(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)パラジウム、(b)金、(c)銅、ニッケル、亜鉛及びコバルトから選ばれる少なくとも1種の元素を有する第4周期金属化合物、(d)アルカリ金属塩化合物及び(e)担体からなる酢酸アリル製造用触媒が充填された固定床管型反応器へ、プロピレン、酸素及び酢酸を原料ガスとして供給し、気相接触酸化反応によって酢酸アリルを製造する方法において、前記固定床管型反応器の反応管内に(d)アルカリ金属塩化合物量の異なる前記酢酸アリル製造用触媒を含む2以上の触媒層を、原料ガスの流れ方向に沿って、(d)アルカリ金属塩化合物の(e)担体への担持量が前記固定床管型反応器の入口側から出口側に向かって順次低くなるように配置することを特徴とする酢酸アリルの製造方法。
前記反応管の、最も入口側の触媒層における(e)担体1gあたりの(d)アルカリ金属塩化合物の担持量(g)が、最も出口側の触媒層における(e)担体1gあたりの(d)アルカリ金属塩化合物の担持量(g)の1.2〜3.0倍である請求項1に記載の酢酸アリルの製造方法。
前記反応管が直管であり、前記触媒層が2層であって、前記反応管の入口側の触媒層と出口側の触媒層の原料ガスの流れ方向における長さの比が4:1〜1:4である、請求項1又は2のいずれかに記載の酢酸アリルの製造方法。
(d)アルカリ金属塩化合物が、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム及び酢酸セシウムから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の酢酸アリルの製造方法。
前記触媒層のいずれにおいても、前記酢酸アリル製造用触媒の(a)パラジウム、(b)金、(c)第4周期金属化合物及び(d)アルカリ金属塩化合物の質量比が、(a):(b):(c):(d)=1:0.00125〜22.5:0.02〜90:0.2〜450である請求項1〜7のいずれか一項に記載の酢酸アリルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、その精神と実施の範囲内において様々な応用が可能であることを理解されたい。
【0017】
本発明においては、固定床管型反応器の反応管内にアルカリ金属塩化合物量の異なる酢酸アリル製造用触媒を含む2以上の触媒層を、原料ガスの流れ方向(反応方向)に沿って、アルカリ金属塩化合物の担体への担持量が固定床管型反応器の入口側から出口側に向かって順次低くなるように配置する。
【0018】
<触媒>
本発明で用いられる酢酸アリル製造用触媒は、(a)パラジウム、(b)金、(c)銅、ニッケル、亜鉛及びコバルトから選ばれる少なくとも1種の元素を有する第4周期金属化合物、(d)アルカリ金属塩化合物及び(e)担体の各成分からなる。以下、これらの成分について説明する。
【0019】
(a)パラジウム
本発明において、(a)パラジウムは、いずれの価数を持つものであってもよいが、好ましくは金属パラジウムである。本発明における「金属パラジウム」とは、0価の価数を持つものである。金属パラジウムは、通常、2価及び/又は4価のパラジウムイオンを、還元剤であるヒドラジン、水素などを用いて還元することにより得ることができる。この場合、全てのパラジウムが金属状態になくてもよい。
【0020】
パラジウムの原料として、特に制限はなく、金属パラジウム又は金属パラジウムに転化可能なパラジウム前駆体を用いることができる。パラジウム前駆体の例としては、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム酸ナトリウム、塩化パラジウム酸カリウム、塩化パラジウム酸バリウム、酢酸パラジウムなどが挙げられる。好ましくは、塩化パラジウム酸ナトリウムが用いられる。パラジウム前駆体は、単独の化合物を用いてもよく、複数の種類の化合物を併用することもできる。
【0021】
酢酸アリル製造用触媒中の(a)パラジウムと(e)担体との質量比は、好ましくは(a):(e)=1:10〜1:1000、より好ましくは(a):(e)=1:20〜1:500である。この比は、パラジウム元素の質量と担体の質量との比として定義される。
【0022】
(b)金
本発明において、(b)金は、金元素を含む化合物の形で担体に担持されるが、最終的には実質的にすべてが金属金であることが好ましい。本発明における「金属金」とは、0価の価数を持つものである。金属金は、通常、1価及び/又は3価の金イオンを、還元剤であるヒドラジン、水素などを用いて還元することにより得ることができる。この場合、全ての金が金属状態になくてもよい。
