(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
示差走査熱量計(DSC)から求められる第1融解ピークの融点(Tm1)と第2融解ピークの融点(Tm2)との差が、0℃以上10℃未満である、請求項1に記載のエチレン重合体。
示差走査熱量計(DSC)から求められる第1融解ピークの融解開始温度と第2融解ピークの融解開始温度との差が、5.0℃以上である、請求項1又は2に記載のエチレン重合体。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
[エチレン重合体]
本実施形態のエチレン重合体は、粘度平均分子量が、100×10
4以上1,000×10
4以下であり、125℃と123℃の等温結晶化時間の比が、3.5以上10.0以下であり、示差走査熱量計(DSC)から求められる結晶化度が、40.0%以上75.0%以下である。以下、上記要件について説明する。
【0015】
本実施形態のエチレン重合体としては、特に限定されないが、例えば、エチレン単独重合体、又は、エチレンと、他のコモノマーとの共重合体等が好適に挙げられる。他のコモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、α−オレフィン、ビニル化合物等が挙げられる。
上記α−オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数3〜20のα−オレフィンが挙げられ、具体的には、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン等が挙げられる。さらに、上記ビニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、ビニルシクロヘキサン、スチレン及びその誘導体等が挙げられる。また、必要に応じて、他のコモノマーとして、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等の非共役ポリエンを使用することもできる。
上記共重合体は3元ランダム重合体であってもよい。他のコモノマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
他のコモノマーの量は、エチレン重合体に対し、好ましくは0.20mol%以下であり、より好ましくは0.15mol%以下であり、さらに好ましくは0.10mol%以下である。他のコモノマーの量が0.20mol%以下であることにより、結晶化度を高くすることが可能で、125℃と123℃の等温結晶化時間の比を、3.5以上10.0以下の範囲に調整しやすい傾向にある。尚、エチレン重合体のコモノマー量は、赤外分析法、NMR法等で確認することができる。
【0016】
本実施形態のエチレン重合体の密度は、特に限定されないが、好ましくは910kg/cm
3以上980kg/cm
3以下であり、より好ましくは915kg/m
3以上970kg/cm
3以下であり、さらに好ましくは920kg/m
3以上965kg/cm
3以下である。エチレン重合体の密度が910kg/cm
3以上980kg/cm
3以下であることにより、エチレン重合体の125℃と123℃の等温結晶化時間の比が3.5以上10.0以下になる傾向にあり、本実施形態のエチレン重合体を含む、延伸成形体、微多孔膜、及び繊維も、優れた強度を有するものとなる。尚、エチレン重合体の密度は、エチレン重合体パウダーのプレスシートから切り出した切片を120℃で1時間アニーリングし、その後25℃で1時間冷却したものを密度測定用サンプルとして用い、JIS K 7112に準じて測定することによって求めることができる。エチレン重合体パウダーのプレスシートは、縦60mm、横60mm、厚み2mmの金型を用い、ASTM D 1928 Procedure Cに準じて作製することができる。より具体的には、エチレン重合体の密度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0017】
(粘度平均分子量(Mv))
本実施形態のエチレン重合体の粘度平均分子量(Mv)は、100×10
4以上1,000×10
4以下であり、好ましくは120×10
4以上900×10
4以下であり、より好ましくは140×10
4以上800×10
4以下である。粘度平均分子量(Mv)が100×10
4以上であることにより、後述するエチレン重合体の125℃と123℃の等温結晶化時間の比が大きくなる傾向にあり、第1融解ピークの融解開始温度と第2融解ピークの融解開始温度の差も大きくなる傾向にある。また、エチレン重合体中に含有される低分子量成分の量を少なくすることができる。さらに、本実施形態のエチレン重合体を含む、延伸成形体、微多孔膜、及び繊維は、優れた強度を有するものとなる。一方で、粘度平均分子量(Mv)が1,000×10
4以下であることにより、溶融流動性、溶媒への溶解性や延伸性等が向上し、加工が容易になる。
【0018】
エチレン重合体の粘度平均分子量(Mv)は、後述する触媒を用い、重合条件等を適宜調整することで調整することができる。重合条件としては、具体的には、重合系に水素を存在させること、及び/又は重合温度を変化させること等によって粘度平均分子量を調節することができる。
【0019】
本実施形態のエチレン重合体の粘度平均分子量(Mv)は、デカリン中にエチレン重合体を異なる濃度で溶解した溶液を用意し、該溶液の135℃における溶液粘度を測定する。このようにして測定された溶液粘度から計算される還元粘度を濃度0に外挿し、極限粘度を求め、求めた極限粘度[η](dL/g)から、以下の数式Aにより算出することができる。より具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0020】
Mv=(5.34×10
4)×[η]
1.49 ・・・数式A
【0021】
(125℃と123℃の等温結晶化時間の比)
等温結晶化時間とは、融点を超える温度でポリマーを一度溶融した後、温度を下げて、ある温度に固定した時の固化時間(結晶化速度)を測定した値のことをいう。具体的には、示差走査熱量計(DSC)を用いて、エチレン重合体を入れたアルミパンを加熱炉に入れ、窒素雰囲気下で50℃、1分間保持した後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温して、180℃にて5分間保持することでエチレン重合体を溶融させる。次に、80℃/minの降温速度で122℃まで降温し、122℃にて保持する。122℃に達した時間を起点(0分)として、結晶化に起因する発熱ピークのピークトップが得られた時間を122℃での等温結晶化時間として測定することができる。続いて、同様に昇温、降温を繰り返して123℃、124℃、125℃の等温結晶化時間を測定する。
【0022】
本実施形態における125℃と123℃の等温結晶化時間の比は、1)50℃で1分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温し;2)180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で122℃まで冷却し;3)122℃で5分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温し;4)180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で123℃まで冷却し;5)123℃で10分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温し、ここで、123℃に達した時間を起点0分として123℃の等温結晶化時間を測定し;6)180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で124℃まで冷却し;7)124℃で15分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温し;8)180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で125℃まで冷却し;9)125℃で30分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温し、ここで、125℃に達した時間を起点0分として125℃の等温結晶化時間を測定する;ことによって、測定される。
