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特許6366732ヘキサフルオロリン酸塩の、および五フッ化リンの製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366732
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ヘキサフルオロリン酸塩の、および五フッ化リンの製造
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/455 20060101AFI20180723BHJP
   C01B 25/10 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C01B25/455
   C01B25/10
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-560341(P2016-560341)
(86)(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公表番号】特表2017-509580(P2017-509580A)
(43)【公表日】2017年4月6日
(86)【国際出願番号】IB2014060328
(87)【国際公開番号】WO2015150862
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2017年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】512234094
【氏名又は名称】ザ サウス アフリカン ニュークリア エナジー コーポレイション リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100128587
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 一騎
(72)【発明者】
【氏名】レクゴアティ、モホ、ディファゴ、スタンレー
(72)【発明者】
【氏名】ル・ルー、ヨハネス、ペトリュス
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−514153(JP,A)
【文献】 特開2008−195547(JP,A)
【文献】 特開2010−042938(JP,A)
【文献】 特表2012−520235(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0079619(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00 − 25/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサフルオロリン酸塩を製造する方法であって、
有機ルイス塩基によってヘキサフルオロリン酸を中和し、ヘキサフルオロリン酸有機塩を得ること、
前記ヘキサフルオロリン酸有機塩を、アルカリ金属水酸化物(LiOH以外)およびアルカリ土類金属水酸化物から選択されたアルカリ水酸化物と、非水懸濁媒体中で反応させ、ヘキサフルオロリン酸アルカリ塩を沈殿物として得ること、および
前記非水懸濁媒体、未反応の有機ルイス塩基および前記沈殿物を生成する反応の間に生成した水を含む液相を除去し、これにより前記ヘキサフルオロリン酸アルカリ塩を回収すること、
を含む前記方法。
【請求項2】
五フッ化リンを製造する方法であって、
請求項1に記載の方法によって製造されたヘキサフルオロリン酸アルカリ塩を熱分解し、気体の五フッ化リンおよび非気体の残渣としてアルカリフッ化物を得ること、
を含む前記方法。
【請求項3】
前記ヘキサフルオロリン酸アルカリ塩の熱分解は、600℃までの温度にて生じる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヘキサフルオロリン酸アルカリ塩の熱分解は、部分真空下で生じる、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
