(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366900
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】インジェクタのための閉止ボルト
(51)【国際特許分類】
F02M 55/02 20060101AFI20180723BHJP
F02M 55/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
F02M55/02 330B
F02M55/02 360A
F02M55/00 D
F02M55/00 C
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-97363(P2013-97363)
(22)【出願日】2013年5月7日
(65)【公開番号】特開2013-234661(P2013-234661A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2016年4月12日
(31)【優先権主張番号】548/2012
(32)【優先日】2012年5月8日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン グラスペウントナー
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン パセダッハ
【審査官】
堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−297947(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0271935(US,A1)
【文献】
特開平06−033847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モジュール形式のコモンレール燃料噴射システムのインジェクタのための閉止ボルト(5)であって、
高圧燃料のための少なくとも1つの高圧接続部(20)と、開口部(3)を高圧密に閉止するために円錐状の第1の封止面(6)を備える、インジェクタの開口部(3)に挿入可能なボルト状の区域(4)とを含んでおり、
前記ボルト状の区域(4)は、高圧接続部(20)と油圧接続された、前記インジェクタに連通する高圧穴(11)を有しており、さらに、前記インジェクタに送出される燃料量を制限するための流量制限部(16)を含んでいる、そのような閉止ボルト(5)において、
前記ボルト状の区域(4)は挿入体(24)を有しており、該挿入体に流量制限部(16)が構成されており、該挿入体は前記第1の封止面(6)を有し、
前記挿入体(24)は、前記ボルト状の区域(4)の対応面と協働作用して封止力を生成する、円錐状の第2の封止面(26)を備える肩部(25)を有していて、
前記肩部(25)の前記円錐状の第2の封止面(26)に軸方向において前記第1の封止面(6)から離れる方向に後続する前記挿入体(24)の軸方向区域(23)は前記ボルト状の区域(4)の収容穴(22)に収容されていて、
前記流量制限部(16)は少なくとも部分的に、前記収容穴(22)に収容されている前記挿入体(24)の前記軸方向区域(23)に配置されていることを特徴とする閉止ボルト。
【請求項2】
前記挿入体(24)の前記軸方向区域(23)は、外側と内側から高圧燃料の圧力により付勢可能であるように、前記収容穴(22)に収容されていることを特徴とする、請求項1に記載の閉止ボルト。
【請求項3】
前記収容穴(22)は前記高圧穴(11)への移行部に、前記閉止部材のための、特に前記流量制限部(16)のボール(15)のための、環状の載置面(28)を有していることを特徴とする、請求項1または2に記載の閉止ボルト。
【請求項4】
前記高圧穴(11)は前記挿入体(24)に構成された絞り部(13)を介して前記インジェクタに連通していることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の閉止ボルト。
【請求項5】
前記挿入体(24)には棒状フィルタ(19)が配置されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の閉止ボルト。
【請求項6】
コモンレール燃料噴射システムのインジェクタにおいて、インジェクタ体(1)に組み込まれた高圧リザーバ(2)を含んでおり、該高圧リザーバは請求項1から5のいずれか1項に記載の閉止ボルト(5)により閉止されるインジェクタ。
【請求項7】
前記閉止ボルト(5)と前記インジェクタ体(1)はクランプナット(7)により相互に結合されていることを特徴とする、請求項6に記載のインジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モジュール形式のコモンレール燃料噴射システムのインジェクタのための閉止ボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
モジュール形式のコモンレールシステムは、システムに存在するリザーバ容量の一部が、インジェクタそのものに存在しているという特徴がある。モジュール形式のコモンレールシステムは、状況によっては個々のインジェクタが著しい相互間隔をおいて取り付けられる、特に大型のエンジンで適用される。すべてのインジェクタについて1つのコモンレールを単独で使用することは、このようなエンジンの場合には有意義ではない。配管が長くなるために、噴射中に噴射圧の大幅な落ち込みが生じることになり、そのため、噴射時間が長くなると噴射率が顕著に落ち込むことになるからである。したがって、このようなエンジンでは、各々のインジェクタの内部に高圧リザーバを配置することが意図される。このような設計形態が、モジュール形式の構造と呼ばれる。それぞれ個々のインジェクタが独自の高圧リザーバを備えており、したがって、独立したモジュールとして利用することができるからである。このとき高圧リザーバとは通常の配管を意味するのではなく、供給配管ないし排出配管を備える耐圧容器のことであり、その直径は高圧配管と比べて明らかに拡張されており、それは高圧リザーバから、すぐに圧力降下を生じることなしに、ある程度の噴射量を放出できるようにするためである。
