(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366780
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】魚道建設用のプレキャストコンクリート製埋設枠
(51)【国際特許分類】
E02B 8/08 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
E02B8/08
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-109822(P2017-109822)
(22)【出願日】2017年6月2日
(62)【分割の表示】特願2013-174096(P2013-174096)の分割
【原出願日】2013年8月26日
(65)【公開番号】特開2017-145687(P2017-145687A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2017年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】598037569
【氏名又は名称】會澤高圧コンクリート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】前田 克吏
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−317429(JP,A)
【文献】
特開2005−220610(JP,A)
【文献】
米国特許第04260286(US,A)
【文献】
特開2005−282287(JP,A)
【文献】
特開昭61−204411(JP,A)
【文献】
実開昭50−127929(JP,U)
【文献】
実開昭51−130303(JP,U)
【文献】
実公昭51−019804(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 5/02
E02B 8/08
E02B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流れ方向の右側に設けられている堤防状を呈する右側堤部と、同様に流れ方向の左側に設けられている堤防状を呈する左側堤部と、流れ方向を横切るように前記右側堤部と前記左側堤部の間に設けられている複数段の段部とからなり、それぞれの前記段部が所定の傾斜で立ち上がっている上がり傾斜部と、該上がり傾斜に接続されている水平の堰部と、該堰部から所定の傾斜で下がっている下がり傾斜部とから構成されている魚道に対して、該魚道を建設するためのプレキャストコンクリート製の埋設枠であって、
前記埋設枠は、1段分の前記段部の一部を構成する所定横幅の段部用枠部からなることを特徴とする魚道建設用のプレキャストコンクリート製埋設枠。
【請求項2】
請求項1に記載の埋設枠において、前記段部用枠部は、幅が等しく長さが異なる長方形状の第1〜3の板部が、側方から見たときに全体として中空の略台形状を呈するように互いに結合された形状に形成されており、前記台形の脚に対応する前記第1、3の板部がそれぞれ前記上がり傾斜部と前記下がり傾斜部とに、そして前記台形の上底に対応する前記第2の板部が前記堰部にそれぞれ対応していることを特徴とする魚道建設用のプレキャストコンクリート製埋設枠。
【請求項3】
請求項2に記載の埋設枠において、前記段部用枠部は前記第2の板部にくり抜きが空けられていることを特徴とする魚道建設用のプレキャストコンクリート製埋設枠。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の埋設枠によって建設される魚道は、前記段部の前記上がり傾斜部が略2分の勾配に、前記下がり傾斜部が略1割の勾配に形成されていることを特徴とする魚道建設用のプレキャストコンクリート製埋設枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川に設けられる魚道に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川には、治水や水利用を目的として、ダム、砂防ダム、堰等の人工構造物が設けられている。河川に生息している魚や水棲動物は河川を遡上するが、このような人工構造物は水の落差が大きいため遡上が阻害されてしまい、河川の生態系に影響を及ぼしてしまう。そこで、このような人工構造物を建設する場合には、河川に並行して魚道を設け、魚や水棲動物が魚道をさかのぼることによって人工構造物を迂回できるようにしている。一般的に魚道は所定幅の水路からなり、水路には1段あたりの水の落差が小さくなるように流れ方向に多数の段部が設けられ、そして各段部の間には水流が緩やかになるように所定のくぼみが形成されている。従って魚や水棲動物は各くぼみでの待機を繰り返しながら落差の小さい段部を繰り返し上ることによって容易に魚道を遡上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−317429号公報