リン酸を無水のフッ化水素または含水のフッ化水素酸と反応させて、前記ヘキサフルオロリン酸を得ることを含む、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機ルイス塩基は、有機アミンである、請求項1又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記有機アミンは、ピリジン、イミダゾールおよびピロールから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記有機アミンは、ピリジンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アルカリ水酸化物は、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選択される、請求項1、5〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記アルカリ水酸化物は、水酸化ナトリウムである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記非水懸濁媒体は、有機溶媒である、請求項1、5〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記有機溶媒は、メタノールまたはエタノールを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記有機溶媒は、エタノールを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記非水懸濁媒体は、非プロトン性媒体である、請求項1、5〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記非プロトン性媒体は、アルキルカーボネート、テトラヒドロフランエーテルまたはアセトニトリルを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記液相の除去は、前記沈殿物から過剰の液相をデカンテーションすること、および200℃の温度まで前記沈殿物を加熱して前記沈殿物に存在する残りの液相を蒸発させることによって達成される、請求項1、5〜15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサフルオロリン酸塩の、および五フッ化リンの製造に関する。特に、それは、ヘキサフルオロリン酸塩および五フッ化リンをそれぞれ製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)は、有機溶媒に溶解させて、リチウムイオン電池の電解質の成分として使用される。この塩、すなわち、LiPFは、高い溶解性を有し、一旦、有機媒体に溶解されると高い電気伝導性を有し、安全に電池において使用できる。主にリチウムイオン電池を使用する電子機器、例えば、携帯電話、ノート型パソコンおよびこれらの製品の他の派生品に対する現在の魅力的な市場状況のために、商業的な目的のための、良好な収率、良好な品質のヘキサフルオロリン酸リチウム塩に対する需要がある。
【0003】
LiPF塩は、絶えず分解して、PFガスおよびLiF固体残渣を放出する。この分解反応は、可逆であり、そのため、適切な状況下では、PFガスおよびLiF固体の組み合わせは、LiPF塩を形成するであろう。この経路は、よく知られており、前記塩を製造するための工業的に実行可能な技術である。しかしながら、電解質グレードのLiPFについての純度要求は、PFガスの製造について同様の高い純度要求を課す。
【0004】
一般に、LiPFの合成についての様々な製造経路が、収率および純度を変えて、提案および実施されている。大まかに、これらの方法は、非水(乾燥、しかし典型的には、非水溶媒中)を使用した湿式から乾式固体状の方法または気相法まで多岐にわたる。これらの方法の大多数は、1つの試薬として外部の源からのPFガスを使用し、一方、他の場合では、PFガスまたはPFカチオンのいずれかが、中間反応を介して、インサイチュ(in situ)で生成される。そのため、LiPFの電解質に対する純度要求を達成するには、高い純度のPF(またはPF)の源を有することが重要である。
【0005】
湿式または水系の経路は、典型的には、加水分解およびLiPFの汚染で終わり、一方、有機または無機物質の存在は、また、除去が困難なLiPFとの付加物を生成する。その基準の他方で、乾燥した試薬粉末を圧縮した粒の加熱を伴う固体状の熱的経路では、不完全であり、低い収率をもたらす傾向がある。低温から昇温段までの一連の複雑な工程中においてリン、フッ素およびLiFを使用する乾式の気相経路では、また、高い純度のLiPFをもたらすが、煩雑な技術である。
【0006】