すなわち、本実施形態における125℃と123℃の等温結晶化時間の比は、以下の等温結晶化時間測定条件により求められる。
(等温結晶化時間測定条件)
1)50℃で1分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温
2)180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で122℃まで冷却
3)122℃で5分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温
4)180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で123℃まで冷却
5)123℃で10分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温
(123℃に達した時間を起点0分として123℃の等温結晶化時間を測定)
6)180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で124℃まで冷却
7)124℃で15分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温
8)180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で125℃まで冷却
9)125℃で30分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温
(125℃に達した時間を起点0分として125℃の等温結晶化時間を測定)
【0023】
本実施形態のエチレン重合体の125℃と123℃の等温結晶化時間の比は、125℃の等温結晶化時間を123℃の等温結晶化時間で除した値であり、エチレン重合体の融点近傍の温度差における等温結晶化時間の比は、各種成形加工において、その成形品の物性を決める重要な値である。この比が大きいことは、わずかな温度差により結晶化する速度、或いは溶融する速度が大きく変化することを意味し、「結晶化速度の温度応答が早い」、又は、「結晶化速度の温度応答性に優れる」ということもできる。
【0024】
本実施形態のエチレン重合体の125℃と123℃の等温結晶化時間の比は、3.5以上10.0以下であり、好ましく3.7以上9.0以下であり、より好ましくは3.9以上8.0以下である。125℃と123℃の等温結晶化時間の比が3.5以上であることにより、溶融紡糸したときの加工性に優れ、エチレン重合体を含むゲルがノズルから出て冷却される過程で、素早く結晶化が進行し、ゲルが高粘度化するため高速で巻き取ることができ、糸径も安定する傾向にある。また、微多孔膜の製造においても、エチレン重合体を含むゲルがTダイから出て空冷される過程で、ゲルが素早く固化するため、冷却ロールへの添加剤等の付着が少なくなるだけでなく、溶剤の液だれも抑制することができる。また、熱固定時においても、短時間で配向緩和することが可能で、生産速度を上げられるだけでなく、熱収縮も抑制することができ、耐熱性も高くなる傾向にある。さらに、圧縮成形においても短時間で配向緩和でき、温度を少し下げるだけで固化が急速に進むため冷却時間が短縮でき、高速成形が可能となる。一方、125℃と123℃の等温結晶化時間の比が10.0以下であることにより、温度変化に対して結晶化速度の変化が大きすぎず、製膜の安定性に優れる傾向にある。
【0025】
本実施形態のエチレン重合体の125℃の等温結晶化時間は、限定されるものではないが、好ましくは20分以内であり、より好ましくは15分以内であり、さらに好ましくは10分以内である。エチレン重合体の125℃の等温結晶化時間が20分以内であることにより、成形時間を短縮することができ、経済的にも好ましい。
【0026】
本実施形態のエチレン重合体の125℃と123℃の等温結晶化時間の比を3.5以上10.0以下に調整する方法としては、エチレン重合体の製造において、エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したエチレン重合体と共に、エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に排出する連続式重合を行うこと;撹拌を、マックスブレンド翼を用いて回転速度50rpm以下で行うこと;エチレンと水素を気相から供給すること;触媒を10℃±3℃に冷却して導入すること;遠心分離法によってエチレン重合体と溶媒を分離し、乾燥前のエチレン重合体に含まれる溶媒量をエチレン重合体の重量に対して70質量%以下にすること;触媒の失活を、遠心分離法によって溶媒を可能な限り分離した後に実施すること;コモノマー量を0.2mol%以下とすること;等が挙げられる。
【0027】
(結晶化度)
本実施形態のエチレン重合体の示差走査熱量計(DSC)から求められる結晶化度は、40.0%以上75.0%以下であり、好ましくは42.0%以上65.0%以下であり、より好ましくは44.0%以上60.0%以下である。結晶化度が40.0%以上であることにより、微多孔膜の場合、突刺し強度や引張破断強度等の機械強度が高くなり、耐熱性も高くなる傾向にある。また、繊維では弾性率が高く、破断強度の高い糸が得られる。一方、結晶化度が75.0%以下であることにより、柔軟性や耐衝撃性に優れる成形体になる傾向がある。
結晶化度を上記範囲に調整する方法としては、エチレン重合体の分子量、及び分子量分布を制御すること;重合条件により分子鎖の絡み合いを制御すること;エチレン重合体を、エチレンと、他のコモノマーとの共重合体とすること;等が挙げられる。
【0028】
尚、示差走査熱量計(DSC)から求められるエチレン重合体の結晶化度は、50℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で190℃まで昇温、次に190℃で5分間保持後、10℃/minの降温速度で50℃まで降温、次に50℃で5分間保持後10℃/minの昇温速度で190℃まで昇温する条件で測定したピーク面積から求められる吸熱量ΔHm(J/g)から、次式により結晶化度を求めることができる。
結晶化度(%)=ΔHm/ΔH × 100
ここで、ΔHは完全結晶での融解熱量であり、ポリエチレンの場合ΔH=293J/gとして計算することができる。
【0029】
(融点差Tm1−Tm2)
本実施形態のエチレン重合体の示差走査熱量計(DSC)から求められる第1融解ピークの融点(Tm1)と第2融解ピークの融点(Tm2)の差(Tm1−Tm2)は、好ましくは0℃以上10.0℃未満であり、より好ましくは1.0℃以上9.5℃未満であり、さらに好ましくは2.0℃以上9.0℃未満である。第1融解ピークの融点(Tm1)とは、例えば、エチレン重合体がパウダーの状態から溶融するときの融点であり、第2融解ピークの融点(Tm2)とは、一度溶融させて再結晶化したエチレン重合体が再溶融したときの融点である。
Tm1とTm2との差が0℃以上であることにより、高強度で、耐薬品性、耐摩耗性に優れる成形体が得られる傾向にある。一方、Tm1とTm2との差が10.0℃未満であることにより、溶媒に溶解しやすく、加工性に優れ、耐クリープ性に優れる成形体が得られる傾向にある。
尚、示差走査熱量計(DSC)から求められるエチレン重合体の融解ピークの融点は、50℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で190℃まで昇温したところで、第1融解ピークの融点(Tm1)を測定し、次に190℃で5分間保持後、10℃/minの降温速度で50℃まで降温、次に50℃で5分間保持後10℃/minの昇温速度で190℃まで昇温したところで、第2融解ピークの融点(Tm2)を測定する条件により、測定することができる。
