(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366724
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ゴデット、及び、ゴデットを制御する方法
(51)【国際特許分類】
B65H 51/06 20060101AFI20180723BHJP
D02J 1/22 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
B65H51/06 Z
D02J1/22 G
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-549629(P2016-549629)
(86)(22)【出願日】2014年10月21日
(65)【公表番号】特表2016-535713(P2016-535713A)
(43)【公表日】2016年11月17日
(86)【国際出願番号】EP2014072549
(87)【国際公開番号】WO2015059142
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2017年7月24日
(31)【優先権主張番号】102013017865.7
(32)【優先日】2013年10月26日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】307031976
【氏名又は名称】エーリコン テクスティル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Textile GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン シュトレーヴァー
【審査官】
冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/134732(WO,A1)
【文献】
仏国特許出願公開第2870837(FR,A1)
【文献】
特開2002−154749(JP,A)
【文献】
特開平7−46876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H51/02−51/12、51/28、51/32、57/00−57/28、61/00−63/08
D02J1/22
H02P6/00−6/34、7/00、7/03−7/347
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を案内するためのゴデットであって、
前記ゴデットは、電気駆動部(2)に結合された駆動可能なゴデット周壁(1)を有するゴデットにおいて、
前記電気駆動部(2)は、動作中断後に、手動で形成された前記ゴデット周壁(1)の回転運動によって前記電気駆動部(2)の再始動が実施可能となるように構成されている、
ことを特徴とするゴデット。
【請求項2】
前記電気駆動部(2)は、制御電子機器(5)が組み込まれたブラシレス同期モータ(4)によって構成されており、
前記ゴデット周壁(1)は、前記ブラシレス同期モータ(4)のモータ軸(3)に固定的に接続されている、
請求項1記載のゴデット。
【請求項3】
前記制御電子機器(5)は、誘導された電圧(U)を検出するための電圧測定器(16)と、始動信号を生成するための評価ユニット(19)と、を有する、
請求項2記載のゴデット。
【請求項4】
前記制御電子機器(5)は、モータ電流(I)を検出するための電流測定器(16)と、始動信号を生成するための評価ユニット(19)と、を有する、
請求項2記載のゴデット。
【請求項5】
前記評価ユニット(19)は、前記ブラシレス同期モータ(4)の前記モータ軸(3)の角加速度(a)を求めるための微分オペレータ(33)を有する、
請求項3又は4記載のゴデット。
【請求項6】
前記評価ユニット(19)は、前記角加速度(a)の実際値を保存された閾値(as)と比較するための比較器(34)を有する、
請求項5記載のゴデット。
【請求項7】
前記ゴデット周壁(1)に、小さい間隔をおいて摩擦手段(24)が割り当てられており、前記摩擦手段(24)は、前記ゴデット周壁に対向する側に摩擦面(26)を有し、
前記電気駆動部(2)は、作動トルク監視部(16,19)を有する、
請求項1から6のいずれか1項記載のゴデット。
【請求項8】
