特許第6366860号(P6366860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366860
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】高引張強度ナノファイバ糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 2/00 20060101AFI20180723BHJP
   D01F 2/02 20060101ALI20180723BHJP
   C08B 15/02 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   D01F2/00 Z
   D01F2/02
   C08B15/02
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-552239(P2017-552239)
(86)(22)【出願日】2015年12月23日
(65)【公表番号】特表2018-503008(P2018-503008A)
(43)【公表日】2018年2月1日
(86)【国際出願番号】FI2015050939
(87)【国際公開番号】WO2016102782
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年12月18日
(31)【優先権主張番号】20146148
(32)【優先日】2014年12月23日
(33)【優先権主張国】FI
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517223820
【氏名又は名称】スピンノヴァ オイ
【氏名又は名称原語表記】SPINNOVA OY
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】シェン,インフェン
(72)【発明者】
【氏名】ハルリン,アリ
(72)【発明者】
【氏名】サルメラ,ユハ
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/122209(WO,A1)
【文献】 特開2013−118051(JP,A)
【文献】 特表2014−510843(JP,A)
【文献】 特開2011−208015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 2/00
C08B 15/02
D01F 2/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式押出によって高引張強度ナノファイバ糸を製造する方法において、個々のナノセルロース繊維が共に一列に整列され、まずノズル内整列によってナノファイバ網を形成し、ナノセルロースヒドロゲルが高噴流速度でノズルから押出され、その後、前記ナノファイバ網が面上整列によって伸ばされ、前記ノズルからのヒドロゲル噴流が、移動する滑りやすい表面上に印加され、前記ナノファイバ糸が前記移動する滑りやすい表面上で同時に空気乾燥され、少なくとも500m/分の速度で製造されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ナノファイバ網を、ナノファイバ網との連続水相の相互作用によって、噴流方向に沿って伸ばすことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記移動する表面は、植物油などの油、または非不混和性流体で予め被覆されたプラスチック膜で被覆されたドラムまたはベルトであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも0.1、好ましくは1よりも大きい延伸比で前記ナノファイバ網を伸ばすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記噴流速度は、3〜30m/s、好ましくは10〜25m/sであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ノズルは、10〜150μmの内径を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒドロゲルは、非変性ナノセルロース繊維を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒドロゲルは、TEMPO酸化ナノセルロース繊維を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ノズルからの前記ヒドロゲル噴流は、90〜20度の衝突角で前記移動する表面に衝突し、前記噴流は90°において前記表面と垂直となり、0°において前記表面に対して接線方向であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記衝突角は、90〜40度、好ましくは75〜55度であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ノズルと前記移動する表面との距離は、連続水相と一様な湿ったフィラメントとを可能にするようなものであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
高分子量ポリマ添加剤が、押出し圧力を減少させ、ノズル詰まりを防ぐために前記ナノセルロースヒドロゲルに添加されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高引張強度ナノファイバ糸の製造方法に関する。特に、本発明は、このようなナノファイバ糸を高速度で製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