本実施形態におけるTm1とTm2との差を0℃以上10.0℃未満とする方法としては、例えば、エチレン及び水素を気相から供給すること;触媒を10℃±3℃に冷却して導入すること;遠心分離法によってエチレン重合体と溶媒を分離し、乾燥前のエチレン重合体に含まれる溶媒量をエチレン重合体の重量に対して70質量%以下にすること;コモノマー量を0.2mol%以下とすること;等が挙げられる。
【0030】
(融解開始温度差)
本実施形態のエチレン重合体の示差走査熱量計(DSC)から求められる第1融解ピークの融解開始温度と第2融解ピークの融解開始温度との差は、好ましくは5.0℃以上であり、より好ましくは6.0℃以上であり、さらに好ましくは7.0℃以上である。第1融解ピークの融解開始温度は、Tm1オンセットともいい、例えば、エチレン重合体がパウダーの状態から溶融を開始する時の温度である。第2融解ピークの融解開始温度は、Tm2オンセットともいい、一度溶融させて再結晶化したエチレン重合体が再溶融を開始する時の温度である。
一般的に第1融解ピークの融解開始温度の方が、第2融解ピークの融解開始温度よりも高くなる傾向にあり、その差は5.0℃未満である。この差が大きくなるということは、パウダー状態のときよりも、一度溶融させて再結晶化することで分子鎖の絡み合いがより多い、又は、分子鎖の絡み合いが解けにくいといえる。そのため、第1融解ピークの融解開始温度と第2融解ピークの融解開始温度との差が5.0℃以上であるエチレン重合体は、分子鎖の絡み合いが多く、当該エチレン重合体を含む微多孔膜は、突刺し強度や引張破断強度等の機械強度が高くなり、耐熱性も高くなる傾向にある。さらに、エチレン重合体パウダーの溶解性も良くなる傾向にある。
また、前記第1融解ピークの融解開始温度と第2融解ピークの融解開始温度との差は、加工性の観点から、好ましくは20.0℃以下であり、より好ましくは15.0℃以下であり、さらに好ましくは12.0℃以下である。
【0031】
尚、示差走査熱量計(DSC)から求められるエチレン重合体の第1融解ピークの融解開始温度及び第2融解ピークの融解開始温度は、50℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で190℃まで昇温するところで第1融解ピークを測定し、次に190℃で5分間保持後、10℃/minの降温速度で50℃まで降温、次に50℃で5分間保持後10℃/minの昇温速度で190℃まで昇温するところで第2融解ピークを測定する条件によって測定することができる。
【0032】
(TiとAlの総含有量)
本実施形態のエチレン重合体のチタン(Ti)とアルミニウム(Al)の総含有量は、好ましくは1.0ppm以上30.0ppm以下であり、より好ましくは1.1ppm以上20.0ppm以下であり、さらに好ましくは1.2ppm以上10.0ppm以下である。TiとAlの総含有量とは、主に触媒残渣の量のことをいう。
【0033】
TiとAlの総含有量が1.0ppm以上であることにより、125℃と123℃の等温結晶化時間の比が大きくなる。一般的に、エチレン重合体は、結晶核剤によって結晶速度を制御するのが困難であり、触媒失活により生成する微量のTi変性物とAl変性物が存在することで、125℃と123℃の等温結晶化時間の比が大きくなる傾向にある。
一方、TiとAlの総含有量が30.0ppm以下であることにより、着色の少ないエチレン重合体となり、成形した場合には、エチレン重合体の劣化が抑制されて、脆化や変色、機械的物性の低下等が起こりにくくなり、長期安定性により優れるものとなる傾向にある。
【0034】
本実施形態のエチレン重合体のTiとAlの総含有量は、単位触媒あたりのエチレン重合体の生産性により制御することが可能である。エチレン重合体の生産性は、製造する際の反応器の重合温度、重合圧力、スラリー濃度により制御することが可能である。つまり、本実施形態のエチレン重合体の生産性を高くする方法としては、例えば、重合温度を高くすること;重合圧力を高くすること;及びスラリー濃度を高くすること;等が挙げられる。使用する触媒としては、特に限定されず、一般的なチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用することができるが、後述する触媒を使用することが好ましい。さらに、遠心分離法によってポリエチレンパウダーと溶媒とを分離し、乾燥前のポリエチレンパウダーに含まれる溶媒量をポリエチレンパウダーの重量に対して70質量%以下にすること;触媒の失活を遠心分離法によって溶媒を可能な限り分離した後に実施すること;エチレン重合体パウダーを水、又は弱酸性水溶液で洗浄すること;等の方法によって、TiとAlをエチレン重合体パウダーから除去することもできる。
尚、TiとAlの総含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
(塩素含有量)
本実施形態のエチレン重合体の塩素含有量は、エチレン重合体全量に対して、好ましくは30ppm以下であり、より好ましくは20ppm以下であり、さらに好ましくは10ppm以下である。
また、塩素含有量の下限は、特に限定されないが、少ないほど好ましく、より好ましくは0ppmである。
塩素含有量が30ppm以下であると、エチレン重合体の劣化が抑制されて脆化や変色、機械的物性の低下等が起こりにくくなり、エチレン重合体は長期安定性により優れる。また、塩素含有量が30ppm以下であることは、成形加工時のロールや金型等の腐食起こりにくくし、腐食成分が被接触物を汚染することも抑制できる。
【0036】
本実施形態のエチレン重合体の塩素含有量は、単位触媒あたりのポリオレフィンの生産性を調整することにより制御することができる。
エチレン重合体の生産性は、製造する際の反応器の重合温度や重合圧力やスラリー濃度により制御することができる。つまり、本実施形態で用いるエチレン重合体の生産性を高くする方法としては、例えば、重合温度を高くすること;重合圧力を高くすること;及びスラリー濃度を高くすること;等が挙げられる。また、塩素を含む成分の量が少ない触媒を使用することにより、エチレン重合体の塩素含有量を低減することもできる。
【0037】
使用する触媒としては、特に限定されず、一般的なチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用することができるが、塩素含有量を低減する観点から、後述するメタロセン触媒を使用することが好ましい。
なお、塩素含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0038】
(ヘキサンで抽出される炭素数16と炭素数18の炭化水素成分の合計含有量)
本実施形態のエチレン重合体に含まれる、ヘキサンで抽出される炭素数16と炭素数18の炭化水素成分の合計含有量は、好ましくは200ppm以下であり、より好ましくは160ppm以下であり、さらに好ましくは120ppm以下である。ヘキサンで抽出される炭素数16と炭素数18の炭化水素成分の合計含有量が200ppm以下であることにより、125℃と123℃の等温結晶化時間の比が小さくなる傾向にある。さらに、エチレン重合体は、可塑化されにくく、分子鎖の運動が拘束されるため、強度や耐熱性が向上する傾向にある。
また、ヘキサンで抽出される炭素数16と炭素数18の炭化水素成分の合計含有量の下限は、特に限定されないが、少ないほど好ましく、より好ましくは0ppmである。
【0039】