前記ゴデット周壁(1)は、糸(29)を複数回巻き掛けた状態で案内するために、相対回動可能に支持されたローラ(28)と協働する、
請求項1から7のいずれか1項記載のゴデット。
【請求項9】
前記電気駆動部(2)に、前記ゴデット周壁(1)を始動及び停止させるための手動スイッチ(23)が割り当てられている、
請求項1から8のいずれか1項記載のゴデット。
【請求項10】
ゴデットを制御する方法であって、
前記ゴデットのゴデット周壁を、電気駆動部によって駆動する方法において、
前記電気駆動部を、動作中断後に、手動で形成された前記ゴデット周壁の回転運動によって再始動させる、
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記ゴデット周壁を、制御電子機器が組み込まれたブラシレス同期モータのモータ軸によって駆動する、
請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記モータ軸の回転運動中における前記ブラシレス同期モータの電流及び/又は電圧を測定し、測定値から、前記制御電子機器内で始動信号を生成する、
請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記モータ軸の回転運動中における前記ブラシレス同期モータの時間的な電流増加及び/又は時間的な電圧増加を測定し、測定値から、前記制御電子機器内で始動信号を生成する、
請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記モータ軸の角加速度を求め、前記角加速度の実際値と閾値との比較に基づいて前記始動信号を生成する、
請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
前記電気駆動部の作動トルクを継続的に監視する、
請求項10から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
繊維機械におけるゴデットを操作する方法であって、
動作状態において糸を案内するために電気駆動部によってゴデット周壁を駆動する方法において、
動作中断後に、操作員によって手動で形成された前記ゴデット周壁の回転運動によって前記電気駆動部の再始動を実施する、
ことを特徴とする方法。
【請求項17】
前記ゴデット周壁を、制御電子機器が組み込まれたブラシレス同期モータによって駆動し、
前記ブラシレス同期モータを再始動させるために前記ゴデット周壁において手動で形成される前記回転運動を、モータ回転方向に、又は、モータ回転方向とは反対方向に実施する、
請求項16記載の方法。
【請求項18】
複数のゴデット周壁の複数の電気駆動部をグループスイッチングする際に、1つの電気駆動部を1つの手動で操作可能なスイッチによって始動及び停止させる、
請求項16又は17記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載された糸を案内するためのゴデットと、請求項10の上位概念に記載されたゴデットを制御する方法と、請求項16の上位概念に記載されたゴデットを操作する方法とに関する。
【0002】
糸の製造時及び処理時には、糸は、案内、送り、又は延伸のために、ゴデットの回転するゴデット周壁の周囲に1回又は複数回、部分的に巻き掛けられるように案内されることが一般的に知られている。このようなゴデットは、繊維機械又は製造プロセスにおける糸の搬送を保証する。例えば延伸や仮撚加工のためのテクスチャリング加工プロセスでは、未処理糸が供給パッケージとして準備され、テクスチャリング加工機の内部で、加工箇所内で前後に配置された複数のゴデットによって案内される。加工箇所においてそれぞれの糸が延伸され、テクスチャリング加工され、その後、巻き取られて1つのパッケージにされる。
【0003】
このようなゴデット及びゴデットを制御する方法は、例えば国際公開第2007/134732号から公知である。
【0004】
公知のゴデットは、糸を案内するために、電気駆動部に結合された駆動可能なゴデット周壁を有する。糸は、駆動されたゴデット周壁の周囲に案内される。ここで、例えば下流の巻取装置内でパッケージを交換する際に、糸弛み又は誤供給が発生したり、それどころか加工箇所内で糸切れが発生したりする危険が存在する。しかも、このような糸案内中の糸張力の変化によって、駆動中のゴデット周壁上に望ましくない糸巻き付きが引き起こされるおそれがある。中断時間をできるだけ短縮するために、公知のゴデットでは、ゴデット周壁の糸案内状況が巻き付きセンサによって監視され、電気駆動部の迅速なスイッチオフを可能にしている。ゴデット周壁の周囲の糸巻き付きが除去された後、巻き付きセンサは自身の初期位置に移され、これにより、中断されていた電気駆動部への電圧供給が再び実施されて、電気駆動部の再始動が可能となる。この場合にはこの巻き付きセンサを、電気駆動部を再始動させるためのスイッチとして直接利用することができる。