【0023】
金の原料として、特に制限はなく、金属金又は金属金に転化可能な金前駆体を用いることができる。金前駆体の例としては、塩化金酸、塩化金酸ナトリウム、塩化金酸カリウムなどが挙げられる。好ましくは、塩化金酸又は塩化金酸ナトリウムが用いられる。金前駆体は、単独の化合物を用いてもよく、複数の種類の化合物を併用することもできる。
【0024】
酢酸アリル製造用触媒中の(b)金と(e)担体との質量比は、好ましくは(b):(e)=1:40〜1:65000、より好ましくは(b):(e)=1:550〜1:32000、さらに好ましくは(b):(e)=1:750〜1:10000である。この比は、金元素の質量と担体の質量との比として定義される。
【0025】
酢酸アリル製造用触媒中の(b)金の量は、パラジウム100質量部に対し、好ましくは0.125〜2250質量部であり、より好ましくは0.25〜14質量部であり、さらに好ましくは0.8〜10質量部である。金及びパラジウムの質量部はそれぞれの元素の質量に基づく。このような金の量にすることで、酢酸アリル生成反応における触媒の活性維持と、酢酸アリル選択率とをバランス良く得ることができる。
【0026】
(c)銅、ニッケル、亜鉛及びコバルトから選ばれる少なくとも1種の元素を有する第4周期金属化合物
本発明において、(c)第4周期金属化合物としては、銅、ニッケル、亜鉛及びコバルトから選ばれる少なくとも1種の元素の硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物などの可溶性塩を使用することができる。触媒活性をより高めることができることから、第4周期金属化合物が銅又は亜鉛を有する化合物であることが好ましい。有機酸塩としては酢酸塩などが挙げられる。一般には、入手しやすく、水溶性である化合物が好ましい。好ましい化合物としては、硝酸銅、酢酸銅、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸コバルト、酢酸コバルトなどが挙げられる。これらの中では、原料の安定性、入手のしやすさの観点から、酢酸銅が最も好ましい。第4周期金属化合物は、単独の化合物を用いてもよく、複数の種類の化合物を併用することもできる。
【0027】
酢酸アリル製造用触媒中の(c)第4周期金属化合物と(e)担体との質量比は、好ましくは(c):(e)=1:10〜1:500、より好ましくは(c):(e)=1:20〜1:400である。この比は、銅、ニッケル、亜鉛及びコバルト元素の合計質量と担体の質量との比として定義される。
【0028】
(d)アルカリ金属塩化合物
本発明において、(d)アルカリ金属塩化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどの水酸化物、酢酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩などを使用することができる。酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、及び酢酸セシウムが好ましく、酢酸カリウム、及び酢酸セシウムがより好ましい。アルカリ金属塩化合物は、単独の化合物を用いてもよく、複数の種類の化合物を併用することもできる。
【0029】
酢酸アリル製造用触媒中の(d)アルカリ金属塩化合物と(e)担体の質量比は、好ましくは(d):(e)=1:2〜1:50、より好ましくは(d):(e)=1:3〜1:40である。この比は、アルカリ金属塩化合物の質量と担体の質量との比として定義される。
【0030】
(e)担体
本発明において用いられる(e)担体として、特に制限はなく、触媒用担体として一般に用いられている多孔質物質を使用することができる。好ましい担体の例としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、珪藻土、モンモリロナイト、チタニア及びジルコニアが挙げられる。シリカを用いることがより好ましい。担体としてシリカを主成分として含むものを用いる場合には、担体のシリカ含有量は、担体の質量に対して、好ましくは少なくとも50質量%、より好ましくは少なくとも90質量%である。
【0031】
担体は、BET法で測定した比表面積が10〜1000m
2/gの範囲であることが好ましく、100〜500m