天然セルロース繊維は、何千年もの間、人によって利用されてきている。2つの主要な例が、木材パルプに由来する紙と、綿に由来する布とである。過去100年の間、より低コストである点と優れた特性とのために、合成繊維に徐々にとって代わられてきている。しかしながら、地球資源の持続的な使用のために、天然セルロース繊維がますます魅力的なものになってきている。木材は、天然繊維の最も豊富な供給源の1つである。木材パルプは、単純な機械的粉砕によってナノフィブリルに分解することができることが判明した。ナノセルロールフィブリルの引張強度は、2〜3GPaであると見積もられ(非特許文献1)、その引張強度は、ナノセルロースフィブリルを軟鋼よりも5倍強くする。理論的には、ナノファイバを一列に整列させ、長く強い繊維を製造することが可能であって、木材および綿の引張強度(400〜600MPa)を上回ることが可能である。これは、木材の使用をより高い価値の市場に大きく拡大する。綿の世界的な不足を考慮すると、これは興味深い代替物となり得る。また、この種の長繊維は、再生セルロース繊維とは異なる。溶解は使用されないので、セルロースは、そのセルロースI構造をほとんど保持する可能性が高く、したがって綿の特性に一層近似している。簡略化のために、この種の繊維をナノファイバ糸と呼ぶ。
【0003】
3つの研究グループが天然セルロースナノファイバからナノファイバ糸を製造する結果を公開している。長繊維は、天然セルロースナノファイバのヒドロゲルの単純な湿式押出しおよびアセトン凝固プロセスによって、非特許文献1によって調製された。結果として生じるNFCマクロファイバは、剛性(22.5GPa)および強度(275MPa)を靭性(7.9MJm−3の破壊仕事)と組み合わせた機械的特性を示す。著者らは、その特性が、次の引き抜きプロセスによって構成NFCナノフィブリルがさらに一列に整列することによって高められ得ることを予見している。機械的堅牢性を除いては、記事には、透明マクロファイバをどのように達成するのか、また表面の疎水化によって水分収着をどのように制御するのかが記載されている。
【0004】
非特許文献2は、天然セルロースナノファイバから成る湿式紡糸繊維の研究結果を公開している。セルロースナノファイバは、木材パルプのTEMPO媒介酸化によって調製された。水中のセルロースナノファイバ懸濁液が、アセトン凝固浴中で紡糸された。100m/分における木材紡糸繊維は、23.6GPaのヤング率、321MPaの引張強度および2.2%の破断伸びを有した。木材紡糸繊維のヤング率は、ナノファイバ配向効果のために、紡糸速度の増加とともに増加した。
【0005】
非特許文献3は、流体力学的整列を、セルロースナノフィブリルの低濃度分散液から水中で均質かつ滑らかなフィラメントを生成する分散−ゲル転移と組み合わせたプロセスを提示している。流体力学的整列は、フローフォーカシングチャネルシステムにおいて達成された。フィラメント方向に沿った優先フィブリル配向は、プロセスパラメータによって制御可能である。特定の極限強度は、セルロースナノフィブリルから成る以前に報告されたフィラメントよりもかなり高く、最大引張強度値は〜580MPaであり、最大ヤング率は18.3GPaである。その強度は、同程度のフィブリル整列の木材から抽出された最も強いセルロースパルプ繊維と一致しているほどである。
【0006】
特許文献1は、セルロースナノフィブリルのリオトロピック懸濁液から、繊維の主軸に沿って一列に整列するセルロースナノフィブリルを含む繊維を紡糸する方法に関し、整列が押出された繊維の伸長によって達成され、繊維が伸長下で乾燥され、一列に整列したナノフィブリルが凝集して連続的な構造を形成する。同様に、特許文献2は、セルロースナノフィブリルのセルロース系繊維を製造するための連続的方法に関する。しかしながら、これらの文献は、たとえば高引張強度ナノファイバ糸を非常に高速度で製造する方法を開示していない。
【0007】
セルロースは、布地および複合材強化繊維用の原料として広く使用されている。現在、溶解および再生ならびにセルロース誘導体化などの化学プロセスが使用されている。
しかしながら、これらの方法は、化学物質を必要とし、かなり多くのエネルギを消費する。したがって、良好な機械的特性を有する長いナノセルロース繊維を好ましくは高速度で製造するための、より少ない化学物質およびより少ないエネルギを消費するより簡単なプロセスが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2010/043889A1
【特許文献2】EP2558624B1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Walther A., Timonen J., Diez I., Laukkanen A., Ikkala O., “Multifunctional high-performance biofibers based on wet-extrusion of renewable native cellulose nanofibrils”, Adv. Matter. 2011, 23, 2924-2928.
【非特許文献2】Iwamoto S., Isogai A., Iwata T., “Structure and Mechanical Properties of Wet-Spun Fibers made from Natural Cellulose Nanofibers”, Miomacromolecules 2011, 12, 831-836.
【非特許文献3】Hakansson K. M. O., Fall A. B., Lundell F., Yu S., Krywka C., Roth S. V., Santoro G., Kvick M., Wittberg L. P., Waberg L., Soderberg L. D., “Hydrodynamic alignment and assembly of nanofibrils resulting in strong cellulose filaments”, Nature Communications 5, Article number 4018, 2014.
