特許第6366953号(P6366953)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366953
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】不定形耐火物の流し込み施工方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20180723BHJP
   F27D 1/16 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C04B35/66
   F27D1/16 F
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-30927(P2014-30927)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-155358(P2015-155358A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年9月1日
【審判番号】不服2017-12050(P2017-12050/J1)
【審判請求日】2017年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西上 泰総
【合議体】
【審判長】 新居田 知生
【審判官】 豊永 茂弘
【審判官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−268031(JP,A)
【文献】 特開2009−96658(JP,A)
【文献】 特開平9−188553(JP,A)
【文献】 特開2012−117254(JP,A)
【文献】 特開昭64−56381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/66
F27D 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料配合物と水とを混練してなる不定形耐火物の流し込み施工方法において、
混練後の不定形耐火物の温度が35℃のときに、流し込み施工時間の2倍以上の可使時間となるように硬化調整剤を添加した不定形耐火物を施工領域に流し込む流し込み工程と、
前記流し込み工程により流し込まれた不定形耐火物に対してマイクロ波を照射して養生する養生工程と、
を含む不定形耐火物の流し込み施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不定形耐火物の流し込み施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不定形耐火物を流し込み施工する際の問題点として、施工途中での硬化や硬化遅延などの硬化トラブルが知られている。この硬化トラブルの原因としては、可使時間が施工時の気温に左右されてしまうことが挙げられる。可使時間とは、原料配合物と水とを混練してから可塑性がなくなるまでの時間のことをいう。
【0003】
そこで、硬化調整剤を使用することで可使時間の調整を行っている(例えば特許文献1)。例えば、夏場では気温が高く材料が早く硬化してしまうことが懸念されるため、硬化遅延剤を添加する。一方、冬場では気温が低く材料が所定時間内に硬化しないことが懸念されるため、硬化促進剤を添加する。
【0004】
しかし、硬化調整剤を用いても、環境条件の変化に左右されて安定な施工ができない場合がある。例えば、急激な気温変動が起こり、出荷検定時の温度と大きく異なる場合、出荷時に設定した可使時間と施工時の可使時間に差が生じるため、硬化トラブルが生じて安定な施工ができない問題がある。また、硬化調整剤の添加量のわずかな違いで硬化トラブルが生じて安定な施工ができない問題もある。
【0005】
また、不定形耐火物の施工は、養生工程、乾燥工程を経て行われる。養生工程において、短時間で養生強度を発現することができれば、乾燥工程までの時間を短縮することができる。このため、養生工程において、養生強度を短時間で発現する要望があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−76056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、硬化トラブルの解消を図り、かつ、短時間で養生強度を発現することができる不定形耐火物の流し込み施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、流し込み施工時間に対して十分長い可使時間となるように硬化調整剤の添加量を調整することで施工途中での硬化を防止し、かつ、養生時にマイクロ波照射を行うことで、可使時間を長くしたことによる硬化遅延を防止するようにすれば、硬化トラブルの解消を図ることができ、しかも短時間で養生強度を発現できるという知見を得た。
【0009】
すなわち、本発明の一観点によれば、原料配合物と水とを混練してなる不定形耐火物の流し込み施工方法において、混練後の不定形耐火物の温度が35℃のときに、流し込み施工時間の2倍以上の可使時間となるように硬化調整剤を添加した不定形耐火物を施工領域に流し込む流し込み工程と、前記流し込み工程により流し込まれた不定形耐火物に対してマイクロ波を照射して養生する養生工程と、を含む不定形耐火物の流し込み施工方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、混練後の不定形耐火物の温度が35℃のときに、流し込み施工時間の2倍以上の可使時間となるように硬化調整剤を添加した不定形耐火物を用いて流し込み施工を行う。このように流し込み施工時間に対して十分に長い可使時間を確保しておくことで、外気温等の環境条件が変わったとしても、流し込み施工途中(流し込み作業途中)で不定形耐火物が硬化するトラブルを未然に防止することができる。
