(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366807
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ピストン摺動部の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
F02F 3/00 20060101AFI20180723BHJP
F02F 3/10 20060101ALI20180723BHJP
F16J 1/08 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
F02F3/00 M
F02F3/10 Z
F16J1/08
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-212011(P2017-212011)
(22)【出願日】2017年11月1日
(62)【分割の表示】特願2013-95413(P2013-95413)の分割
【原出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2018-53894(P2018-53894A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2017年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 正明
【審査官】
木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−509279(JP,A)
【文献】
特開2006−189012(JP,A)
【文献】
特開2002−147456(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0087166(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00
F02F 3/10
F16J 1/08−1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダ内で潤滑油を介して往復動するピストンの摺動部分における反スラスト側に、摩擦力を低減させるコーティングにより形成されたコーティング部を、前記ピストンの周方向に沿って間隙を空けて複数形成することにより、前記ピストンの周方向に沿って隣接する列の各コーティング部を互い違いに配置した複数の列を形成し、且つ、前記コーティング部における前記ピストンの周方向に沿った長さが前記間隙の大きさと同じか大きくなるように形成し、前記ピストンの往復動に伴いコーティング部間に潤滑油が流れるピストン摺動部の潤滑構造であって、
前記コーティング部は、前記ピストンの軸方向にそれぞれ突出する一対の尖り部を有し全体形状が線対称な形状で対称軸が前記ピストンの軸方向に沿うように形成されるとともに、菱形から前記ピストンの周方向に突出する角が丸められた角丸部を有する形状に形成され、
該角丸部は、前記コーティング部の前記尖り部を形成する四つの辺に内接する内接円の一部に一致し、
前記コーティング部の重心位置は、隣接する列の前記コーティング部の重心位置と、前記ピストンの軸方向に沿った距離が前記内接円の半径の三倍、前記ピストンの周方向に沿った距離が前記内接円の半径の二倍となるように形成され、
前記コーティング部の一方の尖り部と隣接する列のコーティング部における他方の尖り部とで、潤滑油が流れる分流路と、二条の分流路が合流する合流路を形成し、
前記分流路は、流路幅の大きさが前記間隙の二分の一とし、前記分流路を流れた潤滑油は、前記合流路で合流し流量が倍になるとともに、前記分流路の二倍の幅を流れ、前記分流路を流れた潤滑油が、前記合流路で合流した際に流速が変動することを抑止し得るよう構成したことを特徴とするピストン摺動部の潤滑構造。
【請求項2】
前記ピストンの摺動部分におけるスラスト側の外周面全域にコーティングを施したことを特徴とする請求項1に記載のピストン摺動部の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン摺動部の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に示す様に、自動車等における一般的なエンジンでは、シリンダ1内に収容されたピストン2がピストンピン3を介しコンロッド4の小端部4aにより揺動自在に支持されており、該コンロッド4の大端部4bがクランクピン5を介しクランクシャフト6と連結されている。