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、物理的手段を利用してセルロースナノファイバを組み立てて高引張強度長繊維、すなわちナノファイバ糸を製造することである。
【0011】
特に、本発明の目的は、高引張強度ナノファイバ糸を高速度で製造するために個々のナノセルロース繊維を一列に整列させることに基づく方法であって、従来の化学プロセスと比較してより少ない化学物質およびより少ないエネルギを使用する、方法を提供することである。
【0012】
これらおよび他の目的は、公知の技術を超えるその利点とともに、後述され特許請求されるように、本発明によって達成される。
【0013】
本発明に従う方法は、主として請求項1の特徴部分に述べられたものによって特徴付けられる。
【0014】
本発明は、たとえば、非変性ナノセルロースなどの低コスト原料の使用を可能にするので、公知の方法を超える利点を提供する。原料のTEMPO酸化ナノセルロースへの格上げは、繊維の機械的特性をさらに向上させる。また、本方法は、ナノファイバ糸を高速度で連続的に製造することができる。なぜなら本方法は従来の凝固浴を使用しないからである。
【0015】
次に、本技術は、添付の図面を用いて詳細説明を参照してより詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】滑りやすい表面上での湿式押出し(WESS)のプロセス概念を示す簡略化された概略図である。
図2】ナノセルロース繊維のノズル内整列を説明し、10m/sの噴流速度でのノズルの伸長速度場を示すチャート図である。
図3】滑りやすい油表面上のナノセルロースヒドロゲルを示す簡略図である。
図4図4a〜図4cは、製造されたNFC糸のSEM画像である。極めて均一な繊維が形成されるが、NFC糸はより大きな幅および厚み比のためによりリボン状である(図4bおよび図4c)。
図5図5a〜図5cは、製造されたTEMPO−NFC糸のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、湿式押出しによって高引張強度ナノファイバ糸を製造する方法を開示している。
【0018】
ナノファイバは、当該技術において、100ナノメートル未満の直径を有する繊維として規定される。繊維工業において、この定義は、直径1000nm程度の繊維を含むようにしばしば拡張される。一方、糸は、たとえば布地の製造における使用に適した、長い連続した長さの絡まり合った繊維、ここではナノファイバである。
【0019】
特に、本発明は、ノズル内整列および面上整列の組み合わせに基づき、個々のナノセルロース繊維は、高速押出しおよび湿潤状態における同時延伸技術を用いることによって一列に整列される。
【0020】
本発明の実施形態に従えば、湿式押出しによって高引張強度ナノファイバ糸を製造する方法は、個々のナノセルロース繊維を共に一列に整列させることと、まずノズル内整列によってナノファイバ網を形成することとを含み、ナノセルロースヒドロゲルが高噴流速度でノズルから押出され、その後、ナノファイバ網が面上整列によって伸ばされ、ノズルからのヒドロゲル噴流が、移動する滑りやすい表面上に印加される。
【0021】
他の実施形態に従えば、ナノセルロースヒドロゲルは、天然かつ非変性のナノフィブリル化セルロースから調製される。しかしながら、またTEMPO酸化ナノセルロースが使用されてもよく、繊維の特性をさらに向上することを示す。ナノセルロースの1つの適切な供給源は、漂白カバノキパルプである。
【0022】
さらなる実施形態に従えば、移動する表面は、ドラム、またはその類似物、もしくはベルトである。好ましくは、該表面は、植物油などの油、または非不混和性流体で予め被覆された無孔プラスチック膜で被覆されて、滑りやすい表面を達成する。10°未満の接触角ヒステリシスが達成される。多孔性表面に潤滑流体が注がれると、さらに低い接触角ヒステリシス(<2.5°)を得ることができる。次いで、製造された繊維は、プラスチック膜とともにドラムから除去可能である。
【0023】