最も広く使用されている方法は、乾式(無水)の経路であり、典型的には、有機溶媒または無水フッ化水素のいずれかの存在下で、PFをLiFと反応させる。有害な試薬の取り扱いおよび生成物の精製には、不純物および/または汚染を分離するための、低温蒸留から中間錯体の生成に及ぶ革新的な方法が求められてきている。無水HF中におけるLiFの懸濁、およびPFガスの通過を伴う技術は、一見したところ商業的に実施可能な経路であるようであり、そしてLiPFの合成に最も好ましい。
【0007】
商業的にあまり人気がない、他の方法は、湿式な化学合成経路、例えば、ヘキサフルオロリン酸塩(HPF)およびリチウム源、例えばLiOHとの間の反応を使用し、そこでは、米国特許第5,993,767に請求されるように、溶媒和イオンは、ピリジン中で安定化し、水に安定な有機ピリジニウム錯体を生成する。ピリジニウム化合物は、LiPFを最終的に錯体の熱分解によって得ることができるように、錯化したLiPFの加水分解を防止する。この方法は、例えば、ピリジンまたは他の関連した有機分子、ならびにHFおよびリン酸の生成物であるHPFなどの容易に入手できる反応物質を使用するため、利点を有する。この方法に関連した問題は、生成したLiPF−ピリジン錯体が400℃までの温度で熱的に安定であり、容易には分解してLiPF塩を生じようとしないことである。ピリジンからのLiPFの分離は、ほとんど不可能であり、典型的にはLiPF自体のPFガスおよび固体LiFへの熱分解をもたらすであろうから、このLiPFの合成についての直接的経路は、効率が良くなく、実施可能ではない。したがって、この有機錯体の安定性は、この技術、およびこの塩の精製のためにアセトニトリルなどの有機物質を、LiPFと錯化する方法を含む他の関係する湿式の化学法のアキレス腱である。
【0008】
いくつかの方法が、LiPFの製造において研究されてきているが、ただわずかのみが成功裏に商業化されてきた。この挑戦は、収率、無水分状態でのLiPFの取り扱いおよび生成物の純度を含む。無水HF中のLiFの懸濁およびPFガスの通過を伴う技術は、商業的に実施可能であり、LiPFの合成に最も好ましい経路であるように思われる。
【0009】
乾式合成経路の間において中間体として使用される五フッ化リンガスは、通常は、以下の方法の1つによって得られる。
(i)特許出願公開番号:US2010/0233057などにおけるリンのフッ素ガスとの反応、
(ii)US3,634,034などにおけるPClのHFとの反応、
(iv)EP2311776A1などにおけるHF蒸気がヘキサフルオロリン酸(HPF)溶液を通してバブリングされる反応、ここで、そのHPF溶液は、PおよびHFの反応から得られる、
(v)加熱されてPFガスを生じることができる、三フッ化二臭化リン、PFBrを生成する三フッ化リンの臭素との反応(http://site.iugaza.edu.ps/bqeshta/files/2010/02/94398_17.pdf)2013年7月31日閲覧、および
(vi)熱分解が続くPのCaFとの反応またはKPF、NaPFおよびLiPFなどのアルカリ金属塩の熱分解を含む、他の周知の乾式のPFの調整方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
塩素およびフッ素の交換を伴う方法は、混合されたハロゲン化物のより少ないより純粋な生成物を与えるためには、大掛かりで特別な分別を必要とし、一方、他の方法は、生成物の分離の必要に悩まされる。したがって、特別な分離技術を必要とする複数のガス発生に対処する必要がなく、純粋なPFガスを製造する必要性が考えられる。同様に、高い純度のPFガスが得られるヘキサフルオロリン酸塩を製造する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点によれば、ヘキサフルオロリン酸塩を製造する方法が提供され、前記方法は、
有機ルイス塩基によってヘキサフルオロリン酸を中和し、ヘキサフルオロリン酸有機塩を得ること、
前記ヘキサフルオロリン酸有機塩を、アルカリ金属水酸化物(LiOH以外)およびアルカリ土類金属水酸化物から選択されたアルカリ水酸化物と、非水懸濁媒体中で反応させ、ヘキサフルオロリン酸アルカリ塩を沈殿物として得ること、および
前記非水懸濁媒体、未反応の有機ルイス塩基および前記沈殿物を生成する反応の間に生成した水を含む液相を除去し、これにより前記ヘキサフルオロリン酸アルカリ塩を回収すること、
を含む。
【0012】
本発明の第2の観点によれば、五フッ化リンを製造する方法が提供され、前記方法は、
