイパス部4のラッチ機能を解除するとともにバイパス部4を開放動作させる(時刻t5)。
【0049】
なお、以上では、電力変換装置自体は異常でなく外部事故の発生で停止した場合の再稼働対策について説明したが、セル変換器の故障で当該セル変換器のバイパス部が短絡動作し、その後、当該セル変換器が故障状態から回復した場合の当該セル変換器の再稼働対策にも同様に適用できる。
【0050】
以上のように、この発明の実施の形態3による電力変換装置のバイパス部駆動装置6は、バイパス部4を短絡動作させた後開放指令を受けたとき、エネルギー蓄積部5に蓄積された電力によりバイパス部4のラッチ機能を解除するとともにバイパス部4を開放動作させるようにしたので、エネルギー蓄積部5の容量を適切に設定することにより、セル変換器100、電力変換装置の速やかな再稼働が実現する。
【0051】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。