2/gの範囲であることが特に好ましい。担体の嵩密度は、50〜1000g/Lの範囲であることが好ましく、300〜500g/Lの範囲であることが特に好ましい。担体の吸水率は、0.05〜3g/gであることが好ましく、0.1〜2g/gの範囲であることが特に好ましい。担体の細孔構造については、その平均細孔直径が1〜1000nmの範囲であることが好ましく、2〜800nmの範囲であることが特に好ましい。平均細孔直径が1nmより小さいとガスの拡散が困難となることがある。一方、細孔直径が1000nmより大きいと、担体の比表面積が小さくなりすぎて、触媒活性が低下するおそれがある。
【0032】
本発明における担体の吸水率は、以下の手順に従って測定した数値をいう。
1.担体約5gを天秤で精秤し、100ccのビーカーに入れる。このときの質量をw
1とする。
2.担体が完全に覆われるように、純水(イオン交換水)約15mLをビーカーに加える。
3.30分間放置する。
4.担体から上澄みの純水を除く。
5.担体の表面に付着した水を、表面の光沢がなくなるまで、紙タオル等で軽く押さえて除去する。
6.担体及び純水の合計質量を精秤する。このときの質量をw
2とする。
7.以下の式から担体の吸水率を算出する。
吸水率(g/g−担体)=(w
2−w
1)/w
1
【0033】
したがって、担体の吸水量(g)は担体の吸水率(g/g−担体)×使用する担体の質量(g)により計算される。
【0034】
担体の形状には特に制限はない。具体的には、粉末状、球状、ペレット状などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。用いられる反応形式、反応器などに対応させて、最適な形状を選択することができる。
【0035】
担体の粒子の大きさにも特に制限はない。担体が球状である場合、その粒子直径は1〜10mmの範囲であることが好ましく、より好ましくは2〜8mmの範囲である。管型反応器に触媒を充填して気相反応を行う場合、粒子直径が1mmより小さいと、ガスを流通させるときに大きな圧力損失が生じ、有効なガス循環ができなくなるおそれがある。一方、粒子直径が10mmより大きいと、触媒内部まで反応ガスが拡散することが困難となり、有効に触媒反応が進まなくなるおそれがある。
【0036】
(f)アルカリ溶液
以下説明する触媒製造工程の工程2において用いる(f)アルカリ溶液としては特に制限はなく、いかなるアルカリ性の溶液でも用いることができる。アルカリ溶液の原料の例としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の重炭酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のケイ酸塩などのアルカリ性化合物が挙げられる。アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、及びカリウムが好ましく、アルカリ土類金属としてはバリウム及びストロンチウムが好ましい。特に好ましいアルカリ性化合物としては、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウムなどが挙げられる。アルカリ溶液との接触により、パラジウム化合物の一部又は全部、金化合物の一部又は全部を酸化物又は水酸化物に変換することができる。
【0037】
アルカリ性化合物は、適切には、(a)パラジウム及び(b)金の合計に対してモル当量で過剰に使用する。例えば、使用されるアルカリ性化合物の量は、(a)パラジウム1モル当たり好ましくは1〜3モル、より好ましくは1.2〜2.5モルと、(b)金1モル当たり好ましくは2〜10モル、より好ましくは3〜8モルとの合計に相当する。
【0038】
アルカリ溶液の形成に使用する溶媒としては、特に制限はなく、水、メタノール、エタノールなどが好ましい例として挙げられる。
【0039】
<触媒製造工程>
触媒の製造工程としては、上記(a)〜(d)の各成分を担体(e)に担持することができるものであれば特に制限はないが、以下の工程で製造することが好ましい。
工程1.パラジウム原料及び金原料を含む均一溶液を調製し、得られた均一溶液を(e)担体に接触含浸させて前記パラジウム原料及び金原料を担体上に担持する工程
工程2.工程1で得られた担体に(f)アルカリ溶液を接触含浸させる工程
工程3.工程2で得られた担体に還元処理を行う工程、及び
工程4.工程3で得られた担体に(c)第4周期金属化合物及び(d)アルカリ金属塩化合物を担持する工程
【0041】
工程1