有機ルイス塩基によってヘキサフルオロリン酸を中和し、ヘキサフルオロリン酸有機塩を得ること、
前記ヘキサフルオロリン酸有機塩を、アルカリ金属水酸化物(LiOH以外)およびアルカリ土類金属水酸化物から選択されたアルカリ水酸化物と、非水懸濁媒体中で反応させ、ヘキサフルオロリン酸アルカリ塩を沈殿物として得ること、
前記非水懸濁媒体、未反応の有機ルイス塩基および前記沈殿物を生成する反応の間に生成した水を含む液相を除去し、これにより前記ヘキサフルオロリン酸アルカリ塩を回収すること、および
前記ヘキサフルオロリン酸アルカリ塩を熱分解し、気体の前記五フッ化リンおよび非気体の残渣としてアルカリフッ化物を得ること、
を含む。
【0013】
本発明の第2の観点において、ヘキサフルオロリン酸アルカリ塩、例えば、ヘキサフルオロリン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩の熱分解は、600℃までの温度にて生じることができる。例えば、ヘキサフルオロリン酸カリウムにおいて、熱分解は、おおよそ600℃で生じることができる。一方、ヘキサフルオロリン酸ナトリウムにおいて、熱分解は、おおよそ400℃で生じることができる。熱分解は、部分真空下で生じることができ、同様にヘリウム雰囲気などの不活性雰囲気下で生じることができる。
【0014】
前記方法は、リン酸を無水のフッ化水素または含水のフッ化水素酸と反応させて、前記ヘキサフルオロリン酸を得ることを含んでもよい。
【0015】
アミンによるヘキサフルオロリン酸の中和は、強いHPF成分のみが中和され、一方、他のより弱い前記酸の分解成分は、反応から除外されるような条件下で行われねばならない。そのため、その時点までの反応を終結させるためのアミンの化学量論量は、丁寧な滴定によって決定されなければならない。これは、ヘキサフルオロリン酸アルカリ塩を生成する次の工程のための、高い純度のヘキサフルオロリン酸有機塩を確保するであろう。
【0016】
前記有機ルイス塩基は、有機アミンであってもよい。前記有機アミンは、ピリジン、イミダゾールおよびピロールから選択されてもよく、特に、有機アミンは、ピリジンであってもよい。
【0017】
前記アルカリ水酸化物のアルカリは、上に述べたように、リチウムを除く元素周期表の第1族のアルカリ金属または元素周期表の第2族のアルカリ土類金属である。さらに具体的には、前記アルカリ水酸化物は、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選択されてもよく、特に、アルカリ水酸化物は、水酸化ナトリウムであってもよい。
【0018】
前記非水懸濁媒体は、有機溶媒であってもよい。前記有機溶媒は、メタノールまたはエタノールを含んでもよく、特に、溶媒は、エタノールを含んでもよい。
【0019】
代わりに、前記非水懸濁媒体は、非プロトン性媒体であってもよい。前記非プロトン性媒体は、アルキルカーボネート、テトラヒドロフランエーテルまたはアセトニトリルを含んでもよい。
【0020】
前記液相の除去は、前記沈殿物から過剰の液相をデカンテーションすることによって達成されてもよい。それは、同様に、200℃の温度まで前記沈殿物を加熱して前記沈殿物に存在する残りの液相を蒸発させることを含んでもよい。
【0021】
本発明は、したがって、本発明の第2の観点において、純粋なガスの五フッ化リン(PF)を製造する方法を提供する。本発明の第1の観点は、XPFとして表現できるヘキサフルオロリン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩を製造する方法を提供し、ここで、Xは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選択されたカチオンであるが、ただし、それがアルカリ金属である場合、それはLiではない。XPF塩は、高い純度のPFを容易に得ることができる源または出発物質である。
【0022】
US5,993,767は、水酸化リチウム、ならびにピリジンおよびヘキサフルオロリン酸の反応によって得られた物質であるヘキサフルオロリン酸ピリジニウム(CNHPF)からLiPF塩を合成し、中間物のLiPF−ピリジン錯体またはCNLiPFを生成させることを試みた。この方法の適用は、上で説明したように、ピリジンは、得られた錯体から分離することができないため、成功しないことがわかった。しかしながら、本発明者らは、意外にも、NaPFおよびKPFのような化合物が純粋な形で製造されることができることを見出した。これらの化合物は、LiPF−ピリジン錯体とは対照的に、ピリジンおよび他の関連した有機分子と安定した錯体を形成せず、すべてのピリジン分子は、比較的低温で、容易に置換され、高い純度のヘキサフルオロリン酸塩をそれぞれ生じる。これらの純粋な塩は、これらの熱分解が上述した好ましい方法を使用するLiFPの合成のために所望される前駆体であるPFガスを製造し、そして、このガスは、有機溶媒または非水フッ化水素のいずれかの存在下で固体のLiFと反応するため、機会を提示する。