【0005】
しかしながら従来技術では、電気駆動部が別個のスイッチによって起動される形式のゴデットも一般的に公知である。スイッチが巻き付き監視のための付加的な機能を担っているかどうかに関係なく、スイッチと電気駆動部との間には面倒な配線が必要である。スイッチの操作は操作員によって行われ、動作中断後に操作員が改めてゴデットの周囲に糸を掛ける。
【0006】
そこで、本発明の課題は、上位概念に記載した形式のゴデットと、上位概念に記載した形式のゴデットを制御する方法とを改良して、動作中断後におけるゴデットの電気駆動部の起動を、付加的な補助手段を用いることなく可能にすることである。
【0007】
本発明の別の課題は、特にプロセスシーケンス及びその要求に適合されている、繊維機械におけるゴデットを操作する方法を提供することである。
【0008】
上記の課題は、請求項1に記載の特徴を有するゴデットと、請求項10に記載の特徴を有するゴデットを制御する方法と、請求項16に記載の特徴を有するゴデットを操作する方法とによって解決される。
【0009】
本発明の有利な発展形態は、上記の特徴と、これらの特徴の組み合わせとによって規定されている。
【0010】
本発明は、糸の案内に使用される繊維機械のゴデットが、比較的質量が小さいゴデット周壁を有し、且つこのゴデット周壁が比較的小さい質量慣性モーメントを有する、という認識に基づくものである。従って、このようなゴデットのゴデット周壁における回転運動を、操作員によって補助手段を用いることなく手動で形成することが可能である。動作中断後には操作員が吸引銃を用いて手動で再び糸を掛けて、ゴデット周壁の端面から糸を導入することが一般的であるので、ゴデット周壁における操作員の手を介した手動での回転運動を引き起こすことが可能である。ゴデット周壁において手動で形成された回転運動は、電気駆動部内へと伝達され、検出して相応の再始動のために利用することができる。この場合、電気駆動部を起動するための付加的なスイッチ手段は必要ない。
【0011】
ゴデット周壁の回転運動によって直接的に電気駆動部において検出可能な信号を生成するために、本発明に係るゴデットは好ましくは、電気駆動部が、制御電子機器が組み込まれたブラシレス同期モータによって構成されるように構成されており、ゴデット周壁は、同期モータのモータ軸に固定的に接続されている。従って、ゴデット周壁の回転によって同期モータ内のモータ軸が駆動される。これにより、同期モータ内のステータとロータとの間の磁気的結合によって、直接電気的に評価可能な信号を生成することができる。
【0012】
測定可能な信号として、誘導された電圧又は誘導されたモータ電流を利用することができる。この場合、本発明の発展形態によれば有利には、制御電子機器が、誘導された電圧を検出するための電圧測定器と、始動信号を生成するための評価ユニットとを有する。これに代わる形態では、制御電子機器に、モータ電流を検出するための電流測定器が設けられており、評価ユニットが、電流測定値から対応する始動信号を生成する。
【0013】
しかしながら、とりわけゴデット周壁の周囲の望ましくない糸巻き付きを除去する際にゴデットを操作すると、ゴデット周壁において意図しない回転運動が発生してしまう。ゴデット周壁のこのような望ましくない回転運動が発生した場合に、電気駆動部が尚早に再始動されないようにするために、本発明に係るゴデットの発展形態によれば好ましくは、評価ユニットが、同期モータのモータ軸の角加速度を求めるための微分オペレータを有する。電流変化又は電圧変化の増加速度は、モータ軸の角加速度に比例している。モータ軸の角加速度が充分である場合にのみ、再始動を実施することができる。
【0014】
従って、評価ユニットは、角加速度の実際値を保存された閾値と比較するための比較器を有する。これによって、ゴデット周壁の望ましくない回転運動に起因した電気駆動部内での信号形成を、除去することができる。
【0015】