【0011】
例えば、夏場では、不定形耐火物の温度が35℃以上になる場合がある。このとき、温度上昇に伴って、不定形耐火物が流し込み施工途中に硬化する懸念がある。これに対して、不定形耐火物の温度が35℃のときに、流し込み施工時間に対して2倍以上の可使時間であれば、流し込み施工時間に対して可使時間は十分長い。このため、夏場において、流し込み施工途中における不定形耐火物の硬化トラブルを防ぐことができる。そして、流し込んだ不定形耐火物に対して、マイクロ波を照射することで、夏場における不定形耐火物の温度よりも高い温度で不定形耐火物を養生でき、自然養生や温風養生の場合と比較して、短時間で養生強度が発現する。
【0012】
一方、冬場の場合は、不定形耐火物の温度は夏場よりも低下する。本発明では、不定形耐火物の温度が35℃のときに、流し込み施工時間に対して2倍以上の可使時間となるように硬化調整剤を添加しているので、冬場における可使時間は更に伸びることになる。このような場合であっても、マイクロ波を照射することで、自然養生や温風養生の場合と比較して、短時間で養生強度が発現する。
【0013】
すなわち、本発明の施工方法によって、夏場であっても冬場であっても硬化トラブルを生じることなく、短時間で養生強度を発現することができる。これにより、乾燥工程までの時間を短縮することができる。
【0014】
また、外気温に関らず、流し込み施工時間に対して、十分に長い可使時間となるように硬化調整剤の添加量を調整しているので、急激な気温変動があった場合でも、硬化トラブルの発生を防止できる。また、硬化調整剤の添加量を繊細に調整する必要がないので、添加量の変動に伴う硬化トラブルの発生を防止できる。
【0015】
更に、マイクロ波を用いて養生することで、バーナー等の温風での養生と比較し、材料の背面部まで短時間で温度を上げることが可能であることや、投入されたエネルギーが直接、材料に吸収されるため、エネルギー効率が良く、コストの低減に効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で使用する不定形耐火物は、従来と同様に原料配合物と水とを混練してなる。原料配合物は耐火原料を主材とし、そのほか典型的には結合剤及び分散剤を含有する。更に本発明では、不定形耐火物の可使時間を調整するために硬化調整剤を添加する。硬化調整剤は原料配合物に予め配合しても良く、水と混練するときに添加しても良い。なお、硬化調整剤とは、硬化促進剤と硬化遅延剤とを総称するものである。
【0017】
これらの耐火原料、結合剤、分散剤及び硬化調整剤としては、従来の流し込み用の不定形耐火物に一般的に使用されているものを使用できる。
【0018】
例えば、耐火原料としてはアルミナ、シリカ、マグネシア、カルシア、炭化ケイ素、カーボン、スピネル、粘土等が挙げられ、更にこれらを2種以上組み合わせてなるものもこれに該当する。
【0019】
結合剤としてはアルミナセメント、リン酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硫化物、水酸化物、シリカゾル、アルミナゾル等が挙げられる。
【0020】
分散剤としては、トリポリリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルリン酸ソーダ、ポリカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ソーダ、リグニンスルホン酸ソーダ等が挙げられる。
【0021】
硬化調整剤のうち硬化促進剤としては炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、クエン酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。硬化遅延剤としては、ホウ酸、ホウ砂、ピロリン酸、メタリン酸、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸、ウルトラピロリン酸、ウルトラトリポリリン酸およびこれらナトリウム塩類やカリウム塩類、クエン酸、酒石酸、グルコン酸およびこれらのナトリウム塩類やカリウム塩類が挙げられる。
【0022】
本発明では、混練後の不定形耐火物の温度が35℃のときに、流し込み施工時間の2倍以上の可使時間となるように硬化調整剤を添加する。流し込み施工時間に対して2倍未満の可使時間では急激な気温変動が起こった場合、硬化トラブルが起こる可能性がある。したがって、硬化調整剤の添加量は、流し込み施工時間に対して2倍以上の可使時間となるようにする必要がある。なお、可使時間は、流し込み施工時間に対して2倍以上であればよく上限は特に限定しない。これは、流し込み施工時間に対して2倍以上の可使時間であれば、マイクロ波を照射することで養生強度を短時間で発現することができるからである。本発明者は、流し込み施工時間に対して少なくとも20倍までの可使時間では問題が生じないことを確認している。
【0023】
ここで、本発明において「流し込み施工時間」とは、原料配合物を混練機(ミキサー)内に投入した時点から、水の投入及び混練作業を経た後、混練後の不定形耐火物を所定形状の枠に流し込んで、流し込んだ不定形耐火物に対して振動を付与し終えるまでの時間のことをいう。なお、混練を複数回に分けて行う場合、すなわち混練バッチが複数ある場合は、最初の混練バッチを混練ミキサー内に投入した時点から、最後の混練バッチにおける不定形耐火物に対して振動を付与し終えるまでの時間のことをいう。
【0024】