【発明の効果】
【0023】
このようにして生成した高い純度のPFガスは、既知の工業的な合成経路のいずれかによって、例えば非水HF中のLiFを通してバブリングすることによって、高い純度のLiPFを合成するために使用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明は、添付の図面および以下の限定されない例の参照によって、今、より詳細に説明されるであろう。
【0025】
図1図1は、本発明に係る純粋なガスの五フッ化リン(PF)を製造する方法を、単純化されたフロー図の形態で示し、
図2図2は、例1について、HPF溶液のNaOHでの滴定の間の電気伝導度対体積のプロットを示し、
図3図3は、例1について、CNHPFのEDXの元素スキャンを示し、
図4図4は、例1について、合成されたCNHPFのSEM画像を示し、
図5図5は、例1について、合成された固体のCNHPF13C NMRスペクトルを示し、
図6図6は、例2について、合成されたMPF−塩またはピリジン錯体のFTIRスペクトルを示し、
図7図7は、例2について、合成されたMPF−生成物−LiPF−ピリジン錯体(上の線またはスペクトル)、NaPF塩(中の線またはスペクトル)およびKPF塩(下の線またはスペクトル)のラマンスペクトルを示し、
図8図8は、例3について、KPFおよびNaPFの熱分解を使用した実験設備のプロセスフロー図を示し、
図9図9は、例3について、600℃でのヘリウム中におけるKPFの熱分解後に生成したガス生成物のFTIRスペクトルを示し、
図10図10は、例3について、NaPFの熱分解からのガス生成物のFTIRスペクトルを示し、
図11図11は、例3について、市販のPFガスのFTIRスペクトルを示し、および
図12図12は、例3について、NaPFの分解の熱重量分析(TG)グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
下に記載される本発明の一実施形態は、例えば純粋なKPF塩を得るための前駆体としてのCNHPF(ヘキサフルオロリン酸ピリジニウム)の合成、CNHPFの塩への変換および良好なPFガスの発生元である純粋な塩の分離を包含する。
【0027】
図1を参照すると、参照数字10は、一般に、本発明に係る純粋な五フッ化リン(PF)ガスを製造する方法を示す。
【0028】
方法10は、HPOの供給ライン14を有する第1の反応段階12ならびに段階12に通じるHFの供給ライン16を含む。段階12では、反応(1)に従って、HPOおよびHFが反応し、ヘキサフルオロリン酸および水を与える。
【0029】
【化1】
【0030】
段階12からの反応生成物は、フローライン18に従って、第2の反応段階20に移動する。ピリジン(CN)添加ライン22は、段階20に通じる。反応段階20では、ヘキサフルオロリン酸は、反応(2)に従って、上で述べたように、有機ルイス塩基を構成するピリジンを用いて中和される。
【0031】
【化2】
【0032】
段階20からの固体の反応生成物は、フローライン24に従って、固体のKOHの添加ライン27ならびに同様に段階26へ通じるエタノール(溶媒)(EtOH)添加ライン28を有する段階26に移動する。段階26では、段階20で生成したヘキサフルオロリン酸有機塩が、反応式(3)に従って、KOHと反応する。
【0033】
【化3】
【0034】
段階26からの反応生成物は、ライン29に従って、分離段階30に移動し、そこでは、沈殿物、すなわちKPFが、再生されたピリジン、水およびエタノールを含む液相から分離される。
【0035】
段階30からの液相は、フローライン32に従って、段階34に移動し、そこでは、ピリジンがエタノールから分離される。ピリジンおよび水は、フローライン36に従って、段階34から段階20へ再循環され、一方、エタノールは、フローライン38に従って、段階26へ再循環される。
【0036】
固体の湿ったKPFは、段階30から移動ライン39に従って、100℃から200℃の温度で乾燥される乾燥段階40に移動する。乾燥されたKPFは、移動ライン42に従って、段階40から熱分解段階44へ移動し、そこでは、KPFは、反応(4)に従って、600℃までの温度で熱的に分解される。
