特許第6366781号(P6366781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6366781
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ほぐれやすい冷菓及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 9/04 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   A23G9/04
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-110048(P2017-110048)
(22)【出願日】2017年6月2日
【審査請求日】2018年2月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】藤堂 純子
(72)【発明者】
【氏名】秋山 直哉
【審査官】 藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/133060(WO,A1)
【文献】 特開2003−033139(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/136331(WO,A1)
【文献】 特開2008−136364(JP,A)
【文献】 特開2002−247953(JP,A)
【文献】 特開2001−258478(JP,A)
【文献】 特開2000−279097(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/032510(WO,A1)
【文献】 特開2017−184654(JP,A)
【文献】 特開2018−024619(JP,A)
【文献】 でん粉から酵素の力でつくる新しい水溶性食物繊維「イソマルトデキストリン」,独立行政法人農畜産業振興機構 でん粉 調査報告,2016年,[retrieved on 2018-03-06], <https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000580.html>
【文献】 新村出 編,冷菓,広辞苑 第五版,株式会社岩波書店,1998年,第一刷,p.2827
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00 − 9/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.25%〜2.0%の含有率のイソマルトデキストリンを含有する、冷凍下で保管し、凍結状態で喫食する冷菓。
【請求項2】
前記イソマルトデキストリンの含有率が、0.25%〜1.0%である請求項1に記載の冷菓。
【請求項3】
前記冷菓が、シャーベットである請求項1または2に記載の冷菓。
【請求項4】
ミックス部としての請求項1〜3のいずれか一項に記載のイソマルトデキストリンを含有する冷菓と、削氷とを含むことを特徴とする氷入り冷菓。
【請求項5】
前記ミックス部と削氷が、1:1から1:2.5の割合で含まれていることを特徴とする請求項に記載の氷入り冷菓。
【請求項6】
前記イソマルトデキストリンの氷入り冷菓全体に対する含有率が0.07%〜1.0%である、請求項またはに記載の氷入り冷菓。
【請求項7】
前記イソマルトデキストリンの氷入り冷菓全体に対する含有率が0.07%〜0.5%である、請求項に記載の氷入り冷菓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソマルトデキストリンを含有する、ほぐれやすい冷菓及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アイスクリーム類、シャーベット類、かき氷等の冷たい食品(以下、「冷菓」という。)が広く賞味されている。通常、冷菓は−18℃以下の冷凍庫で保管されている。冷菓を冷凍庫から出した直後は、強固に凍結されており、冷菓のほぐれやすさ(崩壊性)が悪く、喫食時にスプーンのとおりが悪い等の不都合が生じる。また、近年、冷菓にコーヒーやミルク等の飲料を注いで混合し、フラッペ状にして喫食する製品が増加している。当該製品においては、飲料を冷菓に注いだ際に飲料が冷菓にまんべんなくいきわたる必要があり、このためには冷菓のほぐれやすさ(崩壊性)が重要である。
冷菓のほぐれやすさ(崩壊性)を改善する配合上の手段としては、冷菓中の糖の配合割合の工夫や糖アルコール、グリセリン、塩類等を添加する手段が知られている。しかしながら、これらの手段では冷菓の味に対して影響が大きく、味や風味が低下する。
【0003】
冷菓または氷菓に対する食感を改善するために種々の検討がなされてきている(特許文献1、2、及び3)。
特許文献1は、特定の分岐α−グルカン(イソマルトデキストリン)を含有する抗生活習慣病用剤、及び、これを含有する経口組成物、高脂肪食品を開示し、分岐α−グルカン(イソマルトデキストリン)を5%添加した冷菓(ジェラート)がなめらかな食感となることを開示している(段落0196)。
特許文献2は、グルカンホスホリラーゼにより酵素的に合成されたα−1,4−グルカンを有効成分とする飲食物の物性及び食感の改良剤、及びこれを含む飲食物を開示し、α−1,4−グルカンを1%添加した冷菓(アイスキャンディ)が、硬さが緩和され、シャキシャキした食感になることを開示している(段落0034)。