本工程では、パラジウム原料(金属パラジウム又はその前駆体)及び金原料(金属金又はその前駆体)を含む均一溶液を調製し、得られた均一溶液を担体に接触含浸させてこれらの原料の担持を行う。これらの原料の担体への担持状態としては、いわゆる「エッグシェル型」であることが好ましい。この場合、パラジウム原料及び金原料を含む均一溶液の担体への担持方法としては、結果的にエッグシェル型担持触媒が得られる方法であれば特に制限はない。エッグシェル型担持触媒とは、担体粒子又は成形体における活性成分(例えば、金属パラジウム)の分布状態に関して、ほとんどの活性成分が担体粒子又は成形体の外表面に存在する担持触媒のことをいう。エッグシェル型担持触媒の製造方法としては、具体的には、水、アセトンなどの適当な溶媒、又は塩酸、硝酸、酢酸などの無機酸若しくは有機酸若しくはそれらの溶液に原料を溶解させ、担体の表層に直接的に又は間接的に担持させる方法などが挙げられる。直接的に担持させる方法としては、含浸法及びスプレー法を挙げることができる。間接的に担持させる方法としては、後述のように、先にパラジウム原料及び金原料を含む均一溶液を担体に均一に担持させ(工程1)、次いで(f)アルカリ溶液との接触含浸(工程2)によって内部のパラジウム原料と金原料を表面に移動させた後、還元を行う(工程3)方法などを挙げることができる。
【0042】
パラジウム原料及び金原料の担体への担持は、パラジウム原料及び金原料を含む均一溶液を調製し、その溶液を適切な量の担体に接触含浸させることにより行うことができる。より具体的には、水、アセトンなどの適当な溶剤、又は塩酸、硝酸、酢酸などの無機酸若しくは有機酸若しくはそれらの溶液にパラジウム原料及び金原料を溶解させて均一溶液を調製し、得られた均一溶液を担体に接触含浸させ、含浸担体(A)を得る。含浸に続いて乾燥を行ってもよいが、乾燥工程を省略して工程2へ進む方が工程を省略できるため好ましい。
【0043】
工程2
本工程は、工程1で得られた含浸担体(A)に(f)アルカリ溶液を接触含浸させ、含浸担体(B)を得る工程である。工程2で用いるアルカリ性物質は、そのもの自体が液体であればそのまま使用することもできるが、溶液の形態で供給されることが好ましい。アルカリ溶液は、水及び/又はアルコールの溶液であることが好ましい。含浸担体(A)とアルカリ溶液との接触条件には特に制限はないが、接触時間は0.5〜100時間の範囲が好ましく、3〜50時間の範囲がより好ましい。0.5時間未満では十分な性能が得られないおそれがあり、一方で100時間を超えると担体が損傷するおそれがある。
【0044】
接触温度には特に制限はないが、10〜80℃の範囲が好ましく、20〜60℃の範囲がより好ましい。10℃より低い温度で接触を行うと、十分な変換速度が得られないおそれがある。一方、80℃を超えると、パラジウム又は金の凝集が進むおそれがある。
【0045】
工程3
本工程は、工程2で得られた含浸担体(B)に還元処理を行う工程である。還元方法としては、液相還元及び気相還元のどちらを用いることもできる。本工程で得られた金属担持担体を金属担持担体(C)とする。
【0046】
液相還元は、アルコール又は炭化水素類を用いた非水系及び水系のいずれで行うこともできる。還元剤としては、カルボン酸及びその塩、アルデヒド、過酸化水素、糖類、多価フェノール、ホウ素化合物、アミン、ヒドラジンなどを用いることができる。カルボン酸及びその塩の例としては、シュウ酸、シュウ酸カリウム、ギ酸、ギ酸カリウム、クエン酸カリウム、クエン酸アンモニウムなどが挙げられる。アルデヒドの例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどが挙げられる。糖類としては、グルコースなどが挙げられる。多価フェノールの例としては、ヒドロキノンなどが挙げられる。ホウ素化合物の例としては、ジボラン、水素化ホウ素ナトリウムなどが挙げられる。これらの中でも、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ヒドロキノン、水素化ホウ素ナトリウム、又はクエン酸カリウムを用いることが好ましく、ヒドラジンを用いることがより好ましい。
【0047】
液相還元を行う場合、その温度に特に制限はないが、液相温度を0〜200℃の範囲とすることが好ましく、10〜100℃の範囲とすることがより好ましい。0℃より低い温度では、十分な還元速度が得られないおそれがあり、一方、200℃を超えると、パラジウム又は金の凝集が起こるおそれがある。還元時間に特に制限はないが、還元時間は0.5〜24時間の範囲が好ましく、1〜10時間の範囲がより好ましい。0.5時間未満では、十分に還元が進行しないおそれがあり、一方、24時間を超えると、パラジウム又は金の凝集が起こるおそれがある。
【0048】