【0037】
【化4】
【0038】
得られる純粋なガスのPFは、段階44からライン46に従って、取り出される。反応4に従って製造されたKFは、段階44からライン48に従って、段階50へ取り出される。Ca(OH)添加ライン52は、段階50に通じる。段階50では、Ca(OH)は、反応(5)に従って、KFと反応し、KOHおよびCaFを生じる。
【0039】
【化5】
【0040】
これらの反応生成物は、段階50からライン54に従って、分離段階56へ移動し、そこでは、KOHは、CaFから分離される。KOHは、段階56から段階26へ、ライン58に従って、再循環される。
【0041】
CaFは、段階56から反応段階60へライン59に従って移動する。HSO添加ライン62は、段階60に通じる。段階60では、CaFは、反応(6)に従って、HSOと反応し、固体のCaSOならびにHFを製造する。
【0042】
【化6】
【0043】
段階60からの反応生成物は、フローライン64に従って、段階66へ移動し、そこでは、CaSOからHFが分離される。CaSOは、段階66からライン68に従って取り出され、一方、HFは、ライン70に従って、段階12へ再循環される。
【0044】
ヘキサフルオロリン酸(HPF)は、弱いおよび強い酸の複雑なイオン混合物であり、室温で常に分解される。より強いHPF成分だけを中和するために必要とされるピリジンの化学量論量についての良好な推量を決定するために、反応の終点は、HPFおよびNaOH溶液を使用する電気伝導度滴定によって、あらかじめ決定された。この滴定の終点の値から得られたモル濃度が、純粋なCNHPF成分の形成のためのCNおよびHPFの化学量論量を決定するために使用された。
【実施例】
【0045】
例1
NaOHは反応の間沈殿物を形成しないため、図1の段階20のピリジンの化学量論的添加について酸溶液中のHPFのモル濃度を決定するために、水酸化ナトリウムの0.1M濃度の標準溶液をHPF溶液の滴定に用いた。HPF溶液の600μlのアリコートを蒸留水で100mlに希釈し、NaOHの0.1M溶液で滴定した。白金電極を取り付けたオリオン4スター電気伝導度メータを、滴定の間、反応混合物の電気伝導度を測定するのに用いた。溶液を、OH/Hの平衡を確保するために、絶えずマグネティックスターラで撹拌した。電気伝導度の変化を、5mlの滴定剤の各添加の後に測定した。対応する電気伝導度の値および体積を記録した。滴定の終点は、激減した強い酸イオンに起因する電気伝導度の値の急な落ち込み(図2)がより穏やかな傾斜に変化する電気伝導度のグラフにおける交点または屈曲によって示され、図のように、グラフの直線部分に対する接線の交差点によって決定される。したがって決定された終点は、HPF溶液の100mlに対して、NaOHの40.8mlに相当し、これは、0.00408molのNaOHと等しく、6.80mol/LのHPFのモル濃度に変換できる。
【0046】
このモル濃度を、その次に、ヘキサフルオロリン酸ピリジニウム(CNHPF)を製造するピリジンとHPFの反応の間に適用した。HPFとピリジンの反応は、非常に発熱性であり、それゆえに、反応物の蒸発を最小化し、および収率を改善するために、水を冷却媒体として使用する。ピリジン(18ml)を、Alfa Aeserから購入し、蒸留水で200mlに希釈した市販のHPF溶液(10ml)にゆっくりと加えた(滴下)。生成物が沈殿した。沈殿物を、Whatman No.42のろ紙を用いてろ過し、110℃のオーブン内で一晩乾燥した。繰り返し実験では、ろ過の間あらかじめ回収した水を、蒸留水で200mlまでつぎ足し、再使用した。これは、溶解度による生成物の減少を最小化することに役立ち、そしてこれにより、収率を改善した。
【0047】
沈殿した生成物は、ヘキサフルオロリン酸ピリジニウムの白色粉末を含み、繰り返された実験からの回収に基づいて、95%の平均収率で得られた。この粉末を、誘導結合プラズマ(ICP)、窒素、酸素、硫黄および炭素の燃焼法および他の技術、例えば、EDX(図3)およびISE(イオン選択性電極、特にフッ化物イオン)を用いて特性評価した。表1は、異なる技術によって得られたヘキサフルオロリン酸ピリジニウム粉末の元素組成を一覧表記する。
【0048】
【表1】
【0049】
走査型電子顕微鏡(SEM)写真は、化合物がおおよそ直径40μmの小さな粒子を有することを示す(図4)。
【0050】