【0004】
魚道は、目的に応じて色々な形態のものが提案されており、例えば特許文献1には遡上しやすく、河川流量が少ない場合であっても魚が遡上できる魚道が提案されている。特許文献1に記載の魚道も、その水路が複数段の段部から形成されているが、各段部は、20〜25°の角度で傾斜している這い上がり斜面と、この這い上がり斜面に接続されて高台になっている堰堤部と、この堰堤部から下流側に接続されている40〜65°の角度の傾斜部とから構成されている。そして、隣り合う2段の段部の間、すわなち上流側の段部の傾斜部と下流側の段部の這い上がり斜面とで囲まれた部分には、水が滞留するクッション部が形成されている。従って、魚道を流れる水は、傾斜部を流れてクッション部において滞留し、そして緩やかに堰堤部を乗り越えて次の段の傾斜部を流れ落ちるようになっている。このように水が流れるので、魚が遡上しやすく河川水量が少なくても魚の遡上が妨げられることはない。
【0005】
魚道は、前記したように水路の流れ方向に多数の段部が設けられて各段部の水の落差が小さくなっており、各段部の間には水流が滞留したり緩やかに流れる部分が形成されている。このように形成されているので魚や水棲生物は容易に魚道を遡上できる。しかしながら、石や土砂が堆積し易いという問題もあ。特に大雨等で上流から大量の土砂が流されてくる場合にこの問題が大きい。魚道に石や土砂が堆積すると流れが阻害されて、魚道としての目的を果たせなくなってしまうからである。従って、魚道は石や土砂が堆積し難いように、あるいはこれらが堆積しても水流によって容易に下流に流れて行くようにその形状が工夫されている。特許文献1に記載の魚道は、各段部が這い上がり斜面と堰堤部と傾斜部とから構成されているので、すなわち流れ方向に垂直な面がないので、石や土砂がクッション部に堆積したとしても、一旦強い水流で水が流れるとこれらが押し流されることになる。つまり特許文献1に記載の魚道も、比較的石や土砂が堆積し難い魚道であると言える。
【0006】
日本大学理工学部の安田陽一教授により、さらに石や土砂が堆積し難い魚道も提案され次のように形成されている。すなわち水路の流れ方向に多数段に設けられている段部は、立ち上がるように傾斜している上がり斜面部と、この上がり斜面部に接続されている高台の堰部と、この堰部の下流側に接続されて下方に傾斜している下がり斜面部とから構成されている。そして上がり傾斜部は、垂直方向が1に対して水平方向が0.2の勾配、すなわち2分の勾配に形成され、堰部は水平に形成され、そして下がり傾斜部は、垂直方向が1に対して水平方向が1の勾配、すなわち1割の勾配に形成されている。また、水路の左右に設けられて水が側方から溢れ出ないようにされている堤防状の壁部、すなわち堤部も、従来の魚道のように垂直ではなく水路の中心い向かって1割の勾配に形成されている。従って石や土砂が流れ込んでも流出し易く堆積し難い。またこれらが堆積したとしても強い水流で水が流れると、堆積した石や土砂は下流に押し流され、あるいは堤部からあふれるようにして魚道の側方から押し出されることになる。つまり石や土砂が堆積し難く、堆積されたとしても極めて容易に排出される魚道になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の魚道も、あるいは大学の研究者等によって提案されている魚道も、石や土砂が堆積し難く、堆積したとしても強い水流で容易に押し流されるので、長期間にわたって魚道としての目的を達成できる。つまりこれらの魚道は、魚道としての性能は優れている。しかしながら、このように多数の傾斜した部分を備えた複雑な形状の魚道は建設が難しいという問題もある。魚道は鉄筋コンクリートから建設されているが、魚道を建設する場合次のようにしている。すなわち、最初に魚道を建設しようとするエリアに水が浸入しないように上流に土嚢を積んで水流を側方に逃がす、いわゆる締切排水工を実施する。