【0003】
そして、クランクピン5は、クランクアーム6aによりクランクシャフト6の中心からずらした位置に支持されており、クランクピン5がクランクシャフト6の中心回りに円軌道(
図3中の一点鎖線を参照)を描いて移動するようになっているので、コンロッド4がピストンピン3を中心に揺動しつつピストン2がシリンダ1内を
図3中の上下に昇降することになる。
【0004】
一般的に、ピストン2がアルミ製である場合には、スチール製のシリンダライナ1aに対する熱膨張差が大きくなるため、ピストン2側が大きく熱膨張して焼付きを起こすような事態を未然に回避し得るようピストンクリアランスを多く確保する必要がある。しかし、ピストンクリアランスを多く確保してしまうと、ピストンスラップ時に打音が生じてしまうという不具合が生じてしまう。
【0005】
このため、従来においては、ピストン2のスカート7(ピストン2のピストンリング装着部より下の部分)の外周面に耐焼付き性及び低摩擦特性を有する低摩擦コーティングを施してピストンクリアランスを詰め、これによりピストンスラップ時の打音低減とピストン2の摩擦低減を図るようにしている。
【0006】
爆発圧力Aにより下方に押し下げられるピストン2は、コンロッド4の傾斜によりピストン2の図中左側が強くシリンダ1の内壁に押し付けられる。以下、上死点直後に側圧(Side−Thrust)を受ける側をスラスト側と称する。
【0007】
このような側圧を受けるスラスト側は、金属接触が発生する混合潤滑の状態が支配的となる。そして、反スラスト側では、油膜を挟んで摩擦面同士が離れて滑る流体潤滑の状態が支配的となる。
【0008】
しかし、流体潤滑が支配的な反スラスト側にまで全域に低摩擦コーティングを施してしまうことで摺動抵抗が増し、これにより燃費の更なる向上を図り得る余地が損なわれていた。
【0009】
そこで、
図4(A),(B)に示す様に、ピストン2のスカート7における反スラスト側の外周面に、前記ピストン2の摺動方向に向かって延びる縞模様を成すように低摩擦コーティングを施し、そのコーティング部8の相互間に前記ピストン2の摺動方向に潤滑油を逃がす非コーティング部9を残す一方、ピストン2のスカート7におけるスラスト側の外周面全域に低摩擦コーティングを施した構成を特許文献1において提案している。
【0010】
このようにすれば、コーティング部8と非コーティング部9との境界にコーティング厚さ分のギャップg(
図4(B)参照)が生じ、実質的なシリンダライナ1a側との潤滑面が各コーティング部8の存在する領域だけに限定され、これによりピストン2のスカート7における潤滑面積が低減されて摩擦力が大幅に減少することになる。
【0011】
すなわち、各コーティング部8の相互間に残る非コーティング部9は、ピストン2の摺動方向に開放されていて潤滑油を自由に逃がし得るようになっているため、各非コーティング部9では、流体潤滑の状態にすらならず、潤滑油の粘度も殆ど影響しない非常に摩擦抵抗の少ない状態となる。このため、実質的なシリンダライナ1a側との潤滑面は、各コーティング部8の存在する領域だけに限定されることになる。
【0012】
しかも、ピストン2のスカート7における反スラスト側では、各コーティング部8とシリンダライナ1aとの間が、油膜を挟んで摩擦面同士が離れて滑っている状態の流体潤滑の状態となる。これに対し、各コーティング部8の存在する領域では、ピストンクリアランスが詰まってピストン2の摺動時における油膜厚さが薄くなり、これにより摩擦係数が小さく抑えられて摩擦力がより少なくなる。
【0013】
すなわち、
図5に縦軸を摩擦係数とし横軸を油膜厚さとしたストライベック線図で示す通り、流体潤滑の領域では、油膜厚さが薄くなるほど摩擦係数μが小さくなる。このため、各コーティング部8の存在によりピストンクリアランスが詰まって油膜厚さが薄くなれば、その摩擦係数μが小さくなって摩擦力が少なくなる。
【0014】
ところが、斯かる特許文献1に開示されたコーティングパターンは、ピストン2の摺動方向と平行に延びる縦縞パターンのコーティング部8を採用していたため、該各コーティング部8がシリンダライナ1aの内周面の同じ場所に押し付けられて摺動することになり、
図6に示す様に、シリンダライナ1a内周面のコーティング部8が当たる位置に筋状の軽微な段差10(表面粗さが小さくなることで生じた軽微な当たり)ができてしまい、シリンダライナ1aの耐久性に悪影響を及ぼすおそれがあった。