「ノズル内整列」において、個々のナノセルロース繊維は、図2に示されるように一列に整列され、図2は、注射器またはその類似物から小さなノズル内へのナノセルロースヒドロゲルの流れ、およびヒドロゲル流による伸長流形態の形成を示す。連続水相と繊維網との相互作用によって、網が、高い伸長速度で流れ方向に沿って効率的に伸ばされる。このような高い伸長速度は、高い押出し速度、すなわち噴流速度と小さなノズル寸法とを用いることによって得ることができる。
【0024】
一実施形態に従えば、噴流速度は、3〜30m/s、好ましくは10〜25m/sである。
【0025】
一実施形態に従えば、ノズルは、10〜150μmの内径を有する。
【0026】
「面上整列」において、ノズルからのヒドロゲル噴流は、上述のように、移動する滑りやすい表面に印加される。表面速度が噴流速度よりも高いとき、湿ったフィラメントの断面積は、フィラメントが表面に着地した後、小さくなる。
表面によって作られる延伸も、繊維整列を向上させる。一方、表面が噴流速度よりも遅く移動している場合、湿ったフィラメントの断面積は大きくなり、基板の蓄積を引き起こす。これは、糸の繊維の配向の減少をもたらす。以前に一列に整列した繊維は、圧縮および基板との強い衝撃のために乱されるかもしれないが、結果として生じる繊維はあまり一列に整列しなくなる。
【0027】
他の重要な特徴は、噴流の衝突角である。噴流の断面は、好ましくはノズルの形状のために円形である。噴流速度の鉛直成分は、横方向における湿ったフィラメントの拡大を直接引き起こす。移動する基板に対する速度に依存するけれども、水平成分は、フィラメント長さの収縮または延伸に寄与してもよい。次いで、結果として生じるフィラメントは、リボン状断面を得る。
【0028】
一実施形態に従えば、ノズルからのヒドロゲル噴流は、90°〜20°の衝突角で移動する表面上に衝突し、噴流は90°において表面と垂直となり、0°において表面に対して接線方向である。好ましい実施形態に従えば、衝突角は、90°〜40°、より好ましくは75°〜55°である。
【0029】
湿ったフィラメントの圧縮は、高い引張強度を有する太いフィラメントを得るために有用であり得る。特に、細い噴流が遅く移動する基板上に衝突するとき、より太いフィラメントが形成される。不均一性のための欠陥の数は、減少し得る。
【0030】
さらなる実施形態に従えば、ノズルと移動する表面との間の距離は、連続する水相が残り、形成される湿ったフィラメントが高い均一性を有することを可能にするのに十分に短い。基板上の湿ったフィラメントは、衝突点から、10〜20mmなどの数ミリメートル離間しているので、低せん断状態にある。ゲルの流れは、主として、表面濡れ、重力、遠心力、および乾燥ならびに小規模の水の蒸発による収縮によって駆動される。高濃度ヒドロゲルが使用されるとき、ゲルの降伏応力は、湿ったフィラメントの流動または変形を効率的に遅くするのに十分に高い。本方法は密に充填された繊維網を提供するので、分散および/または配向の欠如によるナノフィブリルの無秩序化は起こりそうにない。
【0031】
好適な実施形態に従えば、基板上への油被覆の塗布は、湿った繊維の幅を制御する際に明確な利点がある。油被覆は、湿った繊維が基板に付着して、大量の検出のために非常に弱い、幅広かつ薄いリボンを形成する危険性を低減するために用いられる。油被覆によって、湿ったフィラメントが、乾燥時に、たとえば1.5mmから数十ミクロン程度にまで収縮する。これは、減少する接触角ヒステリシスに関する。同時に、リボンの厚み対幅比は増加し、ある場合には円形に近い断面を得ることができる。
【0032】
非常に滑りやすい表面を形成するために、塗布される油は、主として水から成るナノセルロースヒドロゲルよりも表面に対するより良好な濡れ性を有するべきである。油の粘性もまた、潤滑を容易にするために十分に低くすべきである。
【0033】
繊維の引張強度は、延伸比とともに増加する。これは、繊維が表面上で伸びることによってより一列に整列していると仮定して予想される。一実施形態に従えば、延伸比(=表面速度/ノズル速度、すなわち噴流速度)が少なくとも1であり、したがってこれは表面が少なくとも噴流速度と同じ速度で移動することを意味する。