ヘキサンで抽出される炭素数16と炭素数18の炭化水素成分の合計含有量が200ppm以下のエチレン重合体を得る方法としては、例えば、エチレン重合体の製造において、炭素数16と炭素数18の炭化水素成分が生成し難い触媒を使用すること;エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したエチレン重合体と共にエチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に排出する連続式重合にすること;撹拌を、マックスブレンド翼を用いて回転速度50rpm以下で行うこと;重合溶媒として炭素数が6以上10以下の炭化水素媒体を使用すること;エチレンと水素を気相から供給すること;触媒を10℃±3℃に冷却して導入すること;遠心分離法によってエチレン重合体と溶媒を分離し、乾燥前のエチレン重合体に含まれる溶媒量をエチレン重合体の重量に対して70質量%以下にすること;触媒の失活を、遠心分離法によって溶媒を可能な限り分離した後に実施すること;等が挙げられる。
【0040】
尚、ヘキサンで抽出される炭素数16と炭素数18の炭化水素成分の合計含有量は、エチレン重合体から抽出された成分をガスクロマトグラフィーによって測定し、標準物質の炭素数16と炭素数18に重なるピークより求めることができる。
【0041】
[エチレン重合体の製造方法]
本実施形態のエチレン重合体の製造方法における重合法としては、以下に限定されないが、例えば、スラリー重合法、気相重合法、溶液重合法等により、エチレン、又はエチレンを含む単量体を(共)重合させる方法が挙げられる。このなかでも、重合熱を効率的に除熱できるスラリー重合法が好ましい。スラリー重合法においては、媒体として不活性炭化水素媒体を用いることができ、さらにオレフィン自身を媒体として用いることもできる。
【0042】
上記不活性炭化水素媒体としては、特に限定されないが、具体例としては、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチルクロライド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;及び、これらの混合物等を挙げることができる。
【0043】
本実施形態では、炭素数が6以上かつ10以下の不活性炭化水素媒体を用いることが好ましい。炭素数が6以上であれば、エチレン重合時の副反応や、エチレン重合体の劣化によって生じる低分子量成分が、比較的溶解しやすく、エチレン重合体と重合媒体とを分離する工程で除去を容易にできる。エチレン重合体中の低分子量成分を低減することで、125℃と123℃の等温結晶化時間の比を、3.5以上10.0以下に調整することが可能となる。一方、炭素数が10以下であれば、反応槽へのエチレン重合体の付着等が抑制されて、工業的に安定的な運転が行える傾向にある。
【0044】
本実施形態のエチレン重合体の製造方法における重合温度は、通常、30℃以上100℃以下が好ましく、35℃以上95℃以下がより好ましく、40℃以上90℃以下がさらに好ましい。重合温度が30℃以上であれば、工業的に効率的な製造が行える傾向にある。一方、重合温度が100℃以下であれば、連続的に安定的な運転が行える傾向にある。
【0045】
本実施形態において、エチレン重合体の製造方法における重合圧力は、通常、常圧以上2.0MPa以下が好ましく、より好ましくは0.1MPa以上1.5MPa以下、さらに好ましくは0.1MPa以上1.0MPa以下である。
【0046】
重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法でも行なうことができ、中でも、連続式で重合することが好ましい。エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したエチレン重合体パウダーと共にエチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に排出することで、急激なエチレンの反応による部分的な高温状態を抑制することが可能となり、重合系内がより安定化する傾向にある。系内が均一な状態でエチレンが重合すると、エチレン重合体の等温結晶化時間も均一化されるので、結晶化速度の温度応答も早くなる傾向にある。
【0047】
本実施形態のエチレン重合体の製造方法においては、重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行なうことが好ましい。
重合反応器の撹拌翼は、種々の撹拌翼から選択することができるが、マックスブレンド翼を使用することが好ましい。マックスブレンド翼を使用することで、重合系内がより均一化される傾向にある。撹拌翼の回転速度は、好ましくは50rpm以下であり、より好ましくは48rpm以下であり、さらに好ましくは46rpm以下である。撹拌効率の高いマックスブレンド翼を用いて50rpm以下で撹拌することにより、重合系内がより均一化される。また、エチレン重合体パウダーが粉砕されることなく重合することができ、パウダー毎に特性が変化することなく製造することができる。
【0048】
本実施形態のエチレン重合体の製造に使用される触媒成分としては、例えば、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒、フィリップス触媒等を好適に挙げることができる。チーグラー・ナッタ触媒としては、特許第5767202号明細書に記載のものを好適に使用することができ、メタロセン触媒としては、以下に限定されないが、例えば、特開2006−273977号公報、及び、特許4868853号に記載のものを好適に使用することができる。また、本実施形態のエチレン重合体の製造に使用される触媒成分には、トリイソブチルアルミニウ、Tebbe試薬等の助触媒が含まれていてもよい。
【0049】
本実施形態において、触媒の平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上20μm以下、より好ましくは0.2μm以上16μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上12μm以下である。平均粒径が0.1μm以上であれば、得られるエチレン重合体粒子の飛散や付着といった問題を防止できる傾向にある。また、10μm以下であると、エチレン重合体粒子が大きくなりすぎて、重合系内で沈降すること、及び、エチレン重合体の後処理工程でのラインの閉塞等の問題を防止できる傾向にある。触媒の粒径分布は可能な限り狭い方が好ましく、篩や遠心分離、サイクロンによって、微粉粒子と粗粉粒子を除去することができる。
【0050】
本実施形態において、触媒の導入温度は、10℃±3℃に冷却して導入することが好ましい。触媒の導入温度を10℃±3℃とすることで、触媒の活性が最も高くなる導入初期の急激な反応を抑制することができ、重合系内がより安定化する傾向にある。
【0051】
エチレン重合体を合成するために使用した触媒の失活方法は、特に限定されないが、エチレン重合体パウダーと溶媒とを分離した後に実施することが好ましい。溶媒と分離した後に触媒を失活させるための薬剤を投入することで、溶媒中に溶解している触媒成分等の析出を抑制することができ、触媒成分由来のTi、Al、塩素等を低減することができる。触媒系を失活させる薬剤としては、以下に限定されないが、例えば、酸素、水、アルコール類、グリコール類、フェノール類、一酸化炭素、二酸化炭素、エーテル類、カルボニル化合物、アルキン類等を挙げることができる。
【0052】
本実施形態において、エチレンガスは重合反応器の上部にある気相へ導入することが好ましい。一般的には、エチレンガスは、重合反応器の底部の液相に導入されるが、エチレン導入ライン出口付近のエチレン濃度が高くなることで、急激なエチレンの反応が起こり、分子量や等温結晶時間の異なるエチレン重合体が生成しやすく、結晶化速度の温度応答が遅くなる。そのため、エチレンガスは気相へ導入することが好ましい。
【0053】
エチレン重合体の分子量の調整は、例えば、西独国特許出願公開第3127133号明細書に記載されているように、重合系に水素を存在させることや、重合温度を変化させること等によって調節することができる。重合系内に連鎖移動剤として水素を添加することにより、分子量を適切な範囲に制御しやすくなる。重合系内に水素を添加する場合、水素のモル分率は、好ましくは0mol%以上30mol%以下、より好ましくは0mol%以上25mol%以下、さらに好ましくは0mol%以上20mol%以下である。