ゴデットの動作中に電気駆動部の過負荷を回避するために、本発明の発展形態によれば、ゴデット周壁に、小さい間隔をおいて摩擦手段が割り当てられており、前記摩擦手段は、ゴデット周壁とは反対側に摩擦面を有し、電気駆動部は、前記摩擦手段において作動トルク監視部を有する。従って、ゴデット周壁の周囲に糸巻き付きが発生した場合に、電気駆動部の作動トルクを跳躍的に増加させることが可能となり、これによって過負荷を回避するための迅速なスイッチオフが可能となる。
【0016】
糸張力を増加させるために、糸は、ゴデット周壁の周囲に好ましくは複数回巻き掛けられるように案内される。これに関して、本発明に係るゴデットの発展形態によれば、ゴデット周壁は、糸を複数回巻き掛けた状態で案内するために、相対回動可能に支持されたローラと協働する。
【0017】
繊維機械においてはさらに、多数の加工箇所が互いに隣り合って配置されており、複数のゴデットが、プロセス開始時及びプロセス終了時に1つのグループとして隣接して一緒に制御されることが通常である。この場合には電気駆動部に、ゴデット周壁を始動及び停止するための手動スイッチを割り当てることが有利である。
【0018】
本発明に係るゴデットは、1つのゴデット周壁の周囲に複数の糸を同時に案内するためにも基本的に適している。この場合には、電気駆動部に結合されたゴデット周壁を手動で回転運動させることが可能であることが重要である。
【0019】
本発明に係るゴデットを制御する方法は、電気駆動部を起動するためにスイッチ制御を調整しなくてよいという点において優れている。それどころか、ゴデット周壁の回転運動を手動で形成することによって、ゴデット周壁の駆動部を直接的に再始動させることが可能である。
【0020】
付加的な補助手段を用いることなく始動プロセスを自動的に実施できるようにするために、ゴデット周壁は、制御電子機器が組み込まれたブラシレス同期モータの駆動軸によって駆動されている。このようなBLDCモータは、制御アルゴリズムを直接、電気駆動部において実施可能とするために特に適している。
【0021】
従って、モータ軸の回転運動中における同期モータの電流又は電圧を測定し、測定値から直接的に、制御電子機器内で始動信号を生成することができる。
【0022】
とりわけ、例えば操作員が糸巻き付きを解く際に形成されるおそれがあるゴデット周壁の望ましくない回転運動を、再始動のために排除するために、好ましくは、モータ軸の回転運動中における同期モータの時間的な電流増加及び/又は時間的な電圧増加が測定され、その後、測定値から、制御電子機器内で始動信号が生成される。
【0023】
手動で形成された回転運動によって誘導される電流又は電圧の増加速度は、モータ軸の角加速度に比例していることが判明している。従って、電流変化又は電圧変化の増加速度からモータ軸の角加速度を求めることができ、角加速度の実際値と閾値との比較に基づいて角加速度から始動信号を生成することが可能である。
【0024】
ゴデットを制御する方法は、とりわけ電気駆動部のスイッチオフのために、電気駆動部の作動トルクを継続的に監視することによってさらに改善することができる。これにより、所定の限界作動トルクが超過された場合に、別の補助手段を用いることなく電気駆動部のスイッチオフを実現することが可能となる。
【0025】
本発明に係る、繊維機械におけるゴデットを操作する方法は、ゴデットにおける糸切れ後に実施すべき全ての操作が、ゴデット周壁に直接関係しているという点において優れている。従って、ゴデット周壁の周囲での糸掛けと、ゴデット周壁の再始動とが必要である。従って、全ての実質的な操作は、直接ゴデット周壁において操作員によって実施可能である。操作員は、駆動部を再始動させるために手でゴデット周壁の回転運動を形成する。これに関し、ゴデット周壁の周方向に手を素早く動かすことによって、ゴデット周壁を回転に導くことができる。ゴデット周壁は、回転中に複数回の回転を伴う継続的な回転運動を実施する。この場合には、操作員は、好ましくは若干の力を加えながらゴデット周壁の周面に手を平坦に当て、その後、その手を素早くわきに動かすことによってゴデット周壁を回転方向に加速させることができる。
【0026】
回転運動は、好ましくはモータ回転方向においても、モータ回転方向と反対の方向においても形成可能であり、制御電子機器が組み込まれたブラシレス同期モータによってゴデット周壁が駆動される。この場合に、モータ軸のどの回転方向で信号の誘導が実施されるは、信号形成にとって重要ではない。
【0027】