気相還元に用いる還元剤は、例えば、水素、一酸化炭素、アルコール、アルデヒド、エチレン、プロピレン、イソブテンなどのオレフィンなどから選択される。還元剤として水素又はプロピレンを用いることが好ましい。
【0049】
気相還元を行う場合、その温度に特に制限はないが、含浸担体(B)を30〜350℃の範囲に加熱することが好ましく、100〜300℃の範囲に加熱することがより好ましい。30℃より低い温度では十分な還元速度が得られないおそれがあり、一方、300℃を超えるとパラジウム又は金の凝集が起こるおそれがある。還元時間に特に制限はないが、還元時間は0.5〜24時間の範囲が好ましく、1〜10時間の範囲がより好ましい。0.5時間未満では、十分に還元が進行しないおそれがあり、一方、24時間を超えると、パラジウム又は金の凝集が起こるおそれがある。
【0050】
気相還元の処理圧力は、特に制限はないが、設備の観点から0.0〜3.0MPaG(ゲージ圧)の範囲であることが好ましく、0.1〜1.0MPaG(ゲージ圧)の範囲であることがより好ましい。
【0051】
気相還元を行う場合の還元剤の供給は、標準状態において、空間速度(以下、SVと記す。)10〜15000hr
−1の範囲であることが好ましく、100〜8000hr
−1の範囲で行われることが特に好ましい。
【0052】
気相還元は、様々な還元性物質濃度で行うことができ、必要に応じて希釈剤として、不活性ガスを加えてもよい。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素などが挙げられる。気化させた水の存在下に水素、プロピレンなどを存在させて還元を行ってもよい。
【0053】
還元処理前の触媒を反応器に充填し、プロピレンで還元した後、さらに酸素及び酢酸を導入し、酢酸アリルの製造を行ってもよい。
【0054】
還元された担体には、必要に応じて水による洗浄を行ってもよい。洗浄は、流通方式で行ってよく、バッチ方式で行ってもよい。洗浄温度は、5〜200℃の範囲が好ましく、15〜80℃の範囲がより好ましい。洗浄時間には特に制限はない。残存する好ましくない不純物の除去を行うのに十分な条件を選択することが好ましい。好ましくない不純物としては、例えば、ナトリウム、塩素などが挙げられる。洗浄後必要に応じて加熱乾燥してもよい。
【0055】
工程4
本工程は、工程3で得られた金属担持担体(C)に、(c)第4周期金属化合物及び(d)アルカリ金属塩化合物を担持する工程である。
【0056】
金属担持担体(C)に、(c)第4周期金属化合物及び(d)アルカリ金属塩化合物の必要量を含み、担体吸水量の0.9〜1.0倍の質量の溶液を接触させて含浸させ、乾燥することにより各化合物を担持する。このときの溶媒には特に制限はない。使用するアルカリ金属塩化合物を担体吸水量の0.9〜1.0倍の質量の溶液に溶解することができる様々な溶媒を使用することができる。溶剤は好ましくは水である。本発明において、アルカリ金属塩化合物の担持量はこの溶液の濃度を変えて調節することができる。乾燥温度、時間には特に制限はない。
【0057】
<触媒成分組成>
(a)、(b)、(c)及び(d)の質量比は、好ましくは(a):(b):(c):(d)=1:0.00125〜22.5:0.02〜90:0.2〜450であり、より好ましくは(a):(b):(c):(d)=1:0.0025〜0.14:0.04〜50:0.4〜250であり、特に好ましくは(a):(b):(c):(d)=1:0.008〜0.1:0.04〜50:0.4〜250である。いずれの触媒層も上記質量比を満たすことが好ましい。(a)、(b)及び(c)については成分元素の質量、(d)についてはアルカリ金属塩化合物の質量に基づく。
【0058】
酢酸アリル製造用触媒に含まれる金属元素の担持量及び組成比は、高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(以下、「ICP」と略記する。)、蛍光X線分析(以下、「XRF」と略記する。)、原子吸光分析法などの化学分析により測定することができる。
【0059】
測定法の例としては、所定量の触媒を、乳鉢等で粉砕し均一な粉末とした後、その粉末状触媒をフッ酸、王水等の酸に加えて加熱攪拌し、溶解させて均一な溶液とする。次に、その溶液を純水によって適当な濃度まで希釈し、その溶液をICPによって定量分析を行う方法が挙げられる。
【0060】
<固定床管型反応器>