特許文献3は、冷菓に重たい食感を与えることなく、オーバーラン性、保型性といった冷菓用安定剤に求められている機能を付与し、かつソフトで、さっぱりとした食感を付与することができ、氷菓に対しては、脆さがあるといった軽い食感を付与することのできる冷菓の製造方法を開示し、水溶性ヘミセルロース(大豆多糖類)を冷菓に添加すると、砕けやすさやスプーンの入りが改善されることを開示している。
しかしながら、従来技術では、冷菓に対するほぐれやすさの改善効果が不十分であり、更に風味に対しても満足する結果が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/133060号
【特許文献2】特開第2006−238879号公報
【特許文献3】特開第2001−161280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、風味に影響なく、ほぐれやすい冷菓(シャーベット及び氷入り冷菓)を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた。その結果、冷凍庫から出した時にほぐしづらい冷菓に、イソマルトデキストリンを配合することで、冷菓の崩壊性を向上させ、ほぐれやすくすることができることを見出した。さらに、冷菓にコーヒーやミルク等の飲料を混合し、フラッペ状にして喫食する製品に対しても、イソマルトデキストリンを添加することにより、飲料を冷菓に注いだ際に、冷菓のほぐれやすさ(崩壊性)が改善され、飲料と混合しやすくなることも見出した。
【0007】
一般に、冷菓の良好な食感を維持するためには、安定剤等の添加物の添加が必要となる場合が多く、嗜好性を増すために果汁分などを多く配合した冷菓については、安定剤も多く添加する必要がある。
【0008】
本発明者らは、イソマルトデキストリンが、冷菓における添加材として有効であることを見出し、本発明を完成させた。
イソマルトデキストリンは、排便・便性改善作用、血糖調節作用、脂質代謝改善作用、腸疾患の抑制作用、プレバイオティクス作用、免疫調節、消化管機能調節、ミネラル吸収促進、有害物質毒性軽減作用を有しており、イソマルトデキストリンを主成分とする水溶性食物繊維として、「ファイバリクサ」が(株)林原から製造され、販売されている。イソマルトデキストリンは、α結合のグルコースのみから構成される多分岐α−グルカンであり、コーンスターチ等のでん粉を酵素で分解することにより製造される。
イソマルトデキストリンは、酵素−HPLC法や、液体クロマトグラフ法(澱粉糖関連工業分析法)により分析できる。
【0009】
本発明は、このイソマルトデキストリンに注目し、本発明における最大の特徴は、イソマルトデキストリンを冷菓に極めて低濃度配合することで、崩壊性が改善され、逆に添加量を増加させると硬くなってしまう点を見出した。
すなわち、本発明は、イソマルトデキストリンを含有する冷菓;前記イソマルトデキストリンの含有率が、0.25%〜2.0%である冷菓;前記イソマルトデキストリンの含有率が、0.25%〜0.5%である冷菓;前記冷菓が、シャーベットである冷菓;ミックス部としての前記のイソマルトデキストリンを含有する冷菓と、削氷とを含む氷入り冷菓;前記ミックス部と削氷が、1:1から1:2.5の割合で含まれている氷入り冷菓;前記イソマルトデキストリンの氷入り冷菓全体に対する含有率が0.07%〜1.0%である氷入り冷菓;前記イソマルトデキストリンの氷入り冷菓全体に対する含有率が0.07%〜0.25%である氷入り冷菓;イソマルトデキストリンを添加することを特徴とする冷菓の製造方法;に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、冷菓をほぐしやすくし、上からコーヒー等の液体を注いだ際の混ぜ易さを改善することができ、さらに風味豊かな冷菓を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい態様を説明する。
本発明のイソマルトデキストリンを含有する冷菓は、以下の方法により製造できる。
イソマルトデキストリンを0.2〜2.0%添加した乳製品、糖類、安定剤等を主体とするミックスと削り氷を1:1〜1:2.5の比率で混合しカップ等に充填して、−18℃以下で硬化させる。あるいは、ミックスと削り氷を混合後に、アイスクリームフリーザーにてフリージングし、カップ等に充填して、−18℃以下で硬化させる。もしくは、削り氷を添加せず、ミックスのみをフリージングしカップ等に充填して、−18℃以下で硬化させる。
【0012】
すなわち、イソマルトデキストリンを、好ましくは、0.25〜2.0%冷菓に添加し、上記冷菓と破砕氷を混合し、氷入り冷菓を製造する。従って、得られる氷入り冷菓全体に対するイソマルトデキストリンの含有率は、0.07%〜1.0%であり、0.07%〜0.25%であることが好ましい。
【0013】
イソマルトデキストリンが良好な崩壊性を有する冷菓を提供できる理由は、以下のように考えられる。
低濃度のイソマルトデキストリンを添加すると、保水性を有するイソマルトデキストリンの作用により、糖濃度にムラができる。そのため、氷結晶同士の結合にもムラができて、ほぐれやすくなると考えられる。一方イソマルトデキストリンを高濃度添加すると、イソマルトデキストリンが水分子を介してガラス状に結合するため、冷菓が極端に硬くなり、ほぐれにくくなってしまうと考えられる。
【0014】