【0015】
そこで、
図7(A),(B)に示す様に、スカート7に水玉形状のコーティング部8を千鳥配列としたピストン摺動部の潤滑構造が提案されている。すなわち、各コーティング部8は、ピストン2の周方向CDに沿って間隙Dを空けて並べられ、ピストン2の周方向CDに沿った列を複数形成させるとともに隣接する列のコーティング部8を互い違いに配置している。そして、水玉の直径の大きさは、間隙Dと同じ大きさに形成されている。
【0016】
このようなコーティングパターンが施されたピストン2は、シリンダライナ1aの内周面に、隙間なく押し付けられて摺動することにより、シリンダライナ1aの内周面に筋状の軽微な段差10を生じることなく摩擦力の大幅な減少を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2010−106724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、コーティング部8を水玉千鳥配列にしたピストン2は、さらに改善の余地があった。
【0019】
コーティング部8を水玉千鳥配列に施したピストン2は、シリンダ1内において潤滑油を介して往復動させると、潤滑油が各コーティング部8の間隙を流れる。ここで、ピストン2の周方向に沿った方向に並ぶ各コーティング部8の間隙をDとし、コーティング部8と隣接する列の最も近いコーティング部8'との間隙をdとすると、D>2dとなっている。また、間隙Dを流れる潤滑油の流速をUとし、間隙dを流れる分流路の潤滑油の流速をu1とする。
【0020】
間隙Dを流れる潤滑油は、隣接する列のコーティング部8の円周に衝突し、二分割され間隙dの間を流れる。このとき、間隙Dを流れる潤滑油は、丸められたコーティング部8の円周に衝突するため、大きな流体摩擦を受けていた。
【0021】
また、間隙dの大きさは、間隙Dの大きさと比較すると、二分の一より小さいため、間隙dを流れる二分割された潤滑油の流速u1は、間隙Dを流れる潤滑油の流速Uよりも早くなる。すなわち、コーティング部8の間で潤滑油の流速が異なる部分が発生し、潤滑油の流体摩擦を受けていた。
【0022】
そこで、本発明は、シリンダの内周面に筋状の軽微な段差を生ずることなく摩擦力の大幅な減少を図るとともに、コーティグ部の間隙を流れる潤滑油による流体摩擦も低減するピストン摺動部の潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、内燃機関のシリンダ内で潤滑油を介して往復動するピストンの摺動部分における反スラスト側に、摩擦力を低減させるコーティングにより形成されたコーティング部を、前記ピストンの周方向に沿って間隙を空けて複数形成することにより、前記ピストンの周方向に沿って隣接する列の各コーティング部を互い違いに配置した複数の列を形成し、且つ、前記コーティング部における前記ピストンの周方向に沿った長さが前記間隙の大きさと同じか大きくなるように形成し、前記ピストンの往復動に伴いコーティング部間に潤滑油が流れるピストン摺動部の潤滑構造であって、前記コーティング部は、前記ピストンの軸方向にそれぞれ突出する一対の尖り部を有し全体形状が線対称な形状で対称軸が前記ピストンの軸方向に沿うように形成されるとともに、菱形から前記ピストンの周方向に突出する角が丸められた角丸部を有する形状に形成され、該角丸部は、前記コーティング部の前記尖り部を形成する四つの辺に内接する内接円の一部に一致し、前記コーティング部の重心位置は、隣接する列の前記コーティング部の重心位置と、前記ピストンの軸方向に沿った距離が前記内接円の半径の三倍、前記ピストンの周方向に沿った距離が前記内接円の半径の二倍となるように形成され、前記コーティング部の一方の尖り部と隣接する列のコーティング部における他方の尖り部とで、潤滑油が流れる分流路と、二条の分流路が合流する合流路を形成し、前記分流路は、流路幅の大きさが前記間隙の二分の一とし、前記分流路を流れた潤滑油は、前記合流路で合流し流量が倍になるとともに、前記分流路の二倍の幅を流れ、前記分流路を流れた潤滑油が、前記合流路で合流した際に流速が変動することを抑止し得るよう構成したことを特徴としている。
【0024】
【0025】