本発明における「固定床管型反応器」は、管型の反応管に、固定床としての触媒(担体に担持されたもの)が充填されたものである。反応基質は気相で反応管に供給され、反応生成物が反応管出口より排出される。管型反応管は、設備の製造及び保守、触媒充填及び交換時の作業性、反応熱の除去等の観点から直管型であることが好ましい。反応管は触媒の充填、及び抜き出しの作業性の観点から鉛直方向(縦型)に設置されたものが好ましい。本発明の気相接触酸化反応は発熱反応であるため、一般に反応管外部から反応熱を除去するシステムを使用する。反応管の内径、外径、長さ、及び材質、反応熱除去設備、反応熱除去方法などに特に制限はないが、反応熱除去に関係する熱交換面積と反応管内部の圧力損失との兼ね合いから反応管の内径は10〜50mmであることが好ましく、その長さは1〜6mであることが好ましい。反応熱除去のために反応管1本の内径を大きくすることには制限があるため、反応器を多管型にしてもよい。工業的製造設備では反応管の数を数百本〜数千本とすることで生産量を確保することができる。反応管は耐食性、及び耐熱性を有する材料で作られていれば限定されない。反応管の材料として、例えばSUS素材、特にSUS316Lが挙げられる。
【0061】
従来、触媒として仕様の同じものが反応器に均一に充填されていたが、本発明では固定床管型反応器の入口側から出口側に向かって、(d)アルカリ金属塩化合物の担持量が順次低くなるように触媒を充填する。即ち、アルカリ金属塩化合物の担持量が異なる触媒層を、原料ガスの流れ方向に沿って、アルカリ金属塩化合物の担持量が順次低くなるように反応管に多層充填する。触媒層の数は2つ以上であればよく、3つ以上であってもよい。アルカリ金属塩化合物の担持量が連続的に減少(グラデーション)するようにしてもよい。実プラントでの触媒充填の作業性の観点から、触媒層は2層又は3層であることが好ましく、2層であっても本発明の目的を達成するのに十分である。
【0062】
(d)アルカリ金属塩化合物の担持量が異なる触媒層を、アルカリ金属塩化合物の担持量が順次低くなるように反応管に多層充填するにあたっては、(e)担体1gあたりのアルカリ金属塩化合物の担持量(g)のより少ない触媒を出口側から順に充填していけばよい。反応管の、最も入口側の触媒層における担体1gあたりのアルカリ金属塩化合物の担持量(g)が、最も出口側の触媒層における担体1gあたりのアルカリ金属塩化合物の担持量(g)の1.2〜3.0倍であることが好ましく、1.3〜2.4倍であることがより好ましく、1.3〜2.1倍であることが更に好ましい。上記担持量比を1.2倍以上とすることで本発明の効果を高めることができ、一方で3.0倍以下とすることで触媒の劣化が抑制される。
【0063】
上記触媒層における(d)アルカリ金属塩化合物の担持量比は、反応開始時のものである。数百〜数千時間の長期間の反応の間に、各触媒層のアルカリ金属塩化合物量は変化する。縦型反応管の場合、上方(入口側)の触媒層のアルカリ金属塩化合物が下方(出口側)の触媒層に移動し、反応管から徐々に排出されることもある。その場合、流出した分のアルカリ金属塩化合物を反応器に供給することが好ましい。
【0064】
(d)アルカリ金属塩化合物以外の成分の担持量は、一般に全ての触媒層で同一であるが、全体として反応効率が高まるように変化させてもよい。
【0065】
触媒層が2層の場合の触媒層の長さの比は、好ましくは反応器入口側:出口側=4:1〜1:4であり、より好ましくは反応器入口側:出口側=3:2〜1:4であり、特に好ましくは3:2〜2:3である。
【0066】
<酢酸アリルの製造>
酢酸アリルを製造するための反応は、プロピレン、酸素及び酢酸を原料とし、気相で行うことが好ましい。好ましくは、耐食性を有する反応管に前述の触媒を充填した固定床流通反応を採用することが実用上有利である。反応式は次式のとおりである。
CH
2=CHCH
3+CH
3COOH+1/2O
2→
CH
2=CHCH
2OCOCH
3+H
2O
【0067】
原料ガスはプロピレン、酸素ガス及び酢酸を含み、さらに必要に応じて窒素ガス、二酸化炭素、希ガスなどを希釈剤として使用することができる。
【0068】
原料ガスは、モル比として、酢酸:プロピレン:酸素=1:1〜12:0.5〜2の範囲の組成を有することが好ましい。
【0069】
酢酸アリルを製造するための反応においては、水を反応系内に存在させると、触媒の酢酸アリル生成活性及びその維持に著しく効果がある。水蒸気は、反応に供給するガス中に0.5〜25容量%の範囲で存在させることが好適である。
【0070】
反応に供給するガスにおいて、プロピレンは高純度のものを用いることが好ましいが、メタン、エタン、プロパンなどの低級飽和炭化水素が混入していてもよい。酸素ガスは窒素ガス、炭酸ガスなどの不活性ガスで希釈されたもの、例えば、空気の形でも供給できるが、反応ガスを循環させる場合には、一般には高濃度、好適には99容量%以上の酸素ガスを用いるのが有利である。