【0054】
また、本実施形態における粘度平均分子量(Mv)や125℃と123℃の等温結晶化時間の比を調節する観点から、エチレンと水素を気相から供給することが好ましい。気相のエチレンに対する水素濃度は、好ましくは1〜10,000ppm、より好ましくは10〜7,000ppm、さらに好ましくは30〜6,000ppmである。
【0055】
本実施形態のエチレン重合体の製造方法における溶媒分離方法は、例えば、デカンテーション法、遠心分離法、フィルター濾過法等によって行うことができ、エチレン重合体と溶媒との分離効率が良い観点から、遠心分離法が好ましい。溶媒分離後にエチレン重合体に含まれる溶媒の量は、特に限定されないが、エチレン重合体の質量に対して、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。エチレン重合体に含まれる溶媒が、少量の状態で溶媒を乾燥除去することにより、溶媒中に含まれるAl、Ti、塩素等の触媒残渣がエチレン重合体中に残存しにくい傾向にあり、さらに低分子量成分も低減することができる。これらの成分が残存しないことにより、125℃と123℃の等温結晶化時間の比を3.5以上10.0以下に調整することが可能となる。
【0056】
本実施形態のエチレン重合体の製造方法における乾燥温度は、通常、好ましくは50℃以上150℃以下、より好ましくは50℃以上140℃以下が、さらに好ましくは50℃以上130℃以下である。乾燥温度が50℃以上であれば、効率的な乾燥が可能である。一方、乾燥温度が150℃以下であれば、エチレン重合体の凝集や熱劣化を抑制した状態で乾燥することが可能である。
【0057】
[添加剤]
本実施形態のエチレン重合体は、上記のような各成分以外にもポリエチレンの製造に有用な他の公知の成分を含むことができる。本実施形態のエチレン重合体は、例えば、さらに、中和剤、酸化防止剤、及び耐光安定剤等の添加剤を含有してもよい。
【0058】
中和剤は、エチレン重合体中に含まれる塩素のキャッチャー、又は成形加工助剤等として使用される。中和剤としては、特に限定されないが、具体的には、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のステアリン酸塩が挙げられる。中和剤の含有量は、特に限定されないが、エチレン重合体全量に対し、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは4,000ppm以下、さらに好ましくは3,000ppm以下である。本実施形態のエチレン重合体がメタロセン触媒を用いてスラリー重合法により得られるエチレン重合体である場合、触媒構成成分中からハロゲン成分を除外することも可能であり、中和剤は使用しなくてもよい。
【0059】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、具体的には、ジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは4,000ppm以下、さらに好ましくは3,000ppm以下である。
【0060】
耐光安定剤としては、特に限定されないが、具体的には、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系耐光安定剤;ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]等のヒンダードアミン系耐光安定剤;等が挙げられる。耐光安定剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは4,000ppm以下、さらに好ましくは3,000ppm以下である。
【0061】
本実施形態のエチレン重合体中に含まれる添加剤の含有量は、エチレン重合体中の添加剤を、テトラヒドロフラン(THF)を用いてソックスレー抽出により6時間抽出し、抽出液を液体クロマトグラフィーにより分離、定量することにより求めることができる。
【0062】
本実施形態のエチレン重合体には、粘度平均分子量や分子量分布等が異なるエチレン重合体をブレンドすることもできるし、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の他の樹脂をブレンドすることもできる。また、本実施形態のエチレン重合体は、パウダー状、またはペレット状であっても好適に使用することができる。
【0063】
[用途]
上記により得られる結晶化速度の温度応答性に優れるエチレン重合体は、種々の加工方法により、種々の用途に応用されることができる。本実施形態のエチレン重合体を含む成形体は、強度や寸法精度に優れ、さらには耐熱性にも優れることから、微多孔膜、又は繊維として好適に用いることができる。このような成形体としては、例えば、二次電池用セパレータ、特にはリチウムイオン二次電池セパレータ、鉛蓄電池セパレータ、高強度繊維等が挙げられる。また、高分子量のエチレン重合体の特性である耐摩耗性、高摺動性、高強度、高衝撃性に優れた特徴を活かし、本実施形態のエチレン重合体は、押出し成形やプレス成形や切削加工等の、ソリッドでの成形により、ギアやロール、カーテンレール、パチンコ球のレール、穀物等の貯蔵サイロの内張りシート、ゴム製品等の摺動付与コーティング、スキー板材及びスキーソール、トラックやシャベルカー等の重機のライニング材に使用することが挙げられる。また、本実施形態のエチレン重合体は、エチレン重合体を焼結して得られる成形体、フィルターや粉塵トラップ材等に使用できる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0065】
〔各種特性及び物性の測定方法〕
(1)粘度平均分子量(Mv)
まず、20mLのデカリン(デカヒドロナフタレン)中にエチレン重合体20mgを加え、150℃で2時間攪拌してポリマーを溶解させた。その溶液を135℃の恒温槽で、ウベローデタイプの粘度計を用いて、標線間の落下時間(t
s)を測定した。同様に、エチレン重合体の重量を変えた3点の溶液を作製し、落下時間を測定した。ブランクとしてエチレン重合体を入れていない、デカリンのみの落下時間(t
b)を測定した。以下の数式Aに従って求めたポリマーの還元粘度(η
sp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)(単位:g/dL)とポリマーの還元粘度(η
sp/C)の直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度([η])を求めた。
η
sp/C=(t
s/t
b−1)/C (単位:dL/g)
次に下記式Aを用いて、上記極限粘度([η])の値を用い、粘度平均分子量(Mv)を算出した。
Mv=(5.34×10
4)×[η]
1.49 ・・・数式A
【0066】
(2)密度
エチレン重合体の密度は、エチレン重合体パウダーのプレスシートから切り出した切片を120℃で1時間アニーリングし、その後25℃で1時間冷却したものを密度測定用サンプルとして用い、JIS K 7112に準じて測定することによって求めた。エチレン重合体パウダーのプレスシートは、縦60mm、横60mm、厚み2mmの金型を用い、ASTM D 1928 Procedure Cに準じて作製した。
【0067】
(3)125℃と123℃の等温結晶化時間の比
等温結晶化時間の測定は、窒素下でDSC(パーキンエルマー社製、商品名:DSC8000)を用いて行なった。8〜10mgのエチレン重合体をアルミニウムパンに挿填し、DSCに設置した。その後、以下の測定条件により123℃と125℃において結晶化に起因する発熱ピークトップが得られた時間を測定し、その時間を等温結晶化時間とした。125℃と123℃の等温結晶化時間の比は、125℃の等温結晶化時間を123℃の等温結晶化時間で除して求めた。