また、「可使時間」とは、不定形耐火物の混練終了時点(混練バッチが複数ある場合は、混練バッチ毎における混練終了時点)から不定形耐火物の可塑性がなくなるまでの時間、具体的には、JHS A601「土壌硬度試験法」に基づいて不定形耐火物をプッシュコーンで貫入した際、プッシュコーンの貫入値が24mm以上となったときまでの時間のことをいう。
【0025】
本発明では、枠(施工領域)に流し込まれた不定形耐火物に対してマイクロ波を照射して養生する。従来、不定形耐火物に対するマイクロ波の照射は養生工程後の乾燥工程において行われており(例えば特開2005−194110号公報参照)、養生工程においてマイクロ波の照射は行われていなかった。ただし、不定形耐火物にマイクロ波を照射する技術自体は公知であるので、この公知技術を参照して養生工程に適したマイクロ波の照射方法及び照射条件を設定する。
【実施例】
【0026】
表1及び表2を参照して、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0027】
実施例及び比較例では、表1に示すアルミナ−マグネシア材質の耐火原料を使用した。そして、この耐火原料に、結合剤、分散剤及び硬化調整剤を添加して原料配合物とした。結合剤としてはアルミナセメント、分散剤としてはポリアクリル酸、硬化遅延剤としてはケイフッ化ソーダを使用した。
【0028】
【表1】
【0029】
実施例及び比較例の各原料配合物を用いた不定形耐火物について、流し込み施工時間(h)、混練後の不定形耐火物の温度が35℃のときにおける可使時間(h)、流し込み施工時間に対する可使時間(倍率)、混練後の不定形耐火物の温度、養生方法、施工後からの養生時間、硬化トラブルの有無、総合評価を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
実施例及び比較例における不定形耐火物の施工は、施工量が数トン程度を想定したものであり、流し込み施工時間として1時間を要する施工である。
【0032】
流し込み施工時間は、施工量が多いほど時間を要するが、可使時間は施工量の大小に関らず一定である。そこで、実施例及び比較例における可使時間は、施工量が数トン程度の施工に用いる原料と同一ロットの原料を使用して、以下の要領で評価した。
【0033】
数トン程度の施工に用いる原料配合物と同一ロッドの原料配合物を、35℃の水温で混練し、混練物を40mm×40mm×160mmの金枠に流し込み、35℃恒温室内で、JHS A601「土壌硬度試験法」に基づいて測定した。この測定は、試料に強度がなく軟らかい場合は貫入値を測定できず、試料の強度が発現するとともに貫入値が増加するものである。具体的には、試料をプッシュコーンで貫入した際、プッシュコーンの貫入値が24mmとなったときまでの時間を可使時間とした。実施例及び比較例における可使時間の調整は、硬化遅延剤の添加量を適宜変化させることにより行った。なお、可使時間の調整は、硬化促進剤と硬化遅延剤とを併用して調整しても良い。
【0034】
流し込み施工時間に対する可使時間は、上記方法により測定した可使時間を、流し込み施工時間(1時間)に対する倍率で示した。
【0035】
養生方法については、マイクロ波養生は、マイクロ波装置内に試料を置き、一定出力で材料にマイクロ波を照射し養生を行った。
【0036】
自然養生は一定温度の恒温器内に試料を置いて養生を行った。温風養生は、恒温器内に試料を置き試料に温風をあてて養生を行った。
【0037】
混練後の不定形耐火物の温度は、不定形耐火物の表面を温度計により測定した。
【0038】
施工後からの養生時間は、乾燥に必要な強度を得るまでに要する時間である。施工後からの養生時間は、JHS A601「土壌硬度試験法」に基づいて施工体の表面をプッシュコーンで貫入した際、プッシュコーンの貫入値が35mmとなったときまでの時間とした。
【0039】
養生工程において、短時間で養生強度を発現することができれば、乾燥工程までの時間を短縮することができる。よって、施工後からの養生時間は短いほど良い。実施例及び比較例については、施工後からの養生時間が短い順に○、△、×の順で相対評価した。具体的には養生時間が2時間未満を〇、2〜4時間を△、4時間超を×とした。
【0040】
硬化トラブルは、施工途中での硬化、又は硬化遅延を示す。
【0041】
総合評価は、○、△、×の3段階で評価した。その評価基準は以下のとおりである。
○:施工後からの養生時間が○であり、かつ、硬化トラブル無しの場合
△:施工後からの養生時間が△であり、かつ、硬化トラブル無しの場合
×:施工後からの養生時間が×、又は硬化トラブル有りの場合
【0042】
総合評価において○を合格とし、△及び×の評価は不合格とした。
【0043】
表2に示すとおり、本発明の範囲内にある実施例1〜8は、総合評価が○で良好であった。これに対して比較例1〜7は、総合評価が×となった。
【0044】
比較例1〜3は、流し込み施工時間に対して可使時間(35℃で測定)を1.2倍とした例である。比較例1は、実際の施工時の混練後の温度が5℃であり、養生方法が自然養生であったため、施工後からの養生時間が長くなり硬化遅延トラブルが発生した。比較例2は、硬化トラブルは発生しなかったが、施工後からの養生時間がマイクロ波養生の場合と比較して長くなった。比較例3は、実際の施工時の混練後の温度が40℃であったため、35℃のときに測定した可使時間よりも施工時における可使時間が短くなり、施工途中で材料が硬化するトラブルが生じた。
【0045】
比較例4、5は、流し込み施工時間に対して可使時間を2倍とし、自然養生を行った例である。可使時間が長くなったことで、施工後からの養生時間も長くなり硬化遅延トラブルが発生した。
【0046】
比較例6、7は、流し込み施工時間に対して可使時間を2倍とし、温風養生を行った例である。マイクロ波養生と比較して材料内部まで温度が十分に上がるのに時間がかかるため、マイクロ波養生に比べ施工後からの養生時間が長くなった。