NMR結果(図5)は、ヘキサフルオロリン酸ピリジニウム内に強い電子求引基があることを裏付けており、これは、ヘキサフルオロリン酸ピリジニウムが化合物として生成したという結論を支持する。
【0051】
例2
図1の段階26の実験室シミュレーションでは、エチルアルコールの存在下におけるヘキサフルオロリン酸ピリジニウムおよびアルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの化学反応は、XPF塩(ここでは、Xは、ナトリウムまたはカリウム)を生成し、一方で、固体のヘキサフルオロリン酸アルカリ金属を生成物として残しながら、ピリジンガスを遊離する(式または反応7および3にそれぞれ従って)。
【0052】
【化7】
【0053】
例えば、0.8gのNaOH粒を50mlエタノール溶液に添加し、そしてその後、上述したように前に合成された4.5gの懸濁したCNHPFと反応させることにより、ヘキサフルオロリン酸ナトリウムを合成した。混合物を、沈殿物が生成した時間の間、10分間連続して撹拌した。水、ピリジンおよびエタノールを含む液相を、デカンテーションした。沈殿物を、ろ過し、90℃で一晩オーブンの中で乾燥して、不純物および過剰のピリジンを除去した。得られた白色粉末を、窒素で満たされたグローブボックスの中で保管した。
【0054】
ヘキサフルオロリン酸カリウムの合成について、1.1gのKOH粉末をNaOHの代わりに反応させ、ナトリウム塩の合成にて要点を説明した手順を続けた。
【0055】
ヘキサフルオロリン酸ピリジニウムのLiOHへの反応を適用した場合、本発明者らは、この直接的な合成方法(式8)において、ナトリウムおよびカリウム塩の場合のようにヘキサフルオロリン酸リチウムが得られず、しかし代わりに安定なLiPF−ピリジン錯体が生成することを見出した。
【0056】
【化8】
【0057】
FTIRおよびラマンスペクトル(図6および7)による比較分析は、Li種が著しい量のピリジンを含有することを裏付ける。
【0058】
対称的に、ヘキサフルオロリン酸ピリジニウムおよび水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムとの反応は、明らかに錯体を生成せず、しかし代わりに、特に昇温での穏やかな処理の後では(図6)、ほとんどまたは全くピリジンの痕跡を伴わず、NaPFおよびKPFの純粋な塩の沈殿物を急速に生成する。
【0059】
したがって、本発明者らは、Li以外のアルカリ金属カチオン、例えば、ナトリウムまたはカリウムカチオンは、リチウムカチオンとは対照的に、安定な中間錯体を生成しないことを見出した。明らかに、反応は、遅延なく進行し、純粋な塩の沈殿物が生成し、懸濁媒体中でピリジンおよび水が遊離する。さらに、純粋なヘキサフルオロリン酸ナトリウムおよびカリウム塩の生成の好ましい反応条件は、LiPFの合成における前駆体である純粋なPFガスの良好な源としてのこれらの使用についての機会を提示する。
【0060】
例3
方法10の段階44の実験室シミュレーションでは、合成されたKPFおよびNaPF塩を、例えば管型反応器系0(図8)の中で、式9(また、上の式または反応(4)によってより詳細に例示される)に従った塩の五フッ化リンガスおよびフッ化金属残渣への分解の目的で、熱分解に供することができる。
【0061】
【化9】
式中、M=KまたはNa
【0062】
図8において描かれるように段階44の実験室シミュレーションは、ステンレス鋼から製作された1つの直径2.54cmの管型反応器102を含む。管型反応器102は、厚いステンレス鋼の壁からなる。管型反応器102には、電気加熱器104が取り付けられる。管型反応器102の均一な加熱は、管型反応器のために設計された従来型のヒーターであるヒーター104を用いることによって可能となる。管型反応器102には、温度制御器108が取り付けられる。
【0063】
注入管110は、管型反応器102の上流の端に接続され、そして、一対の離間されたバルブ112、114が取り付けられる。バルブ112、114の間は、バルブ118が取り付けられた真空ライン116につながる。
【0064】
ライン110は、PFガスシリンダー120から通じ、バルブ122、前方圧力調整器(forward pressure regulator)124および他のバルブ126が取り付けられる。迂回ライン128は、流量調節器124の上流からバルブ126の下流へ通じ、バルブ130が取り付けられる。PFは、不動態化ガスならびに系をパージし、FTIRセルにおける参照点を測定することによる熱分解実験の開始前の参照基準として使用されるため、PFガス源は、設計に含まれていた。