1)50℃で1分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温
2)180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で122℃まで冷却
3)122℃で5分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温
4)180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で123℃まで冷却
5)123℃で10分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温
(123℃に達した時間を起点0分として123℃の等温結晶化時間を測定)
6)180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で124℃まで冷却
7)124℃で15分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温
8)180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で125℃まで冷却
9)125℃で30分間保持後、200℃/minの昇温速度で180℃まで昇温
(125℃に達した時間を起点0分として125℃の等温結晶化時間を測定)
【0068】
(4)結晶化度
結晶化度の測定は、窒素下でDSC(パーキンエルマー社製、商品名:DSC8000)を用いて行なった。8〜10mgのエチレン重合体をアルミニウムパンに挿填し、DSCに設置した。その後、以下の測定条件により、ステップ3の昇温過程におけるピーク面積から求められる吸熱量ΔHm(J/g)から下記数式Bにより結晶化度を求めた。
結晶化度(%)=100×ΔHm/ΔH ・・・数式B
ここでΔHは完全結晶での融解熱量であり、ΔH=293J/gとして計算した。
ステップ1:50℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で190℃まで昇温
ステップ2:190℃で5分間保持後、10℃/minの降温速度で50℃まで降温
ステップ3:50℃で5分間保持後、10℃/minの昇温速度で190℃まで昇温
【0069】
融点差Tm1−Tm2、及び融解開始温度差も、上述した結晶化度における測定条件に準じて測定した。
【0070】
(5)TiとAlの総含有量
エチレン重合体をマイクロウェーブ分解装置(型式ETHOS TC、マイルストーンゼネラル社製)を用い加圧分解し、内部標準法にて、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置、型式Xシリーズ X7、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にて、ポリエチレンパウダー中の金属としてTiとAlの元素濃度を測定した。TiとAlの総含有量は、TiとAlの元素濃度を足した値である。
【0071】
(6)塩素含有量
エチレン重合体を自動試料燃焼装置(三菱化学アナリテック社製 AQF−100)で燃焼後、吸収液(Na
2CO
3とNaHCO
3との混合溶液)に吸収させ、その吸収液をイオンクロマトグラフ装置(ダイオネクス社製、ICS1500、カラム(分離カラム:AS12A、ガードカラム:AG12A)サプレッサー ASRS300)に注入させ塩素含有量を測定した。
【0072】
(7)ヘキサンで抽出される炭素数16と炭素数18の炭化水素成分の合計含有量
エチレン重合体のヘキサンで抽出される炭素数16と炭素数18の炭化水素成分の合計含有量は、エチレン重合体から抽出された成分をガスクロマトグラフィーによって以下のように測定し、標準物質の炭素数16と18に重なるピークより求めた。
エチレン重合体5g、和光純薬社製PCB試験用ヘキサン20mLを100mL容積のSUS製容器中に入れて密閉した。このSUS製容器全体を60℃の湯浴に浸し、50min
−1速度で振とうしながら5時間抽出した後、20℃の水に浸し急冷した。
上澄み液を、0.2μmフィルター(PTFE製)を取り付けたガラスシリンジで濾過し、サンプルとした。炭素数16と18の標準物質は、シグマアルドリッチ社製ASTM D5442 C16−C44 Qualitative Retention Time Mixを和光純薬社製PCB試験用ヘキサンに溶解して標準物質として用いた。
装置:島津GC2014
温度:INJ 300℃;OVEN280℃(インジェクション量:2μL)
カラム:Silicone OV−1、1.1m
キャリアガス:窒素
検出器:FID
【0073】
(8)引取り速度とブロッキング評価
エチレン重合体パウダー100質量部に、酸化防止剤としてn−オクタデシル−3−(4−ヒドロキ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネートを0.2質量部添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、エチレン重合体混合物を得た。得られたエチレン重合体混合物は窒素で置換を行った後に、デカリン(広島和光社製)95部(エチレン重合体混合物5部)を導入してスラリー状液体を調製した。このスラリー状液体を、温度280℃、溶融滞留時間15分に設定した押出機に投入して均一溶液を形成させた。この溶液を180℃に設定した孔径0.7mmの紡糸口金を用いて、単孔吐出量1.1g/分で紡糸した。押し出した溶解物(糸)は、空気流で約1.0mの幅で冷却させながら引き取り、紡糸口金が1.5mの場所に設置したロールに巻き取った。その際の引取り速度とロールに巻き取った糸のブロッキング、すなわち、糸同士の引付きの有無を観察した。
最大引取り速度が60m/min以上であって、糸のブロッキングが無いものを◎とした。
最大引取り速度が50m/min以上60m/min未満であって、糸のブロッキングが無いものを○とした。
最大引取り速度が50m/min未満であって、糸のブロッキングがわずかにあるものを△とした。
最大引取り速度が50m/min未満であって、糸がブロッキングするものを×とした。
【0074】
(9)ロール付着物、及び液だれ評価
エチレン重合体パウダー100質量部に、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.2質量部添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、エチレン重合体混合物を得た。得られたエチレン重合体混合物は窒素で置換を行った後に、流動パラフィン(松村石油(株)製P−350(商標))65部(エチレン重合体混合物35部)を導入してスラリー状液体を調製した。このスラリー状液体を80℃で3時間撹拌した後、温度220℃、溶融滞留時間15分に設定した押出機に投入して均一溶液を形成させた。この溶液を210℃に設定した押出機先端に設置したTダイから押出した後、25℃に冷却したキャストロールで冷却固化させ、厚さ1,000μmのゲル状シートを成形した。その際のキャストロールへの付着状態と、キャストロールからの液だれ状態を観察した。
キャストロールへの付着物が少なく、液だれの無いものを○とした。
キャストロールへの付着物が有り、液だれしたものを×とした。
【0075】
(10)熱収縮率
(9)で得られたゲル状シートを125℃で同時二軸延伸機を用いて8×8倍に延伸した後、金属枠でシートを固定した。この延伸シートをメチルエチルケトンに浸漬し、流動パラフィンを抽出除去後、50℃で乾燥した。続いて125℃に加温した恒温槽に、この延伸シートを2分間投入して熱固定して、微多孔膜を得た。この微多孔膜を100mm×100mm幅でカットし、カットしたものを123℃熱風オーブンに入れて30分間加熱した。元の面積に対する収縮した面積の割合で熱収縮率(%)を求めた。また、収縮後の膜の状態を観察した。
収縮率が1%未満であり、膜状態が良好なものを◎とした。