【0034】
しかしながら、引張強度もまた、たとえば、太いフィラメントを目指すとき、1未満の延伸比から恩恵を受けることができる。一実施形態に従えば、延伸比は少なくとも0.1、好ましくは1よりも大きい。
【0035】
理想的には、高噴流速度および高延伸比が両方とも最良の繊維整列のために存在すべきである。本発明の発明者は、3%のヒドロゲルが、ノズルが詰まっているか、圧力が押出機には高すぎるであろう前に、16m/sよりも高い噴流速度を許可しないことに気付いた。より低い固形物においてのみ、より高い噴流速度が達成可能である。ナノセルロースヒドロゲルの濃度が、たとえば3%から1.64%に減少すると、延伸比の演算窓が逆に下端にシフトする。より高い延伸比は、繊維を破損させるだけであろう。これは次々により高い濃度を示唆する。したがって、濃度と、ノズル速度と、延伸比との間で妥協をしなければならない。湿度および乾燥速度などの他のパラメータは次に考慮されるべきである。
【0036】
ここで述べられたようなWESS(滑りやすい表面上での湿式押出し)プロセスを用いると、ナノファイバ糸は、報告された最も高い速度である、120〜660m/minの速度で製造可能である。このような速度は、現在の製紙および被覆製造ラインの能力に類似し、これによって、製造ラインの繊維製造への変換が可能であり、さらに本方法の経済性が改善される。
【0037】
好適な実施形態に従えば、ナノファイバ糸は、少なくとも500m/minの速度、たとえば550〜700m/minの速度、特に約660m/minの速度で製造される。
【0038】
また、高分子量ポリマ添加剤が、押出しを緩和する、すなわち押出し圧力を減少させノズル詰まりを防ぐために使用(ナノセルロースヒドロゲルに添加)されてもよい。このような適切な添加材の1つは、高分子量ポリエチレン酸化物である。
【0039】
上述の方法によって製造されたナノファイバの主要な応用分野は、繊維工業である。このようなナノファイバは、たとえば、複合材強化繊維または炭素繊維の前駆体として用いられてもよい。
【0040】
次に、本発明は以下の限定しない実施例によって説明される。しかしながら、上述および実施例で示された実施形態は、説明を目的とするだけのものであり、様々な変更および修正が特許請求の範囲内で可能であることを理解すべきである。
【実施例】
【0041】
ナノフィブリルセルロースの調製
ナノフィブリルセルロースは、漂白カバノキパルプから調製された。パルプスラリは、機械的粉砕に1回通され、マイクロフルイダイザに6回通された。結果として生じるゲルは、1.64%の濃度を有していた。3%のヒドロゲルが、水の一部を除去するために遠心分離を用いて調製された。TEMPO酸化ナノセルロースがまた、漂白カバノキパルプから調製され、マイクロフルイダイザにおいて1回の通過でフィブリル化された。ゲルの固形分は0.819%であった。
【0042】
粘度測定
TEMPO NFCのずり流動化粘度が、回転式レオメータ(アントンパール社)上で測定された。コーン・プレート測定システムが使用された。試料がまず1500/sで60秒間、事前にせん断された。事前せん断の後、粘度の増減は、明らかなヒステリシスを示さなかった。
【0043】
滑りやすい表面の準備
ポリエチレンフィルムがキャリア基板として使用され、回転ドラム上にしっかりと巻き付けた。ドラムが回転しながら、ヒマワリ油がブラシで基板に被覆された。油の最終被覆重量は1〜3g/mと推定された。
【0044】
ナノフィブリルセルロースの湿式押出し
押出しシステムの概略が図1に示される。特注の注射器ポンプ押出機を使用して、注射針を通してヒドロゲルを押出した。針の内径は108μmであり、針の長さは8mmであった。押出機はCNC機械のz軸上に水平に装着され、4番目の軸として制御された。EMC2ソフトウェアを使用してxyz運動と押出機とを同期させた。ノズルから出てくる噴流の速度は、240〜1920m/minで変化することができる。回転ドラムが、高速ミキサによって針の前で水平に駆動された。ドラムの直径は104mmであった。ミキサの速度を調整することによって、ドラムの表面速度は、繊維製造の速度でもある120〜660m/minで変化した。