次いで魚道の形状になるように複数本の鉄筋を結束する。型枠を構築する。コンクリートを打設して凝結固化を待つ。型枠を外し土嚢を除去すると魚道が得られる。このような従来工法においては、鉄筋の結束や型枠の構築が時間を要する作業であり、特に特許文献1に記載の魚道や、本発明の発明者が提案しているような魚道の場合には、傾斜した部分を多く備えていて形状が複雑なので数週間を要してしまう。そうすると魚道の建設コストが高くなる。また施工期間が長くなると、その間に降雨等によって河川が増水する危険が高まり災害リスクが高くなってしまう。また、型枠は一般的に木枠が使用されているが、魚道を建設するために大量の木枠が必要であり、木枠は通常3回程度再利用できるが、特殊な形状の魚道用に使用すると他の用途に転用できず1回の使用で廃棄しなければならない。そうすると木枠の廃棄の費用も含めてコストが高くなってしまう。さらには、枠勾配が73°を下回る勾配になっているとコンクリートを打設するときにコンクリート中の気泡が抜けにくくなるという問題もある。そうすると格別に型枠に空気を逃がす孔を開けたり、コンクリートが凝結固化して型枠を外した後で、気泡をコンクリートで埋める補修の必要があり、作業が繁雑である。
【0008】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたもので、具体的には、多数の傾斜した部分を備えた複雑な形状の魚道を建設するときでも、短期間で容易に建設することができ、従って災害の危険性を低減することができ、コストも小さく無駄になる型枠も少なく、コンクリートの打設時にも気泡の発生による影響を受けにくい、魚道建設用のプレキャストコンクリート製埋設枠を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、魚道建設用のプレキャストコンクリート製埋設枠として構成される。対象とする魚道は、魚道の右側と左側を形成している右側堤部と左側堤部と、流れ方向を横切るように両堤部の間に設けられている複数段の段部とから構成され、各段部は所定の傾斜で立ち上がっている上がり傾斜部と、該上がり傾斜に接続されている水平の堰部と、該堰部から所定の傾斜で下がっている下がり傾斜部とから構成された魚道とする。
本発明において埋設枠は、1段分の段部の一部を構成する段部用枠部を備えている。このような段部用枠部を型枠として設置し、コンクリートを打設すると魚道が建設できることになる。
【0010】
すなわち請求項1に記載の発明は、流れ方向の右側に設けられている堤防状を呈する右側堤部と、同様に流れ方向の左側に設けられている堤防状を呈する左側堤部と、流れ方向を横切るように前記右側堤部と前記左側堤部の間に設けられている複数段の段部とからなり、それぞれの前記段部が所定の傾斜で立ち上がっている上がり傾斜部と、該上がり傾斜に接続されている水平の堰部と、該堰部から所定の傾斜で下がっている下がり傾斜部とから構成されている魚道に対して、該魚道を建設するためのプレキャストコンクリート製の埋設枠であって、前記埋設枠は、
1段分の前記段部の一部を構成する所定横幅の段部用枠部からなることを特徴とする魚道建設用のプレキャストコンクリート製埋設枠として構成される。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の埋設枠において、前記段部用枠部は、幅が等しく長さが異なる長方形状の第1〜3の板部が、側方から見たときに全体として中空の略台形状を呈するように互いに結合された形状に形成されており、前記台形の脚に対応する前記第1、3の板部がそれぞれ前記上がり傾斜部と前記下がり傾斜部とに、そして前記台形の上底に対応する前記第2の板部が前記堰部にそれぞれ対応し
ていることを特徴とする魚道建設用のプレキャストコンクリート製埋設枠として構成される。
請求項3に記載の発明は、
請求項2に記載の埋設枠において、前記段部用枠部は前記第2の板部にくり抜きが空けられていることを特徴とする魚道建設用のプレキャストコンクリート製埋設枠として構成される。
請求項4に記載の発明は、
請求項1〜3のいずれかの項に記載の埋設枠によって建設される魚道は、前記段部の前記上がり傾斜部が略2分の勾配に、前記下がり傾斜部が略1割の勾配に形成され