収縮率が1%以上2%未満であり、膜状態が良好なものを○とした。
収縮率が2%以上であり、膜がわずかに波打っているものを△とした。
膜が波打っているものを×とした。
【0076】
(11)錆試験
エチレン重合体を、JIS K7139に準拠してプレス成形して、100mm×100mm幅、厚み1mmのエチレン重合体シートを作製した。そのエチレン重合体シートを脱脂処理した鉄板(SUS316)に重ねて、200℃で5分間予熱した後に10MPaで10分間、加熱プレスした。次に、このサンプルを温度60℃、湿度90%の恒温恒湿槽に24時間静置した後、エチレン重合体シートを剥がして鉄板上の錆の評価を行った。
錆が全く観察されなかったものを◎とした。
錆の発生は極わずかで、極一部に観察されたものを○とした。
全面に錆びたものを×とした。
【0077】
[参考例]触媒合成例
〔担持型メタロセン触媒成分[A]の調製〕
平均粒子径が8μm、表面積が700m
2/g、粒子内細孔容積が2.1mL/gの球状シリカを、窒素雰囲気下、500℃で5時間焼成し、脱水した。脱水シリカの表面水酸基の量は、SiO
2 1gあたり1.85mmol/gであった。窒素雰囲気下、容量1.8Lのオートクレーブ内で、この脱水シリカ40gをヘキサン800mL中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーを攪拌下50℃に保ちながらトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1mol/L)を80mL加え、その後2時間攪拌し、トリエチルアルミニウムとシリカの表面水酸基とを反応させ、トリエチルアルミニウム処理されたシリカと上澄み液とを含み、該トリエチルアルミニウム処理されたシリカの表面水酸基がトリエチルアルミニウムによりキャッピングされている成分[a]を得た。その後、得られた反応混合物中の上澄み液をデカンテーションによって除去することにより、上澄み液中の未反応のトリエチルアルミニウムを除去した。その後、ヘキサンを適量加え、トリエチルアルミニウム処理されたシリカのヘキサンスラリー880mLを得た。
一方、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム−1,3−ペンタジエン(以下、「チタニウム錯体」と記載する。)200mmolをアイソパーE[エクソンケミカル社(米国)製の炭化水素混合物の商品名]1,000mLに溶解し、予めトリエチルアルミニウムとジブチルマグネシウムより合成した式AlMg
6(C
2H
5)
3(n−C
4H
9)
12の1mol/Lヘキサン溶液を20mL加え、さらにヘキサンを加えてチタニウム錯体濃度を0.1mol/Lに調整し、成分[b]を得た。
また、ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム−トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と記載する。)5.7gをトルエン50mLに添加して溶解し、ボレートの100mmol/Lトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液にエトキシジエチルアルミニウムの1mol/Lヘキサン溶液5mLを室温で加え、さらにヘキサンを加えて溶液中のボレート濃度が70mmol/Lとなるようにした。その後、室温で1時間攪拌し、ボレートを含む反応混合物を得た。
ボレートを含むこの反応混合物46mLを、上記で得られた成分[a]のスラリー800mLに15〜20℃で攪拌しながら加え、ボレートをシリカに担持した。こうして、ボレートを担持したシリカのスラリーが得られた。さらに上記で得られた成分[b]のうち32mLを加え、3時間攪拌し、チタニウム錯体とボレートとを反応させた。こうしてシリカと上澄み液とを含み、触媒活性種が該シリカ上に形成されている担持型メタロセン触媒[A](以下、固体触媒成分[A]ともいう)を得た。
その後、得られた反応混合物中の上澄み液をデカンテーションによって除去することにより、上澄み液中の未反応のトリエチルアルミニウムを除去した。
【0078】
〔固体触媒成分[B]の調製〕
(1)(B−1)担体の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに2mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で攪拌しながら組成式AlMg
5(C
4H
9)
11(OC
4H
9)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液2,550mL(マグネシウム2.68mol相当)を4時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄した。この固体((B−1)担体)を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムが8.31mmolであった。
(2)固体触媒成分[B]の調製
上記(B−1)担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液110mLと1mol/Lの組成式AlMg
5(C
4H
9)
11(OSiH)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液110mLとを同時に1時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1100mL除去し、ヘキサン1,100mLで2回洗浄することにより、固体触媒成分[B]を調製した。この固体触媒成分[B]1g中に含まれるチタン量は0.75mmolであった。
【0079】
[実施例1](エチレン重合体の重合)
ヘキサン、エチレン、水素、触媒を、マックスブレンド攪拌翼が付いたベッセル型300L重合反応器に連続的に供給した。重合圧力は0.8MPaであった。重合温度はジャケット冷却により75℃に保った。ヘキサンは20℃に調整して32L/hrで重合器の底部から供給した。固体触媒成分[A]は、上記溶媒ヘキサンを移送液とし、10℃に調整して0.2g/hrの速度で重合器の底部から添加し、トリイソブチルアルミニウムは20℃に調整して5mmol/hrの速度で重合器の中間から添加し、Tebbe試薬は25℃に調整して0.3μmol/hrの速度で重合器の底部から添加した。エチレンと水素は気相に導入し、水素を、気相のエチレンに対する水素濃度が130ppmになるようにポンプで連続的に供給した。撹拌装置内の撹拌翼の回転数は40rpmとした。エチレン重合体の製造速度は10kg/hrであり、触媒活性は11,000g−PE/g−固体触媒成分[A]であった。重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05Mpa、温度60℃のフラッシュドラムに抜き、未反応のエチレン及び水素を分離した。
次に、重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に遠心分離機に送り、ポリマーとそれ以外の溶媒等を分離した。その時のポリマーに対する溶媒の含有量は45%であった。
分離されたエチレン重合体パウダーは、95℃で窒素ブローしながら乾燥した。なお、この乾燥工程で、重合後のパウダーに対し、スチームを噴霧して、触媒及び助触媒の失活を実施した。得られたエチレン重合体パウダーに対し、ステアリン酸カルシウム(大日化学社製、C60)を1,000ppm添加し、ヘンシェルミキサーを用いて、均一混合した。得られたエチレン重合体パウダーを目開き425μmの篩を用いて、篩を通過しなかったものを除去することで、粘度平均分子量151×10
4g/molのエチレン重合体パウダーを得た。得られたエチレン重合体の物性を表1に示す。また、得られたエチレン重合体の125℃と123℃の等温結晶化時間測定チャートを
図1に示す。
【0080】
[実施例2]