とりわけ複数のゴデットが設けられている場合には、プロセスの開始及びプロセスの終了をそれぞれの動作状態に関係なく実施できるようにするために、1つの電気駆動部が1つの手動で操作可能なスイッチによって始動及び停止される。このようなスイッチは、複数のゴデットを制御するためのグループスイッチとして、又は、個々のゴデットを制御するための個別スイッチとして構成することができる。
【0028】
本発明を、以下、本発明に係る装置の複数の実施例に基づいて、添付図面を参照しながらより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係るゴデットの1つの実施例の概略横断面図である。
【
図2】繊維機械における複数の異なる動作状況における、
図1の実施例の概略側面図である。
【
図3】電気駆動部の始動信号を生成するための概略フローチャートである。
【
図4】回転運動が手動で形成される際の、電気駆動部の測定信号の信号推移の概略図である。
【
図5】本発明に係るゴデットの別の1つの実施例の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1には、本発明に係るゴデットの1つの実施例の横断面図が示されている。ゴデットは、カップ形のゴデット周壁1を有する。ゴデット周壁1は、電気駆動部2のモータ軸3の突出した自由端部に相対回動不能に固定されている。電気駆動部2は、本実施例ではいわゆるBLDCモータとしても知られるブラシレス同期モータ4として構成されている。従って、電気駆動部2は、同期モータ4と組み込まれた制御電子機器5とを含む。
【0031】
電気駆動部2とゴデット周壁1とは1つの構造ユニットとして構成されており、電気駆動部2は、複数のパーツからなるハウジングを有する。同期モータ2のモータ軸3は、軸受ハウジング8内に複数の転がり軸受9を介して相対回動可能に支持されている。モータ軸3は、ゴデット周壁1とは反対側に、ロータ10が配置された端部を有する。ロータ10は、本明細書では詳細に説明しない永久磁石によって形成される。ロータ10は、複数の巻線を支持するステータ11によって取り囲まれている。ステータ11は、モータ支持部12によって保持されている。モータ支持部12は、同期モータ4に直接的に接するように配置されたモータハウジング13と、軸受ハウジング8との間に延在している。モータハウジング13は、制御電子機器5を収容している。モータハウジング13と軸受ハウジング8とは、複数の保持ウェブ31を介して互いに接続されている。
【0032】
制御電子機器5は、本実施例ではプリント基板14、パワーモジュール15、インバータ17、及び評価ユニット19によってシンボリックに表されている。制御電子機器5は、とりわけ測定手段16を有し、この測定手段16は、一般的に評価装置19に結合されている。さらには、メモリ手段18が設けられており、このメモリ手段18は、一般的に評価ユニット19内に組み込まれている。従って、メモリ手段18と評価ユニット19とを、1つのマイクロプロセッサとして構成することができる。
【0033】
制御電子機器5は、給電線21を介して図示されていない電圧源に結合されている。制御電子機器5への第2の接続部は、データ線路20であり、このデータ線路20は、上位の機械制御ユニット22とのデータ交換を可能にする。本実施例ではさらに、プロセスの開始時又はプロセスの終了時に電気駆動部2の起動を可能にするために、制御電子機器5にスイッチ23が直接的に結合されている。
【0034】
以下では、
図1に図示されたゴデットの機能を、さらなる図面2.1,2.2,2.3を参照しながら説明する。
図2.1,2.2,2.3には、繊維機械において使用した場合における
図1の実施例の概観がそれぞれ図示されている。
図2.1には、糸案内による動作中のゴデットが図示されており、
図2.2には、糸巻き付きが発生した場合の動作中のゴデットが図示されており、
図2.3には、電気駆動部2の再起動時のゴデットが図示されている。
【0035】
図1に即したゴデットが、繊維機械の内部で支持体27に保持されている。ここでは、支持体27の表側にゴデット周壁1が保持されており、支持体27の後ろ側に電気駆動部2が保持されている。支持体27の表側には、ゴデット周壁1に対して間隔をおいて、相対回動可能に支持されたローラ28が割り当てられている。支持体27の表側にはさらに摩擦手段24が固定されており、この摩擦手段24の摩擦面26は、ゴデット周壁1に小さな間隔をおいて保持されている。摩擦手段24は、本実施例では支持体27に固定されたピン25によって構成され、このピン25は、ゴデット周壁1と同軸に方向決めされており、ゴデット周壁1のほぼ全長に亘って延在している。