【0003】
モジュール形式のコモンレールシステムのインジェクタは、高圧燃料を高圧ポンプから供給され、この供給は多くの場合、高圧リザーバの上面でインジェクタの開口部を介して行われる(いわゆるトップフィード)。高圧燃料を案内する高圧配管とインジェクタとの接続は、高圧接続部を備える閉止ボルトを介して行われ、この閉止ボルトは、開口部を高圧密に閉止するための特に円錐状の封止面を備える、インジェクタの開口部に挿入可能な区域を有している。それにより、一体化された高圧リザーバの容積部が密封される。閉止ボルトは、通常、隣接するインジェクタのための燃料を導通するという機能もさらに有しており、この目的のために、第2の高圧接続部が設けられている。
【0004】
閉止ボルトには、流量が多すぎるときにインジェクタを高圧燃料流入部から分断する流量制限部が組み込まれている。
【0005】
製造技術上の理由により、従来技術に基づく施工形態では、閉止ボルトは軸方向に連続する高圧穴を有しており、その中に高圧接続部が半径方向で連通しており、高圧接続部を介して高圧燃料が高圧リザーバの中へ送られる。軸方向の高圧穴は、外部に向かっては閉止ねじにより密封される。
【0006】
上述した閉止ボルトの構成における欠点は、その内側輪郭がジオメトリーの関係上、長さ全体にわたって高圧燃料の圧力全体で付勢されるために、幾何学的な構成と起伏に関して高い品質が必要とされるが、製造時にそれを実現するのが難しいことである。特に、製作するのが難しい流量制限部のジオメトリーが問題となる。その帰結として、1600バールを超えるシステム圧力での耐久性の高い設計は不可能になってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、上に説明した欠点を回避することにある。さらに本発明の課題は、いっそう容易に製作することができ、流量制限部の閉止量を簡単な方法でそのつどの必要性に合わせて適合化することができる設計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、高圧燃料のための少なくとも1つの高圧接続部と、開口部を高圧密に閉止するために特に円錐状の第1の封止面を備える、インジェクタの開口部に挿入可能なボルト状の区域とを含んでおり、ボルト状の区域は、高圧接続部と油圧接続された、インジェクタに連通する高圧穴を有しており、さらに、インジェクタに送出される燃料量を制限するための流量制限部を含んでいる、冒頭に述べた種類の閉止ボルトは、本発明によると実質的に、ボルト状の区域が挿入体を有しており、該挿入体に流量制限部が構成されており、該挿入体は第1の封止面を有するように構成されている。このように、閉止ボルトのボルト状の区域は少なくとも2部分で構成されており、挿入体は高圧リザーバのほうを向いており、第1の封止面によって高圧リザーバの密封を保証する。流量制限部がこのような挿入体に配置されることにより、製作するのが難しい流量制限部のジオメトリーが挿入体だけに限定されるので、閉止ボルトの本体をはるかに容易に製作することができる。特に、高圧で付勢される本体のジオメトリーを、製造技術上の難点なしに、適切な半径と表面で施工することができる。さらに2部分からなる施工形態は、閉止ボルトの高圧穴が閉止ボルト全体にわたって延びていなくてよいという帰結につながるので、閉止ねじの挿入を省略することができ、それによって無許可の者による不正操作の危険が少なくなる。さらに別の利点は、本体は同じままで挿入体を簡単な方法で交換することができるので、流量制限部の設計が異なる複数の挿入体を準備しておくことで、流量制限部の閉止量の簡単な適合化が行えることにある。
【0009】
挿入体は、本体と結合させるために、独自の結合手段を備えている必要はない。むしろ1つの好ましい構成は、本体とインジェクタ体とのねじ止めが、同時に、挿入体のための所要の保持力を提供することを意図している。この目的のために、この構成は、挿入体が、ボルト状の区域の対応面と協働作用する、特に円錐状の第2の封止面を備える肩部を有するように行われるのが好ましい。そうすれば閉止ボルトのねじ込みプロセスが両方の封止面で、すなわちインジェクタ体と挿入体の間で作用する第1の封止面と、挿入体と閉止ボルトないしボルト状の区域の本体との間で作用する第2の封止面とで、所要の封止力を同時に印加する。第1および/または第2の封止面は、円錐状ないしテーパ状に構成されているのが好ましい。
【0010】
特に肩部に後続する挿入体の軸方向区域は、ボルト状の区域の収容穴に収容されているのが好ましい。この軸方向区域に、流量制限部を少なくとも部分的に配置することができるのが特別に好ましく、それによって高い耐久性を実現することができる。これは特に、1つの好ましい発展例に相当するように、挿入体の軸方向区域が、外側と内側から高圧燃料の圧力により付勢可能であるように、収容穴に収容されている場合である。それにより、実質的にわずかな程度しか圧力振動を受けることがない圧力補償領域が創出される。特に、流量制限部に作用する圧力衝撃が最低限に抑えられる。圧力補償領域では、製作するのが難しい流量制限部のジオメトリーを、耐圧性を損なうことなく、容易に具体化することができる。圧力補償領域を実現するために、収容穴に収容される挿入体の区域は、少なくともその前側領域で、高圧リザーバのほうを向く後側領域に比べてわずかに小さい外径を有するように構成される。さらに挿入体は、その端面と収容穴の底面との間に間隙が残るように構成され、それにより、挿入体を圧力補償領域で外側から高圧燃料により付勢することができる。