ていることを特徴とする魚道建設用のプレキャストコンクリート製埋設枠として構成される。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明は、魚道建設用のプレキャストコンクリート製埋設枠として構成されている。つまりいわゆる捨て枠として構成されている。そして対象としている魚道は、魚道の右側と左側を形成している右側堤部と左側堤部と、流れ方向を横切るように両堤部の間に設けられている複数段の段部とから構成され、各段部は所定の傾斜で立ち上がっている上がり傾斜部と、該上がり傾斜に接続されている水平の堰部と、該堰部から所定の傾斜で下がっている下がり傾斜部とから構成された魚道である。そして本発明の埋設枠は、1段分の前記段部の一部を構成する段部用枠部
を備えている。従って、複数個の埋設枠を所定の配置で設置し、そして型枠
は、段部用枠部を利用すれば容易に設置することができる。従って最初から全ての型枠を組んでコンクリートを打設する場合と比して、遙かに効率よく魚道を建設することができる。特に建設の対象としている魚道は、段部が上がり傾斜部と下がり傾斜部とを備えているので複雑な形状になっている。このような複雑な形状を得るための型枠は必然的に複雑になってしまうが、本発明の埋設枠を設けるだけで対応でき、型枠を設ける必要がない。これによって魚道を短期間に建設することが可能になり、災害の危険性も低減することができる。さらには無駄になる型枠も少しで済み、コストを小さくすることができる。そして、上記のような型枠は埋設枠の間だけに設ければ済むので、コンクリートの打設時に発生する気泡の影響は最小限で済む。つまり、コンクリートが凝結固化して型枠を取り外した後に気泡が残ったとしても、そのような部分は魚道の一部だけであるので、それらの気泡をコンクリートで埋めて補修すれば済む。
【0013】
他の発明によると段部用枠部は、幅が等しく長さが異なる長方形状の第1〜3の板部が、側方から見たときに全体として中空の略台形状を呈するように互いに結合された形状に形成されており、台形の脚に対応する第1、3の板部がそれぞれ上がり傾斜部と前記下がり傾斜部とに、そして台形の上底に対応する第2の板部が堰部にそれぞれ対応している。そうすると、段部用枠部は重ね合わせて搬送することができる。従って多数個の埋設枠を効率よく搬送することができ、搬送コストを小さくすることができる。
【0014】
また他の発明によると、段部用枠部は第2の板部にくり抜きが空けられているので、コンクリートを打設するときに打設孔として利用できるし、空気が抜けやすくもなっている。さらには他の発明によると、埋設枠によって建設される魚道は、段部の上がり傾斜部が略2分の勾配に、下がり傾斜部が略1割の勾配
に形成される。このような魚道は魚道に石や土砂が堆積し難く、堆積したとしても強い水流の水が流れると容易に排出される。本発明によると、このように性能の高い魚道を容易に建設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る魚道建設用プレキャストコンクリート製埋設枠によって建設される魚道を示す図で、その(ア)は魚道の斜視図、その(イ)魚道を(ア)におけるX−X断面で切断した断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る魚道建設用プレキャストコンクリート製埋設枠の右側枠を示す図で、その(ア)、(イ)は右側枠を構成する段部用枠部の斜視図と側面図、その(ウ)〜(オ)はそれぞれ右側枠を構成する右側堤部用枠部の斜視図と平面図と側面部である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る魚道建設用プレキャストコンクリート製埋設枠の右側枠を示す図で、その(ア)は段部用枠部と右側堤部用枠部とから右側枠を組立てる様子を示す斜視図、その(イ)〜(エ)はそれぞれ組立てられた右側枠の斜視図と側面図と正面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る魚道建設用プレキャストコンクリート製埋設枠によって魚道を建設する方法を説明する図で、その(ア)、(イ)はそれぞれの工程を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る魚道建設用プレキャストコンクリート製埋設枠を使用して建設することができる、他の形態に係る魚道の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は魚道建設用プレキャストコンクリート製埋設枠に関する発明であるが、本実施の形態に係る埋設枠によって建設される魚道について最初に説明する。本発明が対象としている魚道1は、全体として勾配が5〜10°になるように緩やかに傾斜しており、