重合工程において、重合温度75℃、重合圧力0.35MPaとし、固体触媒成分[A]の代わりに固体触媒成分[B]を用い、Tebbe試薬は使用せず、トリイソブチルアルミニウムを3mmol/hrとし、水素濃度を4,200ppmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量200×10
4g/molの実施例2のエチレン重合体を得た。得られたエチレン重合体の物性を表1に示す。
【0081】
[実施例3]
重合工程において、重合温度69℃、重合圧力0.40MPaとし、固体触媒成分[A]の代わりに固体触媒成分[B]を用い、Tebbe試薬は使用せず、トリイソブチルアルミニウムを3mmol/hrとし、水素を600ppmとし、1−ブテンをエチレンに対して0.11mol%気相から導入したこと以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量300×10
4g/mol、エチレン重合体中の1−ブテン含有量が0.03mol%の実施例3のエチレン重合体を得た。得られたエチレン重合体の物性を表1に示す。
【0082】
[実施例4]
重合工程において、重合温度66℃、重合圧力0.35MPaとし、固体触媒成分[A]の代わりに固体触媒成分[B]を用い、Tebbe試薬は使用せず、トリイソブチルアルミニウムを3mmol/hrとし、水素を100ppmとし、1−ブテンをエチレンに対して0.10mol%気相から導入したこと以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量600×10
4g/mol、エチレン重合体中の1−ブテン含有量が0.03mol%実施例4のエチレン重合体を得た。得られたエチレン重合体の物性を表1に示す。
【0083】
[実施例5]
重合工程において、Tebbe試薬を5.0μmol/hrとし、水素濃度を75ppmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量750×10
4g/molの実施例5のエチレン重合体を得た。得られたエチレン重合体の物性を表1に示す。
【0084】
[実施例6]
重合工程において、Tebbe試薬を3.5μmol/hrとし、水素濃度を80ppmとし、1−ブテンをエチレンに対して0.06mol%気相から導入したこと以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量750×10
4g/mol、エチレン重合体中の1−ブテン含有量が0.06mol%の実施例6のエチレン重合体を得た。得られたエチレン重合体の物性を表1に示す。
【0085】
[比較例1]
重合工程において、重合温度83℃、重合圧力0.5MPaとし、固体触媒成分[A]の代わりに固体触媒成分[B]を用い、Tebbe試薬は使用せず、水素濃度を190ppmとしたこと以外は実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量60×10
4g/molの比較例1のエチレン重合体を得た。得られたエチレン重合体の物性を表1に示す。
【0086】
[比較例2]
重合工程において、重合温度65℃、重合圧力0.2MPaとし、固体触媒成分[A]の代わりに固体触媒成分[B]を用い、Tebbe試薬と水素は使用せず、1−ブテンをエチレンに対して6.5mol%気相から導入したこと以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量380×10
4g/mol、エチレン重合体中の1−ブテン含有量が0.4mol%の比較例2のエチレン重合体を得た。得られたエチレン重合体の物性を表1に示す。比較例2のエチレン重合体は、125℃では30分以内に結晶化に起因する発熱ピークのピークトップが現れなかった。
【0087】
[比較例3]
重合工程において、Tebbe試薬を3.5μmol/hrとし、水素濃度を80ppmとし、1−ブテンをエチレンに対して0.16mol%導入したこと以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量550×10
4g/mol、エチレン重合体中の1−ブテン含有量が0.14mol%の比較例3のエチレン重合体を得た。得られたエチレン重合体の物性を表1に示す。
【0088】
[比較例4]
重合工程において、重合温度55℃、重合圧力0.3MPaとし、固体触媒成分[A]の代わりに固体触媒成分[B]を用い、Tebbe試薬と水素を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量1,050×10
4g/molの比較例4のエチレン重合体を得た。得られたエチレン重合体の物性を表1に示す。比較例4のエチレン重合体は、125℃では30分以内に結晶化に起因する発熱ピークのピークトップが現れなかった。
【0089】
[比較例5]
ヘキサン、エチレン、水素、触媒を、錨形攪拌翼が付いたベッセル型300L重合反応器に連続的に供給した。重合圧力は0.4MPaであった。重合温度はジャケット冷却により69℃に保った。ヘキサンは20℃に調整して32L/hrで重合器の底部から供給した。担持型メタロセン触媒成分[A]は、上記溶媒ヘキサンを移送液とし、20℃に調整して0.2g/hrの速度で重合器の底部から添加し、トリイソブチルアルミニウムは20℃に調整して3mmol/hrの速度で重合器の底部から添加し、Tebbe試薬は20℃に調整して0.3μmol/hrの速度で重合器の底部から添加した。エチレンと水素は液相の重合器の底部から導入し、水素を、エチレンに対する水素濃度が600ppm、1−ブテンをエチレンに対して0.11mol%気相からポンプで連続的に供給した。撹拌装置内の撹拌翼回転数は100rpmとした。エチレン重合体の製造速度は10kg/hrであり、触媒活性は11,000g−PE/g−固体触媒成分[A]であった。重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05Mpa、温度60℃のフラッシュドラムに抜き、未反応のエチレン及び水素を分離した。
次に、得られた重合スラリーに少量のメタノールを添加して触媒を失活させた後、濾過することで溶剤を除去した。濾過後のポリマーに対する溶媒等の含有量は195%であった。
分離濾過されたエチレン重合体パウダーは、95℃で窒素ブローしながら乾燥した。その後は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量300×10
4g/mol、エチレン重合体中の1−ブテン含有量が0.03mol%の比較例5のエチレン重合体を得た。得られたエチレン重合体の物性を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
本発明のエチレン重合体は、結晶化速度の温度応答が早いため、樹脂粘度が素早く上昇することで、速く引っ張っても糸径が小さくなり過ぎなかったり、糸が切れなかったりするので、引取り速度を上げることが可能である。
また、本発明のエチレン重合体は、結晶化速度の温度応答が早いため、樹脂固化速度が速く、短時間で粘着性が下がり、糸同士の引付き(ブロッキング)が防止される。
さらに、本発明のエチレン重合体は、結晶化速度の温度応答が早いため、Tダイから樹脂が押し出された後すぐに樹脂粘度が上昇し、溶媒が保持されやすく、冷却ロールで圧力がかかっても溶媒が染み出る割合が少なく、ロール付着物や液だれが抑制される。
以上のように、本発明のエチレン重合体は、効率よく、且つ、問題なく生産及び加工することができ、加工性及び生産安定性に優れる。
【0092】
本出願は、2017年2月3日出願の日本特許出願(特願2017−018676号)に基づくものであり、それらの内容はここに参照として取り込まれる。
以下であり、特定の等温結晶化時間測定条件により求められる、125℃と123℃の等温結晶化時間の比が、3.5以上10.0以下であり、示差走査熱量計(DSC)から求められる結晶化度が、40%以上75%以下である、エチレン重合体を提供する。