前記ピストン摺動部の潤滑構造において、前記ピストンの摺動部分におけるスラスト側の外周面全域にコーティングを施すことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のピストン摺動部の潤滑構造によれば、シリンダの内周面に筋状の軽微な段差を生ずることなく摩擦力の大幅な減少を図るとともに、コーティグ部の間隙を流れる潤滑油による流体摩擦も低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】(A)は、本発明のピストン摺動部の潤滑構造を示すピストンの側面図である。(B)は、(A)のピストン摺動部の潤滑構造の一部を示す拡大図である。
【
図2】本発明のピストン摺動部の潤滑構造における参考例を示す図である。
【
図4】(A)は、従来のピストン摺動部の潤滑構造を示す側面図である。(B)は、(A)のIV(B)−IV(B)矢視図である。
【
図5】縦軸を摩擦係数とし横軸を油膜厚さとしたストライベック線図である。
【
図6】シリンダライナの内周面に発生する軽微な段差を示す概略図である。
【
図7】(A)は、水玉形状のコーティング部を千鳥配列としたピストン摺動部の潤滑構造を示す側面図である。(B)は、水玉形状のコーティング部を千鳥配列としたピストン摺動部の潤滑構造の一部を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を、
図1を参照して説明する。
図1(A)は、本発明のピストン摺動部の潤滑構造を示すピストンの側面図である。
図1(B)は、(A)のピストン摺動部の一部を示す拡大図である。
図1中、
図3と同一の符号を付した部分は同一物を表わす。そして、基本的な構成は、
図3に示す従来のものと同様である。
【0029】
本発明は、エンジン(内燃機関)のシリンダ1内で潤滑油を介して往復動するピストン2の摺動部分における反スラスト側に、摩擦力を低減されるコーティングにより形成されたコーティング部21が複数形成される。
【0030】
このコーティング部21は、ピストン2の周方向CDに沿って間隙2Sを空けて複数形成することにより、ピストン2の周方向に沿って複数の列が形成される。この列は、隣り合う(隣接する)列の各コーティング部21'が互い違いに配置されている。すなわち、コーティング部21は、スカート7に千鳥配列で施されている。なお、説明の便宜上、隣り合う列のコーティング部を21'で示すが同じコーティング部21である。
【0031】
コーティング部21は、全体形状が、菱形の四個の角のうち一対の対角が丸められた形状をしている。コーティング部21は、線対称な形状をしており、対称軸ASがピストン2の軸方向ADに沿うように形成される。そして、ピストン2の周方向CDに沿う方向に突出する部分が丸められている。コーティング部21は、ピストン2の軸方向ADに突出する鋭角な一対の尖り部21a、21bと、一対の角丸部21c、21cと、を有する。
【0032】
コーティング部21は、ピストン2の周方向CDに沿った方向の長さ2rが間隙2Sの大きさと同じである。ここで、角丸部21cは、コーティング部21に半径rで内接する内接円21dの一部に一致する。
【0033】
本発明を実施するための形態において、コーティング部21の重心位置は、隣接する列のコーティング部21'の重心位置と、ピストン2の軸方向ADに沿った距離Lが3r、ピストン2の周方向CDに沿った距離Mが2rとなるように形成されている。
【0034】
コーティング部21の他方の尖り部21bと隣接する列のコーティング部21'の一方の尖り部21aとで潤滑油が流れる分流路22を形成する。他方の尖り部21bと隣接する列のコーティング部21'の一方の尖り部21aとは、一定の間隙Sが空けられている。よって、分流路22は、流路幅の大きさが間隙Sの大きさと同じであり、隣り合うコーティング部21,21(21',21')間の間隙2Sの大きさの半分の大きさに形成されている。
【0035】
本発明のピストン摺動部の潤滑構造は、ピストンの摺動部分における反スラスト側に、コーティング部21を、ピストン2の周方向CDに沿って間隙2Sを空けて複数形成することにより、ピストン2の周方向CDに沿って隣接する列の各コーティング部21が互い違いに配置された複数の列を形成したコーティングパターンを施し、且つ、コーティング部21におけるピストン2の周方向CDに沿った長さが間隙2Sの大きさと同じに形成されている。
【0036】
これにより、ピストン2のシリンダ1内での往復動に伴い、コーティング部21が施された部分がシリンダライナ1aの内周面に摺動される範囲において、全域がそれぞれのコーティング部21によって摺動され、シリンダライナ1aの内面に筋状の軽微な段差が生じることを防止することができる。
【0037】