なお、以下の実施例においては、シャーベットと氷入り冷菓の具体例を説明する。ここで、「シャーベット」とは、糖類、安定剤等を主体とし、場合により乳製品、植物油脂、風味原料として果汁やコーヒー抽出液などを含むラクトアイスに比べ無脂乳固形分の少ないミックスをフリージングした冷菓をいう。さらに、「氷入り冷菓」とは、乳製品、糖類、安定剤を主体としたミックスに削るないしは砕いた氷を混合し、必要に応じフリージングした冷菓をいう。
【実施例】
【0015】
(シャーベットの製造例)
1.グラニュー糖、トレハロース、安定剤、乳化剤、起泡剤、(イソマルトデキストリン)の粉体原料を混合する
2.攪拌しながら加水し100%にする
3.85℃まで湯煎にて昇温する
4.TKホモミキサー10000回転で15分攪拌混合する
5.10℃以下に冷却する
6.アイスクリームフリーザーにてフリージングし容量150%にする
7.カップに充填する
【0016】
(氷入り冷菓の製造例)
1.脱脂粉乳、植物油脂、グラニュー糖、水あめ、安定剤(増粘多糖類)、乳化剤、(イソマルトデキストリン)の粉体原料を混合する
2.油脂と水あめを加え攪拌しながら加水し100%にする
3.85℃まで湯煎にて昇温する
4.TKホモミキサー10000回転で15分攪拌混合する
5.10℃以下に冷却する
6.5のミックスと削った角氷を所定の割合で混合する
7.必要に応じ6をフリージングし、規定量の空気を含ませる
8.カップに充填する
【0017】
(実施例1)
他の素材との比較(氷入り冷菓)
まず、本願発明の目的を達成できる、風味を損なわずほぐれやすい冷菓に含有させる添加剤として好適な素材を検討した。
イソマルトデキストリン((株)林原製ファイバリクサ(登録商標))、トレハロース、水溶性大豆多糖類を使用して、氷入り冷菓で検討した。
その結果、表1から明らかなように、風味を損なわずほぐれやすい冷菓を好適に提供できる素材として、イソマルトデキストリンを選択した。
【0018】
なお、風味評価は、一般的な氷入り冷菓と同様に風味が良く良好な場合を○、一般的な氷入り冷菓に対し、風味がやや劣る場合を△、一般的な氷入り冷菓に対し、風味が劣る場合或いは異風味がある場合を×と評価した。
【0019】
ほぐれやすさ評価は、後述する官能評価と同様に行った。しかし、一般的な氷入り冷菓より硬くほぐれにくい場合を1、一般的な氷入り冷菓よりやや硬くややほぐれにくい場合を2、一般的な氷入り冷菓と同等な場合を3、一般的な氷入り冷菓よりやや柔らかくややほぐれやすい場合を4、一般的な氷入り冷菓より柔らかくほぐれやすい場合を5とした。
【0020】
【表1】
【0021】
(実施例2)
次に、本発明の目的を達成できる、イソマルトデキストリン(ファイバリクサ)の好適な含有量を、氷入り冷菓及びシャーベットで検討した。
以下の表2及び表3の結果から明らかなように、イソマルトデキストリンの含有率が、0.25%〜2.0%、特に、0.25%〜0.5%である場合に好適なほぐれやすい冷菓が提供できることが容易に理解できる。
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
(官能評価)
イソマルトデキストリンの添加量による冷菓の硬さ、ほぐれやすさをモニターにより官能で比較評価した。
評価サンプルは、表2及び3の配合と同様のシャーベット及び氷入り冷菓とした。ただし、氷入り冷菓の、ミックスと削氷の混合割合は1:1とした。
【0025】
結果
冷菓についての官能評価では、各モニターに、イソマルトデキストリン添加なしのコントロール品(表2及び3のCont)と比較して、硬さ、ほぐれの違いについて記入票に、コントロール品より硬くほぐれにくい場合;コントロール品よりやや硬くややほぐれにくい場合;コントロール品と同等の場合;コントロール品よりやや柔らかくややほぐれやすい場合;コントロール品より柔らかくほぐれやすい場合の該当する項目に○をつけてもらった。そして、コントロール品より硬くほぐれにくい場合を−2、コントロール品よりやや硬くややほぐれにくい場合を−1、コントロール品と同等の場合を0、コントロール品よりやや柔らかくややほぐれやすい場合を1、コントロール品より柔らかくほぐれやすい場合を2とし、集計した各値(表4、表5)の平均値(表6)を最終官能評価とした。
【0026】
【表4】
【0027】
【表5】
【0028】
ミックスにイソマルトデキストリンを低濃度添加したものは、無添加品、高濃度添加品と比較し、やわらかく、ほぐれやすいことがわかった。
シャーベットも氷入りの冷菓もイソマルトデキストリン無添加品に比べ、0.25%、0.5%の低濃度添加品はやわらかくほぐれやすいことをあらわす、大きな値となっている。
【0029】
【表6】
【0030】
(硬度測定)
(株)山電製レオナーIIクリープメータRE2−33005Cにより官能評価で用いた氷入り冷菓の硬度を測定した。サンプルを−9℃に調温後、直径5mmの円柱状プランジャーを用いて最大荷重を測定した。各サンプル8〜11個を測定し、最大荷重の平均値と標準偏差を求めた。表7から明らかなように、ミックス中にイソマルトデキストリンを0.25%含有したものと0.5%含有したものは含有しないものと比較して有意にやわらかく、5.0%含有したものは有意に硬いという結果となった。
【0031】
【表7】
【要約】      (修正有)
【課題】風味に影響なく、ほぐれやすい(崩壊性の良い)冷菓(アイスクリーム、かき氷、シャーベット及び氷入り冷菓)及び該冷菓の製造方法の提供。
【解決手段】イソマルトデキストリンを0.25〜2.0%、好ましくは0.25〜0.5%含有する冷菓及び該冷菓の製造方法。冷菓が、シャーベットあるいはイソマルトデキストリンを含有する冷菓と削氷とを含む氷入り冷菓である。
【選択図】なし