【0036】
図2.1には、糸29が、ゴデット周壁1の周囲とローラ28の周囲とに複数回巻き掛けられるように案内される状況が図示されている。ゴデット周壁1は、この動作状態では、同期モータ4によってほぼ一定の回転数で駆動される。同期モータ4は、制御電子機器5によって制御され、この際には、目標回転数がデータ入力部を介して制御電子機器5に入力される。
【0037】
ゴデットの前又は後ろでの糸切れ、若しくはゴデットの前又は後ろでの糸弛みのせいで、ゴデット周壁1の周囲に糸巻き付きが形成された場合には、ゴデット周壁1においてその都度糸の張力が変化してしまい、ひいては同期モータ4の作動トルクが変化してしまう。この状況が、
図2.2に図示されており、ここでは、走行中の糸29が巻き付くことによってゴデット周壁1の周囲に糸巻き付き30が発生している。これに代えて、既に走行し終わった糸によって糸巻き付き30が発生して、戻ってきた糸が糸巻き付き30へと案内される可能性もある。
【0038】
ゴデット周壁1の周囲における糸巻き付き30の発生形式とは関係なく、制御電子機器5においてその都度の作動トルクの実際値の変化が検出され、同期モータ4の作動トルクの保存された限界値と比較される。糸巻き付き30が摩擦手段24に接触すると直ぐに、摩擦面26を介して付加的な作動トルクが形成され、この作動トルクが、同期モータ4の作動トルクの非常に急速な増加を引き起こす。作動トルクの許容できない過増加が確認されると直ぐに、制御電子機器5の評価ユニット19において、同期モータ4をスイッチオフするためのスイッチング信号が形成される。ゴデット周壁1に結合されたモータ軸3が停止され、これにより、ゴデット周壁1の周囲の糸巻き付き30を操作員が除去することが可能となる。
【0039】
図2.3には、動作中断の終了直前の状況が図示されている。この状況では、操作員は、糸29をハンドインジェクター32へと案内して、ゴデット周壁1の周囲に糸を掛ける。ゴデット周壁1は、操作員が手を動かすことによって前もって回転運動される。このためにゴデット周壁1の周面に手が当てられ、これにより、操作員が回転方向に素早く手を動かすことによってゴデット周壁1の回転を加速させる。ゴデット周壁1はモータ軸3と共に回転し、これによって、同期モータ4内のロータ10を介して信号が誘導される。
【0040】
電気駆動部2の始動プロセスをさらに説明するために、
図3が参照される。
図3には、同期モータ4の始動信号を生成するためのフローチャートが図示されている。
【0041】
モータ軸3の回転により、同期モータ4内にてモータ電流の誘導及び電圧の誘導が生じる。
図1から分かるように制御電子機器5は、電流測定器又は電圧測定器として構成可能な測定手段16を有する。この場合には測定手段16によって、手動で形成されたゴデット周壁1及びモータ軸3の回転運動によって誘導された電圧U又はモータ電流Iが測定される。誘導された電圧又は誘導されたモータ電流の測定値は、制御電子機器5の評価ユニット19に供給される。
【0042】
モータ軸の回転運動の結果として誘導された信号を、手動で実施されたプロセスに一義的に対応付けるために、信号の振幅、ひいては誘導された電圧及び/又は誘導されたモータ電流を、一義的に評価することは不可能である。例えば、ゴデット周壁1の周囲の糸巻き付きを除去する際に、モータ軸の回転運動も形成される可能性があり、この回転運動が電流又は電圧を誘導してしまう。これらの回転運動を区別するために、検出された信号が微分される。このために評価ユニットは、微分オペレータ33を有し、この微分オペレータ33は、誘導された電圧及び/又は誘導されたモータ電流の増加速度を検出する。増加速度は、
図3では商d/dtで表されている。この増加速度は、モータ軸3の角加速度に比例している。従って、測定信号の微分は、角加速度aの尺度となる。
【0043】
同期モータ4の始動プロセスに必要な角加速度は、閾値a
sとして保存されている。このような閾値は、好ましくは制御電子機器5のメモリ手段18に保存することができる。実際の状態を閾値と比較するために、評価ユニット19は、算出された角加速度を角加速度の閾値a
sと比較する比較器34を有する。角加速度の閾値a