【0011】
さらに1つの好ましい発展例では、収容穴は高圧穴への移行部に、閉止部材のための、特に流量制限部のボールのための、環状の載置面を有していることが意図される。
【0012】
内燃機関の燃焼室へ燃料が噴射されている間に、高圧リザーバへの燃料の追加流を可能にするために、および、個々のインジェクタの噴射圧または噴射量の相互の影響を防ぐために、高圧穴は、挿入体に構成された絞り部を介して、インジェクタに連通することが意図されるのが好ましい。挿入体への絞り部の配置は、そのつどの必要性に合わせた絞り断面の適合化を、挿入体の交換によって簡単な仕方で行えるという利点をもたらし、そのために閉止ボルト全体を取り換える必要がない。
【0013】
挿入体には、燃料に由来する大きな粒子を抑留する棒状フィルタが配置されているのが好ましい。
【0014】
次に、図面に模式的に示されている実施例を参照しながら、本発明について詳しく説明する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1には、高圧リザーバ2が組み込まれたインジェクタ体1の端部区域が示されている。高圧リザーバ2を格納する部分は、保持体とも呼ばれることがある。インジェクタ体または保持体1は、高圧リザーバ2へと通じる開口部3を有しており、閉止ボルト5のボルト状の区域4がこの開口部に挿入されている。ボルト状の区域4は、高圧リザーバ2のほうを向く端面に、開口部3の縁部にある対応する対応面と協働作用する円錐状の封止面6を有している。所要の保持力はクランプナット7により印加され、このクランプナットはその雌ねじにより、インジェクタ体1および閉止ボルト5の軸方向で互いに連続する雄ねじと協働作用する。閉止ボルト5の肩部8と、インジェクタ体1の環状端面9との間には、二重の嵌め合いを回避するために、間隙10が設けられている。
【0017】
さらに、閉止ボルト5を軸方向に貫通する高圧穴11が設けられており、この高圧穴は、一方の側で閉止ねじ12により閉止されるとともに、他方の側では絞り部13を介して高圧リザーバ2と接続されている。閉止ねじ12は、流量制限部16のボール15を支持する中央の延長部14を有している。ボール15は、コイルばね17により、延長部14の方向に付勢される。流量制限部16の弁座には符号18が付されている。流量制限部16の機能は次のとおりである。コモンレールシステムでは、不都合な状況のもとでは、配管系であれ噴射弁の不具合によってであれ、漏れが発生する可能性がある。燃焼室への連続噴射を生じさせるクランプ式のノズルニードルを備える噴射弁は、著しい損傷を引き起こす可能性がある。このような損傷は、車両の発火やエンジンの破損につながりかねない。閉止機能をもつ流量制限部は、このような危険を回避する役目を果たすものであり、高圧リザーバからの最大の取出量を超過すると、該当するインジェクタへの流入部を閉止し、それによって噴射ポンプ側の高圧を噴射弁側から切り離す。
【0018】
図1に示す構成では、ボール15は高圧穴11の中でストッパ(延長部14)に対して押圧され、噴射中に生じる流れにより、環流されるときの圧力差に基づいてボールが封止座面18の方向へ動く。最大の噴射量を超過すると、ボール15が座面18に入り、インジェクタへのそれ以上の流れを妨げ、それによって連続噴射が妨げられる。
【0019】
さらに高圧穴11には、棒状フィルタ19が配置されている。高圧穴11には、高圧接続部20を備える半径方向の配管が連通している。高圧接続部20には、詳しくは図示しない配管が接続されており、この配管を介して、図示しない高圧ポンプから高圧燃料の供給が行われる。閉止ボルト5はさらに別の高圧接続部21を有しており、これを介して、後続するインジェクタへの接続を成立させることができる。
【0020】
図1に示す構成では、高圧穴11は作動時に高圧燃料の圧力で付勢され、このことは、1600バールを上回るシステム圧力の場合、流量制限部を構成するのに必要な半径等のジオメトリーの領域で、許容されない動的負荷につながる。
【0021】
図2に示す本発明の構成では、同じ部品については
図1と同じ符号が使われている。閉止ボルト5のボルト状の区域4は収容穴22を有しており、その中に挿入体24の軸方向区域23が収容されている。挿入体24は高圧穴11の中に、流量制限部16、棒状フィルタ19、および絞り部13を有している。挿入体24は肩部25を有しており、これに円錐状の封止面26が構成されており、この封止面がボルト状の区域4の円錐状の対応面と協働作用する。その帰結として、クランプナット7による閉止ボルト5のねじ止めが、同時に、封止面6および封止面26における封止力を生成する。
【0022】
軸方向区域23の端面は、高圧穴11への収容穴22の移行部に設けられた環状の載置面28の手前で間隔をおいて終わっている。さらに、収容穴22に収容されている軸方向区域23は、その前側領域27で、小さくなった外径を有するように構成されており、その結果、それにより軸方向区域23の前側領域27の外側円周と収容穴22との間に生じる環状隙間で、高圧燃料の圧力が外側から流量制限部16に作用することができる。このことは、流量制限部16の圧力補償領域を生じさせ、その結果として振動負荷が低減される。
【符号の説明】
【0023】
1 インジェクタ体
4 ボルト状の区域
5 閉止ボルト
6 第1の封止面
11 高圧穴
16 流量制限部
20 高圧接続部
22 収容穴
23 軸方向区域
24 挿入体
26 第2の封止面