また、コーティング部21は、ピストン2の軸方向ADにそれぞれ突出する一対の尖り部21a、21bを有している。これにより、間隙2Sを流れる潤滑油は、円弧に衝突して二分割されるよりも、接触する部分が小さい為に小さな流体摩擦で二分割することができる。
【0038】
コーティング部21の他方の尖り部21bと隣接する列のコーティング部21'の一方の尖り部21aとで潤滑油が流れる分流路22を形成する。そして、分流路22は、流路幅が間隙2Sの大きさの半分となっている。これにより、間隙2Sを流れる潤滑油は、尖り部21a(又は、21b)によって等分されるとともに、間隔2Sの半分の流路幅の分流路22を流れる。従って、間隔2Sを流れる潤滑油の流速と分流路22を流れる潤滑油の流速とが同じ流速となる。
【0039】
そして、分流路22を流れた潤滑油は、二条の分流路22が合流する合流路23で合流し流量が倍になるとともに、分流路22の二倍の幅を流れる。従って、合流路23を流れる潤滑油の流速と分流路23を流れる潤滑油の流速とが同じ流速となる。
【0040】
また、前記コーティング部21は、ピストン2の周方向CDに突出する角が丸められた角丸部21cを有している。これにより、二条の分流路22を流れてきた潤滑油が合流路23で円滑に合流する。
【0041】
よって、コーティング部21間を流れる潤滑油の流速が異なることから発生する流体摩擦を抑えることができる。
以上により更なる燃費の低減効果を得られる。
【0042】
また、本発明を実施するための形態においては、ピストン2のスカート7におけるスラスト側の外周面全域に低摩擦コーティングを施している。このため、金属接触が発生する混合潤滑の状態が支配的となる前記スカート7のスラスト側において、その全域を低摩擦コーティングで被覆して従来通りの耐焼付き性及び低摩擦特性を発揮させることができる。
【0043】
すなわち、
図5のストライベック線図で示す通り、流体潤滑の領域においては、油膜厚さが薄くなるに従い摩擦係数μが小さくなるが、所定の油膜厚さを越えて金属接触が発生する混合潤滑に移行してしまうと、油膜厚さが薄くなるに従い摩擦係数μが急激に増加してしまう。
【0044】
このため、混合潤滑が支配的なスラスト側にあっては、非コーティング部を残してしまうことによりこの非コーティング部がシリンダライナ1a側と金属接触を起こして焼付きや摩耗損失を招いてしまうデメリットの方が大きいと考えられ、このようなデメリットを回避することを優先している。
【0045】
図2を参照して、ピストン摺動部の参考例を説明する。
図2は、本発明のピストン摺動部の潤滑構造における他の実施形態を示す図である。参考例に係るピストン摺動部の潤滑構造は、コーティング部21の重心位置と隣接する列のコーティング部21'の重心位置との距離を除き、その基本的構成が上記実施例と同様であるため、上記実施例と同様の構成には同一符号を付し、上記実施形態の説明と重複することになる説明を省略する。
【0046】
コーティング部21の重心位置は、隣接する列のコーティング部21'の重心位置と、ピストン2の軸方向ADに沿った距離Lとピストン2の周方向CDに沿った距離Lとが等しくなるように配置されている。
【0047】
なお、本発明の参考例であるピストン摺動部の潤滑構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではない。例えば、コーティング部21は、ピストン2の周方向CDに沿った方向の長さがピストン2の周方向CDに沿って隣り合うコーティング部21との間隙2Sの長さと同じである例を用いて説明したがこれに限定されるものではない。コーティング部21は、ピストン2の周方向CDに沿った方向の長さを、ピストン2の周方向CDに沿って隣り合うコーティング部21との間隔2Sの大きさよりも大きくすることができる。
【0048】
また、分流路22の流路幅は、流路幅の間隙Sがピストン2の周方向CDに沿って隣り合うコーティング部21との間隙2Sの半分で説明したがこれに限定されるものではない。分流路22の流路幅は、流路幅の間隙Sがピストン2の周方向CDに沿って隣り合うコーティング部21との間隙の二分の一以上にすることができる。
【0049】
また、本発明のピストン摺動部の潤滑構造は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0050】
1 シリンダ
1a シリンダライナ
2 ピストン
7 スカート
21 コーティング部
21a 尖り部
21b 尖り部
21c 角丸部
22 分流路
2S 間隙
AD 軸方向
CD 周方向
AS 対称軸