sが超過された場合には、評価ユニット19によって、同期モータ4を起動するための制御信号が形成される。評価ユニット19はこのために、対応する信号をインバータ17に供給する。角加速度の閾値a
sが超過されていない場合には、評価ユニット19によって始動機能がトリガされることはない。
【0044】
始動信号を生成するための
図3に図示されたフローチャートは、一例である。しかしながら、誘導された信号から始動信号を直接的に生成することも基本的には可能である。例えば
図4には、誘導されたモータ電流の時間推移が概略的に図示されている。線図では、横軸に時間tが、縦軸にモータ電流Iがプロットされている。
図4の線図は、参照符号I
1及びI
2が付された2つの推移を示している。モータ電流I
1は、例えばゴデット周壁の回転運動が操作員によって手動で形成された時に同期モータ4において測定されたものである。参照符号I
2が付された限界曲線は、例えば、糸巻き付きを除去している最中におけるゴデット周壁の望ましくない回転運動を表している。誘導されたモータ電流I
1の推移とI
2の推移とは、例えば時間差t
1−t
2から見て取れる傾きの点で実質的に異なっている。時点t
1に電流値I
1とI
2とが測定され、この場合、測定値I
1は測定値I
2よりも大きい。これに応じて時点t
2には、電流値I
1’とI
2’とが測定される。さてここで、微分のために、時間差ごとに発生する測定値変化が記録され、評価される。時間差t
1−t
2において発生した測定値変化I
1’−I
1とI
2’−I
2とが、電流値の変化速度の尺度となる。このようにして、この線図にはプロットされていない閾値と実際値を比較することによって、ゴデット周壁で形成されたその都度の回転運動を識別して、モータ駆動部の再始動のために利用することが可能となる。
【0045】
図5には、例えば繊維機械において使用されるような、本発明に係るゴデットの別の1つの実施例が図示されている。
図5の実施例は、合計で4つのゴデットを図示しており、これらのゴデットは、1つの共通の支持体27に配置されている。支持体27は、表側に複数のゴデット周壁1と複数のローラ28とを保持しており、これらは、片持ち式に自由に相対回動可能に支持体27に保持されている。これらのゴデット周壁1は、それぞれモータ軸3を介して、支持体27の後ろ側に配置された電気駆動部2に結合されている。本実施例では、合計で4つの電気駆動部2が互いに隣り合って配置されている。当該支持体27における電気駆動部2の個数及びゴデット周壁1の個数は、一例である。基本的には8個,12個,16個,又はそれ以上のゴデットを、1つのゴデット支持体に配置することができる。
【0046】
支持体27に保持された各ゴデットは、
図1の実施例と同一に構成されている。
図5に図示された実施例の場合には、各電気駆動部2への電力供給が1つの給電線21を介して実施され、この給電線21は、グループ制御ユニット35とグループスイッチ36とを介して詳細には図示されていない上位の給電ユニットに接続されている。各電気駆動部2は、好ましくはBUSシステムとして構成されている1つのデータ線路20を介してグループ制御ユニット35に接続されている。グループ制御ユニット35は、機械制御ユニット22に結合されている。
【0047】
グループ制御ユニット35内には、対応するゴデットを動作させるために予め設定された動作パラメータが保存されており、それぞれの電気駆動部2を個別的に指定して駆動することが可能となっている。
【0048】
本実施形態において、製品交換時におけるゴデット周壁の停止を可能にするために、それぞれの駆動部2に対して別個のスイッチ23を割り当てることも可能である。
図5には、これらのスイッチ23が破線で図示されている。これらのゴデット周壁1のうちの1つにおいて糸巻き付きが発生して、動作中断が必要となった場合には、
図1及び2の上述した実施例に応じてゴデットの操作及び制御が実施される。この場合には、上述した説明が参照される。
【0049】
本発明に係るゴデット、本発明に係るゴデットを制御する方法、及び、本発明に係るゴデットを操作する方法は、繊維機械の内部に多数の加工箇所が存在する場合に迅速且つ確実なプロセス進行を維持するために特に適している。この場合には、制御電子機器が組み込まれたブラシレス同期モータを使用することによって面倒な配線を回避することができる。さらには、動作状態が変化した場合に迅速な反応時間を実現することができる。