【0065】
実験室装置は、またヘリウムガスシリンダー132を含み、ライン134はヘリウムガスシリンダー132からバルブ126の下流のライン110へ通じる。ライン134は、前方圧力調整器136、流量測定器138およびバルブ140が取り付けられる。FTIRガスセル150は、ZnSeウィンドウおよび圧力変換器152が取り付けられたフロースルー10cmガスセルである。
【0066】
ライン142は、管型反応器102の下流の端から通じ、圧力変換器144、バルブ146およびさらなるバルブ148が取り付けられる。ライン142は、ガスセル150に通じる。
【0067】
ライン154は、ガスセル150から真空発生器(図示せず)へ通じ、バルブ154、圧力測定器156およびバルブ158が取り付けられる。
【0068】
使用において、管型反応器102の上部の空間は、それぞれの運転の前に排気され、その後、ヘリウムを、大気圧で連続的に反応器102およびガスセル150を通して流してもよい。反応器102の内部の圧力は、圧力変換器144によって観察される。ガスセル内の圧力は、圧力変換器152を使用することで観察され、一方、系の圧力は、圧力変換器156を使用することで観察される。ガスシリンダー120、132の圧力は、それぞれ前方圧力調整器124および136を使用することで調整される。熱電対106は、反応温度を観察し、一方、熱電対108は、反応器およびヒーターの温度を観察する。ガスセル150は、バルブ154および158を開き、バルブ148を閉じることによって排気される。系中のガス物質を、必要に応じておよび必要な際に、1.5barの最大圧力までガスセル150に負荷し、バルブ148、154を閉じ、その後赤外線分光器を使用してデータを収集することにより、分析することができる。
【0069】
KPFおよびNaPFの熱分解を、一定の100ml/分の流量割合のヘリウム下で行い、ヘキサフルオロリン酸カリウムを600℃に、およびヘキサフルオロナトリウムを400℃にそれぞれ加熱する。これは、継続的に熱分解の圧力(圧力変換器144)および温度(熱電対106)を、これらそれぞれの測定器にて観察することによって監視される。これらの塩の各々の熱分解を通して発生したPFガスは、IR分光器に定期的にスペクトルを測定させ、所望に応じておよび所望の際にデータを収集させることにより、分析される。結果は、図9および図10に示され、商業的に入手できるPFガス(図11)のFTIRスペクトルと比較されることができる。
【0070】
PFガスが遊離する前の乾燥した状況下における300℃までの温度の予熱ステップは、本質的にHFを取り除く。HF以外の不純物は、純粋な供給原料から出発することで取り除かれる。図12において、300℃周辺のNaPFのTGグラフの屈曲は、純粋なPFガスの発生の開始前の不純物の蒸発の終点を示す。
【0071】
本発明に係るMPF塩の熱分解からの純粋なPFガスの合成の可能性は、このガスが純粋なLiPFの合成への前駆体としてのさらなる使用のために高い純度の形態で製造されることを可能にする。前駆体としてのPFガスの使用は、通常、知られたLiPF合成方法(先行技術)を適用した方法、例えば合成されたPFガスを上述したように非水フッ化水素中に懸濁したフッ化リチウムに通すことによって、実現される。
【0072】
本発明の提案されたPFガスの製造方法は、フッ化物源として高価なフッ素ガスの使用を避け、代わりにあまり高価ではないフッ化水素を使用するものの、退屈および環境に好ましくない塩素の経路を避けることができるため、特有のものであり、PFガスの製造のための現在の工業的な方法とは異なる。この方法の利点は、分離および生成のために高価な設備を必要とするガス混合物が生成されず、また当該方法は、ほとんどの試薬を回収する、または再循環することができるように、例えば、中間ステップで使用されるナトリウム(またはカリウム)イオンは当該方法の中で回収および再利用されることができ、一方、ピリジンおよびエタノールは再循環されるように、設計されていることである。製品(PF)に結合していないフッ化物は、図1で示すように、当該方法に帰還させるためにHFを製造して再循環させられることが可能なCaFとして回収可能である。これは、MPF(M=KまたはNa)の熱分解からPFガスを製造する方法およびその後の既知の方法を介した純粋なLiPFを合成する方法を経済的に実施可能とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12