図1に示されているように、流れ方向に見た右手つまり右岸に相当する右側堤部2と、左岸に相当する左側堤部3と、そして流れ方向を横切るように右側堤部2と左側堤部3の間に設けられている複数段の段部5、5、…とから構成されている。右側堤部2と左側堤部3は、いずれも中央部に向かって傾斜しており、これらの勾配は垂直方向が1に対して水平方向が1の、いわゆる1割の勾配に形成されている。段部5は、若干急な角度で立ち上がっている上がり傾斜部7と、上がり傾斜部7に接続されている高台の堰部8と、堰部8から下流側に接続されて緩やかに傾斜している下がり傾斜部9とから構成されている。本実施の形態において上がり傾斜部7は、垂直方向が1に対して水平方向が0.2の、いわゆる2分の勾配に形成され、堰部8は水平に、そして下がり傾斜部9は1割の勾配に形成されている。また各段部5、5、…の間には水平な底部10、10、…が設けられている。このように色々な部分が傾斜部になっているので、魚道1は石や土砂が堆積し難く、堆積したとしても水流によって押し流されやすくなっている。
【0017】
次に、このような魚道1を建設するための本実施の形態に係る埋設枠について説明する。本実施の形態に係る埋設枠は、プレキャストコンクリートからなり、魚道1の右側の一部を形成する右側枠と、左側の一部を形成する左側枠とがある。右側枠と左側枠は、お互いに鏡像対称になっているので、以下では右側枠についてのみ説明する。本実施の形態に係る埋設枠の右側枠12は、
図2の(ア)(イ)に示されている段部用枠部13と、
図2の(ウ)〜(オ)に示されている右側堤部用枠部14とから構成されている。段部用枠部13は、魚道1の1段分の段部5の右側部分を構成することになる枠である。この段部用枠部13は、互いに結合された横幅が等しく長さが異なる第1〜3の板部16、17、18からなる。これらの第1〜3の板部16、17、18は、側方から見たときに台形状を呈するように互いに結合されており、第1の板部16は、魚道1の段部5の上がり傾斜部7に、第2の板部17は堰部8に、第3の板部18は下がり傾斜部9にそれぞれ対応している。従って5〜10°の勾配の設置面に段部用枠部13を載置して、第2の板部17が水平になるようにすると、第1の板部16は2分の勾配に、第3の板部18は1割の勾配になる。つまり第3の板部18が水平面となす角度は45°になっている。なお、勾配を有する設置面に設置できるように、第1の板部17は、第3の板部18よりも長さが短くなっている。このような段部用枠部13には、第2の板部17にコンクリートを打設するときの打設孔としてくり抜き19が空けられている。ところで
図2の(ア)からも分かるように、段部用枠部13は中空に形成されているので、複数個の段部用枠部13、13、…を重ね合わせるようにして積むことができる。従って効率よく運搬することができる。
【0018】
右側枠12を構成している右側堤部用枠部14は、魚道1の右側堤部2の一部を構成することになる枠であり、
図2の(ウ)に示されているように、並行四辺形状のコンクリート板から構成されている。そして並行四辺形の底辺に相当する部分から、台形状に切り取られている。この台形状に切り取られた部分は、段部用枠部13の台形の形状に類似した形状になっているが、その角度はわずかに相違している。例えば段部用枠部13の第3の板部18は、水平面となす角度が45°に形成されているが、この第3の板部18に対応する符号21の部分は、45°よりも若干大きい角度になっている。同様に第1の板部16に対応する符号22の部分も、第1の板部16の角度よりも若干大きくなっている。従って次に説明するように段部用枠部13の上に、右側堤部用枠部14を載せると、右側堤部用枠部14は段部用枠部13に対して傾いた状態で安定することになる。右側堤部用枠部14も板状を呈しているので、複数枚を重ね合わせるようにして積むことができ、効率よく運搬することができる。
【0019】
本実施の形態に係る右側枠12は、次のようにして組立てられる。すなわち
図3の(ア)に示されているように、段部用枠部13に対して、右側堤部用枠部14を載せる。このとき右側堤部用枠部14の切り取られた部分が段部用枠部13に嵌まるようにする。そうすると、符号21、22の部分の最下部が段部用枠部13の第3、1の板部18、16に当接する。次いでこの当接した部分を中心にして矢印Yで示されているように右側堤部用枠部14を倒す。そうすると