【0045】
典型的な実験において、油被覆は、回転ドラム上に取り付けられたポリエチレンフィルムに塗布される。次いで、ノズルからの噴流が開始され、10メートルの湿ったフィラメントが押出されてノズルをきれいにし、押出機内の圧力を高める。次いで、ノズルがドラムに沿って直線的に移動し始める。別の10メートルの繊維がドラム上に形成された後、噴流が停止し、繊維が乾燥されるまでドラムが数分間回転し続ける。乾燥時間を短縮するために、温風乾燥機が随意に使用可能である。
【0046】
噴流速度のNFCナノファイバ糸の引張強度に及ぼす影響
1.64%の低ナノセルロース濃度において、28m/sまでのより高い噴流速度が目詰まりすることなく達成可能である。表1に示されるように、ノズル内整列は、延伸比よりもより重要になる。ここで、最大延伸比は0.25に過ぎない。しかしながら、引張強度は、明らかにより高く、これはおそらくより高い噴流速度に起因する。より低い濃度は、繊維網を希釈し、セルロースナノファイバ間の絡み合いを減少させると考えられる。以下の表1は、55°の衝突角でのノズル速度の引張強度に及ぼす影響を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1の測定の標準偏差はむしろ大きく、強い結論を出すことはできないけれども、2つの興味深い観察がある。ケースAとケースBとを比較すると、より高い噴流速度がより高い引張強度を引き起こす。高すぎるせん断速度、この場合より高い噴流速度において繊維網の乱れが生じる可能性があることが推測される。これは、低いせん断速度におけるずり流動化とより高いせん断速度におけるずり粘稠化とを示す特定のチキソトロピック流体に共通の現象である。しかしながら、文献にはナノセルロースのレオロジについての同様の観察が現在存在しない。ケースAとケースCとを比較すると、より低い表面速度、それに応じてより低い延伸比は、引張強度に悪影響を及ぼさなかった。これは、実際には、繊維品質の改善に起因しているのかもしれない。より低い表面速度から生じるより低い遠心力は、より少ない飛沫をもたらす。実際には、遠心力が強すぎ湿ったゲルが回転ドラムから投げ捨てられるとき、湿った繊維を表面上に形成することはできない。
【0049】
SEM
糸の微小構造は、Zeiss Merlin電界放出SEMを用いて調査された。断面解析のために、糸が液体窒素によって冷却されて破砕された。表面解析のために、糸が炭素テープによって試料スタブ上に定着された。いずれの場合も、試料はスパッタコータを用いて白金の薄層で被覆された。SEMは、二次電子とインレンズ検出器とを用いて2kVの加速電圧で運転された。
【0050】
引張試験
引張強度の計算は、断面積の知識を必要とし、ナノファイバ糸の線密度およびかさ密度から推定された。前者は、ヒドロゲルの固形分、押出速度および表面速度から計算された。乾燥フィラメントのかさ密度は1.5g/cmとして仮定された。SEM断面画像から、推定がNFCおよびTEMPO酸化NFCの両方に対してよく一致していることが確認された。したがって、推定方法は作業全体を通して使用された。
【0051】
ナノファイバ糸の強度は、特注の引張試験機上で測定された。繊維は、両面テープによって金属のブロックに取り付けられた。繊維の他端は、歯車付きのステッピングモータを用いて50ミクロン/秒で引き上げられた。繊維の長さは30mmであった。金属ブロックは4桁Precisaはかり上に配置され、重量がPCとのシリアル通信によって10Hzで監視された。次いで、繊維破断前の最大力を用いて引張強度を計算した。
【0052】
湿度制御
引張強度の測定が、制御された気候室内で行われた。温度は22℃で一定に保持された。相対湿度は異なる湿度レベルにおける湿った空気を用いて制御される。達成可能な最低相対湿度レベルは14%であった。最高湿度レベルは90%であった。引張試験機は、試料とともに気候室内に配置された。試料は、各測定前に少なくとも2時間、気候室内に格納された。
図1
図2
図3
図4a.5a】
図4b.5b】
図4c.5c】