【0071】
反応温度には特に制限はない。好ましくは100〜300℃の範囲であり、さらに好ましくは120〜250℃の範囲である。反応圧力は、設備の点から0.0〜3.0MPaG(ゲージ圧)の範囲であることが実用上有利であるが、特に制限はない。より好ましくは、0.1〜1.5MPaG(ゲージ圧)の範囲である。
【0072】
固定床流通反応で反応を行う場合、原料ガスは、標準状態において空間速度:SV=10〜15000hr
−1の範囲で触媒に供給されることが好ましく、300〜8000hr
−1の範囲で触媒に供給されることが特に好ましい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの記載により何らの限定もされるものではない。
【0074】
製造例1 触媒Aの製造
シリカ球状担体(球体直径5mm、比表面積155m
2/g、吸水率0.85g/g、以下単に「シリカ担体」という。)を用い、以下の手順で触媒Aの製造を行った。
【0075】
工程1
塩化パラジウム酸ナトリウム199g及び塩化金酸ナトリウム四水和物4.08gを含有する水溶液4.1Lを調製し、A−1溶液とした。これにシリカ担体(嵩密度473g/L、吸水量402g/L)12Lを加え、A−1溶液を含浸させて、全量を吸収させた。
【0076】
工程2
メタケイ酸ナトリウム九水和物427gを純水に溶解させ、メスシリンダーを用い、全量が8.64Lとなるように純水で希釈して、A−2溶液とした。工程1で得た金属担持担体にA−2溶液を含浸させて、室温で20時間静置した。
【0077】
工程3
工程2で得られたアルカリ処理シリカ担体のスラリーにヒドラジン一水和物300gを添加し、緩やかに攪拌した後、室温で4時間静置した。得られた触媒を濾過後、ストップコック付のガラスカラムに移し、40時間純水を流通させて洗浄した。次いで、空気気流下、110℃で4時間乾燥を行い、金属担持触媒(A−3)を得た。
【0078】
工程4
酢酸カリウム624g、及び酢酸銅一水和物90gを純水に溶解させ、メスシリンダーを用い、全量が3.89Lとなるように純水で希釈した。これに工程3で得られた金属担持触媒(A−3)を加え、全量を吸収させた。次いで、空気気流下、110℃で20時間乾燥を行い、酢酸アリル製造用触媒Aを得た。(a)、(b)、(c)及び(d)の質量比は、(a):(b):(c):(d)=1:0.024:0.39:8.5である。この質量比は、(a)、(b)及び(c)については成分元素の質量、(d)についてはアルカリ金属塩化合物の質量に基づく。(e)担体1gあたりの(d)アルカリ金属塩化合物の担持量(g)は0.110g/gである。
【0079】
製造例2 触媒Bの製造
工程4において、酢酸カリウムの量を624gから396gに変更した以外は製造例1の操作を繰り返して、触媒Bの製造を行った。(a)、(b)、(c)及び(d)の質量比は、(a):(b):(c):(d)=1:0.024:0.39:5.4である。この質量比は、(a)、(b)及び(c)については成分元素の質量、(d)についてはアルカリ金属塩化合物の質量に基づく。(e)担体1gあたりの(d)アルカリ金属塩化合物の担持量(g)は0.069g/gである。
【0080】
<参考例1及び2> 触媒A及びBの性能評価
製造例1及び2で得た触媒A及びBのそれぞれ10.5mLを31.5mLのセラミックボールで均一に希釈した後、反応管(SUS316L製、内径25mm)に充填した。反応温度150℃、及び反応圧力0.8MPaG(ゲージ圧)の条件下、ガス組成がプロピレン:酸素:酢酸:水=35:6:8:23(容積比)である混合ガスを、空間速度2070h
−1にて導入して、プロピレン、酸素及び酢酸から酢酸アリルを生成した。反応物の分析は反応開始から200時間経過後に行った。
【0081】
反応物の分析方法として、触媒充填層を通過した出口ガスの全量を冷却し、凝縮した反応液の全量を回収し、ガスクロマトグラフィーで分析する方法を用いた。未凝縮ガスについては、サンプリング時間内に流出した未凝縮ガスの全量を測定し、その一部を取り出し、ガスクロマトグラフィーで分析を行った。
【0082】
凝縮した反応液の分析は、株式会社島津製作所製GC−14Bを用い、FID検出器、キャピラリーカラムTC−WAX(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)にて内部標準法にて分析を行った。
【0083】