図3の(イ)〜(エ)に示されているように、右側堤部用枠部14は45°傾いた状態で安定する。つまり右側堤部用枠部14は1割の勾配に傾いて安定する。
【0020】
埋設枠の左側枠については説明を省略したが、左側枠も右側枠12と同様に、魚道1の段部5の左側の一部を構成する段部用枠部と、左側堤部3の一部を構成する左側堤部用枠部とからなる。そして、段部用枠部の上に左側堤部用枠部を載せることによって左側枠が構成される。
【0021】
図4によって、複数個の右側枠12、12、…と、同数の左側枠12’、12’、…とから魚道1を建設する方法を説明する。従来の工法と同様に、最初に魚道1を建設しようとするエリアに水が浸入しないように上流に土嚢を積んで水流を側方に逃がす、いわゆる締切排水工を実施する。次いで魚道1を建設するために地盤を整地する。あるいは勾配5〜10°の傾斜になるようにコンクリートを打設して設置面を得る。次いで、整地した地盤あるいは設置面に
図4の(ア)に示されているように右側枠12、12、…と左側枠12’、12’、…を載置する。このとき任意の対になる右側枠12と左側枠12’は所定の間隔を空けるようにかつ横方向の位置が整合するように配置し、そして前後の右側枠12、12と左側枠12’、12’も所定の間隔になるように配置する。このように右側枠12、12、…、左側枠12’、12’、…を配置するとき、最初に段部用枠部13、13、…を載置し、次いで右側堤部用枠部14、14、…、左側堤部用枠部14’、14’、…を段部用枠部13、13、…の上に載せるようにすれば、容易に配置することができる。
【0022】
次に
図4の(イ)に示されているように、隣り合う右側枠12と左側枠12’の間に型枠K1、K2を設置する。これらの型枠K1、K2は木枠から構成してもよいし、埋設枠としてコンクリート板から構成してもよい。本実施の形態においては木枠を使用している。型枠K1、K2は、隣り合う右側枠12と左側枠12’のそれぞれの段部用枠部13の第1、3の板部16、18に押し当てた状態で固定すればよいので容易に設置することができる。流れ方向に隣り合う右側枠12、12のそれぞれの右側堤部用枠部14、14の間に型枠K3を設ける。そして右側枠12、12、…の右側に型枠K4を設ける。次いで流れ方向に隣り合う左側枠12’、12’のそれぞれの左側堤部用枠部14’、14’の間に型枠K5を設ける。左側枠12’、12’の左側に型枠K6を設ける。コンクリートを打設する。そうすると、右側枠12、12、…、左側枠12’、12’、…の中空部分と、それぞれの型枠の中にコンクリートが充填される。コンクリートが凝結固化したら型枠K1、K2、…を撤去する。図には示されていないが、隣り合う2段の段部の間にコンクリートを打設して底部10、10、を形成する。気泡があれば必要に応じてコンクリートで埋める。
図1に示されている魚道1が得られる。
【0023】
本実施の形態に係る埋設枠には、右側枠12、12、…と左側枠12’、12’、…が共にあるように説明したが、それらのうち一方の埋設枠、例えば左側枠12’、12’、…のみを使用して魚道を建設することもできる。例えば、
図5にそのような魚道1’の例が示されている。この魚道1’においては右側堤部2’は垂直になっている。左側枠12’、12’、…のみから
図5に示されている魚道1’を建設する方法は当業者であれば容易に理解できるので説明は省略する。
【0024】
埋設枠の形状についても変形が可能である。つまり本実施の形態に係る埋設枠、つまり右側枠12、12、…、左側枠12’、12’、…は、それによって建設できる魚道1がその各部分の勾配が特定の勾配になるように形成されている。この魚道1の形状は石や土砂が堆積し難い理想的なものである。しかしながらこのような魚道1に限定されず、若干勾配が異なる他の形状の魚道であっても、本発明に係る埋設枠で対応できる。すなわち建設しようとする魚道の形状に合わせて右側枠と左側枠の形状を決定し、そのような右側枠と左側枠をプレキャストコンクリート製によって複数個製造すれば、容易に所望の魚道を建設することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 魚道 2 右側堤部
3 左側堤部 5 段部
7 上がり傾斜部 8 堰部
9 下がり傾斜部 10 底部
12 右側枠 12’ 左側枠
13 段部用枠部 14 右側堤部用枠部
14’ 左側堤部用枠部 16 第1の板部
17 第2の板部 18 第3の板部
19 くり抜き