未凝縮ガスの分析は、株式会社島津製作所製GC−14B(島津ガスクロマトグラフ用ガスサンプラーMGS−4、計量管1mL付)を用い、TCD検出器(Heキャリアガス、電流値100mA)、パックドカラムMS−5A IS(3mmφ×3m、60/80メッシュ)及びUnibeads(3mmφ×3m、60/80メッシュ)を用い、絶対検量線法を用いて分析を行った。
【0084】
触媒の活性度を、触媒体積(L)当たり1時間で製造された酢酸アリルの質量(空間時間収率:STY、単位:g/L−cat・hr)として計算した。
【0085】
酢酸アリルの選択率は、以下の算出式によって求めた。
酢酸アリル選択率(プロピレン基準)(%)=[酢酸アリル生成量(mol)/消費プロピレン量(mol)]×100
【0086】
触媒中の酢酸カリウム量は、触媒を粉砕し均一な粉末とした後、成形し、蛍光X線分析(XRF)を用い、絶対検量線法を用いてK(カリウム)原子の含有量(質量%)として定量した。
【0087】
参考例1及び2の結果を表1に示す。反応開始から200時間後の評価では、参考例1の触媒Aは参考例2の触媒Bよりも活性(STY)が高いことがわかる。酢酸アリルの製造では、酢酸カリウムの担持量が多い方が高い触媒活性を示すといえる。
【0088】
【表1】
【0089】
<実施例1>
内径34mmの反応管に、反応ガス入口側から出口側に向かって順に、イナートボールを反応ガス入口側で触媒の上流側に層長0.8m、酢酸カリウム担持量が多く活性の高い触媒Aを層長3.3m、酢酸カリウム担持量が少なく活性の低い触媒Bを層長2.2mとなるように充填した。表2に示す組成の原料ガスを空間速度2000h
−1で流通し、反応温度160℃、反応圧力0.75MPaG(ゲージ圧)の条件で反応を連続して8000時間行った。反応終了後、触媒を反応ガス入口側から3:2に分割して抜き出し、反応管入口側を触媒C、反応管出口側を触媒Dとした。
図1Aに実施例1の触媒の充填位置を示す。反応開始時において、触媒A(入口側)の(e)担体1gあたりの(d)アルカリ金属塩化合物(酢酸カリウム)の担持量(g)は0.1099g/g、触媒B(出口側)の(e)担体1gあたりの(d)アルカリ金属塩化合物(酢酸カリウム)の担持量(g)は0.069g/g、酢酸カリウムの担持量の比は1.59(=0.1099/0.069)である。触媒C及びDについては後述の評価条件にて8000時間経過後に性能評価を行った。実施例1(全体)の結果と併せて表4に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
<比較例1>
充填する触媒をすべて触媒Aにし、触媒Aの層長を5.5mとなるように充填した以外は実施例1と同様の反応を行った。反応終了後、触媒を反応方向入口側から3:2に分割して抜き出し、反応器入口側を触媒E、反応器出口側を触媒Fとした。
図1Bに比較例1の触媒の充填位置を示す。結果を表4に示す。
【0092】
<比較例2>
反応ガス入口側から触媒Bを層長3.3m、触媒Aを層長2.2mとなるように充填する以外は実施例1と同様の反応を行った。反応終了後、触媒を反応方向入口側から3:2に分割して抜き出し、反応器入口側を触媒G、反応器出口側を触媒Hとした。
図1Cに比較例2の触媒の充填位置を示す。結果を表4に示す。
【0093】
<触媒C〜Hの性能評価>
実施例1、並びに比較例1及び2で得た触媒C〜Hのそれぞれ10.5mLを31.5mLのセラミックボールで均一に希釈した後、反応管(SUS316L製、内径25mm)に充填した。表3に示す組成の原料ガスを空間速度2070h
−1で流通し、反応温度160℃、反応圧力0.8MPaG(ゲージ圧)の条件で酸化反応を4時間行った。結果を表4に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
表4から、実施例1は、触媒を反応管に均等に充填した比較例1、及び酢酸カリウムの担持量を逆転した充填した比較例2よりも8000時間反応後で全体の酢酸アリルSTYが大きく、反応初期(200時間)からの反応管全体としての触媒性能の低下が小さいことがわかる。また、実施例1の触媒Dは比較例1の触媒Fよりも酢酸カリウム担持量が少なく、酢酸アリル活性が高いことがわかる。これらのことより、同じ仕様の触媒を均一に充填して反応を行った場合に比べて、本発明のように触媒の酢酸カリウム担持量を反応器の入口側から出口側に向かって順次低くなるように触媒を充填して反応を行った場合の方が、反応管内で、原料ガスの流れ方向の酢酸カリウムの分布がより均等になるように制御でき、経時の触媒活性の低下を抑えられていることがわかる。